【文献】
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【文献】
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【文献】
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【文献】
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(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本開示の代表的な実施形態を示したものであり、これにより本開示の範囲が狭く解釈されることはない。
【0014】
(1)腸内菌叢の老若判定方法
本開示に係る腸内菌叢の老若判定方法では、腸内菌叢について老齢タイプと若齢タイプのいずれであるかを判定する。
図1は、本開示に係る腸内菌叢の老若判定方法の一例を示すフローチャートである。腸内菌叢の老若判定方法には、少なくとも判定工程S12が含まれる。また、本開示に係る腸内菌叢の老若判定方法では、判定工程S12の前に、後述する、糞便検体に含まれる全ての菌の数に対する特定の菌群の割合を測定する測定工程S11を有していてもよい。
以下、測定工程S11と判定工程S12について順に説明する。なお、本開示に係る腸内菌叢の老若判定方法において、腸内細菌叢を構成する菌群の「菌」とは、細菌(bacteria)及び古細菌(archaea)を含み、かつ、真菌(fungi)を含まないものである。また、これは、後述する菌群のスクリーニング方法においても同様である。
【0015】
本開示に係る腸内菌叢の老若判定方法では、糞便検体として動物から得られたものを用いることができる。動物としては、例えば、サル、チンパンジー、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ等が挙げられる。ヒトから得られる糞便検体が好ましく、ヒトについては、20歳以上の成人から得られる糞便検体がより好ましい。乳幼児など、腸内菌叢に関して成人とは異なる特徴を有することが知られている年齢層を除外することによって、所定の年齢未満の若齢集団における腸内菌叢を構成する菌群の種類や菌数についてのばらつきが、より抑制される。
【0016】
測定工程S11は、糞便検体に含まれる菌群のうち少なくとも(a)Lachnospiraceae科に属する菌群について、糞便検体に含まれる全ての菌の数に対する割合を測定する工程である。また、測定対象とする菌群は、(a)Lachnospiraceae科に加えて、(b)Bifidobacteriaceae科、(c)Peptococcaceae科、(d)Enterococcaceae科、(e)Verrucomicrobiaceae科、(f)Catabacteriaceae科、(g)Clostridiaceae科、(h)Caulobacteraceae科、(i)Propionibacteriaceae科、(j)Enterobacteriaceae科のうちいずれかの科に属する菌群も測定対象とすることができる。
【0017】
本工程S11では、糞便検体に含まれる全ての菌の数に対する、上記(a)〜(j)科に属する菌群のうち少なくとも(a)Lachnospiraceae科に属する菌群の割合を求める。全菌数及び上記割合は、例えば、下記の手法により求めることができる。
【0018】
<(a)〜(j)の科に属する菌群の測定>
糞便検体に含まれる菌のうち、上記(a)〜(j)の科に属する菌群に分類される菌の数は、公知手法を用いて求めることができ、その手法は特に限定されない。例えば、菌の分類については、リボソームを構成する小型のサブユニット(16S)に存在するRNAをコードする遺伝子(16SrRNA遺伝子)の塩基配列に基づき、各々の菌を、上記(a)〜(j)の科に属する各々の菌群又は、その他の菌群に分けることができる。また、糞便検体に含まれる各々の菌群の菌数の算出についても、例えば、糞便検体中に含まれる、各々の菌に由来する16SrRNA遺伝子のDNA量やコピー数を定量することにより行うこともできる。菌数の算出について、以下に例を挙げる。
【0019】
塩基配列に基づき菌数を算出するためには、先ず、糞便検体に含まれる菌群のDNAを糞便検体から抽出する。糞便検体からのDNAの抽出は、公知の手法を用いて行うことができ、その手法は特に制限されない。例えば、フェノール・クロロホルムを用いる抽出法により、糞便検体からDNAを抽出することができる。本開示に係る腸内菌叢の老若判定方法においては、フェノール・クロロホルムを用いる抽出方法によりDNAを抽出することが好ましい。
【0020】
また、フィルターを備えるスピンカラムなどを用いて、糞便検体からDNAを抽出してもよい。なお、本工程S11では、DNAの抽出は必須の工程ではなく、予め糞便検体から抽出されたDNA溶液を試料とすることもできる。
【0021】
糞便検体から得られるDNAについては、菌数の測定に必要なDNA量又はコピー数を得るために、核酸増幅反応を行うことが好ましい。DNAの増幅については、PCR(Polymerase Chain Reaction)等、公知の手法を用いて行うことができ、核酸増幅反応において用いるプライマーについても、公知の設計手法を用いて設計することができる。さらに、核酸増幅反応の際に、DNAの解析に必要な配列を増幅核酸鎖に組み込ませるように、プライマーを設計してもよい。
【0022】
上記(a)〜(j)の科に属する菌群に分類される菌の数は、例えば、上記DNA溶液に含まれるDNAを鋳型とする定量的PCR法やT−RFLP(Terminal−Restriction Fragment Length Polymorphism)法によって測定することができる。定量的PCR法では、各々の菌群の16SrRNA遺伝子のうち特異的な配列部分に結合するプライマーを用い、核酸増幅反応を行うことにより、所望の菌群の16SrRNA遺伝子のDNA量又はコピー数を測定することができる。またT−RFLP法では、末端に標識が付されたプライマーを用いて、16SrRNA遺伝子の各菌群に特異的な配列部分を含む増幅核酸鎖を生成し、得られた増幅核酸鎖を制限酵素で処理し断片化してサイズの異なるDNA断片とする。このDNA断片を電気泳動により分離し、泳動パターンにおける各々のピークの同定とピーク強度から、所望の菌群の16SrRNA遺伝子のDNA量又はコピー数を測定することができる。
【0023】
また、上記DNA溶液に含まれるDNAについては、FISH(Fluorescence in situ hybridization)法により、所望の菌群の16SrRNA遺伝子のDNA量又はコピー数を算出してもよい。この他、DNAマイクロアレイを用いて16SrRNA遺伝子のDNA量又はコピー数を算出することもできる。
【0024】
16SrRNA遺伝子のDNA量又はコピー数は、上述した方法の他に、シーケンサーを用いて糞便検体から抽出されたDNAの塩基配列を決定し、特定の配列を解読した回数から求めることもできる。また、シーケンサーを用いる方法の場合、同じ操作によって、糞便検体に含まれる上記(a)〜(j)の科に属する菌群以外の菌の16SrRNA遺伝子についても解読することができる。このため、糞便検体に含まれる上記(a)〜(j)の科に属する菌群以外の菌の16SrRNA遺伝子のコピー数も併せて求めることができる。
【0025】
シーケンサーを用いる方法としては、例えば、クローンライブラリー法、DGGE/TGGE(Denaturing/Temperature Gradient Gel Electrophoresis)法、メタゲノム解析等がある。クローンライブラリー法では、糞便検体から抽出されたDNAの16SrRNA遺伝子の、各々の菌群に特異的な配列部分を増幅して、得られた増幅核酸鎖をプラスミドに挿入して、増幅核酸鎖を含むプラスミドの塩基配列を解読する。DGGE/TGGE法では、クローンライブラリー法と同様にDNAを増幅し、得られた核酸鎖を電気泳動によって核酸鎖の配列に応じて分離し、バンドを切り出して、ゲル内のDNAを回収して当該DNAの塩基配列を決定する。メタゲノム解析では、糞便検体から得られたDNAを断片化して、必要に応じて核酸増幅反応等を行った後、各々のDNA断片又は増幅核酸鎖の塩基配列を決定する。
【0026】
上述した塩基配列の決定は、サンガー法の原理を利用したシーケンサーで行うこともでき、また、次世代シーケンサーで行うこともできる。特にメタゲノム解析は、解読性能がより高い次世代シーケンサーで行うことが好ましい。
【0027】
シーケンサーを用いて解読された塩基配列から菌群を同定する場合には、解析ソフトウェアやデータベース等を利用する公知の解析方法を利用することができる。データベースとしては、例えば、Genbank、ENA、DDBJ等が挙げられる。また、16SrRNA遺伝子に特化したデータベースであるGreengenes database 等も利用することができる。
糞便検体から得られるDNAの解析結果を、これらのデータベースに蓄積された菌群の塩基配列に対して相同性検索することにより、糞便検体に含まれる菌群を同定することができる。いずれかの菌群に同定された配列のうち、上記(a)〜(j)の科に属する菌群の16SrRNA遺伝子として同定された配列のコピー数を、上記(a)〜(j)の科に属する菌群の数とすることができる。
【0028】
<糞便検体に含まれる全ての菌の数の測定>
糞便検体に含まれる全ての菌の数の測定は、公知の手法を用いて求めることができ、その手法は特に限定されない。例えば、上述したシークエンサーを用いる方法においては、16SrRNA遺伝子の配列中、糞便検体に含まれる菌で共通の塩基配列部分に結合するプライマーを用いて16SrRNA遺伝子の配列を解読することにより、上記(a)〜(j)の科に属する菌群以外の菌の16SrRNA遺伝子のコピー数も算出することができる。このため、糞便検体に含まれる全菌数は、例えば、糞便検体で測定される全ての菌の16SrRNA遺伝子のコピー数の和としてもよい。また、顕微鏡等を用いて、糞便検体に含まれる菌を数えることによって、糞便検体に含まれる全ての菌の数を求めることもできる。本開示に係る腸内菌叢の老若判定方法においては、測定工程S11に、16SrRNA遺伝子の塩基配列を解読する工程を有する方法が好ましい。なお、本工程S11に用いられる糞便検体は、採取後に培養操作が行われていない検体が望ましい。培養操作において、各々の菌の増殖率が異なることによって、採取時の糞便検体における各菌の割合が変化してしまうおそれがあるためである。
【0029】
<割合の算出>
糞便検体に含まれる全ての菌の数に対する上記(a)〜(j)の科に属する菌群の各々の割合とは、糞便検体に含まれる全菌数を「1」としたときの相対値である。従って、上記割合は、上記(a)〜(j)の科に属する菌群の各々に分類された菌の数と糞便検体に含まれる全菌数から求めることができる。また、上述したように、上記(a)〜(j)の科に属する菌群の16SrRNA遺伝子のコピー数と、糞便検体に含まれる全て菌の16SrRNA遺伝子のコピー数から上記割合を求めることもできる。なお、上記(a)〜(j)の科に属する菌群が検出されなかった場合には、その菌群の割合は0とする。
【0030】
判定工程S12は、少なくとも、糞便検体に含まれる全て菌の数に対する(a)Lachnospiraceae科に属する菌群の割合に基づき、腸内菌叢を老齢タイプと若齢タイプのいずれかに判定する工程である。また、本開示に係る腸内菌叢の老若判定方法において、上述した菌群の割合は、測定工程S11によって求めることもできる。
【0031】
「老齢タイプ」とは、任意の年齢以上のヒトを高齢集団とし、この高齢集団に特徴的な腸内菌叢のタイプを意味する。一方、「若齢タイプ」とは、任意の年齢未満のヒトを若齢集団とし、この若齢集団に特徴的な腸内菌叢のタイプを意味する。任意の年齢とは、例えば、65歳とすることができる。
【0032】
また、例えば、マウスの糞便検体について、本開示に係る腸内細菌叢の老若判定方法を用いる場合、任意の月齢以上のマウスを高齢集団とし、任意の月齢未満のマウスを若齢集団とすることができる。
【0033】
また、本工程S12では、(a)Lachnospiraceae科に属する菌群の上記割合に加えて、下記(b)〜(j)の科に属する菌群のうち少なくともいずれか一つの菌群の、糞便検体に含まれる全ての菌の数に対する割合に基づき、腸内菌叢を判定することが好ましい。
(b)Bifidobacteriaceae科
(c)Peptococcaceae科
(d)Enterococcaceae科
(e)Verrucomicrobiaceae科
(f)Catabacteriaceae科
(g)Clostridiaceae科
(h)Caulobacteraceae科
(i)Propionibacteriaceae科
(j)Enterobacteriaceae科
【0034】
本工程S12では、実施例に示すように、(a)Lachnospiraceae科に属する菌群の上記割合と、(b)Bifidobacteriaceae科属する菌群の上記割合と、に基づき判定することが好ましく、(a)Lachnospiraceae科に属する菌群の上記割合と、(b)Bifidobacteriaceae科に属する菌群の上記割合と、(c)Peptococcaceae科に属する菌群の上記割合と、に基づき判定することがより好ましい。
【0035】
さらに、(a)Lachnospiraceae科に属する菌群の上記割合と、(b)Bifidobacteriaceae科に属する菌群の上記割合と、(c)Peptococcaceae科に属する菌群の上記割合と、(d)Enterococcaceae科に属する菌群の上記割合と、(e)Verrucomicrobiaceae科に属する菌群の上記割合と、に基づき判定することがより好ましい。そして、本工程S12では、糞便検体に含まれる全ての菌の数に対する上記(a)〜(j)の科に属する菌群の各々の上記割合のうち、これらの割合全てに基づき判定することがより好ましい。
【0036】
上述した菌群の割合に基づく腸内菌叢の判定には、公知の統計的手法を利用して腸内菌叢を「老齢タイプ」と「若齢タイプ」のいずれかに判定することができる。統計的手法としては、例えば、多変量解析が挙げられる。
【0037】
また、多変量解析は、上述した菌群の割合を独立変数として、糞便検体を得た個体の年齢又は月齢を従属変数とする回帰分析とすることが好ましい。例えば、回帰分析によって、回帰式を算出して、当該回帰式の解を予め定められた基準値と比較することにより、簡便に判定を行うことができる。従って、本工程S12では、菌群ごとの上記割合を独立変数とし、糞便検体を得た個体の年齢又は月齢に関する回帰分析によって回帰式を算出して、当該回帰式に基づき腸内菌叢を判定することもできる。
【0038】
回帰分析については、公知の分析法の中から適宜選択することができる。回帰分析としては、例えば、単回帰分析、重回帰分析、ロジスティック回帰分析、判別分析等が挙げられる。また、上述した回帰式を判定に用いる場合には、回帰式の解と、予め定められた基準値と、を比較して判定を行ってもよい。さらに、解が基準値を超える場合には腸内菌叢を「老齢タイプ」と判定し、解が基準値以下である場合には腸内菌叢を「若齢タイプ」と判定してもよい。
【0039】
単回帰分析又は重回帰分析によって回帰式の算出した場合には、回帰式を用いて、上述した菌群の割合から各検体の年齢又は月齢の予測値を回帰式の解として得ることができる。そして、本工程S12では、この予測値と予め定められた基準とを比較して、腸内菌叢を「老齢タイプ」と「若齢タイプ」のいずれかに判定してもよい。また、単回帰式又は重回帰式については、例えば、最小二乗法等を用いて算出することができる。
【0040】
判別分析を行う場合には、量的変数である「糞便検体を得た個体の年齢又は月齢」について、これを質的変数に置き換える。質的変数への置き換えとしては、例えば、所定の年齢又は月齢以上については、「1」とし、所定の年齢又は月齢未満については「−1」とすることができる。所定の年齢又は月齢とは、例えばヒトの場合には、65歳とすることができる。また、質的変数として用いる2値は、「1」と「−1」の他、「0」と「1」や、「1」と「100」などとすることもできる。
【0041】
判別分析において、腸内菌叢を「老齢タイプ」と「若齢タイプ」のいずれかに判定するための回帰式には、回帰式又は重回帰式のように、直線モデル又は平面モデルの線形関数を用いることもできる。そして、これらの回帰式によって、上述した菌群の割合に基づき各検体の年齢又は月齢の予測値を回帰式の解として得ることができる。さらに、本工程S12では、この予測値と予め定められた基準とを比較して、腸内菌叢を「老齢タイプ」と「若齢タイプ」のいずれかに判定してもよい。また、判別分析においては、マハラノビスの距離を用いて2次曲線を求めて、これを腸内菌叢の判定に用いることもできる。
【0042】
ロジスティック回帰分析を行う場合にも、量的変数である、糞便検体を得た個体の年齢について、これを質的変数に置き換えることができる。また、ロジスティック回帰式は、最小二乗法や最尤法によって求めることができる。上述した単回帰式又は重回帰式と同様に、ロジスティック回帰式によっても、上述した菌群の割合に基づき各検体の年齢又は月齢の予測値を得ることができる。そして、この予測値と予め定められた基準とを比較して、腸内菌叢を「老齢タイプ」と「若齢タイプ」のいずれかに判定することができる。
【0043】
なお、上述した各種回帰式の算出については、計算機等により、上述した菌群の割合と、糞便検体を得た個体の年齢又は月齢から、自動的に回帰式を算出させることもできる。
【0044】
下記に、本工程S12で用いることができる回帰式の一例を示す。下記式(1)中、nは独立変数の数であり、kは菌群が属する科のうち第k番目の科を意味し、αは回帰式の切片であり、βは回帰式の回帰係数であり、xは割合である。
【0046】
本工程S12において、(a)Lachnospiraceae科に属する菌群の上記割合のみに基づいて腸内菌叢を判定する場合には、上記式(1)は、単回帰式となり、nは「1」である。また、(a)Lachnospiraceae科に属する菌群の上記割合に加えて、上記(b)〜(j)の科に属する菌群のいずれかの上記割合をも用いる場合には、これらの科に属する菌群ごとの上記割合を、各々、独立変数とする。また、「k」の最大値は、独立変数の数と同じである。
【0047】
本工程S12では、「糞便検体を得た個体の年齢」について、これを質的変数に置き換えた後、上記式(1)を算出してもよい。例えば、ヒトから得られた糞便検体について判定する場合、糞便検体を得た個体の年齢について、65歳以上を「1」に、65歳未満を「−1」に、各々置き換えて、回帰式を求め、上記式(1)の解yが基準値「0」を超える場合には、その腸内菌叢を、65歳以上に特徴的な「老齢タイプ」と判定することもできる。
【0048】
本開示に係る腸内菌叢の老若判定方法においては、上述したように、少なくとも、糞便検定に含まれる全ての菌群に対するLachnospiraceae科に属する菌群の割合に基づいて、腸内菌叢が老齢タイプと若齢タイプのいずれであるか、を判定することができる。腸内菌叢のタイプを判別することによって、例えば、腸内菌叢の状態の把握が容易となる。また、腸内菌叢のタイプを判別することは、後述する菌群のスクリーニング方法や物質のスクリーニング方法において、好適に用いられ得る。
【0049】
(2)菌群のスクリーニング方法
本開示に係る菌群のスクリーニング方法では、腸内菌叢に含まれる菌群のうち、腸内菌叢を老齢タイプ又は若齢タイプに判定するための老若判定マーカーとなる菌群を探索する。
図2は、本開示に係る菌群のスクリーニング方法の工程を示すフローチャートである。
【0050】
菌群のスクリーニング方法には、少なくとも選別工程S21及び菌群同定工程S22が含まれる。なお、老若判定マーカーとは、腸内菌叢が老齢タイプであるか否かを判定するためのマーカー、腸内菌叢が若齢タイプであるか否かを判定するためのマーカー、及び腸内菌叢が老齢タイプと若齢タイプのいずれであるかを判定するためのマーカーのうち、少なくともいずれかに該当するものである。
【0051】
選別工程S21は、糞便検体について、上述した腸内菌叢の老若判定方法の結果に基づき糞便検体を複数の群に分ける工程である。腸内菌叢の判定については、上述した通りである。選別工程S21の一例を
図3に示す。
【0052】
図3に示す選別工程S21では、上述した腸内菌叢の判定により、糞便検体を老齢タイプと若齢タイプのいずれかに分ける。また、本工程S21では、上述した(a)Lachnospiraceae科に属する菌群の上記割合のみに基づいて、糞便検体を選別してもよいが、Lachnospiraceae科に属する菌群の上記割合に加えて、上記(b)〜(j)のうち、いずれかの科に属する菌群の上記割合にも基づいて、糞便検体を選別してもよい。
【0053】
菌群同定工程S22は、上述した選別工程S21によって選別された複数の群のうち、少なくともいずれか一つの群の糞便検体に含まれる菌群を同定する工程である。即ち、老齢タイプに分類された一つの群と、若齢タイプに分類された一つの群のうち、少なくともいずれか一つの群の糞便検体に含まれる菌群を同定する工程である。対象とする群は、菌群のスクリーニングの目的に応じて決めることができる。例えば、老齢タイプと判定するためのマーカー探索が目的であれば、老齢タイプに該当する糞便検体に含まれる菌群を同定することが好ましい。また、若齢タイプと判定するためのマーカー探索が目的であれば、若齢タイプに該当する糞便検体に含まれる菌群を同定することが好ましい。
【0054】
また、複数の群の各々について、それらの群に含まれる糞便検体を菌群の同定対象としてもよい。例えば老齢タイプに該当する糞便検体と、若齢タイプに該当する糞便検体の各々から菌群を同定することもできる。なお、本開示において「菌群を同定する」とは、少なくとも門レベルまで同定されていることを指し、さらに綱レベル、目レベル、科レベル、属レベル及び種レベルのうち、いずれかのレベルまで同定することも含まれる。
【0055】
本工程S22において、糞便検体に含まれる菌群の同定は、公知の手法を用いて行うことができ、その手法は限定されない。例えば、糞便検体に含まれる菌群のゲノムを解読して、塩基配列に基づいて行うこともできる。この場合、菌群の16SrRNA遺伝子の塩基配列を解析して、各々の菌群を同定することができる。以下に、本工程S22の一例を示す。
【0056】
先ず、糞便検体に含まれる菌群のDNAを抽出する。DNAの抽出については、上述した腸内菌叢の老若判定方法における測定工程S11と同様の方法で行うことができる。
【0057】
次に、得られたDNAの塩基配列を解読する。塩基配列の解読は、公知の手法によって行うことができ、その手法は限定されない。塩基配列の決定については、上述した腸内菌叢の老若判定方法における測定工程S11と同様に、例えばシーケンサーを用いる方法等によって行うことができる。また、上述した腸内菌叢の老若判定方法における測定工程S11と同様の方法により、例えば、解読されたDNAの塩基配列をデータベースに照会することで、菌群を同定することができる。
【0058】
本開示に係る菌群のスクリーニング方法では、上述した腸内菌叢の老若判定方法を利用して、糞便検体を複数の群に分けて選別することができる。例えば、予め老齢タイプに該当すると判定された糞便検体は、該当しなかった他の糞便検体に比べて、加齢によって腸内菌叢がより大きく変化している可能性の高い検体である。従って、本開示に係る菌群のスクリーニング方法では、より効率的に老若判定マーカーを探索することができる。
【0059】
また、例えば、若齢タイプに該当した糞便検体から同定された菌群やその菌数を、老齢タイプを判定するためのマーカー検索において、リファレンスとして用いることもできる。このリファレンスにより、若齢タイプであると判定された糞便検体においても同程度の割合で存在した菌群や菌種を、老齢タイプを判定するためのマーカー候補から除外することができる。
このため、より効率的に老齢タイプと判定するためのマーカーを探索することができる。この点については、老齢タイプに該当した糞便検体から同定された菌群やその菌数を、若齢タイプを判定するためのマーカー検索において、リファレンスとして用いる場合も同様である。
【0060】
(3)物質のスクリーニング方法
本開示に係る物質のスクリーニング方法では、食餌や物質に含まれる腸内菌叢へ作用するものを探索する。
図4は、本開示に係る物質のスクリーニング方法のフローチャートである。物質のスクリーニング方法には、少なくとも測定工程S31、相関算出工程S32及び物質同定工程S33が含まれる。なお、本開示に係る物質のスクリーニング方法において、腸内菌叢へ作用するものとは、例えば、腸内菌叢の老化を促進したり、あるいは抑制したりするなど、腸内菌叢のバランスを変化させるものである。
【0061】
測定工程S31は、上述した菌群のスクリーニング方法により、老若判定マーカーとして同定された菌群について、動物から得た糞便検体に含まれる全菌数に対する割合を測定する。菌群の割合の測定については、上述した通りである。
【0062】
本開示に係る物質のスクリーニング方法において、食餌又は物質の動物への摂取は、経口摂取であっても、非経口摂取であってもよい。また、摂取回数は、1回でも複数回でもよい。複数回の場合、同じ食餌又は物質を複数回に渡って摂取してもよい。動物から得られる糞便検体は、食餌又は物質を摂取する前と摂取した後の各々の時点で採取されたものであってもよい。
【0063】
相関算出工程S32は、測定工程S31で測定された菌群の割合について、その増減と、動物が摂取した食餌又は物質との相関を求める工程である。動物が食餌又は物質を摂取した後、上述した菌群のスクリーニングによって老若判定マーカーとされた菌群の数が糞便検体において変動すれば、その食餌又は物質は腸内菌叢へ作用するものである可能性が高い。また、動物が摂取した食餌又は物質の量に応じて、菌群の割合の変動の程度も変化すれば、その食餌又は物質は腸内菌叢へ作用するものである可能性が高い。本工程S32では、このような、動物が摂取した食餌又は物質と、糞便検体の全菌数に対する特定の菌群の割合における相関関係を解析する。
【0064】
本工程S32では、例えば相関係数rを算出してもよい。また、例えば、カイ二乗検定やマンホイットニーU検定等の検定方法を用いて、食餌又は物質を摂取した群と摂取していない群との間の、老若判定マーカーとした菌群の上記割合の差異について、χ
2値やU等を求めてもよい。相関について数値で表わすことができれば、その算出方法は特に限定されず、母集団の大きさや測定工程S31で測定する菌群の種類の数等に合わせて、公知の統計手法の中から適宜選択できる。
【0065】
また、相関算出工程S32では、任意の統計手法に基づき、老若判定マーカーとして用いた菌群の上記割合の増減と、動物が摂取した食餌又は物質との相関について、計算機等により自動的に相関関係を解析してもよい。
【0066】
物質同定工程S33は、相関算出工程S32において算出された値が閾値を満たす場合に、その食餌又は物質を腸内菌叢へ作用するものとして同定する工程である。閾値は、相関算出工程S32において相関の算出に用いた方法に合わせて適宜設定できる。
例えば、相関算出工程S32において相関係数r、χ
2値又はUを算出するのであれば、本工程S33では、これらの数値に対応するp値に対して閾値を設定できる。例えば、閾値をp<0.05とする場合、前記p値がこれに該当すれば、閾値を満たすものとする。また、前記p値がこれに該当しなければ、閾値を満たさないものとする。
【0067】
上記閾値を満たした場合、その動物が摂取した食餌又は物質は、腸内菌叢へ作用するものとして同定される。例えば、食餌又は物質の摂取後に、老齢タイプと判定するためのマーカーとされる菌群の上記割合が老齢タイプの範囲外へ変動し、相関算出工程S32によって算出された値が閾値を満たす場合には、その食餌又は物質は、腸内菌叢の若齢タイプへの変化を促進するものとして同定される。
また、食餌又は物質の摂取後に、若齢タイプと判定するためのマーカーとされる菌群の上記割合が若齢タイプの範囲外へ変動し、その相関が閾値を満たす場合には、その食餌又は物質は、腸内菌叢の老齢タイプへの変化を促進するものとして同定される。
【0068】
本開示に係る物質のスクリーニング方法では、上述した菌群のスクリーニング方法によって老若判定マーカーとされる菌群の上記割合を指標とすることにより、簡便に腸内菌叢へ作用するものをスクリーニングすることができる。
【0069】
本開示は、以下の構成を採用することもできる。
〔1〕腸内菌叢について老齢タイプと若齢タイプのいずれであるかを判定する方法であって、糞便検体に含まれる全て菌の数に対する(a)Lachnospiraceae科に属する菌群の割合に基づき前記腸内菌叢を判定する判定工程、を有する、腸内菌叢の老若判定方法。
〔2〕前記判定工程では、前記(a)Lachnospiraceae科に属する菌群の前記割合に加えて、下記(b)〜(j)の科に属する菌群のうち少なくともいずれか一つの菌群の、前記糞便検体に含まれる全ての菌の数に対する割合に基づき、前記腸内菌叢を判定する、上記〔1〕に記載の腸内菌叢の老若判定方法。
(b)Bifidobacteriaceae科
(c)Peptococcaceae科
(d)Enterococcaceae科
(e)Verrucomicrobiaceae科
(f)Catabacteriaceae科
(g)Clostridiaceae科
(h)Caulobacteraceae科
(i)Propionibacteriaceae科
(j)Enterobacteriaceae科
〔3〕前記判定工程では、前記菌群ごとの前記割合を独立変数とし、前記糞便検体を得た個体の年齢又は月齢に関する回帰分析によって回帰式を算出して、当該回帰式に基づき前記腸内菌叢を判定する、上記〔1〕又は〔2〕に記載の腸内菌叢の老若判定方法。
〔4〕前記判定工程では、前記回帰式の解と、予め定められた基準値と、を比較して、前記解が前記基準値を超える場合には前記腸内菌叢を老齢タイプと判定し、前記解が前記基準値以下である場合には前記腸内菌叢を若齢タイプと判定する、上記〔3〕に記載の腸内菌叢の老若判定方法。
〔5〕前記判定工程では、前記回帰式として下記式(1)を算出し、
下記式(1)の解yが0を超える場合には、前記腸内菌叢を老齢タイプと判定する、上記〔4〕に記載の腸内菌叢の老若判定方法。
【0071】
(式中、nは前記独立変数の数であり、kは前記菌群が属する科のうち第k番目の科を意味し、αは前記回帰式の切片であり、βは前記回帰式の回帰係数であり、xは前記割合である。)
〔6〕前記判定工程の前に前記割合を測定する測定工程を有する、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の判定方法。
【0072】
〔7〕上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の腸内菌叢の老若判定方法の結果に基づいて糞便検体を複数の群に分ける選別工程と、選別された前記複数の群のうち、少なくともいずれか一つの群の糞便検体に含まれる菌群を同定する菌群同定工程と、を有する、腸内菌叢の老若判定マーカーとなる菌群のスクリーニング方法。
【0073】
〔8〕上記〔7〕に記載の菌群のスクリーニング方法により同定された菌群について、動物から得た糞便検体に含まれる全て菌の数に対する割合を測定する測定工程と、前記菌群の前記割合の増減と、前記動物が摂取した食餌又は物質と、の相関を求める相関算出工程と、前記相関算出工程において算出された値が閾値を満たす場合に、前記食餌又は物質を腸内菌叢へ作用するものとして同定する物質同定工程と、を含む、物質のスクリーニング方法。
【実施例】
【0074】
1.実験例1
本実験例では、糞便検体に含まれる菌群について、老齢及び若齢の各々に特徴的な菌群の同定を試みた。
【0075】
<検体>
本実験例では、健常な174名(21〜104歳)の日本人から提供された糞便検体を用いた。この174名の内訳は、20歳代:9人、30歳代:45人、40歳代:21人、50歳代:13人、60歳代:5人、70歳代:10人、80歳代:46人、90歳代:19人、100歳以上:6人であり、平均年齢は61.7歳である。
【0076】
<DNAの抽出>
本実験例では、先ず、糞便検体からのDNAの抽出を行った。約20mgの糞便検体に対して、450μlの抽出用溶液(100mM Tris/HCl、4mM EDTA、pH9.0)を加えて懸濁し、さらに、10%SDS溶液50μl、0.1mm径のガラスビーズ300mg、500μlのTE飽和フェノール(和光純薬)を加えて混合した。得られた懸濁液に対しては、FastPrep FP 100A(フナコシ社製)を用いてパワーレベル5で30秒の破砕処理を実施した後、14,000×gで5分間遠心して400μlの上清を得た。得られた上清に250μlのフェノール・クロロホルム溶液(和光純薬)を加えて混合し、14,000×gで5分間遠心した後、250μlの上清を回収した。回収した上清に、2−プロパノールを250μl加え、DNAを沈殿させ、200μlのTris−EDTAバッファー(pH8.0)に再度溶解させて、これをDNA溶液とした。
【0077】
<DNAの増幅>
次に、上記DNA溶液に含まれる菌群のゲノムに対して核酸増幅反応を行った。下記表1〜表3に、本実験例で用いたプライマーの配列を示す。表1に示すプライマーセットは、16SrRNA遺伝子の第3〜4可変領域を増幅させるためのプライマーである。これらのプライマーについては、便宜的に第1プライマーセットとする。
【0078】
【表1】
【0079】
表1中、「R」は、グアニン又はアデニンを意味する。「W」は、アデニン又はチミン若しくはウラシルを意味する。「H」は、アデニン又はシトシン又はチミン若しくはウラシルを意味する。「V」は、アデニン又はグアニン又はシトシンを意味する。
【0080】
また、下記表2及び表3に示すプライマーセットは、次世代シーケンサー(Miseq(イルミナ社製))を用いて塩基配列を解析するために必要な配列(アダプター領域及びインデックス領域)を増幅核酸鎖に組み込むためのプライマーセットである。表2に示すプライマーはフォワードプライマーであり、表3に示すプライマーは、リバースプライマーである。これらのプライマーは、便宜的に第2プライマーセットとする。なお、表1〜表3に示すプライマーは、Life Technologies社のオリゴプライマー作成サービスにより得た。
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
上述したDNA溶液及び第1プライマーセットを含む総液量25μlの反応液を、TaKaRa ExTaq HS kit(タカラバイオ社製)を用いて調製した。核酸増幅反応は、サーマルサイクラー(Veriti 200(Life Technologies社製))を用いて行い、94℃−3分の後、94℃−30秒、50℃−30秒、72℃−30秒を1サイクルとし、これを20回繰り返し、その後72℃−10分として、PCR反応を行った。得られたPCR産物を1%アガロースゲルにて電気泳動し、バンドパターンにより、増幅核酸鎖を確認した。
【0084】
続いて、得られたPCR産物1μlを鋳型とし、第2プライマーセットを用いて上述した条件と同様にPCR反応を行った。但し、サイクル数は15回とした。得られたPCR産物を1%アガロースゲルにて電気泳動し、バンドパターンを確認した後、QIAquick 96 PCR Purification Kit(キアゲン社製)を用いてPCR産物を精製した。精製後のPCR産物については、Quant−iT PicoGreen dsDNA Assay kit(Life Technologies社製)によりDNA濃度を測定した。
【0085】
<DNAのシークエンス>
複数の糞便検体に由来するPCR産物を同じ濃度で混合したものをMiseq v2 Reagent kit(イルミナ社製)に供し、Miseqにてシークエンス解析を実施した。
【0086】
<菌群の同定及び菌数の算出>
上記シークエンス解析により得られたペアエンド配列をfastq-join (version.1.1.2-301)(http://code.google.com/p/ea-utils/wiki/FastqJoin)にて、QIIMEソフトウェア(version 1.6.0)(http://qiime.org/)にて97%の相同性を有する配列ごとをOUT(Operational Taxonomy Unit)とした。各OUTの代表配列を下記データベースに対してBLAST検索することにより、腸内菌叢の構成を解析した。
データベース:Greengenes database 12_10
(http://greengenes.secondgenome.com/downloads/database/12_10)
【0087】
<結果>
上述した腸内菌叢の構成の解析の結果、個々の糞便検体について8295±2366の配列が得られた。本実験例では、この配列数を各糞便検体に含まれる全菌数とした。また、これらの配列のうち、個々の門又は科ごとの数を各々の門又は科に属する菌群の数とした。上記相同性検索の結果、表4及び表5に示す腸内菌叢構成が得られた。表4は、門レベルでの分類を示し、表5は、科レベルでの分類を示す。
【0088】
【表4】
【0089】
【表5】
【0090】
2.実験例2
本実験例では、上記実験例1で同定された各門又は各科に属する菌群について、糞便検体に含まれる全ての菌の数に対する各々の菌群の割合が、腸内菌叢を「老齢タイプ」と「若齢タイプ」のいずれかに判定する場合に有用であるか検討した。また、本実験例では、年齢が65歳以上の個体から得られた糞便検体を「老齢タイプ」とし、64歳以下の個体から得られた糞便検体を「若齢タイプ」とした。
【0091】
<回帰式の算出>
本実験例では、糞便検体の上記2種類のタイプへの分類に際して、回帰式を用いた。本実験例では、表4及び表5に示す門又は科に属する菌群の上記割合を、各々、独立変数とし、糞便検体を得た174の個体の年齢を従属変数とし、最小二乗法により、単回帰式を算出した。即ち、本実験例における回帰分析の独立変数及び従属変数は、各々、「1」である。
【0092】
さらに、従属変数については、回帰式を算出する前に、量的変数から質的変数に置き換えた。具体的には、174の糞便検体を得た各々の個体の年齢について、65歳以上を「1」、65歳未満を「−1」に置き換えた。
【0093】
【表6】
【0094】
上記表6に、算出された各回帰式のうち、Lachnospiraceae科、Bifidobacteriaceae科、Clostridiaceae科、Bacteroidaceae科及びEnterococcaceae科の各々に属する菌群の上記割合に基づき算出された回帰式の切片(α)と回帰係数(β)を示す。
【0095】
また、下記式(2)は、本実験例の回帰式を示す。なお、下記式(2)において、αは切片であり、βは回帰係数であり、xは各科に属する菌群の上記割合である。
【0096】
【数4】
【0097】
本実験例では、算出された切片αと回帰係数βに基づき、上記式(2)の解yを求め、基準と比較した。本実験例では、基準値として「0」を設定し、基準値0を超えた場合に、その糞便検体を得た個体の腸内菌叢について、65歳以上の「老齢タイプ」に分類した。一方、回帰式の解yが0以下の場合には、その糞便検体を得た個体の腸内菌叢について、65歳未満の「若齢タイプ」に分類した。
【0098】
<結果>
表7に本実験例の結果を示す。表7は、Lachnospiraceae科、Bifidobacteriaceae科、Clostridiaceae科、Bacteroidaceae科及びEnterococcaceae科の、各々に属する菌群について、回帰式の解yと基準値に基づく「老齢タイプ」又は「若齢タイプ」への分類と、糞便検体を得た個体の実際の年齢(実年齢)と、を比較した結果を示す。また、正答率(%)とは、検体の分類結果と検体を得た個体の実年齢とが一致した検体数の、検体数全体に占める割合(%)を示す。さらに、検出率は、174の糞便検体のうち、各々の科に属する菌群が検出された検体の割合を示す。なお、各々の科に属する菌群が検出されなかった糞便検体については、「判定結果と実年齢が一致しない検体数」にカウントした。
【0099】
【表7】
【0100】
Bifidobacteriaceae科に属する菌群は、多くのヒトの腸内菌叢に存在し、また、加齢に伴い腸内で菌数が減少することが知られている菌群である。Bifidobacteriaceae科に属する菌群の上記割合に基づく糞便検体の分類において、正答率は67.2%であった。
【0101】
また、Clostridiaceae科、Bacteroidaceae科及びEnterococcaceae科の、各々に属する菌群の上記割合に基づく糞便検体の分類では、正答率は、各々、64.9%、62.1%、53.4%であった。一方、Lachnospiraceae科に属する菌群の上記割合に基づく糞便検体の分類では、正答率は、83.3%であった。
【0102】
本実験例の結果から、Lachnospiraceae科に属する菌群の上記割合に基づき、糞便検体を分類した場合、従来、加齢に伴い菌数が変動することが知られているBifidobacteriaceae科の上記割合に基づき分類した場合よりも高い正答率で、検体を分類できることが示された。また、174の全ての検体で、Lachnospiraceae科に属する菌群が検出された。
【0103】
上述した結果から、糞便検体に含まれる全ての菌の数に対するLachnospiraceae科に属する菌群の割合は、糞便検体を「老齢タイプ」と「若齢タイプ」のいずれかに判定する判定方法において、有用な値であることが示された。従って、Lachnospiraceae科に属する菌群の上記割合に基づき糞便検体を判定することにより、精度高く糞便検体を判定できることが示された。
【0104】
さらに、Lachnospiraceae科に属する菌群の検出率は、174検体において100%であった。このことから、Lachnospiraceae科に属する菌群の上記割合を用いる腸内菌叢の老若判定方法は、複数の糞便検体において、検出される検体が限られる菌群の上記割合を用いる方法に比べて、汎用性の高い方法であることが示された。
【0105】
3.実験例3
上述した実験例2において、糞便検体に含まれる全ての菌の数に対するLachnospiraceae科に属する菌群の割合に基づいて判定することにより、糞便検体を得た個体の腸内菌叢を「老齢タイプ」と「若齢タイプ」のいずれかに精度高く判定できることが明らかとなった。そこで、本実験例では、Lachnospiraceae科に属する菌群の上記割合と、他の科に属する菌群の上記割合と、を組み合わせることにより、腸内菌叢の判定の精度がより高められるか検証した。
【0106】
本実験例では、上記実験例2で用いた(a)Lachnospiraceae科に属する菌群の上記割合に加えて、(b)Bifidobacteriaceae科、(c)Peptococcaceae科、(d)Enterococcaceae科、(e)Verrucomicrobiaceae科、(f)Catabacteriaceae科、(g)Clostridiaceae科、(h)Caulobacteraceae科、(i)Propionibacteriaceae科、(j)Enterobacteriaceae科、の各々に属する菌群の割合について、糞便検体に含まれる全ての細菌の数に対する各々の菌群の割合を用いた。具体的には、下記の4つの組み合わせについて、検討した。
パターンA:(a)Lachnospiraceae科、(b)Bifidobacteriaceae科
パターンB:(a)Lachnospiraceae科、(b)Bifidobacteriaceae科、(c)Peptococcaceae科
パターンC:(a)Lachnospiraceae科、(b)Bifidobacteriaceae科、(c)Peptococcaceae科、(d)Enterococcaceae科、(e)Verrucomicrobiaceae科
パターンD:(a)Lachnospiraceae科、(b)Bifidobacteriaceae科、(c)Peptococcaceae科、(d)Enterococcaceae科、(e)Verrucomicrobiaceae科、(f)Catabacteriaceae科、(g)Clostridiaceae科、(h)Caulobacteraceae科、(i)Propionibacteriaceae科、(j)Enterobacteriaceae科
【0107】
<回帰式の算出>
本実験例では、糞便検体の分類に際して、実験例2と同様に、回帰式を用いた。回帰式については、各科に属する菌群の上記割合を独立変数とし、糞便検体を得た174の個体の年齢を従属変数として、最小二乗法により算出した。即ち、パターンAの独立変数は「2」であり、パターンBの独立変数は「3」であり、パターンCの独立変数は「5」であり、パターンDの独立変数は「10」である。
【0108】
さらに、従属変数については、実験例2と同様に、回帰式を算出する前に、174の糞便検体を得た各々の個体の年齢について、65歳以上を「1」、65歳未満を「−1」に置き換えた。各科に属する菌群の上記割合と、糞便検体を得た174の個体の年齢ついて、重回帰分析を行い、下記式(1)に示す回帰式を得た。
【0109】
【数5】
【0110】
上記式(1)において、nは独立変数の数であり、kは菌群が属する科のうち第k番目の科を意味し、αは回帰式の切片であり、βは回帰式の回帰係数であり、xは各科に属する菌群の上記割合である。
【0111】
また、下記表8に、各パターンの回帰式の切片と回帰係数(偏回帰係数)を示す。なお、菌群の括弧内のアルファベットは、上述した(a)〜(j)の各科に対応する。
【0112】
【表8】
【0113】
本実験例では、算出された切片αと回帰係数(偏回帰係数)βに基づき、回帰式の解yを求め、基準と比較した。基準値は、実験例2と同様に、「0」を設定し、基準値0を超えた場合に、その糞便検体を得た個体の腸内菌叢について、65歳以上の「老齢タイプ」と判定した。
【0114】
<結果>
表9に本実験例の結果を示す。表9は、回帰式の解yと基準値に基づく「老齢タイプ」又は「若齢タイプ」への分類と、糞便検体を得た個体の実際の年齢(実年齢)と、を比較した結果を示す。また、正答率(%)とは、検体の分類結果と検体を得た個体の実年齢とが一致した検体数の、検体数全体に占める割合(%)を示す。
【0115】
【表9】
【0116】
表9のパターンAに示すように、Lachnospiraceae科に属する菌群の上記割合に加えて、Bifidobacteriaceae科に属する菌群の上記割合に基づき糞便検体を分類すると、その正答率は、90%を超えた。また、パターンBに示すように、Lachnospiraceae科に属する菌群の上記割合及びBifidobacteriaceae科に属する菌群の上記割合に加えて、Peptococcaceae科に属する菌群の上記割合に基づき糞便検体を分類すると、その正答率は、92.5%であった。さらに、パターンCでは、正答率が93.7%であり、パターンDでは、正答率が94.8%であった。
【0117】
本実験例の結果から、Lachnospiraceae科に属する菌群の上記割合に加えて、Bifidobacteriaceae科、Peptococcaceae科、Enterococcaceae科、Verrucomicrobiaceae科、Catabacteriaceae科、Clostridiaceae科、Caulobacteraceae科、Propionibacteriaceae科又はEnterobacteriaceae科ののうち、少なくともいずれかの一つの科に属する菌群の上記割合に基づき糞便検体を分類した場合には、正答率をさらに高められることが示された。
【0118】
また、実験例2において示されたように、Bifidobacteriaceae科に属する菌群の上記割合、Clostridiaceae科に属する菌群の上記割合及びEnterococcaceae科に属する菌群の上記割合は、単独で腸内細菌叢の判定に用いた場合には、正答率が50〜60%程度であった。しかし、これらの菌群の上記割合については、Lachnospiraceae科に属する菌群の上記割合と組み合わせて判定に用いた場合には、腸内菌叢の老若の判定に有用であることが示された。