(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両用スタビライザーを作製するに際し、請求項1または2に記載のスタビライザー用鋼を用い、該鋼を、棒鋼または線材に圧延した後、冷間にてスタビライザー形状に成形し、通電加熱、炉加熱あるいは高周波誘導加熱の何れかの加熱手段にて、オーステナイト化温度+50℃以上1050℃未満の範囲まで加熱した後、そのまま水焼入れし、水焼入れ後の結晶粒度を旧オーステナイト粒度番号で7.5〜10.5の範囲とする、高強度で耐食性に優れたスタビライザーの製造方法。
車両用スタビライザーを作製するに際し、請求項1または2に記載のスタビライザー用鋼を用い、該鋼を、棒鋼または線材に圧延した後、通電加熱、炉加熱あるいは高周波誘導加熱の何れかの加熱手段にて、オーステナイト化温度+50℃以上1050℃未満の範囲まで加熱してスタビライザー形状に成形した後、そのまま水焼入れし、水焼入れ後の結晶粒度を旧オーステナイト粒度番号で7.5〜10.5の範囲とする、高強度で耐食性に優れたスタビライザーの製造方法。
車両用スタビライザーを作製するに際し、請求項1または2に記載のスタビライザー用鋼を用い、該鋼を、棒鋼または線材に圧延した後、通電加熱、炉加熱あるいは高周波誘導加熱の何れかの加熱手段にて、オーステナイト化温度+50℃から1250℃以下の範囲まで加熱してスタビライザー形状に成形した後、常温まで空冷で冷却した後に、さらに、通電加熱、炉加熱あるいは高周波誘導加熱の何れかの加熱手段にて、オーステナイト化温度+50℃以上1050℃未満の範囲に再加熱をした後、そのまま水焼入れし、水焼入れ後の結晶粒度を旧オーステナイト粒度番号で7.5〜10.5の範囲とする、高強度で耐食性に優れたスタビライザーの製造方法。
前記結晶粒度を旧オーステナイト粒度番号で7.5〜10.5の範囲としたスタビライザーに対して、さらに、ショットピーニング処理、ショットブラスト処理、めっき処理およびベーキング処理のうちから選んだ1種以上を行う、請求項4〜6のいずれか1項に記載の高強度で耐食性に優れたスタビライザーの製造方法。
【背景技術】
【0002】
自動車の旋回時にロールの発生を少なくし、乗り心地および走行安定性を向上させる懸架機構上の重要保安部品にスタビライザーがある。スタビライザーは、ばね作用によって車体の傾斜を抑えるため、素材となる鋼には十分な強度・靭性と耐久性が要求される。
【0003】
従来、スタビライザーは、S48C等の炭素鋼や、SUP9等のばね鋼の熱間圧延鋼材を所定の寸法に切断した後、熱間で鍛造および曲げ成形を行い、さらに、油焼入れ焼き戻しにより所定の強度に調質して製造されてきた。しかし、近年、コストダウンのために、熱処理を省略して、生産性の向上や、合理化を図ることが強く要望されるようになってきた。
【0004】
この要望に対し、特許文献1には、熱間圧延後に強加工や焼入れ焼き戻しなどを行わなくとも、熱延ままで120〜150kgf/mm
2の高強度を有し、延靭性に優れ冷間曲げ加工が可能で、ばねやスタビライザー等に加工可能な非調質ばね用圧延線状鋼または棒状鋼として、0.13〜0.35%C−0.1〜1.8%Si−0.8〜1.8%Cr系の鋼に、Nbや、Ti、Bを添加する成分組成の鋼が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、強度が1150MPa以上で冷間加工性が良好な非調質の高強度鋼材に関し、熱間圧延ままの非調質状態で所望の強度を得るために、Vを主力元素として他の析出硬化元素と複合添加した組成の鋼を、低温で熱間圧延後、適切な冷却速度で冷却し、スタビライザー等の緩衝・復元機構部材用鋼材を製造できることが記載されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、0.24〜0.40%C−0.15〜0.40%Si−0.50〜1.20%Mn−0.30%以下Cr系の鋼に、Ti、Bを添加した鋼を用いて冷間で成形し、その後焼入れ焼戻しするタイプのスタビライザーが記載されている。
【0007】
加えて、特許文献4では0.15〜0.35%C−0.60超え〜1.5%Si−1〜3%Mn−0.3〜0.8%Cr系の鋼に、Ti,Nb,Alを添加し、Ti+Nbの範囲を限定した鋼を用いて冷間あるいは熱間で成形した後、水焼入れまま使用するタイプのスタビライザーが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上掲特許文献1および2に記載の技術ついては、合金コストがかさむためにコストダウンが思うように図れないという問題があった。
【0010】
また、上掲特許文献3に記載された技術は、コストダウンは図れるものの、耐久性の面、特に耐食性に問題が出やすくなり、思うように耐久性向上が得られないという問題があった。
【0011】
さらに、上掲特許文献4に記載された材料では、鋼材の靭性の向上が思うように得られず、耐久性にバラツキが出てしまうことが分かった。
【0012】
加えて近年、産業界では、コストダウンに加えて、地球環境問題に対する意識の向上から、製造現場において地球環境への負荷の小さいことが要望されるようになっている。
【0013】
特に、スタビライザーの場合、素材の成分組成によっては、熱間成形後、油焼入れによる焼入れ焼戻し処理が必要とされるが、油廃液の処理は、地球環境に対する負荷となるため、油の利用を回避した工程とすることが望まれている。
また、他の焼入れ方法として水焼入れがあるが、水焼入れをすると、再加熱焼戻しを行う必要があり、この再加熱焼戻しを行うコストが高いため、その省略も望まれている。
【0014】
さらに、自動車においては、安全性や快適性の確保、ハイブリッド化や電気自動車への転換によって、安全装置の搭載や、快適環境設備の搭載、燃料電池の搭載といった、従来と比べて車両重量軽減が難しくなってきている。そのため、足回り部品においては、より高強度な特性を要求されながら安全性の確保も必要である。また、重要保安部品であるスタビライザーは、高強度と高靭性を両立させるのみならず、寒冷地への対応も必要なために、常温靭性と共に低温靭性の確保も重要である。
【0015】
本発明は、上記した現状に鑑み開発されたもので、コストダウンはもとより、地球環境にやさしい製造工程にて、引張強さ:1200MPa級以上で優れた常温および低温靭性を有する高耐久性のスタビライザー用鋼と、それを用いた車両用スタビライザーおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明者等は、上述した問題を解決するために鋭意検討した結果、焼入れ媒体として水を利用することで、焼入れ性のより低い材料でもスタビライザーの高強度化が可能となるため、この工程を加味した専用の成分を選択すれば、高強度であるとともに高靭性な特性が得られることを見出した。
【0017】
また、水焼入れにて高強度化する場合、鋼材の強度は、Cの含有量でほぼ決まり、C含有量を高めると靭性が低下する傾向にあるが、この点についても鋭意研究を重ね、成分として、Bの添加と同時にSiを低減することや、Moをごく微量添加することで、鋼材の強度を高く維持したままで、その靭性が飛躍的に高まり、さらには、耐久性も向上することを見出した。
【0018】
そして、発明者等は、このスタビライザーで必要となる耐食性についてもさらに検討を進めた結果、CuとNiを少量含み、その範囲を規定することで、基地の耐食性がさらに向上することが分かり、それは塗装後の使用においても、塗装剥離部位から発生する腐食孔の発生を遅延させる働きがあることが分かった。
これらの知見を基に、さらに検討を行い、本発明を完成させた。
【0019】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で、
C:0.21〜0.35%、
Si:0.60%以下(0%含まず)、
Mn:0.30〜1.50%、
P:0.035%以下、
S:0.035%以下、
Cu:0.05〜0.35%、
Ni:0.03〜0.15%、
Cr:0.05〜0.80%、
Mo:0.003〜0.050%、
sol.Al:0.005〜0.080%および
B:0.0005〜0.0100%を含有し、
さらに、Cu量+Ni量が0.15%以上であって、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼であって、
水焼入れした後の結晶粒度が旧オーステナイト粒度番号で7.5〜10.5の範囲である、高強度で耐食性に優れたスタビライザー用鋼。
【0020】
2.前記鋼に対して、さらに質量%で、
Ti:0.005〜0.050%、
V:0.005〜0.050%および
Nb:0.005〜0.050%
のうちから選んだ一種または二種以上を含有した、前記1に記載の高強度で耐食性に優れたスタビライザー用鋼。
【0021】
3.車両用スタビライザーを作製するに際し、前記1または2に記載のスタビライザー用鋼を用い、該鋼を、棒鋼または線材に圧延した後、冷間にてスタビライザー形状に成形し、通電加熱、炉加熱あるいは高周波誘導加熱の何れかの加熱手段にて、オーステナイト化温度+50℃以上1050℃未満の範囲まで加熱した後、そのまま水焼入れし、水焼入れ後の結晶粒度を旧オーステナイト粒度番号で7.5〜10.5の範囲とする、高強度で耐食性に優れたスタビライザーの製造方法。
【0022】
4.車両用スタビライザーを作製するに際し、前記1または2に記載のスタビライザー用鋼を用い、該鋼を、棒鋼または線材に圧延した後、通電加熱、炉加熱あるいは高周波誘導加熱の何れかの加熱手段にて、オーステナイト化温度+50℃以上1050℃未満の範囲まで加熱してスタビライザー形状に成形した後、そのまま水焼入れし、水焼入れ後の結晶粒度を旧オーステナイト粒度番号で7.5〜10.5の範囲とする、高強度で耐食性に優れたスタビライザーの製造方法。
【0023】
5.車両用スタビライザーを作製するに際し、前記1または2に記載のスタビライザー用鋼を用い、該鋼を、棒鋼または線材に圧延した後、通電加熱、炉加熱あるいは高周波誘導加熱の何れかの加熱手段にて、オーステナイト化温度+50℃から1250℃以下の範囲まで加熱してスタビライザー形状に成形した後、常温まで空冷で冷却した後に、さらに、通電加熱、炉加熱あるいは高周波誘導加熱の何れかの加熱手段にて、オーステナイト化温度+50℃以上1050℃未満の範囲に再加熱をした後、そのまま水焼入れし、水焼入れ後の結晶粒度を旧オーステナイト粒度番号で7.5〜10.5の範囲とする、高強度で耐食性に優れたスタビライザーの製造方法。
【0024】
6.前記結晶粒度を旧オーステナイト粒度番号で7.5〜10.5の範囲としたスタビライザーに対して、さらに、ショットピーニング処理、ショットブラスト処理、めっき処理およびベーキング処理のうちから選んだ1種以上を行う、前記3〜5のいずれか1項に記載の高強度で耐食性に優れたスタビライザーの製造方法。
【0025】
7.前記3〜6のいずれか1項に記載の製造方法を用いて製造する高強度で耐食性に優れたスタビライザー。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、地球環境にやさしい製造工程にて、引張強さ:1200MPa級以上で、かつ優れた常温および低温靭性を有するスタビライザーが安価に得られ、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明における限定理由について説明する。特に断わらない限り、以下の百分率は質量%を示す。
C:0.21〜0.35%
Cは、鋼が所定の強度を確保するために必要な元素であり、引張強さで1200MPa以上確保するためには0.21%以上添加することが必要である。一方、0.35%を超えてCを含有すると、炭化物が過剰になり、耐食性と靭性が共に低下しすぎるので、その上限を0.35%とする。
本発明では、スタビライザー素材として炭素含有量の低い鋼材を用いることにより、従来のスタビライザー素材を用いた水焼入れ時において懸念されていた焼割れを防止すると共に、鋼材の靭性と耐食性とを向上させて、スタビライザーをさらに安全性の高いものとしている。
【0028】
Si:0.60%以下(0%含まず)
Siは、溶製時の脱酸に必要で、基地の固溶強化やばねとしての耐へたり性を高めるのに有効であるため、必ず添加する必要がある。一方で、0.60%を超えて添加すると、靭性が劣化して耐久性が劣ることになる。よってSi量の上限を0.60%とする。
【0029】
Mn:0.30〜1.50%
Mnは、鋼の焼入れ性を高めて強度を確保するために0.30%以上の量が必要である。一方、1.50%を超えて添加すると、中心偏析やミクロ偏析が増加して鋼の靭性が劣化する。そのため、Mn量の上限は1.50%とする。
【0030】
P:0.035%以下
Pは、製鋼プロセスにおいて不可避的に残留または混入する不純物元素であり、結晶粒界に偏析して靭性を低下させるが、0.035%までは許容できる。
【0031】
S:0.035%以下
Sは、Pと同様に製鋼プロセスにおいて不可避的に残留または混入する不純物元素であり、結晶粒界に偏析して靭性を低下させる。さらに介在物であるMnSが過剰になり、靭性と耐食性をともに低下させるが、0.035%までは許容できる。
【0032】
Cu:0.05〜0.35%
Cuは、耐食性を向上させるのに有効な元素である。その効果を発現させるためには0.05%以上のCuを添加する必要がある。一方、0.35%を超えてCuを添加してもその効果は飽和するので経済的ではない。そのため、Cuの上限を0.35%とする。
【0033】
Ni:0.03〜0.15%
Niは、Cuと同様に耐食性を向上させる元素であり、その効果を発現させるためには0.03%以上の添加が必要である。一方、0.15%を超えてNiを添加してもその効果は飽和するので経済的ではない(Niは産出国が限られる希少かつ高価な金属元素)。そのため、Niの上限を0.15%とする。
【0034】
Cr:0.05〜0.80%
Crは、焼入れ性を向上させて強度を上げるが、耐食性にも影響を及ぼす。1200MPa以上の引張強さを確保するためには、0.05%以上のCrを添加する必要がある。一方、0.80%を超えて添加しても、焼き戻し時のCr含有炭化物が過剰に析出して耐食性が極端に低下するので、その上限を0.8%に限定する。
【0035】
Mo:0.003〜0.050%
Moは、焼入れ性を高めるが、それと同時に水焼入れまま使用する場合には、ごく僅かな添加から靭性を高める働きがある。そして、その効果は0.003%以上で発現する。一方、Moは、高価なため0.050%を超えて添加しても、材料コストがかかるだけで、経済的にはマイナスである。よって、本発明では、0.050%以下の範囲で添加する。
【0036】
sol.Al:0.005〜0.080%
sol.Alは、固溶Al(solid solution aluminum)の略であり、酸可溶性Alを示す。sol.Alは溶製時の脱酸剤として重要な元素である。その効果を発現させるためには0.005%以上のsol.Alを添加する必要がある。一方、0.080%を超えてsol.Alを添加すると、酸化物および窒化物が過剰になって、耐食性のみならず靭性も低下するので、その上限を0.080%とする。
【0037】
B:0.0005〜0.0100%
Bは、焼入れ性に大きく寄与する元素であり、靭性を低下させることなく焼入れ性を高めて、強度を向上させることができる。さらに焼入れ後の結晶粒界を強化して、耐久性を向上させる。それらの効果を得るには0.0005%以上の添加が必要である。一方で、0.0100%を超えて添加してもそれらの効果は飽和してコスト的に不利となる。よって、B量は、0.0005〜0.0100%の範囲に限定する。
【0038】
Cu量+Ni量:0.15%以上
本発明では、鋼中のCu量とNi量の合計が0.15%以上であることが必須である。
というのは、Cu量とNi量の合計を0.15%以上にすることで、基地の耐食性がさらに向上し、その向上効果は塗装後の使用においても、塗装剥離部位から発生する腐食孔の発生を遅延させる働きがあるからである。なお、Cu量とNi量の合計の上限は、それぞれの添加上限の合計値:0.50%で良い。
【0039】
以上、鋼中の必須成分について説明したが、本発明では、工業的に、より鋼材の特性を改善する成分として、以下の元素を適宜含有させることができる。
Ti:0.005〜0.050%、
Tiは、鋼中で炭窒化物を形成し、強度の向上と結晶粒の微細化に有効な元素である。これらの効果を発現させるためには、0.005%以上のTiを添加する必要がある。一方、0.050%を超えてTiを添加すると、炭窒化物が過剰になり、耐食性と靭性とがともに低下するので、その上限を0.050%とする。よって、Tiを添加する場合は、0.005〜0.050%の範囲とする。
【0040】
V:0.005〜0.050%、
Vは、鋼中で炭化物あるいは窒化物として存在し、材料の強度を高める役割をする。そのために、Vは、0.005%以上必要である。一方で、Vは、高価な元素であり、0.050%を超えて添加した場合には材料コストが高くなるだけである。よって、Vを添加する場合は、0.005〜0.050%の範囲とする。
【0041】
Nb:0.005〜0.050%
Nbは、組織を微細化して材料の強度を高めるとともに、靭性の劣化も抑える。そのために、Nbは、0.005%以上必要である。一方で、Nbは、0.050%を超えて添加しても特性が飽和して素材コストが悪化するだけである。よって、Nbを添加する場合は、0.005〜0.050%の範囲とする。
【0042】
その他の成分添加元素
上述した添加元素の他に、微量であればCa、Pbなどの被削性向上成分元素をさらに添加してもよい。これらの添加量をCa:0.010%以下、Pb:0.5%以下にそれぞれ制限すれば、本発明の効果はとくに阻害されずに、スタビライザー端部の穴あけ加工性をさらに向上させることができるからである。
なお、本発明の鋼材の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
【0043】
結晶粒度の旧オーステナイト粒度番号:7.5〜10.5
本発明では、所望の引張強さが、1200MPa以上と高いため、焼入れままでこの強さレベルを得るためには、結晶粒度を、一定以上、微細化することによってその靭性を確保する必要がある一方で、結晶粒を微細化し過ぎても焼入れ性が不足して所望の強度が得られない。
そこで、本発明では、鋼材の結晶粒度を旧オーステナイト結晶粒度番号で7.5〜10.5の範囲に限定する。好ましくは、旧オーステナイト結晶粒度番号で8.5〜10.5の範囲である。なお、本発明における結晶粒度は、JIS G 0551の規定に準じて測定することができる。
【0044】
具体的には、倍率を100倍とする光学顕微鏡視野において、顕微鏡観察像を、JIS G 0551に記載の標準図と比較することにより結晶粒度番号を判定し、1サンプルにつき10視野ずつ測定し、それらの平均値を算出して測定値とした。なお、標準図は最小単位が結晶粒度番号で1刻みであるが、顕微鏡視野下の結晶粒が2つの標準図の中間にあたる場合は0.5という表示を用いた。すなわち、顕微鏡視野下の結晶粒(観察像)が粒度番号7の標準図と粒度番号8の標準図との中間にあるときは、その結晶粒度番号を7.5と判定する。なお、ここで旧オーステナイト粒度とは、焼入れ加熱時のオーステナイト組織の粒度のことをいう。
【0045】
本発明において、スタビライザーの製造条件は、焼入れ温度を除いて、特に限定はしない。上記好適成分に調整したスタビライザー用鋼を用いて、従来の条件で実施すれば良く、以下に記載する条件で実施可能である。
圧延条件
棒鋼圧延、あるいは線材圧延について、本発明では特別な条件での圧延を必要としない。よって特に限定はせずに、圧延前加熱温度は、従来の線材、棒鋼の加熱条件を用いることができる。すなわち、900〜1250℃の温度範囲で加熱可能である。また、仕上げ圧延温度は、従来の線材、棒鋼線材の圧延温度と同じく900〜1100℃の範囲で行えばよい。
【0046】
スタビライザー形状に成形
本発明では、上記のように棒鋼または線材に圧延した鋼を、冷間にてスタビライザー形状に成形するが、その条件は、常法の冷間成形条件を用いることができる。
【0047】
冷間成形後、焼入れ前の加熱条件
上記スタビライザー成形後の焼入れ前の加熱方法は、従来の不活性ガス雰囲気炉の焼入れ炉でも加熱可能であり、焼入れ後に引張強さ:1200MPa以上の充分な鋼材靭性が得られる。また、高周波誘導加熱手段または直接通電加熱手段を用いても良い。なお、高周波誘導加熱手段は、高周波誘導加熱炉の他に加熱対象物を簡易に取り囲むコイルを有する高周波誘導加熱コイル装置を含むものである。また、直接通電加熱手段は、加熱対象物に直接通電して抵抗発熱させるための両極端子を有する直接通電加熱装置を含むものである。
【0048】
焼入れ前の加熱温度:オーステナイト化温度+50℃以上1050℃未満
加熱温度に関しては、焼入れ性に影響する旧オーステナイト粒度を最適化する必要が有り、下限をオーステナイト化温度(Ac
3)+50℃とする。一方、上限を高くしすぎると、結晶粒の粗大化が生じて旧オーステナイト粒度番号が本発明の範囲を外れたり、脱炭不足になったりなどの悪影響が懸念されるため、上限を1050℃未満とする。好ましい上限は、1030℃であって、1000℃がより好ましい。
【0049】
加熱後の焼入れ条件
上記加熱後、そのまま水焼入れをする。
本発明における水焼入れは、常法を用いることができるが、例えば、水槽へのズブ焼入れまたはシャワー冷却と言った条件を採用することが好ましい。
【0050】
熱間曲げ成形時の加熱条件
本発明では、上記冷間成形に替えて熱間成形とすることもできる。
その際の加熱条件は、上述した冷間成形後焼入れ前の加熱条件を用いることができる。
【0051】
スタビライザー形状に成形
ついで、熱間にてスタビライザー形状に成形するが、その条件は、従来公知の専用金型を用いた型成形である。
【0052】
加熱後の焼入れ条件
上記加熱、成形後、そのまま水焼入れをするが、前述した加熱後の焼入れ条件(手段)を用いることができる。
【0053】
通常は、熱間成形後、上述するように、直ちに焼入れるほうが経済的にも良いが、時間や場所の制約によって、熱間成形後に一旦常温まで冷却した後に再加熱して焼入れる場合がある。
その際、熱間成形のための加熱条件は、上述した熱間成形のための加熱条件に等しくすることができるが、その加熱上限は1250℃程度まで許容できる。
【0054】
再加熱温度:オーステナイト化温度+50℃以上1050℃未満
熱間成形後に一旦常温まで冷却した後に再加熱して焼入れる場合は、下限をオーステナイト化温度+50℃とする一方で、上限は、結晶粒の粗大化や脱炭などの悪影響を考慮して1050℃とする温度で再加熱することが好ましい。
なお、加熱手段については、熱間成形のための加熱条件と同様で、炉加熱、高周波誘導加熱、直接通電加熱のいずれを用いても良い。
【0055】
再加熱後の焼入れ条件
上記再加熱後、そのまま水焼入れをするが、前述した加熱後の焼入れ条件(手段)を用いることができる。
【0056】
また、本発明では、上記焼入れが終わったスタビライザーに対して、さらに、ショットピーニング処理、ショットブラスト処理、めっき処理およびベーキング処理のうちから選んだ1種以上を行うこともできる。なお、上記ショットピーニング処理、ショットブラスト処理、めっき処理およびベーキング処理の各条件や用いる設備等は、常法に依れば良い。
【実施例】
【0057】
(実施例1)
表1−1、1−2に示す種々の化学成分の鋼を、試験溶解にて溶製(150kg)後、鋼塊となし、次いで160mm角ビレットに溶接し、熱間圧延にて直径:20mmの素材を作製した。この圧延材を切断して焼入れ処理を行い、引張試験、衝撃試験、耐食性試験および旧オーステナイト結晶粒度試験を行なった。なお、表1−1、1−2に示した鋼成分の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
(1)焼入れ処理は、各鋼の化学成分と以下の式を用いて計算で求めたオーステナイト化温度(Ac
3)(一桁目は切り上げ)に50℃を加えた温度に30分加熱し、その後焼入れを行った。その後、No.22鋼以外は塗装処理時に上昇する温度上限である180℃に加熱して空冷した。また、No.22鋼については、550℃で焼戻した後180℃に加熱して空冷した。
Ac
3(℃)=908−2.237×%C×100+0.4385×%P×1000+0.3049×%Si×100−0.3443×%Mn×100−0.23×%Ni×100+2×(%C×100−54+0.06×%Ni×100)(出典:熱処理技術便覧、P81)
(2)引張試験は、JIS4号試験片で行なった。
(3)衝撃試験はJIS3号片(Uノッチ2mm深さ)で、試験温度は20℃とマイナス40℃で行なった。
表2における靭性評価は、シャルピー衝撃試験結果で行い、吸収エネルギの測定値が20℃で80(J/cm
2)未満、または−40℃で40(J/cm
2)未満であったものを不合格(記号×)とし、同値が20℃で80(J/cm
2)以上、−40℃で40(J/cm
2)以上であったものを合格(記号○)とした。
(4)耐食性試験は、所定の強度に熱処理を行なった丸棒材から20mm幅×50mm長さ×5mm厚みの板状試験片を採取し、更に板状試験片内の15mm幅×40mm長さ範囲を腐食面(それ以外はマスキングした)として乾湿繰返しの腐食試験を行い、腐食減量を測定した。
乾湿繰返し条件は、<5%NaCl、35℃>×8時間+<50%RH、35℃>×16時間=1サイクルとして、10サイクル実施した。腐食減量測定は、腐食試験前後に重量測定し腐食面積で除して算出した。なお、除錆は、80℃の20%クエン酸水素アンモニウム水溶液で行なった。
表2−1、2−2において、耐食性の評価は、腐食減量の値が1000(g/m
2)以上であったものを不合格(記号×)とし、同値が1000(g/m
2)未満であったものを合格(記号○)とした。
(5)旧オーステナイト結晶粒度の判定は、JIS−G−0551に従い、結晶粒の現出は焼入れ焼戻し法(Gh)で行い、判定は標準図との比較で行なった。
さらに、スタビライザー用素材の耐久性評価として、棒形状での捩り疲労試験を行った。捩り疲労試験では、断面の直径:20mmの棒を、それぞれの成分の鋼塊より圧延し、220mm長さで切断加工した後、表2−1、2−2に示した温度条件で通電加熱焼入れ・炉加熱焼戻しを実施し、供試体とした。その試験片中央より両端面方向へ50mmずつ、計100mm長さの部分を腐食試験と同一の乾湿繰返し条件である、<5%NaCl、35℃>×8時間+<50%RH、35℃>×16時間=1サイクルとして、合計3サイクル行い、その後片端部固定で片振りの捩り疲労試験を実施した。評価としては繰返し10万回達成時の最大応力で評価した。
【0058】
【表1-1】
【0059】
【表1-2】
【0060】
【表2-1】
【0061】
【表2-2】
【0062】
表1−1、1−2、2−1および2−2において、鋼No.23〜51は化学成分、旧オーステナイト結晶粒度が本発明範囲内の鋼材であり、引張強度が1200MPa以上の高強度かつ高靭性を有するとともに、腐食減量が1000(g/m
2)未満であって耐食性に優れているという結果が得られた。また、疲労強度の面では、従来材であるNo.22(JIS SUP9)よりも、捩り疲労試験において高強度であることが証明された。
【0063】
これに対し、表1−1において、鋼No.1〜22は化学成分において本発明の範囲外の鋼材であり、これらのうち特に鋼No.22はJIS SUP9の成分組成になるものである。
比較例1は、C含有量が低すぎるために引張強さが758MPaとなり、所望の強度が得られず、疲労強度が低下した。
比較例2は、C含有量が0.36%と多すぎるため、炭化物が過剰に析出して耐食性および靭性がともに劣り、疲労強度も低下するという結果が得られた。
比較例3は、Si含有量が0.64%と多すぎて、靭性が劣化したため、疲労強度も低下した。
比較例4は、Mn含有量が低すぎるために引張強さが945MPaとなり、所望の強度が得られておらず、そのために疲労強度が低下した。
比較例5は、Mn含有量が高すぎるために所望の強度は得られたものの、靭性が劣り、疲労特性が低下した。
比較例6は、P添加量が多すぎるために靭性が劣り、疲労強度が低下した。
比較例7は、S添加量が多すぎるために靭性と耐食性が劣り、疲労強度が低下した。
比較例8は、Cu添加量が少なすぎるために耐食性が劣り、そのため疲労試験片の腐食が進行したため、疲労強度が低下した。
比較例9は、Ni添加量が少なすぎるために耐食性が劣り、そのために疲労試験片の腐食が進行したため、疲労強度が低下した。
比較例10は、Cr含有量が低すぎるために引張強さが610MPaとなり、所望の強度が得られておらず、疲労強度が低下した。
比較例11は、Cr含有量が高すぎるために炭化物が過剰になり、靭性と耐食性がともに劣り、疲労強度が低下した。
比較例12は、Mo含有量が少なすぎるために、靭性が不足し、疲労強度が低下した。
比較例13は、sol.Al含有量が少なすぎるために脱酸が不十分で酸化物が過剰になり、靭性と耐食性がともに低下し、腐食の進行と酸化物による応力集中で疲労強度が低下した。
比較例14は、sol.Al含有量が多すぎる場合であり、Al
2O
3系の酸化物やAlNなどの窒化物が過剰になり、靭性と耐食性がともに低下し、疲労強度も低下した。
比較例15は、B添加量が少なすぎるために、焼入れ性が低下して引張強さは667MPaと低くなりすぎたために疲労強度が低下した。
比較例16は、Bを添加しておらず、Moも添加されていないため、靭性が低下し、疲労強度が低下した。
比較例17は、Ti含有量が少なすぎて、引張強さは1050MPaと所望の強度が得られず、また組織が粗くなって靭性も低下しており、そのため疲労強度が低下した。
比較例18は、Ti添加量が多すぎるために、炭窒化物が過剰に析出し、靭性低下と耐食性劣化を引き起こした。そのため疲労強度も低下した。
比較例19は、Nb含有量が少なすぎるために、所望の強度が得られず、また結晶粒が微細化しなかったために靭性が低下した。
比較例20は、V添加量が少なすぎて所望の強度が得られず、疲労強度が低下した。
比較例21は、CuとNiの各添加量は本発明の範囲内であるが、両者の合計量が少なすぎて、耐食性が不足し、そのために疲労強度も低下した。
比較例22は、スタビライザー用として従来より使用されているJIS SUP9の例であるが、化学成分が本発明範囲外となるため、靭性と耐食性において、本発明に劣っている。
【0064】
(実施例2)
表3は、結晶粒度の影響を示した実施例の結果を記載している。
鋼No.49を用いて成形後の焼入れ温度を調整することで旧オーステナイト粒度の異なる試験片を作製した。なお、その他の実施条件は、実施例1と同じである。
【0065】
【表3】
【0066】
同表に示したとおり、発明例2−1、2−2、2−3、2−4、2−5および2−6は、結晶粒度を本発明範囲としたものであり、強度・靭性ともに優れ、高い疲労特性が得られている。
【0067】
これに対して、比較例2−1は、旧オーステナイト粒度番号が本発明範囲より大きく、結晶粒が微細なため、焼入れ性が低下して引張強さが低くなり、疲労強度が低下している。
また、比較例2−2は、旧オーステナイト粒度番号が本発明範囲より小さく、結晶粒が粗大なため、靭性が劣化し、疲労強度が低下している。
さらに、比較例2−3は、結晶粒が混粒となっていて、靭性が劣化し、疲労強度が低下している。