特許第6231881号(P6231881)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231881
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】レーダシステム
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/41 20060101AFI20171106BHJP
   G01S 7/02 20060101ALI20171106BHJP
   G01S 13/28 20060101ALI20171106BHJP
   G01S 13/534 20060101ALI20171106BHJP
   G01S 13/91 20060101ALI20171106BHJP
   G08G 5/00 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   G01S7/41
   G01S7/02 210
   G01S13/28 200
   G01S13/534
   G01S13/91 200
   G08G5/00 A
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-533271(P2013-533271)
(86)(22)【出願日】2011年10月10日
(65)【公表番号】特表2013-545084(P2013-545084A)
(43)【公表日】2013年12月19日
(86)【国際出願番号】GB2011001462
(87)【国際公開番号】WO2012049450
(87)【国際公開日】20120419
【審査請求日】2014年9月17日
【審判番号】不服2016-10753(P2016-10753/J1)
【審判請求日】2016年7月15日
(31)【優先権主張番号】1017210.4
(32)【優先日】2010年10月12日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】513090747
【氏名又は名称】ティーエムディー・テクノロジーズ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100080322
【弁理士】
【氏名又は名称】牛久 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100104651
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100114786
【弁理士】
【氏名又は名称】高城 貞晶
(72)【発明者】
【氏名】ウォード・キース・ダグラス
【合議体】
【審判長】 酒井 伸芳
【審判官】 関根 洋之
【審判官】 須原 宏光
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2007/0024494(US,A1)
【文献】 特開2009−250952(JP,A)
【文献】 特開2009−128165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/41
G01S 7/02
G01S 13/28
G01S 13/534
G01S 13/91
G08G 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
方位角方向に動いて領域を掃引するように動作できる主アンテナ(2)と、前記主アンテナ(2)からパルスを送信する送信機(3)と、前記主アンテナ(2)からの戻り信号を受信する受信機(13a)とを含み、
前記領域内においてターゲットを、前記領域内に配置された風力タービンの存在下で検知するように動作可能なレーダシステムであり、
前記主アンテナ(2)からの放射の反射を捕え、かつ捕えた反射に基づいて補助アンテナ(62,64)からの戻り信号を生成するように構成された複数の補助アンテナ(62,64)と、前記戻り信号を処理するプロセッサ(74)とを含み、
前記プロセッサ(74)は、
トレーニングプロセスにおいて、前記主アンテナ(2)及び前記補助アンテナ(62,64)で受信した複数個の戻り信号から、時間にわたって平均化した共分散行列である風力タービンのシグネチャを生成し、
ターゲットを表わすベクトルを生成、又はメモリから受け取り、
ターゲットの存在について前記主アンテナ(2)及び補助アンテナ(62,64)からの戻り信号を検査し、この検査は、前記共分散行列の逆行列と前記ベクトルの複素共役とのベクトル積をとり、前記積の値が閾値を超えたらターゲットが検知されたと決定することによって行い、そして
ターゲットが検知された場合に、検知したターゲットの存在を表すデータを生成する、
レーダシステム。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記風力タービンからの戻り信号から、風力タービン雑音の共分散行列Rを推定することによって前記風力タービンのシグネチャを生成するように動作でき、Rは、次式によって定義され、
R=<VV
上式において、Vは、前記風力タービンからの戻り信号の複素振幅、Vは、Vのエルミート共役、山形括弧<>は、時間にわたる平均を表す、請求項1に記載のレーダシステム。
【請求項3】
前記プロセッサは、次式の値を生成するように動作でき、
αR−1
ここで、αは、検査中の戻り信号を定義するベクトルであり、
−1は、前記風力タービンからのレーダ信号の前記共分散行列の推定の逆行列であり、
は、検知対象であるターゲットを表わすベクトルの複素共役である、請求項2に記載のレーダシステム。
【請求項4】
前記プロセッサは、前記戻り信号がターゲットを含んでいると認定できるかどうかを決定するために、前記値αR−1に閾値を適用するように動作できる、請求項3に記載のレーダシステム。
【請求項5】
前記プロセッサは、前記風力タービンのレンジ及び/または方位角に対応する戻り信号についてのみ、共分散行列Rを生成するように動作できる、請求項2に記載のレーダシステム。
【請求項6】
前記プロセッサは、検査セッションにおいて取得した前記戻り信号の時間にわたる移動平均から前記共分散行列を生成するように動作できる、請求項2に記載のレーダシステム。
【請求項7】
前記主アンテナは、全周に亘って回転して前記領域を掃引するように配置された反射鏡アンテナであり、前記プロセッサは、前記共分散行列を作成するために、各掃引から取得した1または複数の所定の方位角からの戻り信号の値の和を求めるように動作できる、請求項2に記載のレーダシステム。
【請求項8】
前記プロセッサは、一方の共分散行列が、前記風力タービンからの、タービンブレードがアンテナに向って、または離れる方向に動いている間の「フラッシュ」中の強い戻り信号に対応し、もう一方の共分散行列が、「フラッシュ」のない状態での戻り信号に対応する2つの共分散行列を生成するように動作できる、請求項2に記載のレーダシステム。
【請求項9】
方位角方向に動く主アンテナからレーダパルスを送信して、前記主アンテナ及び複数の補助アンテナで受信した戻り信号を処理することを含む、風力タービンの存在下においてターゲットの位置を検出する方法であって、
a)トレーニングセッションにおいて、前記主アンテナ及び補助アンテナで受信した複数個の前記風力タービンからの戻り信号の時間にわたる平均を生成するステップと、
b)ターゲットを表わすモデルデータを生成する、又はメモリから受け取るステップと、
c)前記戻り信号の時間にわたる平均及び前記モデルデータを用いて、ターゲットの存在について前記戻り信号を検査するステップとを含み,
ターゲットの存在について前記戻り信号を検査する前記ステップc)が、
i.前記アンテナで受信した、風力タービンからの戻り信号の共分散行列Rの推定を生成するステップ、
ii.次式によって与えられる照合フィルタを生成するステップ、
αR−1
上式において、αは、戻り信号を定義するベクトル、
−1は、前記推定共分散行列の逆行列、
は、検知対象であるターゲットを表わすベクトルの複素共役、
iii.前記フィルタ出力を閾値と比較するステップ、および
iv.前記フィルタ出力の値が前記閾値よりも大きいときに、戻り信号はターゲットであると認定できると判定するステップを含む、
方法。
【請求項10】
前記共分散行列Rは、風力タービンもしくは風力タービン群のレンジ及び/または方位角に対応する戻り信号についてのみ生成される、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記主アンテナ又は一つの補助アンテナから前記風力タービンを照射して、一方の共分散行列が前記風力タービンからの、タービンブレードがアンテナに向って、または離れる方向に動いている間の「フラッシュ」中の強い戻り信号に対応し、もう一方の共分散行列が「フラッシュ」のない状態での戻り信号に対応する、2つの共分散行列を生成し、
フラッシュが観測されるかどうかによって異なる複数の照合フィルタを生成することを含む、
請求項に記載の方法。
【請求項12】
方位角方向に動いて領域を掃引するように動作できる主アンテナ(2)と、前記主アンテナ(2)からパルスを送信する送信機(3)と、前記主アンテナ(2)からの戻り信号を受信する受信機(13a)と、前記戻り信号を処理するプロセッサ(74)とを含むレーダシステムのための改良装置であって、
前記改良装置は、前記領域内に設置された風力タービン(66)の存在下において、前記レーダシステムによる前記領域におけるターゲット(10)の検知を可能化するように動作でき、さらに
a.前記主アンテナ(2)から送信された反射放射を捕え、捕えた放射に基づいて補助アンテナ(62,64)からの戻り信号を生成する複数の補助アンテナ(62,64)と、
b.プロセッサ(74)とを含み、
前記プロセッサ(74)は、
i.トレーニングプロセスにおいて、前記主アンテナ(2)及び前記補助アンテナ (62,64)で受信した複数個の戻り信号から、時間にわたって平均化した共分 散行列である風力タービンのシグネチャを生成し、
ii.ターゲットを表わすベクトルを生成、又はメモリから受け取り、
iii.ターゲットの存在について前記主アンテナ(2)及び補助アンテナ(62, 64)で受信した戻り信号を検査し、この検査は、前記共分散行列の逆行列と前記 ベクトルの複素共役とのベクトル積をとり、前記積の値が閾値を超えたらターゲッ トが検知されたと決定することによって行い、そして
iv.ターゲットが検知された場合に、検知したターゲットの存在を表すデータを生 成するように動作できる、
改良装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダに関し、特に、民間機用空港及び空軍基地内の航空交通管制に用いられるタイプのレーダシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
局地航空交通管制一次レーダの目的は、空港の近隣で、全ての運行高度で最大約70海里(約130km)のレンジにおいて、飛行中のターゲット(対象)(target)を、協力的なもの及び非協力的なものの両方とも、検出することである。このようなレーダは、常に、戻り信号の周波数分布を処理して、ターゲット戻りの放射方向の移動によって生じるドップラ(Doppler)シフトの痕跡が存在するかどうかを決定するように動作する。ドップラシフトが存在しない場合、戻り(return)は、静的クラッタによるものと想定されるため排除されてよいが、顕著なドップラ戻りのあるものは、ターゲットとする航空機からのものであると想定されて、フィルタリングシステムに送られ、レーダプロットとして検出されかつ出力される。このような処理システムは、精巧さの度合いと識別能に差があり得ると共に、移動ターゲット指示(MTI:Moving Target Indication)、移動ターゲット検知(MTD:Moving Target Detection)、又はパルスドップラ等の名称で呼ばれる。これらの装置は、等高線地図及びクラッタ地図を利用して、ドップラフィルタを超えて現れる偶発的な過度のクラッタ戻りをフィルタリングすることと組み合わされて、最近に至るまで適切に機能していただけでなく、航空機と背景雑音とを高いレベルの確実さで区別することが可能であった。
【0003】
しかしながら、最近になって、化石燃料への依存を抑制するために、電力源として風力タービン(wind turbine)が広く利用されるようになっている。このような風力タービンは、通常、高さが最大で180mに及ぶ、ナセル(nacelle)の支持タワーと、主要な風向に対して垂直に回転する最大で80mの直径を持つロータとを含む。風力タービンは、風力発電施設内に、単独で存在することも、又は最大で200又はそれ以上の大アレイで存在することもある。このような風力発電施設が空港又は空軍基地の領域内に存在する場合、風力発電施設は、検知しなければならないほとんどのターゲットよりもかなり大きいレーダ断面積(RCS:Radar Cross-Section)を有することから、航空交通管制の提供に無視できない難題をもたらす。例えば、固定式タワーは、約100,000mのRCSを持ち得ると共に、ブレード(blade)のRCSは約1000mになり得る一方で、大型の旅客機のRCSは、通常100mにすぎず、ジェット軍用機のRCSは、僅か1m程度である。また、風力タービンは、変化するドップラ量を生成し得る。例えば、タービンが旋回して、レーダのアンテナがロータ平面でタービンを捉える場合、ロータブレードは、ロータの回転に伴い、レーダに向かって動き、次いでレーダから離れる方向に動くため、タービンからの戻り信号に顕著なドップラシフトを生成する。このことは、ある状況において、異なるブレードが、レーダアンテナからの風力タービンの方向と瞬間的に直交するとき(一般には、垂直になるとき)に、レーダの戻り信号内に非常に高強度の一連のフラッシュ(flash)として顕現することがある。
【0004】
その結果、分散した風力発電施設からのレーダ戻りが、大量のクラッタ(clutter)として見えることになり、そのクラッタの中で、風力発電施設に由来するクラッタから真のターゲットを区別することは不可能である。フェーズドアレイアンテナ(phased array antenna)を利用した場合には風力発電施設からターゲットを識別できる可能性があるが、このフェーズドアレイアンテナは、軍事的用途以外では容認できないほど高価である。例えば、軍用のフェーズドアレイレーダは、3千万ポンド程度の費用になり得るのに対し、航空交通管制用のレーダは、僅か3百万ポンド程度の費用である。最も基本的な局地航空交通管制用レーダは、高レベルの二次近距離ビームで補われることはあるが、単一の主ビームを備えるのみであるから、風力発電施設に占有された領域は、航空機がタービンより十分に高い位置を飛行しているときにも、航空機からの戻りを「無効化(sterilise)」してしまう。
【0005】
また、タービン自体を改造することによって風力タービンの作用を緩和することが提案されているが、タービンにアクセスできない場合があるため、この提案は現実的でないことが多い。実際には、タービンが他国に存在することもあり得る。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、比較的安い費用で、風力タービン(ウィンドタービン)又は風力発電施設(ウィンドファーム:wind farm)によって生じる干渉を緩和できる、既存のレーダに対する改造又は高品質化(アップグレード)を提供することを目的とする。この高品質化は、経済的なコストで、事実上全ての航空交通管制用レーダ(通常は、電子式に操作されるビームを含まないタイプのレーダ)に導入できると好ましい。
【0007】
一態様によれば、本発明は、方位角方向(azimuthally)に動いて領域を掃引するように動作できる主アンテナと、前記アンテナからパルスを送信する送信機と、戻り(帰り)信号(return signal)を受信する受信機とを含むレーダシステムのための装置(構成部品:component)を提供し、前記装置は、前記領域内に位置する風力タービン(ウィンドタービン:wind turbine)の存在下において、レーダシステムによるターゲットの検知を可能化するように動作でき、前記装置は、複数の補助アンテナと、前記戻り信号を処理するプロセッサとを含み、前記プロセッサは、トレーニングプロセスにおいて、前記主アンテナ及び前記補助アンテナで受信したいくつかの戻り信号から風力タービンのシグネチャ(signature)を生成し、ターゲットのモデルデータを生成又は受取り、前記シグネチャ及び前記モデルデータを用いて、ターゲットの存在について戻りデータを検査し、ターゲットが検知された場合に、検知したターゲットを表すデータを生成するように動作できる。
【0008】
また、本発明は、方位角方向に動いて領域を掃引するように動作できるアンテナ、前記アンテナからパルスを送信する送信機、戻り信号を受信する受信機、並びに本発明の第1の態様に係る、補助アンテナ及びプロセッサを含む装置を含むレーダシステムも提供する。本発明は、下記において、本発明の各種の態様を説明するときにレーダシステムと言及され得るが、本発明は、あらゆる場合において、主アンテナ等の、レーダシステムの従来の特徴物を含むことに必ずしも限定されるものではなく、本発明は、単に、従来のレーダシステムをアップグレードするためにそのレーダシステムと組み合わせることが可能な、上記に記載した装置を意味し得る。
【0009】
本発明に係る装置は、主送信ビームが領域全体を走査するときに、上記の処理が、効果的に受信ビームを零(ヌル)(null)になるように調整して、風力タービンを最小化又はマスキングする一方で、真のターゲットからの戻りを最大化するという利点を有する。前記処理は、自己較正可能である(すなわち、補助アンテナの正確な位置決めが不要になり得る)と共に、風力タービンの既知のレンジ及び方位角における高さ(elevation)及びドップラにおいて効果的に零(ヌル)(null)を生成することができる。追加するアンテナは、大量生産の費用が安価であり、かつ用途に合わせてリモートで設定を行うことが可能な、単純なパラボラアンテナ又は平坦なプリントアンテナであってよい。補助アンテナは追加の受信機チャンネルを必要とするが、このチャンネルは、最近のデジタル受信機を利用することによって容易に提供できる。
【0010】
補助アンテナは、主アンテナと共に回転可能であっても、又は、風力タービンの方向を向くように固定されていてもよい。
【0011】
本発明の最も広範な態様によれば、単一の補助アンテナは、戻り信号内に複数個のヌル(零)(戻りなし)(null)が存在するため、いくつかの異なる高さ(elevation)において戻りが減少するという欠点を有する。したがって、複数の補助アンテナを利用して、異なる高さ(elevation)において重複するいくつかのローブ(lobe)を生成することが好ましく、これによって、僅かな個数の高さにおいてのみ、好ましくは、タービンの高さに対応する一つの高さのみにおいてヌルを生成することが好ましい。本装置は、必要に応じて2つより多くの補助アンテナを含むことができ、任意の個数、例えば、最大で10個の補助アンテナを備え得るが、補助アンテナの数があまりに多いと、計算負荷が大きくなり過ぎるため、4つ以下の固定アンテナであると好ましい。追加の補助アンテナは、アンテナのために設けられた構造体上で、主アンテナの上下いずれに配置されてもよく、更に、固定式であっても、又は主アンテナと共に回転してもよい。
【0012】
戻り信号内にヌルを生成する装置及び方法の一形式において、プロセッサは、風力タービンの雑音背景特性内でターゲットの信号に照合される(合致した)検出フィルタを実装するように動作できる。検出検査中に受信したレーダ信号は、ベクトルαとして定義され、その成分は、全てのアンテナから得られる、走査ビームドゥエル(dwell:滞在)時間(検査中の方位角の方向におけるドゥエル時間)内の全パルスについての被検査レンジセルの複素振幅である。このデータについての検査統計量は、次式で求められる。
αR−1
上式において、αは、検査中の戻り信号を定義するベクトル、
−1は、風力タービンからのレーダ信号の推定共分散行列の逆行列(inverse of an estimate of the covariance matrix)、
は、検出対象であるターゲット信号ベクトルの複素共役(complex conjugate)である。
この検査統計量には、戻り信号がターゲットを含むと認定されるかどうかを判定するための閾値hが適用される。
【0013】
風力タービン雑音の推定共分散行列は、前述したαと同じ成分を有する、風力タービンから受信したレーダ信号である信号ベクトルVから次のように得られる。
R=VV
上式において、Hは、エルミート転置(Hermitian transpose)を表す。
通常は、Vの多くの例を平均して、Rの推定の精度を向上させる。したがって、次式のようになる。
R=<VV
上式の山形括弧<>は、平均を表す。
【0014】
推定された共分散行列Rは、戻り信号内に生成されたレンジ値のセット全体に亘って戻り信号に対して生成する必要はない。その理由は、この処理が極めて多大な計算負荷を必要とするためである。代わりに、プロセッサは、レーダアンテナから風力タービン又は風力発電施設までの距離に対応する遅延が存在する戻りの値についてのみ推定行列を生成することができ、またこのように生成することが好ましい。同様に、全ての方位角について共分散行列を生成する必要もない。
【0015】
したがって、プロセッサは、特定の風力タービン又は各風力タービンのレンジ及び方位角に対応する戻り信号についてのみ共分散行列Rを生成するように動作できればよく、風力発電施設を構成する風力タービンのレンジ及び方位角に対応する戻り信号についての共分散行列Rを生成するように動作できると好ましい。
【0016】
動作において、プロセッサは、レーダシステムが稼働し始めた後、戻り信号Vの外積(outer product)VVの移動平均(running average)から共分散行列の推定を生成できる。これは、風力タービンについての推定を、可能な場合には個別に生成することによって実行できる。主アンテナが反射鏡アンテナである場合、各風力タービンからの戻りベクトルVは、アンテナが完全に1回転する毎に1回サンプリングされ、そのサンプルは、共分散行列の移動平均に可算することができる。ただし、この手続きは、アンテナが1回転する毎に各タービンから単一のサンプルしか得られない場合に、各値について十分なサンプルを用いた共分散行列の良好な推定を生成するプロセスに時間が掛かり過ぎるという欠点がある。この場合、風力発電施設内の数個の風力タービンについての戻りで平均を求めるか、又はこれに代えて、風力発電施設内の全ての風力タービンからの戻りで平均を求めることが好ましい。
【0017】
代替の構成として、検査セッション前にタービンの各配向及び速度についてのトレーニング手続きにおいて、全ての風力タービンからの戻りをサンプリングし、後の検査状況で用いるルックアップテーブルに推定共分散行列を配置してもよい。
【0018】
補助アンテナのうちの一つからの送信を利用してタービンの「フラッシュ」タイミングを予測できる場合は、一つの共分散行列が、「フラッシュ」中の風力タービンからの強い戻り信号に対応し、もう一方の共分散行列が、「フラッシュ」のない状態での戻り信号に対応する2つの共分散行列を生成可能であり得る。この場合、プロセッサは、フラッシュが観察されるのかどうかによって異なる複数の照合フィルタを生成するように動作できる。この手続きは、フラッシュによって引き起こされる誤警報の数を削減することによってパフォーマンスを改善できる。
【0019】
他の態様によれば、本発明は、風力タービン又は風力発電施設の存在下でターゲットの位置を検知する方法を提供し、本方法は、方位角方向に動く主アンテナからレーダパルスを送信して、前記主アンテナ及び複数の補助アンテナで受信した戻り信号を処理することを含む。前記方法は、トレーニングステップにおいて、主アンテナ及び補助アンテナで受信したいくつかの戻り信号から風力タービンのシグネチャを生成するステップと、ターゲットのモデルデータを生成、又はメモリからターゲットのモデルデータを受領するステップと、前記シグネチャ及び前記モデルデータを利用して、航空機の存在について戻り信号を検査するステップとを含む。本方法は、好ましくは次のステップを含む。
(1)アンテナで受信した、風力タービンからの戻り信号の共分散行列(covariance matrix)Rの推定(estimate)を生成するステップ。
(2)次式で与えられる照合(マッチ:matched)フィルタを生成するステップ。
αR−1
上式において、αは、戻り信号を定義するベクトル、
−1は、推定共分散行列の逆行列(inverse of the covariance matrix estimate)、
は、検出すべきターゲット信号の複素共役(complex conjugate)である。
(3)フィルタ出力と閾値とを比較するステップ。
(4)戻り信号がターゲットと認定されるかどうかを、閾値と比較したフィルタ出力の値に応じて決定するステップ。
【0020】
本発明は、コンピュータプログラムが記載されたキャリア(媒体、担持体、carrier)も提供し、前記コンピュータプログラムは、本発明の方法を実行するようにプログラムされたコンピュータにその方法を実行させる、複数のコンピュータ実行可能命令を含む。
【0021】
次に、本発明に係る装置及びレーダシステムの一形式について、付属の図面を参照しながら例示的に説明する。図面は次のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、従来のレーダシステムを示す模式図である。
図2図2は、レーダの一形態で用いられるレーダパルスの形態を示す。
図3図3は、風力発電施設の存在下での上記レーダシステムからのレーダプロットを示す。
図4図4は、風力タービンから反射するレーダによって生じ得る多数のフラッシュを模式的に示す。
図5図5は、本発明に係るレーダシステムの一形態を模式的に示す。
図6図6は、本発明に係る装置及びレーダの出力を模式的に示す。
図7図7は、図6に示すレーダシステムの出力から作成される推定共分散行列を示す。
図8図8は、本発明に係る装置で利用される主要な処理ステップを示す模式図である。
【実施例】
【0023】
付属の図面を参照すると、図1に、空港又は空軍基地の近隣における航空交通管制に利用される一般的な形式のレーダシステムが示されている。このような形式のレーダシステム1は、通常、アンテナ2と、レーダパルスの生成及び送信、並びに前記パルスの受信、処理及び表示を行う電子回路とを含む。
【0024】
アンテナは、一般に従来型のパラボラ反射鏡アンテナで、送信されたパルスが皿状反射器に送られ、それは信号を一連のパルスの形態で送信し、ターゲット(対象物)10、本例では航空機及び信号を反射できる各種の他の物体による反射後にその反射信号を受信する。送信信号は、通常、短いパルスのパルス繰り返し列の形態で、波形発生器4と、生成された波形をレーダ周波数に至るまでミキシングする励振器6と、電力増幅器8とを含む送信機3によって生成される。この後、信号は、デュプレクサ(送受切換器)12を介してアンテナ2に送られる。ターゲット10によって信号が反射された後、戻り信号(反射信号、帰り信号、反響信号)(returned signal)又は戻り(帰り、反射、反響)(return)と呼ばれる反射信号(reflected signal)が、アンテナ2によって受信され、デュプレクサ12を介して受信機13に送られる。受信機13は、その第1段に低雑音増幅器14を備える。デュプレクサの目的は、信号を時分割してアンテナが送信と受信の両方を行えるようにすること、及び送信機がオンであるときに受信機が損傷しないように保護することである。戻り信号が増幅器14によって増幅された後、その信号は、通常は、信号が2つの局部発振器17の出力と交互にミキシングされるスーパーヘテロダイン受信機であるミクサ・アンプ部16に送られる。この後、信号は、パルス圧縮機(pulse compressor)20、移動ターゲット指示(MTI:Moving Target Indication)キャンセラ22、定誤警報率(CFAR:Constant false Alarm Rate)閾部24によって処理されて、ディスプレイ15、例えば、検知したプロットのレンジと角度を表示する平面位置表示器(PPI:Plan Position Indicator)ディスプレイ25に表示される。
【0025】
アンテナの構造上、レーダは、アンテナから外側に延びるローブ(lobe)26内のターゲットの戻り信号に対して最大感度を示し、これにより、アンテナは、地表面から任意の所定の高度(altitude)までのあらゆる高さ(height)において変化する感度でターゲットを検出し、検出したプロットをディスプレイ25上に生成する。
【0026】
図2に、レーダの一形態で利用できる一般的なパルス形式を示すが、これは単なる例であり、他のパルスも利用できることは理解されよう。1回転当たり4秒で回転し、航空交通管制レーダで一般的な1.5°(すなわち、1/240回転分)のビーム幅を有するレーダアンテナの場合、ビームは、地表上の任意の位置で約16msのドゥエル(滞在)時間(dwell time)を有する。レーダの最大レンジが約70海里(130km)になるように、約1kHzのパルス周波数(PRF)がパルスに設定され、それによりパルス間隔時間は1msになる。このような2つのパルス30が図2に示されている。各パルスは、一般に25μsの継続期間を有し、パルス圧縮技法については疑似ランダム符号列であっても、又は典型的には2MHzの帯域幅のチャープであってもよく、この継続期間の後、パルスのタイムスロットの最後までかなり長い期間があり、その間、レーダシステムはターゲットからの戻りを待つ。このタイムスロットはパルス毎に変えることができ、これにより、移動しているターゲットの広い速度範囲での検出が可能になる。また、長いパルスではターゲットを検知できない場合に、非常に短いレンジでターゲットを検知できるようにするため、長いパルスの間に短いパルスが挿入されてもよい。
【0027】
平面位置表示器(PPI)ディスプレイに表示されるような典型的なレーダプロットが、風力発電施設に近接したレーダシステムについて、図3に示されている。表示器の中央部に、風力発電施設に由来する大量のクラッタ(clutter)40が見えている。このクラッタに加え、そのクラッタの領域内で互いに交差する航路を飛行しているターゲットからの一組の航跡(track)42及び43が見える。これらのターゲットの航跡は、アンテナが回転する毎に取得された、わずかに異なる多数の位置での戻りによって形成されるラインによって観測される。しかしながら、ターゲット及び風力タービンの高さに関係なく、単一の戻りが各ターゲットに観測されるとともに、クラッタ40を生成する風力タービンにも観測されるため、航空機のプロットは、クラッタ40の集団全体の中に容易に消失し、航空機が風力発電施設の領域から離脱した後で再び出現する。航空機が風力発電施設の領域内に存在しているときに、その航空機を正確に追跡することは不可能である。
【0028】
風力タービンからの戻りは、複数の条件に依存し、特に、アンテナに対するタービンの向きに応じて変化する。例えば、タービンのタワーは、大きい静的戻り(static return)を生成するのに対し、ブレード(blade)は、大きさが異なりかつドップラシフトした戻りを生成する。アンテナの方向がナセル(nacelle)と整列し(一直線状になり)、その結果タービンブレードの平面と垂直になる一つの極端な状態では、タービンからの戻りに極めて小さいドップラが存在する、他方、アンテナの方向がナセルと垂直になり、したがってタービンブレードの平面内に位置するようにタービンの向きが変わった場合、戻りは、図4に示すようになり、ドップラシフトがゼロの位置に、風力タービンのうちのレンジ(範囲)の変化しない支柱や他の部品に由来する強い信号50を形成するとともに、タービンブレードの回転速度の6倍(各タービンに3枚のブレードがあると想定した場合)の速度で現れ、かつ正と負のドップラシフトを交互に有する一連の「フラッシュ(flash)」52を形成する。これらのフラッシュは、各ブレードが瞬間的にアンテナに向かう方向に移動(正のシフト)する、又はアンテナから離れる方向に移動(負のシフト)するときに、タービンブレードの端縁からの反射によって引き起こされる。風力タービンのタワー等のドップラを示さない、静止物体からの反射を抑制するMTIレーダシステムの場合においても、風力タービンのブレードに由来し、ターゲットからの戻りを矮小化し得るクラッタ集団が観測される。
【0029】
図5に、本発明に係るレーダシステムの一形態を模式的に示す。波形発生器、電力増幅器及び励振器等の送信機3を構成する要素は、判り易くするために省略されており、低雑音増幅器14、ミクサ・アンプ16及びパルス圧縮機20等の受信機13の構成要素も同様である。
【0030】
図5に示すシステムにおいて、主アンテナ2は、例えば図2に示すようなパルスを送信して、戻りを受信し、受信した戻りを、PPIディスプレイ25に表示されるように処理できる従来の反射器アンテナであってよい。アンテナは、典型的には、例えば0.5°から2°の狭いビーム幅を有し、アンテナのまわりの全方位角において戻りを取得するために、垂直軸を中心に回転する。主アンテナに加えて、複数の補助アンテナ62及び64が主アンテナを支承するマスト上に存在する。これらの補助アンテナは、固定することができ、風力タービン66によって代表的に図示された近隣の風力発電施設の方向に向けることができる。これに代えて、補助アンテナは、前述したように、主アンテナと共に回転してもよく、主アンテナと同期しても、又は風力タービン若しくは風力発電施設のみを「捉える(see)」ようにゲート制御してもよい。主アンテナは比較的狭いビーム幅を有し得るが、補助アンテナは、例えばビーム幅が4〜16°、好ましくは6〜12°である、より幅広のビームを有し得る。一般に、固定された補助アンテナは、約8°のビーム幅を持つため、各補助アンテナは、単に個々のタービンを捉えるのではなく、風力発電施設全体を捉えることができる。また、2つの補助アンテナが図5に図示されているが、場合によっては、単一の補助アンテナのみを利用することも、又は、主アンテナ60及び補助アンテナ62,64から成るアンテナアレイの指向性を改善することが求められる場合には、2つより多くのアンテナを利用することも可能である。
【0031】
動作において、パルスは、送信機3によって生成及び増幅されて、デュプレクサ12に送られる。このデュプレクサ12により、パルスの主アンテナ2からの送信及び全アンテナでの受信を行うことができる。パルスはアンテナ2に送られて、そこから空中に送信される。戻り信号は、各アンテナ2,62,64で受信される。アンテナ2からの戻り信号は、デュプレクサ12に送られ、その後、図1に示す受信機13に対応する受信機13aに送られる。この受信機13aは、各パルス戻りの各レンジにおける複素振幅(complex amplitude)(受信した信号の振幅及び位相による複素数)を決定する。アンテナ62及び64からの戻り信号は、直接に受信機13b及び13cにそれぞれ送られ、そこで戻り信号の各複素振幅が決定される。受信機13b及び13cも、低雑音増幅器14と、ミクサ・アンプ部16と、パルス圧縮機20とを含む。アンテナ62及び64はいずれのパルスも送信しないため、デュプレクサ12を介してこれらのアンテナから戻りを送信する必要はない。
【0032】
図6に、受信機によって処理された後の、3つのアンテナ2,62,64からの出力の形態を示す。受信機13aからの出力は、主アンテナのドウェル時間中に各方位角にわたって送信された16個の各パルスの2000個の異なる遅延値(受信機の0.5μsのレンジビン(range bin)に相当する遅延値)に対応する、32,000個(2000に16を乗じた個数)の要素を有する2次元行列66を形成する。各要素は、各レンジビンの関連パルスについての戻りレーダ信号の複素振幅に対応する複素数V〜V16である。判り易くするため、風力タービン又は風力発電施設のレンジに対応するn番目のレンジビンの複素振幅のみに符号が記載されているが、各レンジビンのデータが記録される。
【0033】
主アンテナに由来する出力行列66に加え、出力行列68及び70が、補助アンテナ62及び64からの各戻りから生成される。補助アンテナからの出力は、風力タービン又は風力発電施設のレンジ(範囲)に対応するもの以外のレンジ値が全て抑制されるため、上記の2つの行列は、それぞれn番目のレンジビンを除いて空(empty)である。
【0034】
もちろん、アンテナ60からの出力は、アンテナが360°回転するときに、そのアンテナの方位角毎に生成される。ただし、補助アンテナから出力が生成されるのは、補助アンテナが固定されている場合には、その補助アンテナが指向する方位角についてのみ、又は補助アンテナが主アンテナと共に回転する場合には、補助アンテナが風力タービン若しくは風力発電施設に向けられたタイムスロットについてのみである。戻りを処理する装置は、通常、補助アンテナからの戻りの処理を主アンテナからの戻りの処理と同期させるため、補助アンテナからの戻りは、主アンテナが風力タービン又は風力発電施設に向けられたときにのみ処理される。したがって、このレーダシステムは、風力発電施設又は風力タービンからの戻りのみを当該タービンについて補正し、他の方位角からの戻りを従来の方式で処理するようにする方位ゲートを備える。主アンテナ2及び各補助アンテナ62,64からの出力は、その後プロセッサ74に渡されて更に処理される。単一のプロセッサのみが図面に図示され、本明細書において参照されるが、プロセッサは、ハードウェア又はソフトウェアによって提供でき、かつそれぞれ固有のメモリ等を含み得る複数の個別のプロセッサによって提供できることは理解されよう。
【0035】
図8に、プロセッサ74の動作を模式的に示す。図8において、データは、判断ボックス80に入る単一のストリームとして示されており、このデータは、受信機13a〜13cからの出力を単一のシリアルストリームとして組み合わせることによって取得できるが、各受信機からのデータはパラレルに処理されてもよい。ボックス80において、入力するデータのレンジ及び方位角が風力発電施設又は風力タービンに対応するかどうかが判断される。対応しない場合、データは、移動ターゲット指示(MTI)キャンセラユニット22、定誤警報率(CFAR)ユニット24、そしてディスプレイ25というように渡されて従来通りに処理される。
【0036】
レンジ及び方位角が風力タービン又は風力発電施設に対応する場合は、戻りのベクトルVの要素V(iは、主アンテナ2については1〜16の値、補助アンテナ62については17〜32の値、補助アンテナ64については33〜48の値を取る)を構成するデータが、トレーナーユニット(trainer unit)82に送られる。トレーナーユニットは、複素共役を用いてベクトルVの要素の外積(クロス積)(cross-product)Vを生成し、トレーナーセッション中の共分散行列(covariance matrix)Rの推定(estimate)を作成する。外積は、推定の精度を上げるために、Vの多数の例で平均される。これが図7に示されており、図において、山形括弧(ブラケット)<>は、外積の平均値を表す。このようなVの多数の例は、多数個の風力タービンから取得されても、又は多数回のアンテナ走査により単一のタービンから取得されてもよい。外積の作成に用いるサンプル数が多くなるにつれて、共分散行列Rの精度が向上することは明らかであろう。好ましくは、少なくとも10個のサンプル、特に、少なくとも100個のサンプルが利用されるが、共分散行列の推定の作成に用いるサンプルの個数は、10分より長く要する程の個数にすべきではなく、特に、5分未満であるようにする。極めて多くのサンプルを用いると、検査データが取得可能になるまでに要する時間が長くなり過ぎたり、風力タービンからの反射が、例えば、風向の変化等によって変化したりする事態が生じ得る。
【0037】
トレーナーユニット82に送信されることに加え、ベクトルの要素を構成するデータは、検査手続き中(すなわち、レーダが航空機の検出に使用されているとき)にディテクターユニット84に送ることができる。検査セッション中に受信機13a〜13dから入力される複素振幅データは、Vではなくαと記述される。ディテクターユニット84は、トレーナーユニット82から、共分散行列Rを構成するデータを受けとり、標準の演算方法によって逆行列(inverse)R−1を生成するが、この逆行列は、もちろん、ディテクターユニット84ではなくトレーナーユニット82によって生成してもよい。また、ディテクターユニットは、観測することが望まれるターゲットのモデル戻り86を形成するベクトルs、又はその複素共役sも受けとる。次に、ディテクターユニット84は、次式で求められる値hを得ることによって、ターゲットの存在についての検査を行う。
h=αR−1
所定の閾値を超えるhの値は、真のターゲットと認定することができる。ディテクターからの出力は、この後、MTIユニット22及びCFARユニット24から出力されるデータと共にディスプレイ25に送られて、ディスプレイユニットによって表示される。
【0038】
このようにして、プロセッサユニット74は、下記を決定するように動作できる。
(i)検出された方位が、全ての風力タービンの既知のエンベロープと無関係であるかどうか;又は、
(ii)検出されたレンジが、全ての風力タービンの既知のエンベロープと無関係であるかどうか;又は、
(iii)受け取ったデータが、タービン照合フィルタ検出閾値を超えるかどうか。
これらの検査のいずれかが真である場合、ターゲットは真であると見なされて、レーダプロットが生成される。
【0039】
共分散行列Rの作成に用いられる複素ベクトルVのサンプルは、システムの使用前、又はシステムの動作中に取得できるトレーニングデータから、例えば、検査データと同時に生成される移動平均(running average)として求められる。理想的には、共分散行列の作成に用いるトレーニングデータは、R及びR−1の値が、ターゲットデータが存在しない状態で生成されるように、いずれのターゲットデータも含むべきではないが、実際には、ターゲットデータは、風力タービンからの戻りと比べると微小であるので、トレーニングデータがターゲットの存在下で取得された場合であっても、共分散行列の良好な推定が得られる。このため、トレーニングデータは、検査データが取得されるときの移動平均を算出することによって取得できる。これに代えて、データは、事前に取得しておくことができ、その値は、例えば、風力タービンの各配向及び/又は各速度値における戻りの値を収容できるルックアップテーブルに保存してもよい。共分散行列が複数の個別の風力タービンから取得される場合は、十分なトレーニングデータを取得するために、かなり長い時間に亘ってシステムを稼働させなければならない場合がある。これは、各風力タービンについてのトレーニングデータを取得するためには、主アンテナを1回転させる必要が生じ得るためである。しかしながら、補助アンテナが固定式であり、かつ個別のタービンではなく風力発電施設全体を観測する程度に広い十分なビーム幅を有する場合は、主アンテナの各掃引で風力発電施設全体についてのトレーニングデータを記録することができる。
【0040】
補助アンテナは、通常、完全に受動的で、パルスの送信には利用されないが、補助アンテナが回転していないときに、その補助アンテナを能動的に利用して、ブレードからの大きいRCSフラッシュの影響を抑制することができる。低電力送信機を用いて、固定式の補助アンテナのうちの一つから風力タービンを照射し、かつ主アンテナが他の方向に向けられたときにのみ風力タービンへの照射が行われるように、低電力送信機を主アンテナの回転と同期させる場合は、固定された他の補助アンテナでタービンの反射を受信することができ、その反射を利用して、各タービンからの高いRCSフラッシュの連続を検出することができる。このデータを利用して、回転しているアンテナの照射時間中のどの時点でフラッシュが生じるのかを予測し、その予測に応じて処理を調整できる。例えば、フラッシュが存在する場合と、フラッシュが存在しない場合の2つの共分散行列を推測するように処理を変更してよい。これに応じて、戻りをターゲットとして識別するために適用されるhの閾値を調整することで、誤警報率を低減できる。
【0041】
前述した照合フィルタとは異なる他の処理手段を、主アンテナ及び補助アンテナからの信号に適用して、風力タービンのみからの戻りと、風力タービンと航空機ターゲットとの組み合せからの戻りとを区別してもよい。例えば、推定共分散行列は、不良状態である場合があり、直接的な置き換え(inversion)に代わる処理が必要になり得る。主アンテナ及び補助アンテナからのデータを処理することに基づく全ての識別アルゴリズムは、本発明の一部を構成する。
【0042】
前述したように実行される処理と組み合わせて、追加の処理技法が利用されてもよい。例えば、「検出前追跡(track before detect)」技法を利用することができ、この技法では、予備プロットを検出して予備軌道を設定する。検証されたプロットは、そのプロットが事前に設定された予備軌道と一致する場合にのみ出力され、風力タービン又は風力発電施設を取り囲むヌル(零)(戻りなし)(null)内の走査でターゲットが消失した場合に、推測されたプロットを生成して出力することができる。この方式で生成されたプロットは、特定の誤りプロット率を超えることをシステムに許可しないことが好ましい。
【0043】
前述したように、プロセッサユニット74は、戻り信号に含まれるドップラシフト情報と高さ(elevation)情報の両方を同時に利用して、航空機と風力タービンとを区別するように動作できる。ただし、プロセッサユニット74は、ドップラシフト情報と高さ情報とを順次に用いて区別することも可能である。これは、全受信機チャンネル内のドップラ情報については従来のMTIプロセッサを利用し、次に、高さ(elevation)を照合フィルタにかけてから全てのアンテナでMTIの出力の共分散行列を作成することで実現できる。この手法は、パフォーマンスに劣る傾向があるが、容易に実施することができる。
【0044】
本発明に係る装置及びレーダは、他の従来の風力タービン緩和方法、例えば、受信機ダイナミックレンジの改良、パルス圧縮サイドローブの抑制、標準処理チャンネルにおける移動ターゲット検知及びCFAR(定誤警報率(constant false alarm rate))閾値の改善、並びに追跡技術の高度化と共に利用されてよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8