特許第6231870号(P6231870)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6231870ポリウレタン塗膜材用硬化剤、及びポリウレタン塗膜材用二液型キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231870
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】ポリウレタン塗膜材用硬化剤、及びポリウレタン塗膜材用二液型キット
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/12 20060101AFI20171106BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20171106BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20171106BHJP
   C08G 18/65 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   C09D175/12
   C09D7/12
   C08G18/10
   C08G18/65 082
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-260908(P2013-260908)
(22)【出願日】2013年12月18日
(65)【公開番号】特開2015-117294(P2015-117294A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 覚史
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−048118(JP,A)
【文献】 特開2003−064349(JP,A)
【文献】 特開2011−202018(JP,A)
【文献】 特開2009−007481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−10/00
C09D 101/00−201/10
C08G 18/00−18/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋剤として、ジエチルトルエンジアミン及び4官能以上のポリエーテルポリオールを含有し、
前記4官能以上のポリエーテルポリオールは、アルキレンジアミンとアルキレンオキサイドとを反応して得られるアミン系ポリエーテルテトラオールであるポリウレタン塗膜材用硬化剤。
【請求項2】
アルキレンジアミンがエチレンジアミンであり、アルキレンオキサイドがプロピレンオキサイドである請求項記載のポリウレタン塗膜材用硬化剤。
【請求項3】
アミン系ポリエーテルテトラオールは、数平均分子量が300以下である請求項又は記載のポリウレタン塗膜材用硬化剤。
【請求項4】
ジエチルトルエンジアミンの含有量は、重量基準で4官能以上のポリエーテルポリオールの含有量の2〜8倍である請求項1〜のいずれかに記載のポリウレタン塗膜材用硬化剤。
【請求項5】
イソシアネート末端プレポリマーを含有する主剤と、請求項1〜のいずれかに記載のポリウレタン塗膜材用硬化剤とにより構成されるポリウレタン塗膜材用二液型キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン塗膜材用硬化剤、及びこれを用いたポリウレタン塗膜材用二液型キットに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン塗膜材は、塗膜防水材又は塗り床材として、ビルディングの屋上、ベランダ、廊下などの防水、スポーツ施設の弾性舗装などの用途に大量に使用されている。ポリウレタン塗膜材の形成方法としては、トリレンジイソシアネートとポリオールとの反応によって得られるイソシアネート末端プレポリマーを主成分とする主剤と、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)(以下、MOCAという)を主成分とする硬化剤とからなるポリウレタン塗膜材用二液型キットを用いる方法が主流であった(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、MOCAは、ヒトに対して発ガン性を有するおそれがある(International Agency for Research on Cancer)と指摘されているため、MOCAの代替材料の開発が求められている。
【0004】
特許文献2〜4には、MOCAの代替材料として、ジエチルトルエンジアミン、ジイソプロピルトルエンジアミン、及びジメチルチオトルエンジアミンなどの芳香族ジアミンが提案されている。
【0005】
しかし、これら芳香族ジアミンは、可使時間(2液混合後に混合液を支障なく塗布できるまでの時間)がMOCAに比べて短く、気温の高い時期において塗布作業に支障が生じる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−34829号公報
【特許文献2】特開平8−143816号公報
【特許文献3】特開2002−20727号公報
【特許文献4】特開2007−253147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ヒト及び環境に優しく、ポリウレタン塗膜材に優れた性能を与えることができ、かつ気温の高い時期においても塗布作業に支障が生じにくいポリウレタン塗膜材用硬化剤、及びこれを用いたポリウレタン塗膜材用二液型キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示すポリウレタン塗膜材用硬化剤により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明のポリウレタン塗膜材用硬化剤は、架橋剤として、ジエチルトルエンジアミン及び4官能以上のポリエーテルポリオールを含有する。
【0010】
架橋剤として、ジエチルトルエンジアミンと共に4官能以上のポリエーテルポリオールを配合することにより、ポリウレタン塗膜材としての性能を低下させることなく可使時間を長くする(硬化反応をマイルドにする)ことができる。そのため、気温の高い時期であっても塗布作業に支障が生じにくい。
【0011】
4官能以上のポリエーテルポリオールは、アルキレンジアミンとアルキレンオキサイドとを反応して得られるアミン系ポリエーテルテトラオールであることが好ましい。また、アルキレンジアミンがエチレンジアミンであり、アルキレンオキサイドがプロピレンオキサイドであることが好ましい。
【0012】
アミン系ポリエーテルテトラオールは、数平均分子量が300以下であることが好ましい。数平均分子量が300以下であれば、硬化反応をよりマイルドにすることができる。
【0013】
ジエチルトルエンジアミンの含有量は、重量基準で4官能以上のポリエーテルポリオールの含有量の2〜8倍であることが好ましい。ジエチルトルエンジアミンの含有量が2倍未満の場合は、ポリウレタン塗膜材の性能が低下する傾向にあり、8倍を超える場合は、可使時間が短くなる傾向にある。
【0014】
また、本発明のポリウレタン塗膜材用二液型キットは、イソシアネート末端プレポリマーを含有する主剤と、前記ポリウレタン塗膜材用硬化剤とにより構成されるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリウレタン塗膜材用硬化剤は、特定化学物質障害予防規則を遵守したヒト及び環境に優しい硬化剤であり、ポリウレタン塗膜材に優れた性能を与えることができ、かつ可使時間が比較的長いため、気温の高い時期においても塗布作業に支障が生じにくいという利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のポリウレタン塗膜材用硬化剤(以下、単に「硬化剤」ともいう)は、後述するように、イソシアネート末端プレポリマーを含有する主剤と混合した後、混合液を床面等の塗工面に塗布して硬化させる、塗膜防水材等のポリウレタン塗膜材の形成方法に好適に用いられる。
【0017】
本発明の硬化剤は、架橋剤として、ジエチルトルエンジアミン及び4官能以上のポリエーテルポリオールを含有する。
【0018】
4官能以上のポリエーテルポリオールの種類は特に制限されず、例えば、活性水素基を4つ以上有する脂肪族、脂環族、又は芳香族のポリオール、あるいは脂肪族、脂環族、又は芳香族のポリアミンとアルキレンオキサイドとを反応して得られるアミン系ポリエーテルポリオールが挙げられる。これらのうち、アルキレンジアミンとアルキレンオキサイドとを反応して得られるアミン系ポリエーテルテトラオールが好ましい。アルキレンジアミンのアルキレン基の炭素数は2〜6であることが好ましく、アルキレンオキサイドのアルキレン基の炭素数は2〜4であることが好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特に、アルキレンジアミンがエチレンジアミンであり、アルキレンオキサイドがプロピレンオキサイドであることが好ましい。
【0019】
前記アミン系ポリエーテルテトラオールは、数平均分子量が300以下であることが好ましい。
【0020】
ジエチルトルエンジアミンの含有量は、重量基準で4官能以上のポリエーテルポリオールの含有量の2〜8倍であることが好ましい。
【0021】
本発明の硬化剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、MOCA以外の公知の架橋剤をさらに含んでいてもよい。
【0022】
本発明の硬化剤中の架橋剤の含有量は、得られる塗膜材の物性、及び塗工時の作業性の観点から、1〜8重量%であることが好ましく、より好ましくは1〜4重量%である。
【0023】
本発明の硬化剤には、硬化反応速度を調整して、可使時間と硬化性のバランスを保つために、触媒を配合してもよい。触媒としては、オクチル酸鉛、オクチル酸ビスマス、オクチル酸錫、オクチル酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛、ジブチル錫ジラウレート等の有機金属触媒;オクチル酸、ナフテン酸,ラウリル酸、ステアリン酸等の有機酸が例示できる。
【0024】
本発明の硬化剤には、得られる塗膜材の柔軟性を向上させる観点から、可塑剤を配合してもよい。可塑剤としては、フタル酸ジオクチル(DOP)、アジピン酸ジオクチル(DOA)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、アジピン酸イソノニル(DINA)、リン酸トリクレジル(TCP)、及び塩素化パラフィンなどの通常の可塑剤が使用できる。これらのうち、環境に優しいフタル酸ジイソノニルを用いることが好ましい。硬化剤中の可塑剤の含有量は、10〜50重量%であることが好ましく、より好ましくは20〜40重量%である。
【0025】
本発明の硬化剤には、用途に応じて、各種添加剤、例えば、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、ゼオライト、及びクレイなどの無機充填剤;酸化クロム、酸化チタン、ベンガラ、カーボンブラック、及び酸化鉄などの顔料;ヒンダードアミン系、ヒンダードフェノール系、及びベンゾチアゾール系などの安定剤などを加えてもよい。
【0026】
次に、本発明のポリウレタン塗膜材用二液型キット(以下、単に「二液型キット」ともいう)について説明する。本発明の二液型キットは、イソシアネート末端プレポリマーを含有する主剤と、上述した硬化剤とにより構成され、例えば、施工現場において前記主剤及び硬化剤を混合した後、混合液を床面等の塗工面に塗布し、これを常温(例えば5〜35℃)で硬化させる、塗膜防水材等のポリウレタン塗膜材の形成方法に用いられる。本発明の二液型キットは、上述した硬化剤を用いているため、気温の高い時期(夏期)においても塗工作業に支障が生じにくい。
【0027】
本発明の二液型キットに使用される主剤は、イソシアネート末端プレポリマーを含有する。
【0028】
イソシアネート末端プレポリマーは、例えば、イソシアネート成分とポリオールとの反応によって得られる。この場合、得られたプレポリマー中に遊離状態で残存するイソシアネート成分の量をできるだけ少なくするために、イソシアネート成分の仕込み量とポリオールの仕込み量とが、NCO/OHの当量比で0.8〜2.2となるように調整することが好ましく、より好ましくは1.0〜2.0である。
【0029】
イソシアネート成分としては、ポリウレタンの分野において公知の化合物を特に限定なく使用できる。例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート等のトリレンジイソシアネート(以下、TDIとする)、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメリックMDI、カルボジイミド変性MDI(例えば、商品名ミリオネートMTL、日本ポリウレタン工業社製)、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、及びm−キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;エチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、及び1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、及びノルボルナンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネートが挙げられる。これらは1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
上記のイソシアネート成分のうち、得られる塗膜材の物性の観点から、TDIを使用することが好ましい。
【0031】
TDIと、脂肪族及び/又は脂環式ジイソシアネートとを併用する場合、得られる塗膜材の耐へたり性及び機械的強度を向上させる観点から、TDIを90重量%以上用いることが好ましい。
【0032】
イソシアネート成分と反応させるポリオールは特に制限されず、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、及びポリカプロラクトンポリオールなどが挙げられる。防水材用途の場合には、常温で液状であり、低粘度である数平均分子量400〜8000のポリアルキレンエーテルポリオールを用いることが好ましく、特にポリプロピレンエーテルポリオール、ポリエチレン−ポリプロピレンエーテルポリオール、又はこれらの混合物を用いることが好ましい。
【0033】
プレポリマーの調製方法は、ポリウレタンの分野において公知の調製方法を採用できる。例えば、窒素気流下において、イソシアネート成分とポリオールとを混合し、攪拌しながら60〜90℃の温度で2〜6時間反応させることにより調製する。
【0034】
本発明の二液型キットに使用される主剤には、上記プレポリマー以外に、硬化反応を阻害しない範囲内で、可塑剤、酸化防止剤等の添加剤を加えてもよい。
【0035】
本発明の二液型キットの使用方法は、ポリウレタンの分野において公知の使用方法を採用できる。例えば、施工現場において、上述した主剤及び硬化剤を、プレポリマー中のイソシアネート基と、架橋剤中の活性水素基との当量比(イソシアネート基/活性水素基)が、好ましくは0.8〜4.0、より好ましくは1.0〜3.0となるように混合して、混合液を床面等の塗工面に塗布し、硬化させる方法が挙げられる。主剤と硬化剤を混合する方法及び塗布方法は、手作業による方法でもよく、混合装置及び塗布装置を用いた方法でもよい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例を上げて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
[測定、評価方法]
(可使時間)
主剤と硬化剤とを混合した後、混合液の25℃における粘度が10万又は20万mPa・sに達するまでの時間を可使時間とした。なお、粘度は、東機産業社製TV−10Hを用いて、6号ローターで、25℃、10rpmの条件で測定した。
【0038】
(硬化後の塗膜材の物性)
作製した塗膜材の引張強さ、破断時の伸び率、破断時のつかみ間の伸び率、抗張積、引裂強さ、及び加熱処理前後の引張強さ比は、JIS A 6021に基づいて測定した。
【0039】
実施例1〜3、比較例1〜3
(主剤の調製)
容器にトリレンジイソシアネート(日本ポリウレタン社製、TDI−100)を12.62重量部仕込み、窒素気流下において、数平均分子量2000のポリプロピレンエーテルポリオール(第一工業製薬社製、ハイフレックス D−2000)67.67重量部、数平均分子量5000のポリプロピレンエーテルポリオール(第一工業製薬社製、ポリハードナー T−5000)19.70重量部、及びマロン酸ジエチル(立山化成社製)0.01重量部を加え、攪拌しながら、70℃で4時間反応させて、イソシアネート末端プレポリマーを含む主剤を調製した。なお、プレポリマー中のイソシアネート基の含有率は2.75重量%であった。
【0040】
(硬化剤の調製)
容器に表1に示す各成分を表1に示す配合量で仕込み、25℃でディゾルバーを用いて15分間攪拌し、硬化剤を得た。なお、表1において、硬化剤中の各成分の含有量は、いずれも硬化剤100重量%中の含有量である。
【0041】
(塗膜材の作製)
主剤100重量部と硬化剤200重量部を混合し(イソシアネート基当量/活性水素基当量=2.2)、可使時間を確認しながら、離型処理したアルミモールドにコテ又はヘラを用いて厚み1.5〜2mmとなるように塗布し、23℃、相対湿度30%で24時間硬化させ、塗膜材を得た。
【0042】
得られた塗膜材を用いて、上記評価方法により評価した。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
実施例1〜3の硬化剤は、架橋剤としてジエチルトルエンジアミンと共にアミン系ポリエーテルテトラオールを配合しているため可使時間が比較的長い。また、ポリウレタン塗膜材としての性能も十分に満足できるものであった。一方、比較例1の硬化剤は、架橋剤としてジエチルトルエンジアミンのみを配合しているため可使時間が比較的短い。比較例2及び3の硬化剤は、架橋剤としてジエチルトルエンジアミンを配合していないため、ポリウレタン塗膜材の性能が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のポリウレタン塗膜材用硬化剤、及びポリウレタン塗膜材用二液型キットは、塗膜防水材又は塗り床材の原料として、ビルディングの屋上、ベランダ、及び廊下などの防水、又はスポーツ施設の弾性舗装などに利用できる。