(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231867
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】可変オリフィス装置
(51)【国際特許分類】
F16K 31/70 20060101AFI20171106BHJP
F25B 41/06 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
F16K31/70 C
F25B41/06 X
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-256358(P2013-256358)
(22)【出願日】2013年12月11日
(65)【公開番号】特開2015-113909(P2015-113909A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100129861
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 滝治
(74)【代理人】
【識別番号】100182176
【弁理士】
【氏名又は名称】武村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】渡利 大介
(72)【発明者】
【氏名】今井 邦俊
【審査官】
正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−317299(JP,A)
【文献】
特公昭39−010994(JP,B1)
【文献】
実開昭63−137187(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/64−31/72
F25B 41/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側の周側部に横通し孔が開口された筒状のオリフィスケースと、前記横通し孔の実効開口面積を変化させるべく前記オリフィスケース内に伸縮自在に嵌挿されるとともに、その基端部が前記オリフィスケースの他端側に固定された棒状の弁体とを備え、
前記弁体は、前記オリフィスケースにおける前記横通し孔周辺の内周面に当接する対接外周面部を有し、流体の温度変化に伴う前記オリフィスケースと前記弁体との伸縮量の差に応じて前記横通し孔の一端と前記対接外周面部の一端との離隔距離が変化し、これによって前記横通し孔の実効開口面積が変化され、これによって前記オリフィスケース内を通過する流体の流量が自動調整され、
前記弁体は丸棒状を呈し、該弁体の一端側に円錐面部と前記対接外周面部とが順次連設されている可変オリフィス装置。
【請求項2】
前記オリフィスケースの一端側に大径部が形成されるとともに、該大径部の近傍に前記横通し孔が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の可変オリフィス装置。
【請求項3】
前記オリフィスケースは、前記大径部及び前記横通し孔を含む金属製もしくは樹脂製の先端側ケース部と、前記弁体の基端部がその他端部に固定される樹脂製の基端側ケース部とで分割構成され、前記弁体は、金属製の棒状体で構成されていることを特徴とする請求項2に記載の可変オリフィス装置。
【請求項4】
前記オリフィスケースは段付き円筒状を呈していることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の可変オリフィス装置。
【請求項5】
前記横通し孔は、円形、楕円形、又は多角形を呈していることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の可変オリフィス装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路を流れる流体の温度に応じて流量(弁開度)を自動的に調節できるようにされた可変オリフィス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ルームエアコンやカーエアコン等の冷媒回路においては、その流路を流れる冷媒の流量を、その流体の温度に応じて変化させること、例えば、冷媒温度が高い場合にはその流量を増加させ、冷媒温度が下がるに従いその流量を減少させること、が望まれる場合がある。
【0003】
前記のように、流路を流れる流体の流量を、その流体の温度に応じて変化させるべく、流路に可変オリフィス装置を設けることは、従来より考えられているが、従来の可変オリフィス装置は、組み立て性、流路(導管)への組み込み性等がさほど考慮されておらず、構造が複雑で部品点数が多く、製造コストが高くなるという問題があった。
【0004】
そこで、本発明の発明者等は、上記問題を解消すべく、可変オリフィス装置として、先に、
図6に示される如くのものを提案している(特許文献1も参照)。この可変オリフィス装置9は、線膨張係数の異なる異種材料からなるオリフィスケース10と弁体20とを備え、オリフィスケース10の一端側(大径部12)に絞り通路14が形成され、オリフィスケース10内に弁体20が伸縮自在に挿入されるとともに、該弁体20の基端部(雄ねじ部)がオリフィスケース10の他端側(の雌ねじ部)に螺合固定され、流体の温度変化に応じて生じるオリフィスケース10と弁体20との伸縮量の差により、絞り通路14を流れる流体の流量を調整するようにされている。
【0005】
かかる可変オリフィス装置9においては、絞り通路14の右側の開口端(弁座15)と弁体20の先端に設けられた円錐状弁体部25における弁座15への着座部分との離隔距離ΔLが弁開度を表わす指標とされ、この離隔距離ΔLが大きいほど、絞り通路14を流れる流体の流量が増加する。そして、離隔距離ΔLは、線膨張係数の異なる異種材料からなるオリフィスケース10と弁体20との、流体の温度変化に応じて生じる伸縮量の差により変化する。
【0006】
ここで、例えば、弁体20が金属製で、オリフィスケース10が樹脂製とされ、冷媒回路を構成する導管8内を流体(高圧の冷媒)が可変オリフィス装置9の一端側(大径部12側)から他端側に向けて流されると仮定すると、冷媒は、絞り通路14から該絞り通路14と弁体20の先端との間に形成される隙間を通り、さらに、導管8に内接する矩形断面外形の筒状ケース部11に形成された通し穴16からその外周四面と導管8の内周面との間に形成された流路に流出して導管8の下流側へと流れる。
【0007】
絞り通路14を出た冷媒は膨張して降温されるので、可変オリフィス装置9を流れる冷媒の温度は次第に下がり、この冷媒温度の低下により、弁体20及びオリフィスケース10(の筒状ケース部11)は縮むが、その縮み量は、金属製の弁体20に比して樹脂製のオリフィスケース10の方がかなり大きく(線膨張係数は5〜10倍)、その縮み量の差だけ、前記離隔距離ΔLで表わされる弁開度が小さくなり、これによって、絞り通路14を流れる冷媒流量が減少する。このように、先に提案された可変オリフィス装置9においては、弁体20及びオリフィスケース10が感温部として働き、流路を流れる流体の流量を、その流体の温度に応じて可変とすることができる。
【0008】
また、この可変オリフィス装置9は、基本的には、オリフィスケース10と弁体20の2部品で構成されるので、構造の簡素化、部品点数の削減が図られ、さらに、オリフィスケース10に弁体20を螺合させること等により簡単に組み立てることができる上、オリフィスケース10の一端側(大径部12)に形成されたリング溝13にOリング18を装着する等して流路(導管)に押し込むだけで組み付けることができるので、組み立て性、流路(導管)への組み込み性等に優れたものとなり、製造コスト、組立及び組込コストの低減を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−181227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来の可変オリフィス装置9は、次のような問題が生じるおそれがある。すなわち、例えば、弁体20を金属で、オリフィスケース10を樹脂で構成したとすると、冷媒温度の低下により、弁体20及びオリフィスケース10は縮むが、金属製の弁体20の縮み量より樹脂製のオリフィスケース10の縮み量の方がかなり大きいので、冷媒温度が大きく低下すると、オリフィスケース10における絞り通路14の開口端縁部(弁座)15が弁体20の円錐状弁体部25に押し付けられ、
図6(C)に示される如くに、絞り通路14が弁体20により閉塞された閉弁状態となることがある。この閉弁状態からさらに気温が低下する等して、オリフィスケース10と弁体20からなる感温部の温度が一層下がると、弁座15部分が弁体20の円錐状弁体部25にさらに強く押し付けられ、弁座15部分等が変形してしまう。そのため、従来の可変オリフィス装置では、使用可能な温度範囲が狭く、温度降下が激しい環境では、所望の性能が得られなくなるおそれがあった。
【0011】
また、閉弁してしまうと、冷媒が全く流れなくなってしまうので、冷媒中に混入されているオイルが圧縮機の摺動部分等に回らなくなる等の問題もあった。
【0012】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、流路を流れる流体の流量を、その流体の温度に応じて可変調整とすることができ、かつ、組み立て性、流路(導管)への組み込み性等に優れ、構造の簡素化、部品点数の削減、製造コストの低減を図ることができることに加えて、使用可能な温度範囲を拡大でき、温度降下が激しい環境下でも変形等の不具合を招くことなく所望の性能が得られるようにされた可変オリフィス装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成すべく、本発明に係る可変オリフィス装置は、基本的には、一端側の周側部に横通し孔が開口された筒状のオリフィスケースと、前記横通し孔の実効開口面積を変化させるべく前記オリフィスケース内に伸縮自在に嵌挿されるとともに、その基端部が前記オリフィスケースの他端側に固定された棒状の弁体とを備え、
前記弁体は、前記オリフィスケースにおける前記横通し孔周辺の内周面に当接する対接外周面部を有し、流体の温度変化に伴う前記オリフィスケースと前記弁体との伸縮量の差に応じて
前記横通し孔の一端と前記対接外周面部の一端との離隔距離が変化し、これによって前記横通し孔の実効開口面積が変化され、これによって前記オリフィスケース内を通過する流体の流量が自動調整され
、前記弁体は丸棒状を呈し、該弁体の一端側に円錐面部と前記対接外周面部とが順次連設されている。
【0015】
他の好ましい態様では、前記オリフィスケースの一端側に大径部が形成されるとともに、該大径部の近傍に前記横通し孔が形成されていることを特徴としている。
【0016】
他の好ましい態様では、前記オリフィスケースは、前記大径部及び前記横通し孔を含む金属製もしくは樹脂製の先端側ケース部と、前記弁体の基端部がその他端部に固定される樹脂製の基端側ケース部とで分割構成され、前記弁体は、金属製の棒状体で構成されていることを特徴としている。
【0019】
他の好ましい態様では、前記オリフィスケースは段付き円筒状を呈していることを特徴としている。
【0020】
他の好ましい態様では、前記横通し孔は、円形、楕円形、又は多角形を呈していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る可変オリフィス装置は、オリフィスケースの一端側の周側部に横通し孔が開口されるとともに、オリフィスケースに棒状の弁体が嵌挿され、流体の温度変化に伴うオリフィスケースと弁体との伸縮量の差に応じて、横通し孔の一端と弁体の対接外周面部の一端との離隔距離が変化し、これにより、横通し孔の実効開口面積が変化して、オリフィスケース内を通過する冷媒の流量が自動調整されるようになっている。すなわち、従来のように弁体(弁体部)が着座する弁座を有していないので、流体の温度変化に伴うオリフィスケースと弁体との伸縮量の差が大きくなっても、例えば弁体の左端が相対的に横通し孔よりも左方に変位し、横通し孔が弁体により閉じられることはあっても、弁体がオリフィスケース部分に相対的に押し付けられることはない。
【0022】
したがって、本発明によれば、オリフィスケースの弁座部分等が変形してしまう事態を確実に防止できるとともに、使用可能な温度範囲を拡大でき、温度降下が激しい環境下でも所望の性能を得ることができる。加えて、従来構造で設けられていた円錐状弁体部、絞り通路、弁座等が不要となるので、部品の加工コスト等を抑制することができるという利点も得られる。
【0023】
また、オリフィスケースに弁体が伸縮自在に嵌挿されることから、横通し孔が弁体により閉じられても(実効開口面積が0とされても)、弁体の外周面とオリフィスケースの内周面との間には隙間が形成され、この隙間を通じて冷媒が流されるので、冷媒中に混入されているオイルが圧縮機の摺動部分等に供給され、その結果、圧縮機の焼き付き等を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係る可変オリフィス装置の実施例を導管に組み込んだ状態を示し、(A)は、横通し孔と弁体とが通常の流量調整位置にある状態を、(B)は、流体の温度変化に伴うオリフィスケースと弁体との伸縮量の差が相当大きくなった状態をそれぞれ示す部分切欠断面図。
【
図2】(A)は
図1(A)のA部の拡大図、(B)は
図2(A)のU矢視拡大図、(C)は
図2(A)の横通し孔周辺の拡大断面図。
【
図3】(A)は
図1(A)のC部の拡大図、(B)は
図3(A)のV-V矢視断面図。
【
図5】(A)は実施例の一変形例を示す
図2(A)のU矢視拡大図に相当する図、(B)は実施例の他の変形例を示す横通し孔周辺の拡大断面図。
【
図6】従来の可変オリフィス装置の一例を示し、(A)は主要部拡大切欠断面図、(B)は
図6(A)のB-B矢視断面図、(C)は絞り通路の弁座部分が弁体に押し付けられた状態を示す主要部拡大切欠断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0026】
図1〜
図5は、本発明に係る可変オリフィス装置の実施形態(実施例、変形例)の説明に供される図であり、各図において、前述した
図6に示される従来例の可変オリフィス装置の各部と同一構成部分、同一機能部分、あるいは、対応関係にある部分には共通の符号ないし関連した符号が付されている。なお、本発明を理解しやすくするため、また、作図上の便宜を図るため、各図において、温度変化に伴う各部の伸縮量、離隔距離等は誇張して描かれている。
【0027】
図1は、本発明に係る実施例の可変オリフィス装置を導管に組み込んだ状態を示す部分切欠断面図、
図2、
図3は、実施例の主要部の拡大図である。
【0028】
図示する可変オリフィス装置1は、
図6(特許文献1の
図1、
図2)に示される従来例の可変オリフィス装置とは冷媒の流れ方向が逆で、
図1(A)において右側(IN側)から左側(OUT側)へと冷媒が流される、冷媒回路を構成する導管8に組み込まれるようにされており、線膨張係数の異なる異種材料からなるオリフィスケース10と弁体20とを備える。ここでは、オリフィスケース10の主要部(基端側ケース部11)は樹脂(例えばポリアセタール)製とされ、弁体20は金属(例えばSUS303)製とされている。
【0029】
前記導管8、オリフィスケース10、弁体20は、共通の中心線O上に配在されている。
詳細には、オリフィスケース10は段付き略円筒状を呈し、金属製の先端側ケース部12と、比較的長尺の樹脂製の基端側ケース部11とで分割構成されている。金属製の先端側ケース部12は、一端側(
図1(A)、
図2(A)の左端側)から順次、大径部12A、孔開き円筒状部12B、及び連結用雄ねじ部12Cを有し、前記孔開き筒状部12Bの周側部であって大径部12Aの近傍には、例えば周方向に90°間隔で4個の円形(
図2(A)参照)の横通し孔30が開口されている。一方、基端側ケース部11は、前記先端側ケース部12の連結用雄ねじ部12Cに噛合する連結用雌ねじ部11C、導管8に沿って伸びる円筒状部11B、及び弁体固定用雌ねじ部11Aを有する。
【0030】
弁体20は丸棒状を呈し、前記横通し孔30の実効開口面積を変化させるべく、その左端面が中心線Oに対して垂直な垂直切断面を有し、その左端側が先端側ケース部12内に嵌挿され、その左端側外周面全体が先端側ケース部12における横通し孔30周辺の内周面10aに接する対接外周面部21とされている。なお、先端側ケース部12の内周面10aの内径は、基端側ケース部11の円筒状部11Bの内周面10bの内径よりも小さく、弁体20の基端側部分と基端側ケース部11の円筒状部11Bの内周面10bとの間には隙間が形成されている。
【0031】
また、弁体20の基端部(右端部)23外周には、基端側ケース部11の弁体固定用雌ねじ部11Aに螺合される固定用雄ねじ部24が形成されている。固定用雄ねじ部24の右端部外周には、
図3に示される如くに、ロックナット19がねじ込まれてオリフィスケース10の右端面に押し当てられている。固定用雄ねじ部24の右端には、オリフィスケース10に対する弁体20のセット位置調節やロックナット19のねじ込み時の回り止め等に供されるマイナス溝26が形成されている。
【0032】
このような構成を有する本実施例の可変オリフィス装置1においては、それを組み立てるにあたって、オリフィスケース10の先端側ケース部12と基端側ケース部11とを螺合結合する前に、例えば、基端側ケース部11の弁体固定用雌ねじ部11Aに弁体20の固定用雄ねじ部24を左側から螺合させ、その右端部が基端側ケース部11の右端から右方に突出するまでねじ込んでおき、その後、先端側ケース部12内に弁体20の左端部を嵌挿しつつ、先端側ケース部12の連結用雄ねじ部12Cと基端側ケース部11の連結用雌ねじ部11Cとを螺合させて一体化し、その後に、オリフィスケース10に対する弁体20のセット位置調節やロックナット19のねじ込み等を行う。
【0033】
この可変オリフィス装置1を流路を形成する金属製の導管8に組み込むにあたっては、導管8にスピニング加工を施して環状溝部8aを形成するとともに、該環状溝部8aを大径部12Aに形成された環状のリング溝13に嵌め込む。これにより、大径部12Aの外周面と導管8の内周面との間が前記環状溝部8aで封止されるとともに、当該可変オリフィス装置1の導管8への組み込みが完了する。
【0034】
かかる構成の可変オリフィス装置1においては、冷媒の温度変化に伴うオリフィスケース10(の基端側ケース部11)と弁体20との伸縮量の差に応じて、横通し孔30の左端30aと前記対接外周面部21の左端21aとの離隔距離ΔLが変化する。これに伴い、前記横通し孔30の実効開口面積S、すなわち、
図2(B)の破線ハッチングで示されているように、横通し孔30の円弧状部分と弁体20の対接外周面部21の左端21a(直線)とで形成される弓形状開口(隙間)部分32の面積Sが変化し、これによってオリフィスケース10内を通過する冷媒の流量が自動調整される。
【0035】
この場合、離隔距離ΔL及び実効開口面積Sが大きいほど、オリフィスケース10を通過する冷媒の流量が増加する。そして、離隔距離ΔL及び実効開口面積Sは、樹脂製のオリフィスケース10と金属製の弁体20との冷媒の温度変化に伴う伸縮量の差により変化する。
【0036】
ここでは、樹脂(POM)製のオリフィスケース10(の基端側ケース部11)の、20℃における線膨張係数は例えば102×10
-6/℃であり、金属(SUS303)製の弁体20の線膨張係数は例えば14.7×10
-6/℃とされ、冷媒回路を構成する導管8内を高圧の冷媒が可変オリフィス装置1の右端側(他端側、IN側)から左端側(一端側、OUT側)に向けて流される。
【0037】
このため、冷媒は、
図2(A)に矢印で示されているように、導管8とオリフィスケース10(の基端側ケース部11)との間に形成された略円環状の流路を通り、先端側ケース部12の大径部12Aに形成された横通し孔30に入り、該横通し孔30と弁体20の左端21aとで形成される
図2(B)の破線ハッチングで示されている弓形状開口部分32を通り、先端側ケース部12内を通ってオリフィスケース10外に流出し、導管8の下流側へと流れる。
【0038】
その際、導管8とオリフィスケース10(の基端側ケース部11)との間に形成された流路を流れる冷媒の温度によって、弁体20及びオリフィスケース10(の基端側ケース部11)が伸縮するが、その伸縮量は、金属製の弁体20に比して樹脂製のオリフィスケース10の基端側ケース部11の方がかなり大きく(線膨張係数は5〜10倍)、その伸縮量の差だけ、前記離隔距離ΔL並びに横通し孔30の実効開口面積Sで表される弁開度が変化し、これによって、オリフィスケース10を流れる冷媒流量が増減する。このように、実施例の可変オリフィス装置1においては、弁体20及びオリフィスケース10が管温部として動作するので、流路を流れる流体の流量を、その流体の温度に応じて可変とすることができる。
【0039】
また、本実施形態の可変オリフィス装置1は、基本的には、オリフィスケース10と弁体20の2部品で構成されるので、構造の簡素化、部品点数の削減が図られ、さらに、オリフィスケース10に弁体20を螺合させることにより簡単に組み立てることができる上、導管8にスピニング加工を施すことで流路に当該可変オリフィス装置1を組み込むことができるので、組み立て性、流路(導管)への組み込み性等に優れたものとなり、製造コスト、組立及び組込コストの低減を図ることができる。
【0040】
上記に加えて、本実施例の可変オリフィス装置1では、オリフィスケース10の一端側の周側部に横通し孔30が開口されるとともに、オリフィスケース10に棒状の弁体20が嵌挿され、冷媒の温度変化に伴うオリフィスケース10と弁体20との伸縮量の差に応じて、横通し孔30の一端30aと弁体20の対接外周面部21の一端21aとの離隔距離ΔLが変化し、これによって、横通し孔30の実効開口面積S(弓形状開口部分32の面積S)が変化して、オリフィスケース10を通過する冷媒の流量が自動調整されるようになっている。すなわち、従来のように弁体(弁体部)が着座する弁座を有していないので、冷媒の温度変化に伴うオリフィスケース10と弁体20との伸縮量の差が大きくなっても、
図1(B)や
図4に示される如くに、弁体20の左端が相対的に横通し孔30よりも左方に変位して、横通し孔30が弁体20により閉じられることはあっても、弁体20にオリフィスケース10部分が相対的に押し付けられることはない。
【0041】
したがって、本実施例では、オリフィスケースの弁座部分等が変形してしまう事態を確実に回避できるとともに、使用可能な温度範囲を拡大でき、温度降下が激しい環境下でも所望の性能を得ることができる。また、従来構造で設けられていた円錐状弁体部、絞り通路、弁座等が不要となるので、部品加工コスト等を抑制することができるとういう利点も得られる。
【0042】
また、オリフィスケース10に弁体20が伸縮自在に嵌挿されていることから、横通し孔30が弁体20により閉じられても(実効開口面積が0とされても)、弁体20の外周面とオリフィスケース10(先端側ケース部12)の内周面10aとの間には僅かに隙間が形成され、この隙間を通じて冷媒が流されるので、冷媒中に混入されているオイルが圧縮機の摺動部分等に供給され、その結果、圧縮機の焼き付き等を防止することができる。
【0043】
なお、本実施例の可変オリフィス装置1においては、横通し孔30が径方向で視て円形とされているが、横通し孔30の形状はこれに限られることはなく、所望する流量特性に応じて任意に選定することができる。例えば
図5(A)に示される如くに、横通し穴を三角形としてもよい。この場合も、横通し孔30’の左端30aと対接外周面部21の左端21aとの離隔距離ΔLが変化すると、横通し孔30’の実効開口面積S’、すなわち、
図5(A)の破線ハッチングで示されているように、横通し孔30’の左端部と弁体20の対接外周面部21の左端21a(直線)とで形成される三角形状隙間部分32’の面積S’が変化し、これによってオリフィスケース10内を通過する冷媒流量が冷媒温度に応じて調整される。なお、前記横通し孔は、上記した円形や三角形以外に、楕円形状や四角形や五角形等の多角形状であってもよい。
また、横通し穴の個数やサイズも、所望する流量特性に応じて任意に選定することができる。
【0044】
また、本実施例の可変オリフィス装置1においては、弁体20が丸棒状を呈し、該弁体20の左端面が中心線Oに対して垂直な垂直切断面とされるとともに、左端側外周面全体がオリフィスケース10(先端側ケース部12)の内周面10aに接する対接外周面部21とされているが、これに限られることはなく、例えば
図5(B)のように、対接外周面部21の左側に、内周面10aに当接しない円錐面部22を連設してもよい。このように円錐面部22を連設することにより、該円錐面部22が案内面となって冷媒の流れが円滑化される等の利点が得られる。
【0045】
また、本実施例の可変オリフィス装置1においては、流路の封止、当該可変オリフィス装置への組み付け、並びに流量調整を精緻に行うために大径部12A及び横通し孔30を含む先端側ケース部12を金属製としたが、該先端側ケース部12は基端側ケース部11と同様に樹脂製としてもよい。
【0046】
また、本実施例においては、金属製の導管8にスピニング加工を施して環状溝部8aを形成するとともに、該環状溝部8aを大径部12Aのリング溝13に嵌め込んで流路の封止並びに当該可変オリフィス装置への組み付けを行っているが、スピニング加工の代わりに、大径部12Aのリング溝13にOリングを装着して流路を封止してもよい。
【0047】
また、前記実施例においては、高圧の冷媒を可変オリフィス装置の他端側(右端側)から一端側(左端側)に向けて流していたが、これとは逆に一端側(左端側)から他端側(右端側)に向けて冷媒を流すように構成してもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 可変オリフィス装置
8 導管
10 オリフィスケース
11 基端側ケース部
11A 弁体固定用雌ねじ部
11B 円筒状部
11C 連結用雌ねじ部
12 先端側ケース部
12A 大径部
12B 孔開き円筒状部
12C 連結用雄ねじ部
19 ロックナット
20 弁体
21 対接外周面部
22 円錐面部
23 基端部
24 雄ねじ部
26 マイナス溝
30 横通し孔
32 弓形状開口部分
ΔL 離隔距離(弁開度)
S 実効開口面積