特許第6232310号(P6232310)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6232310塗料組成物、塗膜および塗膜付き光学物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232310
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】塗料組成物、塗膜および塗膜付き光学物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/08 20060101AFI20171106BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20171106BHJP
   G02B 5/23 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   C09D183/08
   C09D7/12
   G02B5/23
【請求項の数】14
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2014-27701(P2014-27701)
(22)【出願日】2014年2月17日
(65)【公開番号】特開2015-151489(P2015-151489A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】石原 庸一
(72)【発明者】
【氏名】池末 隆史
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−048940(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/025499(WO,A1)
【文献】 特開2008−081710(JP,A)
【文献】 特開2007−272156(JP,A)
【文献】 特開2008−046392(JP,A)
【文献】 特開2009−108123(JP,A)
【文献】 特開2010−270191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−10/00
C09D 101/00−201/10
G02B 5/20−5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸化物微粒子、重合性有機ケイ素化合物、シアナミド骨格を有する硬化触媒および溶媒を含む塗料組成物であって、
前記無機酸化物粒子として、平均粒子径が5〜50nmの範囲にあるシリカ系微粒子と、平均粒子径が5〜50nmの範囲にありTi、Zn、SnおよびZrから選ばれる1種または2種以上の金属成分を含むコアシェル型の結晶性無機酸化物微粒子とを、質量比([シリカ微粒子]/[結晶性無機酸化物微粒子])=0.〜2.4の割合で含む
塗料組成物。
【請求項2】
無機酸化物微粒子、重合性有機ケイ素化合物、シアナミド骨格を有する硬化触媒および溶媒を含む塗料組成物であって、
前記無機酸化物粒子として、平均粒子径が5〜50nmの範囲にあるシリカ系微粒子と、平均粒子径が5〜50nmの範囲にありTi、Zn、SnおよびZrから選ばれる1種または2種以上の金属成分を含むコアシェル型の結晶性無機酸化物微粒子とを、質量比([シリカ系微粒子]/[結晶性無機酸化物微粒子])=0.4〜2.4の割合で含み、
前記シリカ系微粒子が、シリカからなる核粒子と、これを覆うケイ素およびアルミニウムを酸化物換算のモル比(Al23/SiO2)で0.0001〜0.02の割合で含む複合酸化物からなる被覆層とを有するコアシェル型微粒子である
塗料組成物。
【請求項3】
前記シリカ系微粒子が、ケイ素およびアルミニウムを酸化物換算のモル比(Al23/SiO2)で0.0001〜0.02の割合で含む複合酸化物からなる微粒子であるか、またはシリカからなる核粒子とこれを覆う前記複合酸化物からなる被覆層とを有するコアシェル型微粒子である、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記結晶性無機酸化物微粒子が、Ti、Zn、SnおよびZrから選ばれる1種または2種以上の金属成分を含む結晶性無機酸化物からなる核粒子と、前記核粒子を覆う、前記核粒子とは異なる組成の被覆層とからなるコアシェル型微粒子である、請求項1〜3のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項5】
前記結晶性無機酸化物微粒子としての前記コアシェル型微粒子の被覆層が、Si、ZrおよびSbからなる選ばれる1種または2種以上の金属の酸化物である、請求項に記載の塗料組成物。
【請求項6】
前記結晶性無機酸化物微粒子が表面にエポキシ基を有する、請求項1〜のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項7】
前記重合性有機ケイ素化合物がエポキシ基を有する請求項1〜のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項8】
前記結晶性無機酸化物微粒子の量が、前記無機酸化物微粒子および前記重合性有機ケイ素化合物の合計100質量部に対し、5〜20質量部である、請求項1〜のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項9】
請求項1〜のいずれかに記載の塗料組成物を硬化させて得られる塗膜。
【請求項10】
前記塗膜の屈折率が1.50〜1.66の範囲にある請求項に記載の塗膜。
【請求項11】
光学基材と、前記光学基材の表面に設けられた請求項または10に記載の塗膜とを有する塗膜付き光学物品。
【請求項12】
前記光学基材と前記塗膜との間に中間層を有する請求項11に記載の塗膜付き光学物品。
【請求項13】
前記光学基材がフォトクロミック物質を含む請求項12に記載の塗膜付き光学物品。
【請求項14】
前記中間層がフォトクロミック物質を含む請求項12に記載の塗膜付き光学物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗料組成物、塗膜および塗膜付き光学物品に関し、より詳細には、フォトクロミック性を有する光学基材の表面に設けられるハードコート層の形成に有用な塗料組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミックレンズの耐擦傷性を改善するために、フォトクロミックレンズの表面に、有機ケイ素化合物の重縮合物からなりシリカ微粒子などを含むハードコート層を形成することが多く提案されている(特許文献1〜6)。
【0003】
たとえば特許文献1には、フォトクロミック層と有機系ハードコート層とを有するフォトクロミックレンズが開示され、この有機系ハードコート層として、有機ケイ素化合物および金属酸化物粒子を含むものが挙げられ、この金属酸化物粒子として酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化チタニウム、酸化ジルコニウム、酸化スズ等の粒子を2種以上併用できると記載されている。
【0004】
また、特許文献6には、高屈折率フォトクロミックレンズなどの光透過性部材の表面にハードコート層を形成するためのコーティング組成物であって、特定の光照射試験方法により選択され異なる性質を持つ酸化チタンを含む金属酸化物微粒子を2種類併用し、且つ、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有有機珪素化合物、水、メチルアルコールなどの有機溶媒、及びアルミニウムアセチルアセチナートや過塩素酸マグネシウムなどの硬化触媒を、各々特定の組成で含んでなるコーティング組成物が提案されており、この組成物によりハードコート層自体の耐侯性(変色防止)を向上させることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2012/133749号
【特許文献2】国際公開WO2005/087882号
【特許文献3】国際公開WO2012/036084号
【特許文献4】特開2011−219619号公報
【特許文献5】特開2013−75929号公報
【特許文献6】特開2010−270191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの従来技術には、ハードコート層と基材との耐侯密着性、フォトクロミックレンズ等のフォトクロミック性(着色性)の発現、フォトクロミック性の耐侯劣化の防止(退色性)などの点で改善の余地があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術における問題を解決することを目的としており、具体的には、耐擦傷性、透明性、被着体への耐侯密着性、耐光性が高い塗膜であって、フォトクロミック性を有する光学基材等の表面に設けた場合には、フォトクロミック性(着色性)を充分に発現させつつ、フォトクロミック性の耐侯劣化を抑えることができる塗膜を形成することができる塗料組成物、上述した性能を有する塗膜および該塗膜を備える光学部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]
無機酸化物微粒子、重合性有機ケイ素化合物、シアナミド骨格を有する硬化触媒および溶媒を含む塗料組成物であって、
前記無機酸化物粒子として、平均粒子径が5〜50nmの範囲にあるシリカ系微粒子と、平均粒子径が5〜50nmの範囲にありTi、Zn、SnおよびZrから選ばれる1種または2種以上の金属成分を含むコアシェル型の結晶性無機酸化物微粒子とを、質量比([シリカ微粒子]/[結晶性無機酸化物微粒子])=0.4〜2.4の割合で含む
塗料組成物。
【0009】
[2]
前記シリカ系微粒子が、ケイ素およびアルミニウムを酸化物換算のモル比(Al23/SiO2)で0.0001〜0.02の割合で含む複合酸化物からなる微粒子であるか、またはシリカからなる核粒子とこれを覆う前記複合酸化物からなる被覆層とを有するコアシェル型微粒子である、上記[1]に記載の塗料組成物。
【0010】
[3]
前記結晶性無機酸化物微粒子が、Ti、Zn、SnおよびZrから選ばれる1種または2種以上の金属成分を含む結晶性無機酸化物からなる核粒子と、前記核粒子を覆う、前記核粒子とは異なる組成の被覆層とからなるコアシェル型微粒子である、上記[1]または[2]に記載の塗料組成物。
【0011】
[4]
前記結晶性無機酸化物微粒子としての前記コアシェル型微粒子の被覆層が、Si、ZrおよびSbからなる選ばれる1種または2種以上の金属の酸化物である、上記[3]に記載の塗料組成物。
【0012】
[5]
前記結晶性無機酸化物微粒子が、表面にエポキシ基を有する、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の塗料組成物。
【0013】
[6]
前記重合性有機ケイ素化合物がエポキシ基を有する上記[1]〜[5]のいずれかに記載の塗料組成物。
【0014】
[7]
前記結晶性無機酸化物微粒子の量が、前記無機酸化物微粒子および前記重合性有機ケイ素化合物の合計100質量部に対し、5〜20質量部である、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の塗料組成物。
【0015】
[8]
上記[1]〜[7]のいずれかに記載の塗料組成物を硬化させて得られる塗膜。
【0016】
[9]
前記塗膜の屈折率が1.50〜1.66の範囲にある上記[8]に記載の塗膜。
【0017】
[10]
光学基材と、前記光学基材の表面に設けられた上記[8]または[9]に記載の塗膜とを有する塗膜付き光学物品。
【0018】
[11]
前記光学基材と前記塗膜との間に中間層を有する上記[10]に記載の塗膜付き光学物品。
【0019】
[12]
前記光学基材がフォトクロミック物質を含む上記[11]に記載の塗膜付き光学物品。
【0020】
[13]
前記中間層がフォトクロミック物質を含む上記[11]に記載の塗膜付き光学物品。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る塗料組成物によれば、耐擦傷性、透明性、被着体への耐侯密着性、耐光性等に優れた塗膜であって、フォトクロミック性を有する光学基材等の表面に設けた場合には、フォトクロミック性(着色性)を充分に発現させつつ、フォトクロミック性の耐侯劣化を抑えることができる塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[塗料組成物]
本発明に係る塗料組成物は、無機酸化物微粒子(A)、重合性有機ケイ素化合物(B)および溶媒(C)を含む。
【0023】
(A)無機酸化物微粒子:
無機酸化物微粒子は、シリカ系微粒子と結晶性無機酸化物微粒子からなり、その粒子形状は、球状、鎖状、異形状、金平糖状などを用いることができ、特に規定されるものではない。
【0024】
((A1)シリカ系微粒子)
本発明に係る塗料組成物には、平均粒子径が5〜50nmの範囲にあるシリカ系微粒子(A1)が含まれるため、この塗料組成物を硬化させて形成される塗膜(たとえば、ハードコート層)は、高い耐擦傷性、透明性を有する。
【0025】
前記シリカ系微粒子(A1)としては、(i)シリカ微粒子、(ii)ケイ素およびアルミニウムを主成分とする複合酸化物微粒子、(iii)シリカからなる核粒子と、これを覆うケイ素およびアルミニウムを主成分とする複合酸化物からなる被覆層とを有するコアシェル型微粒子などが挙げられる。
【0026】
前記シリカ微粒子(i)は、ケイ素および酸素以外の元素(アルミニウムを除く。たとえばアルカリ金属。)を少量(たとえば、各元素の酸化物の質量に換算して10質量%以下)含んでいてもよく、シリカのみからなるものであってもよい。
【0027】
前記複合酸化物微粒子(ii)における「(前記複合酸化物微粒子が)ケイ素およびアルミニウムを主成分とする」とは、前記複合酸化物微粒子(ii)に含まれるケイ素、アルミニウム、任意に含まれるSi、AlおよびO以外の元素Mに占めるケイ素およびアルミニウムの合計の割合が、各元素の酸化物(SiO2、Al23、MOx)の質量に換算した割合((SiO2+Al23)/(SiO2+Al23+MOx)で、70質量%〜100質量%であることを意味する。この割合は、好ましくは80〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%である。すなわち、前記複合酸化物微粒子(ii)は、ケイ素とアルミニウムと酸素のみを含む複合酸化物微粒子であってもよい。
【0028】
前記複合酸化物微粒子(ii)に含まれるケイ素とアルミニウムとの含有量の比は、ケイ素およびアルミニウムの酸化物換算基準のモル比(Al23/SiO2)で、好ましくは0.0001〜0.02、より好ましくは0.001〜0.01である。前記モル比がこの範囲にあると、複合酸化物微粒子(ii)は分散液および塗料組成物中で安定性に優れ、この塗料組成物を用いると、均一で安定な塗膜を形成できるので、塗膜の硬度、透明性、耐擦傷性が向上する。
【0029】
前記コアシェル型微粒子(iii)は、シリカからなる核粒子と、これを覆うケイ素およびアルミニウムを主成分とする複合酸化物からなる被覆層とを有する。
前記核粒子としては、前記シリカ微粒子(i)を用いることができる。
【0030】
前記被覆層を構成する複合酸化物の組成は、前記複合酸化物微粒子(ii)を構成する複合酸化物の組成と同様である。
前記コアシェル型微粒子(iii)を構成する核粒子と被覆層との質量比(被覆層/核粒子)は、好ましくは0.0001〜0.05であり、より好ましくは0.001〜0.02である。前記質量比がこの範囲にあると、複合酸化物微粒子(ii)は分散液および塗料組成物中で安定性に優れ、この分散液塗料組成物を用いると、均一で安定な塗膜を形成できる。
【0031】
前記シリカ系微粒子(A1)の平均粒子径は、シリカ系微粒子(A1)の凝集を防ぐ観点および耐擦傷性に優れた塗膜を形成する観点から、5nm以上、好ましくは8nm以上であり、耐擦傷性および透明性に優れた塗膜を形成する観点から、50nm以下、より好ましくは45nm以下である。なお、前記平均粒子径の値は、後述する実施例で採用した方法または同等の方法で測定した場合ものである。
【0032】
前記シリカ系微粒子(A1)としては、後述する結晶性無機酸化物微粒子(A2)が共存する分散液(塗料組成物)中での前記シリカ系微粒子(A1)の分散安定性が高いために、耐擦傷性および透明性がより高く、フォトクロミック性を有する光学基材等のフォトクロミック性の耐侯劣化をより抑えることのできる塗膜を得られる、という観点からは、前記複合酸化物微粒子(ii)および前記コアシェル型微粒子(iii)が好ましい。
【0033】
前記複合酸化物微粒子(ii)は、たとえば特開2012−140520号公報に記載された方法により製造することができる。
前記コアシェル型微粒子(iii)は、たとえば特開2011−26183号公報または特開2012−162426号公報に記載された方法により製造することができる。
【0034】
本発明に係る塗料組成物を調製する際に、前記シリカ系微粒子(A1)は、前記シリカ系微粒子(A1)の分散液の形態で供給されてもよい。
前記シリカ微粒子(i)の分散液としては、市販のシリカゾルを用いることができる。
【0035】
前記複合酸化物微粒子(ii)の分散液としては、市販品であれば、たとえば、日揮触媒化成(株)製のカタロイドSN(粒子径12nm、水分散ゾル)、カタロイドSN−30(粒子径17nm、水分散ゾル)、OSCAL1132(粒子径12nm、メタノール分散ゾル)、OSCAL1421(粒子径7nm、イソプロパノール分散ゾル)などを用いることができる。
【0036】
((A2)結晶性無機酸化物微粒子)
本発明に係る塗料組成物には平均粒子径が5〜50nmの範囲にありTi、Zn、SnおよびZrから選ばれる1種または2種以上の金属成分を含むコアシェル型の結晶性無機酸化物微粒子(A2)が含まれる。前記結晶性無機酸化物微粒子(A2)は紫外線吸収能を有するため、前記塗料組成物を硬化させて形成される塗膜(たとえば、ハードコート層)は、紫外線を吸収し、フォトクロミック性を有する光学基材等の表面に前記塗膜が設けられた場合であれば、フォトクロミック性の耐候劣化を防ぐことができる。
【0037】
前記コアシェル型の結晶性無機酸化物微粒子(A2)の核粒子としては、Ti、Zn、SnおよびZrから選ばれる1種の金属の酸化物または2種以上の金属の複合酸化物からなる結晶性微粒子(iv)が挙げられる。
【0038】
前記結晶性無機酸化物微粒子(A2)は、Ti、Zn、Sn、ZrおよびO以外の元素(たとえばアルカリ金属)を少量(たとえば5質量%以下)含んでいてもよく、これらの元素のみからなるものであってもよい。
【0039】
前記結晶性無機酸化物微粒子(A2)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
紫外線吸収能が高いことからは、前記結晶性無機酸化物微粒子(A2)は、その大半(例えば80質量%以上)または全部がTi、Zn、Snから選ばれる金属元素を含む微粒子であることが好ましい。
【0040】
前記微粒子(A2)は結晶性を有するため、これを含む本発明に係る塗料組成物により、透明性、被着体への耐侯密着性が高く、フォトクロミック性を有する光学基材等の表面に設けた場合には、フォトクロミック性の耐侯劣化を抑える塗膜を形成することができる。
【0041】
前記無機酸化物微粒子(A2)が結晶性であることは、たとえば後述した実施例で採用した方法または同等の方法で微粒子をXRD測定した際に、該微粒子が結晶性であることを示すピークが観測されることにより確認できる。
【0042】
たとえば前記結晶性無機酸化物微粒子(A2)がTiO2微粒子である場合には、前記微粒子(A2)自身の光活性を抑制する観点からは、その結晶構造としてルチル型が好ましい。
【0043】
前記無機酸化物微粒子(A2)は、前記結晶性微粒子(iv)を核粒子として有し、これを覆う、前記核粒子とは異なる組成の被覆層を有するコアシェル型微粒子(v)であってもよい。
【0044】
前記被覆層は、好ましくは、Si、ZrおよびSbから選ばれる1種の金属の酸化物または2種以上の金属の複合酸化物からなる(なお、ここではSiを金属とみなす。)。
前記コアシェル型微粒子(v)を構成する核粒子と被覆層との質量比(被覆層/核粒子)は、好ましくは5〜100であり、より好ましくは10〜80である。前記質量比がこの範囲にあると、前記コアシェル型微粒子(v)は分散液中で安定性に優れ、この分散液を用いると、均一で安定な塗膜を形成できるだけでなく、核粒子に光活性点が存在したとき、被覆層でその性質を抑制する効果も奏される。
【0045】
また、前記コアシェル型微粒子(v)は、前記結晶性微粒子(iv)と前記被覆層との間には、ケイ素酸化物からなるケイ素酸化物層を有していてもよい。
ケイ素酸化物層を有すると、コアシェル型微粒子の屈折率を調整することができるほか、得られる塗膜の耐光性、耐候性、密着性を向上させることができる。
【0046】
また、前記ケイ素酸化物層の割合は、核粒子としての前記結晶性微粒子(iv)の質量100質量部に対して好ましくは0.5〜30質量部、より好ましくは0.5〜15質量部である。
【0047】
前記結晶性無機酸化物微粒子(A2)としては、前記コアシェル型微粒子(v)が好ましい。前記コアシェル型微粒子(v)は分散液(塗料組成物)中で安定しており、この分散液(塗料組成物)を用いると、均一で、微粒子の分散状態が安定しており、透明な塗膜を形成できるからである。
【0048】
前記結晶性無機酸化物微粒子(A2)は、好ましくは、表面にエポキシ基を有している。表面にエポキシ基を有する前記結晶性無機酸化物微粒子(A2)を用いると、前記シリカ系微粒子(A1)が共存する分散液(塗料組成物)中での前記結晶性無機酸化物微粒子(A2)の分散安定性が高いため、耐擦傷性および透明性がより高い塗膜を得ることができる。
【0049】
表面にエポキシ基を有する前記結晶性無機酸化物微粒子(A2)は、たとえば、前記結晶性無機酸化物微粒子を従来公知の条件下、エポキシ基を有するシランカップリング剤で表面修飾することにより形成できる。このシランカップリングとしては、たとえばα−グリシドキシメチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0050】
前記結晶性無機酸化物微粒子(A2)の平均粒子径は、結晶性無機酸化物微粒子(A2)の凝集を防ぐ観点から、5nm以上、好ましくは8nm以上、より好ましくは10nm以上であり、前記結晶性無機酸化物微粒子(A2)の、透明性および分散液中での分散安定性の観点から、50nm以下、45nm以下、より好ましくは40nm以下である。
【0051】
なお、前記平均粒子径の値は、後述する実施例で採用した方法または同等の方法で測定した場合ものである。
前記結晶性無機酸化物微粒子(A2)の比表面積は、好ましくは60〜400m2/g、より好ましくは100〜300m2/gの範囲にある。
【0052】
これらの値は、後述する実施例で採用された方法または同等の方法により測定した場合のものである。
前記結晶性無機酸化物微粒子(A2)は、たとえば特開2000−204301号公報、特開2002−363442号公報、特開2010-168266号公報などに記載された方法により製造することができる。
【0053】
本発明に係る塗料組成物を調製する際に、前記結晶性無機酸化物微粒子(A2)は、前記結晶性無機酸化物微粒子(A2)の分散液の形態で供給されてもよい。
本発明に係る塗料組成物に含まれる前記結晶性無機酸化物微粒子(A2)の量は、後述する重合性有機ケイ素化合物(B)の量を100質量部とすると、分散液および塗料組成物中での前記結晶性無機酸化物微粒子(A2)の安定性に優れ、この塗料組成物を用いると、均一で安定でかつ膜強度を有する塗膜を得られることから、好ましくは5質量部以上、より好ましくは8質量部以上であり、分散液および塗料組成物中での前記結晶性無機酸化物微粒子(A2)の安定性に優れ、この塗料組成物を用いると、均一で安定な透明塗膜を得られることから、好ましくは20質量部以下、より好ましくは18質量部以下である。
【0054】
(無機酸化物微粒子(A))
本発明に係る塗料組成物は、無機酸化物微粒子(A)として、前記シリカ系微粒子(A1)と前記結晶性無機酸化物微粒子(A2)とを、質量比([シリカ系微粒子]/[結晶性無機酸化物微粒子])で0.4〜2.4、好ましくは0.6〜2.0の割合で含んでいる。本発明に係る塗料組成物は、前記シリカ系微粒子(A1)と前記結晶性無機酸化物微粒子(A2)とをこのような質量比で含んでいるため、前記塗料組成物を用いて、フォトクロミック性を有する光学基材または後述する中間層の上に塗膜を形成すると、フォトクロミック性の耐候劣化を防止しつつフォトクロミック性を発現させることができる。
【0055】
本発明に係る塗料組成物に含まれる無機酸化物微粒子に占める、前記シリカ系微粒子(A1)および前記結晶性無機酸化物微粒子(A2)の合計の割合は、好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上である。
【0056】
(B)重合性有機ケイ素化合物:
前記重合性有機ケイ素化合物(B)は、重合することにより、本発明に係る塗料組成物から形成される塗膜の中で、前記無機酸化物微粒子(A)のバインダーとして機能する。
【0057】
前記重合性有機ケイ素化合物(B)としては、たとえば下記式(I)で表される有機ケイ素化合物および/またはその加水分解物が挙げられる。
1a2bSi(OR34-(a+b) (I)
(式中、R1は炭素数1〜6のアルキル基、ビニル基を含有する炭素数8以下の有機基、エポキシ基を含有する炭素数8以下の有機基、メタクリロキシ基を含有する炭素数8以下の有機基、メルカプト基を含有する炭素数1〜5の有機基またはアミノ基を含有する炭素数1〜5の有機基であり、
2は炭素数3以下のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基もしくはハロゲン化アルキル基またはアリル基であり、
3は炭素数3以下のアルキル基、アルキレン基またはシクロアルキル基である。
また、aは0または1の整数、bは0、1または2の整数である。)
【0058】
前記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物としては、アルコキシシラン化合物が代表例として挙げられ、具体的には、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリメチルクロロシラン、α−グリシドキシメチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0059】
これらの中でも、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等の、エポキシ基を有する有機ケイ素化合物が好ましい。
本発明の塗料組成物を調製する際には、前記重合性有機ケイ素化合物(B)は、無溶媒下またはアルコール等の極性有機溶媒中で、酸および水の存在下で部分加水分解または加水分解した後に、前記無機酸化物微粒子(A)と混合することが好ましい。ただし、前記重合性有機ケイ素化合物(B)は、前記無機酸化物微粒子(A)と混合した後に、部分加水分解または加水分解してもよい。
【0060】
(C)溶媒:
前記溶媒としては、水および有機溶媒が挙げられる。前記有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類;メチルエチルケトン、ジアセトンアルコール等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセルソルブ類などが挙げられる。これらの中でも、メタノール等の低級アルコールや水が好ましい。これらの溶媒は1種単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0061】
本発明に係る塗料組成物に含まれる前記水の量は、前記無機酸化物微粒子および重合性有機ケイ素化合物(B)の量を100質量部とすると、環境負荷低減および塗料組成物の粘性の点から好ましくは70質量部以上、より好ましくは75質量部以上であり、塗料組成物の濡れ性確保のため好ましくは150質量部以下、より好ましくは140質量部以下である。
【0062】
また、本発明に係る塗料に含まれる前記有機溶媒の量は、前記無機酸化物微粒子および重合性有機ケイ素化合物(B)の量を100質量部とすると、塗料組成物の濡れ性確保のため好ましくは50質量部以上、より好ましくは60質量部以上であり、塗料組成物の粘性の点から好ましくは120質量部以下、より好ましくは115質量部以下である。
【0063】
(D)硬化触媒:
本発明に係る塗料組成物は、硬化触媒(D)としてグアニジン、グアニジン有機酸、グアニジン無機酸塩、アルキルグアニジン、アミノグアニジン、ジシアンジアミド等のシアナミド骨格を有する化合物を含む。
【0064】
本発明に係る塗料組成物は、硬化触媒(D)として、さらに他の硬化触媒を含んでいてもよい。
前記他の硬化触媒としては、アジピン酸、イタコン酸、リンゴ酸、無水トリメリト酸、無水ピロメリト酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等の有機カルボン酸;トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)などの一般式:M(CH2COCH2COCH3n(ここで、Mは金属元素であり、nは金属元素Mの価数である。)で示される金属アセチルアセトナート;チタンアルコキシド、ジルコアルコキシド等の金属アルコキシド;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等のアルカリ金属有機カルボン酸塩;過塩素酸リチウム、過塩素酸マグネシウム等の過塩素酸類などを挙げることができる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
光学基材または後述する中間層の表面に本発明に係る塗料組成物から塗膜を形成した際に、該塗膜と光学基材または中間層との密着性が高く、しかも該塗膜の変色を防止できることから、前記硬化触媒(D)としては、シアナミド骨格を有する化合物、またはシアナミド骨格を有する化合物と他の硬化触媒との組み合わせが好ましい。
【0066】
本発明に係る塗料組成物に含まれる前記硬化触媒(D)の量は、前記無機酸化物微粒子および重合性有機ケイ素化合物(B)の量を100質量部とすると、所望の膜硬度、耐候密着性および耐光性を得るため、好ましくは10質量部以上、より好ましくは11質量部以上であり、好ましくは50質量部以下、より好ましくは45質量部以下である。
【0067】
その他の成分:
本発明に係る塗料組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤、光増感剤、安定剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0068】
塗料組成物の調製方法:
本発明に係る塗料組成物は、上記の各成分を公知の方法で混合することにより調製できる。混合の際に、前記無機酸化物微粒子(A)は、前記溶媒(C)を溶媒(分散媒)とするゾルの形態で供されてもよい。
【0069】
[塗膜および塗膜付き光学物品]
本発明に係る塗膜は、上述した本発明に係る塗料組成物を硬化させて得られる塗膜である。
【0070】
また、本発明に係る塗膜付き光学物品は、上述した本発明に係る塗膜を備えた光学物品であり、光学基材の少なくとも1つの表面に上述した本発明に係る塗膜が設けられてなるものである。
【0071】
(光学基材)
前記光学基材としては、公知のものを特に制限なく使用することが可能であり、ガラス、ポリカーボネート、アクリル樹脂、PET、TAC等のプラスチックシート、プラスチックフィルム等、プラスチックパネル等が挙げられる。中でも樹脂系基材は好適に用いることができる。
【0072】
この光学基材は、フォトクロミック性を有していてもよい。フォトクロミック性を有する光学基材は、従来公知の方法により、光学基材にフォトクロミック性を有する化合物を含ませることにより得ることができる。
【0073】
フォトクロミック性を有する化合物としては、特に制限はなく、従来公知のスピロピラン化合物、ナフトピラン化合物、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物等のフォトクロミック色素が挙げられ、たとえば特開平10−192651号公報、国際公開WO2008/1578号、WO2012/133749号等に記載された化合物を使用することができ、これらは、単独使用でもよく、2種類以上を併用しても良い。具体例としては、ENI(株)社製のPhoto.PNO、トクヤマ(株)社製のCNN−3、ジェームズロビンソン(株)社製のOB、東京化成(株)社製の3,3−ジフェニル−3H−ナフト[2,1−b]ピラン、cis−1,2−ジシアノ−1,2−ビス(2,4,5−トリメチル−3−チエニルエテン、1,3,3−トリメチルインドリノ−6‘−ニトロベンゾピリロピランなどが挙げられる。
【0074】
(塗膜(ハードコート層))
本発明に係る塗膜は、耐擦傷性および透明性に優れるため、光学基材に設けられるハードコート層として好ましい。また、光学基材がフォトクロミック性を有する基材である場合または後述する中間層がフォトクロミック性を有する場合には、本発明に係る塗膜により、フォトクロミック性(着色性)を充分に発現させつつ、フォトクロミック性の耐侯劣化を抑えることができる。
【0075】
本発明に係る塗膜は、光学基材または後述する中間層の表面に、本発明に係る塗料組成物を塗布し、硬化させることにより形成することができる。
塗布方法としては、ディップ法、スプレー法、スピナー法、ロールコート法などの周知の方法が挙げられる。
【0076】
塗布された前記塗料組成物を熱処理して、前記重合性有機ケイ素化合物を重合させ、前記水および前記溶剤を除去することにより、ハードコート層等の塗膜が形成される。熱処理温度はたとえば80〜130℃であり、熱処理温度はたとえば0.5〜5時間である。
【0077】
光学基材上に形成される本発明に係る塗膜の厚さは、好ましくは0.3〜50μm、さらに好ましくは0.5〜20μmの範囲にある。
本発明に係る塗膜付き光学物品において、前記塗膜は、好ましくは1.50〜1.66の屈折率を有する。屈折率がこの範囲にあると1.53〜1.66である。前記屈折率は、前記結晶性無機酸化物微粒子の種類、割合等を調節することにより、調節することができる。
【0078】
(中間層)
前記光学基材と前記塗膜(ハードコート層)との間には、光学基材と前記塗膜との接着性の向上、塗膜付き光学物品の耐衝撃性の向上などを目的として光学基材とハードコート層等の塗膜との間に従来設けられていた中間層(プライマー層、アンダーコート層などともいう。)が設けられてもよい。
【0079】
前記中間層を形成するための塗料組成物は、膜形成成分として、たとえば塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリアミド、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、フェノール樹脂、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ブチラール樹脂、メラミン樹脂、ポリビニルアルコール、セルロース樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。さらに、これらの樹脂のモノマー成分等から製造された共重合体を使用することもできる。
【0080】
特に、ウレタンやメラミン由来の骨格を有する樹脂、ポリエステルポリオール、ポリイソシアネート、ポリカーボネートポリオール、ポリカルボキシポリオールやポリオールを反応させて得られたものを用いることが好ましい。
【0081】
前記中間層は、耐擦傷性、透明性、被着体への耐侯密着性を向上させるために、無機酸化物微粒子を含有していてもよい。前記無機酸化物微粒子は、前記樹脂と反応して複合体を形成していてもよい。
【0082】
前記金属酸化物微粒子としては、従来公知の、Ti、Fe、Zn、W、Sn、Ta、Zr、Sb、Nb、In、Ce、Si、Al、Y、Pb、Moの群から選ばれる1種または2種以上の金属酸化物微粒子および/または複合酸化物微粒子が挙げられる。
【0083】
前記中間層は、前記中間層を形成するための塗料組成物を用いて従来公知の方法で製造することができる。
また前記中間層は、フォトクロミック性を有していてもよい。フォトクロミック性を有する中間層は、前記中間層を形成するため塗料組成物として、フォトクロミック性を有する化合物が配合されたものを使用することにより、形成することができる。
【0084】
前記中間層にフォトクロミック化合物が含まれている場合には、本発明に係る塗膜により、フォトクロミック性(着色性)を充分に発現させつつ、フォトクロミック性の耐侯劣化を抑えることができる。
【0085】
フォトクロミック性を有する化合物としては、特に制限はなく、上記文献等に記載された従来公知の化合物を使用することができる。
前記中間層の厚さは、たとえば0.1〜200μm、さらに好ましくは0.5〜100μmである。
【0086】
(反射防止膜)
本発明に係る塗膜付き光学物品において、前記塗膜(ハードコート層)の表面にはさらに反射防止膜が設けられていてもよい。前記反射防止膜を形成する方法としては、公知の方法を使用することができる。
【0087】
(塗膜付き光学物品の構成)
本発明に係る塗膜付き光学物品における積層構成の例としては、
ハードコート層/光学基材、
ハードコート層/光学基材/ハードコート層、
ハードコート層/中間層/光学基材、
ハードコート層/中間層/光学基材/ハードコート層、
反射防止膜/ハードコート層/光学基材、
反射防止膜/ハードコート層/光学基材/ハードコート層、
反射防止膜/ハードコート層/中間層/光学基材、
反射防止膜/ハードコート層/中間層/光学基材/ハードコート層
などが挙げられ、中間層および光学基材は、それぞれフォトクロミック性を有するものであってもよい。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。しかし、本発明は、これらの実施例に記載された範囲に限定されるものではない。
[測定方法および評価試験方法]
本発明の実施例その他で使用された測定方法および評価試験方法は以下の通りである。
【0089】
<無機酸化物微粒子の測定>
(1)平均粒子径の測定方法
無機酸化物微粒子(シリカ系微粒子および結晶性無機酸化物微粒子の平均粒子径は、次のように測定した。まず、無機酸化物微粒子を含む分散液(または混合液)を水分散ゾルの場合は蒸留水で、メタノール分散ゾルの場合はメタノールにて約1,000倍希釈してコロジオン膜付金属グリッド(応研商事(株))に塗布し250Wランプにて30分間照射して溶媒を飛散し測定用サンプルを調製した。この測定用サンプルを用いて、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)((株)日立ハイテクノロジーズ製S−5500)を用いて、加速電圧30kVの条件下、倍率25万倍でSEM写真を撮影し、この写真に撮影された任意の100個以上の無機酸化物微粒子の粒子径についてそれぞれ目視で観察し、それらの平均をとることにより求めた。
【0090】
(2)比表面積の測定方法
無機酸化物微粒子を含む分散液を乾燥させて得られた粉体を磁製ルツボ(B−2型)に約30ml採取し、300℃の温度で2時間乾燥後、デシケータに入れて室温まで冷却し、測定用サンプルを得た。次に、このサンプルを1g取り、全自動表面積測定装置(湯浅アイオニクス社製、マルチソーブ12型)を用いて、粒子の比表面積(m2/g)をBET法にて測定した。
【0091】
(3)無機酸化物微粒子の組成分析方法
<チタニウム、ケイ素、スズの含有量>
固形分濃度10重量%の無機酸化物微粒子を含む水分散液3gを容量30mlの蓋付きジルコニアボールに採取し、乾燥(200℃、20分)させ、焼成(700℃、5分)した後、Na22 2gおよびNaOH 1gを加えて15分間溶融した。さらに、HCl 50mlと水200mlを加えて溶解したのち、純水で500mlになるよう希釈して試料とした。得られた試料について、ICP装置(島津製作所(株)製、ICPS−8100、解析ソフトウェアICPS−8000)を用いて、チタニウム、スズ、ケイ素の含有量を酸化物換算基準(TiO2、SnO2、SiO2)で測定した。
【0092】
<アルミニウム、ジルコニウム、ナトリウム、カリウムの含有量>
固形分濃度10重量%の無機酸化物微粒子を含む水分散液9gを容量100mlの白金皿に採取し、サンドバス上で200℃、20分間加熱して乾燥させた後、バーナーで700℃、5分間加熱して有機物を除去後、HF 10mlおよびH2SO4 5mlを加えて白煙が出るまで加熱した。さらに、これを100mlとなるように純水で希釈した後、アルミニウムジルコニウムはICP装置((株)島津製作所製、ICPS−8100、解析ソフトウェアICPS−8000)を用いて酸化物換算基準(Al23、ZrO2)で測定し、ナトリウムおよびカリウムは原子吸光装置((株)日立製作所製、Z−5300、ソフトウェアZ−2000)を用いて酸化物換算基準(Na2O、K2O)で測定した。
【0093】
(3−2)pHの測定方法
試料50mlを入れたセルに、25℃の温度に保たれた恒温槽中で、pH4、7および9の標準液で更正が完了したpHメータ(堀場製作所製、F22)のガラス電極を挿入して、pH値を測定した。
【0094】
このとき、無機酸化物微粒子の分散液の分散媒が水である場合には、前記水分散液を試料とし、前記分散媒が有機溶媒である場合には、無機酸化物微粒子の有機溶媒分散液を蒸留水で10倍に希釈したものを試料とした。
【0095】
(4)結晶性の測定方法
無機酸化物微粒子の分散液を磁製ルツボ(B−2型)に約30ml採取し、110℃で12時間加熱して乾燥させた後、デシケータに入れて室温まで冷却した。次に、冷却物を乳鉢で15分間粉砕した後、X線回折装置(理学電気(株)製、RINT−2100、Cu−Kα線、40kV、30mA)を用いて結晶形態を測定した。なお、本発明でいう結晶形態は、この測定結果から判定された形態(たとえば、ルチル型など)を示す。
【0096】
<硬化塗膜の測定>
(5)塗膜の膜硬度(Bayer値)の測定方法
磨耗試験機BTM(米コルツ社製)およびヘーズ値測定装置(NIPPON DENSHOKU製NDH2000)を使用し、プラスチックレンズ基板(後述する試験片。以下「被試験レンズ」ともいう。)と基準レンズとのヘーズ値の変化に基づいてBayer値を算出した。基準レンズとしては、市販のプラスチックレンズ基材CR−39基材(ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、PPG社製モノマー使用、基材の屈折率1.60)を使用した。
【0097】
具体的には、まずそれぞれのレンズのヘーズ値を測定し、基準レンズの初期ヘーズ値をD(std0)、被試験レンズの初期ヘーズ値をD(test0)とした。それぞれのレンズを上記磨耗試験機のパンに設置し、その上に研磨材(専用砂)500gを充填し、パンを600回左右に振動させた。振動後のレンズのヘーズ値を測定し、基準レンズのヘーズ値をD(stdf)、被試験レンズのヘーズ値をD(testf)とした。Bayer試験値(R)を以下の数式から算出した。
R=[D(stdf)−D(std0)]/[D(testf)−D(test0)]
【0098】
(6)塗膜の外観(干渉縞)の評価方法
内壁が黒色である箱の中に蛍光灯「商品名:メロウ5N」(東芝ライテック(株)製、三波長型昼白色蛍光灯)を取り付け、蛍光灯の光をプラスチックレンズ基板(後述する試験片)のハードコート層または反射防止膜表面で反射させ、光の干渉による虹模様(干渉縞)の発生を目視にて確認し、以下の基準で評価した。
S:干渉縞が殆ど無い
A:干渉縞が目立たない
B:干渉縞が認められるが、許容範囲にある
C:干渉縞が目立つ
D:ぎらつきのある干渉縞がある。
【0099】
(7)塗膜の外観(曇り)の評価方法
内壁が黒色である箱の中に蛍光灯「商品名:メロウ5N」(東芝ライテック(株)製、三波長型昼白色蛍光灯)を取り付け、プラスチックレンズ基板(後述する試験片)を蛍光灯の直下に、ハードコート層側または反射防止膜側を蛍光灯に向けて置き、これらの透明度(曇りの程度)をヘーズメーター(NIPPON DENSHOKU製NDH2000)にて確認し、以下の基準で評価した。
A:ヘーズ値が0.3%未満
B:ヘーズ値が0.3%以上〜1.0%未満
C:ヘーズ値が1.0%以上〜5.0%未満
D:ヘーズ値が5.0%以上
【0100】
(8)塗膜の耐擦傷性の評価方法
プラスチックレンズ基板(後述する試験片)のハードコート層側または反射防止膜側の表面を、#0000スチールウール(日本スチールウール(株)製)を用い、荷重1kg/cm2で幅1cm、3cmの距離を50往復/100秒の条件で擦った後、スチールウール摺動面積に対する傷自体の面積の割合を目視にて判定し、以下の基準で評価した。
評価基準:
A:2%未満
B:2%以上〜30%未満
C:30%以上〜60%未満
D:60%以上
【0101】
(9)塗膜の密着性の評価方法
プラスチックレンズ基板(後述する試験片)のハードコート層側または反射防止膜側の表面に、ナイフで縦横1mmの間隔でそれぞれ11本の平行な傷を付けて100個の升目を作り、これにセロハンテープを接着し、次いで、セロハンテープを90度方向へ急激に引っ張り、この操作を合計5回行い、塗膜が剥離せず残存している升目の数を、以下の2段階に分類することによって密着性を評価した。
評価基準:
残存升目の数95個以上 :○
残存升目の数95個未満 :×
【0102】
(10)塗膜の耐候的な密着性(耐候的密着性)の評価方法
プラスチックレンズ基板(後述する試験片)をキセノンウエザーメーター(スガ試験機(株)製X−75型)で曝露試験した後、外観の確認および前記の密着性の評価と同様の評価を行い、以下の基準で評価した。なお、曝露時間は、反射防止膜を有している基板は250時間、反射防止膜を有していない基板は50時間とした。
○:剥離していないマス目の数が95個以上
×:剥離していないマス目の数が95個未満。
【0103】
(11)塗膜ハードコート層の耐光性の評価方法
プラスチックレンズ基板(後述する試験片)に退色試験用水銀ランプ(東芝(株)製H400−E)により紫外線を50時間照射し、照射前後に塗膜プラスチックレンズ基板の透過率測定(日本電子(株)製、V−550)を行い、照射前後での透過率変化((照射前の透過率−照射後の透過率)/照射前の透過率×100(%))を以下の基準で耐光性を評価した。なお、ランプと塗膜プラスチックレンズ基板との距離は、70mmとし、ランプの出力は、塗膜プラスチックレンズ基板の表面温度が45±5℃となるように調整した。また、この試験は、反射防止膜をハードコート層の表面に設けた塗膜プラスチックレンズ基板を対象として行った。
○:透過率変化が5%未満
△:透過率変化が5%以上〜10%未満
×:透過率変化が10%以上
【0104】
(12)塗膜の膜厚および屈折率の測定方法
顕微分光測定機(OLYMPUS製USPM−RU)を用いて、プラスチック基板の反射率から、塗膜の膜厚および屈折率を測定した。
【0105】
(13)フォトクロミック性の評価方法
プラスチックレンズ基板(後述する試験片)に色試験用紫外線ランプ(アズワン製SLUV−6)により紫外線を5分間照射し、照射前後にプラスチックレンズ基板の透過率測定(富士光電工業(株)製、STS−4)を行い、照射前後での透過率変化((照射前の透過率−照射後の透過率)/照射前の透過率×100(%))を以下の基準で評価した。なお、ランプとプラスチックレンズ基板との距離は、100mmとした。さらに、耐光性試験前後のプラスチックレンズ基板についても上記と同様な評価を実施しフォトクロミック性が保持されているかを評価した。
○:透過率変化が50%以上
△:透過率変化が20%以上〜50%未満
×:透過率変化が20%未満
【0106】
[製造例1]
シリカ系微粒子の水分散液(AS−1)の調製
珪素成分の含有量をSiO2換算基準で表し、ナトリウム成分の含有量をNa2O換算基準で表し、アルミニウム成分の含有量をAl23換算基準で表したとき、SiO224.0重量%、SiO2/Na2Oモル比3.0、Al23/SiO2モル比0.0006のケイ酸ソーダ溶液(AGCエスアイテック社製3号ケイ酸ソーダ)を、イオン交換水で希釈して、珪素成分をSiO2換算基準で4.8重量%含む希ケイ酸ソーダ溶液を調製した。
【0107】
次いで、この希ケイ酸ソーダ溶液を陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製 ダイヤイオン(登録商標)、SK1BH)が充填されたカラムに通過させて、珪素成分をSiO2換算基準で4.6重量%含む、pH2.8の酸性ケイ酸液を得た。
【0108】
次に、還流器、攪拌機、加熱部及び二つの注液口を備えた300Lのステンレス製容器に、前記ケイ酸ソーダ溶液1.3kgをイオン交換水21.6kgで希釈したものを仕込み、これを85℃に加熱した。この温度を保持しつつ、一方の注液口から前記の酸性ケイ酸液を165.9kg、別の注液口からアルミン酸ソーダ溶液(Al23として1.0重量%、Na2Oとして0.77重量%)を5.4kgそれぞれ一定流量で同時に15時間かけて添加した。
【0109】
さらに、添加終了後、85℃の温度を1時間保持した後、減圧蒸発法により、珪素成分の含有量がSiO2換算基準で22.0重量%になるまで濃縮してアルカリ性シリカゾル(BS−1)を得た。
【0110】
次に、陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製 ダイヤイオン、SK1BH)6Lを充填した流通式イオン交換カラムに、前記アルカリ性シリカゾル(BS−1)約30Lを液空間速度10Hr-1で1回通過させて脱アルカリを行い、一次脱アルカリ処理したシリカゾルを得た。この一次脱アルカリゾルを陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製 ダイヤイオン、SA10A)を充填した流通式イオン交換カラムに液空間速度4.0Hr-1で通過させた。次いで、加熱器、温度調節機および還流器を備えた50Lのステンレス製容器に、この1次脱アルカリゾル30Lを入れて80℃の温度に保温し、これを同温度に維持された5Lの陽イオン交換樹脂を充填した流通式イオン交換カラムに、液空間速度13.5Hr-1で通過させながら、一定時間循環する方式で二次脱アルカリ処理を行い、珪素成分の含有量がSiO2換算基準で20重量%含む酸性シリカゾル(シリカ系微粒子の水分散液)(AS−1)を得た。
【0111】
このようにして得られた酸性シリカゾル(AS−1)中に含まれるシリカ微粒子の平均粒子径は、12nmであった。また、25℃の温度で測定したときの前記酸性シリカゾルのpHは2.3であった。
【0112】
また、前記酸性シリカゾル(AS−1)は、ナトリウム成分をNa2O換算基準で0.07重量%含んでおり、Na2O/SiO2モル比が0.0014であった。さらに該ゾル中に含まれるシリカ系微粒子中は、シリカ成分をSiO2で表し、アルミニウム成分をAl23で表したとき、Al23/SiO2モル比が0.0020となるような割合でアルミニウム成分を含んでいた。
【0113】
[製造例2]
シリカ系微粒子の水分散液(AS−2)の調製
前述の「シリカ系微粒子の水分散液(AS−1)の調製」において、アルミン酸ソーダ溶液(Al23として1.0重量%、Na2Oとして0.77重量%)5.4kgを一定流量で15時間かけて添加するかわりに、アルミン酸ソーダ溶液(Al23として1.0重量%、Na2Oとして0.77重量%)2.43kgを一定流量で15時間かけて添加して、珪素成分の含有量がSiO2換算基準で20重量%含む酸性シリカゾル(シリカ系微粒子の水分散液)(AS−2)を得た。
【0114】
このようにして得られた酸性シリカゾル(AS−2)中に含まれるシリカ微粒子の平均粒子径は12nmであった。また、25℃の温度で測定したときの前記酸性シリカゾルのpHは2.5であった。
【0115】
また、前記酸性シリカゾル(AS−2)は、ナトリウム成分をNa2O換算基準で0.03重量%含んでおり、Na2O/SiO2モル比が0.0009であった。さらに該ゾル中に含まれるシリカ系微粒子は、シリカ成分をSiO2で表し、アルミニウム成分をAl23で表したとき、Al23/SiO2モル比が0.0009となるような割合でアルミニウム成分を含んでいた。
【0116】
[製造例3]
シリカ系微粒子の水分散液(AS−3)の調製
工程(1)
球状のコロイド状シリカ微粒子が分散した市販のアルカリ性シリカゾル(商品名カタロイド(登録商標)SI−40、日揮触媒化成(株)製、SiO2濃度40重量%、Na2O濃度0.40重量%、pH9.5、平均粒子径17nm、Al23/SiO2(モル比)=0.0006)4000gを撹拌機と加熱装置を備えた内容積13リットルのSUS製反応容器に供して、温度25℃で撹拌しながらAl23換算基準で0.9重量%のアルミン酸ナトリウム水溶液2712gを1.0時間かけて一定速度で添加して混合溶液を得た。この時、Al23/SiO2(混合モル比)は0.009であり、アルミン酸ナトリウム水溶液の添加速度は1.5×10-2g/Hrであった。
【0117】
工程(1.1)
得られた混合溶液を攪拌しながら、95℃に加熱したのち、温度を95℃に保ちながら6.0時間撹拌を続けた。この混合液のpHは10.9、SiO2換算基準の固形分濃度は24.2重量%、Al23換算基準の固形分濃度は0.36重量%であった。
【0118】
工程(1.2)
上記工程で得られた混合溶液に陽イオン交換樹脂(三菱化学(株) ダイヤイオン SK1BH)を投入してそのpHを9に調整した。
【0119】
工程(2)
上記工程で得られた混合溶液から樹脂を分離除去したのち、オートクレーブにて165℃で1時間加熱処理して、アルカリ性のシリカ系微粒子の水分散ゾルを得た。
【0120】
工程(3)
次いで、上記工程により得られたアルカリ性のシリカ系微粒子の水分散ゾルを室温まで冷却した後に、陽イオン交換樹脂(三菱化学(株) ダイヤイオン SK1BH)を投入して、そのpH3.5に調整した後、樹脂を分離せず、攪拌下で80℃に保ちながら7時間熟成した。
【0121】
その後、陽イオン交換樹脂を分離除去し、SiO2換算基準で固形分濃度 24.2重量%、pH4.9のシリカ系微粒子水分散ゾルを得た。
上記で得られたシリカ系微粒子水分散ゾルを、限外ろ過膜を用いて濃縮し、固形分濃度30重量%のシリカ系微粒子の水分散液(ゾル)(AS−3)5400gを得た。該ゾル中に含まれるシリカ系微粒子の平均粒子径は17nmであった。さらに、該シリカ系微粒子は、シリカ成分をSiO2で表し、アルミニウム成分をAl23で表したとき、Al23/SiO2モル比が0.0084となるような割合でアルミニウム成分を含んでいた。
【0122】
[製造例4]
結晶性無機酸化物微粒子のメタノール分散液(MP−1)の調製
<工程(1)>
(操作1.1)チタニウムを主成分とする複合酸化物微粒子(コア粒子)の調製
四塩化チタン(大阪チタニウムテクノロジーズ(株)製)をTiO2換算基準で7.75重量%含む四塩化チタン水溶液93.7kgと、アンモニアを15重量%含むアンモニア水(宇部興産(株)製)36.3kgとを混合し、pH9.5の白色スラリー液を調製した。次いで、このスラリーを濾過した後、純水で洗浄して、固形分含有量が10重量%の含水チタン酸ケーキ72.6kgを得た。
【0123】
次に、このケーキに、過酸化水素を35重量%含む過酸化水素水(三菱瓦斯化学(株)製)83.0kgと純水411.4kgとを加えた後、80℃の温度で1時間、撹拌下で加熱し、さらに純水159.0kgを加えて、過酸化チタン酸をTiO2換算基準で1重量%含む過酸化チタン酸水溶液を726.0kg得た。この過酸化チタン酸水溶液は、透明な黄褐色でpHは8.5であった。
【0124】
次いで、前記過酸化チタン酸水溶液72.9kgに、陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製)3.5kgを混合して、さらにスズ酸カリウム(昭和化工(株)製)をSnO2換算基準で1重量%含むスズ酸カリウム水溶液9.1kgを撹拌下で徐々に添加した。
【0125】
次に、得られた混合物に、カリウムイオンなどを取り込んだ前記陽イオン交換樹脂を分離した後、平均粒子径が7nmのシリカ微粒子を15重量%含むシリカゾル(日揮触媒化成(株)製)0.8kgおよび純水18.0kgを混合し、オートクレーブ(耐圧硝子工業(株)製、120L)中で165℃の温度で18時間、加熱することにより、チタニウムを主成分とする複合酸化物微粒子(コア粒子)の水分散液を得た。
【0126】
得られた水分散液を室温まで冷却した後、限外濾過膜装置(旭化成(株)製、ACV−3010)で濃縮して、固形分含有量が10重量%の水分散液(チタニウムを主成分とするコア粒子を含む水分散液(C−1))10.0kgを得た。
【0127】
この水分散液(C−1)の中に含まれるコア粒子はルチル型の結晶構造を有し、このコア粒子に含まれる金属元素の含有量(酸化物換算値)を測定したところ、TiO2が75.2重量%、SnO2が9.3重量%、SiO2が12.2重量%、K2Oが3.3重量%であった。またこのコア粒子の平均粒子径は18nmであった。
【0128】
(操作1.2)コアシェル型結晶性無機酸化物微粒子の水分散液(P−1)の調製
オキシ塩化ジルコニウム(太陽鉱工(株)製)をZrO2換算基準で2重量%含むオキシ塩化ジルコニウム水溶液26.3kgに、アンモニアを15重量%含むアンモニア水を撹拌下で徐々に添加して、pH8.5のスラリー液を得た。次いで、このスラリーを濾過した後、純水で洗浄して、ジルコニウム成分をZrO2に換算基準で10重量%含むケーキ5.26kgを得た。
【0129】
次に、このケーキ200gに純水1.80kgを加え、さらに水酸化カリウム(関東化学(株)製)を10重量%含む水酸化カリウム水溶液120gを加えてアルカリ性にした後、過酸化水素を35重量%含む過酸化水素水400gを加えて、50℃の温度に加熱してこのケーキを溶解した。さらに、純水1.48kgを加えて、過酸化ジルコン酸をZrO2換算基準で0.5重量%含む過酸化ジルコン酸水溶液(1)4.0kgを得た。なお、この過酸化ジルコン酸水溶液のpHは、12.2であった。
【0130】
また、市販の水ガラス(AGCエスアイテック(株)製)を純水にて希釈した後、陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製)を用いて脱アルカリして、珪酸をSiO2換算基準で2重量%含む珪酸水溶液(1)を得た。なお、この珪酸水溶液液のpHは、2.3であった。
【0131】
<工程(2)>
次に、上記操作1.1で得られた、チタニウムを主成分とするコア粒子を含む水分散液(C−1)3.0kgに純水12.0kgを加えて固形分含有量を2重量%としたものを90℃の温度に加熱した後、これに前記過酸化ジルコン酸水溶液(1)3.7kgおよび珪酸水溶液(1)2.8kgを同時に徐々に添加し、添加終了後、さらに90℃の温度に保ちながら攪拌下で1時間熟成を行い、混合液(1c)を得た。ここで、過酸化ジルコン酸水溶液(1)中に含まれるジルコン酸をZrO2で表し、珪酸水溶液(1)中に含まれる珪酸をSiO2で表したとき(以下の重量比の式では「SiO2-(1)」と表す。)、これらのモル比(ZrO2/SiO2-(1))は14/86であった。また、混合液(1c)中の無機酸化物微粒子に含まれる金属の重量を酸化物(TiO2、SnO2、SiO2(以下の重量比の式では「SiO2-(2)」と表す。))の重量に換算すると、重量比((ZrO2+SiO2-(1))/(TiO2+SnO2+SiO2-(2)))は25/100であった。
【0132】
<工程(3)>
次いで、この混合液(1c)をオートクレーブ(耐圧硝子工業(株)製、50L)に入れて、160℃の温度で18時間、加熱処理を行なったのち、室温まで冷却して、限外濾過膜装置(旭化成(株)製、SIP−1013)を用いて固形分含有量10重量%に濃縮することにより、チタニウムを主成分とするコア粒子の表面を、ジルコニウムおよびケイ素を含む複合酸化物からなるシェルで被覆してなる結晶性無機酸化物微粒子(1)の透明乳白色水分散液(以下、「P−1」ともいう。)3.8gを調製した。
【0133】
以下、上記水分散液(P−1)を「結晶性無機酸化物微粒子の水分散液(P−1)」ともいう。
この結晶性無機酸化物微粒子(1)のX線回折では結晶性ピークが検出され、結晶構造はルチル型であった。
【0134】
(操作1.3)結晶性無機酸化物微粒子のメタノール分散液(MP−1)の調製
上記操作1.2で得られた結晶性無機酸化物微粒子の水分散液(P−1)1470gに陽イオン交換樹脂を混合して脱イオン処理した後、前記イオン交換樹脂を分離して得られた分散液に、メタノール(林純薬(株)製、メチルアルコール濃度:99.9重量%)2940gに表面処理剤としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(Momentive Performance Materals Inc.製SILQUEST A−186 SILANE)133.6gを溶解させたメタノール溶液を撹拌下で添加した後、60℃の温度で20時間、加熱した。
【0135】
次に、得られた混合液を室温まで冷却してから、限外濾過膜(旭化成(株)製濾過膜、SIP−1013)を用いて分散媒を水からメタノール(林純薬(株)製、メチルアルコール濃度:99.9重量%)に置換した。
【0136】
得られた無機酸化物微粒子のメタノール分散液(以下「MP−1」という)の水分含有量は約0.5重量%、固形分濃度は20.5重量%であった。
この無機酸化物微粒子の平均粒子径は12nmであり、この微粒子の比表面積は220m2/gであった。以下、上記分散液(MP−1)を「結晶性無機酸化物微粒子のメタノール分散液(MP−1)」ともいう。
【0137】
このメタノール分散液(MP−1)中の結晶性無機酸化物微粒子に含まれる金属成分の割合(酸化物換算値)を測定したところ、TiO2が57.51重量%、SnO2が6.83重量%、SiO2が27.95重量%、ZrO2が5.17重量%、K2Oが2.54重量%であった。
【0138】
[製造例5]
結晶性無機酸化物微粒子のメタノール分散液(MP−2)の調製
(コア粒子の調製)
四塩化チタン(大阪チタニウムテクノロジ-ズ(株)製)をTiO2換算基準で7.75重量%含む四塩化チタン水溶液12.1kgと、アンモニアを15重量%含むアンモニア水(宇部興産(株)製)4.7kgとを混合し、pH9.5の白色スラリー液を調製した。次いで、このスラリーを濾過した後、純水で洗浄して、固形分含有量が10重量%の含水チタン酸ケーキ9.9kgを得た。
【0139】
次に、このケーキに、過酸化水素を35重量%含む過酸化水素水(三菱瓦斯化学(株)製)11.3kgと純水20.0kgとを加えた後、80℃の温度で1時間、撹拌下で加熱し、さらに純水57.52kgを加えて、過酸化チタン酸をTiO2換算基準で1重量%含む過酸化チタン酸水溶液を98.7kg得た。この過酸化チタン酸水溶液は、透明な黄褐色でpHは8.5であった。
【0140】
次いで、前記過酸化チタン酸水溶液98.7kgに陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製)4.7kgを混合して、これに、スズ酸カリウム(昭和化工(株)製)をSnO2換算基準で1重量%含むスズ酸カリウム水溶液12.3kgを撹拌下で徐々に添加した。
【0141】
次に、カリウムイオンなどを取り込んだ陽イオン交換樹脂を分離した後、オートクレーブ(耐圧硝子工業(株)製、120L)に入れて、165℃の温度で18時間、加熱した。
【0142】
次に、得られた混合水溶液を室温まで冷却した後、限外濾過膜装置(旭化成(株)製、ACV−3010)で濃縮して、固形分含有量が10重量%のチタンおよびスズを含む複合酸化物微粒子(チタン系微粒子)を含む混合水溶液9.9kgを得た。
【0143】
このようにして得られた混合水溶液中に含まれる固形物を上記の方法で測定したところ、ルチル型の結晶構造を有する、チタン系微粒子であった。さらに、このチタン系微粒子中に含まれる金属成分の含有量を測定したところ、各金属成分の酸化物換算基準で、TiO2が87.2重量%、SnO2が11.0重量%、およびK2Oが1.8重量%であった。また、該混合水溶液のpHは10.0であった。
【0144】
前記チタン系微粒子を含む混合水溶液7.00kgに、水酸化カリウム水溶液でpHを7.0に調整しながらZrO2重量換算で3.6%濃度のオキシ塩化ジルコニウム八水和物水溶液1.53kgを徐々に添加し、40℃にて1時間で攪拌混合してジルコニウムで表面処理された金属酸化物微粒子の水分散液を得た。このとき、ジルコニウムの量は核微粒子中に含まれる金属元素に対して酸化物換算基準で5.0モル%であった。
【0145】
次いで、前記チタン系微粒子を含む混合水溶液9.00kgをスプレードライヤー(NIRO社製NIRO ATOMIZER)に供して噴霧乾燥(入口温度:260℃、出口温度:55℃)した。これにより、平均粒子径が約2μmの複合酸化物粒子からなる乾燥粉体0.63kgを得た。
【0146】
次に、上記で得られたチタン系微粒子の乾燥粉体0.63kgを、空気雰囲気下、700℃の温度にて1時間焼成して、チタン系微粒子の焼成粉体0.59kgを得た。
次に、得られたチタン系微粒子の焼成粉体0.17kgを純水250.4gに分散させ、これに10重量%濃度の水酸化カリウム水溶液24.8gを添加してpH11.0に調整した。次いで、この混合水溶液に粒子径0.1mmのアルミナビーズ(大明化学工業(株)製 高純度アルミナビーズ)1.27kgを加えて、これを湿式粉砕機(カンペ(株)製バッチ式卓上サンドミル)に供して180分間、前記チタン系微粒子の粉砕処理を行った。その後、石英ビーズを目開き44μmのステンレス製フィルターを用いて分離・除去したのち、さらに純水840.0gを添加して撹拌し、固形分含有量が11重量%の水分散ゾル1.17kgを得た。
【0147】
このように粉砕して得られたチタン系微粒子を含む水分散ゾルは乳白色であった。また、この水分散ゾル中に含まれる前記チタン系微粒子の平均粒子径は106nmであり、さらに100nm以上の粒子径を有する粗大粒子の分布頻度は59.1%であった。
【0148】
次いで、この固形分含有量が11重量%の水分散ゾル1.17kgに純水0.12kgを添加して、固形分濃度が10重量%の水分散ゾルとし、さらに陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製)0.29kgを混合して15分間攪拌した。次に、前記陰イオン交換樹脂を目開き44μmのステンレス製フィルターを用いて分離・除去したのち、陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製)39.4gを混合して15分間攪拌した。次いで、前記陽イオン交換樹脂を目開き44μmのステンレス製フィルターを用いて分離・除去したのち、この水分散ゾルを遠心分離機(日立工機(株)製CR−21G)に供して12,000rpmの速度で1時間処理して、100nm以上の粒子径を有する粗大粒子を分級して取り除いた。これにより、固形分含有量が6.4重量%の水分散ゾル1.13kgを得た。
【0149】
次いで、この固形分含有量が6.4重量%の水分散ゾル1.13kgに、純水2.49kgを混合して、固形分含有量が2.0重量%の水分散ゾル3.62kgを得た。次に、この水分散ゾルをオートクレーブ(耐圧硝子工業(株)製、5L)に入れて、165℃の温度で18時間、加熱処理した。
【0150】
次に、オートクレーブから取り出して室温まで冷却された水分散ゾルに、陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製)0.14kgを混合して15分間攪拌した。次いで、前記陰イオン交換樹脂を目開き44μmのステンレス製フィルターを用いて分離・除去したのち、陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製)9.5gを混合して15分間攪拌した。さらに、前記陽イオン交換樹脂を目開き44μmのステンレス製フィルターを用いて分離・除去して、脱イオンされた固形分含有量が2.0重量%のチタン系微粒子(コア粒子)を含む水分散液(C−2)3.52kgを得た。
【0151】
さらに、前記と同様な操作を4回繰返し固形分含有量が2.0重量%のチタン系微粒子(コア粒子)を含む水分散液(C−2)17.6kgを得た。
(コアシェル型結晶性無機酸化物微粒子のメタノール分散液(MP−2)の調製)
製造例4の<工程2>において、チタニウムを主成分とするコア粒子を含む水分散液(C−1)3.0kgを用いる代わりに、上記のチタン系微粒子(コア粒子)を含む水分散液(C−2)15.0kgを用いた以外は製造例4と同様の操作を行い、固形分濃度20.5重量%のコアシェル型結晶性無機酸化物微粒子のメタノール分散液(MP−2)を得た。
【0152】
[製造例6]
コアシェル型でない結晶性無機酸化物微粒子のメタノール分散液(MF−1)の調製
製造例4の(操作1.3)において、結晶性無機酸化物微粒子の水分散液(P−1)1470gを使用するかわりに、製造例4の(操作1.1)で得られたチタニウムを主成分とするコア粒子を含む水分散液(C−1)1470gを使用した以外は製造例4の(操作1.3)と同様の操作を行い、コアシェル型でない結晶性無機酸化物微粒子のメタノール分散液(MF−1)を調製した。
【0153】
[実施例1]
ハードコート層形成用塗料組成物(H1)の調製
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(Momentive Performance Materals Inc.製SILQUEST A−186 SILANE)160.1g、トリメトキシシラン(信越化学(株)製KBM−13)30.7gの混合液中に、混合液を攪拌しながら0.01Nの塩酸水溶液110.6gを滴下した。更に、この混合液を液温10℃で一昼夜攪拌して、シラン化合物の加水分解を行い、加水分解液を得た。
【0154】
次いで、この加水分解液に、メタノール(林純薬(株)製、メチルアルコール濃度:99.9重量%)11.9g、製造例1で調製した固形分濃度20重量%のシリカ系微粒子の水分散液(AS−1)303.3gおよび製造例4で調製した固形分濃度20重量%の結晶性無機酸化物微粒子のメタノール分散液(MP−1)339.68g、イタコン酸(キシダ化学(株)製、特級)28.1g、ジシアンジアミド(キシダ化学(株)製、一級)9.9gおよびレベリング剤としてのシリコーン系界面活性剤を10重量%に調整したメタノール溶液(東レ・ダウコーニング(株)製、L−7604)5.7gを加え、室温で一昼夜攪拌して、ハードコート層形成用塗料組成物(H1)を調製した。塗料組成物の構成は表3に示した。
【0155】
[実施例2]
ハードコート層形成用塗料組成物(H2)の調製
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(Momentive Performance Materals Inc.製SILQUEST A−186 SILANE)160.1g、トリメトキシシラン(信越化学(株)製KBM−13)30.7gの混合液中に、混合液を攪拌しながら0.01Nの塩酸水溶液110.6gを滴下した。更に、この混合液を液温10℃で一昼夜攪拌して、シラン化合物の加水分解を行い、加水分解液を得た。
【0156】
次いで、この加水分解液に、メタノール(林純薬(株)製、メチルアルコール濃度:99.9重量%)11.9g、製造例1で調製した固形分濃度20重量%のシリカ系微粒子の水分散液(AS−1)336.8gおよび製造例5で調製した固形分濃度20重量%の結晶性無機酸化物微粒子のメタノール分散液(MP−2)306.2g、イタコン酸(キシダ化学(株)製、特級)28.1g、ジシアンジアミド(キシダ化学(株)製、一級)9.9gおよびレベリング剤としてのシリコーン系界面活性剤を10重量%に調整したメタノール溶液(東レ・ダウコーニング(株)製、L−7604)5.7gを加え、室温で一昼夜攪拌して、ハードコート層形成用塗料組成物(H2)を調製した。塗料組成物の構成は表3に示した。
【0157】
[実施例3]
ハードコート層形成用塗料組成物(H3)の調製
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(Momentive Performance Materals Inc.製SILQUEST A−186 SILANE)160.1g、トリメトキシシラン(信越化学(株)製KBM−13)30.7gの混合液中に、混合液を攪拌しながら0.01Nの塩酸水溶液110.6gを滴下した。更に、この混合液を液温10℃で一昼夜攪拌して、シラン化合物の加水分解を行い、加水分解液を得た。
【0158】
次いで、この加水分解液に、メタノール(林純薬(株)製、メチルアルコール濃度:99.9重量%)11.9g、製造例2で調製した固形分濃度20重量%のシリカ系微粒子の水分散液(AS−2)303.3gおよび製造例4で調製した固形分濃度20重量%の結晶性無機酸化物微粒子のメタノール分散液(MP−1)339.68g、イタコン酸(キシダ化学(株)製、特級)28.1g、ジシアンジアミド(キシダ化学(株)製、一級)9.9gおよびレベリング剤としてのシリコーン系界面活性剤を10重量%に調整したメタノール溶液(東レ・ダウコーニング(株)製、L−7604)5.7gを加え、室温で一昼夜攪拌して、ハードコート層形成用塗料組成物(H3)を調製した。塗料組成物の構成は表3に示した。
【0159】
[実施例4]
ハードコート層形成用塗料組成物(H4)の調製
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(Momentive Performance Materals Inc.製SILQUEST A−186 SILANE)160.1g、トリメトキシシラン(信越化学(株)製KBM−13)30.7gの混合液中に、混合液を攪拌しながら0.01Nの塩酸水溶液110.6gを滴下した。更に、この混合液を液温10℃で一昼夜攪拌して、シラン化合物の加水分解を行い、加水分解液を得た。
【0160】
次いで、この加水分解液に、メタノール(林純薬(株)製、メチルアルコール濃度:99.9重量%)11.9g、製造例3で調製した固形分濃度30重量%のシリカ系微粒子の水分散液(AS−3)202.2gおよび製造例4調製した固形分濃度20重量%の結晶性無機酸化物微粒子のメタノール分散液(MP−1)339.68g、イタコン酸(キシダ化学(株)製、特級)28.1g、ジシアンジアミド(キシダ化学(株)製、一級)9.9gおよびレベリング剤としてのシリコーン系界面活性剤を10重量%に調整したメタノール溶液(東レ・ダウコーニング(株)製、L−7604)5.7gを加え、室温で一昼夜攪拌して、ハードコート層形成用塗料組成物(H4)を調製した。塗料組成物の構成は表3に示した。
【0161】
参考例5]
ハードコート層形成用塗料組成物(H5)の調製
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(Momentive Performance Materals Inc.製SILQUEST A−186 SILANE)160.1g、トリメトキシシラン(信越化学(株)製KBM−13)30.7gの混合液中に、混合液を攪拌しながら0.01Nの塩酸水溶液110.6gを滴下した。更に、この混合液を液温10℃で一昼夜攪拌して、シラン化合物の加水分解を行い、加水分解液を得た。
【0162】
次いで、この加水分解液に、メタノール(林純薬(株)製、メチルアルコール濃度:99.9重量%)11.9g、製造例1で調製した固形分濃度20重量%のシリカ系微粒子の水分散液(AS−1)214.4gおよび製造例4で調製した固形分濃度20重量%の結晶性無機酸化物微粒子のメタノール分散液(MP−1)428.7g、イタコン酸(キシダ化学(株)製、特級)28.1g、ジシアンジアミド(キシダ化学(株)製、一級)9.9gおよびレベリング剤としてのシリコーン系界面活性剤を10重量%に調整したメタノール溶液(東レ・ダウコーニング(株)製、L−7604)5.7gを加え、室温で一昼夜攪拌して、ハードコート層形成用塗料組成物(H5)を調製した。塗料組成物の構成は表3に示した。
【0163】
[実施例6]
ハードコート層形成用塗料組成物(H6)の調製
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(Momentive Performance Materals Inc.製SILQUEST A−186 SILANE)160.1g、トリメトキシシラン(信越化学(株)製KBM−13)30.7gの混合液中に、混合液を攪拌しながら0.01Nの塩酸水溶液110.6gを滴下した。更に、この混合液を液温10℃で一昼夜攪拌して、シラン化合物の加水分解を行い、加水分解液を得た。
【0164】
次いで、この加水分解液に、メタノール(林純薬(株)製、メチルアルコール濃度:99.9重量%)11.9g、製造例1で調製した固形分濃度20重量%のシリカ系微粒子の水分散液(AS−1)413.4gおよび製造例4で調製した固形分濃度20重量%の結晶性無機酸化物微粒子のメタノール分散液(MP−1)229.7g、イタコン酸(キシダ化学(株)製、特級)28.1g、ジシアンジアミド(キシダ化学(株)製、一級)9.9gおよびレベリング剤としてのシリコーン系界面活性剤を10重量%に調整したメタノール溶液(東レ・ダウコーニング(株)製、L−7604)5.7gを加え、室温で一昼夜攪拌して、ハードコート層形成用塗料組成物(H6)を調製した。塗料組成物の構成は表3に示した。
【0165】
[比較例1]
ハードコート層形成用塗料組成物(C1)の調製
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(Momentive Performance Materals Inc.製SILQUEST A−186 SILANE)160.1g、トリメトキシシラン(信越化学(株)製KBM−13)30.7gの混合液中に、混合液を攪拌しながら0.01Nの塩酸水溶液110.6gを滴下した。更に、この混合液を液温10℃で一昼夜攪拌して、シラン化合物の加水分解を行い、加水分解液を得た。
【0166】
次いで、この加水分解液に、メタノール(林純薬(株)製、メチルアルコール濃度:99.9重量%)226.2g、市販のアルカリ性球状シリカ微粒子の水分散液(日揮触媒化成(株)製カタロイドSI−30、平均粒子径12nm、固形分濃度30%)428.7g、イタコン酸(キシダ化学(株)製、特級)28.1g、ジシアンジアミド(キシダ化学(株)製、一級)9.9gおよびレベリング剤としてのシリコーン系界面活性剤を10重量%に調整したメタノール溶液(東レ・ダウコーニング(株)製、L−7604)5.7gを加え、室温で一昼夜攪拌して、ハードコート層形成用塗料組成物(C1)を調製した。塗料組成物の構成は表3に示した。
【0167】
[比較例2]
ハードコート層形成用塗料組成物(C2)の調製
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(Momentive Performance Materals Inc.製SILQUEST A−186 SILANE)160.1g、トリメトキシシラン(信越化学(株)製KBM−13)30.7gの混合液中に、混合液を攪拌しながら0.01Nの塩酸水溶液110.6gを滴下した。更に、この混合液を液温10℃で一昼夜攪拌して、シラン化合物の加水分解を行い、加水分解液を得た。
【0168】
次いで、この加水分解液に、前述の「シリカ微粒子(SA−1)の調製」で調製した固形分濃度20重量%のシリカ微粒子の水分散液(SA−1)303.3gおよび前述の「結晶性無機酸化物微粒子(MF−1)の調製」製造例6で調製した固形分濃度20重量%のコアシェル型ではない結晶性無機酸化物微粒子のメタノール分散液(MF−1)954.0g、イタコン酸(キシダ化学(株)製、特級)28.1g、ジシアンジアミド(キシダ化学(株)製、一級)9.9gおよびレベリング剤としてのシリコーン系界面活性剤を10重量%に調整したメタノール溶液(東レ・ダウコーニング(株)製、L−7604)5.7gを加え、室温で一昼夜攪拌して、ハードコート層形成用塗料組成物(C2)を調製した。塗料組成物の構成は表3に示した。
【0169】
[比較例3]
ハードコート層形成用塗料組成物(C3)の調製
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(Momentive Performance Materals Inc.製SILQUEST A−186 SILANE)160.1g、トリメトキシシラン(信越化学(株)製KBM−13)30.7gの混合液中に、混合液を攪拌しながら0.01Nの塩酸水溶液110.6gを滴下した。更に、この混合液を液温10℃で一昼夜攪拌して、シラン化合物の加水分解を行い、加水分解液を得た。
【0170】
次いで、この加水分解液に、メタノール(林純薬(株)製、メチルアルコール濃度:99.9重量%)11.9g、製造例1で調製した固形分濃度20重量%のシリカ系微粒子の水分散液(AS−1)303.3gおよび製造例4で調製した固形分濃度20重量%の結晶性無機酸化物微粒子のメタノール分散液(MP−1)339.68g、イタコン酸(キシダ化学(株)製、特級)28.1gおよびレベリング剤としてのシリコーン系界面活性剤を10重量%に調整したメタノール溶液(東レ・ダウコーニング(株)製、L−7604)5.7gを加え、室温で一昼夜攪拌して、ハードコート層形成用塗料組成物(C3)を調製した。塗料組成物の構成は表3に示した。
【0171】
[製造例7]
(フォトクロミック層形成用塗料組成物の調製)
メラミン・ホルムアルデヒド重縮合体水溶液(昭和電工(株)製ミルベンレジンSM850)195.6gおよびポリオールポリエステルポリマー(日本ポリウレタン工業(株)製ニッポラン131)244.5gを、プロピレングリコールモノメチルエーテル(ダウケミカル製ダワノールPM)525.3gに添加し撹拌した。ついで、その溶液にp−トルエンスルホン酸・一水和物(東京化成工業(株)製)6.3g、レベリング剤としてのシリコーン系界面活性剤を10重量%に調整したメタノール溶液(東レ・ダウコーニング(株)製、L−7001)6.3gを加え、室温で一昼夜攪拌した後、市販のフォトクロミック化合物(東京化成工業(株)製、1,3,3−トリメチルインドリノ−6‘−ニトロベンゾピリロピラン)13.2gを添加し撹拌しながら超音波分散させフォトクロミック化合物含有塗料組成物(U1)を調製した。
【0172】
試験用プラスチックレンズ基板(試験片)の作製および評価
<プラスチックレンズ基板(試験片)の作製>
(1)プラスチックレンズ基材の前処理
市販のプラスチックレンズ基材「モノマー名:MR−8」(三井化学(株)製、基材の屈折率1.60)を、40℃に保った10重量%濃度のKOH水溶液に2分間浸漬してエッチング処理を行った。更に、これらを取り出して水洗したのち、十分に乾燥させた。
【0173】
(2)フォトクロミック層の形成
前処理を行ったプラスチックレンズ基材の凸面にスピンコート法でフォトクロミック層形成用塗料組成物を塗布して塗膜を形成した。
【0174】
次に、前記塗膜を100℃で10分間、加熱処理して、塗膜(フォトクロミック層)の予備硬化を行った。
このようにして形成された前記フォトクロミック層の予備硬化後の膜厚は、概ね10〜20μmであった。
【0175】
(3)ハードコート層の形成
前記前処理を行ったプラスチックレンズ基材、またはフォトクロミック層を形成したプラスチックレンズ基材の表面に、ハードコート層形成用の塗料組成物を塗布して塗膜を形成した。なお、この塗料組成物の塗布は、ディッピング法を用いて行った。
【0176】
次に、前記塗膜を90℃で10分間、乾燥させた後、110℃で2時間、加熱処理して、塗膜(ハードコート層)の硬化を行った。この際、前記フォトクロミック層の本硬化も同時に行った。
このようにして形成された前記ハードコート層の硬化後の膜厚は、概ね3.0〜3.5μmであった。
【0177】
(4)反射防止膜の形成
前記ハードコート層の表面に、以下に示す構成の無機酸化物成分を真空蒸着法によって蒸着させた。ここでは、ハードコート層側から大気側に向かって、SiO2:0.06λ、ZrO2:0.15λ、SiO2:0.04λ、ZrO2:0.25λ、SiO2:0.25λの順序で積層された反射防止膜の層を形成した。また、設計波長λは、520nmとした。
【0178】
<プラスチックレンズ基板(試験片)の評価>
実施例1〜4、参考例5、実施例6、比較例1〜3で得られたハードコート層形成用の塗料組成物H1〜H6、C1〜C3と、フォトクロミック層形成用塗料組成物U1とを用いて、表6に示す組み合わせで、前処理を行ったプラスチックレンズ基材上にプライマー層膜およびハードコート層を形成して試験片1〜16を作製した。
【0179】
このようにして得られた試験片1〜16について、上記の評価試験法を用いて、外観(曇り)、耐擦傷性、膜硬度、密着性、耐候性、耐光性、屈折率、フォトクロミック性を試験して評価した。その結果を表4に示す。
【0180】
この結果から明らかなように、実施例で作成した塗料組成物を塗布して得られた試験片では耐擦傷性および膜硬度が非常に高いとともに、曇りがなく透明度が高く、さらに密着性、耐候的密着性、耐光性も高かった。
【0181】
【表1】
【0182】
【表2】
【0183】
【表3】
【0184】
【表4】