特許第6232181号(P6232181)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232181
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】繊維織物の開繊方法及び開繊装置
(51)【国際特許分類】
   D06B 13/00 20060101AFI20171106BHJP
   D06C 3/06 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   D06B13/00
   D06C3/06 A
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-219212(P2012-219212)
(22)【出願日】2012年10月1日
(65)【公開番号】特開2014-70325(P2014-70325A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 正朗
【審査官】 小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−277988(JP,A)
【文献】 特開2012−001855(JP,A)
【文献】 特開2004−256971(JP,A)
【文献】 特開2003−096661(JP,A)
【文献】 特開2010−082621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06B 1/00−23/30
D06C 3/00−29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維織物をタテ糸方向に液体中で走行させながら該液体を媒体として繊維織物に超音波を照射して開繊処理を行う、繊維織物の開繊処理方法であって、以下の工程、
媒体液中に浸入する前にエキスパンダーロールにより繊維織物を屈曲させることによって繊維織物にヨコ糸方向の張力を付与する張力付与工程、及び
超音波発振器によって超音波が照射されている媒体液中に該張力が作用した状態で繊維織物を浸入させて開繊処理を行う開繊工程、
を含み、
該開繊工程において、媒体液中で繊維織物が水平方向に対し70°以上110°以下で走行し、
繊維織物の走行方向と超音波発振器の振動面とが実質的に直角である、繊維織物の開繊処理方法。
【請求項2】
該開繊工程の後に、以下の工程、
媒体液から搬出された湿潤状態の繊維織物にヨコ糸方向の張力を付与する後張力付与工程、及び
後張力付与工程で付与された張力が作用した状態で繊維織物を乾燥させる乾燥工程、
を更に含む、請求項1に記載の繊維織物の開繊処理方法。
【請求項3】
該後張力付与工程において、エキスパンダーロールにより繊維織物を屈曲させることによってヨコ糸方向の張力を付与する、請求項に記載の繊維織物の開繊処理方法。
【請求項4】
媒体液中の溶存酸素量が1ppm以上20ppm以下である、請求項1〜の何れか1項に記載の繊維織物の開繊処理方法。
【請求項5】
繊維織物が無機繊維織物である、請求項1〜の何れか1項に記載の繊維織物の開繊処理方法。
【請求項6】
繊維織物がガラスクロスである、請求項1〜の何れか1項に記載の繊維織物の開繊処理方法。
【請求項7】
繊維織物をタテ糸方向に液体中で走行させながら該液体を媒体として繊維織物に超音波を照射して開繊処理を行うための繊維織物の開繊処理装置であって、
超音波発振器、
該超音波発振器によって超音波が照射されている媒体液を収容するための媒体液槽、及び
繊維織物を、媒体液の外から該媒体液中に浸入させ、次いで該媒体液の外に搬出するための搬送機構、
を備え、
該搬送機構は、媒体液への浸入前の繊維織物にヨコ糸方向の張力を付与し、かつ該張力が作用した状態で該繊維織物を媒体液中に浸入させるための張力付与部を有し、
媒体液中で繊維織物が水平方向に対し70°以上110°以下で走行するように構成されており、
繊維織物の走行方向と超音波発振器の振動面とが実質的に直角になるように構成されており、
該張力付与部がエキスパンダーロールである、繊維織物の開繊処理装置。
【請求項8】
該搬送機構が、媒体液から搬出された湿潤状態の繊維織物にヨコ糸方向の張力を付与し、かつ該張力が作用した状態で繊維織物を乾燥させるための後張力付与部を更に有する、請求項に記載の繊維織物の開繊処理装置。
【請求項9】
該後張力付与部が、エキスパンダーロールである、請求項に記載の繊維織物の開繊処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電子・電気分野で使用されるプリント配線板に補強用基材として用いられる繊維織物の開繊方法及び開繊装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板に用いられる積層板は、通常、ガラスクロス等の繊維織物を補強基材に用い、これにエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸・乾燥し、次いで加熱加圧成形して製造される。補強基材に用いられる繊維織物は、機械的強度、寸法安定性及び耐熱性に加え、樹脂の含浸性が良好であること、及び表面平滑性に優れることが要求される。
【0003】
繊維織物の樹脂含浸性及び表面平滑性を向上させる方法としては、繊維織物を開繊処理する方法が有効であり、開繊処理方法の一つとして、水等の媒体を介して繊維織物に超音波を作用させる方法が記載されている(特許文献1〜2)。
【0004】
特許文献1〜2にはガラスクロスの超音波処理による開繊処理が具体的に記載されている。しかしながら、超音波を利用する開繊処理方法は、超音波が疎密波であり媒体中の場所によって作用する圧力の強弱が存在すること、媒体中の溶存空気から発生した気泡の存在箇所では超音波の伝播が妨げられること等の理由で、均一な開繊加工を行うのが難しいのが現状である。
【0005】
また、特許文献1〜2に例示されているように、ガラスクロス等の長尺の繊維織物を連続的に超音波処理により開繊処理する場合、繊維織物を媒体中に走行させながら媒体を介して超音波を照射するのが一般的である。このため、走行方向(タテ糸方向)には張力が作用し、一方で、幅方向(ヨコ糸方向)には殆ど張力は作用しない状態で開繊処理が行われる。従って、ガラスクロス等の長尺の繊維織物を媒体中に浸漬させる方法は、幅方向にヨコ糸が縮もうとする歪によってシワが発生しやすいという課題も有していた。
【0006】
上述の課題を解決する方法として、特許文献3には、超音波処理を行う液中に設置されたエキスパンダーロールによりガラスクロスを屈曲させる方法が記載されている。特許文献3には、超音波処理を行う液中に設置されたエキスパンダーロールによりガラスクロスの両端方向に張力が与えられるため、ガラスクロスの幅方向に縮もうとする歪が抑えられ、シワが発生し難くなることが記載されている。
【0007】
また、特許文献4には、特許文献3と同様に超音波処理を行う液中でヨコ糸方向に張力を作用させる方法であるが、該方法によりタテ糸方向の張力を小さく調整できるためタテ糸を十分に開繊できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−165441号公報
【特許文献2】特開2003−96661号公報
【特許文献3】特開2004−256971号公報
【特許文献4】特開2012−1855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ガラスクロスがヨコ方向に縮もうとする力はガラスクロスが水に浸入した瞬間に生じるため、特許文献3の方法は、しわの発生を十分に抑制できるものではなかった。また、特許文献4に記載される技術自体は特許文献3と同様であるため、特許文献4の方法もまたしわの発生を十分に改善できる方法ではない。
【0010】
近年、プリント配線板の薄型化の要求から、繊維織物は50μmから10μmにまで薄くすることが求められている。繊維織物は厚さが薄いほど剛性が低下するため、50μm以下の繊維織物はそれよりも厚地の繊維織物に比べ、上述したシワの問題が著しく発生しやすいという問題も抱えていた。しかし上記各文献の技術は特に厚さ50μm以下のような薄地の繊維織物においてしわや開繊斑の発生を抑制できるものではなかった。
【0011】
以上のように、薄地(例えば厚さ50μm以下)の繊維織物について、しわや開繊斑の発生がなく、繊維織物を均一に開繊することが可能な超音波処理方法は現在に至るまで得られていないのが現状であり、このような繊維織物の開繊方法が切望されている。
【0012】
前述した状況の下、本発明が解決しようとする課題は、例えば厚さ50μm以下のような薄地の繊維織物を、シワや開繊斑の発生がなく、均一に開繊することが可能な、超音波を利用した処理方法及び処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく、先ず、超音波を利用した開繊処理でシワ(タテ糸に沿ったヨコ糸の目曲り)や開繊斑が生じる原因を詳しく解析した。その結果、繊維織物が超音波の照射されている液体中に浸入するのと同時にシワの発生が起こること、一度発生したシワは、その後エキスパンダーロール等で両端方向に引っ張っても回復しないことを知見した。
【0014】
以下の理論に拘束されることを望まないが、繊維織物が超音波の照射されている液体中に浸入するのと同時にシワの発生が起こるのは、以下の機構によるものと考えられる。長尺の繊維織物を走行させるためには、走行方向(タテ糸方向)に張力をかける必要があり、一方で幅方向(ヨコ糸方向)には殆ど張力がかかっていない。従って、繊維織物を液体中に浸入させると、繊維織物を構成している繊維が濡れることによって縮もうとする力は幅方向に開放され、ヨコ糸が幅方向に縮もうとする力が生じる。また、液体中には超音波が照射されているため、繊維織物を構成している繊維は振動し動きやすくなっている。一方で、ヨコ糸は張力がかかっているタテ糸により拘束されているが、タテ糸の張力には少なからず斑があるため、タテ糸の張力が弱い部位でヨコ糸を拘束する力が弱くなっている。以上の現象が重なって、繊維織物が超音波を照射している液体中に浸入するのと同時にシワの発生が起こる。つまり、(1)繊維織物が超音波が照射されている液体中に浸入すると、ヨコ糸が縮もうとする力が生じ、且つ、超音波が照射されているため、ヨコ糸は動きやすくなっていること、(2)タテ糸の張力斑に起因するヨコ糸の拘束力の弱い部位で、ヨコ糸が縮もうとする力が開放され、大きく目曲りを生じること、及び(3)ヨコ糸が大きく目曲りする部位はタテ糸に沿っていること、によって、タテ糸に沿ったシワが観察される。
【0015】
そこで、本発明者らは、上記従来の方法の問題に鑑み、繊維織物を超音波が照射される液体中に浸入する前に予めエキスパンダーロールで屈曲させる等の方法により、繊維織物がヨコ糸方向の両端部に向けて(本開示で、両端方向ということもある)引っ張られた状態で液体中に浸入すれば、浸入と同時に生じる、ヨコ糸が幅方向に縮もうとする力に耐え、シワの発生が起こり難くなることを見出した。本発明者らは、さらに検討を重ねて本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
【0016】
[1] 繊維織物をタテ糸方向に液体中で走行させながら該液体を媒体として繊維織物に超音波を照射して開繊処理を行う、繊維織物の開繊処理方法であって、以下の工程、
繊維織物にヨコ糸方向の張力を付与する張力付与工程、及び
超音波発振器によって超音波が照射されている媒体液中に該張力が作用した状態で繊維織物を浸入させて開繊処理を行う開繊工程、
を含む、繊維織物の開繊処理方法。
[2] 該張力付与工程において、エキスパンダーロールにより繊維織物を屈曲させることによってヨコ糸方向の張力を付与する、上記[1]に記載の繊維織物の開繊処理方法。
[3] 該開繊工程において、媒体液中で繊維織物が略鉛直方向に走行する、上記[1]又は[2]に記載の繊維織物の開繊処理方法。
[4] 繊維織物の走行方向と超音波発振器の振動面とが実質的に直角である、上記[1]〜[3]の何れかに記載の繊維織物の開繊処理方法。
[5] 該開繊工程の後に、以下の工程、
媒体液から搬出された湿潤状態の繊維織物にヨコ糸方向の張力を付与する後張力付与工程、及び
後張力付与工程で付与された張力が作用した状態で繊維織物を乾燥させる乾燥工程、
を更に含む、上記[1]〜[4]の何れかに記載の繊維織物の開繊処理方法。
[6] 該後張力付与工程において、エキスパンダーロールにより繊維織物を屈曲させることによってヨコ糸方向の張力を付与する、上記[5]に記載の繊維織物の開繊処理方法。
[7] 媒体液中の溶存酸素量が1ppm以上20ppm以下である、上記[1]〜[6]の何れかに記載の繊維織物の開繊処理方法。
[8] 繊維織物が無機繊維織物である、上記[1]〜[7]の何れかに記載の繊維織物の開繊処理方法。
[9] 繊維織物がガラスクロスである、上記[1]〜[7]の何れかに記載の繊維織物の開繊処理方法。
[10] 繊維織物をタテ糸方向に液体中で走行させながら該液体を媒体として繊維織物に超音波を照射して開繊処理を行うための繊維織物の開繊処理装置であって、
超音波発振器、
該超音波発振器によって超音波が照射されている媒体液を収容するための媒体液槽、及び
繊維織物を、媒体液の外から該媒体液中に浸入させ、次いで該媒体液の外に搬出するための搬送機構、
を備え、
該搬送機構は、媒体液への浸入前の繊維織物にヨコ糸方向の張力を付与し、かつ該張力が作用した状態で該繊維織物を媒体液中に浸入させるための張力付与部を有する、繊維織物の開繊処理装置。
[11] 該張力付与部が、エキスパンダーロールである、上記[10]に記載の繊維織物の開繊処理装置。
[12] 媒体液中で繊維織物が略鉛直方向に走行するように構成されている、上記[10]又は[11]に記載の繊維織物の開繊処理装置。
[13] 繊維織物の走行方向と超音波発振器の振動面とが実質的に直角になるように構成されている、上記[10]〜[12]の何れかに記載の繊維織物の開繊処理装置。
[14] 該搬送機構が、媒体液から搬出された湿潤状態の繊維織物にヨコ糸方向の張力を付与し、かつ該張力が作用した状態で繊維織物を乾燥させるための後張力付与部を更に有する、上記[10]〜[13]の何れかに記載の繊維織物の開繊処理装置。
[15] 該後張力付与部が、エキスパンダーロールである、上記[14]に記載の繊維織物の開繊処理装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、例えば厚さ50μm以下のような薄地の繊維織物を、シワや開繊斑の発生がなく、均一に開繊することが可能な、超音波を利用した処理方法及び処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る開繊処理装置の例を示す模式図である。
図2】本発明に係る開繊処理装置の例を示す模式図である。
図3】比較例1で用いた開繊処理装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
<繊維織物の開繊処理方法>
本発明の一態様は、繊維織物をタテ糸方向に液体中で走行させながら該液体を媒体として繊維織物に超音波を照射して開繊処理を行う、繊維織物の開繊処理方法であって、以下の工程、
繊維織物にヨコ糸方向の張力を付与する張力付与工程、及び
超音波発振器によって超音波が照射されている媒体液中に該張力が作用した状態で繊維織物を浸入させて開繊処理を行う開繊工程、
を含む、繊維織物の開繊処理方を提供する。
【0021】
本態様における繊維織物の開繊処理は、繊維織物を、超音波が照射されている液体(例えば水等)中に含浸させ、該液体中で繊維織物を走行させながら、該液体を媒体として超音波を照射することにより行う。本開示で、媒体液とは、繊維織物への超音波照射の媒体として用いる、超音波が照射されている液体を意味する。媒体液は、水、メタノール、エタノール、及びこれらの混合物等であり、典型的には水である。また本開示において、繊維織物の走行方向はタテ糸方向である。本態様の方法では、媒体液中に繊維織物を浸漬する前に、予め繊維織物にヨコ糸方向の張力をかけ、繊維織物をヨコ糸方向に張力が作用した状態で媒体液中に浸入させる必要がある。
【0022】
張力付与工程においては、繊維織物にヨコ糸方向の張力を付与する。ヨコ糸方向にかかる張力は、繊維織物を構成する繊維の種類(例えば後述のガラス繊維、アラミド繊維、P.B.O(ポリベンゾオキサゾール)繊維等)、織構造、厚さ等により適時選択することができるが、媒体液中に繊維織物が浸入すると同時に生じる、ヨコ糸が繊維織物の幅方向に縮もうとする力に耐えるためには、4N/m以上800N/m以下であることが好ましく、より好ましくは8N/m以上200N/m以下、更に好ましくは12N/m以上100N/m以下である。ヨコ糸方向にかかる張力が8N/m以上である場合、繊維織物の幅方向に縮もうとする力に耐える力を付与できるため好ましい。ヨコ糸方向にかかる張力が800N/m以下である場合、超音波による開繊が十分に作用されるため好ましい。またヨコ糸方向にかかる張力が800N/m以下である場合、シワの発生が起こり難い状態で、十分な開繊効果が得られる点でも好ましい。上記張力は、予め、繊維織物が媒体液に侵入する位置に、繊維織物の両端部にヨコ糸方向に作用する張力が測定できるよう張力測定器を設置し、該張力測定器の値が上述の張力範囲になるよう張力付与工程を調製することができる。実際の繊維織物の開繊処理工程中は、上述の張力調整時に用いた張力測定器は均一な開繊処理を妨げる可能性があるため取り除いておき、上述で設定した張力付与工程の条件と同一の張力付与条件で開繊処理を行うことが好ましい。
【0023】
ヨコ糸方向に張力をかける方法は特に限定されることはなく、テンター等で繊維織物の両端を掴み幅方向の外側へ引っ張る方法、エキスパンダーロールで繊維織物を屈曲させる方法等を用いることができる。そのなかでも、均一に張力が作用する観点で、エキスパンダーロールで繊維織物を屈曲させる方法を好ましく適用することができる。
【0024】
ここで、エキスパンダーロールで繊維織物を屈曲させるとは、繊維織物をエキスパンダーロールの外周面に沿って曲げること、即ち、繊維織物をエキスパンドバーの外周面に一定の面積で接触させることをいう。予めエキスパンダーロールで繊維織物を屈曲させることにより、繊維織物は両端部に向けて引っ張られた状態で、媒体液中に浸入できる。これにより、繊維織物は、媒体液に浸入すると同時に発生する幅方向に縮もうとする歪に耐えることができ、その結果、たるみやシワの発生を防ぐことが可能となる。繊維織物にたるみやシワがなく均一に張られた状態で引き続き超音波が照射されるため、均一な開繊加工が可能となる。
【0025】
ここで、本態様に用いることのできるエキスパンダーロールとは、繊維織物を屈曲させることで両端方向に張力を付与できるものであれば何ら限定されることなく用いることが可能である。エキスパンダーロールの例としては、外周面に、繊維織物の走行方向に傾斜して複数の溝を有するタイプ、ロールの軸を湾曲させたタイプ、両端部の直径に比べて中央部の直径が大きいクラウンロールと呼ばれるタイプ等を用いることができる。
【0026】
本態様において、繊維織物にヨコ糸方向の張力を付与する位置は、繊維織物が媒体液中に浸入する前に繊維織物の両端方向に張力がかかるように配置する。エキスパンダーロールで繊維織物を屈曲させる方法においては、エキスパンダーロールから繊維織物が離れる位置と、媒体液の液面との距離が0.1cm以上であることが好ましく、より好ましくは1cm以上、さらに好ましくは5cm以上である。エキスパンダーロールから繊維織物が離れる位置と液面との距離が0.1cm以上である場合、繊維織物の走行等の影響で液面が上下に揺れても、繊維織物が両端方向に張力が付与される前に媒体液中に浸入することがなく、開繊斑やシワの発生を抑えることができるため好ましい。また、エキスパンダーロールから繊維織物が離れる位置と液面との距離は50cm以下が好ましく、より好ましくは30cm以下、さらに好ましくは10cm以下である。エキスパンダーロールから繊維織物が離れる位置と液面との距離が50cm以下である場合、繊維織物が両端方向に引っ張られている状態を、繊維織物が媒体液中に浸入するまで維持でき、開繊斑やシワの発生を抑えることができるため好ましい。なお上記距離は、繊維織物を搬送させない状態で、繊維織物の両端から10cmの位置と中央部の3箇所で測定される値であり、該3箇所全てで上記距離を有することを意図する。
【0027】
また、本態様において繊維織物をエキスパンダーロールで屈曲させる時点で、繊維織物が水等で濡れた状態にしておくことも可能である。繊維織物を濡れた状態でエキスパンダーロールで両端方向に引き伸ばしておくことで、媒体液中に繊維織物が浸入した際に幅方向へ縮もうとする歪を小さくすることができるため、シワや開繊斑の発生がより抑えられるため好ましい。繊維織物をエキスパンダーロールで屈曲させる時点で水等で濡れた状態にする方法としては特に限定はなく、エキスパンダーロールの直前で繊維織物に水を噴霧する方法、繊維織物をエキスパンダーロールに通す前にこれを水中に浸漬し必要により水を絞る方法等が挙げられる。
【0028】
次いで、開繊工程において、超音波発振器によって超音波が照射されている媒体液中に該張力が作用した状態で繊維織物を浸入させて開繊処理を行う。開繊工程中、繊維織物は例えば浸漬ロールによって媒体液中を走行させる。開繊工程中、繊維織物のタテ糸方向に対する張力は、繊維織物を媒体中に浸入させる際にヨコ糸方向に作用する張力と同等とするのが好ましく、媒体中に浸入させる際にヨコ糸方向に作用する張力±50Nとするのが好ましい。より好ましい範囲は媒体中に浸入させる際にヨコ糸方向に作用する張力±30N、更に好ましい範囲は媒体中に浸入させる際にヨコ糸方向に作用する張力±10Nである。媒体中に浸入させる際にヨコ糸方向に作用する張力±50Nの場合、タテ糸とヨコ糸ともに十分な開繊効果を与えることができるので好ましい。
【0029】
本態様において、繊維織物は媒体液中で略鉛直方向(すなわち水平方向に対して実質的に垂直の方向)に走行させることが好ましい。繊維織物を略鉛直方向に走行させることで、繊維織物の面にかかる浮力が少なくなり、繊維織物が両端に対し中心部が上に押し上げられるように歪むのを防ぐことができる。その結果、繊維織物にかかる張力を幅方向で均一に保つことができ、均一な開繊処理を行うことができるので好ましい。ここで、略鉛直とは、水平方向に対し70°以上110°以下となることをいう。水平方向に対し70°以上110°以下であれば、開繊処理を均一に保つことができ好ましく、より好ましくは80°以上100°以下、さらに好ましくは85°以上95°以下である。繊維織物を媒体液中で略鉛直方向に走行させるために、典型的には、繊維織物を媒体液中に鉛直方向に浸入させる、或いは繊維織物を媒体液中に潜入させた後にガイドロールを用いて下方に走行させ、ロール等に沿って屈曲させた後鉛直方向に上方に走行させてそのまま、或いはガイドロールを用いて媒体液から搬出する。下方への走行および上方への走行からなるサイクルを複数回有してもよい。
【0030】
また、本態様において、超音波発振器は、その振動面と繊維織物の走行方向とが実質的に直角になるように配置されるのが好ましい。振動面と繊維織物の走行方向とが実質的に直角になる場合、振動面からの距離が遠くて減衰して強度が弱くなった超音波と、振動面からの距離が近く強度の強い超音波との、強度の異なる超音波を長い距離作用させることができるため、開繊がより均一になるため好ましい。ここで、実質的に直角とは、振動面に対し繊維織物の走行方向が70°以上110°以下となることをいう。70°以上110°以下であれば、開繊処理を均一に保つことができ好ましく、より好ましくは80°以上100°以下、さらに好ましくは85°以上95°以下である。該振動面と繊維織物の走行方向とは、繊維織物の走行の少なくとも一部の行程で実質的に直角になればよい。しかし、繊維織物が媒体液中にある行程のうち、走行方向転換のための折り返し等の部分を除いた実質的に全ての行程において、振動面と繊維織物の走行方向とが実質的に直角になることが特に好ましい。超音波発振器の振動面と繊維織物の走行方向とを実質的に直角にするための手法としては、繊維織物を媒体液中で実質的に鉛直方向に走行させるとともに、超音波発振器を、振動面が実質的に水平となるように媒体液槽の底面側に配置する方法等が挙げられる。
【0031】
本態様の開繊処理は、20kHz以上200kHz以下の周波数を有する超音波を用いることができる。なかでも、例えば厚さ50μm以下のような、薄地の繊維織物の開繊処理を行う場合、20kHz以上50kHz以下の周波数が好ましく、より好ましくは20kHz以上30kHz以下である。20kHz以上200kHz以下の周波数を有する超音波で開繊処理を行えば、繊維織物の目曲り等の大きな欠点なく開繊処理を行えるので好ましい。
【0032】
本態様の開繊処理は、0.07W/cm以上3.60W/cm以下の出力の超音波を用いることができる。超音波出力のより好ましい範囲は0.14W/cm以上2.16W/cm以下、更に好ましい範囲は0.21W/cm以上1.44W/cm以下である。超音波出力が0.07W/cm以上で良好に開繊することができ、超音波出力が3.60W/cm以下で目曲りなどの発生がなく均一な開繊を行うことができるので好ましい。
【0033】
好ましい超音波処理時間は、5秒以上1800秒以下である。超音波処理時間が5秒以上で良好に開繊することができるので好ましい。超音波処理時間は長い方が開繊効果が大きいので好ましいが、1800秒を超えて処理しても更なる開繊は殆どないので、1800秒で十分である。
【0034】
また、本態様の開繊処理に用いる媒体液中には、通常、窒素や酸素を主成分とする空気が溶存しているが、該溶存酸素量は1ppm以上20ppm以下であることが好ましい。より好ましい範囲は3ppm以上17ppm以下であり、更に好ましい範囲は4ppm以上14ppm以下である。溶存酸素量を管理することで、間接的に溶存気体量を制御することが可能であり、超音波が溶存気体により減衰される程度を制御することが可能となる。溶存酸素量は1ppm以上で、均一に開繊処理が施されるため好ましい。溶存酸素量が20ppm以下の時、繊維織物に良好な開繊作用が与えられるので好ましい。溶存酸素量が1ppm以上20ppm以下の範囲で、均一で良好な開繊効果が得られるので好ましいまた、繊維織物が薄い場合や、繊維織物を構成している糸が細い場合には、溶存酸素量を4ppm以上とすることが、超音波が局所的に強く作用してしまうことによる開繊斑や目曲りを防ぐことができるため好ましい。
【0035】
上記の溶存酸素量は、溶存酸素計で測定することができる。開繊処理は、通常、大気圧に近い条件で行われるため、溶存酸素濃度を管理しておけば、溶存気体による超音波減衰の影響を管理することが可能である。
【0036】
また、本態様の方法は、開繊工程の後に、繊維織物を媒体液から搬出し、繊維織物を乾燥させる前に(すなわち湿潤状態で)再びヨコ糸方向に張力を付与する後張力付与工程を更に含むことが好ましい。また、後張力付与工程の後に、乾燥工程において、該後張力付与工程で付与された張力が作用した状態で繊維織物を乾燥させることが好ましい。
【0037】
後張力付与工程は、前述した張力付与工程と同様の手法で行うことができる。好ましい態様においては、後張力付与工程において、エキスパンダーロールにより繊維織物を屈曲させることによってヨコ糸方向の張力を付与する。屈曲は張力付与工程と同様に行うことができる。
【0038】
後張力付与工程において付与するヨコ糸方向の張力は、好ましくは4N/m以上800N/m以下、より好ましくは8N/m以上200N/m以下、更に好ましくは12N/m以上100N/m以下である。該張力が4N/m以上で、媒体液中でのヨコ糸方向の張力を安定させることができ、より均一な開繊となるため好ましい。また、速やかで均一に乾燥することができるため、ヨコ糸の収縮等によるシワが発生し難くなる点で好ましい。
該張力が800N/m以下である場合、媒体液中での超音波による開繊が良好に作用されるため好ましい。
【0039】
後張力付与工程において、繊維織物にヨコ糸方向の張力を付与する位置は、媒体液の液面との距離が0.1cm以上50cm以下、より好ましくは1cm以上30cm以下、更に好ましくは5cm以上10cm以下である位置である。媒体液の液面との距離が0.1cm以上で繊維織物の走行等の影響で液面が上下に揺れても、繊維織物が該媒体液から搬出した状態を維持できるため、ヨコ糸方向に安定した張力を作用させることができるため好ましい。媒体液の液面との距離が50cm以下で、繊維織物の走行により媒体液面が上下に揺れる等の影響がなく、媒体中の繊維織物のヨコ糸方向に作用する張力をより均一にすることができるため好ましい。なお上記距離は、繊維織物を搬送させない状態で、繊維織物の両端から10cmの位置と中央部の3箇所で測定される値であり、該3箇所全てで上記距離を有することを意図する。
【0040】
乾燥工程は、特に限定されることなく、例えば、熱風による乾燥、輻射熱を利用した乾燥、加熱ロールを用いた乾燥、これらを2種以上組み合わせた乾燥等を実施できる。急激な乾燥により繊維織物へシワなどが発生しないよう、上記乾燥の強度(温度、風量、時間等)を適時調整して乾燥することができる。
【0041】
繊維織物を媒体液中から出した後にもヨコ糸に両端方向に張力をかけることにより、媒体液中でのヨコ糸方向の張力を安定させることができ、より均一な開繊となるため好ましい。また、ヨコ糸に両端方向に張力が作用した状態で乾燥を行うことにより、速やかで均一に乾燥することができるため、ヨコ糸の収縮等によるシワが発生し難くなる点で好ましい。
【0042】
次に、本態様の開繊処理方法が適用される繊維織物について説明する。
【0043】
本態様の開繊処理方法が適用される繊維織物は、厚さが10μm以上50μm以下であることが好ましく、より好ましくは11μm以上45μm以下、更に好ましくは12μm以上40μm以下である。繊維織物の厚さが50μm以下である場合、織物を構成する繊維が超音波の作用により動きやすく、十分な開繊効果が得られるので好ましい。また厚さが10μm以上である場合、剛性が大きく目曲りやシワ等が発生し難いので好ましい。従って、厚さ10μm以上50μm以下の場合、十分な開繊効果が得られ、且つ、プリント配線板の薄型化の要求に合致する繊維織物が得られるので好ましい。
【0044】
繊維織物としては、特に限定されることはなく、ガラス繊維、炭素繊維又はアルミナ繊維等からなる無機繊維織物、及びアラミド繊維、芳香族ポリエステル繊維又はP.B.O.(ポリベンゾオキサゾール)繊維等からなる有機繊維織物を使用できる。そのなかでも、繊維同士の摩擦が小さく超音波による開繊作用を受けやすいガラスクロスが好適である。
【0045】
上記ガラスクロスを構成するガラス繊維は、特に限定されるものでなく、一般にプリント配線板用途に用いられているEガラス(無アルカリガラス)を使用してもよく、あるいは、Dガラス、Lガラス、NEガラス等の低誘電率ガラス、Sガラス、Tガラス等の高強度ガラス、Hガラス等の高誘電率ガラス等を使用してもよい。
【0046】
さらに、ガラス糸に滑剤の特性を示す有機物が付着した状態のガラスクロス、又は通常のガラスクロスを製織する際に使用されるバインダー、糊剤等が付着した状態のガラスクロスは、本発明によって得られる開繊効果が大きいため、好ましい。また、前述の開繊工程による開繊処理を行った後に、次に述べるシランカップリング剤による表面処理を施し、さらに、該開繊工程と同様の手順の開繊処理を施すことにより、集束したフィラメント間の隙間をさらに拡げることが可能である。
【0047】
プリント配線板等に使用される積層板が有するガラスクロスには、通常シランカップリング剤を含む処理液による表面処理が施される。該シランカップリング剤としては一般に用いられるシランカップリング剤を使用することができる。また、処理液には、必要に応じて、酸、染料、顔料、界面活性剤等を添加してもよい。
【0048】
上記ガラスクロスには、本発明の超音波による開繊処理に加え、他の開繊処理等を併用することにより、ガラスクロスを構成する繊維の扁平化加工を行うことが好ましい。他の開繊処理としては、例えば、水流圧力による開繊、液体を媒体とした高周波の振動による開繊、面圧を有する流体の圧力による加工、ロールによる加圧での加工等が挙げられる。これらの開繊処理法の中では、水流圧力による開繊を使用することが、繊維の均一性のためにより好ましい。また、扁平化加工の効果を高めるためには、搬送のためにガラスクロスにかかる張力を小さくした状態で上記他の開繊処理等を実施することが好ましい。
【0049】
<繊維織物の開繊処理装置>
本発明の別の態様は、繊維織物をタテ糸方向に液体中で走行させながら該液体を媒体として繊維織物に超音波を照射して開繊処理を行うための繊維織物の開繊処理装置であって、
超音波発振器、
該超音波発振器によって超音波が照射されている媒体液を収容するための媒体液槽、及び
繊維織物を、媒体液の外から該媒体液中に浸入させ、次いで該媒体液の外に搬出するための搬送機構、
を備え、
該搬送機構は、媒体液への浸入前の繊維織物にヨコ糸方向の張力を付与し、かつ該張力が作用した状態で該繊維織物を媒体液中に浸入させるための張力付与部を有する、繊維織物の開繊処理装置を提供する。本態様の開繊処理装置は、前述した繊維織物の開繊処理方法の実施のために好適に使用できる。従って該開繊処理装置の構成は、開繊処理方法について前述した種々の処理条件を実現可能であるように、本開示及び当業者の技術常識に基づいて当業者が適宜設計できる。またそのような構成の特徴、利点等に関し、開繊処理方法について前述したのと同様のものはここでは説明を繰り返さない。
【0050】
図1及び図2は、本発明に係る開繊処理装置の例を示す模式図である。図1に示す開繊処理装置1は、超音波発振器11、媒体液Lを収容する媒体液槽12、及び、繊維織物Fを搬送するための搬送機構13を備える。搬送機構13は、ガイドロール13a、エキスパンダーロール13b、浸漬ロール13c、エキスパンダーロール13d及びガイドロール13eを有する。図2に示す開繊処理装置2は、超音波発振器11に代えて超音波発振器21を備える他は図1に示す開繊処理装置1と同様である。
【0051】
超音波発振器11,21は、一般的に入手可能なものであることができ、例えばブランソン社製の超音波発振器 SERIES8500等を例示できる。
【0052】
超音波発振器11,21は、典型的には媒体液槽12内に収容されている。超音波発振器11,21は超音波を液体に照射することにより、繊維織物Fを開繊処理するための媒体液Lを生成する。
【0053】
本態様において、搬送機構は、媒体液への浸入前の繊維織物にヨコ糸方向の張力を付与し、かつ該張力が作用した状態で該繊維織物を媒体液中に浸入させるための張力付与部を有する。張力付与部としては、テンター、エキスパンダーロール等が挙げられ、好ましくは、エキスパンダーロール(図1ではエキスパンダーロール13bとして示す)である。
【0054】
典型的な態様において、繊維織物Fは、タテ糸方向に走行し、ガイドロール13aを通り、エキスパンダーロール13bにてヨコ糸方向の張力が付与される。そしてこの張力が作用した状態で繊維織物Fは媒体液L中に浸入し、浸漬ロール13cによって媒体液L中を走行することによって超音波で開繊処理される。
【0055】
好ましい態様において、開繊処理装置は、媒体液中で繊維織物が略鉛直方向に走行するように構成されている。例として、繊維織物Fは媒体液L中を略鉛直方向に下方に走行し、浸漬ロール13cにて屈曲して略鉛直方向に上方に走行して媒体液Lから搬出される。
【0056】
好ましい態様において、図2に示すように、繊維織物Fの走行方向と超音波発振器21の振動面とが実質的に直角になるように構成されている。例えば図2に示すように繊維織物Fが略鉛直方向に走行する場合、超音波発振器21を振動面が実質的に水平となるように媒体液槽の底面側に配置することが好ましい。
【0057】
媒体液Lから出た繊維織物Fはガイドロール13eを経て乾燥装置(例えば乾燥炉)へ搬送され、乾燥される。
【0058】
好ましい態様においては、搬送機構が、媒体液から搬出された湿潤状態の繊維織物にヨコ糸方向の張力を付与し、かつ該張力が作用した状態で繊維織物を乾燥させるための後張力付与部を更に有する。後張力付与部としては前述の張力付与部と同様の構成を採用できる。好ましい態様において、後張力付与部はエキスパンダーロール(図1及び図2でエキスパンダーロール13dとして示すような)である。この場合、媒体液Lから出た繊維織物Fは、乾燥前の湿潤状態でエキスパンダーロール13dを通ってヨコ糸方向の張力を付与された後、この張力が作用した状態で、ガイドロール13eを経て乾燥装置へ搬送され、乾燥される。
【0059】
本態様の開繊処理装置によれば、媒体液への浸入前に繊維織物にヨコ糸方向の張力を付与し、かつ該張力が作用した状態で繊維織物を媒体液中に浸入させることができるため、繊維織物を、シワや開繊斑の発生なく、均一に開繊することができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例及び比較例中のガラスクロスの物性は、JIS R3420に従い測定した。
超音波発振機はブランソン社製のSERIES8500を用いた。
【0061】
<実施例1>
タテ糸及びヨコ糸に平均フィラメント径4.0μm、フィラメント数100本、撚り数1.0Z、単位長さ当たりの重量3.4×10-6kg/mのEガラスの糸を使用し、エアージェットルームを用い、タテ糸75本/inch、ヨコ糸75本/inchの織り密度でガラスクロスを製織した。
【0062】
次いで、該ガラスクロスを図1に示したガイドロール13a、エキスパンダーロール13b、浸漬ロール13c、エキスパンダーロール13d、ガイドロール13eの順にセットした。セットした該ガラスクロスを、毎分5mの速度、タテ糸方向の張力20N/mで水中を略鉛直方向に走行させながら、超音波発振器11から周波数25kHz、出力0.72W/cm2の超音波を水平方向に照射し、開繊処理を行い、厚さ18μmの開繊されたガラスクロスを得た。
【0063】
エキスパンダーロール13b,13dには外周面にガラスクロスの走行方向に傾斜して複数の溝を有するタイプを用い、ヨコ糸方向に15N/mの張力を作用させた。また、エキスパンダーロール13bと媒体液面との距離、エキスパンダーロール13dと媒体液面との距離を7cmとした。また、開繊処理中の溶存酸素量は7〜9ppmであった。
開繊されたガラスクロスは、シワ等や開繊斑がなく、糸幅の標準偏差も9.2と小さいものであった。
【0064】
<実施例2>
超音波発振機を図2に示す位置に設置し、超音波を上向きに照射する以外は実施例1と同様の方法でガラスクロスの製織、開繊処理を行い、厚さ18μmのガラスクロスを得た。開繊されたガラスクロスは、シワ等や開繊斑がなく、糸幅の標準偏差も6.9と小さいものであった。
【0065】
<比較例1>
図3は、比較例1で用いた開繊処理装置3を示す模式図である。開繊処理装置3は、超音波発振器31、媒体液Lを収容する媒体液槽32、及び繊維織物Fを搬送するための搬送機構33を備え、搬送機構33は、ガイドロール33a、ガイドロール33b、エキスパンダーロール33c、ガイドロール33d及びガイドロール33eを有する。
【0066】
実施例1と同じガラスクロスを用い、図3に示したガイドロール33a、ガイドロール33b、エキスパンダーロール33c、ガイドロール33d、ガイドロール33eの順にセットした。実施例1と同様に、セットした該ガラスクロスを、毎分5mの速度、タテ糸方向の張力20N/mで水中を略鉛直方向に走行させながら、周波数25kHz、出力0.72W/cm2の超音波を照射し、開繊処理を行い、厚さ18μmの開繊されたガラスクロスを得た。
エキスパンダーロール33cには外周面にガラスクロスの走行方向に傾斜して複数の溝を有するタイプを用い、ヨコ糸方向に15N/mの張力を作用させた。ガイドロール33bと媒体液面との距離、ガイドロール33dと媒体液面との距離は共に7cmであり、ヨコ糸方向に作用している張力は共に2N以下であった。
開繊処理中の溶存酸素量は7〜9ppmであった。
開繊されたガラスクロスは、走行方向(タテ糸方向)にヨコ糸の目曲がりであるシワが発生した。また、糸幅の標準偏差も34.3と大きいものであった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、例えば電子・電気分野で使用されるプリント配線板に補強用基材として用いられる繊維織物の開繊に好適に適用される。
【符号の説明】
【0068】
1,2,3 開繊処理装置
11,21,31 超音波発振器
12,32 媒体液槽
13,33 搬送機構
13a,13e,33a,33b,33d,33e ガイドロール
13b,13d,33c エキスパンダーロール
13c 浸漬ロール
図1
図2
図3