(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
交流電源の両端に第1のインダクタと第1のキャパシタとを直列に接続して閉ループを形成し、かつ、第1のスイッチと第2のスイッチとを直列に接続するとともに、第3のスイッチと第4のスイッチとを直列に接続し、さらに前記第1のスイッチと前記第3のスイッチ及び第2のスイッチと第4のスイッチをそれぞれ接続して閉ループを形成し、前記第1のスイッチと第2のスイッチとの接続点と、前記第3のスイッチと第4のスイッチとの接続点との間を、前記第1のキャパシタ、第2のインダクタ、トランスの1次巻線からなる直列回路を接続し、かつ、前記第1のスイッチと前記第3のスイッチとの接続点と前記第2のスイッチと前記第4のスイッチとの接続点との間に第2のキャパシタを接続し、前記トランスの2次巻線に整流平滑回路を備え、前記整流平滑回路の出力に負荷を接続する電力変換回路と、
前記交流電源の電圧を検出する手段から得られる電源電圧と、前記電力変換回路を流れる回路電流を検出する手段から得られる回路電流と、前記第2のキャパシタの電圧を検出する手段から得られるキャパシタ電圧とに基づいて、前記交流電源の低周波成分に高周波成分が混在した回路電流が前記電力変換回路に流れ、当該回路電流は、前記交流電源の低周波成分の1サイクルの中の電圧ピーク付近で前記高周波成分の周波数が上がり、前記1サイクル中のゼロクロス付近で前記高周波成分の周波数が下がるように、前記第1のスイッチと第4のスイッチとの組と、前記第2のスイッチと第3のスイッチとの組とを交互に開閉させるためのゲート駆動信号を、前記第1のスイッチと前記第4のスイッチとの組と、前記第2のスイッチと第3のスイッチとの組とに供給する制御手段と、
を具備したことを特徴とする電力変換装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、電力変換装置の実施形態について、図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態における電力変換装置1の回路構成図である。
【0013】
電力変換装置1は、第1〜第4の半導体スイッチ(以下、単にスイッチと称する)S1,S2,S3,S4、第1,第2のインダクタL1,L2、第1〜第3のキャパシタC1,C2,C3、トランスT1及び第1,第2のダイオードD1,D2を含む。スイッチS1〜S4は、いずれもN型電界効果型FET、あるいは同等の特性を持つGaN、SiC素子等を用いる。電力変換装置1は、入力端子INに商用交流電源(以下、単に交流電源と称する)Vacを接続し、出力端子OUTに負荷2を接続する。
【0014】
電力変換装置1は、第1〜第4の4つのスイッチS1,S2,S3,S4を、ブリッジと称される方式で接続する。すなわち、第1のスイッチS1のドレイン端子は、第3のスイッチS3のドレイン端子と接続する。第1のスイッチS1のソース端子は、第2のスイッチS2のドレイン端子と接続する。第3のスイッチS3のソース端子は、第4のスイッチS4のドレイン端子と接続する。第2のスイッチS2のソース端子は、第4のスイッチS4のソース端子と接続する。
【0015】
ここで本実施形態では、説明の便宜上、第1のスイッチS1のソース端子と第2のスイッチS2のドレイン端子との接続点のノード名称をU端子と称する。第3のスイッチS3のソース端子と第4のスイッチS4のドレイン端子との接続点のノード名称をV端子と称する。
【0016】
電力変換装置1は、入力端子INに第1のインダクタL1と第1のキャパシタC1とを直列に接続し、交流電源Vacを介して閉ループを形成する。また電力変換装置1は、U端子とV端子との間に、前記第1のキャパシタC1と、第2のインダクタL2と、トランスT1の1次巻線Lpとを直列に接続して、閉ループを形成する。さらに電力変換装置1は、第1のスイッチS1のドレイン端子と第3のスイッチS3のドレイン端子との接続点と、第2のスイッチS2のソース端子と第4のスイッチS4のソース端子との接続点との間に、第2のキャパシタC2を接続する。
【0017】
電力変換装置1は、トランスT1の2つの2次巻線Ls1、Ls2を直列に接続する。電力変換装置1は、直列に接続された2次巻線Ls1、Ls2の一端(2次巻線Ls1側)に第1のダイオードD1のアノード端子を接続し、他端(2次巻線Ls2側)に第2のダイオードD2のアノード端子を接続する。電力変換装置1は、第1のダイオードD1のカソード端子を第2のダイオードD2のカソード端子と接続する。さらに電力変換装置1は、2次巻線Ls1と2次巻線Ls2とが直列に接続された中点と、第1及び第2のダイオードD1,D2のカソード端子同士の接続点との間に、第3のキャパシタC3を接続する。ここに、第1及び第2のダイオードD1,D2と第3のキャパシタC3とは、整流平滑回路を構成する。電力変換装置1は、整流平滑回路の出力端子である第3のキャパシタC3の両端子を出力端子OUTとする。
【0018】
電力変換装置1は、電圧検出部11、13,15と、電流検出部12、14とを備える。詳しくは、電力変換装置1は、入力端子IN間に電圧検出部11を接続する。電圧検出部11は、交流電源Vacから入力端子IN間に印加される入力電圧を検出し、検出信号V1を出力する。
【0019】
電力変換装置1は、第2のインダクタL2とトランスT1の1次巻線Lpとの間に電流検出部12を接続する。電流検出部12は、第2のインダクタL2を流れる回路電流を検出し、検出信号I1を出力する。
【0020】
電力変換装置1は、第1のスイッチS1のドレイン端子と第3のスイッチS3のドレイン端子との接続点と、第2のキャパシタC2との間に電圧検出部13を接続する。電圧検出部13は、第2のキャパシタC2の電圧(以下、C2電圧と称する)を検出し、検出信号V2を出力する。
【0021】
電力変換装置1は、2次巻線Ls1と2次巻線Ls2との中点と、第3のキャパシタC3との間に電流検出部14を接続する。電流検出部14は、第1及び第2のダイオードD1,D2を流れる電流(以下、ダイオード電流と称する)を検出し、電流信号I2を出力する。
【0022】
電力変換装置1は、第3のキャパシタC3の両端子間に電圧検出部15を接続する。電圧検出部15は、出力端子OUT間に発生する出力電圧を検出し、検出信号V3を出力する。
【0023】
電力変換装置1は、制御部16を備える。制御部16は、電圧検出部11、13,15及び電流検出部12、14からそれぞれ出力される検出信号V1,V2,V3,I1,I2を入力とする。そして制御部16は、これらの入力信号に基づいて、ブリッジを構成するスイッチS1〜S4の各ゲート端子に印加されるゲート駆動信号P1,P2,P3,P4を出力する。
【0024】
このゲート駆動信号P1,P2,P3,P4により、スイッチS1とスイッチS4とが同時にONし、スイッチS2とスイッチS3とが同時にOFFすると、電力変換装置1では、第2のキャパシタC2の正極→スイッチS1→第1のキャパシタC1→第2のインダクタL2→トランスT1の一次巻線Lp→スイッチS4→第2のキャパシタC2の負極の閉ループが形成される。そしてこの閉ループに、第2のキャパシタC2にチャージされていた電荷(電圧)をもとに電流が流れる。このとき、トランスT1に印加されたエネルギーの一部が2次巻線Ls1,Ls2側に伝達され、ダイオードD1,D2によって整流されて、第3のキャパシタC3に電荷としてチャージされる。
【0025】
逆に、スイッチS1とスイッチS4とが同時にOFFし,スイッチS2とスイッチS3とが同時にONすると、今度は、第2のキャパシタC2の正極→スイッチS3→トランスT1の一次巻線Lp→第2のインダクタL2→第1のキャパシタC1→スイッチS2→第2のキャパシタC2の負極の閉ループが形成される。その結果、トランスT1の1次巻線Lpに逆向きの電圧が印加される。この逆向き電圧の印加により、トランスT1に印加されたエネルギーの一部が2次巻線Ls1,Ls2側に出力され、ダイオードD1,D2によって整流されて、第3のキャパシタC3に電荷としてチャージされる。
【0026】
以上の説明において、スイッチS1,S2,S3,S4の駆動は、100kHz前後の高周波で行う。第1のキャパシタC1は、この100kHzの高周波に対して回路電流を十分に透過できる容量であり、その一方で、交流電源Vacの50Hz低周波に対しては遮断能力のある容量である。すなわち電力変換装置1は、第1のインダクタL1と第1のキャパシタC1とによってローパスフィルタを構成する。このローパスフィルタによって、回路電流のうち100kHzの高周波成分は、第1のキャパシタC1を経由するループを通る。50Hzの低周波成分は、第1のインダクタL1を経由して交流電源Vacに至るループを通る。
【0027】
回路電流は、50Hzの低周波成分と100kHzの高周波成分とが混在する。具体的には、50Hzの交流電源Vacの電圧位相に同期した50Hzの正弦波電流と、トランスT1を介して2次側に伝達される100kHzの高周波電流とが混在する。回路電流は、交流電源Vacの電圧位相に応じて4つのスイッチS1〜S4のON/OFFタイミング及び周波数を適宜変えることで、同時にコントロールできる。回路電流の状況は、電流検出部12によって検出できる。
【0028】
高周波成分と低周波成分とが混在した回路電流のうち、交流電源Vacに流れる電流は低周波成分だけとなる。すなわち、交流電源Vacの電圧位相に同期した正弦波電流を交流電源Vacに流すことができる。また、トランスT1では高周波成分が2次側に伝達される。すなわち電力変換装置1は、絶縁コンバータとしての機能を実現する。
【0029】
このように電力変換装置1は、交流電源Vacに流れる電流を、50Hz以外の成分を含まない、すなわち入力電流高調波の少ない電流とすることができる。また電力変換装置1は、交流電源Vacの電圧位相に同期した電流位相を生成できる。したがって、電力変換装置1は、力率の高い回路動作を行う。つまり、電力変換装置1の回路は、PFC(PhaseFactorController:力率改善および電流高調波軽減回路)と同等の機能を実現する。
【0030】
次に制御部16の基本原理について、
図2の波形図を用いて説明する。
図2の(a)と(b)とは、同じ波形を示す。この波形は、横軸を時間tとし、縦軸を電流値iとする。時間tについては、50Hzの商用電源Vacの1サイクル分を示している。
【0031】
図2(a)において実線で表される波形は、回路電流の検出信号I1を表す波形である。ただし検出信号I1は、100kHzの高周波であるが、正確に記述すると周波数が違いすぎてわかりにくい。そこで、図をわかりやすくするために、100kHz成分を粗く表記している。
【0032】
交流電源Vacの電圧位相と等価な正弦波をもとに所定の幅をもたせたエンベロープenbup,enbdnを考える。この場合、制御部16は、以下のA,Bの動作を繰り返す。
【0033】
A.一方のエンベロープ、例えばエンベロープenbupに検出信号I1が達したならば、ブリッジを構成するスイッチS1,S2,S3,S4のON/OFFを逆転させて電流の向きを反転させる。
【0034】
B.他方のエンベロープ、例えばエンベロープenbdnに検出信号I1が達したならば、再びスイッチS1,S2,S3,S4のON/OFFを逆転させて電流の向きを反転させる。
【0035】
ここで検出信号I1は、第2のインダクタL2のリアクトル作用によりほぼ直線状に増減するものと仮定すると、電流ピークのちょうど半分の位置が平均電流になる。すなわち、
図2(b)において実線で表されるように、ローパスフィルタを通して交流電源Vac側に出ていく電流信号Iacの波形は、おおよそ2つのエンベロープenbup,enbdnに挟まれた中点の波形になる。
【0036】
また、2つのエンベロープenbup,enbdn間の距離が常に一定であると仮定すると、電流が往復するのに要する時間Tは、ほぼ同じである。したがって、交流電源Vacの電圧位相にかかわらず、どの位相においても周波数に変化は無い。すなわち、周波数は一定である。
【0037】
ところで、
図2の説明では回路電流の検出信号I1がほぼ直線状に流れるということを前提にした。負荷2が軽負荷の場合には、この前提で問題はない。しかし、負荷2が重負荷になると、検出信号I1が直線でなくなる。検出信号I1が直線でなくなると、上述した制御概念が通用しなくなる。この状況を
図3の波形図を用いて説明する。
【0038】
図3(a),(b)は、
図2(a),(b)と同様の波形であり、横軸を時間tとし、縦軸を電流値iとする。ただし、2つのエンベロープenbup,enbdn間を往復する回路電流の検出信号I1は、電流値iがゼロとなる地点(以下、電流ゼロ点0と称する)を中心に傾きが変わる。しかも、その傾きの変化は、一律ではない。交流電源Vacの電圧ピーク付近では傾きが大きく、電圧ゼロクロス近辺では傾きが小さい。これらの傾きの変化は、トランスT1の2次側Ls1,Ls2に電流が流れるタイミングで発生する。厳密に言うと、電流ゼロ点0で必ず電流の傾きが変化するわけではないが、説明を簡単にするために全て電流ゼロ点0において傾きが変化するものとする。
【0039】
制御部16は、途中で傾きが変化する回路電流の検出信号I1に対しても、正弦波のエンベロープenbup,enbdnで折り返し動作させる。エンベロープenbup,enbdnで検出信号I1を折り返し動作させることにより、
図3(b)に実線で示すように、交流電源Vacに流れる電流信号Iacは、所望する正弦波から逸脱し、電圧ピーク付近で突出した波形の信号となる。
【0040】
その理由は、以下のとおりである。すなわち、交流電源Vacの電圧ピーク付近では電流の傾きが寝ていることからエンベロープenbupに達するまでに時間を要する。したがって、この区間の周波数T1が下がる。周波数T1が下がると、トランスTを介して2次側Ls1,Ls2に伝達されるエネルギーが一時的に増加する。一方、交流電源Vacの電圧ゼロクロス付近では電流の傾きが変わらずほぼ直線状である。このため、周波数T2が下がらない。このように、負荷2が重負荷になると、50Hzの1周期中に100kHzの発振動作に周波数ゆらぎが生じる。このゆらぎの影響により、回路電流の検出信号I1が所望の正弦波状にならない。
【0041】
次に、このような負荷の影響を受ける回路電流の検出信号I1に対して、電流信号Iacの波形を正弦波に保ちつつ、負荷2への電力供給に支障をきたさない制御方法について
図4〜
図7を用いて説明する。
【0042】
図4は、
図1における制御部16の概略構成を示すブロック図である。制御部16は、第1回路部161と、第2回路部162と、第3回路部163とからなる。第1回路部161は、回路電圧の検出信号V1とダイオード電流の検出信号I2を入力とし、正のエンベロープ信号envupと負のエンベロープ信号enbdnとを出力とする。正のエンベロープ信号envupと負のエンベロープ信号enbdnとは、第3回路部163に出力される。
【0043】
第2回路部162は、回路電圧の検出信号V1とC2電圧の検出信号V2と出力電圧の検出信号V3とを入力とし、増幅率フィードバック信号dif1と幅フィードバック信号dif2とを出力とする。増幅率フィードバック信号dif1と幅フィードバック信号dif2とは、第1回路部161に出力される。
【0044】
第3回路部163は、正のエンベロープ信号envup及び負のエンベロープ信号enbdnと、回路電流の検出信号I1とを入力とし、ブリッジを構成する各スイッチS1,S2,S3,S4のゲート駆動信号P1,P2,P3,P4を出力とする。ゲート駆動信号P1,P2,P3,P4は、各スイッチS1,S2,S3,S4のゲート端子に出力される。
【0045】
図5は、第1回路部161の内部構成を示すブロック図である。第1回路部161は、
図5に示すように、正弦波生成部1611、正側の正弦波補正部1612、負側の正弦波補正部1613、増幅率フィードバック部1614、平均幅決定部1615、正側の幅補正部1616、負側の幅補正部1617及び幅フィードバック部1618を含む。
【0046】
正弦波生成部1611は、検出信号V1を入力とする。検出信号V1は、交流電源Vacの電圧と位相とを表す。正弦波生成部1611は、検出信号V1をもとに交流電源Vacの周波数と位相とを検出し、交流電源Vacと同位相の正弦波信号sin1を出力する。正弦波信号sin1は、正側及び負側の正弦波補正部1612、1613に出力される。
【0047】
正側の正弦波補正部1612は、正弦波信号sin1を入力とする。正弦波補正部1612は、正弦波信号sin1に所定の関数演算を施して、正弦波信号sin1を補正する。補正後の正弦波信号sfuは、増幅率フィードバック部1614に出力される。同様に、負側の正弦波補正部1613は、正弦波信号sin1を入力とする。正弦波補正部1613は、正弦波信号sin1に所定の関数演算を施して、正弦波信号sin1を補正する。補正後の正弦波信号sfdは、増幅率フィードバック部1614に出力される。関数演算については後述する。
【0048】
増幅率フィードバック部1614は、正側の正弦波補正部1612で補正された正側の正弦波信号sfuと、負側の正弦波補正部1613で補正された負側の正弦波信号sfdを入力とする。増幅率フィードバック部1614は、これら正弦波信号sfu,sfdにそれぞれ増幅率フィードバック信号dif1によって特定される所定の増幅率を乗算し、その結果を正側波形信号sfua及び負側波形信号sfudとして出力する。正側波形信号sfuaは、正側の幅補正部1616に出力される。負側波形信号sfudは、負側の幅補正部1617に出力される。増幅率フィードバック信号dif1の生成方法については後述する。
【0049】
平均幅決定部1615は、検出信号V1と検出信号I2とを入力とする。検出信号I2は、トランスT1の2次側のダイオード電流を表す。平均幅決定部1615は、検出信号I2の信号値を平均化する。平均幅決定部1615は、電圧信号V1を基に交流電源Vacの50Hz周期単位を基準として平均化する。平均幅決定部1615は、平均化された電流値を平均幅信号idavとして出力する。平均幅信号idavは、正側及び負側の幅補正部1616,1617に出力される。
【0050】
正側の幅補正部1616は、正側波形信号sfuaと平均幅信号idavとを入力とする。幅補正部1616は、正側波形信号sfuaに対して平均幅信号idavを加算する処理を行い、その結果を正側幅補正信号swuとして出力する。同様に、負側の幅補正部1617は、負側波形信号sfudと平均幅信号idavとを入力とする。幅補正部1617は、負側波形信号sfudに対して平均幅信号idavを減算する処理を行い、その結果を負側幅補正信号swdとして出力する。正側幅補正信号swu及び負側幅補正信号swdは、幅フィードバック部1618に出力される。
【0051】
幅フィードバック部1618は、平均幅信号idavを加算した正側幅補正信号swuと、平均幅信号idavを減算した負側幅補正信号swdとを入力とする。幅フィードバック部1618は、正側幅補正信号swu及び負側幅補正信号swdにそれぞれ幅フィードバック信号dif2によって特定される所定のフィードバック値を付加し、その結果を、正側のエンベロープ信号envup及び負側のエンベロープ信号envdnとして出力する。正側及び負側のエンベロープ信号envup,envdnは、第3回路部163のコンパレータ1631,1632(
図7を参照)に出力される。幅フィードバック信号dif2の生成方法については後述する。
【0052】
図6は、第2回路部162の内部構成を示すブロック図である。第2回路部162は、
図6に示すように、平均化部1621、第1,第2の基準電圧生成部1622,1623及び第1,第2の差動増幅部1624,1625を含む。
【0053】
平均化部1621は、検出信号V1と検出信号V2とを入力とする。検出信号V1は、交流電源Vacの電圧と位相とを表す。検出信号V2は、C2電圧を表す。平均化部1621は、検出信号V1の周期ごとに検出信号V2の値を平均化する。検出信号V2は、平均化した結果を平均化信号ave1として出力する。平均化信号ave1は、第1の差動増幅部1624に出力される。
【0054】
第1の基準電圧生成部1622は、C2電圧に対する基準電圧を生成する。生成された基準電圧は、基準電圧信号V2refとして第1の差動増幅部1624に出力される。
【0055】
第2の基準電圧生成部1623は、出力電圧に対する基準電圧を生成する。生成された基準電圧は、基準電圧信号V3refとして第2の差動増幅部1625に出力される。
【0056】
第1の差動増幅部1624は、平均化信号ave1と基準電圧信号V2refとを入力とする。第1の差動増幅部1624は、基準電圧信号V2refと平均化信号ave1との差分を演算し、その差分を増幅率フィードバック信号dif1として増幅率フィードバック部1614に出力する。因みに、平均化信号ave1が基準電圧信号V2refよりも大きい場合、増幅率フィードバック信号dif1で特定される増幅率は小さくなる。逆に、平均化信号ave1が基準電圧信号V2refよりも小さい場合、増幅率フィードバック信号dif1で特定される増幅率は大きくなる。
【0057】
第2の差動増幅部1625は、検出信号V3と基準電圧信号V3refとを入力とする。検出信号V3は、出力電圧を表す。第2の差動増幅部1625は、基準電圧信号V3refと検出信号V3との差分を演算し、その差分を幅フィードバック信号dif2として幅フィードバック部1618に出力する。因みに、検出信号V3が基準電圧信号V3refよりも大きい場合、幅フィードバック信号dif2は、幅フィードバック部1618で正側幅補正信号swu及び負側幅補正信号swdに付加される幅を小さくする方向に作用させる。逆に、検出信号V3が基準電圧信号V3refよりも小さい場合、幅フィードバック信号dif2は、幅フィードバック部1618で正側幅補正信号swu及び負側幅補正信号swdに付加される幅を大きくする方向に作用させる。
【0058】
図7は、第3回路部163の内部構成を示すブロック図である。第3回路部163は、第1,第2のコンパレータ1631,1632、ラッチ回路1633及びデッドタイム生成部1634を含む。
【0059】
第1のコンパレータ1631は、正側のエンベロープ信号envupと検出信号I1とを入力とする。検出信号I1は、第2のインダクタL2を流れる回路電流を表す。第1のコンパレータ1631は、検出信号I1をエンベロープ信号envupと比較し、検出信号I1がエンベロープ信号envupよりも大きくなったならば、ラッチ回路1633にセット信号SETを出力する。
【0060】
第2のコンパレータ1632は、負側のエンベロープ信号envdnと検出信号I1とを入力とする。第2のコンパレータ1632は、検出信号I1をエンベロープ信号envdnと比較し、検出信号I1がエンベロープ信号envdnよりも小さくなったならば、ラッチ回路1633にリセット信号RESETを出力する。
【0061】
ラッチ回路1633は、セット信号SETとリセット信号RESETとを入力とする。ラッチ回路1633は、セット信号SETが入力されたとき、出力信号Qをハイレベルに固定し、出力信号Qbarをローレベルに固定する。ラッチ回路1633は、リセット信号RESETが入力されたとき、出力信号Qをローレベルに固定し、出力信号Qbarをハイレベルに固定する。セット信号SETとリセット信号RESETとは、交互に入力される。したがって、ラッチ回路1633の出力信号Qおよび出力信号Qbarは、互いに反転し、その状態を保持する。
【0062】
デッドタイム生成部1634は、ラッチ回路1633の出力信号Qおよび出力信号Qbarを入力とする。デッドタイム生成部1634は、出力信号Qの立ち上がりに所定の遅延時間を持たせる。同様に、デッドタイム生成部1634は、出力信号Qbarの立ち上がりにも所定の遅延時間を持たせる。ただし、出力信号Q,Qbarの立下りに対しては、遅延は働かない。
【0063】
図8は、デッドタイム生成部1634の基本的な動作を示すタイミングチャートである。
図8は、横軸を時間tとし、100kHzのスイッチング動作を拡大して表している。
図8の波形は、上から順に、正側のエンベロープ信号envup(点線)、交流電源Vacの電流値env1(点線)、負側のエンベロープ信号envdn(点線)、正負のエンベロープ信号envup,envdnの間を折り返す回路電流の検出信号I1(実線)と、セット信号SET及びリセット信号RESETと、スイッチS1〜S4をそれぞれ駆動するためのゲート駆動信号(パルス信号)P1〜P4と、
図1におけるU端子とV端子との間に発生する電圧UVを表している。
【0064】
仮に、現在のゲート駆動信号がP1=H、P2=L、P3=L、P4=Hであるとする。このとき、
図1の回路では、第2のインダクタL2に対して図の左から右へ電流が流れる。この向きを
図8の回路電流(検出信号I1)の正と定義する。
【0065】
回路電流が正の方向に増加し、やがて検出信号I1が正側のエンベロープ信号envupに達する。この到達点q1を正側判定点と称する。検出信号I1が正側のエンベロープ信号envupに達すると、ラッチ回路1633は、セット信号SETを出力する。セット信号SETが出力されると、デッドタイム生成部1634は、セット信号SETの立ち上がりと同時に、ゲート駆動信号P1とゲート駆動信号P4とを立ち下げる。その結果、回路電流が増加する方向の経路が遮断される。
【0066】
ゲート駆動信号P1とゲート駆動信号P4とを立下げた後、デッドタイム生成部1634は、遅延時間tdが経過するのを待って、それまでOFF状態だったゲート駆動信号P2とゲート駆動信号P3とを立ち上げる。この遅延時間tdは、ゲート駆動信号P1とゲート駆動信号P2またはゲート駆動信号P3とゲート駆動信号P4とが同時にONし、回路が短絡して破損することを防止する目的で挿入している。
【0067】
ゲート駆動信号P2とゲート駆動信号P3とが立ち上がると、回路電流は増加から減少へ転じる。これにより、迅速に検出信号I1がエンベロープ信号envupよりも小さくなるため、セット信号SETは速やかにLレベルに戻る。
【0068】
このスイッチ状態を維持すると、やがて回路電流は正から負に転じる。そして、やがて検出信号I1が負側のエンベロープ信号envdnに達する。この到達点q2を負側判定点と称する。検出信号I1が負側のエンベロープ信号envdnに達すると、ラッチ回路1633は、リセット信号RESETを出力する。リセット信号RESETが出力されると、デッドタイム生成部1634は、リセット信号RESETの立ち上がりと同時に、ゲート駆動信号P2とゲート駆動信号P3とを立ち下げる。その結果、回路電流が減少する方向の経路が遮断される。
【0069】
ゲート駆動信号P2とゲート駆動信号P3とを立ち下げた後、デッドタイム生成部1634は、遅延時間tdが経過するのを待って、それまでOFF状態だったゲート駆動信号P1とゲート駆動信号P4とを立ち上げる。
【0070】
ゲート駆動信号P1とゲート駆動信号P4とが立ち上がると、回路電流は減少から増加へ転じる。これにより、迅速に検出信号I1がエンベロープ信号envdnよりも大きくなるため、リセット信号RESETは速やかにLレベルに戻る。
【0071】
このスイッチ状態を維持すると、やがて回路電流は負から正に転じる。そして、やがて検出信号I1が正側のエンベロープ信号envupに達する。検出信号I1が正側のエンベロープ信号envupに達すると、ラッチ回路1633は、再びセット信号SETを出力する。セット信号SETが出力されると、デッドタイム生成部1634は、前述したように、セット信号SETの立ち上がりと同時に、ゲート駆動信号P1とゲート駆動信号P4とを立下げる。また、デッドタイム生成部1634は、遅延時間tdが経過するのを待って、ゲート駆動信号P2とゲート駆動信号P3とを立ち上げる。
【0072】
以後、デッドタイム生成部1634は、上述した動作を繰り返す。この繰り返しにより、回路電流は、所定のエンベロープenvup、envdn間を往復する。その結果、回路電流は、負荷2へ電力を伝達するための100kHz前後の高周波発振をするとともに、その平均電流がローパスフィルタL1,C1を通して交流電源Vacの電流Iacとして流れる。
【0073】
次に、エンベロープ波形がどのように生成されていくかについて、
図9を用いて説明する。
図9(a)は、基本となる正弦波信号sin1を表す。この波形は交流電源Vacの電圧位相に同期して生成される。
【0074】
図9(b)は、その上方に、基本となる正弦波信号sin1に対して正側の正弦波補正部1612で所定の関数演算を施した信号sfuを増幅率フィードバック部1614で振幅調整した信号sfuaに対し、平均幅決定部1615が出力する平均幅信号idavを加算した波形を表している。また
図9(b)は、その下方に、基本となる正弦波信号sin1に対して負側の正弦波補正部1613で所定の関数演算を施した信号sfdを増幅率フィードバック部1614で振幅調整した信号sfdaに対し、平均幅決定部1615が出力する平均幅idavを減算した波形を表している。この正弦波補正、増幅率のフィードバック補正及び幅補正の各処理により、交流電源Vacの電圧ピーク付近に対して補正が施されて、正弦波のピーク値が下がる。
【0075】
図9(c)は、正側の幅補正部1616と負側の幅補正部1617とによる幅補正の処理を加え、幅一定ではなく交流電源Vacの1周期内で意図的に幅を変化させている波形を表している。具体的には、交流電源Vacのピーク値付近は幅を狭くし、ゼロクロス付近では幅を広くしている。
【0076】
図9(d)は、
図9(c)の信号swu,swdに対して幅フィードバック部1618での幅フィードバック補正を適用した結果を表している。負荷2の変化点mにおいて、軽負荷から重負荷へ変化したものと想定する。この変化は出力電圧の低下として電圧検出部15によって速やかに検出され、その検出信号V3は幅フィードバック部1618によって反映され、幅を増やす方向に作用する。この結果、負荷2へ供給される電力は増加し、結果として出力電圧は元の電圧に戻る。一方で、この変化が起きても幅が増減するだけなのでその平均値である入力電流は正弦波を維持する。
【0077】
次に、エンベロープに関数を適用することで、平均値である入力電流波形が正弦波になることを、
図10を用いて説明する。単純な正弦波で構成したエンベロープでは、その平均値である入力電流Iacが正弦波にならないことを
図3の説明で述べた。エンベロープに関数を適用した場合、
図10(b)に示すように、
図3の状況においても入力電流Iacが正弦波に近くなる。
【0078】
図10(a),(b)は、
図3(a),(b)と同様の波形であり、横軸を時間tとし、縦軸を電流値iとする。時間tについては、50Hzの交流電源Vacの1周期分を表している。
【0079】
図10(a)は、正弦波に幅を持たせた波形sin1+idav(細点線)と、この波形sin1+idavに対してピーク付近で値が小さくなるような関数を施したエンベロープsfua+idav(点線)と、このエンベロープsfua+idavの内側で折り返す回路電流の検出信号I1(実線)とを示している。
【0080】
図3の例では、電流ゼロ点0の付近で電流の傾きが変化するため、交流電源Vscの電圧ピーク付近においてエンベロープに達するまでに時間がかかる。このため、回路電流の周波数が低下する。そこで
図10(a)の例では、電流の傾きの変化を考慮してエンベロープに関数を適用し、折り返しの時間が想定以上にかからないようする。そうすることによって、回路電流の周波数が下がる現象が緩和される。
【0081】
図10(b)に示すように、回路電流の軌跡の100kHz動作の1周期分を考えると、正側の電流面積をSH1、負側の電流面積をSH2としたとき、SH1−SH2が差引の電流値であり、この電流値を100kHz動作の1周期で平均化した値が点Eとなる。この点Eが目標とする正弦波電流に乗るように、正弦波補正部1612,1613がエンベロープに補正関数をかければよい。
【0082】
補正関数は任意だが、例えばピーク付近を抑えるのであれば、次の(1)式のような2次関数を適用してもよい。(1)式において、kは係数で例えば1〜10の範囲の正の値である。
【0083】
y=sin(x)−(sin(x))
2/k …(1)
次に、
図11を用いて意図的に整流平滑回路の出力電流を変化させる方法について説明する。
図11も
図10と同様に横軸が時間tであり、縦軸が電流値iである。
図11(a)の例は、交流電源Vacの1サイクル中の幅が一定ではなく、位相に応じて幅を可変にしている。具体的には、交流電源Vacの電圧ピーク付近で幅H1を狭くし、ゼロクロス付近では幅H2を広げている。
【0084】
このように、幅を可変することによって、意図的に電圧ピーク付近で回路電流の周波数を上げ、ゼロクロス付近で回路電流の周波数を下げる。その結果、トランスT1の特性、すなわち絶縁電力伝送において周波数が高いと出力側に電力が伝わりにくく、周波数が低いと出力側に電力が伝わりやすいという特性と相まって、出力電流が交流電源Vacの位相によらずほぼ均一に流れるようになる。
【0085】
このとき、
図11(b)の波形で見られるように、この操作は幅の増減であり電流面積は均等に増減するため、結果として平均電流には影響を及ぼさない。従って交流電源Vacに流れる電流Iacは、幅補正部1616,1617による幅補正関数を適用しても正弦波を維持することができる。
【0086】
図12を用いて整流平滑回路の出力電流が均一化する様子を説明する。
図12は、横軸が時間tであり、交流電源Vacの50Hz1周期分を表している。縦軸はダイオード電流I2を表している。また、電流値PIx,PIyはピーク電流を示しており、電流値AIは平均電流を示している。
【0087】
図12(a)は、
図10に示したエンベロープを適用した場合のダイオード電流I2の波形を表している。
図10に示したエンベロープによる制御の場合、ゼロ点付近ではダイオードに流れる電流が少なく、ピーク付近では多くなっている。すなわち、例えばダイオードD1に電流が流れた後、ダイオードD2に電流が流れ、次に再びダイオードD1に電流が流れるという繰り返し動作になる。このとき、ダイオードD1に流れる電流とダイオードD2に流れる電流との間に大きな差があり、結果として平均電流AI対するピーク電流PIxが大きくなる。
【0088】
図12(b)は、
図11に示したエンベロープを適用した場合のダイオード電流I2の波形を表している。
図11に示したエンベロープによる制御の場合、ゼロ点付近においてもダイオードに流れる電流が確保される。その結果、ピーク電流PIyを低く抑えることができる。すなわち同じ平均電流AIにするために、ゼロ点付近での電流を増加させることが、ピーク電流を抑制することに繋がっている。
【0089】
電流を流すことに起因する電力ロスはW=I
2Rである。すなわち、電流が増加すると、その2乗で電力損失が増加する。このため、
図11に示したエンベロープを適用することで、電力損失を減らすために、平均電流に対してピーク電流を少なく抑えることが有効である。
【0090】
以上、説明したように、本実施形態によれば、比較的簡単な制御で入力電圧と同位相の電流を交流電源Vacに流すことができるので、入力電流の高調波を極めて少なくできる。その結果、交流電源Vacの外部接続である変電設備やブレーカーに焼損などの悪影響を与えることがなくなる。また、回路内部を流れる電流のピークを抑えられるので、電力損失の少ない動作になり、高効率で、小型、低コストの電力変換装置を実現できる。
【0091】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。なお、第1の実施形態と共通する部分には同一符号を付し、詳しい説明については省略する。
【0092】
第2の実施形態が第1の実施形態と異なる部分は、制御部16の第1回路部161と第3回路部163の構成の一部である。第1回路部161の内部構成を
図13に示し、第3回路部163の内部構成を
図14に示す。
図13と
図5と及び
図14と
図7とをそれぞれ比較すれば分かるように、第2の実施形態では、第1回路部161にZVS補償部1619を追加し、第3回路部163に位相シフト部1635を追加している。また、第1回路部161において、平均幅決定部1615は、幅フィードバック信号dif2を入力としている。
【0093】
第1の実施形態では、平均幅決定部1615は、電圧信号V1を基に交流電源Vacの50Hz周期単位を基準としてダイオード電流の検出信号I2を平均化することで平均幅を決定した。しかし、平均幅の決定方法はこの方法に限定されるものではない。
【0094】
第2の実施形態では、平均幅決定部1615が幅フィードバック信号dif2、つまりは出力電圧の検出信号V3と基準電圧信号V3refとの差分値を入力とし、この差分値を積分平均して平均幅を決定する。この平均幅に相当する平均化信号idavは、正側及び負側の幅補正部1616,1617に出力される。このように、平均化する単位として交流電源Vacの周期単位ではなく、時間積分であってもよい。
【0095】
第1の実施形態では、幅フィードバック部1618から出力される正負の信号を正側のエンベロープ信号envup及び負側のエンベロープ信号envdnとして、第1,第2のコンパレータ1631,1632に出力した。しかし、ブリッジを構成する4つのスイッチに対してこのZVS(Zero Voltage Switching)条件が常に成立するように、ZVS補償機能を入れてもよい。このZVS補償機能を入れることにより、電力損失の少ないスイッチングを実現できる。
【0096】
ZVS補償部1619は、ZVS補償機能を実現するためのセクションである。ZVS補償部1619は、幅フィードバック部1618から出力される正側の加工信号wfbu及び負側の加工信号wfbdを入力とする。正側の加工信号wfbuは、第1の実施形態では正側のエンベロープ信号envupと等しく、負側の加工信号wfbdは、負側のエンベロープ信号envdnと等しい。
【0097】
ZVS補償部1619は、正側の加工信号wfbuが正の領域であることを検知する。そして、加工信号wfbuが正の領域から外れたことを検出した場合、ZVS補償部1619は、加工信号wfbuの持つ負の値を無効とし、ゼロまたは正の値に設定し直す。同様に、ZVS補償部1619は、負側の加工信号wfbdが負の領域であることを検知する。そして、加工信号wfbdが負の領域から外れたことを検出した場合、ZVS補償部1619は、加工信号wfbdの持つ正の値を無効とし、ゼロまたは負の値に設定し直す。
【0098】
このようにZVS補償部1619は、正側の加工信号wfbuに対しては常に正の値を持つようにマージンを持たせて、正のエンベロープ信号envupとして出力する。またZVS補償部1619は、負側の加工信号wfbdに対しては常に負の値を持つようにマージンを持たせて、負のエンベロープ信号envdnを出力する。
【0099】
位相シフト部1635は、ラッチ回路1633の出力信号Q及び出力信号Qberを入力とする。位相シフト部1635は、出力信号Q及び出力信号Qberの位相をシフトする。位相シフト量は、検出信号I1から求まる回路電流と検出信号V1から求まる入力電圧とから決定する。位相シフト部1635は、位相をシフトした出力信号Q及び出力信号Qberを、デッドタイム生成部1634に出力する。
【0100】
この位相シフトにより、デッドタイム生成部1634では、スイッチS3及びスイッチS4に対するスイッチ駆動信号P3,P4の出力タイミングが、スイッチS1及びスイッチS2に対するスイッチ駆動信号P1,P2よりも位相シフト量の時間だけ遅れる。すなわち、ブリッジを構成するU端子側のスイッチング動作に対してV端子側のスイッチング動作を所定の時間だけ遅らせる。この遅延により、回路電流の折り返し点においてすぐに電流の傾きが反転せずに定電流的に流れる区間が追加される。この結果、電流成分に含まれる鋭角な変化すなわち高調波成分が減るためノイズ対策が楽になる。
【0101】
また、別な効果として、
図1の回路方式は軽負荷時に出力を低下させるために幅を狭くするように制御がかかる。このような制御がかかると、狭いエンベロープ間を回路電流が往復するので、結果としてスイッチング動作の周波数が高くなる。具体的には重負荷時に100kHz動作だったものが、軽負荷時には150kHzに上昇する。
【0102】
そこで、位相シフト部1635を挿入することにより、上述したような周波数の上昇を抑えることができる。具体的には、位相シフト部1635が、軽負荷時であることを回路電流の検出信号I1から判断する。そして軽負荷時であるとき、位相シフト部1635は、回路電流I1の減少に応じて位相シフト量を増やす。あるいは、交流電源Vacの電圧ゼロクロス付近で周波数が上がらないように、位相シフト部1635が位相シフト量を決めるという使い方もできる。具体的には、交流電源Vacの電圧信号V1から電圧位相を割り出し、位相角がゼロ度または180度の近辺で位相遅延量を増やすことで実現できる。
【0103】
第2の実施形態の動作を
図15の波形図で説明する。
図15は
図8と同様に、横軸を時間tとし、100kHzのスイッチング動作を拡大して表している。
図15の波形は、上から順に、正側のエンベロープ信号envup(点線)、交流電源Vacの電流値env1(点線)、負側のエンベロープ信号envdn(点線)、正負のエンベロープ信号envup,envdnの間を折り返す回路電流の検出信号I1(実線)と、セット信号SET及びリセット信号RESETと、スイッチS1〜S4をそれぞれ駆動するためのゲート駆動信号(パルス信号)P1〜P4と、
図1におけるU端子とV端子との間に発生する電圧UVを表している。
【0104】
仮に、現在のゲート駆動信号がP1=H、P2=L、P3=L、P4=Hであるとする。この場合、回路電流が正の方向に増加し、やがて検出信号I1が正側のエンベロープ信号envupに達する。検出信号I1が正側のエンベロープ信号envupに達すると、ラッチ回路1633は、セット信号SETを出力する。セット信号SETが出力されると、デッドタイム生成部1634は、セット信号SETの立ち上がりと同時にゲート駆動信号P1を立ち下げる。しかしデッドタイム生成部1634は、ゲート駆動信号P4を同時には立ち上げない。デッドタイム生成部1634は、位相シフト量ΔSだけ遅れてゲート駆動信号P4を立ち下げる。したがって、この位相シフト量ΔSの分だけ回路電流が右下がりの状態になるタイミングが遅れる。
【0105】
デッドタイム生成部1634は、ゲート駆動信号P1を立ち下げた後、遅延時間tdが経過するのを待って、ゲート駆動信号P2を立ち上げる。そしてさらに、位相シフト量ΔSだけ遅れてゲート駆動信号P3を立ち上げる。ゲート駆動信号P2とゲート駆動信号P3とが立ち上がると、回路電流は増加から減少へ転じる。これにより、迅速にエンベロープ信号envupよりも検出信号I1が小さくなるため、セット信号SETは速やかにLレベルに戻る。
【0106】
このスイッチ状態を維持すると、やがて回路電流は正から負に転じる。そして、やがて検出信号I1が負側のエンベロープ信号envdnに達する。この到達点q2を負側判定点と称する。検出信号I1が負側のエンベロープ信号envdnに達すると、ラッチ回路1633は、リセット信号RESETを出力する。リセット信号RESETが出力されると、デッドタイム生成部1634は、リセット信号RESETの立ち上がりと同時に、ゲート駆動信号P2を立ち下げる。そしてさらに位相シフト量だけ遅れてゲート駆動信号P3を立ち下げる。これにより、負側においても回路電流の傾きが正に反転するのに位相シフト量だけ遅延が発生する。
【0107】
このときのU端子とV端子との間に発生する電圧は、
図8の場合と相違する。
図8の例では、UV値は常に正か負で2値しか取らない。一方、
図15の例では、位相シフト量に応じてUV値がゼロとなる区間が現れる。この結果、ブリッジに印加される電圧が位相シフト量の分だけ見かけ上減少する。すなわち、周波数が変わらないにもかかわらず出力が低下する。換言すると、軽負荷の場合には、周波数を上げずに少ない電力を供給できるということになる。
【0108】
図16は、ZVS補償部1619の機能を説明する動作波形図である。基本的には
図11の動作と同じであるが、
図11の例より幅が狭い動作の場合である。
図16(a)に示すように、ZVS補償領域Lu〜Ldより内側の値になった場合には、ZVS補償部1619は、強制的にZVS補償領域Lu〜Ldの境界に値を変更する。これにより、回路電流は例外なく正と負の値を交互に取るようになる。
【0109】
図16(b)では、ZVS補償が施されたエンベロープによる交流電源Vacの電流Iacの波形を示している。エンベロープがZVS補償の領域にかかる場合、電流Iacの波形は正弦波から若干逸脱する。具体的には、ZVS補償のかかるピーク付近での電流値が本来の値より小さくなる。これにより、若干の電流高調波が発生する。しかし実使用上は、全く問題のないレベルである。
【0110】
なお、
図16では、説明を簡単にするため位相シフト量=0として波形を記載している。勿論、位相シフト量を加えてもZVS補償動作が成立することは言うまでもない。
【0111】
第2の実施形態によれば、ZVS補償部1619によりブリッジを構成するスイッチの動作が常に損失の極めて少ない状態になる。このため、電力変換効率に優れた電力変換装置1を提供できる。また、簡素な回路と簡素な制御の組み合わせであり小型軽量も実現できる。
【0112】
また、位相シフト部1635により回路電流のピークでの急峻な変化を和らげる効果が得られるため、回路電流を起源とする高周波ノイズを軽減できる。すなわち、高周波ノイズ除去のために必要な対策部品を小さく低コストにすることができる。
【0113】
あるいは、シフト量に応じて回路電流を軽減できるので、軽負荷時においてスイッチング周波数の上昇を抑えることができる。ブリッジにおけるスイッチング損失はスイッチング回数に比例するので、周波数の上昇はスイッチング損失の増大につながる。すなわち、位相シフト部1635を利用することでスイッチング損失の増加を軽減することができる。これにより、軽負荷時であっても高効率な電力変換を実現できる。
【0114】
第2の実施形態は、第1の実施形態の作用効果も内包することは言うまでもない。なお、振幅率や幅を変更する手段として実施例中では関数を用いて説明したが、これに限定するものではなく、例えば関数の代わりに数値テーブルを用いてもかまわない。また、制御ブロック中での正弦波生成は必ずしも必要ではなく、例えば入力電圧の正弦波波形をそのまま流用してもかまわない。
【0115】
また、複数の実施形態を単独または連携させて実施することで、簡素な構成であるにもかかわらず、入力電流高調波の少ない交流電流を商用電源Vacに流すことができる。また、スイッチング素子であるFET(S1〜S4)を損失が極めて少ない動作モードで常に動作させることが可能である。さらには、第2の実施形態を組み合わせれば、一定負荷の場合だけでなく負荷の変動も考慮した状態での高効率な電力変換を実現できる。また、軽負荷時においてもスイッチング周波数の上昇を抑えて電力変換効率が低下するのを防止している。また、回路電流に起因する高周波ノイズを軽減する作用もありノイズ対策部品のコスト軽減につながる。これらの特性により小型、高効率、低コストの電力変換装置を構成することができ、様々な分野の機器電源として利用できるため、産業上の利用効果は大きい。
【0116】
なお、振幅率や幅を変更する手段として実施形態では関数を用いて説明したが、これに限定するものではなく、例えば関数の代わりに数値テーブルを用いてもかまわない。また、正弦波生成部1611は必ずしも必要ではなく、例えば入力電圧の正弦波波形をそのまま流用してもかまわない。
【0117】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。