特許第6232048号(P6232048)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6232048骨移植片代用材としての部分的に脱アセチル化されたキチンを含む自硬性の生体活性セメント組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232048
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】骨移植片代用材としての部分的に脱アセチル化されたキチンを含む自硬性の生体活性セメント組成物
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/20 20060101AFI20171106BHJP
   A61L 27/12 20060101ALI20171106BHJP
   A61L 27/46 20060101ALI20171106BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 31/722 20060101ALI20171106BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   A61L27/20
   A61L27/12
   A61L27/46
   A61L27/54
   A61K31/722
   A61P19/08
【請求項の数】17
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-507665(P2015-507665)
(86)(22)【出願日】2013年4月23日
(65)【公表番号】特表2015-514535(P2015-514535A)
(43)【公表日】2015年5月21日
(86)【国際出願番号】IS2013050003
(87)【国際公開番号】WO2013160917
(87)【国際公開日】20131031
【審査請求日】2016年4月11日
(31)【優先権主張番号】050032
(32)【優先日】2012年4月23日
(33)【優先権主張国】IS
(73)【特許権者】
【識別番号】505432555
【氏名又は名称】ジェニス エイチエフ.
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100129458
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 剛
(72)【発明者】
【氏名】ギスラソン,ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】エイナーソン,ヨン・エム
(72)【発明者】
【氏名】ング,チュエン ハウ
【審査官】 常見 優
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/057011(WO,A1)
【文献】 特表2005−537821(JP,A)
【文献】 特表2008−544014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00−33/18
A61K31/00−33/44
A61F 2/00− 4/00
13/00−13/84
15/00−17/00
A61B13/00−18/28
A61M25/00−99/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨を治癒する医学的治療のための組成物キットであって、
a.40〜75%の範囲の脱アセチル化度を有する部分的に脱アセチル化されたキチン(PDC)およびリン酸カルシウムを含む固体画分と、
b.水および酸を含む酸性の液体画分と、
を含み、
これらの画分は、使用前に混合されるべく別個の小瓶で提供され、該固体画分:液体画分の重量:重量比が、1:〜1:6の範囲である、
前記組成物キット。
【請求項2】
該PDCが40〜60%の範囲、好ましくは約50%の脱アセチル化度を有する、請求項1に記載の組成物キット。
【請求項3】
該固体画分が、3〜30重量%の範囲、好ましくは5〜15重量%の範囲のPDCを含む、請求項1に記載の組成物キット。
【請求項4】
該液体画分が、リン酸、塩酸、アスコルビン酸、乳酸、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、リンゴ酸、クエン酸およびグルタミン酸からなる群から選択される1種以上の酸を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物キット。
【請求項5】
該液体画分が、少なくとも5重量%のリン酸と同等の酸性度を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物キット。
【請求項6】
該液体画分が水酸化カルシウムをさらに含む、請求項1に記載の組成物キット。
【請求項7】
該固体画分:液体画分の重量比が、約1:〜約1:4の範囲である、請求項1に記載の組成物キット。
【請求項8】
該固体画分:液体画分の重量比が、約1:〜約1:3の範囲である、請求項7に記載の組成物キット。
【請求項9】
1つにまとめられた画分の内の0.5〜10重量%の範囲、好ましくは約1〜5重量%の範囲のPDC量を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物キット。
【請求項10】
該PDCが溶解され、かつ沈殿されたものである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物キット。
【請求項11】
該リン酸カルシウムが、ヒドロキシアパタイトおよび/またはブラッシュ石の沈殿物を形成することができる、リン酸四カルシウム、α−リン酸三カルシウムおよび他のリン酸カルシウムのうちの1つ以上を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物キット。
【請求項12】
該固体画分がグリセロールリン酸ナトリウムを含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物キット。
【請求項13】
該組成物が、混合後に室温で硬化し始め、かつ室温で約15〜30分の範囲内の硬化時間を有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物キット。
【請求項14】
該組成物が、12mmの内径および2mmの出口を有する5mLのB.Braunシリンジで測定した場合に、注入性によって決定される30N未満の混合後粘度を有する、請求項13に記載の組成物キット。
【請求項15】
該組成物が、骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein)または骨髄、血液、骨および骨原性タンパク質(Osteogenic Protein)から選択される他の生体因子を含まない、請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物キット。
【請求項16】
該固体画分中に硫酸カルシウムをさらに含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の組成物キット。
【請求項17】
骨を修復および治癒するための薬としての使用のための、請求項1〜16のいずれか一項に記載の組成物キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨折および骨欠損の医学的治療分野に含まれるものであり、部分的に脱アセチル化されたキチンを含む化合物および組成物ならびにそれらの医学的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
疾患または外傷により骨に空隙が生じた場合、または骨折の治癒が低下した場合には常に、一般的な外科手術手技では、腸骨稜から骨を採取し、その骨移植片を損傷部位に移植することが行われる。これは、骨自家移植と呼ばれる。自家移植片を使用して骨の空隙を充填し、損傷の有効な治癒のために必要な骨誘導特性および骨原特性を与える。この手技は一般に、整形外科ではゴールデンスタンダードとみなされているが、骨の採取に伴う頻繁な病的状態により深刻な欠点を有する。そのため、骨自家移植片の必要性をなくすことを目指すのと同様に、骨誘導特性および骨原特性を有する骨移植片代用材が、産業および学術研究機関によって望まれている。そのような骨移植片代用材は一般に、合成の骨移植片代用材と呼ばれている。これまでのところ、実質的に骨欠損損傷面に骨誘導特性ならびに骨原特性を与えることが証明されている製品は1つも現れていない。
【0003】
キチンは、甲殻類の殻から得られる天然の生体高分子化合物であるが、他の無脊椎動物および真菌類からも得ることができる。キチン重合体のN−アセチルグルコサミン残基の脱アセチル化により、典型的には濃アルカリによるN−アセチル結合の加水分解により、キトサンが得られる。定義上、キトサンは一般に、遊離アミン基の等電点である6.2を超えるpHでは水に不溶であるが、約6.2未満のpHで溶解するD−グルコサミン(D)とN−アセチル−D−グルコサミン(A)とからなる共重合体と称されている。典型的には、従来のキトサン共重合体の単量体単位の約75〜100%はD−グルコサミンであり、これを75〜100%の脱アセチル化キトサンまたは75〜100%の脱アセチル化度(DD)を有するものという。従って、そのような物質中の0〜25%の単量体は、N−アセチル−D−グルコサミン基(A)である。
【0004】
脱アセチル化度が約75%よりも低い場合、キチン重合体は異なる溶解度特性を示し、約75%〜約40%のDDを有するそのような物質を一般に、部分的に脱アセチル化されたキチンと呼び、本明細書ではPDCと記す。
【0005】
本発明者らは、以前に、部分的に脱アセチル化されたキチン重合体およびオリゴマーの生物学的特性について記載している。国際公開第03/026677号には、リウマチ様疾患の治療にPDCオリゴマーを使用することが記載されている。国際公開第2006/134614号には、部分的に脱アセチル化されたキチン重合体およびオリゴマーの生物学的特性について考察されており、そのようなオリゴマーがどのようにキチナーゼ酵素の遮断薬として働くかについて考察されている。
【0006】
Chae Choら(J. Craniofacial Surgery Vol. 16 No 2 Mar 2005)は、キトサン・硫酸カルシウム複合体を含む固体のペレットを用いた実験および90%DDを有するキトサンによるウサギにおける欠損した脛骨の骨形成に対するそれらの効果について記載している。
【0007】
Yamadaら(J. Biomed. Mat Research Vol. 66A no. 3, 1 Sep 2003, pp 500-506)は、生物学的石灰化に対するキトサンの効果について調査および考察し、かつ骨芽細胞に対する培地に添加されたキトサンの効果を調査した。
【0008】
Klokkevoldら(J Periodontol. 1996 Nov;67(11):1170-75)は、骨芽前駆細胞の分化に対するキトサンの効果を評価した。
【0009】
国際公開第2004/028578号は、トリポリリン酸塩およびキトサンの溶液を含む製剤中の活性成分として骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein)(BMP)を含む、骨の形成および骨の硬化を刺激するための組成物を開示しているが、この2種類の溶液は混合するとすぐに凝固し、診療所での取り扱いに関する特有の懸念が生じる。
【0010】
国際公開第01/41822号は、(i)溶解したキトサンを含み、かつ6.5〜7.4の間のpHを有する水性の熱ゲル化液体成分と、(ii)カルシウムを含む固体成分とを含む、自己ゲル化無機質・重合体ハイブリッド製剤について記載しており、前記液体および固体の成分は一緒に混合すると、体温でゲルを形成する硬化しない熱ゲル化組成物を形成する。
【0011】
国際公開第2006/057011号は、1:1の比の共沈ヒドロキシアパタイトおよびキトサン(87%の脱アセチル化度を有するキトサン)からなる固体の移植材料、ならびに全部で5%のキトサン、リン酸カルシウムおよびポリジメチルシロキサンを含み、かつ固体:液体比が2:1である、「パテ」様の稠度を有する組成物について開示している。パテ様ペースト剤の硬化時間は6分弱であった。このペースト剤を、ラットにおける誘発性骨損傷の治癒について試験した。
【0012】
一般に当該技術分野では、キトサン自体は骨誘導性ではないと考えられている(例えば、Venkatesan and Kim, "Chitosan Composites for Bone Tissue Engineering - An Overview(骨組織工学のためのキトサン複合体−概要)", Mar Drugs 2010; 8(8): 2252-2266を参照)。
【0013】
有効かつ低コストの骨治癒治療のために、臨床応用にとって実用的な他のより有効な製品のさらなる開発がなお強く求められている。
【発明の概要】
【0014】
本発明者らは、部分的に脱アセチル化されたキチン(PDC)重合体およびオリゴマーの生物学的効果を慎重に調査し、新たな骨組織の再生を刺激する新規で有効な組成物を開発した。本発明は、in situで注入可能な自硬性の生体活性セメント材料を提供する。本発明の組成物は、人工の骨移植片代用材として有用である。
【0015】
該組成物は、以下のようないくつかの実用的な利点を有する。
−混合中に煙霧(fumes)または臭い(odours)のない天然の非毒性成分である
−良好な生体適合性を有し、かつ宿主組織による異物反応がない
−硬化中の発熱が少ない
−関連する漏れを全く生じることなく空隙への注入および充填が可能である
−最小限の侵襲的技術(注入)を用いた施用を可能にする良好な成形性および注入性をもつ
−過剰な溶解や完全性の喪失を生じることなく、湿気のある環境への注入を可能にする粘着性および良好な湿潤領域(wet field)特性をもつ
−in situでの比較的素早い硬化で適当な施用時間を可能にする好適な作業時間をもつ
−in situで硬化すると生理学的pHおよび塩分濃度に近くなる
−血液または血液成分、骨髄またはタンパク質分離物溶液などの液体成分の混合を可能にする良好なバルク容量をもつ
−損傷した宿主骨組織における瘢痕組織形成を防止し、かつ表面および空隙充填組成物の内部での新しい骨組織の再生を促進する
−有利な抗微生物特性を有し、それにより感染のリスクを最小限に抑えるのに有用である
本発明の新しい組成物は、脱アセチル化度および分子量によって決まるPDCの特性に依存し、40〜75%の範囲の脱アセチル化度を有するPDCを使用する。他のパラメータは、本明細書にさらに記載されているように適切に最適化することができる。
【0016】
本発明の組成物は、使用前に混合されるPDCを含む固体画分と液体画分とを含むキットとして提供される。該混合された組成物は、1:1.2〜1:6、より好ましくは1:1.5〜1:4の範囲の低い固体:液体比を含む。
【0017】
本発明は、骨欠損および骨折などの状態を治癒するための方法をさらに提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】粘着性/偏析を測定するための装置の例示。(1)水位、(2)セメント組成物、(3)メッシュの網。
図2】異なる脱アセチル化度(DD)を有する組成物の注入強度/抵抗の測定(実施例2を参照)。
図3】異なる脱アセチル化度および異なる量のPDCを有する本発明のセメント組成物の圧縮強度。
図4】マイクロCT分析のための下顎骨の体積の標準化(実施例3を参照)。下顎骨の後部全体を包含する大きい方の円筒体(LC)および移植された組成物を包含する小さい方の円筒体(SC)の方向付け。
図5】0日目(0d 70 DD)の総体積と比較した移植後7日目のラットの下顎骨の表面に沿って形成された総体積。7〜8匹の個体の平均値及び標準誤差(実施例3)。
図6】手術後14日目の70%DDの重合体複合体が移植されたラットの下顎骨の横断面。この断面は、ドリルで開けた穴の前方1〜2mmのものである。上の図は、下顎骨のH&Eで染色したパラフィン切片を示す。下の図は、同じ下顎骨の同じ領域のマイクロCT図の横断面を示す(実施例3を参照)。
図7】右脚脛骨に本発明の組成物が移植されたヒツジの左脚脛骨の未充填穴のマイクロCT図。この図は、手術から3ヶ月後の3つの異なる面(x、yおよびz)の横断面を示す(実施例4を参照)。この図は、ドリルの穴と同心の異なる半径を有する仮想の円筒体の作成方法を示す。
図8】in vivoでの手術から3ヶ月後の3つの異なる面(x、yおよびz)における本発明の組成物が移植された右脚脛骨のマイクロCT図。移植された組成物の内部にわたって散らばった島状の石灰化組織と共に、本組成物の表面に沿って高密度な石灰化組織を認めることができる。
図9】移植された本発明の組成物の内部に半径2mmで作成された仮想の球の内部の石灰化(mm3当たり)(実施例4を参照)。
図10】仮想の円筒体R3および仮想の殻R4−R3、R5−R4およびR6−R5における骨の石灰化(mm3当たり)(実施例4を参照)。未充填穴は、Eで示されており、本発明の組成物が充填された穴は、BRで示されている。
図11】移植された組成物の内部における新しい骨の形成を示す、移植された本発明の組成物の顕微鏡画像(実施例4を参照)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、別々に包装され、かつγ照射で滅菌された固体および液体画分を含む、骨の手術に適した使いやすいキットを提供する。手術直前に、液体画分を固体画分と混合して、液体またはペースト状のセメントを生成する。セメント混合物は、好都合なことに、骨の空隙または骨折部位に注入することができ、かつ良好な成形性および良好な粘着性を有する。これは、針による注入などの最小限の侵襲的技術を用いる骨への施用も可能にする。他の態様では、本組成物は、例えばへらや同様の器具を用いて、既存の骨の表面に施用される。
【0020】
本明細書中に説明するように、本組成物は、骨欠損部位に機械的支持を与えると共に、骨原性細胞を刺激してその表面および移植された複合材料の内部に存在および増殖させることにより、新しい骨組織の再生を促進するように最適化されている。これは、pHおよび塩分濃度などに関する望ましい生理的条件を作り出し、固体:液体比を制御して、複合体の細胞浸透および生分解性/再吸収を促進することにより得られる。本発明は、移植された複合体の物理化学的および生物学的特性を制御するように最適化されている。これは、本組成物の酸(リン酸であることが好ましい)および部分的に脱アセチル化されたキチンの緩衝能によるpHの制御、電解質の慎重な選択によるイオン強度の制御、ならびに、本組成物中のPDC重合体のアセチル化度およびPDCの相対量の適当な調整による水結合能/湿潤領域特性および注入強度の制御のうちの1つ以上を含むことができる。骨原性細胞の生物学的刺激は、免疫系の各種細胞により発現される内因性ファミリー18キチナーゼによるPDCのin situでの加水分解により得られる。これは、実施例3にさらに図示および記載されている本発明者らのデータによって支持される(実施例3の「結果」を参照)。これにより、PDCオリゴ糖の生物学的に活性な分子種の徐放が生じる。従って、これらのオリゴマー分子は、複合体材料が分解するにつれて徐々に放出され、隣接する組織の中に拡散し、骨原性細胞に持続的な刺激を与えて、分解している複合体に侵入し、次いで、これを新しい骨組織で置き換える。このプロセス全体を最適化するために、固体:液体比が重要な役割を果たす。
【0021】
従って、上記特性を最適化するために、驚くべきことに、混合された組成物が約1:1.2〜約1:6の範囲の低い固体:液体画分比を含むと有利であることが分かった。これは、1つにまとめられた混合物中の固体画分の約14重量%〜45重量%の範囲に相当する。本組成物は、限定されるものではないが、1:1.2、1:1.33、1:1.5、1:1.8、1:2、1:2.25、1:2.5、1:3および1:4の比を含む、約1:1.3〜約1:4の範囲または約1:1.3〜約1:3の範囲、より好ましくは約1:1.5〜約1:3の範囲、例えば約1:2〜約1:3の範囲の固体:液体画分比を有することが好ましい(これらの比は、1つにまとめられた混合物中に44.4%、42.9%、40%、35.7%、33.3%、30.8%、28.6%、25%および20%の固体画分の重量含有量に相当する)。
【0022】
好ましい固体:液体(S/L)比を有するセメント組成物は、人体における良好な粘着性(偏析をほとんど示さない)および最小の溶解を伴う良好な湿潤領域特性を有し、これは、本材料がその完全性を維持し、かつ注入部位から拡散しないことを意味している。これにより、骨組織への最初の長期間の接着と共に、海綿状かつ多孔性の骨への浸潤を含む良好な空洞充填能が得られる。低いS/L比により、セメントの機械的強度が低下することがあるが、S/L比およびキトサン含有量の最適化は、より速いセメント分解を促進し、複合体への細胞のより効率的な浸透、および骨再生の早期開始のための骨原性PDCおよびヒドロキシアパタイトの利用を可能にする。従って、低い最初の機械的強度は、骨形成の早期開始およびその後の新しい骨の蓄積により補われ、機械的負荷が素早く吸収される。
【0023】
機械的強度は複数の方法で評価することができ、そのうちのいくつかは、添付の実施例1に記載されている。特定の態様では、本発明の組成物は、生理食塩水(0.9%のNaCl)中に37℃で24時間置いた後に、0.2〜10N/mm2の範囲、例えば、0.5〜5N/mm2の範囲または0.5〜2.5Nの範囲の極限圧縮強度として測定された機械的強度を有する。
【0024】
本組成物の所望の低いS/L比により、本発明の硬化されたセメント複合体は、かなりの含有量の自由水を有するが、これは、形成された複合体移植材料が連通孔を持っていることを示している。従って、本発明の組成物は、好ましい態様では、約40〜90%の範囲、より好ましくは40〜70重量%の範囲、例えば50〜70重量%の範囲、例えば約55〜65重量%の範囲、より好ましくは約60〜65重量%の範囲、例えば約60重量%の硬化後の自由水(24時間にわたって105℃で乾燥して放出された水)含有量を有する。これらの値は、生理食塩水(0.9%のNaCl)中で24時間硬化され、in vitroで形成されたセメント中で測定した自由水含有量を指す。一般に、S/L比が低くなるほど、硬化された複合体の乾燥中の水分損失量は多くなる。一例として、S/L比が2であると、硬化された湿重量の約60±5%の水の損失が生じ得る。
【0025】
粘着性/溶解性または完全性の喪失は、様々な方法で評価することができる。本発明者らは、生理食塩水(磁気棒で撹拌する)を含むビーカー内の液面下のメッシュの網(例えば、約1mmのメッシュ)上に、ある量の新しく混合した組成物を置いてこの特性を評価することが有用であることを見出した(実施例1のさらなる記載を参照)。10分間などの短期間の撹拌後に、95%超、より好ましくは98%超、さらにより好ましくは99%超、最も好ましくは99.9%超などの実質的に全ての材料がなお接着していることが好ましい。
【0026】
混合したセメント組成物は、中性に近いpH、又は約6.0〜7.8の範囲、より好ましくは6.5〜7.4の範囲、最も好ましくは約7のpHを有することが好ましい。リン酸カルシウムを含む固体画分は一般に、実質的にアルカリ性であるが、液体画分は、アルカリ性のリン酸塩を中性にするために、典型的に酸性である。好ましい態様では、液体画分は、限定されるものではないが、リン酸、塩酸、アスコルビン酸、乳酸、酢酸、クエン酸、ギ酸、プロピオン酸、リンゴ酸およびグルタミン酸から選択される1種以上の酸を含む。混合した組成物を中性にするのに十分な酸の好適な濃度/量は、本組成物のS/L比、ホスフェートの量ならびにPDCのDDによって決まる。より低いS/L比(固体の方が少ない)を用いる場合、必要な酸の量はより少なくなる。本態様における好ましい酸はリン酸である。好ましい態様では、液体成分は、少なくとも約5%のリン酸、例えば約2.5〜20重量%の範囲のリン酸、例えば2.5〜15重量%の範囲または5〜15%の範囲のリン酸、例えば約5%、約8%、約10%、約12%または約15%のリン酸を含む。他の有用な態様では、液体画分は、リン酸の代わりとして、あるいはリン酸に加えて、いずれか1種以上の上記酸などの1種以上の他の酸を含む。これらの態様では、酸の総量は、アルカリ性の固体画分を液体画分と混合した後に溶液を実質的に中性にするのに十分なものであることが好ましい。従って、酸性度は、5%のリン酸溶液の酸性度と少なくとも同じであることが好ましい。従って、液体画分は、約1〜2.5の範囲、より好ましくは約1〜2の範囲のpHを有することが適切である。他の態様では、5%のリン酸溶液と当量の規定度(N)または上述したようなより高い酸強度を有する量の酸を液体画分中に与えて、酸性度を達成することができる。
【0027】
PDC自体が緩衝能も有し、そのため、従来のリン酸カルシウム自硬性複合体は、本発明の好ましい組成物と比べて、硬化中により速く制御性の低いpHの低下を示す。PDCの存在は、ヒドロキシアパタイトの形成中に、PDCが残留する水素原子を消費し(中性にし)、それによりpHの変化を抑えることができることを意味している。
【0028】
従って、リン酸に加えるかその代わりとして、他の酸が使用される場合、十分なリン酸含有量を得るために、より多くのリン酸カルシウムが必要になることがある。固体および液体画分を混合した後の組成物全体における、このようにして得られた組成物の酸含有量は、少なくとも約2.0%のリン酸、またはリン酸を含むか含まない当量の他の酸、例えば約2.5〜25%の範囲、例えば約3.5〜15%または5〜10%の範囲のリン酸またはその同等物であることが好ましい。
【0029】
本発明の組成物は良好な注入性を有する。12mmの内径および2mmの出口を備えた5mLのシリンジ(B.Braunまたは同等品)で2〜3mLの本発明の新しいセメント組成物を注入するのに最適な注入強度は、好ましくは約10〜30Nの範囲、より好ましくは約20N以下、より好ましくは約15N未満または約10N未満である。これは、実施例1に記載されているように測定することができる。
【0030】
本発明の組成物は、固体画分に組み込まれたPDCを含み、これは、セメントを硬化する際に重要な役割を有する。脱アセチル化度(DD)が高くなる程、硬化時間は短くなる。他方で、硬化は温度に関連しており、すなわち、温度が高くなる程、硬化時間は短くなる。従って、好適なパラメータを有するPDCを選択し、それにより、実際の手術の必要性に従って本組成物を最適化して、セメント硬化時間を調整してもよい。50%DDのPDCを用いて室温(20〜25℃)で達成される硬化時間は30分であるが、5℃未満では、硬化時間は3時間を超えることもある。
【0031】
本明細書で使用する硬化時間という用語は、混合から、本明細書に記載されているように容易に施用することができず、かつ破壊することなく成形することがもはや不可能な程度までセメントが硬化する時点を指す。
【0032】
別の有用な用語は、作業時間又は使用時間であり、これは、最初の混合(および本組成物が十分に粘着するようになるまでの短い待ち時間)から、硬化時間に到達するまでの本組成物を作業/使用できる時間を指す。本発明の組成物のために、室温(20〜25℃)での使用可能時間は、最初の混合から2〜25分間、例えば、混合から2〜20分間または3〜20分間であることが好ましい。これは、正確な組成および手術室温度によって大きく変わり得る。一般に、組成物のS/L比が低くなると、1:2〜1:3の範囲のS/L比に対して3〜8分間の範囲のように、作業時間の開始を待つ期間はより長くなるが、これは後の硬化時間によって相殺される。従って、S/L比が1:1.5である場合、室温での作業時間は一般に、混合から約2分間〜約9分間であるが、S/L比が1:2のようにより低くなると、作業時間は混合から約6分間〜約20分間まで持続し、従って、使用時間がより長くなる。さらにより低いS/L値(例えば、1:2.5または1:3)を用いる場合、作業時間はさらに変化し、混合からさらに遅く開始するが、本組成物は、より長時間にわたって作業可能なままである。
【0033】
所望の機械的強度は典型的に、PDCの相対量を調整することにより達成され、これは、セメントの機械的特性にとって非常に重量である。セメントは、セメント全体の約20w/w%のPDCでピーク圧縮強度に到達する。一般に、50w/w%のPDCを含むセメントを調製することができる。本発明の組成物は、好ましい態様では1つにまとめられた組成物(固体および液体画分)の総重量の10重量%以下、例えば1つにまとめられた画分の内の約2〜10%の範囲、いくつかの態様では約2.5〜5%の範囲の量のPDCを含む。
【0034】
さらに、セメント組成物中のPDCの量は、骨の空隙または骨折部位の中に施用された場合に、骨原性効果に対して影響を与え、量が多くなる程、骨原性効果も高くなる。
【0035】
本発明の組成物では、固体画分は、3〜30重量%の範囲のPDCを含むことが好ましく、前記量を超えるPDCを含むセメントにより、アセチル化の程度およびパターンに応じて過剰な骨成長が誘導されることがある。固体画分は、5〜15重量%の範囲、例えば5〜10%の範囲のPDCを含むことがより好ましい。
【0036】
本発明の組成物中のPDCは、再生重合体を含むことが好ましく、これを、溶解およびその後の不純物の濾過に供して、母材から内毒素を除去し、その後、好適な乾燥プロセスで乾燥する。この再生キトサンは、他の態様では、実質的に純粋で、かつ含まれる内毒素が低濃度であるなら、同様の脱アセチル化度、分子量および粒径を有する古典的キトサンまたは部分的に脱アセチル化されたキチンで置き換えてもよい。さらに、本発明の特定の態様では、セメント製剤のために、第4級キトサン、カルボキシメチルキトサンなどの化学修飾されたPDCまたはキトサンの塩の形態もしくは他の形態を使用してもよい。
【0037】
本発明の組成物中のPDCは、エンドトキシン濃度が100EU/g未満の高度に精製されたPDCであることが好ましい。これにより、セメントの良好な生体適合性が保証され、骨組織と接触した際に瞬時に骨原性効果が得られる。
【0038】
既に述べたように、本発明で使用されるPDC材料は、40〜75%の範囲、より好ましくは約40〜70%の範囲、約40〜60%の範囲(例えば、約40%、約45%、約50%)、または約50〜60%の範囲(例えば、55%または60%)の脱アセチル化度を有する。
【0039】
さらに、上記PDCは、ブロック状のN−アセチル−D−グルコサミン(A)またはD−グルコサミン(D)部分、例えばA−A−A−AまたはD−D−D−Dの存在が最小になるように、脱アセチル化プロセス(すなわち、本発明に適したキチン誘導体を得る好ましい方法であるキチンの脱アセチル化)中にランダムな形態に脱アセチル化されることが好ましい。体内で内因性キチナーゼにより加水分解されると、そのような所望の半ばランダムに脱アセチル化された材料により、その量、分子量、ファミリー18キチナーゼの遮断およびキチナーゼ様タンパク質に対する親和性に関して最適な長さのオリゴマーが生成され、骨組織再生にとって最適な治療用目的物が得られる。
【0040】
脱アセチル化度および残りのアセチル基の分布は、PDC重合体およびオリゴマーの骨原活性に対して顕著な影響を与える。脱アセチル化が少なくなる程、アセチル基の分布がより均質になり、PDCによってより高い骨原活性が示される。本発明の好ましい態様では、半均質な分布、すなわち、アセチル基の上述のようなブロックの分布でも完全に均質かつ一様な分布でもないことが好ましい(一例として、50%DDを有するPDCでは、N−アセチルグルコサミン残基は、全ての他の単量体のように100%が分布されてはならないことを意味する)。
【0041】
本明細書中で言及するPDCの分子量(MW)とは、PDC重合体の重量平均分子量を指す。PDCのMWは、本組成物の各種特性に影響を与え、これらの特性としては、機械的強度、注入性、成形性、粘着性または偏析性、充填能、硬化時間などが挙げられる。好ましい有効なMWは10〜1000kDaの範囲であり、従って、本発明の組成物中のPDCの好ましいMWは、前記範囲内である。成形性および偏析特性は、MWが増加すると向上するが、非常に高いMWは、注入性および充填能に対して好適に作用しないことがある。本発明の組成物では、キチン材料の好ましい範囲は、30〜200kDaの範囲である。
【0042】
高いMWと低いMWの混合物は、様々な相反する特性、例えば偏析特性に対する注入特性を含むことがある。他方、オリゴマー形態の治療用PDCの組み込みにより、治癒過程を短縮してもよい。特定の態様では、本組成物は、典型的にオリゴマー鎖中に約3〜12の範囲の糖残基からなるオリゴマー長と、PDC材料の総含有量の約5〜25重量%(例えば、約5%、10%または15%)などのPDC材料の一部として、約30〜70%の範囲のDD値とを有する、部分的に脱アセチル化されたキトオリゴマーを含む。これにより、骨形成の早期開始が促進される。
【0043】
キットを用意し、包装した後に、γ照射で滅菌することが好ましい。γ照射は、最初のPDC材料のMWに影響を与えることがあるため、照射前の本組成物中の最初のPDC材料は、200〜1000kDaの範囲のMWを有し、照射により、γ照射後の最終的なMWを30〜200kDaにしてもよい。有効な最初のMWは、いくつかの態様では、10〜1500kDa超の範囲であってもよく、最終的なMWは、10〜1000kDaの範囲であってもよい。最終的なMWの最も好ましい範囲は、上述のように、30〜200kDaの範囲であり、従って、好ましい最初のMW範囲は、光散乱検出器を用いるGPC/SECシステムによって測定した場合に、20〜1000kDaの範囲、例えば、100〜1000kDaの範囲、より好ましくは200〜1000kDaの範囲である。
【0044】
γ照射の有効な線量は、本明細書における状況では、9〜100キログレイの範囲であることが好ましく、最適な好ましい線量は、20〜35キログレイの範囲である。
【0045】
好ましくは、本発明の組成物中のPDCは、500μm以下の粒径を有する。酸性環境では、そのような材料は素早く溶解し、リン酸カルシウムと反応して、セメント特性を調整する。
【0046】
既に述べたように、本発明は、固体画分に組み込まれたPDCを有する。これは、貯蔵の間に生じ得る酸分解を回避するというさらなる利点を有する。これにより、セメントの妥当な貯蔵寿命を保証し、かつセメント特性の劣化および経済的な損失の両方が生じるのを回避する。
【0047】
本組成物の固体画分にはリン酸カルシウムも含まれている。本発明の好ましい組成物では、リン酸カルシウムは、低結晶性の沈殿ヒドロキシルアパタイトを形成して、最適な同化作用を保証し、かつ体内に骨組織を形成する。
【0048】
好ましくは、本組成物の固体画分は、酸性のリン酸カルシウムおよび塩基性のホスフェートを含む。液体画分と混合して中和させると、リン酸カルシウムは、沈殿ヒドロキシルアパタイトの形成を引き起こす。カルシウム:ホスフェートの最も好ましい比、すなわちCa/P比は、約1.6〜1.7の範囲であるが、Ca/P比は、本発明に係る好ましい範囲である1.2〜2.2の範囲で有効である。
【0049】
従って、一態様では、リン酸カルシウムは、α−リン酸三カルシウムおよびリン酸四カルシウムである。これらは、80%を超える純度を有することが好ましい(発明者らの経験によれば、80%未満の純度を使用することもでき、骨原特性の劣化を生じ得ない)。また、ヒドロキシルアパタイトの形成を引き起こすリン酸カルシウムの他の組み合わせを本発明で使用してもよい。
【0050】
硫酸カルシウムは脆く、リン酸カルシウムよりも低い強度を示すため、体内ではリン酸カルシウムよりも速い再吸収速度を有する傾向がある。硫酸カルシウムとリン酸カルシウムとの混合物は、体内におけるセメントの再吸収速度と機械的特性との両方を組み合わせた利点を有することができる。
【0051】
リン酸カルシウムは、180μm以下、より好ましくは約100μm未満の粒径を有することが好ましい。機械的強度は粒径に反比例する。最も好ましい大きさは、50μm以下である。
【0052】
いくつかの態様では、本組成物は、固体画分中にグリセロリン酸ナトリウムを含む。グリセロリン酸ナトリウムを使用して、セメントの機械的特性をさらに高め、かつセメントの塩分濃度を生理的条件に調整してもよい。
【0053】
他の態様では、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムなどのグリセリンリン酸ナトリウムの代わりとして、あるいはそれに加えて、他のホスフェートも使用することができる。
【0054】
上述のように、本発明は、骨折を治癒させるための本発明の組成物の使用に基づく方法をさらに提供する。本方法は、上記のような固体画分および液体画分を用意する工程と、その2つの画分を、約1:1.2〜約1:6の範囲の固体画分:液体画分比、より好ましくは本明細書において上に記載および定義されている範囲、例えば、最も好ましくは約1:2の比で一緒に混合する工程とを含む。その2つの画分を混合し、混合物を所望の稠度および粘度が得られるまで好適な時間をかけて硬化させ、この時、本組成物の「作業時間」が開始し、次いで、治癒が望まれている骨折部位に、好ましくは注入により混合物を挿入する。本組成物の取り扱いは、整形外科に関わる臨床的処置によく適合する。骨の空隙を充填する際に、骨移植片の代わりに本製品を使用して、骨折治癒において癒合を促進し、脊椎固定術、骨切除術、例えば歯周外科手術、骨癌外科手術、例えば患肢温存手術、末梢骨の骨癒合不全箇所の再建術、良性突起における溶骨性突起の修復などにおいて癒合を促進することができる。
【0055】
従って、本発明は、特にPDCが本明細書に記載されているように組成物キットで提供される場合、一般に骨を修復および治癒させるための薬として使用される、本明細書に記載されているようなPDC材料も提供する。
【実施例】
【0056】
実施例1:1:2のS/L比を有する本発明の特定の組成物の材料特性
固体および液体成分を別々に混合して1つにまとめ、使用直前にへらで混合する。
【0057】
【表1】
【0058】
質感:混合直後のセメント組成物は、作業時間の開始時点で乳白色のペースト剤の質感を有する。15〜30Nの範囲で、5mLのB.Braunシリンジ(12mmの内径および2mmの出口)を用いて、注入強度を測定する。
【0059】
室温(20〜25℃)での本組成物の作業時間は、最初の混合から3〜25分の範囲であり、すなわち、室温では25分間であるが、3℃では最大3時間の硬化時間である。
【0060】
2gの本組成物を5mLの非緩衝生理食塩水(0.9%のNaCl)に入れた際の最初のpHは7.4であった。6時間後のpHは6.84であり、1日後は6.47、5日後は5.94であった。
【0061】
本組成物の粘着性を以下のように測定した。
【0062】
底に2.5cmのマグネチックスターラを備え、かつ25メッシュの網が表面から1cmの深さに配置された100mLのビーカーに、50mLの生理食塩水(0.9%のNaCl)を入れる。0.5mlのすぐに使用可能なセメントを、(「渦巻き状の輪」の形状が得られような円の動きで)網目上に注入する。装置は図1に示されている。この溶液を100rpmの速度で10分間撹拌する。注入されたセメントの正確な重量は、(注入前後のシリンジの重量を測って)決定する。撹拌期間後に、この溶液を混濁度測定管に移し、混濁度を測定し、NTUで表す。
【0063】
較正曲線:各セメントを標準として用いて、原液懸濁液を調製した。セメントの重量測定した部分(0.0000gの精度)を全体に分散させて、1000NTUの混濁度を生じさせた。原液懸濁液を使用して、連続希釈により、0、200、400、600、800および1000のNTUを有する標準懸濁液を調製した。セメントの量を懸濁液の混濁度に対してプロットした線形のグラフを用意した。このようにして、10分間の撹拌後に試験溶液の混濁度を測定して、分散したセメントの量を決定した。
【0064】
この測定により、0.1%未満のセメント組成物が偏析されて、生理食塩水中に分散したことが判明した。
【0065】
さらなる機械的特性:
針(3mmの外径)を、96ウェルプレート(φ6.7×13mm)の中に埋め込まれた完全に硬化した組成物の中に5mmの深さまで押し入れて、貫入抵抗を荷重計で測定した。生理食塩水(0.9%のNaCl)中、37℃で24時間養生して、本組成物を硬化させた。MTS試験装置(MTS Insight 10、米国ミネソタ州イーデンプレーリー)を用い、各組成物に対して6〜8個の複製物を用いて、表1に記載されている本組成物(S/L比=1:2)の抵抗の測定値は8.08±0.34N/mm2であった。
【0066】
様々なS/L比を有する組成物の貫入も試験した。1:1.5のS/L比を有する組成物は、17,25N/mm2の貫入抵抗を有し、これは、S/Lが1:2の組成物(6,221N/mm2)と比較すると、ほぼ3倍であり、1:1のS/L比を有する組成物の測定した貫入抵抗は、32,82N/mm2であった。
【0067】
セメントの強度は、5mmの変位における貫入力から計算する。以前の実験では、上記貫入試験と古典的圧縮試験(CCT)との間に線形の相関のあることが分かっている。
【0068】
実施例2:機械的特性に対する脱アセチル化の効果
注入強度:2つの異なるDD値すなわち50%および70%のPDCを用いること以外は実施例1に記載されているように、2種類の組成物を調製した。MTS試験装置を用いて、12mmの内径および2mmの出口を備えたB.Braunの5mlのシリンジで注入試験を行った。結果を図1に示す(試験は25℃または3℃のいずれかで行った、図2を参照)。
【0069】
圧縮強度:3つの異なるDD値すなわち40%、70%および94%を有し、かつS/L比が1であるPDCを用いたこと以外は実施例1と同様に、3種類の組成物を調製した。MTS試験装置を用い、20mm/分のクロスヘッド速度を有する500Nの荷重計を用いて、圧縮強度を試験した。最初のセメント温度を、試験中3℃および25℃に設定した。結果を図3に示す。圧縮試験における各処理に対して5つの試料を使用し、それぞれの大きさはφ9.6×15mmであった。これらの検体を、硬化のために、生理食塩水(0.9%のNaCl)中、37℃で24時間養生し、試験条件を、注入試験について記載されている条件にした。
【0070】
実施例3:ラットの下顎骨モデルにおける組成物の生体内試験−脱アセチル化度の最適化
導入
ラットの下顎骨(顎骨)は、骨治癒の研究のために頻繁に使用されるモデルである(Bone repair in rat mandible by rhBMP-2 associated with two carriers(2種類の担体に関連するrhBMP−2によるラットの下顎骨における骨の修復); Micron, Volume 39, Issue 4, June 2008, Pages 373-379, Joao Paulo Mardegan Issa et. al.; Bone formation in trabecular bone cell seeded scaffolds used for reconstruction of the rat mandible(ラットの下顎骨の再建のために使用される海綿骨細胞が播種された骨格における骨の形成); International Journal of Oral and Maxillofacial Surgery, Volume 38, Issue 2, February 2009, Pages 166-172, H. Schliephake, et.al., Bone regeneration in the rat mandible with bone morphogenetic protein-2: A comparison of two carriers(骨形成タンパク質2を用いたラットの下顎骨における骨再生:2種類の担体の比較); Otolaryngology - Head and Neck Surgery, Volume 132, Issue 4, April 2005, Pages 592-597, Oneida A. Arosarena, Wesley L. Collins; Spontaneous bone healing of the large bone defects in the mandible(下顎骨における大骨欠損の自然な骨治癒); International Journal of Oral and Maxillofacial Surgery, Volume 37, Issue 12, December 2008, Pages 1111-1116, N. Ihan Hren, M. Miljavec)。
【0071】
下顎骨は、摂食および噛み締めによって引き起こされる定応力に反応する代謝的に活性な骨である。本発明者らは、マイクロCT分析を用いるラットの下顎骨における深刻な骨病変部のための動物モデルを開発して、新しい骨の成長および骨原性反応を測定し、マイクロCT図の石灰化した特徴点を石灰化した骨組織に変換するために組織学的検査を行った。ラットの顎の咬筋窩の中央領域に直径4mmのドリルの穴をあけて、骨の機械的特性に影響を与える深刻な大きさの空隙を得る(図4)。これにより、骨が損傷に反応して、適当な骨原性反応を活性化させることにより、骨構造の弱化を補うことができるようにする。マイクロCT分析により、下顎骨の規定の部分を用いて石灰化を定量化することができる(図4)。これは、骨移植材料としてこの空隙に注入された生体材料の骨原性効果を評価するための優れた手段であることが分かった。この研究では、上記モデルを使用して、リン酸カルシウム系の注入可能な骨空隙充填材中のキチンの異なる誘導体の骨成長刺激効果を評価する。これらのキチン誘導は、脱アセチル化度の異なる3種類のキチン重合体、すなわち50%、70%および96%の脱アセチル化キチン重合体と、1種類の50%脱アセチル化オリゴマー(T−ChOS(商標)、Genis社、アイスランド)であった。本発明者らの過去のラットの顎の研究に基づいて、移植時間を7日間に調整した。この重合体のアセチル化は、新しい骨形成を誘導するために重要であると思われ、50DDの重合体が最も活性であり、96%DDの重合体は不活性であることが分かった。
【0072】
材料および方法
本研究で使用したキチン誘導体は、以下のとおりであった。
【0073】
50DDのPDC:脱アセチル化度50%(表1に記載されているものと同じ材料)。
【0074】
70DDのPDC:脱アセチル化度70%。
【0075】
96DDのキトサン:脱アセチル化度96%。
【0076】
50DDのオリゴマー(T−ChOS(商標)、Genis社、アイスランド):T−ChOS(商標)は単量体を含まず、10%未満の二量体および三量体を含む。八量体は、組成物中に最も多く含まれているオリゴマーである。
【0077】
全ての重合体の平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィで判定した場合、130kDaを超えていた。
【0078】
それぞれが固体成分(固体画分)および液体成分(液体画分)を含む、4種類の異なる移植材複合体を含むキットを製造した。固体成分(1つの管)は、0.155gのキチン誘導体、0.904gのリン酸四カルシウムおよび0.701gのα−リン酸三カルシウム、0.220gのグリセロリン酸ナトリウムおよび0.098gの水酸化カルシウム(固体画分の総重量は2.078g)を含んでいた。液体成分(1つの管)は、0.398gのリン酸および3.504gの水(総重量は3.902g)を含んでいた(S/L比は1:1.88)。
【0079】
1種の固体成分および1種の液体成分を、アルミニウム積層熱密封プラスチック袋に入れ、完全にすぐに使用できるキットを製造した。全てのキットをγ照射(20キログレイ、放射線センター(Radiation Center)、オレゴン州立大学、米国)で滅菌した。
【0080】
手術中および移植前に、これらの成分を無菌状態で混合し、シリンジに入れ、移植まで4℃に維持した。
【0081】
試験動物は、デンマークのTaconic社によって供給されている雄のSprague-Dawley系ラット(260〜280g)であった。到着時に、動物を臨床検査し、手術前の30日間にわたって実験施設に順応させて飼育した。手術当日の動物の平均体重は413gであり、430〜464gの範囲であった。動物実験の承認に対してアイスランドの委員会が発行した許諾(許諾番号:0709−0405)の下で実験を行った。手術は、整形外科医および麻酔科医により行われ、薬の投与量および動物保護は、獣医師により監督された。
【0082】
各動物の左顎を、毛を剃って消毒して、外科手術に備えた。下顎骨の下縁に平行にその上に位置する切開部から下顎骨にアクセスした。咬筋線維の鈍的な非外傷性切開により、咬筋窩にアクセスした。4mmの歯科用ドリルを用いて、咬筋窩の中央部に4mmの穴を開けた。無菌生理食塩水(5ml)で十分に洗い流した後、その穴に、エッペンドルフ社製分注器を用いて25μlの実験用試験製剤を注入したか、未処置のままにした(未充填空隙対照)。手術創傷部を縫合糸で閉じた。
【0083】
39匹の動物を用いて全部で6群を確立した。表2は、実験計画を示す。
【0084】
【表2】
【0085】
終了時に、ラットをイソフルランで麻酔し、麻酔下で終末的に心臓から出血させた。次いで、左顎を顎関節から解放するように解剖して、3.7%のホルムアルデヒドの50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に入れた。
【0086】
マイクロCTスキャン装置(General Electric Inspection Technologies社製のNanotom)で走査を行った。固定液が充填された密閉プラスチック製シリンダ内で試料を固定し、CTスキャン装置の回転テーブル上に装着した。グレイ値の比較のために、基準点としてAlファントムおよびプラスチックファントム(PET)を用いて走査を行った。倍率は4倍、ボクセルサイズは12.50μm/ボクセルエッジ、収集した画像の数は1080(刻み角度:0,33°)であり、露光時間は2000ms、平均フレーム数は3、スキップしたフレーム数は1であった。X線の設定は、0の管モードを用い、かつフィルタを用いずに、100kV、125μAであった。
【0087】
CTスキャン装置に付属しているDatos−xソフトウェアを用いて、3次元画像再構成を行った。Volume Graphics社製のVolume Graphics Studio Max 2.0を用いて、データ分析を行った。
【0088】
下顎骨突起、角突起、鉤状突起および移植材料を含む穴または移植材料を含まない穴を含む、最後部の大臼歯の遠位縁部から後方に延在する骨全体を含む円筒体の体積を定めた(図3、LC)。グレイ値の切り捨て値/グレイ値の定義により、この体積に含まれる総骨体積(古い骨および新しい骨)および移植材料を決定した。移植材料を含む顎の場合、小さい方の円筒体を、移植材料を含む大きい方の円筒体に対して垂直に定めた(図3、SC)。この円筒体に含まれる移植材料の体積を、大きい方の円筒体によって決定された骨および移植材料の総体積から引いた。このようにして、処置済および未処置の顎の総骨(新しい骨および古い骨)体積の推定値を得た(図3)。
【0089】
マイクロCT走査後に、試料を緩衝固定液に入れた。選択した試料を、Decalc(Histolab社、No.00601、スウェーデンのイェーテボリー)で3時間脱灰した。次いで、標本を脱水し、パラフィンで包埋して、薄片(2μm)にし、ヘマトキシリン−エオジンで染色した。デジタルカメラ(Leica DFC 290)に接続された光学顕微鏡(Leica DM 2000、ドイツ)を用いて薄片を調べ、写真を撮った。
【0090】
結果
7日以内に、アセチル化されたキトサンの誘導により、石灰化した顎骨の体積の増加が生じた(図4)。各群について、平均的な石灰化した骨の体積(AMBV、単位:mm3)を計算した(平均値±標準誤差)。2つの対照群の間に有意差は観察されなかった(未充填空隙群およびゼロ日群、それぞれ69.4±3.1および71.1±2.3、図5)。AMBVは、脱アセチル化されたキチン重合体の%DD値とは負に相関しており、96DD群の平均値は71.9±2.9、70DD群は84.2±4.5、50DD群は87.3±3.8であった(図5)。未充填空隙群と比べて、70DD群および50DD群のAMBVは有意に増加していた(それぞれ18%および23%)。興味深いことに、96DD群(96%の脱アセチル化キトサン)は、石灰化した骨の体積に対して有意な効果を有していない(図5)。
【0091】
オリゴマー複合体(T−ChOS(商標)移植材料)は、骨の体積の11%の増加を誘導した(図5)。この誘導は有意であった(p<0.05)。しかし、生理化学的特性の低下により、T−ChOS(商標)移植材料は噛み砕かれてしまうことが多く、穴が失われていた。これは、マイクロCT走査画像を調べると明らかであった。T−ChOS(商標)移植材料の大部分がドリルで開けた穴の中からなくなっていた。当該重合体は、この骨セメント製剤の機械的安定性にとって明らかに不可欠である。
【0092】
図6は、70%DDの重合体をベースとする注入可能な組成物を移植してから14日目の同じラットの下顎骨の組織学的なマイクロCT横断面の比較を示す。この断面は、ドリルで開けた穴の前方1〜2mmのものである。マイクロCT分析によって新しい骨とみなされた石灰化組織(A、BおよびC)は、ヘマトキシリン−エオジン染色した部分によって判断した場合、新しく形成された骨組織のように見えた。
【0093】
マイクロCTおよび組織学的検査によって判断すると、全ての新しい骨の密度は元の顎骨よりも小さかった。組織プレパラートにより、新しい骨の成長内部での血管新生を伴う海綿骨の形成が明らかになった。新しい骨の成長は常に、骨欠損部位自体からではなく骨の外面を覆う骨膜から生じていた(図6)。従って、このPDC誘導性骨成長は、主に、顎内部の最大の力学的応力に曝された部位に沿って、下顎骨の表面にわたってドリルで開けた穴から遠位に局在化していたと言える。これは、骨に関連する組織全体に拡散することができる小分子の活性によってのみ説明することができる。これらの小分子は、移植材料中のPDC重合体の生体内原位置での加水分解によって形成されたPDCオリゴマーである可能性が最も高い。この加水分解は、白血球(好中球およびマクロファージ)によって発現されるファミリー18キチナーゼによって触媒される可能性が最も高い。これらの活性キチナーゼは、部分的にアセチル化されたキチン重合体を切断して様々な大きさのPDCオリゴマーを形成する。これらの前記PDCオリゴマーは、移植された組成物から隣接する組織に拡散し、骨への力学的応力に反応して、この遠位での骨成長促進を触媒する。
【0094】
実施例4:近位のヒツジ脛骨における深刻な骨の空隙の治療
実施例1(表1)および実施例2に記載されている組成物を、45匹の5歳のヒツジ(5.83±0.71歳、平均値±標準偏差)の近位脛骨の骨端に移植して試験した。全てのヒツジを同様の方法で手術し、15匹を短期間の評価のために3ヶ月間飼育し、15匹を長期間の評価のために13ヶ月間飼育した。動物実験の承認に対してアイスランドの委員会が発行した許諾(許諾番号:0709−0405)の下でこの実験を行った。手術は、整形外科医および麻酔科医により行われ、薬の投与量および動物保護は、獣医師により監督された。
【0095】
液体および固体成分の混合
この試料に使用されている部分的に脱アセチル化されたキチン重合体は、以下の特性を有していた:50%の脱アセチル化度、1%酢酸の1%溶液中で100%の溶解度、460cPの溶液粘度、10NTU未満の溶液中での混濁度、330kDaの見かけ平均分子量、93EU/gのエンドトキシン含有量。
【0096】
キットの固体および液体成分を無菌のプラスチックカップに入れ、撹拌し、無菌のへらで2分間一緒に捏和して、粘性のスラリーを形成した。
【0097】
外科手術
骨の前縁と後縁との真ん中であって各動物の左および右脛骨の粗面高さに、直径8mmの穴をドリルで開けた。皮質内に直角に、入口用の穴をドリルで開け、その後、ドリルを45°上方に向け直し、脛骨上面(プラトー)底部の下まで開けた。ドリルで穴を開ける処置の間、ドリルを冷却しなかった。ドリルで穴を開けた後、40〜50mLの無菌生理食塩水で洗い流して十分に吸引して、ドリルの穴から骨の残屑を十分に洗い落した。試験キットの液体および固体成分を混合した後、1.5mLのスラリーを、無菌のピペットチップが装着された5mlの無菌シリンジに入れ、当該材料が、脛骨プラトーから皮質内の開口部の下方および外まで、ドリルの穴の空間全体を満たして確実に広がるように、全内容物をドリルの穴に注入した。左脚の穴は未充填のままにし、陰性対照として使用した。その後、両脚の手術創傷を4−0のVicryl連続皮下縫合糸で閉じ、皮膚を4−0のEtilone連続皮内縫合糸で閉じた。外科手術後に目覚めた後、動物を回復のためにヒツジの柵に戻して、そこで歩行可能になるまで慎重に監視した。
【0098】
試料の死後処理
外植直後に、骨試料を、3.7%のホルムアルデヒドの50mMリン酸緩衝液(pH7.0)の中に入れ、その後、ヒドロキシアパタイトファントム標準物質と共に、マイクロCTスキャン装置(General Electric Inspection Technologies社製のNanotome)で走査した。ゼロ時の時点からのデータを得るために、生体外で調製し、かつ37℃の生理食塩水中に24時間置いて硬化させた円筒状に成形された試料も走査した。走査後、骨試料をのこぎりで切って4mmの厚さの切片にし、緩衝固定液の中に戻して最低でもさらに4週間置いた。固定期間を終えた後、EDTA溶液を定期的に新しくしながら最長4ヶ月間、脱灰のために試料を中性のpHの15%EDTA溶液の中に置いた。脱灰後、試料を組織学検査(パラフィン)のために調製し、ヘマトキシリン・エオジンで染色した。
【0099】
マイクロCT分析
一次マイクロCTデータを、Datos−XソフトウェアおよびVolume Graphics社製のVolume Graphics studio Max 2.0を用いて、3次元画像再構成およびデータ分析にかけた。再構成された3次元画像は、脛骨のプラトーからドリルの穴を含む3cm下方に及ぶ脛骨の下垂体全体と、ドリルの穴の外側に存在し得る全ての可能な移植材料とを含んでいた。グレイ値の切り捨て値/グレイ値の定義により、この再構成された3次元画像内の古い骨、新しい骨および移植材料の体積を決定した。標準物質内のより高濃度のヒドロキシアパタイトが、より明るいグレースケール値(「より白色」)を有するマイクロCT画像中に現れる。ヒドロキシアパタイトは、X線減弱を誘導する石灰化された骨の主成分であるため、標準物質のグレースケール値を使用して、試料中の石灰化の程度および分布を推測することができる。ヒドロキシアパタイト標準物質および試料のグレースケール値を比較することにより、石灰化の程度を判断することができる。CT画像中の最も明るい領域は、石灰化の程度が最も高い組織を示している。
【0100】
定量的評価のために、長さが4mmで半径が3mmの仮想の円筒体を規定し、その円筒体の軸をドリルの穴の方向の長手軸に慎重に合わせた(図7)。円筒体の向きを固定し続けながら、その半径を段階的に4mm、5mmおよび6mmに増加させ、各円筒体内の無機質体積を測定した。未充填穴(左の脛骨)および移植材料を含む穴の両方で、全ての試料においてこの分析を繰り返した。半径4mmから半径3mm(R4−R3)、R5−R4およびR6−R5のように、広い方の円筒体から狭い方の円筒体を引いて、各円筒体の1mmの外殻(管)の無機質相の体積を得た。全ての円筒体の殻の無機質相の体積を、1mm3の標準体積に対して標準化して無機質密度を得て、SigmaStatおよびSigmaPlotソフトウェアを用いて、このデータを統計学的に分析した。
【0101】
結果
移植された材料および周囲組織を3つの面で示す断面マイクロCT画像を、全ての試料から作成した。これらの画像を目視評価のため使用して、無機質密度の定量的評価のために使用される仮想の円筒体を規定した。
【0102】
炎症、異物反応、瘢痕組織形成および新しく形成された骨組織の兆候に重点を置いて、移植された材料への組織反応を評価するために、組織切片を使用した。
【0103】
マイクロCTデータの解釈
In vivoで3ヶ月後に、目視評価により、移植材料の周りに、隣接する海綿骨組織に十分に結合した明らかな新しい骨の高密度な殻が認められた。移植材料内部の島状の高密度な構造は、材料全体に散らばった骨の形成を示していた(図8)。In vivoで13ヶ月後に、これは、さらにより顕著になり、周囲殻は、さらに厚くなっているように見え、移植材料内の骨の形成は、in vivoで3ヶ月後の状態よりもさらに一層顕著であった。
【0104】
Ex vivo試料およびin vivo試料における無機質密度の統計学的評価により、in vivoで3ヶ月の間に無機質密度の21%の減少が認められた。In vivoで3ヶ月〜13ヶ月の間に、移植材料の無機質密度は、再び33%増加した(図9)。
【0105】
3ヶ月および13ヶ月目に、未充填穴では、石灰化組織の成長は全くないように見えた。しかし、高密度な骨組織の薄い殻が、未充填穴を囲んでいるように見えた。これは、R4−R3データの定量的評価によって分かった(図10)。これにより、8mmのドリルの穴は、このモデルにおいて深刻な骨の割れ目であることが分かった。
【0106】
マトラブ(MATLAB:MATrix LABoratory)ソフトウェアおよび医用画像セグメンテーションソフトウェア(MIMICS:medical imaging segmentation software)を用いて、3ヶ月および13ヶ月目にグレイ値分布を測定して、移植材料および骨の変化を定量化した。その結果から、3ヶ月目の移植材料と骨との間のグレイ値分布の顕著な違いが実証されている。しかし、13ヶ月目に、移植材料のグレイ値分布は変化して、周囲の骨のグレイ値分布に類似した状態になった。これらの結果は、10ヶ月間の移植材料の形態変化を示唆しており、移植材料が骨組織に徐々に転化したことを示している。
【0107】
組織学的分析による確認
3ヶ月後の脛骨の組織学的評価により、本移植材料は、炎症または異物反応の兆候が全
くなく、完全に生体適合性であることが分かった。瘢痕組織形成は、ごく僅かであった。
隣接する海綿骨に強く一体化された新しい骨組織の殻は、移植材料全体を取り囲んでいる
ように見え、島状の新しい骨は、移植材料全体に散らばっていた(図11)。組織切片の
画像をマイクロCT断面の対応する画像と並べて、移植材料を取り囲み、かつ移植材料全
体に散らばった高密度(X線減弱度が最も高い)を特徴とする領域は、新しく形成された
骨組織であることを確認した。
以下に、出願時の特許請求の範囲の記載を示す。
[請求項1]
骨を治癒する医学的治療のための組成物キットであって、
a.40〜75%の範囲の脱アセチル化度を有する部分的に脱アセチル化されたキチン(PDC)およびリン酸カルシウムを含む固体画分と、
b.水および酸を含む酸性の液体画分と、
を含み、
これらの画分は、使用前に混合されるべく別個の小瓶で提供され、該固体画分:液体画分の重量:重量比が、1:1.2〜1:6の範囲である、
前記組成物キット。
[請求項2]
該PDCが40〜60%の範囲、好ましくは約50%の脱アセチル化度を有する、請求項1に記載の組成物キット。
[請求項3]
該固体画分が、3〜30重量%の範囲、好ましくは5〜15重量%の範囲のPDCを含む、請求項1に記載の組成物キット。
[請求項4]
該液体画分が、リン酸、塩酸、アスコルビン酸、乳酸、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、リンゴ酸、クエン酸およびグルタミン酸からなる群から選択される1種以上の酸を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物キット。
[請求項5]
該液体画分が、少なくとも5重量%のリン酸と同等の酸性度を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物キット。
[請求項6]
該液体画分が水酸化カルシウムをさらに含む、請求項1に記載の組成物キット。
[請求項7]
該固体画分:液体画分の重量比が、約1:1.3〜約1:4の範囲である、請求項1に記載の組成物キット。
[請求項8]
該固体画分:液体画分の重量比が、約1:1.5〜約1:3の範囲である、請求項7に記載の組成物キット。
[請求項9]
1つにまとめられた画分の内の0.5〜10重量%の範囲、好ましくは約1〜5重量%の範囲のPDC量を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物キット。
[請求項10]
該PDCが溶解され、かつ沈殿されたものである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物キット。
[請求項11]
該リン酸カルシウムが、ヒドロキシアパタイトおよび/またはブラッシュ石の沈殿物を形成することができる、リン酸四カルシウム、α−リン酸三カルシウムおよび他のリン酸カルシウムのうちの1つ以上を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物キット。
[請求項12]
該固体画分がグリセロールリン酸ナトリウムを含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物キット。
[請求項13]
該組成物が、混合後に室温で硬化し始め、かつ室温で約15〜30分の範囲内の硬化時間を有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物キット。
[請求項14]
該組成物が、12mmの内径および2mmの出口を有する5mLのB.Braunシリンジで測定した場合に、注入性によって決定される30N未満の混合後粘度を有する、請求項13に記載の組成物キット。
[請求項15]
該組成物が、骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein)または骨髄、血液、骨および骨原性タンパク質(Osteogenic Protein)から選択される他の生体因子を含まない、請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物キット。
[請求項16]
該固体画分中に硫酸カルシウムをさらに含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の組成物キット。
[請求項17]
γ照射で滅菌されている、請求項1〜16のいずれか一項に記載の組成物キット。
[請求項18]
骨を修復および治癒させるための薬として使用するための、40〜75%の範囲の脱アセチル化度を有する部分的に脱アセチル化されたキチン(PDC)。
[請求項19]
請求項18に記載の薬として使用するための、40〜75%の範囲の脱アセチル化度を有するPDCであって、
請求項1〜17のいずれか一項に記載の組成物キットに含まれている、前記PCD。
[請求項20]
骨を治癒する方法であって、
40〜75%の範囲の脱アセチル化度を有する部分的に脱アセチル化されたキチン(PDC)およびリン酸カルシウムを含む固体画分と、水および酸を含む酸性の液体画分とを、1:1.2〜1:6の範囲の固体画分:液体画分の重量:重量比で一緒に混合して、液体、半液体またはペースト状のセメント混合物である混合物を形成する工程と、
該得られた混合物を治癒すべき骨の部位に施用する工程と、
を含む、前記方法。
[請求項21]
該施用工程を注入により行う、請求項20に記載の方法。
[請求項22]
該施用工程を、へらなどにより骨の表面に施用することにより行う、請求項20に記載の方法。
[請求項23]
該固体画分:液体画分の重量:重量比が、約1:1.3〜約1:4の範囲である、請求項20に記載の方法。
図1
図2
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図5
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図11