特許第6232225号(P6232225)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232225
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】車両用灯具
(51)【国際特許分類】
   F21S 8/12 20060101AFI20171106BHJP
   F21S 8/10 20060101ALI20171106BHJP
   F21W 101/10 20060101ALN20171106BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20171106BHJP
【FI】
   F21S8/12 140
   F21S8/10 170
   F21W101:10
   F21Y115:10
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-165874(P2013-165874)
(22)【出願日】2013年8月9日
(65)【公開番号】特開2015-35337(P2015-35337A)
(43)【公開日】2015年2月19日
【審査請求日】2016年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099999
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 隆
(72)【発明者】
【氏名】内田 直樹
【審査官】 鈴木 重幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−265864(JP,A)
【文献】 特開平07−272503(JP,A)
【文献】 特開2014−175198(JP,A)
【文献】 特開2014−157733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 2/00−19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
投影レンズとこの投影レンズの後方に配置された光源とを備え、上記光源からの光を上記投影レンズを介して前方へ照射することによりカットオフラインを有する配光パターンを形成するように構成された車両用灯具において、
上記投影レンズの前面が、互いに交差する複数の曲線で囲まれた複数の多角形領域に区分けされており、
上記各多角形領域が、上記前面を構成する基準面に対して凸の曲面からなる凸面部または上記基準面に対して凹の曲面からなる凹面部として構成されており、
上記投影レンズの前面における周縁部に位置する上記各多角形領域を構成する凸面部または凹面部の曲率が、上記投影レンズの前面における中央部に位置する上記各多角形領域を構成する凸面部または凹面部の曲率よりも大きい値に設定されている、ことを特徴とする車両用灯具。
【請求項2】
上記複数の曲線が、いずれも灯具正面視において水平面と交差する方向に延びるように形成されている、ことを特徴とする請求項1記載の車両用灯具。
【請求項3】
上記複数の曲線が、上記投影レンズの光軸と平行な複数の仮想平面と、上記投影レンズの前面を構成する基準面との交線として構成されている、ことを特徴とする請求項1または2記載の車両用灯具。
【請求項4】
上記各多角形領域の外接円の直径が0.05〜5mmに設定されている、ことを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の車両用灯具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、プロジェクタ型の車両用灯具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、投影レンズの後方に配置された光源からの光を投影レンズを介して前方へ照射することにより、カットオフラインを有する配光パターンを形成するように構成されたプロジェクタ型の車両用灯具が知られている。
【0003】
「特許文献1」には、このような車両用灯具において、投影レンズの前面に複数のレンズ素子が略水平方向に延びるように形成された構成が記載されている。そして、この車両用灯具においては、複数のレンズ素子によって投影レンズからの出射光を上下方向に拡散させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4597890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記「特許文献1」に記載された構成を採用すれば、上下方向に拡散する投影レンズからの出射光によってカットオフラインの明暗差を緩和することができる。そしてこれにより、車両ピッチング時に対向車ドライバ等に与えてしまうグレアの抑制を図るとともに遠方視認性の向上を図ることができる。
【0006】
しかしながら、投影レンズからの出射光を上下方向に拡散させるようにしただけでは、その拡散に伴って配光ムラが発生しやすくなってしまう、という問題がある。
【0007】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、プロジェクタ型の車両用灯具において、配光ムラの発生を抑制した上でカットオフラインの明暗差を緩和することができる車両用灯具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、投影レンズの構成に工夫を施すことにより、上記目的達成を図るようにしたものである。
【0009】
すなわち、本願発明に係る車両用灯具は、
投影レンズとこの投影レンズの後方に配置された光源とを備え、上記光源からの光を上記投影レンズを介して前方へ照射することによりカットオフラインを有する配光パターンを形成するように構成された車両用灯具において、
上記投影レンズの前面が、互いに交差する複数の曲線で囲まれた複数の多角形領域に区分けされており、
上記各多角形領域が、上記前面を構成する基準面に対して凸の曲面からなる凸面部または上記基準面に対して凹の曲面からなる凹面部として構成されており、
上記投影レンズの前面における周縁部に位置する上記各多角形領域を構成する凸面部または凹面部の曲率が、上記投影レンズの前面における中央部に位置する上記各多角形領域を構成する凸面部または凹面部の曲率よりも大きい値に設定されている、ことを特徴とするものである。
【0010】
本願発明に係る車両用灯具は、光源からの光を直射光として投影レンズに入射させる構成となっていてもよいし、光源からの光をリフレクタで反射させて投影レンズに入射させる構成となっていてもよい。
【0011】
上記「光源」の種類は特に限定されるものではなく、例えば、発光ダイオードやレーザダイオード等の発光素子あるいは光源バルブ等が採用可能である。
【0012】
上記「カットオフラインを有する配光パターン」の種類は特に限定されるものではなく、例えば、ロービーム用配光パターンやフォグランプ用配光パターン等が採用可能である。
【0013】
上記「複数の多角形領域」は、互いに交差する複数の曲線で囲まれることにより形成される領域であれば、その具体的な形状は特に限定されるものではない。また、上記「複数の多角形領域」は、必ずしも投影レンズの前面全体に形成されていなくてもよい。
【0014】
上記「前面を構成する基準面」とは、投影レンズの後側焦点に位置する仮想点光源から投影レンズに入射した直射光を投影レンズの光軸と平行な方向へ向けて出射させるように形成された曲面または平面を意味するものである。
【発明の効果】
【0015】
上記構成に示すように、本願発明に係る車両用灯具は、プロジェクタ型の灯具として構成されているが、その投影レンズの前面が互いに交差する複数の曲線で囲まれた複数の多角形領域に区分けされており、そして、これら各多角形領域が、投影レンズの前面を構成する基準面に対して凸の曲面からなる凸面部またはその基準面に対して凹の曲面からなる凹面部として構成されているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0016】
すなわち、投影レンズの前面に形成された複数の凸面部または凹面部により、投影レンズからの出射光を上下方向のみならず左右方向にも拡散させることができる。その際、各多角形領域を構成する凸面部または凹面部は、その外周縁が基準面上に位置しているので、これら各凸面部または凹面部からの出射光の最大偏向角を精度良く制御することができる。したがって、カットオフラインの明暗差を適度に緩和した上で配光ムラの発生を抑制することができる。
【0017】
このように本願発明によれば、プロジェクタ型の車両用灯具において、配光ムラの発生を抑制した上でカットオフラインの明暗差を緩和することができる。
【0018】
しかも本願発明においては、投影レンズの前面が互いに交差する複数の曲線で囲まれた複数の多角形領域に区分けされているので、複数の凸面部または凹面部が互いに隙間なく敷き詰められた構成とすることができる。そしてこれにより、カットオフラインの明暗差の緩和効果および配光ムラの発生抑制効果を最大限に高めることができる。
【0019】
また本願発明においては、投影レンズからの出射光の拡散が複数の凸面部または凹面部によって行われる構成となっているので、投影レンズの前面にサンドブラストやシボ加工等の表面処理を施した場合に比して、投影レンズからの出射光の拡散度合を極めて精度良く制御することができる。
【0020】
上記構成において、投影レンズの前面における周縁部に位置する各多角形領域を構成する凸面部または凹面部の曲率が、その前面における中央部に位置する各多角形領域を構成する凸面部または凹面部の曲率よりも大きい値に設定された構成とすれば、次のような作用効果を得ることができる。
【0021】
すなわち、投影レンズの前面における周縁部からの出射光は色収差が発生しやすくなるが、この周縁部に位置する各多角形領域を構成する凸面部または凹面部の曲率を比較的大きい値に設定することにより、これら各凸面部または凹面部からの出射光の最大偏向角を大きくすることができ、これにより色収差の発生を効果的に抑制することができる。一方、投影レンズの前面における中央部に位置する各多角形領域を構成する凸面部または凹面部については、その曲率を比較的小さい値に設定することにより、これら各凸面部または凹面部からの出射光の最大偏向角があまり大きくならないようにすることができ、これによりカットオフラインの明暗差が過度に緩和されてしまわないようにすることができる。
【0022】
上記構成において、複数の曲線が、いずれも灯具正面視において水平面と交差する方向に延びるように形成された構成とすれば、次のような作用効果を得ることができる。
【0023】
すなわち、仮に複数の曲線のうちの1つが灯具正面視において水平面に沿って延びるように形成されているとした場合には、車両前方路面に形成される配光パターンに各多角形領域の境界線の影が映り込んでしまい、これにより左右方向に延びる暗部が形成されやすくなってしまう。これに対し、複数の曲線がいずれも灯具正面視において水平面と交差する方向に延びるように形成された構成とすれば、車両前方路面に形成される配光パターンに左右方向に延びる暗部が形成されてしまうのを未然に防止することができる。
【0024】
上記構成において、複数の曲線が、投影レンズの光軸と平行な複数の仮想平面と投影レンズの前面を構成する基準面との交線として構成されたものとすれば、これら複数の曲線が灯具正面視において直線として見えるので、投影レンズの意匠性を高めることができる。
【0025】
上記構成において、各多角形領域の外接円の直径が0.05〜5mmに設定された構成とすれば、各多角形領域を構成する凸面部または凹面部による光拡散が適度に行われるようにすることが容易に可能となる。その際、各多角形領域の外接円の直径が0.1〜2mmに設定された構成とすることがより好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本願発明の一実施形態に係る車両用灯具を示す正面図
図2図1のII−II線断面図
図3図1のIII−III線断面図
図4】上記車両用灯具の主要構成要素を示す斜視図
図5図2のV部詳細図
図6図4のVI部詳細図
図7】上記車両用灯具から前方へ照射される光により灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成されるロービーム用配光パターンを透視的に示す図
図8】上記実施形態の第1変形例に係る車両用灯具の要部を示す、図5と同様の図
図9】上記実施形態の第2変形例に係る車両用灯具の要部を示す側断面図
図10】上記実施形態の第3変形例に係る車両用灯具を示す、図1と同様の図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を用いて、本願発明の実施の形態について説明する。
【0028】
図1は、本願発明の一実施形態に係る車両用灯具を示す正面図である。また、図2は、図1のII−II線断面図であり、図3は、図1のIII−III線断面図である。さらに、図4は、車両用灯具10の主要構成要素を示す斜視図である。
【0029】
これらの図に示すように、本実施形態に係る車両用灯具10は、車両の前端部に設けられるロービーム用のヘッドランプであって、プロジェクタ型の灯具として構成されている。
【0030】
すなわち、この車両用灯具10は、車両前後方向に延びる光軸Axを有する投影レンズ12と、この投影レンズ12の後側焦点Fよりも後方側に配置された光源としての発光素子14と、この発光素子14を上方側から覆うように配置され、該発光素子14からの光を投影レンズ12へ向けて反射させるリフレクタ16と、このリフレクタ16からの反射光の一部を上向きに反射させるための上向き反射面20aを有するミラー部材20とを備えた構成となっている。
【0031】
この車両用灯具10は、ヘッドランプの一部として組み込まれた状態で用いられる灯具ユニットであって、ヘッドランプに組み込まれた状態では、その投影レンズ12の光軸Axが車両前後方向に対して0.5〜0.6°程度下向きの方向に延びた状態で配置されるようになっている。
【0032】
投影レンズ12は、その前面12aが凸面でその後面12bが平面の平凸非球面レンズであって、その後側焦点Fを含む焦点面である後側焦点面上に形成される光源像を、反転像として灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に投影するようになっている。
【0033】
ただし、この投影レンズ12の前面12aには、その全域にわたって複数の凸面部12sが形成されている。これら複数の凸面部12sの具体的な構成については後述する。
【0034】
この投影レンズ12は、その外周フランジ部12cにおいてレンズホルダ18に支持されている。そして、このレンズホルダ18はミラー部材20に支持されている。
【0035】
発光素子14は白色で発光する発光ダイオードであって、横長矩形状の発光面を有している。そして、この発光素子14は、その発光面を光軸Axを含む水平面上に位置させた状態で上向きに配置されている。この発光素子14はミラー部材20に支持されている。
【0036】
リフレクタ16の反射面16aは、光軸Axと同軸の長軸を有するとともに発光素子14の発光中心を第1焦点とする略楕円面状の曲面で構成されており、その離心率が鉛直断面から水平断面へ向けて徐々に大きくなるように設定されている。そしてこれにより、リフレクタ16は、発光素子14からの光を鉛直断面内においては後側焦点Fのやや前方に位置する点に収束させるとともに水平断面内においてはその収束位置をかなり前方へ移動させるようになっている。このリフレクタ16はミラー部材20に支持されている。
【0037】
ミラー部材20の上向き反射面20aは、該ミラー部材20の上面にアルミニウム蒸着等による鏡面処理を施すことにより形成されている。この上向き反射面20aは、光軸Axよりも左側(灯具正面視では右側)に位置する左側領域が光軸Axを含む水平面で構成されており、光軸Axよりも右側に位置する右側領域が、短い斜面を介して左側領域よりも一段低い水平面で構成されている。そして、この上向き反射面20aの前端縁20a1は、後側焦点Fから左右両側へ向けて、投影レンズ12のメリジオナル像面に沿って前方側へ湾曲するようにして延びている。また、上向き反射面20aは、その前端縁20a1から後方側に一定距離離れた位置までの範囲内の領域に形成されている。
【0038】
このミラー部材20は、その上向き反射面20aにおいて、リフレクタ16の反射面16aから投影レンズ12へ向かう反射光の一部を上向きに反射させて投影レンズ12に入射させ、これらを下向き光として投影レンズ12から出射させるようになっている。
【0039】
次に、投影レンズ12の具体的な構成について説明する。
【0040】
図5は、図2のV部詳細図である。また、図6は、図4のVI部詳細図である。
【0041】
これらの図にも示すように、投影レンズ12の前面12aは、その全域にわたって互いに交差する複数の曲線L1、L2で囲まれた複数の多角形領域Apに区分けされている。
【0042】
これら複数の曲線L1、L2は、投影レンズ12の光軸Axと平行な複数の仮想平面と、投影レンズ12の前面12aを構成する基準面(すなわち後側焦点Fに位置する仮想点光源から投影レンズ12に入射した直射光を光軸Axと平行な方向へ向けて出射させるように形成された曲面)12a0との交線として構成されている。したがって、これら複数の曲線L1、L2は、いずれも灯具正面視において直線状に延びるように形成されている。
【0043】
複数の曲線L1は、灯具正面視において水平面に対して45°の傾斜角で右上方向に延びるように形成されており、一方、複数の曲線L2は、灯具正面視において水平面に対して45°の傾斜角で左上方向に延びるように形成されている。その際、これら複数の曲線L1、L2は、いずれも等間隔で形成されており、かつその値も互いに等しい値に設定されている。
【0044】
これにより、各多角形領域Apは、灯具正面視において左右均等に傾斜した正方形の外形形状を有する領域として形成されている。その際、これら各多角形領域Apの外接円Cの直径Dは、0.05〜5mm(より好ましくは0.1〜2mm)の範囲内の値(例えば1mm程度の値)に設定されている。
【0045】
これら各多角形領域Apの表面形状は、基準面12a0に対して凸の曲面からなる凸面部12sとして構成されている。その際、これら各凸面部12sは、その外周縁を全周にわたって基準面12a0上に位置させるようにして前方側に膨出する滑らかな曲面として形成されている。
【0046】
投影レンズ12に入射したリフレクタ16からの反射光は、この投影レンズ12の前面12aから出射する際、各凸面部12s毎に一旦収束してから拡散する光として出射することとなる。その際、各凸面部12sからの出射光は、該凸面部12sが基準面12a0のままであったとした場合の出射光(図5において2点鎖線で示す出射光)寄りの方向へ収束する光となるが、その際の最大偏向角度は、各多角形領域Apの外周縁における各凸面部12sの基準面12a0に対する傾斜角度によって規定されることとなる。
【0047】
図7は、車両用灯具10から前方へ照射される光により、車両前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成されるロービーム用配光パターンPLを透視的に示す図である。
【0048】
このロービーム用配光パターンPLは、左配光のロービーム用配光パターンであって、その上端縁に左右段違いのカットオフラインCL1、CL2を有している。このカットオフラインCL1、CL2は、灯具正面方向の消点であるH−Vを鉛直方向に通るV−V線を境にして左右段違いで水平方向に延びており、V−V線よりも右側の対向車線側部分が下段カットオフラインCL1として形成されるとともに、V−V線よりも左側の自車線側部分が、この下段カットオフラインCL1から傾斜部を介して段上がりになった上段カットオフラインCL2として形成されている。
【0049】
このロービーム用配光パターンPLは、リフレクタ16で反射した発光素子14からの光によって投影レンズ12の後側焦点面上に形成された発光素子14の光源像を、投影レンズ12により上記仮想鉛直スクリーン上に反転投影像として投影することにより形成され、そのカットオフラインCL1、CL2は、ミラー部材20の上向き反射面20aの前端縁20a1の反転投影像として形成されるようになっている。
【0050】
このロービーム用配光パターンPLにおいて、下段カットオフラインCL1とV−V線との交点であるエルボ点Eは、H−Vの0.5〜0.6°程度下方に位置している。これは光軸Axが車両前後方向に対して0.5〜0.6°程度下向きの方向に延びていることによるものである。
【0051】
このロービーム用配光パターンPLは、そのカットオフラインCL1、CL2の明暗差が緩和されており、図中破線で示すように、カットオフラインCL1、CL2の上方側までやや明るくなっている。これは、投影レンズ12からの出射光が、その前面12aに形成された複数の凸面部12sによって拡散することによるものである。
【0052】
その際、投影レンズ12からの出射光は、各凸面部12sにおいて上下および左右方向に拡散する光となるので、カットオフラインの近傍において配光ムラが発生してしまうのが抑制されることとなる。
【0053】
また、投影レンズ12からの出射光の拡散角度は、各凸面部12sの曲率の大きさが適宜設定されることにより、一定の角度範囲内の値となるように制御され、これによりカットオフラインCL1、CL2の明暗差は適度に緩和されたものとなっている。
【0054】
そして、このようにカットオフラインCL1、CL2の上方側まで適度に拡がるロービーム用配光パターンPLが形成されることによって、道路わきの歩行者6L、6R等の視認性が高められる一方、対向車2や前走車4のドライバに対して不用意にグレアを与えてしまうことが未然に回避されることとなる。
【0055】
次に本実施形態の作用効果について説明する。
【0056】
本実施形態に係る車両用灯具10は、プロジェクタ型の灯具として構成されているが、その投影レンズ12の前面12aが互いに交差する複数の曲線L1、L2で囲まれた複数の多角形領域Apに区分けされており、そして、これら各多角形領域Apが、投影レンズ12の前面12aを構成する基準面12a0に対して凸の曲面からなる凸面部12sとして構成されているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0057】
すなわち、投影レンズ12の前面12aに形成された複数の凸面部12sにより、投影レンズ12からの出射光を上下方向のみならず左右方向にも拡散させることができる。その際、各多角形領域Apを構成する凸面部12sは、その外周縁が基準面12a0上に位置しているので、これら各凸面部12sからの出射光の最大偏向角を精度良く制御することができる。したがって、カットオフラインCL1、CL2の明暗差を適度に緩和することができ、かつ配光ムラの発生を抑制することができる。
【0058】
このように本実施形態によれば、プロジェクタ型の車両用灯具10において、配光ムラの発生を抑制した上でカットオフラインCL1、CL2の明暗差を緩和することができる。
【0059】
しかも本実施形態においては、投影レンズ12の前面12aが互いに交差する複数の曲線L1、L2で囲まれた複数の多角形領域Apに区分けされているので、複数の凸面部12sが互いに隙間なく敷き詰められた構成とすることができる。そしてこれにより、カットオフラインCL1、CL2の明暗差の緩和効果および配光ムラの発生抑制効果を最大限に高めることができる。
【0060】
また本実施形態においては、投影レンズ12からの出射光の拡散が複数の凸面部12sによって行われる構成となっているので、投影レンズ12の前面12aにサンドブラストやシボ加工等の表面処理を施した場合に比して、投影レンズ12からの出射光の拡散度合を極めて精度良く制御することができる。
【0061】
さらに本実施形態においては、投影レンズ12の前面12aの全域にわたって複数の凸面部12sが形成されているので、リフレクタ16の仕様が変化したような場合であっても、各凸面部12sの曲率を適宜変更することにより柔軟に対応することができ、したがって配光設計を容易に行うことができる。
【0062】
また本実施形態においては、複数の曲線L1、L2が、いずれも灯具正面視において水平面と交差する方向に延びるように形成されているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0063】
すなわち、仮に複数の曲線L1、L2のうちの1つが灯具正面視において水平面に沿って延びるように形成されているとした場合には、車両前方路面に形成されるロービーム用配光パターンPLに各多角形領域Apの境界線の影が映り込んでしまい、これにより左右方向に延びる暗部が形成されやすくなってしまう。これに対し、複数の曲線L1、L2がいずれも灯具正面視において水平面と交差する方向に延びるように形成された構成とすれば、車両前方路面に形成されるロービーム用配光パターンPLに左右方向に延びる暗部が形成されてしまうのを未然に防止することができる。
【0064】
その際、本実施形態においては、複数の曲線L1、L2が、投影レンズ12の光軸と平行な複数の仮想平面と投影レンズ12の前面12aを構成する基準面12a0との交線として構成されているので、これら複数の曲線L1、L2が灯具正面視において直線として見えるので、投影レンズ12の意匠性を高めることができる。
【0065】
また本実施形態においては、各多角形領域Apの外接円Cの直径Dが0.05〜5mmに設定されているので、各多角形領域Apを構成する凸面部12sによる光拡散が適度に行われるようにすることが容易に可能となる。その際、各多角形領域Apの外接円Cの直径Dが0.1〜2mmに設定された構成とすれば、凸面部12sによる光拡散がより的確に行われるようにすることが可能となる。
【0066】
上記実施形態においては、各多角形領域Apが灯具正面視において正方形の外形形状を有しているものとして説明したが、これ以外の外形形状を採用することももちろん可能であり、例えば、菱形、平行四辺形、台形、三角形、あるいは六角形と五角形との組合せ等が採用可能である。
【0067】
上記実施形態においては、車両用灯具10が、ロービーム用配光パターン形成用のヘッドランプとして構成されているものとして説明したが、ハイビームとロービームとの切換えが可能なヘッドランプとして構成したり、フォグランプ等として構成することも可能である。
【0068】
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0069】
まず、上記実施形態の第1変形例について説明する。
【0070】
図8は、本変形例に係る車両用灯具の要部を示す、図5と同様の図である。
【0071】
同図に示すように、この車両用灯具の基本的な構成は上記実施形態の車両用灯具10と同様であるが、投影レンズ112の前面112aの構成が上記実施形態の場合と異なっている。
【0072】
すなわち、本変形例においては、投影レンズ112の前面112aを区分けする複数の多角形領域Apの各々の表面形状が、基準面112a0に対して凹の曲面からなる凹面部112sとして構成されている。その際、これら各凹面部112sは、その外周縁を全周にわたって基準面112a0上に位置させるようにして後方側に凹む滑らかな曲面として形成されている。
【0073】
投影レンズ112に入射したリフレクタ16からの反射光は、この投影レンズ112の前面112aから出射する際、各凹面部112s毎に拡散する光として出射することとなる。その際、各凹面部112sからの出射光は、該凹面部112sが基準面112a0のままであったとした場合の出射光(図8において2点鎖線で示す出射光)から離れる方向へ拡散する光となるが、その際の最大偏向角度は、各多角形領域Apの外周縁における各凹面部112sの基準面112a0に対する傾斜角度によって規定されることとなる。
【0074】
したがって、本変形例の構成を採用した場合においても、上記実施形態の場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0075】
次に、上記実施形態の第2変形例について説明する。
【0076】
図9は、本変形例に係る車両用灯具の要部を示す側断面図である。
【0077】
同図に示すように、この車両用灯具の基本的な構成は上記実施形態の車両用灯具10と同様であるが、投影レンズ212の前面212aの構成が上記実施形態の場合と異なっている。
【0078】
すなわち、本変形例においても、投影レンズ212の前面212aを区分けする複数の多角形領域Apの各々の表面形状が、基準面212a0に対して凸の曲面からなる凸面部212sA、212sBとして構成されている。
【0079】
ただし、本変形例においては、投影レンズ212の前面212aにおける周縁部212aBに位置する各多角形領域Apを構成する凸面部212sBの曲率が、その前面212aにおける中央部212aAに位置する各多角形領域Apを構成する凸面部212sAの曲率よりも大きい値に設定されている。
【0080】
本変形例の構成を採用することにより、次のような作用効果を得ることができる。
【0081】
すなわち、投影レンズ212の前面212aにおける周縁部212aBからの出射光は色収差が発生しやすくなるが、この周縁部212aBに位置する各多角形領域Apを構成する凸面部212sBの曲率を比較的大きい値に設定することにより、これら各凸面部212sBからの出射光の最大偏向角を大きくすることができ、これにより色収差の発生を効果的に抑制することができる。一方、投影レンズ212の前面212aにおける中央部212aAに位置する各多角形領域Apを構成する凸面部212sAについては、その曲率を比較的小さい値に設定することにより、これら各凸面部212sAからの出射光の最大偏向角があまり大きくならないようにすることができ、これによりカットオフラインCL1、CL2の明暗差が過度に緩和されてしまわないようにすることができる。
【0082】
次に、上記実施形態の第3変形例について説明する。
【0083】
図10は、本変形例に係る車両用灯具310を示す、図1と同様の図である。
【0084】
同図に示すように、この車両用灯具310の基本的な構成は上記実施形態の車両用灯具10と同様であるが、投影レンズ312の前面312aの構成が上記実施形態の場合と異なっている。
【0085】
すなわち、本変形例においても、投影レンズ312の前面312aは、その全域にわたって互いに交差する複数の曲線L3、L4、L5で囲まれた複数の多角形領域Bpに区分けされている。
【0086】
これら複数の曲線L3、L4、L5は、投影レンズ312の光軸Axと平行な複数の仮想平面と、投影レンズ312の前面312aを構成する基準面との交線として構成されている。したがって、これら複数の曲線L3、L4、L5は、いずれも灯具正面視において直線状に延びるように形成されている。
【0087】
複数の曲線L3は、灯具正面視において上下方向に延びるように形成されており、複数の曲線L4は、灯具正面視において水平面に対して30°の傾斜角で右上方向に延びるように形成されており、複数の曲線L5は、灯具正面視において水平面に対して30°の傾斜角で左上方向に延びるように形成されている。その際、これら複数の曲線L3、L4、L5は、いずれも等間隔で形成されており、かつその値も互いに等しい値に設定されている。
【0088】
これにより、各多角形領域Bpは、灯具正面視において正三角形の外形形状を有する領域として形成されている。その際、これら各多角形領域Bpの外接円の直径は、0.05〜5mm(より好ましくは0.1〜2mm)の範囲内の値(例えば1mm程度の値)に設定されている。
【0089】
これら各多角形領域Bpの表面形状は、上記基準面に対して凸の曲面からなる凸面部312sとして構成されている。その際、これら各凸面部312sは、その外周縁を全周にわたって上記基準面上に位置させるようにして前方へ膨出する滑らかな曲面として形成されている。
【0090】
本変形例の構成を採用した場合においても、各凸面部312sからの出射光の最大偏向角を精度良く制御することができ、これにより上記実施形態の場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0091】
なお、上記実施形態およびその変形例において諸元として示した数値は一例にすぎず、これらを適宜異なる値に設定してもよいことはもちろんである。
【0092】
また、本願発明は、上記実施形態およびその変形例に記載された構成に限定されるものではなく、これ以外の種々の変更を加えた構成が採用可能である。
【符号の説明】
【0093】
2 対向車
4 前走車
6L、6R 歩行者
10、310 車両用灯具
12、112、212、312 投影レンズ
12a、112a、212a、312a 前面
12a0、112a0、212a0 基準面
12b 後面
12c 外周フランジ部
12s、212sA、212sB、312s 凸面部
14 発光素子(光源)
16 リフレクタ
16a 反射面
18 レンズホルダ
20 ミラー部材
20a 上向き反射面
20a1 前端縁
112s 凹面部
212aA 中央部
212aB 周縁部
Ap、Bp 多角形領域
Ax 光軸
C 外接円
CL1 下段カットオフライン
CL2 上段カットオフライン
D 直径
E エルボ点
F 後側焦点
L1、L2、L3、L4、L5 曲線
PL ロービーム用配光パターン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10