(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
2枚の空力ブレーキ板を、一方の起立方向が走行風に対して順方向となり、他方の起立方向が逆方向となるように走行風に対して交差方向に並べて備え、互いの揺動軸を歯車機構で連結することで前記一方の空力ブレーキ板に生じた抗力が前記歯車機構を介して伝達されて前記他方の空力ブレーキ板を連動起立させる鉄道車両用空力ブレーキ装置であって、
格納姿勢にある前記空力ブレーキ板を当該格納姿勢で保持するロック機構と、
前記揺動軸の周部に設けられた腕部と、
前記ロック機構と前記腕部との間に位置し、往動時に一端側のロッドがプッシュ動作することで前記ロック機構による前記保持を解除させ、復動時に他端側のロッドがプッシュ動作することで前記腕部を押して前記空力ブレーキ板を格納させる方向に前記揺動軸を回転させる複動型両ロッドシリンダと、
を備えた鉄道車両用空力ブレーキ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉄道車両用の空力ブレーキ装置には、鉄道車両に搭載することが前提であり、装置としての小型化・軽量化・信頼性の向上が常に求められている。特に、装置を鉄道車両の屋根上などの車体表面に搭載することを前提とした場合、車内空間への影響を抑えるため、装置の薄型化が必須になる。
例えば、大型モータや電磁クラッチ、減速歯車機構などの一部又は全部を不用としてコストの低減や一層の小型化を図れないか、などの技術的な考察が望まれる。
また、コイルバネやトーションばねを用いる場合には、寒冷地等での着雪や凍結時も確実に動作する一層の耐環境性能や、経年時の作動安定性の更なる向上が望まれる。
【0005】
本発明は、こうした背景に基づき、鉄道車両用空力ブレーキ装置の更なる改善を目的として考案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するための第1の発明は、2枚の空力ブレーキ板を、一方の起立方向が走行風に対して順方向となり、他方の起立方向が逆方向となるように走行風に対して交差方向に並べて備え、互いの揺動軸を歯車機構で連結することで前記一方の空力ブレーキ板に生じた抗力が前記歯車機構を介して伝達されて前記他方の空力ブレーキ板を連動起立させる鉄道車両用空力ブレーキ装置であって、格納姿勢にある前記空力ブレーキ板を当該格納姿勢で保持するロック機構と、前記揺動軸の周部に設けられた腕部と、往動時に一方のロッドがプッシュ動作することで前記ロック機構による前記保持を解除させ、復動時に他方のロッドがプッシュ動作することで前記腕部を押して前記空力ブレーキ板を格納させる方向に前記揺動軸を回転させる複動型両ロッドシリンダと、を備えた鉄道車両用空力ブレーキ装置である。
【0007】
第1の発明によれば、復動型両ロッドシリンダによって、ロック機構のロック解除動作と、起立した空力ブレーキ板を元の格納姿勢に戻す動作との2つの動作を実行させることができるため、部品点数を削減して鉄道車両用空力ブレーキ装置の軽量化、薄型化、低価格化を実現できる。
【0008】
すなわち、起立した空力ブレーキ板を元の格納姿勢に戻すための作動力をモータで生じさせるには、モータそれ自体を大型化したり減速機構を使用しなければならないが、第1の発明によれば、そもそもモータや減速機構が不用であるためである。
【0009】
また更には、ロック解除動作と、空力ブレーキ板の格納姿勢への姿勢変更動作とをコイルバネやトーションばねを用いずに実現可能となることから、一層の耐環境性能の向上や、経年時の作動安定性の更なる向上を図ることができる。
【0010】
第2の発明は、前記腕部が、前記空力ブレーキ板が格納姿勢および起立姿勢の何れの場合も前記揺動軸の軸中心より下に位置し、且つ、格納姿勢から起立姿勢になるにつれて前記他方のロッドに近づき、起立姿勢から格納姿勢になるにつれて前記他方のロッドから離れるように設けられ、前記他方のロッドの先端部には、前記復動時に前記腕部に当接するための当接部が設けられている、第1の発明の鉄道車両用空力ブレーキ装置である。
【0011】
装置全体として如何に薄くするかを考える場合、揺動軸は装置内部空間の厚さ方向の略中央に配置することとなる。よって、腕部は更に装置の底面に近い低い位置で揺動することとなる。しかし、第2の発明によれば、複動型両ロッドシリンダの他方のロッドの先端部に、揺動軸の腕部に当接するための当接部が設けられるため、揺動軸を確実に回転させることができ、薄型化に当たって問題となることがない。
【0012】
第3の発明は、前記ロック機構の保持が解除された後に、前記空力ブレーキ板を押し上げて、板下への走行風の進入を促し、ブレーキ作動初期の抗力の発生を促す押上シリンダ、を更に備えた第1又は第2の発明の鉄道車両用空力ブレーキ装置である。
【0013】
第3の発明によれば、ブレーキ作動初期に空力ブレーキ板を最初に持ち上げる仕組みにもシリンダを採用することで、バネによる作動に比べて作動安定性や信頼性を向上させることができる。
【0014】
第4の発明は、基底板と、格納姿勢の前記空力ブレーキ板の外面と連なる位置に支持された外装板と、を更に備え、前記揺動軸と、前記ロック機構と、前記複動型両ロッドシリンダとが、格納姿勢における前記空力ブレーキ板および前記外装板と、前記基底板との間の隙間空間に内蔵された第1〜第3の何れかの発明の鉄道車両用空力ブレーキ装置である。
【0015】
第4の発明によれば、鉄道車両用空力ブレーキ装置を、基底板をベースとした薄型のユニットとして実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を適用した実施形態の一例を説明する。
図1は、本実施形態の鉄道車両用空力ブレーキ装置を搭載した鉄道車両の例を示す斜視外観図であり、ブレーキ未作動状態を示す図である。
【0018】
本実施形態の鉄道車両用空力ブレーキ装置2(2R,2L)は、第1空力ブレーキ板4と第2空力ブレーキ板6とを連動させて起立させ、走行風(図中の白矢印)に当てて空気抵抗を増大させて制動力を得るブレーキ装置である。本実施形態の鉄道車両100は、車両の屋根部に収容空間を複数備えており、屋根部右側の収容空間には右用の鉄道車両用空力ブレーキ装置2Rが収容・固定され、屋根部左側の収容空間には左用の鉄道車両用空力ブレーキ装置2Lが収容・固定されている。
【0019】
右用の鉄道車両用空力ブレーキ装置2R及び左用の鉄道車両用空力ブレーキ装置2Lは、互いに左右対称構造を有しており、第1空力ブレーキ板4或いは第2空力ブレーキ板6が隣り合うように車両幅方向に並べて配置される。
図1の例で言うと、右用の鉄道車両用空力ブレーキ装置2Rと左用の鉄道車両用空力ブレーキ装置2Lは、それぞれの第2空力ブレーキ板6が隣り合う(中央寄りになる)ように並べて配置されている。第1空力ブレーキ板4及び第2空力ブレーキ板6以外の上面は外装板5により覆われており、鉄道車両用空力ブレーキ装置2(2R,2L)が未作動の状態では、鉄道車両用空力ブレーキ装置2(2R,2L)の上面は鉄道車両100の車体上面とフラットになり、通常走行中は車両の空力特性に影響を与えないようにデザインされている。
【0020】
以降では、鉄道車両用空力ブレーキ装置2の構造と動作について、右用の鉄道車両用空力ブレーキ装置2Rを例にして詳細に説明する。左用の鉄道車両用空力ブレーキ装置2Lは、右用の鉄道車両用空力ブレーキ装置2Rの左右対称とすれば同様に実現できるので説明は省略する。なお、本実施形態では、左用の鉄道車両用空力ブレーキ装置2Lと、右用の鉄道車両用空力ブレーキ装置2Rとを左右対称の構造とするが、左右対称とせず、同じ構造としてもよい。
【0021】
[作動原理の説明]
図2は、鉄道車両用空力ブレーキ装置2Rの作動原理を説明するための概略図であって、(1)上面図、(2)ブレーキ作動過程における空力ブレーキ板の変位例を示すV−V断面図である。尚、理解を容易にするために一部構成要素は図示を省略している。
【0022】
図2(1)に示すように、鉄道車両用空力ブレーキ装置2Rは、第1空力ブレーキ板4が車体の外側となるように鉄道車両100に装備される。よって、鉄道車両100の進行方向を基準とすれば、図の左が「前」、右が「後」となる。
【0023】
第1空力ブレーキ板4は、左右方向(図の上下方向)に長辺を有する上面視略矩形状の板状体であって、ブレーキ作動時は後端側に設けられた第1揺動軸41で回転し、前端が持ち上がって起立する。
第2空力ブレーキ板6は、同様に左右方向に長辺を有する上面視略矩形状の板状体であり、ブレーキ作動時は前端側に設けられた第2揺動軸61で回転し、後端が持ち上がって起立する。
【0024】
第1空力ブレーキ板4の第1揺動軸41と第2空力ブレーキ板6の第2揺動軸61は、互いに一方の軸端部が近接するように平行に枢支されている。そして、第1揺動軸41の近接側端部には第1バランスギア42が設けられ、第2揺動軸61の近接側端部には第2バランスギア62が設けられている。第1バランスギア42及び第2バランスギア62は互いに噛み合って歯車機構を構成し、双方の空力ブレーキ板の揺動軸が連動して回転するように連係されている。
【0025】
ブレーキ未作動の状態では、
図2(2)の(i)に示すように、第1空力ブレーキ板4と第2空力ブレーキ板6は板が伏せられた「格納姿勢」にある。
ブレーキが作動を開始すると、
図2(2)の(ii)に示すように、第1空力ブレーキ板4と第2空力ブレーキ板6が僅かに浮き上がる。すると、第1空力ブレーキ板4は走行風を「はらむ」ため、第1空力ブレーキ板4には起立姿勢への変位を促進する方向へ助勢抗力D1(
図2(2)(ii)の白抜き矢印)が生じ「助勢トルク」となって第1揺動軸41及び第1バランスギア42を(図に向かって)時計回りに回そうとする。ただし、第2空力ブレーキ板6も走行風を受ける。よって、第2空力ブレーキ板6には起立姿勢への変位に抵抗しようとする方向に抗勢抗力D2(
図2(2)(ii)の白抜き矢印)が生じ、第2揺動軸61及び第2バランスギア62は時計回りに回ろうとする「抗勢トルク」として作用する。
【0026】
図3は、空力ブレーキ板の起立角度と、第1空力ブレーキ板4に生じる助勢抗力D1、第2空力ブレーキ板6に生じる抗勢抗力D2、それらの合成抗力D3、の3つの計測例を示すグラフである。そして、
図4は、空力ブレーキ板の起立角度と、第1揺動軸41及び第1バランスギア42に生じる助勢トルクから、第2揺動軸61及び第2バランスギア62に生じる抗勢トルクを差し引いた起立トルクの計測例を示すグラフである。
【0027】
第1空力ブレーキ板4は、走行風の風上に向かい、走行風に対して逆方向に傾斜する姿勢をとるため走行風を「はらむ」。そのため、第1空力ブレーキ板4に生じる助勢抗力D1は、空力ブレーキ板の起立が進むに従い増加する。一方、第2空力ブレーキ板6は、走行風の風下に向かい、走行風対して順方向に傾斜する姿勢をとるため走行風を「受け流す」。そのため、起立角度に応じた抗勢抗力D2が常に生じるものの、その大きさは常に助勢抗力D1より小さい。
【0028】
助勢抗力D1と抗勢抗力D2とにより、第1バランスギア42と第2バランスギア62は互いに反対方向に回転しようとするが、
図4のグラフに示すように、第1バランスギア42に生じる助勢トルクT1が、常に第2バランスギア62の抗勢トルクT2を上回ることとなる。よって、
図2(2)の(iii)に示すように、第1揺動軸41及び第1バランスギア42が、第2バランスギア62を介して第2揺動軸61を(図に向かって)反時計回りに回動させ、第2空力ブレーキ板6の起立を促進させる。そしてついには、
図2(2)の(iv)に示すように、第1空力ブレーキ板4および第2空力ブレーキ板6は「起立姿勢」へ変位するに至る。
【0029】
このように、第1バランスギア42及び第2バランスギア62は、双方の空力ブレーキ板が連動して回転するように第1揺動軸41及び第2揺動軸61を連係する連係手段として機能し、第1空力ブレーキ板4と第2空力ブレーキ板6の何れか一方が、僅かに浮き上がりさえすれば、大型のアクチュエータで駆動させなくとも、空力ブレーキ板が起立してブレーキを作動させることができる。そして、鉄道車両用空力ブレーキ装置2Rは、第1空力ブレーキ板4及び第2空力ブレーキ板6を、走行風に対して一方が助勢方向、他方が抗勢方向となるように車両幅方向に並べた構成を有するので、鉄道車両用空力ブレーキ装置2Rは、鉄道車両100の進行方向が反転したとしても、進行方向如何に係わらず同様に機能する。勿論、こうした原理及び作用効果については、左用の鉄道車両用空力ブレーキ装置2Lについても同じである。
【0030】
[構造の詳細な説明]
では、より詳細な構造について説明する。
図5は、未作動状態における鉄道車両用空力ブレーキ装置2Rの構成例を示す上面外観図である。
図6は、同じく未作動状態における鉄道車両用空力ブレーキ装置2Rの構成例を示す図であるが、第1空力ブレーキ板4、第2空力ブレーキ板6及び外装板5を不図示とした図である。
図7〜
図9は、それぞれ
図6のA−A断面図、B−B断面図、C−C断面図である。
【0031】
これらの図に示すように、鉄道車両用空力ブレーキ装置2Rは、基底板70の上面に突設された外装板支持部74で外装板5を支えている。そして、この外装板5と、格納姿勢の第1空力ブレーキ板4及び第2空力ブレーキ板6とで、基底板70との間に薄い内部空間(隙間空間:例えば、高さ60〜70mm程度)を画成し、ブレーキ作動に必要な各種パーツを収容している。また、鉄道車両用空力ブレーキ装置2Rは、基底板70を含めて、基底板70の上の部分で一体のユニット構造を成しているとも言える。
【0032】
先ず、第1空力ブレーキ板4及び第2空力ブレーキ板6の支持構造に着目すると、
図6に示すように、第1揺動軸41及び第2揺動軸61は、それぞれ軸受部72により基底板70の上面に、軸を左右に向けて回転自在に支持されている。そして、第1揺動軸41には第1空力ブレーキ板4を固定するための固定部40が固定されており、第2揺動軸61には第2空力ブレーキ板6を固定するための固定部60が固定されている。
【0033】
なお、第1空力ブレーキ板4及び第2空力ブレーキ板6の材質や支持構造は、バードストライクを受けても部品が破損し飛び散らないように設定するものとする。
すなわち、第1空力ブレーキ板4及び第2空力ブレーキ板6をアルミ材で作成する一方、第1空力ブレーキ板4及び第2空力ブレーキ板6に比べて固定部40及び固定部60を高剛性な鋼材で作成し、ボルト固定する。勿論、ボルト強度はバードストライクによる衝撃に耐え得るものとする。
【0034】
これにより、高速で走行中に大型の鳥等が空力ブレーキ板へ衝突した場合でも、衝突を受けた空力ブレーキ板は固定部との接続位置上端部付近から折れ曲がって衝突エネルギーを吸収しつつ衝突体を斜め後方へ逸らし、破損を空力ブレーキ板の変形のみに抑えることができる。
【0035】
また、基底板70の外縁部には、複数の空力ブレーキ板支持部76が突設されている。空力ブレーキ板支持部76は、格納姿勢における各空力ブレーキ板の辺縁部下面と接触して、空力ブレーキ板の重量の一部を支えるとともに走行風による空力ブレーキ板のバタツキ防止と、検修作業時に作業者が空力ブレーキ板を踏みつけた際の変形を防止する。
【0036】
また、基底板70の上面には、押上シリンダ10と、両ロッドシリンダ20と、ロック機構30と、ダンパー50とが第1空力ブレーキ板4と第2空力ブレーキ板6のそれぞれ用に各1セットずつ設置されている。また、押上シリンダ10及び両ロッドシリンダ20へ供給される開き(起立)・閉じ(格納)それぞれ用の加圧作動流体を装置外部から取り入れて分配する2つの分配器80が設置されている。なお、分配器80から押上シリンダ10及び両ロッドシリンダ20へ接続される作動流体を通流させるためのチューブは、適宜配置可能であるので図示を省略している。
【0037】
押上シリンダ10は、基底板70の上面の左右端部に、第1空力ブレーキ板4及び第2空力ブレーキ板6に各々対応させて合計2つ搭載されている。
図6及び
図7に示すように、押上シリンダ10は、複動単ロッド型のエアシリンダを、ロッド12の先端を上向きにして設置することで実現される。押上シリンダ10は、ブレーキ非作動時にはロッド12が収納された状態に維持されているが、ブレーキ作動初期にロッド12が押し出され、第1空力ブレーキ板4及び第2空力ブレーキ板6を下から押し上げる。
【0038】
両ロッドシリンダ20は、第1空力ブレーキ板4及び第2空力ブレーキ板6に各々対応させて合計2つ搭載されている。
図6及び
図8に示すように、両ロッドシリンダ20は、複動型両ロッドシリンダであり、ロッド22が装置前後方向(走行風の方向;第1揺動軸41や第2揺動軸61と交差する方向)に向くように設置することで実現される。また、本実施形態では両ロッドシリンダ20をエアシリンダとする。両ロッドシリンダ20のロッド22として、空力ブレーキ板の揺動端側を一端側のロッド22a、揺動軸41,61側を他端側のロッド22bと呼称して説明する。
【0039】
そして、他端側のロッド22b(
図8に向かって左側)には、当接部24が設けられている。第1空力ブレーキ板4の両ロッドシリンダ20は、その当接部24を介して第1揺動軸41の周部に設けられた腕部44を押し動かすことができる。同様に、第2空力ブレーキ板6の両ロッドシリンダ20(
図8の両ロッドシリンダ20)は、その当接部24を介して第2揺動軸61の周部に設けられた腕部64を揺動端側から押し動かすことができる。
【0040】
具体的には、腕部44,64は、第1空力ブレーキ板4及び第2空力ブレーキ板6が格納姿勢および起立姿勢の何れの場合も揺動軸41,61の軸中心より下に位置し、且つ、格納姿勢から起立姿勢になるにつれて他端側のロッド22bに近づき、起立姿勢から格納姿勢になるにつれて他端側のロッド22bから離れるように設けられている。揺動軸41,61に十分な軸径を与えつつ、装置全体として如何に薄くするかを考えると、揺動軸41,61は装置の内部空間(基底板70と外装板5との間、基底板70と格納状態の第1空力ブレーキ板4及び第2空力ブレーキ板6との間に画成される隙間空間)の略中央(高さ方向における略中央)に位置することとなる。よって、腕部44,64は更に基底板70に近い低い位置で揺動することとなる。
【0041】
一方で、両ロッドシリンダ20は、出力を確保する観点からすれば、高さ方向の長さ(厚み)が内部空間一杯に近くなるため、ロッド22bの軸中心の高さ位置はどうしても内部空間の略中央(高さ方向における略中央)になる。
【0042】
そこで、当接部24を、ロッド22bの軸中心よりも低い位置に延長部として設けることで、ロッド22bの軸中心と腕部44,64との高さの違いを吸収し、ロッド22bがプッシュ動作されることで腕部44,64を押すことができるようにして装置の薄型化を実現している。
【0043】
次に、一端側のロッド22a(空力ブレーキ板の揺動端側;
図8に向かって)に着目すると、ロッド22aがプッシュ動作されることでロック機構30によるロック保持を解除させることができるように構成されている。具体的には、ロック機構30は、装置前後方向に揺動自在な鈎状のフック32と、当該フックを起立方向に付勢するトーションバネ34と、プッシュ動作時にロッド22aが当接するロッド受け部36とを有する。
【0044】
トーションバネ34は、「ひげバネ」とも呼ばれる。平時は、トーションバネ34の付勢力によりフック32は起立状態に維持されており、鈎状部の内側(喉側)で、第1空力ブレーキ板4及び第2空力ブレーキ板6の揺動端寄りの板下に垂下されたロックバー43,63(
図5参照)を引っ掛けて、第1空力ブレーキ板4と第2空力ブレーキ板6とを格納姿勢に保持する(ロック状態)。
【0045】
次に、ダンパー50に着目すると、
図6及び
図9に示すように、基底板70の上面に立設されたダンパー連結台52と、第1空力ブレーキ板4の固定部40又は第2空力ブレーキ板6の固定部60とを連結する。
【0046】
[動作の説明]
次に、鉄道車両用空力ブレーキ装置2Rの動作について説明する。
図10は、ブレーキ作動初期における両ロッドシリンダ20によるロック状態の解除動作を説明するための図であって、
図10(1)が
図6のE−E断面図、
図10(2)が
図6のB−B断面図に相当する。空力ブレーキを作動させるためには、先ずロック機構30によるロック状態を解除する。具体的には、両ロッドシリンダ20のロッド22aをロック解除方向すなわち空力ブレーキ板の揺動端側へ往動させる。ロッド22aは、ロック機構30のロッド受け部36に当たってプッシュ動作し、フック32を押し倒す。フック32が押し倒されると、係止されていたロックバー43,63がフリーとなる。
【0047】
図11は、ブレーキ作動のための空力ブレーキ板の押し上げ動作を説明するための図であって、
図11(1)が
図6のD−D断面図、
図11(2)が
図6のA−A断面図に相当する。空力ブレーキ板の押し上げ動作は、ロック状態の解除動作と同時又はその直後に続いて実行される。この動作では、直前のロック状態の解除動作でロックバー43,63がフリーとなった第1空力ブレーキ板4及び第2空力ブレーキ板6が、押上シリンダ10が作動することで僅かに持ち上げられる。走行風に向かって傾斜する姿勢の第1空力ブレーキ板4では、持ち上げられた隙間から走行風が進入して、走行風を「はらみ」始める。つまり、第1揺動軸41及び第1バランスギア42に助勢トルクT1が生じ始める。
【0048】
第2空力ブレーキ板6も同じように作動した押上シリンダ10により押し上げられるが、前述のように第2空力ブレーキ板6は走行風を「受け流す」ので、第2揺動軸61及び第2バランスギア62に生じる抗勢トルクT2は、常に助勢トルクT1を下回る。そして、これらのトルク差が起立トルクとなって第1空力ブレーキ板4と第2空力ブレーキ板6とを自動で起立させる。つまり、空力ブレーキが効き始める。
【0049】
図12は、第1空力ブレーキ板4と第2空力ブレーキ板6とが起立する過程を示す図であって、
図12(1)が
図6のF−F断面図、
図12(2)が
図6のC−C断面図に相当する。第1空力ブレーキ板4と第2空力ブレーキ板6とが起立を始めると、風力によって起立を促す衝撃力を受けることになる。ダンパー50は、その衝撃力を減衰させて急激な起立を抑制する。なお、第1空力ブレーキ板4と第2空力ブレーキ板6は、それぞれの固定部40或いは固定部60がストッパー78に突き当たることで所定角度で揺動が止まり、設計上の全起立状態となる。
【0050】
図13は、起立した第1空力ブレーキ板4と第2空力ブレーキ板6とを元の格納姿勢に戻すための動作について説明するための図であって、
図6のB−B断面図の状態遷移図である。起立した第1空力ブレーキ板4と第2空力ブレーキ板6とを元の格納姿勢に戻すには、両ロッドシリンダ20を復動させることでロッド22bを揺動軸41,61の側へ作動させる。すると、ロッド22bの先端に装着されている当接部24が、揺動軸41,61の腕部44,64を押して、揺動軸41,61を、それぞれの空力ブレーキ板を格納姿勢に姿勢変更する方向へ回転させる。
【0051】
また、復動時のロッド22aはプル動作となるため、ロック機構30から離れることになり、ロック機構30のフック32はトーションバネ34の付勢力によって元の起立姿勢に自動的に戻る(
図13(2)の状態)。
【0052】
さらに両ロッドシリンダ20の復動動作が続き、起立していた第1空力ブレーキ板4と第2空力ブレーキ板6とが倒れてくると、やがてロックバー43,63がフック32の頭部に接触する。フック32の頭頂面(鈎爪部分の上面)は、空力ブレーキ板の揺動端側に向けて傾斜した斜面を構成している。降下してくるロックバー43,63がフック32に当たると、フック32はトーションバネ34の付勢力に抗して一時的にロック解除方向(
図13における時計回り方向)に揺動する。そして、第1空力ブレーキ板4と第2空力ブレーキ板6とが元の格納位置まで戻ると、ロックバー43,63がフック32の鈎爪部分の内面位置まで降下することになり、フック32はトーションバネ34の付勢力により再び自動的に起立し、ロック機構30が作動した状態に戻る(
図13(3)の状態)。
【0053】
このまま、両ロッドシリンダ20に復動方向へ一定の作動力が生じるようにエアを供給し続ける制御をするならば、第1揺動軸41及び第2揺動軸61が起立方向へ回転するのを抑制し、ロック機構30とともに2重ロックを実現することとなる。
【0054】
以上、本実施形態によれば、複動型の両ロッドシリンダ20によって、ロック機構の解除動作と、起立した空力ブレーキ板を元の格納姿勢に戻す動作との2つの動作を実行させることができるため、部品点数を削減して装置の軽量化、薄型化、低価格化を実現できる。
【0055】
また、起立した空力ブレーキ板を元の格納姿勢に戻すための作動力をモータで生じさせるには、モータそれ自体を大型化したり減速機構を使用しなければならないが、本実施形態によれば、そもそもモータや減速機構が不用である。
【0056】
ロック解除動作と、空力ブレーキ板の格納姿勢への姿勢変更動作とをコイルバネやトーションばねを用いずに実現可能となることから、一層の耐環境性能の向上や、経年時の作動安定性の更なる向上を図ることができる。
【0057】
また、ブレーキ作動初期に空力ブレーキ板を最初に持ち上げる仕組みにもエアシリンダを採用することで、バネによる持ち上げよりも作動安定性を確保し、信頼性を向上させることができる。
【0058】
〔変形例〕
以上、本発明を適用した実施形態について述べたが、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜、構成要素の追加・省略・変更を施すことができる。
【0059】
例えば、上記実施形態では、両ロッドシリンダ20のロッド22の往動を、ロック機構30によるロック状態の解除のみならず空力ブレーキ板の押し上げにも利用する構成としてもよい。
具体的には、
図14に示す当接部24Bのように、先端に切り欠き部分25を設けて、当該切り欠き部分25の両内面(装置前後方向の内面:走行風の順方向/逆方向の内面)で第1揺動軸41の腕部44や第2揺動軸61の腕部64と当接できるようにする。
【0060】
そして、
図14(1)に示すように、ブレーキ非作動時は、空力ブレーキ板の格納動作のまま、切り欠き部分25の一方の内面を腕部44,64に当接させる。このとき、両ロッドシリンダ20に復動方向へ一定の作動力が生じるようにエアを供給させれば、第1揺動軸41及び第2揺動軸61が起立方向へ回転するのを抑制し、ロック機構30とともに2重ロックを実現できる。
【0061】
ブレーキ作動初期には、
図14(2)に示すように、ロッド22aをプッシュ動作させるように両ロッドシリンダ20を往動させてロック機構30の施錠を解除させる(第1段の往動)。続いて、
図14(3)に示すように更なる第2段の往動をさせれば、ロッド22bのプル動作によって切り欠き部分25の他方の内面が腕部44,64に当接され、腕部44,64が往動方向に引き寄せられて、第1空力ブレーキ板4と第2空力ブレーキ板6とを押し上げるように助勢することができる。
【0062】
当該構成によれば、押上シリンダ10をより低出力で小型なモデルに変更するか、或いは押上シリンダ10を省略して、更なる装置の軽量化・低価格化を実現することができる。
【0063】
また、上記実施形態では、押上シリンダ10及び両ロッドシリンダ20の作動流体を空気としエアシリンダにより実現したが作動流体は他の流体でもよい。例えば、作動流体をオイルとして、両シリンダを油圧シリンダにより実現するとしてもよい。