【実施例】
【0021】
図1に示すように、取鍋1から溶融金属2を受け入れ、鋳型3に流し込んで鋳造を行うタンディッシュ4には、溶融金属2を加熱するために2本の黒鉛電極(陽極側の黒鉛電極5と陰極側の黒鉛電極6)を上方から挿入できるようになっている。
黒鉛電極5、6は、それぞれ上方の基端部がクランプ手段7、8によって保持されるとともに、必要に応じて解放されてクランプ手段7、8に対して上下方向に移動できるようになっている。
なお、
図1に示す黒鉛電極5、6は新品である。
【0022】
2本の黒鉛電極5、6を移動可能に支持する機構として、昇降及び旋回可能な鉛直軸9と、鉛直軸9の上端から水平に伸びる水平軸10と、水平軸10の先端部に固定されている支持台11からなるトーチ支持手段12が設けられており、クランプ手段7、8は支持台11の上に固定されている。
そのため、クランプ手段7、8は鉛直軸9の昇降に伴って昇降し、黒鉛電極5、6を保持した状態で上下方向に移動でき、また、鉛直軸9の旋回に伴って旋回し、黒鉛電極5、6を保持した状態で水平方向に移動できる。
鉛直軸9は、図示しない駆動装置によって水平方向に回転する円盤13の上面に設けた円筒体14に上下方向のみに摺動可能となるように収容されており、鉛直軸9の下端部と円盤13の上面中央との間には伸縮するロッド15を有する昇降シリンダ16が設けてある。
そして、鉛直軸9はロッド15が伸びることで上昇、縮むことで下降し、また、円盤13が回転することで、同じ方向に回転する。
【0023】
図2は、鉛直軸9を上昇させて黒鉛電極5、6をタンディッシュ4から引き抜き、鉛直軸9を180度回転させて黒鉛電極5、6を退避位置に移動させた後に、下降させた状態を示す図である。
退避位置の下方には上面が水平な基準台17が設けてあり、基準台17の上面から△sだけ上方には、黒鉛電極5、6の有無をそれぞれ検出可能な2つの検出センサー18、19が設けられている。
そして、2つの検出センサー18、19からの信号に応じて、鉛直軸9の昇降、すなわち、クランプ手段7、8の黒鉛電極保持動作及び解放動作、並びに前記トーチ支持手段12の昇降を制御する制御手段(図示せず)が備えてある。
なお、制御手段は操作に応じてクランプ手段7、8の黒鉛電極保持動作及び解放動作、並びに前記トーチ支持手段12の昇降及び旋回を制御することもできるようになっている。
【0024】
次に、実施例の黒鉛電極先端の高さ制御装置によって黒鉛電極先端の高さの差がなくなるように調節するための制御方法について説明する。
(1)トーチ支持手段12を上昇させ黒鉛電極5、6をタンディッシュ4から引き抜く。
(2)トーチ支持手段12を180度旋回させ黒鉛電極5、6を退避位置に移動する。
(3)トーチ支持手段12を下降させ検出センサー18、19によって黒鉛電極5、6の有無をそれぞれ検出する。
(4)黒鉛電極5、6が有ることをそれぞれ初めて検出した時点におけるトーチ支持手段12の下降距離に基づいて、黒鉛電極5、6の先端損耗長さ△b、△cを算出する。
(5)算出した△b、△cのうち、小さい方の黒鉛電極(
図2においては黒鉛電極6)が初めて検出された時点、すなわち、いずれかの検出センサー18、19が黒鉛電極5又は6有りと検出した時点から、△s−△aの長さだけトーチ支持手段12を下降させた後に停止させる。
ここで、△aは基準台17の上面と基準面との高さの差であり、トーチ支持手段12の高さを基準位置としたときに、新品の黒鉛電極5、6の先端が基準面の高さに一致するようになっている。
(6)クランプ手段7、8を解放し黒鉛電極5、6の先端を基準台17の上面に下ろす。
(7)トーチ支持手段12を△a+(△b−△c)だけ下降させる。
(8)クランプ手段7、8で黒鉛電極5、6の基端部を保持する。
【0025】
実施例の変形例を列記する。
(1)実施例においては、トーチ支持手段12を昇降及び旋回可能なものとしたが、水平軸10を伸縮可能なものとして、支持台11を水平方向に直線的に移動可能なものとしても良い。
(2)実施例においては、トーチ支持手段12を昇降及び旋回可能なものとしたが、昇降のみ可能なものとしても良い。
その場合、基準台17はトーチ支持手段12を上昇させて黒鉛電極5、6を退避位置に移動した後、退避位置の下方に水平移動又は回転移動した後に固定できるようにする。
(3)実施例においては、クランプ手段7、8は、黒鉛電極5、6の基端部を保持するとともに、必要に応じて解放することができるようになっていたが、保持体を一方向だけに摺動できるように保持する手段を用いて、クランプ手段7、8に対して、黒鉛電極5、6が上方には移動できるが、下方には移動できないようにして保持するようにしても良い。
そうした場合、算出した△b、△cのうち、大きい方の黒鉛電極(
図2においては黒鉛電極5)が初めて検出された時点から、△sの長さだけトーチ支持手段12を下降させて停止させれば、算出した△b、△cのうち、小さい方の黒鉛電極(
図2においては黒鉛電極6)は基準台17に突き当たって上方に押され△b−△cだけ押し上げられた状態で保持されることとなって、黒鉛電極5、6の先端の高さが揃う。
(4)実施例においては、基準台17の上面から△sだけ上方に、黒鉛電極5、6の有無をそれぞれ検出可能な2つの検出センサー18、19が設けられているが、基準台17の上面に黒鉛電極5、6の有無をそれぞれ検出可能な2つの検出センサーを設けても良い。
その場合、先に基準台17の上面に黒鉛電極先端が到達した時点(
図2においては黒鉛電極6の先端が基準台17の上面に到達した時点)で、トーチ支持手段12の下降を停止し、クランプ手段7、8を解放し、黒鉛電極5の先端を基準台17の上面に下ろし、クランプ手段7、8で黒鉛電極5、6の基端部を保持するようにすれば良い。
さらに、上記変形例(3)のクランプ手段を用いた場合には、基準台17の上面に両方の黒鉛電極先端が到達した時点(
図2においては黒鉛電極5の先端が基準台17の上面に到達した時点)で、トーチ支持手段12の下降を停止すれば良い。
(5)実施例においては、先端損耗量を算出したが、先端損耗量を算出しなくても、トーチ支持手段12の昇降及びクランプ手段の解放動作や保持動作は制御可能である。
例えば、いずれかの検出センサー18、19が黒鉛電極5又は6有りと検出した時点から△s−△aの長さだけトーチ支持手段12を下降させた時にクランプ手段7、8を解放し、両方の検出センサー18、19が黒鉛電極5及び6有りと検出した時点から△sの長さだけトーチ支持手段12を下降させた時に停止させれば良い。
(6)実施例においては、算出した先端損耗量を他の目的には用いていなかったが、算出した先端損耗量を累積することで黒鉛電極の取替え時期を判定するようにしても良い。
(7)実施例においては、黒鉛電極は2本であったが、3本以上の黒鉛電極を有している場合でも、この発明は適用可能である。