特許第6232085号(P6232085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232085
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/30 20060101AFI20171106BHJP
   B60W 20/17 20160101ALI20171106BHJP
   F02B 37/18 20060101ALI20171106BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20171106BHJP
   B60K 6/44 20071001ALI20171106BHJP
   F02D 23/00 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   B60W10/30 900
   B60W20/17ZHV
   F02B37/18 M
   F02B37/18 D
   F02D29/02 321C
   F02D29/02 321A
   F02D29/02 321B
   B60K6/44
   F02D23/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-13911(P2016-13911)
(22)【出願日】2016年1月28日
(65)【公開番号】特開2017-132360(P2017-132360A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2016年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105119
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 孝治
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100187805
【弁理士】
【氏名又は名称】毛利 弘人
(72)【発明者】
【氏名】水戸 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】武内 雅大
(72)【発明者】
【氏名】倉内 淳史
【審査官】 増子 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−143485(JP,A)
【文献】 特開2015−178811(JP,A)
【文献】 特開2015−166571(JP,A)
【文献】 特開2007−298005(JP,A)
【文献】 特開2001−032916(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/063611(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 − 6/547
B60W 10/00 − 20/50
F02B 33/00 − 41/10
F02C 1/00 − 9/58
F23R 3/00 − 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関及び電動機を駆動源として備える車両の制御装置であって、前記機関は、排気通路に設けられたタービンと、前記タービンにより回転駆動され、前記機関の吸気を加圧するコンプレッサとを有する過給機と、前記タービンをバイパスするバイパス通路に設けられたウエストゲート弁とを備える車両の制御装置において、
前記車両は前記電動機のみを駆動源とする電動機駆動モードでの走行が可能であり、
前記電動機駆動モードでの走行中に前記機関を自動停止させる一時停止手段と、
前記ウエストゲート弁の開度を検出する開度検出手段と、
前記電動機駆動モードにおいて前記ウエストゲート弁の目標開度を所定開度に設定し、前記開度検出手段により検出される開度が前記目標開度と一致するように前記ウエストゲート弁を制御する弁制御手段とを備え、
前記所定開度は、前記検出される開度と、前記ウエストゲート弁の実開度との誤差が想定される最大値となった状態において、前記実開度が全閉開度以下とならない非接触条件を満たすように設定されることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記非接触条件は、前記所定開度が、前記想定される誤差の最大値を前記全閉開度に加算した閾値以上であるという条件であり、
前記所定開度は、前記非接触条件を満たす最小開度である前記閾値に設定されることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記誤差は、前記ウエストゲート弁を駆動する駆動機構を構成する部品の温度変化よる伸縮によって発生する誤差、及び前記部品相互間の相対的な位置ずれに起因する誤差を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記弁制御手段は、前記電動機駆動モードを終了し、前記機関の再始動を行うときは、前記再始動開始前に前記目標開度を全閉開度に設定し、前記機関の再始動と前記ウエストゲート弁の閉弁動作とを並行して行うことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関及び電動機を駆動源として備える車両の制御装置に関し、特に内燃機関が、タービン及びコンプレッサを有する過給機と、タービンをバイパスするバイパス通路に設けられたウエストゲート弁とを備える車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、過給機及びウエストゲート弁を備える内燃機関の制御装置が示されている。この制御装置によれば、所定の自動停止条件が成立したときに機関を自動停止させるアイドリングストップを実行する際に、電力消費を抑制するためにウエストゲート弁のアクチュエータへの通電が停止される。これによって、ウエストゲート弁の閉弁状態が維持されなくなるため、アイドリングストップ中に機関再始動条件が成立すると、アクチュエータへの通電を開始してウエストゲート弁を閉弁させた後に機関再始動が行われる。機関再始動を開始する前にウエストゲート弁を閉弁させることによって、再始動時における振動が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−227955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関及び電動機を駆動源として備える車両は、電動機のみを駆動源として使用する電動機駆動モードでの走行が可能であり、電動機駆動モードでは機関を自動的に停止させ、電動機駆動モードから機関のみを駆動源とする機関駆動モードまたは機関及び電動機を共に駆動源とするハイブリッドモードでの走行に移行する(電動機駆動モードを終了する)ときに機関の再始動が行われる。
【0005】
この電動機駆動モードにおいて上記特許文献1に示されるようにアクチュエータへの通電を停止すると、車両の走行に伴う振動によってウエストゲート弁の弁体がバイパス通路あるいは排気通路の内壁に当たってノイズを発生する可能性がある。電動機駆動モードでは機関が停止しているため、比較的小さいノイズであっても運転者に違和感を与える。また、このような機械的なノイズを防止するために、弁体を全閉位置に押しつけるようにアクチュエータに駆動パルス信号を供給すると、消費電力が増加するだけでなく電磁波ノイズ(広帯域放射ノイズ)が発生するという問題も発生する。
【0006】
本発明はこの点に着目してなされたものであり、内燃機関及び電動機を駆動源として備える車両が電動機駆動モードで走行しているときに、振動によってウエストゲート弁から機械的ノイズが発生すること、及びアクチュエータから電磁波ノイズが発生することを防止できる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、内燃機関(1)及び電動機(61)を駆動源として備える車両の制御装置であって、前記機関は、排気通路(10)に設けられたタービン(121)と、前記タービンにより回転駆動され、前記機関の吸気を加圧するコンプレッサ(123)とを有する過給機(12)と、前記タービンをバイパスするバイパス通路(11)に設けられたウエストゲート弁(14)とを備える車両の制御装置において、前記車両は前記電動機のみを駆動源とする電動機駆動モードでの走行が可能であり、前記電動機駆動モードでの走行中に前記機関を自動停止させる一時停止手段と、前記ウエストゲート弁の開度(WGO)を検出する開度検出手段(23)と、前記電動機駆動モードにおいて前記ウエストゲート弁の目標開度(WGCMD)を所定開度(WGX)に設定し、前記開度検出手段により検出される開度(WGO)が前記目標開度(WGCMD)と一致するように前記ウエストゲート弁(14)を制御する弁制御手段とを備え、前記所定開度(WGO)は、前記検出される開度(WGO)と、前記ウエストゲート弁の実開度(WGA)との誤差が想定される最大値(EMAX)となった状態において、前記実開度(WGA)が全閉開度(0)以下とならない非接触条件を満たすように設定されることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、電動機のみを駆動源として車両が駆動される電動機駆動モードでの走行中に、機関が自動停止されるとともに、ウエストゲート弁の目標開度が所定開度に設定され、開度検出手段によって検出される開度が目標開度と一致するようにウエストゲート弁が制御される。その際、所定開度は、検出される開度と、ウエストゲート弁の実開度との誤差が想定される最大値となった状態において、実開度が全閉開度以下とならない非接触条件を満たすように設定されるので、検出される開度に誤差が含まれていてもウエストゲート弁の弁体がバイパス通路あるいは排気通路の内壁に接触してノイズが発生することを防止できる。また、検出される開度が目標開度と一致している状態では、ウエストゲート弁を駆動するアクチュエータへの駆動信号の供給は行われないため、電磁波ノイズの発生を防止することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両の制御装置において、前記非接触条件は、前記所定開度(WGX)が、前記想定される誤差の最大値(EMAX)を前記全閉開度(0)に加算した閾値(WGTH)以上であるという条件であり、前記所定開度(WGX)は、前記非接触条件を満たす最小開度である前記閾値(WGTH)に設定されることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、非接触条件は、所定開度が、想定される誤差の最大値を全閉開度に加算した閾値以上であるという条件とされ、所定開度は、非接触条件を満たす最小開度である閾値に設定されるので、弁体が通路内壁に接触することを確実に防止するとともに、機関再始動時においてウエストゲート弁を迅速に全閉開度に制御することができる。また、機関の再始動時における閉弁動作時に、完全に閉弁するまでの期間にウエストゲート弁を通過する排気流量は僅かであって、電動機駆動モードにおいて開弁することによる悪影響(例えば応答特性の悪化)を無視できる程度とすることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の車両の制御装置において、前記誤差は、前記ウエストゲート弁を駆動する駆動機構を構成する部品の温度変化よる伸縮によって発生する誤差、及び前記部品相互間の相対的な位置ずれに起因する誤差を含むことを特徴とする。
【0012】
ウエストゲート弁は過給機の近傍に配置され、ウエストゲート弁及びその駆動機構の温度変化が大きいので、温度変化に起因する温度依存誤差が大きい。また車両走行中の振動によって、部品相互間の相対的な位置ずれに起因する、いわゆる「がたつき」があると、車両停止中は弁体が通路内壁に接触していなくても、走行中に振動によって接触する可能性がある。したがって、誤差として温度依存誤差及び「がたつき」による誤差を含めることによって、ノイズの発生を確実に防止できる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載の車両の制御装置において、前記弁制御手段は、前記電動機駆動モードを終了し、前記機関の再始動を行うときは、前記再始動開始前に前記目標開度(WGCMD)を全閉開度に設定し、前記機関の再始動と前記ウエストゲート弁の閉弁動作とを並行して行うことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、電動機駆動モードを終了するときに、機関の再始動開始前に目標開度が全閉開度に設定され、機関の再始動とウエストゲート弁の閉弁作動とが並行して行われるので、機関再始動を円滑かつ迅速に行うことできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態にかかる車両駆動装置の構成を示す図である。
図2図1に示す内燃機関の構成を模式的に示す図である。
図3図2に示すウエストゲート弁の弁体を駆動する駆動機構を模式的に示す図である。
図4図2に示す内燃機関の制御を行う制御系の構成を示すブロック図である。
図5】ウエストゲート弁の開度(WGO)の制御を説明するためのタイムチャートである。
図6】ウエストゲート弁の開度制御を実行する処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる車両を駆動する車両駆動装置の構成を示す図であり、この車両駆動装置は、駆動源としての内燃機関(以下「エンジン」という)1及びモータ61と、エンジン1及び高圧バッテリ66の電力により駆動される発電機62と、エンジン1及びモータ61の駆動力を駆動輪56に伝達する駆動力伝達機構54とを備えている。エンジン1の出力軸51は、クラッチ52、駆動軸53を介して駆動力伝達機構54に接続され、モータ61の出力軸65は直接駆動力伝達機構54に接続されている。モータ61は回生動作を行うときは発電機として作動する。駆動力伝達機構54は差動ギヤ機構を含む。
【0017】
エンジン1の出力軸51は、ギヤ対57を介して発電機62に接続されており、発電機62はエンジン1の駆動力により発電を行う。モータ61及び発電機62は、それぞれパワードライビングユニット(以下「PDU」という)63,64に電気的に接続されており、PDU63はPDU64及び高圧バッテリ66に接続されている。PDU63,64は、モータ制御用電子制御ユニット(図示せず)に接続され、それぞれモータ61及び発電機62の動作制御を行うとともに、高圧バッテリ66の充電及び放電の制御を行う。
【0018】
図1に示す車両駆動装置によれば、下記の運転モードによる運転が行われる。
1)第1運転モード
高圧バッテリ66から供給される電力によって駆動されるモータ61の出力で走行する運転モードであり、第1運転モードでは、エンジン1は停止し、クラッチ52は解放(非締結)状態とされる。第1運転モードは、電動機駆動モードともいう。
【0019】
2)第2運転モード
クラッチ52を解放状態として、エンジン1を作動させて発電機62による発電を行い、その発電電力によって駆動されるモータ61の出力で走行する運転モードである。第2運転モードでは、発電機62による発電電力がモータ61の消費電力より大きいときは、余剰電力によって高圧バッテリ66の充電が行われる一方、発電機62による発電電力がモータ61の消費電力より小さいときは、不足電力は高圧バッテリ66の放電によって補われる。
【0020】
3)第3運転モード
主としてエンジン1の出力によって走行する運転モードである。第3運転モードでは、クラッチ52が締結されてエンジン1の出力が駆動力伝達機構54に入力され、駆動輪56に伝達される。第3運転モードでは、エンジン負荷の増減によって、余剰トルクまたは不足トルクが発生するので、余剰トルクが発生したときはモータ61を発電機として作動させて高圧バッテリ66の充電が行われる一方、不足トルクが発生したときはモータ61の出力によってエンジン出力のアシストが行われる。
【0021】
第2及び第3運転モードは、エンジン駆動モードともいう。エンジン駆動モードでは、所定アイドリングストップ実行条件が成立したときは、エンジン1の自動停止(以下「アイドリングストップ」という)を行う。所定アイドリングストップ実行条件は、例えば車速VPが所定車速以下であること、アクセルペダルが踏み込まれていない状態であること、ブレーキペダルが踏み込まれていること、高圧バッテリ66の残電荷量が所定量以上であること、エンジン冷却水温が所定水温以上であってエンジン1の暖機が完了していること等の条件が満たされるときに成立する。
【0022】
図2はエンジン1の構成を模式的に示す図であり、エンジン1は、4つの気筒6を有し、気筒6の燃焼室内に燃料を直接噴射する直噴エンジンであり、各気筒6には燃料噴射弁7、点火プラグ8、及び吸気弁及び排気弁(図示せず)が設けられている。
【0023】
エンジン1は、吸気通路2、排気通路10、及びターボチャージャ(過給機)12を備えている。吸気通路2は、サージタンク4に接続され、サージタンク4は吸気マニホールド5を介して各気筒6の燃焼室に接続されている。吸気通路2には、加圧された空気を冷却するためのインタークーラ3及びスロットル弁13が設けられ、スロットル弁13は、スロットルアクチュエータ13aによって駆動可能に構成されている。サージタンク4には、吸気圧PBを検出する吸気圧センサ21が設けられ、吸気通路2には吸入空気流量GAIRを検出する吸入空気流量センサ22が設けられている。
【0024】
ターボチャージャ12は、排気通路9に設けられ、排気の運動エネルギにより回転駆動されるタービン121と、シャフト122を介してタービン121に連結されたコンプレッサ123とを備えている。コンプレッサ123は、吸気通路2に設けられ、エンジン1に吸入される空気の加圧(圧縮)を行う。
【0025】
エンジン1の各気筒6の燃焼室は排気マニホールド9を介して排気通路10に接続されている。排気通路10には、タービン121をバイパスするバイパス通路11が接続されており、バイパス通路11には、バイパス通路11を通過する排気の流量を制御するウエストゲート弁(以下「WG弁」という)14が設けられている。
【0026】
図3は、WG弁14の弁体15を駆動する駆動機構を模式的に示す図であり、モータ31、ロッド32、遮熱部材33、及びリンク機構34によって弁体15が開閉駆動される。図3(b)は、図3(a)の矢印Aの方向からみた図である。リンク機構34は弁体15が固定された保持部材36が回転軸35を中心として回動可能に構成されている。
【0027】
図3(a)は、WG弁14が全閉である状態、すなわちバイパス通路11を閉塞している状態に対応する。モータ31が回転駆動されると、ロッド32が図3(a)において、矢印Bで示す直線方向に移動し、リンク機構34の回転軸35を中心として保持部材36及び弁体15が矢印Cで示すように回動し、WG弁14が開弁する。WG弁14の弁開度センサ23が、ロッド32の近傍に配置されており、ロッド32の直線方向(矢印B方向)の位置を検出することによって、WG弁14の開度(以下「WG開度」という)WGOが検出される。なお、本実施形態ではWG弁14は、バイパス通路11がタービン121の下流側で排気通路10に開口する開口部を開閉するように構成されている。
【0028】
図4は、エンジン1の制御を行う制御系の構成を示すブロック図であり、電子制御ユニット(以下「ECU」という)30には、上述した吸気圧センサ21、吸入空気流量センサ22、及び弁開度センサ23の他、エンジン1の回転数NEを検出するエンジン回転数センサ24、エンジン1により駆動される車両のアクセルペダル(図示せず)の踏み込み量(以下「アクセルペダル操作量」という)APを検出するアクセルセンサ25、エンジン冷却水温TWを検出する冷却水温センサ26、及び図示しない他のセンサが接続されており、これらのセンサの検出信号がECU30に供給される。ECU30の出力側には、燃料噴射弁7、点火プラグ8、スロットルアクチュエータ13a、及びWG弁14の駆動機構のモータ31が接続されている。
【0029】
ECU30は、エンジン運転状態(主としてエンジン回転数NE及び要求トルクTRQD)に応じて、燃料噴射弁7による燃料噴射制御、点火プラグ8による点火制御、WG弁14によるタービン駆動制御、スロットル弁13による吸入空気量制御を行う。要求トルクTRQDは、主としてアクセルペダル操作量APに応じて算出され、アクセルペダル操作量APが増加するほど増加するように算出される。
【0030】
タービン駆動制御においては、検出されるWG開度WGOが目標開度WGCMDと一致するようにモータ31の駆動制御が行われる。WG弁14の実開度WGAを目標開度WGCMDに正確に一致させるためには、検出されるWG開度WGOの精度を高める必要がある。
【0031】
上述したように弁開度センサ23は、弁体15の位置を直接検出するものではないため、検出されるWG開度WGOは以下に示す多くの誤差を含んでいる。
1)組み付け誤差EA:WG弁14及びその駆動機構をエンジン1に組み付ける際に発生する誤差
2)摩耗誤差EF:駆動機構を構成する部品の摩耗による誤差
3)たわみ誤差ET:駆動機構を構成する部品のたわみによる誤差
4)温度依存誤差EH:駆動機構を構成する部品の温度変化による伸縮によって発生する誤差
5)計測誤差EM:弁開度センサ23やECU30で発生する誤差
6)位置ずれ誤差EP:駆動機構にわずかに存在する構成部品相互間の相対的な位置ずれ(いわゆる「がたつき」)に起因する誤差(車両走行中の振動によって変化する微少開度量に相当する誤差)
【0032】
そこで、弁体15が全閉位置に到達したときに弁開度センサ23によって検出される弁開度WGFCを基準開度として学習する全閉開度学習を適時実行し、WG弁開度制御では、弁開度センサ23の出力開度WGDETから基準開度WGFCを減算した開度をWG開度WGOとして検出する。学習実行直後においては、計測誤差EMの一部(AD変換に伴って発生する誤差)及び位置ずれ誤差EP以外の誤差は除去されるので、WG開度WGOはほぼ実開度WGAと一致する。温度依存誤差EHは、WG弁14及びその近傍の温度の変化に依存して変化するため、学習実行後の温度変化が大きい場合には、再度全閉開度学習を行う前は、WG開度WGOと実開度WGAとの差が増加する。
【0033】
本実施形態では、イグニッションスイッチがオンされた直後(エンジン1の低温時)における低温時学習、及びエンジン1の動作中において実行可能なタイミングにおける作動時学習が行われる。低温時学習を行うことによって、組み付け誤差EA及び摩耗誤差EFを除くことができ、さらに作動時学習を行うことによって温度依存誤差EHを除くことができる。
【0034】
図5は、本実施形態におけるWG開度WGOの制御を説明するためのタイムチャートであり、図5(a)〜(c)には、それぞれ車両の運転状態、エンジン回転数NE、及びWG開度WGOの推移が示されている。
【0035】
時刻t0にイグニッションスイッチがオンされると、WG弁14の全閉開度学習(低温時学習)が行われる。時刻t1からエンジン駆動モードが開始され、エンジン回転数NEの上昇に伴ってターボチャージャ12による過給が行われる。時刻t2では、過給圧を低下させるためにWG弁14が開弁される。その後全閉状態に移行した時刻t3において再度全閉位置学習(作動時学習)が行われる。過給運転の後は、燃料カット運転(F/C)が行われ、時刻t4から電動機駆動モードに移行する。このときWG弁14は所定開度WGX(例えば全開開度の13%程度に相当する開度)まで開弁される。
【0036】
具体的には、目標開度WGCMDを所定開度WGXに設定して、検出されるWG開度WGOが目標開度WGCMDと一致するようにモータ31が駆動される。WG開度WGOが目標開度WGCMDに到達するとモータ31の通電は停止される。
【0037】
所定開度WGXは、弁開度センサ23の出力開度WGDETと、実開度WGAとの誤差が想定される最大値EMAXとなった状態において、弁体15が通路内壁に接触しない非接触条件を満たすように設定される。具体的には、所定開度WGXが、誤差の最大値EMAXを全閉開度(=0)に加算した閾値WGTH以上であるという非接触条件を満たすように設定され、かつ非接触条件を満たす最小開度である閾値WGTHに設定される。すなわち、非接触条件は下記式(1)で示され、所定開度WGXは下記式(2)で与えられる。
WGX≧WGTH=0+EMAX (1)
WGX=WGTH=0+EMAX (2)
【0038】
最大値EMAXは、低温時学習によって除去される組み付け誤差EA及び摩耗誤差EF以外の誤差、すなわち、たわみ誤差ET、温度依存誤差EH、計測誤差EM、及び位置ずれ誤差EPの和の最大値であり、予め実験によって決定される。
【0039】
時刻t5からエンジン駆動モードへ移行する。そのとき目標開度WGCMDを全閉開度「0」に設定してWG弁14を閉弁する動作と、エンジン1の始動とが並行して実行される。時刻t6の少し前から燃料カット運転が実行され、時刻t6からアイドリングストップが開始される。アイドリングストップの開始時には、目標開度WGCMDが所定開度WGXに設定され、WG開度WGOが目標開度WGCMDに到達するとモータ31の通電が停止される。
【0040】
時刻t7においてイグニッションスイッチがオフされる。その時点から一定待機時間TWAIT経過後の時刻t8において目標開度WGCMDが「0」に設定され、WG弁14は閉弁される。
【0041】
図6は、上述したWG弁14の開度制御を実行する処理のフローチャートである。この処理は、ECU30において一定時間毎に実行される。
ステップS11では、学習フラグFLRNが「1」であるか否かを判別する。学習フラグFLRNは、上述したようにイグニッションスイッチがオンされた直後やターボチャージャ作動中においてWG弁14を開弁したときなどにおいて「1」に設定される。ステップS11の答が肯定(YES)であるときは、全閉開度学習を実行する(ステップS17)。
【0042】
ステップS11の答が否定(NO)であるときは、電動機駆動モードフラグFEVが「1」であるか否かを判別する(ステップS12)。この答が肯定(YES)であるときは、目標開度WGCMDを所定開度WGXに設定し(ステップS15)、WG開度WGOが目標開度WGCMDと一致するようにモータ31を駆動し、WG開度WGOが目標開度WGCMDに一致するとモータ31への駆動信号の出力を停止する。
【0043】
ステップS12の答が否定(NO)であって、電動機駆動モードではないときは、イグニッションスイッチがオフされたか否かを判別する(ステップS13)。この答が否定(NO)であるときは、アイドリングストップフラグFISが「1」であるか否かを判別する(ステップS14)。アイドリングストップフラグFISは、アイドリングストップ実行条件が成立するとき「1」に設定される。ステップS14の答が肯定(YES)であって、アイドリングストップを実行するときは、ステップS15に進む。
【0044】
アイドリングストップフラグFISが「0」であるときは、ステップS16に進み、通常制御、すなわちエンジン1の運転状態に応じたWG開度制御を実行する。
イグニッションスイッチがオフされるとステップS13からステップS18に進み、イグニッションスイッチがオフされた時点が所定待機時間TWAITが経過したか否かを判別する。ステップS18の答が否定(NO)である間は処理を終了し、肯定(YES)となると目標開度WGCMDを「0」に設定し、WG弁14を全閉開度に制御する(ステップS19)。
【0045】
以上のように本実施形態では、モータ61のみを駆動源として車両が駆動される電動機駆動モードでの走行中に、エンジン1が自動停止されるとともに、WG弁14の目標開度WGCMDが所定開度WGXに設定され、弁開度センサ23によって検出されるWG開度WGOが目標開度WGCMDと一致するようにWG弁14が制御される。その際、所定開度WGXは、WG開度WGOと、実開度WGAとの誤差が想定される最大値EMAXとなった状態において、実開度WGAが全閉開度「0」以下とならない非接触条件を満たすように設定されるので、WG弁14の弁体15がバイパス通路あるいは排気通路の内壁に接触してノイズが発生することを防止できる。また、検出されるWG開度WGOが目標開度WGCMDと一致している状態では、WG弁14の弁体15を駆動するモータ31の通電が停止されるので、電磁波ノイズの発生を防止することができる。
【0046】
また非接触条件は、所定開度WGXが、想定される検出誤差の最大値EMAXを全閉開度「0」に加算した閾値WGTH以上である条件とされ、所定開度WGXは、非接触条件を満たす開度範囲の最小値、すなわち閾値WGTHに設定されるので、弁体15が通路内壁に接触することを確実に防止するとともに、エンジン1の再始動時においてウエストゲート弁14を迅速に全閉開度「0」に制御することができる。また、エンジン1の再始動時における閉弁動作時に、完全に閉弁するまでの期間にWG弁14を通過する排気流量は僅かであって、電動機駆動モードにおいて開弁することによる悪影響(例えば応答特性の悪化)を無視できる程度とすることができる。
【0047】
またWG弁14はターボチャージャ12の近傍に配置され、WG弁14及びその駆動機構の温度変化が大きいので、温度変化に起因する温度依存誤差EHが大きい。また車両走行中の振動によって、部品相互間の相対的な位置ずれに起因する位置ずれ誤差EP(いわゆる「がたつき」)があると、車両停止中は弁体15が通路内壁に接触していなくても、走行中に振動によって接触する可能性がある。したがって、WG開度WGOに含まれる誤差として温度依存誤差及び「がたつき」による誤差を含めることによって、ノイズの発生を確実に防止できる。
【0048】
また電動機駆動モードを終了するときに、エンジン1の再始動開始前に目標開度WGCMDが全閉開度に設定され、エンジン1の再始動と、WG弁14の閉弁動作とが並行して行われるので、エンジン1の再始動を円滑かつ迅速に行うことできる。
【0049】
本実施形態では、ECU30、モータ制御用電子制御ユニット(図示せず)及びこれらの制御ユニットに接続されるセンサによって車両の制御装置が構成される。また、弁開度センサ23が開度検出手段に相当し、ECU30が一時停止手段及び弁制御手段を構成し、WG弁14の駆動機構が弁制御手段の一部を構成する。
【0050】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上述した実施形態では所定開度WGXを非接触条件を満たす開度範囲の最小値(WGTH)に設定するようにしたが、最小値より大きな値に設定してもよい。
【0051】
また、上述した実施形態では、エンジン1が直噴4気筒エンジンである例を示したが、本願発明はエンジンの気筒数や燃料供給装置の構成にかかわらず適用可能であり、エンジン1はディーゼルエンジンであってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 内燃機関
10 排気通路
11 バイパス通路
12 ターボチャージャ(過給機)
121 タービン
123 コンプレッサ
14 ウエストゲート弁
23 弁開度センサ(開度検出手段)
30 電子制御ユニット(一時停止手段、弁制御手段)
31 モータ(弁制御手段)
61 モータ(電動機)
図1
図2
図3
図4
図5
図6