特許第6232273号(P6232273)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232273
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】指先接触状態測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01L 5/00 20060101AFI20171106BHJP
   G06T 7/60 20170101ALI20171106BHJP
【FI】
   G01L5/00 Z
   G06T7/60
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-255345(P2013-255345)
(22)【出願日】2013年12月10日
(65)【公開番号】特開2015-114169(P2015-114169A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(73)【特許権者】
【識別番号】503061485
【氏名又は名称】株式会社テック技販
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(73)【特許権者】
【識別番号】395009145
【氏名又は名称】カトーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 篤俊
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 司
(72)【発明者】
【氏名】纐纈 和美
(72)【発明者】
【氏名】川副 智行
(72)【発明者】
【氏名】和田 潤
【審査官】 濱本 禎広
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−532216(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2001/0025917(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/00− 5/28
G01L 1/00− 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 指先の爪側から、前記指先の左右の側端の位置をそれぞれ測定する指幅測定手段と、
b) 剛体面を有し、該剛体面に垂直な方向に付与される押圧力と、前記剛体面の面内方向に付与される接線力とを測定する剛体面力測定手段と、
c) 前記指先と前記剛体面の間の滑りを測定する滑り測定手段と、
d) 前記指先の腹を前記剛体面に接触させて該指先を下方に押圧し、指先を左又は右に移動させた際の、前記剛体面力測定手段により測定される押圧力及び接線力と、前記指幅測定手段により測定される指先の左右の側端の位置と、前記滑り測定手段により測定される滑りの大きさとに基づき、被検者の指先の弾性体モデルのパラメータを算出する弾性体モデルパラメータ算出手段と、
e) 被検者の指先を被検面に接触させた際に前記指幅測定手段により測定される指先の左右の側端の位置に基づき、前記弾性体モデルのパラメータを用いて、該指先と該被検面の間の押圧力及び接線力を算出する力算出手段と
を備えることを特徴とする指先接触状態測定装置。
【請求項2】
更に、
f) 被検者の指先の弾性体モデルのパラメータに基づき、各種摩擦係数と押圧力及び接線力の関係を記憶する摩擦状態記憶手段と、
g) 前記剛体面力測定手段により測定される押圧力及び接線力と前記関係に基づき、被検者の指先の摩擦係数を推定する摩擦係数推定手段と
を備えることを特徴とする請求項1に記載の指先接触状態測定装置。
【請求項3】
更に、
h) 被検者の指先を被検面に接触させている際の余裕係数を算出する余裕係数算出手段と
を備えることを特徴とする請求項2に記載の指先接触状態測定装置。
【請求項4】
前記指幅測定手段が、指先の両側端を挟み、それぞれに歪ゲージが取り付けられた2本の可撓性アームから成ることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の指先接触状態測定装置。
【請求項5】
前記指幅測定手段が、指先の爪側から該指先を撮影するカメラと、該カメラで撮影された画像に基づき該指先の左右の側端の位置の変化を測定する側端位置検出部から成ることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の指先接触状態測定装置。
【請求項6】
前記剛体面が透明板から成り、前記滑り測定手段が、該透明板の裏面から該透明板を撮影するカメラと、該カメラで撮影された指先の画像に基づき該指先の滑りの有無を判定する滑り判定部から成ることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の指先接触状態測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間や、弾性体の指先を有するロボットが指先で対象物を把持する際の力や滑り等の状態を測定するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットに人間に近い動作をさせる場合、その重要な動作の一つに、指先で物体(対象物)を把持する(つまむ)という動作がある。対象物を強く把持しすぎると対象物が壊れるおそれがあり、把持力が弱すぎると対象物が指先から落ちてしまう。人間はその把持力を一瞬の間に判断し、調整しているが、ロボットの開発のためにはそのような人間の動作及び指先の状態を正しく測定することが必要である。
【0003】
また、人間が指先で物体を触る場合、その最初に指先を当接させた際の感覚(初期触感)とともに、指先を物体の表面で滑らそうとするときに感じる感覚(滑り触感)も、その物体の表面特性を判断する際に重要な要素となる。このうち、特に、指先の全面滑りが生じる直前(初期滑り状態)の把持力の強さは、例えば、スポーツ用具等の解析の際には重要な要素となる。また、化粧道具等の、一般消費者が指先で操作を行う道具を開発する際にも、このような触感は商品としての重要な特性となる。
【0004】
特許文献1には、指先が全面滑りを起こすまでの滑り余裕や摩擦係数を計測する触覚センサが開示されている。この触覚センサは、弾性体からなるセンサ感知部と、測定対象物との接触面の変形を小型カメラを用いて計測し、この接触面の変形情報、接触面に働く接線方向の力信号、及び弾性体の物性定数を所定の計算アルゴリズムを用いて計算することにより、滑り余裕を求めている。
【0005】
特許文献2には、表面側から押されることで裏面側に窪む弾性体の裏面上の模様をカメラで撮影することにより、押された力の水平分力と垂直分力を測定するセンサが開示されている。特許文献2には、弾性体内部に針金状の歪みセンサを配置したセンサも提案されている。
【0006】
特許文献3には、滑り検出表面に接触している静止物体の滑り開始動作を検出するセンサが開示されている。これは、接触部材と接触受け部材の接触を、両者の間に介挿された感圧導電シートの抵抗値の変化に基づいて検出するものであり、接触部材の滑り変位発生直前に生じた高周波波形成分が所定の閾値を超えたとき滑り変位発生直前に初期滑りが発生したことを確認するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2006/030570号
【特許文献2】特開2009-198475号公報
【特許文献3】特開2010-271242号公報
【特許文献4】特開2013-003782号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】米澤智,「指先接触面の滑り量制御を用いた重量・摩擦提示デバイス」,奈良先端科学技術大学院大学電子図書館 学位論文一覧 情報科学研究科 修士論文 平成23(2011)年3月16日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来の技術ではいずれも、押し付ける方の物体(弾性体)、或いは、押し付けられる方の面にセンサが必要である。人間の指について測定する場合、もちろん、押し付ける方の物体である指の内部にセンサを設けることはできない。また、実際の商品等について測定を行おうとする場合、押し付けられる方の面にセンサを取り付けることもできない。
【0010】
本発明は、押し付ける方(指)と押し付けられる面の間には何も介在させることなく、両者を実際の状況と同じように接触させた状態で両者間の状態を測定する装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために成された本発明に係る指先接触状態測定装置は、
a) 指先の爪側から、前記指先の左右の側端の位置をそれぞれ測定する指幅測定手段と、
b) 剛体面を有し、該剛体面に垂直な方向に付与される押圧力と、前記剛体面の面内方向に付与される接線力とを測定する剛体面力測定手段と、
c) 前記指先と前記剛体面の間の滑りを測定する滑り測定手段と、
d) 前記指先の腹を前記剛体面に接触させて該指先を下方に押圧し、指先を左又は右に移動させた際の、前記剛体面力測定手段により測定される押圧力及び接線力と、前記指幅測定手段により測定される指先の左右の側端の位置と、前記滑り測定手段により測定される滑りの大きさとに基づき、被検者の指先の弾性体モデルのパラメータを算出する弾性体モデルパラメータ算出手段と、
e) 被検者の指先を被検面に接触させた際に前記指幅測定手段により測定される指先の左右の側端の位置に基づき、前記弾性体モデルのパラメータを用いて、該指先と該被検面の間の押圧力及び接線力を算出する力算出手段と
を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る指先接触状態測定装置では、次に説明する「弾性体モデルパラメータ算出段階」と「実測段階」の2つの段階を経て、被検物とそれに接触する指先の間の接触状態を測定する。なお、本発明において「指先」は、人間の指先であってもよいし、人工の指先或いはロボットの指先であってもよい。
【0013】
1.弾性体モデルパラメータ算出段階
(1)人間(被検者)について測定を行う場合は、まず、被検者に、指先に指幅測定手段を装着してもらう。なお、この指先には手指の他、足指も含まれる。人工の指先又はロボットの指先について測定を行う場合は、人工の指先やロボットの指先(擬指先)の弾性体に指幅測定手段を装着する。
指幅測定手段としては、特許文献4に記載の動作検出センサを用いることができる。また、指の爪側から撮影した画像に基づき、左右の側端の位置を測定する装置であってもよい。この場合は、上記「装着」操作は不要である。
(2)その指先を剛体面力測定手段の剛体面に押し付けてもらい(ロボットの指先の場合は、押し付け。以下、同様に動作主体が変わる。)、剛体面を押し付ける力及び左右方向の力を変化させてもらう。
ここで、左右方向とは、指の長軸方向(これをy方向とする)と剛体面の法線の方向(z方向)に共に垂直な方向(x方向)のことをいう。
(3)その間、指幅測定手段により、被検者の指先の左右の側端の位置をそれぞれ測定する。
(4)また、その間、剛体面力測定手段により、剛体面に垂直な方向に付与される押圧力(fz)と、剛体面の面内方向に付与される接線力(fx)とを測定する。
(5)また、その間、滑り測定手段により、被検者の指先と剛体面の間の滑りを測定する。なお、ここでいう指先と剛体面の間の滑りとは、指先の腹の全面が剛体面に対して滑ること(これを「全面滑り」と言う)の他、指先の腹の一部のみが滑る場合も含む。
【0014】
滑り測定手段としては、例えば次のような手段がある。一つは、前記剛体面をガラス板等の透明板として、その裏面側(指を押している面の反対側)から指の腹を撮影し、その指紋(ロボットの場合は、適宜付した模様。)の動きを検出する装置である。もう一つは、剛体面力測定手段で測定される接線力に基づいて測定を行う装置である。一部でも滑りが生じると、押圧力と接線力の関係の変化として現れ、全面滑りが生じるときには、接線力に比較的急激な変化が生じる。
【0015】
(6)剛体面力測定手段により測定される押圧力及び接線力と、前記指幅測定手段により測定される指先の左右の側端の位置と、前記滑り測定手段により測定される滑りの大きさとに基づき、弾性体モデルパラメータ算出手段が、被検者の指先の弾性体モデルのパラメータを算出する。
【0016】
2.実測段階
(1)被検者に、指先に指幅測定手段を装着してもらい、その指先を被検物の表面に押し付けてもらう(ロボットの場合には、押し付ける)。
前記のとおり、指幅測定手段が指の爪側から撮影した画像に基づいて左右の側端の位置を測定する装置である場合は、装着操作は不要である。
(2)そのときの指先の左右の側端の位置を指幅測定手段により測定する。
(3)この測定値に基づき、先に作成されたこの指の弾性体モデルのパラメータを用いて、力算出手段により、指先と被検物の表面の間の押圧力及び接線力を算出する。
【0017】
上記指先の弾性体モデルを用いることにより、その指先の弾性体モデルと剛体面の間が様々な摩擦係数を有する場合に、指先の弾性体モデルの剛体面に対する押圧力と接線力がどのように変化するかを、予めシミュレーションしておくことができる。このシミュレーション結果を用いることにより、実際の指先(人間の指先、ロボットの指先)を被検物の表面に押し付けたとき、上記の方法を用いて算出した押圧力と接線力の変化から、その指先と被検物の間の摩擦係数を推定することができる。この推定結果に基づき、実際の指先が被検物の表面で滑り始めるまでの余裕係数を算出することができる。すなわち、現時点での押圧力に対して、接線力があとどの程度の余裕があるかを知ることができる。これは、例えば、指先で摘んだ物の重量がどの程度大きくなれば、指先から滑り落ちるか等の、指先と被検物との関係を知ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る指先接触状態測定装置では、目的とする指(被検指。人間の指の他、人工の指やロボットの擬指先等も含む。)について一度、その被検指のパラメータを算出しておけば、その被検指で任意の被検物に触ったときの押圧力や接線力を、被検指と被検物の間に異物を介在させることなく測定することができる。また更に、その被検指のパラメータを持つ弾性体モデルを用いた様々な摩擦係数の場合のシミュレーションを行っておき、こうして測定した被検指と被検物の間の押圧力や接線力の変化と照合することにより、被検指と被検物の間の摩擦係数を推定することができる。これを用いることにより、被検指が被検物の表面で滑り始めるまでの余裕係数を算出することができ、スポーツにおいて手や指先で使用する道具の開発や改良、化粧道具等の指先で取り扱う日用品の開発や改良に資する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態である指先接触状態測定装置の概略構成図。
図2】滑り判定部における指先の滑りの判定方法を説明する説明図。
図3】指幅測定装置による指先の左右の側端の移動量測定の様子を示す説明図であり、(a)は指先が剛体面を押圧しない場合、(b)は押圧した場合の図である。
図4】別の指幅測定手段を用いる指先接触状態測定装置の概略構成図。
図5】略半球状の弾性体モデルと剛体板の間の力学的関係を示す説明図。
図6】接線力fxを変化させたとき(a)及び押圧力fzを変化させたときの指幅測定装置である歪ゲージの出力v1(s)、v2(s)の変化を示すグラフ。
図7】伝達関数行列の一例。
図8】伝達関数を用いた算出器の構成例を示すブロック図。
図9】実測値(グレーの、変化の激しい線)と、指幅測定装置の出力と伝達関数を用いて算出した推定値(黒の、変化の少ない線)をプロットしたグラフ。
図10】弾性体と剛体板の間の接線力を変えた場合(a)、及び摩擦係数を変えた場合(b)の滑り状態の時間的変化を示すグラフ。
図11図10のグラフを得るための装置の説明図。
図12】弾性体と剛体板の間の摩擦円錐を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る指先接触状態測定装置の一つの実施形態について説明する。図1は、本発明の指先接触状態測定装置のうち、剛体面力測定手段、滑り測定手段、弾性体モデルパラメータ算出手段及び力算出手段の具体的形態の一例を示した概略構成図である。剛体面力測定手段は透明板(ガラス製又はプラスチック製)11と、その透明板11を保持し、その表面に接触している指先12が該透明板11に付与する力を検出する力検出部13から成る。力検出部13は、透明板11に垂直な方向(z方向)に付与される力(fz)と、透明板11に平行な一方向(x方向)に付与される力(fx)を検出する。なお、透明板11又は力検出部13には、被検者が指の移動方向(力を加える方向=力検出部13が接線力を検出する方向)が分かるように、矢印14等のマークを付けておくことが望ましい。滑り測定手段は、透明板11の裏面側に設けたカメラ15と、制御装置20にインストールされた、該カメラ15からの画像を解析するソフトで構成される滑り測定部22から成る。弾性体モデルパラメータ算出手段は制御装置20内の後述のロジックを用いたソフトで構成される弾性体モデルパラメータ算出部24から成り、力算出手段は制御装置20内のソフトで構成される力算出部21から成る。
【0021】
滑り測定部22は、例えば図2に示すように、カメラ15で撮影される画像から、指先の滑りの大きさを測定する。指先は概略半球状となっているため、指先の滑りは周辺部分から生じ始め、図2(a)〜(e)に示すように、中央の変化しない部分(楕円内の部分)Cが徐々に小さくなっていくという変化の様相を呈する。中央の変化しない部分Cの面積がゼロとなったときを全面滑りが生じた時と判定する。
【0022】
指幅測定手段は、図3に示すように、指先12の爪側に被せる指幅測定装置16から成る。この指幅測定装置16は、特許文献4に記載の動作検出センサを用いるものである。すなわち、指先12を左右から挟む可撓性のアーム16a、16bの表裏にそれぞれ歪ゲージ16c、16dを貼付し、各アーム16a又は16bの両面の歪ゲージ16c、16dの出力より、各アーム16a又は16bのたわみ量を検出する。図3(a)及び(b)に示すように、このたわみ量は指先12の左右の側端のそれぞれの移動量に対応し、事前に測定を行っておくことによりこれらの移動量を正しく決定することができる。
【0023】
なお、指幅測定手段は、図4に示すように、指の爪側から指先を撮影するカメラ17と、その画像から指先の左右の側端の位置をそれぞれ検出し、その変化を測定するソフトで実現される制御装置20内の指幅測定部25で構成してもよい。
【0024】
このような構成を有する本実施形態の指先接触状態測定装置10の使用方法を次に説明する。前記のとおり、実際に対象物と指先の間の接触状態を測定する前に、指先の弾性体モデルのパラメータを算出する。
ここで、指先の弾性体モデルとは、図5に示すように、指先を、縦弾性率E、動粘性係数νの弾性体から成る半径Rの半球体で模したものである。この弾性体モデル18が図5に示すように、押圧力fgで剛体板19に押し付けられ、x方向に接線力flの力が加えられた場合、弾性体モデル18と剛体板19の間の摩擦係数がμであるとすると、その変位δは次式で算出される(非特許文献1)。
δ=(3・μ・fg/16a)((2−ν)/G){1−(1−Φ)2/3} …(1)
G=E/(2・(1+ν)) …(2)
ここで、aは弾性体モデル18と剛体板19の接触部の半径であり、等価弾性係数E'を用いて
a=(3・fg・R/(2・E'))1/3 …(3)
E'=2・E/(1−ν2) …(4)
と計算される。また、Φは接触方向係数と呼ばれるパラメータであり、
Φ=fl/(μ・fg) …(5)
で表される。
【0025】
この弾性体モデルパラメータの算出を、次のようにして行う。
(1)まず、被検者に指幅測定装置16を装着してもらい、図1(a)に示すように、その指先12を透明板11に押し付けてもらう(図1では指幅測定装置16は図示を省略した。)。
(2)そして、被検者に、その押し付け力(fz)及び左右方向の力(fx)を変化させてもらう。
(3)その間、被検者の指先12の左右の側端の位置をそれぞれ測定するとともに、力検出部13により透明板11に付与される押圧力fz(s)と接線力fx(s)を測定する。また、指先12と透明板11の間の滑りを測定する。ここで、指先12の左右の側端の位置の変化は、図3の左右のアーム16a、16bの歪ゲージ16c、16dの出力v1(s)、v2(s)で表す。なお、sは時間の逆数(1/t)である。
接線力fxを変化させたときの指先の左右の歪ゲージの出力v1(s)、v2(s)の変化の一例を図6(a)に、また、押圧力fzを変化させたときのv1(s)、v2(s)の変化を図6(b)に示す。
(4)押圧力fz(s)と接線力fx(s)、及び、指先の左右の側端の位置の変化v1(s)、v2(s)に基づき、伝達関数パラメータ算出部23が、次の式で定義される伝達関数G(s)のパラメータ(a11〜e22)を算出する。
F(s)=G(s)・v(s) …(6)
式(6)において、F(s)及びv(s)は次式に示すような2次元ベクトルであり、G(s)は図7に示す2×2行列である。
F(s)=(fx(s),fz(s)) …(7)
v(s)=(v1(s),v2(s)) …(8)
図7の例では伝達関数G(s)はsの2次多項式を用いているが、伝達関数はこれに限られない。
【0026】
また、これらの値fz、fxを用いて、弾性体モデルパラメータ算出部24が式(1)より(式(1)では、fz=fg、fx=fl)、指先の弾性体モデルのパラメータである縦弾性率E、動粘性係数ν、摩擦係数μを算出する。
【0027】
こうして、被検指の伝達関数G(s)のパラメータ及び弾性体モデルのパラメータを決定した後、その被検指と実際の被検物の間の力学的関係を実測する。すなわち、
(1)指幅測定装置16を装着した状態で、指先12を被検物の表面に押し付けてもらう。
(2)その時の指先の左右の側端の位置を、指幅測定装置16の出力v1、v2により測定する。
(3)この測定値(出力値v1、v2)に基づき、先に作成されたこの指の伝達関数Gを用いて、式(1)により指先と被検物の表面の間の押圧力fz及び接線力fxを算出する。これが、指先12と被検物の表面の間に働く力の推定値となる。
【0028】
伝達関数Gを用いた算出器の構成例を図8に示す。この構成では、入力値であるv=(v1,v2)を積分したものに状態行列を乗じてフィードバックすることを複数回繰り返すことにより、押圧力F=(fx,fz)を算出する。
【0029】
この推定値の精度を検証するため、上記方法で伝達関数を算出した後、図1の指先接触状態測定装置10の透明板11を被検物として、被検者に様々な力で透明板11に力を加えてもらい、力検出部13で実測した値と、指幅測定装置16の出力v1、v2と伝達関数Gを用いて算出した値(推定値)を同一グラフ上にプロットしたものを図9に示す。グレーの、変化の激しい線が実測値であり、黒の、変化の少ない線が推定値であるが、両者はかなり良い一致を示している。
【0030】
指先が被検物の表面で滑らない(全面滑りが生じない)間の力学関係は上記の方法により測定することができるが、指先に更にどれだけの力を加えたら指が被検物の表面で滑り始めるか(すなわち、滑り発生までの余裕係数)を知ることはできない。そこで、この状態での余裕係数を知るため、前記の指先の弾性体モデルを用いて予め次のようなシミュレーションを行っておく。
【0031】
図5に示すように、弾性体モデル18と剛体板19の間に種々の値の摩擦係数μを設定した上で、図11のような装置を用いて、両者間の滑りの状態を計算した結果を図10に示す。図10(a)、(b)の縦軸は、弾性体モデル18と剛体板19の間の接触面の中心に対する弾性体モデル18の中心の偏移(Eccentricity、δ)である。図10(a)は、弾性体モデル18と剛体板19の間の摩擦係数をμ=1とし、両者を接触させた状態で、剛体板19に対して、50 g〜500 gの種々の接線力flを印加した場合の、弾性体モデル18の中心の偏移(Eccentricity)の時間的変化を示すものである(50g〜500gの種々の重量の物体を持ち上げた場合に相当)。図10(a)において、弾性体モデル18の中心の偏移(Eccentricity)の大きさは、接線力flにより異なる。すなわち、接線力flが小さいほど、偏移(前記の被検者の指先の左右の側端の位置に対応する)が小さく、接線力flが大きいほど、偏移が大きいことを、図10(a)は示している。
【0032】
また、図10(b)は、一定(200 g)の接線力flを付与し、両者間の摩擦係数μを0.3〜1.8の間で様々に変化させた場合の、弾性体モデル18の中心の偏移(Eccentricity)の時間的変化のグラフである。このグラフは、摩擦係数μが0.3と非常に小さいときは弾性体18の中心の偏移(Eccentricity)が大きいものの、摩擦係数μがそれよりも大きいとき(すなわち、指先と被検物の表面の間が滑りにくいとき)は、弾性体18の中心の偏移(Eccentricity)は摩擦係数にはあまり依存しないことを示している。
【0033】
こうして、被検指先について測定を行うことにより上記のようにその被検指先の弾性体モデルのパラメータを決定し、そのパラメータを有する弾性体を用いて、剛体面である被検物の表面との間の様々な押圧力fg、接線力fl、摩擦係数μについてシミュレーションを行っておくことにより、被検指先を被検物の表面に押し付けている際の余裕係数Φを次のように計算することができる。
Φ=fx/(μ・fz) …(9)
式(9)の状態は、分かりやすく表すと、図12のようになる。すなわち、垂直押圧力fzとそれに摩擦係数を乗じた値μ・fzで形成される三角形(3次元的には、接触点を頂点とする円錐。これを摩擦円錐と呼ぶ。)の中に接線力fxが収まっている間は、滑りが生じない。余裕係数Φは、その摩擦円錐内での接線力の位置を表す。
この余裕係数Φを算出することにより、指先がその被検物の表面で滑り始めるまでに、まだどの程度力を付与することができるかを知ることができる。
【0034】
以上のように、本実施形態による装置を用いて、スポーツ用具や日用品について、指先のそれら被検物への力の付与状態、及び、各時点での余裕係数を算出することにより、それら用具・用品の開発・改良に資することができる。
【符号の説明】
【0035】
10…指先接触状態測定装置
11…透明板
12…指先
13…力検出部
15…カメラ
16…指幅測定装置
16a、16b…アーム
16c、16d…歪ゲージ
17…カメラ
18…弾性体モデル
19…剛体板
20…制御装置
21…力算出部
22…滑り測定部
23…伝達関数パラメータ算出部
24…弾性体モデルパラメータ算出部
25…指幅測定部
図1
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図12