(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(b)は、融点が−30℃以下で比誘電率が30以上の環状カーボネート又は環状カルボン酸エステルを含み、前 記(c)は、融点が−40℃以下の鎖状カーボネートを含む請求項1〜4のいずれかに記載 の非水電解質二次電池。
前記(b)は、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ペンチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン及びγ−バレロラクトンから選ばれる少なくとも1種を含み、前記(c)は、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートから選ばれる少なくとも1種を含む請求項1〜5のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
前記チタン酸化物は、スピネル構造のチタン酸リチウム、ラムスデライト構造のチタン酸リチウム、単斜晶系チタン酸化合物、単斜晶系チタン酸化物及びチタン酸水素リチウムから選ばれる少なくとも1種である請求項1〜6のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明にかかわる非水電解質二次電池をさらに詳しく説明する。
【0030】
本発明の非水電解質二次電池1は、
図1及び
図2に示すように、正極2と、負極3と、セパレータ4と、非水電解液5と、外装部材6とを有する。
【0031】
負極3は、負極集電体3aと負極活物質層3bを少なくとも含む。負極活物質層は、負極集電体の片面もしくは両面に形成される。負極活物質層は、負極活物質を少なくとも含み、必要に応じて導電剤、結着剤、その他の材料も含んでよい。負極集電体には、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金や銅又は銅合金を用いることができる。
【0032】
負極活物質にはリチウムイオン吸蔵電位が1.2V(対Li/Li
+)以上であるチタン酸化物を用いる。そのような活物質の例には、スピネル構造のチタン酸リチウム(Li
4+xTi
5O
12(xは0≦x≦3を満たす実数である)、吸蔵電位:1.55V対Li/Li
+)、ラムスデライト構造のチタン酸リチウム(Li
2+xTi
3O
7(xは0≦x≦3を満たす実数である)、吸蔵電位:1.6V対Li/Li
+)、単斜晶系チタン酸化物及びチタン酸水素リチウムが含まれる。単斜晶系チタン酸化物の例には、一般式H
2Ti
nO
2n+1で表される単斜晶系チタン酸化合物(nは4以上の偶数である。例えばH
2Ti
12O
25、吸蔵電位:1.55V対Li/Li
+)、一般式Li
2Ti
nO
2n+1で表される単斜晶系チタン酸リチウム(nは4以上の偶数である。例えばLi
2Ti
18O
37等)及びブロンズ型酸化チタン(TiO
2(B)、吸蔵電位:1.6V対Li/Li
+)が含まれる。チタン酸水素リチウムとしては、前記のチタン酸リチウムのリチウム元素の一部を水素で置換したものが挙げられる。例えば、一般式H
xLi
y−xTi
zO
4(x、y、zは、y≧x>0、0.8≦y≦2.7、1.3≦z≦2.2を満たす実数である。例えばH
aLi
4/3−aTi
5/3O
4、aは0<a<4/3を満たす実数)で表されるチタン酸水素リチウム及び一般式H
2−xLi
xTi
nO
2n+1で表されるチタン酸水素リチウム(nは4以上の偶数であり、xは0<x<2を満たす実数である。例えばH
2−xLi
xTi
12O
25)が含まれる。これらの化学式において、リチウムやチタン,酸素の一部が他の元素に置換されていてもよいし、化学量論組成のものだけでなく、一部の元素が欠損又は過剰となる非化学量論組成のものでもよい。上記のチタン酸化物は、単独で用いてもよいが、二種以上を混合して用いてもよい。また、充放電によりリチウム・チタン複合酸化物となるチタン酸化物(例えばTiO
2)を活物質として用いてもよい。これらを混合して用いてもよい。なお、チタン酸化物のリチウムイオン吸蔵電位の上限は、これに限定されないが、2Vであることが好ましい。負極にはチタン酸化物以外の公知の負極活物質を含んでもよいが、チタン酸化物が負極容量の50%以上を占めることが好ましく、80%以上であるとより好ましい。
【0033】
前記チタン酸化物として、Li
4+xTi
5O
12、Li
2+xTi
3O
7、一般式H
2Ti
nO
2n+1で表されるチタン酸化合物、ブロンズ型酸化チタンから選択されるチタン酸化物を用いると、ジニトリル化合物が効果的に作用しやすいので好ましい。尚、xは0≦x≦3を満たす実数であり、nは4以上の偶数である。
【0034】
リチウムイオン吸蔵電位(対Li/Li
+)とは、対極をリチウム金属箔としたコインセルを用いて、25℃環境下、0.25Cで、セル電圧が1.0Vになるまで定電流で充電した後、0.25Cで、セル電圧が3.0Vに到達するまで定電流で放電させる容量測定において充電時の電位−容量曲線を描いたときに、容量の中点に対応する電位のことを言う。
【0035】
チタン酸化物は、平均一次粒子径が2μm以下であることが好ましい。平均一次粒子径が2μm以下であると、電極反応に寄与する有効面積が十分確保でき、良好な大電流放電特性を得ることができる。平均一次粒子径は、走査電子顕微鏡を用いて一次粒子100個の粒子長径を測定し、その平均として求めることができる。また、一次粒子を公知の方法で造粒するなどした二次粒子としてもよい。平均二次粒子径は、0.1〜30μmとするのが好ましい。平均二次粒子径はレーザー回折/散乱法により測定することができる。
【0036】
また、チタン酸化物は、比表面積が1〜20m
2/gであることが好ましい。比表面積が1m
2/g以上であると、電極反応に寄与する有効面積が十分確保でき、良好な充放電特性を得ることができる。比表面積が20m
2/g以上であっても本願発明の効果は得られるが、電極の製造において、負極合剤スラリー中の活物質の分散性や合剤スラリーの集電体への塗工性、活物質層と集電体との密着性などのハンドリング面で問題が生じる場合があるため、比表面積を20m
2/g以下とするのが好ましい。通常、比表面積が5m
2/g以上のような比表面積の大きいチタン酸化物を用いると、充放電サイクルや保存中に大量のガス発生が起こるが、本発明を適用すればガス発生を低減可能であり、特に高温サイクルに伴うガス発生を顕著に低減することができる。その結果として、比表面積の大きいチタン酸化物を負極活物質に用いることができるようになるため、良好な低温充放電特性や大電流充放電特性を示す非水電解質二次電池が得られる。比表面積は窒素吸着によるBET一点法により求めることができる。
【0037】
前記導電剤は、負極に導電性を付与するために使われるものであり、構成される電池において、化学変化を引き起こさない導電性材料であるならば、いかなるものでも使用可能であり、その例として、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素ファイバのような炭素系物質、銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末又は金属ファイバのような金属系物質、ポリフェニレン誘導体などの導電性ポリマー、又はそれらの混合物を含む導電性材料などを用いることができる。
【0038】
結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)などを用いることができる。
【0039】
負極活物質層に含ませることができるその他の材料としては公知の種々添加剤が挙げられる。
【0040】
負極活物質、導電剤及び結着剤の配合比は、負極活物質70〜95質量%、導電剤0〜25質量%、結着剤2〜10質量%の範囲であることが好ましい。
【0041】
負極は、負極活物質、導電剤、及び結着剤を適当な溶媒に懸濁してスラリーを調製し、このスラリーを集電体の片面もしくは両面に塗布し、乾燥することにより作製することができる。
【0042】
非水電解液には、非水溶媒にリチウム塩を溶解することにより調製される液体状非水電解質(非水電解液)であって、非水溶媒が、溶媒(a)エチレンカーボネート、溶媒(b)環状カルボン酸エステル又は炭素数が4以上の環状カーボネート、溶媒(c)鎖状カーボネートの3種を少なくとも含み、リチウム塩が、六フッ化リン酸リチウム及び四フッ化硼酸リチウムを少なくとも含み、溶媒(a)エチレンカーボネートが非水溶媒全体の5〜20体積%であり、四フッ化硼酸リチウム濃度が非水電解液に対し0.05〜0.5モル/リットルである非水電解液を用いる。
【0043】
このように、エチレンカーボネートと四フッ化硼酸リチウムとをそれぞれ特定量で併用することにより、高電位であるチタン酸化物を負極活物質として用いた場合であっても、意外にも、負極表面にSEIに相当する被膜が形成されるものと考えられる。この被膜は、リチウムイオン伝導性に優れるとともに安定性にも優れており、チタン酸化物と電解液成分との直接の接触を防いだり、チタン酸化物から電解液成分への電子移動を阻害するなどして、電解液成分の分解を抑制し、ガス発生を抑制していることが考えられる。また、本発明の少なくとも5種の成分を含む組成の電解液は低温域でも充分なリチウムイオン伝導性を有すると考えられ、これを用いた電池は優れた低温充放電特性を示す。ただし、この推定は本発明を限定するものではない。
【0044】
前記環状カルボン酸エステルとしては、公知の環状カルボン酸エステル溶媒を用いることができる。例えば、γ−ブチロラクトン(GBL)、デカノリド(decanolide)、バレロラクトン(Valerolacton)、メバロノラクトン(mevalonolactone)、カプロラクトン(caprolactone)が挙げられる。
【0045】
前記炭素数が4以上の環状カーボネートとしては、下記式で表されるものを用いることができる。ここで、Xは炭化水素基をあらわし、特に、Xが炭素数1〜3のアルキル基であると好ましい。このような物質としては、例えば、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ペンチレンカーボネートが挙げられる。
【0047】
前記鎖状カーボネートとしては、公知の鎖状カーボネート溶媒を用いることができ、C
nH
2n+1(
OCOO)C
mH
2m+1(ここで、m、nはそれぞれ1〜3の整数)で表されるものを用いることが好ましい。具体的には、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートが挙げられる。
【0048】
本発明では、前記非水電解液に含まれるエチレンカーボネートを非水溶媒全体の5〜20体積%とし、且つ、四フッ化硼酸リチウム濃度を非水電解液に対し0.05〜0.5モル/リットルとする。また、前記配合範囲で四フッ化硼酸リチウム(LiBF
4)とエチレンカーボネート(EC)の質量比(LiBF
4/EC)を0.015以上0.72未満とすると好ましい。このような配合にすることで、前述の通り、四フッ化硼酸リチウムとエチレンカーボネートがチタン酸化物表面で協調して反応することにより、リチウムイオン伝導性が高く、幅広い温度域で安定に存在できる被膜を負極表面に適度な厚さで形成できると推測され、高温サイクル特性と低温充放電特性がさらに向上した非水電解質二次電池が得られる。質量比(LiBF
4/EC)は0.03〜0.15とするとより好ましい。
【0049】
エチレンカーボネートは、その配合量が少ないと、高温サイクル時のガス発生抑制効果が充分でなくなる。配合量が多すぎると、逆にガス発生が起こりやすくなり、また、負極表面に被膜が過剰に形成されるためと推測されるが、高温サイクル時の容量維持率の低下が早まるとともに、低温での電解液のリチウムイオン伝導性が低下するものと推測されるが、低温充放電特性が悪化する。四フッ化硼酸リチウムは、その配合量が少ないと、負極表面の被膜の安定性が低くなるためと推測されるが、高温サイクル時のガス発生抑制効果が充分でなくなる。配合量が多すぎると、負極表面に被膜が過剰に形成されると推測されるが、高温サイクル時の容量維持率の低下が早まるとともに、低温での電解液のリチウムイオン伝導性が低下するものと推測されるが、低温充放電特性が悪化する。エチレンカーボネートの配合量は非水溶媒全体の5〜20体積%とするのが好ましく、5〜10体積%とするとより好ましい。四フッ化硼酸リチウム濃度は非水電解液に対し0.05〜0.5モル/リットルとするのが好ましく、0.05〜0.3モル/リットルとするとより好ましく、0.05〜0.2モル/リットルとするとさらに好ましい。
【0050】
なお、四フッ化硼酸リチウムとエチレンカーボネートは、どちらも負極表面への被膜形成に伴い消費されると考えられるため、電解液中のそれぞれの濃度は、電池の組み立て以降漸減していくものと推測される。本発明に用いる電解液の組成は、少なくとも電池の組み立て時において当該組成を満たしていればよく、その後の使用の結果、電解液中に四フッ化硼酸リチウムとエチレンカーボネートが含まれなくなっていてもよい。電池製造後に電解液中の四フッ化硼酸リチウムとエチレンカーボネートの残存量が多いと前述の問題が生じやすくなるため、それぞれの欠点が顕著に表れない程度に残存量を減らすことが好ましい。
【0051】
また、前記非水溶媒中の(a)エチレンカーボネートの割合をa(体積%)、(b)環状カルボン酸エステル又は炭素数が4以上の環状カーボネートの割合をb(体積%)とした際、前記a及び前記bがb≧aを満たすようにするのが好ましい。このようにすることで、低温での電解液のリチウムイオン伝導性が高まり、低温充放電特性をより高めることができる。b/aは1〜9とするのが好ましく、3〜7とするとより好ましい。
【0052】
前記非水溶媒中の(c)鎖状カーボネートの割合をc(体積%)とした際、前記a、前記b及び前記cが(a+b)≦cを満たすようにするのが好ましい。このようにすることで、極低温域でも電解液のリチウムイオン伝導性を高く維持することができ、低温充放電特性をより高めることができる。c/(a+b)は1〜9とするのが好ましく、1以上3未満とするとより好ましく、1.5〜2.4とすると一層好ましい。
【0053】
前記非水電解液中の六フッ化リン酸リチウムのモル濃度が、0.5〜1.4モル/リットルとするのが好ましい。このようにすることで、高温サイクルに伴う容量維持率低下速度を遅くすることができるとともに、電解液のリチウムイオン伝導性を高く維持することができ、低温充放電特性をより高めることができる。六フッ化リン酸リチウムのモル濃度は0.8〜1.4とすると好ましい。
【0054】
非水電解液中のリチウム塩は、六フッ化リン酸リチウムと四フッ化硼酸リチウムの2種のみとしてもよく、他のものを含んでもよい。そのようなリチウム塩の例には、六フッ化ヒ素リチウム(LiAsF
6)、過塩素酸リチウム(LiClO
4)、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiN(CF
3SO
2)
2、LiTSFI)及びトリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF
3SO
3)が含まれる。これらのうち1種又は2種以上をさらに混合して用いても良い。
【0055】
非水溶媒中のリチウム塩の濃度は、0.7〜1.5モル/リットルであることが好ましい。0.7モル/リットル以上であることにより、電解液のリチウムイオン伝導抵抗を低下させ、充放電特性を向上させることができる。一方、1.5モル/リットル以下であることにより、電解液の融点や粘度の上昇を抑制し、常温で液状とすることができる。0.85〜1.45モル/リットルとするのが特に好ましい。
【0056】
非水電解液は、前記溶媒(b)として、融点が−30℃以下で比誘電率が30以上である、環状カーボネート又は環状カルボン酸エステルを含み、前記溶媒(c)として、融点が−40℃以下の鎖状カーボネートを含むことが好ましい。このような溶媒種を選択することで、低温でもリチウムイオン伝導性に優れた電解液とすることができる。融点及び比誘電率は、例えば、「リチウム二次電池-材料と応用(芳尾真幸著 日刊工業新聞社 1996年)」を参照してよい。記載のないものは、交流インピーダンス法で求める。また、前記溶媒(c)は、粘度が0.5〜0.8mPa・sのものを用いると、リチウムイオンの移動度が高まるためより好ましい。粘度は、JIS K 7117−2に準じて、E型回転式粘度計を用いて20℃で測定する。
【0057】
前記のような溶媒(b)としては、プロピレンカーボネート(mp:−49℃、ε
r:65)、ブチレンカーボネート(mp:−53℃、ε
r:53)、ペンチレンカーボネート(mp:−45℃、ε
r:46)、γ−ブチロラクトン(mp:−44℃、ε
r:39)及びγ−バレロラクトン(mp:−31℃、ε
r:34)から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、前記のような溶媒(c)としては、エチルメチルカーボネート(mp:−53℃、η
0:0.65mPa・s)及びジエチルカーボネート(mp:−43℃、η
0:0.75mPa・s)から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。ここで、mpは融点、ε
rは比誘電率、η
0は粘度を表す。
【0058】
非水電解液中の非水溶媒には前記(a)〜(c)以外のものを含んでもよい。このような非水系有機溶媒の例としては、エステル系、エーテル系、ケトン系、アルコール系、又は非プロトン性の溶媒を用いることができる。これらの溶媒は、非水溶媒全体の20体積%以下とするのが好ましい。
【0059】
前記エステル系溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、n−プロピルアセテート、ジメチルアセテート、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどを用いることができる。
【0060】
前記エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、テトラグライム、ジグライム、ジメトキシエタン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフランなどを用いることができる。
【0061】
前記ケトン系溶媒としては、シクロヘキサノンなどを用いることができる。
【0062】
前記アルコール系溶媒としては、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどを用いることができる。
【0063】
前記非プロトン性溶媒としては、R−CN(Rは、C2−C20の直鎖状、分枝状又は環構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環又はエーテル結合を含むことができる)などのニトリル類、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、1,3−ジオキソランなどのジオキソラン類、スルホラン(sulfolane)類、などを用いることができる。
【0064】
前記電解液は、リチウム電池の低温特性などを向上させることができる添加剤をさらに含むことができる。前記添加剤の例として、ジニトリル化合物、カーボネート系物質、エチレンサルファイト(ES)又は1,3−プロパンスルトン(Propanesultone、PS)を用いることができる。
【0065】
例えば、前記ジニトリル化合物は、任意の有機ジニトリル化合物を用いることができる。中でも、構造式NC−(CH
2)
n−CN(ただし、n≧1,nは整数である。)で表される、鎖式飽和炭化水素化合物の両末端にニトリル基が結合したジニトリル化合物が電解液に溶解しやすい点で好ましい。特に、入手のし易さ及びコストを考慮すると、n=1〜10程度のジニトリル化合物、すなわち、マロノニトリル(n=1)、スクシノニトリル(n=2)、グルタロニトリル(n=3)、アジポニトリル(n=4)、ピメロニトリル(n=5)、スベロニトリル(n=6)、アゼラニトリル(n=7)、セバコニトリル(n=8)、ウンデカンニトリル(n=9)、ドデカンニトリル(n=10)のいずれかが好ましく、マロノニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリルのいずれかが特に好ましい。
【0066】
例えば、前記カーボネート系物質は、ビニレンカーボネート(VC)、ハロゲン(例えば、−F、−Cl、−Br、−Iなど)、シアノ基(CN)及びニトロ基(−NO
2)からなる群から選択された一つ以上の置換基を有するビニレンカーボネート誘導体、ハロゲン(例えば、−F、−Cl、−Br、−Iなど)、シアノ基(−CN)及びニトロ基(−NO
2)からなる群から選択された一つ以上の置換基を有するエチレンカーボネート誘導体、からなる群から選択することができる。
【0067】
前記添加剤は、1種の物質のみでもよく、2種以上の物質であってもよい。具体的には、前記電解液は、スクシノニトリル(SCN)、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチレンサルファイト(ES)及び1,3−プロパンスルトン(PS)からなる群から選択された一つ以上の添加剤をさらに含ませることができる。これらの物質は、本願発明の溶媒及びリチウム塩と組み合わせて用いることで、負極のチタン酸化物に更に安定な被膜を形成する作用をもつと推測され、本願発明の高温環境下でのガス発生抑制効果が更に向上する。
【0068】
前記添加剤を含有させる場合、その含有量は、前記非水系有機溶媒とリチウム塩との総量100質量部当たり10質量部以下とするのが好ましく、0.1〜10質量部とするとより好ましい。この範囲であると高温環境での電池特性を向上させることができる。前記添加剤の含有量は、1〜5質量部とすると更に好ましい。
【0069】
電解液中の溶媒およびリチウム塩の種類及び濃度の測定には、公知の方法を用いることができる。溶媒の分析としては、例えば、ガスクロマトグラフ質量分析法を用いることができ、溶媒、リチウム塩の分析には、例えば、NMRを用いることができる。
【0070】
図2に示すように、正極2は、正極集電体2aと正極活物質層2bを少なくとも含む。正極活物質層は、正極集電体の片面もしくは両面に形成され、正極活物質を少なくとも含み、必要に応じて導電剤、結着剤、その他の材料も含んでよい。正極集電体には、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金を用いることができる。
【0071】
正極活物質としては、負極活物質として用いるチタン酸化物に対して正極として機能しうる公知の電極活物質を用いることができる。具体的には、リチウムイオン吸蔵電位が1.6V(対Li/Li
+)より大きいものであればよく、2.0V(対Li/Li
+)以上であればより好ましい。そのような活物質として、種々の酸化物及び硫化物を用いることができる。例えば、二酸化マンガン(MnO
2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、リチウム・マンガン複合酸化物(例えばLi
xMn
2O
4又はLi
xMnO
2)、リチウム・ニッケル複合酸化物(例えばLi
xNiO
2)、リチウムコバルト複合酸化物(Li
xCoO
2)、リチウム・ニッケル・コバルト複合酸化物(例えばLi
xNi
1−yCo
yO
2)、リチウム・マンガン・コバルト複合酸化物(Li
xMn
yCo
1−yO
2)、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(Li
xNi
yMn
zCo
1−y−zO
2)、スピネル構造を有するリチウム・マンガン・ニッケル複合酸化物(Li
xMn
2−yNi
yO
4)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(Li
xFePO
4、Li
xFe
1−yMn
yPO
4、Li
xCoPO
4、Li
xMnPO
4など)やリチウムケイ酸化物(Li
2xFeSiO
4など)、硫酸鉄(Fe
2(SO
4)
3)、バナジウム酸化物(例えばV
2O
5)、xLi
2MO
3・(1−x)LiM’O
2(M、M’は同種又は異種の1種又は2種以上の金属)で表される固溶体系複合酸化物などを用いることができる。これらを混合して用いてもよい。なお、上記においてx,y,zはそれぞれ0〜1の範囲であることが好ましい。
【0072】
また、正極活物質としてポリアニリンやポリピロールなどの導電性ポリマー材料、ジスルフィド系ポリマー材料、イオウ(S)、フッ化カーボンなどの有機材料及び無機材料を用いることもできる。
【0073】
上記正極活物質の中でも、リチウムイオン吸蔵電位が高い活物質を用いるのが好ましい。例えば、スピネル構造を有するリチウム・マンガン複合酸化物(Li
xMn
2O
4)、リチウム・ニッケル複合酸化物(Li
xNiO
2)、リチウム・コバルト複合酸化物(Li
xCoO
2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Li
xNi
1−yCo
yO
2)、リチウム・マンガン・コバルト複合酸化物(Li
xMn
yCo
1−yO
2)、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(Li
xNi
yMn
zCo
1−y−zO
2)、スピネル構造を有するリチウム・マンガン・ニッケル複合酸化物(Li
xMn
2−yNi
yO
4)、リン酸鉄リチウム(Li
xFePO
4)などが好適に用いられ、特にリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物とリン酸鉄リチウムが好適に用いられる。なお、上記においてx,y,zはそれぞれ0〜1の範囲であることが好ましい。
【0074】
導電剤としては、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、又は黒鉛等を用いることができる。
【0075】
結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)などを用いることができる。
【0076】
正極活物質層に含ませることができるその他の材料としては種々添加剤が挙げられ、例えば、ジニトリル化合物、フルオロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、1,3−プロパンスルトン、エチレンサルファイトなどを用いることができる。
【0077】
正極活物質、導電剤、及び結着剤の配合比は、正極活物質80〜95質量%、導電剤3〜18質量%、結着剤2〜10質量%の範囲であることが好ましい。
【0078】
正極は、正極活物質、導電剤、及び結着剤を適当な溶媒に懸濁してスラリーを調製し、このスラリーを集電体の片面もしくは両面に塗布し、乾燥することにより作製することができる。
【0079】
セパレータは、正極と負極の間に配置され、正極と負極が接触するのを防止する。セパレータは、絶縁性材料で構成される。また、セパレータは、正極及び負極の間を電解質が移動可能な形状を有する。
【0080】
セパレータの例には、合成樹脂製不織布、ポリエチレン多孔質フィルム、ポリプロピレン多孔質フィルム、及び、セルロース系のセパレータを挙げることができる。
【0081】
外装部材としてはラミネート製フィルムや金属製容器を用いることができる。ラミネート製フィルムには、樹脂フィルムで被覆された金属箔からなる多層フィルムが用いられる。樹脂フィルムを形成する樹脂には、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、及びポリエチレンテレフタレート(PET)のような高分子を用いることができる。ラミネートフィルム製外装部材の内面は、PP及びPEのような熱可塑性樹脂により形成される。
【0082】
ラミネートフィルムの厚さは0.2mm以下であることが好ましい。
【0083】
また、本発明の非水電解質二次電池は、その充電が負極によって規制される構成とすることができる。このような構成とすることで、高温サイクルに伴うガス発生のさらなる低減及び電池容量の低下をさらに抑制することが可能であり、かつ低温充放電特性に一層優れた非水電解質二次電池を提供できる。
【0084】
充電時の金属Li析出防止の観点から、炭素系物質等のリチウムイオン吸蔵電位の低い負極活物質を用いる従来の非水電解質電池では、負極容量を正極容量より多くし、正極規制としている。一方、本発明(7)のように、正負極容量比設定を負極規制、特に充電側を負極規制とする場合、通常使用時には正極の電位は比較的低い状態に維持されるため、非水電解液中の溶媒やリチウム塩、添加物等の電解液構成成分の酸化反応による正極への被膜形成は比較的起こりづらい。そのため、電解液構成成分が、正極とチタン酸化物を含む負極とに適度に分配され、正負それぞれの電極に作用することで、負極での電解液の還元分解が抑制され、ガス発生も充分抑制されると推察される。また、正極の電位が高くなりすぎないことで、電解液の酸化分解が起こりづらくなり、正極でのガス発生量が低減されると推察される。同時に、正極の電位が高くなりすぎないことで、正極活物質自体の結晶構造劣化も抑制できるため、高温サイクルに伴うガス発生のさらなる低減及び電池容量の低下をさらに抑制することが可能となると推察される。
【0085】
特に、正極実電気容量をP、負極実電気容量をNとしたとき、正負極容量比R=N/Pが0.7≦R<1.0とすると好ましい。Rが0.7未満であっても本発明の効果は得られるが、電池としての放電容量が低くなる。P,Nの値は次のようにして求めることができる。
【0086】
乾燥アルゴン中で、コインセル用に形状を合わせた前記正極とリチウム金属箔とをセパレータを介して対向させる。これらの部材をコインセルに入れ、電解液を注ぎ、セパレータと電極に充分に電解液が含浸された状態で、コインセルを密閉する。なお、電解液には、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)とメチルエチルカーボネート(MEC)が体積比率1:3:6で混合された混合溶媒に電解質としての六フッ化リン酸リチウムを1.0モル/リットルと四フッ化硼酸リチウムを0.2モル/リットル溶解させたものを使用する。作製したコインセルに対して、25℃環境下、0.25Cで、セル電圧が4.2Vになるまで定電流で充電した後、0.25Cで、セル電圧が3.0Vに到達するまでの定電流で放電させる。この放電時の電気容量をコインセルの正極活物質層の面積で除することにより、正極の単位面積当りの25℃環境下での実電気容量P(mAh/cm
2)を算出する。実電気容量の測定のための温度環境は、恒温漕(ヤマト科学 恒温槽 型番IN804型)等を用いて形成される。
【0087】
前記正極に代えて、コインセル用に形状を合わせた前記負極を用いた以外は同様の手法でコインセルを作製する。作製したコインセルに対して、25℃環境下、0.25Cで、セル電圧が1.0Vになるまで定電流で充電した後、0.25Cで、セル電圧が3.0Vに到達するまで定電流で放電させた。この放電時の電気容量をコインセルの負極活物質層の面積で除することにより、負極の単位面積当りの25℃環境下での実電気容量N(mAh/cm
2)を算出する。なお、Nの測定においては、リチウムイオンが活物質に吸蔵される側を充電と、脱離する側を放電と称する。
【0088】
次に、本発明(12)の非水電解質二次電池の製造方法を説明する。該方法は、前記正極、リチウムイオン吸蔵電位が1.2V(対Li/Li
+)以上のチタン酸化物を含有する活物質を含む負極、リチウム塩とこれを溶解する非水溶媒を含有してなる非水電解液を外装部材に収容し、外装部材の開口部を封止して二次電池を得る工程、前記封止二次電池を充電する工程、を含み、前記非水溶媒が、下記(a)、(b)及び(c)の3種を少なくとも含み、
(a)エチレンカーボネート
(b)環状カルボン酸エステル、又は炭素数が4以上の環状カーボネート
(c)鎖状カーボネート
前記リチウム塩が、六フッ化リン酸リチウム及び四フッ化硼酸リチウムを少なくとも含み、
(a)エチレンカーボネートが非水溶媒全体の5〜20体積%であり、
四フッ化硼酸リチウム濃度が非水電解液に対し0.05〜0.5モル/リットルである。このようにして本発明の非水電解質二次電池を製造することができる。詳細は後述のコンディショニング工程を含む非水電解質二次電池の製造方法の項で合わせて説明する。
【0089】
本発明の非水電解質二次電池の製造方法は、次のようなコンディショニング工程を含むことが好ましい。該方法は、前記正極、負極及び非水電解質を収容した外装部材の開口部を仮封止して仮封止二次電池を得る工程、前記仮封止二次電池の負極電位を0.8Vより高く1.4V以下の電位(対Li/Li
+)に調整し、50℃以上80℃未満の雰囲気中で貯蔵する工程、前記仮封止二次電池を開封して内部の気体を排出し、次いで、前記外装部材を本封止する工程を含む。
【0090】
このようなコンディショニングを、チタン酸化物を含有する活物質を含む負極と前記特定配合の非水電解液を備えた電池の製造方法に組み込むことにより、高温サイクルに伴うガス発生をさらに低減することができる。その作用機構は明らかではなく、本発明を限定するものでもないが、本発明者は以下のように推定している。すなわち、チタン酸化物の表面には、水や二酸化炭素などが吸着されている。これらの不純物は、負極電位をリチウムイオン吸蔵電位より低くする、つまり、SOC100%を超えてさらに充電を行うと、ガスとして放出されやすい。また、高温で貯蔵を行うと、四フッ化硼酸リチウムとエチレンカーボネートがさらに十分に分解し、良好な被膜が形成すると考えられ、添加剤として前記ジニトリル化合物、カーボネート系物質、エチレンサルファイト(ES)又は1,3−プロパンスルトン(PS)を添加した場合にはそれら添加物も同様に分解しやすくなり、四フッ化硼酸リチウムとエチレンカーボネートとチタン酸化物上で協調して良好な被膜を形成すると考えられる。特に、負極電位が1.4V以下(対Li/Li
+)の状態になるように電池を初充電し、高温貯蔵と組み合わせることにより、吸着した水や二酸化炭素などの脱離が促進でき、その状態で、負極表面に四フッ化硼酸リチウムとエチレンカーボネートが作用したり、何らかの被膜を形成できるため、ガス発生抑制の効果がさらに高まるものと考えられる。また、このようなコンディショニングを行うことにより、被膜形成に伴う四フッ化硼酸リチウムとエチレンカーボネートの消費も促進されるため、電池製造後の四フッ化硼酸リチウムとエチレンカーボネートの残存量も適度に低減することができる。
【0091】
(第1の工程)
第1の工程において、仮封止二次電池を作製する。まず、外装部材内に電極群を収容する。電極群は正極、負極、及びセパレータから構成される。具体的には、例えば、正極、セパレータ、負極、及びセパレータを順に積層し、この積層体を扁平形状に捲回することにより扁平型の電極群が形成される。別の方法として、例えば、正極と負極とを、セパレータを介して一組又は複数組積層して電極群を形成してもよい。必要に応じて、該電極群を絶縁テープで捲回して固定してもよい。電極群の形成後及び/又は形成前に電極群や各構成部材を加熱及び/又は真空乾燥して吸着水分を低減させる工程を追加してもよい。
【0092】
図1及び
図2に示すように、正極2には帯状の正極端子7が電気的に接続されている。負極3には帯状の負極端子8が電気的に接続されている。正負極端子は、それぞれ、正負極集電体と一体に形成されていてもよい。或いは、集電体とは別個に形成された端子を集電体と接続してもよい。正負極端子は、積層体を捲回する前に正負極のそれぞれと接続してもよい。或いは、積層体を捲回した後に接続してもよい。
【0093】
ラミネートフィルム製外装部材は、ラミネートフィルムを、熱可塑性樹脂フィルム側から張り出し加工又は深絞り加工をしてカップ状の電極群収容部を形成した後、熱可塑性樹脂フィルム側を内側にして180°折り曲げて蓋体とすることにより形成することができる。金属製容器の場合は、例えば金属板を絞り加工することにより形成することができる。以下では、代表例としてラミネートフィルム製外装部材を用いた場合について説明する。
【0094】
電極群を外装部材の電極群収容部に配置し、正負極端子を容器外部に延出させる。次いで、外装部材の正負極端子が延出している上端部と、該上端部と直交する端部の一つをヒートシールし、封止部を形成する。これにより、一辺が開口部として開口した状態の外装部材が形成される。ここで各構成部材を加熱及び/又は真空乾燥して吸着水分を低減させる工程を追加してもよい。
【0095】
次いで、開口部から非水電解液を注入し、電極群に非水電解液を含浸させる。ここで、電解液の含浸を促進させるため、電池を厚さ方向に加圧して貯蔵してもよく、電極内部を減圧してから電解液を注入してもよい。
【0096】
その後、開口部をヒートシールして仮封止部を形成することにより、電極群及び電極群に含浸された非水電解質が密封された仮封止二次電池を得る。コンディショニングを行わない場合は、ここで本封止することで封止二次電池が得られる。
【0097】
(第2の工程)
次いで、第2の工程を行う。仮封止二次電池の正極端子と負極端子の間に電流を流し、負極電位が0.8Vより高く1.4V以下の電位(対Li/Li
+)の範囲になるように初充電する。負極活物質のリチウムイオン吸蔵電位よりも負極電位が350mV以上低くなるように初充電するとより好ましい。
【0098】
負極電位が1.4V以下(対Li/Li
+)の状態になるように電池を初充電すると、高温環境での使用に伴うガス発生をより低減でき、電池容量の低下をより抑制できるため好ましく、1.2V(対Li/Li
+)以下とするとより好ましい。負極電位が0.8V以下(対Li/Li
+)の状態になるまで電池を初充電してしまうと、負極表面に過剰の被膜が形成されるものと推測されるが、電池の放電容量が低下するので好ましくない。また、負極集電体にアルミニウムを用いた場合、負極電位を0.4V以下(対Li/Li
+)まで下げると集電体アルミニウムがリチウムと合金化してしまうので好ましくない。
【0099】
前記仮封止電池の作製後、初充電を行うまでの期間には特に制限は無く、生産スケジュール等に合わせて任意に設定することができ、例えば、1時間〜1ヶ月としてよい。また、前記初充電及び後述の高温貯蔵は、仮封止電池作製後最初の充電に限られるものではなく、その後に開封して気体を排出可能であれば、充放電や貯蔵を一度又は複数回行った後に行ってもよい。
【0100】
負極電位の調整は、例えば、同一の電池構成のセルにおいて、参照極を用いて負極電位が0.8Vより高く1.4V以下(対Li/Li
+)の範囲の所望の電位となるような充電電気量を事前に算出しておき、その電気量を前記仮封止電池に充電することによって調整することができる。又は、同一の電池構成のセルにおいて、参照極を用いて負極電位が0.8Vより高く1.4V以下(対Li/Li
+)の範囲の所望の電位となるまで同条件で充電し、その時のセル電圧を確認しておき、前記仮封止電池の初充電終止電圧を該確認したセル電圧の値とすることによって調整することができる。別の方法として、次のようにしてもよい。非水電解質二次電池に用いる正極を切り出して作用極とし、対極に金属リチウム箔を、電解液とセパレータには該電池と同種のものを用いてコインセルを作製する。このコインセルに該電池の初充電と同C率・温度条件で充電を行い、縦軸:電位−横軸:容量の充電曲線を描く。負極についても、前記正極評価時と同寸法に切り出した負極を作用極として、前記正極評価に準じた方法で、所望の負極電位を含むLi吸蔵側の電位−容量曲線を描く。こうして得られた正極,負極それぞれの電位−容量曲線を一つの図に重ね合わせ、負極が所望の負極電位に到達した時の容量に対応する正極の電位を読み取り、その正負極電位差からセル電圧を求め、そのセル電圧を初充電終止電圧とする。
【0101】
なお、正極活物質としてリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物を用いる場合、前記仮封止電池の負極電位を調整するときにセル電圧が2.7〜3.3Vとなるようにすることが好ましく、2.9〜3.3Vとなるようにすることがより好ましい。正極活物質としてリン酸鉄リチウムを用いる場合、前記仮封止電池の負極電位を調整するとき、セル電圧が2.1〜2.7Vとなるようにすることが好ましく、2.3〜2.7Vとなるようにすることがより好ましい。
【0102】
初充電を行う温度は任意に設定することができるが、20〜45℃程度とすると好ましく、常温(20〜30℃)で行ってもよい。常温で行うと、設備を簡略化できるため好ましい。
【0103】
充電電流値は任意に設定することができる。1C以下とすると本発明の高温環境下でのガス発生抑制の効果が得られやすく、0.5C以下とするとより好ましい。また、充電中に電流値を変更してもよく、例えば、CC−CV充電を行ってもよい。なお、1C容量=電池の公称容量としてよい。
【0104】
仮封止二次電池が略偏平状の形状であれば、該電池体を厚み方向に加圧しながら初充電を行ってもよい。加圧の方法には特に制限は無く、例えば、該電池をプレスして初充電を行ったり、電池の前面及び背面と接触して電池を固定できるホルダーに電池を収容して初充電を行う方法が挙げられる。
【0105】
本発明(12)の封止二次電池を充電する工程について、その充電条件には特に制限は無いが、上述の本発明(13)に記載の充電条件を用いるのがよい。
【0106】
次に、前記負極電位まで初充電された仮封止二次電池を、温度50℃以上80℃未満の雰囲気中において貯蔵する。
【0107】
雰囲気温度が50℃未満である場合、電極群からの水や二酸化炭素などの放出に時間がかかるため工業的でなく、また、負極表面に適度な被膜が形成されないためと推測されるが、電池の高温特性が充分でなくなる。雰囲気温度が80℃以上の場合、正極や負極の表面における非水電解質の反応が生じやすくなり、過剰の被膜が形成されるものと推測されるが、電池の放電容量が低下し、高温サイクル時の容量維持率の低下も大きくなる。雰囲気温度のより好ましい範囲は50〜70℃である。
【0108】
仮封止二次電池を温度50℃以上80℃未満の雰囲気中において貯蔵する時間は、負極からガスが十分に放出される時間であればよい。これに限定されないが、例えば、5時間〜10日とすることができ、好ましくは1日〜8日とすることができる。この貯蔵時間は正極活物質種に応じて調整してよく、例えば、正極活物質としてリチウム−遷移金属複合酸化物を用いる場合、5時間〜8日とすることができ、好ましくは1〜7日とすることができる。また、例えば、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを用いる場合、5時間〜10日とすることができ、好ましくは5〜8日とすることができる。初充電を行ってから高温貯蔵を開始するまでの時間には特に制限は無く、任意に設定することができる。
【0109】
前記高温貯蔵期間中、仮封止二次電池を開回路状態で貯蔵すると自己放電により負極電位は高くなっていく。ここで、貯蔵中該電池を略継続的に充電することによって定電位で貯蔵すると、貯蔵後に電池容量が大きく低下してしまうため、定電位での貯蔵、例えば、トリクル充電やフロート充電は行わない方が好ましい。自己放電容量の一部を補填するために、前記貯蔵中に自己放電量の10%程度の充電を間欠的に行ってもよいが、開回路状態で貯蔵することが最も好ましい。
【0110】
なお、本発明の「仮封止二次電池の負極電位を0.8Vより高く1.4V以下の電位に調整し、50℃以上80℃未満の雰囲気中で貯蔵する」とは、前記高温貯蔵期間中、負極電位を前記範囲に維持する必要があることを意味するものではなく、充電終止時の負極電位を前記電位範囲としておけば、貯蔵期間中に負極電位が上昇して前記電位範囲外となるものも包含する。このような場合であっても本願発明の効果が得られる。
【0111】
(第3の工程)
次に、外装部材の一部を切断するか、又は穴を開け、第2の工程において外装部材の中に滞留した気体を外部に排出する。例えば、仮封止部の内側であってヒートシールされていない部分である開封部の何れかの位置においてラミネートフィルムを切断することにより、外装部材を開封することができる。開封は減圧下で行うことが好ましく、また、不活性雰囲気下又は乾燥空気中で行うことが好ましい。
【0112】
外装部材を開封した後、減圧チャンバーなどを用いて非水電解質二次電池を減圧雰囲気下においてもよく、或いは、吸引ノズルを用いて外装部材の開封口又は穴から気体を吸引してもよい。これらの方法によれば、外装部材内部の気体をより確実に排出することができる。
【0113】
気体を排出した後、開封部の切断部より内側で外装部材をヒートシールすることにより本封止部を形成して、電極群及び非水電解質を再び密封する。さらに、本封止部の外側で開封部を切断する。これにより非水電解質二次電池が得られる。このとき、減圧下で密封することが好ましい。或いは、外装部材の穴をあけた箇所に粘着テープなどを貼り付けて密封してもよい。コンディショニングを行わない場合であっても、充電工程後に開封、ガス抜き、再封止を行ってもよい。
【0114】
得られた非水電解質二次電池は、任意に、充放電を1回以上行ってもよい。また、常温や高温でさらに貯蔵をおこなってもよい。コンディショニング処理(第2の工程、又は、第2の工程+第3の工程)を複数回行ってもよい。
【0115】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0116】
実験1
(実施例1)
<正極の作製>
正極活物質としてリン酸鉄リチウム(LiFePO
4)粉末、アセチレンブラック、及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)のN−メチルピロリドン(NMP)溶液を、質量比がLiFePO
4:アセチレンブラック:PVdF=83:10:7となるように混合し、NMPを加えて正極合剤スラリーを調製した。この正極合剤スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体に片面あたりの活物質量が9.5mg/cm
2となるように両面に塗布した。塗布後に、乾燥、プレスして合剤密度が1.9g/cm
3になるように正極を作製した。その後130℃で8時間減圧乾燥を行った。
【0117】
<負極の作製>
負極活物質としてスピネル構造を有するチタン酸リチウム(Li
4Ti
5O
12、リチウム吸蔵電位=1.55V対Li/Li
+、比表面積=10.9m
2/g、平均二次粒子径=7.4μm、平均一次粒径=0.8μm)の粉末、アセチレンブラック、及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)のN−メチルピロリドン(NMP)溶液を、質量比がLi
4Ti
5O
12:アセチレンブラック:PVdF=87.0:4.3:8.7となるように混合し、NMPを加えて負極合剤スラリーを調製した。このスラリーを厚さが20μmのアルミ箔からなる集電体に片面あたりの活物質量が8.0mg/cm
2となるように両面に塗布した。塗布後、乾燥、プレスして合剤密度が1.8〜2.0g/cm
3になるように負極を作製した。その後130℃で8時間減圧乾燥を行った。活物質の平均二次粒子径はレーザー回折法(堀場製作所製 レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA‐950)にて測定し、 一次粒子は電子顕微鏡法(日立ハイテクノロジーズ製走査電子顕微鏡 S‐4800、100個の平均)で求めた。比表面積については、比表面積測定装置(モノソーブ:Quantachrome Instruments社製)を用いて、窒素吸着によるBET一点法にて測定した。
【0118】
<電極群の作製>
シート状正電極と、厚さ50μmのレーヨンからなるセパレータと、上記で作製したシート状負電極と、セパレータとを、この順序で交互に積層して絶縁テープで固定した。固定後に正極、及び負極の集電体に厚さ20μmのアルミニウム箔からなるリードタブを溶接した。得られた電極群は幅が36mmで、厚さが3.9mmの偏平状電極群だった。
【0119】
<非水電解液の調製>
溶媒(a)エチレンカーボネート(EC)と溶媒(b)プロピレンカーボネート(PC)と溶媒(c)メチルエチルカーボネート(MEC)の混合溶媒(混合体積比5:35:60)に、リチウム塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を0.5モル/リットル、四フッ化硼酸リチウム(LiBF
4)を0.2モル/リットルとなるように溶解した溶液を調製した。これを電解液Aとした。
【0120】
<第1の工程>
第1の工程として、ラミネートフィルムからなる外装部材に、上記で作製した電極群を、その正負極端子が一辺から延出した状態で収容し、80℃で8時間真空乾燥した。該外装部材中に非水電解液Aを注入し、電極群に含浸させた。次いで、ラミネートフィルムの開口部をヒートシールにより仮封止して密封し、仮封止二次電池を得た。
【0121】
この仮封止電池に用いた正極の実電気容量Pと負極の実電気容量Nを上述した方法で測定した結果、P=1.42mAh/cm
2、N=1.33mAh/cm
2であった。従って、この仮封止電池は正負極容量比R=N/P=0.94であり、設計容量は460mAhである。
【0122】
<第2の工程>
第2の工程として、仮封止二次電池を2枚の押し板で挟みクリップで固定することで加圧をして3時間放置後、その負極端子と正極端子の間に電流を流し0.25C(115mA)で負極電位が1.0Vになるまで、常温下(25℃)で充電を行った。このときのセル電圧は2.5Vであった。
【0123】
引き続き、前記初充電済みの仮封止二次電池を温度55℃の雰囲気(恒温槽)中、開回路状態で168時間貯蔵した。
【0124】
第3の工程として、貯蔵後の仮封止二次電池を周囲温度まで冷却し、ラミネートフィルムの一部を切り取って減圧チャンバーに入れ、気体を排出した。次いで、ラミネートフィルムの一部をヒートシールにより再度密封(本封止)した。このようにして、仮封止電池の作製及びコンディショニングを経た、幅が60mmで、厚さが3.9mm、かつ高さが83mmである、実施例1の非水電解質二次電池を作製した。
【0125】
(実施例2〜27、比較例1〜18)
非水電解質として、表1、2に記載の非水電解液B〜AA、AB〜ASを用いた以外は、実施例1と同様な方法にて実施例2〜27、比較例1〜18の非水電解質二次電池を製造した。表1中、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)の電解液中の濃度をxモル/リットル、四フッ化硼酸リチウム(LiBF
4)の濃度をyモル/リットル、溶媒(a)エチレンカーボネート(EC)の溶媒に占める濃度をa体積%、溶媒(b)プロピレンカーボネート(PC)の溶媒に占める濃度をb体積%、溶媒(c)メチルエチルカーボネート(MEC)の溶媒に占める濃度をc体積%で表す。a+b+c=100体積%となるようにした。実施例12では、溶媒(b)としてプロピレンカーボネートに代えてγ−ブチロラクトンをb体積%用い、実施例13では、溶媒(c)としてメチルエチルカーボネートに代えてジエチルカーボネートをc体積%用いた。なお、添加剤として、実施例21にはビニレンカーボネート(VC)、実施例22にはスクシノニトリル(SCN)、実施例23にはエチレンサルファイド(ES)、実施例24には1,3−プロパンスルトン(PS)をそれぞれ電解液に対して2質量%添加した。
【0128】
<測定>
上記のようにして作製した実施例1〜27及び比較例1〜18の非水電解質二次電池について、以下の測定を行った。
【0129】
<放電容量測定>
非水電解質二次電池を、温度25℃の恒温槽に保存して温度を安定化させた後、一度SOC0%まで放電する(1C、終止電圧1.0V)。30分休止させた後、1Cで2.5Vまで定電流充電し、30分休止させた後、1Cで1.0Vまで放電したときの容量を放電容量とする。この条件で、コンディショニング工程後に放電容量測定を行ったものを初期容量とした。
【0130】
<高温サイクル試験>
非水電解質二次電池を、温度55℃の恒温槽に投入し、前記容量測定と同じ充放電条件(充電:1C−終止電圧2.5V、休止:30分、放電:1C−終止電圧1.0V、休止:30分)で500サイクルの充放電を行った。500サイクル後に再度前記放電容量測定を行ってサイクル後容量を求め、放電容量維持率(=サイクル後容量/初期容量)を算出した。結果を表3、4に示す。
【0131】
<ガス発生量測定>
非水電解質二次電池を500ミリリットルの水の入ったメスシリンダー内にいれて、電池の体積を測定した。前記初期容量測定後と前記高温サイクル試験500サイクル後に電池体積を測定し、その体積変化量をガス発生量とした。その結果も合わせて表3、4に示す。
【0134】
表3、4からわかるように、エチレンカーボネートを含有しない比較例14、四フッ化硼酸リチウムを含有しない比較例15、エチレンカーボネートと鎖状カーボネートを含まない比較例17、エチレンカーボネートと環状カーボネートを含まない比較例18では3ミリリットルを超えるガス発生が認められた。なお、比較例16は電池として機能しなかった。その他の実施例及び比較例では、ガス発生量は1.5ミリリットル以下であり、大幅にガス発生が低減されていた。また、実施例は、いずれも500サイクル後の放電容量維持率が90%以上であり、ガス発生の低減と合わせ、高温サイクル特性に優れることがわかる。一方、0.5モル/リットルを超える四フッ化硼酸リチウムを含む比較例7〜10及び13では、ガス発生量の低減は認められたものの、500サイクル後の放電容量維持率が90%を下回っており、容量低下が早い傾向が見られた。
【0135】
実験2
(実施例28)
<正極の作製>
正極活物質としてリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2)粉末、アセチレンブラック、及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)のN−メチルピロリドン(NMP)溶液を、質量比がLiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2:アセチレンブラック:PVdF=92:4:4となるように混合し、NMPを加えて正極合剤スラリーを調製した。この正極合剤スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体に片面あたりの活物質量が9.8mg/cm
2となるように両面に塗布した。塗布後に、乾燥、プレスして合剤密度が2.5g/cm
3になるように正極を作製した。その後130℃で8時間減圧乾燥を行った。
【0136】
リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物を活物質として用いた前工程で作製した正極と、電解液Kを使用し、<第1の工程>で設計容量を400mAhとしたこと、<第2の工程>で、充電を0.25C(100mA)で行い、充電電圧を3.1V(このときの負極電位は1.0V)、放電電圧を1.4Vとした、こと以外は、実施例1と同様の方法にて実施例28の非水電解質二次電池を作製した。
【0137】
(比較例19)
電解液AOを使用したこと以外は、実施例28と同様の方法にて比較例19の非水電解質二次電池を作製した。
【0138】
(比較例20)
電解液APを使用したこと以外は、実施例28と同様の方法にて比較例20の非水電解質二次電池を作製した。
【0139】
<測定>
上記のようにして作製した実施例28、比較例19,20の非水電解質二次電池について、以下の測定を行った。
【0140】
<放電容量測定>
非水電解質二次電池を、温度25℃の恒温槽に保存して温度を安定化させた後、一度SOC0%まで放電する(1C、終止電圧1.4V)。30分休止させた後、1Cで3.1Vまで定電流充電し、30分休止させた後、1Cで1.4Vまで放電したときの容量を放電容量とする。この条件でコンディショニング後に放電容量測定を行ったものを初期容量とした。
【0141】
<高温サイクル試験>
非水電解質二次電池を、温度55℃の恒温槽に投入し、前記容量測定と同じ充放電条件(充電:1C−終止電圧3.1V、休止:30分、放電:1C−終止電圧1.4V、休止:30分)で500サイクルの充放電を行った。500サイクル後に再度前記放電容量測定を行ってサイクル後容量を求め、放電容量維持率(=サイクル後容量/初期容量)を算出した。結果を表5に示す。
【0142】
<ガス発生量測定>
実験1と同様の方法で測定を行った。結果を表5に合わせて示す。
【0144】
実施例28はエチレンカーボネート及び四フッ化硼酸リチウムをそれぞれ適量含有する電解液を用いることで、ガス発生を抑制でき、放電容量維持率も高いことがわかる。一方、比較例19はエチレンカーボネートを含まない電解液の場合、比較例20は四フッ化硼酸リチウムを含まない電解液の場合であるが、いずれの場合も実施例28と比較して多量のガス発生が認められた。また、500サイクル後の放電容量維持率が90%を下回っており、容量低下が早い傾向が見られた。表3と表5の対比からわかるように、正極活物質としてリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物を用いた場合であっても、リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)を正極活物質に用いた実験1の場合と同傾向の特性を示すことが認められた。他の種類の正極活物質を用いた場合でも、同様の効果が期待される。
【0145】
実験3
(実施例29)
<作用極の作製>
活物質として、実験1で用いたものと同じスピネル構造を有するチタン酸リチウムの粉末、導電剤としてのアセチレンブラックを混合した後に、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)のN−メチルピロリドン(NMP)溶液を加えて混合し、NMPを加えたのち、撹拌・脱泡装置(あわとり練太郎:(株)シンキー社製)で、2000rpmで3分間撹拌し、2200rpmで30秒間脱泡を2回行った。その後、2000rpmで5分間撹拌し、2200rpmで30秒間脱泡を1回行い、合剤スラリーを調製した。質量比はLi
4Ti
5O
12:アセチレンブラック:PVdF=89.3:4.5:6.2である。次に、得られた合剤スラリーを、厚さが20μmのアルミ箔からなる集電体に、片面当りの活物質量が3.0mg/cm
2となるように片面に塗布した。乾燥後、合剤密度が1.8〜2.0g/cm
3になるようにプレスし、電極材料を直径12mmの円形に切り出して作用極を作製した。その後130℃で8時間減圧乾燥を行った。
【0146】
<非水電解液の調製>
表1の電解液Aを使用した。
【0147】
<評価セルの作製>
この作用極を露点−70℃以下のグローブボックス中で、密閉可能なコイン型評価用セルに組み込んだ。評価用セルには、材質がステンレス製(SUS316)で外径20mm、高さ3.2mmのものを用いた。対極(兼参照極)には厚み0.5mmの金属リチウム箔を直径12mmの円形に成形したものを用いた。上記で作製した作用極は評価用セルの下部缶に置き、その上に、厚さ20μmのポリプロピレン製の微多孔膜と、前記金属リチウム箔とを、この順序で、作用極の合剤層がセパレータを介して金属リチウム箔に向き合うように積層した後、その上から非水電解液を滴下し、電極群に非水電解質を含浸させた。さらにその上に厚み調整用の0.5mm厚スペーサー及びスプリング(いずれもSUS316製)をのせ、ポリプロピレン製ガスケットのついた上部缶を被せて外周縁部をかしめて密封し、評価セルを組み立てた。設計容量は、0.497mAhだった。
【0148】
前記組み立てたセルを、3時間放置後、その作用極端子と対極端子の間に0.25C(0.124mA)で電流を流しセル電圧が1Vになるまで、25℃で充電を行った。その後0.25C(0.124mA)で電流を流しセル電圧が3Vになるまで、25℃で放電を行った。これを2度行い、評価セルとした。なお、実験3においては、チタン酸リチウムにリチウムイオンが吸蔵される側を充電と呼ぶ。
【0149】
(実施例30〜55、比較例21〜38)
非水電解質として、電解液Aに代えて表1、2に記載の非水電解液B〜AA、AB〜ASを用いた以外は、実施例29と同様な方法にて実施例30〜55、比較例21〜38の評価セルを製造した。
【0150】
<低温充放電特性評価>
上記手順で作製した実施例29〜55及び比較例21〜38の評価セルに対し、まず、25℃での放電容量を求める。具体的には、電流値0.5C(0.248mA)で1Vまで定電流充電し、30分休止後、0.5C(0.248mA)で3Vまで定電流放電した。この時の放電容量を25℃容量とした。次に、測定温度−40℃での放電容量を求める。評価セルを−40℃の恒温槽に投入し6時間保持したあとに、0.5C(0.248mA)で1Vまで定電流充電し、30分休止後、0.5Cで3Vまで定電流放電した。この時の放電容量を−40℃容量とした。そして、容量維持率=−40℃容量/25℃容量を算出した。結果を表6、7に示す。
【0153】
実施例は、いずれも容量維持率が40%以上であり低温特性に優れることがわかる。一方、エチレンカーボネート配合量が20体積%を超える比較例21〜26及び30〜32、四フッ化硼酸リチウムの濃度が0.5モル/リットルを超える比較例27〜30及び33の容量維持率は35%未満であり、実施例と比較して−40℃での放電特性に劣ることがわかる。比較例34、35は容量維持率は高いものの、実験1で示した通り高温サイクル時に著しいガス発生が認められており、高温特性と両立できないことがわかる。なお、比較例36は電池として機能しなかった。
【0154】
実験1〜3の結果から、負極活物質として高電位のチタン酸化物を用いたときに、高温サイクル時のガス発生の抑制及び容量維持率低下の抑制と、低温充放電特性を両立するためには、本発明の電解液が好適であることがわかる。
【0155】
また、(a)エチレンカーボネートの割合aと(b)環状カルボン酸エステル又は炭素数が4以上の環状カーボネートの割合bがb≧aである電解液A〜Zを用いると、特に低温充放電特性が高まることがわかる。
【0156】
さらに、(c)鎖状カーボネートの割合cと、前記a,bが(a+b)≦cを満たす電解液A〜Yを用いると、一層低温充放電特性が高まることがわかる。
【0157】
なかでも、エチレンカーボネートの配合量aが5〜10体積%であり、四フッ化硼酸リチウム濃度が0.05〜0.3モル/リットルである電解液G,H,J,K,R及びSでは、高温サイクル時の容量維持率と低温充放電特性を特に高度に両立できることがわかる。
【0158】
また、電解液添加剤としてVC、SCN、ES又はPSをそれぞれ添加した電解液S〜Vでは、一層高温サイクル時のガス発生量を低減することができることがわかる。
【0159】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。