特許第6232078号(P6232078)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232078
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】Cu2XSnY4ナノ粒子
(51)【国際特許分類】
   C01G 19/00 20060101AFI20171106BHJP
   H01L 31/072 20120101ALN20171106BHJP
【FI】
   C01G19/00 A
   C01G19/00 Z
   !H01L31/06 400
【請求項の数】21
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-562398(P2015-562398)
(86)(22)【出願日】2014年3月13日
(65)【公表番号】特表2016-516653(P2016-516653A)
(43)【公表日】2016年6月9日
(86)【国際出願番号】IB2014001140
(87)【国際公開番号】WO2014140900
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2015年10月1日
(31)【優先権主張番号】61/799,456
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509295262
【氏名又は名称】ナノコ テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グレスティ,ナタリー
(72)【発明者】
【氏名】ハリス,ジェームス
(72)【発明者】
【氏名】マサラ,オンブレッタ
(72)【発明者】
【氏名】ピケット,ナイジェル
(72)【発明者】
【氏名】ワイルド,ローラ
(72)【発明者】
【氏名】ニューマン,クリストファー
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/071288(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/098369(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/066205(WO,A1)
【文献】 特開2010−058984(JP,A)
【文献】 特表2010−525597(JP,A)
【文献】 特表2013−504506(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/136562(WO,A1)
【文献】 A. Singh, H. Geaney, F. Laffir, and K. M. Ryan,Colloidal Synthesis of Wurtzite Cu2ZnSnS4 Nanorods and Their Propendicular Assembly,Journal of The American Chemical Society,米国,The American Chemical Society,2012年 1月30日,vol134,p2910-2913
【文献】 X. Zhang, N. Bao, K. Ramasamy, B. Lin, and A. Gupta,Colloidall Synthesis of Wurtzite Cu2FeSnS4 Nanocrystals,Photovoltalic Spericalists Conference,米国,2012年 6月 3日,2012 38th,p1967-1969
【文献】 X. Lu, Z. Zhuang, Q. Peng and Y. Li,Wurtzite Cu2ZnSnS4 nanocrystals: a novel quanternary semiconductor,Chem. Comun.,UK,The Royal Society of Chemistry,2011年 1月 1日,2011,p3141-3143
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 19/00
H01L 31/072
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuXSnYナノ粒子の製造プロセスであって、
50℃以下の第1温度の溶媒中にて、易除去性オルガノカルコゲンを含む第1カルコゲン前駆体の存在下で、銅前駆体とX前駆体とスズ前駆体を混合して、反応混合物を作る工程
前記反応混合物を前記第1温度から第2温度に加熱して、前記銅前駆体、前記X前駆体、前記スズ前駆体、及び前記第1カルコゲン前駆体からCuXSnYナノ粒子を作る工程と、
を含んでおり、
Xは、Zn、Cd、Hg、Ni、Co、Mn、又はFeであり、
Yは、S、Se、又はそれらの組合せであり、
前記ナノ粒子は、前記易除去性オルガノカルコゲンからなる表面コーティングを有する、プロセス。
【請求項2】
前記銅前駆体は、酢酸塩、アセチルアセトナート又は塩化物である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記X前駆体は、酢酸塩、アセチルアセトナート、塩化物又はステアリン酸塩である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記X前駆体は、酢酸亜鉛(II)である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記X前駆体は、酢酸カドミウム(II)である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
前記X前駆体は、鉄(II)アセチルアセトナートである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
前記X前駆体は、鉄(III)アセチルアセトナートである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
前記スズ前駆体は、塩化物である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
前記溶媒がジクロロメタンである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
前記スズ前駆体は、酢酸スズ(IV)、スズ(IV)ビス(アセチルアセトナート)ジクロリド、又はトリフェニル(トリメチル)スズである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項11】
前記溶媒は、非配位性溶媒である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項12】
前記溶媒は、1−オクタデセンある、請求項1に記載のプロセス。
【請求項13】
前記第2の温度は、180℃〜300℃の間である、請求項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記第2の温度は、220℃〜240℃の間である、請求項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記第1カルコゲン前駆体が、1−オクタンチオール、1−ドデカンチオール、t−ドデカンチオール、2−ナフタレンチオール、1−オクタンセレノール、又は1−ドデカンセレノールを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項16】
さらに第2のカルコゲン前駆体を添加する工程を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項17】
前記第2のカルコゲン前駆体は、トリオクチルホスフィンスルフィド又はトリオクチルホスフィンセレニドである、請求項16に記載のプロセス。
【請求項18】
式CuXSnYの半導体材料であって、Xは、Zn、Cd、Hg、Ni、Co、Mn、又はFeであり、Yは、S、Se、又はそれらの組合せである、半導体材料と、
第1及び第2の易除去性オルガノカルコゲンリガンドからなる表面コーティングと、
を含む、ナノ粒子。
【請求項19】
Xは、Zn、Cd及びFeの少なくとも1つである、請求項18に記載のナノ粒子。
【請求項20】
Yは、硫黄である、請求項18に記載のナノ粒子。
【請求項21】
前記第1及び第2の易除去性オルガノカルコゲンリガンドが、1−オクタンチオール、1−ドデカンチオール、t−ドデカンチオール、2−ナフタレンチオール、1−オクタンセレノール、1−ドデカンセレノール、トリオクチルホスフィンスルフィド、又はトリオクチルホスフィンセレニドを含む、請求項18に記載のナノ粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液相での光起電(PV)装置の製造に有用な材料(及びその製造プロセス)に関する。より詳細には、本発明は、薄膜オプトエレクトロニクスデバイスで利用可能なCuXSnYナノ粒子(式中、Xはdブロック金属であり、Yはカルコゲンである)の簡単でスケーラブルな低温コロイド合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄膜光起電デバイス中の吸収層としての用途に、Cu(In,Ga)Se(CIGS)材料が広く研究されてきた。これは、これら材料は、バンドギャップ(CuInSeの1.1eV〜CuGaSeの1.7eV)が元素比の変更で調整可能で、太陽スペクトルによく一致しており、さらには、かなり高い変換効率を与えるためである。ドイツのZSWと太陽エネルギー水素研究センターの研究者によって、Cu(InGa1−x)Se材料を用いて20.3%の変換効率が得られている(2010年8月)。CIGS材料の一つの欠点は、構成元素が高コストであるため製造コストが高いことである。ZnとSnは、Gaやより希少なInよりもはるかに安価であり、また供給量も多く低毒性であることから、CuZnSnS(CZTS)材料を従来のCu(In,Ga)Seの低コスト代替物として使用することができる。
【0003】
最近、この材料の直接バンドギャップを調べる努力が払われている。CZTSは、1.45〜1.6eVのバンドギャップを有しており[H.Katagiri et al.,Appl.Phys.Express,2008,1,041201;K.Ito et al.,Jpn.J.Appl.Phys.,1988,27(Part 1),2094;T.M.Friedlmeier et al.,Proc.14th European PVSEC,Barcelona,Spain,30 June 1997,p.1242]、さらには、、CuInGaSeのものに匹敵する、高い光吸収係数(最大で10cm−1)を有すること[G.S. Babu et al.,J. Phys.D:Appl.Phys.,2008,41,205305]が報告されている。純粋なCuZnSnSの現在の変換効率記録は8.4%であって[B.Shin et al.,Prog.Photovolt.:Res.Appl.,2013,21,72]、このことは、この材料の大きな可能性を示している。
【0004】
同類の化合物も興味がもたれており、当該化合物では、Znが部分的又は完全に他のdブロック元素で置換されており、Snが14族元素で置換され、及び/又はSが部分的又は完全に他のカルコゲンで置換されている。その例には、CuZnSnSe、CuZnSnTe、CuCdSnSe、CuCdSnTe[H.Matsushita et al.,J.Mater.Sci.,2005,40,2003]や、CuFeSnS[X.Zhang et al.,Chem.Commun.,2012,48,4656]、Cu2+xZn1−x GeSe[W.G.Zeier et al.,J.Am.Chem.Soc.,2012,134,7147]があげられる。SchaferとNitscheが報告しているように、CuCoSiSeとCuNiSiSeを除いて、式Cu−II−IV(S,Se)(II=Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Cd、Hg;IV=Si、Ge、Sn)で表される全ての化合物が合成されており、そのバルク状態の構造が決定されている[W.Schafer and R.Nitsche,Mat.Res.Bull.,1974,9,645]。Zn、Sn及び/又はSの置換は必ずしも経済的メリットを与えないが、これらの化合物は、活用可能な一連の熱力学的、光学的、電気的性質を与えるのでオプトエレクトロニクス用途に魅力がある。例えば、CuZn1−xCdSn(Se1−yは、0.77eV(x=0.5、y=0)から1.45eV(x=0、y=1)に調整可能なバンドギャップを持ち、p型の導電性を示す半導体である[M.Altosaar et al.,Phys.Stat.Sol.(a),2008,205,167]。CuZnSnSeとCuCdSnSeとCuZnSnSの初期の研究は、Zn/CdサイトをCuでドープすることで、それらの熱電性能が上げられることを示している[C.Sevik and T.Cagin,Phys.Rev.B,2010,82,045202]。他の研究では、これらの材料の結晶相の操作[X.Zhang et al.,Chem.Commun.,2012,48,4656]と、得られる電子的特性の変化[W.Zalewski et al.,J.Alloys Compd.,2010,492,35]とに焦点が向けられている。
【0005】
電力変換効率(PCE)が高いCIGS型及びCZTS型太陽電池の製造方法は、吸収層の真空蒸着を採用することが多い。真空ベースの手法は通常、高均一性を与え、このため高品質フィルムを与える。しかしながら、これらの手法では一般に材料消費量とエネルギー使用量が大きくて、高コストである。非真空ベースの手法は、通常効率が高く堆積コストが低いため魅力がある。このような方法の一つは、ナノ粒子を用いる堆積方法である。ナノ粒子は、薄膜オプトエレクトロニクス用途に関して、バルク材料と比べて多くの利点を与える。第1には、小量のナノ粒子材料を、溶媒に溶解又は分散させて、例えばスピンコート法、スリットコート法又はドクターブレード法で基板上に印刷できる。気相法又は気化法は、はるかに高コストであり、高温及び/又は高圧を必要とする。第2には、ナノ粒子は密に充填でき、融解で容易に融合する。融合により、ナノ粒子はより大きな粒子を形成できる。また、ナノ粒子の融点は、バルク材料のものより低いので、デバイス製造にてより低い加工温度が可能となる。最後に、ナノ粒子は、コロイド溶液中で合成可能である。コロイド状ナノ粒子を有機リガンド(キャッピング剤)でキャップしてもよい。これにより粒子の溶解が促進されて材料の加工が容易となる。
【0006】
ナノ粒子は、トップダウン法又はボトムアップ法で合成可能である。トップダウン法では、マクロ粒子を例えばミリング法で処理して、ナノ粒子を形成する。この粒子は通常不溶であり、このため加工が難しく、ミリングの場合、サイズ分布が大きいことがある。ナノ粒子が原子一個一個ずつで成長させられるボトムアップ法を用いると、均一なサイズ分布の小さな粒子が生産できる。溶液中でナノ粒子を成長させるのにコロイド合成が使用でき、溶解性、またこのため溶液加工性を与えるためにナノ粒子を有機リガンドで不動態化することもできる。
【0007】
CZTSナノ粒子のコロイド合成は先行技術に記載されている。CuXSnYナノ粒子(式中、Xはdブロック元素であり、Yはカルコゲンである、以下「CXTY」と称す)のコロイド合成の報告は少ないが、多くの例が存在する。
【0008】
Ou等は、オレイルアミンに溶解したCuとSnとZnのステアリン酸塩の溶液を、チオ尿素とオレイルアミンとオクタデセンの混合物中に270℃で熱注入する、CuZnSn(SSe1−xナノ粒子の合成を記載している[K.−L.Ou et al.,J.Mater.Chem.,2012,22,14667]。
【0009】
CuZnSnSe4x+2yナノ粒子の熱注入合成が、Shavel等により報告されている[A.Shavel et al.,J.Am.Chem.Soc.,2010,132,4514]。ヘキサデシルアミンとオクタデセンの混合物に溶解したCuとZnとSn塩の溶液に、295℃でトリオクチルホスフィンセレニドが注入された。
【0010】
CuFeSnSナノ粒子の製造が、Zhang等により報告されている[X.Zhang et al.,Chem.Commun.,2012,48,4656]。より適度な温度(150℃)で、1−ドデカンチオールとt−ドデカンチオールの混合物が、Cu塩、Fe塩、Sn塩のオレイルアミン溶液に注入された。次いでこの溶液を210℃に加熱してウルツ鉱ナノ結晶を得た。閃亜鉛鉱(zinc blende)ナノ結晶を合成するため、この溶液を310℃に加熱し、オレイルアミンをオレイン酸及びオクタデセンで置き換えた。
【0011】
先行技術に記載のCXTYナノ粒子材料のコロイド製造方法は、一つ以上の欠点をもつ。例えば、熱注入の使用及び/又は高沸点キャッピング剤(リガンド)の使用である。
【0012】
均一なサイズ分布を持つ微小ナノ粒子の合成に、熱注入法を使用できる。この方法は、小体積の前駆体を大体積の溶媒に高温で注入して行う。この高温が前駆体の分解を引き起こして、ナノ粒子の核形成を開始させる。しかしながら、これらの方法は、単位体積の溶媒当たりの反応収率の低下を導き、これらの反応を工業規模にまで拡大することを難しくする。
【0013】
他の先行技術の方法は、高沸点リガンドを、例えばオレイルアミン、ヘキサデシルアミン又はオレイン酸を使用する。有機リガンドは、溶液加工性を上げるためにナノ粒子の溶解を助けるが、残留炭素は吸収層のオプトエレクトロニクス性能に有害であるため、これらを焼結の前に、例えば気化させて除く必要がある。従って、好ましくは、何れのキャッピングリガンドの沸点もCXTYフィルムの焼結温度よりも十分に低いことが好ましい。
【0014】
従って、工業規模にまで拡大可能であって、比較的低沸点のリガンドでキャップされたCXTYナノ粒子の製造方法であって、低温オプトエレクトロニクスデバイスの加工に適した方法が求められている。
【発明の概要】
【0015】
CuXSnY(CXTY)ナノ粒子(式中、XはZn、Cd、Hg、Ni、Co、Mn又はFeであり、YはS又はSeである)を製造するための材料と方法が、本明細書に開示されている。このナノ粒子は、薄膜PVセル中で使用される膜の製造に使用できる。このCXTYナノ粒子はコロイド合成で製造される。開示された方法は、PV材料の大量生産(kg規模)まで拡大可能である点で、先行技術より優れている。このスケーラビリティが可能なのは、単位体積の反応液当たりの収率が高いためである。
【0016】
薄膜光起電用途では、この有機リガンドでキャップされたナノ粒子を溶液に溶解又は分散し、次いで印刷法又は塗布法を用いて基板上に塗布する。フィルムから炭素を除くために、焼成に先立ってデバイス作製条件下の熱処理でこのリガンドを除く必要がある。このため、このリガンドは易除去性(labile)であることが好ましい。本明細書に記載のプロセスは、易除去性リガンドでキャップされたナノ粒子、即ち適度な温度で容易にリガンドを除去可能なナノ粒子を提供する。本発明のプロセスは、易除去性オルガノカルコゲンの存在下で、銅前駆体とX(上述のような)前駆体とSn前駆体とを反応させることを含んでいる。このオルガノカルコゲンは、ナノ粒子材料のカルコゲン源(即ち、S又はSe)として、また易除去性の表面キャッピングリガンドとして働く。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本明細書に記載の方法によるCXTYナノ粒子の製造プロセスを要約して示すフローチャートである。
【0018】
図2図2は、本明細書に記載の方法によりCXTYナノ粒子からPV装置を製造するプロセスを要約して示すフローチャートである。
【0019】
図3図3は、実施例1.1に基づいて製造したCZTSeナノ粒子のX線回折(XRD)パターンを示す。これは、CZTSeスタンナイト(stannite)相及びCuSeウマンガイト(umangite)相とよく一致する。CZTSe材料によく見られる不純物であるウルツ鉱ZnSe[K.Yvon et al.,J.Appl.Cyst.,1977,10,73]を参考のために示すが、この材料中には存在していないようである。
【0020】
図4図4は、実施例1.1に基づいて製造された、1−オクタンセレノールでキャップされたCZTSeナノ粒子の熱質量分析(TGA)を示しており、当該分析は、65%無機物含有量を示している。
【0021】
図5図5は、実施例1.2に記載した、1−ドデカンセレノールを用いて合成したCZTSeナノ粒子のXRDパターンを示す。そのピーク位置は、ウルツ鉱結晶構造のZnSe[K.Yvon et al.,J.Appl.Cryst.,1977,10,73]とよく一致し、相対ピーク強度の差とピーク位置の小さなシフトは、ZnのCuとSnによる部分的置換によるものと考えられる。
【0022】
図6図6は、実施例1.2にて製造された、1−ドデカンセレノールでキャップされたCZTSeナノ粒子のTGAプロットであり、約200〜320℃の間でリガンドが除かれることを示している。
【0023】
図7図7は、実施例2.1にて製造されたCFTSナノ粒子のXRDパターンである。このピーク位置は、モースン鉱(mawsonite)CFTS[J.T.Szymanski,Canad.Mineral.,1976,14,529]によく一致する。
【0024】
図8図8は、実施例2.1にて製造された、1−ドデカンチオールでキャップされたCFTSナノ粒子のTGAプロットである。
【0025】
図9図9は、実施例3.1にて製造されたCZTSSeナノ粒子のXRDパターンである。そのピーク位置は、スタンナイトCZTSe[Olekseyuk et al.,J.Alloys Compd.,2002,340,141]によく一致する。
【0026】
図10図10は、方法4.1により製造したCCdTSeナノ粒子のXRDパターンである。そのピーク位置は、スタンナイトCCdTSe[Olekseyuk et al.,J.Alloys Compd.,2002,340,141]によく一致する。強度の低い未同定ピークは、小さな第2の相の存在を示唆している。
【発明を実施するための形態】
【0027】
出願人の併願中の米国特許出願61/798,084(2013年3月15日出願)は、オルガノチオールリガンドでキャップされたCZTSナノ粒子の合成について記載しており、この出願の全体は、引用を以て本明細書の一部となる。本明細書では、「CXTY」は、化学式CuXSnY(式中、Xはdブロック金属であり、Yはカルコゲンである)の化合物に言及する。なお、この化学式は、Cu:X:Sn:Yの比率が正確に2:1:1:4である化学量を示しているのではない。これらの比率は、単に推定値でしかないことは当業者には明らかであろう。本明細書では、「低温合成」は、前駆体のナノ粒子への変換を行うために反応液を300℃以下の温度、特に250℃以下、又は240℃以下の温度に加熱する加熱合成方法に言及する。加熱方法では、ナノ粒子を適度な温度、室温〜200℃で混合し、次いでこの反応液を加熱してナノ粒子を形成する。従って、低温合成は、前駆体がかなり低温で混合され、反応液中の前駆体の濃度が熱注入反応用の濃度よりかなり高いため、熱注入合成とは異なっている。
【0028】
上述のように、一般的にナノ粒子の表面は、有機リガンドでキャップされており、当該有機リガンドは、ナノ粒子の凝集を防止し、フィルム形成のためにナノ粒子の溶解と堆積とを助ける。一般的に、先行技術の方法は、高沸点リガンドを、例えばオレイルアミンを使用する。残留炭素は吸収層の性能に有害であるため、これらの有機リガンドを、焼結の前に、例えば気化により除く必要がある。本明細書に記載のプロセスの幾つかの態様は実質的に易除去性オルガノカルコゲンリガンドからなる表面コーティングを持つCXTYナノ粒子を提供する。本明細書では、「易除去性オルガノカルコゲン」は、沸点が300℃未満のオルガノカルコゲンをいう。幾つかの実施様態では、実質的に易除去性オルガノカルコゲンからなる表面コーティングをもつナノ粒子は、ナノ粒子が適度な温度に加熱されると容易にキャッピングリガンドを失う。幾つかの実施様態では、ナノ粒子が350℃に加熱されると、実質的に易除去性オルガノカルコゲンからなる表面コーティングの50%を超える量がナノ粒子表面から除かれる。本明細書に記載の方法で与えられる表面コーティングが先行技術に記載のものより低温で除去できるので、得られるナノ粒子はより容易に加工可能で、より高性能のフィルムを与える。実質的に易除去性有機カルコゲンからなる表面コーティングをもつ本明細書に記載のナノ粒子は、高沸点キャッピングリガンド、例えばオレイルアミン又はオレイン酸を有する先行技術に記載のCXTYナノ粒子より有利である。
【0029】
本明細書に開示のプロセスは、化学式CXTY(式中、Xはdブロック金属(例えば、Zn、Cd、Hg、Ni、Co、Mn又はFe)であり、Yはカルコゲン(例えば、S又はSe)である)のナノ粒子の比較的低温で高収率の合成を含んでいる。このCXTY材料は、CIGS材料の代わりに薄膜光起電デバイスの吸収層として使用できる。
【0030】
CXTYナノ粒子の形成プロセスの一例を、図1に示す。このプロセスは、(a)第1の温度である溶媒中でCu、X、及びSn前駆体を混合する工程と、(b)オルガノカルコゲンリガンドを添加する工程と、(c)第1の時間で第2の温度にまで加熱してCXTYナノ粒子を形成する工程と、(d)この反応混合物を冷却する工程と、(e)CXTYナノ粒子を分離する工程とを含んでいる。この図の方法を用いて、広範囲のCXTYナノ粒子材料を製造できる。
【0031】
適当なCu前駆体には、Cu(ac)やCu(ac)などの酢酸塩や、Cu(acac)などのアセチルアセトナート、CuClやCuClなどの塩化物が含まれるが、これらに限定されない。Xは1種以上のdブロック元素であり、その例には、Zn、Cd、Hg、Ni、Co、Mn及びFeが含まれるは、これらに限定されない。適当な前駆体には、Zn(ac)やCd(ac)、Cd(ac)・2HO、Hg(ac)、Ni(ac)・4HO、Co(ac)・4HO、Mn(ac)・2HO、Fe(ac)などの酢酸塩;Cd(acac)やNi(acac)、Ni(acac)、Co(acac)、Co(acac)、Mn(acac)、Mn(acac)、Fe(acac)、Fe(acac)などのアセチルアセトナート;ZnClやCdCl、HgCl、NiCl、CoCl、MnCl、FeCl、FeCl・4HO、FeCl、FeCl・6HOなどの塩化物;Zn(st)やNi(st)、Co(st)などのステアリン酸塩が含まれるが、これらに限定されない。
【0032】
適当なSn前駆体には、SnCl、SnCl・5HOなどの塩化物や、スズ(IV)アセテート、スズ(IV)ビス(アセチルアセトナート)ジクロリド、トリフェニル(トリメチル)スズが含まれるが、これらに限定されない」。取扱いの相対的な容易さや安全性のため、特に好適なSn前駆体は、SnClのジクロロメタン溶液である。ナノ粒子合成の際に蒸発させて、このジクロロメタン溶媒を除くことができる。
【0033】
この溶媒は、上記のCu、X、及びSnの前駆体を溶解又は分散させるのに使用される。幾つかの実施様態では、この溶媒はジクロロメタンである。他の適当な例には、特に限定されずに、1−オクタデセンやサーミノール(登録商標)66[イーストマンケミカル社]などの非配位性溶媒が含まれる。当業者には明らかなように、溶媒の沸点が、前駆体からCXTYナノ粒子への変換を行うのに必要な反応温度より低い場合、反応混合物を第2の(反応)温度に加熱する過程でこの溶媒を蒸発させる必要があるかもしれない。
【0034】
Cu、X、及びSnの前駆体が溶媒と混合される第1の温度は、溶媒の沸点より十分に低い。幾つかの実施様態では、この第1の温度は室温である。
【0035】
オルガノカルコゲンリガンドは、化学式R−Y−H(式中、Rはアルキル又はアリール基であり、Yは硫黄又はセレニウムである)で表される。幾つかの実施様態では、この有機カルコゲンリガンドが、反応溶媒としてまたナノ粒子キャッピングとして機能する。幾つかの実施様態では、このオルガノカルコゲンリガンドが、2種以上のオルガノカルコゲン化合物を含む。特定の実施様態では、相がそろったCXTYナノ粒子を合成し、その後の装置の作製中にリガンドを除去するために、このオルガノカルコゲンリガンドの沸点を180〜300℃の範囲にすることが望ましい。好適なオルガノカルコゲンリガンドの例には、1−オクタンチオールや1−ドデカンチオール、t−ドデカンチオール、2−ナフタレンチオール、1−オクタンセレノール、1−ドデカンセレノールが含まれるが、これらに限定されない。
【0036】
幾つかの実施様態では、このオルガノカルコゲンリガンドが、50℃以下の温度で、例えば室温で、CuとXとSnの前駆体とまた第1の溶媒と混合される。
【0037】
幾つかの実施様態では、2種以上のdブロック金属(X)及び/又は2種以上のカルコゲン(Y)を混合して合金材料を形成する。
【0038】
この反応混合物を第1の時間で第2の温度まで加熱して前駆体からCXTYナノ粒子への変換を行う。幾つかの実施様態では、この第2の温度が180〜300℃の範囲であり、例えば約220〜240℃である。第1の時間は、30分間〜5時間の範囲であり、例えば約1時間である。
【0039】
必要なら粒子成長を維持するために、合成中に第2のカルコゲン前駆体を反応液に加えてよい。適当な前駆体には、特に限定されずに、トリオクチルホスフィンスルフィドとトリオクチルホスフィンセレニドが含まれる。
【0040】
ナノ粒子の形成後、反応混合物を冷却してCXTYナノ粒子を分離する。このナノ粒子は、先行技術に既知の何れの方法ででも分離可能であり、例えば溶媒と非溶媒とを併用してナノ粒子を沈殿させ、次いでこのナノ粒子を遠心分離してもよい。適切な溶媒/非溶媒の組合せの例は、クロロホルムとアセトンや、ジクロロメタンとメタノールである。
【0041】
このCXTYナノ粒子は、処理されて光起電デバイスに組み込むことができる。CXTYナノ粒子を用いて薄膜を作るプロセスを図2に示す。この方法は、(a)CXTYナノ粒子を1種以上の溶媒に溶解又は分散させてインクを作製する工程と、(b)基板上にこのインクを塗付する工程と、(c)不活性雰囲気下で第1の温度で第1の時間熱処理してこのリガンドを除く工程と、(d)不活性雰囲気下で第2の温度で第2の時間熱処理してフィルムの結晶化を引き起こす工程と、(e)必要なら、カルコゲンに富む雰囲気下で第3の温度で第3の時間熱処理する工程とを含む。その後、次の層を堆積させることで、光起電デバイスを形成できる。
【0042】
CXTYナノ粒子は、当業者には既知の何れかの方法によって、例えば振とう、撹拌又は超音波処理によって、1種以上の溶媒に溶解又は分散可能である。幾つかの実施様態では、この溶媒は非極性である。その例には、トルエンやアルカン類(例えば、ヘキサン)、塩素化溶媒(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム等)、ケトン類(例えば、イソホロン)、エーテル類(例えば、アニソール)、テルペン類(例えば、α−テルピネン、リモネン等)が含まれるが、これらに限定されない。必要ならば、例えばバインダー、レオロジー改質剤等の他の添加物をインク製剤に加えて、そのコーティング特性を調整してもよい。
【0043】
当業者に既知の何れの方法で、このインクを基板上に塗布してもよい。その例には、スピンコート法やスリットコート法、ドロップキャスティング法、ドクターブレード法、インクジェット印刷が含まれるが、これらに限定されない。
【0044】
塗布の後にこのインクを第1の温度で熱処理して、インク製剤の溶媒やリガンドや他の有機成分を除去する。これにより、デバイス性能に有害となり得る炭素残渣がフィルムから除かれる。当業者には明らかなように、この第1の熱処理は、ナノ粒子インクの有機成分の沸点に依存する。特定の実施様態では、第1の熱処理温度が260〜350℃の範囲であり、例えば約300℃である。幾つかの実施様態では、第1の時間が、好ましくは3〜10分の範囲であり、例えば約5分である。幾つかの実施様態では、この第1の熱処理工程が不活性雰囲気下で行われる。
【0045】
これらのフィルムは、第2の温度で熱処理されて、CXTY層の結晶化が引き起こされる(焼成)。幾つかの実施様態では、この第2の熱処理温度は、第1の熱処理温度より高い。例えば、第2の熱処理温度は、350〜440℃の範囲であり、例えば約400℃である。特定の実施様態では、この第2の時間は、3〜10分の範囲であり、例えば約5分である。幾つかの実施様態では、この焼成工程は、不活性雰囲気下で行われる。
【0046】
上記のインク塗布の工程と第1及び第2の熱処理の工程とは、所望の膜厚が得られるまで繰り返されてよい。必要ならこれらのフィルムを、カルコゲンリッチな雰囲気下で熱処理してもよい。硫黄源の例には、HSや元素状硫黄が含まれるが、これらに限定されない。セレン源の例には、HSeや元素状セレニウムが含まれるが、これらに限定されない。幾つかの実施様態では、この第3の熱処理温度は、500〜600℃の範囲であり、例えば約550℃である。第3の時間は、例えば30分間〜3時間であり、特に約1〜2時間であってよい。
【0047】
PV装置を作るために他の層をCXTY層の上に堆積することもできる。CXTYナノ粒子の形成方法を、以下の例で説明する。
【実施例】
【0048】
[実施例1:CZTSeナノ粒子の合成]
【0049】
<実施例1.1 セレニウム前駆体として1−オクタンセレノールを用いるCZTSeナノ粒子の合成>
マグネチックスターラーと側枝(side-arm)付きの冷却器を備えた50mlの三口丸底フラスコ中で、1.0gのCu(ac)(8.2mmol;ac=アセテート)と、0.74gのZn(ac)(4.0mmol)と、4.1mlの1MのSnClジクロロメタン溶液(4.1mmol)を室温で撹拌した。5mlのジクロロメタンを加えて、これらの塩類を溶解/分散させて、灰色の溶液を得た。室温で窒素を流してこの混合物を脱気した。窒素下で1.5時間撹拌すると、この溶液はベージュ/クリーム色に変化した。このフラスコに11.6mlの1−オクタンセレノール(65.0mmol)を素早く注入した。この混合物は、瞬間的に濃赤色に変化した。温度を50〜55℃に上げて5分間保持して、冷却器の側枝に集まったジクロロメタンを蒸発除去した。この混合物は明るい金橙色に変化した。温度を140℃に上げると黒褐色のスラリーが生成した。温度を140℃で1時間保持した後、室温まで冷却した。生成物の黒色固体(1.63g)をクロロホルムとアセトンで分離した。この固体を遠心分離で捕集した。その粒子は非極性溶媒に分散可能であった。
【0050】
誘導結合プラズマ光学発光分光法(ICP−OES)での元素分析で、以下の元素比を得た:C 21.44%;H 3.78%;Cu 22.63%;Zn 4.50%;Sn 8.82%;Se 37.24%。Snを1とすると、これは、Cu4.79Zn0.92Sn1.00Se6.35の化学組成となり、この材料がCuとSeに富んでいることがわかる。上記セレノールリガンドは、総Se含量に寄与している。X線回折(XRD)分析(図3)は、CZTSeのスタンナイト相とウマンガイトCuSe不純物相の両方が存在していることを示す。薄膜PV用途では、銅セレニド不純物相が焼成フラックスとして働くことがある。後で、これらはKCNエッチングで選択的に吸収層から除くことが可能であり[Q.Guo et al.,Nano Lett.,2009,9,3060]、化学式通りの相純粋な(phase pure)CZTSeフィルムを与える。
【0051】
金属前駆体の比率を変えることで化学組成を調整できる。相の純度は、反応条件を制御することで達成可能である。例えば、金属アセテート前駆体を用いるCZTSナノ粒子のコロイド合成において、Kameyama等は、低温では銅セレニド不純物相が存在しており、反応温度を180℃より高くすることでこの不純物相を除くことができると報告している[T.Kameyama et al.,J.Mater.Chem.,2010,20,5319]。同様に本方法を用いて相純粋なCZTSeナノ粒子を合成するために、高い反応温度とCZTSe相の選択的形成を容易とする目的で、1−オクタンセレノールを、反応溶媒とリガンドの両方として作用する高沸点のセレノール前駆体に置き換えてもよい。好適な高沸点セレノール化合物には、1−ドデカンセレノールが含まれるが、これに限定されない。なお実施例1と実施例2では、純粋なウルツ鉱結晶構造をもつCZTSeナノ粒子が240℃で合成されている。
【0052】
熱質量分析(TGA、図4)から、この材料の無機物含有量がおよそ65%であることがわかる。このリガンドは300℃未満で完全に除かれるので、比較的低温でオプトエレクトロニクスデバイスの作製が可能となる。
【0053】
<実施例1.2 セレニウム前駆体として1−ドデカンセレノールを用いるCZTSeナノ粒子の合成>
マグネチックスターラーと側枝付きの冷却器とを備えた50mlの三口ナスフラスコ中で、1.00gのCu(ac)(8.2mmol)と、0.74gのZn(ac)(4.0mmol)とを窒素でパージした。5mlのジクロロメタンと4.1mlの1MのSnC14ジクロロメタン溶液(4.1mmol)を室温で窒素下にて90分間撹拌してベージュ色の懸濁液を得た。15mlの1−ドデカンセレノールを素早くこのフラスコに注入した。温度を50〜60℃に上げて、冷却器の側枝に集まったジクロロメタンを蒸発除去した。温度を240℃に上げ1時間保持した後、室温まで冷却した。生成物の黒色粉末(2.49g)をクロロホルム/アセトンとジクロロメタン/メタノールで分離し、遠心分離で捕集した。この粒子は非極性溶媒に分散可能であった。
【0054】
ICP−OESによる内在無機物の元素分析で、以下の元素比を得た:Cu 15.76%;Zn 7.53%;Sn 20.13%;Se 53.62%。Snを1とすると、これは、化学組成Cu1.46Zn0.67Sn1.00Se4.00に相当する。セレノールリガンドは合計Se含量に寄与し、このためこの材料はSnに富んでいると考えてもよい。金属前駆体の比率を変えることでこの化学組成を調整可能である。XRD分析(図5)は、ウルツ鉱結晶構造を示唆している。そのピーク位置は、ウルツ鉱ZnSeのものとよく一致する[K.Yvon et al.,J.Appl.Cryst.,1977,10,73]。ピーク位置の少しのシフトは、ZnのCuとSnでの部分的置換によるものである。四坐配位のZn2+のイオン半径は60pmであり、CuとSn4+のイオン半径はそれぞれ46pmと74pmである[C.E.Housecroft and E.C.Constable,Chemistry (3rd Edition);Pearson Education Limited:Harlow,2006;pp.1195−1197]。ZnSeのXRDパターンと比べて、CZTSeのXRDパターンの低角度への小さなシフトは、CuとSnの取り込んだ後のウルツ鉱単位セルの全体としての膨張を示唆する。ウルツ鉱ZnSeとCZTSeナノ粒子の相対ピーク強度の差は、一方向以上の方向での選択的な結晶成長を示唆する。
【0055】
図6に示すように、TGAは、1−ドデカンセレノールリガンドが約200℃で気化を開始し、約320℃で完全に除かれることを示す。350℃より高温でのさらなる質量減少は、無機物の消失による可能性がある。このことは、ドデカンセレノールでキャップされたCZTSeナノ粒子が比較的低温の熱処理(<350℃)に特に適していることを示唆している。
【0056】
[実施例2 CFTSナノ粒子の合成]
【0057】
<実施例2.1 鉄前駆体としてFe(acac)(acac=アセチルアセトナート)を用いるCFTSナノ粒子の合成>
50mlのマグネチックスターラーと側枝付きの冷却器とを備えた三口丸底フラスコ中で、1.0gのCu(ac)(8.2mmol)と、1.48gのFe(acac)(4.2mmol)と、4.1mlの1MのSnClジクロロメタン溶液(4.1mmol)とを室温で撹拌した。5mlのジクロロメタンを添加してこれらの塩類を溶解/分散させ、濃赤色の混合物を得た。この混合物に室温で1.5時間窒素を流して脱気し、このフラスコに15.5mlの1−ドデカンチオール(64.7mmol)を素早く注入した。この混合物は直ちに褐色に変化した。温度を60℃に上げて冷却器の側枝に集まったジクロロメタンを蒸発除去した。温度を220〜240℃に上げ、次いで1時間その温度に保持して撹拌し、室温まで冷却した。生成物の黒色粉末(1.57g)をクロロホルムとアセトンで分離した。この固体を遠心分離で集めて真空下で乾燥させた。この粒子は、非極性溶媒中に分散可能であった。
【0058】
ICP−OESによる元素分析で、以下の元素比を得た:C 15.12%;H 2.98%;Cu 35.31%;Fe 2.53%;Sn 16.15%;S 19.69%。Snを1とすると、これは、化学組成Cu4.08Fe0.33Sn1.001.51に相当し、この材料がCuに富んでおり、CuがFeの空格子点や格子間位置をドープしている可能性を示唆した。このチオールリガンドは総S含量に寄与している。XRD分析(図7)は、この材料が、特に明確な不純物相を持たず、モースン鉱結晶構造のCFTS[J.T.Szymanski,Canad.Mineral.,1976,14,529]に良く一致することを示す。前駆体の比率を変えることでその化学組成は調整可能である。
【0059】
TGA(図8)は、この材料の無機物含量量が600℃で約72%であることを示している。1−ドデカンチオールリガンドの消失は、250〜350℃での曲線の大きな負勾配で説明される。350℃を超える温度でのさらなる質量低下は、ナノ粒子からの元素状硫黄(沸点:444.7℃)の消失によるものと考えられる。このTGAは従って、薄膜オプトエレクトロニクス用途には低沸点リガンドが好ましいことを示している。これは、リガンドが、低沸点温度で、ナノ粒子からの無機硫黄の同時消失を伴うことなく除去可能であるからである。
【0060】
<実施例2.2 鉄前駆体としてFe(acac)を用いるCFTSナノ粒子の合成>
50mlのマグネチックスターラーと側枝付きの冷却器とを備えた三口丸底フラスコ中で、1.0gのCu(ac)(8.2mmol)と、1.06gのFe(acac)(4.2ml)と、4.1mlの1MのSnClジクロロメタン溶液(4.1mmol)とえお室温で攪拌した。5mlのジクロロメタンを添加してこれらの塩類を溶解/分散させて、暗褐色の混合物を得た。この混合物に、室温で1.5時間窒素を流して脱気した。このフラスコに15.5mlの1−ドデカンチオール(64.7mmol)を素早く注入した。混合物は、直ちに褐色に変化した。温度を60℃に上げて冷却器の側枝に集まったジクロロメタンを蒸発除去した。この混合物を240℃まで加熱した。170℃でこの混合物は、オレンジ色/褐色となり、さらに温度が上がると黒ずんできた。この溶液を次いで230〜240℃で1時間保持撹拌し、室温に冷却した。生成物の黒色固体(1.2g)をクロロホルムとアセトンで分離した。この固体を遠心分離で集めて真空下で乾燥させた。この粒子は、トルエンやシクロヘキサン、ヘキサンチオールなどの非極性溶媒に分散可能であった。
【0061】
ICP−OESによる元素分析で、以下の元素比を得た:C 18.68%;H 3.41%;Cu 38.25%;Fe 4.20%;Sn 12.49%;S 18.57%。Snを1とすると、これは化学組成Cu5.72Fe0.71Sn1.005.50に相当し、この材料がCuに富んでおり、CuがFeの空格子点や格子間位置をドープしている可能性を示唆した。このチオールリガンドは総S含量に寄与している。前駆体の比率を変えることでこの化学組成を調整可能である。
【0062】
[実施例3 CZTSSeナノ粒子の合成]
【0063】
本方法がCZTSeナノ粒子の合成に使用でき、また出願人の併願する米国特許出願61/798,084(2013年3月15日出願)にCZTSナノ粒子の合成が記載されている。故に、実施例3.1に示すように、1種以上のアルキル及び/又はアリールチオールと、1種以上のアルキル及び/又はアリールセレノール化合物とを組み合わせて使用して、化学式CuZnSn(S,Se)のナノ粒子材料を生産できることは、当業者には明らかであろう。材料の化学組成やそのバンドギャップは、チオール:セレノール比を制御することで調整可能である。反応温度の上限は、オルガノカルコゲン化合物の最低沸点により制限されるであろう。これらのオルガノカルコゲン化合物は、反応液への添加前に混合されてよく、同時又は順次に注入されてもよい。
【0064】
幾つかの実施様態では、このオルガノチオール化合物の沸点が180℃より高いが、元素状硫黄とセレニウムの沸点よりも十分に低い(例えば、300℃未満)。好適な例には、1−オクタンチオールと1−ドデカンチオール、t−ドデカンチオール、2−ナフタレンチオールが含まれるが、これらに限定されない。
【0065】
幾つかの実施様態では、このオルガノセレノール化合物の沸点が180℃より高いが、元素状硫黄とセレニウムの沸点より十分に低い(例えば、300℃未満)。適当な例には、1−オクタンセレノールと1−ドデカンセレノールが含まれるが、これらに限定されない。
【0066】
<実施例3.1 カルコゲン前駆体として1−オクタンチオールと1−オクタンセレノールを用いるCZTSSeナノ粒子の合成>
100mlのマグネチックスターラーと側枝付きとの冷却器を備えた三口丸底フラスコ中で、1.00gのCu(ac)(8.2mmol)と、0.74gのZn(ac)(4.0mmol)とを窒素でパージした。4mlのジクロロメタンに溶解した480μlのSnCl(4.1mmol)を添加し、5mlのジクロロメタンを添加し、次いでこの混合物を室温の窒素下で1時間撹拌した。このフラスコに、共に前もって脱気した6.0mlの1−オクタンチオール(35mmol)と6.0mlの1−オクタンセレノール(34mmol)とを素早く注入した。温度を55℃に上げてその温度に保持して、冷却器の側枝に集まったジクロロメタンを蒸発除去した。温度を220℃に上げて1時間維持し、室温まで冷却した。生成物(2.58g)の黒色粉末をクロロホルム/アセトンとジクロロメタン/メタノールで分離した。この固体を遠心分離で集めた。この粒子は非極性溶媒中に分散可能であった。
【0067】
ICP−OESによるこの材料の無機成分の元素分析で、以下の元素比を得た: Cu 15.99%;Zn 6.89%;Sn 19.24%;S 1.8%;Se 47.28%。Snを1とすると、これは、化学組成Cu1.55Zn0.65Sn1.000.35Se3.69に相当し、この材料が少しSnに富むことを示唆している。これらのオルガノカルコゲンリガンドは、総S含量と総Se含量に寄与している。XRD分析(図9)は、この材料がスタンナイト結晶構造のCZTSe[Olekseyuk et al.,J.Alloys Compd.,2002,340,141]によく一致することを示し、ICPで検出されるSとSeが比較的少量であることを裏付けている。多くの低強度の未同定ピークから、小量の不純物相が存在することがわかる。前駆体の比率を変えることでこの化学組成は調整可能である。
【0068】
TGAで求めた無機含量は、600℃で約77%である。TGA分析結果は、図4の1−オクタンセレノールでキャップされたCZTSeナノ粒子の分析結果によく似ており、350℃より低い温度でリガンドが完全に除去された。チオールリガンドとセレノールリガンドは比較的似た沸点を持つため、共蒸発が容易となっている。
【0069】
[実施例4 CCdTSeナノ粒子の合成]
【0070】
<実施例4.1 セレニウム前駆体として1−オクタンセレノールを用いるCCdTSeナノ粒子の合成>
100mlのマグネチックスターラーと側枝付きの冷却器とを備えた三口丸底フラスコ中で、1.00gのCu(ac)(8.2mmol)と1.076gのCd(ac)・2HO(4.0mmol)と10mlの1−オクタデセンを真空下で1時間脱気した。このフラスコを窒素でパージした。4mlのジクロロメタンに溶解した480μlのSnCl(4.1mmol)を添加し、次いでこの混合物を室温で1時間撹拌した。このフラスコに12.0mlの1−オクタンセレノール(67mmol)を素早く注入した。温度を約55℃に上げてその温度に保持して冷却器の側枝に集まったジクロロメタンを蒸発除去した。温度を225℃に上げて1時間維持し、室温まで冷却した。生成物の黒色粉末(2.72g)を、クロロホルム/アセトンとジクロロメタン/メタノールで分離した。この固体は遠心分離で集められた。この粒子は非極性溶媒中に分散可能であった。
【0071】
ICP−OESによるこの材料の無機成分の元素分析で、以下の元素比を得た: Cu 15.47%;Cd 11.62%;Sn 17.78%;Se 42.16%。Snを1とすると、これは、化学組成Cu1.63Cd0.69Sn1.00Se3.56に相当し、600℃で約96%であり、この粒子が比較的に少量のリガンドでキャップされていることを示唆した。XRD分析(図10)は、主なピークがスタンナイト結晶構造のCCdTSe[Olekseyuk et al.,J.Alloys Compd.,2002,340,141]とよく一致することを示している。低強度の未同定ピークは、小さな第2相(例えば、二元、三元又は四元のセレニド相)の存在を示唆する。前駆体の比率を変えることでこの化学組成を調整可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10