(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記帯電体は、圧縮または引っ張り応力が負荷されることで表面電荷を誘起するよう構成されていることを特徴とする請求項1、4または5記載の静電誘導型の振動発電装置。
前記帯電体の一方の表面の一部および/または他方の表面の一部に、導電性の材料を含む導電性層を有することを特徴とする請求項1、4、5または6記載の静電誘導型の振動発電装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エレクトレットを利用した静電誘導型の振動発電装置は、エレクトレットの表面から放出される外部電界が対向電極に電荷を誘起することで静電容量を形成しており、外力によりエレクトレットと対向電極との位置が相対的に変化して、その静電容量が変化することで電力を得ることができる。すなわち、発電量を決定する本質的な因子は、エレクトレットの表面から実際に生じる外部電界強度である。したがって、エレクトレット材料の比誘電率、表面電荷密度、形状などの物性パラメータの一部を向上させても、外部電界強度が上昇しない限り発電量は増加しない。
【0006】
特に、強誘電性、焦電性、圧電性材料などの自発分極現象を利用したエレクトレット(以下、「自発分極エレクトレット」と呼ぶ)は、大きな表面電荷密度を有するが、一方の表面が正に、他方の表面は負に帯電している。このような場合、自発分極エレクトレットは、空間を隔てて対向する金属板に電圧を印加したコンデンサと同じである。
【0007】
このため、例えば、単一の表面電荷を有する従来のエレクトレット材料の膜厚は1nm〜100μm程度と考えられるが、自発分極エレクトレットの膜厚がこの範囲にある場合、表面電荷から生じる電界の多くは自発分極エレクトレットの内部で結ばれ、実際に得られる外部電界は非常に小さい。したがって、この膜厚範囲の自発分極エレクトレットを静電誘導型の発電装置に適用しても、対向電極に誘起される電荷量は小さく、発電量も微々たるものである。
【0008】
また、例えば、特許文献5では、発電量を表す一般式(特許文献5中の数式1)を示し、発電量は、強誘電体エレクトレットの表面電荷密度が高く、厚みが厚く、比誘電率が小さいほど良いと記載されているが、その一般式は、単一の表面電荷を有する従来のエレクトレットを前提に導かれた式であり、両表面に正負の表面電荷が対を成して存在する強誘電体エレクトレット(「自発分極エレクトレット」に同じ)で成立するかは疑わしい。よって、特許文献5の一般式より算出した発電量を得ることは困難であるという課題があった。
【0009】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、発電量を向上させることができ、特に自発分極エレクトレットから効率的に外部電界を取り出すことができる静電誘導型の振動発電装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る静電誘導型の振動発電装置は、間隔をあけて配置された、導電性の材料を含む1対の導電性板と、所定の厚さを有し、一方の表面が正に帯電し、他方の表面が負に帯電し、各導電性板の間で一方の導電性板に接して設けられた帯電体とを有し、各導電性板の間隔が前記帯電体の各表面に垂直な方向に変位することにより、静電容量が変化して発電が生じるよう構成されており、前記帯電体は、大気中に単体で存在するときに生じる外部電界の絶対値が、他方の導電性板が存在する位置で、2.7×10
7V/m以上1.5×10
10V/m以下であることを特徴とする。
【0011】
以下に、本発明に係る静電誘導型の振動発電装置の原理について説明する。
上述のように、静電誘導型の振動発電装置では、エレクトレット(帯電体)の表面電荷密度や表面電位、比誘電率、形状よりも、外部電界の大きさが発電量を決める本質的なパラメータである。特に、自発分極エレクトレットの表面は一方が正に、他方の表面が負に帯電しており、表面電荷から発生する電界のほとんどは自発分極エレクトレットの内部で結ばれるため、帯電表面から外部へ放出される電界は激減する。そこで、本発明者等は、自発分極エレクトレットから生じる外部電界のモデルを構築し、その強度を高めるパラメータの探索を行った。
【0012】
図1に、外部電界モデルの構築に考慮された自発分極エレクトレットのパラメータを示す。ここでは、自発分極エレクトレットを充電された金属板コンデンサに還元して、外部電界のモデル化を検討している。
図1に示すように、上面の表面電荷密度をσ、下面の表面電荷密度をσ′、自発分極エレクトレットの厚さをt、縦の長さをL、横の長さをW、自発分極エレクトレットの表面の中心からの距離をz、自発分極エレクトレットの周囲をみたす媒質の誘電率をεとすると、外部電界Ezは以下の(1)式で表される。
【数1】
【0013】
特に、上面と下面の表面電荷密度の絶対値が等しく、電荷の符号が逆の場合には、下面の表面電荷密度は−σと表わせる。したがって、外部電界Ezは以下の(2)式で表される。
【数2】
【0014】
(1)式および(2)式の第1項が自発分極エレクトレットの上面から放出される外部電界を示し、第2項が下面からの外部電界を示す。したがって、外部電界Ezはそれらの和として表される。(1)式および(2)式に示すように、外部電界Ezは、zが短くなるほど、また、σとtが増えるほど増加する。
【0015】
ここで、振動発電装置を例として、zをエレクトレット表面から対向電極までの距離と考える。zは発電装置の構造にも律則されるが、例えば、従来の静電誘導型の発電装置では、エレクトレットの放電を防ぐ目的のため、対向電極がエレクトレット表面に最接近した時のzを、10〜100μm程度に設定している。σはエレクトレットの材料及び分極処理条件に依存するため、外部電界Ezを上昇させ、発電量を増やす最も簡易な方法は、自発分極エレクトレットの厚さtを増加させることである。
【0016】
図2は、外部電界Ezと自発分極エレクトレットの厚さtとの関係を示すグラフである。外部電界Ezは(2)式を用いて算出した。計算に用いたパラメータは、縦の長さLを50mm、横の長さWを50mm、自発分極エレクトレットの表面中心からの距離zを40μm、評価環境を大気中とし、その誘電率εを8.9×10
−12F/mとした。また、表面電荷密度σが300mC/m
2(
図2中の実線)、150mC/m
2(
図2中の破線)、75mC/m
2(
図2中の点線)の場合について、外部電界Ezを算出した。300mC/m
2の表面電荷密度は、例えば、理想的に完全分極された強誘電体材料の残留分極から得ることが出来る。
【0017】
図2に示すように、外部電界Ezは、その表面電荷密度σの値に関係なく、自発分極エレクトレットの厚さtが増加するにつれて上昇することが確認された。このことから、自発分極エレクトレットの厚さtを大きくすることにより、自発分極エレクトレットから効率的に外部電界を取り出すことができるといえる。また、外部電界Ezは、およそ60mmで飽和する特性を有することも確認された。これは、自発分極エレクトレットの厚さtが60mmほどに達すると、符号が反対の表面電荷を有する一方の表面と他方の表面とが十分に離れ、一方の表面の表面電荷のみが存在する場合の外部電界に近づく為である。(2)式においては、第1項が第2項より十分大きく、外部電界Ezがほぼ第1項で表わされることを意味する。したがって、自発分極エレクトレットの厚さを大きくするほど外部電界は上昇するが、60mm以上に達するとそれ以上大きく増えることは無い。このとき、理想的に完全分極された強誘電体材料(表面電荷密度が300mC/m
2のもの)から得られる外部電界の最大値は、1.5×10
10V/m程度である。
【0018】
また、(2)式に示すように、外部電界Ezは、自発分極エレクトレットの縦の長さLと横の長さWにも依存するが、例えば、小型センサーの駆動電源やモバイル機器の充電器としての応用を鑑み、それらの長さが50mm以下であれば、自発分極エレクトレットの厚さtが60mmほどで、外部電界Ezは同様に飽和する特性を示す。よって、自発分極エレクトレットの厚さは60mm以下が有効である。
【0019】
また、本発明者等により、従来のエレクトレットと自発分極エレクトレットの発電量とを比較すると、外部電界強度が2.7×10
7V/m以上で、従来のエレクトレットの発電量を超えることがわかった。また、2.7×10
7V/m以上の外部電界強度は、自発分極エレクトレットの厚さが1mm以上で容易に達成可能であることもわかった。以上のことから、本発明に係る静電誘導型の振動発電装置は、帯電体が大気中に単体で存在するときに生じる外部電界の絶対値が、他方の導電性板が存在する位置で、2.7×10
7V/m以上1.5×10
10V/m以下であるため、従来のものと比べて、発電量を向上させることができるといえる。また、本発明に係る静電誘導型の振動発電装置で、帯電体の厚さは、1mm以上60mm以下であることが好ましい。
【0020】
本発明に係る静電誘導型の振動発電装置で、前記帯電体は、所定の厚さを有する自発分極したエレクトレットを、複数積層させて形成されていてもよい。この場合、自発分極エレクトレットの正に帯電した表面の上に、他の自発分極エレクトレットの負に帯電した表面を向けて積み重ねることにより、正と負の電荷がそれらの界面で打ち消しあい、見かけ上、厚みが増加した自発分極エレクトレットを作製することができる。これにより、たとえ積み重ねる前後でその表面電荷密度が一定であっても、厚さが増加することで外部電界が強まるため、発電量を向上させることができる。
【0021】
本発明に係る静電誘導型の振動発電装置で、前記帯電体は、一方の表面が正に、他方の表面が負に帯電するエレクトレットで十分大きな外部電界強度を得ることができるものであれば、いかなる構成材料から成っていてもよく、例えば、強誘電性、焦電性、または圧電性材料より構成されていてもよい。
【0022】
本発明に係る静電誘導型の振動発電装置で、前記帯電体は、圧縮または引っ張り応力が負荷されることで表面電荷を誘起するよう構成されていてもよい。この場合、振動可能に設けられた片持ち梁や両持ち梁などに取り付けて使用することができる。
【0023】
本発明に係る静電誘導型の振動発電装置の製造方法は、所定の厚さを有する自発分極材の各表面の一部または全体に導電性材を取り付け、各導電性材を介して前記自発分極材に電界を印加して分極処理を行った後、各導電性材を取り外すことにより、前記帯電体または前記自発分極したエレクトレットを得ることを特徴とする。
本発明に係る静電誘導型の振動発電装置の製造方法によれば、発電量が向上した本発明に係る静電誘導型の振動発電装置を得ることができる。
【0024】
本発明に係る静電誘導型の振動発電装置は、前記帯電体の一方の表面の一部および/または他方の表面の一部に、導電性の材料を含む導電性層を有していてもよい。この場合、導電性層を有していても、高い発電量を得ることができる。また、この場合の本発明に係る静電誘導型の振動発電装置の製造方法は、所定の厚さを有する自発分極材の各表面の一部に前記導電性層を形成し、各導電性層を介して前記自発分極材に電界を印加して分極処理を行うことにより、前記帯電体を得ることが好ましい。この場合、分極処理後に導電性層を取り外す必要がなく、帯電体の物理的負荷を減らすことができる。このため、特に物理的負荷により破損しやすい自発分極エレクトレットに対して有効である。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、発電量を向上させることができ、特に自発分極エレクトレットから効率的に外部電界を取り出すことができる静電誘導型の振動発電装置及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明にかかる静電誘導型の発電装置及びその製造方法について、図面などを用いて説明する。以下の実施例の説明では、本発明の内容を具体的に示すため装置の構成部の寸法、形状、位置を例示的に示すが、本発明の範囲をそれらのみに限定するものではない。また、繰り返しの説明を省略するため、同一の機能を有するものは、同一の名称や符号を付ける。
【0028】
(第1実施形態)
図3は、本発明の第1実施形態による自発分極エレクトレットの製造方法を示したものである。本実施形態では、分極処理後に、自発分極材1の上表面2及び下表面3に接着させた導電性材4及び導電性材5を取り外し、自発分極エレクトレット6を作製することが特徴である。
【0029】
まず、分極処理装置7との電気的コンタクトを改善するため、
図3(a)に示すように、自発分極材1の上表面2及び下表面3に導電性材4及び導電性材5を接着させる。本実施形態では、自発分極材1として強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛Pb(Zr、Ti)O
3系セラミック(富士セラミックス社製、C−6材)を用いた。本実施形態で用いたチタン酸ジルコン酸鉛は、未分極で、両表面には電極が付いておらずチタン酸ジルコン酸鉛が露出している。また、導電性材4及び導電性材5として、粘着部が低電気抵抗な導電性材料より構成される銅箔導電性テープ(例えば、住友3M社製、CU−18C)を自発分極材の上表面2及び下表面3に張り付けた。
【0030】
続いて、
図3(b)に示すように、金属板8及び金属板9を導電性4材及び導電性材5に接続し、分極処理装置7から高電界を印加することで分極処理を行う。この際、自発分極材1が破損しない範囲で、50〜1200℃の熱を負荷しながら分極処理を行っても良い。なお、熱を負荷する場合は、自発分極材1の分極が熱で直ちに壊れるのを防ぐため、高電界を印加したまま室温付近まで冷却して自発分極材1を取り出す必要がある。また、大気中で分極処理を行う場合、高電界の印加により放電が生じるようであれば、大気より放電しにくいガス種(例えば窒素ガス、アルゴンガス、六フッ化硫黄ガス)を封入した環境下やシリコーンオイルに浸し、分極処理を行っても良い。シリコーンオイルは熱浴として利用することも可能である。本実施形態の分極処理は、室温、分極電界2kV/mmまたは4kV/mm、シリコーンオイル(信越化学社製、KF−968−100CS)浴中で、1時間行った。
【0031】
次に、
図3(c)に示すように、上表面2に接着させた導電性材4及び下表面3に接着させた導電性材5を取り外す。本実施形態では、両面の銅箔導電性テープを剥がした。こうして、
図3(d)に示すような、自発分極材1から自発分極エレクトレット6が形成される。
【0032】
なお、分極処理後に、導電性材4及び/又は導電性材5が自発分極材1の両表面に全面に渡って残る場合、その自発分極材1は自発分極エレクトレット6として機能しない。例えば、チタン酸ジルコン酸鉛の両表面に無電解ニッケルメッキ法にてニッケル電極を形成し、これに分極処理を施した素子を評価したが、大きな表面電位は得られず、振動発電を確認することは出来なかった。また、電気抵抗を介して両表面のニッケル電極をショートさせると、測定より得られた表面電位の値はゼロを示した。この理由は、
図4に示すように、分極処理時に、分極処理装置7を介して導電性材4と導電性材5との間で電荷のやりとりが生じ、上表面2と導電性材4との界面及び下表面3と導電性材5との界面で界面電気二重層10を形成するため、自発分極材1の表面電荷から放出される外部電界が遮蔽されたためと考えられる。したがって、本実施形態の自発分極エレクトレット6は、上表面2の導電性材4及び下表面3の導電性材5が無いことが特徴である。
【0033】
次に、本実施形態の自発分極エレクトレット6を用いて振動発電特性を評価した結果を示す。本発電評価では、負に帯電した表面を発電評価に採用した為、便宜上、負に帯電した表面を「表側」と定めることにする。
【0034】
表1に、本発電評価で用いた自発分極エレクトレット6の素子1〜素子6の厚さt(mm)、分極処理で自発分極材1に負荷した分極電界強度E
Poling(kV/mm)、負に帯電した表側の表面電位V
S―(V)、裏側の表面電位V
S+(V)、エレクトレット材料の比誘電率ε
r、負に帯電した表側の有効表面電荷密度σ(mC/m
2)の関係をまとめた。比較のため、従来のエレクトレットも併せて評価した。ここで、従来のエレクトレットは、サイトップ[CYTOP、登録商標](旭硝子社製、CTL−809M)溶剤を銅板上にスピンコート法により約10μm形成し、コロナ放電法によりその表面を負に帯電させたものである。表面電位は、非接触型の表面電位計(TREK JAPAN、MODEL344)を用いて測定した。有効表面電荷密度σは、ε
rε
OV
S―/tより算出した。ここで、ε
Oは真空の誘電率である。本実施形態で採用したエレクトレットの縦の長さL×横の長さWは、すべて20mm×20mmである。なお、自発分極エレクトレット6の素子1及び2において、厚さ0.1mmの素子は破損しやすい為、導電性材の接着は行わず大気中で分極処理を施した。
【0036】
表1に示すように、従来のエレクトレットでは裏側の表面電位はゼロであったのに対し、自発分極エレクトレット6の素子1〜6では大きさがほぼ等しく、符号が逆の表面電位が計測された。これは強誘電体の自発分極現象を利用したエレクトレットが正しく形成されていることを示す。また、分極処理で負荷される分極電界を上げることで表面電荷密度が上昇するため、発電量の更なる向上には分極電界強度を高めることも有効である。
【0037】
図5は、振動発電を評価した装置の構造を示すものである。上部電極11は支持台(図示せず)を介して空中に固定されており、下部電極12は加振器(図示せず)の上に固定されている。上部電極11と下部電極12は負荷13を介して電気的に接続されており、下部電極12は更にアースに接続されている。自発分極エレクトレット6または従来のエレクトレットは、負の帯電表面が上部電極11と対向するように下部電極12上に接して設けられ、空間14を介して上部電極11と静電容量を形成する。ここで、エレクトレットの負帯電表面から上部電極11の表面までの距離をエアーギャップ15と呼ぶことにする。加振器から振動が加えられ、下部電極12上のエレクトレットと上部電極11との間のエアーギャップ15がエレクトレットの帯電表面に垂直な方向に変位し、その静電容量が変化することで負荷13に電流が生じ、発電装置として利用することが出来る。本発電評価は大気中で行い、加振前の初期のエアーギャップ15を0.35mmに設定し、加振条件を周波数20Hz、加速度4.9m/s
2に設定した。また、発電量Pは以下に示す(3)式により算出した。ここで、V
OUTは負荷13の両端に生じる出力電圧、Rは負荷13のインピーダンス、そしてTは測定時間である。
【数3】
【0038】
図6に、表1に記載した自発分極エレクトレット6の素子1〜6の発電量と、(2)式を用いて算出した外部電界強度との関係を示す。一般に、外部電界強度はエアーギャップ15の大きさに依存するが、その絶対値が大きい方ほど高い発電量を得ることが出来る。ここでは、表1に記載した厚さと有効表面電荷密度、zを振動中心のエアーギャップ0.35mmと定めて、(2)式に代入し外部電界強度を算出した。また、発電量はインピーダンスマッチングを行い、その値が最大になる最適な負荷Rを接続して(3)式より求めた。最適負荷Rは、自発分極エレクトレットではおよそ30.5MΩ、従来のエレクトレットではおよそ50.5MΩであった。
図6中の点線は、従来のエレクトレットの発電量を示す。
【0039】
図6に示すように、外部電界強度が強まるにつれ、すなわち表面電荷密度及び厚さが増加するにつれ、発電量が指数関数的に増加していることが分かる。したがって、発電量の向上には、自発分極エレクトレット6の表面電荷密度の上昇だけでなく、厚さの増加も有効である。ここで、従来のエレクトレットと自発分極エレクトレット6の発電量を比較すると、外部電界強度が2.7×10
7V/m以上で従来のエレクトレットの発電量を超えることが確認された。また、その外部電界強度は、自発分極エレクトレット6の厚さが1mm以上で容易に達成可能であることも分かった。したがって、自発分極エレクトレット6の厚さは1mm以上が好ましい。また、前述のように外部電界強度は厚さ60mmで飽和するため、自発分極エレクトレット6の厚さは1mm以上60mm以下に定めるのが好適である。
【0040】
本実施形態では自発分極材1に無機強誘電材料のチタン酸ジルコン酸鉛セラミックを用いたが、より本質的には、一方の表面が正に、対向する他方の表面が負に帯電するエレクトレットで十分大きな外部電界強度を得ることが出来れば、その構成材料や結晶性の高低に依らず本発明の知見は適用可能である。したがって、例えば、他の無機材料または有機材料からなる強誘電性材料、焦電性材料、圧電性材料でも同様の結果を得ることが可能である。また、誘電性ゴム材料に強誘電性材料、焦電性材料、圧電性材料からなるフィラーを充填した物質、発泡ポリマーフィルムへ帯電処理を行い形成される有機フェロエレクトレット、強磁性と強誘電性の両特性を有するマルチフェロイック材料、ヨウ化銀などの固体電解質材料においても本発明の知見は適用可能である。更に、上述の材料は単結晶、多結晶、アモルファス、これらの混合の形態でも良い。
【0041】
また、自発分極エレクトレット6の電荷密度がその厚さ方向に分布を有する場合でも、本発明の知見は有効である。すなわち、本実施例のように、非接触型プローブを用いた表面電位計から表面電位を実測し有効表面電荷密度を算出することにより、電荷密度分布を有する自発分極エレクトレットから生じる外部電界を、有効表面電荷密度と本発明の外部電界モデルとから再現できる為である。加えて、本実施形態では、表面が縦と横の長さが等しい正方形の自発分極エレクトレット6から生じる外部電界を取り扱ったが、長方形や多角形など他の形状でも本発明の知見は有効である。すなわち、ある形状を微小な長方形の集合と捉えれば本発明の(1)式及び(2)式に示した外部電界モデルが適用可能で、個々の微小な長方形の表面電荷密度と厚さを増加させることにより、ある形状全体から放出される外部電界も増加すると考えられる為である。
【0042】
更に、本実施形態では導電性材4及び導電性材5に低抵抗な粘着部を有する銅箔導電性テープを用いたが、電気抵抗が1mΩ・cm以下で、分極処理後に取り外し可能な材料であれば同様の結果を得ることは可能である。例えば、金・銀・銅・カーボンなどのペースト材を塗る手法、透明酸化物・カーボンナノチューブ・グラフェン・導電性ポリマーなどの薄膜を塗布法にて表面に形成する手法、ドープした半導体板の適用、などが挙げられる。
【0043】
本実施形態では、空間14は大気で満たされているが、パッケージングにより、脱気して真空にしても良いし、不活性なガスで充填しても良い。また、容易に伸縮する誘電体材料で充填しても良い。更に、自発分極エレクトレット6の表面への吸湿や他の物質の吸着を防ぐ目的で、自発分極材1又は自発分極エレクトレット6の表面へ無機物質や有機物質から成る保護膜を形成しても良い。無機保護膜として、例えば、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸窒化シリコン膜及びこれらの積層膜、有機保護膜として、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)やフッ素系樹脂などが挙げられる。なお、自発分極材1へ保護膜を形成する場合は、吸湿や吸着を防止しつつ分極処理時の分極電界の低下を生じないように保護膜の厚さを100nm以上10μm以下にすると良い。
【0044】
(第2実施形態)
本実施形態は、自発分極エレクトレット6を簡易に製造する手法に関し、自発分極エレクトレット6の上表面2及び又は下表面3の一部に導電性材4及び又は導電性材5が残ることが特徴である。
図7は、本発明の第2実施形態による自発分極エレクトレット6の製造方法を示したものである。なお、本実施形態においても第1実施形態の製造方法は有効であり、第1実施形態と重複する説明は簡易に述べる。
【0045】
まず、
図7(a)に示すように、自発分極材1の上表面2及び下表面3に導電性材4及び導電性材5を形成する。本実施形態では、例えば、蒸着法、スパッタリング法、化学気相蒸着、塗布法、焼き付け、メッキ法などにより自発分極材1の上表面2及び下表面3に低抵抗な導電性膜を形成する。
【0046】
次に、
図7(b)に示すように、導電性材4及び又は導電性材5を島状に加工する。本実施形態では、例えば、導電性材4及び又は導電性材5の表面にフォトリソグラフィー工程でレジストパターンを作成しウェットエッチング法にて島状に加工する。または、耐腐食性マスクを導電性材4及び又は導電性材5の表面に接着させドライエッチング法にて島状に加工する。その後、レジストパターンまたは耐腐食性マスクを取り外す。この時、パターン外の自発分極材1の一部を削っても構わない。
【0047】
次に、
図7(c)に示すように、金属板8及び金属板9を導電性材4及び導電性材5に接続し、分極処理装置7から高電界を印加することで分極処理を行う。この時、島状に加工された導電性材4及び導電性材5の直下では界面電気二重層が形成されるが、上表面2及び又は下表面3が露出している一部では表面電荷が誘起される。その理由は、島状に加工された導電性材4及び導電性材5を介して自発分極材1の内部に回り込み電界16が発生し、それが上表面2及び下表面3が露出している部位の分極を促す為である。
【0048】
こうして、
図7(d)に示すように、金属板8及び金属板9を取り外し、第2実施形態の自発分極エレクトレット6が形成される。第1実施形態と比較し、本実施形態は分極処理後に導電性材4及び導電性材5を取り外す工程を削減でき、自発分極エレクトレット6素子の物理的負荷を減らすことが可能となる。これは、特に物理的負荷により破損しやすい自発分極エレクトレット6に対し有効な製造方法である。
【0049】
本実施形態では、導電性材4及び導電性材5を形成後、ウェットエッチング法またはドライエッチング法にてパターニングを行ったが、例えば、レーザービーム、ショットブラスト法、ダイシング切削等で島状加工しても良い。また、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、ダイコート印刷法、インクジェット印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法などを用いて導電性材パターンを直に形成しても良い。また、島状加工の後に素子をキュアする目的で、分極処理の前後に熱処理工程を加えても良い。分極処理後に熱処理工程を加える場合は、自発分極エレクトレット6の脱分極が生じない温度範囲で行うようにする。
【0050】
(第3実施形態)
本実施形態は、自発分極エレクトレット6を製造する手法に関し、特に、簡易な手法で自発分極エレクトレット6の厚さを増加させ、振動発電量を向上させる手段を提供する。前述の自発分極エレクトレット6から発生する外部電界のモデルから、自発分極エレクトレット6の厚さを増加させるほど、外部電界が強まり発電量が向上することが分かる。しかしながら、自発分極エレクトレット6の厚みが増加するほど、分極処理時に大きな電圧が必要となる。例えば、第1実施形態で用いたチタン酸ジルコン酸鉛では1mmの厚さで2kVの分極電圧を印加したが、同程度の分極を厚さ10mmの素子で行うと20kVもの高電圧を印加する分極処理装置7が必要になり、製造コスト及び安全性の点から好ましくない。
【0051】
そこで、本実施形態では、自発分極エレクトレット(例えば、第1実施形態の自発分極エレクトレット6)を積み重ねることにより、見かけ上の厚さを増加させる。この自発分極エレクトレットは一方の表面が正に、対向する他方の表面が負に帯電している。したがって、例えば、自発分極エレクトレットの正に帯電した表面の上に、他の自発分極エレクトレットの負に帯電した表面を向けて積み重ねると、正と負の電荷がそれらの界面で打ち消しあい、見かけ上、厚みが増加した自発分極エレクトレット6を作製することが出来る。これにより、たとえ積み重ねる前後でその表面電荷密度が一定でも、厚さが増加することで外部電界が強まり発電量が向上する。以下に、本実施形態の自発分極エレクトレット6の発電量を調査した結果を示す。
【0052】
本実施形態では、第1実施形態と同一の自発分極材料1と製造方法及び評価方法を用いて、発電量と自発分極エレクトレットの積み重ねの関係を調査した。表2に、本実施形態で用いた自発分極エレクトレット素子の厚さt(mm)、負に帯電した表側の表面電位V
s−(V)、正に帯電した裏側の表面電位V
s+(V)、負に帯電した表側の有効表面電荷密度σ(mC/m
2)の関係をまとめた。分極電界は2kV/mm、比誘電率は2348である。ここで、表2では、素子Xの上に素子Yを積み重ねた場合のサンプルを素子Y/Xと表記した。自発分極エレクトレットは、界面で負に帯電した表側と正に帯電した裏側が接するように積み重ねた。表2に示したように、自発分極エレクトレットを積み重ねることによって、表面電荷密度が一定のまま、その厚さを増やすことが可能である。
【0054】
次に、
図8に、素子7、素子7/8、素子7/8/9の3種について、発電量と積み重ねた自発分極エレクトレットの数の関係を示す。自発分極エレクトレット6の最適負荷は30.5MΩと求めた。振動条件とエアーギャップは第1実施形態の評価と同一である。
図8に示したように、積み重ねた自発分極エレクトレットの数が増えるにつれ、発電量が指数関数的に増大していることが分かる。これは、見かけ上、厚さを増加させることにより外部電界強度が強まり、発電量が向上したことを示す。本実施形態により、簡易な手段で発電量の向上を図ることが可能となる。
【0055】
本実施形態では、積み重ねによる効果を確認するため、同程度の表面電荷密度と厚みを有する自発分極エレクトレットを作製したが、表面電荷密度と厚みが違う自発分極エレクトレットを積み重ねても発電量の向上は可能である。また、第2実施形態の製造方法で作製した自発分極エレクトレットを積み重ねても同様の効果を得ることが出来る。更に、自発分極エレクトレット同士の界面は薄いエポキシ樹脂などの接着剤や導電性ペーストで接着しても良い。
【0056】
(第4実施形態)
本実施形態は、圧電性材料へ圧縮または引っ張り応力が負荷される構造を採用することで、それら材料の表面に正負の表面電荷を誘起させ、自発分極エレクトレット6として機能させる手段を提供する。まず、その原理について述べる。
【0057】
ここでは、圧電性材料としてウルツ鉱構造を取る窒化アルミニウム(AlN)材を例に、圧電性材料に応力が負荷された際の表面電荷密度を見積もる。例えば、それら材料に圧縮応力が負荷されると、c軸方向の自発分極量(δP
3)は以下の式で表わされる。
δP
3=e
33ε
3+e
31(ε
1+ε
2)
ここで、e
33およびe
31は圧電定数、ε
1,ε
2,ε
3はa、b、c軸方向の歪みで ε
i=(ε
i−ε
i0)/ε
i0である。ε
iは圧縮応力が負荷された際の各結晶格子の長さで、ε
i0は応力が負荷される前の平衡状態での各結晶格子の長さである。以下、計算に用いたパラメータは、ε
1Oを0.311nm、ε
2Oを0.311nm、ε
3Oを0.498nm、体積を0.0417nm
3、e
33を1.55C/m
2、e
31を−0.58C/m
2とした。
【0058】
例えば、圧縮応力により、体積は一定のままc軸が0.5%伸びると、誘起される表面電荷密度は10.7mC/m
2となった。したがって、十分大きな表面電荷密度が得られるため、自発分極エレクトレット6として機能することが出来る。
【0059】
図9及び
図10に本実施形態の自発分極エレクトレット6の構造を示す。
図9は、基板17の一方の端が固定され、他方の端に錘18が設けられた片持ち梁19で、圧電性材料より成る自発分極エレクトレット6が、例えば、エポキシ樹脂や導電性ペーストなどで基板17に接着される構造を取る。片持ち梁19に外力や音圧が加えられると片持ち梁19が振動し、片持ち梁19上に設けられた自発分極エレクトレット6は圧縮及び引っ張り応力を交互に受ける。こうして、自発分極エレクトレット6に表面電荷が誘起される。
【0060】
図10は、基板17の両端が固定され、基板17の中心に錘18が設けられた両持ち梁20で、両持ち梁20に自発分極エレクトレット6が接着される構造を取る。片持ち梁19と同様の原理で、両持ち梁20が振動し、自発分極エレクトレット6に表面電荷が誘起される。片持ち梁19及び両持ち梁20の基板17は柔軟な材料から構成されているのが好ましく、例えば、SUS材、銅合金材、アルミニウム合金材などの金属性箔材や、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリイミド(PI)などのポリマーフレキシブル基板材が良い。また、これらの複合材でも良い。
【0061】
本実施形態では、自発分極エレクトレット6は第1実施形態乃至第3実施形態の製造方法で作製されても良いが、多結晶や単結晶の高配向性圧電性材料から成る場合は、分極処理を省略しても構わない。高配向性圧電性材料として、例えば、酸化亜鉛、マンガンおよび/またはマグネシウムがドープされた酸化亜鉛、窒化アルミニウム、スカンジウムがドープされたアルミニウム窒化物材料などが挙げられる。
【0062】
(第5実施形態)
本実施形態は、小型センサーの駆動電源やモバイル機器の充電器を想定した発電装置に関し、特に、自発分極エレクトレット6の帯電表面に対して垂直な振動を利用する発電装置に関する。以下、本実施形態では、このような振動を縦型振動と呼ぶことにする。
【0063】
図11は、本実施形態の発電装置100で、下部基板101、下部導電性層102、スペーサ103、上部導電性層104、上部基板105、錘106、自発分極エレクトレット6、及び負荷13より構成される。自発分極エレクトレット6は下部導電性層102の上に設けられ、上部導電性層104と下部導電性層102は負荷13を介して電気的に接続されている。外力や音圧などが加えられ、発電装置100に縦型振動が生じると、上部導電性層104、上部基板105、及び錘106より構成される片持ち梁107が振動し、エアーギャップ15が変位する。その際、自発分極エレクトレット6を挟んで、下部導電性層102から上部導電性層104の間に形成される静電容量が変化することで、負荷13へ電流が流れる。こうして、第1実施形態と同様に、発電を起こすことが出来る。
【0064】
図12は、本実施形態の縦型振動の発電装置200で、下部基板101、下部導電性層102、スペーサ103、上部導電性層104、上部基板105、錘106、自発分極エレクトレット6、及び負荷13より構成される。発電装置100と比較し、上部導電性層104、上部基板105、及び錘106より構成される両持ち梁108が変位することで発電が生じることが特徴である。発電装置100と同様の原理で、発電装置200に縦型振動が生じると、両持ち梁108が振動し、上部導電性層104と自発分極エレクトレット6との間のエアーギャップ15が変位することで、発電が生じる。
【0065】
片持ち梁107及び両持ち梁108は、エアーギャップ15の変位が大きいほど発電量が向上するため、上部基板105は柔軟な材料より構成されることが好ましい。例えば、金属性箔材、フレキシブルプリント配線基板材、極薄ガラス材、ポリマーフレキシブル基板材、シリコンなどが挙げられる。設計した振動周波数で大きな変位を起こすように、ドライエッチング法、ウェットエッチング法、レーザービーム、ショットブラスト法、ダイシング切削などで上部基板105を適当な形状に加工することも好適である。
【0066】
また、長期に及ぶ機械的負荷に優れる点から、特に、金属性箔材やポリマーフレキシブル基板材が良い。金属性箔材としては、例えば、SUS材、銅合金材、ニッケル合金材、チタン合金材、アルミニウム合金材、及びそれらの複合材料などが挙げられる。また、ポリマーフレキシブル基板材としては、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリイミド(PI)、シクロオレフィンポリマー(COP)、テフロン[登録商標](PTFE)、フルオロエチレンプロピレン(FEP)、サイトップ[登録商標]、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、SU−8エポキシ樹脂材、パリレンおよびそれらを樹脂で接着した複合材などが挙げられる。
【0067】
また、下部基板101及び上部基板105が1mΩ・cm以下の低電気抵抗な材料より成る場合、下部導電性層102及び上部導電性層104は省略しても構わない。上部導電性層104と下部導電性層102は、蒸着法、スパッタリング法、化学気相蒸着、塗布法、メッキ法などにより電気抵抗が1mΩ・cm以下の材料より構成される。特に、安価な手法としては塗布法が好ましく、例えば、金、銀、銅、カーボン、透明酸化物、カーボンナノチューブ、グラフェン、導電性ポリマーなどの薄膜を、スピンコーティング法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、ダイコート印刷法、インクジェット印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法などで形成する手法が挙げられる。
【0068】
更に、上部基板105の変位を大きくし発電量を上昇させるため、錘106に磁力や静電気力による引力・斥力を加える機構を採用しても良い。すなわち、磁力を利用する場合は、錘106の直上及び/又は直下に磁石を設け、錘106の一部または全部を磁性材料又は磁石から構成する。静電気力を利用する場合は、錘106の直上及び/又は直下にエレクトレットを設け、錘106の一部または全部をエレクトレットから構成しても良い。このような構造を採用することで、縦型振動から大きな発電量を得ることが出来る。
【0069】
(第6実施形態)
本実施形態は、小型センサーの駆動電源やモバイル機器の充電器を想定した縦型振動の発電装置に関し、特に、自発分極エレクトレット6が圧電性材料で第4実施形態の構造を取ることが特徴である。なお、第5実施形態と同一の符号を有する部位の構造及び材料は本実施形態でも有効であるため、重複する説明は簡易に述べる。
【0070】
図13は、本実施形態の発電装置300で、下部基板101、下部導電性層102、スペーサ103、上部導電性層104、上部基板105、錘106、自発分極エレクトレット6、及び負荷13より構成される。自発分極エレクトレット6は、上部導電性層104、上部基板105、及び錘106より構成される片持ち梁107側に設けられる。外力や音圧などが加えられ、発電装置300に縦型振動が生じると、片持ち梁107が振動し、エアーギャップ15が変位する。その際、自発分極エレクトレット6に圧縮・引っ張り応力が交互に負荷され、応力の強さに応じた表面電荷が誘起し、下部導電性層102へ外部電界を結び静電容量を形成する。自発分極エレクトレット6を挟んで、下部導電性層102から上部導電性層104の間に形成される静電容量が変化することで、負荷13へ電流が流れる。こうして、第4実施形態の自発分極エレクトレット6を利用して振動発電を起こすことが出来る。
【0071】
図14は、本実施形態の発電装置400で、下部基板101、下部導電性層102、スペーサ103、上部導電性層104、上部基板105、錘106、自発分極エレクトレット6、及び負荷13より構成される。自発分極エレクトレット6は、上部導電性層104、上部基板105、及び錘106より構成される両持ち梁108側に設けられる。発電装置300と比較し、両持ち梁108が変位することで発電が生じることが特徴である。
【0072】
(第7実施形態)
本実施形態は、小型センサーの駆動電源やモバイル機器の充電器を想定した縦型振動の発電装置に関し、発電量の向上が図れる二振動系を採用することが特徴である。なお、第5及び第6実施形態と同一の符号を有する部位の構造及び材料は、本実施形態でも有効であるため、重複する説明は簡易に述べる。
【0073】
図15は、本実施形態の発電装置500で、支持基板109、下部基板101、下部導電性層102、スペーサ103、上部導電性層104、上部基板105、錘106、自発分極エレクトレット6、及び負荷13より構成される。また、発電装置500は、上部導電性層104、上部基板105、錘106より構成される片持ち梁構造の第1の振動系110と、下部基板101、下部導電性層102、錘106より構成される片持ち梁構造の第2の振動系111を有する。外力や音圧などが加えられ、発電装置500に縦型振動が生じると、片持ち梁構造の第1の振動系110と片持ち梁構造の第2の振動系111が振動する。この時、本実施形態では、振動系を2つ個別に設けることで、エアーギャップ15がより大きく変位する。これにより、自発分極エレクトレット6を挟んで、下部導電性層102から上部導電性層104の間に形成される静電容量の変化量が大きくなるため、負荷13へ電流が増大し発電量が向上する。
【0074】
図16は、本実施形態の発電装置600で、支持基板109、下部基板101、下部導電性層102、スペーサ103、上部導電性層104、上部基板105、錘106、自発分極エレクトレット6、及び負荷13より構成される。発電装置500との違いは、上部導電性層104、上部基板105、錘106より構成される両持ち梁構造の第1の振動系112と、下部基板101、下部導電性層102、錘106より構成される両持ち梁構造の第2の振動系113を有する点にある。このような構造を採用することで、より大きな発電量を得ることが出来る。