【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために発明者は、当初、加飾層の伸縮率をヒンジ等のそれと近似させることにより課題を解決しようと考えた。しかしながら、伸縮率を追求することにより、加飾層の本来の目的である加飾性に制限が生じることが判明した。たとえば、昨今の化粧容器になくてはならないとされる金属蒸着層による加飾ができなくなる、また、できたとしても大変高価なものになる、という事態が生じた。そこで発明者は、発想を転換し、割れや剥離が生ずるエリアの加飾層がもともと存在しなければ、上記課題自体が解消するという発想に至った。本発明は、その発想に基づくものである。その詳しい内容は項を改めて説明する。なお、何れかの請求項記載の発明を説明するに当たり行う用語の定義等は、発明カテゴリーの違いや記載の順番等に関わりなく、その性質上可能な範囲において他の請求項記載の発明にも適用されるものとする。
【0008】
(定義)
本明細書における「合成樹脂一体型のヒンジキャップ」とは、前掲の背景技術の欄で述べたとおり、キャップ本体と、当該キャップ本体に屈伸ヒンジを介して設けられた開閉蓋の少なくとも三者が合成樹脂材を一体成形してなるものをいい、上記三者以外の部位もしくは部材(たとえば、開閉蓋に設けられる摘まみ)を併せて一体成形したものを含む。一方、一体成形後に、合成樹脂や金属その他の素材により構成される部材(たとえば、金属製の装飾具)を固定もしくは付着等した場合のヒンジキャップも、依然として上記の合成樹脂一体型のヒンジキャップであることに変わりはない。ここで「屈伸ヒンジ」とは、開閉蓋の繰り返し開閉に伴い屈曲と伸展を繰り返すように構成されたヒンジのことをいい、合成樹脂の可撓性がこの屈伸を可能とする。屈伸ヒンジには、たとえば上述した特許文献1〜5に開示された形態のヒンジが含まれるが、これらに限られるものではなく、一体成形されたあらゆる形態のものが含まれる。
【0009】
(請求項1記載の発明の特徴)
請求項1記載の発明は、キャップ本体と、当該キャップ本体に屈伸ヒンジを介して設けられた開閉蓋とを含み、当該キャップ本体と当該屈伸ヒンジと当該開閉蓋の
外表面全体に直接もしくは間接に加飾層が形成されている
、単一合成樹脂材を一体成形してなるヒンジキャップに関するものである。当該屈伸ヒンジは、当該開閉蓋の開閉の際に弾性的に屈伸する1又は2以上の屈伸エリアを含み、当該加飾層には、当該加飾層を部分剥離してなる加飾層なしエリアが設けられ、当該加飾層なしエリアは、当該屈伸エリアに対応していることを特徴とする。加飾層なしエリアの形状や箇所数は、主としてヒンジの形態に応じて設定することができる。
【0010】
請求項1の発明によれば、加飾層の剥離もしくは割れが有効に防止される。すなわち、加飾層なしエリアが設けられていない従来の加飾層では、当該屈伸ヒンジが繰り返し屈伸されたことに伴う劣化が剥離もしくは割れの原因となる。そこで、従来の加飾層であればその剥離もしくは割れが生じたであろう部位の加飾層を、予め取り除きもしくは形成しないことにより、上述した剥離もしくは割れを防止したものである。なお、ヒンジキャップの上に加飾層を直接形成する場合もあれば、単層もしくは複層のアンダーコート層等の上に加飾層を間接形成する場合もある。また、加飾層の上に、さらに単層もしくは複層の保護層を設けることを妨げない。さらに、アンダーコート層や保護層を設けた場合に、これらにも厚み方向に貫通する貫通エリアを設けることも妨げない。
【0011】
(請求項2記載の発明の特徴)
請求項2記載の発明は、キャップ本体と、当該キャップ本体に屈伸ヒンジを介して設けられた開閉蓋とを含み、当該キャップ本体と当該屈伸ヒンジと当該開閉蓋の
外表面全体に直接もしくは間接に加飾層が形成されている
、単一合成樹脂材を一体成形してなるヒンジキャップに関するものである。当該加飾層には、当該加飾層を部分剥離してなる加飾層なしエリアが設けられ、当該加飾層なしエリアは、当該屈伸ヒンジに対応しており、当該屈伸ヒンジと同形状の、または当該屈伸ヒンジの大きさより大きくもしくは小さく形成されていることを特徴とする。なお、ヒンジキャップの上に加飾層を直接形成する場合もあれば、単層もしくは複層のアンダーコート層等の上に加飾層を間接形成する場合もある。また、加飾層の上に、さらに単層もしくは複層の保護層を設けることを妨げない。さらに、アンダーコート層や保護層を設けた場合に、これらにも厚み方向に貫通する貫通エリアを設けることも妨げない。
【0012】
請求項2の発明によれば、屈伸ヒンジの屈伸に伴うに内部応力が加飾層内に発生することになるが、加飾層なしエリアは、この応力の作用による加飾層の伸び縮みに追従してこの応力を吸収する。この吸収により応力が緩和される結果、加飾層の応力剥離が防止もしくは抑制される。加飾層なしエリアの形状や箇所数は、主としてヒンジの形態に応じて設定することができる。
【0013】
(請求項3記載の発明の特徴)
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明であって、前記加飾層なしエリアを囲む前記加飾層の端面には、前記加飾層なしエリアを形成するためのレーザー光照射によるレーザー光照射痕が形成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項3の発明によれば、加飾層を形成した後にレーザー光を照射して加飾層を事後的に部分剥離することにより加飾層なしのエリア、すなわち貫通エリアを形成することができる。加飾層なしエリアの形成は、加飾層形成時において事前に形成することも可能であるが、上記した事後形成も可能である。レーザー光照射による剥離以外の方法を妨げるものではないが、レーザー光照射による剥離は微細加工ができるのでたいへん便利である。
【0015】
(請求項4記載の発明の特徴)
請求項4記載の発明は、請求項1ないし3いずれか記載の発明であって、前記加飾層は、金属蒸着層のみ、もしくは、金属蒸着層を含む複数の層から構成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項4の発明によれば、加飾層に金属蒸着層を用いることにより、光沢のある加飾を施すことができる。金属蒸着層は合成樹脂層などに比べ伸縮しづらいので、剥離もしくは割れをより生じやすい。このため、剥離や割れを防ぐ上で貫通エリアの存在がより効果的なものとなる。
【0017】
(請求項5記載の発明の特徴)
請求項5記載の発明は、請求項1ないし4いずれか記載の発明であって、前記加飾層と前記キャップ本体と当該屈伸ヒンジと当該開閉蓋との間に、少なくとも1層のアンダーコート層が形成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項4の発明によれば、アンダーコート層の形成により、ヒンジキャップに対する加飾層の付着性を高めるので、加飾層の剥離もしくは割れをより効果的に防止もしくは抑制することができる。
【0019】
(請求項6記載の発明の特徴)
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明であって、前記加飾層の上に単層または複層の保護層が形成されていることを特徴とする。保護層が単層であるばあいのそれをトップコート層と、また、複層の場合の一番外側の保護層をトップコート層とそしてトップコート層以外の1層または2層以上の中間保護層をミドルコート層と呼ぶこともある。
【0020】
請求項6の発明によれば、保護層が加飾層を外部環境から保護するので、加飾層の劣化防止を通した加飾層の剥離もしくは割れを有効に防止もしくは抑制を図ることができる。
【0021】
(請求項7記載の発明の特徴)
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明であって、前記単層の保護層、もしくは、前記複層の保護層の少なくとも一部には、前記加飾層なしエリアと同じ形状であり厚み方向に貫通する貫通エリアが形成されていることを特徴とする。
【0022】
請求項7の発明によれば、貫通エリアが設けられた保護層は、加飾層の加飾層なしエリアと同じ形状の貫通エリアの収縮拡張作用により、加飾層の伸び縮みにより追従しやすくなる。このため、加飾層への負担が軽減され、その結果、加飾層の剥離もしくは割れが有効に防止もしくは抑制される。加飾層の加飾層なしエリアと保護層の貫通エリアを同じ形状としたのは、上述の追従が行われやすくするためと、加飾層なしエリアと保護層の貫通エリアをレーザー光照射などにより一括形成できるようにして手間を少なくするためである。
【0023】
(請求項8記載の発明の特徴)
請求項8記載の発明は、キャップ本体と、当該キャップ本体にヒンジを介して設けられた開閉蓋とを含み、当該屈伸ヒンジは、当該開閉蓋の開閉の際に弾性的に屈伸する1又は2以上の屈伸エリアを含み、当該キャップ本体と当該屈伸ヒンジと当該開閉蓋の
外表面全体に加飾層が形成されている
、合成樹脂一体型のヒンジキャップの製造方法である。単一合成樹脂材を一体成形して当該キャップ本体と当該屈伸ヒンジと当該開閉蓋を製造する成形工程と、当該キャップ本体と当該屈伸ヒンジと当該開閉蓋の
外表面全体にアンダーコート層を形成するアンダーコート層形成工程と、当該アンダーコート層の上全体に加飾層を形成する加飾工程と、当当該屈伸エリアに対応する当該加飾層にレーザー光を照射して加飾層なしエリアを形成する加飾層なしエリア形成工程と、を含むことを特徴とする。上記以外の工程を含めること、たとえば加飾層の上に単層または複層の保護層を形成することを妨げない。
【0024】
請求項8の発明によれば、加飾層の剥離もしくは割れが有効に防止されたヒンジキャップを製造することができる。すなわち、加飾層なしエリアが屈伸エリアの上に設けられていない従来の加飾層では、当該屈伸ヒンジが繰り返し屈伸されたことに伴う劣化が剥離もしくは割れの原因となる。そこで、従来の加飾層であればその剥離もしくは割れが生じたであろう部位の加飾層を、予め取り除きもしくは形成しないことにより、上述した剥離もしくは割れを防止したものである。
【0025】
(請求項9記載の発明の特徴)
請求項9記載の発明は、キャップ本体と、当該キャップ本体にヒンジを介して設けられた開閉蓋とを含み、
外表面全体に加飾層が形成されている
、合成樹脂一体型のヒンジキャップの製造方法である。単一合成樹脂材を一体成形して当該キャップ本体と当該屈伸ヒンジと当該開閉蓋を製造する成形工程と、当該キャップ本体と当該屈伸ヒンジと当該開閉蓋の
外表面全体にアンダーコート層を形成するアンダーコート層形成工程と、当該アンダーコート層の
外表面全体に加飾層を形成する加飾工程と、当該屈伸ヒンジに対応する当該加飾層に、当該屈伸ヒンジと同形状の、または当該屈伸ヒンジの大きさより大きいもしくは小さい形状の加飾層なしエリアを、レーザー光照射により形成する加飾層なしエリア形成工程と、を含むことを特徴とする。上記以外の工程を含めること、たとえば加飾層の上に単層または複層の保護層を形成することを妨げない。
【0026】
請求項9の発明によれば、加飾層なしエリアを有することにより加飾層の剥離もしくは割れを有効に防止もしくは抑制されたヒンジキャップを効率よく製造することができる。屈伸ヒンジの屈伸に伴うに内部応力が加飾層内に発生することになるが、加飾層なしエリアは、この応力の作用による加飾層の伸び縮みに追従してこの応力を吸収する。この吸収により応力が緩和される結果、加飾層の応力剥離が防止もしくは抑制される。加飾層なしエリアの形状や箇所数は、主としてヒンジの形態に応じて設定することができる。
【0027】
(請求項10記載の発明の特徴)
請求項10記載の発明は、請求項8または9の発明であって、前記加飾層の上に単層または複層の保護層を形成する保護層形成工程を含むことを特徴とする。
【0028】
請求項10の発明によれば、保護層が加飾層を外部環境から保護するので、加飾層の劣化防止を通した加飾層の剥離もしくは割れを有効に防止もしくは抑制されたヒンジキャップを製造することができる