特許第6232224号(P6232224)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232224
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】ダイヤフラム弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 7/17 20060101AFI20171106BHJP
【FI】
   F16K7/17 C
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-155299(P2013-155299)
(22)【出願日】2013年7月26日
(65)【公開番号】特開2015-25502(P2015-25502A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年6月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】中田 知宏
(72)【発明者】
【氏名】篠原 努
(72)【発明者】
【氏名】山路 道雄
【審査官】 関 義彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−92861(JP,A)
【文献】 特開平7−139649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 7/14 − F16K 7/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体流入通路、流体流出通路および上向きに開口した凹所が設けられたボディと、ボディの凹所の底面に配置された環状のシートと、シートに押圧・離間されることで流体通路の開閉を行う弾性変形可能なダイヤフラムとを備えているダイヤフラム弁において、
シートの頂部の径方向中間部分に凹所が形成されて、シートの頂部の半径方向内側部分とダイヤフラムとの間が第1シール部とされ、シートの頂部の半径方向外側部分とダイヤフラムとの間が第2シール部とされており、シートの頂部の径方向中間部分に形成されている凹所の外周面が円筒面とされていることを特徴とするダイヤフラム弁。
【請求項2】
ボディの凹所の底面に、環状で相対的に径が小さい内側突出部と環状で相対的に径が大きい外側突出部とが設けられて、シートは、内側突出部と外側突出部との間に挿入されており、内側突出部および外側突出部の少なくとも一方がかしめられることにより、シートの抜けが防止されていることを特徴とする請求項1のダイヤフラム弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ダイヤフラム弁に関する。
【背景技術】
【0002】
弁体としてダイヤフラムを使用するダイヤフラム弁は、従来よりよく知られている。図6に、従来のダイヤフラム弁を示す。
【0003】
図6において、ダイヤフラム弁(1)は、流体流入通路(2a)、流体流出通路(2b)および上方に向かって開口した凹所(2c)を有しているブロック状ボディ(2)と、ボディ(2)の凹所(2c)上部に下端部がねじ合わされて上方にのびる円筒状ボンネット(3)と、ボンネット(3)にねじ合わされたケーシング(4)と、流体流入通路(2a)の周縁に設けられた環状の合成樹脂製シート(5)と、シート(5)に押圧または離間されて流体流入通路(2a)を開閉するダイヤフラム(6)と、ダイヤフラム(6)の中央部を押さえるダイヤフラム押さえ(7)と、ボンネット(3)およびケーシング(4)に内蔵されてダイヤフラム押さえ(7)を介してダイヤフラム(6)をシート(5)に押圧・離間させるアクチュエータ(図示略)とを備えている。
【0004】
このようなダイヤフラム弁(1)においては、耐久性および信頼性の向上が課題となっている。例えば、上記従来のダイヤフラム弁(1)において、図7に拡大して示すように、シート(5)とダイヤフラム(6)との間に異物(A)が噛み込んだ場合、漏れ(L)が発生するおそれがある。
【0005】
特許文献1には、上記図示したものとは異なるタイプのダイヤフラム弁において、シートに2つの凸部を設けて多重シールとすることで、耐久性および信頼性を向上させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3372091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記図6および図7に示すダイヤフラム弁において、シート(5)とダイヤフラム(6)との接触面積が相対的に小さいことから、シート(5)に2つの凸部を形成した場合であっても、漏れ(シートリーク)が発生するおそれが依然としてあり、さらなるシートリークの減少が望まれている。
【0008】
この発明の目的は、シートリークの発生を大幅に減少したダイヤフラム弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明によるダイヤフラム弁は、流体流入通路、流体流出通路および上向きに開口した凹所が設けられたボディと、ボディの凹所の底面に配置された環状のシートと、シートに押圧・離間されることで流体通路の開閉を行う弾性変形可能なダイヤフラムとを備えているダイヤフラム弁において、シートの頂部の径方向中間部分に凹所が形成されて、シートの頂部の半径方向内側部分とダイヤフラムとの間が第1シール部とされ、シートの頂部の半径方向外側部分とダイヤフラムとの間が第2シール部とされており、シートの頂部の径方向中間部分に形成されている凹所の外周面が円筒面とされていることを特徴とするものである。
【0010】
シートは、例えば、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)製とされるが、これ以外の合成樹脂製であってもよい。ボディの材質は、例えば、ステンレス鋼(316Lなど)とされるが、特に限定されるものではない。
【0011】
シートの頂部は、従来、接触面積確保の点から、略平坦面とされて、シートの頂部の全面がダイヤフラムに密着するようになされていた。ダイヤフラム弁内を流れる流体中には、腐食生成物、切り粉などの異物が含まれていることがあり、シートの頂部とダイヤフラムとの間にこの異物が噛み込んだ場合、シートリークが発生するおそれがある。
【0012】
この発明のダイヤフラム弁においては、シートの頂部の径方向中間部分に凹所が形成されていることで、凹所の径方向内側の部分の壁を形成しているシートの頂部の半径方向内側部分と、凹所の径方向外側の部分の壁を形成しているシートの頂部の半径方向外側部分とがダイヤフラムに密着するようになされ、これにより、シートの頂部の半径方向内側部分とダイヤフラムとの間が主シール機能を担当する第1シール部とされ、シートの頂部の半径方向外側部分とダイヤフラムとの間が補助シール機能を担当する第2シール部とされている。第1シール部に異物が噛み込んだ場合、この噛み込み部分からわずかな漏れが発生するおそれがあるが、第2シール部が形成されていることで、第2シール部によって漏れがシールされ、シートリークに至ることが防止される。
【0013】
第1シール部に噛み込んだ異物は、流体に押されて凹所内に入り込む。凹所の外周面は、異物の堰き止め機能を有しており、このため、異物は凹所に滞留する。凹所は、異物溜まりの機能を有しており、これにより、第1シール部における異物の噛み込み状態が早期に解消して、第1シール部の損傷が抑えられるとともに、第2シール部に異物が噛み込む可能性は、極めて小さいものとなり、シートリークが確実に防止される。
【0014】
ボディの凹所の底面に、環状で相対的に径が小さい内側突出部と環状で相対的に径が大きい外側突出部とが設けられて、シート(合成樹脂製のシート)は、内側突出部と外側突出部との間に挿入されており、内側突出部および外側突出部の少なくとも一方がかしめられることにより、シートの抜けが防止されていることがある。上記シートの形状は、このような構造のダイヤフラム弁において、特に有用なものとなる。
【0015】
シートの頂部の径方向中間部分に形成されている凹所は、外周面が円筒面とされていることが好ましい。外周面が円筒面とされていることで、テーパ面または円弧面に比べて、外周面による異物堰き止め効果が高められ、これにより、凹所の異物溜まりとして機能が高められて、シートリークの防止機能が高められる。
【0016】
シート以外のダイヤフラム弁の構成は、適宜な公知の構成とされる。例えば、ダイヤフラムをシートに押圧・離間させるアクチュエータは、圧縮空気を使用するものであってもよく、その他の構成であってもよい。また、ダイヤフラムは、例えば、ニッケル合金薄板からなるものとされるが、ステンレス鋼薄板からなるものや、ステンレス鋼薄板とニッケル・コバルト合金薄板との積層体よりなるものとされることもある。
【発明の効果】
【0017】
この発明のダイヤフラム弁によると、第1シール部であるシートの頂部の半径方向内側部分とダイヤフラムとの間に異物が噛み込んで、この部分からの漏れが生じた場合であっても、第2シール部であるシートの頂部の半径方向外側部分とダイヤフラムとの間でこの漏れをシールすることで、シートリークに至ることが防止される。シートの頂部の径方向中間部分に形成された凹所は、異物溜まりの機能を有しており、シートの頂部の半径方向内側部分とダイヤフラムとの間に噛み込んだ異物は、流体に押されて凹所内に入り込んで凹所に滞留し、これにより、異物の噛み込み状態が早期に解消して、第1シール部の損傷が抑えられるとともに、第2シール部に異物が噛み込む可能性が極めて小さいものとなり、シートリークが確実に防止される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、この発明によるダイヤフラム弁の1実施形態を示す拡大縦断面図である。
図2図2は、異物を噛み込んだ状態におけるシートリークを模式的に示す拡大縦断面図である。
図3図3は、異物を噛み込んだ状態におけるシートリークの防止を模式的に示す拡大縦断面図である。
図4図4は、異物を噛み込んだ状態が解消された状態を模式的に示す拡大縦断面図である。
図5図5は、この発明によるダイヤフラム弁と従来のダイヤフラム弁とについて、各種異物に対するシートリークの有無を比較した図である。
図6図6は、従来のダイヤフラム弁を示す縦断面図である。
図7図7は、従来のダイヤフラム弁におけるシートリークを模式的に示す拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。なお、以下の説明においては、ダイヤフラム弁の全体図は、シートを除いて図6と同じであるので、図示を省略し、従来と異なるシート部分のみを図示して説明する。
【0020】
図1は、この発明によるダイヤフラム弁の実施形態の要部を示している。ダイヤフラム弁(10)は、流体流入通路(2a)および流体流出通路(2b)を有しているブロック状ボディ(2)と、流体流入通路(2a)の周縁に設けられた環状の合成樹脂製シート(11)と、シート(11)に押圧または離間されて流体流入通路(2a)を開閉するダイヤフラム(6)と、ダイヤフラム(6)の中央部を押さえるダイヤフラム押さえ(7)とを備えている。
【0021】
シート(11)は、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)製とされている。ボディ(2)の材質は、例えば316Lなどのステンレス鋼製とされている。
【0022】
シート(11)は、断面略方形の環状体とされている。より詳細には、内周面(11a)は円筒面とされており、外周面は、下側が大径の円筒面(11b)、上側が小径の円筒面(11c)、これらの中間部分がテーパ面(11d)とされている。
【0023】
ボディ(2)には、環状で相対的に径が小さい内側突出部(12)と環状で相対的に径が大きい外側突出部(13)とが設けられており、合成樹脂製シート(11)は、内側突出部(12)と外側突出部(13)との間に挿入されている。そして、内側突出部(12)が径方向外側にかしめられるとともに、外側突出部(13)が径方向内側にかしめられることにより、合成樹脂製シート(11)の抜けが防止されている。
【0024】
シート(11)の頂部の径方向中間部分に凹所(14)が形成されている。そして、凹所(14)の径方向内側の部分の壁を形成しているシート(11)の頂部の半径方向内側部分(15)と、凹所(13)の径方向外側の部分の壁を形成しているシート(11)の頂部の半径方向外側部分(16)とがダイヤフラム(6)に密着するようになされている。
【0025】
ダイヤフラム(6)は、シート(11)に押圧される際、先にシート(11)の頂部の半径方向内側部分(15)に密着し、その後、シート(11)の頂部の半径方向外側部分(16)に密着するようになされている。
【0026】
凹所(14)は、断面が略方形の環状に形成されており、図1において、凹所(14)の内周面(14a)は、テーパ面、凹所(14)の外周面(14b)は、円周面、凹所(14)の底面(14c)は、平坦面とされている。
【0027】
ここで、シート(11)の頂部の半径方向内側部分(15)とダイヤフラム(6)との間が主シール機能を担当する第1シール部(17)とされ、シート(11)の頂部の半径方向外側部分(16)とダイヤフラム(6)との間が補助シール機能を担当する第2シール部(18)とされている。
【0028】
ダイヤフラム弁(10)内を流れる流体内には、ダイヤフラム弁(10)の設置箇所や用途によって異なるものの、種々の異物(ごみ)が存在している。異物としては、ダイヤフラム弁(10)内を流れる流体が反応することで生成される腐食生成物、外部から侵入する切り粉、切り屑などがある。ダイヤフラム弁(10)が開放された際の流体の流れは、流体流入通路(2a)から流体流出通路(2b)に向かうので、シート(11)の内側からシート(11)の外側への流れとなり、異物の流れもこれと同じ流れとなる。
【0029】
図2は、ダイヤフラム弁(10)が全閉状態とされる手前の状態を示している。この状態で、シート(11)の頂部の半径方向内側部分(15)とダイヤフラム(6)との間(第1シール部(17))に異物(A)が噛み込んだ場合、この噛み込み部分からわずかな漏れが発生する。全閉状態とされる手前の状態では、第2シール部(18)は機能していないので、シートリーク(L)が発生することになる。
【0030】
図3は、図2の状態からさらにダイヤフラム(6)が押圧されて、ダイヤフラム弁(10)が全閉状態とされた状態を示している。すなわち、この状態では、シート(11)の頂部の半径方向外側部分(16)がダイヤフラム(6)に密着して第2シール部(18)が形成されており、第2シール部(18)によって図2の状態で生じていた漏れ(L)がシールされ、シートリークに至ることが防止されている。
【0031】
この後、ダイヤフラム弁(10)が全開状態とされると、流体が流体流入通路(2a)から流体流出通路(2b)に向かって流れることで、第1シール部(17)に噛み込んだ異物(A)は、図4に示すように、凹所(14)に入り込む。凹所(14)は、断面が略方形の環状に形成されて、その外周面(14b)が円周面とされているので、凹所(14)内に入り込んだ異物(A)は、外周面(14b)で堰き止められることになり、凹所(14)に滞留する。
【0032】
図示省略するが、シート(11)部分における流量特性シミュレーションを行うと、凹所(14)に渦が発生していることが分かり、凹所(14)に異物が入り込みやすいことが確認できた。
【0033】
これにより、図4においては、第1シール部(17)における異物(A)の噛み込み状態が解消して、第2シール部(18)だけでのシール状態が解消されて、第1シール部(17)の損傷が抑えられる。そして、第2シール部(18)に異物が噛み込む可能性が極めて小さいものとなり、第1シール部(17)と第2シール部(18)との2段シールとなり、高いシール性が確保される。こうして、シートリークが確実に防止される。
【0034】
図5には、腐食生成物の一例であるアルミナ(2種類の大きさ)および切り粉、切り屑の一例であるSUS(ステンレス片)(2種類の大きさ)を使用して、シール性能を評価した結果を示す。シール性能は、窒素ガスに強制的に異物(アルミナおよびSUS)を混入した後で、これをダイヤフラム弁(10)に送り込み、漏れの有無を検出することで評価した。
【0035】
同図に示すように、従来のシート(図7に示したシート)(5)では、粒径が1μmのアルミナであっても、シートリークが発生するのに対し、本願発明のシート(11)では、シートリークの発生がなかった。粒径が20μmのアルミナに対しても、同様の結果が得られた。また、1.2×0.6mmの大きさのSUSに対しては、従来のシートでは、アルミナに比べて、リーク量が大きくなったが、本願発明のものでは、シートリークの発生がなかった。ただし、14×1.2mmという10mmを超えるような長さのSUSに対しては、本願発明のものでも、シートリークの防止はできなかった。
【0036】
なお、凹所(14)の形状について、凹所(14)の外周面(14b)は、上記のように、円周面であることが好ましいが、凹所(14)の内周面(14a)は、テーパ面であっても円筒面であってもよく、凹所(14)の底面(14c)は、平坦面であっても曲面であってもよい。
【符号の説明】
【0037】
(2):ボディ、(2a):流体流入通路、(2b):流体流出通路、(2c):凹所、(6):ダイヤフラム、(10):ダイヤフラム弁、(11):シート、(14):凹所、(14b):外周面、(15):半径方向内側部分、(16):半径方向外側部分、(17):第1シール部、(18):第2シール部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7