特許第6231890号(P6231890)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231890
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】インク用後処理剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/10 20140101AFI20171106BHJP
【FI】
   C09D11/10
【請求項の数】5
【全頁数】47
(21)【出願番号】特願2014-5778(P2014-5778)
(22)【出願日】2014年1月16日
(65)【公開番号】特開2015-134856(P2015-134856A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2016年11月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】安藤 一行
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 祥史
(72)【発明者】
【氏名】▲清▼水 麻奈美
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−272586(JP,A)
【文献】 特開2005−225083(JP,A)
【文献】 特開2007−031688(JP,A)
【文献】 特開2003−020439(JP,A)
【文献】 特開2010−024331(JP,A)
【文献】 特開平11−078270(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/086231(WO,A1)
【文献】 特開2005−272563(JP,A)
【文献】 特開平11−080641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00−17/00
C09C 1/00− 3/12
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水系溶剤、塩基性分散剤及び樹脂粒子を含み、
前記樹脂粒子は、
(1)固体樹脂及び酸性基を有する液体有機化合物、または
(2)リン酸エステル化固体樹脂及び/または硝酸エステル化固体樹脂を含む、
インク用後処理剤。
【請求項2】
前記(1)の固体樹脂は、アルキルフェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール、ニトロセルロース、ブチラール樹脂、(メタ)アクリル系樹脂及びスチレン(メタ)アクリル系樹脂のうち1種以上を含む、請求項1に記載のインク用後処理剤。
【請求項3】
前記(1)の酸性基を有する液体有機化合物の酸性基はリン酸基を含む、請求項1または2に記載のインク用後処理剤。
【請求項4】
前記(2)のリン酸エステル化固体樹脂及び/または硝酸エステル化固体樹脂は、リン酸エステル化ポリビニルアルコール、リン酸エステル化ポリビニルアセタール及びニトロセルロースのうち1種以上を含む、請求項1に記載のインク用後処理剤。
【請求項5】
非水系溶剤Aと、前記非水系溶剤Aよりも沸点が低い非水系溶剤Bとを用いて、
前記非水系溶剤Aと前記塩基性分散剤とを含む連続相に、前記非水系溶剤Bと前記(1)または(2)の成分とを含む分散相を分散させて油中油型エマルションを作製し、
前記油中油型エマルションから前記非水系溶剤Bを除去したものであり、
前記塩基性分散剤は、前記非水系溶剤Bよりも前記非水系溶剤Aに対する溶解度が高く、
前記(1)の固体樹脂及び液体有機化合物または前記(2)の固体樹脂は、前記非水系溶剤Aよりも前記非水系溶剤Bに対する溶解度が高い、
請求項1から4のいずれか1項に記載のインク用後処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク用後処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
記録媒体にインクを用いて画像が形成される場合、記録媒体上の画像の定着性が重要である。画像の定着性が十分に得られないと、画像形成面の耐摩耗性、特に耐擦過性が低下して、画像形成面が擦られることで画像が剥がれたりキズついたりすることがある。
【0003】
このような耐擦過性の問題は、記録媒体にインクが十分に浸透しにくい構成で生じやすくなる。例えば、非水系インクを用いてコート紙に印刷する構成において、非水系インクの溶剤がコート紙のコート層に浸透しにくい場合に問題になることがある。
【0004】
特許文献1には、記録媒体への定着性および耐擦過性に優れたオーバーコート層を形成することが提案されている。特許文献1のでは、特定の溶剤と、非水系樹脂エマルションとしてウレタン系樹脂およびアクリル系樹脂とを含有する非水系インク組成物によってオーバーコート層を形成する。
【0005】
特許文献2には、非水系インクを用いて普通紙に印刷を行って、次いで、ポリエチレン樹脂水分散液を含む後処理剤を塗布することで、印刷物の裏抜けを低減して画像濃度を高めることが提案されている(実施例2及び5)。
【0006】
一方、樹脂を非水系溶剤に分散させる技術として、特許文献3、特許文献4及び非特許文献1には、有機溶媒Aと、有機溶媒Aとほとんど相溶性がない有機溶媒Bとを使用して、有機溶媒Bと樹脂とを含む分散相及び有機溶媒Aを含む連続相からなる分散液とした後、分散液から減圧又は加熱により有機溶媒Bを除去することで、有機溶媒A中に高分子粒子が分散した高分子粒子分散物を製造することが提案されている。
【0007】
すなわち、有機溶媒B中に有機溶媒Aに溶解しない樹脂を溶解させて内包させたものを、連続相となる有機溶媒A中に分散させ、その後有機溶媒Bを減圧又は加熱によって除去することにより、高分子粒子が有機溶媒A中に安定に分散した高分子粒子分散物を得ることが提案されている。
【0008】
分散相の樹脂として、特許文献3の実施例ではスチレン−マレイン酸共重合樹脂が使用され、特許文献4の実施例ではスチレン−マレイン酸共重合樹脂及びポリビニルピロリドンが使用され、非特許文献1ではポリビニルピロリドンが使用されている。これらの樹脂は、負に解離する極性基を有する樹脂や、正に解離する極性基を有する樹脂であり、負の電荷や正の電荷を有する高分子粒子を形成し、安定な分散液が提供されることが提案されている。
【0009】
特許文献5では、有機溶媒Aと、有機溶媒Aとほとんど相溶性がない有機溶媒Bを使用して、有機溶媒Bと多官能モノマーまたは樹脂と重合開始剤とを含む分散相及び有機溶媒Aを含む連続相からなる分散液とした後、光または熱により架橋反応を生じさせ、分散液から減圧又は加熱により有機溶媒Bを除去することで、有機溶媒A中に高分子粒子が分散した高分子粒子分散物を製造することが提案されている。
【0010】
上記文献によれば、高分子粒子分散物は、インキ、複写用トナーをはじめ、各種用途の塗料、さらにカラー化される液晶、携帯端末用カラーフィルター、電子ブック及び電子ペーパーの着色材料として、ナノレベルからマイクロレベルの高分子粒子が安定に分散されることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−255314号公報
【特許文献2】特開2012−166453号公報
【特許文献3】特開2007−197632号公報
【特許文献4】特開2005−255911号公報
【特許文献5】特開2007−197633号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】高分子論文集、Vol.62、No.7、pp.310―315(July、2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1では、ウレタン系樹脂およびアクリル系樹脂を単に含有する後処理剤では、樹脂を各種溶剤に安定して均一に配合することが十分ではなく、耐擦過性をさらに改善する際に問題となる。
【0014】
特許文献2では、非水系インクの記録媒体への定着性については検討されていない。また、水中にポリエチレン樹脂を安定して均一に配合するとともに、印刷物の耐擦過性を高めるには、特許文献2に記載のポリエチレン樹脂水分散液による処理剤では十分ではない。
【0015】
特許文献1〜3及び非特許文献1では、高分子粒子分散物を用いて印刷用インキを調整した場合に、用紙等へ印刷された画像の耐摩耗性、耐水性及び耐マーカー性について、上記文献では検討されていない。単に樹脂を添加したのみでは、画像の耐摩耗性を十分に得ることは難しい。また、インクの耐摩耗性、耐水性及び耐マーカーが向上する樹脂を用いた場合に、分散液の安定性を維持することは難しいという問題がある。
【0016】
また、特許文献3の方法では、分散相中の多官能モノマーまたは樹脂の重合反応が必要であり、高分子粒子分散物の製造工程数がかかるという問題がある。
【0017】
本発明の目的としては、印刷物の耐摩耗性を高めるインク用後処理剤、印刷方法及びインクセットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の一側面としては、非水系溶剤、塩基性分散剤及び樹脂粒子を含み、前記樹脂粒子は、(1)固体樹脂及び酸性基を有する液体有機化合物、または(2)リン酸エステル化固体樹脂及び/または硝酸エステル化固体樹脂を含む、インク用後処理剤である。
【0019】
本発明の他の側面としては、記録媒体にインクジェットインクを用いて画像を形成し、上記インク用後処理剤を、前記画像を形成した面にインクジェット記録方法によって塗布する、印刷方法である。
【0020】
本発明のさらに他の側面としては、インクジェットインクと、上記後処理剤との組み合わせである、インクセットである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、印刷物の耐摩耗性を高めるインク用後処理剤、印刷方法及びインクセットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態によるインク用後処理剤(以下、単に「後処理剤」という場合がある)は、非水系溶剤、塩基性分散剤及び樹脂粒子を含み、樹脂粒子は、(1)固体樹脂及び酸性基を有する液体有機化合物(以下、単に「酸性化合物」という場合がある)、または(2)リン酸エステル化固体樹脂及び/または硝酸エステル化固体樹脂(以下、単に「エステル化樹脂」という場合がある)を含むことを特徴とする。
これによって、インクによる画像形成面に後処理剤を塗布することで印刷物の耐摩耗性を高めることができる。
【0023】
本実施形態によれば、上記(1)の成分系において、樹脂粒子に酸性化合物が含まれることで、固体樹脂と酸性化合物とが均一に配合されて、印刷物の耐摩耗性、特に耐擦過性をより高めることができる。
【0024】
また、樹脂粒子の製造工程において、固体樹脂とともに酸性化合物を溶剤に配合して混合することで、系が安定化して、各成分をより均一に配合することができる。特に、油中油型エマルションによって後処理剤を製造する場合には、固体樹脂とともに酸性化合物を溶剤に配合して分散相として用いることで、エマルションの乳化安定性をより高めて、結果として、樹脂粒子の各成分をより均一に配合することができる。
【0025】
また、上記(2)の成分系においても、上記(1)の成分系と同様に、樹脂粒子にエステル化樹脂が含まれることで、印刷物の耐摩耗性、特に耐擦過性をより高めることができる。
このような耐摩耗性の作用は、後処理剤に樹脂及び酸性化合物またはエステル化樹脂が含まれることで、樹脂またはエステル化樹脂の種類によらず得ることができる。
【0026】
本実施形態よる後処理剤を用いることで、記録媒体にインクが十分に浸透しにくい構成においても、印刷物の耐摩耗性を向上することができる。例えば、記録媒体としてコート紙を用いる構成である。コート紙は、紙等のベース材上にコート層が形成される。コート紙では、インク中の溶剤がコート層に浸透することで、インク中の色材がコート紙に定着する。非水系インクのようにインク中の溶剤がコート層に浸透しにくいインクや、インク自体の色材の皮膜形成が弱いインクでは、特に印刷物の定着性が問題になり、耐擦過性が低下することがある。本実施形態による後処理剤は、このような構成において好ましく用いることができる。
【0027】
また、本実施形態による後処理剤によって印刷物を処理することで、印刷物の耐マーカー性を高めることができる。印刷物をマーカーでなぞる場合、印刷物がマーカーによって擦られて、場合によってはマーカーに含まれる溶剤とインクが作用することがある。印刷物を後処理剤によって処理して、印刷物に皮膜を形成することで、耐摩耗性とともに溶剤耐性をより高めることができる。後処理剤に樹脂及び酸性化合物またはエステル化樹脂が含まれることで、各成分がより均一に安定して配合されるため、耐摩耗性及び溶剤耐性をより高めることができ、耐マーカー性をさらに高めることができる。
【0028】
また、樹脂成分に耐水性を有する樹脂を用いた場合においても、樹脂及び酸性化合物またはエステル化樹脂が含まれることで、各成分をより均一に安定して配合することができる。そのため、耐水性を有する樹脂成分を用いることで、印刷物の耐摩耗性とともに、耐水性に優れた後処理剤を提供することができる。
【0029】
(樹脂粒子)
本実施形態による樹脂粒子としては、以下の(1)または(2)を含む。
(1)固体樹脂及び酸性基を有する液体有機化合物。
(2)リン酸エステル化固体樹脂及び/または硝酸エステル化固体樹脂。
この樹脂粒子は、各成分が均一に混合されて、粒子形状となっていることが好ましい。
【0030】
「固体樹脂」
樹脂粒子の一形態である上記(1)において、樹脂としては、後処理剤に用いられる非水系溶剤に対する溶解度が23℃で3g/100g以下であることが好ましい。これにより、分散体中で樹脂粒子の形状安定性を維持することができる。この溶解度は、より好ましくは1g/100g以下であり、さらに好ましくは0.5g/100g以下である。一層好ましくは、この樹脂は、後処理剤の配合割合において、非水系溶剤に実質的に溶解しないものである。
【0031】
また、樹脂は、室温(23℃)で固体状の樹脂(以下、単に「固体樹脂」と称することがある。)であることが好ましい。
固体樹脂のガラス転移温度(Tg)としては、粒子形状を安定化するために、30℃以上であることが好ましく、より好ましくは40℃以上である。固体樹脂のガラス転移温度は、制限されないが、150℃以下であることが好ましく、より好ましくは120℃以下である。
また、固体樹脂の溶融温度(Tm)としては、粒子形状を安定化させるために、30℃以上であることが好ましく、より好ましくは、40℃以上である。固体樹脂の溶融温度は、制限されないが、250℃以下であることが好ましく、より好ましくは200℃以下である。
【0032】
固体樹脂は、水に対する溶解度が23℃で3g/100g以下であることが好ましく、より好ましくは0.5g/100g以下である。これによって、樹脂粒子の耐水性をより高めて、より耐水性のある印刷物を提供することができる。
【0033】
固体樹脂の質量平均分子量(Mn)としては、3000〜100000が好ましく、より好ましくは5000〜80000である。この範囲で、樹脂粒子の形状の安定性を高めることができる。また、樹脂粒子の製造工程において、固体樹脂を含む原料を溶剤により均一に混合することができ、結果として成分が均一な樹脂粒子を提供することができる。
【0034】
ここで、樹脂の質量平均分子量は、GPC法により、標準ポリスチレン換算により求めることができる。以下同じである。
【0035】
固体樹脂としては、Hansenの溶解性パラメーター(HSP値)が22〜27MPa/cmであることが好ましい。また、固体樹脂は、分散項δdが13〜20、極性項δpが5〜12、水素結合項δhが10〜20であることが好ましい。この範囲とすることで、後処理剤が用紙に塗布される際に、樹脂粒子と非水系溶剤を速やかに分離させ、耐摩耗性をより向上することができる。
【0036】
溶解性パラメーターの算出方法を以下に説明する。本発明では、1967年にHansenが提唱した3次元溶解性パラメーターを用いる。
Hansenの溶解性パラメーターは、Hildebrandによって導入された溶解性パラメーターを分散項δd、極性項δp、水素結合項δhの3成分に分割し、3次元空間で表したものである。分散項は、分散力による効果、極性項は、双極子間力による効果、水素結合項は、水素結合力の効果を示す。より詳細には、POLYMER HANDBOOK.FOURTH EDITION.(Editors.J.BRANDRUP,E.H.IMMERGUT,andE.A.GRULKE.)等に説明されている。
【0037】
Hansenの溶解性パラメーターについては、下記に説明する通り、実験から求めることができる。
まず、分散項δd、極性項δp、水素結合項δhが既知である表1に示す溶剤に対して対象物(固体樹脂等)の溶解性(10mass%)を調査する。次いで、対象物が溶解する溶剤の範囲に相当する分散項δd、極性項δp、水素結合項δhの範囲(最小値と最大値)を求め、その中間の値(3次元溶解性パラメーターの範囲の中心の値)をその対象物の3次元溶解性パラメーターとする。つまり、良溶媒が内側、貧溶媒が外側にくる最大の直方体を考えて、その直方体の中心を対象物の溶解性パラメーター(HSP値)と定める。
【0038】
分散項δd=(δdmax−δdmin)/2
極性項δp=(δpmax−δpmin)/2
水素結合項δh=(δhmax−δhmin)/2
HSP=δd+δp+δh
【0039】
溶解性試験に供する溶剤は、溶解性パラメーター(HSP値)がなるべく異なる3次元空間上に位置するものを選択することが好ましい。表1に、各溶剤の溶解性パラメーター(HSP値)、分散項δd、極性項δp、水素結合項δhを示す。
【0040】
【表1】
【0041】
固体樹脂は、上記物性を備えるものを好ましく用いることができ、その種類は限定されない。
固体樹脂の具体例としては、アルキルフェノール樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセタール樹脂、セルロース系樹脂、ポリアミド樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン(メタ)アクリル系樹脂、スチレンマレイン酸樹脂及びそのエステル、ケトン樹脂、ロジン樹脂、ロジン変性樹脂、酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン等を挙げることができる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、(メタ)アクリル系樹脂は、メタクリル樹脂及び/またはアクリル樹脂を意味し、メタクリル単位とアクリル単位とをそれぞれ単独で有する重合体とともに、メタクリル単位とアクリル単位とをともに有する共重合体を意味する。
【0042】
アルキルフェノール樹脂としては、ノボラック型アルキルフェノール樹脂及びレゾール型アルキルフェノール樹脂のいずれであってもよく、これらを組み合わせて用いてもよい。
ノボラック型アルキルフェノール樹脂は、アルキルフェノールとアルデヒドとを酸触媒の存在下で反応させ製造することができる。
レゾール型アルキルフェノール樹脂は、アルキルフェノールとアルデヒドとをアルカリ触媒の存在下で反応させ製造することができる。
また、変性アルキルフェノール樹脂を用いてもよい。変性アルキルフェノール樹脂としては、ロジン変性アルキルフェノール樹脂、アルコキシ基含有シラン変性アルキルフェノール樹脂等を挙げることができる。
【0043】
原料であるアルキルフェノールとしては、炭素数1〜12のアルキル基を有することが好ましい。アルキルフェノールとしては、一例として、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、プロピルフェノール、ブチルフェノール、アミルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ドデシルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールF等を用いることができる。これらは、単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、これらのアルキルフェノールの置換基の位置は限定されない。
【0044】
アルデヒドとしては、一例として、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、テトラオキサン等、またはこれらの組み合わせを用いることができる。
【0045】
ポリビニルアルコールとしては、一般的に、ポリ酢酸ビニルを原料に用いて、ポリ酢酸ビニルの酢酸基を水酸基に置換して製造されため、置換の割合に応じて水酸基とともに酢酸基とを含む樹脂である。
【0046】
ポリビニルアルコールを構成する全単位に対し、ヒドロキシ基を有する単位のモル比をnとし、酢酸基(−O−CO−CH)を有する単位のモル比をmとする場合、けん化度は(n/(n+m))×100、重合度はn+mで表される。
【0047】
ポリビニルアルコールのけん化度(n/(n+m))×100としては、0〜60であることが好ましく、より好ましくは1〜50である。
【0048】
ポリビニルアルコールの重合度(n+m)としては、10〜1000であることが好ましく、より好ましくは20〜500である。
【0049】
ポリビニルアセタール樹脂としては、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂をアセタール化して製造されるものを用いることができる。具体的には、PVA樹脂を酸触媒でアルデヒドと反応させて、PVA樹脂の水酸基の一部または全部をアセタール化して、ポリビニルアセタール樹脂を製造することができる。
【0050】
ポリビニルアセタール樹脂を調製する際に必要なポリビニルアルコールのけん化度((n/(n+m))×100)としては、2以上であることが好ましく、より好ましくは5以上である。このヒドロキシ基の割合はアセタール化に適する。
【0051】
また、ポリビニルアルコールの重合度(n+m)としては、10〜1000であることが好ましく、より好ましくは20〜500である。
【0052】
アルデヒドとしては、一例として、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、テトラオキサン、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、等を用いることができる。
【0053】
また、アルデヒドとしては、脂環族アルデヒド類及び芳香族アルデヒドを用いることができる。
脂環族アルデヒド類としては、シクロヘキサンカルボキシアルデヒド、5−ノルボルネン−2−カルボキシアルデヒド、3−シクロヘキセン−1−カルボキシアルデヒド、ジメチル−3−シクロヘキセン−1−カルボキシアルデヒド等を挙げることができる。
芳香族アルデヒド類としては、2,4,6−トリメチルベンズアルデヒド(メシトアルデヒド)、2,4,6−トリエチルベンズアルデヒド、2,6−ジメチルベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、2−メトキシ−1−ナフトアルデヒド、2−エトキシ−1−ナフトアルデヒド、2−プロポキシ−1−ナフトアルデヒド、2−メチル−1−ナフトアルデヒド、2−ヒドロキシ−1−ナフトアルデヒド、その他置換基を有する1−ナフトアルデヒド、置換基を有する2−ナフトアルデヒド、9−アントラアルデヒド、置換基を有する9−アントラアルデヒド等を挙げることができる。
【0054】
上記アルデヒドに加えて、または代えて、ケトンを用いてもよい。
ケトンとしては、2−メチルアセトフェノン、2,4−ジメチルアセトフェノン等のアセトフェノン類、2−ヒドロキシ−1−アセトナフトン、8’−ヒドロキシ−1’−ベンゾナフトン、アセトナフトン等のナフトン類等を挙げることができる。
これらのアルデヒド及びケトンは単独で、または組み合わせて用いてもよい。
【0055】
ポリビニルアセタール樹脂は、アセタール化度が40〜95mol%であることが好ましく、より好ましくは50〜85mol%である。これによって、樹脂粒子の製造工程において、固体樹脂を色材等と溶剤に混合する際に、固体樹脂の溶剤への溶解性を向上することができる。結果として、樹脂粒子の成分の均一性や形状の安定性を高めることができる。
【0056】
ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、ポリビニルアルコール樹脂の水酸基のうちアセタール化された水酸基の割合として表すことができる。ポリビニルブチラール樹脂の場合は、JISK6728に準拠して測定することができる。
【0057】
このアセタール化度は、ポリビニルアルコール樹脂をブチルアルデヒドでアセタール化した割合は、特にブチラール化度と称することがある。このブチラール化度は、上記したアセタール化度と同じ範囲であることが好ましい。
【0058】
ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基が60mol%以下であることが好ましく、より好ましくは50mol%以下である。これによって、樹脂粒子の製造工程において、固体樹脂を色材等と溶剤に混合する際に、固体樹脂の溶剤への溶解性を向上することができる。結果として、樹脂粒子の成分の均一性や形状の安定性を高めることができる。
【0059】
ここで、固体樹脂の水酸基の割合は、固体樹脂を構成する全単位(mol)に対する、水酸基を有する単位(mol)の割合として表すことができる。以下同じである。
【0060】
ポリビニルアセタール樹脂としては、ポリビニルアルコール樹脂をブチルアルデヒドによってアセタール化して得られるポリビニルブチラール樹脂(以下、単にブチラール樹脂と称することがある。)、ポリビニルアルコール樹脂をホルムアルデヒドによってアセタール化して得られるポリビニルホルマール樹脂(ビニロン)を好ましく用いることができる。
【0061】
ポリビニルブチラール樹脂の市販品としては、例えば、積水化学工業株式会社製のエスレックBシリーズ「BL−2H」、「BL−10」、「BL−S」、「BM−1」、「BM−2」、「MN−6」、「BX−L」等;株式会社クラレ製のモビタールBシリーズ「16H」「20H」「30T」「30H」「30HH」「45M」「45H」等を用いることができる。
ポリビニルホルマール樹脂の市販品としては、例えば、JNC株式会社製のビニレックシリーズ「ビニレックK」、「ビニレックC」等;株式会社クラレ製のビニロン繊維等を用いることができる。
これらは単独でも、2種以上を合わせて用いてもよい。
【0062】
セルロース系樹脂としては、セルロースアセテート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂、ニトロセルロース等を挙げることができる。ここで、ニトロセルロールは、後述する(2)のエステル化樹脂としても配合することができる。
【0063】
ポリアミド樹脂としては、ナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン4−6、共重合ナイロン等を用いることができる。
【0064】
また、ポリアミド樹脂をアルコキシメチル化したアルコキシ基を有するポリアミド樹脂を用いることができる。
ポリアミド樹脂をアルコキシメチル化することで、アルコール溶剤への溶解性を高めることができる。そのため、樹脂粒子の製造工程において、色材及び樹脂分を溶剤中に、より均一に安定して混合することができる。
アルコキシメチル基としては、メトキシメチル基、エトキシメチル基等を挙げることができる。
【0065】
ポリアミド樹脂の市販品としては、例えば、株式会社鉛市製ファインレジンシリーズ「FR−101」、「FR−104」、「FR−105」、「FR−301」等;ナガセケムテックス株式会社製の「トレジンF-30K」、「トレジンEF-30T」等が挙げられる。
【0066】
(メタ)アクリル系樹脂としては、メタクリル単位及び/またはアクリル単位を有する(メタ)アクリル樹脂の他、メタクリル単位及び/またはアクリル単位とともにその他の単位を有する共重合体を用いることができる。その他の単位としては、スチレン系単位、カルボン酸ビニル単位、α−オレフィン単位、ジエン系単位、エチレン性不飽和酸単位、エチレン性不飽和酸無水物単位、不飽和カルボン酸のモノアルキルエステル単位、スルホン酸単位、ニトリル、ピリジン、ピロリドン等の含窒素単位、エーテル系単位等を挙げることができる。
【0067】
(メタ)アクリル系樹脂としては、公知の(メタ)アクリル単量体の重合によって得ることができる。(メタ)アクリル単量体としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等のアルキル基が1〜22の炭化水素基である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエステル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル等の2〜8の炭化水素基の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(アルキレングリコール単位数は2以上)のモノ(メタ)アクリレート;メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル等のポリアルキレンオキシド骨格を含む(メタ)アクリル酸のエステル、(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N、N−ジメチルアクリルアミドなどの含窒素単量体、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有(メタ)アクリル酸、スルホエチルアクリレート、(メタ)アクリロキシベンゼンスルホン酸などの不飽和スルホン酸などが挙げられ、これらは2種類以上併用されてもよい。
【0068】
また、(メタ)アクリル単量体以外の単量体(以下、その他の単量体という。)を併用できる。その他の単量体は、(メタ)アクリル単量体と共重合可能であればよく特に制限はないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル、エチレン、プロピレン、ブテン−1等のα−オレフィン単量体、ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸等のエチレン性不飽和酸とその無水物、マレイン酸モノエステル、フマル酸モノエステル、イタコン酸モノエステル等の不飽和カルボン酸のモノアルキルエステル、(メタ)アクリルニトリル、ビニルピリジン、ビニルピロリドン等の含窒素不飽和単量体、(メタ)アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等の不飽和スルホン酸、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル及びビニルフェニルエーテル等のビニルエーテル系単量体等が挙げられ、これらは2種類以上併用されてもよい。
【0069】
(メタ)アクリル系樹脂としては、数平均分子量(Mn)は5000〜25000であることが好ましく、酸価は、0〜300mgKOH/gであることが好ましく、30〜300mgKOH/gであることが更に好ましい。
また、スチレン単位を有する(メタ)アクリル系樹脂は、スチレン(メタ)アクリル系樹脂として好ましく用いることができる。この場合、スチレン単位と(メタ)アクリル単位の比率(モル比)は0:10から7:3であることが好ましい。
【0070】
(メタ)アクリル系樹脂の市販品としては、東亜合成株式会社製ARUFONシリーズの「UC−3000」;星光PMC株式会社製ハイロスーXシリーズの「TS−1315」、「RS−1190」等、スチレン(メタ)アクリル系樹脂の市販品としては、東亜合成株式会社製ARUFONシリーズの「UC−3920」、「UC−5041」;星光PMC株式会社製ハイロスーXシリーズの「VS−1047」、「VS−1291」等を用いることができる。
【0071】
スチレンマレイン酸樹脂としては、スチレンと無水マレイン酸との共重合体である。また、スチレンマレイン酸樹脂としては、スチレンマレイン酸樹脂をエステル化して、カルボキシ基またはヒドロキシ基を導入したエステル化物を用いることができる。
【0072】
スチレンマレイン酸樹脂及びそのエステル化物の市販品としては、例えば、川原油化株式会社製SMAレジンシリーズ「SMA1440F」、「SMA1440」、「SMA17352」、「SMA2625」、「SMA3840」等のスチレンマレイン酸樹脂のエステル化物;川原油化株式会社製SMAレジンシリーズ「SMA1000」、「SMA2000」、「SMA3000」等のスチレンマレイン酸樹脂等を用いることができる。
【0073】
上記した固体樹脂の配合量は、樹脂粒子全体に対し、10質量%以上であることが好ましく、より好ましくは15質量%以上である。
一方、固体樹脂の配合量は、樹脂粒子全体に対し、70質量%以下であることが好ましく、より好ましくは50質量%以下である。
【0074】
樹脂粒子には、本発明の効果を損なわない限り、上記した樹脂以外のその他の樹脂が含まれてもよい。その他の樹脂としては、後述する後処理剤の製造方法で説明しているように添加剤等がある。
【0075】
「酸性化合物」
上記(1)において、樹脂粒子には、酸性基を有する液体有機化合物(酸性化合物)が含まれる。ここで、酸性基を有する液体有機化合物としては、23℃で液体状であり酸性基を有する有機化合物である。
【0076】
酸性化合物を添加することで、印刷物の耐摩耗性をより向上させることができる。これは、酸性化合物によって、固体樹脂をより均一に安定して配合することが可能になるからである。
また、固体樹脂に、酸価が低く耐水性が高い樹脂を用いる場合、耐摩耗性が低下することがあるが、この固体樹脂とともに酸性化合物を添加することで、耐水性とともに耐摩耗性を向上させることができる。
また、酸性化合物は、後処理剤の製造方法において、油中油型エマルションの安定性を維持するために配合することができる。
【0077】
酸性化合物の融点としては、室温で液体状を維持するために、23℃以下であることが好ましく、より好ましくは15℃以下である。また、酸性化合物の炭素数は2以上であることが好ましい。
【0078】
酸性化合物としては、後処理剤に含まれる非水系溶剤に対し溶解度が3g/100g以下であることが好ましく、より好ましくは1g/100g以下であり、さらに好ましくは0.5g/100g以下である。一層好ましくは、後処理剤の配合において、酸性化合物が非水系溶剤に実質的に溶解しないように、酸性化合物が選択される。
【0079】
酸性化合物は、酸性化合物を非水系溶剤に溶解させるときに、酸性化合物の濃度が高くなるほど酸化還元電位(ORP)値が高くなるものであることが好ましい。
一方、酸性化合物に酸性基とともに塩基性基が含まれる場合は、このORP値が高くなる傾向を示す範囲内であれば、塩基性基が含まれていても、酸性化合物として好ましく用いることができる。なお、酸性化合物は、塩基性基を含まないことがより好ましい。
本実施形態では、酸性化合物を非水系溶剤としてメタノール等の高極性有機溶剤に溶解させる場合のORP値が高くなることが望ましい。
酸性化合物のORP値は、200以上であることが好ましい。
【0080】
ここで、酸化還元電位(ORP値)は、作用電極に銀電極、参照電極に塩化銀電極を用いて、測定温度23℃で、各種材料の溶液に作用電極及び参照電極を挿入して測定したものである。酸化還元電位は、一例として、ポータブルpHメータ「pH−208」にORP電極「ORP−14」(ともに、株式会社FUSO製)を用いて測定することができる。以下同じである。
【0081】
酸性化合物の溶解性パラメーターとしては、Hansenの溶解性パラメーター(HSP値)が22〜27MPa/cmであることが好ましい。また、酸性化合物は、分散項δdが13〜20、極性項δpが5〜12、水素結合項δhが10〜20であることが好ましい。この範囲とすることで、樹脂粒子の各成分をより均一に配合することができて、粒子形状が安定化され経時安定性をより向上することができるととともに、発色性、耐摩耗性をより向上することができる。
【0082】
酸性化合物の酸性基としては、リン酸基、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸エステル基、硫酸エステル基、硝酸エステル基、亜リン酸基、ホスホン酸基、スルフィン酸基等を挙げることができる。これらは、1分子中に1種、または2種以上組み合わせて含まれてもよい。
【0083】
酸性化合物は、オリゴマー、ポリマー、低分子量化合物のいずれであってもよい。
オリゴマーまたはポリマーとしては、例えば、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリエーテル系樹脂等を、単独で、または併用して用いることができる。また、これらの樹脂を構成するモノマーまたはオリゴマーの共重合体を用いてもよい。
【0084】
酸性基としては、オリゴマーまたはポリマーを構成するモノマーに由来して、各構成単位の主鎖または側鎖に酸性基が結合して導入されていてもよい。例えば、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸の共重合体等を挙げることができる。この場合、カルボキシ基がアクリル酸の割合に応じて導入される。また、(メタ)アクリル酸エステルとアシッド・ホスホキシ・(メタ)アクリレートの共重合体等を挙げることができる。この場合、リン酸基が導入される。
また、酸性基としては、オリゴマーまたはポリマーをリン酸エステル化して導入されていてもよい。この場合、水酸基の位置及び割合に応じてリン酸基が導入される。オリゴマーまたはポリマーの両末端に水酸基を有する場合、オリゴマーまたはポリマーの両末端にリン酸基が導入されて、合計2個のリン酸基を有する。
酸性化合物がオリゴマーまたはポリマーである場合は、質量平均分子量が500〜10000であることが好ましく、より好ましくは1000〜5000である。
【0085】
酸性化合物としてのオリゴマーまたはポリマーの具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンリン酸エステル等のポリオキシアルキルのリン酸エステル、ポリエーテルポリエステルリン酸エステル等のリン酸エステル化合物;アルキルポリホスホン酸;カルボキシ基含有(メタ)アクリルポリマー等を挙げることができる。これらは、単独で、または複数種を併用してもよい。
【0086】
酸性化合物としては、リン酸エステル、硫酸エステル、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸等の低分子化合物を用いてもよい。
【0087】
酸性化合物は、酸価を持つことが好ましい。酸性化合物の酸価は、好ましくは30KOHmg/g以上であり、より好ましくは60KOHmg/g以上であり、一層好ましくは90KOHmg/g以上である。
【0088】
ここで、酸価は、不揮発分1g中の全酸性成分を中和するのに必要な水酸化カリウムのミリグラム数である。以下同じである。
【0089】
中でも、酸価が30KOHmg/g以上であるリン酸基、ホスホン酸基、リン酸エステル基及びカルボキシ基の1種以上を有する液体有機化合物であることが好ましく、リン酸基が特に好ましい。また、酸性化合物の両末端にリン酸基を有するものが一層好ましい。
【0090】
市販されているもののなかから、酸性化合物として用いることができるものとしては、例えば、ビックケミー・ジャパン社製「DISPERBYK102、110、111」(いずれも商品名)、巴工業社製「TEGODisper655」、EFKA社製「Efca6230」、キレスト株式会社製「PH−210」、東亞合成株式会社製「ARUFON UC3510」、ユニケミカル株式会社製「CM292P」等を挙げることができる。
【0091】
「DISPERBYK111」は、エチレングリコールとポリカプロラクトンのブロック共重合体のリン酸エステル化合物であり、共重合体の両末端にリン酸基を有する。
「CN294P」は、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロック共重合体のリン酸エステル化合物であり、共重合体の両末端にリン酸基を有する。
「ARUFON UC3510」は、アクリル酸エステルとアクリル酸の共重合体であり、カルボキシ基を複数有する。
「キレストPH210」は、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸であり、2個のホスホン酸基を有する低分子量化合物である。
【0092】
酸性化合物は、樹脂粒子全体に対して、0.1〜50質量%で配合されることが好ましく、より好ましくは1〜40質量%である。これによって、樹脂粒子の成分の均一性及び安定性を維持する一方で、その他の原料への作用を防ぐことができる。
【0093】
「エステル化樹脂」
樹脂粒子の他の形態としては、(2)リン酸エステル化固体樹脂及び/または硝酸エステル化固体樹脂(エステル化樹脂)を含む。
【0094】
エステル化樹脂としては、後処理剤に用いられる非水系溶剤に対する溶解度が23℃で3g/100g以下であることで、分散体中で樹脂粒子の形状安定性を維持することができる。この溶解度は、より好ましくは1g/100g以下であり、さらに好ましくは0.5g/100g以下である。一層好ましくは、エステル化樹脂は、後処理剤の配合割合において、非水系溶剤に実質的に溶解しないものである。
【0095】
エステル化樹脂としては、室温(23℃)で固体状の樹脂(固体樹脂)であることが好ましい。
エステル化樹脂のガラス転移温度(Tg)としては、粒子形状を安定化するために、30℃以上であることが好ましく、より好ましくは40℃以上である。エステル化樹脂のガラス転移温度は、制限されないが、150℃以下であることが好ましく、より好ましくは120℃以下である。
また、固体樹脂の溶融温度(Tm)としては、粒子形状を安定化させるために、30℃以上であることが好ましく、より好ましくは、40℃以上である。固体樹脂の溶融温度は、制限されないが、250℃以下であることが好ましく、より好ましくは200℃以下である。
【0096】
エステル化樹脂は、水に対する溶解度が23℃で3g/100g以下であることが好ましく、より好ましくは0.5g/100g以下である。これによって、樹脂粒子の耐水性をより高めて、より耐水性のある印刷物を提供することができる。
【0097】
エステル化樹脂の溶解性パラメーターとしては、Hansenの溶解性パラメーター(HSP値)が22〜27MPa/cmであることが好ましい。また、エステル化樹脂は、分散項δdが13〜20、極性項δpが5〜12、水素結合項δhが10〜20であることが好ましい。この範囲とすることで、樹脂粒子の各成分をより均一に配合することができて、粒子形状が安定化され経時安定性をより向上することができるととともに、耐摩耗性をより向上することができる。
【0098】
「リン酸エステル化固体樹脂」
リン酸エステル化固体樹脂としては、リン酸と、ヒドロキシ基を有する樹脂との縮合反応によって得られる樹脂を用いることができる。
ヒドロキシ基を有する樹脂としては、ポリオール樹脂、フェノール性水酸基を有する樹脂を用いることができる。具体的には、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセタール樹脂、アルキルフェノール樹脂、ポリアルキレングリコール誘導体、ポリグリセリン誘導体、セルロース、セルロース誘導体等を挙げることができる。これらは単独で、または組み合わせて用いることができる。
リン酸としては、ポリリン酸、オルソリン酸、亜リン酸、オキソ塩化リン等、及びこれらの無水物として五酸化二リン(P)等を挙げることができる。これらは単独で、または組み合わせて用いることができる。
【0099】
リン酸エステル化固体樹脂としては、例えば、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する樹脂を好ましく用いることができる。
【0100】
【化1】
【0101】
リン酸エステル化固体樹脂の具体例としては、リン酸エステル化ポリビニルアルコール、リン酸エステル化ポリビニルアセタール樹脂、またはこれらの組み合わせを好ましく用いることができる。
【0102】
リン酸エステル化ポリビニルアルコールとしては、リン酸と、ポリビニルアルコールとの縮合反応によって得ることができる。これによって、ポリビニルアルコールのヒドロキシ基がリン酸エステル化される。
【0103】
原料となるポリビニルアルコールとしては、上記した(1)成分の樹脂として説明したポリビニルアルコールを用いることができる。
【0104】
リン酸エステル化ポリビニルアルコール用のポリビニルアルコールのけん化度としては、2以上であることが好ましく、より好ましくは5以上である。これによって、ヒドロキシ基の割合を十分に確保して、リン酸エステル化を行うことができる。
一方、ポリビニルアルコールのけん化度としては、60以下であることが好ましく、より好ましくは50以下である。これによって、酢酸基の割合を確保して耐水性を付与することが可能となる。
【0105】
リン酸エステル化ポリビニルアルコール用のポリビニルアルコールの質量平均分子量(Mm)としては、5000〜50000であることが好ましく、より好ましくは10000〜30000である。この範囲で、樹脂粒子の形状の安定性を高めることができる。また、樹脂粒子の製造工程において、エステル化樹脂を含む原料を溶剤により均一に混合することができ、結果として成分が均一な樹脂粒子を提供することができる。
【0106】
ポリビニルアルコールの市販品としては、株式会社クラレ製の「クラレLMポリマーLM−20」、「クラレLMポリマーLM−10HD」、「クラレLMポリマーLM−25」等;日本酢ビ・ポバール株式会社製の「JMR−10L」、「JMR−20L」等;日本合成化学株式会社製の「LL−810」、「LL−920」、「LL−940」等を用いることができる。
【0107】
上記したポリビニルアルコールをリン酸エステル化する場合、リン酸エステル化ポリビニルアルコールを構成する全単位に対して、リン酸エステル基を有する単位のモル比としては、2〜60であることが好ましく、より好ましくは5〜50である。
【0108】
リン酸エステル基を有する単位は、ポリビニルアルコールのヒドロキシ基と当量で配合されることが好ましい。リン酸エステル化ポリビニルアルコールにおいて、ほぼ全量のヒドロキシ基がリン酸エステル化されることで、ヒドロキシ基量を低減し、耐水性を高めることができる。縮合反応では、ポリビニルアルコールの水酸基当量からリン酸の配合量を求めることができる。
具体的には、原料のポリビニルアルコールの水酸基全モル数に対するリン酸エステル化されたリン酸エステル基のモル数(リン酸変性率)は、80モル%以上であることが好ましく、より好ましくは90モル%以上であり、一層好ましくはほぼ100モル%である。
なお、上記したポリビニルアルコールをリン酸エステル化する場合、リン酸エステル化ポリビニルアルコールに未反応のヒドロキシ基が残ってもよい。
【0109】
リン酸エステル化ポリビニルアセタール樹脂としては、リン酸と、ポリビニルアセタール樹脂との縮合反応によって得ることができる。これによって、ポリビニルアセタール樹脂のヒドロキシ基がリン酸エステル化される。
【0110】
原料となるポリビニルアセタール樹脂としては、ポリビニルアルコールをアセタール化して製造されるものを用いることができる。具体的には、ポリビニルアルコールを酸触媒でアルデヒドと反応させて、ポリビニルアルコールの水酸基の一部または全部をアセタール化して、ポリビニルアセタール樹脂を製造することができる。
【0111】
アルデヒドとしては、一例として、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、テトラオキサン、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、等を用いることができる。
【0112】
また、アルデヒドとしては、脂環族アルデヒド類及び芳香族アルデヒドを用いることができる。
脂環族アルデヒド類としては、シクロヘキサンカルボキシアルデヒド、5−ノルボルネン−2−カルボキシアルデヒド、3−シクロヘキセン−1−カルボキシアルデヒド、ジメチル−3−シクロヘキセン−1−カルボキシアルデヒド等を挙げることができる。
芳香族アルデヒド類としては、2,4,6−トリメチルベンズアルデヒド(メシトアルデヒド)、2,4,6−トリエチルベンズアルデヒド、2,6−ジメチルベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、2−メトキシ−1−ナフトアルデヒド、2−エトキシ−1−ナフトアルデヒド、2−プロポキシ−1−ナフトアルデヒド、2−メチル−1−ナフトアルデヒド、2−ヒドロキシ−1−ナフトアルデヒド、その他置換基を有する1−ナフトアルデヒド、置換基を有する2−ナフトアルデヒド、9−アントラアルデヒド、置換基を有する9−アントラアルデヒド等を挙げることができる。
【0113】
上記アルデヒドに加えて、または代えて、ケトンを用いてもよい。
ケトンとしては、2−メチルアセトフェノン、2,4−ジメチルアセトフェノン等のアセトフェノン類、2−ヒドロキシ−1−アセトナフトン、8’−ヒドロキシ−1’−ベンゾナフトン、アセトナフトン等のナフトン類等を挙げることができる。
これらのアルデヒド及びケトンは単独で、または組み合わせて用いてもよい。
【0114】
ポリビニルアセタール樹脂は、アセタール化度が40〜95mol%であることが好ましく、より好ましくは50〜85mol%である。これによって、樹脂粒子の製造工程において、固体樹脂を溶剤に混合する際に、固体樹脂の溶剤への溶解性を向上することができる。結果として、樹脂粒子の成分の均一性や形状の安定性を高めることができる。
【0115】
このアセタール化度は、ポリビニルアルコール樹脂をブチルアルデヒドでアセタール化した割合は、特にブチラール化度と称することがある。このブチラール化度は、上記したアセタール化度と同じ範囲であることが好ましい。
【0116】
ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基が60mol%以下であることが好ましく、より好ましくは50mol%以下である。これによって、粒子の形状安定化と塗膜の耐水性を両立することができる。
【0117】
ポリビニルアセタール樹脂の質量平均分子量(Mm)は、10000〜200000であることが好ましく、より好ましくは20000〜100000である。この範囲で、樹脂粒子の形状の安定性を高めることができる。また、樹脂粒子の製造工程において、エステル化樹脂を含む原料を溶剤により均一に混合することができ、結果として成分が均一な樹脂粒子を提供することができる。
また、樹脂粒子を溶剤中で安定して保存するためには、ポリビニルアセタール樹脂の質量平均分子量は、60000以下であることがさらに好ましく、一層好ましくは30000以下である。
【0118】
ポリビニルアセタール樹脂としては、ポリビニルアルコール樹脂をブチルアルデヒドによってアセタール化して得られるポリビニルブチラール樹脂(以下、単にブチラール樹脂と称することがある。)、ポリビニルアルコール樹脂をホルムアルデヒドによってアセタール化して得られるポリビニルホルマール樹脂(ビニロン)を好ましく用いることができる。
【0119】
ポリビニルブチラール樹脂の市販品としては、積水化学工業株式会社製のエスレックBシリーズ「BL−2H」、「BL−10」、「BL−S」、「BM−1」、「BM−2」、「MN−6」、「BX−L」等;株式会社クラレ製のモビタールBシリーズ「16H」、「20H」、「30T」、「30H」、「30HH」、「45M」、「45H」等を用いることができる。
ポリビニルホルマール樹脂の市販品としては、JNC株式会社製のビニレックシリーズ「ビニレックK」、「ビニレックC」等;株式会社クラレ製のビニロン繊維等を用いることができる。
これらは単独でも、2種以上を合わせて用いてもよい。
【0120】
上記したポリビニルアセタール樹脂をリン酸エステル化する場合、リン酸エステル化ポリビニルアセタール樹脂を構成する全単位に対して、リン酸エステル基を有する単位のモル比としては、2〜60であることが好ましく、より好ましくは5〜50以上である。
【0121】
リン酸エステル基を有する単位は、ポリビニルアセタール樹脂のヒドロキシ基と当量で配合されることが好ましい。リン酸エステル化ポリビニルアセタール樹脂において、ほぼ全量のヒドロキシ基がリン酸エステル化されることで、ヒドロキシ基量を低減し、耐水性を高めることができる。縮合反応では、ポリビニルアセタール樹脂の水酸基当量からリン酸の配合量を求めることができる。
具体的には、原料のポリビニルアセタール樹脂の水酸基全モル数に対するリン酸エステル化されたリン酸エステル基のモル数(リン酸変性率)は、80モル%以上であることが好ましく、より好ましくは90モル%以上であり、一層好ましくはほぼ100モル%である。
なお、上記したポリビニルアセタール樹脂をリン酸エステル化する場合、リン酸エステル化ポリビニルアセタール樹脂に未反応のヒドロキシ基が残ってもよい。
【0122】
次に、リン酸エステル化固体樹脂の合成方法の一例について説明する。
【0123】
リン酸エステル化固体樹脂は、上記したポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール樹脂、またはこれらの組み合わせの樹脂を、無水リン酸(P)及び水と反応させることで得ることができる。
【0124】
無水リン酸は、樹脂の水酸基1当量に対し、0.1〜1.0モルであることが好ましい。
水は、モル比で、無水リン酸1に対し、1〜2モルであることが好ましい。
【0125】
反応に用いる溶媒には、水酸基を有しない有機溶媒を好ましく用いることができる。
このような有機溶媒としては、例えば、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)等のアミド系溶媒、テトラヒドロフラン(THF)等を、単独で、または組み合わせて用いることができる。
【0126】
反応は、樹脂を有機溶媒に添加した後に、水及び無水リン酸を添加することで行うことが好ましい。反応温度は、30〜70℃で調整することができる。反応性生物から不純物を取り除くために、濾過及び/または洗浄することが好ましい。
【0127】
「硝酸エステル化固体樹脂」
硝酸エステル化固体樹脂としては、硝酸と、ヒドロキシ基を有する樹脂との縮合反応によって得ることができる。
ヒドロキシ基を有する樹脂としては、ポリオール樹脂、フェノール性水酸基を有する樹脂を用いることができる。具体的には、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール樹脂、アルキルフェノール樹脂、ポリアルキレングリコール誘導体、ポリグリセリン誘導体、セルロース、セルロース誘導体等を挙げることができる。
【0128】
硝酸エステル化固体樹脂の具体例としては、ニトロセルロース、アセチルニトロセルロース、カルボキシメチルセルロース硝酸エステル等のカルボキシアルキルセルロースの硝酸エステル等、またはこれらの組み合わせを好ましく用いることができる。中でもニトロセルロースがより好ましい。
【0129】
ニトロセルロースは、セルロースを構成するグルコース1単位あたり3個のヒドロキシ基のうち、1個、2個、または3個すべてを硝酸エステル化したものを用いることができる。
【0130】
ニトロセルロースの硝化度としては、10.7%〜12.2%の範囲であることが好ましく、10.7%〜11.4%の範囲であることが特に好ましい。これによって、後処理剤をより安定して調整することができ、印刷物の耐摩耗性をより高めることができる。
【0131】
また、原料のヒドロキシ基を有する樹脂のヒドロキシ基全モル数に対する硝酸エステル化された硝酸エステル基のモル数(硝酸変性率)は、10〜80モル%であることが好ましく、より好ましくは20〜70モル%以上である。
【0132】
ニトロセルロースの質量平均分子量としては、5000〜100000であることが好ましく、より好ましくは10000〜75000である。この範囲で、樹脂粒子の形状の安定性を高めることができる。また、樹脂粒子の製造工程において、ニトロセルロースを含む原料を溶剤により均一に混合することができ、結果として成分が均一な樹脂粒子を提供することができる。
【0133】
上記したエステル化樹脂の配合量は、樹脂粒子全体に対し、10質量%以上であることが好ましく、より好ましくは15質量%以上である。
一方、エステル化樹脂の配合量は、樹脂粒子全体に対し、70質量%以下であることが好ましく、より好ましくは50質量%以下である。
【0134】
樹脂粒子がエステル化樹脂を含む場合、エステル化樹脂に酸性基が含まれるため、印刷物の耐摩耗性を向上させることができる。さらに、樹脂粒子に、エステル化樹脂とともに、上記した酸性化合物を含ませてもよい。この場合、エステル化樹脂と酸性化合物との種類や配合割合に応じて、印刷物の耐摩耗性をより高めることが可能になる。
【0135】
「可塑剤」
樹脂粒子は、上記した酸性化合物に加えて、酸性基を有していない、液体状の有機化合物(以下、単に「可塑剤」と称することがある。)をさらに含むことができる。これによって、印刷物の耐摩耗性をより高めることができる。
【0136】
可塑剤は、固体樹脂の軟化領域を下げ可塑性を付与し、樹脂粒子の固体樹脂及び色材を混合する際に、可塑剤が配合されていることで、上記した固体樹脂と色材とをより均一に混合することができる。これによって、樹脂粒子の成分が均一となって、耐摩耗性をより高めることができる。
【0137】
可塑剤の非水系溶剤に対する溶解度は23℃で3g/100g以下であることが好ましく、樹脂粒子の固体樹脂に可塑性を付与するとともに、非水系溶剤への溶解を防いで、樹脂粒子の形状安定性を維持することができる。また、樹脂粒子分散体を製造する際に、固体樹脂及び色材を含む分散相の合一を防いで、油中油型エマルションの安定性をより高めることができる。結果として、樹脂粒子の成分をより均一にすることができる。
この溶解度は、より好ましくは23℃で1g/100g以下であり、一層好ましくは0.5g/100g以下である。最も好ましくは、樹脂粒子分散体の配合割合において、可塑剤は非水系溶剤に実質的に溶解しないものである。
【0138】
可塑剤の融点としては、23℃以下であることが好ましく、より好ましくは15℃以下である。これによって、樹脂粒子の固体樹脂及び色材をより均一に混合することができる。
【0139】
可塑剤としては、低分子化合物、高分子化合物及びこれらの組み合わせのいずれであってもよい。
【0140】
低分子化合物としては、例えば、アルコール類、エステル類、エーテル類等を用いることができる。
【0141】
アルコール類としては、低級多価アルコール及び/または高級多価アルコールを好ましく用いることができる。アルコール類のヒドロキシ基数は1〜10であることが好ましい。
【0142】
低級多価アルコールの炭素数としては、4〜6であることが好ましい。
低級多価アルコールの具体例としては、1,5ペンタンジオール、1,6ヘキサンジオール、3メチル1,5ペンタンジオール等のジオール類を挙げることができる。
【0143】
高級多価アルコールの炭素数としては、10〜250であることが好ましい。
高級多価アルコールの具体例としては、ヒマシ油ポリオール等のポリオール類を挙げることができる。
【0144】
エステル類としては、低分子エステルを好ましく用いることができる。低分子エステルの炭素数としては、8〜30であることが好ましい。
低分子エステルの具体例としては、フタル酸ジイソノニル、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニル等を挙げることができる。
【0145】
可塑剤としては、ポリエステル類、ポリエーテル類、(メタ)アクリルポリマー類等の高分子化合物を好ましく用いることができる。
高分子化合物の質量平均分子量としては、300〜8000であることが好ましく、より好ましくは1000〜5000である。これによって、樹脂粒子の形状の安定性と可塑性をバランス良く与えることができる。
【0146】
ポリエステル類としては、低分子量のポリオールと二塩基酸とをエステル化反応して得られるポリエステルポリオール、ポリカプロラクトン、ポリ−β−メチル−δ−バレロラクトン等を挙げることができる。
ポリエステルポリオールとしては、アジピン酸ジエチレングリコール(AA−DEG)、アジピン酸ネオペンチルグリコール(AA−NPG)、アジピン酸トリメチロールプロパン/ジエチレングリコール(AA−TMP/DEG)等を挙げることができる。
【0147】
ポリエーテル類としては、ポリエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール等のポリエーテルポリオール等を挙げることができる。
【0148】
(メタ)アクリルポリマー類としては、メタクリル単位及び/またはアクリル単位を有する(メタ)アクリル樹脂の他、メタクリル単位及び/またはアクリル単位とともにその他の単位を有する共重合体を用いることができる。その他の単量体としては、例えば、酢酸ビニル単位、スチレン単位等を用いることができる。
【0149】
(メタ)アクリルポリマー類の市販品としては、東亜合成株式会社製「ARUFONUP−1010」、「ARUFONUP−1190」、「ARUFONUH−2000、「ARUFONUH−2190」、「ARUFONUH−2041」、「ARUFONUG−4010」、「ARUFONUS−6100」等を挙げることができる。
【0150】
これらの可塑剤は単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なかでも、ポリエステル類、ポリエーテル類、(メタ)アクリルポリマー類を単独で、または組み合わせて好ましく用いることができる。
【0151】
上記した可塑剤の配合量は、樹脂粒子全体に対し、5質量%〜40質量%であることが好ましい。
【0152】
樹脂粒子には、上記した(1)または(2)の成分等に加えて、任意成分が含まれてもよい。樹脂粒子には、任意成分として、本発明の効果を損なわない範囲で、架橋剤、酸化防止剤、表面張力調整剤、消泡剤等を添加してもよい。
【0153】
樹脂粒子の平均粒子径は、10μm以下程度であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることが一層好ましい。これによって、後処理液の保存安定性を確保するとともに、成膜性を得て耐摩耗性をより向上することができる。さらに、樹脂粒子の平均粒子径が80〜250nmであることによって、後処理剤をインクジェット印刷法を用いてより安定に塗布することができる。
【0154】
ここで、樹脂粒子の平均粒子径は、動的散乱方式による体積基準の平均粒子径であり、例えば、株式会社堀場製作所製の動的光散乱式粒径分布測定装置「LB−500」等を用いて測定することができる。以下同じである。
【0155】
(後処理剤)
本実施形態による後処理剤は、上記した樹脂粒子とともに、非水系溶剤及び塩基性分散剤を含む。非水系溶剤及び塩基性分散剤については、後述の後処理剤の製造方法で説明する通りである。非水系溶剤としては、樹脂粒子を分散可能である溶剤であることが好ましい。塩基性分散剤としては、非水系溶剤中で樹脂粒子を分散させるために配合される。また、塩基性分散剤は、後述する樹脂粒子の製造工程において、エマルションの調整のために配合されることもある。
【0156】
塩基性分散剤は、分散性の観点から、後処理剤全体に対して、0.1〜20質量%で配合されることが好ましく、より好ましくは1〜15質量%である。
【0157】
本実施形態による後処理剤において、樹脂粒子は後処理剤全体に対し1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは5質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上である。これによって、耐擦過性を十分に得ながら、溶剤量を低減して乾燥性を高めることができる。
一方、樹脂粒子は後処理剤全体に対し50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下である。これによって、分散性及び保存安定性を高めることができる。
【0158】
(後処理剤の製造方法)
以下、本実施形態による後処理剤の製造方法の一例について説明する。なお、本実施形態による後処理剤は、以下の製造方法で製造されたものに限定されない。
【0159】
本実施形態による後処理剤は、塩基性分散剤及び非水系溶剤(以下、連続相の非水系溶剤を溶剤Aと称することがある。)を少なくとも含む相を連続相とし、下記の(1)または(2)及び非水系溶剤(以下、分散相の非水系溶剤を溶剤Bと称することがある。)を少なくとも含む相を分散相とし、連続相と分散相とを混合して油中油(O/O)型エマルションを作製し、これから分散相のうち溶剤Bを除去して得ることができる。
(1)固体樹脂及び酸性基を有する液体有機化合物。
(2)リン酸エステル化固体樹脂及び/または硝酸エステル化固体樹脂。
【0160】
油中油型エマルションを安定して作製するために、溶剤Bは、溶剤Aに対して溶解度が低いことが好ましい。また、溶剤Bを除去するために、溶剤Bは、溶剤Aに対して沸点が低いことが好ましい。
油中油型エマルションを安定して作製するために、塩基性分散剤は、溶剤Bよりも溶剤Aに対する溶解度が高いことが好ましい。また、樹脂粒子の形状を安定させるために、樹脂は溶剤Aよりも溶剤Bに対する溶解度が高いことが好ましい。
【0161】
「連続相」
連続相としては、溶剤Aと塩基性分散剤とを含む。
【0162】
溶剤Aとしては、後述する酸性分散剤、溶剤B及び固体樹脂との関係性を満たすように、各種非水系溶剤から適宜選択して用いることができる。
【0163】
非水系溶剤としては、非極性有機溶剤及び極性有機溶剤の何れも使用できる。これらは、単独で使用してもよく、単一の相を形成する限り、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0164】
非極性有機溶剤としては、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素溶剤、芳香族炭化水素溶剤等の石油系炭化水素溶剤を好ましく挙げることができる。脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素溶剤としては、パラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系の溶剤が挙げられる。例えば、以下の商品名で販売されているものが挙げられる。テクリーンN−16、テクリーンN−20、テクリーンN−22、ナフテゾールL、ナフテゾールM、ナフテゾールH、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、アイソゾール300、アイソゾール400、AFソルベント4号、AFソルベント5号、AFソルベント6号、AFソルベント7号、カクタスノルマルパラフィンN12、N13、N14、YHNP、SHNP(いずれもJX日鉱日石エネルギー株式会社製);アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL、アイソパーM、エクソールD40、エクソールD80、エクソールD100、エクソールD130、及びエクソールD140(いずれも東燃ゼネラル石油株式会社製)。芳香族炭化水素溶剤としては、グレードアルケンL、グレードアルケン200P(いずれもJX日鉱日石エネルギー株式会社製)、ソルベッソ200(東燃ゼネラル石油株式会社製)等が挙げられる。
【0165】
非極性有機溶剤の50%留出点は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがいっそう好ましい。50%留出点は、JIS K0066「化学製品の蒸留試験方法」に従って測定される、質量で50%の溶剤が揮発したときの温度を意味する。
【0166】
極性有機溶剤としては、非水溶性の極性有機溶剤として、エステル系溶剤、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤等を好ましく挙げることができる。例えば、ラウリル酸メチル、ラウリル酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソステアリル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、リノール酸メチル、リノール酸イソブチル、リノール酸エチル、イソステアリン酸イソプロピル、大豆油メチル、大豆油イソブチル、トール油メチル、トール油イソブチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、モノカプリン酸プロピレングリコール、トリ2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル等の、1分子中の炭素数が14以上のエステル系溶剤;イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール等の、1分子中の炭素数が8以上の高級アルコール系溶剤;イソノナン酸、イソミリスチン酸、ヘキサデカン酸、イソパルミチン酸、オレイン酸、イソステアリン酸等の、1分子中の炭素数が9以上の高級脂肪酸系溶剤等が挙げられる。
これらは単独で、または複数種を組み合わせて使用することができる。
【0167】
これらの中でも、溶剤Aとして、非極性有機溶剤が好ましく、より好ましくはナフテン系、パラフィン系、イソパラフィン系等の炭化水素溶剤である。
【0168】
溶剤Aは、Hansenの溶解性パラメーター(HSP値)が14〜18MPa/cmであることが好ましい。また、溶剤Aは、分散項δdが12〜20、極性項δpが0〜4、水素結合項δhが0〜4であることが好ましい。
【0169】
溶剤Aの溶解性パラメーターが上記範囲であるとともに、樹脂粒子の酸性化合物及び固体樹脂またはエステル化樹脂の溶解性パラメーターが上記範囲であることで、樹脂粒子の溶媒Aに対する分散安定性を向上することができる。また、後処理剤を用紙に塗布する際に、用紙上で樹脂粒子と非水系溶剤の分離をより促進することができ、樹脂粒子の用紙への定着性をより高めて、耐摩耗性をより向上することができる。このような定着性の効果は、コート紙等の難浸透紙に印刷した際により発揮することができる。
【0170】
固体樹脂と溶剤Aとの組み合わせとしては、下記ΔHSP値の範囲が14〜25であることが好ましい。
ΔHSP=(δd固体樹脂−δd溶剤A+(δp固体樹脂−δp溶剤A+(δh固体樹脂−δh溶剤A
【0171】
酸性化合物と溶剤Aとの組み合わせとしては、同様に、下記ΔHSP値の範囲が14〜25であることが好ましい。
ΔHSP=(δd酸性化合物−δd溶剤A+(δp酸性化合物−δp溶剤A+(δh酸性化合物−δh溶剤A
【0172】
エステル化樹脂と溶剤Aとの組み合わせとしては、同様に、下記ΔHSP値の範囲が14〜25であることが好ましい。
ΔHSP=(δdエステル化樹脂−δd溶剤A+(δpエステル化樹脂−δp溶剤A+(δhエステル化樹脂−δh溶剤A
【0173】
ΔHSPを上記範囲とすることで、樹脂粒子の溶媒Aに対する分散安定性をより向上することができるとともに、用紙上で樹脂粒子と非水系溶剤の分離をより促進し、用紙への定着性をより向上することができる。
【0174】
溶剤Aの50%留出点としては、400℃以下であることが好ましく、より好ましくは300℃以下である。一方、溶剤Aの50%留出点の下限値は、溶剤Aの揮発を防止して樹脂粒子分散体の安定性を保つために、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。
【0175】
塩基性分散剤は、塩基性基を有する分散剤である。塩基性分散剤としては、溶剤Bよりも溶剤Aに対する溶解度が高いことが好ましい。
【0176】
好ましくは、塩基性分散剤は、溶剤Bに対する溶解度が23℃で3g/100g以下であり、より好ましくは0.5g/100g以下である。また、好ましくは、塩基性分散剤は、溶剤Aに対する溶解度が23℃で3g/100g以上であり、より好ましくは5g/100g以上である。さらに好ましくは、油中油型エマルションの配合割合において、溶剤Aに塩基性分散剤が実質的に全て溶解し、溶剤Bに塩基性分散剤が実質的に溶解しないように、塩基性分散剤が選択される。
【0177】
塩基性分散剤は、塩基性分散剤を非水系溶剤に溶解させるときに、塩基性分散剤の濃度が高くなるほど酸化還元電位(ORP値)が低くなるものであることが好ましい。
例えば、塩基性分散剤を溶解可能な溶媒に塩基性分散剤を溶解させる際に、塩基性分散剤を0.5質量%溶解させたときのORP値に比べて、塩基性分散剤を5.0質量%溶解させたときのORP値が低い値を示すものであることが好ましい。
また、塩基性分散剤をドデカンに5.0質量%溶解させたときのORP値は、0mV以下であることが好ましい。
【0178】
一方、塩基性分散剤に塩基性基とともに酸性基が含まれる場合は、このORP値が低くなる傾向を示す範囲内であれば、酸性基が含まれていても、塩基性分散剤として好ましく用いることができる。なお、塩基性分散剤は、酸性基を含まないことが好ましい。
【0179】
塩基性分散剤の塩基性基としては、例えばアミノ基、ピリジル基等を挙げることができ、中でもアミノ基であることが好ましい。また、塩基性分散剤の塩基性基としては、ウレタン結合やアミド結合等を有する窒素含有の官能基を挙げることができる。また、ウレタン結合やアミド結合等の窒素含有の構成単位が塩基性分散剤に導入されていてもよい。
【0180】
塩基性分散剤としては、例えば、変性ポリウレタン、塩基性基含有ポリ(メタ)アクリレート、塩基性基含有ポリエステル、ポリエステルアミン、第4級アンモニウム塩、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩、脂肪酸アミン塩等を挙げることができる。これらは、単独で、または複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0181】
塩基性分散剤として、市販されているものとしては、例えば、
日本ルーブリゾール株式会社製「ソルスパース13940(ポリエステルアミン系)、17000、18000(脂肪酸アミン系)、11200、22000、24000、28000」(いずれも商品名)、
ビックケミー・ジャパン株式会社製「DISPERBYK116、2096、2163」(いずれも商品名)、
花王株式会社製「アセタミン24、86(アルキルアミン塩系)」(いずれも商品名)、
楠本化成株式会社製「ディスパロンKS−860、KS−873N4(高分子ポリエステルのアミン塩)」(いずれも商品名)等を挙げることができる。
【0182】
塩基性分散剤は、塩基価を持つことが好ましい。塩基性分散剤の塩基価は、好ましくは1KOHmg/g以上であり、より好ましくは10KOHmg/g以上であり、一層好ましくは20KOHmg/g以上である。これによって、樹脂粒子が微細かつ安定な後処理剤を作製することができる。
【0183】
ここで、塩基価は、不揮発分1gに含まれる全塩基性成分を中和するのに必要な塩酸と当量の水酸化カリウムのミリグラム数である。以下同じである。
【0184】
塩基性分散剤としては、塩基性基を有する(メタ)アクリルブロックポリマーを含むことが好ましい。ここで、「(メタ)アクリルブロックポリマー」は、メタクリルブロックポリマー及びアクリルブロックポリマーを意味するものであり、メタクリル単位、アクリル単位を単独で含むものの他、メタクリル単位及びアクリル単位をともに含む共重合体をも含む。
塩基性分散剤として、塩基性基を有する(メタ)アクリルブロックポリマーを用いることで、後処理剤の粘度を低く抑えることが可能となり、また、樹脂粒子の平均粒子径を小さくすることができる。これによって、特に、インクジェット吐出に適するインクを得ることができる。
【0185】
塩基性基を有する(メタ)アクリルブロックポリマーの好ましい一例としては、炭素数12以上のアルキル基を有する単位を含む第1ブロックと、アミノ基を有する単位を含む第2ブロックとを有するブロック共重合体である。
これによって、アルキル基部分が溶剤親和性を示し、アミノ基部分が樹脂粒子親和性を示すため、樹脂粒子の分散性を高めることができる。また、油中油型エマルション作製時の乳化安定性を高めることもできる。ブロックポリマーであるため、アルキル基部分が局在化して、アルキル基部分が溶剤側に配向しやすくなり、溶剤親和性をより高めることができる。
【0186】
炭素数12以上のアルキル基としては、直鎖または分岐鎖のアルキル基であってよく、一例としては、ドデシル基、セチル基、ステアリル基、ベヘニル基、イソドデシル基、イソステアリル基等を挙げることができる。
これらの炭素数12以上のアルキル基は、第1ブロックに単独で、または2種以上組み合わせて含まれてもよい。
【0187】
アミノ基としては、一例として、般式−NRで表される基であって、
及びRは、それぞれ独立して、水素、炭素数18以下の炭化水素基、炭素数8以下のアルカノール基等である基を用いることができる。
炭素数18以下の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の鎖状炭化水素基、シクロヘキシル基、フェニル基等の環状炭化水素基を挙げることができる。炭素数8以下のアルカノール基としては、エタノール基、イソプロパノール基等を挙げることができる。
好ましくは、アミノ基は、一般式−N(HOR)(Rは2価の炭化水素基)で示されるジアルカノールアミノ基である。
【0188】
第1ブロックと第2ブロックとのモル比としては、20:80〜90:10であることが好ましく、より好ましくは30:70〜70:30である。
【0189】
第1及び第2ブロックには、それぞれの単位が有する炭素数12以上のアルキル基及びアミノ基以外のその他の基が含まれてもよい。その他の基としては、炭素数12未満のアルキル基、ベンジル基等を挙げることができる。
【0190】
塩基性基を有する(メタ)アクリルブロックポリマーの好ましい一例としては、炭素数12以上のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(A)(以下、「モノマー(A)」ともいう。)を含むモノマー混合物aのブロックAと、アミノ基と反応しうる官能基を有する反応性(メタ)アクリレート(B)(以下、「モノマー(B)」ともいう。)を含むモノマー混合物bのブロックBとのブロック共重合体(以下、このブロック共重合体を単に「(メタ)アクリルブロックポリマー」ともいう。)であって、アミノ基と反応しうる官能基とアミノアルコールとの反応により、アミノ基が導入されたものである。以下、単にアミン変性(メタ)アクリルブロックポリマーと称することがある。
【0191】
このアミン変性(メタ)アクリルブロックポリマーは、導入したアミノアルコールの部分が油中油型エマルションの界面への吸着基並びに、樹脂粒子の吸着基となり、また、炭素数12以上のアルキル基が溶剤親和性を示し、油中油型エマルションの乳化安定性並びに、樹脂粒子の分散性をより高めることができる。
【0192】
炭素数12以上のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(A)としては、例えば、ドデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、イソドデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート等を例示できる。これらは、複数種が含まれていてもよい。好ましくは、アルキル基の炭素数は12〜25である。
【0193】
反応性(メタ)アクリレート(B)におけるアミノ基と反応しうる官能基としては、グリシジル基、ビニル基、および(メタ)アクリロイル基等を好ましく例示できる。グリシジル基を有するモノマー(B)としては、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられ、ビニル基を有するモノマー(B)としては、ビニル(メタ)アクリレート、2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリロイル基を有するモノマー(B)としては、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、複数種が含まれていてもよい。
【0194】
モノマー混合物a及びbは、それぞれ、本発明の効果を阻害しない範囲内で、上記のモノマー(A)、(B)以外の、これらと共重合しうるモノマー(C)を含むことができる。
【0195】
このモノマー(C)としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマー;酢酸ビニル、安息香酸ビニル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル系ポリマー;マレイン酸エステル、フマル酸エステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−オレフィン等が挙げられる。また、アルキル鎖長の炭素数が12未満のアルキル(メタ)アクリレート、たとえば2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、tert−オクチル(メタ)アクリレート等を使用することもできる。また、2−アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等のアセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレート、ヘキサジオン(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のアセトアセトキシアルキル(メタ)アクリルアミド等のβ−ジケトン基またはβ−ケト酸エステル基を有する(メタ)アクリレートを使用することもできる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0196】
アミノアルコールとしては、モノメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等を例示できる。なかでも、油中油型エマルションの界面への吸着を促進させることができることから、一般式(HOR)NH(Rは2価の炭化水素基)で示されるジアルカノールアミン(2級アルカノールアミン)であることが好ましい。これらのアミノアルコールは、複数種を組み合わせて用いることもできる。
【0197】
このアミノアルコールは、アミノ基を導入して樹脂粒子の分散を十分に行うために、上記モノマー(B)のアミノ基と反応しうる官能基に対し、0.05〜1モル当量で反応させることが好ましく、0.5〜1モル当量で反応させることがより好ましい。アミノアルコールが1モル当量より少ない場合は、モノマー(B)において未反応の官能基が残ることになるが、残った官能基は樹脂粒子の吸着基として作用すると考えられる。
【0198】
アミン変性(メタ)アクリルブロックポリマーの合成方法の一例としては、まず、第1段階で、モノマー(A)を含むモノマー混合物a及びモノマー(B)を含むモノマー混合物bのうち一方を重合して一方のブロックを得て、第2段階で、この第1ブロックの存在下で、他方のモノマー混合物を重合して、一方のブロックの端部に他方のブロックがつながって重合した(メタ)アクリルブロックポリマーを得て、次いで、第3段階で、この(メタ)アクリルブロックポリマーにジエタノールアミンを反応させてアミン変性(メタ)アクリルブロックポリマーを得ることができる。
【0199】
アミン変性(メタ)アクリルブロックポリマーの分子量(質量平均分子量)は、特に限定されないが、インクジェット用インクとして用いる場合には、インクの吐出性の観点から10000〜100000程度であることが好ましく、10000〜80000程度であることがより好ましい。さらに本実施形態の分散剤では、分子量が20000〜50000程度で、優れた分散安定性を得ることができる。
【0200】
このアミン変性(メタ)アクリルブロックポリマーの分子量は、アミノアルコールとの反応前の(メタ)アクリルブロックポリマーの分子量とほぼ等しくなるため、(メタ)アクリルブロックポリマーの重合工程において分子量を調整することで、所望の範囲の分子量のアミン変性(メタ)アクリルブロックポリマーを得ることができる。
【0201】
アミン変性(メタ)アクリルブロックポリマーのうち、モノマー(A)を含むモノマー混合物aから重合されたブロックA部分の質量平均分子量は、5000〜40000程度であることが好ましく、8000〜30000程度であることがより好ましい。これによって、ブロックA部分の溶剤親和性をより適した範囲にすることができる。
【0202】
塩基性基を有する(メタ)アクリルブロックポリマーの他の例としては、炭素数12以上のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(A)を含むモノマー混合物aのブロックAと、アミノ基を有する反応性(メタ)アクリレート(B)を含むモノマー混合物bのブロックBとのブロック共重合体である。
【0203】
この例で、アミノ基を有する(メタ)アクリレート(B)としては、3級アミノ基を有する(メタ)アクリレートを好ましく用いることができる。具体的には、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリルアミド等をそれぞれ単独で、または複数種を組み合わせて用いることができる。
【0204】
この塩基性基を有する(メタ)アクリルブロックポリマーは、第1段階で、モノマー(A)を含むモノマー混合物a及びアミノ基を有するモノマー(B)を含むモノマー混合物bのうち一方を重合して一方のブロックを得て、第2段階で、この第1ブロックの存在下で、他方のモノマー混合物を重合して、一方のブロックの端部に他方のブロックがつながって重合して得ることができる。
【0205】
連続相中の塩基性分散剤は、エマルションの安定性及び樹脂粒子の分散性の観点から、連続相全体に対し0.1〜15質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜10質量%である。
溶剤Bの除去後の塩基性分散剤の含有量としては、樹脂粒子の分散性の観点から、後処理剤全体に対し0.1〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜15質量%である。
【0206】
連続相には、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、表面張力調整剤、消泡剤等のその他の任意成分を添加してもよい。
【0207】
「分散相」
分散相としては、溶剤Bと下記の(1)または(2)とを含む。
(1)固体樹脂及び酸性基を有する液体有機化合物。
(2)リン酸エステル化固体樹脂及び/または硝酸エステル化固体樹脂。
【0208】
溶剤Bは、上記した溶剤Aに対する溶解度が23℃で3g/100g以下であり、溶剤Aよりも沸点が低いものであることが好ましい。
【0209】
溶剤Bとしては、好ましくは極性有機溶剤であり、より好ましくは低級アルコール系溶剤である。低級アルコール系溶剤としては、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール等を挙げることができる。さらに好ましくは、炭素数4以下の低級アルコール系溶剤である。
【0210】
溶剤Bのその他の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等を挙げることができ、さらに、上記した溶剤A、塩基性分散剤及び樹脂との関係性を満たすものを適宜選択して用いることができる。
これらは単独で、または複数種を組み合わせて使用することができる。
【0211】
溶剤Bの溶剤Aに対する溶解度は23℃で3g/100gであることが好ましく、より好ましくは、23℃で1g/100g以下であり、さらに好ましくは0.5g/100g以下であり、一層好ましくは、実質的に溶解しないことである。
【0212】
溶剤Bと溶剤Aとの沸点の差は、10℃以上であることが好ましく、より好ましくは20℃以上であり、更に好ましくは、50℃以上である。この場合、石油系炭化水素溶剤等の混合溶剤の場合、50%留出点を沸点とする。また、溶剤Bの沸点は、100℃以下であることが好ましく、より好ましくは90℃以下である。一方、溶剤Bの沸点の下限値は、溶剤Bが−20〜90℃の範囲で液状であれば特に制限されない。
【0213】
溶剤Bは、Hansenの溶解性パラメーター(HSP値)が18〜30MPa/cmであることが好ましく、より好ましくは20〜30MPa/cmである。また、溶剤Bは、分散項δdが14〜17、極性項δpが5〜15、水素結合項δhが5〜25であることが好ましく、より好ましくは、分散項δdが14〜17、極性項δpが5〜15、水素結合項δhが15〜25である。
【0214】
溶剤Bの溶解性パラメーターが上記範囲であることで、溶剤Aに対して溶解性が低く、かつ、樹脂粒子及び固体樹脂をそれぞれ溶解させる能力を有することができる。樹脂粒子及び固体樹脂の溶解性パラメーターとしては、上記範囲のものであれば、溶剤Bに溶解し、溶剤Aに対して不溶性で分散安定性を得ることができる。
【0215】
また、溶剤Aが炭化水素系溶剤を含み、溶剤Bが炭素数4以下のアルコール系溶剤を含むことが好ましい。炭化水素系溶剤の好ましい例としては、ナフテン、パラフィン、イソパラフィン等であり、炭素数4以下のアルコール系溶剤の好ましい例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等であり、より好ましくはメタノールである。
【0216】
上記(1)では、分散相に固体樹脂及び酸性化合物を含む。
固体樹脂としては、室温(23℃)で固体状の樹脂であることが好ましい。詳細については、上記した通りである。
この固体樹脂は、油中油型エマルションによって樹脂粒子を製造する場合は、溶剤Aよりも溶剤Bに対する溶解度が高いものであることが好ましい。
【0217】
樹脂の溶剤Bに対する溶解度は23℃で10g/100g以上であることが好ましく、より好ましくは20g/100g以上である。また、樹脂の溶剤Aに対する溶解度は23℃で3g/100g以下であることが好ましく、より好ましくは1g/100g以下であり、さらに好ましくは0.5g/100g以下である。一層好ましくは、樹脂は、油中油型エマルションの配合割合において、溶剤Bに実質的に全て溶解し、溶剤Aに実質的に溶解しないものである。
【0218】
分散相全量に対する固体樹脂の含有量は、0.1〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜40質量%であり、一層好ましくは2〜20質量%である。これによって、溶剤Bへの樹脂の溶解性を適正にして、樹脂粒子の成分をより均一にすることができる。
溶剤B除去後の後処理剤全量に対する固体樹脂の含有量は、後処理剤全量に対し、0.1〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜15質量%である。これによって、樹脂粒子による皮膜形成を適正にして耐摩耗性を向上しながら、樹脂粒子の形状を安定化することができる。
【0219】
酸性化合物は、酸性基を有する液体有機化合物である。詳細については、上記した通りである。
酸性化合物を添加することで、印刷物の耐摩耗性をより向上させることができる。これは、酸性化合物によって、固体樹脂をより均一に安定して配合することが可能になるからである。
また、固体樹脂に、酸価が低く耐水性が高い樹脂を用いる場合、耐摩耗性が低下することがあるが、この固体樹脂とともに酸性化合物を添加することで、耐水性とともに耐摩耗性を向上させることができる。
また、酸性化合物は、後処理剤の製造工程において、油中油型エマルションの安定性をより高めることができる。
【0220】
酸性化合物は、特に制限されないが、溶剤Aよりも溶剤Bに対する溶解度が高いことが好ましい。酸性化合物の溶剤Bに対する溶解度は23℃で1g/100g以上であることが好ましく、より好ましくは2g/100g以上である。また、酸性化合物の溶剤Aに対する溶解度は23℃で3g/100g以下であることが好ましく、より好ましくは0.5g/100g以下である。一層好ましくは、酸性化合物は、油中油型エマルションの配合割合において、溶剤Bに実質的に全て溶解し、溶剤Aに実質的に溶解しないものである。
【0221】
分散相全量に対する酸性化合物の含有量は、分散相全体に対し0.1〜25質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜20質量%である。これによって、エマルションをより安定化することができる。
溶剤B除去後の後処理剤全量に対する酸性化合物の含有量は、0.1〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜15質量%である。これによって、耐摩耗性をより高めることができる。
【0222】
分散相の他の形態としては、(2)非水系溶剤に対する溶解度が23℃で3g/100g以下であるリン酸エステル化固体樹脂及び/または硝酸エステル化固体樹脂を含む。詳細については、上記した通りである。
このエステル化樹脂は、油中油型エマルションによって樹脂粒子を製造する場合は、溶剤Aよりも溶剤Bに対する溶解度が高いものであることが好ましい。
【0223】
エステル化樹脂の溶剤Bに対する溶解度は23℃で10g/100g以上であることが好ましく、より好ましくは20g/100g以上である。また、エステル化樹脂の溶剤Aに対する溶解度は23℃で3g/100g以下であることが好ましく、より好ましくは1g/100g以下であり、さらに好ましくは0.5g/100g以下である。一層好ましくは、エステル化樹脂は、油中油型エマルションの配合割合において、溶剤Bに実質的に全て溶解し、溶剤Aに実質的に溶解しないものである。
【0224】
分散相中のエステル化樹脂は、分散相全量に対し、0.1〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜40質量%であり、一層好ましくは2〜20質量%である。これによって、溶剤Bへのエステル化樹脂の溶解性を適正にして、樹脂粒子の成分をより均一にすることができる。
溶剤B除去後のエステル化樹脂の含有量としては、後処理剤全量に対し、0.1〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜40質量%であり、一層好ましくは2〜20質量%である。これによって、樹脂粒子の形状を安定化することができる。
【0225】
分散相は、非水系溶剤に対する溶解度が23℃で3g/100g以下であり液体状である有機化合物(液体有機化合物)をさらに含むことができる。液体有機化合物の詳細については、上記した通りである。
これによって、上記した固体樹脂やエステル化樹脂等の樹脂成分を溶剤Bに混合する際に、溶解性をより高めることができる。これによって、油中油型エマルションにおいて、連続相中で分散相をより安定して分散させることができる。結果として、樹脂粒子の成分をより均一にすることができ、印刷物の耐摩耗性等の効果をより高めることができる。
【0226】
液体有機化合物の溶剤Bに対する溶解度は23℃で3g/100g以上であることが好ましく、より好ましくは10g/100g以上であり、さらに好ましくは20g/100g以上である。また、液体有機化合物の溶剤Aに対する溶解度は23℃で3g/100g以下であることが好ましく、より好ましくは1g/100g以下であり、さらに好ましくは0.5g/100g以下である。一層好ましくは、液体有機化合物は、油中油型エマルションの配合割合において、溶剤Bに実質的に全て溶解し、溶剤Aに実質的に溶解しないものである。
【0227】
分散相中の液体有機化合物の含有量は、分散相全量に対し、1質量%〜20質量%であることが好ましい。
溶剤B除去後の液体有機化合物の含有量としては、後処理剤全量に対し、5質量%〜40質量%である。
【0228】
分散相には、本発明の効果を損なわない範囲で、消泡剤、酸化防止剤、表面張力調整剤等のその他の任意成分を添加してもよい。分散相には、上記した可塑剤を添加してもよい。
【0229】
「後処理剤の調整方法」
後処理剤の調整方法としては、特に限定されず、上記した連続相に上記した分散相を分散させて油中油型エマルションを作製し、この油中油型エマルションから、減圧及び/または加熱により分散相中の非水系溶剤Bを除去することで調整することができる。
【0230】
例えば、連続相及び分散相は、上記した各成分を混合して調整することができる。その後、連続相に分散相を滴下しながら混合及び攪拌することで、連続相に分散相を分散させることができる。このとき、混合及び攪拌は、超音波ホモジナイザーを用いて行うことができる。得られた油中油型エマルションから減圧及び/または加熱により非水系溶剤Bを除去する。このとき、減圧及び/または加熱の程度は、非水系溶剤Bが除去されるが、非水系溶剤Aは残るように調整する。
【0231】
また、油中油型エマルションの連続相と分散相との質量比は、40:60〜95:5の範囲で調整することができる。非水系溶剤Bの添加量は、油中油型エマルション全体に対し、5〜40質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜30質量%である。また、非水系溶剤Bの除去量は、配合された非水系溶剤B全量であることが望ましいが、配合された非水系溶剤B全量に対し90質量%以上であればよい。
【0232】
後処理剤の製造方法の他の例としては、例えば、分散相の成分を複数の混合液として別々に調整し、それぞれの混合液を同時もしくは順次、連続相に滴下することで、油中油型エマルションを調整することができる。
【0233】
具体的には、例えば、塩基性分散剤及び非水系溶剤(溶剤A)を少なくとも含む相を連続相とし、固体樹脂を含まず、酸性化合物及び非水系溶剤(溶剤B)を少なくとも含む相を分散相とし、連続相と分散相とを混合して油中油(O/O)型プレエマルションを作製し、このプレエマルションに、固体樹脂及び非水系溶剤(溶剤B)を含む混合液をさらに添加して油中油型(O/O)エマルションを作製し、これから分散相及び混合液として添加された溶剤Bを減圧及び/または加熱することで除去して得る方法を用いることができる。
【0234】
また、塩基性分散剤及び非水系溶剤(溶剤A)を少なくとも含む相を連続相とし、エステル化樹脂を含まず、非水系溶剤(溶剤B)を含む相を分散相とし、連続相と分散相とを混合して油中油(O/O)型プレエマルションを作製し、このプレエマルションに、エステル化樹脂及び非水系溶剤(溶剤B)を含む混合液をさらに添加して油中油型(O/O)エマルションを作製し、これから分散相及び混合液として添加された溶剤Bを減圧及び/または加熱することで除去して得る方法を用いることができる。
以下、この方法を2段階乳化方法と称することがある。
【0235】
油中油型エマルションを安定して作製するために、溶剤Bは、溶剤Aに対して溶解度が低いことが好ましい。また、溶剤Bを除去するために、溶剤Bは、溶剤Aに対して沸点が低いことが好ましい。
油中油型エマルションを安定して作製するために、塩基性分散剤は、溶剤Bよりも溶剤Aに対する溶解度が高いことが好ましい。また、樹脂粒子の形状を安定させるために、樹脂は溶剤Aよりも溶剤Bに対する溶解度が高いことが好ましい。
【0236】
この2段階乳化方法では、樹脂粒子を作製する過程で、配合する成分同士の凝集を防いで、より微細な樹脂粒子を提供することができる。樹脂粒子の作製行程では、固形分である樹脂分が他の成分、特に酸性化合物と作用して凝集する場合があるが、この2段階乳化方法によれば、樹脂分を後から単独で添加することができ、このような凝集を防止することができる。
【0237】
2段階乳化方法において、油中油型エマルションに用いられる各成分は、特に説明のない限り、上記したものと共通する。
【0238】
連続相において、塩基性分散剤及び溶剤Aの配合量は、上記した1段階乳化方法と共通する。
分散相において、酸性化合物は、分散相全体に対して、1〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜50質量%である。
混合液において、固体樹脂は、混合液全体に対して、5〜40質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜30質量%である。
混合液において、エステル化樹脂は、混合液全体に対して、5〜40質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜30質量%である。
【0239】
2段階乳化方法によって得られる後処理剤は、上記した1段階乳化方法と同様に、各成分を所定の割合で含むことが好ましい。
【0240】
後処理剤において、樹脂粒子の平均粒子径は、上記した通りであることが好ましい。
樹脂粒子の平均粒子径は、連続相に配合される塩基性分散剤の量、または、分散相に配合される不揮発分の量等を調整することで制御することができる。酸性化合物またはエステル化樹脂を配合することで、樹脂粒子の平均粒子径をより小さく制御することが可能である。
【0241】
(後処理剤の塗布方法)
本実施形態による後処理剤の塗布方法としては、特に制限されず、任意の方法を用いることができる。例えば、ロールコート、ダイコート、ブレードコート、エアナイフコート、スピンコート、リバースコート、グラビアコート、バーコート等の塗布法、又はグラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷方法等の印刷方法等を用いることができる。
【0242】
後処理剤は、低粘度かつ分散性が良好であるため、インクジェット記録方法を用いて塗布することができる。インクジェット記録方法によれば、記録媒体の全面はもちろん、画像形成領域にのみに後処理剤を簡便に塗布することができる。さらに、画像形成のためのインクをインクジェット記録方法を用いて塗布することで、インクと後処理剤とをインラインで連続して塗布することが可能になる。
【0243】
さらに、後処理剤の塗布後に、後処理剤の処理面を加圧及び/または加熱等によって外力を加えてもよい。これによって、後処理剤中の樹脂粒子が記録媒体上で軟化または溶融して、皮膜の形成を促進し、皮膜強度を高めることができる。
【0244】
後処理剤の処理面は加圧するのみでもよく、加熱するのみでもよく、加圧及び加熱をともに行ってもよい。例えば、ヒーターやドライヤーによって加熱する方法や、平滑なローラーによって加圧する方法、加熱ローラーによって加圧及び加熱する方法などを用いることができる。
【0245】
加熱の温度としては、好ましくは40〜200℃、より好ましくは40〜100℃の範囲で適宜設定するとよい。加圧の圧力としては、後処理剤を塗布した部分の表面平滑性が増加すればよく、好ましくは、0.0001〜0.3MPaの範囲で適宜設定するとよい。また、加熱及び加圧のそれぞれの時間は適宜設定することができる。
【0246】
加熱の温度は高いほど効果を得ることができるが、印刷物の冷却時間の観点から、好ましくは200℃以下、より好ましくは100℃以下に制限するとよい。
【0247】
後処理剤の塗布量としては、固形分換算で、単位面積当たり2g/m以上であることが好ましく、より好ましくは3.0g/m以上であり、さらに好ましくは3.5g/m以上である。これによって、記録媒体に対して、後処理剤中の樹脂粒子を適量でコートして、塗布ムラを防いで、印刷物の耐摩耗性をより向上することができる。
一方、後処理剤の塗布量としては、固形分換算で、単位面積当たり8g/m以下であることが好ましく、より好ましくは7.0g/m以下であり、さらに好ましくは5.0g/m以下である。これによって、記録媒体に後処理剤が過剰に塗布されて、樹脂皮膜によって印刷物の質感が低下することを防止することができる。
【0248】
(インク)
本実施形態による後処理剤は、印刷物に塗布されて印刷面の耐摩耗性を高めることができる。印刷物を形成するインクとしては任意のインクであってよく、その印刷方法も限定されない。インクとしては、色材及び非水系溶剤を含む非水系インク、または色材及び水または水溶性溶剤を含む水性インク等を用いることができる。印刷方法としては、インクジェット印刷、オフセット印刷、孔版印刷、グラビア印刷、電子写真方式印刷等を用いることができる。
【0249】
また、本実施形態による後処理剤は、任意のインクと組み合わせてインクセットとして提供することができる。
【0250】
本実施形態による後処理剤によれば、インク画像が形成された印刷物に、画像形成面に後処理剤を塗布することで、画像形成面の耐摩耗性を高めることができる。後処理剤の塗布領域は、印刷物の画像形成領域の一部または全域であってもよく、印刷物の全面であってもよい。
印刷物に後処理剤が塗布されることで、後処理剤の樹脂粒子が印刷面に皮膜を形成して、耐摩耗性を向上することができる。後処理剤に固体樹脂及び酸性化合物またはエステル化樹脂が含まれることで、樹脂粒子が均一に配合されて分散性が高まり、印刷面で皮膜を均一に形成することができる。
【0251】
本実施形態による後処理剤は、溶媒が非水系溶剤であるため、用紙に非水系溶剤が浸透する際に、用紙の膨潤を抑制して、用紙のカールを防止することができる。後処理剤の溶媒が水の場合は、用紙の繊維質が膨潤してカールが発生することがある。
【0252】
また、非水系インクを用いて印刷する際には、本実施形態による後処理剤を用いることで、非水系インクとの親和性によって、用紙上の非水系インク上に後処理剤による皮膜を均一に形成することができる。水系の後処理剤を用いる場合に比べて、非水系の後処理剤は、用紙上の非水系インクとの親和性を高めることができる。
【0253】
水性インクでは用紙に印刷された後に水性溶剤が揮発しやすいため、水性インクを印刷した後にも非水系の後処理剤を均一に塗布することができる。
【0254】
「非水系インク」
以下、後処理剤非水系インクの一実施形態について説明する。
非水系インクは、色材及び非水系溶剤を含む。色材としては、顔料、染料、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0255】
非水系インクは何色であってもよく、したがって顔料としては、たとえば、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料、染付レーキ顔料等の有機顔料、及び、カーボンブラック、金属酸化物等の無機顔料を用いることができる。アゾ顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料及び縮合アゾ顔料が挙げられる。フタロシアニン顔料としては、金属フタロシアニン顔料及び無金属フタロシアニン顔料が挙げられる。多環式顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキシサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料及びジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラックが挙げられる。金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0256】
顔料の平均粒子径は、分散性と保存安定性の観点から300nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましい。ここで、顔料の平均粒子径は、(株)堀場製作所製の動的光散乱式粒度分布測定装置LB−500により測定された体積基準の平均粒子径である。
【0257】
非水系インクの染料としては、当該技術分野で一般に用いられているものを任意に使用することができ、例えば、塩基性染料、酸性染料、直接染料、可溶性バット染料、酸性媒染染料、媒染染料、反応染料、バット染料、硫化染料、金属錯塩染料、造塩染料等を挙げることができる。これらは単独で、または複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0258】
染料としては、具体的には、アゾ染料、金属錯塩染料、ナフトール染料、アントラキノン染料、インジゴ染料、カーボニウム染料、キノンイミン染料、キサンテン染料、シアニン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、フタロシアニン系染料、金属フタロシアニン系染料、トリアリールメタン染料、ローダミン染料、スルホローダミン染料、メチン染料、アゾメチン染料、キノン染料、フタロシアニン系染料、トリフェニルメタン染料、ジフェニルメタン染料、メチレンブルー等を挙げることができる。これらは単独で、または複数種を組み合わせて用いてよい。
これらの染料のうち油溶性染料であることが好ましい。
【0259】
インク中の色材の含有量は、通常0.01〜20質量%であり、印刷濃度とインク粘度の観点から3〜15質量%であることが好ましい。
【0260】
非水系インクが顔料を含む場合は、顔料分散剤をさらに含んでもよい。顔料分散剤としては、特に限定されず、顔料を溶剤中に安定して分散させるものであればよい。たとえば、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合物、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエステルポリアミン、ステアリルアミンアセテート等が好適に使用され、そのうち、高分子分散剤の使用が好ましい。これらは単独で用いられるほか、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0261】
市販されている顔料分散剤の具体例としては、
日本ルーブリゾール社製「ソルスパース5000(フタロシアニンアンモニウム塩系)、13940(ポリエステルアミン系)、17000、18000(脂肪酸アミン系)、11200、22000、24000、28000」(いずれも商品名);
エフカケミカルズ(Efka CHEMICALS)社製「エフカ400、401、402、403、450、451、453(変性ポリアクリレート)、46,47,48,49,4010,4055(変性ポリウレタン)」(いずれも商品名);
花王株式会社製「デモールP、EP、ポイズ520、521、530、ホモゲノールL−18(ポリカルボン酸型高分子界面活性剤)」(いずれも商品名);
楠本化成株式会社製「ディスパロンKS−860、KS−873N4(高分子ポリエステルのアミン塩)」(いずれも商品名);
第一工業製薬株式会社製「ディスコール202、206、OA−202、OA−600(多鎖型高分子非イオン系)」(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0262】
非水系インク中の顔料分散剤の配合量は、適宜設定できるが、顔料分散性の観点から、重量比で、顔料1部に対し0.05〜1.0部程度であることが好ましく、0.1〜1.0部であることがより好ましい。インク総量に対しては、顔料分散剤は、0.5〜10重量%程度含まれていることが好ましく、1〜8重量%であることが一層好ましい。
【0263】
非水系インクに含まれる非水系溶剤は、上記した後処理剤で説明した非水系溶剤の中から適宜用いることができる。非水系インクの非水系溶剤は、後処理剤の非水系溶剤と独立して選択することができ、また、後処理剤の非水系溶剤と同じものを用いてもよい。
【0264】
非水系インクにより好ましく使用される溶剤としては、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素系溶剤、高級アルコール、脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【0265】
本実施形態による後処理剤は、記録媒体に浸透しにくいインクに対しても定着性を高めて、耐摩耗性を向上することができる。例えば、50%留出点が150℃以上の炭化水素溶剤をインク全体に対し30質量%以上、さらに40質量%以上含む非水系インクに対して、本実施形態による後処理剤を好ましく用いることができる。
【0266】
非水系インクには、任意に、表面張力調整剤(浸透剤)、消泡剤、酸化防止剤等をさらに含有させることができる。
【0267】
「水性インク」
以下、水性インクの一実施形態について説明する。
水性インクは、色材及び水または水溶性溶剤を含む。色材としては、顔料、染料、またはこれらの組み合わせであってもよい。
水性インクには、樹脂成分を安定して配合することが難しい観点から、印刷物の定着性をより十分に得にくい問題があるが、本実施形態による後処理剤を用いることで、印刷物の定着性を高めて、耐摩耗性を改善することができる。
【0268】
水性インクに含まれる顔料としては、たとえば、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料、染付レーキ顔料等の有機顔料、及び、カーボンブラック、金属酸化物等の無機顔料を用いることができる。アゾ顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料及び縮合アゾ顔料が挙げられる。フタロシアニン顔料としては、金属フタロシアニン顔料及び無金属フタロシアニン顔料が挙げられる。多環式顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキシサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料及びジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラックが挙げられる。金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0269】
インクに含まれる顔料(固形分)の配合量は、0.1質量%〜25質量%程度であることが好ましく、1質量%〜20質量%であることがより好ましく、5質量%〜15質量%であることが一層好ましい。
【0270】
水性インク中に顔料を安定に分散させるために、高分子分散剤や界面活性剤に代表される公知の顔料分散剤を使用することが好ましい。
【0271】
高分子分散剤としては、たとえば市販品として、日本ルーブリゾール(株)製のソルスパースシリーズ(ソルスパース20000、27000、41000、41090、43000、44000)、ジョンソンポリマー社製のジョンクリルシリーズ(ジョンクリル57、60、62、63、71、501)、第一工業製薬株式会社製のポリビニルピロリドンK−30、K−90等が挙げられる。
【0272】
界面活性剤としては、たとえば、花王株式会社製デモールシリーズ(デモールN、RN、NL、RNL、T−45)などのアニオン性界面活性剤、花王株式会社製エマルゲンシリーズ(エマルゲンA−60、A−90、A−500、B−40、L−40、420)などの非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0273】
顔料分散剤を使用する場合のインク中の配合量は、その種類によって異なり特に限定はされないが、一般に、有効成分(固形分量)の質量比で顔料1に対し、0.005〜0.5の範囲で使用されることが好ましい。
【0274】
さらに、化学的または物理的処理により顔料の表面に親水性官能基が導入された自己分散性顔料を用いることが好ましい。自己分散性顔料に導入させる親水性官能基としては、イオン性を有するものが好ましく、顔料表面をアニオン性またはカチオン性に帯電させることにより、静電反発力によって顔料粒子を水中に安定に分散させることができる。アニオン性官能基としては、スルホン酸基、カルボキシ基、カルボニル基、ヒドロキシ基、ホスホン酸基等が好ましい。カチオン性官能基としては、第4級アンモニウム基、第4級ホスホニウム基などが好ましい。
【0275】
これらの親水性官能基は、顔料表面に直接結合させてもよいし、他の原子団を介して結合させてもよい。他の原子団としては、アルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基などが挙げられるが、これらに限定されることはない。顔料表面の処理方法としては、ジアゾ化処理、スルホン化処理、次亜塩素酸処理、フミン酸処理、真空プラズマ処理などが挙げられる。
【0276】
このような自己分散性顔料としては、例えば、キャボット社製CAB−O−JETシリーズ(CAB−O−JET200、300、250C、260M、270C)、オリエント化学工業株式会社製CW−1、CW−2等を好ましく使用することができる。
【0277】
水性インクに含まれる染料としては、水溶性染料が好ましく、例えば、塩基性染料、酸性染料、直接染料、可溶性バット染料、酸性媒染染料、媒染染料、反応染料、バット染料、硫化染料、金属錯塩染料、造塩染料等のうち、水溶性のもの及び還元等により水溶性になるものを用いることができる。具体的には、水溶性染料としては、アゾ染料、ローダミン染料、メチン染料、アゾメチン染料、キサンテン染料、キノン染料、フタロシアニン染料、トリフェニルメタン染料、ジフェニルメタン染料、メチレンブルー等を挙げることができる。これらの染料は、いずれか1種が単独で用いられるほか、2種以上が組み合わされて使用されてもよい。
【0278】
水溶性染料の具体例としては、FOOD BLACK 2(例えば、KST Black J−BL、日本化薬株式会社製)、Direct Black154(例えば、Water Black 187−LM、オリヱント化学工業株式会社製)、Direct Black2(例えば、Water Black 455またはR−510、オリヱント化学工業株式会社製)等を使用することができる。
【0279】
水溶性染料(固形分)の含有量は、インク全量に対して、0.1質量%〜20質量%が好ましく、1質量%〜10質量%の範囲がより好ましく、4.5質量%〜10質量%の範囲が一層好ましい。
【0280】
水は、インク中に、10質量%〜80質量%程度含まれることが好ましく、20質量%〜60質量%であることがより好ましい。水としては、イオン交換水、蒸留水などの純水、または超純水を使用することが好ましい。
【0281】
水性インクには、必要に応じて、水溶性有機溶剤を含ませてもよい。水溶性有機溶剤としては、室温で液体であり、水に溶解可能な有機化合物を用いることができる。たとえば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、2−メチル−2−プロパノール等の低級アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール等のグリコール類;グリセリン;アセチン類(モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン);トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコール類の誘導体;トリエタノールアミン、1−メチル−2−ピロリドン、β−チオジグリコール、スルホランを用いることができる。平均分子量200、300、400、600等の平均分子量が190〜630の範囲にあるポリエチレングリコール、平均分子量400等の平均分子量が200〜600の範囲にあるジオール型ポリプロピレングリコール、平均分子量300、700等の平均分子量が250〜800の範囲にあるトリオール型ポリプロピレングリコール等の低分子量ポリアルキレングリコールを用いることもできる。これらの水溶性有機溶剤は単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0282】
水溶性有機溶剤は、粘度調整と保湿効果の観点から、インク中に1質量%〜80質量%含まれていることが好ましく、10質量%〜60質量%であることがより好ましい。
【0283】
その他、インクには、上記の成分に加え、任意に、湿潤剤(保湿剤)、表面張力調整剤(浸透剤)、消泡剤、定着剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤等を適宜含有させることができる。
【0284】
非水系インク及び水性インクの調整方法は、それぞれ特に限定されないが、各成分を一括または分割して適宜混合することで所望のインクを得ることができる。混合には、ビーズミルやボールミル等の分散手段を用いることができる。
【0285】
「印刷方法」
本実施形態による後処理剤と上記したインクとを用いた印刷方法の一実施形態としては、記録媒体に非水系インクまたは水性インクを用いて印刷し、少なくとも画像形成領域に後処理剤を塗布する。後処理剤の塗布方法及び塗布量は上記した通りである。
【0286】
非水系インクまたは水性インクによる印刷方法は、インクジェット記録方法を用いることが好ましい。インクジェット記録方法としては、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式など、いずれの方式のものであってもよい。インクジェット記録装置を用いる場合は、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドからインクを吐出させ、吐出されたインク液滴を記録媒体に付着させるようにする。インクジェット記録方法としてラインヘッド方式を用いることもでき、ラインヘッド方式のインクジェット記録方法によれば高速の印刷速度による印刷が可能である。
【0287】
インクジェット用インクとしての粘度は、インクジェット記録システムの吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において5〜30mPa・sであることが好ましく、5〜15mPa・sであることがより好ましく、約10mPa・s程度であることが、一層好ましい。ここで粘度は、23℃において0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおける値を表す。
【0288】
非水系インクまたは水性インクによって印刷をしてから、後処理剤によって処理するまでの時間は、通常は0〜10分が好ましく、0〜5分がより好ましく、0〜1分がさらに好ましい。これによって、インラインで印刷物を得ることができる。
【0289】
本実施形態において、記録媒体は、特に限定されるものではなく、普通紙、コート紙、特殊紙等の印刷用紙、布、無機質シート、フィルム、OHPシート等、これらを基材として裏面に粘着層を設けた粘着シート等を用いることができる。これらの中でも、インクの浸透性の観点から、普通紙、コート紙等の印刷用紙を好ましく用いることができる。
【0290】
ここで、普通紙とは、通常の紙の上にインクの受容層やフィルム層等が形成されていない紙である。普通紙の一例としては、上質紙、中質紙、PPC用紙、更紙、再生紙等を挙げることができる。普通紙は、数μm〜数十μmの太さの紙繊維が数十から数百μmの空隙を形成しているため、インクが浸透しやすい紙となっている。
【0291】
また、コート紙としては、インクジェット用コート紙や、いわゆる塗工印刷用紙を好ましく用いることができる。ここで、塗工印刷用紙とは、従来から凸版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷等で使用されている印刷用紙であって、上質紙や中質紙の表面にクレーや炭酸カルシウム等の無機顔料と、澱粉等のバインダーを含む塗料により塗工層を設けた印刷用紙である。塗工印刷用紙は、塗料の塗工量や塗工方法により、微塗工紙、上質軽量コート紙、中質軽量コート紙、上質コート紙、中質コート紙、アート紙、キャストコート紙等に分類される。塗工印刷用紙は、普通紙、インクジェット用コート紙と比較して紙表面の空隙が少ないため、インクの浸透が遅く、インク成分が紙表面に留まりやすい。そのため、本実施形態によるインクは、塗工印刷用紙に対する定着性を向上させることに適している。
【実施例】
【0292】
以下、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されない。特に説明のない限り、「%」は「質量%」を示す。
【0293】
<後処理剤の調整>
表2に、溶剤B除去前の後処理剤用油中油型エマルションの処方を示す。表2において、分散剤に揮発分が含まれる場合は、分散剤の全体量とともに不揮発分量をカッコ内に併せて示す(後述する表3も同じである)。
【0294】
後処理剤1〜9は、以下の手順に従って調整した。
表2に示す配合量で、溶剤A及び塩基性分散剤を混合し連続相を調整した。また、表2に示す配合量で、溶剤Bに、樹脂及び酸性化合物を混合し分散相を調整した。実施例5及び9では、分散相に酸性化合物を配合しなかった。
【0295】
連続相をマグネティックスターラーで攪拌した状態で、この連続相に、予め混合しておいた分散相を滴下しながら、氷冷下、超音波ホモジナイザー「Ultrasonic processor VC―750」(ソニックス社製)を10分間照射し、油中油(O/O)型エマルションを得た。
【0296】
得られたエマルションを、エバポレーターで減圧しながら、分散相中の溶剤Bを除去して、樹脂粒子が分散された後処理剤を得た。溶剤Bの除去率は、ほぼ100質量%であった。
【0297】
表3に、溶剤B除去後の後処理剤の処方を示す。インク全量に対する不揮発分(塩基性分散剤、樹脂、及び酸性化合物)の合計量から、不揮発分量を求め、表3に併せて示す。
【0298】
後処理剤10は、油中油型エマルションを経由しないで、表3に示す配合にしたがって、溶剤A及び塩基性分散剤を混合した後に、樹脂をさらに添加し分散させることで調整した。
【0299】
【表2】
【0300】
【表3】
【0301】
各表に示す成分は、以下の通りである。
(連続相)
炭化水素系溶剤「アイソパーM」:イソパラフィン系炭化水素系溶剤東燃ゼネラル石油株式会社製
塩基性分散剤「S11200」:日本ルーブリゾール株式会社製「ソルスパース11200」、不揮発分50%、塩基価37KOHmg/g。
【0302】
(分散相)
アルコール系溶剤「メタノール」:炭素数1のアルコール系溶剤、和光純薬工業株式会社製。
アルキルフェノール樹脂:荒川化学工業株式会社製「タマノル7509」。
ポリアミド樹脂:質量平均分子量17000、株式会社鉛市製「FR−301」。
ポリビニルアルコール:質量平均分子量15000、日本酢ビ・ポバール社製「JMR−8L」。
ニトロセルロース:NovelNC社製「DLX5−8」。
リン酸エステル化ポリビニルアルコール(PVA):後述の製造例によって作製した。リン酸変性率100モル%。
アクリル樹脂「UA−3920」:東亞合成株式会社製「ARUFON UC3920」、(Mn)15500。
ブチラール樹脂「エスレックBL−S」:積水化学工業株式会社製「エスレックBL−S」。
「DYSPERBYK111」:2個のリン酸基を有する液体有機化合物(共重合体の両末端にリン酸基を有するリン酸エステル化合物)、ビックケミー・ジャパン株式会社製「DISPERBYK111」、酸価129KOHmg/g、不揮発分95.0%。
【0303】
溶剤Bであるメタノールは、溶剤Aである炭化水素系溶剤(アイソパーM)に対する溶解度が23℃で0.4g/100gである。また、メタノールの沸点は64.7℃であり、アイソパーMの50%留出点はおよそ234℃である。
【0304】
塩基性分散剤であるソルスパース11200は、表2に示す連続相の配合割合で溶剤Aに溶解し、溶剤Bに対する溶解度が23℃で3g/100g未満であった。
樹脂は、それぞれ、表2に示す分散相の配合割合で溶剤Bに溶解し、溶剤Aに対する溶解度が23℃で3g/100g未満であり、水に対する溶解度が23℃で3g/100g未満であった。
酸性化合物は、表2に示す分散相の配合割合で溶剤Bに溶解し、溶剤Aに対する溶解度が23℃で3g/100g未満であった。
【0305】
各成分の溶解性パラメーター(HSP値)は以下の通りである。単位は「MPa/cm」である。また、分散項δd、極性項δp、水素結合項δhを併せて示す。
溶剤A「アイソパーM」:16(δd=16、δp=0、δh=0)。
溶剤B「メタノール」:29.6(δd=15.1、δp=12.3、δh=22.3)。
各種固体樹脂:22〜27(δd=12〜20、δp=5〜12、δh=10〜20)の範囲内であった。
各種酸性化合物:22〜27(δd=12〜20、δp=5〜12、δh=10〜20)の範囲内であった。
【0306】
各成分の酸化還元電位(ORP値)は以下の通りである。単位は「mV」である。
ソルスパース11200:ドデカンに0.5質量%溶解させたときのORP値に比べて、5.0質量%溶解させたときのORP値が低く、ドデカンに5.0質量%溶解させたときのORP値は−85であった。
DISPERBYK−111:メタノールに0.5質量%溶解させたときのORP値に比べて、5.0質量%溶解させたときのORP値が高く、メタノールに5.0質量%溶解させたときのORP値は350であった。
【0307】
<リン酸エステル化ポリビニルアルコールの製造例>
還流冷却管、粉末投入口及び温度計を接続した反応容器(内容積1L)に375gのTHF(テトラヒドロフラン、以下同じ)を入れ、173gの酢酸ビニル単位含有ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製「クラレLMポリマーLM−20」、けん化率:38〜42モル%、重合度:200、Mn:14000、水酸基当量:約173)を加え、溶解した。
反応容器において、マグネティックスターラーを用いて撹拌回転数を2000rpmに保持し、反応温度を30〜58℃の範囲に保持しながら、18gの水及び、71gのPを、各々6等分して、等間隔で6時間かけて投入した。P量は、酢酸ビニル単位含有ポリビニルアルコールの水酸基当量に対して1:1となるように調整した。
水及びPを全て投入後、30℃の温度条件および2000rpmの撹拌条件で、4時間熟成反応を行った。
得られたリン酸エステル化物を含む溶液を金網で濾過して、微量のゲル化物等の不純物を除去した。濾過後の反応生成物に等容積のn−ヘキサンを加え、撹拌し、析出した粘性樹脂を濾過した。濾過液は未反応の無水リン酸が変化した正リン酸を含むTHFが溶解し白濁していた。同量のn−ヘキサンを用いて、樹脂をさらに2回洗浄した。3回目に洗浄した時の濾過液はほぼ透明であった。
最終的に得られた反応生成物からn−ヘキサンを蒸発乾燥させて、目的とするリン酸エステル化ポリビニルアルコールを得た。
【0308】
<インクの調整>
表4に非水系インクとしてインク1の処方を示す。非水系インク1は、各成分を混合し、ロッキングミル(セイワ技研株式会社製)で顔料を分散して調整した。
表5に水性インクとしてインク2の処方を示す。水性インク2は、各成分を混合して調整した。
【0309】
【表4】
【0310】
【表5】
【0311】
各表に示す成分は以下の通りである。上記と共通する成分は同じものを用いた。
エステル系溶剤「オレイン酸メチル」:花王株式会社製、「エキセパールMOL」
カーボンブラック「MA−8」:三菱化学株式会社製「MA−8」。
黒色自己分散顔料水溶液「CAB−O−JET300」:キャボット株式会社製「CAB−O−JET300」。
ジエチレングリコール:和光純薬株式会社製。
界面活性剤「サーフィノール465」:日信化学株式会社製、不揮発分量100質量%。
【0312】
<評価>
表6に、実施例及び比較例のインクと後処理剤の組み合わせ及び評価結果を示す。
表6に示す組み合わせで、上記した各インクを用いて印刷物を作製し、次いで上記した各後処理剤を塗布した。後処理剤塗布後の印刷物の耐擦過性を評価した。結果を表6に併せて示す。
【0313】
(耐擦過性)
非水系インク1及び後処理剤による印刷は、ライン式インクジェットプリンタ「オルフィスX9050」(理想科学工業株式会社製)を用いて、上質コート紙「オーロラコート」(日本製紙株式会社製)に行った。「オルフィスX9050」は、ライン型インクジェットヘッドを使用し、主走査方向(ノズルが並んでいる方向)に直交する副走査方向に用紙を搬送して印刷を行うシステムである。
「オルフィスX9050」は、複数のインクカートリッジを有し、先にインクを吐出するインクカートリッジに非水系インク1を装填し、後にインクを吐出するインクカートリッジに上記各後処理剤を装填した。これによって、用紙を搬送することで、インクを印刷した後に、後処理剤を順次塗布した。
【0314】
水性インク2及び後処理剤による印刷は、水性インク2をバーコーターを用いて、上質コート紙「オーロラコート」(日本製紙株式会社製)に塗布した後に、各後処理剤をライン式インクジェットプリンタ「オルフィスX9050」(理想科学工業株式会社製)を用いて塗布した。水性インク2の塗布後から後処理剤を塗布するまでは5秒以内とした。
【0315】
非水系インク1による印刷では、解像度300×300dpiにて、1ドット当りのインク量が30plの吐出条件で、ベタ画像を形成した。
水性インク2による印刷では、インク2の塗布量が4g/m2となるように、塗膜を形成した。
後処理剤による印刷では、解像度300×300dpiにて、所定の塗布量になるよう電圧を設定し、インクによるベタ画像領域または塗膜に、ベタ画像を形成した。後処理剤の塗布量を表6に併せて示す。
【0316】
後処理剤を塗布してから24時間後に、印刷面のベタ画像部分を指で強く5回擦った際の状態を目視で観察し、耐擦過性を次の基準で評価した。
AA:画像のはがれがほとんど確認されないレベル。
A:画像のはがれが少なく実際の使用上問題ないレベル。
B:画像のはがれが確認されるが実際の使用上問題ないレベル。
C:画像のはがれが顕著であり実際の使用上問題あるレベル。
【0317】
(樹脂粒子の平均粒子径)
上記した各後処理剤について、後処理剤中に分散している樹脂粒子の体積基準の平均粒子径を動的光散乱式粒径分布測定装置「LB―500」(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。結果を表3に併せて示す。
【0318】
【表6】
【0319】
上記表6に示す通り、各実施例の印刷物は、耐擦過性が良好であった。また、樹脂粒子の平均粒子径も好ましい範囲であった。
【0320】
実施例1〜7では、非水系インク1と後処理剤1〜8を用いており、十分な結果を得ることができた。
実施例8〜16、17〜25、27及び28では、非水系インク1と後処理剤1〜8を用いて、実施例1〜7に対して後処理剤量を増やしており、耐擦過性がより向上した。
【0321】
実施例17及び26では、水性インク2と後処理剤2を用いており、十分な結果を得ることができた。
【0322】
比較例1では、非水系インク1を用いて、後処理剤を塗布しておらず、耐擦過性を十分に得ることができなかった。
比較例2及び3では、それぞれ非水系インク1と後処理剤9及び10を用いており、後処理剤に酸性基を有する成分が含まれず、耐擦過性を十分に得ることができなかった。
また、比較例2及び3の後処理剤9及び10は、樹脂粒子の平均粒子径が大きく、インクジェットの吐出性及び保存安定性が十分でなかった。