特許第6232305号(P6232305)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6232305キャリアテープ用基材シートの製造方法およびキャリアテープの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232305
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】キャリアテープ用基材シートの製造方法およびキャリアテープの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 47/06 20060101AFI20171106BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20171106BHJP
   B29K 23/00 20060101ALN20171106BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20171106BHJP
【FI】
   B29C47/06
   B32B27/30 B
   B29K23:00
   B29L9:00
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-21864(P2014-21864)
(22)【出願日】2014年2月7日
(65)【公開番号】特開2015-147359(P2015-147359A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2016年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(74)【代理人】
【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100129067
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 能章
(72)【発明者】
【氏名】村岡 喬梓
(72)【発明者】
【氏名】武井 淳
(72)【発明者】
【氏名】廣川 裕志
(72)【発明者】
【氏名】升田 優亮
【審査官】 大塚 徹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/099068(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/046807(WO,A1)
【文献】 特開2005−297504(JP,A)
【文献】 特開2006−123541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 47/00 − 47/96
B32B 27/00 − 27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂およびABS系樹脂から選択されるスチレン系樹脂を加熱溶融し、Tダイから押し出して製造するキャリアテープ用基材シートの製造方法であって、
押出機と前記Tダイとの間に複数の直方体孔を有するフィードブロックを設置し、前記スチレン系樹脂を前記直方体孔を通過させた後に、前記Tダイから押し出して製造する方法であり、
前記フィードブロックに設けられた前記直方体孔の数が5〜100であり、
前記直方体孔の高さが0.5〜4mmであり、
前記直方体孔の高さに対する幅の比率が10以上であり、
隣り合う前記直方体孔は幅方向が互いに平行となるように設置されており、
前記直方体孔の幅方向と前記Tダイの幅方向が平行である
ことを特徴とするキャリアテープ用基材シートの製造方法。
【請求項2】
隣り合う前記直方体孔間の間隔が0.5〜3mmである請求項1に記載のキャリアテープ用基材シートの製造方法。
【請求項3】
前記直方体孔の長さが20〜90mmである請求項1または請求項2に記載のキャリアテープ用基材シートの製造方法。
【請求項4】
前記スチレン系樹脂のJIS K7210で規定される230℃、2.16kgf荷重におけるメルトフローレイトが、1〜30g/10分である請求項1〜3のいずれか1項に記載のキャリアテープ用基材シートの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のキャリアテープ用基材シートの製造方法で製造されたキャリアテープ用基材シートの少なくとも一方の面に、下記の(a)〜(c)の成分を含有する導電性樹脂組成物からなる層を積層してなるキャリアテープの製造方法
(a)ポリカーボネート樹脂30〜75質量%
(b)ポリアルキレンテレフタレート樹脂5〜40質量%
(c)カーボンブラック20〜30質量%
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IC等の電子部品を包装するキャリアテープ用基材シートの製造方法、キャリアテープ用基材シートおよびキャリアテープに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や電子部品、特に集積回路(IC)やICを用いた電子部品のための包装形態として、熱可塑性樹脂シートを加熱成形して得られる真空成形トレー、エンボスキャリアテープなどが使用されている。ICや、ICを有する各種の部品の包装容器用シートに用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ABS系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が使用されている。中でも基材層がスチレン系樹脂からなり、その表面にカーボンブラック等を含有したスチレン系樹脂からなる導電層を形成した導電性シートは、静電気によるトラブル防止の効果を有すると同時に、その機械特性が優れていることから広く使用されている(特許文献1および2参照)。しかしながら、近年IC等の電子部品の小型化にともなって、キャリアテープ等の性能として、原反シートをテープの幅にスリットする際や、エンボス成形の際にスプロケットホール等を打ち抜く際にその断面に毛羽やバリが発生することが、大きな解決すべき課題としてクローズアップされてきた。
【0003】
このような課題を解決する目的で、例えば基材層または表面導電層にポリオレフィンや、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体や、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体等を配合することが提案されている(例えば特許文献3および4参照)。スリットやスプロケットホールの打ち抜き等で発生する毛羽やバリは、このような改善策をとることによって改善される場合もあるが、スリットの方法や、エンボス成形に用いる成形機によっては、改善が殆ど認められない場合があった。このように、毛羽や打ち抜きバリの問題は、スチレン系樹脂からなるキャリアテープ用基材シートではその改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−174769号公報
【特許文献2】特開2002−292805号公報
【特許文献3】国際公開第2006/030871号
【特許文献4】特開2003−170547号公報
【特許文献5】国際公開第2012/046807号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献5には、10〜50層積層した多層の基材シートに導電性樹脂層を積層した導電性多層シートが開示されている。多層シートの製造方法として、フィードブロックとスクエアミキサーを用いている。毛羽や打ち抜きバリを低減するために有効な方法を提供するものであるが、比較的複雑な構成の製造装置を必要とするものである。
【0006】
本発明は、キャリアテープ用基材シートをスリットする工程やエンボス成形における打ち抜きの際に、毛羽やバリの発生を低減することができるキャリアテープ用基材シートの製造方法およびキャリアテープの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、検討を進めた結果、基材シートの製造方法において、溶融樹脂を通過させるための多数の横長の直方体孔を有したフィードブロックを、押出機とTダイとの間に設置することによって、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明に到達することができた。
上記課題を解決するため、本発明は、以下の構成を有している。
【0008】
(1)ポリスチレン系樹脂およびABS系樹脂から選択されるスチレン系樹脂を加熱溶融し、Tダイから押し出して製造するキャリアテープ用基材シートの製造方法であって、押出機と前記Tダイとの間に複数の直方体孔を有するフィードブロックを設置し、前記スチレン系樹脂を前記直方体孔を通過させた後に、前記Tダイから押し出して製造する方法であり、前記フィードブロックに設けられた前記直方体孔の数が5〜100であり、前記直方体孔の高さが0.5〜4mmであり、前記直方体孔の高さに対する幅の比率が10以上であり、隣り合う前記直方体孔は幅方向が互いに平行となるように設置されており、前記直方体孔の幅方向と前記Tダイの幅方向が平行であることを特徴とするキャリアテープ用基材シートの製造方法である。
【0009】
(2)隣り合う前記直方体孔間の間隔が0.5〜3mmである前記(1)に記載のキャリアテープ用基材シートの製造方法である。
【0010】
(3)前記直方体孔の長さが20〜90mmである前記(1)または前記(2)に記載のキャリアテープ用基材シートの製造方法である。
【0011】
(4)前記スチレン系樹脂のJIS K7210で規定される230℃、2.16kgf荷重におけるメルトフローレイトが、1〜30g/10分である前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のキャリアテープ用基材シートの製造方法である。
【0013】
)前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のキャリアテープ用基材シートの製造方法で製造されたキャリアテープ用基材シートの少なくとも一方の面に、下記の(a)〜(c)の成分を含有する導電性樹脂組成物からなる層を積層してなるキャリアテープの製造方法である。(a)ポリカーボネート樹脂30〜75質量%、(b)ポリアルキレンテレフタレート樹脂5〜40質量%、(c)カーボンブラック20〜30質量%
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法を用いてキャリアテープ用基材シートを製造することによって、キャリアテープ用基材シートまたは当該基材シートからなるキャリアテープをスリットしたり、エンボス成形における打ち抜きをしたりする際に、毛羽やバリの発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】押出機とTダイとの間に設置されたフィードブロックを説明するための製造装置の図である。図1(a)は、押出機とTダイとの間にフィードブロックを有していない製造装置の模式的側面図である。図1(b)は、押出機とTダイとの間にフィードブロックを有する製造装置の模式的側面図である。
図2】フィードブロックの斜視図とその一部分の拡大図である。
図3】フィードブロック付近の模式的平面図と模式的断面図である。
図4】(a)実施例と(b)比較例における打ち抜き面の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明の範囲は、以下に説明する具体例としての実施形態や図面に限定されるわけではない。まず、本実施形態のキャリアテープ用基材シートの製造方法に使用する製造装置について説明する。
【0017】
(製造装置)
図1は、キャリアテープ用基材シートを製造するための製造装置であって、押出機1とTダイ2との間に設置されたフィードブロック4を説明するための図である。図1(a)は、押出機1とTダイ2との間にフィードブロック4を有していない製造装置の模式的側面図である。図1(b)は、押出機1とTダイ2との間にフィードブロック4を有している製造装置の模式的側面図である。本実施形態の製造方法は、図1(b)の製造装置を使用して製造する方法である。図1(a)の製造装置は、本発明の比較例に相当する製造方法に係るものである。
【0018】
図1(b)の製造装置において、押出機1の先端部とフィードブロック4との間には、押出機の先端部からフィードブロック4の流入口まで溶融樹脂の流れを拡げて導くための導入ブロック5が設置されている。また、フィードブロック4とTダイ2との間には、フィードブロック4の流出口からTダイ2の流入口まで溶融樹脂の流れを狭めて導くための導出ブロック6が設置されている。導入ブロック5とフィードブロック4と導出ブロック6とは、ボルトで一体化されて、金属ブロック3を構成している。押出機1の先端部と金属ブロック3、金属ブロック3とTダイ2とはそれぞれボルトで固定されている。
【0019】
押出機1によって加熱溶融されたスチレン系樹脂は、押出機1の先端部から押し出される。押し出されたスチレン系樹脂は、導入ブロック5を通じて、フィードブロック4を通過する。その後、導出ブロック6を通じて、Tダイ2に流入する。さらにTダイ2の出口からシート状に押し出されて基材シートとなる。金属ブロック3とTダイ2は、スチレン系樹脂の流動状態を円滑に保つために、押出機1と同様に、ヒーター等で加温されている。
【0020】
押出機1には、特に制約はなく、一軸押出機、二軸押出機等、公知の種々の押出機を用いることができる。また、Tダイ2にも、特に制約はなく、公知の種々のTダイを用いることができる。
【0021】
図2は、フィードブロック4の斜視図とその一部分の拡大図である。
フィードブロック4は、外部形状が円筒形であり、フィードブロック中心部7に、溶融樹脂を通過させるための複数の直方体孔9を有している。個々の直方体孔9の断面形状は、横に長い長方形である。直方体孔9の断面形状は、高さはG、幅はWで表わされる。直方体孔9はフィードブロック4を長さ方向に貫通しており、フィードブロック4および直方体孔9の長さはLで表わされる。また、隣り合う直方体孔9間の間隔はTで表わされる。
【0022】
図3(a)は、フィードブロック4付近の模式的平面図である。図3(b)は、図3(a)のA−A面におけるフィードブロック4の模式的断面図である。図3(a)において溶融樹脂の流れる方向は矢印で示されている。溶融樹脂は、まず上方の押出機(不図示)から下方へ押し出される。最初に導入ブロック5を通過する。このとき、溶融樹脂の流れの幅が拡がる。次に、フィードブロック4Aとフィードブロック4Bを通過する。フィードブロック4Aとフィードブロック4Bはその中心部7に同等の寸法の同数の直方体孔を有している。フィードブロック4は、フィードブロック中心部7の分解掃除を容易にするために、上下2つの部分であるフィードブロック4Aとフィードブロック4Bに分割できるように作製されている。次に、溶融樹脂は、導出ブロック6を通過する。このとき、溶融樹脂の流れの幅が狭められる。その後、溶融樹脂は、下方に存在するTダイ(不図示)の流入口に流入する。
【0023】
フィードブロック4は、鉄合金等の金属材料によって形成されている。SUSが代表的な材料である。導入ブロック5および導出ブロック6を構成する材料も同様である。
フィードブロック4の外部形状は、円筒形、直方体等、特に限定されない。
【0024】
直方体孔9の高さGは、0.5〜4mmであり、1〜2mmであることがより好ましい。直方体孔9の高さGが0.5mm未満であると、直方体孔9を通過するときの樹脂圧力が上昇し、シート化が困難となる場合がある。また直方体孔9の高さGが4mmを超えると、均一な層構成を形成することが困難となる場合がある。
【0025】
直方体孔9の高さGに対する幅Wの比率は10以上である。また、直方体孔9の数は、5〜100であり、好ましくは、15〜50である。直方体孔9の断面形状がこのように横に長い長方形であり、直方体孔9が5〜100の複数個あることによって、後記するように、本発明の効果を発現することが可能となる。
【0026】
隣り合う直方体孔9は幅方向が互いに平行となるように設置されている。また、直方体孔9の幅方向とTダイ2の幅方向も平行となるように設置されている。直方体孔9の配列がこのように構成されていることによって、複数の直方体孔9を通過した溶融樹脂が厚さ方向に積層して、基材シートが製造されることとなり、後記するように、本発明の効果を発現することが可能となる。
【0027】
隣り合う直方体孔9間は、金属板8で仕切られている。隣り合う直方体孔9間の間隔Tは、金属板8の厚さに相当するが、0.5〜3mmであることが好ましい。また1〜2mmであることがより好ましい。直方体孔9間の間隔Tが0.5mm未満であると樹脂通過時に、樹脂圧力に直方体孔9間の壁部を構成する金属板8が耐えきれず変形してしまい、基材シートの多層構造を形成することが困難となる場合がある。また直方体孔9間の間隔Tが3mmより厚いと、一体化した基材シートを形成することが困難となる場合がある。
【0028】
直方体孔9の長さLは、20〜90mmであることが好ましい。また30〜60mmであることがより好ましい。直方体孔9の長さLが20mmより短いと直方体孔9を抜けた後の各層同士の層界面が不明瞭となり、本発明の効果を発現することが困難となることがある。また、90mmより長いと押出時の圧力損失が大きくなり、押出機にかかる樹脂圧力が高くなり、シート形成が困難となることがある。
【0029】
(製造方法)
本実施形態の製造方法は、前記の図1(b)に示される製造装置を使用して、キャリアテープ用基材シートを製造するものである。すなわち、押出機1とTダイ2との間に複数の特定形状の直方体孔9を有するフィードブロック4を設置し、スチレン系樹脂を押出機1を用いて加熱溶融し、フィードブロック4の有する複数の直方体孔9を通過させた後に、Tダイ2から押し出して、キャリアテープ用基材シートを製造する方法である。スチレン系樹脂としては、ポリスチレン系樹脂およびABS系樹脂から選択される。
【0030】
Tダイ2から押し出されたシートは、冷却されて、未延伸シートとして巻き取りロールに巻き取られる。必要に応じて、その後、一軸延伸や二軸延伸される。Tダイ2から押し出された後の冷却方法、延伸方法、巻き取り方法やそれらの装置については、公知の方法や装置を用いることができる。
【0031】
本実施形態のキャリアテープ用基材シートの厚さは、好ましくは0.1〜3.0mmであり、より好ましくは0.15〜2.0mmである。特に厚さが0.15〜0.6mmの基材シートはエンボスキャリアテープに二次成形して使用する電子部品包装用シートとして好適に用いることができる。また、厚さが、0.5〜2.0mmの基材シートはトレーとして二次成形して電子部品、機械部品等を収納する包装用シートとして好適に用いることができる。
【0032】
本発明者らは、上記の本実施形態の製造方法で製造されたキャリアテープ用基材シートは、キャリアテープ用基材シートをスリットする工程やエンボス成形における打ち抜きの際に、毛羽やバリの発生を低減することができることを見出した。
また、フィードブロックを設置する押出機として、特に制約があるわけではなく、種々の種類の押出成形機に対しても、同様の効果を発現させることができる。
【0033】
また、本実施形態の製造方法で製造されたキャリアテープ用基材シートを用い、その片側もしくは両側の表面にカーボンブラックを含有する導電性樹脂組成物からなる層を積層することによって、毛羽やバリの発生が極めて少ない導電性のキャリアテープを得ることができる。
【0034】
キャリアテープ用基材シートの少なくとも一方の面に、後記する導電性樹脂組成物からなる層を積層する方法については、ラミネート法や共押出法等の公知の方法を用いることができる。
【0035】
本実施形態の製造方法を用いて製造されたキャリアテープ用基材シートまたはキャリアテープが上記の効果を発現する理由について、明確なメカニズムは判明していないが、以下のように考えている。
本実施形態の製造方法によって製造された基材シートは、同一の樹脂で形成されているが、製造途中に複数の異なる直方体孔を経由し、その後合流して合体して1枚のシートを形成している。そのため、異なる経路を経由した複数の層が積層した構造を有しており、個々の層間には界面が存在していると見なすことができる。
この基材シートを打ち抜いたときに、一つの層から樹脂の伸びに起因したバリが発生しても、一層の層厚みが薄いことによって、バリの長さは抑制される。更に次の層との界面でバリの成長が止まる。これらのことから、本実施形態の製造方法による基材シートにおいて、問題となるようなバリの抑制効果が得られると考えることができる。直方体孔の数が5未満であると、個々の層から発生する樹脂の伸びに起因したバリが長くなるため、問題となるバリの発生を抑制することができなくなる。また、直方体孔の数が100を超えると、シート全体の挙動が単層とほぼ同様に振舞うため、多層としてのバリ抑制の効果が得られない。
【0036】
尚、本発明の効果を発揮する限りにおいて、本実施形態において、直方体孔9の断面形状の長方形の角が丸味を有していたり、直方体孔9の長さ方向が直線ではなく、湾曲等していても構わない。
【0037】
(構成材料)
次に、本実施形態のキャリアテープ用基材シートおよびキャリアテープを構成する材料について説明する。
本実施形態において、スチレン系樹脂は、ポリスチレン系樹脂およびABS系樹脂から選択されるものである。
【0038】
ポリスチレン系樹脂には、ポリスチレン樹脂及び耐衝撃性スチレン系樹脂(ゴム変性スチレン樹脂、HIPS)が含まれる。ポリスチレン系樹脂を構成する芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1−ジフェニルエチレン等がある。これらの芳香族ビニル単量体のうち、通常は、スチレン、ビニルトルエン、o−メチルスチレン等、特にスチレンが使用される。耐衝撃性スチレン系樹脂とは、ブタジエンを主成分とするゴムをグラフト重合したポリスチレン樹脂である。これらポリスチレン樹脂及び耐衝撃性スチレン系樹脂はそれぞれ単独で用いることもできるし、併用してもよい。
【0039】
ABS系樹脂は、シアン化ビニル単量体−ジエン系ゴム−芳香族ビニル単量体の3元共重合体を主成分とするものである。代表的な樹脂として、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンの3元共重合体を主成分とする樹脂又は樹脂組成物を意味する。その具体例としては、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン3元共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン3元共重合体とアクリロニトリル−スチレン2元共重合体の混合物が挙げられる。本実施形態では、これらの中でアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン3元共重合体を用いるのが好ましく、更に、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン3元共重合体とアクリロニトリル−スチレン2元共重合体の混合物を用いるのがより好ましい。これらの重合体には、前記の単量体単位に加えて、スチレン系単量体の微量成分として、o−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジメチルスチレン、クロロスチレン、ビニルナフタレン等の単量体を含有するものも含まれる。またシアン化ビニル単量体の微量成分として、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリル等の単量体を含有するものも含まれる。以下の記載では微量成分についての記載は省略するが、本実施形態の効果を損なわない範囲で、これらの成分を含有するものも包含される。
【0040】
前記アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン三元共重合体は、例えば、ポリブタジエンやスチレン−ブタジエン共重合体等のジエン系ゴムの存在下で、スチレン等の芳香族ビニル単量体や、アクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体をグラフト共重合することによって得られる。
【0041】
ABS系樹脂として、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン三元共重合体とアクリロニトリル−スチレン二元共重合体の混合物を使用する場合には、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン三元重合体として、ジエン系ゴムが40〜60質量%、好ましくは40〜55質量%、芳香族ビニル単量体が25〜45質量%、好ましくは30〜40質量%、シアン化ビニル単量体が5〜25質量%、好ましくは5〜20質量%、更に好ましくは5〜18質量%を主成分とするグラフト共重合体を使用するのが好ましい。また、アクリロニトリル−スチレン二元共重合体としては、芳香族ビニル単量体が60〜85質量%、好ましくは65〜80質量%、シアン化ビニル単量体が15〜40質量%、好ましくは20〜35質量%を主成分とする共重合体を使用するのが好ましい。アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン三元共重合体とアクリロニトリル−スチレン二元共重合体の混合比率は、好ましくは、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン三元共重合体15〜60質量部とアクリロニトリル−スチレン二元共重合体40〜85質量部であり、より好ましくは、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン三元共重合体30〜45質量部とアクリロニトリル−スチレン二元共重合体55〜70質量部である。アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン三元共重合体のグラフト率は30〜120質量%が好ましく、より好ましくは50〜80%である。
【0042】
ABS系樹脂中のジエン系ゴム含有量は5〜30質量%が好ましく、より好ましくは5〜23質量%であり、更に好ましくは8〜20質量%である。ジエン系ゴムの含有量が5質量%より少ないと強度が低下してしまい、30質量%より多いとバリの発生が多くなる傾向がある。
【0043】
ABS系樹脂中のシアン化ビニル単量体含有量は好ましくは10〜30質量%であり、より好ましくは15〜27質量%であり、さらに好ましくは20〜25質量%である。シアン化ビニル単量体の含有量がこの範囲より少ないと剛性が低下し、この範囲より多いとポリスチレン系樹脂等との間で相間剥離を生じやすくなってしまう。尚、ABS系樹脂中の残りの成分である芳香族ビニル単量体含有量は好ましくは40〜80質量%、より好ましくは55〜80質量%、特に好ましくは65〜72質量%の範囲で用いる。
【0044】
また、本実施形態では、上記のポリスチレン系樹脂およびABS系樹脂に加えて、実用上の物性を損なわない範囲で、その他の成分が共重合されたものや他の樹脂をブレンドしたものを使用することができる。
【0045】
本実施形態では、製造時の流動性やシートとしての加工性や機械的性能等の観点から、スチレン系樹脂のJIS K7210で規定される230℃、2.16kgf荷重におけるメルトフローレイトは、1〜30g/10分である。好ましくは、5〜20g/10分である。
【0046】
[キャリアテープ]
本実施形態のキャリアテープ用基材シートの少なくとも一方の面に、下記の(a)〜(c)の成分を含有する導電性樹脂組成物からなる層を積層して、キャリアテープとすることができる。
(a)ポリカーボネート樹脂30〜75質量%
(b)ポリアルキレンテレフタレート樹脂5〜40質量%
(c)カーボンブラック20〜30質量%
【0047】
ポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物から誘導されたものであり、芳香族ジヒドロキシ化合物が好ましく、特に2つの芳香族ジヒドロキシ化合物がある種の結合基を介して結合した芳香族ジヒドロキシ化合物(ビスフェノール)が好ましい。これらは公知の製法により製造されたものを使用でき、その製法に限定されるものではなく、市販の樹脂を使用することができる。
【0048】
ポリアルキレンテレフタレート樹脂は、テレフタール酸と多官能グリコールより得られるポリエステル樹脂である。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートおよびこれらのその他の共重合体が挙げられる。これらは公知の製法により製造されたものを使用でき、その製法に限定されるものではなく、市販の樹脂を使用することができる。
【0049】
カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等であり、好ましくは比表面積が大きく、樹脂への添加量が少量で高度の導電性が得られるものである。例えばS.C.F.(Super Conductive Furnace)、E.C.F.(Electric Conductive Furnace)、ケッチェンブラック(ライオン−AKZO社製商品名)、アセチレンブラック等がある。その添加量は、表面固有抵抗値を好ましくは10〜1010Ωとすることのできる添加量である。
【0050】
上記の成分からなる導電性樹脂組成物の組成は、成形加工性、機械的物性、導電性等の観点から、(a)ポリカーボネート樹脂30〜75質量%、(b)ポリアルキレンテレフタレート樹脂5〜40質量%、(c)カーボンブラック20〜30質量%とする。より好ましくは、(a)ポリカーボネート樹脂40〜65質量%、(b)ポリアルキレンテレフタレート樹脂15〜30質量%、カーボンブラック20〜30質量%である。
【0051】
導電性樹脂組成物からなる層の厚さは、導電性能や剥離強度等の観点から、好ましくは10〜600μmであり、より好ましくは20〜450μmである。
【0052】
本実施形態のキャリアテープは、基材シートの少なくとも一方の面に、上記の導電性樹脂組成物からなる層(導電層)を積層してなるものである。具体的には、基材シート/導電層、導電層/基材シート/導電層の構成を取ることが可能である。特に、基材シートの両面で静電気の発生を抑制する意味からは、導電層/基材シート/導電層の構成が好ましい。また、キャリアテープの厚さに対する導電性樹脂組成物からなる層の厚さの比率は(両面に有する場合にはそれぞれ)2〜30%が好ましい。
【0053】
本実施形態のキャリアテープ用基材シートは、真空成形、圧空成形、プレス成形等の公知の成形方法を利用することによって、キャリアテープ(エンボスキャリアテープ)およびトレー等の種々の形状の電子部品包装容器を得ることができる。本実施形態のキャリアテープについても同様である。
【0054】
本実施形態のキャリアテープ用基材シートまたはキャリアテープを用いることによって、これらを長さ方向にスリットする際に、スリット刃やスリットされたシートの耳に付着する毛羽やバリの発生を極めて少なくすることができる。具体的には、リング状組み合わせ刃を用いたスリット工程において、毛羽やバリが少なく、シート幅の安定したスリット端面を得ることが可能となる。
【0055】
また、本実施形態のキャリアテープ用基材シートまたはキャリアテープを用いることによって、電子部品包装容器の成形において、スプロケットホール等を打ち抜く際に、その断面に毛羽やバリの発生が極めて少ない包装容器を得ることができる。特にキャリアテープのエンボス成形において極めて有効である。そしてこれらの成形および二次加工を用いることによって、スリット幅、打ち抜き孔径等の寸法精度に優れ、打ち抜きの際のバリの発生が著しく抑制されたエンボスキャリアテープを製造することができる。
【0056】
具体的には、エンボスキャリアテープ等のスリット及び打ち抜きの二次加工工程において、打ち抜き加工の条件は、ピン/ダイの片側クリアランスが5〜50μmの間の一定の広い範囲で、且つ打ち抜き速度が10〜300mm/secのような広範囲の打ち抜きで、孔径寸法の安定した、毛羽、バリの発生を著しく抑制したスプロケットホールを得ることができる。
【0057】
本実施形態のエンボスキャリアテープは、前記の成形方法で形成された収納部に電子部品を収納した後に、カバーテープによって蓋をしてリール状に巻き取ったキャリアテープ体として、電子部品の保管および搬送に用いることができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
【0059】
[実施例1]
図1(b)に記載の製造装置と同等の構成を有する製造装置を用いた。
押出機としては、φ65mm単軸押出機を使用した。フィードブロックは、その中心部に直方体孔の数が16であり、直方体孔の高さが2mmであり、直方体孔の長さが30mmである直方体孔を有するものを用いた。直方体孔の幅が50mmであることから、直方体孔の高さに対する幅の比率は25であった。また、直方体孔間の間隔は1mmであった。
【0060】
スチレン系樹脂として、ABS樹脂(電気化学工業社製、品番SE−10)を用いた。このABS樹脂のJIS K7210で規定される230℃、2.16kgf荷重におけるメルトフローレイトは、9g/10分であった。
【0061】
ABS樹脂を押出機を用いて溶融押出を行った。このとき、押出機のシリンダー温度は220℃であり、吐出量は約900g/分であった。溶融したABS樹脂は、押出機を出た後、フィードブロックに導入され、フィードブロックを通過後、Tダイから押し出されて、シート状に成形された。このとき、フィードブロックの温度は、220℃であり、Tダイの温度は、220℃であった。その後、シートは80℃に温調したロールで冷却固化させた後、巻き取りロールで巻き取った。得られた基材シートの厚さは300μmであった。
【0062】
[実施例2]
直方体孔の数を34とし、直方体孔の高さを1mm、直方体孔の長さを60mmへと変更した以外は、実施例1と同様の方法で基材シートを製膜した。
【0063】
[実施例3]
直方体孔の数を34とし、直方体孔の高さを1mm、直方体孔の長さを90mmへと変更した以外は、実施例1と同様の方法で基材シートを製膜した。
【0064】
[実施例4]−[実施例7]
直方体孔の数、直方体孔の高さ、直方体孔間の間隔、直方体孔の長さを表1に示す値に変更した以外は、実施例1と同様な方法で基材シートを製膜した。
【0065】
[比較例1]
フィードブロックを使用せず、図1(a)に記載の製造装置と同等の構成を有する製造装置を用いた。押出機としては、実施例1と同様に、φ65mm単軸押出機を使用し、Tダイは実施例1と同等のものを用いた。実施例1で使用したABS樹脂を使用し、実施例1と同様な方法で基材シートを製膜した。押出機のシリンダー温度は220℃であり、吐出量は約900g/分であった。得られた基材シートの厚さは300μmであった。
【0066】
[比較例2]
直方体孔の数を3とし、直方体孔の高さを1mmへと変更した以外は、実施例1と同様の方法で基材シートを製膜した。
【0067】
[比較例3]
直方体孔の数を120とし、直方体孔の高さを0.3mm、直方体孔間の間隔を0.5mmへと変更した以外は、実施例1と同様の方法で基材シートを製膜した。
【0068】
基材シート製造装置によって得られた基材シートの評価は以下の方法に従った。
【0069】
<打ち抜き性評価>
各実施例および比較例で製膜した基材シートを真空ロータリー式エンボスキャリアテープ成形機(CTF−200、CKD社製)で成形した。成形工程においてエンボスキャリアテープの個々のスプロケットホールの打ち抜きを、下記の条件範囲で行なった。
(打ち抜き条件) ピン/ダイのクリアランス:片側1〜50μm
打ち抜き速度:10〜300mm/sec
次に各サンプルのスプロケットホールを顕微鏡(MF-A、Mitutoyo社製)で30倍の倍率で撮影し、その写真を画像処理して毛羽、バリの発生頻度を数値化した。数値化の方法は撮影した写真を画像編集ソフト(Photoshop、Adobe社製)で2値化(白黒画像化)し、打ち抜き孔部のピクセル数をカウントした。毛羽、バリが全く発生していない規定の孔径の真円のピクセル数と、各サンプルの打ち抜き孔部のピクセル数との比率計算から、毛羽、バリが打ち抜き孔を覆っている割合を計算した。打ち抜き孔観察は、各サンプル枚に10個実施し、その平均値をバリ発生率とした。尚、バリ発生率は以下の判断に従った。
良:バリ発生率が4%未満である。
可:バリ発生率が4%以上〜6%未満である。
不良:バリ発生率が6%以上である。
【0070】
<スリット性評価>
真空ロータリー式エンボスキャリアテープ成形機(CTF−200、CKD社製)のリング状組み合わせ刃でスリットを行ない、スリット端面を光学顕微鏡にて拡大観察し、毛羽、バリの有無を比較した。スリット端面1m当たりに毛羽、バリがほとんどないものを良、0.5mm長未満の発生があるものを可、0.5mm長以上の発生があるものを不良とした。
【0071】
実施例と比較例の評価結果を表1、表2に示した。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
表1から分かるように、実施例1〜実施例7は、いずれもバリ発生率が低く、打ち抜きバリ評価およびスリットバリ評価は良または可であった。図4(a)は、実施例1における打ち抜き面の拡大写真である。目視評価にてもバリの発生が少ないことが確認できた。
【0075】
一方、表2から分かるように、比較例1と比較例2は、いずれもバリ発生率が高く、打ち抜きバリ評価およびスリットバリ評価は不良であった。比較例3は、直方体孔の高さが小さいため、樹脂圧力が過大となり、シート化が困難であった。図4(b)は、比較例1における打ち抜き面の拡大写真である。目視評価にてもバリの発生が多いことが確認できた。
【符号の説明】
【0076】
1 押出機
2 Tダイ
3 金属ブロック
4、4A、4B フィードブロック
5 導入ブロック
6 導出ブロック
7 フィードブロック中心部
8 金属板
9 直方体孔
図1
図2
図3
図4