【実施例】
【0023】
以下、上記構成の本発明の端子カバーにつき、その実施の形態を具体的な実施例のレベルで詳しく説明する。
【0024】
〔第1の実施例〕
図1は本発明の第1の実施例における端子カバーの構造をフリー状態において示す縦断面図、
図2は端子カバーの構造を端子部への嵌合状態で示す縦断面図、
図3は
図1に対応するフリー状態での要部の構造を示す縦断面図および底面図、
図4は
図2に対応する嵌合状態での要部の構造を示す縦断面図および底面図、
図5は端子カバーの取り付けの動作を示す縦断面図である。
【0025】
フリー状態の端子カバーの構造を示す
図1および嵌合状態の端子カバーの構造を示す
図2において、50はゴムなどの弾性体材料から構成された端子カバー、60は電気機器ケース、70は端子カバー50によって被覆保護すべき端子部である。端子カバー50の構成要素として、51はカバー本体、51aは袖部、51bは貫通孔、52は円筒状被着部、52aは環状補強部、52a
1 は凹所、52bは圧接用膨出部である。端子部70の構成要素として、71は金属製台座、72はボルト、73はナット(六角ナット)、74はリード線(リード線被覆)、75は端子板である。73Aはナット73における角柱状外周面、73aは角柱状外周面73Aでの側面部、73bは角柱状外周面73Aでの稜線部、73cは上側面取り部、73dは下側面取り部である。ナット73は角柱状外周面73Aを有する端子締結金具の代表例であり、ここでは両側面取りの2種タイプのナットとなっている。電気機器ケース60に収容される電気機器は、例えば蓄電池(バッテリ)である。
【0026】
電気機器ケース60の上面に設けられた金属製台座71から上方に向けてボルト72が突設されている。ボルト72に対してリード線74の先端部の端子板75が挿通された上で、ボルト72に対してナット73が螺合緊締され、リード線74の先端部の端子板75をナット73、ボルト72、金属製台座71を介して電気機器ケース60の内部の電気機器(例えば蓄電池)の出力端子に電気的に接続するようになっている。
【0027】
端子カバー50は、端子部70を覆うためのカバー本体51と、カバー本体51を端子部70におけるナット73に嵌合して取り付ける円筒状被着部52とから構成されている。円筒状被着部52はカバー本体51の天板部から下方に向けて連設されている。カバー本体51の周方向の一部分には下方開放の袖部51aが半径方向外側に向けて連設されている。また、円筒状被着部52の内周面の開口端近傍部に半径方向内側に向けて膨出する圧接用膨出部52bが一体的に形成されている。圧接用膨出部52b、袖部51aを含めてカバー本体51と円筒状被着部52からなる端子カバー50は、その全体がゴムなどの弾性体材料から一体的に形成されている。袖部51aにはリード線74が通線されるようになっている。
【0028】
円筒状被着部52の基部(上端側)とカバー本体51の天板部との接合箇所の内周部に一体形成された環状補強部52aは、円筒状被着部52のカバー本体51に対する連設の強度を確保する。環状補強部52aの内側の凹所52a
1 は、取り付け完成状態でボルト72の頭部を挿入する空間となっている。凹所52a
1 の中央部でカバー本体51の天板部に形成された貫通孔51bは、ナット73に対する円筒状被着部52の嵌合の際に、端子カバー50の全体が変形しやすくなるように機能する。環状補強部52aは、この変形の容易性にかかわらず、円筒状被着部52のナット73に対する抱き付きの保持力を確保する。
【0029】
図3(a)はフリー状態での円筒状被着部52およびナット73を示す縦断面図、
図3(b)は同状態の円筒状被着部52およびナット73を下側から見上げた状態で示す底面図である。
図3(b)ではより下方に位置するナット73にハッチングを施している。
【0030】
図3(a),(b)に示すように、円筒状被着部52の開口端近傍部における圧接用膨出部52bは、フリー状態で、その主部の内径aが角柱状外周面73Aを有するナット73の対角寸法(長径)φ1より小さい寸法に設定されている。円筒状被着部52の主部(圧接用膨出部52bの上方部)の内径はナット73の対角寸法φ1よりも大きくなっている。ここで、対角寸法φ1はナット73の直径方向で対向する2つの稜線部73b,73b間の寸法である。φ2はナット73の直径方向で対向する2つの側面部73a,73a間の寸法である対辺寸法(平径)である(φ1>a>φ2)。
【0031】
なお、端子カバー50の弾性復元力の作用を期待すれば、φ2>aの寸法関係でもよい。
【0032】
ナット73の角柱状外周面73Aは6つの側面部73aを正六角形に組み合わせたものに相当する。各側面部73aの両端は上下方向に延びる稜線部73b,73bとなっている。各稜線部73bの上端部は角部が3次元的に面取りされた上側面取り部73cとなっており、下端部は同様の下側面取り部73dとなっている(2種タイプのナットの場合)。フリー状態では、圧接用膨出部52bの内径aがナット73の対角寸法φ1より小さいために、圧接用膨出部52bはナット73の上端面に当接するようになっている。このことは、円筒状被着部52およびナット73を下側から見上げた底面図の
図3(b)を参照すれば明確となる。
【0033】
図4(a)は嵌合状態での円筒状被着部52およびナット73を示す縦断面図、
図4(b)は同状態の円筒状被着部52およびナット73を下側から見上げた状態で示す底面図である。
図4(b)ではより下方に位置する圧接用膨出部52bにハッチングを施し、ナット73の外形は破線で描いている。
【0034】
図4(a)に示すように、円筒状被着部52がナット73に対して軸方向に沿って嵌合された状態で、圧接用膨出部52bは
図3のフリー状態よりも半径方向外側に押し広げられ、それに伴って円筒状被着部52は末広がり状に変形し、円筒状被着部52における圧接用膨出部52b以外の部分(上側半部)がナット73の角柱状外周面73Aの稜線部73bの上端から離間している。この末広がり状に変形した円筒状被着部52には矢印で示すように弾性的に半径方向内側へ収縮しようとする復元力Fが働き、その弾性復元力Fにより圧接用膨出部52bの内周面が角柱状外周面73Aに圧接することになる。
【0035】
円筒状被着部52における圧接用膨出部52b以外の部分がナット73の角柱状外周面73Aの稜線部73bの上端から離間していることは、次の作用をもたらす。もしも従来例と同様に圧接用膨出部52b以外の部分が稜線部73bの上端に接触しているとすると、弾性復元力Fに対する反力F′が半径方向に沿う分力F
H ′と稜線部73bである鉛直上方に沿った分力F
V ′とに分解され、鉛直上方に沿う分力F
V ′が比較的に大きいために、端子カバー50がナット73から抜け出しやすくなる。これに対して、本発明の第1の実施例の場合は、弾性復元力Fに対する反力F′の分力は半径方向に沿う分力F
H ′が大部分で、鉛直上方に沿った分力F
V ′はほとんど生じない。
【0036】
加えて、フリー状態で圧接用膨出部52bの内径aがナット73の対角寸法φ1より小さく設定されているため、半径方向内側へ収縮しようとする弾性復元力Fによる圧接用膨出部52bの角柱状外周面73Aの下端部に対する圧接力は大きなものとなる。圧接用膨出部52bの角柱状外周面73Aへの圧接は稜線部73bに対してだけでなく、角柱状外周面73Aの全体に対して圧接することになる(
図4(b)参照)。
【0037】
以上のように、円筒状被着部52における圧接用膨出部52b以外の部分が稜線部73bの上端から離間していることと、半径方向内側へ収縮しようとする弾性復元力Fによって圧接用膨出部52bが角柱状外周面73Aに圧接するのは角柱状外周面73Aの下端部であることとによって、円筒状被着部52ひいては端子カバー50がナット73に対して不測の抜け出しのおそれなく強固に取り付けられることになる。
【0038】
図5(a)〜(d)は端子カバーの取り付けの動作を示す縦断面図である。
図5(a)はフリー状態を示し、
図5(b),(c)は嵌合のための押し込み途中の状態を示し、
図5(d)は嵌合が完了した状態を示す。
【0039】
図5(a)に示すように、フリー状態で円筒状被着部52の圧接用膨出部52bをナット73に位置合わせすると、圧接用膨出部52bの内径aとナット73の対角寸法φ1との関係(
図3参照)から、圧接用膨出部52bの下端面がナット73の上端面に当接する状態となっている。このフリー状態からナット73に対して円筒状被着部52を押し込むと、円筒状被着部52の圧接用膨出部52bがナット73の周方向6箇所にある上側面取り部73cにガイドされるようにして押し広げられながら、軸方向の嵌合を開始する。そして、
図5(b)から
図5(c)の状態へと進む。すなわち、圧接用膨出部52bがナット73の稜線部73bに沿って滑るようにして下方移動する。このとき、圧接用膨出部52bが稜線部73bに押されて弾性的に半径方向外側に押し広げられる。しかし、環状補強部52aに繋がる円筒状被着部52の基部は半径方向外側への押し広げが規制されるため、円筒状被着部52は末広がり状(径が下側ほど大きくなる状態)に変形する。その結果として、円筒状被着部52における圧接用膨出部52b以外の部分(上側半部)がナット73の角柱状外周面73Aから離間するようになる。この円筒状被着部52の末広がり状の変形は弾性変形であり、反作用としての弾性復元力Fにより、末広がり状の円筒状被着部52は圧接用膨出部52bをナット73の角柱状外周面73Aに圧接する。ナット73の稜線部73bに対しては特に強く密着する。
【0040】
さらに押し込むと、
図5(d)に示すように、圧接用膨出部52bはナット73の角柱状外周面73Aの下端部に対してさらに強く密着する。この状態でも、末広がり状に変形した円筒状被着部52における圧接用膨出部52b以外の部分(上側半部)はナット73の角柱状外周面73Aから離間しており、その離間ゆえに、圧接用膨出部52bの上側半分は角柱状外周面73Aの下端部に密着した圧接用膨出部52bに対して、これを半径方向内側に弾性的に強力に収縮させる弾性復元力Fとなって作用する。
【0041】
より詳しくは、次のとおりである。弾性復元力Fは、その方向が
図5(b)から
図5(c)に移行した時点(カバー膨出部とナット稜線部がすべて接触したとき)に、水平になる。すなわち、
図5(b)の状態では外方斜め上から内方斜め下に傾斜する方向であるのに対し、
図5(c)の状態ではほぼ水平に外方から内方に向かう方向である。
【0042】
従来例の場合はナットの上端で接触するために、弾性復元力Fに対する反力F′が半径方向に沿う分力F
H ′とナットの稜線部である鉛直上方に沿った分力F
V ′とに分解され、鉛直上方に沿う分力F
V ′に起因して端子カバーがナットから抜け出しやすい。
【0043】
これに対して、本発明実施例の場合は、弾性復元力Fに対する反力F′の分力は半径方向に沿う分力F
H ′のみで、鉛直上方に沿った分力F
V ′は全く生じない。
【0044】
以上により、本発明実施例にあっては、ナット73に対する圧接用膨出部52bの圧接挟持力(摩擦力)を充分に大きなものとすることができる。
【0045】
以上の結果、円筒状被着部52ひいては端子カバー50はナット73に対して軸方向の抜け出しを強力に阻止される状態で安定的かつ強固に取り付け固定される。
【0046】
〔第2の実施例〕
上記の第1の実施例はナットについて、両側面取りの2種タイプのナット73を用いるものであった。これに対して、第2の実施例では、
図6に示すように、片側面取りの1種タイプのナット73′を用いるものである。このナット73′の下面は平坦になっている。
【0047】
なお、
図6において、第1の実施例の
図2で用いたのと同一符号は同一の構成要素を指すものとし、詳しい説明は省略する。
【0048】
〔第3の実施例〕
図7は本発明の第3の実施例における端子カバーの構造をフリー状態において示す縦断面図、
図8は端子カバーの構造を端子部への嵌合状態で示す縦断面図、
図9は
図7に対応するフリー状態での要部の構造を示す縦断面図および底面図、
図10は
図8に対応する嵌合状態での要部の構造を示す縦断面図および底面図、
図11は嵌合状態を示す下方からの斜視図である。これらの図において、第1の実施例の図で用いたのと同一符号は同一の構成要素を指すものとし、詳しい説明は省略する。
【0049】
本実施例において、第1の実施例と相違する点は、圧接用膨出部52bに脱落防止用の舌片52b
1 を形成した点である。すなわち、円筒状被着部52の開口端近傍部における圧接用膨出部52bにはさらに、開口端に半径方向内側に向けて突出する断面楔形状の環状の脱落防止用の舌片52b
1 が一体的に形成されている。脱落防止用の舌片52b
1 が付いた圧接用膨出部52b、袖部51aを含めてカバー本体51と円筒状被着部52からなる端子カバー50は、その全体がゴムなどの弾性体材料から一体的に形成されている。
【0050】
フリー状態での円筒状被着部52およびナット73を示す縦断面図を示す
図9(a)および同状態の円筒状被着部52およびナット73を下側から見上げた状態で示す底面図を示す
図9(b)のように、円筒状被着部52の開口端近傍部における圧接用膨出部52bは、フリー状態で、その主部の内径aが角柱状外周面73Aを有するナット73の対角寸法(長径)φ1より小さい寸法に設定され(第1の実施例と同じ)、さらに、この圧接用膨出部52bの主部の内径aに対して、脱落防止用の舌片52b
1 の内径はさらに小さくなっている。
【0051】
フリー状態では、圧接用膨出部52bの内径aがナット73の対角寸法φ1より小さいために、圧接用膨出部52bおよび断面楔形状の環状の脱落防止用の舌片52b
1 はナット73の上端面に当接するようになっている。このことは、円筒状被着部52およびナット73を下側から見上げた底面図の
図9(b)を参照すれば明確となる。
【0052】
図10(a)は嵌合状態での円筒状被着部52およびナット73を示す縦断面図、
図10(b)は同状態の円筒状被着部52およびナット73を下側から見上げた状態で示す底面図である。
図10(b)ではより下方に位置する圧接用膨出部52bおよび脱落防止用の舌片52b
1 にハッチングを施し、ナット73の外形は破線で描いている。
【0053】
図10(a),(b)に示すように、圧接用膨出部52bの最下端に一体的に形成された断面楔形状の環状の脱落防止用の舌片52b
1 が稜線部73bの下端部に形成された下側面取り部73dに対して喰い込んで弾性的に係合している。この状態で、圧接用膨出部52bはナット73の角柱状外周面73Aに圧接している。その結果、圧接用膨出部52bは
図9のフリー状態よりも半径方向外側に押し広げられ、それに伴って円筒状被着部52は末広がり状に変形している。この末広がり状に変形した円筒状被着部52には矢印で示すように弾性的に縮径しようとする復元力Fが働き、その弾性復元力Fにより圧接用膨出部52bの内周面が角柱状外周面73Aに圧接することになる。
【0054】
第1の実施例と同様に圧接用膨出部52bが角柱状外周面73A特に稜線部73bに圧接することに加えて、断面楔形状の環状の脱落防止用の舌片52b
1 がナット73の下側面取り部73dの下方に喰い込むこととにより、円筒状被着部52ひいては端子カバー50がナット73に対して不測の抜け出しのおそれなく強固に取り付けられることになる。
【0055】
図11は端子カバー50における円筒状被着部52をナット73に対して嵌合した状態を下方から見上げた斜視図である。
図11では円筒状被着部52にハッチングを施し、かつ分かりやすくするために、直径方向での2箇所において圧接用膨出部52bおよび脱落防止用の舌片52b
1 を含めて円筒状被着部52の断面形状を描いている。ナット73の底面の外周部は圧接用膨出部52bおよび脱落防止用の舌片52b
1 で覆われているが、白色で描いたナット73の底面の内周部分は脱落防止用の舌片52b
1 による覆いはされていない。脱落防止用の舌片52b
1 は断面楔形状の環状であり、ナット73の底面の外周部を全周にわたって包み込むように配設されている。加えて、圧接用膨出部52bの内周面はナット73の角柱状外周面73A特に稜線部73bに弾性的に強く圧接している。したがって、円筒状被着部52はナット73に対して強固に保持されることになる。
【0056】
このように第3の実施例の端子カバー50によれば、円筒状被着部52の開口端近傍部に一体的に圧接用膨出部52bを形成し、さらに圧接用膨出部52bの開口端に脱落防止用の舌片52b
1 を形成し、フリー状態の圧接用膨出部52bの内径を端子締結金具であるナット73の対角寸法φ1より小さくし、ナット73への嵌合状態で、圧接用膨出部52bが円筒状被着部52の弾性復元力Fによって角柱状外周面73Aの稜線部73bに対して圧接するとともに、脱落防止用の舌片52b
1 が稜線部73bの下側面取り部73dに対して強力な弾性的喰い込み状態で係合するように構成してあるので、端子カバー50をナット73に対して非常に強力な密着保持力をもって嵌合固定することができ、きわめて高い抜け止め効果を発揮する。
【0057】
3種タイプのナットは厚みが薄い両側面取りのナット(コンタルナット、ロックナット)であるが、これを用いるものに本発明の端子カバーを利用することももちろん可能である。