特許第6232204号(P6232204)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232204
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】車両用ブレーキ液圧制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20171106BHJP
   B60T 8/48 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   B60T8/17 Z
   B60T8/48
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-92799(P2013-92799)
(22)【出願日】2013年4月25日
(65)【公開番号】特開2014-213737(P2014-213737A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】315019735
【氏名又は名称】オートリブ日信ブレーキシステムジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】田沼 克則
(72)【発明者】
【氏名】野村 信之
【審査官】 杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−030745(JP,A)
【文献】 特開2009−029198(JP,A)
【文献】 特表平10−506345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12 − 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のブレーキ系統からなる配管の各前記ブレーキ系統において液圧供給手段に接続された第一の液圧路がリニアソレノイド弁であるカット弁および第二の液圧路を介して当該ブレーキ系統の各車輪ブレーキに接続され、各前記車輪ブレーキのブレーキ液圧をそれぞれの目標液圧に制御する車両用ブレーキ液圧制御装置であって、
前記第一の液圧路と前記第二の液圧路との間に設けられた前記カット弁と、
前記第一の液圧路における前記カット弁よりも前記車輪ブレーキ側のブレーキ液圧を加圧可能なポンプと、
前記第二の液圧路に設けられた制御弁手段と、
を前記配管のブレーキ系統ごとに備えるとともに、
各前記車輪ブレーキの目標液圧を設定する目標液圧設定部と、
前記目標液圧に基づいて、前記カット弁および前記制御弁手段を駆動制御する弁駆動部と、
を備え、
前記弁駆動部は、
前記ブレーキ系統ごとに、各前記車輪ブレーキの目標液圧のうち高い方の目標液圧を前記第一の液圧路の目標液圧として前記カット弁を駆動制御することにより、目標液圧の高い方の前記車輪ブレーキのブレーキ液圧を前記カット弁のみの駆動によって制御し、目標液圧の低い方の前記車輪ブレーキのブレーキ液圧を対応する前記制御弁手段の駆動によって制御し、
非通電状態から通電状態とする際の前記制御弁手段の駆動に用いる指示電流が所定値未満である場合には、前記指示電流に代えてブレーキ液圧を保持させる保持電流を用い
前記指示電流が前記所定値以上になった場合には、前記保持電流に代えて前記指示電流を用いて、前記指示電流を目標差圧に応じて変化させるリニア制御を実行することを特徴とする車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項2】
複数のブレーキ系統からなる配管の各前記ブレーキ系統において液圧供給手段に接続された第一の液圧路がリニアソレノイド弁であるカット弁および第二の液圧路を介して当該ブレーキ系統の各車輪ブレーキに接続され、各前記車輪ブレーキのブレーキ液圧をそれぞ
れの目標液圧に制御する車両用ブレーキ液圧制御装置であって、
前記第一の液圧路と前記第二の液圧路との間に設けられた前記カット弁と、
前記第一の液圧路における前記カット弁よりも前記車輪ブレーキ側のブレーキ液圧を加圧可能なポンプと、
前記第二の液圧路に設けられた制御弁手段と、
を前記配管のブレーキ系統ごとに備えるとともに、
各前記車輪ブレーキの目標液圧を設定する目標液圧設定部と、
前記目標液圧に基づいて、前記カット弁および前記制御弁手段を駆動制御する弁駆動部と、
を備え、
前記弁駆動部は、
前記ブレーキ系統ごとに、各前記車輪ブレーキの目標液圧のうち高い方の目標液圧を前記第一の液圧路の目標液圧として前記カット弁を駆動制御することにより、目標液圧の高い方の前記車輪ブレーキのブレーキ液圧を前記カット弁のみの駆動によって制御し、目標液圧の低い方の前記車輪ブレーキのブレーキ液圧を対応する前記制御弁手段の駆動によって制御し、
非通電状態から通電状態とする際の前記制御弁手段の駆動に用いる指示電流が所定値未満である場合には、前記指示電流に代えてブレーキ液圧を保持させる保持電流を用い、
前記目標液圧の低い方の前記車輪ブレーキのブレーキ液圧と前記目標液圧との差圧が所定圧以上になった場合には、前記保持電流に代えて前記指示電流を用いて、前記指示電流を目標差圧に応じて変化させるリニア制御を実行することを特徴とする車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項3】
前記所定値は、前記制御弁手段の弁を確実に開閉可能な最小の電流値に設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキ液圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マスタシリンダからのブレーキ液圧をポンプによって加圧する車両用ブレーキ液圧制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この車両用ブレーキ液圧制御装置は、ポンプによって加圧されたブレーキ液圧を調整するためのカット弁(分岐バルブ)を備えている。そして、車輪ブレーキごとに設けられた制御弁手段(入力バルブおよび出力バルブ)を駆動制御することにより、各車輪ブレーキにかかるブレーキ液圧を調整している。
【0004】
しかし、この車両用ブレーキ液圧制御装置では、車輪ブレーキのブレーキ液圧を調整するために、カット弁と、各車輪の制御弁手段と、を駆動制御しており、制御が煩雑であった。
【0005】
特許文献2の発明は、目標液圧の高い方をカット弁で制御し、低い方を制御弁手段(入口弁)で駆動制御する。そのため、目標液圧の高い方の車輪ブレーキに対応する制御弁手段を駆動制御しなくて済み、簡易な制御によって、配管の1系統で2つの車輪ブレーキのブレーキ液圧を調整できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平10−506345号公報
【特許文献2】特開2007−30745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、特許文献2の発明で制御弁手段(入口弁)にリニア制御可能なソレノイド弁を用いてもよい。リニア制御可能なソレノイド弁は通電を制御することで開弁圧または閉弁圧(以下、まとめて弁圧とする)を調整できる。しかし、このような弁に流す電流(以下、指示電流とする)が所定値よりも小さい場合には、電流−差圧特性に従った所望の弁圧を得ることができない可能性がある。換言すれば、所望の弁圧を得るためには指示電流を所定値以上にする必要がある。
【0008】
しかし、特許文献2の発明では、制御弁手段(入口弁)に通電を開始する際には入口弁が開弁しているため、入口弁の上流側と下流側でほとんど差圧が発生していないことから指示電流は小さくなる。このとき、指示電流が低い状態から徐々に高くなるので、入口弁が応答性遅れによってすぐに閉弁せず、ブレーキ液圧が目標液圧に対してオーバーシュートしてしまう可能性があった。
【0009】
本発明は、以上の事を鑑みてなされたものであり、ブレーキ液圧が目標液圧に対してオーバーシュートすることを回避し、運転者の操作フィーリングを損ねることがない車両用ブレーキ液圧制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明の請求項1に記載の発明は、複数のブレーキ系統からなる配管の各前記ブレーキ系統において液圧供給手段に接続された第一の液圧路がリニアソレノイド弁であるカット弁および第二の液圧路を介して当該ブレーキ系統の各車輪ブレーキに接続され、各前記車輪ブレーキのブレーキ液圧をそれぞれの目標液圧に制御する車両用ブレーキ液圧制御装置であって、前記第一の液圧路と前記第二の液圧路との間に設けられた前記カット弁と、前記第一の液圧路における前記カット弁よりも前記車輪ブレーキ側のブレーキ液圧を加圧可能なポンプと、前記第二の液圧路に設けられた制御弁手段と、を前記配管のブレーキ系統ごとに備えるとともに、各前記車輪ブレーキの目標液圧を設定する目標液圧設定部と、前記目標液圧に基づいて、前記カット弁および前記制御弁手段を駆動制御する弁駆動部と、を備え、前記弁駆動部は、前記ブレーキ系統ごとに、各前記車輪ブレーキの目標液圧のうち高い方の目標液圧を前記第一の液圧路の目標液圧として前記カット弁を駆動制御することにより、目標液圧の高い方の前記車輪ブレーキのブレーキ液圧を前記カット弁のみの駆動によって制御し、目標液圧の低い方の前記車輪ブレーキのブレーキ液圧を対応する前記制御弁手段の駆動によって制御し、非通電状態から通電状態とする際の前記制御弁手段の駆動に用いる指示電流が所定値未満である場合には、前記指示電流に代えてブレーキ液圧を保持させる保持電流を用い、前記指示電流が前記所定値以上になった場合には、前記保持電流に代えて前記指示電流を用いて、前記指示電流を目標差圧に応じて変化させるリニア制御を実行することを特徴とする。
【0011】
このような車両用ブレーキ液圧制御装置によれば、目標液圧の低い方の車輪ブレーキに対応する制御弁手段の駆動制御を開始する際に生じ得るブレーキ液圧のオーバーシュートを回避でき、運転者の操作フィーリングを損ねることがない。
【0012】
また、各系統における目標液圧の高い方の車輪ブレーキに対応する制御弁手段を駆動制御しなくて済み、簡易な制御により車輪ブレーキにかかるブレーキ液圧を調整することができる。
【0013】
また、X配管であっても、前後配管であっても同じ制御が可能であり、適用する車両が限定されることがない。
【0014】
なお、指示電流と保持電流も弁駆動部から制御弁手段への電流であり、これらの電流の経路が異なる訳ではない。しかし、指示電流が後述する目標差圧に応じて線形に変化し得るのに対し、保持電流は車輪ブレーキ液圧を保持できる程度の一定電流である。このような性質の違いから、以下において概念的に制御弁手段に与える電流を指示電流と保持電流とに区別して説明する。
【0016】
このような車両用ブレーキ液圧制御装置によれば、指示電流が所定値以上になった場合にはリニア制御に切り換えて、目標液圧に対する液圧追従性を向上させることができる。
【0017】
請求項に記載の発明は、複数のブレーキ系統からなる配管の各前記ブレーキ系統において液圧供給手段に接続された第一の液圧路がリニアソレノイド弁であるカット弁および第二の液圧路を介して当該ブレーキ系統の各車輪ブレーキに接続され、各前記車輪ブレーキのブレーキ液圧をそれぞれの目標液圧に制御する車両用ブレーキ液圧制御装置であって、前記第一の液圧路と前記第二の液圧路との間に設けられた前記カット弁と、前記第一の液圧路における前記カット弁よりも前記車輪ブレーキ側のブレーキ液圧を加圧可能なポンプと、前記第二の液圧路に設けられた制御弁手段と、を前記配管のブレーキ系統ごとに備えるとともに、各前記車輪ブレーキの目標液圧を設定する目標液圧設定部と、前記目標液圧に基づいて、前記カット弁および前記制御弁手段を駆動制御する弁駆動部と、を備え、前記弁駆動部は、前記ブレーキ系統ごとに、各前記車輪ブレーキの目標液圧のうち高い方の目標液圧を前記第一の液圧路の目標液圧として前記カット弁を駆動制御することにより、目標液圧の高い方の前記車輪ブレーキのブレーキ液圧を前記カット弁のみの駆動によって制御し、目標液圧の低い方の前記車輪ブレーキのブレーキ液圧を対応する前記制御弁手段の駆動によって制御し、非通電状態から通電状態とする際の前記制御弁手段の駆動に用いる指示電流が所定値未満である場合には、前記指示電流に代えてブレーキ液圧を保持させる保持電流を用い、前記目標液圧の低い方の前記車輪ブレーキのブレーキ液圧と前記目標液圧との差圧が所定圧以上になった場合には、前記保持電流に代えて前記指示電流を用いて、前記指示電流を目標差圧に応じて変化させるリニア制御を実行することを特徴とする。
【0018】
このような車両用ブレーキ液圧制御装置によれば、差圧が所定圧以上になった場合にはリニア制御に切り換えて、目標液圧に対する液圧追従性を向上させることができる。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置であって、前記所定値は、前記制御弁手段の弁を確実に開閉可能な最小の電流値に設定されていることを特徴とする。
【0020】
このような車両用ブレーキ液圧制御装置によれば、所定値を制御弁手段の弁を確実に開閉可能な最小の電流値に設定している。そのため、実質的にリニア制御が確実に実行できない範囲でのみ保持電流を用いるので、早期に目標液圧に追従させることを可能にする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ブレーキ液圧が目標液圧に対してオーバーシュートすることを回避し、運転者の操作フィーリングを損ねることがない車両用ブレーキ液圧制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置を備えた車両の構成図である。
図2】車両用ブレーキ液圧制御装置のブレーキ液圧回路図である。
図3】制御装置のブロック構成図である。
図4】(A)はリニア制御における目標液圧の変化を例示する図、(B)は指示電流の変化を例示する図である。
図5】入口弁の電流−差圧特性を表す図である。
図6】非制御からリニア制御に移行する場合の車両の動きを例示する図である。
図7】(A)は従来の制御における速度変化を例示する図である。(B)は指示電流の変化を例示する図である。(C)は低い方の車輪ブレーキのブレーキ液圧の変化を例示する図である。(D)は高い方の車輪ブレーキのブレーキ液圧の変化を例示する図である。
図8】(A)は本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置による液圧制御における1つの判定を説明する図である。(B)は電流の変化を示す図である。
図9】(A)は本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置による液圧制御における別の判定を説明する図である。(B)は電流の変化を示す図である。
図10】制御装置による入力弁に与える電流についての処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
1.車両用ブレーキ液圧制御装置の全体構成
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
参照する図において、図1は、本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置100を備えた車両の構成図であり、図2は、車両用ブレーキ液圧制御装置100のブレーキ液圧回路図である。
【0025】
図1に示すように、車両用ブレーキ液圧制御装置100は、車両CRの各車輪Tに付与する制動力(ブレーキ液圧)を適宜制御するためのものであり、油路や各種部品が設けられた液圧ユニット10と、液圧ユニット10内の各種部品を適宜制御するための制御装置20とを主に備えている。また、この車両用ブレーキ液圧制御装置100の制御装置20には、車輪Tの車輪速度を検出する車輪速センサ91、ステアリングSTの操舵角を検出する操舵角センサ92、車両CRの横方向に働く加速度を検出する横加速度センサ93と、車両CRの旋回角速度を検出するヨーレートセンサ94、および車両CRの前後方向の加速度を検出する加速度センサ95が接続されている。各センサ91〜95の検出結果は、制御装置20に出力される。
【0026】
制御装置20は、例えば、CPU、RAM、ROMおよび入出力回路を備えており、車輪速センサ91、操舵角センサ92、横加速度センサ93、ヨーレートセンサ94および加速度センサ95からの入力と、ROMに記憶されたプログラムやデータに基づいて各演算処理を行うことによって、制御を実行する。また、ホイールシリンダHは、マスタシリンダMおよび車両用ブレーキ液圧制御装置100により発生されたブレーキ液圧を各車輪Tに設けられた車輪ブレーキFR,FL,RR,RLの作動力に変換する液圧装置であり、それぞれ配管を介して車両用ブレーキ液圧制御装置100の液圧ユニット10に接続されている。
【0027】
2.液圧ユニットの構成
図2に示すように、車両用ブレーキ液圧制御装置100の液圧ユニット10は、運転者がブレーキペダルBPに加える踏力に応じたブレーキ液圧を発生する液圧供給手段であるマスタシリンダMと、車輪ブレーキFR,FL,RR,RLとの間に配置されている。マスタシリンダMの二つの出力ポートM1,M2は、液圧ユニット10の入口ポート121に接続され、液圧ユニット10の出口ポート122が、各車輪ブレーキFR,FL,RR,RLに接続されている。そして、通常時は液圧ユニット10内の入口ポート121から出口ポート122までが連通した油路となっていることで、ブレーキペダルBPの踏力が各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに伝達されるようになっている。
【0028】
ここで、出力ポートM1から始まる油路は、前輪左側の車輪ブレーキFLと後輪右側の車輪ブレーキRRに通じており、出力ポートM2から始まる油路は、前輪右側の車輪ブレーキFRと後輪左側の車輪ブレーキRLに通じている。なお、以下では、出力ポートM1から始まる油路を「第一系統」と称し、出力ポートM2から始まる油路を「第二系統」と称する。また、別の実施形態として、出力ポートM1から始まる油路は、前輪左側の車輪ブレーキFLと前輪右側の車輪ブレーキFRに通じ、出力ポートM2から始まる油路は、後輪左側の車輪ブレーキRLと後輪右側の車輪ブレーキRRに通じる構成であってもよい。
【0029】
液圧ユニット10には、その第一系統に各車輪ブレーキFL,RRに対応して二つの制御弁手段Vが設けられており、同様に、その第二系統に各車輪ブレーキRL,FRに対応して二つの制御弁手段Vが設けられている。また、この液圧ユニット10には、第一系統および第二系統のそれぞれに、リザーバ3、ポンプ4、ダンパ5、オリフィス5a、レギュレータR、吸入弁7が設けられており、さらに、第一系統のポンプ4と第二系統のポンプ4とを駆動するための共通のモータ(直流モータ)9が設けられている。
【0030】
このモータ9は、回転数制御可能なモータであり、本実施形態では、デューティ制御により回転数制御が行われる。また、本実施形態では、第二系統にのみ圧力センサ8が設けられているが、第一系統にのみ設けられていてもよいし、それぞれの系統に設けられていてもよい。
【0031】
なお、以下では、マスタシリンダMの出力ポートM1,M2から各レギュレータRに至る油路を「出力液圧路A1」と称し、第一系統のレギュレータRから車輪ブレーキFL,RRに至る油路および第二系統のレギュレータRから車輪ブレーキRL,FRに至る油路をそれぞれ「車輪液圧路B」と称する。各レギュレータRはカット弁6を含み、カット弁6は出力液圧路A1と車輪液圧路Bとの間に設けられている。また、出力液圧路A1からポンプ4に至る油路を「吸入液圧路C」と称し、ポンプ4から車輪液圧路Bに至る油路を「吐出液圧路D」と称し、さらに、車輪液圧路Bから吸入液圧路Cに至る油路を「開放路E」と称する。
【0032】
ここで、「出力液圧路A1」が特許請求の範囲における「第一の液圧路」に相当し、「車輪液圧路B」が特許請求の範囲における「第二の液圧路」に相当する。
【0033】
制御弁手段Vは、車輪液圧路Bを開放しつつ開放路Eを遮断する増圧状態、車輪液圧路Bを遮断しつつ開放路Eを開放する減圧状態および車輪液圧路Bを遮断しつつ開放路Eを遮断する保持状態を切り換える機能を有しており、入口弁1、出口弁2、チェック弁1aを備えて構成されている。
【0034】
入口弁1は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRとマスタシリンダMとの間、すなわち車輪液圧路Bに設けられた常開型比例電磁弁(リニアソレノイド弁)である。ここで、入口弁1も後述するカット弁6と同様にリニアソレノイド弁であるが、本発明のリニアソレノイド弁とはカット弁6を指すものとする。そこで、以下ではカット弁6についてのみリニアソレノイド弁との名称を用いるものとする。入口弁1は、通常時に開いていることで、マスタシリンダMから各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRへブレーキ液圧が伝達するのを許容している。また、入口弁1は、車輪Tがロックしそうになったときに制御装置20により閉塞されることで、ブレーキペダルBPから各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに伝達するブレーキ液圧を遮断できる。
【0035】
出口弁2は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRと各リザーバ3との間、すなわち車輪液圧路Bと開放路Eとの間に介設された常閉型の電磁弁である。出口弁2は、通常時に閉塞されているが、車輪Tがロックしそうになったときに制御装置20により開放されることで、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに作用するブレーキ液圧を各リザーバ3に逃がすことができる。
【0036】
チェック弁1aは、各入口弁1に並列に接続されている。このチェック弁1aは、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダM側へのブレーキ液の流入のみを許容する弁であり、ブレーキペダルBPからの入力が解除された場合に、入口弁1を閉じた状態にしたときにおいても、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダM側へのブレーキ液の流入を許容する。
【0037】
リザーバ3は、開放路Eに設けられており、各出口弁2が開放されることによって逃がされるブレーキ液圧を吸収する機能を有している。また、リザーバ3とポンプ4との間には、リザーバ3側からポンプ4側へのブレーキ液の流入のみを許容するチェック弁3aが介設されている。
【0038】
ポンプ4は、出力液圧路A1に通じる吸入液圧路Cと車輪液圧路Bに通じる吐出液圧路Dとの間に介設されており、リザーバ3で貯留されているブレーキ液を吸入して吐出液圧路Dに吐出する機能を有している。これにより、リザーバ3によるブレーキ液圧の吸収によって減圧された出力液圧路A1や車輪液圧路Bの圧力状態が回復される。さらに、このポンプ4は、カット弁6が出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流入を遮断し、且つ、吸入弁7が吸入液圧路Cを開放しているときに、マスタシリンダM、出力液圧路A1、吸入液圧路Cに貯留されているブレーキ液を吸入して吐出液圧路Dに吐出する機能を有している。これにより、非ペダル操作時において各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRにブレーキ液圧を作用させることが可能となる。すなわち、ポンプ4は、出力液圧路A1におけるカット弁6よりも車輪ブレーキFL,RR(RL,FR)側のブレーキ液圧を加圧することができる。なお、ポンプ4によるブレーキ液の吐出量は、モータ9の回転数(デューティ比)に依存している。すなわち、モータ9の回転数(デューティ比)が大きくなると、ポンプ4によるブレーキ液の吐出量も大きくなる。
【0039】
なお、ダンパ5およびオリフィス5aは、その協働作用によってポンプ4から吐出され
たブレーキ液の圧力の脈動およびレギュレータRが作動することにより発生する脈動を減衰させている。
【0040】
レギュレータRは、出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流入を許容する状態および遮断する状態を切り換える機能と、出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流入が遮断されているときに車輪液圧路Bおよび吐出液圧路Dのブレーキ液圧を設定値以下に調節する機能とを有しており、カット弁6およびチェック弁6aを備えて構成されている。
【0041】
カット弁6は、マスタシリンダMに通じる出力液圧路A1と各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに通じる車輪液圧路Bとの間に介設された常開型比例電磁弁(本発明のリニアソレノイド弁)であり、出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流入を許容する状態および遮断する状態を切り換えるものである。すなわち、カット弁6は、ソレノイドへの通電を制御することによって開弁圧を調節可能なリニアソレノイド弁である。カット弁6は、通常時に開いていることで、マスタシリンダMから各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRへブレーキ液圧が伝達するのを許容している。また、カット弁6は、非ペダル操作時であってポンプ4を作動させるとき、言い換えれば、非ペダル操作時において各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRにブレーキ液圧を作用させるときに制御装置20の制御により閉塞され、車輪液圧路BからレギュレータRにかかる液圧と、ソレノイドへの通電によって制御される弁を閉じようとする力とのバランスによって、車輪液圧路Bの液圧を適宜出力液圧路A1へ開放して調節することができる。
【0042】
チェック弁6aは、各カット弁6に並列に接続されている。このチェック弁6aは、出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流れを許容する一方向弁である。
【0043】
吸入弁7は、吸入液圧路Cに設けられた常閉型の電磁弁であり、吸入液圧路Cを開放する状態および遮断する状態を切り換えるものである。吸入弁7は、カット弁6が出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流入を遮断する状態にあるとき、例えば、非ペダル操作時において各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRにブレーキ液圧を作用させるときに制御装置20の制御により開放(開弁)される。なお、この吸入弁7はポンプ4の駆動に応じて受動的に開弁する機械式の弁であってもよい。
【0044】
圧力センサ8は、車輪液圧路Bのブレーキ液圧(以下、上流液圧ともいう)の算出にも用いられる出力液圧路A1のブレーキ液圧を検出するものであり、その検出結果は制御装置20に随時取り込まれる。制御装置20は、例えば出力液圧路A1のブレーキ液圧とカット弁6等の駆動状態に基づいて求められた上流液圧と目標液圧との差圧に基づいて入口弁1の開閉を制御する。
【0045】
ここで、出力液圧路A1のブレーキ液圧は、制御装置20に取り込まれて、マスタシリンダMからブレーキ液圧が出力されているか否か、すなわち、ブレーキペダルBPが踏まれているか否かについても判定される。制御装置20は、その大きさに基づいて車両CRを制御する。また、別の実施形態として、圧力センサ8が上流液圧を直接に検出できるように車輪液圧路Bに設けられていてもよい。なお、以下では圧力センサ8によって検出された出力液圧路A1のブレーキ液圧とカット弁6等の駆動状態に基づいて求められた上流液圧を、単に圧力センサ8によって検出された上流液圧と表現する。
【0046】
3.制御装置の構成
図3は、制御装置20のブロック構成図である。図3に示すように、制御装置20は、各センサ91〜95から入力された信号に基づき、液圧ユニット10内の制御弁手段V、カット弁6および吸入弁7の開閉動作ならびにモータ9の動作を制御して、各車輪ブレー
キFL,RR,RL,FRの動作を制御するものである。制御装置20は、機能部として目標液圧設定部21、ブレーキ液圧計算部22、弁駆動部23およびモータ駆動部24を備えている。
【0047】
目標液圧設定部21は、各センサ91〜95から入力された信号に基づき、制御ロジックを選択し、当該制御ロジックに応じて各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRの目標液圧PPFL,PPRR,PPRL,PPFRを設定する。この設定の方法は、従来公知の方法により行えばよく、特に限定されない。一例を挙げれば、4つの車輪Tの車輪速度から車体速度を計算する。そして、車輪速度と車体速度からスリップ率を計算する。さらに、横加速度と車両CRの前後方向への加速度に基づき、合成加速度を演算し、この合成加速度から路面の摩擦係数を推定する。そして、この摩擦係数、スリップ率および現在のホイールシリンダHのブレーキ液圧PFL,PRR,PRL,PFRに基づき各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRの目標液圧PPFL,PPRR,PPRL,PPFRを設定することができる。
【0048】
また、目標液圧設定部21は、目標液圧PPFL,PPRR,PPRL,PPFRのうち、同系統のもの同士を比較し、これらのうち、最も高い目標液圧をその系統におけるカット弁6の目標液圧PPREGとして設定する。目標液圧PPREGは、カット弁6によって調圧される、カット弁6よりも車輪ブレーキ側における出力液圧路A1の目標液圧である。
【0049】
設定された各目標液圧PPFL,PPRR,PPRL,PPFR,PPREGは、適宜弁駆動部23およびモータ駆動部24に出力される。
【0050】
ブレーキ液圧計算部22は、検出された出力液圧路A1のブレーキ液圧と弁駆動部23による入口弁1、出口弁2、カット弁6の駆動量に基づき、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRのブレーキ液圧PFL,PRR,PRL,PFRを計算する。また、ブレーキ液圧計算部22は、圧力センサ8によって検出された上流液圧を受け取る。
【0051】
計算されたブレーキ液圧は、弁駆動部23およびモータ駆動部24に出力される。また、ブレーキ液圧計算部22は上流液圧も弁駆動部23に出力する。
【0052】
弁駆動部23は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRのホイールシリンダHのブレーキ液圧が目標液圧設定部21の設定した目標液圧に一致するように、従来公知の方法により液圧ユニット10内の各入口弁1、出口弁2、カット弁6および吸入弁7を作動させるパルス信号を液圧ユニット10へ出力する。このパルス信号は、例えば、現在のホイールシリンダHのブレーキ液圧PFL,PRR,PRL,PFRと目標液圧PPFL,PPRR,PPRL,PPFRとの差が大きいほど多くのパルスを出力するようにする。
【0053】
弁駆動部23は、各目標液圧PPFL,PPRR,PPRL,PPFR,PPREG、カット弁液圧PREGおよび各ブレーキ液圧PFL,PRR,PRL,PFR、上流液圧に基づき各制御弁手段V、カット弁6および吸入弁7の駆動を決定し、駆動するものであり、制御弁手段Vを駆動する制御弁手段駆動部23aと、カット弁6を駆動するカット弁駆動部23bと、吸入弁7を駆動する吸入弁駆動部23cと、を備えている。
【0054】
モータ駆動部24は、各目標液圧PPFL,PPRR,PPRL,PPFR,PPREG、カット弁液圧PREGおよび各ブレーキ液圧PFL,PRR,PRL,PFRに基づきモータ9の回転数を決定し、駆動するものである。すなわち、モータ駆動部24は、回転数制御によりモータ9を駆動するものであり、本実施形態では、デューティ制御により回転数制御を行う。
【0055】
ここで、本実施形態でも例えば特許文献2の発明と同様の手法により、配管の1つの系統で1つの前輪車輪ブレーキと1つの後輪車輪ブレーキとを制御する。例えば、車輪ブレーキFR,RLを有する第二系統に着目する。制御装置20は、右前輪車輪ブレーキFRの目標液圧PPFRと左後輪車輪ブレーキRLの目標液圧PPRLとを比較する。そして、目標液圧PPFRが目標液圧PPRLよりも大きい場合には、目標液圧PPFRをカット弁6の目標液圧PPREGに設定し、カット弁6を駆動制御する。そして、右前輪車輪ブレーキFR側の制御弁手段Vの駆動を停止し、左後輪車輪ブレーキRL側の制御弁手段Vを駆動制御する。
【0056】
また、目標液圧PPFRが目標液圧PPRL以下である場合には、目標液圧PPRLをカット弁6の目標液圧PPREGに設定し、カット弁6を駆動制御する。そして、左後輪車輪ブレーキRL側の制御弁手段Vの駆動を停止し、右前輪車輪ブレーキFR側の制御弁手段Vを駆動制御する。
【0057】
そして、制御装置20は、制御弁手段Vを差圧PDに基づいて駆動制御する。例えば、目標液圧PPFRが目標液圧PPRL以下であり、目標液圧PPRLをカット弁6の目標液圧PPREGに設定したとする。このとき、制御装置20は、車輪ブレーキFRの目標液圧PPFRとブレーキ液圧PFRとの差圧PDを計算する。そして、車輪ブレーキFR側の制御弁手段Vを駆動し、増圧、減圧、保持を切り換えることで、車輪ブレーキFRのブレーキ液圧PFRを、目標液圧PPFRに近づける。
【0058】
4.リニア制御について
ここで、本実施形態の制御装置20は、入口弁1への指示電流を目標差圧に応じて線形に変化させるリニア制御を実行する。図4(A)はリニア制御における目標液圧の変化を例示する図であり、図4(B)はその場合の指示電流の変化を例示する図である。
【0059】
図4(A)および図4(B)のように、制御弁手段Vを減圧状態にする場合には、入口弁1を完全に閉じるために大きな電流を流す。このとき、出口弁2が開き、徐々に目標液圧も低下する(図4(A)の時刻tx〜ty)。図4(B)は入口弁1への指示電流を示しており、減圧状態では電流が変化していないが(図4(B)の時刻tx〜ty)、出口弁2でリニア制御が実行される。また、制御弁手段Vを増圧状態にする場合には、制御装置20は、目標液圧と上流液圧との差圧である目標差圧に基づいて指示電流を制御する(図4(A)および図4(B)の時刻ty以降)。より具体的には、制御装置20の制御弁手段駆動部23aは、圧力センサ8によって検出された上流液圧をブレーキ液圧計算部22経由で取得し、目標液圧設定部21からの目標液圧との差圧(目標差圧)から入口弁1への指示電流を求める。
【0060】
入口弁1は常開型であるので、目標差圧が大きいほど指示電流を大きくする、すなわち弁が閉じる方向に制御する必要がある。図4(B)のように、目標差圧が小さくなると、指示電流も小さくなっている。
【0061】
ここで、入口弁1はリニア制御が可能であり、リニア制御ができないソレノイド弁に比べて目標液圧への液圧追従性を向上させることができる。しかし、ソレノイド弁をリニア制御する場合、理論上の電流−差圧特性よりも狭い範囲でしか確実に動作させることができない可能性がある。
【0062】
図5は入口弁1の電流−差圧特性を表す図である。この電流−差圧特性によると、理論的には指示電流がIv1以上であれば入口弁1を制御可能である。しかし、実際にはソレノイド弁の仕様などで決まる不安定領域があり、指示電流が所定値以上でなければ確実に
動作させることができない。指示電流が所定値未満となるのはわずかな時間であるが、運転者の操作フィーリングに影響を与える可能性がある。ここで確実に動作させることができないとは、弁の開閉が不安定であり、電流−差圧特性に従った所望の差圧を得ることができないことをいう。また、動作とは弁の開閉動作である。
【0063】
図5のIv0は、非通電状態である入口弁1を確実に動作させるために必要な指示電流の最小値である。例えば、指示電流がIv0未満の場合には、指示電流を与えたにもかかわらず非通電状態である入口弁1の弁を閉じることができずに開いたままである可能性がある。なお、このような入口弁の確実な動作に必要な最小の指示電流を以下ではオン電流とよぶ。入口弁1を非通電状態から指示電流により確実に動作させるのに必要なオン電流はIv0である。前記の通り、制御装置20は、目標差圧に応じて入口弁1に指示電流を与えるが、図5によると目標差圧がDP未満の場合に入口弁1を確実に動作させることができないことになる。なお、Iv0は本発明の所定値に対応する。
【0064】
ここで、通電状態である入口弁1は、オン電流をIv0よりも小さくすることができることが知られている。図5のように、通電状態である入口弁1のオン電流はIv1である。しかし、一般に、リニア制御を開始する場合には入口弁1は非通電状態である。そのため、入口弁1のこのような特性によって、次のような課題が生じることになる。
【0065】
5.従来の制御
図6は、非制御からリニア制御に移行する場合の車両CRの動きを例示する図である。なお、図1図5と同じ要素には同じ符号を付しており説明を省略する。通常走行をしていた車両CRが急カーブを曲がる際にアンダーステアとなり、外側に向いた軌跡PUを描きそうになったとする。このとき、制御装置20は、制御弁手段Vの入口弁1について増圧状態、減圧状態、保持状態を切り換えて車両CRが適切な軌跡PRを描くように制御する。
【0066】
このとき、例えば車輪ブレーキFR,RLを有する第二系統に着目すると、同じようにブレーキをかけるのではなく、車輪ブレーキRLはブレーキ圧を高めて遠心力を抑えつつ、車輪ブレーキFRはブレーキ圧を抑えてカーブ内側への旋回力を維持するような制御が必要になる。これは目標液圧PPFRが目標液圧PPRL以下である場合の制御に対応する。このとき、制御装置20は、目標液圧PPRLをカット弁6の目標液圧PPREGに設定し、車輪ブレーキFR側の制御弁手段Vを駆動して、増圧、減圧、保持を切り換えることで、車輪ブレーキFRのブレーキ液圧PFRを、目標液圧PPFRに近づける制御を開始する。
【0067】
図7(A)〜図7(D)は、図6のような車両CRの状況において、従来の制御(特許文献2参照)を用いて車輪ブレーキFR,RLを有する第二系統を制御する場合の制御状態、指示電流、液圧の変化を示す図である。
【0068】
図7(A)は制御状態を例示する図である。時刻t0までは、車両CRはアンダーステアとなることもなく通常の走行をしている。このとき、制御装置20は目標液圧PPFR,PPRLを設定してブレーキ液圧を調整する必要はないため、非制御状態(制御装置20が液圧ユニット10に目標液圧の設定をする等の制御をしていない状態)にある。
【0069】
しかし、時刻t0以降、制御装置20はアンダーステアを解消するためにリニア制御を実行する。すなわち、車輪ブレーキRLはブレーキ圧を高めて、車輪ブレーキFRはブレーキ圧を抑えることで、車両CRの遠心力を抑えつつ、車両CRにカーブ内側への旋回力を生じさせる。このとき、カット弁6は車輪ブレーキRLと車輪ブレーキFRのブレーキ圧の高い方を制御し、入口弁1は低い方を制御している。
【0070】
図7(B)は、このときの入口弁1への指示電流の変化を示している。このとき、指示電流は車輪ブレーキFR側の制御弁手段Vの入口弁1へと与えられる。時刻t0までは非制御状態であり、目標差圧は設定されないため指示電流も生じない。しかし、時刻t0以降、制御装置20は目標差圧(目標液圧と上流液圧との差圧)に基づいて指示電流を生成する。
【0071】
ここで、非制御状態では指示電流が生じておらず、時刻t0まで入口弁1は非通電状態である。すると、オン電流をIv0とする不安定領域(図5参照)が存在するため、指示電流がIv0未満の間は入口弁1に確実な動作をさせることはできない。このとき、入口弁1は常開型であるため、時刻t0から時刻t1までの車輪ブレーキFRの液圧について、上流液圧との所望の差圧を設けることができない。
【0072】
図7(C)、図7(D)はそれぞれ、車輪ブレーキFR側、車輪ブレーキRL側の目標液圧、キャリパ圧を示している。なお、目標液圧を点線で、キャリパ圧を実線で描いている。なお、キャリパ圧とは車輪ブレーキFR,RLにおけるブレーキ液圧である。
【0073】
ここで、図7(D)のように、車輪ブレーキRL側の目標液圧PPRLは、カット弁6によって調圧される目標液圧PPREGとして設定されている。そのため、車輪ブレーキRL側のキャリパ圧は正確に目標液圧PPRLに追従している。
【0074】
一方、図7(C)に示される車輪ブレーキFR側のキャリパ圧は、入口弁1の開閉を指示電流で制御して目標液圧PPFRに追従させる必要がある。しかし、前記のように、時刻t0から時刻t1までは、入口弁1を確実に動作させること、つまり電流−差圧特性に従った所望の差圧を得ることができない。そのため、図7(C)のように車輪ブレーキFR側のキャリパ圧は、上流液圧の影響を受けて時刻t1付近においてオーバーシュートOVSを生じている。
【0075】
つまり、従来の制御においては、入口弁1が不安定領域を有することから、リニア制御を開始した直後に目標液圧PPFRに追従しない可能性があり、車両CRの運転者の操作フィーリングを損ねる可能性がある。
【0076】
なお、図7(B)によると、時刻t2でも指示電流がIv0未満になっているが、入口弁1は指示電流で制御可能であり、対応する図7(C)ではオーバーシュートOVSも生じていない。時刻t2では、その前の入口弁1は通電状態であり、オン電流はIv0よりも小さいIv1になる。図7(B)によると、時刻t2の指示電流はIv1以上であるため、入口弁1を指示電流で正確に動作させることが可能である。
【0077】
6.本発明の実施形態の制御
以下に、従来の制御において生じていたオーバーシュートOVSとそれに伴う運転者の操作フィーリングの低下とを回避する本発明の実施形態の制御について図8(A)〜図10を参照しながら説明する。なお、図8(A)〜図10において、図1図7(D)と同じ要素には同じ符号を付しており説明を省略する。
【0078】
図8(A)は、本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置100の制御装置20による液圧制御を説明する図であり、目標液圧と上流液圧との差圧の関係を表す。そして、図8(B)はこのとき制御装置20が入口弁1に与える電流(指示電流および後述する保持電流)の変化を示す図である。
【0079】
図8(A)のように、制御装置20は、時刻t0で非制御状態から制御が必要な状態に
なるとする。従来の制御では、非制御状態が終了してからしばらくの間、指示電流はオン電流(図8(B)のIv0)未満であるためオーバーシュートOVS(図7(C)参照)が生じていた。本発明の実施形態では、図8(B)のように、制御が必要な状態になる時刻t0から、指示電流に代えて保持電流を入口弁1に与える。保持電流は、オン電流であるIv0以上であって、入口弁1を完全に閉じるのに必要な電流値Iに設定されている。例えば電流値Iは、図4(B)において減圧状態にする場合に用いられる電流値と同じでもよい。このとき、入口弁1が閉じているため上流液圧の影響を受けることはなく、図8(A)のようにキャリパ圧は非制御状態と同じ液圧を保持している。従って、オーバーシュートOVSが生じることはない。
【0080】
しかし、入口弁1が閉じた状態のままでは、キャリパ圧が増圧されずに目標液圧との乖離が大きくなる。ここで、前記のように上流液圧と目標液圧との差圧である目標差圧によって指示電流が決定されるが、目標差圧がDP以上であれば指示電流がIv0以上となる(図5参照)。そこで、制御装置20は目標差圧がDPとなる時刻ta以降では、保持電流に代えて指示電流を用いて、指示電流を目標差圧に応じて線形に変化させるリニア制御を実行する。そのため、時刻ta以降ではキャリパ圧を目標液圧に追従させることができる。
【0081】
このとき、時刻t0〜時刻ta間は、キャリパ圧が目標液圧に追従せずに保持されている。そのため、時刻t0〜時刻ta間はできるだけ短い方が好ましい。
【0082】
制御装置20は、図8(A)および図8(B)を参照して説明した制御、すなわち非制御状態のキャリパ圧をしばらく保持する制御によって、オーバーシュートOVSの発生を回避することができる。しかし、時刻t0以降、上流液圧と目標液圧とが同じような傾きで上昇した場合には、目標差圧がDP未満である状態が長時間継続する可能性がある。このとき、キャリパ圧が目標液圧に追従しない状態が続くため好ましくない。
【0083】
ここで、時刻taは、非通電状態だった入口弁1のオン電流であるIv0図5参照)に対応する目標差圧DPによって決定されている。しかし、入口弁1には時刻t0で保持電流が与えられており、入口弁1は通電状態になっている。したがって、時刻t0からしばらく経過した入口弁1のオン電流は、Iv0よりも小さいIv1になる(図5参照)。つまり、目標差圧がDP未満であっても、Iv1に対応する目標差圧が時刻tbで得られれば、時刻tbを時刻taに代えてリニア制御の開始時刻としてよい。
【0084】
図9(A)は、本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置100の制御装置20による液圧制御を説明する図であり、目標液圧とキャリパ圧との差圧の関係を表す。そして、図9(B)はこのとき制御装置20が入口弁1に与える電流(指示電流および保持電流)の変化を示す図である。
【0085】
このとき、制御装置20は目標液圧とキャリパ圧との差圧がDPになることで、通電状態であった入口弁1のオン電流であるIv1に対応する目標差圧が得られたと判断して、その時刻tbをリニア制御の開始時刻とする。このときの目標差圧はDP未満であり、時刻tbは時刻taよりも早い。そのため、制御装置20は、目標差圧がDP以上であるかを判断するだけでなく、目標液圧とキャリパ圧との差圧がDPになっているかを判断することで、キャリパ圧が目標液圧に追従せずに保持されている期間をできるだけ短くすることができる。なお、本実施形態ではキャリパ圧は実測されるものではなく、制御装置20が上流圧であるマスタシリンダ圧と入口弁1、出口弁2、カット弁6等の駆動状態に基づいて推定する。また、DPについては、制御装置20が入口弁1の電流−差圧特性に基づいて計算で求めてもよい。ここで、DPは本発明の所定圧に対応する。
【0086】
図10は、制御装置20による入口弁1に与える電流についての処理を示すフローチャートである。図10に示すように、制御装置20は、上流液圧と目標液圧から目標差圧を算出する(S10)。そして、目標差圧から指示電流を算出する(S20)。
【0087】
次に、制御装置20は、非制御状態であったかを、つまり入口弁1が非道通状態であったかを判断する(S30)。非制御状態からの移行であれば(S30Y)、指示電流がIv0未満かが判断される(S40)。ステップS40は、換言すると目標差圧がDP未満であるかを判断しており、図8(A)〜図8(B)を参照して説明した時刻ta以降でないことを判断するものである。
【0088】
指示電流がIv0未満であれば(S40Y)、保持フラグをオンにして次のステップS60に進む(S50)。前記の通り、非制御状態からの移行時には指示電流は小さくIv0未満であるため保持フラグがオンになる。なお、非制御状態からの移行でない場合(S30N)、指示電流がIv0以上の場合には(S40N)、保持フラグをオンにすることなく次のステップS60に進む。なお、保持フラグはデフォルトでオフである。
【0089】
次に制御装置20は、保持フラグがオンであるかを判断する(S60)。保持フラグがオフである場合には(S60N)、制御装置20は算出された指示電流(S20参照)をそのまま用いればよく、図10に示す処理を終了する。
【0090】
保持フラグがオンである場合には(S60Y)、制御装置20は目標液圧とキャリパ圧との差圧がDP未満であるかを判断する(S70)。ステップS70は、図9(A)〜図9(B)を参照して説明した、キャリパ圧が目標液圧に追従しない状態を早期に解消するために行う判断である。制御装置20は目標液圧とキャリパ圧との差圧がDP以上ならば(S70N)、保持フラグをオフにする(S90)。すなわち、制御装置20は算出された指示電流(S20参照)をそのまま用いればよく、図10に示す処理を終了する。
【0091】
一方、制御装置20は目標液圧とキャリパ圧との差圧がDP未満である場合には(S70Y)、指示電流に代えて保持電流を用いる(S80)。指示電流に代えて保持電流が入口弁1に与えられることで、入口弁1は完全に閉じるため、上流液圧の影響を受けることはなく、オーバーシュートOVSの発生を回避できる。
【0092】
制御装置20は、図10に示す処理を繰り返し(例えば定期的に)実行することで、以下の効果を得ることができる。
【0093】
本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置100によれば、目標液圧の低い方の車輪ブレーキに対応する制御弁手段Vの駆動制御を開始する際に生じ得るブレーキ液圧のオーバーシュートOVSを回避でき、運転者の操作フィーリングを損ねることがない。
【0094】
また、各系統における目標液圧の高い方の車輪ブレーキに対応する制御弁手段Vを駆動制御しなくて済み、簡易な制御により車輪ブレーキにかかるブレーキ液圧を調整することができる。
【0095】
また、X配管であっても、前後配管であっても同じ制御が可能であり、適用する車両が限定されることがない。
【0096】
また、指示電流が所定値以上になった場合にはリニア制御に切り換えて、目標液圧に対する液圧追従性を向上させることができる。
【0097】
また、差圧が所定圧以上になった場合にはリニア制御に切り換えて、目標液圧に対する液圧追従性を向上させることができる。
【0098】
また、所定値を制御弁手段の弁を確実に開閉可能な最小の電流値に設定することで、早期に目標液圧に追従させることを可能にする。
【0099】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更可能である。
【符号の説明】
【0100】
4 ポンプ
6 カット弁(リニアソレノイド弁)
21 目標液圧設定部
23 弁駆動部
100 車両用ブレーキ液圧制御装置
FL,FR,RL,RR 車輪ブレーキ
M マスタシリンダ(液圧供給手段)
V 制御弁手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10