特許第6231922号(P6231922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231922
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 63/30 20060101AFI20171106BHJP
   F16H 61/28 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   F16H63/30
   F16H61/28
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-65339(P2014-65339)
(22)【出願日】2014年3月27日
(65)【公開番号】特開2015-187485(P2015-187485A)
(43)【公開日】2015年10月29日
【審査請求日】2016年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】右近 靖幸
(72)【発明者】
【氏名】佐山 大介
(72)【発明者】
【氏名】神田 和紘
(72)【発明者】
【氏名】藤井 忠則
【審査官】 瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−096544(JP,A)
【文献】 実開昭52−037176(JP,U)
【文献】 特開2013−210086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 63/30
F16H 61/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1ドグが回転方向に配列された第1回転体と、
前記第1回転体と同軸上に設けられ、前記第1ドグに噛合可能な複数の第2ドグが回転方向に配列された第2回転体と、
を備え、
前記第1回転体および前記第2回転体が回転軸方向に近接する近接方向に相対移動すると、前記第1ドグおよび前記第2ドグが噛合して該第1回転体と該第2回転体とが一体回転する動力伝達状態となり、該第1回転体および該第2回転体が回転軸方向に離間する離間方向に相対移動すると、該第1ドグおよび該第2ドグの噛合が解除されて該第1回転体と該第2回転体とが相対回転する切り離し状態となる動力伝達装置であって、
前記第1回転体を回転自在に支持するとともに、前記第1回転体を前記回転軸方向に移動させるシフトフォークと、
前記シフトフォークと一体となって前記回転軸方向に移動する第1部材と、
前記第1部材に連結部を介して連結され、アクチュエータからの動力を受けて、該連結部を介して該第1部材を前記回転軸方向に移動させる第2部材と、
を備え、
前記連結部には、
前記第1部材と前記第2部材との前記回転軸方向の相対移動を許容する衝撃吸収部が設けられ、
前記第1部材と前記第2部材が前記回転軸方向に相対移動可能な長さは、前記第1ドグおよび前記第2ドグが噛み合う面の該回転軸方向の長さ以上であることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記連結部は、
突起を有し、前記第1部材、または、前記第2部材のいずれか一方に固定されるオス部材と、
前記突起の前記回転軸方向の長さよりも該回転軸方向に長く延在して該突起が係合する溝を有し、前記第1部材、または、前記第2部材のいずれか他方に固定されるメス部材と、
を有し、
前記衝撃吸収部は、前記突起と前記溝で構成され、該突起が該溝内を摺動することで、前記第1部材が前記第2部材に対して相対移動することを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に車両の変速機に用いられる動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に示される変速機が知られている。この変速機は、出力軸に回転自在に装着された低速段ギヤおよび高速段ギヤと、低速段ギヤと高速段ギヤとの間のシャフトに固定されたハブと、このハブに軸方向に移動自在且つ周方向に一体回転するように装着された第1キーおよび第2キーと、を備えている。
【0003】
この変速機によれば、例えば、加速時において、アクチュエータによって第1キーおよび第2キーを低速段ギヤ側に移動させると、第1キーが低速段ギヤの側面に設けられたドグと係合し、第1キーのみで、低速段ギヤとハブとの間の動力伝達が実現される。このとき、第2キーは、低速段ギヤに対して非係合状態となっており、第1キーを介した動力伝達中においても、高速段ギヤ側に移動させることができる。
【0004】
そして、第2キーを高速段ギヤ側に移動させると、当該第2キーが高速段ギヤの側面に設けられたドグと係合し、第2キーによって、高速段ギヤとハブとの間の動力伝達が実現される。動力伝達経路が低速段ギヤから高速段ギヤに切り替わると、シャフトの回転数が低下するため、動力伝達経路が切り替わるのと同時に、第1キーと低速段ギヤとの係合が解除され、第1キーの高速段ギヤ側への切り替えが可能となる。そして、第1キーを高速段ギヤ側に移動させれば、トルク切れを生じることなく、低速段ギヤから高速段ギヤへの変速(アップシフト)を完了することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010−510464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のように動力伝達経路を切り替えるとき、高速段ギヤに第2キーを係合した直後に、低速段ギヤのドグに係合していた第1キーを、ドグから引き抜かなければならない。しかし、第1キーをドグから抜き切る前に、第1キーとドグが衝突することがある。そうすると、アクチュエータにまで衝撃が伝達し、アクチュエータに過大な荷重が作用する。このような荷重に耐えるようにアクチュエータを設計するとアクチュエータが大型化してしまう。
【0007】
そこで、本発明は、アクチュエータへの衝撃を緩衝し、アクチュエータの大型化を回避することができる動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の動力伝達装置は、複数の第1ドグが回転方向に配列された第1回転体と、第1回転体と同軸上に設けられ、第1ドグに噛合可能な複数の第2ドグが回転方向に配列された第2回転体と、を備え、第1回転体および第2回転体が回転軸方向に近接する近接方向に相対移動すると、第1ドグおよび第2ドグが噛合して第1回転体と第2回転体とが一体回転する動力伝達状態となり、第1回転体および第2回転体が回転軸方向に離間する離間方向に相対移動すると、第1ドグおよび第2ドグの噛合が解除されて第1回転体と第2回転体とが相対回転する切り離し状態となる動力伝達装置であって、第1回転体を回転自在に支持するとともに、第1回転体を回転軸方向に移動させるシフトフォークと、シフトフォークと一体となって回転軸方向に移動する第1部材と、第1部材に連結部を介して連結され、アクチュエータからの動力を受けて、連結部を介して第1部材を回転軸方向に移動させる第2部材と、を備え、連結部には、第1部材と第2部材との回転軸方向の相対移動を許容する衝撃吸収部が設けられ、第1部材と第2部材が回転軸方向に相対移動可能な長さは、第1ドグおよび第2ドグが噛み合う面の回転軸方向の長さ以上であることを特徴とする。
【0009】
連結部は、突起を有し、第1部材、または、第2部材のいずれか一方に固定されるオス部材と、突起の回転軸方向の長さよりも回転軸方向に長く延在して突起が係合する溝を有し、第1部材、または、第2部材のいずれか他方に固定されるメス部材と、を有し、衝撃吸収部は、突起と溝で構成され、突起が溝内を摺動することで、第1部材が第2部材に対して相対移動してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アクチュエータへの衝撃を緩衝し、アクチュエータの大型化を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】自動車用の変速機の概略を示す図である。
図2】軸切替機構を説明する概略断面図である。
図3】第2切替装置の分解斜視図である。
図4】第2切替装置の側面図である。
図5】加速時における第2メインシャフトから第1メインシャフトへの動力伝達経路の切り替えを説明する図である。
図6】減速時における第1メインシャフトから第2メインシャフトへの動力伝達経路の切り替えを説明する図である。
図7】緩衝機構を説明する図である。
図8】制御部によるアクチュエータの制御処理について説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
(変速機の概要)
図1は、自動車用の変速機1の概略を示す図である。エンジンEの駆動力を駆動輪に伝達する本実施形態の変速機1は、ミッションケースに保持されたベアリングに回転自在に軸支され、発進クラッチ2を介してエンジンEのクランクシャフトに接続された入力軸3を備えている。入力軸3は、エンジンEの駆動力によって回転するものであり、エンジンEからの動力の伝達経路の上流側に配される第1入力軸3aと、下流側に配される第2入力軸3bと、で構成され、これら第1入力軸3aおよび第2入力軸3bの間に、緩衝機構300が設けられている。この緩衝機構300は、入力軸3に設定トルク以上のトルク変動をもたらすスパイクトルクが生じると、すべり運動を生じさせて第1入力軸3aと第2入力軸3bとを相対回転させ、スパイクトルクを予め設定された設定トルクまでカットする。
【0015】
また、変速機1は、ミッションケースに保持されたベアリングに回転自在に軸支され、入力軸3と相対回転自在に配された第1メインシャフト4および第2メインシャフト5を備えている。第1メインシャフト4および第2メインシャフト5は、入力軸3に対して平行に配されるとともに、互いに軸心を一致させた状態で、軸方向に離間して対向配置されている。また、第1メインシャフト4は中空で構成され、第1メインシャフト4の内部に入力軸3(第2入力軸3b)が相対回転自在に挿通されている。さらに、ミッションケースには、ベアリングに回転自在に軸支され、入力軸3、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5に対して平行に配された出力軸6が収容されている。
【0016】
第1メインシャフト4および第2メインシャフト5には、それぞれ複数のドライブギヤDv(1速用ドライブギヤ11〜4速用ドライブギヤ14)が固定されている。より詳細には、第2メインシャフト5には、1速用ドライブギヤ11および3速用ドライブギヤ13が固定されており、第1メインシャフト4には、2速用ドライブギヤ12および4速用ドライブギヤ14が固定されている。このように、本実施形態の変速機1は、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5に、それぞれギヤ比を異にする複数段のドライブギヤDvが設けられ、連続するギヤ比のドライブギヤDvが、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5に交互に配されている。
【0017】
一方、出力軸6は、駆動輪に接続されており、ドライブギヤDvそれぞれに噛合するドリブンギヤDn(1速用ドリブンギヤ21〜4速用ドリブンギヤ24)が相対回転自在に設けられている。また、出力軸6には、当該出力軸6にドリブンギヤDnを連結させて、当該ドリブンギヤDnと出力軸6とを一体回転させる連結状態、および、出力軸6とドリブンギヤDnとが相対回転する切り離し状態のいずれかを選択的に切り替えるギヤ切替機構100a、100bが設けられている。
【0018】
ギヤ切替機構100aは、1速用ドリブンギヤ21と3速用ドリブンギヤ23との間に設けられ、出力軸6に対して1速用ドリブンギヤ21および3速用ドリブンギヤ23のいずれか一方を連結状態にしたとき、出力軸6に対して1速用ドリブンギヤ21および3速用ドリブンギヤ23のいずれか他方を切り離し状態にする。
【0019】
具体的に説明すると、ギヤ切替機構100aは、1速用ドリブンギヤ21と3速用ドリブンギヤ23との間において、出力軸6に相対回転不能に固定されたハブ101aと、ハブ101aに出力軸6の軸方向に移動自在に保持されたスリーブ102aと、を有する。スリーブ102aの外周には、不図示のシフトフォークが係合されており、不図示のアクチュエータ(電動シリンダ等)によって出力軸6の軸方向に移動される。
【0020】
また、ギヤ切替機構100aは、1速用ドリブンギヤ21に固定されたハブ21aと、3速用ドリブンギヤ23に固定されたハブ23aと、を備えている。これらハブ21a、23aは互いに対向配置されており、いずれもスリーブ102aに係合可能に構成されている。そして、スリーブ102aが図示のニュートラル位置にある場合には、スリーブ102aが1速用ドリブンギヤ21のハブ21aおよび3速用ドリブンギヤ23のハブ23aと切り離し状態にあり、1速用ドリブンギヤ21および3速用ドリブンギヤ23が、出力軸6に対して相対回転する。
【0021】
これに対して、スリーブ102aが軸方向に沿って1速用ドリブンギヤ21側に移動されると、スリーブ102aが1速用ドリブンギヤ21のハブ21aに係合し、出力軸6のハブ101aと、1速用ドリブンギヤ21のハブ21aとが、スリーブ102aによって架け渡された状態となる。これにより、出力軸6に対して1速用ドリブンギヤ21が連結状態となり、1速用ドリブンギヤ21が出力軸6と一体回転するとともに、出力軸6に対して3速用ドリブンギヤ23が切り離し状態となり、3速用ドリブンギヤ23が出力軸6と相対回転する。また、スリーブ102aが軸方向に沿って3速用ドリブンギヤ23側に移動されると、スリーブ102aが3速用ドリブンギヤ23のハブ23aに係合し、出力軸6のハブ101aと、3速用ドリブンギヤ23のハブ23aとが、スリーブ102aによって架け渡された状態となる。これにより、出力軸6に対して3速用ドリブンギヤ23が連結状態となり、3速用ドリブンギヤ23が出力軸6と一体回転するとともに、出力軸6に対して1速用ドリブンギヤ21が切り離し状態となり、1速用ドリブンギヤ21が出力軸6と相対回転する。
【0022】
なお、ここでは、ギヤ切替機構100aについて説明したが、ギヤ切替機構100bもギヤ切替機構100aと同様に構成されている。すなわち、ギヤ切替機構100bは、2速用ドリブンギヤ22と4速用ドリブンギヤ24との間において、出力軸6に相対回転不能に固定されたハブ101bと、ハブ101bに出力軸6の軸方向に移動自在に保持されたスリーブ102bと、2速用ドリブンギヤ22に固定されたハブ22aと、4速用ドリブンギヤ24に固定されたハブ24aと、を備えている。そして、スリーブ102bが図示のニュートラル位置にある場合には、スリーブ102bが2速用ドリブンギヤ22のハブ22aおよび4速用ドリブンギヤ24のハブ24aと切り離し状態にあり、2速用ドリブンギヤ22および4速用ドリブンギヤ24が、出力軸6に対して相対回転する。
【0023】
一方、スリーブ102bが軸方向に沿って2速用ドリブンギヤ22側に移動されると、スリーブ102bが2速用ドリブンギヤ22のハブ22aに係合し、出力軸6のハブ101bと、2速用ドリブンギヤ22のハブ22aとが、スリーブ102bによって架け渡された状態となる。これにより、出力軸6に対して2速用ドリブンギヤ22が連結状態となり、2速用ドリブンギヤ22が出力軸6と一体回転するとともに、出力軸6に対して4速用ドリブンギヤ24が切り離し状態となり、4速用ドリブンギヤ24が出力軸6と相対回転する。また、スリーブ102bが軸方向に沿って4速用ドリブンギヤ24側に移動されると、スリーブ102bが4速用ドリブンギヤ24のハブ24aに係合し、出力軸6のハブ101bと、4速用ドリブンギヤ24のハブ24aとが、スリーブ102bによって架け渡された状態となる。これにより、出力軸6に対して4速用ドリブンギヤ24が連結状態となり、4速用ドリブンギヤ24が出力軸6と一体回転するとともに、出力軸6に対して2速用ドリブンギヤ22が切り離し状態となり、2速用ドリブンギヤ22が出力軸6と相対回転する。
【0024】
なお、スリーブ102aと1速用ドリブンギヤ21のハブ21aとの間、スリーブ102aと3速用ドリブンギヤ23のハブ23aとの間、スリーブ102bと2速用ドリブンギヤ22のハブ22aとの間、および、スリーブ102bと4速用ドリブンギヤ24のハブ24aとの間には、それぞれシンクロメッシュ機構(同期機構)が設けられている。
【0025】
そして、図1に示すように、変速機1は、入力軸3の回転動力の伝達経路を、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5のいずれかに選択的に切り替える軸切替機構50を備えている。この軸切替機構50は、動力伝達経路として第1メインシャフト4が選択されると、入力軸3と第1メインシャフト4とを一体回転させ、動力伝達経路として第2メインシャフト5が選択されると、入力軸3と第2メインシャフト5とを一体回転させるものである。以下に、軸切替機構50の構成について詳細に説明する。
【0026】
(軸切替機構50の構成)
図2は、軸切替機構50を説明する概略断面図である。軸切替機構50は、第2入力軸3bに設けられたドグ部材51(第2回転体)、第1メインシャフト4に設けられた第1切替装置50a、および、第2メインシャフト5に設けられた第2切替装置50bで構成されている。図1図2に示すように、第2入力軸3bは、第1メインシャフト4よりも軸長が長く形成されており、第2入力軸3bのうち、緩衝機構300が設けられた端部と反対側の端部が、中空の第1メインシャフト4よりも軸方向に突出している。そして、この第2入力軸3bにおける第1メインシャフト4よりも突出した部位、すなわち、第1メインシャフト4と第2メインシャフト5との間にドグ部材51が設けられている。
【0027】
このドグ部材51は、第2入力軸3bの端部にスプライン係合されており、軸方向の移動が規制されたまま、第2入力軸3bと一体回転する。詳しくは後述するが、ドグ部材51は、第1切替装置50a側に位置する端面に待機ドグ52a(第2ドグ)、第2切替装置50b側に位置する端面に待機ドグ52b(第2ドグ)が、それぞれ、複数(本実施形態では3つ)、周方向に等間隔を維持して突設されている。
【0028】
また、第1切替装置50aは、第1メインシャフト4におけるドグ部材51側の端部に設けられており、第2切替装置50bは、第2メインシャフト5におけるドグ部材51側の端部に設けられている。これら第1切替装置50aおよび第2切替装置50bは、一部の部品の寸法が異なる点を除いて同一の構成である。
【0029】
また、第1切替装置50aおよび第2切替装置50bは、それぞれ、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5の軸方向(以下、単に軸方向と称す)に移動自在なドライブ側スリーブ53(第1回転体)およびコースト側スリーブ54(第1回転体)を備えている。
【0030】
図3は、第2切替装置50bの分解斜視図である。第2切替装置50bは、ドライブ側スリーブ53とコースト側スリーブ54の双方を備え、双方のいずれに対しても、後述する連結部は同様に作用するため、ここでは、コースト側スリーブ54については図示および説明を省略する。
【0031】
図3に示すように、第2切替装置50bは、第2メインシャフト5に固定され第2メインシャフト5と一体回転する略円筒状のハブ55を備えている。ハブ55の外周面には、ハブ55の径方向内側に窪み、軸方向に延在する溝55aが、第2メインシャフト5の周方向(以下、単に周方向と称す)に等間隔に複数形成されている。
【0032】
ドグ部材51は、軸方向に貫通し不図示のスプライン溝が形成された貫通孔51aを有する。そして、ドグ部材51は、貫通孔51aに第2入力軸3bが挿通され、ハブ55に対して軸方向に対向して配置される。また、ドグ部材51の外周側には、上述したように、待機ドグ52bが周方向(回転方向)に等間隔に複数配列されている。
【0033】
ドライブ側スリーブ53は、環状のリング部53aを有し、リング部53aの中心にハブ55が挿通される。また、ドライブ側スリーブ53は、キー部53bを有する。キー部53bは、リング部53aからリング部53aの径方向内側に突出するとともに、ドグ部材51に向かって軸方向に延在する。
【0034】
キー部53bは、周方向(回転方向)に等間隔に複数(ここでは3つ)配列されており、キー部53bの先端には、待機ドグ52bと噛合可能な飛込ドグ53c(第1ドグ)が形成されている。そして、キー部53bは、ハブ55の溝55aに嵌合しており、ドライブ側スリーブ53は、キー部53bがハブ55の溝55aを摺動することで、軸方向に移動する。
【0035】
そして、ドライブ側スリーブ53は、キー部53bがハブ55の溝55aに嵌合していることから、ハブ55に対する相対回転が規制され、第2メインシャフト5およびハブ55とともに一体回転することとなる。
【0036】
図1図2に示すように、ドライブ側スリーブ53およびコースト側スリーブ54にはシフトフォーク7が係合している。シフトフォーク7は、図1に示す制御部10の制御によって駆動するアクチュエータ8からの押圧力を受けて軸方向に可動する。シフトフォーク7とアクチュエータ8の間、すなわち、アクチュエータ8からドライブ側スリーブ53、コースト側スリーブ54への押圧力の伝達経路には、コイルばねで構成される付勢部9が配される。付勢部9は、アクチュエータ8からの押圧力およびドライブ側スリーブ53、コースト側スリーブ54からの反力を受けて弾性変形する。制御部10の制御処理および付勢部9の作用については後に詳述する。そして、シフトフォーク7の可動によって、飛込ドグ53cと待機ドグ52bとを噛合させたり、あるいは、その噛合を解除したりする。
【0037】
図4は、第2切替装置50bの側面図であり、ドライブ側スリーブ53の飛込ドグ53cと、ドグ部材51の待機ドグ52bの近傍を抽出して示す。図4(a)では、ドライブ側スリーブ53の飛込ドグ53cと、ドグ部材51の待機ドグ52bが噛合していない。この状態では、ドライブ側スリーブ53は、ハブ55とともに、第2メインシャフト5と一体回転する。一方、ドグ部材51は、第2メインシャフト5と相対回転自在となっている。
【0038】
そして、上述したシフトフォーク7が、ドライブ側スリーブ53をドグ部材51側に移動させる。すると、図4(b)に示すように、ドライブ側スリーブ53の飛込ドグ53cが、ドグ部材51に設けられた複数の待機ドグ52bの周方向の隙間に入る。
【0039】
このように、図4(a)から図4(b)へと、ドグ部材51およびドライブ側スリーブ53が互いに近接する近接方向に相対移動すると、待機ドグ52bおよび、ドライブ側スリーブ53に設けられた飛込ドグ53cが噛合して待機ドグ52bと飛込ドグ53cが一体回転する動力伝達状態となる。
【0040】
また、図4(b)から図4(a)へと、ドグ部材51およびドライブ側スリーブ53が互いに離間する離間方向に相対移動すると、ドグ部材51およびドライブ側スリーブ53の噛合が解除されて待機ドグ52bと飛込ドグ53cが相対回転する切り離し状態となる。
【0041】
図5は、加速時における第2メインシャフト5から第1メインシャフト4への動力伝達経路の切り替えを説明する図である。なお、以下において、「加速」とは、エンジンEの駆動力によって車両が加速する状態をいうものであり、例えば、坂を下るときに、自重によって車両が加速する状態をいうものではない。軸切替機構50は、図5に示すように、待機ドグ52aが設けられたドグ部材51の一方の側面側に第1切替装置50aが配され、待機ドグ52bが設けられたドグ部材51の他方の側面側に第2切替装置50bが配される。以下では、車両の前進走行時、ドグ部材51(入力軸3)、第1切替装置50a(第1メインシャフト4)および第2切替装置50b(第2メインシャフト5)は、いずれも実線矢印で示す方向に回転するものとして説明する。
【0042】
待機ドグ52aは、ドグ部材51(入力軸3)の回転方向前方側に位置するリーディング面52afと、回転方向後方側に位置するトレーリング面52arと、を備えている。待機ドグ52aは、ドグ部材51(入力軸3)の回転方向の幅が、突設方向の基端側(ドグ部材51側)よりも先端側(第1切替装置50a側)の方が広い、すなわち、先端幅広の形状となっている。同様に、待機ドグ52bは、ドグ部材51(入力軸3)の回転方向前方側に位置するリーディング面52bfと、回転方向後方側に位置するトレーリング面52brと、を備えている。待機ドグ52bは、ドグ部材51(入力軸3)の回転方向の幅が、突設方向の基端側(ドグ部材51側)よりも先端側(第2切替装置50b側)の方が広い、すなわち、先端幅広の形状となっている。
【0043】
そして、第1切替装置50aのドライブ側スリーブ53の飛込ドグ53cは、待機ドグ52aのリーディング面52afに係合可能なリーディング爪53fを備えており、また、第1切替装置50aのコースト側スリーブ54の飛込ドグ54cは、待機ドグ52aのトレーリング面52arに係合可能なトレーリング爪54rを備えている。これらリーディング爪53fおよびトレーリング爪54rは、それぞれ待機ドグ52aのリーディング面52afおよびトレーリング面52arに面接触状態で係合するように、テーパ状に形成されている。
【0044】
一方、第2切替装置50bのドライブ側スリーブ53の飛込ドグ53cは、待機ドグ52bのリーディング面52bfに係合可能なリーディング爪53fを備えており、また、第2切替装置50bのコースト側スリーブ54の飛込ドグ54cは、待機ドグ52bのトレーリング面52brに係合可能なトレーリング爪54rを備えている。これらリーディング爪53fおよびトレーリング爪54rは、それぞれ待機ドグ52bのリーディング面52bfおよびトレーリング面52brに面接触状態で係合するように、テーパ状に形成されている。
【0045】
そして、図5(a)に示すように、制御部10がアクチュエータ8を制御していない場合、すなわち、第1切替装置50aおよび第2切替装置50bがいずれも切り離し状態にあるとき、飛込ドグ53cおよび飛込ドグ54cがいずれもドグ部材51から離隔した位置に保持される。このとき、飛込ドグ53cおよび飛込ドグ54cは、いずれも待機ドグ52aおよび待機ドグ52bと非係合状態となっており、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5が、入力軸3から切り離されて相対回転可能な状態に維持されている。
【0046】
上記の状態から、例えば、変速段を1速にシフトする場合には、第2切替装置50bを連結状態とし、第2切替装置50bを介して、入力軸3および第2メインシャフト5を一体回転させる。より詳細に説明すると、1速にシフトする場合、制御部10は、図1において説明したように、予め、ギヤ切替機構100aのスリーブ102aを1速用ドリブンギヤ21側に移動させ、出力軸6と1速用ドリブンギヤ21とが一体回転する連結状態にする。
【0047】
この状態で、制御部10は、アクチュエータ8を制御して、図5(b)に示すように、第2切替装置50bの飛込ドグ53cおよび飛込ドグ54cを、ドグ部材51側に移動させる。このとき、飛込ドグ53cのリーディング爪53fが、待機ドグ52bのリーディング面52bfに係合し、入力軸3の回転動力が、ドグ部材51の待機ドグ52b、飛込ドグ53cを介して第2メインシャフト5に伝達され、入力軸3と第2メインシャフト5とが一体回転する。これにより、エンジンEの駆動力が、入力軸3、ドグ部材51、第2切替装置50b、第2メインシャフト5、1速用ドライブギヤ11、1速用ドリブンギヤ21および出力軸6を介して駆動輪に伝達される(図1参照)。
【0048】
また、車両の加速状態において、1速から2速にアップシフトする際には、制御部10が、次のようにアクチュエータ8を制御する。すなわち、1速から2速にアップシフトする場合、制御部10は、予め、ギヤ切替機構100bのスリーブ102bを2速用ドリブンギヤ22側に移動させ、出力軸6と2速用ドリブンギヤ22とが一体回転する連結状態にする(図1参照)。これにより、第1メインシャフト4には、2速用ドリブンギヤ22および2速用ドライブギヤ12を介して、出力軸6の回転動力が伝達され、第1メインシャフト4が回転状態となる。
【0049】
このとき、第1メインシャフト4の回転数は、ドグ部材51(入力軸3)よりも小さいため、ドグ部材51と第1切替装置50aとの間に差回転が生じている。この状態で、制御部10は、アクチュエータ8を制御して、図5(c)に示すように、第2切替装置50bの飛込ドグ54cを、ドグ部材51から離間する方向に移動させるとともに、第1切替装置50aの飛込ドグ53cを、ドグ部材51側に移動させる。
【0050】
なお、1速の加速状態では、第2切替装置50bにおける飛込ドグ53cのリーディング爪53fが待機ドグ52bのリーディング面52bfに係合しているが、飛込ドグ54cと待機ドグ52bのトレーリング面52brとは非係合状態に維持されている。したがって、第2切替装置50bの飛込ドグ54cは、ドグ部材51から離間する方向に移動可能となっている。
【0051】
そして、図5(c)に示すように、ドグ部材51と第1切替装置50aとの間に差回転が生じた状態で、第1切替装置50aの飛込ドグ53cが、ドグ部材51側に移動すると、図5(d)に示すように、第1切替装置50aの飛込ドグ53cのリーディング爪53fが、待機ドグ52aのリーディング面52afに係合する。このように、第1切替装置50aの飛込ドグ53cが待機ドグ52aに係合すると、第2メインシャフト5と入力軸3とが動力伝達状態を維持したまま、動力伝達経路が、瞬間的に第1メインシャフト4側に切り替わる。換言すれば、1速用ドライブギヤ11および1速用ドリブンギヤ21を介した動力伝達状態を維持したまま、動力伝達経路が、瞬間的に2速用ドライブギヤ12および2速用ドリブンギヤ22に切り替わるため、トルク切れを生じることなく変速がなされることとなる。
【0052】
また、このとき、第1切替装置50aの飛込ドグ53cと、ドグ部材51の待機ドグ52aとが係合すると、入力軸3の回転数が低下する。これにより、第2切替装置50bの飛込ドグ53cの回転数が、ドグ部材51の回転数よりも大きくなり、第2切替装置50bの飛込ドグ53cとドグ部材51の待機ドグ52bとの係合が解除される。したがって、制御部10は、アクチュエータ8を制御して、第1切替装置50aの飛込ドグ54cをドグ部材51側に移動させるとともに、第2切替装置50bの飛込ドグ53cをドグ部材51から離間する方向に移動させる。また、これと同時に、ギヤ切替機構100aを制御して、1速用ドリブンギヤ21と出力軸6とを切り離し状態にする。これにより、図5(e)に示すように、1速から2速への加速時アップシフトが完了することとなる。
【0053】
以上のように、本実施形態の変速機1によれば、トルク切れを生じることなく、アップシフトを行うことができる。なお、ここでは、1速から2速への加速時アップシフトについて説明したが、3速から4速への加速時アップシフトも上記と同様である。
【0054】
図6は、減速時における第1メインシャフト4から第2メインシャフト5への動力伝達経路の切り替えを説明する図である。なお、以下において、「減速」とは、エンジンブレーキによる車両の減速状態をいうものであり、坂を上るときに車両が減速する状態をいうものではない。例えば、上記のようにして、1速から2速にアップシフトされ、第1メインシャフト4と入力軸3とが連結状態にあるとする。そして、車両が2速の減速状態で走行している場合には、図6(a)に示すように、第1切替装置50aにおける飛込ドグ54cのトレーリング爪54rが、待機ドグ52aのトレーリング面52arに係合されており、第1切替装置50aの飛込ドグ54cおよびドグ部材51の待機ドグ52aを介して、入力軸3と第1メインシャフト4とが一体回転している。
【0055】
上記の状態において、2速から1速にダウンシフトする際には、制御部10が、次のようにアクチュエータ8を制御する。すなわち、2速から1速にダウンシフトする場合、制御部10は、予め、ギヤ切替機構100aのスリーブ102aを1速用ドリブンギヤ21側に移動させ、出力軸6と1速用ドリブンギヤ21とが一体回転する連結状態にする(図1参照)。これにより、第2メインシャフト5には、1速用ドリブンギヤ21および1速用ドライブギヤ11を介して、出力軸6の回転動力が伝達され、第2メインシャフト5が回転状態となる。
【0056】
このとき、第2メインシャフト5の回転数は、ドグ部材51(入力軸3)よりも大きいため、ドグ部材51と第2切替装置50bとの間に差回転が生じている。この状態で、制御部10は、アクチュエータ8を制御して、図6(b)に示すように、第1切替装置50aの飛込ドグ53cを、ドグ部材51から離間する方向に移動させるとともに、第2切替装置50bの飛込ドグ54cを、ドグ部材51側に移動させる。
【0057】
なお、2速の減速状態では、第1切替装置50aにおける飛込ドグ54cのトレーリング爪54rが待機ドグ52aのトレーリング面52arに係合しているが、飛込ドグ53cと待機ドグ52aのリーディング面52afとは非係合状態に維持されている。したがって、第1切替装置50aの飛込ドグ53cは、ドグ部材51から離間する方向に移動可能となっている。
【0058】
そして、ドグ部材51と第2切替装置50bとの間に差回転が生じた状態で、第2切替装置50bの飛込ドグ54cが、ドグ部材51側に移動すると、図6(c)に示すように、第2切替装置50bの飛込ドグ54cのトレーリング爪54rが、待機ドグ52bのトレーリング面52brに係合する。このように、第2切替装置50bの飛込ドグ54cが待機ドグ52bに係合すると、第1メインシャフト4と入力軸3とが動力伝達状態を維持したまま、動力伝達経路が、瞬間的に第2メインシャフト5側に切り替わる。換言すれば、2速用ドライブギヤ12および2速用ドリブンギヤ22を介した動力伝達状態を維持したまま、動力伝達経路が、瞬間的に1速用ドライブギヤ11および1速用ドリブンギヤ21に切り替わるため、トルク切れを生じることなく変速がなされることとなる。
【0059】
また、このとき、第2切替装置50bの飛込ドグ54cと、ドグ部材51の待機ドグ52bとが係合すると、入力軸3の回転数が上昇する。これにより、第1切替装置50aの飛込ドグ54cの回転数が、ドグ部材51の回転数よりも小さくなり、第1切替装置50aの飛込ドグ54cとドグ部材51の待機ドグ52aとの係合が解除される。したがって、制御部10は、アクチュエータ8を制御して、第1切替装置50aの飛込ドグ54cをドグ部材51から離間する方向に移動させるとともに、第2切替装置50bの飛込ドグ53cをドグ部材51側に移動させる。また、これと同時に、ギヤ切替機構100bを制御して、2速用ドリブンギヤ22と出力軸6とを切り離し状態にする。これにより、図6(d)に示すように、2速から1速への減速時ダウンシフトが完了することとなる。
【0060】
このように、本実施形態の変速機1によれば、トルク切れを生じることなく、ダウンシフトを行うことができる。なお、ここでは、2速から1速への減速時ダウンシフトについて説明したが、4速から3速への減速時ダウンシフトも上記と同様である。
【0061】
以上の説明のとおり、変速機1によれば、第1切替装置50aの飛込ドグ53cおよび飛込ドグ54cが待機ドグ52a側に移動され、当該待機ドグ52aのリーディング面52afと飛込ドグ53cとが係合されて、もしくは、当該待機ドグ52aのトレーリング面52arと飛込ドグ54cとが係合されて、入力軸3と第1メインシャフト4とが一体回転する動力伝達状態となる。また、第2切替装置50bの飛込ドグ53cおよび飛込ドグ54cが待機ドグ52b側に移動され、当該待機ドグ52bのリーディング面52bfと飛込ドグ53cとが係合されて、もしくは、当該待機ドグ52bのトレーリング面52brと飛込ドグ54cとが係合されて、入力軸3と第2メインシャフト5とが一体回転する動力伝達状態となる。
【0062】
ここで、1速から2速への加速時アップシフトにおいては、図5(d)に示したように、第1切替装置50aの飛込ドグ53cがドグ部材51の待機ドグ52aに係合して、第2切替装置50bの飛込ドグ53cの回転数が、ドグ部材51の回転数よりも大きくなる。このとき、第2切替装置50bの飛込ドグ53cとドグ部材51の待機ドグ52bとの係合が解除され、制御部10は、アクチュエータ8を制御して、第2切替装置50bの飛込ドグ53cをドグ部材51から離間する方向に移動させる。しかし、第2切替装置50bの飛込ドグ53cをドグ部材51の待機ドグ52bから抜き切る前に、飛込ドグ53cと待機ドグ52bが衝突することがある。
【0063】
また、2速から1速への減速時ダウンシフトにおいては、図6(c)に示したように、第2切替装置50bの飛込ドグ54cがドグ部材51の待機ドグ52bと係合して、第1切替装置50aの飛込ドグ54cの回転数が、ドグ部材51の回転数よりも小さくなる。このとき、第1切替装置50aの飛込ドグ54cとドグ部材51の待機ドグ52aとの係合が解除され、制御部10は、アクチュエータ8を制御して、第1切替装置50aの飛込ドグ54cをドグ部材51から離間する方向に移動させる。しかし、第1切替装置50aの飛込ドグ54cをドグ部材51の待機ドグ52aから抜き切る前に、飛込ドグ54cと待機ドグ52aが衝突することがある。
【0064】
このように、飛込ドグ53cと待機ドグ52bが衝突したり、飛込ドグ54cと待機ドグ52aが衝突したりすると、アクチュエータ8にまで衝撃が伝達し、アクチュエータ8に過大な荷重が作用する。
【0065】
そこで、本実施形態では、第1切替装置50aおよび第2切替装置50bのそれぞれについて、アクチュエータ8からドライブ側スリーブ53、コースト側スリーブ54への押圧力の伝達経路に緩衝機構を配している。緩衝機構は、第1切替装置50aおよび第2切替装置50bのドライブ側スリーブ53とコースト側スリーブ54の双方のいずれに対しても、同様に作用する。そのため、以下では、アクチュエータ8から第2切替装置50bのドライブ側スリーブ53への押圧力の伝達経路に設けられた緩衝機構について詳述し、他の緩衝機構については図示および説明を省略する。
【0066】
図7は、緩衝機構56を説明する図である。図7に示すように、緩衝機構56は、上述したシフトフォーク7を含んで構成される。シフトフォーク7は、内周側にドライブ側スリーブ53が摺動する溝7aが形成された外周部7bを有する。
【0067】
外周部7bは、ドライブ側スリーブ53の周方向に大凡180度に亘って延在しており、溝7aに嵌め込まれたドライブ側スリーブ53を回転自在に支持する。また、外周部7bの周方向の大凡中心部分には、外周部7bからドライブ側スリーブ53の径方向外側に延在する突出部7cが形成されている。突出部7cには、ドライブ側スリーブ53の回転軸方向(以下、単に回転軸方向と称す)に貫通する貫通孔7dが設けられている。
【0068】
第1ロッド57(第1部材)は、シフトフォーク7の貫通孔7dに挿通されてシフトフォーク7に固定されており、シフトフォーク7と一体となって回転軸方向に移動する。
【0069】
第2ロッド58(第2部材)は、第1ロッド57に連結部59を介して連結され、アクチュエータ8からの動力を受けて、連結部59を介して第1ロッド57を回転軸方向に移動させる。その結果、シフトフォーク7は、アクチュエータ8からの押圧力によってドライブ側スリーブ53を回転軸方向に移動させることとなる。
【0070】
また、連結部59は、オス部材60とメス部材61で構成される。オス部材60は、回転軸方向に延在する本体60aが第1ロッド57および第2ロッド58と平行に配される。本体60aは回転軸方向の一端側から第2ロッド58に向かって屈曲しており、屈曲部分の先端には環状のリング部60bが設けられている。第2ロッド58はリング部60bに挿通されてリング部60bに固定されている。また、オス部材60の本体60aの他端側には、第1ロッド57に向かって突出する突起60cが設けられている。
【0071】
メス部材61は、第1ロッド57が挿通される環状の本体61aを有する。本体61aには、オス部材60の突起60cが係合する溝61bが設けられている。溝61bは、突起60cの回転軸方向の長さよりも回転軸方向に長く延在するとともに、回転軸方向の両端が閉じている。また、溝61bのうち、回転軸方向の両端には、本体61aの径方向外側に突出する壁61cが設けられている。
【0072】
このように、連結部59は、オス部材60とメス部材61が突起60cと溝61bで係合して形成されている。そして、連結部59には、第1ロッド57と第2ロッド58との回転軸方向の相対移動を許容する衝撃吸収部62が設けられている。
【0073】
衝撃吸収部62は、オス部材60の突起60cとメス部材61の溝61bで構成され、突起60cが溝61b内を摺動することで、第1ロッド57が第2ロッド58に対して相対移動する。溝61bの回転軸方向の両端は閉じており、壁61cが設けられていることから、突起60cの摺動幅が規制される。
【0074】
上記のように、ドライブ側スリーブ53の飛込ドグ53cを待機ドグ52bから抜き切る前に、飛込ドグ53cと待機ドグ52bが衝突する場合がある。そうすると、ドライブ側スリーブ53に対して、ドライブ側スリーブ53およびドグ部材51が互いに回転軸方向に離間する離間方向に作用する衝撃が入力される。
【0075】
このとき、衝撃吸収部62において第1ロッド57が第2ロッド58に対して相対移動する。こうして、第1ロッド57から第2ロッド58に入力される衝撃が吸収されることとなる。また、アクチュエータ8とシフトフォーク7との間には付勢部9が介在していることから、付勢部9によっても衝撃が吸収される。
【0076】
飛込ドグ53cと待機ドグ52bが衝突すると、飛込ドグ53cは、少なくとも、飛込ドグ53cおよび待機ドグ52bが噛み合う面の回転軸方向の長さの分だけ、待機ドグ52bから回転軸方向に瞬間的に離間させられる。この強制的な飛込ドグ53cの変位が、衝撃となってアクチュエータ8に伝播する。
【0077】
そこで、衝撃吸収部62において、第1ロッド57と第2ロッド58が回転軸方向に相対移動可能な長さを、飛込ドグ53cおよび待機ドグ52bが噛み合う面の回転軸方向の長さ以上としている。
【0078】
そのため、上記のように飛込ドグ53cが強制的に変位させられても、衝撃吸収部62において変位を吸収できる。このとき、衝撃吸収部62で緩衝された衝撃がアクチュエータ8に伝播することはあるものの、衝撃吸収部62を介すことで、アクチュエータ8への衝撃の伝播に遅れが生じる。その間にアクチュエータ8では衝撃から逃げる方向への変位が進むことから、アクチュエータ8への衝撃の影響を抑えることが可能となる。
【0079】
図8は、制御部10によるアクチュエータ8の制御処理について説明するための説明図であり、アクチュエータ8から第2切替装置50bのドライブ側スリーブ53への押圧力の伝達経路に設けられた緩衝機構56を示す。
【0080】
図8中、右方向は、図7に示すように、ドライブ側スリーブ53の飛込ドグ53cをドグ部材51の待機ドグ52bから離間させる離間方向であって、図8中、左方向は、ドライブ側スリーブ53の飛込ドグ53cをドグ部材51の待機ドグ52bに近接させる近接方向である。
【0081】
また、図8では、図5(b)から図5(e)に示すように、1速から2速への加速時アップシフトにおける衝撃吸収部62の動きを説明する。すなわち、図5(b)に示すように、第2切替装置50bが動力伝達状態にあるとき、第2切替装置50bを切り離し状態とし、第1切替装置50aを動力伝達状態とする制御指示がある場合を例に挙げる。
【0082】
図5(c)に示すように、制御部10は、アクチュエータ8を制御して、第2切替装置50bの飛込ドグ54cを、ドグ部材51から離間する方向に移動させるとともに、第1切替装置50aの飛込ドグ53cを、ドグ部材51側に移動させる。
【0083】
このとき、図8(a)に示すように、突起60cは、例えば、溝61bのうち近接方向(図8中、左方向)の端部に位置しているとする。この状態では、衝撃吸収部62は、衝撃が離間方向に作用しても、衝撃を緩衝することができない。
【0084】
そこで、制御部10は、ドライブ側スリーブ53の飛込ドグ53cが待機ドグ52に噛合している間に、ドライブ側スリーブ53を、ドグ部材51から離間する離間方向に移動する向き(図8中、右方向)に、アクチュエータ8から押圧力を伝達させる。そうすると、図8(b)に示すように、第1ロッド57の位置が固定されたまま、第2ロッド58がアクチュエータ8からの押圧力で図8中、右方向に移動する。こうして、突起60cが、溝61bのうち、図8中、右方向の端部に位置することとなる。
【0085】
その後、図5(d)に示すように、第1切替装置50aの飛込ドグ53cのリーディング爪53fが、待機ドグ52aのリーディング面52afに係合し、入力軸3の回転数が低下する。そして、第2切替装置50bの飛込ドグ53cとドグ部材51の待機ドグ52bとの係合が解除される。制御部10は、アクチュエータ8を制御して、第1切替装置50aの飛込ドグ54cをドグ部材51側に移動させるとともに、第2切替装置50bの飛込ドグ53cをドグ部材51から離間する方向に移動させる。
【0086】
このとき、飛込ドグ53cと待機ドグ52bが衝突すると、図8(c)に示すように、第1ロッド57は、飛込ドグ53cから伝播した衝撃によって、図8中、右方向に押圧される。そして、突起60cが溝61b内を摺動し、第1ロッド57が第2ロッド58に対して相対移動することで、衝撃吸収部62が衝撃を緩衝することが可能となる。そのため、アクチュエータ8に要求される耐衝撃性を抑え、アクチュエータ8の大型化を回避することができる。
【0087】
上述した実施形態では、第1部材が第1ロッド57、第2部材が第2ロッド58である場合について説明したが、第1部材および第2部材はロッド以外の部材であってもよい。
【0088】
また、上述した実施形態では、連結部59は、オス部材60とメス部材61とで構成され、溝61bと突起60cの係合によって、第1ロッド57と第2ロッド58の回転軸方向の相対移動を許容する場合について説明した。しかし、連結部59は、第1ロッド57と第2ロッド58の回転軸方向の相対移動を許容する他の構成であってもよい。ただし、連結部59をオス部材60とメス部材61とで構成し、溝61bと突起60cの係合によって、第1ロッド57と第2ロッド58の回転軸方向の相対移動を許容させる構造は、簡易であって安価に製造することができる。
【0089】
また、上述した実施形態では、第1ロッド57と第2ロッド58が回転軸方向に相対移動可能な長さを、飛込ドグ53cおよび待機ドグ52bが噛み合う面の回転軸方向の長さ以上とする場合について説明した。しかし、第1ロッド57と第2ロッド58が回転軸方向に相対移動可能な長さに制限はなく、飛込ドグ53cおよび待機ドグ52bが噛み合う面の回転軸方向の長さ未満であってもよい。
【0090】
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例又は修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、主に車両の変速機に用いられる動力伝達装置に利用できる。
【符号の説明】
【0092】
7 シフトフォーク
8 アクチュエータ
51 ドグ部材(第2回転体)
52a、52b 待機ドグ(第2ドグ)
53 ドライブ側スリーブ(第1回転体)
53c 飛込ドグ(第1ドグ)
54 コースト側スリーブ(第1回転体)
54c 飛込ドグ(第1ドグ)
57 第1ロッド(第1部材)
58 第2ロッド(第2部材)
59 連結部
60 オス部材
60c 突起
61 メス部材
61b 溝
62 衝撃吸収部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8