(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
硝酸カリウム60重量%〜85重量%と、ジシアンジアミド10重量%〜26.7重量%と、フェノール樹脂5重量%〜13.3重量%とから成るエアロゾル消火薬剤に、フッ素ゴムを外割で0.5重量%〜5重量%添加したことを特徴とするエアロゾル消火薬剤。
【背景技術】
【0002】
従来、エアロゾル消火装置は、例えば、エンジンルーム、ケーブルダクト、制御盤、機器筐体内等の閉鎖された密閉空間で発生した火災を消火抑制するために用いられている。
エアロゾル消火装置は、化学反応によりエアロゾル消火薬剤を生成する薬剤、冷却材、点火装置を内蔵し、薬剤は金属カリウム酸化物、樹脂、その他の添加物等で構成されている。
このエアロゾル消火装置は、外部からの作動電気信号を受けて薬剤がエアロゾル消火装置内で燃焼し、圧力を発生させ噴射を助ける働きをする、微細な消火成分とガス成分とを生成する。これらの生成物(微細な消火成分+ガス成分)は冷却層を通過し、ノズルを通じて噴射される。噴射された微細な消火成分が火炎(消火を要求される場所)に供給されると、微細な消火成分のカリウムラジカルが火炎の連鎖反応を遮断(負触媒作用)することにより火炎を抑制する。
【0003】
次に、エアロゾル消火装置で生成した微細な消火成分が、燃焼反応を止める作用を説明する。
先ず、燃焼には、燃焼ラジカル[主としてO、H、OHラジカル]が大きく関与しており、燃焼の継続、拡大は、燃焼ラジカルが増殖する反応である。燃焼により生成した燃焼ラジカルは、通常大気中の酸素と反応し、更に燃焼ラジカル数を増加させる反応を連鎖的に引き起こすので、燃料、熱、酸素のある環境下では燃焼は継続し続けるか、あるいは拡大してしまう。
次に、薬剤が反応すると、消火に有効なカリウムラジカルを有する微細な消火成分が多く生成し、エアロゾル消火装置から噴射され、火炎(消火を要求される場所)に投入される。
【0004】
次に、エアロゾル消火装置から噴射されたカリウムラジカルは、火炎中の酸素ラジカルと優先的に結びついて、燃焼ラジカルが酸素と反応する燃焼反応を妨げる。カリウムラジカルと結びついた燃焼ラジカルは、最終的に他の燃焼ラジカルと反応し、H
2O等の物質に変換される。つまり、火炎中の燃焼ラジカルが減少し燃焼反応が妨げられることになり、火炎は縮小もしくは鎮火する。このとき、カリウムラジカルは、変化、化合を起こさないので、燃焼反応を妨げる働きを続け火炎を抑制する。
以上のように、エアロゾル消火装置は、発生した火災に対して、カリウムを主成分とする消火薬剤を超微粒エアロゾルで噴射することによって、燃焼の連鎖反応を化学的作用、物理的作用により抑制し、その効果によって消火することができる。
【0005】
エアロゾル消火装置は、燃焼によって生じる消火粒子が一般的に1〜5μmと非常に小さいため、消火効率が他のシステムに比べて数倍優れている。
また、エアロゾル消火装置は、既存のガス系消火装置と違い、配管作業がなく、簡単に固定できるので、設置及び維持管理費を低減できる。
また、エアロゾル消火装置は、水を使うことができない油火災及び電気火事に対して優れた効果を発揮することができる等の利点がある。
【0006】
関連先行技術として、例えば、特許文献1〜4等が知られている。
特許文献1には、エアロゾル消火器の消火薬剤及びその製造方法と、消火器構造とが開示されている。
特許文献1では、消火薬剤の結合材として硬化剤無しのエポキシ樹脂を使用して、硬化させないものを用いることにより強度(弾性)を持たせている。
特許文献2には、エアロゾル消火薬剤に関して多様な組成の詳細が開示され、酸化剤と還元剤とを有機溶媒と混練した後、注型し加熱乾燥成型することによってエアロゾル消火薬剤を製造する技術が開示されている。
特許文献3には、片側開放端となる管内に消火用火工品を詰め、電気コイルによって点火するエアロゾル消火装置において、空気混合によるエアロゾル冷却機構を持ったエアロゾル消火装置が開示されている。
特許文献4には、消火剤を、KNO
3 67〜72wt%、フェノールフォルムアルデヒド樹脂8〜12wt%、及びDCDA(ジシアンジアミド)16〜25wt%で構成し、組成的には有害ガスが発生し難い酸素バランスのエアロゾル消火薬剤が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
昨今、エアロゾル消火装置は、その小型軽量さにより車両用及び車両エンジンルーム用としての用途が拡大しようとしている。
しかし、例えば、特許文献1,2,4のエアロゾル消火薬剤では、消火剤が熱又は熱衝撃により破損する虞がある。
具体的には、錠剤の結合剤として使用される樹脂は、熱特性が悪いため、脆弱で自動車のエンジンルーム等、高温かつ大きな温度差の発生する環境下ではエアロゾル消火装置として不適である。また、密閉されておらず周囲温度の変化が直接伝わるため、強い熱衝撃が加わる。また、高熱に暴露されると、劣化が早まる虞がある。
【0009】
また、例えば、従来技術1のエアロゾル消火装置は、剛構造であるため、仮に固定されていたとしても、振動、衝撃を受けると、脆弱なエアロゾル消火薬剤に直接衝撃が加わり破損する虞がある。
また、特許文献1,3のエアロゾル消火装置では、密閉されていないため、エアロゾル消火装置の中に異物や水分、排気ガスが侵入したり、結露が生じる虞がある。この結果、消火薬剤がすぐに劣化する虞がある。
また、特許文献3のエアロゾル消火装置では、内部構成部品の固定要素がないため、振動で部品がずれたり、外れたりする虞がある。
【0010】
また、特許文献4のエアロゾル消火薬剤では、薬剤の結合剤(バインダ)として硬く脆いフェノールホルムアルデヒド樹脂を使用しているため、自動車エンジンルームの内のような強い熱衝撃、振動、衝撃によって消火薬剤が破損する虞がある。
以上のように、従来のエアロゾル消火薬剤及びエアロゾル消火装置は、車両用として製作されておらず、一般的な車両用規格を満足する程度の耐環境性能であった。
よって、エンジンルームのような長期的な高熱、熱衝撃、振動に暴露されるような環境での使用には温度負荷の加わりづらい位置に取り付ける必要がある等、取付自由度が低く実用上問題があった。
【0011】
これに対し、例えば、米国では、米軍MIL規格810Gのクリアを謳い車両用消火装置としてエアロゾル消火装置が販売されている。
日本国では、JIS自動車規格のクリアが自動車部品として最低限必要な要件とされている。
しかし、車両メーカー等で規定される自社規格はさらに厳しいものとなり、従来型のエアロゾル消火薬剤及びエアロゾル消火装置では対応できなくなっている。
【0012】
本発明は、斯かる従来の問題点を解決するために為されたもので、その目的は、耐熱性、耐振動性を向上させ、車両等の移動体に搭載可能なエアロゾル消火装置及びこれに用いるエアロゾル消火薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るエアロゾル消火薬剤は、硝酸カリウム60重量%〜85重量%と、ジシアンジアミド10重量%〜26.7重量%と、フェノール樹脂5重量%〜13.3重量%とから成るエアロゾル消火薬剤に、フッ素ゴムを外割で0.5重量%〜5重量%添加したものである。
【0014】
本発明に係るエアロゾル消火薬剤ペレットは、本発明に係るエアロゾル消火薬剤をプレス成形し、中央に点火具挿入孔を設けて成る略円盤形状のペレットと、このペレットの外表面に塗布される軟質ゴム製のレストリクタとを備えている。
本発明に係るエアロゾル消火薬剤ペレットにおいて、レストリクタは、ペレットの点火具挿入孔を除く外表面に形成されている。
【0015】
本発明に係るエアロゾル消火薬剤ペレットにおいて、レストリクタは、ペレットの点火具挿入孔及び点火具挿入孔の点火具挿入側に連なる一端面を除く外表面に形成されている。
本発明に係るエアロゾル消火薬剤ペレットにおいて、レストリクタの塗布厚さは、0.05mm〜1mmである。
本発明に係るエアロゾル消火薬剤ペレットにおいて、軟質ゴムは、シリコーンゴムである。
【0016】
本発明に係るエアロゾル消火装置は、本発明に係るエアロゾル消火薬剤ペレットを備える。
本発明に係るエアロゾル消火装置は、本発明に係るエアロゾル消火薬剤ペレットと、エアロゾル消火薬剤ペレットの一端面側に配置されるクッション材と、中央部に点火具挿入孔を有し、クッション材の一端面側に配置されるボトムプレートと、ボトムプレートの点火具挿入孔内にシール剤を介して気密保持され、エアロゾル消火薬剤ペレットの点火具挿入孔内に点火部が配置される点火具と、エアロゾル消火薬剤ペレットの他端面側に配置される第一のスペーサと、第一のスペーサの他端面側に配置される第一の金網と、第一の金網の他端面側に配置される第一の冷却材層と、第一の冷却材層の他端面側に配置される第二の金網と、第二の金網の他端面側に配置される第二のスペーサと、第二のスペーサの他端面側に配置される第三の金網と、第三の金網の他端面側に配置される第二の冷却材層と、第二の冷却材層の他端面側に配置される第四の金網と、他端面側に外側部に膨出する段状の凸部を備え、第四の金網の他端面側に配置される第三のスペーサと、クッション材の外側部からエアロゾル消火薬剤ペレット、第一のスペーサ、第一の金網、第一の冷却材層、第二の金網、第二のスペーサ、第三の金網、第二の冷却材層及び第四の金網の外側部、並びに第三のスペーサの凸部の手前までの外側部を連続的に覆って配置される内筒と、内筒の外側部及び第三のスペーサの凸部の外側部を連続的に覆って配置される筒状の断熱材と、複数のノズルを備え、第三のスペーサの他端面側に配置されるノズルシートと、ノズルシートの他端面側に配置されるトッププレートと、ボトムプレートの外側部、筒状の断熱材の外側部、ノズルシートの外側部、トッププレートの外側部に配置されると共に、ボトムプレート及びトッププレート上に両端部をカシメ付けるカシメ部を備える外筒と、ボトムプレートとカシメ部との間に充填されるボトムプレート側シール部と、トッププレートとカシメ部との間に充填されるトッププレート側シール部とで構成されている。
【0017】
本発明に係るエアロゾル消火装置において、外筒は、ボトムプレート上にカシメ付けられる折曲部を有する一方の端部と、トッププレート上にカシメ付けられる他方の端部とを備えている。そして、点火具を備えたボトムプレート、クッション材、エアロゾル消火薬剤ペレット、第一のスペーサ、第一の金網、第一の冷却材層、第二の金網、第二のスペーサ、第三の金網、第二の冷却材層、第四の金網、第三のスペーサ、内筒、断熱材、ノズルシート及びトッププレートは、他方の端部から一方の端部に向かって、外筒内に順次挿入されて内部構造体を形成している。外筒の他方の端部は、内部構造体間に隙間が生じないようにカシメ治具によってトッププレート上にカシメ付けられている。外筒の一方の端部は、他方の端部のカシメ付けによってボトムプレート上に折曲部がカシメ付けられる。
本発明に係るエアロゾル消火装置において、ノズルは、略円形状を為し、内径側に突出する突起を備えている。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るエアロゾル消火薬剤は、フッ素ゴムの添加により、熱或いは熱衝撃や物理衝撃に対する耐久性を有すると共に、燃焼時に高い火災抑制能力を発揮することが可能となる。
本発明に係るエアロゾル消火薬剤ペレットは、フッ素ゴムの添加により、薬剤ペレットが弾性を有し、急激な温度変化があっても、適度な弾性力により熱収縮を繰り返しても薬剤ペレットの割れ、欠けの発生を抑制できる。
【0019】
本発明に係るエアロゾル消火薬剤ペレットは、弾性のあるレストリクタにより薬剤ペレットの熱収縮に追随できるので、レストリクタが剥がれる虞がない。
そのため、高温低温の温度変化を繰り返す車両エンジンルームのような環境であっても薬剤が安定して燃焼することができる。
本発明に係るエアロゾル消火装置は、エアロゾル消火薬剤ペレット、第一の冷却剤層、第二の冷却材層を第一のスペーサ〜第三のスペーサで保持しているので、エアロゾル消火装置に振動が加わっても、内部の構造物がずれる虞がない。
【0020】
本発明に係るエアロゾル消火装置は、エアロゾル消火薬剤ペレットをクッション材で保護しているので、エアロゾル消火装置に振動が加わっても、クッション材の弾性により衝撃を吸収して、エアロゾル消火薬剤ペレットに加わる衝撃を緩和することができる。
そのため、自動車エンジンルーム等の振動の掛かる場所であっても長期的に設置できる。
本発明に係るエアロゾル消火装置は、外筒の両端部をカシメ付けて一体化するので、エアロゾル消火装置に振動が加わっても、内部の構造物がずれる虞がない。
【0021】
本発明に係るエアロゾル消火装置は、外筒の両端部をカシメ付けて一体化すると共にカシメ付け部にシール部を設けて水密構造とし、かつノズルシートをトッププレートでカバーするので、エアロゾル消火装置の水密性を確保し、耐水耐塵性を付与することができる。
そのため、エアロゾル消火薬剤は作動時まで、外部からの異物の侵入、結露、エンジンなどの輻射熱から保護される。その結果、長時間使用に耐えられる。
【0022】
しかも、エアロゾル消火薬剤は作動時まで、外部からの異物の侵入、結露、エンジンなどの輻射熱から保護されるので、火災時にエアロゾル消火薬剤が燃焼するとエアロゾル消火装置の内圧が上昇し、ノズルに貼られたシールが内圧で確実に破られ外部に消火性エアロゾルを放出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1〜
図4は、本発明の一実施形態に係るエアロゾル消火装置1を示す。
本実施形態に係るエアロゾル消火装置1は、中央部に点火具挿入孔11を有する略円盤形状のエアロゾル消火薬剤ペレット10を備えている。
【0025】
このエアロゾル消火薬剤ペレット10は、後述するように、薬剤中に配合、分散された弾性樹脂により、熱衝撃、物理衝撃に対する耐久性を有し、なおかつ薬剤燃焼時には高い火炎抑制能力を有する。また、エアロゾル消火薬剤ペレット10は、
図4に示すように、点火具挿入孔11を除く一端面12及び外周面14に後述するレストリクタ90を設けている。このレストリクタ90は、0.05〜1mmと極薄のため、
図1、
図2では省略されている。
【0026】
このエアロゾル消火薬剤ペレット10の一端面12側には、中央部に点火具挿入孔16を有する略円盤形状のクッション材15が配置されている。クッション材15は、例えば、クラフト紙積層板、グラスウール、シリコンゴム等で構成され、エアロゾル消火薬剤ペレット10に直接衝撃が加わることを防ぐために用いられている。
クッション材15の外径は、エアロゾル消火薬剤ペレット10の外径とほぼ同じにしてあるから、クッション材15の他端面19側がエアロゾル消火薬剤ペレット10の一端面12側上に載置されると、図面に示すように、エアロゾル消火薬剤ペレット10の外周面14とクッション材15の外周面17とは段差を生じること無く連続する面を形成している。
【0027】
このクッション材15の一端面18側には、ボトムプレート20が配置されている。ボトムプレート20は、断面略T字型を為し、中央部に点火具挿入孔26を有する。ボトムプレート20は、例えば、SUS、アルミ合金等金属材料で構成され、後述する点火具33を保持するために用いられている。
ボトムプレート20は、略円盤形状のプレート部21と、このプレート部21の中央部に一体的に立設された略円柱形状の点火具取付部22とを備えている。
【0028】
略円盤形状のプレート部21は、エアロゾル消火薬剤ペレット10の外径及びクッション材15の外径より大きな外径を有する。ボトムプレート20の外周面を形成するプレート部21の外周面23は、後述する外筒81の内面に当接する。また、プレート部21の外周面23に連なるプレート部21の表面部24の一部は、円環状にカシメ付けられる外筒81の終端部82によって覆われている。円環状にカシメ付けられている外筒81の終端部82の周縁部とプレート部21の表面部24との間には、シール剤を充填して気密性の高いシール部31を形成している。シール剤は、例えば、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ゴム、フッ素樹脂等によって構成されている。
【0029】
略円柱形状の点火具取付部22は、上部側に開口する凹部25と、この凹部25の中央の底面からプレート部21の底面に向かって貫通する点火具挿入孔26とを備えている。
点火具挿入孔26は、挿通される点火具33の脚線34をシール剤で気密保持するシール部30を形成するための凹部27を備えている。シール剤は、例えば、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ゴム、フッ素樹脂等で構成されている。この凹部27には、点火具33の脚線34を挿通する小孔28が通なっている。この小孔28には、点火具33を組み付ける点火具組付孔29が連なっている。点火具組付孔29は、プレート部21の底面側に開口している。
【0030】
点火具33は、エアロゾル消火薬剤ペレット10への着火を行うもので、例えば、硝酸カリウムベース点火剤、ボロン/酸化銅混合粉等の点火薬と、点火玉等の点火器とで構成されている。点火具33は、プレート部21の底面側から先端部が突出し、クッション材15の点火具挿入孔16を貫通し、エアロゾル消火薬剤ペレット10の点火具挿入孔11内に挿入できるように、点火具組付孔29に螺着されて保持されている。
【0031】
エアロゾル消火薬剤ペレット10の他端面13側には、第一のスペーサ35が配置されている。第一のスペーサ35は、両端35a,35bが間隔を開けた略C字型のリング部材であり、例えば、SUS、アルミ合金、鋼等金属材料等で構成されている。第一のペーサ35は、エアロゾル消火薬剤ペレット10と後述する第一の冷却材層43との間の空間を保持するために用いられている。第一のスペーサ35の一端面37側は、エアロゾル消火薬剤ペレット10の他端面13に当接してエアロゾル消火薬剤ペレット10を保持する支柱の機能を発揮する。第一のスペーサ35の外周面36と、エアロゾル消火薬剤ペレット10の外周面14とは段差を生じること無く連続する面を形成している。
【0032】
第一のスペーサ35の他端面38側には、第一の金網39と第二の金網44とで保持された第一の冷却材層43が配置されている。
第一の金網39は、例えば、SUS、鋼等の金属材料で構成されている。第一の金網39の一端面40側が第一のスペーサ35の他端面38側に当接している。第一の金網39の外周面41は、第一のスペーサ35の外周面36とほぼ等しくしてある。
第一の金網39の他端面42側には、第一の冷却材層43が配置されている。第一の冷却材層43は、例えば、アルミナ、シリカ、ゼオライト、カオリン、SUS等で構成される球形又は錠剤として成形された複数の冷却材43aを一列に並べている。第一の冷却材層43は、燃焼ガスと熱交換し、噴射エアロゾル温度を下げる機能を発揮する。なお、冷却材43aは、例えば、アルミナ、シリカ、ゼオライト、カオリン、SUS等に触媒を担持させても良い。
【0033】
第二の金網44は、例えば、SUS、鋼等の金属材料で構成されている。第二の金網44の一端面45側が第一の冷却材層43に当接している。第二の金網44の外周面46は、第一の金網39の外周面41とほぼ等しくしてある。
第一の金網39と第二の金網44とは、第一の冷却材層43を保持するために用いられている。
第二の金網44の他端面47側には、第二のスペーサ48が配置されている。第二のスペーサ48は、例えば、SUS、アルミ合金、銅等の金属材料から成る帯板を波形状に折り曲げて、第二の金網44と近似する外形を形成するように成形されている。第二のスペーサ48は、多数の折曲部の一端面49側で第二の金網44を保持している。
【0034】
第二のスペーサ48の他端面50側には、第三の金網51と第四の金網56とで保持された第二の冷却材層55が配置されている。
第三の金網51は、例えば、SUS、鋼等の金属材料で構成されている。第三の金網51の一端面52側が第二のスペーサ48の他端面50に当接している。第三の金網51の外周面54は、第一の金網39の外周面41及び第二の金網44の外周面46とほぼ等しくしてある。第三の金網51の他端面53側には、第二の冷却材層55が配置されている。
第二の冷却材層55は、例えば、アルミナ、シリカ、ゼオライト、カオリン、SUS等で構成される球形又は錠剤として成形された冷却材55aを複数列に並べている。第二の冷却材層55は、燃焼ガスと熱交換し、噴射エアロゾル温度を下げる機能を発揮する。なお、冷却材55aは、例えば、アルミナ、シリカ、ゼオライト、カオリン、SUS等に触媒を担持させても良い。
【0035】
第二の冷却材層55の冷却材55aは、第一の冷却材層43の冷却材43aより小径の球形又は錠剤として成形されている。
第四の金網56は、例えば、SUS、鋼等の金属材料で構成されている。第四の金網56の一端面58側が第二の冷却材層55に当接している。第四の金網56の外周面59は、第一の金網39の外周面41、第二の金網44の外周面46及び第三の金網51の外周面54とほぼ等しくしてある。
第四の金網56の他端面57側には、第三のスペーサ60が配置されている。第三のスペーサ60は、例えば、SUS、アルミ合金、銅等の金属材料から成る筒体で構成されている。
【0036】
第三のスペーサ60の外側面は、クッション材15、エアロゾル消火薬剤ペレット10、第一のスペーサ35、第一の金網39、第一の冷却材層43、第二の金網44、第二のスペーサ48、第三の金網51、第二の冷却材層55及び第四の金網56の外側面59側に配置される内筒66の他端面68側を配置するための切欠部61が形成されている。この切欠部61には、内筒66の他端面68側を保持するために内筒66の肉厚分だけ張り出す凸部62が形成されている。内筒66の一端部67は、ボトムプレート20のプレート部21の他端面65に当接されている。
内筒66は、例えば、SUS、鋼等で構成され、断熱材69及び各部品の保持を目的として用いられている。
【0037】
内筒66の外側部及び第三のスペーサ60の凸部62の外側部には、筒状の断熱材69が配置されている。断熱材69は、例えば、グラスウール、ロックウール、セラミックスペーパー等で構成され、外部からの熱及び消火剤噴射時の熱変化を緩和する。断熱材69の一端面72側は、内筒66の一端部67と共にプレート部21の他端面65に当接されている。
第三のスペーサ60の他端面64側及び断熱材69の他端面側71には、ノズルシート70が配置されている。ノズルシート70は、例えば、アルミ蒸着ポリエステルテープ等で構成されている。ノズルシート70の一端面73側が第三のスペーサ60の他端面64側及び断熱材69の他端面側71に当接している。ノズルシート70の外周面75は外筒81の内周面に当接している。
【0038】
ノズルシート70の他端面74側には、複数のノズル77を備えるトッププレート76が配置されている。各ノズル77には、円外周から中心に向かって45度の角度を持つ突起77aを設けている。この突起77aにより、エアロゾル消火装置1の作動時のノズルシール70の破断を助けることができる。トッププレート76は、例えば、SUS、アルミ合金、鋼等の金属材料で構成されている。トッププレート76の一端面78側がノズルシート70の他端面74側に重ねられている。
ノズルシート70の外周面80は、外筒81の内周面に当接する。また、ノズルシート70の外周面79の一部は、円環状にカシメ付けられる外筒81の終端部83によって覆われている。円環状にカシメ付けられている外筒81の終端部83の周縁部とトッププレート76との間には、シール剤を充填して気密性の高いシール部84を付与している。シール剤は、例えば、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ゴム、フッ素樹脂等によって構成されている。
【0039】
次に、本実施形態に係るエアロゾル消火装置1の組立方法を説明する。
先ず、外筒81をカシメ治具内に挿入し、終端部82をほぼ直角にカシメる。
次に、外筒81内に各部品を挿入する。この作業は、
図1に示す本実施形態に係るエアロゾル消火装置1の上下を逆にした状態となる。
先ず、外筒81内に、点火具33を取り付けたボトムプレート20を挿入し、続いて内筒66及び断熱材69をボトムプレート20のプレート部21に当接するまで挿入する。
【0040】
次に、内筒66内に、クッション材15、エアロゾル消火薬剤ペレット10、第一のスペーサ35、第一の金網39、第一の冷却材層43、第二の金網44、第二のスペーサ48、第三の金網51、第二の冷却材層55、第四の金網56を順に挿入する。
次に、内筒66の他端面68に第三のスペーサ60外側面61を組み付けるとともに、断熱材69の内側面に第三のスペーサ60外側面を組み付ける。
次に、断熱材69の他端面及び第三のスペーサ60の他端面64に、ノズルシート70及びトッププレート76を順に挿入する。ノズルシート70及びトッププレート76は、予め貼付しておく。
【0041】
次に、上述のように、各部品を挿入した外筒81を再びカシメ治具内に挿入し、開放端となるトッププレート76側の外筒81の外周縁部83をプレスにてプレス圧8トン〜10トンでカシメる。
次に、トッププレート76のカシメ部83及びボトムプレート20と外筒81の接触部82にシール剤を充填し、ボトムプレート20と点火具33の脚線34との隙間にシール剤30を充填する。
以上によって、本実施形態に係るエアロゾル消火装置1の組立が完了する。
【0042】
次に、本実施形態に係るエアロゾル消火装置1の作用を説明する。
先ず、外部より点火具33に脚線34を介して通電し、エアロゾル消火薬剤ペレット10に点火する。
次に、エアロゾル消火薬剤ペレット10が燃焼し、消火性エアロゾルを発生する。
次に、発生した消火性エアロゾルは、第一のスペーサ35内に噴出し、第一の冷却材層43内に流入し、第一の冷却材層43を通過する際に熱交換されて消火性エアロゾルの温度を低下させる。
【0043】
次に、第一の冷却材層43を通過した消火性エアロゾルは、第二のスペーサ48内に噴出する。
次に、第二のスペーサ48内に噴出した消火性エアロゾルは、第二の冷却材層55内に流入し、第二の冷却材層55を通過する際に熱交換されて消火性エアロゾルの温度を更に低下させる。
【0044】
次に、第二の冷却材層55を通過した消火性エアロゾルは、第三のスペーサ60内に噴出する。
次に、第三のスペーサ60内に噴出する消火性エアロゾルにより高まる内圧によってノズルシート70が破断し、トッププレート76に開いたノズル77より消火性エアロゾルがエアロゾル消火装置1の外部に放出される。
【0045】
次に、エアロゾル消火薬剤ペレット10を説明する。
本実施形態において、エアロゾル消火薬剤ペレット10は、酸化剤と、還元剤と、還元剤兼結合材と、フッ素ゴムとで構成されるエアロゾル消火薬剤をプレス成形し、中央に点火具挿入孔11を設けている。
酸化剤は、酸化剤として働くアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が適用可能である。例えば、硝酸カリウム、塩素酸カリウム、過塩素酸カリウム、フェロシアン化カリウム、重クロム酸カリウム等のカリウム塩、硝酸セシウム、過塩素酸セシウム等のセシウム塩、硝酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム等のナトリウム塩等がある。
【0046】
還元剤は、酸化され得る物質であれば適用可能である。例えば、ジシアンジアミド、木炭等カーボン類、セルロース、テフロン(登録商標)粉末、硫黄、ショ糖等糖類、酢酸セルロース等である。
結合剤兼還元剤は、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、各種ポリマー、ゴム類、うるし、ゼラチン、グアーガム、アガロース、樟脳、パラフィン等のワックス類等である。
本実施形態では、酸化剤に硝酸カリウム、還元剤にジシアンジアミド、結合剤兼還元剤にフェノール樹脂を選定した。
【0047】
次に、各剤の使用可能な範囲について説明する。
エアロゾル消火薬剤は、燃焼に伴い発生するカリウムラジカルが消火に寄与する。
硝酸カリウム、ジシアンジアミド、フェノール樹脂の混合ペレットは、燃焼しさえすればカリウムラジカルを生成させるため消火能力があるといえる。
【0048】
次に、表1に示すように、組成1〜組成10の薬剤範囲にて、エアロゾル消火薬剤ペレットを同重量に成型し、同規模の火災に対して消火能力があるか否かを確認した。
模擬火災燃料:ヘプタン(第一石油類第4類)
模擬火災面積:0.06m
2
模擬火災空間:1m
3
消火剤濃度:30g/m
3
その結果を表1に示す。
【0050】
組成3〜組成9は、有効なエアロゾル消火薬剤として機能することを確認した。
その結果、各剤の割合は下記の通りである。
硝酸カリウム:60wt%〜85wt%
ジシアンジアミド:10wt%〜26.7wt%
フェノール樹脂:5wt%〜13.3wt%
【0051】
次に、組成8(硝酸カリウム80wt%、ジシアンジアミド13.3wt%、フェノール樹脂6.7wt%)のエアロゾル消火薬剤で径65mmのペレットを成型した。得られた形状は、
図1に示すエアロゾル消火薬剤ペレット10と同様に、点火薬挿入孔11を備えている。
得られたエアロゾル消火薬剤ペレットを
図5に示すヒートショックサイクル試験及び
図6に示す温度サイクル試験を行った。
【0052】
その結果、何れの試験でもエアロゾル消火薬剤ペレットにクラックが入ってしまった。
そこで、エアロゾル消火薬剤ペレットの耐熱耐振動性を向上させるために、種々の材料を添加したところ、組成8にフッ素ゴムを外割で0.5wt%〜5wt%添加した場合が最適であることを見出した。
その結果を、表2に示す。
表2に示すように、フッ素ゴムが5wt%を超えて6wt%になると、25℃からのヒートショック、温度サイクルには耐えることができるが、燃焼しない(着火しない)ため好ましくないことが確認できた。
【0054】
次に、エアロゾル消火薬剤の製造方法について説明する。
硝酸カリウム78.8wt%及びジシアンジアミド13.1wt%を粉体状態で撹拌機を用いて3分間混和する。フェノール樹脂を6.6wt%となるように秤量しアセトンに溶解させる。この時、フェノール樹脂1gにつき5mlのアセトンに溶解させる。
フェノール樹脂溶液を先の硝酸カリウムとジシアンジアミドとの混和物に注ぎ入れ、10分間混和する。
【0055】
続いて、フッ素ゴムを1.5wt%となるように秤量しアセトンに溶解させる。この時、フッ素ゴム1gにつき10mlのアセトンに溶解させる。
これを先の、硝酸カリウムと、ジシアンジアミドと、フェノール樹脂との湿混和物へ注ぎ入れ、10分間混和し、これを消火薬剤湿混和物とする。
消火薬剤湿混和物は、押出造粒しやすい粘度まで風乾させ、目開き1mmの造粒スクリーンを用いて押出造粒する。造粒物は40℃でアセトンを完全に乾燥させた後、100gづつ計量する。
【0056】
計量したものを、金型に入れ、エアロゾル消火薬剤ペレット成型杵の単位面積あたり圧力が1530kg/cm
2〜1835kg/cm
2となるようにプレス成形する。完成したエアロゾル消火薬剤ペレットは直径65mm、高さ約17mm、着火具挿入孔直径7.5mm、比重約1.7〜1.8である。
【0057】
次に、フッ素ゴムの添加について説明する。
エアロゾル消火装置の薬剤組成として先行技術に挙げられるものは、その大半に樹脂等の結合剤として作用する物質が含まれている。
結合剤は、基本的に紛体である組成物の”つなぎ”となる成分でありエアロゾル消火薬剤の成型に必要となる。
【0058】
結合剤を有しない成分の場合、紛体をプレスする等して成型することになる。結合剤が含まれていてもプレス成型する場合がある。
エアロゾル消火薬剤は、その原理上、硝酸カリウム、過塩素酸カリウム、重クロム酸カリウム等の無機物の酸化剤を主成分とする。
これらは結合剤と混ぜたり、圧搾成形しただけでは弾力がなく固く脆い性状となる。
エアロゾル消火薬剤の組成比率的に主成分は酸化剤となるため、既往の結合剤の量を極端に増やし、硬く脆い物理的性状を改善することは困難である。
【0059】
フッ素ゴムは、エアロゾル消火薬剤の成分と反応する等して化学的に物理的性状を変化させるものではなく、微量であっても均一に組成中に分散させることによって、紛体粒子間の緩衝材として働き弾力性を持たせることが可能である。
よって、組成によらず、紛体の成型であればフッ素ゴム添加の効果は得られるということになる。
次に、同じく組成8にフッ素ゴムを外割で0.5wt%〜5wt%添加したエアロゾル消火薬剤ペレットを、
図1〜
図4に示すエアロゾル消火装置1のエアロゾル消火薬剤ペレット10に代えて用いた結果を表3に示す。
表3に示すように、組成8にフッ素ゴムを外割で0.5wt%〜5wt%添加したエアロゾル消火薬剤ペレットは、ヒートショック試験、温度サイクル試験及び振動試験に耐えることが確認された。
【0061】
ここで、振動試験について説明する。
表中、JIS1601は、3種(主としてトラック系)D種(懸架装置のばね下に取り付けられる場合及びエンジンに取り付けられ、比較的振動の大きい条件)110段階振動試験である。共振がない無い場合の試験条件は、振動数67又は167Hz、振動加速度110m/S
2にて、同一の試料に対して、Z(上下)、Y(前後)方向へそれぞれ4時間、2時間、2時間と連続して振動を印加する。
表中、MIL−STD−810は、MIL−STD−810G Method 514.6 table 514.6C−IVである。カテゴリ4装輪車両複合振動である。3軸方向で加速度平均1.5〜2.24G、5〜500Hz、1軸方向当たり2時間振動を印加する。
【0062】
次に、同じく組成8にフッ素ゴムを外割で0.5wt%〜5wt%添加したエアロゾル消火薬剤ペレットを、
図1〜
図4に示すエアロゾル消火装置1のエアロゾル消火薬剤ペレット10に代えて用いた場合の耐振動性の変化(各n=2)を表4に示す。
ここでは、外筒81内に組込状態での燃焼性と残存率(振動試験)とを確認した。
外筒81内に組込状態での燃焼性は、点火後、所定時間(9〜12秒間)燃焼すること、断続的な燃焼、急激な燃焼が発生しないことを確認した。
【0063】
残存率(振動試験)は、振動試験後、分解しペレットを取り出し重量測定を実施し、振動により砕けた破片や粉となったものを除き、重量を測定した。元の重量を100%とした際の重量変化を残存率として記録する。
【0065】
次に、本実施形態では、
図4に示すように、エアロゾル消火薬剤ペレット10の熱収縮に追従できる耐熱シリコーン製のレストリクタ90を使用したが、本発明はこれに限らず、
図7に示すように、エアロゾル消火薬剤ペレット10の点火具挿入孔11を除く一端面12、外周面14及び他端面13に耐熱シリコーン製のレストリクタ90を塗布する場合、又は、
図8に示すように、エアロゾル消火薬剤ペレット10の点火具挿入孔11及び他端面13を除く、外周面14及び一端面12に耐熱シリコーン製のレストリクタ90を塗布する場合も使用可能である。
【0066】
評価方法は、
図5に示すヒートショックサイクル試験及び
図6に示す温度サイクル試験に基づいて行った。
図4、
図7及び
図8に示すように、エアロゾル消火薬剤ペレット10に耐熱シリコーン製のレストリクタ90を塗布し、ヒートショック及び温度サイクル印加後のレストリクタ90とエアロゾル消火薬剤ペレット10との境界を観察した。その結果を表5に示す。
塗布剤は、従来から行われている水性セラミックスと、シリコーン樹脂とを使用した。
【0068】
次に、レストリクタ90の厚さについて更に説明する。
塗布厚さは、0.05mm以上であり、塗布厚さの最大値は内筒66の内径に依存する。塗りすぎて内筒66に収まらなくならない程度とする。
塗布厚さが0.05mmより薄い場合は、燃焼時に剥離したり、火炎が伝火する虞がある。
塗布厚さを極端に厚くした場合、レストリクタ90とエアロゾル消火薬剤ペレット10との材料の熱膨張率の違いから高温下でレストリクタ90が広がりエアロゾル消火薬剤ペレット10から剥離する虞がある。
【0069】
例えば、
図9に示すように、熱膨張及び熱収縮時のレストリクタ90の接着面の大きさ(内径)はレストリクタ塗布厚さにより変化するわけではない。しかし、エアロゾル消火薬剤ペレット10は粉体の凝集体であるため、例えば、
図10に示すように、接着されているレストリクタ90の表面剥離は起こりやすいといえる。
ここで、レストリクタ90の厚さが大きくなってゆくと接着面に加わる応力も大きくなると考えられるので、ある程度の塗布厚さから剥離が起きるものと考えられる。
【0070】
エアロゾル消火薬剤ペレット10の線膨張率が10〜100×10
-6前後のオーダーであるのに対して、レストリクタ90の線膨張率は2〜4×10
-4程度と大きな開きがあるため、−40℃〜100℃という広い範囲での温度変化に曝された場合、両者が接着されていなければ隙間が開くことになる。
塗布厚さ0.5mm程度では接着されたレストリクタ90が伸びることで隙間が開くことを防いでいる。
【0071】
塗布厚さが厚くなるとレストリクタ90の剛性が増すため、温度変化があった際に接着面から剥離する力が強く働く。
よって、レストリクタ90の塗膜厚は実験的に以下のように決定される。
エアロゾル消火薬剤ペレット10に厚さを変えてレストリクタ90を塗布したものに以下の温度サイクル、ヒートショックサイクルを印加する。
ここでは、内筒66等には組み込まず直接恒温槽内にエアロゾル消火薬剤ペレット10を投入する。
ヒートショック及び温度サイクル印加後の、レストリクタ90とエアロゾル消火薬剤ペレット10との境界面の剥離等を観察した。
【0073】
表中、○は変化なし、×は剥離など不良を表す。
試験結果は下記の通りである。
塗布厚さ0.02mmのものについては、エアロゾル消火薬剤ペレット10との接着面からの剥離は見られないが、熱膨張によりレストリクタ90の裂けが見られた。
厚さ2mm以上の塗布厚さでは、エアロゾル消火薬剤ペレット10とレストリクタ90の接着面が熱膨張に対応できず、剥離を起こしている。
よって、レストリクタ90の塗布厚さを0.05mm〜1mmと規定する。
【0074】
次に、耐振動性について説明する。
エアロゾル消火装置1は、クッション材15があるので、耐振動、衝撃性が向上していることがわかる。クッション材15が無いと、エアロゾル消火薬剤ペレット10が破損してしまう。なお、カシメが無いと、エアロゾル消火装置1の内部構成部品が逸脱してしまい、エアロゾル消火装置1としての機能を喪失する。
次に、クッション材15の材質に求められる条件は、先ず、振動、衝撃を吸収するための弾性(クッション性)があること、次に、エンジンルームのような高温環境下においても物性を失わないこと、次に、筐体外気温変化によるヒートショック性に耐えることができることである。
【0075】
本実施形態では、制振性を有するシリコンゴムを使用している。
振動を減衰させる特性値としては、例えば、損失係数が用いられるが、これは一般的に天然ゴムやブチルゴム等のゴム系材料の方がシリコンゴム系より優れているからである。
しかし、これらゴム材は温度に比例した顕著なクリーブ性を持つので、エンジンルーム等の高温環境下では使用に耐えない。
また、熱的に耐久する他の材料として、フッ素ゴムや積層紙、無機繊維等を使用することができる。
【0076】
クッション材15は、厚さ5mmのショア硬さ50Aのシリコンゴムで構成している。
厚さは、特に規定しないが、断熱能力の観点から厚さt=1mm以上は必要である。
シリコンゴムの熱伝導度は、一般に0.2W/m・K程度であるから、積層紙や無機繊維を使用した場合には熱伝導の観点からはさらに薄くすることが可能であるが、耐振動性を担保するため1mm程度は必要である。
本実施形態では、内筒66と外筒81の間に挟んだ1mmのセラミックスペーパーで構成される断熱材69との熱伝導率のバランスからクッション厚を5mmとしている。
セラミックペーパーの熱伝導率はおおよそ0.04W/m・K程度である。
よって、1mmのセラミックペーパーに熱伝導的に対応するシリコンゴムの厚さは5mmとなる。
【0077】
次に、本実施形態に係るエアロゾル消火装置1の耐水性について説明する。
図11に示すように、薬量100gの本実施形態に係るエアロゾル消火装置1を、水深1m地点に上向き、下向き、横向きにして潜水状態で水没させ、30分間放置した。
放置後の各エアロゾル消火装置1について重量測定、分解、作動確認を実施した。
【0078】
試験方法は、下記の3区分で行った。
1.シール剤なし
2.シール剤充填(シール部30にシール剤を3cc充填、シール部31,84にシール剤を2cc充填)
3.シール剤充填(シール部30にシール剤を1cc充填、シール部31,84にシール剤を0.5cc充填)
各潜水方向につき供試体各2個(分解検査用1個、燃焼試験用1個)を使用した。
シール剤充填量と浸水量の変化及び燃焼状況を表7に示す。
【0080】
1.シール剤なしは、かしめ構造のみのため、水没レベルでの耐水性がない。
2.シール剤充填(適正量)は、適正量のシール剤を充填し、ノズルシート70を貼付することによって、本実施形態に係るエアロゾル消火装置1は防水性(IP7相当)を有することが確認された。適正量のシール剤充填のため、充填部は水密構造であり、副次的に高い耐塵性を有するものと考えられる。
3.シール剤充填(過小量)は、過少量のシール剤充填のため、充填部に連続気泡が発生し、微量ではあるが浸水が起きた。
このようにカシメ部をシーリング剤で充填することで耐水性を付与させ、これにより多用な環境での使用に耐えうる消火装置を提供できる。