(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記傾斜制御手段は、前記第1の傾斜角指令値に基づく車体傾斜において、前記第1の傾斜角指令値よりも前記第2の傾斜角指令値が小さい場合、該第2の傾斜角指令値に基づいて前記車体を傾斜させるように構成されている、
請求項1〜3の何れか一つに記載の鉄道車両の車体傾斜制御システム。
前記傾斜制御手段は、前記第1の曲線検出手段により検出される曲線の入口地点以降も前記事前傾斜を継続するよう構成されるとともに、前記判定手段が前記第1の曲線検出手段による検出結果を誤りと判定した場合、前記事前傾斜を中止させるように構成されている、
請求項5に記載の鉄道車両の車体傾斜制御システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のマップ方式では、算出する走行位置に誤差がなく、かつ軌道情報データが正確な場合には、曲線区間に対応して車体を傾斜させることができ、良好な乗り心地が得られる。しかし、車輪の空転・滑走等により走行位置に検出誤差が生じた場合や、軌道情報データと実際の軌道との間に不整合がある場合には、曲線に対応しない区間で車体を傾斜させる等によって、乗り心地が悪化する。
【0006】
また、従来のセンサ方式では、ヨーレートセンサから得られる旋回角速度を用いて軌道の曲率を算出するため、確実に曲線を検出することが可能である。しかし、曲線の検出は曲線進入後に行われるため、車体を傾斜させることに遅れが生じ、乗り心地が悪化する。また、曲線区間を出て直線区間へ入るときも、曲線区間の終了の検出が遅れ、車体を傾斜状態から非傾斜状態へ戻すのに遅れが生じ、乗り心地が悪化する。
【0007】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、鉄道車両の乗り心地を向上させることができる鉄道車両の車体傾斜制御システム及び車体傾斜制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の第1形態に係る鉄道車両の車体傾斜制御システムは、鉄道車両の車幅方向の左右それぞれに配置される空気ばねを備え、前記空気ばねの給排気によって前記鉄道車両の車体傾斜を制御する車体傾斜制御システムであって、前記鉄道車両の走行位置と軌道の曲線区間の情報を含む軌道情報データとに基づいて軌道の曲線を検出する第1の曲線検出手段と、前記鉄道車両が前記第1の曲線検出手段で検出される曲線を走行する際に前記車体が目標の傾斜角となるような第1の傾斜角指令値を算出する第1の指令値算出手段と、前記鉄道車両の走行速度と前記鉄道車両の旋回角速度とに基づいて前記軌道の曲線を検出する第2の曲線検出手段と、前記鉄道車両が前記第2の曲線検出手段により検出される曲線を走行する際に前記車体の左右加速度が零に近づくような第2の傾斜角指令値を算出する第2の指令値算出手段と、前記第1の曲線検出手段による曲線未検出区間において前記第2の曲線検出手段によって曲線が検出された場合、前記第1の曲線検出手段による検出結果が誤りと判定する判定手段と、前記第1の傾斜角指令値に基づいて前記車体を傾斜させる一方、前記判定手段によって前記第1の曲線検出手段による検出結果が誤りと判定された場合、前記第2の傾斜角指令値に基づいて前記車体を傾斜させるよう前記空気ばねを制御する傾斜制御手段とを備えている。
【0009】
この構成によれば、第1の傾斜角指令値に基づいて車体を傾斜させることにより、曲線区間において遅滞なく車体を傾斜させることができ、乗り心地を向上させることができる。一方、鉄道車両の車輪の空転・滑走等により走行位置に検出誤差が生じた場合や、軌道情報データと実際の軌道との間に不整合がある場合には、第2の傾斜角指令値に基づいて車体を傾斜させることにより、実際の曲線区間に入ったときに車体を確実に傾斜させることができ、乗り心地を向上させることができる。
【0010】
本発明の第2形態に係る鉄道車両の車体傾斜制御システムは、鉄道車両の車幅方向の左右それぞれに配置される空気ばねを備え、前記空気ばねの給排気によって前記鉄道車両の車体傾斜を制御する車体傾斜制御システムであって、前記鉄道車両の走行位置と軌道の曲線区間の情報を含む軌道情報データとに基づいて軌道の曲線を検出する第1の曲線検出手段と、前記鉄道車両が前記第1の曲線検出手段で検出される曲線を走行する際に前記車体が目標の傾斜角となるような第1の傾斜角指令値を算出する第1の指令値算出手段と、前記鉄道車両の走行速度と前記鉄道車両の旋回角速度とに基づいて前記軌道の曲線を検出する第2の曲線検出手段と、前記鉄道車両が前記第2の曲線検出手段により検出される曲線を走行する際に前記車体の左右加速度が零に近づくような第2の傾斜角指令値を算出する第2の指令値算出手段と、前記第1の曲線検出手段による曲線検出区間において前記第1の曲線検出手段によって検出された曲線の曲がり方向と前記第2の曲線検出手段によって検出された曲線の曲がり方向とが異なる場合、前記第1の曲線検出手段による検出結果が誤りと判定する判定手段と、前記第1の傾斜角指令値に基づいて前記車体を傾斜させる一方、前記判定手段によって前記第1の曲線検出手段による検出結果が誤りと判定された場合、前記第2の傾斜角指令値に基づいて前記車体を傾斜させるよう前記空気ばねを制御する傾斜制御手段とを備えている。
【0011】
この構成によれば、第1の傾斜角指令値に基づいて車体を傾斜させることにより、曲線区間において遅滞なく車体を傾斜させることができ、乗り心地を向上させることができる。一方、軌道情報データに記録されている曲線の曲がり方向に誤りがある場合には、第2の傾斜角指令値に基づいて車体を傾斜させることにより、実際の曲線の曲がり方向に応じた方向に車体を傾斜させることができ、乗り心地を向上させることができる。
【0012】
本発明の第3形態に係る鉄道車両の車体傾斜制御システムは、鉄道車両の車幅方向の左右それぞれに配置される空気ばねを備え、前記空気ばねの給排気によって前記鉄道車両の車体傾斜を制御する車体傾斜制御システムであって、前記鉄道車両の走行位置と軌道の曲線区間の情報を含む軌道情報データとに基づいて軌道の曲線を検出する第1の曲線検出手段と、前記鉄道車両が前記第1の曲線検出手段で検出される曲線を走行する際に前記車体が目標の傾斜角となるような第1の傾斜角指令値を算出する第1の指令値算出手段と、前記鉄道車両の走行速度と前記鉄道車両の旋回角速度とに基づいて前記軌道の曲線を検出する第2の曲線検出手段と、前記鉄道車両が前記第2の曲線検出手段により検出される曲線を走行する際に前記車体の左右加速度が零に近づくような第2の傾斜角指令値を算出する第2の指令値算出手段と、前記第1の曲線検出手段による曲線検出区間の入口地点から所定距離走行する間に前記第2の曲線検出手段によって曲線が検出されなかった場合、前記第1の曲線検出手段による検出結果が誤りと判定する判定手段と、前記第1の傾斜角指令値に基づいて前記車体を傾斜させる一方、前記判定手段によって前記第1の曲線検出手段による検出結果が誤りと判定された場合、前記第2の傾斜角指令値に基づいて前記車体を傾斜させるよう前記空気ばねを制御する傾斜制御手段とを備えている。
【0013】
この構成によれば、第1の傾斜角指令値に基づいて車体を傾斜させることにより、曲線区間において遅滞なく車体を傾斜させることができ、乗り心地を向上させることができる。一方、鉄道車両の車輪の空転・滑走等により走行位置に検出誤差が生じた場合や、軌道情報データと実際の軌道との間に不整合がある場合には、第2の傾斜角指令値に基づいて車体を傾斜させることにより、実際の曲線に対応しない区間で車体を傾斜させる等の不具合を解消し、乗り心地を向上させることができる。
【0014】
前記傾斜制御手段は、前記第1の傾斜角指令値に基づく車体傾斜において、前記第1の傾斜角指令値よりも前記第2の傾斜角指令値が小さい場合、該第2の傾斜角指令値に基づいて前記車体を傾斜させるように構成されていてもよい。
【0015】
この構成によれば、軌道情報データに基づく曲線区間が実際の曲線区間よりも長い場合には、曲線区間を出るときに第2の傾斜角指令値に基づいて車体の傾斜が行われ、車体を傾斜状態から非傾斜状態へ戻すときの時間遅れを小さくすることができる。
【0016】
前記軌道情報データに基づく曲線の入口地点の手前において、前記第1の傾斜角指令値よりも小さい事前傾斜角指令値を算出する事前指令値算出手段をさらに備え、前記傾斜制御手段は、前記軌道情報データに基づく曲線の入口地点の手前から前記事前傾斜角指令値に基づいて前記車体を事前傾斜させるように構成されていてもよい。
【0017】
この構成によれば、曲線の入口地点の手前から車体を傾斜させることにより、曲線区間に入るときに遅滞なく傾斜させることができ、乗り心地を向上させることができる。
【0018】
前記傾斜制御手段は、前記第1の曲線検出手段により検出される曲線の入口地点以降も前記事前傾斜を継続するよう構成されるとともに、前記判定手段が前記第1の曲線検出手段による検出結果を誤りと判定した場合、前記事前傾斜を中止させるように構成されていてもよい。
【0019】
この構成によれば、鉄道車両の車輪の空転・滑走等により走行位置に検出誤差が生じた場合や、軌道情報データと実際の軌道との間に不整合がある場合でも、実際の曲線に対応しない区間で車体を大きく傾斜させる等の不具合を解消し、乗り心地を向上させることができる。
【0020】
本発明の第1形態に係る鉄道車両の車体傾斜制御方法は、車幅方向の左右それぞれに配置される空気ばねを備えた鉄道車両の車体傾斜を、前記空気ばねの給排気によって制御する車体傾斜制御方法であって、前記鉄道車両の走行位置と軌道の曲線区間の情報を含む軌道情報データとに基づいて軌道の曲線を検出する第1の曲線検出ステップと、前記鉄道車両が前記第1の曲線検出ステップにより検出される曲線を走行する際に前記車体が目標の傾斜角となるような第1の傾斜角指令値を算出する第1の指令値算出ステップと、前記鉄道車両の走行速度と前記鉄道車両の旋回角速度とに基づいて前記軌道の曲線を検出する第2の曲線検出ステップと、前記鉄道車両が前記第2の曲線検出ステップにより検出される曲線を走行する際に前記車体の左右加速度が零に近づくような第2の傾斜角指令値を算出する第2の指令値算出ステップと、前記第1の曲線検出ステップによる曲線未検出区間において前記第2の曲線検出ステップによって曲線が検出された場合、前記第1の曲線検出ステップによる検出結果が誤りと判定する判定ステップと、前記第1の傾斜角指令値に基づいて前記車体を傾斜させる一方、前記判定ステップによって前記第1の曲線検出ステップによる検出結果が誤りと判定された場合、前記第2の傾斜角指令値に基づいて前記車体を傾斜させるよう前記空気ばねを制御する傾斜制御ステップとを有する。
【0021】
この車体傾斜制御方法によれば、上述の第1形態に係る鉄道車両の車体傾斜制御システムの場合と同様、鉄道車両の乗り心地を向上させることができる。
【0022】
本発明の第2形態に係る鉄道車両の車体傾斜制御方法は、車幅方向の左右それぞれに配置される空気ばねを備えた鉄道車両の車体傾斜を、前記空気ばねの給排気によって制御する車体傾斜制御方法であって、前記鉄道車両の走行位置と軌道の曲線区間の情報を含む軌道情報データとに基づいて軌道の曲線を検出する第1の曲線検出ステップと、前記鉄道車両が前記第1の曲線検出ステップにより検出される曲線を走行する際に前記車体が目標の傾斜角となるような第1の傾斜角指令値を算出する第1の指令値算出ステップと、前記鉄道車両の走行速度と前記鉄道車両の旋回角速度とに基づいて前記軌道の曲線を検出する第2の曲線検出ステップと、前記鉄道車両が前記第2の曲線検出ステップにより検出される曲線を走行する際に前記車体の左右加速度が零に近づくような第2の傾斜角指令値を算出する第2の指令値算出ステップと、前記第1の曲線検出ステップによる曲線検出区間において前記第1の曲線検出ステップによって検出された曲線の曲がり方向と前記第2の曲線検出ステップによって検出された曲線の曲がり方向とが異なる場合、前記第1の曲線検出ステップによる検出結果が誤りと判定する判定ステップと、前記第1の傾斜角指令値に基づいて前記車体を傾斜させる一方、前記判定ステップによって前記第1の曲線検出ステップによる検出結果が誤りと判定された場合、前記第2の傾斜角指令値に基づいて前記車体を傾斜させるよう前記空気ばねを制御する傾斜制御ステップとを有する。
【0023】
この車体傾斜制御方法によれば、上述の第2形態に係る鉄道車両の車体傾斜制御システムの場合と同様、鉄道車両の乗り心地を向上させることができる。
【0024】
本発明の第3形態に係る鉄道車両の車体傾斜制御方法は、車幅方向の左右それぞれに配置される空気ばねを備えた鉄道車両の車体傾斜を、前記空気ばねの給排気によって制御する車体傾斜制御方法であって、前記鉄道車両の走行位置と軌道の曲線区間の情報を含む軌道情報データとに基づいて軌道の曲線を検出する第1の曲線検出ステップと、前記鉄道車両が前記第1の曲線検出ステップにより検出される曲線を走行する際に前記車体が目標の傾斜角となるような第1の傾斜角指令値を算出する第1の指令値算出ステップと、前記鉄道車両の走行速度と前記鉄道車両の旋回角速度とに基づいて前記軌道の曲線を検出する第2の曲線検出ステップと、前記鉄道車両が前記第2の曲線検出ステップにより検出される曲線を走行する際に前記車体の左右加速度が零に近づくような第2の傾斜角指令値を算出する第2の指令値算出ステップと、前記第1の曲線検出ステップによる曲線検出区間の入口地点から所定距離走行する間に前記第2の曲線検出ステップによって曲線が検出されなかった場合、前記第1の曲線検出ステップによる検出結果が誤りと判定する判定ステップと、前記第1の傾斜角指令値に基づいて前記車体を傾斜させる一方、前記判定ステップによって前記第1の曲線検出ステップによる検出結果が誤りと判定された場合、前記第2の傾斜角指令値に基づいて前記車体を傾斜させるよう前記空気ばねを制御する傾斜制御ステップとを有する。
【0025】
この車体傾斜制御方法によれば、上述の第3形態に係る鉄道車両の車体傾斜制御システムの場合と同様、鉄道車両の乗り心地を向上させることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、以上に説明した構成を有し、鉄道車両の乗り心地を向上させることができる車体傾斜制御システム及び車体傾斜制御方法を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。また、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0029】
(実施形態)
図1は、本発明の実施形態における鉄道車両の車体傾斜制御システムの一例を簡略化して示したブロック図である。
【0030】
鉄道車両1(以下、単に「車両1」ともいう)は、人や荷物を搭載する車体2と、車体2の前後方向両端部に設けられ車輪3aによって左右一対のレール18上を走行する台車3と、台車3上の左右に設けられ車体2を弾性支持し、その給排気によって車体2を傾斜させるための空気ばね4などを備えている。なお、符号Caは、内軌側レールと外軌側レールとの高低差であるカントを示している。
【0031】
本実施形態の車体傾斜制御システムは、空気ばね4、車速センサ11、ヨーレートセンサ12、加速度センサ13、ローパスフィルタ14〜16、左右一対の車高検出装置17及び制御装置20を備えている。なお、ローパスフィルタ14〜16及び制御装置20は、車両1に搭載されている。
【0032】
車速センサ11は、台車3に取付けられ、車輪3aの軸の回転速度を検出する速度発電機等で構成され鉄道車両1の走行速度を検出する。
【0033】
ヨーレートセンサ12は、車体2の天井付近に取付けられたジャイロセンサ等から成り、鉄道車両1の旋回角速度(軸線Zまわりの角速度)を検出する。
【0034】
加速度センサ13は、車体2の床面に取付けられ、車体床面を基準とする車幅方向(左右方向)の加速度(左右加速度)を検出する。
【0035】
一対の車高検出装置17は、台車3に対する車体2の傾斜角度を検出するためのもので、車体2と台車3との間で一定間隔離れて左右に設置され、車体2の台車3に対する左右両側部の高さ(車高情報H)を検出する。
【0036】
車速センサ11から出力される走行速度(V)、ヨーレートセンサ12から出力される旋回角速度(ω)および加速度センサ13から出力される左右加速度(y)は、それぞれ、ローパスフィルタ14,15,16によってノイズ等が除去された後、制御装置20に入力される。また、一対の車高検出装置17によって検出される車高情報Hも、制御装置20に入力される。
【0037】
制御装置20は、CPUと、CPUの実行プログラム及び、後述する傾斜角指令値や軌道情報データ等の必要なデータ等を記憶するメモリ等を備えて構成されている。なお、制御装置20は、集中制御を行う単独の制御装置で構成されていてもよいし、互いに協働して分散制御を行う複数の制御装置で構成されていてもよい。
【0038】
図2は、制御装置20の機能ブロック図である。この
図2に示すように、制御装置20は、軌道の曲線区間の情報を含む軌道情報データ等が記憶されたメモリ21、事前指令値算出部22、第1の曲線検出部23、第1の指令値算出部24、第2の曲線検出部25、第2の指令値算出部26、判定部27及び傾斜制御部28を備えている。
【0039】
第1の曲線検出部23は、車両1の走行速度Vの積分値に基づいて車両1の走行位置を算出し、その走行位置と、軌道情報データとに基づいて、曲線の存在及び曲がり方向(右カーブ、左カーブ)を検出し、その検出結果を判定部27へ出力する。
【0040】
第1の指令値算出部24は、車両1の走行速度Vの積分値と軌道情報データとに基づいて、車両1が第1の曲線検出部23により検出される曲線を走行する際に車体2を傾斜させるための第1の傾斜角指令値Dm(以下、単に「傾斜角指令値Dm」ともいう)を算出し、傾斜制御部28へ出力する。
【0041】
第2の曲線検出部25は、車両1の走行速度Vと旋回角速度ωとに基づいて、曲線の存在及び曲がり方向を検出し、その検出結果を判定部27へ出力する。
【0042】
第2の指令値算出部26は、車両1が第2の曲線検出部25により検出される曲線を走行する際に、加速度センサ13で検出される車体2の左右方向加速度yが零に近づくように車体2を傾斜させるための第2の傾斜角指令値Ds(以下、単に「傾斜角指令値Ds」ともいう)を算出し、傾斜制御部28へ出力する。
【0043】
また、第1の曲線検出部23は、軌道情報データに基づく曲線の入口地点の手前から車体2を傾斜させる事前傾斜を行う開始時刻を算出し(詳細は後述)、事前指令値算出部22へ出力する。
【0044】
事前指令値算出部22は、車両1の走行速度Vの積分値と軌道情報データとに基づいて、事前傾斜角指令値Djを算出し(詳細は後述)、傾斜制御部28へ出力する。
【0045】
前述の第1の傾斜角指令値Dm、第2の傾斜角指令値Ds及び事前傾斜角指令値Djは、台車3に対する車体2の左右方向(車幅方向)の傾斜角の指令値である。
【0046】
判定部27は、第2の曲線検出部25による検出結果に基づいて第1の曲線検出部23による検出結果が誤りか否かを判定し、この判定結果(誤りか正常か)を傾斜制御部28へ出力する。
【0047】
傾斜制御部28は、事前傾斜角指令値Dj、第1の傾斜角指令値Dm、第2の傾斜角指令値Ds及び判定部27の判定結果と、左右の車高検出装置17からの車高情報Hとを入力する。そして、車高情報Hに基づいて車体2の台車3に対する傾斜角を算出し、この傾斜角が、事前傾斜角指令値Dj、第1の傾斜角指令値Dm、あるいは第2の傾斜角指令値Ds等となるように、また、車体2と台車3とが平行(傾斜角が0)になるように、左右の空気ばね4の高さを制御する。左右各々の空気ばね4は、例えば、コンプレッサから各々の吸気弁を介して圧縮空気が内部に供給され、各々の排気弁を介して内部の圧縮空気を排出することができるよう構成されており、傾斜制御部28が、左右の空気ばね4の各々の吸気弁及び排気弁を制御することにより、左右の空気ばね4の各々の高さを制御し、これにより車体2の傾斜制御を行うことができる。この傾斜制御部28を含む制御装置20の詳しい制御については後述する。
【0048】
まず、軌道情報データについて説明する。
図3(a)は軌道の一例を模式的に示す平面図であり、
図3(b)は
図3(a)の軌道の曲率を示す図である。
【0049】
図3(a)において、鉄道車両1が軌道(線路)5を地点A〜地点Dの順番で通過しており、
図3(b)に示すように、軌道5の地点Aよりも手前は曲率が0である直線区間であり、地点A〜地点Bの範囲は曲率が0から徐々に増加する入口側緩和曲線区間であり、地点B〜地点Cの範囲は一定の曲率を持つ円曲線区間であり、地点C〜地点Dの範囲は曲率が一定値から0に向けて徐々に減少する出口側緩和曲線区間であり、地点Dから以降は曲率が0である直線区間である。ここで、地点A〜地点Dの範囲からなる曲線区間と、この両側の直線区間とは曲率が0であるか否かによって判別することができる。
【0050】
このような、軌道のどの地点において、直線区間、入口側緩和曲線区間、円曲線区間、出口側緩和曲線区間が構成されているかの情報[例えば所定の基準地点から入口側緩和曲線の開始地点(
図3の地点A)までの距離、基準地点から円曲線の開始地点(
図3の地点B)までの距離、基準地点から円曲線の終了地点(
図3の地点C)までの距離、基準地点から出口側緩和曲線の終了地点(
図3の地点D)までの距離]と、曲線の曲がり方向(右カーブ、左カーブ)の情報と、曲線区間の曲率(または曲率半径)及びカント(内軌側レールと外軌側レールの高低差)の情報とが、軌道情報データとしてメモリ21に記憶されている。なお、軌道情報データは、本例のように車両1に設けられた制御装置20に記憶されていてもよいし、車両1外に設けられた記憶装置に記憶されていてもよく、かかる場合、軌道情報データはネットワーク等を介し、車両1に提供される。
【0051】
制御装置20は、後述のマップ方式による曲線検出(=曲線の存在及び同曲線の曲がり方向の検出)及び傾斜角指令値Dm,Djの算出を行うとともに、後述のセンサ方式による曲線検出(=曲線の存在及び同曲線の曲がり方向の検出)及び傾斜角指令値Dsの算出を行うよう構成されている。
【0052】
マップ方式の場合、
図2に示す第1の曲線検出部23が、車速センサ11から得られる走行速度(V)を積算して、車両1の現在の走行位置を算出し、当該走行位置と軌道情報データとを照合して、曲線の存在及びその曲がり方向を検出する。そして、第1の曲線検出部23が曲線を検出すると、第1の指令値算出部24が傾斜角指令値Dmを算出する。
【0053】
このマップ方式による傾斜角指令値Dmは、例えば、軌道情報データとして記憶されている曲線の曲率(または曲率半径)及びカントと、走行速度Vとを所定の演算式に代入することで算出する。このような傾斜角指令値Dmの算出方法は、当業者によく知られた方法を用いることができ、本発明において特に限定されるものではないので、詳細は省略する。なお、傾斜角指令値Dmは、左右の空気ばね4で実施可能な最大傾斜角度(例えば、2度)を上限として算出される。
【0054】
また、第1の曲線検出部23は、車両1の現在の走行位置を算出し、当該走行位置と軌道情報データとを照合して、次に通過する曲線を検出し、この曲線の入口地点(入口側緩和曲線の開始地点)の手前から実施する事前傾斜の開始時刻を算出して、事前指令値算出部22へ出力する。この事前傾斜の開始時刻は、マップ方式による曲線検出予定時刻(曲線の入口地点への到達予定時刻)から所定時間ta(例えば1秒)前の時刻として算出する。この開始時刻は、軌道情報データに記録されている基準地点から入口側緩和曲線の開始地点(
図3の地点A)までの距離と、車速センサ11からの速度の時間積分によって算出される基準地点から現在地点までの走行距離と、現時点(現在地点)の走行速度とに基づいて算出できる。すなわち事前傾斜は、車両1が入口側緩和曲線の開始地点(曲線の入口地点)に到達する予定時刻よりも上記所定時間ta前の時刻から開始される。
【0055】
そして、事前指令値算出部22は、車両1が曲線の入口地点に到達する前の事前傾斜の開始時刻から車体を傾斜させるための事前傾斜角指令値Djを算出する。この事前傾斜角指令値Djは、曲線区間における最大の傾斜角より小さい角度であり、円曲線区間における傾斜角指令値Dmの所定割合の角度、例えば、傾斜角指令値Dmのx%(xは例えば30〜50の所定値)の角度として算出し、傾斜制御部28へ出力する。この事前傾斜角指令値Djに基づいて、傾斜制御部28は、事前傾斜を実施する。なお、事前傾斜の開始時刻を事前指令値算出部22が算出するようにしてもよい。
【0056】
このようなマップ方式による傾斜角指令値Dm,Djを用いた車体傾斜制御は、車両1が曲線区間に進入する際に遅れずに車体を傾斜させることができ、良好な乗り心地を実現できる。一方で、算出された走行位置が、車輪の空転や滑走等により誤差が生じた場合等は、曲線区間でない区間において車体を傾斜させて乗り心地を悪化させる場合もある。
【0057】
これに対して、センサ方式の場合、第2の曲線検出部25が、車速センサ11から得られる走行速度Vと、ヨーレートセンサ12から得られる旋回角速度ωとを用いて軌道の曲率(V/ω)を算出し、その曲率に基づいて曲線の存在及びその曲がり方向を検出する。例えば、右曲がりの旋回角速度ωを正(または負)とし、左曲がりの旋回角速度ωを負(または正)とすれば、旋回角速度ωまたは曲率(V/ω)の正負により、曲がり方向を検出できる。そして、第2の曲線検出部25が曲線を検出すると、第2の指令値算出部26が、加速度センサ13から得られる左右加速度yに基づいて傾斜角指令値Dsを算出する。
【0058】
このセンサ方式による傾斜角指令値Dsは、例えば、加速度センサ13から出力される左右加速度yがほぼ零となるための傾斜角に相当する値として算出される。なお、傾斜角指令値Dsは、左右加速度yではなく、台車のロール角速度から算出してもよい。すなわち、台車3のロール角速度を検出するジャイロセンサを設け、ロール角速度を時間積分してロール角度を算出し、そのロール角度から曲線のカントを求め、このカントと、旋回角速度ωと走行速度Vとから算出される曲線の曲率と、走行速度Vとを所定の演算式に代入して傾斜角指令値Dsを算出するようにしてもよい。このような傾斜角指令値Dsの算出方法は、当業者によく知られた方法を用いることができ、本発明において特に限定されるものではないので、詳細は省略する。なお、傾斜角指令値Dsも、左右の空気ばね4で実施可能な最大傾斜角度(例えば、2度)を上限として算出される。
【0059】
このようなセンサ方式による傾斜角指令値Dsを用いた車体傾斜制御は、確実に曲線を検知できる一方で、曲線検知は車両1が曲線区間進入後に行われるため、車体の傾斜に遅れが生じる。
【0060】
図4は、センサ方式によって曲線を検出する場合にその検出に遅れが生じることを説明するための図である。
【0061】
ここで、制御装置20(第2の曲線検出部25)では、車速センサ11からローパスフィルタ14を介して入力される走行速度Vと、ヨーレートセンサ12からローパスフィルタ15を介して入力される旋回角速度ωとを用いて曲率(=ω/V)を算出する。
図4のグラフg1は、算出される曲率を示す。そして、曲線と判定するための曲率の閾値を(1/Rd)とすれば、地点Yにおいて曲線を検知することができる。Rdは、曲線と判定するための曲率の閾値に対応する曲率半径(所定値)である。
【0062】
一方、ローパスフィルタ14,15が無いものとすれば、算出される曲率は、
図4のグラフg2で示される。すなわち、実際の曲線の入口地点である地点Xから曲率(g2)の増加傾向が示されている。
【0063】
したがって、距離L3は、実際の曲線の入口地点である地点X(
図3の場合の地点Aに相当)から、曲線が検出される地点Yまでに走行する距離である。この距離L3は、旋回角速度が入力されるローパスフィルタ15の処理時間による検出遅れ距離L1と、曲線と判定するための曲率の閾値(1/Rd)による検出遅れ距離L2との和になる。なお、曲率はω/Vとして算出され、走行中には、ローパスフィルタ14からは常に0ではない値をもつ走行速度Vが制御装置20へ入力されているため、フィルタ処理による検出遅れ距離L1は、曲線の存在によって0ではない旋回角速度ωが入力されるローパスフィルタ15の処理による遅れ時間に依存する。
【0064】
また、センサ方式の場合、直線区間から曲線区間へ入る場合に曲線区間の検出に遅れが生じるのと同様に、曲線区間から直線区間へ出る場合には直線区間の検出(曲線区間の終了の検出)に遅れが生じる。
【0065】
このようにマップ方式及びセンサ方式のいずれか一方による車体傾斜制御は、乗り心地を悪化させる場合があるが、本実施の形態では、両者の方式を併用することにより、確実な車体傾斜制御を行うことができる。以下、詳細について説明する。
【0066】
本実施形態では、上記両者の方式を併用するために、判定部27が、第1の曲線検出部23のマップ方式による曲線の検出結果を、第2の曲線検出部25のセンサ方式による曲線の検出結果と比較して、マップ方式による曲線の検出結果が誤りか正常(正しい)かを判定するよう構成されている。
【0067】
ここで、判定部27は、次の(1)〜(3)の場合に、マップ方式による曲線検出結果が誤りであると判定し、(1)〜(3)の場合に該当しなければ正常と判定する。また、(1)〜(3)のそれぞれの場合に該当する一例を
図5(a)〜(c)に示す。
図5(a)〜(c)には、それぞれ、軌道の曲率、マップ方式による曲線検出区間、センサ方式による曲線検出区間が示されている。
【0068】
(1)マップ方式による曲線検出がなされてから、次式で示す許容距離Lt走行する間にセンサ方式による曲線検出がなされなかった場合に、マップ方式による曲線検出結果が誤りであると判定する。
図5(a)の場合、距離Laが、La>Ltである。
【0069】
Lt=Ls+Tf・V+Rc・Le/Rd
ここで、Lsは乗り心地が許容できる走行位置誤差(所定値)、Tfはローパスフィルタ15の処理による所定の遅れ時間、Vは走行速度、Rcは曲率半径、Leは入口側緩和曲線の長さ、Rdは前述のように曲率の閾値に対応する所定の曲率半径である。Ls、Tf、Rdは、それぞれ予め記憶された所定の値である。また、Rcは軌道情報データに曲線ごとに記憶された値である。Leは、軌道情報データに曲線ごとに記憶された円曲線の開始位置から入口側緩和曲線の開始位置を減算することにより算出できる。
【0070】
(2)センサ方式による曲線検出が、マップ方式による曲線検出より早く行われた場合に、マップ方式による曲線検出結果(未検出)が誤りであると判定する。
図5(b)の場合、センサ方式による曲線検出があってから、距離Lbだけ走行した後で、マップ方式による曲線検出が行われているが、この曲線検出結果も誤りであると判定する。
【0071】
(3)マップ方式による曲線検出による曲線の曲がり方向と、センサ方式による曲線検出による曲線の曲がり方向とが所定時間(Tc)以上異なる場合に、マップ方式による曲線検出結果が誤りであると判定する。
図5(c)の場合、マップ方式による曲線検出による曲がり方向が左方向(左カーブ)であるが、センサ方式による曲線検出では、実際の軌道と同じ右方向(右カーブ)が検出されている。そして、マップ方式とセンサ方式とで検知された曲がり方向が異なる時間が所定時間Tc以上になっている。なお、
図5(c)におけるLcは、所定時間Tcの間の走行距離である。
【0072】
以上のように、判定部27は、マップ方式による曲線検出結果の判定結果を傾斜制御部28へ出力する。傾斜制御部28では、マップ方式による曲線検出結果が誤りであると判定された場合には、センサ方式による曲線検出結果に基づいて車体傾斜が行われるように空気ばね4を制御する。
【0073】
一方、
図6は、本実施形態において、マップ方式による曲線検出結果が正常な場合の車体傾斜制御方法を説明するための図である。
図6(a)は車両1が軌道を走行中の曲線の曲率の時間的変化を示し、
図6(b)は仮にマップ方式による曲線検出結果のみに基づいて車体傾斜制御を行う場合の傾斜角指令値の時間的変化を示し、
図6(c)は仮にセンサ方式による曲線検出結果のみに基づいて車体傾斜制御を行う場合の傾斜角指令値の時間的変化を示し、
図6(d)は本実施形態による一例(実施例)の車体傾斜制御を行う場合の傾斜角指令値の時間的変化を示している。
【0074】
実施例では、車両が曲線に入る手前において、前述の事前傾斜の開始時刻(時刻t1)からマップ方式による事前傾斜角指令値Djに基づいて事前傾斜を開始する。そして、曲線に入ってからセンサ方式による曲線検出がなされてマップ方式による曲線検出結果が正常と判定されると、車体の傾斜を本格的に開始する(時刻t3)。そして、曲線から出る場合には、マップ方式に基づいて車体の傾斜角を0に戻すように制御する(時刻t4〜t5)。
【0075】
以上のように、マップ方式による曲線検出結果が正常な場合には、マップ方式による傾斜角指令値Dmに基づいて車体傾斜を実施することにより、曲線区間を出て直線区間に入るときに車体2を傾斜状態から非傾斜状態へ戻すのに遅れを生じなくすることができる(但し、軌道情報データに基づく曲線区間の長さが実際の曲線区間の長さと等しい場合)。
【0076】
図7は、本実施形態における車体傾斜制御システムの動作の一例の概略を示すフローチャートである。この動作は制御装置20によって実現される。また、
図7は、本実施形態における車体傾斜制御方法の手順の一例の概略を示すフローチャートでもある。
【0077】
制御装置20は、常時、車両1の現在の走行位置、すなわち基準地点から現在地点までの走行距離を算出しながら、事前傾斜の開始時刻を算出するようにしている。
【0078】
そして、現在時点が事前傾斜の開始時刻であるか否かを判定し(ステップS1)、事前傾斜の開始時刻になると事前傾斜を開始する(ステップS2)。一方、事前傾斜の開始時刻になる前に、センサ方式による曲線の検出があれば、センサ方式による車体傾斜を実施する(ステップS11,S12)。
【0079】
また、ステップS2で事前傾斜を開始した後、算出された車両1の現在の走行位置と、軌道情報データとを照合して、曲線区間の開始地点(入口側緩和曲線の開始地点)であるか否かを判定する(ステップS3)。曲線区間の開始地点でないと判定されたにも拘わらず、センサ方式による曲線の検出があれば(ステップS13でYes)、センサ方式による車体傾斜を実施する(ステップS12)。このように、走行位置に検出誤差があったり軌道情報データが誤っている場合には、センサ方式により確実に車体傾斜を行うことができる。
【0080】
ステップS3において、曲線区間の開始地点であると判定された場合は、現在の走行位置が軌道情報データに基づく曲線区間の開始地点から許容距離Lt以内の間にセンサ方式による曲線の検出があるか否かを判定する(ステップS4、S15)。同検出があれば、センサ方式により検出される曲線の曲がり方向と軌道情報データの曲線の曲がり方向とを照合して、両者が所定時間Tcの間、一致するか否かを判定し(ステップS5)、所定時間Tcの間、一致すればマップ方式による曲線検出結果が正常であるので、マップ方式による車体傾斜を実施する(ステップS6)。一方、ステップS5において、所定時間Tcの間、一致しなければマップ方式による曲線検出結果が誤り(異常)であるので、センサ方式による車体傾斜を実施する(ステップS17)。
【0081】
一方、ステップS15において、現在の走行位置が軌道情報データに基づく曲線区間の開始地点から許容距離Lt以内の間にセンサ方式による曲線の検出がない場合には、マップ方式による曲線検出結果が誤り(異常)であるので、事前傾斜を中止し台車3に対して車体2を非傾斜状態にする(ステップS16)。なお、この後、センサ方式による曲線の検出があれば、センサ方式による車体傾斜を実施する。
【0082】
本実施形態では、車輪3aの空転・滑走等により走行位置に検出誤差が生じた場合や、軌道情報データと実際の軌道との間に不整合がある場合には、マップ方式による曲線検出結果が誤っていると判定されて、センサ方式による傾斜角指令値Dsを用いて車体傾斜が実施される(ステップS12,S17等)。これにより、実際の曲線に対応する区間で車体を傾斜させることができるとともに、実際の曲線に対応しない区間で車体を傾斜させる等の不具合を解消し、乗り心地を向上させることができる。また、マップ方式による曲線検出結果が正常な場合には、マップ方式による傾斜角指令値Dmに基づいて車体傾斜を実施する(ステップS6)ことにより、曲線区間を出て直線区間に入るときに車体2を傾斜状態から非傾斜状態へ戻すのに遅れを生じなくすることができ、乗り心地を向上させることができる(但し、軌道情報データに基づく曲線区間の長さが実際の曲線区間の長さと等しい場合)。
【0083】
また、事前傾斜を実施することにより、曲線区間に入るときに遅滞なく傾斜させることができ、乗り心地を向上させることができる。
【0084】
なお、変形例として、傾斜制御部28は、判定部27によってマップ方式による曲線検出結果が正常と判定された場合には(例えばステップS6において)、マップ方式による傾斜角指令値Dmと、センサ方式による傾斜角指令値Dsとを逐次比較して、その値(絶対値)が小さい方の指令値を用いて車体傾斜を実施するようにしてもよい。この変形例の場合の一例を
図8に示す。
【0085】
図8(a)〜(d)は、それぞれ
図6(a)〜(d)と同様にして示されている。ここでは、マップ方式による曲線検出結果は正常であるが、軌道情報データに誤りがあって軌道情報データに基づく曲線区間の長さが実際の曲線区間よりも長い場合を示している。
図8(a)は車両1が軌道を走行中の曲線の曲率の時間的変化を示し、
図8(b)は仮にマップ方式による曲線検出結果のみに基づいて車体傾斜制御を行う場合の傾斜角指令値の時間的変化を示し、
図8(c)は仮にセンサ方式による曲線検出結果のみに基づいて車体傾斜制御を行う場合の傾斜角指令値の時間的変化を示し、
図8(d)は本実施形態における変形例の車体傾斜制御を行う場合の傾斜角指令値の時間的変化を示している。
【0086】
この変形例では、車両が曲線に入る手前において、前述の事前傾斜の開始時刻(時刻t1)からマップ方式による事前傾斜角指令値Djに基づいて事前傾斜を開始する。そして、曲線に入ってからセンサ方式による曲線検出がなされてマップ方式による曲線検出結果が正常と判定されると、マップ方式による傾斜角指令値Dmと、センサ方式による傾斜角指令値Dsとを逐次比較して、その値が小さい方の指令値を用いて車体傾斜を本格的に開始する(時刻t3)。そして、曲線から出る場合には、値が小さい方の指令値、すなわち、ここではセンサ方式による傾斜角指令値Dsに基づいて車体の傾斜角を0に戻すように制御する(時刻t8〜t9)。なお、マップ方式による曲線の非検出区間では、その傾斜角指令値Dmを零とし、同様に、センサ方式による曲線の非検出区間では、その傾斜角指令値Dsを零とする。
【0087】
以上のように、マップ方式による曲線検出結果が正常である場合には、マップ方式による傾斜角指令値Dmとセンサ方式による傾斜角指令値Dsとを比較して、値(絶対値)が小さい方の指令値を用いて車体傾斜を実施することにより、軌道情報データに基づく曲線区間の長さが実際の曲線区間よりも長い場合であっても、曲線区間を出るときに車体2を傾斜状態から非傾斜状態へ戻すときの時間遅れを小さくすることができる。
【0088】
さらに、他の変形例として、傾斜制御部28は、判定部27によってマップ方式による曲線検出結果が正常と判定された場合には(例えばステップS6において)、マップ方式による傾斜角指令値Dmと、センサ方式による傾斜角指令値Dsとの平均値等の重み付け加算値(=k・Dm+(k−1)Ds、kは0<k<1を満足する所定値)を算出し、その値を用いて車体傾斜を実施するようにしてもよい。
【0089】
本実施形態では、マップ方式による曲線検出結果が誤っていると判定された場合には、センサ方式による傾斜角指令値Dsのみを用いて車体2の傾斜が実施される。故に、マップ方式による曲線検出結果が正常と判定された場合には、それが誤っていると判定された場合に比べて、判定後の曲線走行時において、センサ方式による傾斜角指令値Dsよりもマップ方式による傾斜角指令値Dmを用いて車体傾斜を行う時間的な比率を大きくするようになっている。
【0090】
(シミュレーション)
次に、本実施形態の一例(実施例)における車体傾斜制御方法と、比較例として、マップ方式による車体傾斜制御方法と、センサ方式による車体傾斜制御方法とによるそれぞれの場合についてシミュレーションを行った。このシミュレーションでは車両の走行位置の検出誤差はないものとする。
【0091】
まず、実施例と比較例のマップ方式とで用いる軌道情報データが正しい場合について、シミュレーションを行い、その結果得られた左右加速度の時間的変化と傾斜角指令値の時間的変化とを、それぞれ
図9(a)、(b)に示す。
図9(a)、(b)において、ケース1はセンサ方式による場合、ケース2はマップ方式による場合、ケース3は実施例による場合を示す。ケース2,3と比較して、ケース1のセンサ方式の場合には、曲線区間の入口付近(矢印31で示す部分)及び出口付近(矢印32で示す部分)において左右加速度の絶対値が大きくなっている。
【0092】
次に、実施例と比較例のマップ方式とで用いる軌道情報データにおいて、曲線の曲がり方向が誤っている場合について、シミュレーションを行い、その結果得られた左右加速度の時間的変化と傾斜角指令値の時間的変化とを、それぞれ
図10(a)、(b)に示す。
図10(a)、(b)において、ケース1はセンサ方式による場合、ケース4はマップ方式による場合、ケース5は実施例による場合を示す。ケース4のマップ方式の場合には、曲線に対して逆方向に傾斜させるため、左右加速度がより大きくなっているのに対し、ケース5の実施例の場合は、逆方向の事前傾斜が行われるが、曲線の入口部分で軌道情報データの誤りが検知されて、正常な方向への傾斜が行われるので、その後はケース1のセンサ方式とほぼ同等の左右加速度になっている。なお、
図10(b)において、曲線区間の出口付近において実施例(ケース5)とセンサ方式(ケース1)との傾斜角指令値が異なっている部分があるが、これはシミュレーション上の誤差である。
【0093】
以上のシミュレーションにおいて、車体傾斜乗り心地指標(TCT値)を算出した結果を
図11に示す。
【0094】
TCT値は、入口側緩和曲線区間及び出口側緩和曲線区間におけるy
p、y
j、θ
p、θ
jを求め、それらを用いて、次式により算出している。
【0095】
TCT値=0.6y
p+0.3y
j+0.03θ
p+0.12θ
j+0.5
ここで、y
pは左右加速度の最大値、y
jは左右ジャーク(左右加速度の時間変化率)の最大値、θ
pはロール角速度(ローリングの角速度)の最大値、θ
jはロール角加速度(ローリングの角加速度)の最大値である。TCT値における乗り心地の評価は、2未満が大変良い、2以上3未満が良い、3以上が許容できない(悪い)となる。
【0096】
軌道情報データが正しい場合(
図9(a)(b)参照)には、実施例(ケース3)では、センサ方式(ケース1)に比べて、曲線の入口及び出口付近において左右加速度の絶対値が小さくなっており、TCT値も小さく、マップ方式(ケース2)と同等の乗り心地(TCT値=2.1)が得られている。
【0097】
一方、軌道情報データにおいて曲線の曲がり方向が誤っていた場合(
図10(a)(b)参照)には、マップ方式(ケース4)では、曲線に対して逆方向に傾斜させるので左右加速度が非常に大きくなり、乗り心地が著しく悪化しているのに対し、実施例(ケース5)では、逆方向の事前傾斜が行われるが、曲線の入口部分で軌道情報データの誤りが検知されて、正常な方向への傾斜が行われることになるので、センサ方式(ケース1)と同等の乗り心地(TCT値=2.5)を確保できている。
【0098】
なお、本実施形態において、マップ方式による曲線検出結果が誤っていると判定した場合(例えば、
図7のステップS5でNoの場合、ステップS11、S13でYesの場合、ステップS15でNoの場合)には、その判定結果を制御装置20が記憶するようにしてもよい。これにより、走行後に、膨大なデータ量からなる軌道情報データの不整合箇所の検出が容易となり、軌道情報データの修正を効率化することができる。