(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の製造方法の場合、一方の磁場発生装置から他方の磁場発生装置に向かう平行な磁力線により、ゴム状弾性体内部の磁性導電体を配向させる必要がある。この場合、一対の磁場発生装置間の距離が離れるほど、混合物に印加される磁場が弱まる。そのため、磁性導電体の配向方向(磁力線と平行な方向)に厚みを持たせるような導電弾性体を製造するためには、磁場発生装置による発生磁場を強くする必要があり、磁場の発生に要する消費電力が多大であったり、製造装置の大型化が必要であった。
【0005】
本発明は、弾性材料内で配向される磁性粒子の配向方向(磁場印加時の磁力線と平行な方向)に厚みを持たせた磁気粘弾性エラストマを製造する際に、消費電力の低減や製造装置の小型化を図ることができる磁気粘弾性エラストマの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] 本発明に係る磁気粘弾性エラストマの製造方法は、弾性材料の内部に磁性粒子を内包し、印加する磁場の大きさにより、弾性率を可変とする磁気粘弾性エラストマの製造方法であって、前記磁性粒子及び前記弾性材料の混合物を非磁性材料からなる型に注入する工程と、前記型に磁場を印加する磁場印加手段により、前記型内の前記混合物に磁場を印加する工程と、前記型内の前記混合物を固化する工程と、を有し、前記磁場印加手段は、互いに反対方向の磁場を印加するように2つ設けられ、前記型内の前記混合物に磁場を印加する際に、前記2つの磁場印加手段の磁場が同一方向で重なる位置に、前記型を配置することを特徴とする。
【0007】
上記構成により、2つの磁場印加手段の磁場の方向が重なる方向に磁性粒子を配向させることができるため、特許文献1のように、2つの磁場発生装置間で生じる磁力線に沿って配向するよりも、配向方向への厚みを持たせた磁気粘弾性エラストマを容易に製造することができる。また、磁場が同方向に重なる位置で磁性粒子を配向させるため、より省電力で配向を行うことができる。
【0008】
[2] 本発明において、前記型は前記混合物が環状に形成されるように設けられ、前記2つの磁場印加手段は、互いに反対方向に巻線されて、同方向に電力が供給される励磁コイル、もしくは互いに同方向に巻線されて、反対方向に電力が供給される励磁コイルにより構成され、前記型内の前記混合物は、前記励磁コイルの軸線方向で、前記励磁コイルに挟まれた位置であって、且つ、前記磁場を前記環状の径方向で放射状に受ける位置に配置されてもよい。
【0009】
上記構成により、環状に形成され、径方向で放射状に磁性粒子が配向された磁気粘弾性エラストマを容易に製造することができる。
【0010】
[3] 本発明において、前記型は前記混合物が直方体状に形成されるように設けられ、前記2つの磁場印加手段は、互いに反対方向に巻線されて、同方向に電力が供給される励磁コイル、もしくは互いに同方向に巻線されて、反対方向に電力が供給される励磁コイルにより構成され、前記型内の前記混合物は、前記励磁コイルの軸線方向で、前記励磁コイルに挟まれた位置であって、且つ、前記磁場を一方向で平行に受ける位置に配置されてもよい。
【0011】
上記構成により、直方体状に形成され、磁性粒子が一方向で平行に配向された磁気粘弾性エラストマを容易に製造することができる。
【0012】
[4] 本発明において、前記型内で固化された前記混合物を、前記磁性粒子の配向と直交する方向に積層する工程を有してもよい。
【0013】
上記構成により、磁性粒子の配向と直交する方向への厚みを持たせた磁気粘弾性エラストマを容易に製造することができ、磁場印加手段の印加磁場を大きくする必要がないため、省電力で磁気粘弾性エラストマを製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、弾性材料内で配向される磁性粒子の配向方向(磁場印加時の磁力線と平行な方向)に厚みを持たせた磁気粘弾性エラストマを製造する際に、消費電力の低減や製造装置の小型化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る磁気粘弾性エラストマの製造方法の実施の形態例を
図1A〜
図9Bを参照しながら説明する。
【0017】
本実施の形態に係る磁気粘弾性エラストマの製造方法を説明する前に、該製造方法にて製造される磁気粘弾性エラストマ10について説明する。
【0018】
この磁気粘弾性エラストマ10は、例えば
図1A及び
図1Bに示すように、一定の厚みtを有する円環状の弾性材料12(基質エラストマ)の内部に多数の導電性の磁性粒子14が内包されて構成されている。マトリックスとしての弾性材料12は粘弾性を有する。多数の磁性粒子14は、弾性材料12の径方向に配向されている。すなわち、この磁気粘弾性エラストマ10は、中央に貫通孔15を有する円環状の弾性材料12の内部に、磁性粒子14が径方向に配向されてなる複数の磁性粒子列16が放射状に配列された構成を有する。
【0019】
弾性材料12の構成材料としては、例えば、エチレン−プロピレンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、シリコーンゴム等の室温で粘弾性を有する公知の高分子材料が挙げられる。
【0020】
磁性粒子14は、磁場の作用によって磁気分極する性質を有すると共に、導電性を有するものである。磁性粒子14の構成材料としては、例えば、磁気軟鉄、方向性ケイ素鋼、Mn−Znフェライト、Ni−Znフェライト、マグネタイト、コバルト、ニッケル等の金属、4−メトキシベンジリデン−4−アセトキシアニリン、トリアミノベンゼン重合体等の有機物、フェライト分散異方性プラスチック等の有機・無機複合体等の公知の材料が挙げられる。
【0021】
磁性粒子14の形状は、特に限定されず、例えば、球形、針形、平板形等であってよい。磁性粒子14の粒径は、特に限定されず、例えば、0.01μm〜500μm程度であってよい。磁性粒子14の弾性材料12に対する割合は、任意に設定可能であるが、例えば、体積分率で5%〜60%程度であってよい。
【0022】
次に、本実施の形態に係る製造方法について
図2A〜
図5Bを参照しながら説明する。
【0023】
先ず、
図2AのステップS1において、
図3Aに示すように、液状の弾性材料12と多数の磁性粒子14の混合物18を非磁性材料からなる型20に注入する。型20は、第1型20aと第2型20bとで形成されるキャビティ22に混合物18を注入することによって、
図3Bに示すように、混合物18が環状に形成されるように設けられている。キャビティ22内の混合物18は、液状の弾性材料12に多数の磁性粒子14がランダムに分散されている。
【0024】
その後、
図2のステップS2において、
図4Aに示すように、型20に磁場Biを印加する磁場印加手段24により、型20内の混合物18に磁場Biを印加する。磁場印加手段24は、互いに反対方向の磁場Biを印加するように2つ設けられている。すなわち、第1磁場印加手段24Aは、円環状を有し、第1導線26aが一方向に巻線された第1励磁コイル28Aにて構成されている。第2磁場印加手段24Bは、円環状を有し、第2導線26bが他方向(一方向とは反対方向)に巻線された第2励磁コイル28Bにて構成されている。あるいは、第1磁場印加手段24Aを、第1導線26aが一方向に巻線された第1励磁コイル28Aにて構成し、第2磁場印加手段24Bを、第2導線26bが同じく一方向に巻線された第2励磁コイル28Bにて構成してもよい。
【0025】
また、型20内の混合物18に磁場Biを印加する際に、第1磁場印加手段24A及び第2磁場印加手段24Bからの磁場Biが同一方向で重なる位置に、型20を配置する。具体的には、
図4Aに示すように、例えば第1励磁コイル28Aと第2励磁コイル28Bとの間に型20を配置する。このとき、型20内の混合物18が、第1励磁コイル28A及び第2励磁コイル28Bの軸線方向で、第1励磁コイル28Aと第2励磁コイル28Bとで挟まれた位置で、且つ、磁場Biを環状の径方向で放射状に受ける位置に配置される。
【0026】
この場合、
図4Bに示すように、第1励磁コイル28Aの軸線30aと、型20の軸線32(型内の混合物の軸線)と、第2励磁コイル28Bの軸線30bとが揃うようにしてもよい。なお、各軸線30a、30b及び32は鉛直方向(重力方向)に沿っていてもよいし、水平方向に沿っていてもよい。
【0027】
もちろん、第1励磁コイル28Aの軸線30aと型20の軸線32とのなす角が0°である必要はなく、ある程度の余裕(例えば10°未満)があってもよい。また、第1励磁コイル28Aを型20に投影したとき、第1励磁コイル28Aの中心と型20の中心とが一致しているのが好ましいが、一致していなくてもよい。ある程度の余裕(例えば混合物18の内径の1/2未満)があってもよい。これらのことは第2励磁コイル28Bと型20との関係についても同様である。
【0028】
また、第1励磁コイル28Aと型20とを接触させてもよいし、第1励磁コイル28Aと型20との間にある程度の隙間(例えば第1励磁コイル28Aの厚みの1/2未満)を置いてもよい。これは、第2励磁コイル28Bと型20との関係についても同様である。
【0029】
第1励磁コイル28A及び第2励磁コイル28Bの内径Di1、Di2及び外径Do1、Do2は任意に設定することができるが、少なくとも第1励磁コイル28A及び第2励磁コイル28Bの内径Di1、Di2を、型20内の混合物18の外径をDo、内径をDiとしたとき、0<Di1≦(Do+Di)/4、0<Di2≦(Do+Di)/4に設定してもよい。(Do+Di)/4は、混合物18(円環状)の幅Wの1/2の地点を通る円の直径を示す。
【0030】
上述のようにして型20を配置することにより、第1励磁コイル28A及び第2励磁コイル28Bの巻線方向が互いに反対であれば、第1励磁コイル28A及び第2励磁コイル28Bに例えば正方向の電流を流す。第1励磁コイル28A及び第2励磁コイル28Bの巻線方向が互いに同じであれば、第1励磁コイル28Aに正方向に電流を流し、第2励磁コイル28Bに負方向に電流を流す。これにより、
図4Bに示すように、第1励磁コイル28Aの周りでは、混合物18の内周部分から外周部分に向かう磁力線34aが形成され、第2励磁コイル28Bの周りでも、混合物18の内周部分から外周部分に向かう磁力線34bが形成される。この場合、混合物18において、第1励磁コイル28Aによる磁力線34aと第2励磁コイル28Bによる磁力線34bとが加わって、多くの磁力線34a及び34bが混合物18を通過することになるため、混合物18に印加される磁場Biの強さが大きくなる。その結果、混合物18内の磁性粒子14が磁場Biの方向に配向し易くなり、混合物18は、
図1に示すように、円環状の弾性材料12の内部に、磁性粒子14が径方向に配向されてなる複数の磁性粒子列16が放射状に配列された状態となる。
【0031】
その後、
図2AのステップS3において、型20を例えば150℃で2分間加熱することによって、型20内の混合物18を固化する。これにより、
図1に示す磁気粘弾性エラストマ10が製造される。
【0032】
このように、本実施の形態に係る磁気粘弾性エラストマの製造方法においては第1励磁コイル28A及び第2励磁コイル28Bの磁場Biの方向が重なる方向に磁性粒子14を配向させることができる。そのため、特許文献1のような従来の製造方法では困難であった、配向方向に厚みを持たせた磁気粘弾性エラストマを容易に製造することができる。例えば
図1に示すように、配向方向に厚みを持たせた幅の広い円環状の弾性材料12の内部に、磁性粒子14が径方向に配向されてなる複数の磁性粒子列16が放射状に配列された構成を有する磁気粘弾性エラストマ10を容易に製造することができる。しかも、磁場Biの方向が重なる方向に磁性粒子14を配向させることができるため、より省電力で磁性粒子14の配向を行うことができる。すなわち、磁場印加手段24の印加磁場を大きくする必要がないため、省電力で磁気粘弾性エラストマ10を製造することが可能となる。
【0033】
上述した例では、固化した1つの混合物18にて磁気粘弾性エラストマ10を製造した例を示したが、以下の方法も好ましく採用することができる。
【0034】
すなわち、
図2BのステップS1〜S3において、
図5A及び
図5Bに示すように、単位厚みta(<一定の厚みt)を有する薄い混合物18aを複数作製し、
図2BのステップS4において、複数の薄い混合物18aを、磁性粒子14の配向方向xと直交する方向yに積層して1つの磁気粘弾性エラストマ10を製造してもよい。この場合、磁場印加手段24は、厚みの薄い混合物18aに対して磁場を印加すればよいため、一定の厚みtを有する混合物18に印加する磁場よりも弱い磁場にて磁性粒子14を配向させることができる。その結果、省電力で磁気粘弾性エラストマ10を製造することが可能となる。
【0035】
ここで、本実施の形態に係る製造方法にて製造された磁気粘弾性エラストマ10を利用したダイナミックダンパ100の一例について、
図6A及び
図6Bを参照しながら説明する。
【0036】
このダイナミックダンパ100は、
図6A及び
図6Bに示すように、防振対象部材102に取り付けられるハウジング104と、ハウジング104に取り付けられる上述した磁気粘弾性エラストマ10と、ハウジング104に対して磁気粘弾性エラストマ10を介して配置される質量部材106と、を備える。
【0037】
また、ダイナミックダンパ100は、制御回路108からの電力供給によって磁気粘弾性エラストマ10に磁場を印加する2つのコイル110(第1コイル110A及び第2コイル110B)を有する。第1コイル110A及び第2コイル110Bは、磁気粘弾性エラストマ10に隣接し、質量部材106の周方向外側で離間して巻線されるようにハウジング104に配置されている。第1コイル110A及び第2コイル110Bは、電力が供給された際に、質量部材106が防振対象部材102からの入力によって振動する方向(上下方向)と交わる方向に磁場Boを形成する。
【0038】
具体的には、ハウジング104は、防振対象部材102の上面に設置される基台112と、基台112上に設置され、例えば上面が閉塞された筒状体114とを有する。
【0039】
筒状体114の収容空間に、少なくとも質量部材106、磁気粘弾性エラストマ10、第1コイル110A及び第2コイル110Bが収容されている。
【0040】
すなわち、ハウジング104の内壁に、中央に貫通孔15(
図1参照)が形成された磁気粘弾性エラストマ10が取り付けられ、さらに、貫通孔15に質量部材106が固定されて、質量部材106が磁気粘弾性エラストマ10によって懸架されている。これにより、質量部材106は、上下方向に揺動可能となっており、この実施の形態では、上下方向が動作方向(制振方向)となっている。
【0041】
また、ハウジング104の内壁のうち、磁気粘弾性エラストマ10と筒状体114の上部との間であって、且つ、磁気粘弾性エラストマ10と隣接する位置に第1コイル110Aが設置され、磁気粘弾性エラストマ10と基台112との間であって、且つ、磁気粘弾性エラストマ10と隣接する位置に第2コイル110Bが設置されている。第1コイル110Aと第2コイル110Bは例えば直列に接続され、第1コイル110Aの巻線方向と第2コイル110Bの巻線方向は互いに逆になっている。この場合、第1コイル110A及び第2コイル110Bの各巻線は、質量部材106の周方向に沿って巻回される。
【0042】
そして、第1コイル110A及び第2コイル110Bに例えば正方向の駆動電流を流したとき、
図6Bに示すように、第1コイル110Aの周りでは、磁気粘弾性エラストマ10の内周部分から外周部分に向かう磁力線116が形成され、第2コイル110Bの周りでも、磁気粘弾性エラストマ10の内周部分から外周部分に向かう磁力線116が形成される。すなわち、磁気粘弾性エラストマ10の内周部分から外周部分に向かう磁場Boが形成されることになる。この磁場Boの方向は、質量部材106や防振対象部材102の振動方向(上下方向)と交わる方向である。この場合、磁気粘弾性エラストマ10において、第1コイル110Aによる磁力線116と第2コイル110Bによる磁力線116とが加わって、多くの磁力線116が磁気粘弾性エラストマ10を通過することになるため、磁気粘弾性エラストマ10に印加される磁場Boの強さが大きくなる。また、磁場Boの強さは、第1コイル110A及び第2コイル110Bに流れる駆動電流に応じて変化し、駆動電流が大きくなるほど発生する磁場Boの強さは大きくなる。
【0043】
第1コイル110A及び第2コイル110Bに負方向の駆動電流を流したときは、上述とは反対に、磁気粘弾性エラストマ10の外周部分から内周部分に向かう磁場が形成される。この磁場の方向も、質量部材106や防振対象部材102の振動方向(上下方向)と交わる方向である。
【0044】
第1コイル110A及び第2コイル110Bに通電することによって、磁気粘弾性エラストマ10に磁場Boが印加されると、磁場Boの強さに応じて磁性粒子14は分極し、磁気的結合を形成する。磁性粒子14は、例えば連鎖的に結合して網目構造を形成する等によって、磁気粘弾性エラストマ10の弾性率が弾性材料12(基質エラストマ)自体の弾性率(剛性)よりも増大する。磁気粘弾性エラストマ10に印加される磁場Boが強いほど、磁性粒子14間の磁気的結合が増大し、磁気粘弾性エラストマ10の弾性率が増大する。従って、第1コイル110A及び第2コイル110Bに供給される駆動電流が大きいほど、磁気粘弾性エラストマ10の弾性率は増大し、磁気粘弾性エラストマ10は荷重に対して変形しにくくなる。上述の例では、第1コイル110Aと第2コイル110Bの巻線方向を互いに逆方向とし、互いに同方向に電流を流すようにしたが、その他、第1コイル110Aと第2コイル110Bとをそれぞれ独立として、巻線方向を互いに同方向とし、互いに逆方向に電流を流すようにしても、上述と同様の磁場Boを形成することができる。
【0045】
このダイナミックダンパ100は、構造上、防振対象部材102の振動周波数に対して逆位相で振動し、可動マスの慣性力を利用することで、防振対象部材102の振動を低減する。特に、上述したように、磁場Boの形成によって、磁気粘弾性エラストマ10の弾性率が変化することから、防振対象部材102の振動周波数が変化しても、ダイナミックダンパ100の共振周波数を振動周波数に合わせることが可能となる。
【0046】
このように、本実施の形態に係る製造方法にて製造された磁気粘弾性エラストマ10を適用したダイナミックダンパ100においては、質量部材106が振動した際に、質量部材106と第1コイル110A及び第2コイル110Bとが干渉しないように配置することができる。第1コイル110A及び第2コイル110Bをハウジング104の内壁に配置しているので、電気配線の取り回しが容易となる。通常、電気配線は防振対象部材102(フレーム等)を介して配線される。仮に第1コイル110A及び第2コイル110Bが質量部材106に実装された場合、質量部材106は防振対象部材102の振動と逆位相で振動することから、電気配線が断線するおそれがある。そのため、断線しないような電気配線の取り回しが必要となり、配線作業に時間がかかるという問題が生じる。しかし、このダイナミックダンパ100では、防振対象部材102に固定されたハウジング104に第1コイル110A及び第2コイル110Bを実装しているため、質量部材106の逆位相の振動によって断線するということがなくなり、電気配線の取り回しが容易となり、配線作業の時間も短縮することができる。
【0047】
また、第1コイル110A及び第2コイル110Bの各巻線を、質量部材106の周方向(外周方向)に沿って巻回し、第1コイル110A及び第2コイル110Bを、それぞれ磁気粘弾性エラストマ10に隣接配置することができるため、磁場Boを磁気粘弾性エラストマ10に対し、質量部材106の揺動方向(上下方向)と交わる方向に印加することができる。そのため、質量部材106の揺動方向に対しての弾性率を高めることができ、防振対象部材102の振動を低減することができる。
【0048】
ハウジング104側で第1コイル110A及び第2コイル110Bを質量部材106と干渉しないように配置した場合であっても、第1コイル110A及び第2コイル110Bによる磁場Boを、磁気粘弾性エラストマ10に対して質量部材106の揺動方向と交わる方向に印加することができる。そのため、磁気粘弾性エラストマ10による剛性変化を大きく設定することができる。
【0049】
上述の例では、円環状を有し、磁性粒子14が径方向で放射状に配向した磁気粘弾性エラストマ10を製造する場合に適用した実施の形態を示したが、その他、
図7A及び
図7Bに示すように、一定の厚みtを有する直方体状であって、磁性粒子14が一方向で平行に配向した磁気粘弾性エラストマ10を製造する場合にも適用することができる。
【0050】
すなわち、
図8A及び
図8Bに示すように、型20は、例えば直方体状を有し、第1型20aと第2型20bとで形成されるキャビティ22に混合物18を注入することによって、混合物18が直方体状に形成されるように設けられている。第1励磁コイル28A及び第2励磁コイル28Bとして、それぞれトラック形状の励磁コイルを使用する。そして、この場合も、型20内の混合物18に磁場Biを印加する際に、第1励磁コイル28Aと第2励磁コイル28Bの磁場が同一方向で重なる位置に、型20を配置する。例えば第1励磁コイル28Aと第2励磁コイル28Bとの間、特に、直線状に延びる部分36の間に、型20を配置する。
図8Aの例では、2つの型20(二点鎖線で示す)をそれぞれ直線状に延びる部分36の間に配置した例を示す。
【0051】
そして、第1励磁コイル28A及び第2励磁コイル28Bの巻線方向が互いに反対であれば、第1励磁コイル28A及び第2励磁コイル28Bに例えば正方向の電流を流す。第1励磁コイル28A及び第2励磁コイル28Bの巻線方向が互いに同じであれば、第1励磁コイル28Aに正方向に電流を流し、第2励磁コイル28Bに負方向に電流を流す。これにより、
図8Bに示すように、第1励磁コイル28Aの周りでは、混合物18の一方の側面部分から他方の側面部分に向かう磁力線34aが形成され、第2励磁コイル28Bの周りでも、混合物18の一方の側面部分から他方の側面部分に向かう磁力線34bが形成される。
【0052】
この場合でも、混合物18に印加される磁場Biの強さが大きくなるため、混合物18内の磁性粒子14が磁場Biの方向に配向し易くなり、キャビティ22内の混合物18は、
図7Aに示すように、直方体状の弾性材料12の内部に、磁性粒子14が一方向に直線状に配向されてなる複数の磁性粒子列16が平行に配列された状態となる。従って、この混合物18を固化することで、直方体状に形成され、磁性粒子14が一方向で平行に配向した磁気粘弾性エラストマ10を得ることができる。
【0053】
上述した例では、固化した1つの混合物18にて磁気粘弾性エラストマ10を製造した例を示したが、
図9A及び
図9Bに示すように、単位厚みta(<一定の厚みt)を有する薄い混合物18aを複数作製し、複数の薄い混合物18aを、磁性粒子14の配向方向xと直交する方向yに積層して1つの磁気粘弾性エラストマ10を製造してもよい。この場合も、磁場印加手段24は、厚みの薄い混合物18aに対して磁場を印加すればよいため、一定の厚みtを有する混合物18に印加する磁場よりも弱い磁場にて磁性粒子14を配向させることができる。その結果、省電力で磁気粘弾性エラストマ10を製造することが可能となる。
【0054】
[実施の形態のまとめ]
以上説明したように、上述した実施の形態に係る磁気粘弾性エラストマの製造方法は、弾性材料12の内部に磁性粒子14を内包し、印加する磁場の大きさにより、弾性率を可変とする磁気粘弾性エラストマ10の製造方法であって、磁性粒子14及び弾性材料12の混合物18を非磁性材料からなる型20に注入する工程と、型20に磁場Biを印加する磁場印加手段24により、型20内の混合物18に磁場Biを印加する工程と、型20内の混合物18を固化する工程と、を有し、磁場印加手段24は、互いに反対方向の磁場Biを印加するように2つ設けられ、型20内の混合物18に磁場Biを印加する際に、2つの磁場印加手段24A及び24Bの磁場Biが同一方向で重なる位置に、型20を配置する。
【0055】
型20内の混合物18に磁場Biを印加する際に、2つの磁場印加手段24A及び24Bの磁場が同一方向で重なる位置に、型20を配置する。
【0056】
本実施の形態において、型20は混合物18が環状に形成されるように設けられ、2つの磁場印加手段24A及び24Bは、互いに反対方向に巻線されて、同方向に電力が供給される励磁コイル28A及び28B、もしくは互いに同方向に巻線されて、反対方向に電力が供給される励磁コイル28A及び28Bにより構成され、型20内の混合物18は、励磁コイル28A及び28Bの軸線方向で、励磁コイル28A及び28Bに挟まれた位置であって、且つ、磁場Biを環状の径方向で放射状に受ける位置に配置されてもよい。
【0057】
本実施の形態において、型20は混合物18が直方体状に形成されるように設けられ、2つの磁場印加手段24A及び24Bは、互いに反対方向に巻線されて、同方向に電力が供給される励磁コイル28A及び28B、もしくは互いに同方向に巻線されて、反対方向に電力が供給される励磁コイル28A及び28Bにより構成され、型20内の混合物18は、励磁コイル28A及び28Bの軸線方向で、励磁コイル28A及び28Bに挟まれた位置であって、且つ、磁場Biを一方向で平行に受ける位置に配置されてもよい。
【0058】
本実施の形態において、型20内で固化された混合物18aを、磁性粒子14の配向と直交する方向に積層する工程を有してもよい。
【0059】
なお、この発明は、上述の実施の形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。