(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
SiCは、Si等と比較して耐熱性及び電気的特性等に優れるため、新たな半導体材料として注目されている。半導体素子を製造する際には、初めにSiC単結晶からなる種結晶を用いてSiC基板(SiCバルク基板)を作製し、次にこのSiC基板にエピタキシャル層を成長させてエピタキシャルウエハを作製する。半導体素子は、このエピタキシャルウエハから製造される。また、種結晶を用いてSiC単結晶を成長させる方法として、MSE法が知られている。
【0003】
特許文献1には、MSE法を用いてSiC単結晶を成長させる方法が開示されている。MSE法は、SiC単結晶からなるSiC種結晶と、SiC種結晶より自由エネルギーの高いフィード基板と、Si融液と、を用いる。SiC種結晶とフィード基板を対向するように配置し、その間にSi融液を位置させ、真空下で加熱することにより、SiC種結晶の表面にSiC単結晶を成長させることができる。
【0004】
また、非特許文献1には、MSE法によるSiC単結晶の成長が、結晶欠陥により阻害されることが開示されている。特許文献2によれば、螺旋
転位(TSD)は成長阻害度合が一番大きく、基底面転位(BPD)は成長阻害度合が小さく、刃状
転位(TED)は成長を殆ど阻害しない。
【0005】
特許文献2は、SiC基板に生じた表面変質層を除去する処理方法を開示する。表面変質層とは、SiC基板を作製する工程(機械研磨等の機械加工)で生じた結晶構造のダメージ層と記載されている。特許文献2には、この表面変質層の除去方法として水素エッチングが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、本願出願人は、ダイヤモンドソー等で切断加工されたSiC単結晶をSiC種結晶として用いてMSE法を行うと、成長速度が極めて遅くなることを発見した。MSE法は、昇華再結晶化法よりも品質が高いSiC基板を作製できるため期待されており、この点を解消することが求められる。
【0009】
なお、特許文献2では、SiC種結晶から成長させたSiC基板に加工変質層があること、及びそれを除去することを開示するに留まり、SiC種結晶の加工変質層については言及されていない。
【0010】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、切断加工されたSiC種結晶を用いてMSE法を行う場合であっても成長速度が低下しない方法を提供することにある。
【0011】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0012】
本発明の第1の観点によれば、準安定溶媒エピタキシー法
により、厚み方向に平行な面からa軸方向にSiC単結晶を成長させるための板状のSiC種結晶の、切断加工により生じた加工変質層を除去するための方法であって、
前記SiC種結
晶をSi雰囲気下で加熱することで、
少なくとも当該SiC種結晶の厚み方向に平行な面を10μm以上エッチングするエッチング工程を含むことを特徴とするSiC種結晶の加工変質層の除去方法が提供される。
【0013】
これにより、MSE法による成長の阻害となる加工変質層を除去することができるので、成長速度が低下することを防止できる。
また、厚み方向に平行な面をエッチングすることで、加工変質層が発生していると考えられる部分を確実に除去できるため、MSE法の成長速度が低下することをより確実に防止できる。また、10μm以上のエッチングを行うことで、MSE法の成長速度を改善することができる。
【0018】
本発明の第2の観点によれば、上記のSiC種結晶の加工変質層の除去工程により加工変質層が除去されたSiC種結晶が提供される。
【0019】
これにより、MSE法を用いて安定した速度でSiC単結晶を成長させることができるSiC種結晶を実現できる。
【0020】
本発明の第3の観点によれば、上記のSiC種結晶の加工変質層の除去工程と、成長工程と、を含むSiC基板の製造方法が提供される。前記成長工程では、前記除去工程で前記加工変質層が除去された前記SiC種結晶を用いて、準安定溶媒エピタキシー法により
厚み方向に平行な面からa軸方向にSiC単結晶を成長させる。
【0021】
これにより、MSE法の成長速度が低下することがないので、効率的にSiC基板を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0024】
初めに、
図1を参照して、本実施形態の加熱処理(エッチング)で用いる高温真空炉10について説明する。
図1は、本発明の表面処理方法に用いる高温真空炉の概要を説明する図である。
【0025】
図1に示すように、高温真空炉10は、本加熱室21と、予備加熱室22と、を備えている。本加熱室21は、少なくとも表面がSiC単結晶で構成される被処理物を1000℃以上2300℃以下の温度に加熱することができる。予備加熱室22は、被処理物を本加熱室21で加熱する前に予備加熱を行うための空間である。
【0026】
本加熱室21には、真空形成用バルブ23と、真空計25と、が接続されている。真空形成用バルブ23により、本加熱室21の真空度を調整することができる。真空計25により、本加熱室21内の真空度を測定することができる。
【0027】
本加熱室21の内部には、ヒータ26が備えられている。また、本加熱室21の側壁や天井には図略の熱反射金属板が固定されており、この熱反射金属板によって、ヒータ26の熱を本加熱室21の中央部に向けて反射させるように構成されている。これにより、被処理物を強力且つ均等に加熱し、1000℃以上2300℃以下の温度まで昇温させることができる。なお、ヒータ26としては、例えば、抵抗加熱式のヒータや高周波誘導加熱式のヒータを用いることができる。
【0028】
また、被処理物は、坩堝(収容容器)30に収容された状態で加熱される。坩堝30は、適宜の支持台等に載せられており、この支持台が動くことで、少なくとも予備加熱室から本加熱室まで移動可能に構成されている。
【0029】
坩堝30は、互いに嵌合可能な上容器31と下容器32とを備えている。また、坩堝30は、タンタル金属からなるとともに、炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして構成されている。坩堝30の内部には、Siの供給源となるSiが適宜の形態で配置されている。
【0030】
被処理物を加熱処理する際には、初めに、
図1の鎖線で示すように坩堝30を高温真空炉10の予備加熱室22に配置して、適宜の温度(例えば約800℃)で予備加熱する。次に、予め設定温度(例えば、約1800℃)まで昇温させておいた本加熱室21へ坩堝30を移動させ、被処理物を加熱する。なお、予備加熱を省略しても良い。
【0031】
次に、MSE法を用いてSiC種結晶からSiC単結晶を成長させてSiC基板を作製する方法について説明する。
図2は、MSE法によりSiC単結晶を成長させるときの構成例を示す模式図である。
【0032】
図2に示すように、坩堝30の内部には、SiC種結晶40と、2枚のSiプレート41と、2枚の炭素フィード基板42と、が配置されている。これらは、支持台33によって支持されている。
【0033】
SiC種結晶40は、液相エピタキシャル成長の基板(シード側)として使用される。SiC種結晶40は、例えば所定の大きさの4H−SiC単結晶をダイシング加工(切断加工)することで作製される。本実施形態のSiC種結晶40は、
図3に示すように六角形の板状の部材であるが、その形状は任意である。また、4H−SiCに代えて6H−SiCを用いることもできる。SiC種結晶40の上下には、Siプレート41が配置されている。
【0034】
Siプレート41は、Si製の板状の部材である。Siの融点は約1400℃であるので、上記の高温真空炉10で加熱を行うことでSiプレート41は溶融する。Siプレート41の上下には、炭素フィード基板42が配置されている。
【0035】
炭素フィード基板42は、炭素を供給する原料つまりフィード側として使用される。炭素フィード基板42は、多結晶3C−SiC製であり、SiC種結晶40より自由エネルギーの高い基板である。
【0036】
SiC種結晶40、Siプレート41、及び炭素フィード基板42を上記のように配置し、例えば1800℃で加熱すると、SiC種結晶40と炭素フィード基板42の間に配置されていたSiプレート41は溶融し、シリコン融液が炭素を移動させるための溶媒として働く。
【0037】
以上により、SiC種結晶40の表面に、MSE法によるSiC単結晶を成長させることができる。これにより、マイクロパイプや結晶欠陥が少ない原子レベルに平坦なSiC基板を作製することができる。このSiC基板には、CVD法(化学気相成長法)又はLPE法(液相エピタキシャル法)等によりエピタキシャル層を成長させる工程、イオンを注入する工程、イオンを活性化させるアニール工程(加熱工程)等が行われ、半導体素子が製造される。
【0038】
本願出願人は、SiC種結晶40を用いてMSE法を行ってもSiC単結晶の成長速度が極めて遅くなる場合があることを発見した。更に、本願出願人は、この現象が、ダイシング加工等の切断加工により作製されたSiC種結晶40を用いる場合に発生することについても発見した。これらの発見に基づき、本願出願人は、切断加工時にSiC種結晶40に応力が加わって加工変質層が生じ、この加工変質層が成長を阻害していると考え、この加工変質層を除去する方法を提案した。
【0039】
具体的には、MSE法を行う前にSiC種結晶40の表面をSi雰囲気下で加熱してエッチングし、加工変質層を除去する方法である。以下、この方法について
図3を参照して説明する。
図3は、SiC種結晶40をエッチングするときの様子を示す斜視図及び断面図である。
【0040】
SiC種結晶40のエッチングは、坩堝30内にSiC種結晶40を収容して、この坩堝30を高温真空炉10で加熱することで行う。
図3に示すように、SiC種結晶40は、上記で説明した坩堝30の内部に配置される。なお、本実施形態ではSiC種結晶40は支持台34に支持されているが、支持台34を省略しても良い。ただし、SiC種結晶40の加工変質層は、側面(厚み方向に平行な面)及びその近傍に生じていると考えられるので、この部分を露出させておくことが好ましい。
【0041】
上述のように、加熱時に坩堝30内をSi雰囲気にするために、坩堝30内にはSi供給源が配置されている。Si供給源としては、固形のSiペレット、坩堝30の内壁に固着されたSi、又はタンタルシリサイド製の内壁を挙げることができる。このエッチングは、1500℃以上2200℃以下、望ましくは1800℃以上2000℃以下の環境で坩堝30(SiC種結晶40)を加熱することで行われる。加熱を行うことで、Si供給源により坩堝30内がSi雰囲気となる。
【0042】
Si蒸気圧下でSiC種結晶40が加熱されることで、SiC種結晶40のSiCがSi
2C又はSiC
2になって昇華するとともに、Si雰囲気中のSiがSiC種結晶40の表面でCと結合し、自己組織化が起こる。これにより、SiC種結晶40の側面及びその近傍に生じていると考えられる加工変質層を除去することができる。これにより、ダイシング加工等の切断加工により作製されたSiC種結晶40であってもMSE法の実施時に成長速度が低下することを防止できる。
【0043】
次に、
図4から
図6までを参照して、上記の方法の効果を確かめるために本願出願人が行った実験について説明する。
【0044】
図4及び
図5は、SiC種結晶40をエッチングしたときの結果を示す図である。本実験では、同等の構成のSiC種結晶40を4つ用意し、そのうち3つのSiC種結晶40について、1800℃、10
-5Paでそれぞれ3分、7分、11分の加熱処理を行った。
【0045】
図4に示すように、この加熱処理の結果、加熱時間が3分のSiC種結晶40はエッチング量が11μmであり、加熱時間が7分のSiC種結晶40はエッチング量が25μmであり、加熱時間が11分のSiC種結晶40はエッチング量が32μmとなった。なお、エッチング時間を長くするに連れてエッチング量は増加しており、エッチング時間とエッチング量は比例関係であった。これにより、エッチング時間を計測することでSiC種結晶40を所望の量だけエッチングすることができる。
【0046】
図5は、エッチングを行ったSiC種結晶40を上から(厚み方向の一側から)見たときの顕微鏡写真を示す図である。
図5(a)に示すように、測定点1は六角形の辺部分であり、測定点2は六角形の頂点部分である。また、
図5(b)の上部の数字はエッチング量である。この顕微鏡写真、特に測定点2の顕微鏡写真に示すように、SiC種結晶40の端部には、一部が欠けて凹凸が生じている。また、エッチング量が多いSiC種結晶40ほど、端部の欠けが除去されており、エッチング量が10μmでかなりの改善がみられ、エッチング量が25μm及び32μmでは、端部の欠けは略完全に除去され、端面が平坦になっていることが分かる。
【0047】
次に、
図6を参照して、エッチング量と成長速度の関係について行った実験を説明する。この実験では、
図2で説明したようにSiプレート41及び炭素フィード基板42を配置し、1800℃で、不活性ガス圧を10torrとして所定時間加熱を行った。その後、SiC種結晶40を取り出し、a軸方向(エピタキシャル成長方向)の長さを計測した。
【0048】
図6からは、エッチング量が多いほど、SiC種結晶40のa軸方向の長さが長い(換言すれば成長速度が速い)ことが分かる。具体的には、エッチング量が10μmのSiC種結晶40は、エッチングを行っていないSiC種結晶40よりも明らかに成長速度が速い。また、エッチング量が25μmのSiC種結晶40は、更に成長速度が速い。なお、エッチング量が25μmと32μmのSiC種結晶40は、成長速度が殆ど同じであった。
【0049】
この実験から、エッチング量を10μm以上とすることが好ましく、エッチング量を25μm又はそれ以上とすることが更に好ましい。以上により、SiC種結晶40にエッチングを行うことで、MSE法の成長速度が遅くなる事態を回避できる。
【0050】
なお、種結晶の加工変質層を除去することは従来行われていないが、SiC基板(SiCバルク基板)の加工変質層を除去する方法としては、一般的には、化学機械研磨又は水素エッチング等が行われている。しかし、化学機械研磨はSiC種結晶40の上面又は下面を研磨することは容易だが、SiC種結晶40の側面を研磨することは困難である。更に、化学機械研磨の研磨速度は、1μm/h以下である。また、水素エッチングのエッチング速度は、数十nm〜数百nm/hである。従って、一般的な加工変質層の除去方法では、多大な時間が掛かってしまう。
【0051】
この点、Si蒸気圧下(Si雰囲気下)の加熱によるエッチングは、
図4に示す結果から分かるようにエッチング速度が、3μm/min〜4μm/minであるので、短時間でSiC種結晶40の加工変質層を除去することができる。
【0052】
以上に説明したように、本実施形態では、ダイシング加工により作製され、MSE法の種結晶として用いられるSiC種結晶40を、Si雰囲気下で加熱することで表面をエッチングして、SiC種結晶40に生じている加工変質層を除去する。
【0053】
これにより、MSE法による成長の阻害となる加工変質層を除去することができるので、成長速度が低下することを防止することができる。
【0054】
また、本実施形態では、SiC種結晶40は板状であり、少なくともSiC種結晶40の厚み方向に平行な面がエッチングされる。
【0055】
これにより、加工変質層が発生していると考えられる部分を確実に除去できるので、成長速度が低下することをより確実に防止できる。
【0056】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0057】
エッチング量の制御には、エッチング時間だけでなく、温度、不活性ガス圧、Siの圧力等を用いても良い。
【0058】
上記で説明した温度条件及び圧力条件等は一例であり、適宜変更することができる。また、上述した高温真空炉10以外の加熱装置を用いたり、坩堝30と異なる形状又は素材の容器を用いても良い。
【0059】
切断加工としては、ダイシング加工等の機械的加工や、レーザー加工等のエネルギー波による加工等、適宜の方法による切断加工であってよい。