(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232207
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】面形状測定装置
(51)【国際特許分類】
G01B 11/24 20060101AFI20171106BHJP
G01B 9/02 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
G01B11/24 D
G01B9/02
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-100805(P2013-100805)
(22)【出願日】2013年5月12日
(65)【公開番号】特開2014-219372(P2014-219372A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2016年4月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】594066637
【氏名又は名称】夏目光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094547
【弁理士】
【氏名又は名称】岩根 正敏
(72)【発明者】
【氏名】伴 箕吉
(72)【発明者】
【氏名】今村 洋一
(72)【発明者】
【氏名】岡島 孝夫
【審査官】
梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−256320(JP,A)
【文献】
特開2004−286561(JP,A)
【文献】
特開2013−040858(JP,A)
【文献】
特開平05−040024(JP,A)
【文献】
特開平08−240417(JP,A)
【文献】
特開平05−231839(JP,A)
【文献】
特開2003−057016(JP,A)
【文献】
特開平02−259509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00 − 11/30
G01B 5/00 − 5/30
G01B 9/00 − 9/10
G01B 21/00 − 21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物を固定する被測定物固定手段と、被測定物に対して可動な干渉式表面形状測定手段とを備える面形状測定装置において、直交するX軸とY軸を規定する基準面を持つ架台を備え、上記被測定物固定手段が、上記架台に対してX軸方向に移動可能なX方向移動部と、上記X方向移動部に固定された第1の回転軸のまわりで回転可能な第1の回転部と、上記第1の回転部に固定された第2の回転軸のまわりで回転可能な第2の回転部と、一端が上記第2の回転部に第1の球面軸受を介して結合され被測定物を固定する第2の被測定物固定部を備えることと、上記干渉式表面形状測定手段が、上記架台に対してY軸方向に移動可能なY方向移動部を備えることと、X軸とY軸に垂直なZ軸方向に移動可能なZ方向移動部を備えることと、上記第1の回転部の回転軸が上記Y軸に略平行であることと、上記第2の回転部の回転軸が上記第1の回転部の回転軸に略垂直であることと、上記第1の回転部が略90度回転可能であり、その回転により上記第2の回転部の軸の方向が上記Z軸方向に略平行な方向からX軸に略平行な方向まで変えられることと、上記X方向移動部にY軸方向に移動可能な第2のY方向移動部を備え、上記第2のY方向移動部が第2の球面軸受を介して上記第2の被測定物固定部の他端に結合され、上記第2の回転部の軸の方向が上記X軸に略平行であるとき、上記第2の被測定物固定部の軸の方向を上記Y軸に略平行な方向のまわりで微調整することと、上記第2の被測定物固定部の軸の方向を上記Z軸に略平行な方向のまわりで微調整することが可能であることを特徴とする、面形状測定装置。
【請求項2】
上記干渉式表面形状測定手段が、ハルトマン・シャック装置であることを特徴とする、請求項1に記載の面形状測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面を有する物体の表面形状を測定し、基準形状と比較したり、その物体の形状を測定する面形状測定装置に関する。ここで、面を有する物体とは、例えば、カメラ用レンズ、半導体露光装置の光学系レンズ、内視鏡光学系、コンパクトディスクの光学系、X線照射光学系、あるいはベアリングのボール等である。物体の形状には、球面、楕円面、円筒面、平面等がある。
【背景技術】
【0002】
さまざまな面形状を正確に測定する方法として、古くから干渉計が使われている。特に、フィゾー干渉計は、コンパクトで、安定性があり、広く実用に供されており、基準となる形状を有する透過原器により、平面、球面、円筒面そして非球面が測定可能である。
【0003】
最初に、フィゾー干渉計による面形状測定装置の測定原理について説明する。
図5は、球面測定の場合の光学レイアウトを示す。フィゾー干渉計ヘッド101の内部には、可干渉性をもつ光源であるレーザ102を配置している。レーザ102から出る光ビームを発散させる発散レンズ103を介し発散光をつくり、その光をビームスプリッター104で反射させ、コリメータレンズ105で平行な光にする。その平行な光を透過球面原器106に入射させる。その透過球面原器106は集光点107に集光する。透過球面原器106の最終面(出射面)はその集光点107を曲率中心とする凹面(原器面108)に形成してある。光はその凹面で一部反射し戻る。この反射光が基準の参照光となる。原器面108を透過した光は、集光点107に向かう。被測定レンズ109の球面の曲率中心が集光点107と一致していると、集光点107を通過した光はその球面に垂直に光を入射する。従って、そこで反射した光は元の経路を辿って戻る。これを物体光と称する。物体光は参照光と干渉する。その干渉した光は透過球面原器106とコリメータレンズ105を透過し、ビームスプリッター104を透過し、ミラー110と結像レンズ111を介し、撮像素子112にその干渉した光を結像させる。
【0004】
原器面108の中心と被測定レンズ109の球面の中心が一致している時、被測定レンズ109の球面が原器面108の球面と完全と同一であれば、参照光と物体光の干渉による干渉縞は一様となり、一致していないときにはその不一致度に対応して干渉縞の本数や形が変化するので、干渉縞を測定し、それを電気的に処理することにより、被測定レンズ109の球面の面形状の測定ができる。さらに詳しくは、非特許文献1(Optical Shop Testing ,p 25,3rd Edition, D.Malacara,2007, John Wiley & Sons, INC)に説明されている。
【0005】
このように、この測定では、原器面108の中心と被測定レンズ109の球面の中心を一致させることが前提となる。これ故、被測定レンズ109の交換ごとに干渉ヘッド101と被測定レンズ109の相対位置を調整し、原器面108の中心と集光点107と一致させる必要がある。
【0006】
前述の干渉ヘッド101と被測定レンズ109の相対位置を調整するために、一般的には被測定レンズ109を、直交座標であるX,Y,Z軸に平行に移動する。これは透過球面原器106の焦点と被測定レンズ109の曲率中心点を合致させるためには、単に平行移動で可能であるからである。ただ
図5のZ方向(フォーカス方向)を除き、X,Y移動の代わりに、X軸まわりやY軸まわりの回転またはあおり機構でも調整可能である。
【0007】
次に、円筒面(円柱を含む)や平面の測定について説明する。
図6は、円筒面測定の場合の光学レイアウトを示し、(a)は正面図、(b)は側面図である。図において
図5のフィゾー干渉計ヘッド101の中の透過球面原器106に替えて、透過円筒原器(もしくは透過平面原器)113を配置し、被測定レンズ109の円筒面や平面に光を垂直に入射させる。円筒の場合、集光する位置は点でなく線となる。その線を以下、集光線と呼ぶ。
【0008】
透過円筒原器113による光の集光線114と、円筒面の曲率中心線が一致している時、被測定レンズ109の円筒面に垂直に光を入射させることができ、その面での反射により、光は元の経路を辿って戻る(物体光)。被測定レンズ109の円筒面と原器面115の円筒面が同一であれば、参照光と物体光の干渉による干渉縞が一様となり、被測定レンズ109の円筒面が原器面115の円筒面と一致していないときには、その不一致度に対応して干渉縞の本数や形が変化する。球面の場合と同様に、干渉縞を測定し、それを電気的に処理することにより、被測定レンズ109の円筒面の面形状の測定ができる。
【0009】
このように、この測定では、原器面115の集光線114と被測定レンズ109の円筒面の中心線を一致させることが前提となる。これ故、被測定レンズ109の交換ごとに干渉ヘッド101と被測定レンズ109の相対位置および方向を調整し、原器面115の中心と集光線114と一致させる必要がある。このために、フィゾー干渉ヘッド101に対して被測定レンズ109を、直交3軸である、X軸,Y軸,Z軸方向に移動可能とし、かつ、原器面115の集光線114と被測定レンズ109の円筒面の中心線の方向を一致させるために、フィゾー干渉計ヘッド101と被測定レンズ109を相対的に回転可能とする構成が従来から採用されている。
なお、平面測定の場合は、単にあおりまたは回転機構のみで、参照光と物体光を干渉させることができる。
【0010】
ここで、
図5の球面の測定の場合、1回の測定で球面形状を測定できる範囲は、透過球面原器106の発散角度範囲内の球面である。発散角度の半分をα、被測定レンズ109の球面の曲率半径をR、球面の測定範囲の直径をDとすると、次の関係がある。
D=2・R・sin(α)
従って、被測定レンズ109の口径が前述のDより大きい場合は、一回の測定で被測定レンズの全体を測定できない。前述の干渉ヘッド101と被測定レンズ109の相対位置を調整するには、一般に被測定レンズ109を、直交座標であるX,Y,Z軸に平行に移動する。これは透過球面原器106の焦点と被測定レンズ109の曲率中心点を合致させるためには、単に平行移動で可能であるからである。ただ
図5のZ方向(フォーカス方向)を除き、X,Y移動の代わりに、X軸まわりやY軸まわりの回転またはあおり機構でも調整可能である。被測定レンズ109の口径が前述のDより大きい場合は、公知例で示したように、平行移動以外に、あおりや回転機構を必要とする。
【0011】
円筒あるいは平面の測定の場合も、大きな(大口径や長い)ものを測定するとなると、回転機構とともに平行移動機構が必要となる。
図6で、X軸まわりの回転とX軸方向に移動可能な機構を必要とする。被測定レンズ109の口径が前述のDより大きい場合は、公知例で示したように、平行移動以外に、あおりや回転機構を必要とする。
【0012】
測定できる面の大きさは、透過原器によりカバーされる領域を超えることはできない。大きな面、特に凸面の場合は、更に大きな透過原器が必要となる。
そこで導入された技術が、測定領域のつなぎ合わせ(スティッチングとかサブアパーチャースティッチングとも言われる)であり、以下の公知例がある。
【0013】
特許文献1(特開平2−259509号)に、面形状等測定方法および装置が開示されている。その中の第1図、第2図において、大口径の球面に近い非球面測定の場合について説明している。干渉計の光軸方向をX軸とし、紙面内でその光軸と直交方向をZ軸としている。従って、紙面に垂直をY軸としていることになる。そこで、全面を測定するためにX,Y,Zの並進ステージと干渉計光軸Xに直交する方向Y,Z軸をそれぞれ回転中心とし、独立に2方向で回転するあおり機構を設けている。そして、複数の部分領域に分け形状測定を行い、重なり合う部分をつなぎ合わせ全体形状を計測するものである。
【0014】
特許文献2(特開2003−57016号)は、高速大口径面形状測定方法を開示している。この方法は、大口径球面の曲率中心付近に球面軸受けを設け、全面測定を高速に測定可能にするものであり、3軸の並進ステージと、球面軸受を用いた2軸の回転機構を持つ。
【0015】
特許文献3(特表2007−515641号)は、多軸計測システムの幾何学配置を較正するための方法を開示している。その中の
図1に全体の装置の外観図があり、形状計測のためのゲージ(たとえばフィゾー干渉計)とテスト部品を相対的にX,Y,Zの3つの平行移動軸とA,B,Cの3つの回転軸で構成されている。その回転軸であるスピンドル軸を回転させて、ゲージでの測定値からスピンドル位置を測定する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平2−259509号公報
【特許文献2】特開2003−57016号公報
【特許文献3】特表2007−515641号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Optical Shop Testing ,p 25,3rd Edition, D.Malacara,2007, John Wiley & Sons, INC
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
ここで、上記した特許文献1(特開平2−259509号)では大きな円筒レンズ、特許文献2(特開2003−57016号)では大きな凸形状レンズ、そして特許文献3(特表2007−515641号)では球面、平面がそれぞれの測定対象となる形状である。すなわち、それらの装置・方法は、特定の形状測定に対応している。そのため、上記した公知の装置を用いたのでは、すべての形状、すなわち平面、球面そして円筒の面形状を1つの測定装置では測定できなかった。この場合、それぞれの面形状に対応した測定装置を用意すれば対応可能であるが、高価な干渉計や駆動機構も複数必要で、装置の価格が高くなることと、さらに設置する場所も広く必要となり、設備費や維持管理費用が高くなることから、そのレンズの製造原価も高くなってしまうという欠点があった。
【0019】
そこで、本発明の課題は、1つの測定装置で、これら平面、球面そして円筒の面形状を測定可能にする面形状測定装置を提供すること、および、被測定物に広範囲の方向から光を照射して測定できるように、被測定物を広範囲に回転できる面形状測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題
を解決するため、先ず下記の構成の面形状測定装置を創案した。
具体的には、被測定物を固定する被測定物固定手段と、被測定物に対して可動な干渉式表面形状測定手段とを備える面形状測定装置において、直交するX軸とY軸を規定する基準面を持つ架台を備え、上記被測定物固定手段が、上記架台に対してX軸方向に移動可能なX方向移動部と、上記X方向移動部に固定された第1の回転軸のまわりで回転可能な第1の回転部と、上記第1の回転部に固定された第2の回転軸のまわりで回転可能な第2の回転部と、上記第2の回転部に固定され被測定物を固定する第1の被測定物固定部を備えることと、上記干渉式表面形状測定手段が、上記架台に相対的にY軸方向、および、X軸とY軸に垂直なZ軸方向に、移動可能であることと、上記第1の回転部の回転軸が上記Y軸に略平行であることと、上記第2の回転部の回転軸が上記第1の回転部の回転軸に略垂直であることと、上記第1の回転部が略90度回転可能であり、その回転により上記第2の回転部の軸の方向が上記Z軸方向に略平行な方向からX軸に略平行な方向まで変えられることを特徴とする、面形状測定装置
である。
【0021】
この面形状測定装置は、従来技術(例えば特許文献1、特許文献2)では、第1の回転部がY軸のまわりを、第2の回転部がX軸のまわりを、それぞれ独立に回転する機構であったので第1の回転部を横倒しにして第2の回転部を回転することができない、すなわち回転角度を大きくできないという問題点を解決している。この
面形状測定装置では、Y軸まわりとX軸まわりで独立に回転可能とするのではなく、第1の回転部に対して第2の回転部を回転させるという2段式回転機構を採用し、この問題を解決している。これにより、被測定物の表面に広範囲の方向から光を照射して形状測定をすることができる。そして、複数の部分領域に分け形状測定を行った結果を用い、重なり合う部分をつなぎ合わせ全体形状を
測定することができる。
しかし、上記構成のみの面形状測定装置では、円筒形の物体の円筒中心線を集光線に一致させることができない。この問題を解決するためには被測定物の方向を二軸で微調整し、円筒中心線を集光線に一致させる必要がある。
【0022】
上記
〔0020〕段に記載した面形状測定装置の課題は、請求項
1に記載の発明によって解決された。
具体的には、被測定物を固定する被測定物固定手段と、被測定物に対して可動な干渉式表面形状測定手段とを備える面形状測定装置において、直交するX軸とY軸を規定する基準面を持つ架台を備え、上記被測定物固定手段が、上記架台に対してX軸方向に移動可能なX方向移動部と、上記X方向移動部に固定された第1の回転軸のまわりで回転可能な第1の回転部と、上記第1の回転部に固定された第2の回転軸のまわりで回転可能な第2の回転部と、一端が上記第2の回転部に第1の球面軸受を介して結合され被測定物を固定する第2の被測定物固定部を備えることと、上記干渉式表面形状測定手段が、上記架台に対してY軸方向
に移動可能なY方向移動部を備えることと、X軸とY軸に垂直なZ軸方向に移動可能
なZ方向移動部を備えることと、上記第1の回転部の回転軸が上記Y軸に略平行であることと、上記第2の回転部の回転軸が上記第1の回転部の回転軸に略垂直であることと、上記第1の回転部が略90度回転可能であり、その回転により上記第2の回転部の軸の方向が上記Z軸方向に略平行な方向からX軸に略平行な方向まで変えられることと、上記X方向移動部にY軸方向に移動可能な
第2のY方向移動部を備え、上記
第2のY方向移動部が第2の球面軸受を介して上記第2の被測定物固定部の他端に結合され、上記第2の回転部の軸の方向が上記X軸に略平行であるとき、上記第2の被測定物固定部の軸の方向を上記Y軸に略平行な方向のまわりで微調整することと、上記第2の¥被測定物固定部の軸の方向を上記Z軸に略平行な方向のまわりで微調整することが可能であることを特徴とする、面形状測定装置によって解決された。
【0023】
請求項
1の発明では2個の球面軸受を介して被測定物を保持することにより、
先の〔0020〕段に記載した面形状測定装置の問題を解決している。これにより、球面測定の場合と同様に、
円筒面・平面を有する被測定物の表面に広範囲の方向から光を照射して形状測定をすることができる。そして、複数の部分領域に分け形状測定を行った結果を用い、重なり合う部分をつなぎ合わせて全体形状を
測定することができる。
【0024】
請求項
1の発明
は、従来技術あるいはそれの修正と組み合わせて実施することができ、どのような干渉式表面測定手段とも組み合わせることができるものであるが、請求項
2の発明では
、ハルトマン・シャック装置(これについては後に説明する)と組み合わせている。
【発明の効果】
【0025】
(1)1つの測定装置で、平面、球面、回転面例えば、円筒面、回転楕円面の面形状の測定が容易に可能となった。
(2)被測定物に広範囲の方向から光を照射して、被測定物を広範囲で測定することが容易になった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】フィゾー干渉計ヘッドを用いた、球面測定の際の本発明による面形状測定装置の概念的配置図である。
【
図2】フィゾー干渉計ヘッドを用いた、本発明による円筒面(円柱、平面を含む)測定の際の本発明による面形状測定装置の概念的配置図である。
【
図3】本発明に係る面形状測定装置を用いて面形状を測定するフロー図である。
【
図4】ハルトマン・シャック光学系の概念図である。
【
図5】フィゾー干渉計ヘッドを用いた、従来技術による球面測定装置の概念図である。
【
図6】フィゾー干渉計ヘッドを用いた、従来技術による円筒面測定装置の概念図であって、(a)はその正面図、(b)はその側面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明に係る面形状測定装置の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0028】
図1は、本発明による球面測定の概念的配置図である。この実施形態では、干渉式表面形状測定手段としてフィゾー干渉計を使用している。しかし、使用可能な光学式干渉計はこれに限られない。干渉計から出射する光を被測定物の表面で反射させ、反射した物体光を再び干渉計に戻し、干渉計内で参照光と物体光を干渉させる方式の干渉計であれば、本発明を適用することができる。フィゾー干渉計以外に、トワイマン・グリーン干渉計、シアリング干渉計、位相シフト干渉法、垂直走査白色干渉法等、およびそれらの種々の変形種がある。また、他の光学的な面形状測定装置であるハルトマン・シャック装置や、接触式の3次元測定装置でも適用可能である。
【0029】
以下、フィゾー干渉計ヘッドを用いた実施形態を説明する。この実施形態では、背景技術の項で説明した
図5のフィゾー干渉計ヘッド101と同じ構造のものを使う。これ故、フィゾー干渉計ヘッド1についての説明は省略する。
【0030】
フィゾー干渉計ヘッド1は図示しない架台に対して移動可能に固定されている。上記架台は、直交するX軸とY軸を規定する基準面を持つ。その基準面のX軸とY軸が規定する平面に対して垂直な軸をZ軸と定義する(参照:
図1)。
フィゾー干渉計ヘッド1は、その図示しない架台に対してZ方向とY方向に移動可能であり、その移動した箇所に固定することができる。Y軸方向の移動にはY
方向移動部1aが使われ、Z軸方向の移動にはZ
方向移動部1bが使われる。Y
方向移動部1aおよびZ
方向移動部1bは、それぞれ、移動駆動手段、レーザ光測距装置やマグネスケール測長装置および制御装置を備え、所定の位置にフィゾー干渉計ヘッド1を導き、そこでロック(位置固定)できる。
【0031】
X方向移動部2が上記図示しない架台に対して上記X方向に移動可能に設けられている。X方向移動部2も移動駆動手段、レーザ光測距装置やマグネスケール測長装置および制御装置を備え、所定の位置にX方向移動部2を導き、そこで図示しない架台にロック(位置固定)できる。
【0032】
X方向移動部2に2段式回転機構3が設けられている。2段式回転機構3は、下層として第1の回転部4が設けられている。第1の回転部4は、X方向移動部2の移動方向であるX軸に対して直角な上記Y軸と平行な第1の回転軸5のまわりで、X方向移動部2に対して回転可能である(RY)。その回転方向は上記Z軸にほぼ平行な方向から上記X軸に平行な方向までの略90度を少なくともカバーする。
【0033】
第1の回転部4に第2の回転部6が上層として設けられている。第2の回転部6は、第1の回転軸5の方向であるY軸に直角な第2の回転軸7(Z’方向)のまわりで、第1の回転部4に対して回転可能(RZ’)である。その第2の回転部6の回転方向は360度以上をカバーする。すなわち、Z’軸(Y軸がβ回転したときの軸をZ’軸とした。Y軸が回転0、即ちβ=0のときはZ’=Z)まわりに回転できるもうひとつの軸、すなわちZ’軸まわりの回転機構をもつ。
【0034】
ベアリング用のボールなどの球面であれば、更に大きなβを使うことになるが、現実には被測定物8の取り付け具を考えると、球の全面測定は難しい。また研磨などで加工する場合、どうしても半球を超えるものは加工上も難しいので、測定の必要性も乏しい。単に測定だけを考えれば、Y軸まわりの第1の回転部4の回転可能範囲を90度以上とした場合、半球以上も測定可能である。
【0035】
第2の回転部6の先端には被測定物8を固定するための第1の被測定物固定部9aが設けられている。
図1は、第2の回転部6の第2の回転軸7の方向(Z’方向)がZ軸とX軸を含む面内でZ軸から約20度傾斜した状態で、第2の回転部6の第1の被測定物固定部9aに被測定物8である球面レンズが固定されている状態を概念的に示している。
【0036】
集光点10に集光するように、光はフィゾー干渉計ヘッド1から出射される。集光点10は
図5における集光点107に対応する。図示しない架台に対してフィゾー干渉計ヘッド1はY軸方向とZ軸方向に移動可能であり、X方向移動部2がX軸方向に移動可能であるので、X方向移動部2と一緒に移動する被測定物8である球面レンズの中心を集光点10に一致させることができる。この時、フィゾー干渉計ヘッド1からの光は球面レンズの中心に向かい、その球面に直角に入射し、そこで反射されフィゾー干渉計ヘッド1に戻る。そして、
図5によって説明したように、従来技術であるフィゾー干渉計の技術で球面の形状が測定される。
【0037】
第1の回転軸5のまわりの第1の回転部4の回転と、第2の回転軸7のまわりの第2の回転部6の回転を組み合わせて、球面の測定されるべき表面部分を掃引することにより、球面のほぼ全領域を測定することができる。この効果は、第1の回転部4と第2の回転部6が従来技術のように独立に回転可能なのではなく、第2の回転部6が第1の回転部4に対して回転するという2段式の構造を持つことによりもたらされる効果である。
【0038】
球面が凸レンズの場合は凸面が集光点よりフィゾー干渉計ヘッド側になるように配置し、凹レンズの場合は集光点が凹面よりフィゾー干渉計ヘッド側になるように配置される。
【0039】
図2は、本発明による円筒面(円柱、平面を含む)測定の概念的配置図である。この実施形態でも、
図1の場合と同様に、干渉式表面形状測定手段としてフィゾー干渉計を使用している。使用可能な光学式干渉計としては、また同様に、フィゾー干渉計以外に、位相シフト干渉法、垂直走査白色干渉法等、種々の変形種がある。また、他の光学的な面形状測定装置であるハルトマン・シャック装置や、接触式の3次元測定装置でも適用可能である。
【0040】
円筒面(円柱、平面を含む)測定の場合は、
図2に示したようにY軸方向に移動可能な
第2のY方向移動部11を使う。そして、第1の被測定物固定部9aに代えて第2の被測定物固定部9bを使う。第2の被測定物固定部9bの一端は上記第2の回転部6の先端に、第1の球面軸受12aを介して結合されている。他方、第2の被測定物固定部9bの他端は、第2の球面軸受12bの一端に結合されている。そして、第2の球面軸受12bの他端は、上記
第2のY方向移動部11に結合されている。被測定物8は第2の被測定物固定部9bに固定される。
【0041】
平面測定の場合は、単にあおりまたは回転機構のみで、参照光と物体光を干渉させることができる。しかし、円筒も平面も、大きな(大口径や長い)ものを測定するとなると、回転機構とともに平行移動機構が必要となる。
図2のX軸まわりの回転とX軸方向に移動可能な機構を必要とする。
【0042】
平面の測定の場合は、フィゾー干渉計ヘッド1からでる光の波面に対して平行に被測定物8の表面を配置することにより干渉縞が見え、一様にすることができる。この状態は、第1の回転部4を90度回転して、第2の回転部6の第2の回転軸7をX軸と平行にすることにより実現することができる。その状態で、第1と第2の球面軸受12a,12bを介して第2の被測定物固定部9bを保持し、被測定物8を第2の被測定物固定部9bに固定されている。これで、被測定物8の表面がフィゾー干渉計ヘッド1からの光の波面に平行となる。しかしX軸まわりで僅かにずれることがある。この場合、第1の球面軸受12aをロックした状態で、第2の球面軸受12bを自由な状態とし、第2の回転軸7のまわりで第2の回転部6で僅かに回転することにより、X軸のまわりの回転角を微調整できる。これによりフィゾー干渉計ヘッド1からでる光の波面に対して平行に被測定物8の表面を配置できる。
【0043】
円筒面測定の場合は、
図6を用いて説明したように、フィゾー干渉計ヘッドからの光の集光線と、被測定物の円筒面の中心線を一致させる必要がある。まず、第1の回転部4を90度回転して、第2の回転部6の第2の回転軸7をX軸と平行にする。そしてその状態で、第1と第2の球面軸受12a、12bを介して被測定物固定部9bを保持する。これで、被測定物8の円筒面の中心線がフィゾー干渉計ヘッド1からの光の集光線にほぼ平行とできる。さらに、フィゾー干渉計ヘッド1をY軸方向とZ軸方向にY
方向移動部1a、Z
方向移動部1bにより移動することにより、被測定物8の円筒面の中心線をフィゾー干渉計ヘッドからの光の集光線にほぼ一致させることができる(集光線はほぼX軸に平行とする)。もう1つの回転軸はZ’軸まわりの回転機構(Y軸に対する角度β=90度のため、Z’=Xとなっている)は、ほぼX軸まわりにほぼ360度回転するようになっている。
【0044】
ただ所定の干渉縞をだすための調整には、特に被測定物8のY軸まわりとZ軸まわりの回転の微調整が必要となる。そこで、Y軸とZ軸のまわりに回転可能な球面軸受12a(その回転中心をP点とする)を設け、またX軸まわり、Y軸まわり及びZ軸まわりに回転可能な球面軸受12b(その回転中心をQ点とする)を設ける。それら球面軸受12a,12bの間に被測定物8を取り付ける被測定物固定部9bを設ける。従ってこの被測定物固定部9bを微調整できれば、被測定物8を微調整できることになる。
【0045】
Y軸まわりの回転機構4を回転することで、Q点を中心に回転でき、Y軸まわりの回転の微調整ができる。また
図2の左に設けた
第2のY方向移動部11を球面軸受12bと連結させることで、この
第2のY方向移動部11のY軸移動で、球面軸受12aのP点を中心にZ軸まわりの回転の微調整ができることになる。Z軸まわりの回転の微調整においては、若干のX軸方向への移動がないとY軸に移動できないので、図示はしていないが自動的に若干のX軸移動ができるようにしてある。
【0046】
上述したように、球面の測定の場合は集光点と球の中心を一致させた後に、平面の測定の場合には波面と平面を平行にさせた後、円筒面の測定の場合は集光線と円筒の中心線を一致させた後、フィゾー干渉計ヘッドを用いる従来技術による形状測定方法に従って、形状を測定する。
【0047】
その際、干渉縞の
測定から干渉計と
被測定物の相対
位置の誤差を計算し、干渉縞を少なくするためにその誤差に応じて機構を動かすことで、精度の高い
測定を可能にする。すなわち、上記X方向移動部、上記Y方向移動部、上記Z
方向移動部、第2の回転軸の回転角を予め決められた所定の位置に動かし、上記干渉計で形状誤差を
測定し、前記干渉計と前記
被測定物の相対位置の誤差を算出し、その誤差に応じて干渉式表面形状測定手段と被測定物の相対位置を変化させて、相対位置の誤差の少ない状態として、前記測定面形状を精密に測定することができる。
【0048】
被測定物が大きい平面であるときは、X方向とY方向に測定領域を移動して測定を繰り返す。大きい円筒面(集光線がX方向の場合)であるときは、X方向の移動と第2の回転部の回転を組み合わせて測定領域を移動して測定を繰り返す。すなわち、干渉計による1回の測定範囲を超える大きなレンズにおいて、つなぎ合わせ方法により、そのレンズ全面を測定する。
【0049】
本発明は、以上述べたように、さまざまな形状のレンズに対して1台の装置で容易に測定可能で、少量多品種生産に大いに有効な装置を提供できる。また、円筒面と同様に線上に対称な面、例えば、回転楕円ミラーも同様に測定可能である。回転楕円ミラーは焦点が2つあり、その2つの焦点を結ぶ線に対称となるため、大口径回転楕円ミラーを測定する場合は、その線を中心に回転させて測定すれば、全面を測定できる。透過球面原器で、その1つの焦点に入射させ、反射した光はもう1つの焦点に結ぶので、その焦点を曲率中心とする球面で反射させれば光は元に戻り、参照光と干渉させることができる。
【0050】
図3は、本発明に係る面形状測定装置を用いて面形状を測定するフロー図である。本発明に係る面形状測定装置を用いて次の手順で被測定物の面形状測定を行う。
【0051】
〔STEP1(条件設定)〕
先ず、測定の条件を決める。具体的には測定対象となるレンズ、すなわち被測定レンズの形状、移動機構の初期位置の変更、透過原器の条件、測定位置などを設定し、その条件に合うように工具(取り付け具、透過原器など)をセットし、各種移動機構、回転機構の初期位置や測定位置を予め設定する。
〔STEP2(レンズ取り付け)〕
被測定レンズを取り付け具に取り付ける。このとき被測定レンズに変形がなく、移動などで動かないようにしっかり固定する必要がある。
〔STEP3(移動)〕
X方向、Y方向、Z方向にフィゾー干渉計ヘッドと被測定レンズの相対的位置を移動させて、集光点と球面の中心を一致させたり、集光線と円筒面の中心線を一致させる。
〔STEP4(光学調整)〕
被測定レンズと干渉計の光学調整を行い、集光線と円筒面の中心線を一致させたり、測定面の測定領域を選択したりする。操作者が干渉縞を見ながら手動で調整するか、干渉縞の
測定データから光学調整誤差、例えばフォーカス誤差やそのフォーカスと直交方向の誤差さらには回転誤差を計算してその誤差量に応じた量に従い移動機構又は回転機構を所定の位置に自動で動かすこともできる。
〔STEP5(干渉縞
測定)〕
干渉縞の
測定を行い、その測定範囲内の面形状を求める。つなぎ合わせで大口径全面を測定するときは、更に測定位置を動かして、同様に繰り返し干渉縞
測定をする。つなぎ合わせ合わせの技術は従来技術に属するので説明は省略する。
〔STEP6(形状計算)〕
つなぎ合わせの計算などして、被測定レンズの全面の形状をもとめ、全面形状の3次元表示、ある所定の断面形状表示、全面での数値の極大と極小の差P−V(ピークと谷の差)などの数値結果、更には被測定レンズの規格値との差異から合否判定までを表示または記録をする。
【0052】
以上、フィゾー干渉計ヘッドを用いる実施形態を説明したが、本発明はフィゾー干渉計ヘッドに代えて、ハルトマン・シャック光学系を用いても実施することができる。ハルトマン・シャック光学系は公知の技術であるが、以下に簡単に説明する。
【0053】
図4は、ハルトマン・シャック光学系の概念図である。光源226(例えばハロゲンランプなど)から発した光を結像レンズ227でピンホール板228の面に結像させ、光源像を作る。ピンホール板228は、中央に小さな穴を開けたものであり、点光源を作る。その点光源から出た光は、ビームスプリッター229で一部反射させ、集光レンズ230で被測定レンズ209の曲率中心207に集光させ、そして被測定レンズ209(球面)に入射させる。
【0054】
被測定レンズ209で反射した光は元に戻り、ビームスプリッター229を通過し、ミラー231、コリメータレンズ232でほぼ平行な光となる。さらに、その光を、小さなレンズを2次元に集合させたマイクロレンズアレイ233に入射させ、その個々のマイクロレンズの焦点位置に設けた撮像素子234に入射させる。
【0055】
ここで、被測定レンズ209の面形状の誤差に応じて、個々のマイクロレンズによる集光位置が変化する。即ち、被測定レンズ209面の微小範囲での光の傾き変化に応じて、集光位置は変化する。これは1種の微分であり、積分することで面の形状に換算できる。従って、ハルトマン・シャック光学系により面形状測定ができることになる。
【0056】
ハルトマン・シャック光学系も、上記したように面形状測定ができるので、上記実施形態で説明したフィゾー干渉計ヘッドの代替として使うことができる。ハルトマン・シャック法以外でも、面形状測定ができる3次元測定装置でも使用可能である。
【0057】
これまでの実施形態においては、測定レンズの面形状測定に限定して説明したが、原理的に同様な透過光学系、反射光学系そして透過反射光学系(以降光学系と略する)の波面収差の測定も可能である。測定したい光学系と、測定のための光がそれら光学系を通り元に戻るようにする高精度な反射系を設けることにより、容易にその光学系の波面収差を測定することができる。すなわち、以上の実施形態は光学干渉計による測定レンズの反射タイプ
測定について主体的に記述したが、本発明に係る面形状測定装置は、光学干渉計による測定レンズの透過タイプの高精度
測定についても可能にするものである。
【0058】
以上、本発明に係る面形状測定装置を詳しく説明してきたが、本発明の適用対象は図面に例示されたものに限られず、同じ技術思想で他の形態の装置および方法として実施することも可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0059】
1 フィゾー干渉計ヘッド
1a Y
方向移動部
1b Z
方向移動部
2 X方向移動部
3 2段式回転機構
4 第1の回転部
5 第1の回転軸
6 第2の回転部
7 第2の回転軸
8 被測定物
9a 第1の被測定物固定部
9b 第2の被測定物固定部
10 集光点
11
第2のY方向移動部
12a 第1の球面軸受
12b 第2の球面軸受