(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態の電動モータ1の回転軸方向の断面図である。
【0014】
本実施形態の電動モータ1は、円筒形状であって一方の端部が開口された有底形状を成す金属性のヨーク10と、このヨーク10の内部で回転可能に支持されるロータ20とを備える。ヨーク10は、電動モータ1のケースを構成する。
【0015】
ヨーク10の内周面には、永久磁石11が装着される。ヨーク10の開口部分には、樹脂等の絶縁性素材で形成されたブラケット12が装着される。
【0016】
ロータ20は、ロータシャフト21と、ロータシャフト21に固定される整流子22と、ロータコア23とを備える。ロータコア23は、薄板状の電磁鋼板が回転軸方向に積層されて構成される。ロータコア23には巻線24が巻回されている。ロータシャフト21は、ヨーク10の底部側に固定されるベアリング13とブラケット12に固定されるベアリング14とを介して、ヨーク10に対して回転可能に支持される。
【0017】
整流子22の外周側には、複数の電極22aが固定される。電極22aには、それぞれ巻線24が接続される。電動モータ1には、ブラケット12に装着されるブラシ15と整流子22の電極22aとが摺接しており、ブラシ15を介して巻線24に電流が供給される。これにより、巻線24に電流が流れ、ロータコア23に発生する磁力と永久磁石11の磁力との反発力が回転方向に働いて、ロータ20が回転駆動される。
【0018】
ブラシ15は、ブラケット12に形成されたブラシホルダ31に支持される。ブラシ15は、ブラシホルダ31に内装されたバネ32により整流子22側に押し付けられて電極22aに摺接する。図示しない電源からの電流はハーネス33、リードプレート34、銅編み線35を介してブラシ15に供給され、ブラシ15に摺接する整流子22の電極22aを介して巻線24に供給される。ブラシ15は、一般に、カーボン又はカーボンと銅とを主成分とする導電性材料により形成される。なお、ブラシ15の数や整流子22の電極22aの極数は、電動モータ1の特性や性能に応じて適宜設定される。
【0019】
ブラケット12は、例えば樹脂により形成される。ブラケット12には、ブラシホルダ31と、ベアリング14のアウターレース(外輪)41が嵌合するベアリング取付部12aと、が形成される。ロータシャフト21の外周面には、ベアリング14のインナレース(内輪)42が嵌合されており、ロータシャフト21の先端部はブラケット12の軸穴を介して外部に突出している。
【0020】
ヨーク10の内周面には、セグメント形状の一対の永久磁石11(11a、11b)が互いに向かい合って装着される。永久磁石11は、磁石ホルダ50に装着された状態でヨーク10の内部に圧入固定される。永久磁石11は、例えばフェライト磁石により構成される。
【0021】
また、ヨーク10の内部には、ブラシ15と永久磁石11との間に仕切部材60が配置される。仕切部材60は、後述するように、ブラシ15の磨耗粉により絶縁抵抗が低下することを防止する。
【0022】
仕切部材60は、外周側が磁石ホルダ50とブラケット12との間に挟持されるように構成される。仕切部材60は、ヨーク10の内周面から径方向内側に向かって延設される円板部65と、この円板部65の表面からブラシ15側に向かって起立するように突設される複数の円環状のフランジ部(61、62,63、64)とを有する。なお、仕切部材60には、磁石ホルダ50からブラケット12側に向かって延長される延長部52a、52bが挿入される。
【0023】
次に、電動モータ1の構成を、
図2を参照して説明する。
【0024】
図2は、本発明の実施形態の電動モータ1の分解斜視図である。
【0025】
ヨーク10の内部には、磁石ホルダ50に装着された永久磁石11a、11bと、ロータ20と、仕切部材60とが備えられる。ヨーク10の開口部分はブラケット12により塞がれる。
【0026】
磁石ホルダ50の外形は、ヨーク10の内周面に沿うような円筒形状を有する。磁石ホルダ50の側壁部には、セグメント形状の永久磁石11a、11bが装着される一組の窓状の磁石装着部51(51a、51b)が形成されている。磁石装着部51a、51bに一組の永久磁石11a、11bが装着されることで、永久磁石11a、11bが、磁石ホルダ50に固定される。
【0027】
永久磁石11a、11bは、それぞれ、略同一のセグメント形状(C形状)を有している。永久磁石11a、11bの外周側(セグメント形状の膨出側)の曲面は、ヨーク10の内周面に沿うような形状を有している。
【0028】
このような構造により、磁石ホルダ50に一組の永久磁石11a、11bを装着したときに、この磁石ホルダ50の外周面の形状が、ヨーク10の内周面の形状と略一致する。磁石ホルダ50がヨーク10の内部に圧入されることによって、磁石ホルダ50がヨーク10の内部に固定される。
【0029】
本実施形態の電動モータ1は、次のような手順によって組立てられる。
【0030】
まず、磁石ホルダ50の磁石装着部51a、51bのそれぞれに、永久磁石11a、11bを装着する。そして、永久磁石11a、11bが装着された磁石ホルダ50がヨーク10の内部に挿入される。磁石ホルダ50は、その底部がヨーク10の底部に突き当たるまで挿入される。
【0031】
ヨーク10の内部に永久磁石11を装着した磁石ホルダ50が圧入されることにより、ヨーク10の内周面に永久磁石11の外周面が密着する。このような構成により、一組の永久磁石11a、11bの磁力がヨーク10により結合される。なお、磁石ホルダ50とヨーク10との間に、予め接着剤を塗布しておいてもよい。
【0032】
次に、予めベアリング13が装着されたロータ20を、ヨーク10の内部に挿入する。ベアリング13は、磁石ホルダ50の底部のベアリング取付部50a(
図1参照)に装着される。
【0033】
次に、仕切部材60及びブラケット12を、ヨーク10に装着する。
【0034】
ロータ20の整流子22が仕切部材60の開口部68を挿通するように、仕切部材60がヨーク10の内部に配置される。このとき、磁石ホルダ50からブラケット12側に向かって延長される延長部52a、52bが、仕切部材60の切欠部66b、66cに挿入される。
【0035】
次に、リードプレート34、銅編み線35、ブラシ15、ベアリング14等が予め装着されたブラケット12を、ヨーク10の開口部に装着する。このとき、
図4で後述するように、ブラケット12に形成されている突設部18が仕切部材60の切欠部66に係合する。その後、ブラケット12とヨーク10とを、例えばボルト及びナットによって固定する。
【0036】
ここで、従来の電動モータ1は、次のような問題点が発生していた。
【0037】
電動モータ1が回転するときに整流子22の電極22aとブラシ15とが摺接するので、電極22aよりも軟質の材質であるブラシ15が磨耗する。ブラシ15の磨耗によって発生する磨耗粉は、ヨーク10の内部に蓄積される。
【0038】
ブラシ15の磨耗粉は導電性を有するので、ヨーク10内に蓄積したブラシ15の磨耗粉によりブラシ15又は整流子22と永久磁石15との間に電気の導通経路が発生し、ブラシ15又は整流子22と永久磁石15との間の絶縁抵抗が低下する虞がある。
【0039】
そこで、本発明の実施形態では、ブラシ15の磨耗粉により絶縁抵抗が低下することを防止するために、ヨーク10の内側に仕切部材60を設けた。
【0040】
仕切部材60は、ヨーク10の内部で、ブラケット12と磁石ホルダ50との間に配置される。仕切部材60は、ヨーク10の内部で、ブラシ15及び整流子22と、永久磁石11及びロータコア23を仕切る構成となっている。
【0041】
仕切部材60がブラシ15と永久磁石11との間に介在することによって、ブラシ15から発生する磨耗粉が永久磁石11側に飛散して永久磁石11側に付着することが抑制される。また、ブラシ15と永久磁石11との間の沿面距離が長くなり、ブラシ15と永久磁石11との間の絶縁抵抗が低下することが防止されきる。
【0042】
図3は、本発明の実施形態の仕切部材60の斜視図である。
【0043】
仕切部材60は、非導電性の樹脂材料で構成され円板形状の部材である。
【0044】
仕切部材60には、板状で中央部に開口部68を有する円板部65と、この円板部65から起立するように突設される複数の円環状のフランジ部61、62、63、64とが備えられる。
【0045】
円板部65の外周面は、略円形のヨーク10の内周面に対応する円周形状に形成されている。円板部65の中央部には、ロータ20の整流子22を挿通させるために開口部68が形成されている。
【0046】
円板部65の周囲には、ブラケット12から突設する突設部18と係合する複数の切欠部66a、66b、66c、66dが形成されている。
【0047】
また、各フランジ部61、62、63、64には、周方向の二ヶ所に起立が低く形成されたフランジ切欠部67a、67bが形成されている。これらフランジ切欠部67a、67bは、仕切部材60がブラケット12のブラシ15に干渉しないための逃げ構造を構成している。
【0048】
図4は、本発明の実施形態のブラケット12及び仕切部材60の構成を示す斜視図であり、電動モータ1の側方からの透視斜視図である。なお、
図4において、ヨーク10及び磁石ホルダ50は省略されている。
【0049】
図4では、ヨーク10の内部において、ブラケット12と仕切部材60とが係合している様子を示す。
【0050】
ブラケット12には、仕切部材60の切欠部66a、66b、66c、66dと対応する位置に、磁石ホルダ50側に突設する突設部18が四ヶ所形成されている。突設部18は、一つの切り欠き部に対して二つ設けられている。
図4では、仕切部材60の二ヶ所の切欠部66a、66bと、この二ヶ所の切り欠き部に係合する四つの突設部18a、18bの組及び18c、18dの組のみが示されている。
【0051】
ヨーク10の内部に仕切部材60が固定されるときに、突設部18a、18bが切欠部66aに係合し、突設部18c、18dが切欠部66bに係合する。これにより、仕切部材60がブラケット12に対して周方向に固定される。
【0052】
なお、ブラケット12の突設部18は、磁石ホルダ50からブラケット12側に向かって延長される延長部52a、52b(
図2参照)と嵌合する。突設部18は、ブラケット12の周方向に四ヶ所設けられており、そのうちの対角の二ヶ所の突起部18が延長部52a、52bに嵌合する構造となっている。
図4において、突設部18のうちの二ヶ所のみが示されており、そのうちの一ヶ所の突設部18aと突起部18bとの間には、磁石ホルダ50の延長部52aが嵌合する構造となっている。
【0053】
このように、磁石ホルダ50の延長部52が、仕切部材60の切欠部66を介してブラケット12の突設部18の間を貫通することにより、磁石ホルダ50、ブラケット12及び仕切部材60が、互いにヨーク10の内部で固定される。
【0054】
また、仕切部材60は、複数のフランジ部61、62、63、64が形成されることによりその形状がいわゆるラビリンス構造となっている。
【0055】
具体的には、仕切部材60の回転軸方向断面には、
図1に示すように、ヨーク10の内壁からロータ20のロータシャフト21側へと延設される円板部65と、円板部65からブラシ15側に起立するフランジ部61と、フランジ部61とフランジ部62との間に形成される凹部60aと、円板部65からブラシ15側に起立するフランジ部62と、フランジ部62とフランジ部63との間に形成される凹部60bと、円板部65からブラシ15側に起立するフランジ部63と、フランジ部63とフランジ部64との間に形成される凹部60cと、円板部65からブラシ15側に起立するフランジ部64と、が形成されている。
【0056】
このように、仕切部材60は、複数の折り返し構造を有するラビリンス構造を有することにより、ブラシ15と永久磁石11との間の沿面距離は、仕切部材60が存在しない場合と比較して長くすることができる。
【0057】
図5は、本発明の実施形態における沿面距離と絶縁抵抗との関係を示す説明図である。
図5は、ブラシ15の磨耗粉が付着した仕切部材60における沿面距離と絶縁抵抗との関係を示す実験結果のグラフである。
【0058】
ブラシ15の磨耗粉がヨーク10の内部に付着するとブラシ15と永久磁石11との間の絶縁抵抗が低下する。一方で、仕切部材60を設けて沿面距離を長くした場合は、沿面距離に応じて絶縁抵抗が大きくなる。
【0059】
図5に示す実験結果では、沿面距離が短い場合(例えば10mm付近)では、絶縁抵抗が小さくなる(10MΩ程度)。一方、沿面距離が長い場合(例えば50mm付近)では、絶縁抵抗を大きくする(5000MΩ程度)ことができる。
【0060】
従って、仕切部材60の構造によってブラシ15と永久磁石11との間の沿面距離を長くすることができれば、ヨーク10の内部にブラシ15の磨耗粉が蓄積した場合にも、ブラシ15と永久磁石11との間の絶縁抵抗が低下することを防止することができる。
【0061】
以上のように、本発明の実施形態の電動モータ1は、ヨーク10と、ヨーク10に固定される永久磁石11と、ヨーク10内で回転可能に支持されるロータ20と、を備えるブラシ付電動モータである。このヨーク10には、ブラシ15と永久磁石11との間に固定され、ヨーク10の内周から径方向内側に延設される円板部65と、円板部65からブラシ15側に起立するフランジ部61、62、63、64と、が形成されている仕切部材60が備えられている。
【0062】
このように、仕切部材60がブラシ15と永久磁石11との間に介在することによって、ブラシ15から発生する磨耗粉が永久磁石11側に飛散してヨーク10の内部や永久磁石11の周囲に付着することを防止するので、ブラシ15と永久磁石11との間の絶縁抵抗が低下することを防止できる。
【0063】
またさらに、仕切部材60には、円板部65からブラシ15側に起立するフランジ部61、62、63、64が備えられているので、ブラシ15の磨耗粉が仕切部材60の表面やヨーク10の内部に付着したとしても、ブラシ15と永久磁石11との間の沿面距離を長くすることができ、ブラシ15と永久磁石11との間の絶縁抵抗が低下することを防止できる。
【0064】
このような構成によって、ブラシ15又は整流子22とケース10との間の絶縁抵抗が低下することを防止できる。
【0065】
また、仕切部材60には、同心円状に複数のフランジ部61、62、63、64が形成されているので、これらフランジ部の間の凹部60a、60b、60cで磨耗粉を受け止めることにより磨耗粉が永久磁石11側に飛散して永久磁石11側に付着することが防止できる。さらに、複数のフランジ部61、62、63、64によってブラシ15と永久磁石11との間の沿面距離を長くすることができ、ブラシ15と永久磁石11との間の絶縁抵抗が低下することを防止できる。
【0066】
また、仕切部材60は、ブラケット12と磁石ホルダ50との間に挟持されて、仕切部材60が回転軸方向に固定される。また、仕切部材60の周方向に形成された切欠部66とブラケットから突設する突設部18とによって、仕切部材60が周方向に固定される。このように、少ない構成によって、仕切部材60を確実にヨーク10内に固定することができる。
【0067】
また、仕切部材60の切り欠き部67a、67bの開口部が、ブラシ15に隣接することで、ブラシ15の磨耗粉が仕切部材60のフランジ部61、62、63、64の間に入りやすくなり、この間に蓄積されるので、ヨーク10の内部に磨耗粉が散逸することを抑制することができる。
【0068】
なお、本発明の実施形態では、仕切部材60に4つのフランジ部61、62、63、64を備える例を示したが、これに限られるものではない。
図5に示すような実験結果を勘案して、ブラシ15と永久磁石11との間の絶縁抵抗を所望の値となるように沿面距離を設定して、仕切部材60の構造を、この沿面距離に対応させればよい。
【0069】
なお、本発明の実施形態では、電動モータ1を例として説明したが、これに限らず、発電機等の回転電機にも適用することができる。
【0070】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。