特許第6232144号(P6232144)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立オートモティブシステムズ株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232144
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】燃料噴射弁
(51)【国際特許分類】
   F02M 51/06 20060101AFI20171106BHJP
   F02M 61/10 20060101ALI20171106BHJP
   F02M 61/20 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   F02M51/06 D
   F02M51/06 J
   F02M61/10 X
   F02M61/20 A
   F02M61/10 N
【請求項の数】6
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2016-548605(P2016-548605)
(86)(22)【出願日】2015年7月10日
(86)【国際出願番号】JP2015069816
(87)【国際公開番号】WO2016042896
(87)【国際公開日】20160324
【審査請求日】2016年12月12日
(31)【優先権主張番号】特願2014-189509(P2014-189509)
(32)【優先日】2014年9月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立オートモティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中井 敦士
(72)【発明者】
【氏名】安川 義人
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 真士
(72)【発明者】
【氏名】小倉 清隆
(72)【発明者】
【氏名】三宅 威生
(72)【発明者】
【氏名】草壁 亮
【審査官】 櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−137442(JP,A)
【文献】 特開2006−097659(JP,A)
【文献】 特開2012−097728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 51/06
F02M 61/10
F02M 61/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッド部の先端部に弁座と当接する弁体を有する弁部材と、前記弁部材と共に可動子を構成し前記弁部材に対して開閉弁方向に相対変位可能に構成されたアンカーと、前記アンカーに対して磁気吸引力を作用させて前記アンカーを開弁方向に吸引する固定コアと、前記弁部材を閉弁方向に付勢する第1のばねと、前記アンカーを前記固定コアの反対側から開弁方向に付勢する第2のばねとを備え、前記アンカーと前記弁部材との双方に前記アンカーが前記弁部材に対して開弁方向に変位した場合に係合して前記アンカーの開弁方向への変位を規制する係合部を設けた燃料噴射弁において、
前記弁部材の基準位置に位置づけられた状態で前記アンカーと当接することにより前記弁部材側の係合部と前記アンカー側の係合部との間に間隙を形成する間隙形成部材と、一端部が前記間隙形成部材に対して前記ロッド部の弁体側とは反対側に位置する端部に設けられたばね座に支持され、他端部が前記間隙形成部材の上端面側に支持されて前記間隙形成部材を前記基準位置に位置づけるように閉弁方向に付勢する第3のばねとを備え、
前記第3のばねの付勢力が前記第1のばねよりも小さく前記第2のばねよりも大きいことを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料噴射弁において、
前記第3のばねによる付勢力が前記アンカーに作用する範囲を、前記アンカーが前記弁部材に対して相対変位可能な範囲のうち前記弁部材側の前記係合部側の一部の範囲に規定したことを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項3】
請求項に記載の燃料噴射弁において、
前記弁部材は前記ロッド部の外周面から鍔状に突き出した段付き部を有し、
前記段付き部の前記弁体側の段部で前記弁部材側の前記係合部を構成し、
前記段付き部の前記弁体側とは反対側の段部に前記基準位置が設けられ、
前記間隙形成部材は前記アンカーに対向する下端面側から固定コア側の上端面側に向けて窪んだ凹部を備えると共に、前記下端面が前記アンカー側の前記係合部を構成する面に対向し
前記凹部はその深さ寸法が前記段付き部の両段部の間隔寸法よりも大きく形成されており、前記凹部の底面部が前記基準位置となる前記段部と当接することにより、前記アンカー側の前記係合部を構成する前記面と前記弁部材側の前記係合部を構成する前記段部との間に前記間隙が形成されることを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項4】
請求項に記載の燃料噴射弁において、
前記弁部材は、前記ロッド部の前記弁体側とは反対側の前記端部に、前記第3のばねのばね座部材を有し、
前記第3のばねの前記ばね座は、前記ばね座部材に設けられていることを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項5】
請求項に記載の燃料噴射弁において、
前記第3のばね及び前記間隙形成部材は前記弁部材に一体に組み付けられていることを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項6】
請求項に記載の燃料噴射弁において、
前記ばね座部材は、前記第3のばねのばね座が形成される鍔部を有しており、前記鍔部の前記第3のばねのばね座が形成される面とは反対側の面に、前記第1のばねのばね座が形成されていることを特徴とする燃料噴射弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に用いられる燃料噴射弁に関し、特に電磁的に駆動される可動子によって燃料通路を開閉して燃料噴射を行う燃料噴射弁に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特開2011−137442号公報(特許文献1)がある。この公報には、噴孔を開く開弁動作において通電により磁気吸引力を発生する一方、噴孔を閉じる閉弁動作において通電の停止により磁気吸引力を消失させるコイルと、可動コアを貫通する弁貫通部、並びに弁貫通部から径方向に突出して可動コアに固定コア側から当接可能な弁突部を有し、往復移動により噴孔を開閉して燃料の噴射を断続する弁部材と、可動コアを貫通して可動コアの固定コア側の端面から突出するストッパ貫通部を有し、コイルへの通電の停止状態において、弁突部に対してストッパ貫通部を固定コアとは反対側から当接させることにより、当該弁突部と、係止した可動コアとの間に隙間を形成する可動ストッパとを設けた燃料噴射弁が記載されている(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−137442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の燃料噴射弁では、閉弁動作時に、弁部材(プランジャロッド)の先端(弁体)が弁座に当接した後、可動コア(アンカー)は慣性力により下方(閉弁方向)への移動を継続する。やがて可動コアは、この可動コアを固定コアの反対側から開弁方向に付勢するばねによって、上方(開弁方向)に押し戻される。上方に押し戻された可動コアは、弁部材の弁突部に衝突し、弁部材を上方へ変位させる可能性がある。弁部材が上方へ変位すると、噴孔が開かれて燃料噴射(二次噴射)が起こり、燃料量を精度よく噴射することができなくなる。この場合の弁部材の上方への変位は、可動コアを固定コアの反対側から開弁方向に付勢するばねの付勢力の影響を受ける。このばねの付勢力を大きくすると、可動コアが弁部材の弁突部に衝突したときに、弁部材を上方へ変位させることになる。一方、このばねの付勢力を小さくすると、下方に変位する可動コアを上方に押し戻す力が弱くなり、可動コアが安定した閉弁状態の位置に戻るまでの時間が長くなる。可動コアが安定した閉弁状態の位置に戻る前に、次の燃料噴射のためのコイルへの通電を開始すると、通電開始時の可動コアの位置がばらつくことになり、燃料噴射量のばらつき(誤差)につながる。
【0005】
本発明の目的は、二次噴射の発生を防ぎつつ、燃料噴射の間隔を短くすることができる燃料噴射弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の燃料噴射弁は、閉弁動作時に、アンカーを固定コアの反対側から開弁方向に付勢するばねにより開弁方向に変位するアンカーの運動エネルギを、アンカーを固定コア側から閉弁方向に付勢するばねにより徐々に減衰させる。アンカーはこの閉弁方向に付勢する付勢ばねにより、その運動エネルギが減衰され、プランジャロッドに衝突する前に開弁方向への動きを停止する。或いは、アンカーがプランジャロッドに衝突する場合であっても、アンカーの衝突によりプランジャロッドに加わる瞬間的な衝撃力を低減する。これにより、アンカーを固定コアの反対側から開弁方向に付勢するばねの付勢力を小さくする必要が無く、弁体が弁座に当接して閉弁した後にプランジャロッドが上方へ変位するのを防ぐことができる。
【0007】
具体的には、ロッド部の先端部に弁座と当接する弁体を有する弁部材と、前記弁部材と共に可動子を構成し前記弁部材に対して開閉弁方向に相対変位可能に構成されたアンカーと、前記アンカーに対して磁気吸引力を作用させて前記アンカーを開弁方向に吸引する固定コアと、前記弁部材を閉弁方向に付勢する第1のばねと、前記アンカーを前記固定コアの反対側から開弁方向に付勢する第2のばねとを備え、前記アンカーと前記弁部材との双方に前記アンカーが前記弁部材に対して開弁方向に変位した場合に係合して前記アンカーの開弁方向への変位を規制する係合部を設けた燃料噴射弁において、前記弁部材の基準位置に位置づけられた状態で前記アンカーと当接することにより前記弁部材側の係合部と前記アンカー側の係合部との間に間隙を形成する間隙形成部材と、一端部が前記間隙形成部材に対して前記ロッド部の弁体側とは反対側に位置する端部に設けられたばね座に支持され、他端部が前記間隙形成部材の上端面側に支持されて前記間隙形成部材を前記基準位置に位置づけるように閉弁方向に付勢する第3のばねとを備え、
前記第3のばねの付勢力が前記第1のばねよりも小さく前記第2のばねよりも大きい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、二次噴射の発生を防ぎつつ、燃料噴射の間隔を短くすることができる燃料噴射弁を提供することができる。
【0009】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第一実施例に係る燃料噴射弁の構造を示す縦断面図である。
図2図1の部分拡大図で、本実施例における燃料噴射弁の詳細を示したものである。
図3図1の部分拡大図であり、開弁動作の初期段階における可動子114の状態を示す断面図である。
図4図1の部分拡大図であり、弁体114Bが開弁動作中の可動子114の状態を示す断面図である。
図5図1の部分拡大図であり、プランジャロッド114Aがアンカー102から分離して単独で動作する状態を示す断面図である。
図6図1の部分拡大図であり、アンカー102、プランジャロッド114A及び中間部材133が開弁状態で安定した状態を示す断面図である。
図7図1の部分拡大図であり、閉弁動作の初期状態を示す断面図である。
図8図1の部分拡大図であり、閉弁動作時に弁体114Bが弁座39に衝突した瞬間を示す断面図である。
図9図1の部分拡大図であり、弁体114Bが弁座39に衝突した後、アンカー102が単独で下方に変位する状態を示す断面図である。
図10図1の部分拡大図であり、アンカー102が第2ばね112により上方に押し戻され、中間部材133と衝突した状態を示す断面図である。
図11図1の部分拡大図であり、第2ばね112により押し戻されたアンカー102が、プランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bと衝突した状態を示す断面図である。
図12】弁体114Bの挙動とアンカー102の挙動とを模式的に示す図である。
図13】第二実施例に係る燃料噴射弁について、図2と同様な部分を拡大して示す部分拡大図である。
図14A】弁部材組品100の構成を示す図である。
図14B】ノズルホルダ(ハウジング部材)101にアンカー102及び第2のばね112を組み付けた状態を示す断面図である。
図14C】ノズルホルダ101に固定コア107を圧入固定して、本体側組品200を組み立てた状態を示す断面図である。
図14D】本体側組品200に弁部材組品100を組み付けた状態を示す断面図である。
図14E】本体側組品200に弁部材組品100を組み付けた後、第1のばね110を組み付けた状態を示す断面図である。
図15図1の部分拡大図で、第三実施例における燃料噴射弁の詳細を示す図である。
図16】第三実施例におけるキャップ(ばね座部材)132’の外観を示す斜視図である。
図17】第四実施例における弁部材組品100’の外観を示す外観図である。
図18】第五実施例における弁部材組品100’’の外観を示す外観図である。
図19図18のXIX−XIX断面について、段付き部形成部材129’とプランジャロッド114A’’のみを図示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施例を説明する。
【実施例1】
【0012】
以下、図1及び図2を用いて、本発明に係る燃料噴射弁の一実施例の構成について説明する。図1は本実施例における燃料噴射弁の縦断面図である。図2図1の部分拡大図で、本実施例における燃料噴射弁の詳細を示したものである。本実施例の燃料噴射弁は、弁体をスプリングによって閉弁方向に付勢し、可動子を電磁的に駆動して燃料通路を開き燃料噴射を行う電磁式燃料噴射弁である。図1及び図2は、電磁駆動部への通電がオフされ、閉弁した状態で、なお且つ可動子が静止した状態を示している。
【0013】
以下の説明では、図1及び図2に基づいて上下方向を定義する。この上下方向は、燃料噴射弁の実装状態における上下方向とは必ずしも一致しない。
【0014】
ノズルホルダ101は直径が小さい小径筒状部22と直径が大きい大径筒状部23とを備えている。小径筒状部22の先端部分の内部に、ガイド部材115と、燃料噴射口10を備えたオリフィスカップ116とが挿入されて設けられている。ガイド部材115はオリフィスカップ116の内側に設けられ、オリフィスカップ116に圧入又は塑性結合により固定されている。オリフィスプカップ116は、先端面の外周部に沿って小径筒状部22の先端部に溶接固定される。ガイド部材115は後述する可動子114を構成するプランジャロッド(弁部材)114Aの先端に設けられた弁体114Bの外周をガイドする。オリフィスカップ116にはガイド部材115に面する側に円錐状の弁座39が形成されている。この弁座39にはプランジャ114Aの先端に設けた弁体114Bが当接し、燃料の流れを燃料噴射口10に導いたり遮断したりする。ノズルホルダ101の外周には溝が形成されており、この溝に樹脂材製のチップシール184に代表されるシール部材が嵌め込まれている。
【0015】
ここで、可動子114の構成について、図2を用いて、詳細に説明する。
【0016】
プランジャロッド114Aの弁体114Bが設けられている端部とは反対側の端部には、プランジャロッド114Aの直径より大きい外径を有する段付き部129を有する頭部114Cが設けられている。段付き部(鍔部)129はプランジャロッド114Aの外周面から鍔状に張り出した鍔部を構成する。段付き部129の上端面から上部は段付き部129よりも小径の突起部131が設けられており、突起部131の上端部にはスプリング(第1のばね)110の着座面が形成されたキャップ132が設けられている。キャップ132は突起部131に圧入固定されている。
【0017】
可動子114はプランジャロッド114Aが貫通する貫通孔128を中央に備えたアンカー102を有する。アンカー102とノズルホルダ101との間にゼロスプリング(第2のばね)112が保持されている。ゼロスプリング112は一端部が燃料噴射弁の本体側(本実施例ではノズルホルダ101)に支持され、他端部がアンカー102の下端面102Bに当接しており、アンカー102を開弁方向に付勢している。この付勢力(セット荷重)は第1のばね110による付勢力(セット荷重)とは逆向きにアンカー102に作用している。すなわち、第1のばね110はプランジャロッド114Aを閉弁方向に付勢し、第2のばね112はアンカー102を固定コア107の反対側から開弁方向に付勢している。なお、第1のばね110の一端部は燃料噴射弁の本体側(本実施例では調整子54)に支持されている。
【0018】
アンカー102の上端面102Aには下端面102B側に向けて凹部102Cが形成されている。この凹部102Cの内側に、中間部材133が設けられている。中間部材133の下面側には上方に向けて凹部133Aが形成されており、この凹部133Aは頭部114Cの段付き部129が収まる直径(内径)と深さを有している。すなわち、凹部133Aの直径(内径)は段付き部129の直径(外径)よりも大きく、凹部133Aの深さ寸法は段付き部129の上端面129Aと下端面129Bとの間の寸法よりも大きい。凹部133Aの底部には頭部114Cの突起部131が貫通する貫通孔133Bが形成されている。
【0019】
図2に示すように、貫通孔133Bと突起部131の外周面との間には間隔g2を形成することにより、中間部材133の凹部133Aにある燃料が貫通孔133Bを通じて流出し易くし、また中間部材133の外側にある燃料が貫通孔133Bを通じて凹部133Aに流入し易くしている。本実施例では、間隔g2を段付き部129の外周面129Fと中間部材133の凹部133Aの内周面との間隔g1よりも大きくし、凹部133Aに対する燃料の流出入が良好に行われるようにしている。これにより、燃料が流体抵抗となって中間部材133のスムーズな変位が妨げられるのを防止している。
【0020】
また、間隔g2を設けることに加えて、段付き部129の外周面129Fと上端面129Aとの連結部にテーパー部182を設けることにより、段付き部129と中間部材133との接触面積を低減し、段付き部129と中間部材133との間に作用するスクイーズ力を低減することができる。これにより、中間部材133が段付き部129から離間する動作をスムーズに行うことができる。
【0021】
中間部材133の内面にも段付き部129のテーパー部182と対向する部分にテーパー部が設けられ、このテーパー部と段付き部129のテーパー部182とは、相互に干渉しないように形成されている。
【0022】
中間部材133とキャップ132との間にはスプリング(第3のばね)134が保持されており、中間部材133の上端面133Cは第3のばね134の一端部が当接するばね座を構成する。第3のばね134は、アンカー102を固定コア107側から閉弁方向に付勢する。
【0023】
中間部材133の上方に位置するキャップ132の上端部には径方向に張り出した鍔部132Aが形成されており、鍔部132Aの下端面132Bに第3のばね134の他端部が当接するばね座が構成され、鍔部132Aの上端面132Iに第1のばね110の一端部(下端部)が当接するばね座が構成されている。キャップ132の鍔部132Aの下端面から下方に筒状部132Cが形成されており、筒状部132Cに突起部131が圧入固定されている。
【0024】
キャップ132と中間部材133とがそれぞれ第3のばね134のばね座を構成するため、中間部材133の貫通孔133Bの直径(内径)はキャップ132の鍔部132Aの直径(外径)よりも小さい。従って、中間部材133と第3のばね134とは、キャップ132と突起部131との圧入工程の前に、プランジャロッド114Aに組み付けられる。
【0025】
キャップ132は上方から第1のばね110の付勢力を受け、下方から第3のばね134の付勢力(セット荷重)を受ける。後述するように第1のばね110の付勢力は第3のばね134の付勢力よりも大きく、結果的に、キャップ132は第1のばね110の付勢力と第3のばね134の付勢力との差分の付勢力によって突起部131に押し付けられている。キャップ132には突起部131から抜ける方向の力が加わらないので、キャップ132は突起部131に圧入固定するだけで十分であり、溶接する必要はない。
【0026】
キャップ132には、鍔部132Aを上下方向に貫通する貫通孔132Fが形成されている。貫通孔132Fはキャップ132をプランジャロッド114A(突起部131)に圧入する際の空気抜き孔として機能し、キャップ132の圧入作業を容易にする。本実施例では、キャップ132の筒状部132Cによって形成される凹部132Gの底面132Hがプランジャロッド114A(突起部131)の端部114A−1に当接している。
【0027】
プランジャロッド114A(突起部131)の端部114A−1の周縁部には、テーパー部182が形成されており、キャップ132の凹部132Gの内面との間に間隙部181が形成されている。間隙部181は、キャップ132をプランジャロッド114Aに圧入する際に生じる異物を捕集する。キャップ132の底面132Hがプランジャロッド114Aの端部114A−1に当接しているので、間隙部181に捕集された異物は、間隙部181に閉じ込められる。異物が間隙部181に捕集されるようにしたことで圧入作業が容易になると共に、間隙部181に捕集された異物が外部に出ることが無くなるので、燃料噴射弁1の動作に不具合が生じるのを防ぐことができる。
【0028】
また、第3のばね134を配置するために、キャップ132の下端面132Bと中間部材133の上端面133Cとの間には、ある程度の間隔を設ける必要がある。このため、キャップ132の筒状部132Cの長さを確保することが容易である。
【0029】
再び、中間部材133について説明する。図2に示す状態は、プランジャロッド114Aが第1のばねによる付勢力を受け、なお且つアンカー102に電磁力は作用していない状態である。この状態では、弁体114Bが弁座39に当接して燃料噴射弁が閉弁しており、且つ可動子114が静止して安定した状態にある。
【0030】
この状態では、中間部材133は第3のばね134の付勢力を受けて、凹部133Aの底面133Eがプランジャロッド114Aの段付き部129の上端面129Aに当接している。すなわち、凹部133Aの底面133Eと段付き部129の上端面129Aとの間隙G3の大きさ(寸法)がゼロである。中間部材133の底面133Eと段付き部129の上端面129Aとはそれぞれ中間部材133とプランジャロッド114Aの段付き部129とが当接する当接面を構成する。
【0031】
一方、アンカー102はゼロスプリング(第2のばね)112の付勢力を受けて固定コア107側に向けて付勢される。このため、アンカー102の底面102Dが中間部材133の下端面(凹部133Aの開口縁部)133Dに当接する。第2のばね112の付勢力は第3のばね134の付勢力よりも弱い(小さい)ため、アンカー102は第3のばね134により付勢された中間部材133を押し返すことはできず、中間部材133と第3のばね134とにより上方(開弁方向)への動きを止められる。アンカー102の底面102Dと中間部材133の下端面133Dとはそれぞれアンカー102と中間部材133とが当接する当接面を構成する。
【0032】
中間部材133の凹部133Aの深さ寸法は段付き部129の上端面129Aと下端面129Bとの間の寸法よりも大きいため、図2に示す状態では、アンカー102の底面102Dと段付き部129の下端面129Bとは当接しておらず、底面102Dと下端面129Bとの間隙G2はD2の大きさ(寸法)を有している。この隙間G2は、アンカー102の上端面(固定コア107との対向面)102Aと固定コア107の下端面(アンカー102との対向面)107Bとの隙間G1の大きさ(寸法)D1よりも小さい(D2<D1)。ここで説明したように、中間部材133は、アンカー102の底面102Dと段付き部129の下端面129Bとの間に、D2の大きさの間隙G2を形成する部材であり、間隙形成部材と呼んでもよい。
【0033】
中間部材(間隙形成部材)133は、プランジャロッド114Aの段付き部上端面(基準位置)129Aに位置づけられた状態で下端面133Dがアンカー102と当接することにより、プランジャロッド114Aの係合部(段付き部下端面)129Bとアンカー102の係合部(凹部底面102D)との間に間隙D2を形成する。第3のばね134は中間部材(間隙形成部材)133を段付き部上端面(基準位置)129Aに位置づけるように閉弁方向に付勢している。中間部材133は、凹部底面部133Eが段付き部上端面(基準位置)129Aと当接することにより、段付き部上端面(基準位置)129Aに位置づけられる。
【0034】
ここで、以上説明した3つのスプリングの付勢力について改めて説明しておく。第1のばね110と第2のばね112と第3のばね134とのうち、第1のばね110のスプリング力(付勢力)が最も大きく、次に第3のばね134のスプリング力(付勢力)が大きく、第2のばね112のスプリング力(付勢力)が最も小さい。
【0035】
本実施例の可動子114では、頭部114Cの段付き部129の直径よりアンカー102に形成された貫通孔128の直径の方が小さいので、閉弁状態から開弁状態に移行する開弁動作時或いは開弁状態から閉弁状態に移行する閉弁動作時においては、プランジャロッド114Aの段付き部129の下端面129Bがアンカー102の底面102Dと係合し、アンカー102とプランジャロッド114Aとが協働して動くことになる。しかし、プランジャロッド114Aを上方へ動かす力、あるいはアンカー102を下方へ動かす力が独立して作用した場合、プランジャロッド114Aとアンカー102とは別々の方向に動くことができる。可動子114の動作については、後で詳細に説明する。
【0036】
本実施例では、アンカー102は、その外周面がノズルホルダ101の大径筒状部23の内周面と接することによって、上下方向(開閉弁方向)の動きを案内されている。さらに、プランジャロッド114Aは、その外周面がアンカー102の貫通孔128の内周面に接することによって、上下方向(開閉弁方向)の動きを案内されている。つまり、ノズルホルダ101の大径筒状部23の内周面はアンカー102が軸方向に移動するときのガイドとして機能し、アンカー102の貫通孔128の内周面はプランジャロッド114Aが軸方向に移動するときのガイドとして機能している。プランジャロッド114Aの先端部はガイド部材115のガイド孔によってガイドされており、ガイド部材115とノズルホルダ101の大径筒状部23及びアンカー102の貫通孔128とによってまっすぐに往復動するようガイドされている。
【0037】
アンカー102の下端面102Bはノズルホルダ101の大径筒状部23と小径筒状部22との段差面に対面しているが、第2のばね112が介在していることで両者が接触することはない。
【0038】
コア107の下端面(衝突面)107B、アンカー102の上端面(衝突面)102A、中間部材133の上下端面(当接面)133D,133E及び段付き部129の上下端面(当接面)129A,129Bには、適宜メッキを施して耐久性を向上させることがある。アンカー102に比較的軟らかい軟磁性ステンレス鋼を用いた場合においても、硬質クロムメッキや無電解ニッケルメッキを用いることで、耐久信頼性を確保することができる。
【0039】
なお、アンカー102と固定コア107との衝突面における衝突力に対して、アンカー102と中間部材133との当接面及び中間部材133と段付き部129との当接面における衝突力ははるかに小さく、アンカー102と固定コア107との衝突面におけるメッキの必要性に比べて、アンカー102と中間部材133との当接面及び中間部材133と段付き部129との当接面におけるメッキの必要性は格段に小さい。
【0040】
なお、本実施例では、アンカー102の上端面102Aと固定コア107の下端面107Bとが当接するものとして説明しているが、アンカー102の上端面102A又は固定コア107の下端面107Bのいずれか一方、或いはアンカー102の上端面102A又は固定コア107の下端面107Bの両方に突起部が設けられ、突起部と端面とが、或いは突起部同士が当接するように構成される場合もある。この場合、上述した隙間G1は、アンカー102側の当接部と固定コア107側の当接部との間の間隙になる。
【0041】
再び図1に戻って説明する。ノズルホルダ(ハウジング部材)101の大径筒状部23の内周部には固定コア107が圧入され、圧入接触位置で溶接接合されている。固定コア107は、アンカー102に対して磁気吸引力を作用させて、アンカー102を開弁方向に吸引する部品である。固定コア107の溶接接合によりノズルホルダ101の大径筒状部23の内部と外気との間に形成される隙間が密閉される。固定コア107は中心に中間部材133の直径よりわずかに大きい直径の貫通孔107Aが燃料通路として設けられている。貫通孔107Aの下端部内周にはプランジャロッド114Aの頭部131及びキャップ132が非接触状態で挿通されている。
【0042】
プランジャロッド114Aの頭部131に設けられたキャップ132の上端面に形成されたスプリング受け面には初期荷重設定用のスプリング110の下端が当接しており、スプリング110の他端が固定コア107の貫通孔107Aの内部に圧入される調整子54で受け止められることで、スプリング110がキャップ132と調整子54の間に固定されている。調整子54の固定位置を調整することでスプリング110がプランジャロッド114Aを弁座39に押付ける初期荷重を調整することができる。
【0043】
可動子114のストローク調整は、アンカー102をノズルホルダ101の大径筒状部23内にセットし、ノズルホルダ101の大径筒状部23外周にボビン104に巻回された電磁コイル105及びハウジング103を装着した後、キャップ132、中間部材133及び第3のばね134を組み付けたプランジャロッド114Aを固定コア107の貫通孔107Aを通してアンカー102に挿通する。この状態で、治具によりプランジャロッド114Aを閉弁位置に押下し、コイル105へ通電したときのプランジャロッド114のストロークを検出しながら、オリフィスカップ116の圧入位置を決定することで可動子114のストロークを任意の位置に調整する。
【0044】
スプリング110の初期荷重が調整された状態で、固定コア107の下端面107Bが可動子114のアンカー102の上端面102Aに対して約70乃至150ミクロン程度の磁気吸引ギャップG1を隔てて対面するように構成されている。なお図中では寸法の比率を無視して拡大して表示している。
【0045】
ノズルホルダ101の大径筒状部23の外周にはカップ状のハウジング103が固定されている。ハウジング103の底部には中央に貫通孔が設けられており、貫通孔にはノズルホルダ101の大径筒状部23が挿通されている。ハウジング103の外周壁の部分はノズルホルダ101の大径筒状部23の外周面に対面する外周ヨーク部を形成している。ハウジング103によって形成される筒状空間内には環状若しくは筒状の電磁コイル105が配置されている。電磁コイル105は半径方向外側に向かって開口する断面がU字状の溝を持つ環状のコイルボビン104と、この溝の中に巻きつけられた銅線で形成される。コイル105の巻き始め、巻き終わり端部には剛性のある導体109が固定されており、固定コア107に設けた貫通孔113より引き出されている。
【0046】
固定コア107の外周部には一部が切欠かれた環状(Cの字形状)のコア部材183が嵌合されており、貫通孔113は環状部材の切欠き部に構成される。本実施例では、固定コア107にコア部材183が嵌合されることにより、コア部材183の部分を切削加工によって加工する必要が無い。このため、加工作業が不要になると共に、材料コストを低減できる。鍛造などの製造技術によって固定コア107を製作する場合は、固定コア107とコア部材183と一体成形してもよい。
【0047】
導体109と固定コア107、ノズルホルダ101の大径筒部23の外周はハウジング103の上端開口部内周から絶縁樹脂を注入して、モールド成形され、樹脂成形体121で覆われる。電磁コイル105を囲むようにして、固定コア107、アンカー102、ノズルホルダ101の大径筒状部23及びハウジング(外周ヨーク部)103の部分に環状の磁気通路が形成される。
【0048】
固定コア107の貫通孔(中心孔)107Aは燃料噴射弁の上端部(燃料噴射口10とは反対側の端部)に設けられた燃料供給口118に連通している。燃料供給口118の内側にはフィルタ113が設けられている。燃料供給口118の外周側には燃料配管に接続する際に燃料配管側の接続部との間で液密を確保するシール材130が設けられている。
【0049】
ここで、図14A図14Eを用いて、燃料噴射弁の組立方法について説明する。図14Aは、弁部材組品100の構成を示す図である。図14Bは、ノズルホルダ(ハウジング部材)101にアンカー102及び第2のばね112を組み付けた状態を示す断面図である。図14Cは、ノズルホルダ101に固定コア107を圧入固定して、本体側組品200を組み立てた状態を示す断面図である。図14Dは、本体側組品200に弁部材組品100を組み付けた状態を示す断面図である。図14Eは、本体側組品200に弁部材組品100を組み付けた後、第1のばね110を組み付けた状態を示す断面図である。
【0050】
プランジャロッド114Aの一端部には、弁座39に当接する弁体114Bが設けられている。プランジャロッド114Aに対して、弁体114Bが設けられた端部とは反対側の端部(他端部)から、中間部材(間隙形成部材)133を組み付け、その次に第3のばね134を組み付ける。さらに、プランジャロッド114Aの他端部にキャップ(ばね座部材)132を圧入して、中間部材133及び第3のばね134をプランジャロッド114Aに保持して、弁部材組品100を組み立てる(図14A参照)。
【0051】
弁部材組品100の組立てとは別に、ノズルホルダ(ハウジング部材)101の一端部からノズルホルダ101の内側に第2のばね112とアンカー(可動コア)102とを組み付け(図14B参照)、その後、ノズルホルダ101一端部に固定コア107を圧入固定して本体側組品200を組み立てる(図14C参照)。固定コア107には、径方向中央部に軸方向に貫通する貫通孔107Aが形成されている。
【0052】
その後、本体側組品200に、固定コア107の貫通孔107Aから弁部材組品100を挿入して組み付ける(図14D参照)。
【0053】
その後、貫通孔107Aに第1のばね110を挿入し、第1のばね110の一端部をキャップ132に当接させ、第1のばね110の他端部側に調整子54を当て、第1のばね110のセット荷重を調整する。
【0054】
弁部材組品100を固定コア107の貫通孔107Aから挿入して本体側組品200の内部に挿入して組み付けるために、キャップ132の外径、中間部材133の外径及びプランジャロッド114Aの最大外径(段付き部129の外径)は貫通孔107Aの直径(内径)よりも小さい。
【0055】
本実施例では、中間部材133及び第3のばね134からなる複雑な機構部を、固定コア107の組み付け後に、燃料噴射弁に組み付けることができ、この機構部を交換することも可能である。中間部材133及び第3のばね134はプランジャロッド114Aに組み付けられているので、組み付け或いは交換を容易に行うことができる。
【0056】
次に、図2図12を用いて、可動子114の動作について説明する。
【0057】
導体109の先端部に形成されたコネクタ43Aには高電圧電源、バッテリ電源より電力を供給するプラグが接続され、図示しないコントローラによって通電、非通電が制御される。コイル105に通電中は、上記磁気回路を通る磁束によって磁気吸引ギャップG1において可動子114のアンカー102と固定コア107との間に磁気吸引力が発生し、アンカー102が第3ばね134の付勢力を超える力で吸引されることで上方へ動き始める。
【0058】
図2はアンカー102が開弁方向への移動を開始する前の状態(閉弁静止時)を示している。この状態では、アンカー102側の衝突面(上端面102A)と固定コア107側の衝突面(下端面107B)との間に間隙G1=D1が存在し、プランジャロッド114Aの段付き部129の下端面129Bとアンカー102の凹部底面102Dとの間に間隙G2=D2が存在する。中間部材133の凹部底面133Eと段付き部129の上端面129Aとは接触しており、また中間部材133の下端面133Dとアンカー102の凹部底面102Dとは接触している。プランジャロッド114Aは第1のばね110による付勢力で閉弁方向に付勢され、弁体114Bは弁座39に当接している。
【0059】
ここで、図12を用いて、弁体114Bとアンカー102の挙動について説明する。図12は、弁体114Bの挙動とアンカー102の挙動とを模式的に示す図である。図12の横軸は時間であり、縦軸は弁体114B及びアンカー102の変位である。実線は弁体114Bの挙動を示しており、特に、アンカー102との係合部の位置の変化が示されていると考えるとアンカー102との相対的な位置関係を理解し易い。点線はアンカー102の挙動を示しており、特に、弁体114Bが構成されるプランジャロッド114Aとの係合部の位置の変化が示されていると考えるとプランジャロッド114Aとの相対的な位置関係を理解し易い。また、図12の時間t0でコイル105への通電が始まるものとする。
【0060】
図2に示す状態について説明する。この状態は、図12の時刻0〜t0における状態である。アンカー102及びプランジャロッド114Aには、両者が係合してプランジャロッド114Aの軸方向(開閉弁方向)に一体となって変位するための係合部が設けられている。アンカー102側の係合部は凹部底面102Dであり、プランジャロッド114A側の係合部は段付き部下端面129Bである。アンカー102の凹部底面102Dとプランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bとは係合して相互に軸方向に作用する力を伝達し合う。すなわち、アンカー102は、プランジャロッド(弁部材)114Aと共に可動子114を構成し、プランジャロッド114Aに対して開閉弁方向に相対変位可能に構成されている。また、アンカー102とプランジャロッド114Aとの双方に設けられた係合部(凹部底面102D、段付き部下端面129B)はアンカー102がプランジャロッド114Aに対して開弁方向に変位した場合に係合し、アンカー102の開弁方向への変位を規制する。
【0061】
図2に示す状態では、アンカー102側の係合部(凹部底面102D)は、プランジャロッド114A側の係合部(段付き部下端面129B)から離れて、プランジャロッド114A側の係合部よりも下方に位置している。
【0062】
図3は、図1の部分拡大図であり、開弁動作の初期段階における可動子114の状態を示す断面図である。
【0063】
図3に示す状態は、図12の区間Iの右端の時刻t1における状態に相当する。コイル105に通電が開始され、アンカー102と固定コア107との間に磁気吸引力が作用し、この磁気吸引力が第3ばね134の付勢力よりも大きくなるとアンカー102が上方へ動き始める。区間I(t0〜t1)では、アンカー102は単独で上方に移動し、この間、プランジャロッド114Aは弁体114Bが弁座39に当接している。図3は、アンカー102が上方へ移動し、アンカー102の凹部底面102Dがプランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bに係合した状態を示している。すなわち、間隙G2=0である。
【0064】
アンカー102が上方へ変位した分だけ、アンカー102と固定コア107との間隙G1の大きさが減少し、D3となる。この場合、D3はD1からD2を差し引いた大きさとなり、D1よりも小さい。また、プランジャロッド114Aの段付き部上端面129Aと中間部材133の凹部底面133Eとの間隙G3の大きさ(寸法)はD2である。D2は中間部材133の凹部133Aの深さ寸法から段付き部129の上端面129Aと下端面129Bとの間隔寸法を差し引いた寸法を有する。すなわち、中間部材133の下端面133Dがアンカー102の凹部底面102Dに接触している状態で、アンカー102とプランジャロッド114Aとが相互変位可能な寸法に相当する。
【0065】
間隙G2がD2を有していることにより、区間Iにおいて、アンカー102は加速し、ある程度の速度を有した状態でプランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bに係合する。このため、係合した時点からプランジャロッド114Aを速やかに持ち上げることができ、弁体114Bの開弁動作を速やかに開始することができる。
【0066】
図4は、図1の部分拡大図であり、弁体114Bが開弁動作中の可動子114の状態を示す断面図である。
【0067】
図4に示す状態は、図12の区間II(t1〜t2)の右端の時刻t2における状態に相当する。区間IIの動作中、アンカー102、プランジャロッド114A及び中間部材133は図4に示す状態を維持して、上方に移動する。図12の区間IIでは、弁体114Bとアンカー102との変位を表す曲線が重なっており、弁体114Bとアンカー102とが一体となって変位している。そして、弁体114Bは弁座39から離間する。
【0068】
図4では、アンカー102の上端面102Aが固定コア107の下端面107Bに衝突した瞬間を示している。この場合、アンカー102の上端面102Aと固定コア107の下端面107Bとの間隙G1の大きさはゼロである。また、中間部材133の下端面133Dはアンカー102の凹部底面102Dに当接しており、また、プランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bとアンカー102の凹部底面102Dとが当接しているため(G2=0)、プランジャロッド114Aの段付き部上端面129Aと中間部材133の凹部底面133Eとの間隙G3の大きさはD2である。
【0069】
図5は、図1の部分拡大図であり、プランジャロッド114Aがアンカー102から分離して単独で動作する状態を示す断面図である。
【0070】
図5に示す状態は、図12の区間III(t2〜t3)において、弁体114Bの変位がピークとなる状態を示している。このときのアンカー102、プランジャロッド114A及び中間部材133の位置関係は、アンカー102の固定コア107からのバウンス状態や、プランジャロッド114Aの慣性力による単独での上方への移動量等によって異なる。図5では、アンカー102の上端面102Aと固定コア107の下端面107Bとの間隙G1の大きさはゼロとして描いている。また、プランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bとアンカー102の凹部底面102Dとの間隙G2の大きさはD4とし、プランジャロッド114Aの段付き部上端面129Aと中間部材133の凹部底面133Eとの間隙G3の大きさはD5として描いている。すなわち、間隙G3はD5という有限な値を有しており、D5はD2から間隙G2の大きさD4を差し引いた大きさである。
【0071】
図5に示すように、アンカー102の上端面102Aが固定コア107の下端面107Bに衝突すると、アンカー102は上方への移動を妨げられる。このとき、プランジャロッド114Aはアンカー102に対して相対的に変位し始める。すなわち、固定コア107の下端面107Bに衝突して上方への移動を停止したアンカー102に対して、プランジャロッド114Aは慣性力で上方への移動を継続することにより、プランジャロッド114Aはアンカー102に対して相対的に変位する。このとき、プランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bとアンカー102の凹部底面102Dとの係合は解除されている。
【0072】
プランジャロッド114Aが慣性力により単独でさらに上方へ移動する場合には、G3がゼロとなり、中間部材133がプランジャロッド114Aと一体で上方へ移動することにより、中間部材133の下端面133Dがアンカー102の凹部底面102Dから離れてしまう場合もある。プランジャロッド114Aが慣性力により単独で上方へ移動する場合には、所定のストローク量を超えて移動することになり、弁体114Bと弁座39との隙間は開弁静止状態で維持される所定の大きさを超えた大きさとなる。
【0073】
また、図12に示すように、アンカー102が固定コア107に衝突した際にバウンスして、固定コア107の下端面107Bの下方に跳ね返される場合もある。しかし、プランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bとアンカー102の凹部底面102Dとの係合が解除されることにより、第1のばね110の付勢力はアンカー102には伝達されなくなる。このため、磁気吸引力に対して抵抗する力が無くなり、アンカー102は磁気吸引力を受けて速やかに固定コア107に引き戻される。これにより、アンカー102の固定コア107に対するバウンスを抑制することができる。
【0074】
図6は、図1の部分拡大図であり、アンカー102、プランジャロッド114A及び中間部材133が開弁状態で安定した状態を示す断面図である。
【0075】
図6に示す状態は、図12の区間III(t2〜t3)の右端の時刻t3の状態を示しており、区間IV(t3〜t4)の間、この状態が維持される。
【0076】
時刻t3では、アンカー102のバウンスが収まり、アンカー102の上端面102Aが固定コア107の下端面107Bに当接して静止している。また、慣性力により上方へ移動したプランジャロッド114Aが第1ばね110により押し戻され、段付き部下端面129Bがアンカー102の凹部底面102Dに当接して静止している。これにより、プランジャロッド114A及び弁体114Bが所定のストローク量だけ持ち上げられた開弁静止状態となっている。
【0077】
この状態では、アンカー102が磁気吸引力により固定コア107に吸引され、プランジャロッド114Aが第1のばね110の付勢力により閉弁方向に付勢されるため、アンカー102とプランジャロッド114Aとは両者の係合部が係合して一体となっている。すなわち、プランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bとアンカー102の凹部底面102Dとが当接して、間隙G2の大きさはゼロである。また、第3のばね134は磁気吸引力に対向してアンカー102を押し戻すことはできないため、中間部材133の下端面133Dはアンカー102の凹部底面102Dに当接している。このため、プランジャロッド114Aの段付き部上端面129Aと中間部材133の凹部底面133Eとの間隙G3の大きさはD2である。また、上述したように、アンカー102と固定コア107とは当接しており、アンカー102の上端面102Aと固定コア107の下端面107Bとの間隙G1の大きさはゼロとなっている。
【0078】
図7は、図1の部分拡大図であり、閉弁動作の初期状態を示す断面図である。図7では、アンカー102がプランジャロッド114Aを介して第1ばね110の付勢力を受けて押し下げられ、固定コア107の下端面107Bから距離D6だけ離間した状態を示している。
【0079】
コイル105への通電が遮断され、アンカー102と固定コア107との間に働く磁気吸引力が第1ばねの付勢力よりも小さくなると、可動子114は閉弁方向への移動を開始する(図12の時刻t4)。コイル105への通電の遮断から磁気吸引力が第1ばねの付勢力よりも小さくなるまでには時間がかかるため、コイル105への通電の遮断は時刻t4よりも前に行われている。図12の区間V(t4〜t5)はアンカー102及びプランジャロッド114Aの下方(閉弁方向)への移動が開始する時刻t4から始まるものとしている。
【0080】
なお、閉弁開始時には、磁気吸引力と第2ばねの付勢力との合力が第1ばねの付勢力と対抗しているが、閉弁時において第1ばねの付勢力が支配的であるため、以下の説明でも第2ばねの付勢力は無視して説明する。
【0081】
図7に示す状態では、アンカー102の上端面102Aと固定コア107の下端面107Bとの間隙G1の大きさはD6(D6<D1)である。区間Vにおいては、プランジャロッド114Aを閉弁方向に付勢する第1のばね110の付勢力が支配的であり、プランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bをアンカー102の凹部底面102Dに係合させる(G2=0)。また、中間部材133は第3のばね134により付勢され、下端面133Dがアンカー102の凹部底面102Dに当接している。このため、プランジャロッド114Aの段付き部上端面129Aと中間部材133の凹部底面133Eとの間隙G3の大きさはD2である。
【0082】
アンカー102、プランジャロッド114A及び中間部材133の位置関係は、図12の区間V(t4〜t5)の間維持され、アンカー102、プランジャロッド114A及び中間部材133が一体で動作する。図12では、区間Vにおいて、弁体114Bとアンカー102との変位を表す曲線が重なっており、弁体114Bとアンカー102とが一体となって変位することを表している。そして、弁体114Bは弁座39に向かって近づいて行く。このとき、第1のばね110の付勢力がプランジャロッド114Aを介してアンカー102に加えられている。また、第3ばねは中間部材133を下方に向けて付勢しているが、上述したように閉弁時には第1のばね110の付勢力が支配的であり、第1ばねの大きな付勢力により、プランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bとアンカー102の凹部底面102Dとが係合した状態で動作する。
【0083】
図8は、図1の部分拡大図であり、閉弁動作時に弁体114Bが弁座39に衝突した瞬間を示す断面図である。
【0084】
図8に示す状態は、図12の区間V(t4〜t5)の右端の時刻t5の状態を示しており、弁体114Bが弁座39に衝突した瞬間を示している。図8において図7と異なるのは、アンカー102の上端面102Aと固定コア107の下端面107Bとの間隙G1の大きさがD1−D2となり、弁体114Bが弁座39に当接している点である。図8図2と比較すると、図2では、G2=D2,G3=0であり、G1の大きさがD1になっているのに対して、図8では、G2=0,G3=D2であり、G1の大きさがD1−D2になっている。
【0085】
図9は、図1の部分拡大図であり、弁体114Bが弁座39に衝突した後、アンカー102が単独で下方に変位する状態を示す断面図である。図9は、図12の区間VI(t5〜t6)において、アンカー102の変位が下方に最も大きくなる時刻の可動子114の状態を示している。
【0086】
時刻t5において、弁体114Bが弁座39に衝突すると、弁体114Bは弁座39によって下方への変位を止められる。この瞬間、アンカー102の凹部底面102Dとプランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bとの係合が解除され、アンカー102はその慣性力により単独で下方(閉弁方向)への変位(移動)を継続する。アンカー102とプランジャロッド114A(可動子114)との係合が解除されることで、可動子114の質量が軽くなり、可動子114の弁座39に対する衝撃力は弱められる。その結果、プランジャロッド114Aの弁座39に対する跳ね返り動作(バウンス)を抑制する効果が得られる。
【0087】
弁体114Bが弁座39に当接し、弁体114Bの下方への変位が止められると、中間部材133は第3ばね134の付勢力により凹部底面133Eがプランジャロッド114Aの段付き部129の上端面129Aに当接(G3=0)するまで、下方に変位する。このとき、中間部材133の下端面133Dはプランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bに対して、距離D2だけ離れた下方に位置する。
【0088】
アンカー102がその慣性力により単独で下方へ変位することにより、アンカー102の凹部底面102Dは中間部材133の下端面133Dから離間する。この間、アンカー102の凹部底面102Dと中間部材133の下端面133Dとの離間距離G4は最大でD8となり、アンカー102の上端面102Aと固定コア107の下端面107Bとの間隙G1の大きさは最大でD7(D7>D1)となる。
【0089】
その後、アンカー102は第2ばね112の付勢力により上方に押し戻される。
【0090】
図10は、図1の部分拡大図であり、アンカー102が第2ばね112により上方に押し戻され、中間部材133と衝突した状態を示す断面図である。図10に示す状態は、図12の区間VI(t5〜t6)における時刻t6の直前の状態である。
【0091】
第2ばね112により押し戻されたアンカー102は、最初に中間部材133の下端面133Dと衝突する。この段階では、中間部材133の下端面133Dはプランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bに対して、距離D2だけ離れた下方に位置しているため、アンカー102がプランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bに衝突することはない。
【0092】
図10に示す状態では、アンカー102の上端面102Aと固定コア107の下端面107Bとの間隙G1の大きさはD1であり、アンカー102、プランジャロッド114A,中間部材133及び固定コア107の位置関係は図2の状態と同じであるが、アンカー102が運動を継続している点で、図2の状態と異なる。
【0093】
なお、第2のばね112の付勢力、D2の設定等によって、図9におけるG4をゼロにできる可能性もある。
【0094】
図11は、図1の部分拡大図であり、第2ばね112により押し戻されたアンカー102が、プランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bと衝突した状態を示す断面図である。図11に示す状態は、図12の区間VI(t5〜t6)の右端の時刻t6の状態を示している。すなわち、図10に示す状態から、図11に示す状態に推移する。
【0095】
図11に示す状態では、第2のばね112により押し戻されたアンカー102が中間部材133の下端面133Dに衝突した後、慣性力で上方に変位し続け、中間部材133を上方に押し上げる。中間部材133を上方に押し上げたアンカー102はプランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bに衝突する前に、中間部材133を介して第3のばね134の付勢力を受けて上方へ向かう運動エネルギが減衰される。アンカー102が段付き部下端面129Bに衝突すると、その衝撃力によってはプランジャロッド114Aが開弁方向に変位し、弁体114Bが弁座39から離間する。アンカー102が段付き部下端面129Bに衝突する際の衝撃力は、第2ばね112及び第3のばね134の付勢力(セット荷重)によって決まる。本実施例では、第2ばね112及び第3のばね134の付勢力を調整することにより、アンカー102がプランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bに衝突する前に、アンカー102の上方への変位を止めるようにしている。
【0096】
或いは、アンカー102がプランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bに衝突したとしても、第1のばね110によって付勢されたプランジャロッド114Aが開弁方向に変位しなければよい。すなわち、アンカー102が中間部材133の下端面133Dに接触した位置からD2の距離を移動してプランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bに衝突するまでの間に、アンカー102の運動エネルギを十分に減衰することができればよい。
【0097】
本実施例では、アンカー102の運動エネルギを、アンカー102が図10に示す間隙G2=D2を移動する間に、第3のばね134の付勢力により徐々に減衰させ、アンカー102がプランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bに衝突しないようにする。或いは、アンカー102の運動エネルギを徐々に低減することにより、プランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bに衝突するアンカー102から受ける瞬間的な衝撃力を低減する。これにより、第1のばね110によって付勢されたプランジャロッド114Aは、アンカー102の衝突による衝撃力を受けたとしても、図11に示す状態を維持して上方に変位することはない(図12の時刻t6)。慣性力を失ったアンカー102は、中間部材133を介して第3のばね134の付勢力を受け、中間部材133の凹部底面133Eがプランジャロッド114Aの段付き部上端面129Aに当接する位置まで押し戻される(図12の区間VII)。その結果、可動子114は図2に示す状態に戻り、閉弁静止状態に至る(図12の区間VII〜VIII)。
【0098】
ここで、図12の区間VIIについて、詳細に説明する。
【0099】
プランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bとの係合が解除されたアンカー102が第2のばね112により押し戻されて再び段付き部下端面129Bに衝突すると、図12の時刻t6とt7との間の区間VIIに符号140で示すように、プランジャロッド114Aが開弁方向に変位する可能性がある。このとき、アンカー102は符号141で示すように、閉弁方向に変位する。
【0100】
プランジャロッド114Aが開弁方向に変位するか否かについては、第2のばね112の付勢力(セット荷重)が大きな影響力をもつ。第2のばね112の付勢力を大きくするほど、プランジャロッド114Aが開弁方向に変位する可能性は高くなり、また変位量も大きくなる。プランジャロッド114Aが開弁方向に変位して弁体114Bが弁座39から離間すると、燃料が噴射される。この燃料噴射は二次噴射などと呼ばれ、燃料噴射量に誤差を発生させる。
【0101】
一方、この二次噴射を避けるため、第2ばね112の付勢力を小さくすると、アンカー102単独での下方への変位量が大きくなり、閉弁静止状態に至るまでに要する時間が長くなる。そうすると、短い時間間隔で燃料噴射を実施することができなくなり、内燃機関の燃焼に好適な燃料噴射を実施することができなくなる可能性がある。
【0102】
本実施例では、アンカー102の運動エネルギを、間隙G2=D2と第3のばね134の付勢力とを用いて徐々に減衰させ、アンカー102がプランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bに衝突しないようにする。或いは、アンカー102の運動エネルギを徐々に低減することにより、プランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bに衝突する際にアンカー102から受ける瞬間的な衝撃力を低減する。そして、符号140で示すプランジャロッド114Aの変位と符号141で示すアンカー102の変位とを防止する。
【0103】
本実施例の特徴について、説明する。
(1)第3のばね134は、アンカー102が単独で開弁方向に変位する際に、その変位を抑制するように配置されている。
(2)中間部材133は、アンカー102の係合部(凹部底面102D)とプランジャロッド114Aの係合部(段付き部下端面129B)との間に間隙G3=D2を作り、開弁方向に変位するアンカー102が間隙G3=D2を変位する間に、第3のばね134による閉弁方向への付勢力を付与する。
(3)第3のばね134の支持部となるキャップ132は第1のばね110による付勢力を受けており、強い固定力を必要としない。このため、キャップ132の溶接が不要となる。
(4)キャップ132のプランジャロッド114Aに対する固定部(筒状部132C)は、第3のばね134の内側に配置されているため、構造がコンパクトになる。また、固定部(筒状部132C)の長さを確保して固定力を高めることができ、圧入だけで十分な固定力を確保できる。
(5)第3のばね134及び中間部材133がプランジャロッド114Aに組み付けられているため、燃料噴射弁に組み付ける前に、第3のばね134及び中間部材133の動作を確認し、調整することが容易である。第3のばね134の付勢力は、キャップ132をプランジャロッド114Aの軸方向に相対的に変位させることにより、変えることができる。この場合、キャップ132の底面132Hがプランジャロッド114Aの端部114A−1に当接しなくなるので、間隙部182に圧入時に生じる異物を閉じ込めることができなくなる。この場合は、後述する第4実施例のような構成にすることが好ましい。
(6)第3のばね134及び中間部材133は、プランジャロッド114Aの上端部側から、アンカー102とプランジャロッド114Aの上端部との間に組み付けられているので、アンカー102とプランジャロッド114Aとの組付け作業が簡素かつ容易である。(7)特許文献1に記載された構造では、本願発明の中間部材133と同様な機能を有するストッパ貫通部が、弁部材(プランジャロッド)の外周面と可動コア(アンカー)の貫通孔内周面との間に介在するため、ストッパ貫通部の内周面側と外周面側に摺動面が構成され、ストッパ貫通部の加工精度がアンカーと弁体の偏心に影響し、アンカーと弁体の動作に影響する。本実施例では、中間部材133はプランジャロッド114Aとアンカー102との摺動面の外側に配置されているので、中間部材133はプランジャロッド114Aとアンカー102の偏心には影響せず、プランジャロッド114Aとアンカー102の動作に与える影響は小さい。
【0104】
本実施例によれば、第3のばね134により、プランジャロッド114Aに対して開弁方向に作用するアンカー102の衝撃力を無くする、または低減することができるので、第2のばね112の付勢力を弱める必要が無い。しかも第3のばね134による付勢力がアンカー102に作用する範囲は、プランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bから距離D2の短い範囲に限定される。すなわち、第3のばね134による付勢力がアンカー102に作用する範囲は、アンカー102がプランジャロッド114Aに対して相対変位可能な範囲のうち、アンカー102の凹部底面102Dとプランジャロッド114Aの段付き部下端面129Bとが係合する側の一部の範囲に規定されている。このため、二次噴射を低減することができると共に、アンカー102を速やかに閉弁静止状態にすることができる。これにより、短い時間間隔で燃料を噴射できる燃料噴射弁を提供することができる。
【実施例2】
【0105】
図13を用いて、第二実施例について説明する。図13は、第二実施例に係る燃料噴射弁について、図2と同様な部分を拡大して示す部分拡大図である。
【0106】
本実施例では、第3のばね134’の配置が第一実施例と異なっている。本実施例では、第3のばね134’の一端部が固定コア107’の内周部に設けた筒状のばね座部材139に支持されている。これにより、第3のばね134’の一端部は燃料噴射弁の本体側に支持されていることになる。第3のばね134’の他端部は中間部材133’の上端面133C’に当接しており、第一実施例と同様である。
【0107】
第3のばね134’の一端部を燃料噴射弁の本体側で支持するために、第3のばね134’の外径は、第一実施例の第3のばね134の外径よりも大きくしている。また、第3のばね134’の外径を大きくしたことにより、中間部材133’の外径も大きくしている。そして、固定コア107’の内周面(貫通孔)107A’に筒状のばね座部材139を固定し、ばね座部材139で第3のばね134’の一端部を支持している。ばね座部材139は固定コア107’の内周面107A’に圧入固定されている。
【0108】
固定コア107’の内周面を段付き形状にすることも可能である。すなわち、固定コア107’を、ばね座部材139を含む形状にしてもよい。ただし、固定コア107’がばね座部材139を含む形状にすると、固定コア107’の組み付け後に、第3のばね134’及び中間部材133’を貫通孔139Aに挿入して燃料噴射弁に組み付けることができない。
【0109】
そこで、本実施例では、固定コア107’の内周面107A’に筒状のばね座部材139を固定する構造としている。固定コア107’の組み付け後に、第3のばね134’及び中間部材133’を固定コア107’の貫通孔107A’に挿入して燃料噴射弁の内部に組み付け、ばね座部材139を固定コア107’の内周面107A’に圧入固定して第3のばね134’を支持する。この場合、中間部材133’はプランジャロッド114Aに組み付けられていてもよいし、プランジャロッド114Aから分離されていてもよい。ただし、中間部材133’はプランジャロッド114Aに組み付けられていた方が、組み付け作業は容易になる。
【0110】
第一実施例では、図12の時刻t6において、第3のばね134が、上方に向かって変位するアンカー102の力を受けると、その力はキャップ132を介してプランジャロッド114Aに伝達される。第一実施例では、第3のばね134により、アンカー102がプランジャロッド114Aに衝突することによって、プランジャロッド114Aに瞬間的に大きな衝撃力が加わらないようにしている。しかし、プランジャロッド114Aは、第3のばね134及びキャップ132を介して、開弁方向に作用する力をアンカー102から受ける。
【0111】
本実施例では、第3のばね134’の一端部が固定コア107の内周部に設けた筒状のばね座部材139に支持されているため、プランジャロッド114Aはアンカー102から開弁方向に作用する力を受けることはない。
【0112】
上述した以外の構成は、第一実施例と同様であり、本実施例の各部品は第一実施例と同様に機能する。また、実施例1で説明した(1)〜(7)の特徴のうち、(5)及び(6)を除いて、本実施例にも当てはまる。なお、本実施例では、キャップ132は、第1のばね110のばね座としての機能しか有しておらず、第1のばね110のばね座をプランジャロッド114Aの上端部に直接形成してもよい。
【実施例3】
【0113】
図15及び図16を用いて、第三実施例について説明する。図15は、図1の部分拡大図で、本実施例における燃料噴射弁の詳細を示す図である。図16はキャップ(ばね座部材)132’の外観を示す斜視図である。以下、実施例1との相違点について説明する。
【0114】
本実施例では、キャップ132’の外周面132’Dが固定コア107の貫通孔107Aの内周面に当接し、開閉弁時に貫通孔107Aの内周面に対して摺動するように構成されている。
【0115】
本実施例では、貫通孔107Aの内周面がガイド面となり、キャップ132’の外周面132’Dの開閉弁方向の移動を案内する。従って、実施例1では、アンカー102の外周面がノズルホルダ101の大径筒状部23の内周面と接することによって上下方向(開閉弁方向)の動きを案内されるようにしていたが、本実施例ではアンカー102の外周面とノズルホルダ101の大径筒状部23の内周面との間に適度な隙間が形成されるようにしている。
【0116】
図16に示すように、キャップ132’の鍔部132’Aには、切欠き面132’Eが設けられており、固定コア107の貫通孔107Aの内周面に当接する外周面132’Dは周方向に間隔を置いて配置されている。切欠き面132’Eはキャップ132’の鍔部132’Aの上方と下方の燃料通路を連通する燃料通路部を構成する。本実施例では、外周面132’D及び切欠き面132’Eが鍔部132’Aの周方向にそれぞれ4個ずつ設けられている。
【0117】
さらに、本実施例では、鍔部132’Aとプランジャロッド114Aが圧入される筒状部132Cとがプランジャロッド114Aの軸方向にずれているため、圧入によって筒状部132Cの径が大きくなっても鍔部132’Aの外径の変化を抑制することができる。これにより、キャップ132’の鍔部132’Aの外周面132’Dと固定コア107の貫通孔107Aの内周面との摺動を良好に維持することができる。本実施例では、テーパー部182を鍔部132’Aの下方まで設けていることにより、圧入による鍔部132’Aの変形をより確実に防ぐことができる。
【0118】
上述した以外の構成は実施例1と同様である。また、本実施例を実施例2に適用してもよい。
【実施例4】
【0119】
図17を用いて、第四実施例について説明する。図17は、弁部材組品100の外観を示す外観図である。以下、実施例1との相違点について説明する。
【0120】
本実施例のばね座部材132’’は、実施例1のキャップ132の鍔部132Aのみで構成したものである。ばね座部材132’’の上端面132’’Iは第1のばね110のばね座を構成し、ばね座部材132’’の下端面132’’Bは第3のばね134のばね座を構成する。
【0121】
ばね座部材132’’はプランジャロッド114Aの上端部(すなわち、突起部131の上端部)に圧入固定されている。ばね座部材132’’は環状部材で構成されており、ばね座部材132’’をプランジャロッド114A’に圧入した後、圧入により発生した異物は除去される。
【0122】
また、実施例1ではプランジャロッド114Aの上端部にテーパー部182を設けたが、本実施例ではプランジャロッド114A’の上端部にテーパー部182を設けてもよいし、設けなくてもよい。テーパー部182を設ける場合は、ばね座部材132’’はテーパー部182よりも下方に配置される。
【0123】
本実施例では、実施例1に対して可動子114を軽量化できる。
【0124】
上述した以外の構成は実施例1と同様である。また、本実施例を実施例1乃至3に適用してもよい。本実施例を実施例3に適用した場合は、実施例3のキャップ132’の鍔部132’Aのみで、本実施例のばね座部材132’’を構成すれば良い。
【実施例5】
【0125】
図18及び図19を用いて、第五実施例について説明する。図18は、弁部材組品100’’の外観を示す外観図である。図19は、図18のXIX−XIX断面について、段付き部形成部材129’とプランジャロッド114A’’のみを図示した断面図である。以下、実施例1との相違点について説明する。
【0126】
本実施例のばね座部材132’’’は、実施例1のキャップ132の鍔部132Aのみで構成し、さらに、ばね座部材132’’’をプランジャロッド114A’’の上端部に一体形成されている。ばね座部材132’’’の上端面132’’’Iは第1のばね110のばね座を構成し、ばね座部材132’’’の下端面132’’’Bは第3のばね134のばね座を構成する。
【0127】
また、実施例1の段付き部129は、本実施例では段付き部形成部材129’によって構成される。すなわち、段付き部形成部材129’をプランジャロッド114A’’に嵌め合わせて段付き部を構成している。このためにプランジャロッド114A’’の外周面には環状の凹部180が形成されており、段付き部形成部材129’は凹部180に嵌められている。
【0128】
本実施例では、弁体114B側からプランジャロッド114A’’に第3のばね134を組み付け、その後、中間部材133を組み付ける。その後、中間部材133をばね座部材132’’’側に押し付けた状態で、段付き部形成部材129’をプランジャロッド114A’’に組み付ける。
【0129】
図19に示すように、段付き部形成部材129’は環状部材の一部が切欠かれた形状(Cの字形状)を成しており、切欠き部からプランジャロッド114A’’を段付き部形成部材129’の内側に入れて、プランジャロッド114A’’と段付き部形成部材129’とを組み付ける。なお、段付き部形成部材129’をプランジャロッド114A’’の外周面に圧入固定してもよい。
【0130】
上述した以外の構成は実施例1と同様である。また、本実施例を実施例1乃至3に適用してもよい。
【0131】
なお、本発明は上記した各実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0132】
39…弁座、102…アンカー、102A…アンカー102上端面、102D…アンカー102の凹部底面、107…固定コア、107B…固定コア107の下端面、107’…固定コア、107A’…固定コア107’の内周面(貫通孔)110…第1のばね、112…第2のばね、114…可動子、114A…プランジャロッド、114B…弁体、129…プランジャロッド114Aの段付き部、129A…段付き部129の上端面、129B…段付き部129の下端面、133…中間部材、133D…中間部材133の下端面、133E…中間部材133の凹部底面、133’…中間部材、133C’…中間部材の上端面、134…第3ばね、134’…第3のばね、139…筒状のばね座部材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C
図14D
図14E
図15
図16
図17
図18
図19