特許第6232061号(P6232061)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋ゴム工業株式会社の特許一覧

特許6232061酸性ガス含有ガス処理用分離膜、及び酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232061
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】酸性ガス含有ガス処理用分離膜、及び酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/70 20060101AFI20171106BHJP
   B01D 71/82 20060101ALI20171106BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20171106BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20171106BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20171106BHJP
   C08J 7/16 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   B01D71/70 500
   B01D71/82
   B01D69/00
   B01D69/10
   B01D69/12
   C08J7/16CFH
【請求項の数】9
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-522609(P2015-522609)
(86)(22)【出願日】2014年3月31日
(86)【国際出願番号】JP2014059412
(87)【国際公開番号】WO2014199703
(87)【国際公開日】20141218
【審査請求日】2015年11月30日
(31)【優先権主張番号】特願2013-123448(P2013-123448)
(32)【優先日】2013年6月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 智彦
(72)【発明者】
【氏名】蔵岡 孝治
【審査官】 岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/147727(WO,A1)
【文献】 特開平04−210227(JP,A)
【文献】 特開2000−157853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 71/70
B01D 69/00
B01D 69/10
B01D 69/12
B01D 71/82
C08J 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に残留未反応基が存在する炭化水素基が導入されたポリシロキサン網目構造体に、炭化水素基含有モノアルコキシシラン、炭化水素基含有ジアルコキシシラン、炭化水素基含有モノクロロシラン、炭化水素基含有ジクロロシラン、及び炭化水素基含有トリクロロシランからなる群から選択される少なくとも一種の変性用シラン化合物を反応させ、前記残留未反応基を消滅又は低減させた酸性ガス含有ガス処理用分離膜であって、
前記酸性ガス含有ガスとして、二酸化炭素及びメタンガスを含有する混合ガスを処理対象とするものであり、
前記炭化水素基が導入された前記ポリシロキサン網目構造体は、テトラアルコキシシランと、前記炭化水素基を含有する炭化水素基含有トリアルコキシシランとの反応物である複合ポリシロキサン網目構造体であり、
前記テトラアルコキシシラン及び前記炭化水素基を含有する炭化水素基含有トリアルコキシシランの合計量に対する前記変性用シラン化合物の反応量が、モル比で1〜2倍に設定されている、前記混合ガスから二酸化炭素又はメタンガスを分離する酸性ガス含有ガス処理用分離膜。
【請求項2】
前記テトラアルコキシシランは、テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシラン(これを、Aとする)であり、
前記炭化水素基含有トリアルコキシシランは、トリメトキシシラン又はトリエトキシシランのSi原子に炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したもの(これを、Bとする)である請求項1に記載の酸性ガス含有ガス処理用分離膜。
【請求項3】
前記Aと前記Bとの配合比率(A/B)が、モル比で1/9〜9/1に設定されている請求項2に記載の酸性ガス含有ガス処理用分離膜。
【請求項4】
前記炭化水素基含有モノアルコキシシランは、モノメトキシシラン又はモノエトキシシランのSi原子に、同一又は異なる炭化水素基として、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したものであり、
前記炭化水素基含有ジアルコキシシランは、ジメトキシシラン又はジエトキシシランのSi原子に、同一又は異なる炭化水素基として、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したものである請求項1〜3の何れか一項に記載の酸性ガス含有ガス処理用分離膜。
【請求項5】
前記炭化水素基含有モノクロロシランは、モノクロロシランのSi原子に、同一又は異なる炭化水素基として、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したものであり、
前記炭化水素基含有ジクロロシランは、ジクロロシランのSi原子に、同一又は異なる炭化水素基として、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したものであり、
前記炭化水素基含有トリクロロシランは、トリクロロシランのSi原子に、炭化水素基として、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したものである請求項1〜4の何れか一項に記載の酸性ガス含有ガス処理用分離膜。
【請求項6】
二酸化炭素及びメタンガスを含有する混合ガスを処理対象とし、前記混合ガスから二酸化炭素又はメタンガスを分離する酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法であって、
(a)酸触媒、水、及び有機溶媒を混合した準備液、並びに、酸触媒、有機溶媒、並びに炭化水素基含有モノアルコキシシラン、炭化水素基含有ジアルコキシシラン、炭化水素基含有モノクロロシラン、炭化水素基含有ジクロロシラン、及び炭化水素基含有トリクロロシランからなる群から選択される少なくとも一種の変性用シラン化合物を混合した処理液を調製する準備工程と、
(b)前記準備液にテトラアルコキシシランを混合する第一混合工程と、
(c)前記第一混合工程で得られた混合液に炭化水素基含有トリアルコキシシランを混合する第二混合工程と、
(d)前記第二混合工程で得られた混合液を無機多孔質支持体に塗布する第一塗布工程と、
(e)前記第一塗布工程が完了した無機多孔質支持体を熱処理し、当該無機多孔質支持体の表面に、炭化水素基が導入されたポリシロキサン網目構造体を形成する形成工程と、
(f)前記ポリシロキサン網目構造体の表面に前記処理液を塗布する第二塗布工程と、
(g)前記第二塗布工程が完了したポリシロキサン網目構造体を熱処理し、前記ポリシロキサン網目構造体の表面に存在する残留未反応基と前記処理液に含まれる前記変性用シラン化合物とを反応させ、前記残留未反応基を消滅又は低減させる反応工程と、
を包含し、
前記反応工程において、前記テトラアルコキシシラン及び前記炭化水素基を含有する炭化水素基含有トリアルコキシシランの合計量に対して、前記変性用シラン化合物が、モル比で1〜2倍反応するように、前記準備工程、前記第一混合工程、及び前記第二混合工程が行われる酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法。
【請求項7】
前記準備工程において、前記準備液に酸性ガスと親和性を有する金属塩を添加する請求項6に記載の酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法。
【請求項8】
前記第一混合工程において、前記テトラアルコキシシランは、テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシラン(これを、Aとする)であり、
前記第二混合工程において、前記炭化水素基含有トリアルコキシシランは、トリメトキシシラン又はトリエトキシシランのSi原子に炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したもの(これを、Bとする)である請求項6又は7に記載の酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法。
【請求項9】
前記Aと前記Bとの配合比率(A/B)が、モル比で1/9〜9/1に設定されている請求項8に記載の酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、生ごみ等を生物学的処理することによって得られる酸性ガス及びメタンガスを含有する消化ガスを有効利用するためのものであり、特に、消化ガスに含まれる酸性ガス又はメタンガスを分離する酸性ガス含有ガス処理用分離膜、及び酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生ごみ等を生物学的処理すると、酸性ガス(二酸化炭素、硫化水素等)と可燃性ガス(メタンガス等)とが混合した消化ガスが発生する。この消化ガスは、そのままの状態でも燃焼可能であるため、例えば、火力発電等の燃料に使用できるが、最近ではエネルギーの有効利用の観点から、消化ガスから可燃成分であるメタンガスを取り出し、これを都市ガスの原料としたり、燃料電池に使用する水素の原料に利用されている。
【0003】
従来、消化ガス等の混合ガスからメタンガスを分離する技術として、分離膜を二段に配置し、各段の分離膜に混合ガスを通過させることにより、混合ガス中のメタンガス以外のガスを段階的に分離してメタンガスの濃度を高めるメタン濃縮装置があった(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1のメタン濃縮装置は、混合ガスからメタンガスより分子径の小さい気体Aを分離するものであるが、分離膜として、気体Aとメタンとの透過速度比A/メタンが5以上且つ気体Aの透過率が1×10−9(mol・m−2・s−1・Pa−1)以上の特性を有する無機多孔質膜を使用している。このような分離膜を使用することで、メタン濃度が高いガスを高収率で回収できるとされている。
【0004】
混合ガスから高濃度のメタンガスを得るにあたっては、混合ガスから二酸化炭素を分離すれば、混合ガス中のメタンガスの濃度が相対的に高まることになるため、結果として高濃度のメタンガスを得ることが可能となる。混合ガスから二酸化炭素を分離する技術として、環状のシロキサン結合によって形成された複数の細孔を有する非晶質酸化物からなる分離膜において、Siの側鎖に塩基性を有する窒素(N)とシリコン(Si)とを含有する官能基を結合させたものを使用したガス分離フィルタがあった(例えば、特許文献2を参照)。特許文献2のガス分離フィルタによれば、二酸化炭素等の酸性ガスが狭い細孔内を効率よく通過するため、分離性能を高めることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−260739号公報
【特許文献2】特開2000−279773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
分離膜を使用して混合ガス中のメタンガスを濃縮するためには、混合ガスに含まれる二酸化炭素を効率よく透過させることが可能な分離膜を開発する必要がある。この点、特許文献1のメタン濃縮装置は、メタンガスより分子径の小さい気体Aを分離する分離膜を使用しており、気体Aには二酸化炭素も含まれる。そして、同文献の実施例によれば、二酸化炭素とメタンとの透過速度比CO/CHとして、3.3〜20の値が示されている。しかしながら、この程度の透過速度比ではメタンガスのロスが大きく、特許文献1のように分離膜を二段に構成し、さらに非透過ガスを再循環させる等の複雑な装置構成としなければ、実用レベルでメタンガスの濃縮を十分に行うことは困難であった。また、特許文献1のようにケイ素アルコキシドのゾル−ゲル反応を利用して分離膜を形成するものにあっては、分離膜表面にアルコキシ基が残留することがある。残留アルコキシ基が存在する分離膜を用いてガスの分離を行うと、ガスと残留アルコキシ基とが反応して分離膜の分子構造が変化し、気体分離性能に悪影響を及ぼすことがある。
【0007】
特許文献2のガス分離フィルタは、分離膜の表面に塩基性を有する窒素(N)とシリコン(Si)とを含有する官能基を導入することにより、二酸化炭素の分離性能を高めようとするものである。十分な二酸化炭素の分離性能を発揮させるためには、分離膜の表面に十分な数の官能基を導入しつつ、均一な膜を形成することが重要となる。しかしながら、特許文献2の分離膜は、原材料の分子構造(反応サイトの数)によって導入可能な官能基の数が決まるものであり、分離膜自体の改良のみで二酸化炭素の分離性能を向上させることには限界がある。また、分離膜に導入される官能基の数が多くなると、その分子構造中に立体障害が生じ易くなり、均一な膜形成に悪影響を及ぼす虞がある。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、二酸化炭素等の酸性ガスとメタンガスとを含有する消化ガスから酸性ガス又はメタンガスを分離し、高濃度のメタンガスを得ることが可能な酸性ガス含有ガス処理用分離膜、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜の特徴構成は、
表面に残留未反応基が存在する炭化水素基が導入されたポリシロキサン網目構造体に、炭化水素基含有モノアルコキシシラン、炭化水素基含有ジアルコキシシラン、炭化水素基含有モノクロロシラン、炭化水素基含有ジクロロシラン、及び炭化水素基含有トリクロロシランからなる群から選択される少なくとも一種の変性用シラン化合物を反応させ、前記残留未反応基を消滅又は低減させたことにある。
【0010】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜によれば、ポリシロキサン網目構造体の表面に存在する残留未反応基が、炭化水素基含有モノアルコキシシラン、炭化水素基含有ジアルコキシシラン、炭化水素基含有モノクロロシラン、炭化水素基含有ジクロロシラン、及び炭化水素基含有トリクロロシランからなる群から選択される少なくとも一種の変性用シラン化合物と反応し(脱アルコール)、シロキサン結合が形成されるため、分離膜の分子構造を変化させる要因となる残留未反応基を消滅又は低減させることができる。このため、反応後に生成した分離膜は、ポリシロキサン網目構造が安定し、気体分離性能を長期に亘って維持することが可能となる。ポリシロキサン網目構造体が有する炭化水素基は元来二酸化炭素やメタンガスとの親和性を有しており、反応させる変性用シラン化合物も炭化水素基を含有しているため、生成した分離膜は炭化水素基の含有量が多いものとなり、二酸化炭素やメタンガスとの親和性が相乗的に高まる。本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜に、二酸化炭素等の酸性ガスとメタンガスとを含有する消化ガスを通過させると、消化ガス中の二酸化炭素が選択的にポリシロキサン網目構造体の表面に誘引され、そのまま分離膜を透過することになる。その結果、消化ガス中のメタンガス成分が濃縮され、高濃度のメタンガスを効率的に得ることができる。
【0011】
本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜において、
前記炭化水素基が導入された前記ポリシロキサン網目構造体は、テトラアルコキシシランと、前記炭化水素基を含有する炭化水素基含有トリアルコキシシランとの反応によって得られる複合ポリシロキサン網目構造体であることが好ましい。
【0012】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜によれば、テトラアルコキシシランと、炭化水素基を含有する炭化水素基含有トリアルコキシシランとを原料としており、これらを反応させて複合ポリシロキサン網目構造体を形成している。この複合ポリシロキサン網目構造体は、テトラアルコキシシラン由来の安定した構造と、炭化水素基含有トリアルコキシシラン由来の高い二酸化炭素親和性とを併せ持った特性を有している。従って、この複合ポリシロキサン網目構造体を酸性ガス含有ガス処理用分離膜に利用すれば、消化ガス中のメタンガス成分の濃縮を効率的に行うことが可能となる。
【0013】
本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜において、
前記テトラアルコキシシランは、テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシラン(これを、Aとする)であり、
前記炭化水素基含有トリアルコキシシランは、トリメトキシシラン又はトリエトキシシランのSi原子に炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したもの(これを、Bとする)であることが好ましい。
【0014】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜によれば、テトラアルコキシシラン(A)、及び炭化水素基含有トリアルコキシシラン(B)として上記の有意な組み合わせを選択しているため、安定した構造と高い二酸化炭素親和性とを併せ持った複合ポリシロキサン網目構造体を効率よく得ることができる。この複合ポリシロキサン網目構造体を用いた酸性ガス含有ガス処理用分離膜は、二酸化炭素又はメタンガスの分離性能に優れたものとして利用され得る。
【0015】
本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜において、
前記Aと前記Bとの配合比率(A/B)が、モル比で1/9〜9/1に設定されていることが好ましい。
【0016】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜によれば、テトラアルコキシシラン(A)と炭化水素基含有トリアルコキシシラン(B)とが適切な配合比率であるモル比1/9〜9/1に設定されているので、酸性ガス又はメタンガスを効率よく分離することが可能な酸性ガス含有ガス処理用分離膜を得ることができる。
【0017】
本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜において、
前記炭化水素基含有モノアルコキシシランは、モノメトキシシラン又はモノエトキシシランのSi原子に、同一又は異なる炭化水素基として、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したものであり、
前記炭化水素基含有ジアルコキシシランは、ジメトキシシラン又はジエトキシシランのSi原子に、同一又は異なる炭化水素基として、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したものであることが好ましい。
【0018】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜によれば、炭化水素基含有モノアルコキシシラン及び炭化水素基含有ジアルコキシシランとして上記の有意なものを選択しているため、ポリシロキサン網目構造体の表面に存在する残留未反応基との反応性に優れ、残留未反応基を確実に消滅させることができる。その結果、安定した構造と高い二酸化炭素親和性とを併せ持った複合ポリシロキサン網目構造体を効率よく得ることができる。この複合ポリシロキサン網目構造体を用いた酸性ガス含有ガス処理用分離膜は、二酸化炭素又はメタンガスの分離性能に優れたものとして利用され得る。
【0019】
本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜において、
前記炭化水素基含有モノクロロシランは、モノクロロシランのSi原子に、同一又は異なる炭化水素基として、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したものであり、
前記炭化水素基含有ジクロロシランは、ジクロロシランのSi原子に、同一又は異なる炭化水素基として、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したものであり、
前記炭化水素基含有トリクロロシランは、トリクロロシランのSi原子に、炭化水素基として、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したものであることが好ましい。
【0020】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜によれば、炭化水素基含有モノクロロシラン、炭化水素基含有ジクロロシラン、及び炭化水素基含有トリクロロシランとして上記の有意なものを選択しているため、ポリシロキサン網目構造体の表面に存在する残留未反応基との反応性に優れ、残留未反応基を確実に消滅させることができる。その結果、安定した構造と高い二酸化炭素親和性とを併せ持った複合ポリシロキサン網目構造体を効率よく得ることができる。この複合ポリシロキサン網目構造体を用いた酸性ガス含有ガス処理用分離膜は、二酸化炭素又はメタンガスの分離性能に優れたものとして利用され得る。
【0021】
上記課題を解決するための本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法の特徴構成は、
(a)酸触媒、水、及び有機溶媒を混合した準備液、並びに、酸触媒、有機溶媒、並びに炭化水素基含有モノアルコキシシラン、炭化水素基含有ジアルコキシシラン、炭化水素基含有モノクロロシラン、炭化水素基含有ジクロロシラン、及び炭化水素基含有トリクロロシランからなる群から選択される少なくとも一種の変性用シラン化合物を混合した処理液を調製する準備工程と、
(b)前記準備液にテトラアルコキシシランを混合する第一混合工程と、
(c)前記第一混合工程で得られた混合液に炭化水素基含有トリアルコキシシランを混合する第二混合工程と、
(d)前記第二混合工程で得られた混合液を無機多孔質支持体に塗布する第一塗布工程と、
(e)前記第一塗布工程が完了した無機多孔質支持体を熱処理し、当該無機多孔質支持体の表面に、炭化水素基が導入されたポリシロキサン網目構造体を形成する形成工程と、
(f)前記ポリシロキサン網目構造体の表面に前記処理液を塗布する第二塗布工程と、
(g)前記第二塗布工程が完了したポリシロキサン網目構造体を熱処理し、前記ポリシロキサン網目構造体の表面に存在する残留未反応基と前記処理液に含まれる前記変性用シラン化合物とを反応させ、前記残留未反応基を消滅又は低減させる反応工程と、
を包含することにある。
【0022】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法によれば、ポリシロキサン網目構造体の表面に存在する残留未反応基が、炭化水素基含有モノアルコキシシラン、炭化水素基含有ジアルコキシシラン、炭化水素基含有モノクロロシラン、炭化水素基含有ジクロロシラン、及び炭化水素基含有トリクロロシランからなる群から選択される少なくとも一種の変性用シラン化合物と反応し(脱アルコール)、シロキサン結合が形成されるため、分離膜の分子構造を変化させる要因となる残留未反応基を消滅又は低減させることができる。このため、反応後に生成した分離膜は、ポリシロキサン網目構造が安定し、気体分離性能を長期に亘って維持することが可能となる。ポリシロキサン網目構造体が有する炭化水素基は元来二酸化炭素やメタンガスとの親和性を有しており、反応させる変性用シラン化合物も炭化水素基を含有しているため、生成した分離膜は炭化水素基の含有量が多いものとなり、二酸化炭素やメタンガスとの親和性が相乗的に高まる。
また、炭化水素基が導入されたポリシロキサン網目構造体を形成するに際し、原料となるケイ素アルコキシドとしてテトラアルコキシシランと炭化水素基含有トリアルコキシシランとを使用し、第一混合工程においてテトラアルコキシシランのゾル−ゲル反応を進行させ、第二混合工程において炭化水素基含有トリアルコキシシランのゾル−ゲル反応を進行させる二段階方式としているので、アルコキシシラン溶液の加水分解が急激に進行することが防止される。その結果、二酸化炭素又はメタンガスの分離性能に優れた均一且つ緻密な酸性ガス含有ガス処理用分離膜を形成することが可能となる。
【0023】
本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法において、
前記準備工程において、前記準備液に酸性ガスと親和性を有する金属塩を添加することが好ましい。
【0024】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法によれば、ポリシロキサン網目構造体が有する炭化水素基は元来二酸化炭素やメタンガスとの親和性を有しているため、準備工程において、準備液に酸性ガスと親和性を有する金属塩を添加しておくと、ポリシロキサン網目構造体に酸性ガス(二酸化炭素も含む)と親和性を有する金属塩がドープされ、分離膜の二酸化炭素に対する親和性を相乗的に高めることができる。生成した分離膜に、二酸化炭素等の酸性ガスとメタンガスとを含有する消化ガスを通過させると、消化ガス中の二酸化炭素が選択的にポリシロキサン網目構造体の表面に誘引され、そのまま分離膜を透過することになる。その結果、消化ガス中のメタンガス成分が濃縮され、高濃度のメタンガスを効率的に得ることができる。
【0025】
本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法において、
前記第一混合工程において、前記テトラアルコキシシランは、テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシラン(これを、Aとする)であり、
前記第二混合工程において、前記炭化水素基含有トリアルコキシシランは、トリメトキシシラン又はトリエトキシシランのSi原子に炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したもの(これを、Bとする)であることが好ましい。
【0026】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法によれば、テトラアルコキシシラン(A)、及び炭化水素基含有トリアルコキシシラン(B)として上記の有意な組み合わせを選択しているため、安定した構造と高い二酸化炭素親和性とを併せ持った複合ポリシロキサン網目構造体を効率よく得ることができる。この複合ポリシロキサン網目構造体を用いた酸性ガス含有ガス処理用分離膜は、二酸化炭素又はメタンガスの分離性能に優れたものとして利用され得る。
【0027】
本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法において、
前記Aと前記Bとの配合比率(A/B)が、モル比で1/9〜9/1に設定されていることが好ましい。
【0028】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法によれば、テトラアルコキシシラン(A)と炭化水素基含有トリアルコキシシラン(B)とが適切な配合比率であるモル比1/9〜9/1に設定されているので、酸性ガス又はメタンガスを効率よく分離することが可能な酸性ガス含有ガス処理用分離膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜、及び酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法に関する実施形態について説明する。ただし、本発明は、以下に説明する構成に限定されることを意図しない。
【0030】
<酸性ガス含有ガス処理用分離膜>
本発明の酸性ガス含有ガス処理用分離膜は、例えば、生ごみ等を生物学的処理することによって得られる消化ガスを処理するためのものである。消化ガスは、酸性ガス(二酸化炭素を主成分とし、その他に硫化水素等を含む)とメタンガスとを含有する混合ガスであるが、本明細書では、消化ガスを二酸化炭素とメタンガスとを含有する混合ガスとして取り扱う。従って、以後の説明では、酸性ガスとして二酸化炭素を例に挙げて説明し、酸性ガス含有ガス処理用分離膜については、便宜上、二酸化炭素を選択的に誘引する二酸化炭素分離膜として説明する。ただし、本発明の酸性ガス含有ガス処理用分離膜は、メタンガスを選択的に誘引するメタンガス分離膜として構成することも可能であり、さらには、二酸化炭素とメタンガスとを同時に分離可能な二酸化炭素/メタンガス分離膜とすることも可能である。以後、酸性ガス含有ガス処理用分離膜を、単純に「分離膜」と称する場合がある。
【0031】
酸性ガス含有ガス処理用分離膜は、炭化水素基が導入されたポリシロキサン網目構造体と、炭化水素基を含有する変性用シラン化合物とを反応させることにより構成される。変性用シラン化合物は、例えば、炭化水素基含有モノアルコキシシラン、炭化水素基含有ジアルコキシシラン、炭化水素基含有モノクロロシラン、炭化水素基含有ジクロロシラン、及び炭化水素基含有トリクロロシランからなる群から選択される少なくとも一種が使用される。また、ポリシロキサン網目構造体が有する炭化水素基と変性用シラン化合物が有する炭化水素基とは、同じものであっても、異なるものであっても構わない。炭化水素基が導入されたポリシロキサン網目構造体は、テトラアルコキシシランと、炭化水素基を含有する炭化水素基含有トリアルコキシシランとの反応によって得られる。
【0032】
テトラアルコキシシランは、下記の式(1)で表される四官能性アルコキシシランである。
【0033】
【化1】
【0034】
好ましいテトラアルコキシシランは、式(1)において、R〜Rが同一のメチル基であるテトラメトキシシラン(TMOS)又は同一のエチル基であるテトラエトキシシラン(TEOS)である。
【0035】
炭化水素基を含有する炭化水素基含有トリアルコキシシランは、下記の式(2)で表される三官能性アルコキシシランである。
【0036】
【化2】
【0037】
好ましい炭化水素基含有トリアルコキシシランは、式(2)において、R〜Rが同一のメチル基であるトリメトキシシラン又は同一のエチル基であるトリエトキシシランのSi原子に炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したものである。例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランが挙げられる。
【0038】
式(1)の四官能性アルコキシシランと、式(2)の三官能性アルコキシシランを反応させると、例えば、下記の式(3)で表される複合ポリシロキサン網目構造体が得られる。
【0039】
【化3】
【0040】
式(3)の複合ポリシロキサン網目構造体は、ポリシロキサンネットワーク構造中に炭化水素基Rが存在しており、ある種の有機−無機複合体を形成している。
【0041】
ここで、本発明者らは、式(2)の三官能性アルコキシシランの特性について検討を行ったところ、メチルトリメトキシシラン又はメチルトリエトキシシラン(炭化水素基の炭素数が1のもの)は主に二酸化炭素に対して親和性を有し、トリメトキシシラン又はトリエトキシシランのSi原子に炭素数2〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したもの(炭化水素基の炭素数が2〜6のもの)は主にメタンガスに対して親和性を有することを突き止めた。そして、式(1)の四官能性アルコキシシランと、式(2)の三官能性アルコキシシランとの反応から、式(3)の複合ポリシロキサン網目構造体を合成するにあたり、四官能性アルコキシシラン(これをAとする)と、三官能性アルコキシシラン(これをBとする)とを最適な配合比率に設定しておくことが、二酸化炭素又はメタンガスの分離性能に優れた分離膜を形成するために重要となることを見出した。本発明者らが見出した適切な配合比率はA/Bがモル比で1/9〜9/1であり、好ましい配合比率はA/Bがモル比で3/7〜7/3であり、より好ましい配合比率はA/Bがモル比で4/6〜6/4である。このような配合比率とすれば、安定した構造と高い二酸化炭素親和性とを併せ持った複合ポリシロキサン網目構造体を効率よく得ることができる。なお、Bとして使用する三官能性アルコキシシランについて、二酸化炭素に対する親和性を高める場合は、三官能性アルコキシシラン中に含まれるメチルトリメトキシシラン又はメチルトリエトキシシランの含有量を多くし、メタンガスに対する親和性を高める場合は、三官能性アルコキシシラン中に含まれるトリメトキシシラン又はトリエトキシシランのSi原子に炭素数2〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したものの含有量を多くする。
【0042】
ところで、上記式(3)の複合ポリシロキサン網目構造体は、表面にアルコキシ基や水酸基が残留することがある(これらを、「未反応残留基」とする)。例えば、下記の式(3´)で表されるポリシロキサン網目構造体が生成し得る。
【0043】
【化4】
【0044】
式(3´)のポリシロキサン網目構造体は、原料であるテトラアルコキシシラン又は炭化水素基含有トリアルコキシシランが完全に反応しなかったため、一部のアルコキシ基が未反応残留基として存在している。また、アルコキシ基に対する加水分解反応が十分に進行せず、水酸基の状態で存在している未反応残留基もある。ポリシロキサン網目構造体の表面に未反応残留基が存在すると、ポリシロキサン網目構造が変化し、気体分離性能に悪影響を及ぼすことがある。そこで、本発明では、未反応残留基を消滅又は低減させるため、ポリシロキサン網目構造体に、上述の炭化水素基を含有する変性用シラン化合物を反応させている。
【0045】
変性用シラン化合物の一つである炭化水素基含有モノアルコキシシランは、モノメトキシシラン又はモノエトキシシランのSi原子に、同一又は異なる炭化水素基として、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したものであり、下記の式(4)で表される。
【0046】
【化5】
【0047】
変性用シラン化合物の一つである炭化水素基含有ジアルコキシシランは、ジメトキシシラン又はジエトキシシランのSi原子に、同一又は異なる炭化水素基として、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したものであり、下記の式(5)で表される。
【0048】
【化6】
【0049】
炭化水素基含有モノアルコキシシランとしては、トリメチルメトキシシランが好ましい。炭化水素基含有ジアルコキシシランとしては、ジメチルジエトキシシランが好ましい。トリメチルメトキシシラン及びジメチルジエトキシシランは、ポリシロキサン網目構造体の表面の残留未反応基と反応すると、それ以上の反応は進行せず、残留未反応基が消滅又は低減した状態で安定化する。
【0050】
変性用シラン化合物の一つである炭化水素基含有モノクロロシランは、モノクロロシランのSi原子に、同一又は異なる炭化水素基として、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したものであり、下記の式(6)で表される。
【0051】
【化7】
【0052】
変性用シラン化合物の一つである炭化水素基含有ジクロロシランは、ジクロロシランのSi原子に、同一又は異なる炭化水素基として、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したものであり、下記の式(7)で表される。
【0053】
【化8】
【0054】
変性用シラン化合物の一つである炭化水素基含有トリクロロシランは、トリクロロシランのSi原子に、炭化水素基として、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したものであり、下記の式(8)で表される。
【0055】
【化9】
【0056】
炭化水素基含有モノクロロシランとしては、トリメチルクロロシランが好ましい。炭化水素基含有ジクロロシランとしては、ジメチルジクロロシランが好ましい。炭化水素基含有トリクロロシランとしては、メチルトリクロロシランが好ましい。トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、及びメチルトリクロロシランは、ポリシロキサン網目構造体の表面の残留未反応基と反応すると、それ以上の反応は進行せず、残留未反応基が消滅又は低減した状態で安定化する。なお、炭化水素基含有モノクロロシラン、炭化水素基含有ジクロロシラン、及び炭化水素基含有トリクロロシランは、残留未反応基のうち主に水酸基と反応し、シラノール結合を生成する。
【0057】
一例として、残留未反応基が存在する式(3´)のポリシロキサン網目構造体について、式(4)の炭化水素基含有モノアルコキシシラン、及び式(5)の炭化水素基含有ジアルコキシシランを用いて変性処理を行い、ポリシロキサン網目構造体の表面の残留未反応基を消滅させたものを下記の式(9)に示す。
【0058】
【化10】
【0059】
残留未反応基を消滅又は低減させるために使用する変性用シラン化合物は、炭化水素基を含有しているため、生成した分離膜は炭化水素基の含有量が多いものとなり、ポリシロキサン網目構造体が有する炭化水素基との相乗効果により、二酸化炭素やメタンガスとの親和性が相乗的に高くなる。その結果、安定した構造と高い二酸化炭素親和性とを併せ持った複合ポリシロキサン網目構造体を効率よく得ることができる。この複合ポリシロキサン網目構造体を用いた酸性ガス含有ガス処理用分離膜は、二酸化炭素又はメタンガスの分離性能に優れたものとして利用され得る。
【0060】
<酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法>
本発明の酸性ガス含有ガス処理用分離膜は、以下の工程(a)〜(g)を実施することにより製造される。以下、各工程について詳細に説明する。
【0061】
(a)準備工程
準備工程として、酸触媒、水、及び有機溶媒を混合した準備液を調製する。準備液は、次工程の「第一混合工程」において使用されるものである。酸触媒、水、及び有機溶媒の夫々の配合量は、後述の変性用シラン化合物1モルに対して、酸触媒0.005〜0.1モル、水0.5〜10モル、有機溶媒5〜60モルに調整することが好ましい。酸触媒の配合量が0.005モルより少ない場合、加水分解速度が小さくなり、分離膜の製造に要する時間が長くなる。酸触媒の配合量が0.1モルより多い場合、加水分解速度が過大となり、均一な分離膜が得られ難くなる。水の配合量が0.5モルより少ない場合、加水分解速度が小さくなり、後述のゾル−ゲル反応が十分に進行しない。水の配合量が10モルより多い場合、加水分解速度が過大となり、細孔径が肥大化するため緻密な分離膜が得られ難くなる。有機溶媒の配合量が5モルより少ない場合、後述のテトラアルコキシシラン及び炭化水素基含有トリアルコキシシランを含む混合液の濃度が高くなり、緻密で均一な分離膜が得られ難くなる。有機溶媒の配合量が60モルより多い場合、後述のテトラアルコキシシラン及び炭化水素基含有トリアルコキシシランを含む混合液の濃度が低くなり、混合液のコーティング回数(工程数)が増加して生産効率が低下する。酸触媒としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸等が使用される。これらのうち、硝酸又は塩酸が好ましい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンゼン、トルエン等が使用される。これらのうち、メタノール又はエタノールが好ましい。
上記準備液には、酸性ガスと親和性を有する金属塩を添加しておくことも有効である。ポリシロキサン網目構造体が有する炭化水素基は元来二酸化炭素やメタンガスとの親和性を有しているため、準備工程において、準備液に酸性ガスと親和性を有する金属塩を添加しておくと、ポリシロキサン網目構造体に酸性ガス(二酸化炭素も含む)と親和性を有する金属塩がドープされ、分離膜の二酸化炭素に対する親和性を相乗的に高めることができる。酸性ガスと親和性を有する金属塩としては、例えば、Li、Na、K、Mg、Ca、Ni、Fe、及びAlからなる群から選択される少なくとも一種の金属の酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩、又はリン酸塩が挙げられる。これらのうち、硝酸塩(例えば、硝酸マグネシウム)が好ましい。
準備工程では、さらに、酸触媒、有機溶媒、及び変性用シラン化合物を混合した処理液を調製する。処理液は、後述の「第二塗布工程」において使用されるものである。酸触媒、有機溶媒、及び変性用シラン化合物の夫々の配合量は、酸触媒0.001〜0.1モル、有機溶媒0.1〜10モル、変性用シラン化合物0.1〜5モルに調整することが好ましい。酸触媒の配合量が0.001モルより少ない場合、加水分解速度が小さくなり、分離膜の製造に要する時間が長くなる。酸触媒の配合量が0.1モルより多い場合、加水分解速度が過大となり、均一な分離膜が得られ難くなる。有機溶媒の配合量が0.1モルより少ない場合、後述のテトラアルコキシシラン及び炭化水素基含有トリアルコキシシランを含む混合液の濃度が高くなり、緻密で均一な分離膜が得られ難くなる。有機溶媒の配合量が10モルより多い場合、後述のテトラアルコキシシラン及び炭化水素基含有トリアルコキシシランを含む混合液の濃度が低くなり、混合液のコーティング回数(工程数)が増加して生産効率が低下する。変性用シラン化合物の配合量が0.1モルより少ない場合、残留未反応基を消滅させることが困難となる。変性用シラン化合物の配合量が5モルより多い場合、過剰の変性用シラン化合物が供給されることとなるため、却って残留未反応基との反応が起こり難くなる可能性がある。酸触媒及び有機溶媒は、準備液と同様のものを使用することができるが、処理液を調製するために使用する有機溶媒はトルエンが好ましい。後述の「第二塗布工程」では、炭化水素基が導入されたポリシロキサン網目構造体の上に処理液を塗布することになるが、ポリシロキサン網目構造体はトルエンに対する溶解性が小さいため、トルエンを使用すると、変性処理によって分離膜の細孔径が拡大することが防止される。変性用シラン化合物としては、上述の「酸性ガス含有ガス処理用分離膜」の項目で説明したものを使用することができる。
【0062】
(b)第一混合工程
第一混合工程として、準備工程で調製した準備液にテトラアルコキシシランを混合する。このとき、混合液中において、テトラアルコキシシランが加水分解及び重縮合を繰り返すゾル−ゲル反応が開始する。テトラアルコキシシランは、上述の「酸性ガス含有ガス処理用分離膜」の項目で説明したものを使用することができる。例えば、テトラアルコキシシランの一例としてテトラエトキシシラン(TEOS)を使用した場合、ゾル−ゲル反応は下記のスキーム1のように進行すると考えられる。なお、このスキーム1は、ゾル−ゲル反応の進行を表す一つのモデルであり、実際の分子構造をそのまま反映しているとは限らない。
【0063】
【化11】
【0064】
スキーム1によれば、初めに、テトラエトキシシランの一部のエトキシ基が加水分解され、脱アルコール化することによりシラノール基が生成する。また、テトラエトキシシランの一部のエトキシ基は加水分解されず、そのまま残存し得る。次いで、一部のシラノール基が近傍のシラノール基と会合し、脱水することにより重縮合する。その結果、シラノール基又はエトキシ基が残存したシロキサン骨格が形成される。上記の加水分解反応、及び脱水・重縮合反応は混合液系内で略均等に進行するため、シラノール基又はエトキシ基はシロキサン骨格中に略均等に分散した状態で存在する。この段階では、シロキサンの分子量はそれほど大きいものではなく、ポリマーよりもむしろオリゴマーの状態にある。従って、シラノール基又はエトキシ基含有シロキサンオリゴマーは、有機溶媒を含む混合液に溶解した状態にある。
【0065】
(c)第二混合工程
第二混合工程として、第一混合工程で得られたシロキサンオリゴマーを含む混合液に炭化水素基含有トリアルコキシシランを混合する。これにより、シロキサンオリゴマーと炭化水素基含有トリアルコキシシランとの反応が開始する。本発明は、原料となるケイ素アルコキシドとしてテトラアルコキシシランと炭化水素基含有トリアルコキシシランとを使用し、第一混合工程においてテトラアルコキシシランのゾル−ゲル反応を進行させ、第二混合工程において炭化水素基含有トリアルコキシシランのゾル−ゲル反応を進行させる二段階方式としている。このため、アルコキシシラン溶液の加水分解が急激に進行することが防止される。その結果、二酸化炭素又はメタンガスの分離性能に優れた均一且つ緻密な酸性ガス含有ガス処理用分離膜を形成することが可能となる。ちなみに、ゾル−ゲル反応を一段階で行う従来の方法では、炭化水素基含有トリアルコキシシランのゾル−ゲル反応が、テトラアルコキシシランのゾル−ゲル反応より速く進行してしまうため、最終的に得られる酸性ガス含有ガス処理用分離膜を均一且つ緻密な構造にすることができなくなる虞がある。
炭化水素基含有トリアルコキシシランは、上述の「酸性ガス含有ガス処理用分離膜」の項目で説明したものを使用することができる。例えば、炭化水素基含有トリアルコキシシランの一例としてメチルトリエトキシシランを使用した場合、反応は下記のスキーム2のように進行すると考えられる。なお、このスキーム2は、反応の進行を表す一つのモデルであり、実際の分子構造をそのまま反映しているとは限らない。
【0066】
【化12】
【0067】
スキーム2によれば、シロキサンオリゴマーのシラノール基又はエトキシ基と、メチルトリエトキシシランのエトキシ基とが反応し、脱アルコール化することによりポリシロキサン結合が生成する。ここで、シロキサンオリゴマーのシラノール基又はエトキシ基は、上述のようにシロキサン骨格中に略均等に分散しているため、第二混合工程によって進行するシロキサンオリゴマーのシラノール基又はエトキシ基とメチルトリエトキシシランのエトキシ基との反応(脱アルコール化)も略均等に進行すると考えられる。その結果、生成したポリシロキサン結合中にはメチルトリエトキシシラン由来のシロキサン結合が略均等に生成し、従って、メチルトリエトキシシラン由来のエチル基もポリシロキサン結合中に略均等に存在する。この段階では、ポリシロキサンの分子量はある程度大きくなっており、第二混合工程を終えた混合液は、ポリシロキサン網目構造体が液中に分散した懸濁液の状態にある。
【0068】
(d)第一塗布工程
塗布工程として、第二混合工程で得られた混合液(ポリシロキサン網目構造体の懸濁液)を無機多孔質支持体に塗布する。無機多孔質支持体の材質としては、例えば、シリカ系セラミックス、シリカ系ガラス、アルミナ系セラミックス、ステンレス、チタン、銀等が挙げられる。無機多孔質支持体の構造は、ガスが流入する流入部と、ガスが流出する流出部とが設けられたものとする。例えば、ガス流入部は無機多孔質支持体に設けられた開口部であり、ガス流出部は無機多孔質支持体の外表面である。外表面には無数の細孔が形成されているため、外表面全体からガスが流出し得る。無機多孔質体の構成例としては、内部にガス流路が設けられた円筒構造、円管構造、スパイラル構造等が挙げられる。また、無機多孔質材料で構成される中実の平板体やバルク体を用意し、その一部を刳り抜いてガス流路を形成することで、無機多孔質支持体を構成しても構わない。無機多孔質支持体の細孔径は、0.01〜100μm程度とすることが好ましい。無機多孔質体の細孔径が比較的大きい場合(例えば、0.05μm以上の場合)は、無機多孔質支持体の表面に中間層を設けておくことが好ましい。細孔径が比較的大きい無機多孔質支持体の表面に混合液を直接塗布すると、混合液が細孔内部に過剰に浸透して表面に留まらず、成膜が難しくなることがある。そこで、無機多孔質支持体の表面に中間層を設けておくことで、細孔の入口が中間層によって狭められ、混合液の塗布が容易になる。中間層の材料としては、例えば、α−アルミナ、γ−アルミナ、シリカ、シリカライト等が挙げられる。
無機多孔質支持体に混合液を塗布する方法は、例えば、ディッピング法、スプレー法、スピン法等が挙げられる。これらのうち、ディッピング法は、無機多孔質支持体の表面に混合液を均等且つ容易に塗布できるため、好ましい塗布方法である。ディッピング法の具体的な手順について説明する。
先ず、無機多孔質支持体を第二混合工程で得られた混合液に浸漬する。浸漬時間は、無機多孔質支持体の細孔に混合液が十分に浸透するように5秒〜10分とすることが好ましい。浸漬時間が5秒より短いと十分な膜厚にならず、10分を超えると膜厚が大きくなり過ぎてしまう。次いで、混合液から無機多孔質支持体を引き上げる。引き上げ速度は、0.1〜2mm/秒とすることが好ましい。引き上げ速度が0.1mm/秒より遅くなると膜厚が大きくなり過ぎてしまい、2mm/秒より速いと十分な膜厚にならない。次いで、引き上げた無機多孔質支持体を乾燥させる。乾燥条件は、15〜40℃で0.5〜3時間とすることが好ましい。乾燥時間が0.5時間未満では十分な乾燥ができず、3時間を超えても乾燥状態は殆ど変化しない。乾燥が終わると、無機多孔質支持体の表面(細孔の内面を含む)にポリシロキサン網目構造体が付着したものが得られる。なお、無機多孔質支持体の浸漬、引き上げ、乾燥の一連の手順を複数回繰り返すことにより、無機多孔質支持体へのポリシロキサン網目構造体の付着量を増加させることができる。また、一連の手順を繰り返すことで、無機多孔質支持体に混合液を均一に塗布することができるため、最終的に得られる酸性ガス含有ガス分離膜の性能を向上させることができる。
【0069】
(e)形成工程
形成工程として、第一塗布工程が完了した無機多孔質支持体を熱処理し、当該無機多孔質支持体の表面に、炭化水素基が導入されたポリシロキサン網目構造体を形成する。熱処理は、例えば、焼成器等の加熱手段が用いられる。熱処理の具体的な手順について説明する。
先ず、無機多孔質支持体を後述の焼成温度に達するまで昇温する。昇温時間は、1〜24時間が好ましい。昇温時間が1時間より短いと急激な温度変化により均一な膜が得られ難く、24時間より長いと長時間の加熱により膜が劣化する虞がある。昇温後、一定時間で焼成を行う。焼成温度は、30〜300℃が好ましく、50〜200℃がより好ましい。焼成温度が30℃より低いと十分な焼成を行えないため緻密な膜が得られず、300℃より高いと高温の加熱により膜が劣化する虞がある。焼成時間は、0.5〜6時間が好ましい。焼成時間が0.5時間より短いと十分な焼成を行えないため緻密な膜が得られず、6時間より長いと長時間の加熱により膜が劣化する虞がある。焼成が終わったら、無機多孔質支持体を室温まで冷却する。冷却時間は、5〜10時間が好ましい。冷却時間が5時間より短いと急激な温度変化により膜に亀裂や剥離が発生する虞があり、10時間より長いと膜が劣化する虞がある。冷却後の無機多孔質支持体の表面(細孔の内面を含む)には分離膜が形成される。なお、この「形成工程」の後、上述した「塗布工程」に戻り、塗布工程と形成工程とを複数回繰り返すと、無機多孔質支持体の表面に、より緻密で且つ均一な膜質の分離膜を形成することができる。
【0070】
(f)第二塗布工程
第二塗布工程として、形成工程によって得られたポリシロキサン網目構造体の表面に変性用シラン化合物を含有する処理液を塗布する。処理液の塗布方法は、第一塗布工程と同様の方法を採用することができる。
【0071】
(g)反応工程
反応工程として、第二塗布工程が完了した無機多孔質支持体(ポリシロキサン網目構造体)を熱処理し、ポリシロキサン網目構造体の表面に存在する残留未反応基と処理液に含まれる変性用シラン化合物とを反応させる。反応工程における熱処理は、形成工程と同様の条件で行うことができる。無機多孔質支持体の熱処理を行うと、残留未反応基と変性用シラン化合物との間で脱アルコール化又は塩酸の遊離が起こるため、ポリシロキサン網目構造体の表面の残留未反応基が徐々に低減し、最終的に消滅させることができる。
【0072】
以上の工程(a)〜(g)を実施することにより、本発明の酸性ガス含有ガス処理用分離膜が製造される。この分離膜は、ベースとなる無機多孔質支持体の表面及び細孔内に、特定のガス(本実施形態の場合、二酸化炭素)を誘引するサイト(メチル基)を有するガス誘引層が形成されている。ガス誘引層は、中間層を介して無機多孔質支持体の表面に形成してもよい。分離膜に二酸化炭素とメタンガスとを含む消化ガスを通過させると、ガス誘引層に二酸化炭素が選択的に誘引され、二酸化炭素は細孔をそのまま透過する。このため、消化ガス中のメタンガス成分が濃縮され、高濃度のメタンガスを効率的に得ることができる。濃縮されたメタンガスは、都市ガスの原料や、燃料電池に使用する水素の原料に利用することができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の酸性ガス含有ガス処理用分離膜に関する実施例について説明する。上述の実施形態で説明した「酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法」に従って、分離膜として5種類の二酸化炭素分離膜を作製した(実施例1〜5)。また、比較のため、実施例で使用した原料から炭化水素基含有トリアルコキシシランを除いて二酸化炭素分離膜を作製した(比較例1)。実施例1〜5、及び比較例1における原材料の配合を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
各原材料については、以下の製品又は試薬を使用した。
〔分離膜形成用アルコキシド溶液〕
・テトラエトキシシラン 信越化学工業株式会社製 信越シリコーンLS−2430
・メチルトリエトキシシラン 信越化学工業株式会社製 信越シリコーンLS−1890
・硝酸 和光純薬工業株式会社製 試薬特級(143−01326) 69.5%
・エタノール 和光純薬工業株式会社製 試薬特級(057−00456) 99.5%
・硝酸マグネシウム六水和物 ALDRICH社製 M5296−500G 98.0%
〔変性処理用溶液〕
・トリメチルメトキシシラン 信越化学工業株式会社製 信越シリコーンLS−260
・ジメチルジエトキシシラン 信越化学工業株式会社製 信越シリコーンLS−1370
・トリメチルクロロシラン 信越化学工業株式会社製 信越シリコーンLS−510
・硝酸 和光純薬工業株式会社製 試薬特級(143−01326) 69.5%
・トルエン 和光純薬工業株式会社製 試薬特級(200−01863) 99.5%
・エタノール 和光純薬工業株式会社製 試薬特級(057−00456) 99.5%
【0076】
<実施例1>
表1の配合に従って、硝酸、水、及びエタノールを混合して約30分間攪拌し、準備液を調製した。準備液にテトラエトキシシランを添加して約1時間攪拌し、次いでメチルトリエトキシシランを添加して約2.5時間攪拌し、さらに硝酸マグネシウム六水和物を添加して約2時間攪拌し、分離膜形成用アルコキシド溶液(混合液)を調製した。
また、上記分離膜形成用アルコキシド液とは別に、硝酸、及びトルエンを混合して約2時間攪拌し、次いで変性用シラン化合物としてトリメチルメトキシシランを添加して約2時間攪拌し、変性処理用溶液(処理液)を調製した。
次に、無機多孔質支持体としてアルミナ系セラミックスの管状体を準備し、その表面に分離膜形成用アルコキシド溶液をディッピング法によって塗布した。ディッピング法の引き上げ速度は1mm/sとし、引き上げ後は室温で1時間乾燥させた。分離膜形成用アルコキシド溶液の塗布及び乾燥を2回繰り返した後、焼成器で熱処理を行った。熱処理条件は、室温(25℃)から150℃まで5時間かけて加熱し、150℃で2時間保持し、25℃まで5時間かけて冷却した。この熱処理を5回繰り返し、アルミナ系セラミックスの管状体の表面にポリシロキサン網目構造体からなる分離膜を形成した。
次に、分離膜を形成したアルミナ系セラミックスの管状体の表面に変性処理用溶液を塗布し、室温で1時間乾燥させた。変性処理用溶液の塗布及び乾燥を2回繰り返した後、焼成器で熱処理し、ポリシロキサン網目構造体の変性を行った。熱処理条件は、上記の分離膜形成用アルコキシド溶液の塗布及び乾燥後の熱処理条件と同様とした。この変性処理により、ポリシロキサン網目構造体の表面に存在する残留未反応基と変性処理用溶液に含まれるトリメチルメトキシシランとが反応し、残留未反応基が消滅又は低減した酸性ガス含有ガス処理用分離膜を完成させた。
【0077】
<実施例2>
表1の配合に従って、準備液、及び分離膜形成用アルコキシド溶液(混合液)を、実施例1と同様の手順で調製した。
変性処理用溶液(処理液)については、変性用シラン化合物としてトリメチルクロロシランを使用したこと以外は、実施例1と同様の手順で調製した。
アルミナ系セラミックスの管状体の表面へのポリシロキサン網目構造体からなる分離膜の形成、及び当該分離膜の変性処理は、実施例1と同様の手順で実施した。
【0078】
<実施例3>
表1の配合に従って、準備液、分離膜形成用アルコキシド溶液(混合液)を、実施例1と同様の手順で調製した。
変性処理用溶液(処理液)については、実施例1と同様の手順で調製した。
アルミナ系セラミックスの管状体の表面へのポリシロキサン網目構造体からなる分離膜の形成、及び当該分離膜の変性処理は、実施例1と同様の手順で実施した。
【0079】
<実施例4>
表1の配合に従って、準備液を、実施例1と同様の手順で調製した。分離膜形成用アルコキシド溶液(混合液)については、硝酸マグネシウム六水和物を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の手順で調製した。
変性処理用溶液(処理液)については、実施例1と同様の手順で調製した。
アルミナ系セラミックスの管状体の表面へのポリシロキサン網目構造体からなる分離膜の形成、及び当該分離膜の変性処理は、実施例1と同様の手順で実施した。
【0080】
<実施例5>
表1の配合に従って、準備液を、実施例1と同様の手順で調製した。分離膜形成用アルコキシド溶液(混合液)については、硝酸マグネシウム六水和物を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の手順で調製した。
変性処理用溶液(処理液)については、変性用シラン化合物としてジメチルジエトキシシランを使用したこと以外は、実施例1と同様の手順で調製した。
アルミナ系セラミックスの管状体の表面へのポリシロキサン網目構造体からなる分離膜の形成、及び当該分離膜の変性処理は、実施例1と同様の手順で実施した。
【0081】
<比較例1>
表1の配合に従って、準備液を、実施例1と同様の手順で調製した。準備液にテトラエトキシシランを添加して約2時間攪拌し、さらに硝酸マグネシウム六水和物を添加して約2時間攪拌し、分離膜形成用アルコキシド溶液(混合液)を調製した。すなわち、比較例1は、分離膜形成用アルコキシド溶液の調製にメチルトリエトキシシランを使用しておらず、テトラエトキシシランのみの一段階のゾル−ゲル反応を進行させるものである。
変性処理用溶液(処理液)については、実施例1と同様の手順で調製した。
アルミナ系セラミックスの管状体の表面へのポリシロキサン網目構造体からなる分離膜の形成、及び当該分離膜の変性処理は、実施例1と同様の手順で実施した。
【0082】
<分離性能確認試験>
次に、実施例1〜5及び比較例1の分離膜について、二酸化炭素及びメタンガスの分離性能に関する確認試験を行った。確認試験では、窒素を介することにより、二酸化炭素及びメタンガスの分離性能を評価した。ここで、窒素の気体分子径は3.64Åであり、二酸化炭素の気体分子径は3.3Åであり、メタンガスの気体分子径は3.8Åである。従って、窒素/二酸化炭素の混合系では、窒素よりも気体分子径が小さい二酸化炭素は分離膜を透過し易く、窒素/メタンガスの混合系では、窒素よりも気体分子径が大きいメタンガスは分離膜を透過し難いものとなる。このような気体毎に異なる性質を利用し、さらに膜の特性(官能基)を適切に設定すれば、混合系から二酸化炭素又はメタンガスを分離することが可能となる。確認試験では、実施例1〜5及び比較例1の各分離膜について、変性処理前及び変性処理後における窒素、二酸化炭素、及びメタンガスの気体透過速度を比較した。試験手順として、真空乾燥を1時間行って細孔内の水分を完全に除去した分離膜(変性処理前及び変性処理後)を準備し、これを閉鎖空間に配置して窒素、二酸化炭素、及びメタンガスの単独ガスを0.1MPaの圧力で個別に流入させ、夫々の単独ガスの透過速度〔mol/(m×s(秒)×Pa)〕を測定した。分離性能確認試験の結果を表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
(1)実施例1の分離膜は、変性処理を行うと、窒素、二酸化炭素、及びメタンガスの透過速度が全体的に上昇し、透過速度比も大きくなった。ポリシロキサン網目構造体の原材料の配合について、テトラエトキシシラン:メチルトリエトキシシラン=6:4としたものは、トリメチルメトキシシランによる変性処理の効果が大きく現れることが示された。
(2)実施例2の分離膜は、変性処理を行うと、窒素、二酸化炭素、及びメタンガスの透過速度が全体的に上昇し、透過速度比も大きくなった。ポリシロキサン網目構造体の原材料の配合について、テトラエトキシシラン:メチルトリエトキシシラン=6:4としたものは、トリメチルクロロシランによる変性処理の効果が大きく現れることが示された。
(3)実施例3の分離膜は、変性処理を行うと、特に二酸化炭素の透過速度が上昇し、透過速度比も大きくなった。ポリシロキサン網目構造体の原材料の配合について、テトラエトキシシラン:メチルトリエトキシシラン=9:1としたものでも、トリメチルメトキシシランによる変性処理の効果が現れることが示された。
(4)実施例4の分離膜は、変性処理を行うと、特に二酸化炭素の透過速度が上昇し、透過速度比も大きくなった。ポリシロキサン網目構造体の原材料の配合について、硝酸マグネシウム六水和物を添加しない場合でも、テトラエトキシシラン:メチルトリエトキシシラン=4:6としたものは、トリメチルメトキシシランによる変性処理の効果が現れることが示された。
(5)実施例5の分離膜は、変性処理を行うと、特に二酸化炭素の透過速度が上昇し、透過速度比も大きくなった。ポリシロキサン網目構造体の原材料の配合について、硝酸マグネシウム六水和物を添加しない場合でも、テトラエトキシシラン:メチルトリエトキシシラン=4:6としたものは、ジメチルジエトキシシランによる変性処理の効果が現れることが示された。なお、実施例5は、変性処理用溶液(処理液)の溶媒としてエタノールを使用しているが、トルエンを使用している他の実施例1〜4と比べると、変性処理による透過速度及び透過速度比の向上がやや低くなる傾向が見られた。従って、変性処理用溶液(処理液)の溶媒には、エタノールよりもトルエンの方が好ましいと考えられる。
(6)一方、比較例1の分離膜は、変性処理を行うと、窒素、二酸化炭素、及びメタンガスの透過速度がやや低下し、透過速度比も小さくなった。つまり、分離膜をテトラエトキシシランの単独配合によって構成したものは、変性処理を行ってもポリシロキサン網目構造体の変性が効率よく行われないだけでなく、むしろ変性処理によって分離性能に悪影響を及ぼす可能性があることが示唆された。
【0085】
以上より、本発明の酸性ガス含有ガス処理用分離膜は、二酸化炭素又はメタンガスの分離性能に優れたものであるため、生ごみ等を生物学的処理することによって得られる消化ガスから高濃度のメタンガスを得る分離膜として非常に有用であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の酸性ガス含有ガス処理用分離膜、及び酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法は、都市ガスの製造設備や、燃料電池への水素供給設備等において利用可能である。さらに、本発明は、工場や発電所から排出される排ガス、天然ガス、石油精製において副生するガス等を対象とすることも可能である。