【実施例】
【0056】
実施例1:1:2のS/L比を有する本発明の特定の組成物の材料特性
固体および液体成分を別々に混合して1つにまとめ、使用直前にへらで混合する。
【0057】
【表1】
【0058】
質感:混合直後のセメント組成物は、作業時間の開始時点で乳白色のペースト剤の質感を有する。15〜30Nの範囲で、5mLのB.Braunシリンジ(12mmの内径および2mmの出口)を用いて、注入強度を測定する。
【0059】
室温(20〜25℃)での本組成物の作業時間は、最初の混合から3〜25分の範囲であり、すなわち、室温では25分間であるが、3℃では最大3時間の硬化時間である。
【0060】
2gの本組成物を5mLの非緩衝生理食塩水(0.9%のNaCl)に入れた際の最初のpHは7.4であった。6時間後のpHは6.84であり、1日後は6.47、5日後は5.94であった。
【0061】
本組成物の粘着性を以下のように測定した。
【0062】
底に2.5cmのマグネチックスターラを備え、かつ25メッシュの網が表面から1cmの深さに配置された100mLのビーカーに、50mLの生理食塩水(0.9%のNaCl)を入れる。0.5mlのすぐに使用可能なセメントを、(「渦巻き状の輪」の形状が得られような円の動きで)網目上に注入する。装置は
図1に示されている。この溶液を100rpmの速度で10分間撹拌する。注入されたセメントの正確な重量は、(注入前後のシリンジの重量を測って)決定する。撹拌期間後に、この溶液を混濁度測定管に移し、混濁度を測定し、NTUで表す。
【0063】
較正曲線:各セメントを標準として用いて、原液懸濁液を調製した。セメントの重量測定した部分(0.0000gの精度)を全体に分散させて、1000NTUの混濁度を生じさせた。原液懸濁液を使用して、連続希釈により、0、200、400、600、800および1000のNTUを有する標準懸濁液を調製した。セメントの量を懸濁液の混濁度に対してプロットした線形のグラフを用意した。このようにして、10分間の撹拌後に試験溶液の混濁度を測定して、分散したセメントの量を決定した。
【0064】
この測定により、0.1%未満のセメント組成物が偏析されて、生理食塩水中に分散したことが判明した。
【0065】
さらなる機械的特性:
針(3mmの外径)を、96ウェルプレート(φ6.7×13mm)の中に埋め込まれた完全に硬化した組成物の中に5mmの深さまで押し入れて、貫入抵抗を荷重計で測定した。生理食塩水(0.9%のNaCl)中、37℃で24時間養生して、本組成物を硬化させた。MTS試験装置(MTS Insight 10、米国ミネソタ州イーデンプレーリー)を用い、各組成物に対して6〜8個の複製物を用いて、表1に記載されている本組成物(S/L比=1:2)の抵抗の測定値は8.08±0.34N/mm
2であった。
【0066】
様々なS/L比を有する組成物の貫入も試験した。1:1.5のS/L比を有する組成物は、17,25N/mm
2の貫入抵抗を有し、これは、S/Lが1:2の組成物(6,221N/mm
2)と比較すると、ほぼ3倍であり、1:1のS/L比を有する組成物の測定した貫入抵抗は、32,82N/mm
2であった。
【0067】
セメントの強度は、5mmの変位における貫入力から計算する。以前の実験では、上記貫入試験と古典的圧縮試験(CCT)との間に線形の相関のあることが分かっている。
【0068】
実施例2:機械的特性に対する脱アセチル化の効果
注入強度:2つの異なるDD値すなわち50%および70%のPDCを用いること以外は実施例1に記載されているように、2種類の組成物を調製した。MTS試験装置を用いて、12mmの内径および2mmの出口を備えたB.Braunの5mlのシリンジで注入試験を行った。結果を
図1に示す(試験は25℃または3℃のいずれかで行った、
図2を参照)。
【0069】
圧縮強度:3つの異なるDD値すなわち40%、70%および94%を有し、かつS/L比が1であるPDCを用いたこと以外は実施例1と同様に、3種類の組成物を調製した。MTS試験装置を用い、20mm/分のクロスヘッド速度を有する500Nの荷重計を用いて、圧縮強度を試験した。最初のセメント温度を、試験中3℃および25℃に設定した。結果を
図3に示す。圧縮試験における各処理に対して5つの試料を使用し、それぞれの大きさはφ9.6×15mmであった。これらの検体を、硬化のために、生理食塩水(0.9%のNaCl)中、37℃で24時間養生し、試験条件を、注入試験について記載されている条件にした。
【0070】
実施例3:ラットの下顎骨モデルにおける組成物の生体内試験−脱アセチル化度の最適化
導入:
ラットの下顎骨(顎骨)は、骨治癒の研究のために頻繁に使用されるモデルである(Bone repair in rat mandible by rhBMP-2 associated with two carriers(2種類の担体に関連するrhBMP−2によるラットの下顎骨における骨の修復); Micron, Volume 39, Issue 4, June 2008, Pages 373-379, Joao Paulo Mardegan Issa et. al.; Bone formation in trabecular bone cell seeded scaffolds used for reconstruction of the rat mandible(ラットの下顎骨の再建のために使用される海綿骨細胞が播種された骨格における骨の形成); International Journal of Oral and Maxillofacial Surgery, Volume 38, Issue 2, February 2009, Pages 166-172, H. Schliephake, et.al., Bone regeneration in the rat mandible with bone morphogenetic protein-2: A comparison of two carriers(骨形成タンパク質2を用いたラットの下顎骨における骨再生:2種類の担体の比較); Otolaryngology - Head and Neck Surgery, Volume 132, Issue 4, April 2005, Pages 592-597, Oneida A. Arosarena, Wesley L. Collins; Spontaneous bone healing of the large bone defects in the mandible(下顎骨における大骨欠損の自然な骨治癒); International Journal of Oral and Maxillofacial Surgery, Volume 37, Issue 12, December 2008, Pages 1111-1116, N. Ihan Hren, M. Miljavec)。
【0071】
下顎骨は、摂食および噛み締めによって引き起こされる定応力に反応する代謝的に活性な骨である。本発明者らは、マイクロCT分析を用いるラットの下顎骨における深刻な骨病変部のための動物モデルを開発して、新しい骨の成長および骨原性反応を測定し、マイクロCT図の石灰化した特徴点を石灰化した骨組織に変換するために組織学的検査を行った。ラットの顎の咬筋窩の中央領域に直径4mmのドリルの穴をあけて、骨の機械的特性に影響を与える深刻な大きさの空隙を得る(
図4)。これにより、骨が損傷に反応して、適当な骨原性反応を活性化させることにより、骨構造の弱化を補うことができるようにする。マイクロCT分析により、下顎骨の規定の部分を用いて石灰化を定量化することができる(
図4)。これは、骨移植材料としてこの空隙に注入された生体材料の骨原性効果を評価するための優れた手段であることが分かった。この研究では、上記モデルを使用して、リン酸カルシウム系の注入可能な骨空隙充填材中のキチンの異なる誘導体の骨成長刺激効果を評価する。これらのキチン誘導は、脱アセチル化度の異なる3種類のキチン重合体、すなわち50%、70%および96%の脱アセチル化キチン重合体と、1種類の50%脱アセチル化オリゴマー(T−ChOS(商標)、Genis社、アイスランド)であった。本発明者らの過去のラットの顎の研究に基づいて、移植時間を7日間に調整した。この重合体のアセチル化は、新しい骨形成を誘導するために重要であると思われ、50DDの重合体が最も活性であり、96%DDの重合体は不活性であることが分かった。
【0072】
材料および方法
本研究で使用したキチン誘導体は、以下のとおりであった。
【0073】
50DDのPDC:脱アセチル化度50%(表1に記載されているものと同じ材料)。
【0074】
70DDのPDC:脱アセチル化度70%。
【0075】
96DDのキトサン:脱アセチル化度96%。
【0076】
50DDのオリゴマー(T−ChOS(商標)、Genis社、アイスランド):T−ChOS(商標)は単量体を含まず、10%未満の二量体および三量体を含む。八量体は、組成物中に最も多く含まれているオリゴマーである。
【0077】
全ての重合体の平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィで判定した場合、130kDaを超えていた。
【0078】
それぞれが固体成分(固体画分)および液体成分(液体画分)を含む、4種類の異なる移植材複合体を含むキットを製造した。固体成分(1つの管)は、0.155gのキチン誘導体、0.904gのリン酸四カルシウムおよび0.701gのα−リン酸三カルシウム、0.220gのグリセロリン酸ナトリウムおよび0.098gの水酸化カルシウム(固体画分の総重量は2.078g)を含んでいた。液体成分(1つの管)は、0.398gのリン酸および3.504gの水(総重量は3.902g)を含んでいた(S/L比は1:1.88)。
【0079】
1種の固体成分および1種の液体成分を、アルミニウム積層熱密封プラスチック袋に入れ、完全にすぐに使用できるキットを製造した。全てのキットをγ照射(20キログレイ、放射線センター(Radiation Center)、オレゴン州立大学、米国)で滅菌した。
【0080】
手術中および移植前に、これらの成分を無菌状態で混合し、シリンジに入れ、移植まで4℃に維持した。
【0081】
試験動物は、デンマークのTaconic社によって供給されている雄のSprague-Dawley系ラット(260〜280g)であった。到着時に、動物を臨床検査し、手術前の30日間にわたって実験施設に順応させて飼育した。手術当日の動物の平均体重は413gであり、430〜464gの範囲であった。動物実験の承認に対してアイスランドの委員会が発行した許諾(許諾番号:0709−0405)の下で実験を行った。手術は、整形外科医および麻酔科医により行われ、薬の投与量および動物保護は、獣医師により監督された。
【0082】
各動物の左顎を、毛を剃って消毒して、外科手術に備えた。下顎骨の下縁に平行にその上に位置する切開部から下顎骨にアクセスした。咬筋線維の鈍的な非外傷性切開により、咬筋窩にアクセスした。4mmの歯科用ドリルを用いて、咬筋窩の中央部に4mmの穴を開けた。無菌生理食塩水(5ml)で十分に洗い流した後、その穴に、エッペンドルフ社製分注器を用いて25μlの実験用試験製剤を注入したか、未処置のままにした(未充填空隙対照)。手術創傷部を縫合糸で閉じた。
【0083】
39匹の動物を用いて全部で6群を確立した。表2は、実験計画を示す。
【0084】
【表2】
【0085】
終了時に、ラットをイソフルランで麻酔し、麻酔下で終末的に心臓から出血させた。次いで、左顎を顎関節から解放するように解剖して、3.7%のホルムアルデヒドの50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に入れた。
【0086】
マイクロCTスキャン装置(General Electric Inspection Technologies社製のNanotom)で走査を行った。固定液が充填された密閉プラスチック製シリンダ内で試料を固定し、CTスキャン装置の回転テーブル上に装着した。グレイ値の比較のために、基準点としてAlファントムおよびプラスチックファントム(PET)を用いて走査を行った。倍率は4倍、ボクセルサイズは12.50μm/ボクセルエッジ、収集した画像の数は1080(刻み角度:0,33°)であり、露光時間は2000ms、平均フレーム数は3、スキップしたフレーム数は1であった。X線の設定は、0の管モードを用い、かつフィルタを用いずに、100kV、125μAであった。
【0087】
CTスキャン装置に付属しているDatos−xソフトウェアを用いて、3次元画像再構成を行った。Volume Graphics社製のVolume Graphics Studio Max 2.0を用いて、データ分析を行った。
【0088】
下顎骨突起、角突起、鉤状突起および移植材料を含む穴または移植材料を含まない穴を含む、最後部の大臼歯の遠位縁部から後方に延在する骨全体を含む円筒体の体積を定めた(
図3、LC)。グレイ値の切り捨て値/グレイ値の定義により、この体積に含まれる総骨体積(古い骨および新しい骨)および移植材料を決定した。移植材料を含む顎の場合、小さい方の円筒体を、移植材料を含む大きい方の円筒体に対して垂直に定めた(
図3、SC)。この円筒体に含まれる移植材料の体積を、大きい方の円筒体によって決定された骨および移植材料の総体積から引いた。このようにして、処置済および未処置の顎の総骨(新しい骨および古い骨)体積の推定値を得た(
図3)。
【0089】
マイクロCT走査後に、試料を緩衝固定液に入れた。選択した試料を、Decalc(Histolab社、No.00601、スウェーデンのイェーテボリー)で3時間脱灰した。次いで、標本を脱水し、パラフィンで包埋して、薄片(2μm)にし、ヘマトキシリン−エオジンで染色した。デジタルカメラ(Leica DFC 290)に接続された光学顕微鏡(Leica DM 2000、ドイツ)を用いて薄片を調べ、写真を撮った。
【0090】
結果
7日以内に、アセチル化されたキトサンの誘導により、石灰化した顎骨の体積の増加が生じた(
図4)。各群について、平均的な石灰化した骨の体積(AMBV、単位:mm
3)を計算した(平均値±標準誤差)。2つの対照群の間に有意差は観察されなかった(未充填空隙群およびゼロ日群、それぞれ69.4±3.1および71.1±2.3、
図5)。AMBVは、脱アセチル化されたキチン重合体の%DD値とは負に相関しており、96DD群の平均値は71.9±2.9、70DD群は84.2±4.5、50DD群は87.3±3.8であった(
図5)。未充填空隙群と比べて、70DD群および50DD群のAMBVは有意に増加していた(それぞれ18%および23%)。興味深いことに、96DD群(96%の脱アセチル化キトサン)は、石灰化した骨の体積に対して有意な効果を有していない(
図5)。
【0091】
オリゴマー複合体(T−ChOS(商標)移植材料)は、骨の体積の11%の増加を誘導した(
図5)。この誘導は有意であった(p<0.05)。しかし、生理化学的特性の低下により、T−ChOS(商標)移植材料は噛み砕かれてしまうことが多く、穴が失われていた。これは、マイクロCT走査画像を調べると明らかであった。T−ChOS(商標)移植材料の大部分がドリルで開けた穴の中からなくなっていた。当該重合体は、この骨セメント製剤の機械的安定性にとって明らかに不可欠である。
【0092】
図6は、70%DDの重合体をベースとする注入可能な組成物を移植してから14日目の同じラットの下顎骨の組織学的なマイクロCT横断面の比較を示す。この断面は、ドリルで開けた穴の前方1〜2mmのものである。マイクロCT分析によって新しい骨とみなされた石灰化組織(A、BおよびC)は、ヘマトキシリン−エオジン染色した部分によって判断した場合、新しく形成された骨組織のように見えた。
【0093】
マイクロCTおよび組織学的検査によって判断すると、全ての新しい骨の密度は元の顎骨よりも小さかった。組織プレパラートにより、新しい骨の成長内部での血管新生を伴う海綿骨の形成が明らかになった。新しい骨の成長は常に、骨欠損部位自体からではなく骨の外面を覆う骨膜から生じていた(
図6)。従って、このPDC誘導性骨成長は、主に、顎内部の最大の力学的応力に曝された部位に沿って、下顎骨の表面にわたってドリルで開けた穴から遠位に局在化していたと言える。これは、骨に関連する組織全体に拡散することができる小分子の活性によってのみ説明することができる。これらの小分子は、移植材料中のPDC重合体の生体内原位置での加水分解によって形成されたPDCオリゴマーである可能性が最も高い。この加水分解は、白血球(好中球およびマクロファージ)によって発現されるファミリー18キチナーゼによって触媒される可能性が最も高い。これらの活性キチナーゼは、部分的にアセチル化されたキチン重合体を切断して様々な大きさのPDCオリゴマーを形成する。これらの前記PDCオリゴマーは、移植された組成物から隣接する組織に拡散し、骨への力学的応力に反応して、この遠位での骨成長促進を触媒する。
【0094】
実施例4:近位のヒツジ脛骨における深刻な骨の空隙の治療
実施例1(表1)および実施例2に記載されている組成物を、45匹の5歳のヒツジ(5.83±0.71歳、平均値±標準偏差)の近位脛骨の骨端に移植して試験した。全てのヒツジを同様の方法で手術し、15匹を短期間の評価のために3ヶ月間飼育し、15匹を長期間の評価のために13ヶ月間飼育した。動物実験の承認に対してアイスランドの委員会が発行した許諾(許諾番号:0709−0405)の下でこの実験を行った。手術は、整形外科医および麻酔科医により行われ、薬の投与量および動物保護は、獣医師により監督された。
【0095】
液体および固体成分の混合
この試料に使用されている部分的に脱アセチル化されたキチン重合体は、以下の特性を有していた:50%の脱アセチル化度、1%酢酸の1%溶液中で100%の溶解度、460cPの溶液粘度、10NTU未満の溶液中での混濁度、330kDaの見かけ平均分子量、93EU/gのエンドトキシン含有量。
【0096】
キットの固体および液体成分を無菌のプラスチックカップに入れ、撹拌し、無菌のへらで2分間一緒に捏和して、粘性のスラリーを形成した。
【0097】
外科手術
骨の前縁と後縁との真ん中であって各動物の左および右脛骨の粗面高さに、直径8mmの穴をドリルで開けた。皮質内に直角に、入口用の穴をドリルで開け、その後、ドリルを45°上方に向け直し、脛骨上面(プラトー)底部の下まで開けた。ドリルで穴を開ける処置の間、ドリルを冷却しなかった。ドリルで穴を開けた後、40〜50mLの無菌生理食塩水で洗い流して十分に吸引して、ドリルの穴から骨の残屑を十分に洗い落した。試験キットの液体および固体成分を混合した後、1.5mLのスラリーを、無菌のピペットチップが装着された5mlの無菌シリンジに入れ、当該材料が、脛骨プラトーから皮質内の開口部の下方および外まで、ドリルの穴の空間全体を満たして確実に広がるように、全内容物をドリルの穴に注入した。左脚の穴は未充填のままにし、陰性対照として使用した。その後、両脚の手術創傷を4−0のVicryl連続皮下縫合糸で閉じ、皮膚を4−0のEtilone連続皮内縫合糸で閉じた。外科手術後に目覚めた後、動物を回復のためにヒツジの柵に戻して、そこで歩行可能になるまで慎重に監視した。
【0098】
試料の死後処理
外植直後に、骨試料を、3.7%のホルムアルデヒドの50mMリン酸緩衝液(pH7.0)の中に入れ、その後、ヒドロキシアパタイトファントム標準物質と共に、マイクロCTスキャン装置(General Electric Inspection Technologies社製のNanotome)で走査した。ゼロ時の時点からのデータを得るために、生体外で調製し、かつ37℃の生理食塩水中に24時間置いて硬化させた円筒状に成形された試料も走査した。走査後、骨試料をのこぎりで切って4mmの厚さの切片にし、緩衝固定液の中に戻して最低でもさらに4週間置いた。固定期間を終えた後、EDTA溶液を定期的に新しくしながら最長4ヶ月間、脱灰のために試料を中性のpHの15%EDTA溶液の中に置いた。脱灰後、試料を組織学検査(パラフィン)のために調製し、ヘマトキシリン・エオジンで染色した。
【0099】
マイクロCT分析
一次マイクロCTデータを、Datos−XソフトウェアおよびVolume Graphics社製のVolume Graphics studio Max 2.0を用いて、3次元画像再構成およびデータ分析にかけた。再構成された3次元画像は、脛骨のプラトーからドリルの穴を含む3cm下方に及ぶ脛骨の下垂体全体と、ドリルの穴の外側に存在し得る全ての可能な移植材料とを含んでいた。グレイ値の切り捨て値/グレイ値の定義により、この再構成された3次元画像内の古い骨、新しい骨および移植材料の体積を決定した。標準物質内のより高濃度のヒドロキシアパタイトが、より明るいグレースケール値(「より白色」)を有するマイクロCT画像中に現れる。ヒドロキシアパタイトは、X線減弱を誘導する石灰化された骨の主成分であるため、標準物質のグレースケール値を使用して、試料中の石灰化の程度および分布を推測することができる。ヒドロキシアパタイト標準物質および試料のグレースケール値を比較することにより、石灰化の程度を判断することができる。CT画像中の最も明るい領域は、石灰化の程度が最も高い組織を示している。
【0100】
定量的評価のために、長さが4mmで半径が3mmの仮想の円筒体を規定し、その円筒体の軸をドリルの穴の方向の長手軸に慎重に合わせた(
図7)。円筒体の向きを固定し続けながら、その半径を段階的に4mm、5mmおよび6mmに増加させ、各円筒体内の無機質体積を測定した。未充填穴(左の脛骨)および移植材料を含む穴の両方で、全ての試料においてこの分析を繰り返した。半径4mmから半径3mm(R4−R3)、R5−R4およびR6−R5のように、広い方の円筒体から狭い方の円筒体を引いて、各円筒体の1mmの外殻(管)の無機質相の体積を得た。全ての円筒体の殻の無機質相の体積を、1mm
3の標準体積に対して標準化して無機質密度を得て、SigmaStatおよびSigmaPlotソフトウェアを用いて、このデータを統計学的に分析した。
【0101】
結果
移植された材料および周囲組織を3つの面で示す断面マイクロCT画像を、全ての試料から作成した。これらの画像を目視評価のため使用して、無機質密度の定量的評価のために使用される仮想の円筒体を規定した。
【0102】
炎症、異物反応、瘢痕組織形成および新しく形成された骨組織の兆候に重点を置いて、移植された材料への組織反応を評価するために、組織切片を使用した。
【0103】
マイクロCTデータの解釈
In vivoで3ヶ月後に、目視評価により、移植材料の周りに、隣接する海綿骨組織に十分に結合した明らかな新しい骨の高密度な殻が認められた。移植材料内部の島状の高密度な構造は、材料全体に散らばった骨の形成を示していた(
図8)。In vivoで13ヶ月後に、これは、さらにより顕著になり、周囲殻は、さらに厚くなっているように見え、移植材料内の骨の形成は、in vivoで3ヶ月後の状態よりもさらに一層顕著であった。
【0104】
Ex vivo試料およびin vivo試料における無機質密度の統計学的評価により、in vivoで3ヶ月の間に無機質密度の21%の減少が認められた。In vivoで3ヶ月〜13ヶ月の間に、移植材料の無機質密度は、再び33%増加した(
図9)。
【0105】
3ヶ月および13ヶ月目に、未充填穴では、石灰化組織の成長は全くないように見えた。しかし、高密度な骨組織の薄い殻が、未充填穴を囲んでいるように見えた。これは、R4−R3データの定量的評価によって分かった(
図10)。これにより、8mmのドリルの穴は、このモデルにおいて深刻な骨の割れ目であることが分かった。
【0106】
マトラブ(MATLAB:MATrix LABoratory)ソフトウェアおよび医用画像セグメンテーションソフトウェア(MIMICS:medical imaging segmentation software)を用いて、3ヶ月および13ヶ月目にグレイ値分布を測定して、移植材料および骨の変化を定量化した。その結果から、3ヶ月目の移植材料と骨との間のグレイ値分布の顕著な違いが実証されている。しかし、13ヶ月目に、移植材料のグレイ値分布は変化して、周囲の骨のグレイ値分布に類似した状態になった。これらの結果は、10ヶ月間の移植材料の形態変化を示唆しており、移植材料が骨組織に徐々に転化したことを示している。
【0107】
組織学的分析による確認
3ヶ月後の脛骨の組織学的評価により、本移植材料は、炎症または異物反応の兆候が全
くなく、完全に生体適合性であることが分かった。瘢痕組織形成は、ごく僅かであった。
隣接する海綿骨に強く一体化された新しい骨組織の殻は、移植材料全体を取り囲んでいる
ように見え、島状の新しい骨は、移植材料全体に散らばっていた(
図11)。組織切片の
画像をマイクロCT断面の対応する画像と並べて、移植材料を取り囲み、かつ移植材料全
体に散らばった高密度(X線減弱度が最も高い)を特徴とする領域は、新しく形成された
骨組織であることを確認した。
以下に、出願時の特許請求の範囲の記載を示す。
[請求項1]
骨を治癒する医学的治療のための組成物キットであって、
a.40〜75%の範囲の脱アセチル化度を有する部分的に脱アセチル化されたキチン(PDC)およびリン酸カルシウムを含む固体画分と、
b.水および酸を含む酸性の液体画分と、
を含み、
これらの画分は、使用前に混合されるべく別個の小瓶で提供され、該固体画分:液体画分の重量:重量比が、1:1.2〜1:6の範囲である、
前記組成物キット。
[請求項2]
該PDCが40〜60%の範囲、好ましくは約50%の脱アセチル化度を有する、請求項1に記載の組成物キット。
[請求項3]
該固体画分が、3〜30重量%の範囲、好ましくは5〜15重量%の範囲のPDCを含む、請求項1に記載の組成物キット。
[請求項4]
該液体画分が、リン酸、塩酸、アスコルビン酸、乳酸、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、リンゴ酸、クエン酸およびグルタミン酸からなる群から選択される1種以上の酸を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物キット。
[請求項5]
該液体画分が、少なくとも5重量%のリン酸と同等の酸性度を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物キット。
[請求項6]
該液体画分が水酸化カルシウムをさらに含む、請求項1に記載の組成物キット。
[請求項7]
該固体画分:液体画分の重量比が、約1:1.3〜約1:4の範囲である、請求項1に記載の組成物キット。
[請求項8]
該固体画分:液体画分の重量比が、約1:1.5〜約1:3の範囲である、請求項7に記載の組成物キット。
[請求項9]
1つにまとめられた画分の内の0.5〜10重量%の範囲、好ましくは約1〜5重量%の範囲のPDC量を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物キット。
[請求項10]
該PDCが溶解され、かつ沈殿されたものである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物キット。
[請求項11]
該リン酸カルシウムが、ヒドロキシアパタイトおよび/またはブラッシュ石の沈殿物を形成することができる、リン酸四カルシウム、α−リン酸三カルシウムおよび他のリン酸カルシウムのうちの1つ以上を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物キット。
[請求項12]
該固体画分がグリセロールリン酸ナトリウムを含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物キット。
[請求項13]
該組成物が、混合後に室温で硬化し始め、かつ室温で約15〜30分の範囲内の硬化時間を有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物キット。
[請求項14]
該組成物が、12mmの内径および2mmの出口を有する5mLのB.Braunシリンジで測定した場合に、注入性によって決定される30N未満の混合後粘度を有する、請求項13に記載の組成物キット。
[請求項15]
該組成物が、骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein)または骨髄、血液、骨および骨原性タンパク質(Osteogenic Protein)から選択される他の生体因子を含まない、請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物キット。
[請求項16]
該固体画分中に硫酸カルシウムをさらに含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の組成物キット。
[請求項17]
γ照射で滅菌されている、請求項1〜16のいずれか一項に記載の組成物キット。
[請求項18]
骨を修復および治癒させるための薬として使用するための、40〜75%の範囲の脱アセチル化度を有する部分的に脱アセチル化されたキチン(PDC)。
[請求項19]
請求項18に記載の薬として使用するための、40〜75%の範囲の脱アセチル化度を有するPDCであって、
請求項1〜17のいずれか一項に記載の組成物キットに含まれている、前記PCD。
[請求項20]
骨を治癒する方法であって、
40〜75%の範囲の脱アセチル化度を有する部分的に脱アセチル化されたキチン(PDC)およびリン酸カルシウムを含む固体画分と、水および酸を含む酸性の液体画分とを、1:1.2〜1:6の範囲の固体画分:液体画分の重量:重量比で一緒に混合して、液体、半液体またはペースト状のセメント混合物である混合物を形成する工程と、
該得られた混合物を治癒すべき骨の部位に施用する工程と、
を含む、前記方法。
[請求項21]
該施用工程を注入により行う、請求項20に記載の方法。
[請求項22]
該施用工程を、へらなどにより骨の表面に施用することにより行う、請求項20に記載の方法。
[請求項23]
該固体画分:液体画分の重量:重量比が、約1:1.3〜約1:4の範囲である、請求項20に記載の方法。