特許第6232227号(P6232227)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6232227ステンレス鋼を素材とする薄肉部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232227
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】ステンレス鋼を素材とする薄肉部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/00 20060101AFI20171106BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20171106BHJP
   C22C 38/48 20060101ALI20171106BHJP
   C21D 1/76 20060101ALI20171106BHJP
   F16B 7/04 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   C21D9/00 A
   C22C38/00 302Z
   C22C38/48
   C21D1/76 F
   F16B7/04 301U
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-167244(P2013-167244)
(22)【出願日】2013年8月12日
(65)【公開番号】特開2015-36425(P2015-36425A)
(43)【公開日】2015年2月23日
【審査請求日】2016年5月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】592236670
【氏名又は名称】株式会社吉野工作所
(74)【代理人】
【識別番号】100098936
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100098888
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 明子
(72)【発明者】
【氏名】吉野 昌宏
【審査官】 佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−300471(JP,A)
【文献】 特開2011−174564(JP,A)
【文献】 特開2001−341649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00− 9/44, 9/50
C22C 38/00−38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉厚が2.0mm以下のSUS420J2にニオブを添加した0.35%ニオブ含有マルテンサイト系ステンレス鋼を鋳造後圧延された状態の素材として使用し、曲げ加工により立体成形された薄肉部材を造り、水素ガスまたは水素系混合ガスを冷却ガスとして焼入れした後に焼戻しを200℃まで上げ30分間保持した後に外部自然冷却することで行うことを特徴とする薄肉部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載した薄肉部材の製造方法において、
一対で使用し、パイプを係合保持する薄肉メタルジョイント部材を製造することを特徴とする薄肉部材の製造方法
【請求項3】
請求項2に記載した薄肉部材の製造方法において、
連通孔を設けた薄肉メタルジョイント部材を製造し、更に、前記連通孔にナットをカシメて取り付けたことを特徴とする薄肉部材の製造方法
【請求項4】
請求項1に記載した薄肉部材の製造方法において、
薄肉部材として物流台車部材を製造することを特徴とする薄肉部材の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼を素材とする薄肉部材の製造方法に係り、特に、防錆性を備えた薄肉部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2本のパイプを直角に交差した状態で連結するメタルジョイントがあるが、この現行品は、冷間圧延鋼板(例えば、SPCC)を素材とした、特許文献1に示すソケット部の軸線に沿って分割した2つの半割り状部材からなり、両部材の間に2本のパイプを抱え込ませ、両部材にそれぞれ形成した連結孔にボルトを挿通し、ナットに螺合させて締付けることで該2本のパイプを連結するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】意匠登録第646222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最近ではこの種のメタルジョイントについても、材料コストや輸送コストを軽減するために、一層の薄肉軽量化を図ることが要求されており、強度が590MPa程度のハイテン材を素材として用いて肉厚を従来の2.6mmからより薄肉化しようと試みられた。而して、ハイテン材はカチオン電着塗装をすることで防錆性は付与できるが、肉厚の低減は精々20〜30%に留まり、しかも生産設備の一つであるプレス金型の消耗も激しく持ちが悪くなるため、却って設備コスト高を招くこともあって、量産化には至らなかった。
【0005】
また、物流に使用している台車類については、使い勝手の点からも、薄肉軽量化の要求は従来から強くあり、一般台車類は薄肉で安価なものが既に主流となっているが、食糧台車や薬用台車と言った特殊台車用には、防錆性も要求されており、これらの現行品は防錆性を考慮してSUS304(オーステナイト系ステンレス鋼)が素材として利用されている。而して、SUS304は軟らかく、強度面を考慮してある程度の肉厚に部材を設計する必要があるので、薄肉軽量化は難しく、元々材料単価も高いこともあって、材料コストは高くついている。
同じステンレス系では、SUS420(マルテンサイト系ステンレス鋼)もあり、この材料は、熱処理(焼入れ・焼戻し)をすることで強度を上げることができるので薄肉軽量化は図れるが、ニッケル(Ni)が含まれておらず防錆性に欠けるので、熱処理後にニッケルめっきを施す必要があり、めっき工程が付加されることで結果的にこの材料の利用はコスト減には結びつかない。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、肉厚が2.0mm以下の薄肉でありながら、熱処理前の素材段階では十分な曲げ加工性を有し、熱処理後には強度と防錆性に優れ、コスト的に見合う形でメタルジョイントや特殊用を含む各種台車類の軽量部材として提供できる、新規且つ有効な方法を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、思考錯誤の結果、特定の材料を選択し、その材料を特定の熱処理に供することで、部材として要求される強度や防錆性を満足しながら、薄肉軽量化を達成でき、しかも、コスト的に見合う形で提供できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0008】
請求項1の発明は、肉厚が2.0mm以下のSUS420J2にニオブを添加した0.35%ニオブ含有マルテンサイト系ステンレス鋼を鋳造後圧延された状態の素材として使用し、曲げ加工により立体成形された薄肉部材を造り、水素ガスまたは水素系混合ガスを冷却ガスとして焼入れした後に焼戻しを200℃まで上げ30分間保持した後に外部自然冷却することで行うことを特徴とする薄肉部材の製造方法である。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載した薄肉部材の製造方法において、一対で使用し、パイプを係合保持する薄肉メタルジョイント部材を製造することを特徴とする薄肉部材の製造方法である
請求項3の発明は、請求項2に記載した薄肉部材の製造方法において、連通孔を設けた薄肉メタルジョイント部材を製造し、更に、前記連通孔にナットをカシメて取り付けたことを特徴とする薄肉部材の製造方法である
【0010】
請求項4の発明は、請求項1に記載した薄肉部材の製造方法において、薄肉部材として物流台車部材を製造することを特徴とする薄肉部材の製造方法である
【発明の効果】
【0011】
本発明の薄肉部材は強度も防錆性も十分にあるので、メタルジョイント部材や食糧台車や薬用台車を含めて広く物流台車の部材として利用でき、これらの軽量化を達成できる。また、上記部材をコスト的に見合う形で提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態に係る薄肉メタルジョイントによる2本のパイプの連結状態の斜視図である。
図2図1のナット側薄肉半割り状部材の側面図である。
図3図2とは異なる別例のナット側薄肉半割り状部材の側面図である。
図4】本発明の実施の形態に係る物流台車の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の部材を構成する材料について説明する。
材料の種類は、「SUS410 13Cr系」をベースにC(炭素)を増加すると共にNb(ニオブ)を添加したものである。C(炭素)を増加したものとして、「SUS420J2」があり、本発明は、これにNb(ニオブ)を添加した、13Cr−Nb−0.25Cに分類されるものである。これに対応する材料として、日新製鋼株式会社から、「NSS WR−1」(高強度マルテンサイト系ステンレス鋼)として市販されている。
「NSS WR−1」と、「SUS420J2」と、SUS304 18Cr−Ni系の「SUS301H」とを化学成分で比較したデータは、以下の通りであり、ニオブの含有量に有意的な差がある。
【0014】
【表1】
【0015】
素材の段階では、鋳造後圧延された状態になっている。
この素材から、各種部材に造形した後に、熱処理を施す。
熱処理は、焼入れ・焼戻しであり、焼入れの際には、焼入れ温度まで昇温させた後に、水素ガスまたは水素系混合ガスを冷却ガスとして使用することが特徴となっている。ここで、水素系混合ガスとは、水素ガスと不活性ガス、例えば、アルゴンガスとの混合ガスであり、水素ガスが80%以上、例えば85%を含むものが想定されている。冷却ガスを使用すると、油焼入れより冷却速度が遅くなり、クロム炭化物が析出し易くなるが、ニオブが添加されているので防錆性は十分に確保される。しかも、ガス冷却効果により、表面に処理ムラが出難く、さらに、水素効果により表面の酸化物が還元されるので、ショットブラスト等の最終仕上げ処理を不要とし、薄肉部材用の処理に適している。
上記した焼入れは、作業環境の点からSUS製ベルト式の無酸素ガス炉を用いて所定のガス雰囲気中に被処理物をもってくるのが好ましい。焼入れ温度は、1050℃前後で、加熱保持時間は15分程度が好ましい。
焼戻しは恒温炉を用いて加熱し、外部自然冷却するのが好ましい。焼戻し温度は、200℃前後で、加熱保持時間は30分程度が好ましい。
【0016】
本発明の製造方法によれば、部材を構成する材料は、素材段階では、十分な曲げ加工性を有し、焼入れ・焼戻し後には、十分な強度を有する。また、防錆性を備える。
【0017】
各種部材の例としては、先ず、図1で示す薄肉メタルジョイント1が挙げられる。この薄肉メタルジョイント1は、ボルト側薄肉ジョイント部材3と、ナット側薄肉ジョイント部材7とが一組となって構成されており、2本のパイプを直角に交差した状態で連結するタイプのものである。ボルト側薄肉ジョイント部材3と、ナット側薄肉ジョイント部材7とは形状が殆ど同じである。
【0018】
図2に示すように、ボルトBをそれぞれの連通孔5、9に通し、ブッシュナット11で締めるタイプにする場合には、ナット側薄肉ジョイント部材7とボルト側薄肉ジョイント部材3は形状が同じなので、兼用できる利点がある。このタイプを製造するときには、この薄肉ジョイント部材3、7は、一枚の金属板を素材とし、金型を用いたプレス打ち抜きにより外側輪郭線を形成すると共に、連通孔開けにより連通孔5、9を形成した後に、曲げ加工により立体成形することになる。
【0019】
また、図3に示すように、ナット側薄肉ジョイント部材7に段付きナット13の段部の先端部側から先細りになったテーパーポンチを入れて、段部を拡げ、カシメることで、段付きナット13を取り付けてもよい。この場合には、ナット側薄肉ジョイント部材7とボルト側薄肉ジョイント部材3は形状が異なるので、兼用できないが、連結する際に、ナットを誤って落とすなどの作業ミスは出ない利点がある。このタイプを製造するときには、ナット側薄肉ジョイント部材7を立体成形してから、連通孔9に段付きナット13に取り付けることになる。部材の肉厚が薄くなるほどカシメることが容易になる。従って、この点からも、部材を薄肉化する利点がある。
【0020】
薄肉ジョイント部材3、7の想定される肉厚は、1.3mm以下である。現行品の冷間圧延鋼板を素材として用いて製造したジョイント部材の肉厚は2.6mm程度であるから半減していることになる。
【0021】
各種部材の例として、図4に示す物流台車15の構成部材が挙げられる。この物流台車15は食糧用で防錆性が重要視されているので、現行品は金属部材をSUS304で製造しているが、サイドベース17や車輪取付けベースやコーナーベースを、本発明の材料で形成し、その他の金属部材はSUS304で製造することが考えられる。特に、サイドベース17は、衝突時の負担を減少するために、台車の両サイドに補強用に取り付けたものである。
【0022】
台車部材の想定される肉厚は、1.6mm以下である。現行品はSUS304系で、肉厚は3.0mm程度であるから半減していることになる。
【実施例】
【0023】
〈機械的性質の確認〉
素材として、表1の鋼種の板材(板厚0.4mm)を選択し、それらの機械的性質を確認した。
「NSS WR−1」と「SUS420J2」は、素材の焼鈍材と、熱処理した後の処理材をそれぞれ確認した。なお、焼入れは、SUS製ベルト式の無酸素ガス炉を用いて100%水素ガスを冷却ガスとし、焼入れ温度を1050℃、加熱保持時間を15分とした。また、焼戻しは、恒温炉を用いて、焼戻し温度を200℃、加熱保持時間を30分とし、外部自然冷却を利用した。
「SUS301H」は、熱処理はせず、素材の圧延材だけ確認した。
【0024】
【表2】
引張強さは、圧延に平行な方向とした。
「NSS WR−1」は、素材(焼鈍材)段階では、十分な加工性を備え、ジョイント部材として利用可能なことが確認された。
【0025】
〈薄肉ジョイント部材の製造〉
次に、板厚を、「SUS301H」は2.6mmとし、「NSS WR−1」と「SUS420J2」は1.3mmとして、上記の形状に対応したナット側ジョイント部材を製造した。
「NSS WR−1」は、表2の結果で確認されたように、素材のままでは非常に軟らかく、バーリングはできなかったので、図2に示すように連通孔を設けるものと、図3に示すように段付きナットを一体に取り付けるものと、さらに、「SUS304」製の溶接ナット(図示省略)を一体に取り付けたものをそれぞれ製造した。また、錆試験では、「SUS301H」と同様、十分な耐性が確認されたので、ニッケルめっきは不要とした。
「SUS420J2」も、表2の結果で確認されたように、素材のままでは軟らかかったが、バーリングはどうにかできたので、約3.5mm絞って、M6×3.5山のネジを形成し、ナット付きとした。一方、特に酢酸入りの錆試験で弱いことが確認されたので、ニッケルめっきを施した。
【0026】
上記で製造したナット側ジョイント部材の相方として、同じ素材から同じようにしてボルト側ジョイント部材も製造した。
そして、一対として2本のパイプを係合保持し、M6キャップスクリューボルトで締付けたところ、いずれも、100kgf・cmの締付トルクで当たり部が当たってそれ以上の締付けは阻止された。また、ナットも破損しなかった。
また、2本のパイプを連結させた後、パイプを捩るトルク試験にかけたところ、16kgf・mまで引き上げることができた。
【0027】
上記の結果から、「NSS WR−1」を素材として製造したジョイント部材は、いずれのタイプでも、「SUS301H」を素材としたものの半分の薄肉にしてもジョイント部材に必要な強度を有し、しかも、同時に、「SUS420J2」を素材として製造したものと異なり、ニッケルめっきをせずとも、「SUS301H」を素材として製造したものと同様の防錆性も有することが確認された。
また、「SUS301H」を素材として製造したものは酸化膜を除去するために、最終仕上げとしてショットブラスト処理が必要とされていたことから、その処理を不要とした点でも、有利である。
【0028】
「NSS WR−1」を素材として製造したジョイント部材は、プレス加工する際に、スプリングバッグが多い点に若干難があるが、上記した比較結果から、軽量化でき、且つコスト面でも非常に良く、さらに、表面も綺麗で見た目が良いことが確認された。なお、作業性を考慮して、ジョイント部材に段付きナットをカシメて一体化したものを提供するのが推奨される。
【0029】
〈物流台車部材の製造〉
次に、板厚を、「SUS304」は3.0mm、「NSS WR−1」は1.6mmとして、ジョイント部材の製造と同様にして、上記形状のサイドベース本体17を製造した。このサイドベース17は、「NSS WR−1」を素材とした方は、熱変形はなく、表面も綺麗であった。
このサイドベース17の他に、車輪取付ベースも製造し、他の部材は現行のSUS304を素材して、物流台車15を組み立てたところ、部材全てをSUS304で製造した場合と比べて、全体の重量は半分に減った。
【産業上の利用可能性】
【0030】
資源高の時代、資源の少ない日本にとっても省資源化は非常に大切であり、特に、部材の軽量化ができれば、完成品が取扱い易くなるだけでなく、部材の製造工程や組立工程、さらには部材の輸送にもその効果が波及し、燃費の向上も図れる。近年、環境問題でCO削減が求められているが、燃費の向上により、このCO削減要求にも答えられる。
また、ステンレスの特殊鋼でありながら、現在使用しているステンレス鋼よりも材料コストが安く、焼入れ・焼戻しと言った熱処理が加わっても、販売価格は現行品よりも抑えられる。
【符号の説明】
【0031】
1‥‥薄肉メタルジョイント
3‥‥ボルト側薄肉ジョイント部材 5‥‥連通孔
7‥‥ナット側薄肉ジョイント部材 9‥‥連通孔
11‥‥ブッシュナット 13‥‥段付きナット
15‥‥物流台車 17‥‥サイドベース
B‥‥ボルト
図1
図2
図3
図4