(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231902
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】吸着機構
(51)【国際特許分類】
B25B 23/10 20060101AFI20171106BHJP
【FI】
B25B23/10 E
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-31787(P2014-31787)
(22)【出願日】2014年2月21日
(65)【公開番号】特開2015-157320(P2015-157320A)
(43)【公開日】2015年9月3日
【審査請求日】2017年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227467
【氏名又は名称】日東精工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】安積 慶一
(72)【発明者】
【氏名】小田 崇太
【審査官】
小川 真
(56)【参考文献】
【文献】
特開平4−75828(JP,A)
【文献】
特開2009−190144(JP,A)
【文献】
特開2013−154435(JP,A)
【文献】
特開2007−181901(JP,A)
【文献】
特開2014−46422(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0087609(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 23/10
B23P 19/06
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転および往復移動可能に構成され頭付き棒状部品に係合するビットと、このビットの先端側に配されビットを挿通可能な挿通穴を備えた金具と、この金具の外周を包含するスクリューガイドとから成り、前記ビットに前記金具を固着してエアの吸引により頭付き棒状部品を前記ビットに係合させ先端側に吸着する吸着機構において、
前記ビットは、その先端に頭付き棒状部品の頭部に係合する係合部を備え、さらに、前記係合部に連設され前記挿通穴に接触しない寸法から成る小径軸部と、前記小径軸部に連設され前記小径軸部よりも大なる外径に成形された接続軸部と、前記接続軸部に連設され前記接続軸部よりも大なる外径に形成された大径軸部とから構成され、
前記金具は、前記接続軸部に螺合する螺合部と、前記挿通穴の延びる方向に配された通気溝とを備え、
前記通気溝は、前記金具の一端から前記挿通穴に達するまで形成して成り、
前記金具の他端側から吸引されたエアが前記通気溝を経由して前記大径軸部と前記スクリューガイドとの隙間を通過するよう構成したことを特徴とする吸着機構。
【請求項2】
前記接続軸部は、前記螺合部に係合するおねじと、このおねじの外径より大なる径に設定された中径軸部とから成り、
前記螺合部は、前記おねじに螺合するめねじと、前記中径軸部に嵌り込む中径穴部とを備えて成ることを特徴とする請求項1に記載の吸着機構。
【請求項3】
前記大径軸部は、この一端に前記金具の一端を当接させ前記金具を固定して成り、前記螺合部よりも大なる外径を備えて成ることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の吸着機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、ねじを安定して吸着保持する吸着機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ねじ等の頭付き棒状部品を吸着保持する手段としては、特許文献1示すエア吸引方式による吸着機構100が用いられており、その構造を
図4および
図5に示す。この従来の吸着機構100は、頭付き棒状部品の一例であるねじWをエアの吸引により吸着保持するものであり、前記ねじWの頭部に係合する係合部102aを備えたビット102と、このビット102に接着した金具103と、この金具103を挿通可能なスクリューガイド10とからなる。
【0003】
前記ビット102は、図示しない回転駆動源および往復駆動源に接続され、前記係合部102aと、前記係合部102aに連接する小径軸部102bと、この小径軸部102bに連接しておりかつ前記小径軸部102bよりも大きな直径寸法から成る大径軸部102cとを備える。また、前記係合部102aは、
図4であると六角柱であり、
図5であれば断面十字形状から成り、ねじの頭部に形成された形状に合わせて設定される。
【0004】
前記金具103は、前記大径軸部102cを挿通可能な中空パイプで構成され、その端面から軸方向に延びる通気溝103aを備えて成る。また、この金具103は、前記大径軸部102cへ差し込まれ、前記通気溝103aが前記大径軸部102cと小径軸部102bとの境界に位置するよう取り付けられており、前記係合部102aが金具103の一端から若干突出する位置で固定されている。また、前記金具103の固定は接着によるものであり、前記金具103の内壁面と大径軸部102cとの接触部にはあらかじめ接着剤が塗布されている。よって、前記金具103は、前記ビット102から脱落することがなく、前記ビット102とともに回転および往復移動する。また、前記金具103は、前記ねじWの頭部径とほぼ同一寸法に設定されており、その一端は、前記ねじWの頭部形状に合わせて形成される。この金具103の形状は、例えば
図4に示すような平面あるいは
図5に示すような断面が曲線など都度設定されている。
【0005】
前記スクリューガイド10は、前記金具103を挿通可能に形成され、前記金具103の外周をガイドしており、常時は前記ビット102を突出しない位置に内包して成る。また、前記スクリューガイド10は、その先端からエア6を吸引する吸引手段(図示せず)に接続されており、前記吸引手段の作動によってスクリューガイド10の先端付近に存在するエアが前記大径軸部102c側へ吸引される。
【0006】
このように構成された吸着機構100は、前記吸引手段の作動により、前記係合部102aの先端付近のエア6を前記通気穴103aあるいは前記通気溝104、ビット102の外周とスクリューガイド110の内壁面との隙間から前記吸引手段へ吸引する。これにより、従来の吸着機構100は、前記ねじWの頭部をビット102に係合させた状態で吸着できるので、前記スクリューガイド110から前記ビット102の先端が突出しても、ねじWの吸着状態を維持できる。よって、
図5に示すようにワーク20に突起があり前記スクリューガイド110の先端が締付面に到達しないようなねじ締め箇所であっても、前記ねじWを前記ワーク20のタップ穴21に確実に螺入できる特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特願2012-192337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の吸着機構100は、前記ビット102と前記金具103とを接着により固定して構成されるため、上述の差し込み時に余分な接着剤が前記通気溝103a等にはみ出し硬化することで前記エア6の吸引経路を塞ぐことがあった。よって、接着剤の塗布量の管理やはみ出した接着剤を除去する工程が必要になり、ビット102と金具103の組立に時間を要するため、製造コストが低減できない問題があった。また、前記金具103は、前記大径軸部102cを挿通自在に構成されているため、金具103をビット102へ差し込む際、上述のように金具103の一端から係合部102aが若干突出する位置へ正確に合い難い。つまり、前記係合部102aが前記ねじの頭部に係合し、かつ、前記金具103の先端が前記ねじの頭部に接触する正規の取付位置に配置し難く、前記金具103の軸方向の位置決めが非常に難しい。これにより、例えば、金具103が正規の取付位置よりも大径軸部102cの奥方に固定されると、前記金具103がねじの頭部に接触せず金具103と頭部との間に隙間が生じる。よって、前記金具103がスクリューガイド10の先端から突出した際、前記ねじを吸引できなくなるいといった問題もあった。一方、前記金具103が正規の取付位置よりも大径軸部102cの手前側に固定されると、前記係合部102aが前記ねじの頭部から浮いた状態となる。よって、特に前記係合部102aが断面十字形状であれば、締付けトルクの上昇に伴い前記ねじの頭部を削り取り、所定のトルクで締結できないなどの問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題に鑑みて創成されたものであり、製造コストを低減した吸着機構の提供を目的とする。この目的を達成するために、本発明は、回転および往復移動可能に構成され頭付き棒状部品に係合するビットと、このビットの先端側に配されビットを挿通可能な挿通穴を備えた金具と、この金具の外周を包含するスクリューガイドとから成り、前記ビットに前記金具を固着してエアの吸引により頭付き棒状部品を前記ビットに係合させ先端側に吸着する吸着機構において、前記ビットは、その先端に頭付き棒状部品の頭部に係合する係合部を備え、さらに、前記係合部に連設され前記挿通穴に接触しない寸法から成る小径軸部と、前記小径軸部に連設され前記小径軸部よりも大なる外径に成形された接続軸部と、前記接続軸部に連設され前記接続軸部よりも大なる外径に形成された大径軸部とから構成され、前記金具は、前記接続軸部に螺合する螺合部と、前記挿通穴の延びる方向に配された通気溝とを備え、前記通気溝は、前記金具の一端から前記挿通穴に達するまで形成して成り、前記金具の他端側から吸引されたエアが前記通気溝を経由して前記大径軸部と前記スクリューガイドとの隙間を通過するよう構成したことを特徴とする。なお、前記接続軸部は、前記螺合部に係合するおねじと、このおねじの外径より大なる径に設定された中径軸部とから成り、前記螺合部は、前記おねじに螺合するめねじと、前記中径軸部に嵌り込む中径穴部とを備えて成ることが望ましい。また、前記大径軸部は、この一端に前記金具の一端を当接させ前記金具を固定して成り、前記螺合部よりも大なる外径を備えて成ることが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の吸着機構1は、前記金具3を前記ビット2の接続軸部2cに螺入して固定できるため、従来のように接着剤を使用する必要がなく、余分な接着剤によりエア6の吸引経路が塞がれることもない。よって、前記ビット2と前記金具3の組立時間を従来よりも短縮でき、吸着機構1の製造コストを低減できる利点がある。また、前記ビット2の接続軸部2cは、おねじ2dとこのおねじ2dの外径よりも大なる径に設定された中径軸部2eとから構成される一方、前記金具3の螺合部3cは、前記おねじ2dに螺合するめねじ3dと、前記中径軸部2eに嵌り込む中径穴部3eとから構成されるため、取り付けた金具3を前記ビット2の軸線とほぼ一致するように固定できる。これにより、前記金具3の芯ズレが生じ難く、吸着したねじWをワーク20に形成されたタップ穴21へ確実に案内できるため、斜め締め付け等の締結異常の発生が低減する利点もある。また、前記大径軸部2fは、前記螺合部3cよりも大なる外径から形成されているため、前記金具3がビット2に螺合されると、前記金具3の端面が前記大径軸部2fの端面に当接する。つまり、前記金具3は、これ以上軸方向に移動しないため、設計寸法に極めて近い正規の取付位置で固定されることから、本発明の吸着機構1は、従来のようにねじWの頭部と金具3との間に隙間生じる問題やねじの頭部に形成された駆動穴を係合部2aにより削り取る問題の発生を大幅に低減できる利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る吸着機構の一部切欠断面図である。
【
図3】本発明に係る別の吸着機構の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、
図1ないし
図3に基づき本発明の一実施形態を説明する。本発明の吸着機構1は、図示しない回転駆動源および往復駆動源に接続され回転および往復移動自在なビット2と、このビット2に挿通し固定した金具3と、この金具3の外周を包含するスクリューガイド10とから構成される。
【0013】
前記ビット2は、頭付き棒状部品の一例であるねじWの頭部に形成された駆動穴に係合する係合部2aと、この係合部2aの最大径とほぼ同等の寸法から成る小径軸部2bと、この小径軸部2bの外径よりも大なる寸法から成る接続軸部2cと、この接続軸部2cの外径よりも大なる寸法から成る大径軸部2fとから構成される。また、前記接続軸部2cは、前記小径軸部2bに連通するおねじ2dと、このおねじ2dおよび前記大径軸部2fに連通する中径軸部2eとを備えて成る。つまり、前記ビット2は、
図1および
図3に示すようにその先端から、前記係合部2a、前記小径軸部2b、前記おねじ2d、前記中径軸部2e、前記大径軸部2fの順にしかも一体に成形されて成る。また、前記小径軸部2b、前記中径軸部2e、前記大径軸部2fは、何れも直径の異なる丸棒で同一軸線上に位置して成形されており、前記中径軸部2eと前記大径軸部2fとの境界面は、ビット2の軸線に直交する面で形成されている。なお、前記係合部2aは、
図1および
図2に示すような六角形状や、
図3に示すような十字形状に形成され、使用するねじWの駆動穴の種類に合わせて適宜変更することは云うまでもない。
【0014】
前記金具3は、その外径寸法が前記ねじWの頭部の最大寸法よりも若干大きい寸法に設定され、前記小径軸部2bを挿通可能な挿通穴3aと、前記接続軸部2cに接続される螺合部3cとが形成されている。また、この螺合部3cは、前記おねじ2cに螺合可能なめねじ3dと、前記中径軸部2eに嵌り込む中径穴部3eとから構成され、金具3をビット2に螺合させて取り付け可能に構成される。さらに、前記金具3は、
図2に示すように、その軸線に沿って配された通気溝3bを備えており、この通気溝3bは、前記中径穴部3eの端面から前記挿通穴3aに掛かる範囲まで形成されている。また、前記中径穴部3eの端面は、金具3の軸線に直交するように形成されており、前記中径軸部2eと前記大径軸部2fの境界面に沿って密着するように構成される。
【0015】
次に、前記ビット2と前記金具3との取付けについて説明する。前記金具3は、前記中径軸部2e側から前記係合部2aへ挿通され回転を加えられることで、前記おねじ2dに前記めねじ3dが螺合し、前記中径穴部3eに前記中径軸部2eが嵌まり込む。これにより、前記金具3は、前記ビット2の軸線に対して傾いて取り付けられることがない。
【0016】
また、前記金具3は、前記中径穴部3eの端面が前記中径軸部2eと前記大径軸部2fとの境界面に密着するまで回転を加えられるため、前記金具3の軸方向の取付位置を特別に合わせなくとも前記係合部2aの突出量が設計寸法通りに設定される。なお、この係合部2aの突出量は、使用するねじWの駆動穴の深さあるいは種類に合わせて適宜設定されるものであり、ねじWを吸引した際に前記金具3の先端が前記ねじWの頭部に接触する寸法で設定され、かつ、前記ねじWをワーク20に形成されたタップ穴21へ所定のトルクにより締結しても所謂リームアウトなどを生じることなく正常に締結できる寸法に設定されている。つまり、最も適切な係合部2aの突出量は、前記ねじWの頭部が前記金具3に規制され、前記ねじWの駆動穴から前記係合部2aが若干浮いた位置となるように設定されている。
【0017】
さらに、前記金具3は、上述のように前記おねじ2dへ螺入することで取り付け可能に構成されているため、例えば、前記係合部2aが摩耗しても前記ビット2のみを簡単に新しいものへ交換できる。つまり、交換の必要がない前記金具3を新たなビットに取り付け再利用できる利点がある。
【0018】
前記スクリューガイド10は、前記金具3を内包し摺動可能な内径を備え、この内径に存在するエア6を吸引可能な吸引手段(図示せず)に接続されている。これにより、スクリューガイド10の先端からエア6を吸引し、前記金具3の先端から前記ねじWを吸引することができる。
【0019】
次に、本発明の吸着機構1の作用について説明する。前記吸引手段および前記回転駆動源の作動により前記スクリューガイド10の先端からエア6が吸引され、回転する前記金具3の挿通穴3aから前記通気溝3bを経由して前記大径軸部2fと前記スクリュイーガイド10の内壁面との隙間を通過する。これにより、スクリューガイド10の先端に供給されたねじWは、その頭部からスクリューガイド10内へ吸引され、回転する前記係合部2aに係合し、その頭部が前記金具3の先端に当接する。このように、前記ねじWと前記金具3とが接触すると前記エア6がスクリューガイド10の先端から内部へ流れ込み難くなる。つまり、本発明の吸着機構1は、ねじWを前記金具3に吸着すれば、前記スクリューガイド10周辺の埃等が金具3の内部へ流れ込まない構造のため、エア6の通過経路が詰まり難いという利点がある。
【0020】
このように、ねじWが前記ビット2に係合するとともに前記金具3の先端に当接した状態で吸着されると、前記往復駆動源の作動により
図3に示すように前記ビット2および前記金具3が一体になって前記タップ穴21へ接近する方向へ摺動し、吸着されたねじWの軸部はやがて前記タップ穴21に当接する。なお、前記通気溝3bは、前記スクリューガイド10の先端から突出しないようあらかじめ寸法設定されており、具体的には前記ねじWがタップ穴21に螺合し始めるまでは吸着状態が保たれるように前記金具3やビット2の軸方向の寸法がそれぞれ設定されている。
【0021】
この後、前記ねじWがタップ穴21に螺入され始めると、前記吸引手段はエア吸引を止めねじWの吸着が行われないが、既にタップ穴21にねじWが若干螺合しているので、ねじWがタップ穴21から脱落したりすることはない。また、前記回転駆動源は、所定のトルクに達するまで回転駆動しており、ねじWが所定のトルクに到達しワーク20への締結が完了すると回転駆動を停止する。この回転駆動源の停止を受け、前記往復駆動源が復帰する方向へ作動して、前記ビット2および前記金具3を当初の位置まで復帰させる。
【符号の説明】
【0022】
1 吸着機構
2 ビット
2a 係合部
2b 小径軸部
2c 接続軸部
2d おねじ
2e 中径軸部
2f 大径軸部
3 金具
3a 挿通穴
3b 通気溝
3c 螺合部
3d めねじ
3e 中径穴部
6 エア
10 スクリューガイド
W ねじ