特許第6232130号(P6232130)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232130
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】ダルベポエチンアルファの精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/18 20060101AFI20171106BHJP
   C07K 14/505 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   C07K1/18
   C07K14/505
【請求項の数】17
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-525549(P2016-525549)
(86)(22)【出願日】2014年11月28日
(65)【公表番号】特表2016-538261(P2016-538261A)
(43)【公表日】2016年12月8日
(86)【国際出願番号】KR2014011527
(87)【国際公開番号】WO2015080509
(87)【国際公開日】20150604
【審査請求日】2016年4月21日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0148026
(32)【優先日】2013年11月29日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514311689
【氏名又は名称】シージェイ ヘルスケア コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】CJ HEALTHCARE CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ ヨンジョン
(72)【発明者】
【氏名】キム キョンファ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ユヒ
(72)【発明者】
【氏名】ユ ジョンミン
(72)【発明者】
【氏名】キム セジュン
(72)【発明者】
【氏名】ムン ジヒョン
(72)【発明者】
【氏名】オ ホクン
(72)【発明者】
【氏名】イ ドンオク
(72)【発明者】
【氏名】イ ウォンチョン
(72)【発明者】
【氏名】イ チョンロク
(72)【発明者】
【氏名】イ チョンミン
(72)【発明者】
【氏名】チェ ウニョン
(72)【発明者】
【氏名】ハ ギョンシク
【審査官】 松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/024024(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/002330(WO,A1)
【文献】 American laboratory [online],2007年 2月 1日,検索日2017/02/02,インターネット: <URL:http://www.americanlaboratory.com/913-technical-articles/18995-improved-column-chromatogaraphy-performance-using-arginine>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/18
C07K 14/505
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)様々なシアル酸含量を有するダルベポエチンアルファを含む混合物を陰イオン交換クロマトグラフィーカラムにローディングしてダルベポエチンアルファをカラムに結合させるステップと、
(b)前記クロマトグラフィーカラムをアルギニン(Arginine)を含む洗浄緩衝液で洗浄して等電点がpH2.0未満のダルベポエチンアルファ及び等電点が4.0を超えるダルベポエチンアルファを除くステップと、
(c)前記クロマトグラフィーカラムとの結合が維持された等電点がpH2.0以上4.0以下であるダルベポエチンアルファをカラムから溶出するステップを含む、ダルベポエチンアルファの精製方法。
【請求項2】
前記アルギニンを含む洗浄緩衝液は、pH3.0以上5.0以下である、請求項1に記載のダルベポエチンアルファの精製方法。
【請求項3】
前記アルギニンを含む洗浄緩衝液は、アルギニンを含み、NaCl及びウレア(Urea)からなる群から選択されるいずれか1つ以上をさらに含む、請求項1又は2に記載のダルベポエチンアルファの精製方法。
【請求項4】
前記洗浄緩衝液は、5mM以上90mM以下のNaClを含む、請求項に記載のダルベポエチンアルファの精製方法。
【請求項5】
前記洗浄緩衝液は、3M以上8M以下のウレアを含む、請求項に記載のダルベポエチンアルファの精製方法。
【請求項6】
前記(b)ステップは、目的とする等電点を有するアイソフォーム(isoform)であるダルベポエチンアルファを得るために、目的とする等電点より高い等電点を有するダルベポエチンアイソフォームを洗浄することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のダルベポエチンアルファの精製方法。
【請求項7】
前記(b)ステップの前又は後に、アルギニンを含む又は含まない洗浄緩衝液で洗浄するステップをさらに含む、請求項1〜6のいずれかに記載のダルベポエチンアルファの精製方法。
【請求項8】
前記(b)ステップの前に、pH6以上pH8以下の洗浄緩衝液で前記カラムを1次洗浄するステップをさらに含み、
前記(b)ステップは、pH3以上pH5以下のアルギニンを含む洗浄緩衝液でカラムを2次洗浄するステップである、請求項1〜7のいずれかに記載のダルベポエチンアルファの精製方法。
【請求項9】
前記1次洗浄するステップの洗浄緩衝液はリン酸ナトリウム溶液であり、
前記2次洗浄するステップの洗浄緩衝液はグリシン−HCl溶液である、請求項に記載のダルベポエチンアルファの精製方法。
【請求項10】
前記混合物は、酵母、植物細胞又は動物細胞の培養液である、請求項1〜9のいずれかに記載のダルベポエチンアルファの精製方法。
【請求項11】
前記陰イオン交換クロマトグラフィーカラムを構成する樹脂の官能基が、Q(Quaternary amine)、DEAE(DiEthylAminoEthyl)及びQAE(Quaternary Amino Ethyl)からなる群から選択されるいずれかである、請求項1〜10のいずれかに記載のダルベポエチンアルファの精製方法。
【請求項12】
(d)前記(c)ステップで得られた陰イオン交換クロマトグラフィー溶出液をゲル濾過クロマトグラフィーにかけて分画するステップをさらに含む、請求項1〜11のいずれかに記載のダルベポエチンアルファの精製方法。
【請求項13】
(a)ダルベポエチンアルファを含む生物学的流液を陰イオン交換クロマトグラフィーにかけてダルベポエチンアルファを含む分画を溶出するステップと、
(b)ステップ(a)で生成された溶出液を吸着クロマトグラフィーにかけてダルベポエチンアルファを含む分画を溶出するステップと、
(c)ステップ(b)で生成された溶出液を陰イオン交換クロマトグラフィーカラムにローディングしてダルベポエチンアルファをカラムに結合させるステップと、
(d)ステップ(c)における前記カラムをアルギニンを含む洗浄緩衝液で洗して等電点がpH2.0未満のダルベポエチンアルファ及び等電点が4.0を超えるダルベポエチンアルファを除くステップと、
(e)ステップ(d)における前記カラムとの結合が維持された等電点がpH2.0以上4.0以下であるダルベポエチンアルファをカラムから溶出するステップを含む、ダルベポエチンアルファの精製方法。
【請求項14】
前記吸着クロマトグラフィーの固定相はヒドロキシアパタイト樹脂である、請求項1に記載のダルベポエチンアルファの精製方法。
【請求項15】
(f)前記(e)ステップで得られた陰イオン交換クロマトグラフィー溶出液をゲル濾過クロマトグラフィーにかけて分画するステップをさらに含む、請求項13又は14に記載のダルベポエチンアルファの精製方法。
【請求項16】
前記(a)ステップは、平衡化した陰イオン交換樹脂にダルベポエチンアルファを含む生物学的流液を加えて吸着させた後、0〜100mM NaClを含むpH6〜8の洗浄緩衝液で洗浄し、次いで100〜300mM NaClを含むpH6〜8の溶出緩衝液でダルベポエチンアルファを含む分画を溶出するステップである、請求項13〜15のいずれかに記載のダルベポエチンアルファの精製方法。
【請求項17】
前記(b)ステップは、平衡化したヒドロキシアパタイト樹脂に(a)ステップで回収された溶出液をローディングし、その後0〜100mMリン酸ナトリウムを含むpH6〜8の洗浄緩衝液で洗浄し、次いでローディングと洗浄により樹脂に付着せずに流出した液からダルベポエチンアルファを含む分画を得るステップである、請求項13〜16のいずれかに記載のダルベポエチンアルファの精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々なシアル酸含量を有するダルベポエチンアルファのアイソフォームの混合物からシアル酸含量が高いアイソフォームのみ選択的に分離するダルベポエチンアルファの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダルベポエチンアルファ(Darbepoetin Alfa, NESP)とは、エリスロポエチン(EPO)の分子内の5つのアミノ酸を置換することにより2つのN-糖鎖を付加したEPOの類似体である(特許文献1参照)。EPOとは分子量、等電点などの生化学的特性が異なるが、EPOと同様に赤血球生成促進タンパク質である。
【0003】
ダルベポエチンアルファは、シアル酸含量が高く、エリスロポエチンに比べてマウス、ラット、イヌ、ヒトなどにおいて血漿半減期が約3倍長いため(非特許文献1)、生体内分解が抑制されることにより、天然のEPOより高い生物学的活性を有することが知られている。
【0004】
ダルベポエチンアルファは、グリコシル化によるシアル酸含量の違いにより最大22種のアイソフォーム(isoform)を有し、シアル酸含量が高いほど低い等電点を示し、高い治療的価値を有する。よって、シアル酸含量が高いアイソフォームのみ選択的に分離精製することは、ダルベポエチンアルファを用いるタンパク質治療分野において重要な課題である。
【0005】
従来のEPO及びEPO類似体を精製する方法としては、陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用(hydrophobic-interaction)、サイズ排除(size-exclusion)クロマトグラフィーなどが開示されている。具体的には、特許文献2に、疎水性相互作用、陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー及びサイズ排除クロマトグラフィーを順次的に行うことによりEPOを精製する方法が開示されている。特許文献3には、逆相クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー及びサイズ排除クロマトグラフィーを行うことにより組換えヒトEPOを精製する方法が開示されている。
【0006】
特に、ダルベポエチンアルファを精製する方法として、特許文献4には、陰イオン交換樹脂及びC4樹脂を用いる方法が開示されており、特許文献5には、等電点4.5以下のシアル酸含量が高いダルベポエチンアルファを精製するために、目的とするタンパク質が陽イオン交換樹脂のカラムに吸着することなくクロマトグラフィー処理溶液に流出するようにするフロースルー(flow through)工程が開示されている。しかし、前記方法においては、複数のステップで樹脂を用いるので、莫大なコスト及び時間を必要とし、大量生産に適用できないという欠点がある。
【0007】
一方、特許文献6には、前記4ステップの工程より単純化された工程を実現するために、陰イオンクロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィーを順次的に行う3ステップの工程を採用し、等電点が低いアイソフォームを選択的に分離するために、2次陰イオン交換クロマトグラフィーを行う際に特定のpH条件下で吸着及び洗浄を行う方法が開示されている。特に、低い等電点を有するアイソフォームを得るために、pH4.0〜5.0の条件でダルベポエチンアルファをカラムに吸着させた後、pH2.0〜2.4の緩衝液で洗浄する方法が開示されている。
【0008】
前述したように提案された方法は、従来の工程より多少ステップが簡易化されているので大量生産工程に適用すると時間及びコスト面で有利ではあるが、前記特許文献が開示しているように、低いpH(pH2.2〜2.4)条件を大量生産において実現するにはHClなどの有毒性の酸性溶液を大量に用いなければならないので、安全性の面で好ましくない。また、スケールアップ時にカラムの処理容量が増加すると、所定のpH条件ではアイソフォームの反応が一定でないため、緩衝液のpH条件を制御することにより所望の範囲の等電点を有するアイソフォームを得ることになるので、大量生産における再現性が低くなる。
【0009】
すなわち、従来のダルベポエチンアルファの精製方法を用いると、複数のステップで樹脂を用いたクロマトグラフィーによる複雑な工程を経なければならないので、それによる莫大なコスト及び時間を必要とし、従来の工程ステップを少なくして精製すると、工程簡素化により減少する精製効果を補償するためにpHなどの精製条件を精密に制御しなければならず、生産規模が大きくなるほどその制御が困難になる。
【0010】
よって、従来の精製方法より工程ステップが簡素でありながらも工程条件の制御が容易であり、大量生産に適用するとコスト及び時間が節約され、安定して好ましい工程条件を再現できる改善されたダルベポエチンアルファの精製方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2001/076640号
【特許文献2】国際公開第2000/027869号
【特許文献3】国際公開第2003/045996号
【特許文献4】国際公開第1995/005465号
【特許文献5】国際公開第2010/008823号
【特許文献6】韓国公開特許第10−2013−0042107号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Pedrazzoli P, Cinieri S, Lorusso V, Gamucci T, Secondino S, Silvestris N 2007 Nov-Dec,27(6C),4419-24;Anticancer Res.
【非特許文献2】Development and characterization of novel erythropoiesis stimulating protein (NESP), British Journal of Cancer (2001) 84 (Supplement 1), 3-10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者らは、従来の工程より簡素でありながらも工程制御が容易なダルベポエチンアルファの精製方法を開発すべく努力した。その結果、驚くべきことに、陰イオンとアルギニンを用いた簡易な工程でシアル酸含量が高いダルベポエチンアルファを短時間で分離できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、様々なシアル酸含量を有するダルベポエチンアルファのアイソフォームの混合物からシアル酸含量が高いダルベポエチンアルファを精製する方法を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法は、生産適用が便利かつ簡便で新規なダルベポエチンアルファの精製方法であり、本発明により、ダルベポエチンアルファの大量生産時に、高純度のダルベポエチンアルファの収得はもとより、工程の効率改善による飛躍的な生産性の向上が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】陰イオン交換クロマトグラフィー及びヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー精製により得られたダルベポエチンアルファの溶出液に対してC4 HPLCにより純度を測定した結果である。
図2】アルギニンを含むグリシン−HCl緩衝液を用いた陰イオン交換クロマトグラフィーのIEF結果である。
図3】アルギニンを含む酢酸ナトリウム緩衝液を用いた陰イオン交換クロマトグラフィーのIEF結果である。
図4】アルギニンを含まないグリシン−HCl緩衝液を用いた陰イオン交換クロマトグラフィーのIEF結果である。
図5】陰イオン交換クロマトグラフィーにより得られたダルベポエチンアルファの分画物に対してゲル濾過クロマトグラフィーを行った結果である。
図6図5の各分画別の等電点を示すIEF結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
前記目的を達成するために、本発明の一態様は、様々なシアル酸含量を有するダルベポエチンアルファのアイソフォームの混合物からダルベポエチンアルファを精製する方法を提供する。
【0018】
具体的には、ダルベポエチンアルファの様々なアイソフォームの混合物からシアル酸含量が高いアイソフォームのみ選択的に分離するために、アルギニンを含む洗浄緩衝液で洗浄するステップを含む陰イオン交換クロマトグラフィーによりダルベポエチンアルファを精製する方法を提供する。
【0019】
本発明によるダルベポエチンアルファを精製する方法は、いずれか1つ以上の陰イオン交換クロマトグラフィーを行うステップを含み、前記陰イオン交換クロマトグラフィーを行うステップは、ダルベポエチンアルファの様々なアイソフォームの混合物を陰イオン交換樹脂に結合させるステップと、アルギニンを含む緩衝液で前記樹脂を洗浄するステップと、クロマトグラフィーカラムからカラムに結合したダルベポエチンアルファを溶出するステップを含むことが好ましい。
【0020】
本発明の好ましい一態様は、(a)様々なシアル酸含量を有するダルベポエチンアルファを含む混合物を陰イオン交換クロマトグラフィーカラムにローディングしてダルベポエチンアルファをカラムに結合させるステップと、(b)アルギニン(Arginine)を含む洗浄緩衝液で前記クロマトグラフィーカラムを洗浄するステップと、(c)前記クロマトグラフィーカラムとの結合が維持されたダルベポエチンアルファをカラムから溶出するステップとを含む、ダルベポエチンアルファの精製方法であってもよい。
【0021】
また、本発明の好ましい一態様は、(a)ダルベポエチンアルファを含む生物学的流液を陰イオン交換クロマトグラフィーにかけてダルベポエチンアルファを含む分画を溶出するステップと、(b)ステップ(a)で生成された溶出液をヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーにかけてダルベポエチンアルファを含む分画を溶出するステップと、(c)ステップ(b)で生成された溶出液を陰イオン交換クロマトグラフィーカラムにローディングしてダルベポエチンアルファをカラムに結合させるステップと、(d)アルギニンを含む洗浄緩衝液でステップ(c)における前記カラムを洗浄するステップと、(e)ステップ(d)における前記カラムとの結合が維持されたダルベポエチンアルファをカラムから溶出するステップとを含む、ダルベポエチンアルファの精製方法であってもよい。
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0023】
本発明における「ダルベポエチンアルファ(Darbepoetin alfa)」とは、糖タンパク質であるエリスロポエチン(erythropoietin, EPO)の組換え形態であり、エリスロポエチンの分子内の5つのアミノ酸を置換することにより2つのN糖鎖を付加した糖タンパク質である。エリスロポエチンとは分子量、等電点などの生化学的特性が異なる。ダルベポエチンアルファは、赤血球生成を誘導するので、腎不全又は癌の化学治療における貧血治療剤として用いられている。ダルベポエチンアルファは、糖鎖の付加によりエリスロポエチンに比べて血漿半減期が約3倍以上長くなっており、シアル酸含量によるアイソフォーム(isoform)が多様に存在する。ダルベポエチンアルファの糖鎖及びシアル酸含量が高いアイソフォームは低い等電点を有し、そのアイソフォームは生体内で高い生物学的活性を有する。よって、糖鎖及びシアル酸含量が高いアイソフォームのみ選択的に高純度で分離精製することは前記ダルベポエチンアルファを用いるタンパク質治療剤において重要な課題であるが、今でも従来の精製工程は複数のステップで樹脂を用いるため莫大なコスト及び時間を必要とするという問題があった。よって、本発明者らは、簡易な工程で所望の高度にグリコシル化されたダルベポエチンアルファのみ短時間で分離精製する方法を開発した。
【0024】
ダルベポエチンアルファは、EPOに比べてグリコシル化の程度が高いので、1モル当たりのシアル酸含量が最大で13モルにすぎないEPOより1モル当たりのシアル酸含量が高く、その理論的最大値は22モルであることが知られている(非特許文献2)。
【0025】
特に、本発明の精製方法により分離精製されるダルベポエチンアルファは、糖鎖含量及びシアル酸含量が高いことを特徴とし、pI2.0〜4.0と低い等電点を有するアイソフォームを有するダルベポエチンアルファであることが好ましく、等電点が3.5以下であることがより好ましい。
【0026】
本発明における「生物学的流液」とは、細胞、細胞構成要素又は細胞産物を含有するか、それらに由来する全ての培養液を意味し、これらに限定されるものではないが、細胞培養物、細胞培養上清、細胞溶解物、細胞抽出物、組織抽出物、血液、血漿、血清、乳、尿、それらの分画などが含まれる。本発明の精製方法においては、このような様々な形態の生物学的流液を用いることができる。酵母、植物細胞又は動物細胞の培養液であることが好ましく、ダルベポエチンアルファをコードするヌクレオチドが遺伝子組換え方式で形質転換された動物細胞培養液を用いることがより好ましく、前記動物細胞がCHO(チャイニーズハムスター卵巣)である動物細胞培養液であることがさらに好ましい。動物細胞培養液などを用いる場合は、当該分野で公知のように、培養液を遠心分離してその上清を用いることがさらに好ましい。
【0027】
本発明の生物学的流液は、限外濾過法を用いたダイアフィルトレーションを行うことにより得ることが好ましい。前記限外濾過法を用いたダイアフィルトレーションにおいては、培養液中の10,000M.W.C.O.(Molecuar weight cut off)以下の低分子物質(例えば、界面活性剤(surfactant)、染料、低分子ペプチド(small peptide)、糖成分など)を除去するだけでなく、その後クロマトグラフィー平衡化緩衝液に緩衝液を交換することによりカラムの吸着効率を向上させることができる。
【0028】
本発明の具体的な一実施例においては、ダルベポエチンアルファを含むベクターで形質転換されたCHO細胞を培養し、その後培養液の上清を限外濾過システム(10mMリン酸ナトリウム緩衝液を用いる)によりダイアフィルトレーション(diafiltration)して生物学的流液として用いた。
【0029】
本発明における「陰イオン交換クロマトグラフィー」とは、陽性に荷電した支持体に陰性に荷電した(又は酸性)分子を結合させることにより、分子をこれらの電荷に応じて分離する技法であり、分子の同族体(酸性、塩基性及び中性)はこの技法により容易に分離することができる。本発明の陰イオン交換クロマトグラフィーに用いる樹脂としては、強陰イオン交換樹脂と弱陰イオン交換樹脂を制限なく用いることができ、例えば、セファデックス、セファロース、ソース、モノ、ミニ(商品名,GE healthcare)などが挙げられ、これらに限定されるものではないが、前記樹脂の官能基がQ(Quaternary amine)、DEAE(DiEthylAminoEthyl)、QAE(Quaternary Amino Ethyl)などである樹脂を用いることができる。前記樹脂の官能基がQ又はDEAEであるものが好ましく、強陰イオン交換樹脂であるQ−セファロースを用いることが最も好ましい。
【0030】
陰イオン交換クロマトグラフィーは、カラムクロマトグラフィーで行うこともできる。商業的な製造においてはバッチモードを用いることが好ましい。また、本発明の陰イオン交換クロマトグラフィーに用いる陰イオン交換樹脂は、培養液を吸着させる前に水性緩衝液で平衡化してもよく、緩衝液としては、Tris−HCl、リン酸ナトリウム(sodium phosphate)緩衝液などを用いることができる。
【0031】
また、本発明の陰イオン交換クロマトグラフィーに用いる陰イオン交換樹脂は、培養液を吸着させる前に水性緩衝液で平衡化してもよい。
【0032】
本発明に用いられる吸着クロマトグラフィーの固定相には、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム及びヒドロキシアパタイトが含まれ、ヒドロキシアパタイトであることが最も好ましい。ヒドロキシアパタイトは、通常DNAなどの核酸の除去のために多く用いられることが知られている。
【0033】
ダルベポエチンアルファの分画物から生物学的不純物を除去した後、様々なシアル酸含量のアイソフォームを含む前記ダルベポエチンアルファの分画物を陰イオン交換クロマトグラフィーにかけることにより、シアル酸含量が高いダルベポエチンアルファを選択的に分離する。本発明の精製方法におけるアルギニンを含む洗浄緩衝液で洗浄するステップは、目的とする等電点を有するアイソフォーム(isoform)であるダルベポエチンアルファを得るために、目的とする等電点より高い等電点を有するダルベポエチンアイソフォームを洗浄することを特徴とするものであってもよい。
【0034】
本発明の目的上、前記陰イオン交換クロマトグラフィーは、アルギニンを含む洗浄緩衝液を用いて洗浄する。
【0035】
本発明におけるアルギニンを含む洗浄緩衝液は、pH3.0以上5.0以下のものであることが好ましく、また、アルギニンを含み、NaCl及びウレア(Urea)からなる群から選択されるいずれか1つ以上をさらに含むものであることが好ましい。特に、前記洗浄緩衝液は、5mM以上90mM以下のNaClを含み、かつ/又は3M以上8M以下のウレアを含むものであってもよい。
【0036】
様々なシアル酸含量を有するダルベポエチンアルファを含む混合物を陰イオン交換クロマトグラフィーカラムにローディングしてダルベポエチンアルファをカラムに結合させ、アルギニンを含む洗浄緩衝液で前記クロマトグラフィーカラムを洗浄する前又は後に、アルギニンを含む又は含まない洗浄緩衝液で洗浄するステップをさらに含むことが好ましく、アルギニンを含む洗浄緩衝液で前記クロマトグラフィーカラムを洗浄する前に、pH6以上pH8以下の洗浄緩衝液で前記カラムを1次洗浄するステップをさらに含み、アルギニンを含む洗浄緩衝液で前記クロマトグラフィーカラムを洗浄するステップは、pH3以上pH5以下のアルギニンを含む洗浄緩衝液でカラムを2次洗浄するステップであることがより好ましい。
【0037】
前記洗浄するステップで用いる洗浄緩衝液としては、リン酸ナトリウム(sodium phosphate)緩衝液、酢酸ナトリウム(sodium acetate)緩衝液、クエン酸塩(citrate)緩衝液、グリシン−HCl(glycin-HCl)緩衝液、クエン酸−リン酸ナトリウム(citric acid-sodium phosphate)緩衝液などを用いることができる。1次洗浄時の洗浄緩衝液はpH6〜8のリン酸ナトリウム溶液であり、2次洗浄時の洗浄緩衝液はpH3〜5のグリシン−HCl溶液であり、目的とするpHの範囲や移動相のイオン強度を得るためにNaCl、Ureaなどをさらに含むことがより好ましい。
【0038】
前記アルギニンを含む洗浄緩衝液の適用は、シアル酸含量が低いダルベポエチンアルファを除去する重要な役割を果たす。図2は洗浄緩衝液としてアルギニンを含むグリシン−HClを用いた場合のクロマトグラフィー結果を示す図であり、図3はアルギニンを含む酢酸ナトリウム緩衝液を用いた場合のクロマトグラフィー結果を示す図である。どちらの場合もシアル酸含量が高いダルベポエチンアルファが溶出することが確認された。すなわち、アルギニンを含むpH緩衝液を用いた場合、2〜3の範囲の等電点を有する、シアル酸含量が高い高品質のダルベポエチンアルファが溶出し、特に等電点2前後に集中して溶出する(図2及び図3の矢印を参照)。
【0039】
それに対して、他の条件は同一条件にして洗浄緩衝液内にアルギニンを含めない場合、ダルベポエチンアルファの分画物からシアル酸含量が低いアイソフォームが等電点3前後及び等電点3以上で多量に溶出し、ダルベポエチンアルファのアイソフォームに対する精製効果が著しく低下することが確認された(図4)。
【0040】
アルギニンを含む洗浄緩衝液を用いて洗浄を行い、その後シアル酸含量が高いダルベポエチンアルファを溶出するステップでpH6〜8の緩衝液を用いて段階塩勾配(stepwise salt gradient)により溶出させる。
【0041】
他の実施形態として、本発明は、ゲル濾過(gel filtration)クロマトグラフィーをさらに用いてシアル酸含量が高いアイソフォームのみ選択的に分離するダルベポエチンアルファの精製方法を提供する。すなわち、前述したように得られた陰イオン交換クロマトグラフィー溶出液をゲル濾過クロマトグラフィーにかけて分画するステップをさらに含む精製方法である。
【0042】
ゲル濾過(gel-filtration)クロマトグラフィーとは、タンパク質のサイズ(size)によりタンパク質を分離する方法であり、タンパク質重合体の分離に用いられる。本発明のゲル濾過(gel-filtration)クロマトグラフィーに用いる樹脂としては、セファデックス、セファロース、セファクリル(商品名:GE healthcare)などを用いることができ、セファクリルS−100、S−200、S−300を用いることが最も好ましい。
【0043】
前記アルギニンを含む洗浄緩衝液を用いた陰イオンクロマトグラフィーにより得られた溶出液をゲル濾過(gel-filtration)クロマトグラフィーにさらにかけることにより、一層高いシアル酸含量と99%以上の純度を有するダルベポエチンアルファを溶出させることができる。
【0044】
まず、ゲル濾過クロマトグラフィーを緩衝液で十分に平衡化した後、平衡化したゲル濾過クロマトグラフィーに、アルギニンを含む洗浄緩衝液を用いた陰イオンクロマトグラフィーから得られた溶出液をローディングして分画することにより、目的とする等電点を有する溶出液を得ることができる。分画の順に、すなわち先に溶出する分画におけるシアル酸含量が高い。
【0045】
本発明の具体的な一実施例においては、約1.7LのセファクリルS−100〜200(GE Healthcare社)樹脂をXK−50/90カラム(GE Healthcare社)に充填し、140mM NaClを含む20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.2)を十分に流してゲル濾過カラムを平衡化した。よって、ダルベポエチンアルファを含む溶液を濃縮して約60mlを7.5ml/minの流速でカラムに流した後、140mM NaClを含む20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.2)を十分に流してシアル酸含量が高いダルベポエチンアルファを含む溶出液を分画した(図5)。溶出液分画の順にダルベポエチンアルファのシアル酸含量が高いことが確認された(表1及び図6)。
【0046】
本発明の他の態様は、(a)ダルベポエチンアルファを含む生物学的流液を陰イオン交換クロマトグラフィーにかけてダルベポエチンアルファを含む分画を溶出するステップと、(b)ステップ(a)で生成された溶出液をヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーにかけてダルベポエチンアルファを含む分画を溶出するステップと、(c)ステップ(b)で生成された溶出液を陰イオン交換クロマトグラフィーカラムにローディングしてダルベポエチンアルファをカラムに結合させるステップと、(d)アルギニンを含む洗浄緩衝液でステップ(c)における前記カラムを洗浄するステップと、(e)ステップ(d)における前記カラムとの結合が維持されたダルベポエチンアルファをカラムから溶出するステップとを含む、ダルベポエチンアルファの精製方法であってもよい。
【0047】
以下、前記各ステップを具体的に説明する。
【0048】
(a)ステップは、ダルベポエチンアルファを含む生物学的流液を陰イオン交換クロマトグラフィーにかけてダルベポエチンアルファを含む分画を溶出するステップであり、平衡化した陰イオン交換クロマトグラフィーカラムにダルベポエチンアルファを含む生物学的流液を加えて吸着させ、その後10〜100mM NaClを含むpH6〜8の洗浄緩衝液で洗浄し、次いで100〜300mM NaClを含むpH6〜8の溶出緩衝液でダルベポエチンアルファを含む分画を溶出するステップであることが好ましい。
【0049】
本発明の陰イオン交換クロマトグラフィー及び当該カラムを構成する樹脂は前述した通りである。
【0050】
本発明の具体的な一実施例においては、ダルベポエチンアルファを含むベクターで形質転換されたCHO細胞からダルベポエチンアルファを発現させて得た培養液約1Lを10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)により限外濾過システム(分子量カットオフ10,000)を用いてダイアフィルトレーション(diafiltration)した生物学的流液を、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で平衡化した陰イオン交換(Q fast flow, GE Healthcare社)樹脂が充填されたXK−50カラムにローディングした後、再び10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を約2CV(column volume)流してカラムを平衡化した。その後、0〜100mM NaClを含む洗浄緩衝液で洗浄し、次いで100〜300mM NaClを含むpH6〜8の溶出緩衝液で溶出した。前記陰イオン交換クロマトグラフィーを行うと、生物学的由来の不純物が除去され、多量のダルベポエチンアルファを含む溶液に精製されることがRP−HPLCにより確認された(図1のB)。
【0051】
(b)ステップは、平衡化した吸着クロマトグラフィーの固定相、より好ましくはヒドロキシアパタイト樹脂に(a)ステップで回収された溶出液をローディングし、その後0〜100mMリン酸ナトリウムを含むpH6〜8の洗浄緩衝液で洗浄し、次いでローディングと洗浄により樹脂に吸着せずに流出した液からダルベポエチンアルファを含む分画を得るステップであってもよい。
【0052】
本発明に用いられる吸着クロマトグラフィーの固定相には、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム及びヒドロキシアパタイトが含まれ、ヒドロキシアパタイトであることが最も好ましい。本発明における「ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー」又は「ヒドロキシアパタイト樹脂クロマトグラフィー」とは、ヒドロキシアパタイト樹脂が充填された固定相を有する吸着クロマトグラフィーを意味し、「ヒドロキシアパタイトカラム」と混用される。
【0053】
前記各洗浄及び溶出ステップで用いる緩衝液としては、リン酸ナトリウム(sodium phosphate)緩衝液、リン酸カリウム(potassium phosphate)緩衝液又はトリス(Tris)緩衝液を用いることが好ましい。
【0054】
本発明の具体的な一実施例においては、陰イオン交換樹脂溶出液を、7mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で平衡化したヒドロキシアパタイト樹脂が充填されたXK−50カラムにローディングした後、約3カラム容量の7mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を流し、糖鎖が多く付着したダルベポエチンアルファを溶出した。前記ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーの結果、生物学的由来の不純物が除去され、多量のダルベポエチンアルファを含む溶液に精製されることがRP−HPLCにより確認された(図1のC)。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は本発明を例示するためのものにすぎず、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0056】
陰イオン交換クロマトグラフィー及びヒドロキシアパタイト吸着クロマトグラフィーによる様々なシアル酸含量を有するダルベポエチンアルファアイソフォームの混合物の収得
ダルベポエチンアルファを含むベクターで形質転換されたCHO細胞からダルベポエチンアルファを発現させて得た培養液約1Lを10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)により限外濾過システム(分子量カットオフ10,000)を用いてダイアフィルトレーション(diafiltration)した。これを陰イオン交換クロマトグラフィー及びヒドロキシアパタイト吸着クロマトグラフィーを用いて、2つのカラムに順次的にローディングした。
【0057】
まず、陰イオン交換クロマトグラフィーは、具体的に次のように行った。約100mlの陰イオン交換(Q fast flow, GE Healthcare社)樹脂をXK−50カラム(GE Healthcare社)に充填し、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を十分に流してカラムを平衡化した。準備したQセファローズFFカラムに前記ダイアフィルトレーション液を約0.1〜0.2リットルを15ml/minの流速で流した後、再び10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を約2CV(column volume)流してカラムを平衡化した。その後、10〜100mM NaClを含む洗浄緩衝液で洗浄し、次いで100〜300mM NaClを含むpH6〜8の溶出緩衝液で溶出した。
【0058】
前記陰イオン交換クロマトグラフィーを行った溶出液に対するヒドロキシアパタイト吸着クロマトグラフィーは、具体的に次のように行った。約100mlのヒドロキシアパタイト(GE Healthcare社)樹脂をXK−50カラム(GE Healthcare社)に充填し、7mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を十分に流してカラムを平衡化した。準備したヒドロキシアパタイトカラムに前記ダイアフィルトレーション液を約0.1リットルを10ml/minの流速で流し、その後再び7mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を約3CV(column volume)流した。
【0059】
ここで、ローディングと洗浄により樹脂に吸着せずに流出した溶液にはシアル酸含量が様々なダルベポエチンアルファが含まれているので、この溶液を回収して次の工程を行った。洗浄後、0.1〜0.7Mリン酸カリウム(potassium phosphate)pH7の緩衝液を樹脂に流して糖鎖が少ないダルベポエチンアルファ及び不純物を含有する分画を溶出させることにより、樹脂から除去した。生物学的由来の不純物が除去され、多量のダルベポエチンアルファを含む溶液に精製されることがRP−HPLCにより確認された(図1)。
【実施例2】
【0060】
陰イオン交換クロマトグラフィーにアルギニンを用いて洗浄する方法によるシアル酸含量が高いダルベポエチンアルファの精製
約20mlのQセファローズFF(GE Healthcare社)樹脂をXK−26カラム(GE Healthcare社)に充填し、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を十分に流してカラムを平衡化した。
【0061】
前記実施例1で得られたダルベポエチンアルファを含む溶液を約0.2リットルを5ml/minの流速でカラムに流した後、再び平衡化緩衝液である10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を約2CV(column volume)流してカラムを平衡化した。その後、50mM NaClを含む10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で1次洗浄し、次いでウレア、アルギニン、NaClを含むpH3〜5以下のグリシン−HCl緩衝液で2次洗浄することにより、シアル酸含量が低いダルベポエチンアルファを含有する分画を洗浄した。グリコシル化の程度が大きく等電点が低いダルベポエチンアルファのみ含有するタンパク質は、190mM NaClを含むリン酸ナトリウム(pH6.2)緩衝液を用いて溶出した。この洗浄過程による高品質のダルベポエチンアルファはIEFにより確認された(図2)。
【実施例3】
【0062】
アルギニンを含む洗浄液がシアル酸含量に及ぼす影響の測定
前記実施例2におけるアルギニンを用いる洗浄方法は、シアル酸含量が高いダルベポエチンアルファを精製する上で重要な要素となることが下記実施例により確認された。
【0063】
実施例2と同様に、前記実施例1で得られたダルベポエチンアルファを含む溶液をQセファローズFFに吸着させた後、再び平衡化緩衝液である10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を約2CV(column volume)流してカラムを1次洗浄した。ただし、2次洗浄の際に、実施例2とは異なり、グリシン−HCl緩衝液の代わりにpH3〜5の酢酸ナトリウム緩衝液で洗浄した。溶出させた結果、等電点が2〜3のシアル酸含量が高いダルベポエチン含量が得られることが確認された(図3の矢印)。
【0064】
さらに他の実施形態として、実施例2と同様に1次洗浄及び2次洗浄を行うものの、アルギニンを投入せずに2次洗浄を行った。溶出させた結果、等電点が2〜3以上のシアル酸含量が低いダルベポエチンまで溶出し、品質が著しく低下することが確認された(図4の矢印)。
【0065】
この実施例により、アルギニンは低い等電点のシアル酸ダルベポエチンアルファを得る重要な要素であることが確認された。
【実施例4】
【0066】
ゲル濾過クロマトグラフィーを用いたシアル酸含量が高いダルベポエチンの精製
約1.7LのセファクリルS−100〜200(GE Healthcare社)樹脂をXK−50/90カラム(GE Healthcare社)に充填し、140mM NaClを含む20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.2)を十分に流してカラムを平衡化した。
【0067】
前記実施例2で得られたダルベポエチンアルファを含む溶液を濃縮して約5mlを7.5ml/minの流速でカラムに流し、その後140mM NaClを含む20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.2)を十分に流してシアル酸含量が高いダルベポエチンアルファを含む溶出液を分画した(図5)。溶出液分画の順にダルベポエチンアルファのシアル酸含量が高いことが確認された(表1及び図6)。各分画のシアル酸含量を示すWax−HPLCの結果は表1の通りである。
【0068】
【表1】
【0069】
前記結果をまとめると、陰イオン交換カラムを用いた場合は、アルギニンを含む緩衝液を用いて洗浄過程を行うことにより、シアル酸含量が高いダルベポエチンアルファを精製できることが確認され、また、その後ゲル濾過クロマトグラフィーをさらに行って分画した結果、高純度のシアル酸含量が高いダルベポエチンアルファを精製できたので、本発明の精製方法を用いて高純度のシアル酸含量が高いダルベポエチンアルファを精製できることが確認された。
【0070】
以上の説明から、本発明に属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、前記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明の範囲は、明細書ではなく特許請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態を含むものであると解釈すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6