(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232139
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】エチレン系ポリマーの架橋過程
(51)【国際特許分類】
C08F 8/00 20060101AFI20171106BHJP
C08F 210/02 20060101ALI20171106BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20171106BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
C08F8/00
C08F210/02
C08L23/08
C08K5/14
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-541896(P2016-541896)
(86)(22)【出願日】2014年9月8日
(65)【公表番号】特表2016-531190(P2016-531190A)
(43)【公表日】2016年10月6日
(86)【国際出願番号】EP2014069023
(87)【国際公開番号】WO2015036341
(87)【国際公開日】20150319
【審査請求日】2016年3月18日
(31)【優先権主張番号】13183928.4
(32)【優先日】2013年9月11日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509131443
【氏名又は名称】アクゾ ノーベル ケミカルズ インターナショナル ベスローテン フエンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel Chemicals International B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128484
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 司
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 忠永
(72)【発明者】
【氏名】立石 浩一
【審査官】
大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−265455(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンと少なくとも1種類の他のモノマーとの共重合体を、下記式(1)で表される有機過酸化物を用いて架橋する方法。
【化1】
(式中、R1はメチル基またはエチル基であり、
R1がメチル基の場合、R2は炭素数1〜8のアルキル基
であり、
R1がエチル基の場合、R2は炭素数2〜8のアルキル基
である。)
【請求項2】
R1はメチル基を表し、R2は炭素数1〜4のアルキル基を表す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
エチレンと少なくとも1種類の他のモノマーとの前記共重合体がエチレン酢酸ビニル共重合体である、請求項1または2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンと少なくとも1種類の他のモノマーとの共重合体を架橋する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる共重合体の例としてエチレン酢酸ビニル共重合体(以下、EVAと略す)がある。EVA樹脂は好ましいレベルの透明性、柔軟性、ゴム弾性、低温特性、および粘着特性を有し、多様な用途、例えば太陽電池モジュールの封止材料、合わせガラスの層間フィルム、農業用フィルム、ストレッチフィルム等に用いられる。特にこんにちでは、クリーンなエネルギー源として注目されている太陽電池モジュールの封止材料の形成を目的としたEVA樹脂の需要が急増している。
【0003】
さまざまなゴム類およびプラスチック類を架橋(硬化ともいう)するための薬剤として有機過酸化物が広く用いられている。EVA樹脂封止材料の耐熱性や耐久性等の物理特性を向上させるために、EVA樹脂は従来から架橋剤として有機過酸化物を用いて架橋される。この過程において有機過酸化物は熱によって分解され、EVA樹脂の架橋に関与する化学種を形成する。
【0004】
通常、太陽電池モジュールに含まれる個々の太陽電池セルは、前面側の透明保護シート(ガラス板など)および背面側の保護シート(ふっ素樹脂やポリエチレンテレフタラート樹脂など)との間をシート状のEVA封止材料によって封止している。かかる太陽電池モジュールは、ガラス板、EVA封止シート、セル、EVA封止シート、および背面側の保護シートを積層する工程と、それを加熱加圧することによってEVA樹脂を架橋し、接合および封止を行う工程とを含む過程によって製造される。
【0005】
現在、太陽電池モジュールの需要が世界的に急増している。その結果、モジュールメーカー各社は太陽電池モジュールの製造サイクル過程をスピードアップしたいと考えている。しかし、EVA樹脂シートを用いた熱融着の過程は比較的長時間を要するため、それがサイクル過程をスピードアップするうえでの障壁となり、生産性の面で大きな問題となっている。
【0006】
太陽電池モジュールの製造時にEVA樹脂シートによる熱融着の過程に必要な時間を短縮する技術としてさまざまなものが提案されている。1つのかかる技術では、容易に分解してEVA樹脂の架橋をより短時間で行えるよう、架橋剤として半減期温度の低い有機過酸化物を使用する。
EVA樹脂の架橋に一般に用いられる架橋剤として、1分子当たり2つのパーオキサイド結合(−O−O−)をもつ二官能性の有機過酸化物、例えばジアルキルパーオキサイドである2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ならびに分解温度がさらに低い有機過酸化物、例えばパーオキシケタール構造もしくはパーオキシカーボネート構造を有する有機過酸化物がある。
例えば、国際公開第2012/114761号(欧州特許出願公開第2680318号明細書としても公開)は、EVAと、架橋剤として2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサンと、を含む太陽電池セル封止フィルムを開示している。
【0007】
残念ながら、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサンの1分半減期温度は180℃程度である。このことは、樹脂への添加量が増えるにつれ、その未反応残留物の量が増えることを意味する。所定量の同物質の分解に要する時間がそれだけ長くなるため、架橋に要する時間の短縮が困難になる。単官能性のジアルキルパーオキサイド(したがって1分子当たり1つのパーオキサイド結合(−O−O−)を有する)は、2つのアルキル基が炭素原子をそれぞれ6つ以上含む場合に1分半減期温度が低くなるため、かかる有機過酸化物を用いることで架橋に要する時間を短縮することができる。
【0008】
しかし、かかる有機過酸化物には、高度の架橋(高いゲル分率)を実現できないという問題がある。さらに、パーオキシケタール構造またはパーオキシカーボネート構造を有する過酸化物には、分解によって多量のガスが生じるという潜在的問題がある。これは架橋EVA生成物中に多数のボイドを生じ、それによって外観ならびに性能を損なう可能性がある。このように、従来の有機過酸化物を架橋剤として選択すること、ならびに複数種類の従来の有機過酸化物の組み合わせを用いることでは、架橋速度の向上も、またボイドがより少ない架橋樹脂生成物の製造も、実現できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2012/114761号(欧州特許出願公開第2680318号明細書)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、エチレンと任意の他のモノマーとの共重合体をより高い架橋速度で架橋する方法を提供することにある。別の目的は、ボイドがより少ない架橋樹脂生成物を製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらの目的は、下記の式(1)に従う構造を有する有機過酸化物の使用によって達成される。
したがって、本発明は、エチレンと少なくとも1種類の他のモノマーとの共重合体を、下記式(1)で表される有機過酸化物を用いて架橋する方法に関する。
【化2】
式中、R1はメチル基またはエチル基であり、
−R1がメチル基の場合、R2は炭素数1〜8のアルキル基であり、かつ炭素原子はO、Si、P、S、SO−、またはSO
2官能基を含有する基と置換されていてもよく、
−R1がエチル基の場合、R2は炭素数2〜8のアルキル基であり、かつ炭素原子はO、Si、P、S、SO−、またはSO
2官能基を含有する基と置換されていてもよい。
【0012】
好適な実施形態において、R1がメチル基の場合にR2は炭素数1〜8のアルキル基であり、R1がエチル基の場合にR2は炭素数2〜8のアルキル基である。
【0013】
本過程によって架橋される好ましいエチレン共重合体はエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)である。
【0014】
本発明による有機過酸化物を架橋剤として使用すると、エチレンと別のモノマーとの共重合体を短時間で架橋できるうえ、ボイドがより少なく、かつ良好な性能と外観とを有する架橋樹脂生成物を得ることができる。
【0015】
エチレン共重合体(例えばEVA)の架橋がエチレンホモポリマーの架橋と異なる点は、エチレン共重合体の架橋がエチレンホモポリマーの架橋よりも低温で実施されることにある。その結果、エチレンホモポリマーの架橋には高温で安定的な過酸化物の使用が必要となるが、そのような過酸化物は一般にエチレン共重合体の架橋に必要な低めの温度において性能が低下する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
式(1)に従う有機過酸化物の例として、tert−ブチル−1,1−ジメチルプロピルパーオキサイド、tert−ブチル−1,1−ジメチルブチルパーオキサイド、tert−ブチル−1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキサイド、1,1−ジメチルプロピル−1,1−ジメチルブチルパーオキサイド、1,1−ジメチルプロピルtert−1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキサイド、およびその組み合わせが挙げられる。
式(1)に従う有機過酸化物は、別の構造を有する有機過酸化物、例えば式(1)とは異なる構造を有するジアルキルパーオキサイド類、パーオキシカーボネート類、アルキルパーエステル類、パーオキシケタール類、ジアシルパーオキサイド類、ケトンパーオキサイド類、およびヒドロパーオキサイド類と組み合わせて用いてもよい。
【0017】
本発明では、あらゆる好適な架橋方法を用いることができる。ある好適な方法は、ラミネータを用いた加熱加圧による架橋である。
【0018】
架橋温度は好ましくは80℃〜300℃、より好ましくは120℃〜180℃、最も好ましくは120℃〜160℃の範囲内である。
【0019】
添加できる有機過酸化物の量は、意図する架橋共重合体の所望する物理特性によって異なる。式(1)の有機過酸化物は、純粋な過酸化物として計算した場合に、100重量部のエチレン共重合体に対し、好ましくは0.05重量部以上、より好ましくは 0.1重量部以上の量で、かつ好ましくは5.0重量部以下、より好ましくは2.0重量部以下の量で添加される。有機過酸化物の添加量が少なすぎると、架橋生成物が所望の物理特性を得られないことがある。添加量が多すぎると、有機過酸化物またはその分解生成物が架橋生成物中に残留物として残ることにより、架橋生成物の膨張やボイドの形成に至ることがある。
有機過酸化物はそれ単独で共重合体に添加してもよいし、希釈した組成物として添加してもよい。過酸化物は1種類以上の固体もしくは液体希釈剤で希釈してもよい。
【0020】
本発明による架橋方法では、必要であれば、上記有機過酸化物以外の添加剤が存在してもよい。かかる添加剤の例として、架橋助剤(例えば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、またはエチレングリコールジメタクリレート)、共架橋剤(例えば、ジビニルベンゼン、ビスマレイミド類、およびビスシトラコンイミド類)、スコーチ防止剤、加硫促進剤、吸収剤、酸化防止剤、紫外線安定剤、静電防止剤、カップリング剤、界面活性剤、可塑剤、およびプロセス油が挙げられる。これらの添加剤は有機過酸化物とともに共重合体に添加してもよいし、有機過酸化物とは別に添加してもよい。
有機過酸化物と任意選択の添加剤は、ミキサ、ニーダ、ローラ等を用い、従来の方法によって共重合体と均一になるように混合してもよい。得られた、有機過酸化物と共重合体とを含む混合物は、従来の方法、例えば加熱加圧による架橋によって架橋してもよい。
【実施例】
【0021】
実施例1
用いた有機過酸化物はtert−ブチル−1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキサイド(略語:BOP)であった。それぞれのケースにおいて、1.1重量部のBOPを100重量部のEVA樹脂(酢酸ビニル含有量:32重量部)に添加し、2本のロールを用いて65℃で均一に分散させた。得られたEVA樹脂化合物の架橋特性をキュラストメーター(JSRモデルIII)を用いて160℃で測定した。T10はトルクが最大トルクの10%に達するまでの時間を表し、T90はトルクが最大トルクの90%に達するまでの時間を表す。架橋速度の指標としてT90−T10を用いる。太陽電池の封止過程における架橋特性はこれらの値から推定できる。試験結果を表1に示す。
【0022】
ボイド発生検査
BOP(1.1重量部)を100重量部のEVA樹脂(酢酸ビニル含有量:32重量部)に添加し、2本のロールを用いて60℃で均一に分散させた。得られたEVA樹脂化合物を90℃のプレス機に載置して3分間放置した。この化合物を5kg/cm
2、10kg/cm
2、20kg/cm
2、30kg/cm
2、40kg/cm
2、または50kg/cm
2の圧力下で2分間保持してシート状にした(長さ9.5cm×幅7.5cm)。
各シートを150℃、40分間、および荷重21g/cm
2の条件下で架橋した。シート内に形成されるボイドの量を目視で測定した。太陽電池用途で特に重要となるEVA樹脂の変退色も目視で評価した。試験結果を表1に示す。
【0023】
ゲル分率の測定
架橋の指標としてゲル分率が使用できる。ゲル分率が高いほど架橋特性がよいことを示す。0.5gの架橋EVA樹脂を16時間にわたってキシレンに還流させてゲル分率を決定した。濾過によって不溶性画分を回収し、乾燥させた後に重量を測定した。ゲル分率とは、乾燥残留物の重量を樹脂の初期重量で除した値である。試験結果を表1に示す。
【0024】
実施例2
実施例1で用いた有機過酸化物(BOP)の代わりに1.2重量部の1,1−ジメチルプロピル1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキサイド(略語:POP)を用いた以外は、実施例1と同じ手順を用いた。また、ボイド発生の観察は行わなかった。試験結果を表1に示す。
【0025】
比較例1
実施例1で用いた有機過酸化物(BOP)の代わりに0.8重量部の2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン(略語:DMDTB)を用いた以外は、実施例1と同じ手順を用いた。試験結果を表1に示す。
【0026】
比較例2
実施例1で用いた有機過酸化物(BOP)の代わりに1.4重量部のジ(1,1,3,3−テトラメチルブチル)パーオキサイド(略語:DOP)を用い、ボイド発生検査では架橋時間を30分に設定した以外は、実施例1と同じ手順を用いた。試験結果を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
*架橋剤は同数のパーオキサイド結合(−O−O−)が生じるだけの量を添加した。
架橋速度
◇:T90−T10は400秒以下(かなり高速)。
○:T90−T10は400秒超〜1,000秒以下(高速)。
△:T90−T10は1,000秒超〜1,600秒以下(やや低速)。
×:T90−T10は1,600秒超(低速)。
ボイド
◇:ボイド数[/10cm
2]は60以下(かなり少ない)。
○:ボイド数[/10cm
2]は60超〜80以下(少ない)。
△:ボイド数[/10cm
2]は80超〜100以下(やや多い)。
×:ボイド数[/10cm
2]は100超(多い)。
架橋度
◇:ゲル分率は90%以上(かなり高率)。
○:ゲル分率は85%以上(高率)。
△:ゲル分率は80%以上(やや低率)。
×:ゲル分率は80%以下(低率)。
変退色
◇:変退色はまったく観察されない。
○:変退色が少し観察される。
△:変退色が明瞭に観察される。
×:かなり明確な変退色が観察される。
【0029】
上記の結果から、本発明の構造を有する有機過酸化物を架橋剤として用いると、EVA樹脂の架橋に要する時間がきわめて短時間となり、またボイドがより少なく外観も良好な架橋生成物が得られることがわかる。
本願発明には以下の態様が含まれる。
項1.
エチレンと少なくとも1種類の他のモノマーとの共重合体を、下記式(1)で表される有機過酸化物を用いて架橋する方法。
【化3】
(式中、R1はメチル基またはエチル基であり、
R1がメチル基の場合、R2は炭素数1〜8のアルキル基であり、かつ炭素原子はO、Si、P、S、SO−、またはSO
2官能基を含有する基で置換されていてもよく、
R1がエチル基の場合、R2は炭素数2〜8のアルキル基であり、かつ炭素原子はO、Si、P、S、SO−、またはSO
2官能基を含有する基で置換されていてもよい。)
項2.
R1がメチル基の場合にR2は炭素数1〜8のアルキル基であり、R1がエチル基の場合にR2は炭素数2〜8のアルキル基である、項1に記載の方法。
項3.
R1はメチル基を表し、R2は炭素数1〜4のアルキル基を表す、項1または2に記載の方法。
項4.
エチレンと少なくとも1種類の他のモノマーとの前記共重合体がエチレン酢酸ビニル共重合体である、項1から3のいずれか一項に記載の方法。
項5.
項1から4のいずれか一項に記載の過程によって得ることが可能な、エチレンと少なくとも1種類の他のモノマーとの架橋共重合体。
項6.
項1から4のいずれか一項に記載の過程によって得ることが可能な架橋エチレン酢酸ビニル共重合体。