特許第6232364号(P6232364)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6232364-ホイップドクリームの製造方法 図000007
  • 特許6232364-ホイップドクリームの製造方法 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232364
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】ホイップドクリームの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 9/20 20160101AFI20171106BHJP
【FI】
   A23L9/20
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-202581(P2014-202581)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-67321(P2016-67321A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2016年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 英樹
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 詠子
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−128426(JP,A)
【文献】 特開2003−180280(JP,A)
【文献】 特開2011−152082(JP,A)
【文献】 特開昭48−082066(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/035543(WO,A1)
【文献】 特開平05−276888(JP,A)
【文献】 特開2014−079234(JP,A)
【文献】 特開2010−051231(JP,A)
【文献】 米国特許第06497914(US,B1)
【文献】 乳の科学, 1996, 161-163頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪を含む原料を用いたエージングを含むクリーム調製工程によって調製されるクリームをホイップするホイップ工程を有するホイップドクリームの製造方法であって、
記ホイップ工程中に、クリームに乳化剤が添加される乳化剤添加工程を含み、
前記乳化剤はポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルからなる群から選択される乳化剤である、製造方法。
【請求項2】
前記ホイップ工程中にクリームに乳化剤が添加される工程における前記クリームのペネトロ値は330以下である、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
前記乳化剤は、飽和脂肪酸で構成される脂肪酸を含むものである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記飽和脂肪酸は、炭素数が12以上である、請求項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記乳化剤は、HLBが8以上である、請求項1〜の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記乳化剤は、クリームに対して0.01〜1質量%添加される、請求項1〜の何れか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホイップドクリームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クリーム内に空気を含ませ、微細な気泡が十分泡立ったまま安定を保っているクリームをホイップドクリームという。ホイップドクリームは洋菓子製造におけるコーティングやトッピング、調理に広く使用されている。
しかし、ホイップドクリームには、保形性や保存性の低下、「荒れ」や「しまり」といった硬化現象、「戻り」や「だれ」といった軟化現象等の品質の劣化が見られることがあり、その安定性を向上させることが課題であった。
【0003】
例えば特許文献1には、特定の油脂を用い、炭素原子数16〜18の飽和脂肪酸と炭素原子数6〜14の飽和脂肪酸との質量比率を特定範囲とした油相と、水相とを乳化することにより得たクリームを用いることによって、「しまり」と「戻り」が起こりにくいホイップドクリームを製造することができることが開示されている。
【0004】
また、特許文献2にはホイップドクリームにペクチンを添加することによって、冷蔵保存後や凍結解凍後の離水が防止され、また、ダレが防止され、デコレーション時の保型性が良好となることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−189246号公報
【特許文献2】特開2003−180280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法は、ホイップドクリームの安定性の向上、特に「しまり」のような硬化現象を抑制するには有効であると考えられるが、クリームに用いる油脂の種類や組成が限定される、という問題があった。
【0007】
一方、特許文献2に記載の方法は、クリームに用いる油脂の種類や組成は限定されないが、その効果は離水防止、ダレ防止、保型性の向上に限られ、ホイップドクリームの「荒れ」のような硬化現象を防止することはできない。
【0008】
そこで、本発明は、ホイップドクリームの「荒れ」のような硬化現象を防止する新規な技術を提供することを課題とする。
特に、本発明は、ホイップドクリームの原料となる油脂の種類や組成を制限することなく、ホイップドクリームの硬化現象を防止する新規な技術を提供することを課題とする。
また、本発明は、硬化現象を起こしにくい、安定性に優れたホイップドクリームを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための本発明は、脂肪を含む原料を用いたエージングを含むクリーム調製工程によって調製されるクリームをホイップするホイップ工程を有するホイップドクリームの製造方法であって、記ホイップ工程中に、クリームに乳化剤が添加される乳化剤添加工程を含み、前記乳化剤はポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルからなる群から選択される乳化剤である、製造方法である。
本発明によれば、「荒れ」のような硬化現象が防止されたホイップドクリームを製造することができる。また、「荒れ」のような硬化現象が防止されることにより、保存時の「ひび」の発生が抑制されたホイップドクリームを製造することができる。
【0010】
イップ工程中にクリームに乳化剤が添加されることにより、硬化現象を防止する効果を高めることが可能となり、より安定性に優れたホイップドクリームを製造することができる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、前記ホイップ工程中にクリームに乳化剤が添加される工程における前記クリームのペネトロ値は330以下である。
乳化剤の添加のタイミングを、ホイップによりクリームが一定以下のペネトロ値となった時とすることにより、硬化現象を防止する効果を高めることが可能となり、より安定性に優れたホイップドクリームを製造することができる。
【0012】
本発明の好ましい形態では、前記乳化剤は、飽和脂肪酸で構成される脂肪酸を含むものである。
乳化剤添加工程において添加する乳化剤として、飽和脂肪酸で構成される脂肪酸を含む乳化剤を用いることにより、硬化現象を防止する効果を高めることが可能となり、より安定性に優れたホイップドクリームを製造することができる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記飽和脂肪酸は、炭素数が12以上である。
このような形態とすることにより、硬化現象を防止する効果を高めることが可能となり、より安定性に優れたホイップドクリームを製造することができる。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記乳化剤は、HLBが8以上である。
このような形態とすることにより、硬化現象を防止する効果を高めることが可能となり、より安定性に優れたホイップドクリームを製造することができる。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記乳化剤は、クリームに対して0.01〜1.0質量%添加される。
このような形態とすることにより、硬化現象を防止しながら、好ましい保形性をも実現させることが可能となり、より安定性に優れた高品質のホイップドクリームを製造することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、「荒れ」のような硬化現象が防止されたホイップドクリームを製造することができる。これにより、ホイップドクリームの保存時の「ひび」の発生を抑制し、保存安定性に優れたホイップドクリームを製造することができる。
また、本発明の好ましい形態では、硬化現象を防止しながら、保形性にも優れたホイップドクリームを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1参考例2のホイップドクリームの製造方法を示す図である。
図2】実施例2のホイップドクリームの製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<1>ホイップドクリームの製造方法
本発明のホイップドクリームの製造方法(本発明の製造方法)は、脂肪を含む原料を用いたエージングを含むクリーム調製工程によって調製されるクリームをホイップするホイップ工程を有するホイップドクリームの製造方法であって、前記クリーム調製工程中のエージング後、又は前記ホイップ工程中のいずれかに、クリームに乳化剤が添加される乳化剤添加工程を含むことを特徴とする。ここで、前記乳化剤添加工程において添加される乳化剤はポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルからなる群から選択される乳化剤であることを特徴とする。
以下、本発明の製造方法について詳しく説明する。
【0019】
(1)クリーム調製工程
本発明において、「クリーム」とは、脂肪を含む原料を用いて調製される乳化物であって、乳等省令(乳及び乳製品の成分規格等に関する省令)で規定されるクリーム(以下、生クリームともいう。)、及び乳等省令で規定される「乳又は乳製品を主要原料とする食品」に分類されるクリーム(以下、乳主原クリームともいう。)の何れも含む。
生クリームは、「生乳、牛乳、又は特別牛乳から乳脂肪分以外の成分を除去したもの」である。
乳主原クリームは、乳脂肪分以外の成分(植物性油脂、タンパク質、各種添加剤(乳化剤、安定剤、香料等)等)を含み、脂肪として乳脂肪のみを含む純乳脂タイプ(純乳脂クリーム)、脂肪として乳脂肪と植物性油脂とを含む混合タイプ(いわゆるコンパウンドクリーム)、及び脂肪として植物性油脂のみを含む純植物性油脂タイプ(いわゆるノンデイリークリーム)に分類される。
【0020】
本発明の製造方法においては、前記の何れのクリームであっても制限なく使用することができる。
特に、本発明の製造方法は、乳脂肪を含むクリーム、すなわち生クリーム、純乳脂クリーム、及びコンパウンドクリームから、安定性の高いホイップドクリームを製造する際に好適である。
これは、従来、乳脂肪を含むクリームを使用した場合には、「しまり」や「荒れ」のような硬化現象が起こりやすく、十分に安定性の高いホイップドクリームを製造することが難しいとされていたためである。
【0021】
クリーム調製工程は、クリームを調製するのに通常行われる工程を含む。
例えば、生クリームを調製する場合には、クリーム調製工程は、通常、乳原料から生クリームを分離する工程、殺菌、冷却、均質化及びエージングを含む。
【0022】
また、例えば、乳主原クリームを調製する場合には、クリーム調製工程は、通常、予備乳化、均質化、殺菌、冷却及びエージングを含む。
【0023】
ここで、クリーム調製工程における均質化は、ホモゲナイザーを用いて、生クリーム又は乳主原クリームの原料の混合物に、1〜25MPaの均質化圧力を加えて組織を均一にする工程であり、後記するホイップとは区別されるものである。
【0024】
また、クリーム調製工程においては、従来、予備乳化のために用いられてきた乳化剤を制限なく用いることができる。
本発明の好ましい実施の形態では、クリーム調製工程のエージング前において、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルからなる群から選択される乳化剤を添加する態様は含まれない。
クリーム調製工程のエージング前において前記乳化剤を添加せずに、以下に説明するように、クリーム調製工程中のエージング後、又はホイップ工程中のいずれかに、前記乳化剤を添加することで、ホイップドクリームの硬化現象を防止するという本発明の効果を最大限発揮させることができる。
【0025】
本発明の製造方法においては、ホイップ工程に供されるクリームは、エージングを含むクリーム調製工程によって調製されるクリームである。
本発明の製造方法においては、前記の調製されるクリームとして、市販のクリームを用いることもできる。
【0026】
(2)ホイップ工程
本発明の製造方法におけるホイップ工程は、前記エージングを含むクリーム調製工程によって調製されるクリームをホイップし、ホイップドクリームを製造する工程である。すなわち、本発明の製造方法において、ホイップ工程とは、前記クリーム調製工程によって調製されるクリームのホイップの開始後、該クリームのホイップの終了後までの工程である。
ホイップ工程は、工業用攪拌機、ホイッパー、又は家庭用ハンドミキサー等を用いて行うことができる。また、前記ホイップ工程は、常法により0〜0.05MPaの圧力をクリームに加えることによって行う。
【0027】
ホイップ工程では、ホイップドクリームのペネトロ値が330以下となるまで、好ましくは150〜330となるまで、より好ましくは160〜300となるまで、さらに好ましくは170〜280となるまで、ホイップを行う。
ペネトロ値とは、所定の条件下で特定の円錐型コーンを組成物に落下、貫入させたときの円錐型コーンの貫入距離(mm)を10倍した値(単位なし)であり、組成物の硬度を示す値である。
さらに具体的には、底面直径24mm、高さ33.5mm、12gの円錐型コーンを、ペネトロメーター(中村医科理化器械店製)を用い、JIS K−2350に準拠して試料に浸入させ、浸入深さ(mm)を10倍した値をペネトロ値という。
【0028】
また、ホイップ工程では、ホイップドクリームのオーバーランが、90〜170%となるまで、好ましくは90〜150%となるまで、さらに好ましくは100〜130%となるまで、ホイップを行う。
【0029】
(3)乳化剤添加工程
乳化剤添加工程とは、(a)前記クリーム調製工程中のエージング後、又は(b)前記ホイップ工程中のいずれかに、クリームに、後に詳述する特定の乳化剤が、添加される工程のことをいう。また、(b)前記ホイップ工程中に特定の乳化剤が添加される工程としては、(b−1)ホイップの途中に、クリームに特定の乳化剤が、添加される工程、及び(b−2)ホイップの終了後、クリームに特定の乳化剤が、添加される工程が挙げられる。
ここで、前記乳化剤添加工程は、複数回行ってもよい。
【0030】
(a)前記エージング後に、クリームに乳化剤を添加する工程は、前記調製されたクリームと乳化剤とを一般的に液体を混合する際に用いられる方法により撹拌することにより実施することが挙げられる。また、ホイップの直前に、乳化剤をクリームに添加し、特段の撹拌を行わずに直ちにホイップを開始することもできる。
【0031】
(b−1)ホイップの途中に、クリームに乳化剤を添加する工程は、クリームをホイップしながら、徐々に乳化剤を添加し、ホイップにおける撹拌力によりクリーム中に乳化剤を分散させることにより実施することが挙げられる。
また、一旦ホイップを中断し、クリームに乳化剤を添加して混合した後に、ホイップを再開してもよい。
【0032】
(b−2)ホイップの終了後、クリームに乳化剤を添加する工程は、ホイップにより十分に起泡したクリームに乳化剤を添加して混合することにより実施することが挙げられる。
【0033】
本発明の製造方法では、乳化剤添加工程は、(b)ホイップ工程中にクリームに乳化剤が添加される工程であることが好ましく、中でも(b−2)ホイップの終了後、クリームに乳化剤を添加する工程であることがさらに好ましい。
ホイップ工程中、中でもホイップの終了後にクリームに乳化剤が添加されることにより、硬化現象を防止する効果を高めることが可能となり、より安定性に優れたホイップドクリームを製造することができる。
【0034】
(b)前記ホイップ工程中にクリームに乳化剤が添加される工程における前記クリームのペネトロ値は、330以下が好ましく、300以下がより好ましく、280以下が特に好ましい。また、前記ペネトロ値の下限値は、ホイップドクリームの口当たりを考慮し150を目安とすることができる。
すなわち、ホイップにより、クリームのペネトロ値が一定以下となった後に特定の乳化剤を添加することで、製造されるホイップドクリームの硬化現象が顕著に防止され、極めて安定性に優れたホイップドクリームを製造することができる。
【0035】
また、(b−2)ホイップの終了後、クリームに乳化剤を添加する工程では、乳化剤を添加することでホイップドクリームのオーバーランは一旦低下するため、ホイップの終了後であって、かつ乳化剤の添加直前のホイップドクリームのオーバーランは、90〜220%が好ましく、150〜210%がより好ましく、170〜200%が特に好ましい。
【0036】
また、(b−2)ホイップの終了後、ホイップドクリームに乳化剤を添加する工程では、乳化剤を添加することでホイップドクリームのペネトロ値は一旦上昇するため、ホイップの終了後であって、かつ乳化剤の添加直前のホイップドクリームのペネトロ値は、140〜300が好ましく、140〜250がより好ましく、150〜200が特に好ましい。
乳化剤の添加時のホイップドクリームのオーバーランやペネトロ値を前記範囲とすることによって、製造されるホイップドクリームの口当たりを良好な範囲に調整することが可能となる。
【0037】
乳化剤添加工程において添加する乳化剤は、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルからなる群から選択される。前記乳化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
前記乳化剤は、飽和脂肪酸で構成される脂肪酸を含むことが好ましい。また、前記乳化剤を構成する脂肪酸は、飽和脂肪酸からなることがさらに好ましい。乳化剤を構成する脂肪酸を飽和脂肪酸とすることにより、硬化現象を防止する効果を高めることができる。
また、前記乳化剤を構成する脂肪酸は、炭素数が好ましくは12以上であり、より好ましくは16以上である。中でも、前記脂肪酸が飽和脂肪酸である場合に、脂肪酸の炭素数を前記範囲とすることにより、硬化現象を防止する効果を高めることができ、より安定性に優れたホイップドクリームを製造することができる。
【0039】
また、前記乳化剤は、HLBが好ましくは3以上であり、より好ましくは5以上であり、さらに好ましくは8以上であり、さらに好ましくは11以上である。前記乳化剤のHLBが前記範囲であることにより、硬化現象を防止する効果を高めることができる。
さらに、前記乳化剤を構成する脂肪酸を飽和脂肪酸とし、かつ乳化剤のHLBが前記範囲であることにより、硬化現象を防止する効果を顕著に高めることが可能となり、より安定性に優れたホイップドクリームを製造することができる。
【0040】
前記乳化剤の添加量は、クリームに対して0.01〜1.0質量%であり、より好ましくは0.05〜0.5質量%である。
前記乳化剤が、前記範囲内で添加されることによって、硬化現象を防止しながら、好ましい保形性をも実現させることが可能となり、より安定性に優れた高品質のホイップドクリームを製造することができる。
【0041】
前記乳化剤は、水溶液の形態でクリームに添加することができる。前記乳化剤を水溶液の形態とすることによって、前記乳化剤をクリームに効率よく混合することができる。
【0042】
前記乳化剤を水溶液の形態で添加する場合の水溶液の添加量は、クリームに対して好ましくは1〜70質量%であり、より好ましくは5〜65質量%であり、特に好ましくは10〜60質量%である。
前記水溶液の添加量を前記範囲内とすることによって、硬化現象を防止しながら、好ましい保形性をも実現させることが可能となり、より安定性に優れたホイップドクリームを製造することができる。
【0043】
前記水溶液における前記乳化剤の濃度は、特に制限されないが、好ましくは0.1〜10質量%であり、より好ましくは0.2〜5質量%である。
前記水溶液における前記乳化剤の濃度を前記範囲内とすることによって、硬化現象を防止しながら、好ましい保形性をも実現させることが可能となる。
【0044】
前記水溶液の液温は、好ましくは30〜70℃であり、より好ましくは40〜60℃であり、より好ましくは50〜60℃である。
前記水溶液の液温を前記の数値範囲とすることによって、前記水溶液のクリームへの混合を効率よく行うことができ、硬化現象を防止する効果を高めることが可能となる。
【0045】
また、前記水溶液を添加した後のクリームの温度は、好ましくは0〜30℃であり、特に好ましくは0〜25℃である。
前記水溶液を添加した後のクリームの温度を前記範囲となるように、前記水溶液の温度、乳化剤を添加する前のクリーム温度、前記水溶液とクリームとの混合比を設定することによって、硬化現象を防止する効果を高めることが可能となり、より安定性に優れたホイップドクリームを製造することができる。
【0046】
本発明の製造方法における前記水溶液は、本発明の効果を妨げない範囲で、前記乳化剤以外の食品添加物を含んでいても良い。乳化剤以外の食品添加物としては、砂糖、香料、酸味料、食品素材、増粘多糖類等の増粘剤、並びにゼラチン等を例示することができる。
例えば、増粘多糖類等の増粘剤を添加することにより、本発明で使用される乳化剤とクリームとの混合性が良くなる。なお、ホイップ効果を妨げる要因となりうるような繊維質を含む食品素材等を、本発明によって製造されるホイップドクリームに添加する場合は、ホイップの終了後に添加することが好ましい。
【0047】
なお、前記乳化剤は、それ自体単独で、又は他の食品添加物と混合することにより、ホイップドクリームの安定化剤として機能する。すなわち、本発明は、前記乳化剤を有効成分として含むホイップドクリームの安定化剤にもある。前記ホイップドクリームの安定化剤は、前記本発明のホイップドクリームの製造方法において使用することができる。前記安定化剤に含まれる乳化剤や食品添加物の好ましい形態は、前記のとおりである。
【0048】
<2>ホイップドクリーム
本発明は前記本発明の製造方法によって製造されるホイップドクリームにもある。
本発明のホイップドクリームは、「荒れ」のような硬化現象を起こしにくく、安定性に優れる。
また、本発明のホイップドクリームは冷蔵保存時において「ひび」が発生しにくく、保存性に優れている。
本発明のホイップドクリームの実施の形態については、前記<1>で述べた事項を適用することができる。
本発明のホイップドクリームは、冷蔵保存時の安定性に優れているため、例えばチルドデザートのデコレーションに好適である。
【実施例】
【0049】
<1>ホイップドクリームの製造(参考例2及び実施例2)
下記方法に従い、本発明の製造方法によりホイップドクリームを製造した。製造フロー
図1及び図2に示す。
【0050】
(1)クリーム調製工程(図1及び図2
表1に示す含有率で各原料を含むコンパウンドクリームを以下の方法により調製した(図1及び図2の「クリーム調製工程」)。
【0051】
【表1】
【0052】
コンパウンドクリームの調製のための油相部、水相部及び48%乳脂肪クリームは、それぞれ以下のように調製した。すなわち、油相部は各原料(油相成分)を混合した後、80℃に加温することにより調製した。また、水相部は沸騰させた水に、各原料(水相成分)を溶解させることにより調製した。また、48%乳脂肪クリームは60℃に加温することにより調製した。
【0053】
前記水相部と48%乳脂肪クリームとを混合した後、油相部を添加して混合した。得られた混合液を加温し、80℃達温後にホモミキサー(プライミクス社製)にて、5000rpmで1分間撹拌し、予備乳化を行った。その予備乳化された混合液を、均質化温度80℃にて、1段目は8MPa、2段目は2MPaの均質化圧力を加えて均質化した。
【0054】
均質化した後の混合液をすぐに氷水冷却し、7℃以下まで冷却した。その後、12時間0〜5℃でエージングし、コンパウンドクリームを調製した。
【0055】
(2)乳化剤水溶液の調製
表2に示す各原料を混合し、乳化剤水溶液を調製した。
【0056】
【表2】
【0057】
前記のように調製したコンパウンドクリームと乳化剤水溶液とを用いて、以下の(3)及び(4)に記載の方法によって、参考例2及び実施例2のホイップドクリームを製造した。
【0058】
(3)ホイップ工程(参考例2図1
参考例2のホイップドクリームは、クリーム調製工程中のエージング後、ホイップの開始前に、調製したクリームに乳化剤を添加し、続いてホイップすることにより製造した(図1)。
具体的には、コンパウンドクリーム400gに、55℃に保温した乳化剤水溶液44gを添加して混合し、乳化剤水溶液の添加後のコンパウンドクリームの温度を30℃以下とした。続いて、乳化剤を添加したコンパウンドクリームを、ケンミックス「強さ5.4」を使用して、ペネトロ値が220になるまでホイップし、ホイップドクリームを製造した。
【0059】
(4)ホイップ工程(実施例2、図2
実施例2のホイップドクリームは、ホイップの終了後、起泡したクリームに乳化剤を添加することにより製造した(図2)。
具体的には、コンパウンドクリーム400gを、ケンミックス「強さ5.4」を使用して、ペネトロ値が183になるまでホイップした。ホイップの終了後、クリームに55℃の乳化剤水溶液44gを添加して混合し、クリームの温度を30℃以下として、実施例2のホイップドクリームを調製した。
【0060】
<2>ホイップドクリームの製造(比較例1)
(1)クリーム調製工程
参考例2で使用した油相部、水相部、48%乳脂肪クリーム、及び乳化剤水溶液と同じものを用い、以下の方法によりコンパウンドクリームを調製した。
まず、水相部と48%乳脂肪クリームとを混合し、その後、得られた混合液に油相部を混合した。続いて、得られた混合液3000gに対し、乳化剤水溶液333gを混合した。
得られた混合液について、参考例2と同様に予備乳化、均質化、冷却及びエージングを行い、コンパウンドクリームを調製した。
【0061】
(2)ホイップ工程
前記<2>の(1)の方法により調製したコンパウンドクリーム444gをケンミックス「強さ5.4」を使用して、ペネトロ値が220になるまでホイップすることにより、比較例1のホイップドクリームを製造した。
すなわち、比較例1のホイップドクリームは、クリーム調製工程のエージング前において、特定の乳化剤を添加してクリームを調製し、その後、クリームをホイップすることにより製造した。
【0062】
<3>試験例1
前記<1>の方法により製造した参考例2及び実施例2のホイップドクリーム、並びに前記<2>の方法により製造した比較例1のホイップドクリームについて、ホイップドクリームの荒れを評価した。
ここで、ホイップドクリームの荒れの評価とは、ホイップドクリームに緩く剪断力を加えたときに生じるホイップドクリーム表面の荒れを評価したものであり、ホイップドクリームの荒れは、硬化したホイップドクリームが、冷蔵保存時において、ひびが入る現象に影響を及ぼすものである。本試験例1では、参考例2及び実施例2、並びに比較例1のホイップドクリームのひびの入り具合についても評価した。
ホイップドクリームの荒れと、ひびの入り具合に係る評価は以下のようにして行った。
【0063】
[荒れ]
ホイップドクリームに緩くせん断力をかけ、荒れを比較した。具体的には、ケンミックスの「2」でせん断力をかけ、荒れを以下のように4段階で評価した。
◎:荒れない
○:ほとんど荒れない
△:やや荒れる
×:荒れる
【0064】
[ひび]
ホイップドクリームを10℃で約24時間保存し、表面のひびの入り具合を以下のように4段階で評価した。
◎:ひびが入らない
○:ひびがほとんど入らない
△:ひびがやや入る
×:ひびが入る
【0065】
本試験例1の結果を表3に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
試験の結果、表3に示すとおり、参考例2及び実施例2のホイップドクリームは、比較例1のホイップドクリームに比して、荒れやひびが生じにくいことがわかった。
この結果より、クリーム調製工程中のエージング後、又はホイップ工程中に、ショ糖脂肪酸エステルを含む乳化剤をクリームに添加することによって、安定性に優れたホイップドクリームを製造することができることがわかった。
【0068】
また、参考例2のホイップドクリームに比して、実施例2のホイップドクリームの方が荒れやひびが生じにくいことがわかった。
以上により、ホイップ工程によりペネトロ値が低下したクリームに乳化剤を添加することによって、より安定性に優れたホイップドクリームを製造することができることがわかった。
すなわち、ホイップ工程中に、特にホイップの終了後に、クリームに乳化剤を添加することが、荒れやひびの発生の抑制に有効であることがわかった。
【0069】
<4>試験例2
参考例3及び実施例4のホイップドクリームは、森永乳業社製のコンパウンドクリーム(市販品)を用いて製造した。
なお、参考例3のホイップドクリームは参考例2の方法と同様のホイップ工程を行うことにより製造した。また、実施例4のホイップドクリームは実施例2の方法と同様のホイップ工程を行うことにより製造した。
【0070】
参考例3及び実施例4のホイップドクリームについて、試験例1と同様に、ホイップド
クリームの荒れと、ひびの入り具合を評価した。
本試験例2の結果は表4に示す。
【0071】
【表4】
【0072】
表4に示す結果から、参考例3及び実施例4の何れのホイップドクリームであっても、
前記の比較例1のホイップドクリームより荒れやひびが生じにくいことがわかった。
試験の結果、本発明の製造方法は、エージングを含むクリーム調製工程を経て調製した
直後のクリームだけではなく、エージングを含むクリーム調製工程から時間が経過した市
販のクリームを使用しても、安定性に優れたホイップドクリームを製造できることがわか
った。
【0073】
また、実施例4のホイップドクリームは参考例3のホイップドクリームに比して荒れやひびが生じにくいことがわかった。
以上により、ホイップ工程によりペネトロ値が低下したクリームに乳化剤を添加することによって、より安定性に優れたホイップドクリームを製造することができることがわかった。
すなわち、ホイップ工程中に、特にホイップの終了後に、クリームに乳化剤を添加することが、荒れやひびの発生の抑制に有効であることがわかった。
【0074】
<5>試験例3
実施例2のホイップドクリームの製造に使用した乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル)の代わりに、表5に示す種々の乳化剤を使用して、実施例5〜16、比較例2、及び参考例1のホイップドクリームを製造した。なお、比較例2のホイップドクリームは、実施例2のホイップドクリームの製造に使用した乳化剤の代わりに水を使用して製造した。
実施例5〜16、比較例2、及び参考例1のホイップドクリームは、乳化剤の種類を変更した以外は、実施例2と同様の方法により製造した。
【0075】
製造したホイップドクリームは、試験例1及び2と同様に荒れやひびの入り具合を評価した。
【0076】
実施例2、実施例5〜16、比較例2、及び参考例1のホイップドクリームに使用した乳化剤を構成する親水基、乳化剤を構成する疎水基(脂肪酸)、乳化剤を構成する脂肪酸の種類及び炭素数、乳化剤のHLB、並びに各ホイップドクリームの評価結果を表5に示す。
なお、表5の実施例16の炭素数の欄における「18−1」なる表記は、炭素数18の直鎖脂肪酸に1箇所不飽和(二重結合)の炭素結合を有する、ことを意味する。
【0077】
【表5】
【0078】
本試験例3の結果、表5に示すとおり、比較例2のホイップドクリームと比較して、実施例2、実施例5〜15のホイップドクリームは荒れやひびが生じにくいことがわかった。また、実施例16のホイップドクリームは、ひびが生じにくいことがわかった。
この結果より、ホイップ工程中に、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルからなる群から選択される乳化剤を添加することにより、安定性に優れたホイップドクリームを製造できることがわかった。
【0079】
また、実施例2及び実施例5〜15のホイップドクリームが特に、荒れやひびが生じにくかったことから、ホイップ工程中に添加する乳化剤は、飽和脂肪酸のエステルが好ましく、当該乳化剤を使用することにより、安定性に優れたホイップドクリームを製造できることがわかった。
この結果より、ホイップ工程中に添加する乳化剤として、不飽和脂肪酸のエステルを使用するよりも、飽和脂肪酸のエステルを使用することで、安定性に優れたホイップドクリームを製造することができることがわかった。
【0080】
さらに、乳化剤としてコハク酸モノグリセライドを使用して製造した参考例1のホイップドクリームに比して、乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステル又はショ糖脂肪酸エステルを使用して製造した実施例2及び実施例5〜15のホイップドクリームの方が、荒れやひびが生じにくいことがわかった。
この結果より、ホイップ工程中に添加する乳化剤として、脂肪酸エステル、特に飽和脂肪酸エステルを用いることによって、安定性に優れたホイップドクリームを製造することができることがわかった。
【0081】
さらに、HLBが3又は5の乳化剤を使用して製造したホイップドクリームに比して、HLBが8以上、特にHLBが11以上の乳化剤を使用して製造したホイップドクリームの方が、より荒れが生じにくいことがわかった。
この結果より、ホイップ工程中に添加する乳化剤のHLBを8以上、より好ましくは11以上とすることによって、より安定性に優れたホイップドクリームを製造することができることがわかった。
【0082】
また、ホイップ工程中に添加する乳化剤を構成する飽和脂肪酸の炭素数が12以上の場合には、製造されるホイップドクリームは、荒れやひびが生じにくいことがわかった。
また、同程度のHLBの乳化剤をもちいたホイップドクリームの評価結果を比較した場合には、炭素数が16以上である飽和脂肪酸から構成される乳化剤を添加して製造したホイップドクリームの方が、炭素数が12である飽和脂肪酸から構成される乳化剤を添加して製造したホイップドクリームより荒れが生じにくいことがわかった。
この結果より、ホイップ工程中に添加する乳化剤を構成する飽和脂肪酸の炭素数を12以上、好ましくは16以上とすることによって、特に安定性に優れたホイップドクリームを製造することができることがわかった。
【0083】
以上のとおり、試験例1〜3の結果より、本発明の製造方法によれば安定性に優れたホイップドクリームを製造できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は安定性が優れたホイップドクリームの製造に応用することができる。
図1
図2