(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記透明カバーが、端部に前記電解液空間を形成するための一体のあるいは別体のスペーサを備え、前記封止手段が、前記スペーサの被加工面との当接端に張設された請求項1に記載の部分電解研磨治具。
前記固定手段が、平面または曲平面の前記被加工面の被加工域近辺に吸着する吸着盤と、当該吸着盤を支持点として前記透明カバーを前記被加工面に押さえつける構成である請求項1に記載の部分電解研磨冶具。
前記透明カバーが、円柱状の被加工面の軸方向に所定長さで、軸に直角方向の断面が被加工面の半周を被う形状の半裁カバーを2つ、被加工面の径方向両側から、相互に液密性を保って付き合わせて形成され、
前記封止手段が、前記半裁カバーの軸方向端縁と被加工面との間及び半裁カバーの端縁相互に形成され、
前記固定手段が、半裁カバーの周方向端部に径方向に立ち上げられたフランジと、前記2つ半裁カバーを付き合わせた状態の、2つのフランジを相互に締め付ける構成である請求項1に記載の部分研磨治具。
【背景技術】
【0002】
ビール等の食品備蓄タンク、あるいは化学プラント等の薬品備蓄タンク等、面積の広い内壁面を持つタンクは、予め部材ごとに物理研磨あるいは電解研磨して、新設のタンクとして組み上げられることになる。
【0003】
ところが、タンクの内壁面に経年によって錆び、汚れが発生することがあり、この場合、タンク等の内面を補修できれば寿命を延ばすことができるが、補修できない場合があり、そのタンクを廃棄して、新設を余儀なくされることがある。
【0004】
タンク内面を補修する方法としては、タンクに人が入って、バフ研磨等の物理研磨をすることが考えられるが、より精度の高い研磨を必要とするときは、電解研磨をする必要がある。しかしながら、電解研磨を用いることは、被加工面との間に電解液を充填する必要上多くの技術的な問題がある。従って、既設のタンクの内面を補修する手段としてとして電解研磨を使用することはできなかった。
【0005】
また、上記のようなタンクの研磨補修時には、タンクの内外側に多数配設されたパイプの補修(パイプ外周面の研磨)の必要性も発生するが、複雑に入り組んだ上記パイプの外周面を電解研磨することは、上記と同様、被加工面との間に電解液を充填する必要上困難であった。
【0006】
以上、大型のタンクの内面の補修について説明したが、この問題はタンクの内面だけでなく、既設のプラントや建造物で金属部分の補修が必要な場合のすべての問題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
大型のタンクの内面の経年による錆びや汚れをとる試みは、本願出願人による特許5190012号公報に開示されているが、ここで開示されている技術は、はなはだ大掛かりな構造で、組み立てに多大の時間を要する欠点があり、また、タンクの内面だけにしか適用できない技術であった。同じ公報で、タンク内面を部分的に研磨する電解浴槽も開示されているが、電解浴槽を被加工面と対向する面との間で支える必要があり、組み立て作業に時間を要し、また、前記対向する面がない場合例えば、ビルの外壁の研磨をする場合等には適用できない。
【0009】
更に、特許5190012号公報に開示の内容では、平面だけが対象となり、パイプのような円柱状の構造物には対応できない欠点がある。
【0010】
更に、電解研磨、あるいは電解鍍金は、作業中に泡が発生し、この泡の発生は研磨あるいは鍍金の品質を著しく低下せしめるが、前記従来技術ではこの問題に配慮されていない。
【0011】
本発明は上記従来の事情に鑑みて提案されたものであって、組み立てが簡単で、平面あるは曲平面だけでなく、円柱状の外周面、たとえば、複雑な形状に屈曲されて施工された配管の外周面をも研磨できる研磨冶具を提示することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の構成要素よりなる。
【0013】
被加工面を覆う形状の透明カバーが被加工面を覆って、電解液空間形成する。前記透明カバーの周縁と被加工面との間は封止手段で液密に封止する。網状の電極(網電極)が前記電解液空間に当該透明カバーおよび被加工面との間に間隙を保って配設され、また、網状の絶縁板が前記電極の被加工面側に配設される。電解液注入口および排出口が前記透明カバーのいずれかの位置に設けられ、更に、通気口が外気と連通するように前記透明カバーに設けられる。この透明カバーは固定手段で被加工面に固定される。
【0014】
前記固定手段は、平面または曲平面の前記被加工面の被加工域近辺に吸着する吸着盤を利用することができる。
【0015】
本発明は、配管等の円柱状の設備にも適用することができる。
【0016】
この場合、前記透明カバーが、円柱状の被加工面の軸方向に所定長さで、軸に直角方向の断面が被加工面の半周を被う形状の半裁カバーを2つ、被加工面の径方向両側から、相互に液密性を保って付き合わせて形成され、電解液空間が被加工面と透明カバーとの間に形成される。この場合前記封止手段は、前記半裁カバーの軸方向端縁と被加工面との間及び半裁カバーの端縁相互に形成される。また、前記固定手段は、半裁カバーの周方向端部に径方向にフランジを立ち上げ、前記2つ半裁カバーを付き合わせた状態の、2つのフランジを相互に締め付ける構成となる。
【発明の効果】
【0017】
上記構成により、補修が必要な面に簡単に透明カバーを固定して、電解液空間を形成できるので、既設の設備の研磨補修が必要な部分を簡単にかつ精度よく補修することができる。更に、網電極の採用により泡の発生による障害を緩和することができ、大電流を流すころができ、更に、絶縁網の採用により電極間を狭くしてもスパーク事故を起こすことなく、前記大電流を流すことによる障害の発生をなくすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<電解液空間>
図1〜
図3は被処加工面としての大型タンク内面等の曲平面に電解液空間を形成する電解研磨冶具を示す図であり、
図1は正面斜視図、
図2は裏面斜視図。
図3は
図1のA−A断面図である。
【0020】
タンク10(
図3参照)の内面形状に沿った形状の透明カバー20を当該タンク10の内面との間に所定間隔を保って液密に固定して、電解液空間100が形成される。透明カバー20は、平板21の四方の端縁に、タンク10の内周面と前記平板21との間に所定の間隔(例えば1〜3cm程度)を確保して、前記電解液空間100を形成するためのスペーサ22が設けられる。当該スペーサ22は、前記平板21の周縁を平板21と直角方向に屈曲させて一体に形成してもよいし、あるいは、平板21の周縁に前記所定間隔に対応する高さの枠体を貼り付ける構成としてもよい。当該スペーサ22の前記タンク10の内面と接する側に、被加工面との液密性を確保する封止材26が張設される。
【0021】
上記透明カバー20の内側(電解液空間内)に沿って、透明カバー20との間に、電解処理中に発生する泡の上昇空間となる所定の間隙25を保って網電極23が張設される。更に、前記網電極23の内側(被加工面側)に絶縁網24が張設され、前記網電極23と被処理面との接触が防止される。尚、
図3中、網電極23と絶縁網24を板体21に固定しているビスは、導電性を持たないプラスチックビスであり、当然のことながら、平板21とビスの間の液密性は確保されている。
【0022】
前記電解液空間100の下側のスペーサ22には以下に説明する電解液を抜くための排出口27が設けられ、上側のスペーサ22には、電解中に発生するガスを抜くためのガス抜き口28が、所定間隔で複数設けられ、その内のいずれかが、電解液を注入するための注入口として利用される。
【0023】
前記透明カバー20とは別に、
図4に示すように当該透明カバー20を被加工面に固定するための固定治具(固定手段)30が用意される。固定治具30のアンカーとしては、真空パッド31等の吸着盤が最適であり、後述するように、被加工面の周辺に固定された前記真空パッド31から支柱32を立ち上げて、当該支柱32の所定の高さの位置から水平にビーム33の基端部を固定しておき、当該ビーム33の先端部から前記支柱32と逆方向(被加工面方向)に、前記透明カバー20の周縁部を被加工面に押さえ込む(後述)、押さえ棒34を螺着する構成としている。
【0024】
被加工面が磁性体である場合は、前記真空パッド31に代えて、吸着盤として永久磁石あるいは電磁石を使用することもできる。
【0025】
上記のように透明カバー20と固定治具30を用意しておき、以下のようにして電解液空間を形成する。対象となる被加工面に前記透明カバー20を配置しておき、その周囲に固定治具30を前記真空パッド31を利用して必要な数固定する。次いで、前記各固定治具30の押さえ棒34を螺進させて、その先端で透明カバー20の周縁を押さえることによって、透明カバー20が被加工面との液密性を保って固定されることになる。
【0026】
この状態で、前記排出口27を閉じ、注入口28から電解液を供給し、網電極23と被加工面との間に、電解研磨に適した極性の電圧を掛け、適正な電流を流すことによって、被加工面は電解研磨されることになる。
【0027】
ここで、電解研磨中に泡が発生すると、電解研磨の品質を低下する。この問題を緩和すべく、本発明では、上記したように電極として数mm程度の大きさの網電極23を用いている。更に、発生した泡は自然に電解液空間を上昇するように、平板21と電極23との間には数mm程度の間隔が設けられる。また、大量の泡が発生するときは、電解液の劣化を意味することになり、前記透明カバー20は、この状態が発生したかどうかの確認を可能にする。上記の構成では網電極23と被加工面との距離は5mm〜20mm程度にすることが可能である。このように、網電極23と被加工面との距離がこのように小さくなると、多くの電流を流すことが可能になり、処理は早くできることになるが、逆に熱による電極23の撓みが発生し、電極23と被加工面とが異常に近づいたり、あるいは接触してスパークを発生するおそれがある。そこで、前記網電極23の被加工面側には絶縁網24が配設される。
【0028】
電解処理中に泡は常時多少は発生しているが、それが電解処理に仕上がりに影響が出ない程度であれば、許容できることになり、その許容度を広げる意味で、前記したように網電極23の平板21側に間隙が設けられている。
【0029】
ただし、電解処理の仕上がりに影響がでる程の泡が発生すると、電解処理を止め、排出口27をあけて電解液を排出して、新しい電解液を充填する。あるいは、電解液を排出口27から抜きながら新しい電解液を供給する循環をすることで、泡の発生を抑えることができる。電解処理中の泡の発生状態を目視できるように、透明カバー20が使用されている。
【0030】
上記固定手段としては、どのような構造のものも適用できるが、被加工面側に吸着する吸着盤を使用することによって、被加工域の近傍に固定手段を配置
することができ、電解液空間の形成が極めて容易になる。
【0031】
前記透明カバーに対応する領域の電解研磨が終了すると、次の領域へと透明カバーを移動させることを繰り返して、対象設備全体を研磨・補修することができる。
【0032】
<円柱体の研磨治具1>
以上、平面状の被処理面に適用する透明カバー20と固定治具30について説明したが、本発明は、円柱状の面に対しても適用できる。例えば、大型のタンク10の内部には、必要な液を供給するための、あるいは、加熱・冷却時に熱媒・冷媒を流すための配管が敷設されている。上記のようにタンク10の内壁面を電解研磨して補修できたとしても、敷設された配管の外周面は未補修のまま残ることになる。
【0033】
図5、
図6は、直円柱型(あるは多少湾曲した配管も含む)の配管110に本発明を適用した場合の研磨治具の実施形態を示すものである。
【0034】
被加工面となる配管110より径の大きな、両端が蓋された透明のパイプを軸方向に半分に裁断した(以下半裁という)した形状の半裁カバー210を、径方向の両側から付き合わせて電解液空間100を形成することになる。
【0035】
前記半裁カバー210の軸方向端部の蓋体には加工対象の配管110の径に符合する半円の挿通孔221が設けられて、配管110との間隔を確保するスペーサ222が形成される。当該スペーサ222の加工対象配管と接する端部に封止材26が張設されることはもちろんである。更に、半裁カバー210の周方向端部には径方向外側にフランジ231が立ち上げられた構成となっている。
【0036】
この半裁カバー210の内側には、被加工面から所定の間隙を保つように半円筒状の網電極223が配置され、更にその内側には網状で半円筒状の絶縁板224が配置されている。この半裁カバー210を前記網電極223と絶縁網224とともに、被加工面(加工対象配管)110の径方向の一方側と他方側から2つ付き合わせて、前記フランジ231を利用して相互に液密に、かつ、被加工面との液密性を確保して被加工面を覆うようにビス等で固定して透明カバー20を構成する。これによって透明カバー20と被加工面との間で電解液空間100が形成されることになる。
【0037】
この実施の形態では、前記フランジ231とビスが固定手段を構成することになる。当然のことながら、このとき、前記2つの半裁カバー210内面に配設された網電極23と絶縁網24は、円筒状となり、被加工面全体を覆うことになる。
【0038】
また、前記半裁カバー210相互の液密性を確保するために半裁カバー210相互が当接する面(半裁したときの裁断面(前記フランジ231を含む))には封止材26が張設される。
【0039】
電解液を抜くための排出口27と電解液を注入するための注入口28は、いずれかの一方の半裁カバー210に設けられるが、排出口27が下側、注入口28が上側に位置するように被加工面に固定される。
【0040】
尚、この電解治具は、配管が小さな曲率を持つときは、当該配管の曲率に符合する曲率の透明のパイプを使用することで対応することができ、直線状の配管に限定されるものではない。
【0041】
透明のパイプとしては図面上、円筒状のパイプが用いられているが、軸に直角方向の断面が被加工面の半周を被う形状であれば、どのような形状(例えば断面四角)であってもよい。
【0042】
<円柱体の研磨治具2>
図7は180度U字状に屈曲する配管110のU字部を研磨する研磨治具を示すものである。
【0043】
配管110のU形状の湾曲部の内円と外円に符合した内周面と外周面を有し、当該内周面と外周面をU字の表裏から蓋した形状のパイプであって、軸方向の両端が蓋された断面四角の透明パイプが用意される。当該透明パイプを軸方向(U字の面方向)に半裁した形状の半裁カバー210を径方向両側(U字の表裏)から2つ付き合わせて透明カバー20となし、電解液空間100を形成することになる。
【0044】
もっとも、前記透明パイプは配管110のU形状に符合する断面が円形状のパイプであってもよい。
【0045】
前記半裁カバー210の軸方向端部の蓋体には加工対象の配管110の径に符合する半円の挿通孔221が設けられて、配管110との間隔を確保するスペーサ222が形成される。U字の軸方向一方端と他方端は同じ面となるので、両端に設けられる前記スペーサ222も同一面に設けられる。また、半裁カバー210のU字の外周面であって、半裁したときの断面端に径方向外側に向けてのフランジ237が形成される。スペーサ222の挿通孔221の加工対象配管と接する端部に封止材26が張設され、また、半裁カバー210が付き合わされる相互の面(前記フランジ237を含む)にも封止材26が張設もることはもちろんである。
【0046】
更に、U字の配管110の形状に符合する軸方向に半分の網電極23とその内側に配置される絶縁網24が前記半裁カバー210の内面に配設される。網電極23は、前記半裁カバー210との間に所定の間隙を持って配設されることは
図1〜
図3に示した場合と同様である。この状態で、2つの半裁カバー210がU字の配管の径方向両側(U字の表裏)から付き合わされ、フランジ222を利用して相互に液密に、かつ配管210との液密性を保ってネジ止めされ透明カバー20が形成される。これによって、網電極23が被加工面と所定の距離を保って絶縁網24を挟んだ状態の電解液空間100が形成されることになる。当然のことながら、注入口28が上側、排出口27が下側に位置するように設けられる。
【0047】
<円柱体の研磨治具3>
図8は配管のT字に直交した部分を研磨する研磨治具を示すものである。
【0048】
配管110のT字形状に符合し、四方が蓋された断面四角の透明の箱体を軸方向(T字の面方向)に半裁した形状の半裁カバー210を径方向両側(T字の表裏)から2つ付き合わせて透明カバー20となし、電解液空間100を形成することになる。
【0049】
前記半裁カバー210を付き合せて、下記のように電解液空間100を形成したときに、T字の配管210と干渉する直交する2方の面に、配管の径に対応する径の半円である挿通孔221を設けて、当該面をスペーサ222とする。更に、前記半裁したときの裁断面に対応して外側にフランジ231を張り出して、半裁カバー210を構成する。また前記挿通孔221の端面、及びフランジ231を含む半裁したときの断面に封止材26を張設する。
【0050】
配管110の直交形状に符合するとともに、軸方向(T字の面に平行な方向)に半分にした網電極23とその内側に配設される絶縁網24が前記半裁カバー210内に配設される。このとき、半裁カバー210と網電極23との間に電解作業時に発生する泡の上昇をスムーズにする間隙が設けられる。
【0051】
このように、網電極23と絶縁網24を配設した状態の2つの半裁カバー210を配管110の径方向の両側(T字の上下両側)から付きあわせてフランジ231部分を利用してビス等で固定することによって透明カバー20が構成される。これによって、網電極23が絶縁網24を挟んで被加工面と所定の距離を保った状態の電解液空間100が形成されることになる。この場合も、排出口27が下側、注入口(ガス抜き口)28が上側に形成される。
【0052】
以上説明した円柱体の研磨治具1、2、3を用いて配管を部分ごと研磨する作業を順次進めることによって、設備全体の研磨・補修をすることが可能となる。
【0053】
以上説明したように、本発明はタンク等の建造物の部分であっても容易に研磨(鍍金)することが出来るので、大型タンクの内面、建造物の金属がむき出しになっている金属の表面等を補修することができる。