(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、窒化層を表面に形成したFe−Si系軟磁性粒子と、シリコーン樹脂等からなる絶縁性結着剤(バインダー)とからなる圧粉磁心に関する記載がある。この窒化層は窒化ケイ素からなり、絶縁材(シリコーン樹脂等)が高温焼鈍時に軟磁性粒子中へ拡散することを抑制するために形成されている([0013]等)。このような圧粉磁心は、例えば、Fe−4Si−3Al(wt%)の粉末とシリコーン樹脂を混練したコンパウンドを加圧した成形体を、N
2中で800℃×30分間加熱して窒化処理および焼鈍処理を行うことにより製造されている([0019]、表1中の試料15)。
【0007】
しかし、そのような製法で得られる圧粉磁心の場合、絶縁材であるシリコーン樹脂等の耐熱温度よりも焼鈍温度が高いため、結局、軟磁性粒子間の絶縁性や結着強度が不十分となり易い。なお、特許文献1のような製法では、均質的または均一的な窒化層が軟磁性粒子間に形成され得ないと考えられる。
【0008】
特許文献2には、SUS316製の容器に入れたガスアトマイズ粉(Fe−Cr−Al)を、大気(窒素含有雰囲気)中で1000℃まで加熱することにより、表面が高電気抵抗なAlN系皮膜で覆われた粒子からなる磁性粉末が得られる旨の記載がある([0022]、[0023]等)。また、AlN系皮膜の形成には粉末中に含まれるCrが必須であり、Crが含まれないときはFe窒化物が生成される旨も特許文献2に記載されている([0011])。
【0009】
もっとも、特許文献2のようにFe−Cr−Al粉末を大気中で加熱した場合、通常は、粒子表面に酸化物(酸化皮膜)も少なからず形成されるはずであり、AlNが粒子表面に均質的に形成されるとは考え難い。なお、特許文献2は磁心用粉末に関するものであり、圧粉磁心の比抵抗や強度に関する具体的な提案を何らしていない。
【0010】
特許文献3には、SiO
2による絶縁処理を行ったガスアトマイズ粉(Fe−6.5wt%Si)からなる成形体を、窒素含有雰囲気中でマイクロ波加熱(焼鈍処理)することにより、窒化物が表面に形成された粒子からなる圧粉磁心が得られる旨の記載がある。もっとも、その窒化物は明らかにSi系窒化物であり、後述するようなAlNではなく、また低融点ガラスに関する記載も特許文献3には一切ない。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、比抵抗や強度の向上を安定的に図れる新たな圧粉磁心を提供することを目的とする。また、そのような圧粉磁心の製造方法と、その圧粉磁心の製造に好適な磁心用粉末およびその製造方法も併せて提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、酸化アルミニウム層、窒化アルミニウム層および低融点ガラス層の三層からなる粒界部を軟磁性粒子間(粒界部)に形成することにより、高比抵抗で高強度な圧粉磁心が得られることを新たに見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0013】
《圧粉磁心》
本発明の圧粉磁心は、全体を100質量%(単に「%」という。)としてAlを1〜5%含む
と共にさらにSiを0.4〜4%含みAlとSiの合計含有量に対するAl含有量の質量割合であるAl比率が0.45以上である鉄合金からなる軟磁性粒子と、該軟磁性粒子の少なくとも一部の表面を被覆する酸化アルミニウムからなる第1被覆層と、該第1被覆層の少なくとも一部の表面を被覆する窒化アルミニウム
(AlN)からなる第2被覆層と、該軟磁性粒子の焼鈍温度よりも低い軟化点を有する低融点ガラスからなり該第2被覆層の少なくとも一部の表面を被覆する第3被覆層と、を有することを特徴とする。
【0014】
本発明の圧粉磁心は、隣接する軟磁性粒子の粒界部が、第1被覆層、第2被覆層および第3被覆層の3層構造となっている(
図1A参照)。このうち、酸化アルミニウムからなる第1被覆層(適宜「Al−O系層」という。)上に形成された窒化アルミニウムからなる第2被覆層(適宜「AlN層」という。)は、成形時に軟磁性粒子へ導入された残留歪み等を除去するために高温焼鈍がなされても、変質したり欠陥を生じたりせず、高い絶縁性を発揮する。仮に、その第2被覆層に亀裂等の欠陥が生じたとしても、その表面を被覆する低融点ガラスからなる第3被覆層により軟磁性粒子間の絶縁性は維持される。
【0015】
また、焼鈍時に軟化または溶融した低融点ガラスは、AlN層に対する濡れ性が良好であり、AlN層上を均一的に濡れ拡がる。このため本発明の圧粉磁心は、軟磁性粒子間の微細な隙間(三重点等)にも低融点ガラスが充填された状態となり、破壊起点となる空隙等を殆ど生じることがない。この結果、低融点ガラスからなる第3被覆層(適宜、「低融点ガラス層」ともいう。)は、第2被覆層と相まって隣接する軟磁性粒子間の絶縁性を高めると共に、隣接する軟磁性粒子同士を強固に結合し得る。
【0016】
このように粒界部を構成する各層が相乗的に作用することにより、本発明の圧粉磁心は優れた比抵抗と強度を高次元で両立しつつ、高い磁気特性(低保磁力、低ヒステリシス損失等)を発揮し得る。
【0017】
ちなみに、本発明の圧粉磁心の場合、理由は定かではないが、高温焼鈍後でも、低融点ガラスと軟磁性粒子の間で各構成元素の拡散は殆ど生じない。つまり、それらの間に介在する化合物層(特にAlN層)が、まるでバリヤー層のように機能して、低融点ガラスの変質や劣化が抑止されている。このようなAlN層の作用も、圧粉磁心の比抵抗と強度の向上に寄与していると考えられる。
【0018】
なお、第1被覆層(Al−O系層)は、圧粉磁心の比抵抗の向上に寄与する他、下地層として均一的な第2被覆層(AlN層)の安定形成に大きく寄与していると考えられる。
【0019】
《磁心用粉末》
本発明は、上述した圧粉磁心の製造に好適な磁心用粉末としても把握できる。つまり本発明は、全体を100質量%(単に「%」という。)としてAlを1〜5%含む
と共にさらにSiを0.4〜4%含みAlとSiの合計含有量に対するAl含有量の質量割合であるAl比率が0.45以上である鉄合金からなる軟磁性粒子と、該軟磁性粒子の少なくとも一部の表面を被覆する酸化アルミニウムからなる酸化物層と、該酸化物層の少なくとも一部の表面を被覆する窒化アルミニウム
(AlN)からなる窒化物層とからなり、上述した圧粉磁心の製造に用いられることを特徴とする磁心用粉末でもよい。この磁心用粉末は、さらに、軟磁性粒子の焼鈍温度よりも低い軟化点を有する低融点ガラスが窒化物層上に付着した粒子からなると好適である。
【0020】
なお、本明細書では、その酸化物層および窒化物層を表面に有する軟磁性粒子、またはその窒化物層の表面に低融点ガラスをさらに有する軟磁性粒子を、適宜「磁心用粒子」という。この磁心用粒子の集合体が本発明の磁心用粉末となる。
【0021】
ちなみに、磁心用粒子中の低融点ガラスは、その存在形態を問わない。例えば、低融点ガラスは、軟磁性粒子よりも粒径の小さいガラス微粒子として粒子表面に付着していてもよいし、膜状または層状として粒子表面に付着していてもよい。これらは磁心用粉末の製造方法についても同様である。磁心用粉末の成形体を焼鈍した際に、その低融点ガラスが軟化さらには溶融して、第2被覆層上に第3被覆層が形成されれば足る。
【0022】
《磁心用粉末の製造方法》
(1)本発明は、上記の磁心用粉末の製造方法としても把握し得る。つまり本発明は、全体を100質量%(単に「%」という。)としてAlを1〜5%含む
と共にさらにSiを0.4〜4%含みAlとSiの合計含有量に対するAl含有量の質量割合であるAl比率が0.45以上である鉄合金からなり少なくとも一部の表面に酸化アルミニウムからなる酸化物層を有する酸化粒子を、窒化雰囲気中で800〜1050℃さらには850〜1000℃に加熱することにより該酸化物層の少なくとも一部の表面に窒化アルミニウム
(AlN)からなる窒化物層を形成する窒化工程を備えることを特徴とする磁心用粉末の製造方法としても把握できる。この場合、さらに、その窒化物層の少なくとも一部の表面に軟磁性粒子の焼鈍温度よりも低い軟化点を有する低融点ガラスを付着させるガラス付着工程を備えると好適である。
【0023】
(2)上記の酸化粒子は、例えば、少なくともAlを含む鉄合金からなる軟磁性粒子の表面に酸化アルミニウムからなる酸化物層を形成する酸化工程を別途行って得ることができる。もっとも、軟磁性粒子の製造時に、酸化物層が併行して(自ずと)形成されると好都合である。例えば、ガス水アトマイズ粉や水アトマイズ粉を用いると、その粒子表面には、上記の酸化物層が自ずと形成され得る。勿論、鉄合金の溶湯を噴霧する雰囲気(酸素濃度)を適切に調整すれば、ガスアトマイズ粉からも本発明に係る酸化粒子を得ることは可能である。これらの場合、鉄合金の溶湯を噴霧する雰囲気中に含まれる酸素またはその噴霧粒子の冷却媒体である水が、酸化物層を形成するための酸素源になっていると考えられる。
【0024】
(3)圧粉磁心の比抵抗や強度の向上に大きく寄与する窒化物層が酸化物層上に形成されるメカニズムは必ずしも定かではないが、現状では次のように考えられる。Alを含有した鉄合金からなり表面に酸化物層を有する軟磁性粒子(酸化粒子)が、窒化雰囲気中で加熱されると、Feよりも酸化され易い(酸化物生成エネルギーが低い)Alは軟磁性粒子の内部から酸化物層のある表面側へ拡散し、逆に、酸化物層中に存在するOは軟磁性粒子の内部へ拡散しようとする。このため酸化物層の内側(軟磁性粒子の表面側)ほど安定な酸化アルミニウムが形成され易くなる反面、酸化物層の外側(最表面側)ほど酸素濃度の低い不安定な酸化アルミニウム(酸素欠損した酸化アルミニウム)が形成されるようになる。つまり、酸化物層の少なくとも最表面近傍では、完全な化合物の生成に必要なOが部分的に欠損した不安定な酸化アルミニウム(Al−O)が生成され得る。
【0025】
このような状態の酸化物層の最表面に、高温加熱された窒素(N)が接触すると、酸素欠損した状態のAl−OへNが導入され易くなり、少なくとも一部のAlがNと反応する。その結果、酸化物層の最表面近傍には、安定なAlNからなる窒化物層が形成されるようになったと考えられる(
図1A参照)。このような窒化処理された軟磁性粒子(窒化物層を有する軟磁性粒子)を、適宜、「窒化粒子」という。
【0026】
なお、窒化物層を構成する窒化アルミニウムは、主にAlNからなると考えられるが、AlとNの原子比が厳密な1:1ではない不完全な窒化物からなってもよい。また酸化物層を構成する酸化アルミニウムは、層厚内の位置や各処理前後等で組成や構造が異なっていると考えられる。このため、その組成や構造を一概に特定することは容易ではない。このような酸化アルミニウムとして、例えば、α−Al
2O
3 またはγ−Al
2O
3で表される酸化アルミニウム(III)、Al
2Oで表される酸化アルミニウム(I)、AlOで表される酸化アルミニウム(II)の他、それらのOが一部欠損した酸化アルミニウム等がある。そして、本発明に係る酸化アルミニウムは、単種に限らず、複数種が混在したものでもよい。ちなみに、上述した窒化物層の形成過程を考慮すると、窒化処理前の酸化物層は、既に酸素欠損を生じた酸化アルミニウムからなると好ましいと考えられる。
【0027】
《圧粉磁心の製造方法》
さらに本発明は、圧粉磁心としてのみならず、その製造方法としても把握し得る。つまり本発明は、上述した磁心用粉末を金型に充填する充填工程と、該金型内の磁心用粉末を加圧成形する成形工程と、該成形工程後に得られた成形体を焼鈍する焼鈍工程と備え、比抵抗および強度に優れた圧粉磁心が得られることを特徴とする圧粉磁心の製造方法でもよい。
【0028】
《その他》
(1)本発明に係る各層は、粒子表面に均一的または均質的に形成されているほど好ましいが、被覆されていない部分や不均一または不均質な部分があってもよい。また、各層の組成や状態(組成分布等)は、各層の生成時から圧粉磁心の焼鈍時に至る過程で変化してもよい。
【0029】
(2)本発明でいう「軟磁性粒子の焼鈍温度」とは、具体的には、磁心用粉末の加圧成形体から残留歪みや残留応力を除去するためになされる焼鈍工程の加熱温度である。焼鈍温度は、選択した低融点ガラスの軟化点より大きければ、その具体的な温度を問わないが、例えば、650℃以上、700℃以上、800℃以上さらには850℃以上とすると好ましい。
【0030】
なお、本発明でいう「軟化点」は、加熱された低融点ガラスの粘度が、温度上昇の過程で1.0x10
7.5dPa・sとなる温度である。従って本発明でいう軟化点は、一般的にいわれるガラス転移点(Tg)とは必ずしも一致しない。ちなみにガラスの軟化点はJIS R3103−1 ガラスの粘性および粘性定点−第2部:軟化点の測定方法− により特定される。
【0031】
(3)特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。また本明細書に記載した種々の数値や数値範囲内に含まれる数値を任意に組み合わせて「a〜b」のような新たな数値範囲を構成し得る。
【発明を実施するための形態】
【0033】
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。なお、以下の実施形態を含めて本明細書で説明する内容は、本発明に係る圧粉磁心のみならず、それに用いられる磁心用粉末やそれらの製造方法等にも適宜適用され得る。従って、上述した本発明の構成に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成を付加し得る。この際、製造方法に関する構成は、プロダクトバイプロセスとして理解すれば物に関する構成ともなり得る。なお、いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0034】
《軟磁性粒子(軟磁性粉末)》
軟磁性粒子は、8属遷移元素(Fe、CN、Ni等)などの強磁性元素を主成分とすれば足るが、取扱性、入手性、コスト等から純鉄または鉄合金からなると好ましい。鉄合金は、Alを含む鉄合金(Al含有鉄合金)であると、酸化アルミニウムからなる酸化物層(または第1被覆層)や窒化アルミニウムからなる窒化物層(または第2被覆層)の形成が容易となり好ましい。さらに鉄合金は、Siを含むと、軟磁性粒子の電気抵抗率の向上、圧粉磁心の比抵抗の向上(渦電流損失の低減)または強度向上等も図れて好ましい。また、鉄合金中にAlと共にSiが含まれていると、酸化物層や窒化物層の形成が容易となり好ましい。なお、本明細書でいう酸化物層または窒化物層に関する記載は、特に断らない限り、適宜、第1被覆層または第2被覆層にも該当し得る。
【0035】
ここで本発明に係る鉄合金がSiを含む場合、その含有量が過多になると、軟磁性粒子の表面にケイ素化合物(酸化ケイ素:SiO
2や窒化ケイ素:Si
3N
4)が優先的に形成され易くなり好ましくない。そこで、本発明に係る鉄合金は、AlとSiの合計含有量(Al+Si)に対するAl含有量の質量割合であるAl比率(Al/Al+Si)が0.447以上、0.45以上、0.6以上、0.67以上、0.7以上さらには0.8以上であると好ましい。なお、Al比率の上限値は1以下、0.96以下であると好ましい。その際、AlとSiの合計含有量は、鉄合金の全体を100質量%(単に「%」で表す。)としたときに10%以下、6%以下さらには5%以下であると好ましい。なお、AlとSiの合計含有量の下限値は2%以上さらには3%以上であると好ましい。
【0036】
鉄合金中のAlやSiの具体的な組成は、酸化物層や窒化物層の形成性、圧粉磁心の磁気特性、磁心用粉末の成形性等を考慮して適宜調整され得る。例えば、軟磁性粒子を構成する鉄合金全体を100%としたときに、Al:0.01〜7%、1〜6%さらには2〜5%であり、Si:0.5〜4%、1〜3%さらには1.5〜2.5%であると好ましい。AlまたはSiが過少なら上述した効果が乏しく、過多なら圧粉磁心の磁気特性や成形性の低下、コストの増大等を招き好ましくない。
【0037】
なお、本発明に係る鉄合金は、主たる残部はFeであるが、Feおよび不可避不純物以外の残部として、AlNの生成性、圧粉磁心の磁気特性や比抵抗、磁心用粉末の成形性等を改善し得る改質元素を一種以上含有し得る。このような改質元素として、例えばMn、Mo、Ti、Ni、Cr等が考えられる。通常、改質元素量は微量であり、その合計量は2%以下さらには1%以下であると好ましい。
【0038】
軟磁性粒子の粒径は問わないが、通常、10〜300μmさらには50〜250μmであると好ましい。粒径が過大になると比抵抗の低下または渦電流損失の増加を招き、粒径が過小になるとヒステリシス損失の増加等を招くため、好ましくない。なお、本明細書でいう粉末の粒径は、特に断らない限り、所定のメッシュサイズの篩いを用いて分級する篩い分法で定まる粒度で規定する。
【0039】
軟磁性粒子となる原料粒子またはその集合体である原料粉末は、上述した本発明の圧粉磁心が得られる限り、その製法は問わない。もっとも、第1被覆層となるAl−O系層が軟磁性粒子の表面に安定的に形成されるように、被覆処理前の原料粒子の表面には適度な酸素が存在すると好ましい。例えば、原料粒子表面の酸素濃度が0.08%以上(または超)、0.1%以上(または超)、さらには0.17%以上(または超)であると好ましい。なお、本明細書でいう酸素濃度は次のように特定され、被覆処理前の原料粉末全体(測定対象である原料粒子全体)を100質量%として規定される。
【0040】
本明細書でいう酸素濃度は、赤外線吸収法(赤外分光法:IR)により特定される。具体的にいうと、測定する対象試料である原料粒子(原料粉末の一部)を不活性ガス(He)雰囲気中で加熱・融解させ、発生したCOを抽出し、これを検出器により検出して定量化することにより、上述の酸素濃度が特定される。
【0041】
このような原料粉末(酸化粉末)は、上述したように、酸素欠損を生じた酸化アルミニウムからなる酸化物層が粒子表面に形成された酸化粒子からなると好ましい。そして原料粉末が、擬球状粒子からなると、粒子相互間の攻撃性も低くなり、比抵抗値の低下も抑制されて好ましい。このような原料粉末(酸化粉末)として、例えば、ガス水アトマイズ粉が好適である。なお、原料粉末は、単種の粉末からなる場合のほか、粒度、製法、組成の異なる複数種の粉末を混合したものでもよい。
【0042】
《低融点ガラス》
本発明に係る低融点ガラスは、圧粉磁心に要求される比抵抗、強度、焼鈍温度等を考慮して、適切な組成からなる低融点ガラスが選択されると好ましい。また本発明に係る低融点ガラスは、硼珪酸鉛系ガラスよりも環境負荷の小さい組成からなる低融点ガラス、例えば、珪酸塩系ガラス、硼酸塩系ガラス、硼珪酸塩系ガラス、酸化バナジウム系ガラス、リン酸塩系ガラス等が好ましい。
【0043】
より具体的にいうと、珪酸塩系ガラスには、例えば、SiO
2−ZnO、SiO
2−Li
2O、SiO
2−Na
2O、SiO
2−CaO、SiO
2−MgO、SiO
2−Al
2O
3等を主成分とするものがある。ビスマス珪酸塩系ガラスには、例えば、SiO
2−Bi
2O
3−ZnO、SiO
2−Bi
2O
3−Li
2O、SiO
2−Bi
2O
3−Na
2O、SiO
2−Bi
2O
3−CaO等を主成分とするものがある。硼酸塩系ガラスには、例えば、B
2O
3−ZnO、B
2O
3−Li
2O、B
2O
3−Na
2O、B
2O
3−CaO、B
2O
3−MgO、B
2O
3−Al
2O
3等を主成分とするものがある。硼珪酸塩系ガラスには、例えば、SiO
2−B
2O
3−ZnO、SiO
2−B
2O
3−Li
2O、SiO
2−B
2O
3−Na
2O、SiO
2−B
2O
3−CaO等を主成分とするものがある。酸化バナジウム系ガラスには、例えば、V
2O
5−B
2O
3、V
2O
5−B
2O
3−SiO
2、V
2O
5−P
2O
5、V
2O
5−B
2O
3−P
2O
5 等を主成分とするものがある。リン酸塩系ガラスには、例えば、P
2O
5−Li
2O、P
2O
5−Na
2O、P
2O
5−CaO、P
2O
5−MgO、P
2O
5−Al
2O
3 等を主成分とするものがある。本発明に係る低融点ガラスは、上述した成分以外に、SiO
2、ZnO、Na
2O、B
2O
3、Li
2O、SnO、BaO、CaO、Al
2O
3等の1種以上を適宜含有し得る。
【0044】
低融点ガラスは、磁心用粉末全体または圧粉磁心全体を100質量%としたときに、0.05〜4質量%、0.1〜2質量%さらには0.5〜1.5%または0.1〜1質量%含まれると好ましい。低融点ガラスが過少では十分な第3被覆層が形成されず、高比抵抗で高強度な圧粉磁心が得られない。一方、それが過多では圧粉磁心の磁気特性が低下し得る。
【0045】
ところで、磁心用粉末中の低融点ガラス(焼鈍前)が軟磁性粒子よりも小さな粒径のガラス微粒子状である場合、軟磁性粒子の粒径にも依るが、0.1〜100μmさらには0.5〜50μmとするとよい。その粒径が過小であるとその製造や取扱性が困難となり、その粒径が過大であると均一な第3被覆層の形成が困難となる。ちなみにガラス微粒子の粒径の特定方法には、湿式法、乾式法、照射したレーザ光の散乱パターンから求める方法、沈降速度の相違から求める方法、画像解析により求める方法等があるが、本明細書では走査型電子顕微鏡(SEM)による画像解析によりガラス微粒子の粒径を特定する。
【0046】
《窒化工程/窒化物層形成工程》
窒化工程は、酸化粒子の表面に窒化アルミニウムからなる窒化物層を形成した粒子(窒化粒子)を得る工程である。このような窒化物層の形成方法は種々考えられるが、上述したように、Alを含む鉄合金からなり少なくとも一部の表面に酸化アルミニウムからなる酸化物層を有する酸化粒子を、窒化雰囲気中で800〜1050℃、820〜1000℃さらには850〜950℃で加熱することにより、酸化粒子の表面に均一的な窒化物層が形成され得る。こうして得られる窒化物層は、薄くても高絶縁性であると共に、低融点ガラスとの濡れ性にも優れる。なお、窒化温度が過小でも過大でも、そのような窒化物層の形成が困難となる。
【0047】
窒化雰囲気は、種々考えられるが、例えば、窒素(N
2)雰囲気であると好ましい。窒素雰囲気は、純粋な窒素ガス雰囲気でも、窒素ガスと不活性ガス(N
2、Ar等)との混合ガス雰囲気でもよい。さらに窒化雰囲気は、アンモニアガス(NH
3)雰囲気等でもよい。なお、窒化処理中の窒素濃度を一定とするために、窒化雰囲気は気流雰囲気であると好ましい。なお、加熱時間は、窒化雰囲気中の窒素濃度や加熱温度にも依るが、例えば、0.5〜10時間さらには1〜3時間とすると効率的である。この際、窒化雰囲気中の酸素濃度は0.1体積%以下とするとよい。
【0048】
《ガラス付着工程》
ガラス付着工程は、窒化粒子の表面に低融点ガラスを付着させる工程である。例えば、低融点ガラスからなる微粒子(ガラス微粒子)を付着させる場合なら、ガラス付着工程は湿式で行っても乾式で行ってもよい。例えば湿式の場合なら、ガラス付着工程は、ガラス微粒子と窒化粒子を分散媒中で混合した後、それを乾燥させる湿式付着工程とすることができる。また乾式の場合なら、ガラス付着工程は、ガラス微粒子と窒化粒子を分散媒を介さずに混合する乾式付着工程とすることができる。湿式であればガラス微粒子を窒化粒子の表面に均一に付着させ易い。乾式の場合、乾燥工程を省略できて効率的である。また、ガラス微粒子の付着を促進させるために結合剤(例えばPVAやPVB等からなるバインダー)を用いてもよい。いずれにしろ、磁心用粉末の成形体(本明細書では適宜、この成形体も含めて「圧粉磁心」という。)を焼鈍する際に低融点ガラスが軟化または溶融して、粒子表面に均一的に濡れ拡がればよい。
【0049】
《圧粉磁心の製造》
本発明の圧粉磁心は、所望形状のキャビティを有する金型へ磁心用粉末を充填する充填工程と、その磁心用粉末を加圧成形して成形体とする成形工程と、その成形体を焼鈍する焼鈍工程とを経て得られる。ここでは成形工程と焼鈍工程について説明する。
【0050】
(1)成形工程
成形工程で軟磁性粉末に印加される成形圧力は問わないが、高圧成形するほど高密度で高磁束密度の圧粉磁心が得られる。このような高圧成形方法として、金型潤滑温間高圧成形法がある。金型潤滑温間高圧成形法は、高級脂肪酸系潤滑剤を内面に塗布した金型へ磁心用粉末を充填する充填工程と、磁心用粉末と金型の内面との間に高級脂肪酸系潤滑剤とは別の金属石鹸被膜が生成される成形温度と成形圧力で加圧成形する温間高圧成形工程とからなる。
【0051】
ここで「温間」とは、表面被膜(または絶縁被膜)への影響や高級脂肪酸系潤滑剤の変質などを考慮して、例えば、成形温度を70℃〜200℃さらには100〜180℃とすることをいう。この金型潤滑温間高圧成形法の詳細については、日本特許公報特許3309970号公報、日本特許4024705号公報など多数の公報に詳細が記載されている。この金型潤滑温間高圧成形法によれば、金型寿命を延しつつも超高圧成形が可能となり、高密度な圧粉磁心を容易に得ることが可能となる。
【0052】
(2)焼鈍工程
焼鈍工程は、成形工程中に軟磁性粒子に導入された残留歪みや残留応力を除去して、圧粉磁心の保磁力またはヒステリシス損失を低減するためになされる。このときの焼鈍温度は、軟磁性粒子や低融点ガラスの種類に応じて適宜選択され得るが、650℃以上、700℃以上、800℃以上さらには850℃以上であると好ましい。なお、本発明に係る絶縁層(特に窒化物層または第2被覆層)は耐熱性に優れるため、高温焼鈍しても、その高絶縁性と高バリヤー性は維持される。但し、過度な加熱は不要であると共に圧粉磁心の特性を低下させ得るため、焼鈍温度は1000℃以下、970℃以下さらには920℃以下とするとよい。また加熱時間は、例えば0.1〜5時間さらには0.5〜2時間であれば十分であり、加熱雰囲気は不活性雰囲気(窒素雰囲気を含む)とすると好ましい。
【0053】
《圧粉磁心》
(1)被覆層
各被覆層の層厚(膜厚)は適宜調整され得るが、それが過小では圧粉磁心の比抵抗や強度の向上を十分に図れず、過大では圧粉磁心の磁気特性の低下を招来する。
【0054】
第1被覆層(酸化物層)の厚さは、例えば、0.01〜1μmさらには0.2〜0.5μmであると好ましい。第2被覆層(窒化物層)の厚さは、例えば、0.05〜2μmさらには0.5〜1μmであると好ましい。また第3被覆層の厚さは、例えば、0.5〜10μmさらには1〜5μmであると好ましい。なお、各層(被覆層)は、各粒子毎に形成されていることが理想的であるが、部分的に数個の粒子からなる塊状物に対して形成されていてもよい。
【0055】
(2)本発明の圧粉磁心は、その詳細な特性を問わないが、例えば、軟磁性粒子の真密度(ρ
0)に対する圧粉磁心の嵩密度(ρ)の比である密度比(ρ/ρ
0)が85%以上、90%以上さらには95%以上であると、高磁気特性が得られて好ましい。
【0056】
圧粉磁心の比抵抗は、形状に依存しない圧粉磁心ごとの固有値であり、例えば、10
2μΩ・m以上、10
3μΩ・m以上、10
4μΩ・m以上さらには10
5μΩ・m以上であると好ましい。また圧粉磁心は、高強度であるほどその用途が拡大して好ましい。その圧環強度は、例えば、50MPa以上、80MPa以上さらには100MPa以上であると好ましい。
【0057】
(3)用途
本発明の圧粉磁心は、その形態を問わず、各種の電磁機器、例えば、モータ、アクチュエータ、トランス、誘導加熱器(IH)、スピーカ、リアクトル等に利用され得る。具体的には、電動機または発電機の界磁または電機子を構成する鉄心に用いられると好ましい。中でも、低損失で高出力(高磁束密度)が要求される駆動用モータ用の鉄心に本発明の圧粉磁心は好適である。ちなみに駆動用モータは自動車等に用いられる。
【0058】
なお、本発明に係る窒化アルミニウム(第2被覆層)は熱伝導率が高く、放熱性に優れる。このため本発明の圧粉磁心が例えばモータ等の鉄心に用いられると、その鉄心やその周囲に設けられたコイルに渦電流等によって生じた熱が外部へ伝導されて放熱され易くなる。
【実施例】
【0059】
《実施例1:磁心用粉末》
原料粉末(軟磁性粉末)とその窒化処理条件(温度)をそれぞれ変更して、種々の磁心用粉末を製造した。得られた各粉末粒子の表面近傍を、オージェ電子分光分析法(AES)またはX線回折(XRD)により観察した。以下、その内容を具体的に説明する。
【0060】
〈試料の製造〉
(1)原料粉末
酸化粒子となる原料粉末として、表1に示すように配合組成の異なる5種類のFe−Si−Al系鉄合金からなるガス水アトマイズ粉を用意した。これらガス水アトマイズ粉はいずれも、窒素ガス雰囲気中へ溶解させた原料を窒素ガスを用いて噴霧した後に水冷して製造したものである。
【0061】
また、比較試料用の原料粉末として、表1に示すように配合組成の異なる2種類のFe−Si系鉄合金からなるガス水アトマイズ粉と、純鉄からなるガスアトマイズ粉とを用意した。Fe−Si系鉄合金からなるガス水アトマイズ粉は、上述したFe−Si−Al系鉄合金からなるガス水アトマイズ粉と同様に製造したものである。一方、純鉄からなるガスアトマイズ粉は、窒素ガス雰囲気中へ溶解させた原料を窒素ガスを用いて噴霧し、窒素ガス雰囲気中で冷却して製造したものである。各ガス水アトマイズ粉の酸素濃度も表1に併せて示した。酸素濃度の特定方法は前述した通りである。
【0062】
各原料粉末を電磁式ふるい振とう器(レッチェ製)を用いて、所定のメッシュサイズの篩いにより分級した。各原料粉末の粒度は表1に併せて示した。なお、本明細書でいう粉末粒度「x−y」は、篩目開きがx(μm)の篩いを通過せず、篩目開きがy(μm)の篩いを通過する大きさの軟磁性粒子により原料粉末が構成されていることを意味する。粉末粒度「−y」は、篩目開きがy(μm)の篩いを通過する大きさの軟磁性粒子により原料粉末が構成されていることを意味する。いずれの原料粉末にも、粒度が5μm未満である軟磁性粒子が含まれていないことは、SEMにより確認している(以下同様)。
【0063】
(2)窒化工程(窒化物層形成工程)
各原料粉末を熱処理炉に入れ、窒素ガス(N
2)が0.5L/minの割合で流れる窒化雰囲気中で、表1に示す条件の窒化処理(加熱)を行った。こうして窒化粉末を得た(試料1〜25、C1、C2およびC4)。
【0064】
〈試料の観察〉
(1)組成の異なる試料12、試料19および試料20に係る窒化粉末からそれぞれ任意に抽出した窒化粒子について、オージェ電子分光分析(AES)を行い、各粒子の表面近傍(最表面から600nmの深さまでの範囲)の成分組成を調べた。こうして得られた結果を
図2A〜2C(適宜、これらをまとめて
図2という。)に示した。
【0065】
(2)試料1から任意に抽出した粉末粒子の表面近傍を、X線回折(XRD)により分析して得られたプロフィルを
図3に示した。なお、XRDは、X線回折装置(D8 ADVANCE:ブルカー・エイエックスエス株式会社製)を用いて、管球:Fe−Kα、 2θ:40〜50deg、測定条件:0.021deg/step、9step/secとして行った。
【0066】
〈試料の評価〉
(1)
図2に示す各分析結果から明らかなように、窒化粒子の表面近傍(深さ:約50〜100nm程度)では、主にAl、OおよびNが分布していた。その最表面から約50nm程度の深さ(層厚)までは、N濃度が比較的高く、深くなるほどN濃度が減少しつつO濃度が増加していた。これらのことから、軟磁性粒子の表面には、厚さ100〜150nm程度の酸化アルミニウムからなる酸化物層と、その最表面側に厚さ50〜100nm程度の窒化アルミニウムからなる窒化物層とが形成されていることがわかった。
【0067】
(2)
図3に示す各X線の回折ピークから明らかなように、窒化物層は主にAlNからなることもわかった。なお、その下地層である酸化物層は、
図2に示す各分析結果から、酸素が欠損した酸化アルミニウムからなると考えられる。
【0068】
(3)なお、試料C2に係る粉末粒子もX線回折を行ったが、AlNに由来する回折ピークは確認できず、窒化物層の形成は認められなかった。これは窒化温度が低かったためと考えられる。これらから、窒素ガス中で窒化物層を安定的に形成するためには、800℃以上さらには850℃以上の比較的高温で加熱する必要があることが明らかとなった。
【0069】
さらに、Fe−1.6%Si−1.3%Al(Al比率:0.45、粒度:180μm以下)とFe−0.7%Si−1.1%Al(Al比率:0.61、粒度:180μm以下)からなる軟磁性粉末を900℃×2時間で窒化処理した窒化粉末を用いて、試料1に係る粉末粒子と同様なX線回折を行った。いずれの粉末粒子についても、AlNに由来する回折ピークは確認された。
【0070】
しかし、Fe−6.0%Si−1.6%Al(Al比率:0.21、粒度:106〜212μm)からなる軟磁性粉末に同様な窒化処理を施して得られた粉末粒子の場合、同様なX線回折を行っても、AlNに由来する回折ピークは確認されなかった。このことから、窒化物層の形成にはAl比率が所定値以上(または超)となることも必要であることが明らかとなった。
【0071】
《実施例2:圧粉磁心》
本実施例では、表1に示した各粉末を用いて、種々の圧粉磁心を製造し、それらの比抵抗および圧環強度を測定・評価した。以下、その内容を具体的に説明する。
【0072】
〈磁心用粉末の製造〉
(1)窒化粉末
上述したように、原料粉末に窒化処理を行った各種の窒化粉末(試料1〜25等)を用意した。また比較のため、上述した窒化処理を行わない未処理の原料粉末(試料C3)、酸化処理した粉末(試料C5〜C7)およびシリコーン樹脂で粒子表面を被覆した粉末(試料C8)も用意した。
【0073】
軟磁性粒子の表面に酸化ケイ素からなる絶縁層を形成する酸化処理(試料C5、C6)は、原料粉末を酸素ポテンシャルを調整した水素雰囲気中で900℃×3時間加熱して行った。軟磁性粒子の表面に酸化鉄からなる絶縁層を形成する酸化処理(試料C7)は、原料粉末を750℃×1時間、酸素濃度10vol%の窒素雰囲気で加熱して行った。シリコーン樹脂の被覆は、市販のシリコーン樹脂(MOMENTIVE社製、「YR3370」)を原料粉末に対して0.2質量%溶解させたコーティング樹脂液に原料粉末を投入し、エタノールを揮発させた後、250℃でシリコーン樹脂を硬化させて行った。
【0074】
(2)ガラス付着工程
試料C4を除き、上述した各粉末粒子に低融点ガラスを以下のようにして付着させて磁心用粉末を製造した。なお、表1に示した低融点ガラスの種類は、表2に示したいずれかである。表2には、各低融点ガラスの成分組成に加えて、本明細書でいう軟化点も併せて示した。
【0075】
(i)ガラス微粒子の調製
低融点ガラスとして、表2に示す各組成を有する市販のガラスフリット(B:千代田化学社製、D:東罐マテリアル・テクノロジー社製、その他:日本琺瑯釉薬社製)を用意した。各ガラスフリットを湿式粉砕機(ダイノーミル:シンマルエンタープライズ社製)のチャンバーへ投入し、攪拌用プロペラを作動させて、各ガラスフリットを微粉砕した。この微粉砕したものを回収して乾燥させた。こうして各種の低融点ガラスからなるガラス微粒子を得た。得られたガラス微粒子の粒径(粒度)は、いずれも軟磁性粒子よりも小さく、最大粒径が約5μmであった。なお、この粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による画像解析により確認した。
【0076】
(ii)乾式コーティング
各試料の粉末とガラス微粒子粉末とを回転ボールミルで攪拌した。攪拌後に固化していた粉末は乳鉢で解砕した。こうしてガラス微粒子が表面に付着した粒子からなる磁心用粉末を得た。なお、低融点ガラス(ガラス微粒子粉末)の添加量は、磁心用粉末全体を100質量%として表1に併せて示した。
【0077】
〈圧粉磁心の製造〉
(1)成形工程
各磁心用粉末を用いて、金型潤滑温間高圧成形法により、円環状(外径:φ39mm×内径:φ30mm×高さ:5mm)の成形体を得た。この際、内部潤滑剤や樹脂バインダー等は一切使用しなかった。具体的には次のようにして各粉末を成形した。
【0078】
所望形状に応じたキャビティを有する超硬製の金型を用意した。この金型をバンドヒータで予め130℃に加熱しておいた。また、この金型の内周面には、予めTiNコート処理を施し、その表面粗さを0.4Zとした。
【0079】
加熱した金型の内周面に、ステアリン酸リチウム(1%)の水分散液をスプレーガンにて10cm
3/分程度の割合で均一に塗布した。なお、この水分散液は、水に界面活性剤と消泡剤とを添加したものである。その他の詳細は、日本特許公報特許3309970号公報、日本特許4024705号公報等に記載に沿って行った。
【0080】
各磁心用粉末をステアリン酸リチウムが内面に塗布された金型へ充填し(充填工程)、金型を130℃に保持したまま1000MPaまたは1568MPaで温間成形した(成形工程)。なお、この温間成形時、いずれの成形体も金型とかじり等を生じることはなく、低い抜圧で金型からの取り出しが可能であった。
【0081】
(2)焼鈍工程
得られた各成形体を加熱炉に入れ、窒素ガスが0.5L/minの割合で流れる雰囲気中で1時間加熱した。そのときの加熱温度(焼鈍温度)も表1に併せて示した。こうして表1に示す各種の圧粉磁心(試料)を得た。
【0082】
〈圧粉磁心の測定〉
各圧粉磁心の比抵抗および圧環強度を求めた。比抵抗は、デジタルマルチメータを用いて4端子法により測定した電気抵抗と、各試料を実際に採寸して求めた体積とから算出した。圧環強度は、上述した円環状試料を用いて、JIS Z2507に準じて測定した。これらの結果を表1に併せて示した。また、各試料の比抵抗と圧環強度の関係を
図4にまとめて示した。なお、表1中の比抵抗欄に示した「≧10
4」は、測定試料の比抵抗が大きくて、測定限界を超えたこと(オーバーレンジ)を示す。
【0083】
《圧粉磁心の評価》
(1)粒界構造
図2に示すAESの結果から分かるように、窒化工程後の軟磁性粉末粒子の粒界に、第1被覆層(Al−O系層)と第2被覆層(AlN層)が形成されている。そして、窒化工程を経て形成された第1被覆層および第2被覆層は熱的にも化学的にも安定である。このため、ガラス付着工程、成形工程、焼鈍工程を経て得られた試料1〜25の圧粉磁心では、第2被覆層を覆うように第3被覆層が形成されていると考えられる。
【0084】
(2)特性
表1および
図4から明らかなように、上述した三層構造の粒界部を有する圧粉磁心はいずれも、十分な比抵抗および圧環強度を発揮することがわかった。
【0085】
一方、試料C1〜C3のように、粒界部に低融点ガラス層があってもAlN層がない場合、圧粉磁心の比抵抗は極端に低くなった。逆に試料C4のように、粒界部にAlN層が有っても低融点ガラス層がない場合、比抵抗は高いものの、圧粉磁心の圧環強度は極端に低くなった。
【0086】
また、試料C5〜C7からわかるように、AlN層がなくSi−O系層またはFe−O系層と低融点ガラス層とからなる粒界部を有する圧粉磁心の場合、圧環強度は高いものの、比抵抗は極端に低くなった。この理由として、軟磁性粒子を被覆するSi−O系層またはFe−O系層が、焼鈍時に溶融(軟化)した低融点ガラスと反応して変質し、その絶縁性が低下したためと考えられる。
【0087】
さらに、試料C8からわかるように、AlN層がなくシリコーン樹脂層と低融点ガラス層とからなる粒界部を有する圧粉磁心の場合、低融点ガラス層の存在にも拘わらず、比抵抗のみならず圧環強度も低くなった。この理由として、シリコーン樹脂層が焼鈍時の加熱により変質して絶縁性を低下させたことと、溶融(軟化)した低融点ガラスはシリコーン樹脂層との濡れ性が悪く、粒界部に破壊起点となる微細な空隙等を生じたこととが考えられる。
【0088】
以上のことから、第1被覆層(Al−O系層)、第2被覆層(AlN層)および第3被覆層(低融点ガラス層)の3層構造からなる粒界部がある場合に、圧粉磁心は高温焼鈍後でも高比抵抗および高圧環強度を発揮することが明らかとなった。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】