【文献】
J. Biol. Stand.,1980年,Vol.8, No.3,pp.233-242
【文献】
J. Chromatogr.,1983年,Vol.266,pp.55-66
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
抗原または抗原サブタイプの酸性化により還元をさらに行うことにより分離した抗原サブタイプ間でジスルフィド結合が形成されるのを防ぐ、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
抗原を含むワクチン組成物中の抗原または抗原サブタイプの含有量を定量する方法であって、抗原または抗原サブタイプを定量する工程をさらに含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法を含む、前記方法。
前記クロマトグラフィーが、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、逆相HPLC(RP−HPLC)、イオン交換−HPLC(IEX−HPLC)、アフィニティークロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、またはサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)である、請求項16記載の方法。
前記HAが、インフルエンザウイルスワクチン組成物、麻疹ウイルスワクチン組成物、パラインフルエンザウイルスワクチン組成物、またはムンプスウイルスワクチン組成物由来である、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法。
インフルエンザワクチン組成物が、インフルエンザA H1N1、H1N2、H2N2、H3N2、H5N1、H7N1、H7N2、H7N3、H7N7、H9N2、H10N7、およびインフルエンザBからなる群から選択されるインフルエンザ型からの保護を提供する、請求項22または23に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示は、定義づけられた生化学的活性を有する生化学的対照試料である国際標準、例えば、世界保健機関(WHO)国際標準がない状態でのワクチンの開発および製造において、抗原を単離・調製し、抗原濃度を測定する新規の方法を提供する。本方法には、界面活性剤およびアルキル化を使用せずに、ワクチン組成物中のウイルス由来の抗原を可溶化することによる従来技術の改良も含まれる。次いで、可溶化した抗原を分画により分離し、定量アミノ酸分析により定量する。
【0018】
時宜を得て利用可能なWHO国際標準は、世界中でワクチン製造において、生化学的測定の比較基準として役に立っている。しかし、新しいウイルスが大流行して、標準を調製する必要がある時には、これらのWHO国際標準をすぐに利用できない。これまでの問題は、新しいウイルスの大流行に応じ、ワクチン製造業者は新しいワクチンの迅速な開発および製造を強いられる一方、新しいワクチン中の抗原を定量するためのWHO国際標準の供給を待っていることである。本開示の方法は、WHO国際標準を必要とせずに抗原を定量する新規の方法を提供することにより、この問題の解決方法を提供する。
【0019】
病原菌由来の抗原の分離および回収方法に関する、これまでのもう一つの問題は、他のタンパク質からの抗原の分離が最適でないことである。当該分野で、対象の抗原タンパク質のピークの解像度は低く、回収率は低くて定量的でなく、試料の調製には非常に長い時間がかかった。本開示は、界面活性剤を使用せずに、例示的な態様では、抗原上のスルフヒドリル基を保護するためのアルキル化を行わずに、変性・還元させた試料中の抗原を、クロマトグラフィーを使用して単離することにより、これらの問題の多くを解決する。このように、副反応が少なく、試料の調製時間は大幅に減少する。クロマトグラフィーを用いた抗原の単離後、国際標準を使用せずに抗原濃度を定量する。より詳細な態様では、定量アミノ酸分析を抗原定量の代替方法として行う。
【0020】
従来技術で解決すべき課題は、ハイスループットな分離、精製、抗原の定量に適用できるであろう、正確で迅速で堅実な方法を提供することだった。より詳細な態様では、解決すべき課題は、界面活性剤を使用せず、アルキル化を必要とせず、抗原標準を必要とせずに、そのような方法を提供することだった。本明細書に記載する方法は、赤血球凝集素(HA)抗原、特に主要な決定因子であるHA1が著しく良好に、調製物中に存在する他のタンパク質から高い純度で分離され、それを他の(既知の)値、国際標準と比較、または定量アミノ酸分析のいずれかにより、当業者は調製物中に存在する抗原の量を測定することができることを示す。
【0021】
より詳細には、本開示はHA抗原を分離する新規の方法に関し、その方法は、可溶化した抗原調製物を界面活性剤を使用せずに利用し、抗原を、一つの態様では、クロマトグラフィーカラムで、分画する工程を含む。本開示は、ある態様では、カラムからのHA抗原の溶出をさらに含み、またさらなる態様では、AAAによる抗原の定量を含む。
【0022】
しかし、本開示の任意の実施形態が詳細に説明される前に、本開示はその応用において、以下に記載された、または図および実施例に示された説明の詳細および構成要素の組み合わせに限定されないことが理解されるべきである。本明細書で用いられるセクションの見出しは、構成上の目的のためだけのものであり、記載されている主題を限定するものと解釈されるべきではない。本出願で引用される参照文献は全て、本明細書に参照として明示的に組み込まれる。
【0023】
本開示は、他の実施形態を包含し、様々な方法で実行または実施される。また、本明細書で用いられる用語および専門用語は説明目的のためのものであり、限定するものとみなされるべきではないことが理解されるべきである。「を含む(including)」、「を含む(comprising)」または「を持つ(having)」という用語およびその変形は、その後に挙げる項目およびそれと同等なもの並びに付加的な項目を包含するという意味である。
【0024】
定義
他に断りがない限り、本明細書で用いられる技術・科学用語は全て、本開示が属する分野の当業者により一般的に理解されるのと同様の意味を持つ。
【0025】
以下の略語を全体に渡って使用する。
AA アミノ酸
AAA アミノ酸分析
DNA デオキシリボ核酸
EDTA エチレンジアミン四酢酸
HA 赤血球凝集素
HA1〜16 赤血球凝集素サブタイプ1〜16
HPLC 高速液体クロマトグラフィー
HIC 疎水性相互作用クロマトグラフィー
IEX−HPLC イオン交換−HPLC
kDa キロダルトン
LC−MS/MS 液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法
MALDI/TOF マトリックス支援レーザー脱離イオン化/飛行時間型質量分析法
MVB 単価バルク
RSD 相対標準偏差
RP−HPLC 逆相HPLC
SDS ドデシル硫酸ナトリウム
SDS−PAGE ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動
SEC サイズ排除クロマトグラフィー
SRD 一元放射免疫拡散法
UV 紫外線
【0026】
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いる場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈から明らかに別の意味を示さない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。
【0027】
本明細書で用いられる場合、他に断りがない限り、以下の用語はそれらに与えられた意味を持つ。
【0028】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、「タンパク質」という用語は、本明細書で互換的に用いられ、ペプチド結合を介して結合したアミノ酸残基のポリマーを指す。「タンパク質」は、典型的には大きなポリペプチドを指す。「ペプチド」は典型的には短いポリペプチドを指す。
【0029】
本明細書で挙げる任意の数値は、低い値から高い値までの全ての値を含む、すなわち、列挙される最低値と最高値の間の数値の可能な組み合わせは全て、本出願において明示的に記述されたものとみなされるべきであることも、特に理解される。例えば、濃度の範囲が約1%〜50%と記述されていたら、2%〜40%、10%〜30%、または1%〜3%等の値が本明細書で明示的に列挙されたこととなる。上に挙げた値は、具体的に意図することの単なる例である。
【0030】
範囲は、様々な態様で、「約(about)」または「約(approximately)」ある特定の値から、および/または「約(about)」または「約(approximately)」別の特定の値までとして、本明細書で表される。「ほぼ(almost)」という用語もまた、「約(approximately)」という用語と互換的に用いられる。値が、前に「約(about)」をつけて近似値として表される時には、範囲内にいくらかの変動量が含まれており、それには開示または記載された値の+/−10%、+/−5%、+/−1.0%の値が含まれると理解される。
【0031】
「インフルエンザ」は、オルトミクソウイルス科(Orthmyxoviridae)のインフルエンザウイルス、A、B、Cの3型のいずれかを指す。インフルエンザAおよびBのみが季節的大流行をもたらす。インフルエンザウイルスは、典型的には、哺乳動物の鼻、喉および肺内の、および鳥類の腸管内の上皮細胞表面のシアル酸糖上の赤血球凝集素(HA)を介して結合することにより宿主に感染する。
【0032】
インフルエンザA属には一つの種、インフルエンザAウイルスがある。インフルエンザAは、HAタンパク質(H1〜16)およびノイラミニダーゼタンパク質(N1〜9)の血清学的特性に基づき、サブタイプまたは血清型に分類される。インフルエンザサブタイプは、赤血球凝集素およびノイラミニダーゼの組み合わせにより、例えば、HxNyのように命名される。ヒトで確認され、公知の世界的流行におけるヒトの死亡数の順で並べたサブタイプとしては、それらに限定されるものではないが、H1N1、H2N2、H3N2、H5N1、H7N7、H1N2、H9N2、H7N2、H7N3、H10N7が挙げられる。インフルエンザB属には一つの種、インフルエンザBウイルスがある。インフルエンザBはA型と比べ2〜3倍の遅さで突然変異するため、遺伝学的に多様性に乏しく、インフルエンザB血清型は一つしかない。インフルエンザC属には一つの種、インフルエンザCウイルスがあり、それはヒト、イヌ、ブタに感染し、重篤な疾病と局所的な流行の双方を引き起こすことがある。しかし、インフルエンザCは他の型より稀である。
【0033】
「抗原」または「抗原サブタイプ」という用語は、抗体等の選択的結合剤により結合され得、さらには、各抗原のエピトープに結合しうる抗体を生成するために対象に使用されうる、分子または分子の一部を指す。抗原は、様々な態様では、一つ以上のエピトープを有する。例示的な態様では、HAが抗原である。HAは抗原性糖タンパク質であり、感染される細胞にウイルスを結合させる役割を果たしている。少なくとも17個の異なるHA抗原がこれまでに同定されており、HA1〜HA16、あるいはインフルエンザAのH1〜H16およびインフルエンザBの少なくとも一つの公知のHA抗原に分類されている。H1、H2、H3はヒトインフルエンザAに一般的にみられ、インフルエンザB HA抗原はヒトインフルエンザBに一般的にみられる。本開示は、これらに限定するものではないが、HA1、HA2、HA3、HA4、HA5、HA6、HA7、HA8、HA9、HA10、HA11、HA12、HA13、HA14、HA15、HA16およびインフルエンザB HAのいずれかを含む、公知の、および未知のHAウイルスタンパク質の全てを単離・定量する方法を含む。
【0034】
「抗原含有量」または「抗原濃度」という用語は、ワクチン試料中の抗原の量、すなわち抗原の濃度を指す。
【0035】
「ワクチン」または「ワクチン組成物」という用語は、特定の疾病(例えば、インフルエンザ)に対する免疫を向上させる生化学的調製物を指す。「ワクチン」または「ワクチン組成物」という用語は、本明細書で互換的に用いられ、ワクチン開発および製造に関わる中流−、上流−、下流−工程調製物を含む、全てのワクチン製剤のことをいう。
【0036】
「標準」または「国際標準」または「国際対照標準」または「抗原標準」という用語は、管理当局により、例えば、世界保健機関(WHO)またはWHO協働センターが提供する、定義づけられた生化学的活性を有する生化学的対照試料を指す。
【0037】
「相対標準偏差」、「RSD」または「%RSD」は、変動係数の絶対値であり、パーセンテージで表されることが多い。しばしば用いられる類似の用語は、相対分散であり、これは変動係数の平方である。また、標準誤差率は、標準誤差を推定値で割ってから100をかけ、パーセンテージで表すことで得られる、統計的推定の信頼性の基準である。RSDは分析化学で広く用いられ、分析の精度および繰返し性を表す。RSD=(アレイXの標準誤差)×100/(アレイXの平均)
【0038】
セクションの見出しは、構成上の目的のためだけに本明細書で用いられ、記載されている主題を多少なりとも限定するものと解釈されるべきではない。
【0039】
ワクチンからの抗原の分離
本開示は、それに限定するものではないが、HA抗原を含む抗原をワクチン組成物から単離する方法を含む。例示的な実施形態では、インフルエンザウイルスワクチンは、卵由来原料または細胞培養物由来のウイルス性原料のいずれかの上流、中流、または下流工程から得られる。次いで、抗原は界面活性剤を使用せずにワクチン組成物から可溶化させる。
【0040】
ウイルス破壊としても知られる抗原の可溶化は、化学的または物理的方法を用いたウイルスの破壊を伴い、さらに単離および定量するために一つまたは複数の抗原を単離する。例示的な態様では、可溶化工程を、界面活性剤を使用せずに還元により行う。界面活性剤は本明細書に記載する方法では使用しない。何故なら、それらはタンパク質に結合し、その性質を変えてしまう。すなわち、界面活性剤は単離した抗原を汚染し、抗原濃度の正確な測定に必要なクロマトグラフ分離を阻害するからである。
【0041】
このように抗原可溶化を、タンパク質のジスルフィド結合を還元する界面活性剤ではない、任意の還元剤により行う。好適な還元剤としては、それらに限定されるものではないが、ジチオスレイトール(DTT)、トリス[2−カルボキシエチル]ホスフィン塩酸塩(TCEP)、タンパク質−S−S−還元体(商標)(G Biosciences(登録商標)、Maryland Heights、MO)、β−メルカプトエタノール、β−メルカプトエチルアミン、チオプロピル−アガロース、水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、ホスホロチオ酸ナトリウム、亜硫酸塩および亜硫酸塩生成剤、ジチオエリトリトール、トリブチルホスフィン、グルタチオン、チオグリコレート、2,3−ジメルカプトプロパノール、または過ギ酸が挙げられる。様々な態様では、塩酸グアニジンまたは、それらに限定するものではないが、尿素、チオ尿素、リチウム、過塩素酸塩、チオシアネート等の別のカオトロピック試薬もまた、可溶化反応緩衝液で用いられる。カオトロピック試薬はタンパク質を変性させるが、タンパク質を沈殿はさせない。タンパク質の還元を行うための化合物および方法は当業者に周知である。具体的な還元溶液および条件については、実施例において本明細書でより詳細に記載する。
【0042】
例示的な態様では、還元緩衝液または還元剤はHA分子間のジスルフィド結合を還元して、各サブユニット、例えば、HA1およびHA2にし、例えば、ウイルスからHA1を放出する。ある態様では、DTTを約1mM、2mM、3mM、4mM、5mM、6mM、7mM、8mM、9mM、10mM、11mM、12mM、13mM、14mM、15mM、16mM、17mM、18mM、19mM、20mM、21mM、22mM、23mM、24mM、25mM、26mM、27mM、28mM、29mM、30mM、35mM、40mM、45mM、50mM、55mM、60mM、65mM、70mM、80mM、85mM、90mM、95mM、100mM、150mM、200mM、250mM、300mM、350mM、400mM、450mM、または500mMの濃度で使用する。より詳細な態様では、DTTを、例えば、約20mMから約100mMまでに渡る濃度で使用する。
【0043】
例示的な態様では、還元は約5分から約20時間、約10分から約10時間、または約30分から約2時間のインキュベーション時間で行う。いくつかの態様では、インキュベーション時間は約1時間である。従って、インキュベーション時間は、約5分、約10分、約20分、約30分、約40分、約50分、約1時間、約1.5時間、約2時間、約2.5時間、約3時間、約3.5時間、約4時間、約4.5時間、約5時間、約5.5時間、約6時間、約6.5時間、約7時間、約7.5時間、約8時間、約8.5時間、約9時間、約9.5時間、約10時間、約11時間、約12時間、約13時間、約14時間、約15時間、約16時間、約17時間、約18時間、約19時間、または約20時間である。具体的な還元時間については、実施例において本明細書でより詳細に記載する。
【0044】
他の態様では、還元は約20℃から約100℃までのインキュベーション温度で行う。特定の態様では、還元は約50℃から約90℃までのインキュベーション温度で行う。より詳細な態様では、還元は約85℃のインキュベーション温度で行う。従って、インキュベーション温度は、約20℃、約25℃、約30℃、約35℃、約40℃、 約45℃、約50℃、約55℃、約60℃、約65℃、約70℃、約75℃、約80℃、約85℃、約90℃、約95℃、または約100℃である。具体的な還元温度は、実施例において本明細書でより詳細に記載する。
【0045】
さらなる態様では、抗原の還元ではpHを調整している。様々な態様では、還元反応をpH約6からpH約11までのpHで行う。特定の態様では、pHは約pH7から約pH10までである。より詳細な態様では、pHは約7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8.0、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9、9.0、9.1、9.2、9.3、9.4、9.5、9.6、9.7、9.8、9.9、10.0である。
【0046】
例示的な態様では、還元をアルキル化しないで行う。アルキル化は還元後のタンパク質のスルフヒドリル基を保護し、遊離のシステインの逆反応を防ぐ。従ってアルキル化が典型的には使用され、分離したHA抗原、例えば、HA1およびHA2、および他のタンパク質の再結合および/または複合体形成を防ぐ。しかし、4−ビニルピリジンのようなアルキル化剤の使用は、本明細書の実施例でより詳細に記載するように、タンパク質の純度を低下させてしまう。従って、分離した抗原、例えば、HA1がHA2、および他のタンパク質と再結合および/または複合体を形成するのを防ぐために、全てのタンパク質のスルフヒドリル基を、アルキル化剤を使用せずに保護する。
【0047】
例示的な態様では、アルキル化剤をさらに使用することなしに、分離した抗原および他のタンパク質の再結合および/または複合体形成を防ぐために、還元されたタンパク質のスルフヒドリル基を酸性化によるプロトン化により保護する。酸性化によりジスルフィド結合の形成は妨げられる。何故なら、ジスルフィド結合が形成されるためには、スルフヒドリル基は少なくとも部分的にはイオン型である必要があるからである。酸性化は簡潔で効果的な処理であり、その際にはpHをモニタリングして調整し、抗原が沈殿するのを防ぐ。様々な態様では、酸性化を、リン酸、塩酸、硫酸、トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロプロピオン酸、ヘプタフルオロ酪酸、またはギ酸を用いて行う。例示的な態様では、酸性化はリン酸で行う。しかし、酸性化のあらゆる他の方法が当該分野で使用されているように、リン酸に限定されるものではない。酸性化の方法は当該分野で周知であり、本明細書でさらに詳しく述べることはしない。具体的な酸性化の溶液および条件は、実施例において本明細書でより詳細に記載する。
【0048】
抗原の分画
還元および酸性化の後、抗原を分画により単離する。例示的な態様では、分画をクロマトグラフィーで行う。当該分野で公知のクロマトグラフィーの、任意の好適なタイプを使用する。例えば、クロマトグラフィーのそのような好適なタイプとしては、それらに限定されるものではないが、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、逆相HPLC(RP−HPLC)、イオン交換−HPLC(IEX−HPLC)、アフィニティークロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、またはサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)が挙げられる。
【0049】
いくつかの態様では、抗原の分画をRP−HPLCで行う。従って、逆相カラムの好適なタイプとしては、それらに限定されるものではないが、C2からC18までに渡る様々な改変のある、多孔性、非多孔性またはモノリシック(monolithic)のシリカカラムまたはポリマー系カラムである。分析目的に好適なカラムの直径は、それに限定するものではないが、典型的には、流量により約75μmから約5mmまでの範囲であり、流量は約0.1μL/分から約5mL/分まで様々な範囲に及びうる。充分な量の抗原を単離するためには、約1mmから約10mmまでの直径のカラムが典型的に用いられる。タンパク質は、逆相カラムから、それらに限定するものではないが、アセトニトリル、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン等の水性および有機溶媒の混合物とともに分離・溶出され、それらに限定するものではないが、塩酸、硫酸、トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロプロピオン酸、ヘプタフルオロ酪酸、ギ酸、リン酸、リン酸塩緩衝液等の調整剤を含むことが多い。タンパク質の逆相HPLCの方法は当該分野で周知であり、当業者により実施されうるので、本明細書においてはさらに詳しくは述べない。具体的な逆相HPLCの方法および条件については、実施例において本明細書でより詳細に記載する。
【0050】
実施例において本明細書に記載する、クロマトグラフィーによる抗原の分画により、低い相対標準偏差(RSD)で優れた直線性および精度が得られた。直線性、すなわち(ある範囲内で)試料中の分析物の濃度(量)に正比例する試験結果を得る能力は、いかなる分析方法においても重要である。分析方法の精度は、所定の条件下で、同種の試料から複数のサンプリングをして得られた一連の測定間の一致の程度(分散度)を表す。精度は、様々な態様で、繰返し性、中間精度、再現性の3つのレベルで考慮される。
【0051】
抗原の定量
国際標準を使用せずに分画により単離した後、抗原または抗原サブタイプを定量する方法が本開示に含まれる。分画した抗原を定量する好適な方法としては、それらに限定されるものではないが、アミノ酸分析(AAA)、窒素定量法(Kjeldahl)、質量分析法、同位体希釈質量分析法が挙げられる。
【0052】
例示的な態様では、抗原濃度はAAAを用いて測定する。AAAとは、抗原およびアミノ酸の分子量に基づき、アミノ酸組成を調べるために、および/または組成物中の抗原濃度を定量するために用いられる技法を指す。AAAは、当業者に公知の従来の技術を用いて行う。AAAはタンパク質量の正確な測定に好適な手段であるが、相対アミノ酸組成および遊離アミノ酸に関する詳細な情報をも提供する。
Amino Acid Analysis Protocols: Methods in Molecular Biology, Volume 159 (Cooperら編、2001 Humana Press Inc.,Totawa,NJ)を参照のこと。相対アミノ酸組成からタンパク質の特徴的な組成が分かり、それでタンパク質の同定には十分であることも多い。これはタンパク質の断片化に用いるプロテアーゼを選択するための決定支援としてしばしば用いられる。
【0053】
典型的には、AAAには、加水分解、続いて分離、検出、定量が含まれる。加水分解または「酸加水分解」は、典型的には酸性条件で行われる。例えば、標準的な手順は、6M塩酸での加水分解(24時間、110℃)である。この標準的な手順は、時間的な制約と温度との折り合いをつけたものであり、当業者が変更することができる。例示的な態様では、加水分解時間試験を行ってHAに最適な加水分解時間を決める。しかし、本開示の方法に従って定量するそれぞれ一つ一つの抗原のために、加水分解時間を最適化することができる。AAAの手順は当該分野で周知であり、AAAのための製品が市販されている(AccQ Tag kit (Waters, No WAT052880)およびSigma-Aldrich)。いくつかの実施形態では、Zorbax Eclipse AAA HPLCカラムを用いる。当業者はAAAを行う様々な方法を知っている。具体的なAAAの手順については、実施例において本明細書でより詳細に記載する。
【0054】
特定の抗原の公知の配列に基づき、抗原分子当たりのアミノ酸の理論数を、続いて、注入当たりの抗原のモル量を計算する。計算した、または測定した抗原の分子量および試料調製の際に適用した希釈係数から試料中の抗原濃度が計算でき、試料1mL当たりのμg抗原として表される。
【0055】
例示的な態様では、HA濃度を計算する式が本明細書で以下に提供される。
n
HA1=n
AA/x
AA
n
HA1…赤血球凝集素HA1のモル量[μmol]
n
AA…各アミノ酸のモル量(アミノ酸分析の結果)[μmol]
x
AA…赤血球凝集素HA1の分子当たりの各アミノ酸数
n
HA1=n
HA
n
HA…赤血球凝集素のモル量[μmol]
m
HA=n
HA*M
HA
n
HA…赤血球凝集素のモル量[μmol]
m
HA…HAの質量[μg]
M
HA…(計算または測定した)赤血球凝集素の分子量[μg*μmol
−1]
c
HA=m
HA*DF/V
i
c
HA…赤血球凝集素の濃度[μg/mL]
DF…希釈係数
V
i…注入量[mL]
【0056】
本開示の例示的な実施形態では、HAの定量はHA1のピーク面積に基づいて行われ、それは他のワクチン成分からよく分離している。本開示の適用性が、それらに限定するものではないが、H1N1、H3N2、H5N1、H9N2、およびインフルエンザBを含む、異なるインフルエンザAサブタイプに対して示され、本明細書で開示された方法が、異なるHA抗原に広く適用可能であることが強く示唆される。本開示では、インフルエンザ由来のHAについて詳細に記載したが、インフルエンザ由来のHAの使用のみに限定されるものではない。本開示は、他のウイルス由来のHA抗原にも、他の抗原または抗原サブタイプの分離および定量にも適用可能である。
【0057】
本明細書に記載するワクチン組成物中の抗原濃度を測定する方法は、約5%未満、約4%未満、約3%未満、約2.9%未満、約2.8%未満、約2.7%未満、約2.6%未満、約2.5%未満、約2.4%未満、約2.3%未満、約2.2%未満、約2.1%未満、約2.0%未満、約1.9%未満、約1.8%未満、約1.7%未満、約1.6%未満、約1.5%未満、約1.4%未満、約1.3%未満、約1.2%未満、約1.1%未満、約1.0%未満のRSDで抗原濃度を測定する。例示的な態様では、本明細書に記載する方法は、抗原濃度により、約2.2%および約1.3%のRSDで抗原濃度を測定する。
【0058】
本明細書で引用する各出版物、特許出願、特許、他の参照文献は、本開示と矛盾しない程度まで、その全体が参照により組み込まれる。
【0059】
本明細書に記載する実施例および実施形態は、説明の目的のためだけのものであり、その内容を踏まえた様々な改変または変形が当業者に示唆され、それらは本出願の趣旨および範囲、および添付の特許請求の範囲に含まれるべきであることは理解されよう。本明細書で引用する全ての出版物、特許、特許出願は、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0060】
本開示の付加的な態様および詳細は、以下の実施例から明らかとなり、それらは限定するものではなく説明のためのものである。
【0061】
実施例1:
ワクチン中のHAを単離・定量するための方法の開発および最適化
本明細書に記載する実験の目的は、WHOまたは他の機関からの標準試薬が利用できない場合に、HA(すなわちHA1)の測定に基づき、インフルエンザA/カリフォルニア/07/2009(H1N1)のワクチン調製物の総HA含有量を測定するための新規のHPLCの方法を開発することである。
【0062】
インフルエンザA/カリフォルニア/07/2009(H1N1)の新製品の以下のバッチを評価した。
【0063】
【表1】
【0064】
逆相HPLCによるHAの定量
試料調製条件を以下の通り最適化した。未希釈試料または脱イオン水で希釈した試料を、同量の還元緩衝液(6M塩酸グアニジン、266mMトリス/HCl、1mMEDTA、pH8.3、40mMジチオスレイトール)と混合した。試料を85℃で1時間インキュベートした後、10%(v/v)8.5%リン酸を添加して反応を止め、逆反応の遊離のシステインによるジスルフィド結合の形成を防いだ。試料を18,407gで10分間遠心分離し、粒子状物質を除去した。同一のHPLC条件を用いた。
【0065】
クォータナリーポンプを備えたAgilent HPLCシステムおよびダイオードアレイ検出器を用いた。Jupiter 5μ C4カラム(150×2mm)で、以下の勾配を用いて逆相−HPLCでタンパク質を分離した。
溶出液A:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液
溶出液B:0.085%トリフルオロ酢酸アセトニトリル溶液
溶出液C:メタノール
【0066】
試料および標準は、20%の溶出液Bでの定組成溶離で、流量0.4mL/分で10分間、別々の方法で注入した。この後、タンパク質の溶出方法を実施した。
【0067】
【表2】
【0068】
溶出したタンパク質を、214nmのUV吸収を用いて検出した。HA1を定量し、試料1mL当たりのμgHAとして表した。適切な標準がないため、最初は面積のみを記録した。この後、試料2のアミノ酸分析により、溶出したHA1の定量を行った。単価バルク(MVB)試料調整物(試料1)を、HPLC分析のさらなる検量のための対照試料として用いた。
【0069】
アミノ酸分析
タンパク質の酸加水分解を、ガラスアンプル内で行った。2nmolの2−L−アミノ酪酸を内部標準として各アンプルに添加し、HPLC画分をアンプル内に直接回収した。回収した画分を真空下で乾燥した(SpeedVac, Savant, SVC100H)。試料を300μLの6N塩酸/0.2%フェノールに溶解し、窒素で覆い、アンプルをヒートシールした。酸加水分解を115℃で18時間行った。アンプルを開け、500μLの脱イオン水を加えた。その溶液をろ過し(0.2μ)、エッペンドルフ(登録商標)バイアルに移し、真空下で乾燥した(SpeedVac, Savant, SVC100H)。AccQ Tagキット(Waters, No WAT052880)を用い、製造業者の指示に従ってアミノ酸分析を行った。簡潔に説明すると、試料を0.1N塩酸に溶解し、AccQ Fluor試薬を用いてアミノ酸を標識した。内部標識(α−アミノ酪酸)およびアミノ酸標準(Agilent, No.5061-3330)を同様に処理した。
【0070】
クォータナリーポンプを備えたWaters HPLCシステムおよび蛍光検出器(Spectra Systems FL 2000)を用いた。アミノ酸をSentry Guardカラム(20×3.9mm、Waters, No. WAT044380)およびプレカラム(150×2mm)を備えたAccQ Tag C18カラム(4μ、150×3.9mm、Waters, No. WAT052885)で逆相−HPLCにより分離し、37℃で操作した。5μLの試料を注入し、アミノ酸組成を以下の勾配を用いて分析した。
溶出液A:脱イオン水
溶出液B:アセトニトリル、グラディエントグレード品質
溶出液C:希釈したAccQ−Tag緩衝液濃縮物(Waters, No. WAT052890)
脱イオン水1:10希釈
【0071】
【表3】
【0072】
蛍光標識されたアミノ酸の溶出は、250nmでの励起および394nmでの発光により、蛍光検出を用いて検出した。外部標準(Agilent, No. 5061-3330)を用いて検量し、内部標準を用いて修正した。データをさらにロイシン、バリン、リジン、フェニルアラニンについて処理した。これらは酸加水分解条件下で最も安定なアミノ酸であるためである。
【0073】
インフルエンザA/カリフォルニア/07/2009 (H1N1)のHAの公知の配列(GenBank accession No. ACQ55359.1)に基づき、HA1分子当たりのアミノ酸の理論数、続いて、注入当たりのHAのモル量を計算した。HAの計算した、または測定した分子量、および試料調製の際に適用した希釈係数から試料中のHA濃度が計算でき、試料1mL当たりのμgHAとして表した。
【0074】
SDS−PAGE
試料をドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)にかけた後、クマシー・ブルー染色を行った。単価バルク試料を還元および非還元条件で分析し、HPLCにより単離した還元HA1と比較した。電気泳動の後、ゲルを既製のクマシー溶液(GelCode(登録商標)Blue Stain Reagent, Pierce, cat. # 24590)で2時間染色した。脱イオン水を2〜3回換えてゲルを脱染し、画像スキャンをする前に一晩脱イオン水中に保管した。SDSゲルを、濃度計イメージスキャナーIII(GE Healthcare)の製造業者が提供するゲルデータプログラムでスキャンした。Image Quant TL ソフトフェア(Amersham Bioscience)を使用してバンドを同定し、吸収の吸光度the optical density of the absorptionを得た。バンドの境界は手作業で決めた。
【0075】
MALDI/TOF
マトリックス支援レーザー脱離イオン化/飛行時間型質量分析法(MALD
I/TOF)分析のために、タンパク質を上述の方法によるHPLCを用いて精製した。凍結乾燥したHPLC画分を5μLの50%アセトニトリル、0.5%ギ酸の水溶液に溶解し、マトリックス溶液(10mg/mLシナピン酸の50%アセトニトリル溶液および0.5%ギ酸の水溶液)と混合した。1μLをMALDI/TOF標的上にのせ、室温で乾燥した。標準多チャンネルプレート検出器またはCovalX HM1高質量検出器のいずれかを用いて、Applied Biosystems 4800 MALDI TOF/TOFでスペクトルを得た。
【0076】
付属のソフトウェアパッケージ(Data Explorer 4.9、Applied Biosystems)を用いてスペクトルを分析した。分子量は、ウシ血清アルブミンを用いてなされた外部校正で得られた、少なくとも10個のスペクトルの平均として計算した。
【0077】
LC−MS/MSによるピークの同定
HPLCピークを手作業で回収し、SpeedVacで凍結乾燥した。凍結乾燥物を再構成緩衝液(8Mウレア、100mM重炭酸アンモニウム、pH8.4)に溶解し、100mM重炭酸アンモニウム、pH8.4を添加して、0.9Mウレアの最終濃度になるように希釈し、トリプシンを用いて消化した。
【0078】
ゲル内でのトリプシン消化のため、ゲルの切片をSDS−PAGEゲルから切り出し、アセトニトリルで洗浄後、100mM重炭酸アンモニウム、pH8.4で、そして再びアセトニトリルで繰り返し洗浄した。最終工程として、ゲル切片をアセトニトリルで処理し、SpeedVacで1時間凍結乾燥した。トリプシン溶液(12.5ng/μL)を用いてゲル切片を再水和させ、一晩消化した。次いで、ペプチドを上清から回収した。
【0079】
生成したペプチドを、Zorbax SB300 C18 5μ 150×0.5mmカラムを用いて、Agilent 1100キャピラリーHPLCで分離し、ペプチドマスフィンガープリンティング(LC−MS/MSまたはタンデムMS)を用いた液体クロマトグラフィー−質量分析法を用いて、エレクトロスプレー源を備えたリニアトラップ四重極型(LTQまたはリニアイオントラップ)Orbitrap 質量分析計でオンラインで分析した。ペプチドは正確な質量および60,000の解像度で、LTQ Orbitrapで前駆体スキャンで測定した。続いて、4つの最も強度の高いイオンを選択し、LTQでタンデム質量分析(MS/MS)モードを用いて分析した。同定のため、MS/MSスペクトルをBioworks 3.3ソフトウェアを用いて処理し、H1N1由来のウイルス性タンパク質のみを含む手作業で作成されたデータベース(インフルエンザウイルスリソース、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genomes/FLU/Database/request.cgi,2009年06月15日から取得した配列)またはUniprotデータベース(リリース14.8、2009年02月10日)を検索した。
【0080】
HPLCの方法の最適化
他のインフルエンザワクチン中のHAを定量するための既定のHPLCの方法を用いて、H1N1に関する最初の実験を行った。簡潔に説明すると、試料の調製は、37℃で1時間のウイルス破壊工程と、それに続く4−ビニルピリジンによるアルキル化を含んだ。この試料調製方法を用いて、試料2のHPLCピークの分画によりHA1を単離し、アミノ酸分析を用いて定量した。6回のアミノ酸分析の平均として、試料1では62.2μg/mLHAという値が得られた。SDS−PAGEを用いて試料からのHA1の回収率を予測した。ゲルをクマシー染色し、比重走査により評価した。結果から、53kDaの位置に移動する単離されたHA1は、試料1の対応するバンドの約13%の強度しかなかったことが分かった。LC−MS/MS分析を用いて、試料1のこのバンドの純度を調べた。これらの分析により、このバンドのHA1含有量、約25%(n=6)が得られたが、主に含まれているのは核タンパク質だった。総合的に考えると、HA1の回収率は約50%に過ぎないことが結果から分かった。HA1の回収率が低いため、試料調製方法のさらなる最適化を行った。
【0081】
ウイルス破壊工程中のインキュベーション温度を変え、約80℃で最も高い回収値が得られた。さらなる実験で、37℃から90℃の間でウイルス破壊のインキュベーション温度の最適化、30分から4時間の間でインキュベーション時間の最適化を行った。さらに、アルキル化工程の代替手段として、8.5%のリン酸を用いた酸性化について調べた。
【0082】
ウイルス破壊、すなわち、可溶化に最適な条件は、約85℃、1時間の後、アルキル化工程または酸性化工程のいずれかを行うことだと分かった。これらの最適化された試料調製条件を用いて、HA1の回収率を再度SDS−PAGEで調べた。HA1の回収率は、試料1における対応バンドのHA1含有量である25%に対して、90から120%であった。
【0083】
HA1の回収率に加えて、選択性を2つの最適化した方法(アルキル化を含む方法と含まない方法)について調べた。LC−MS/MS分析では、4−ビニルピリジンを用いたアルキル化を含む方法では、HA1ピーク中のタンパク質の純度は87%であった。これに対して、アルキル化の代わりにリン酸による酸性化を用いて、遊離のシステインの逆反応を防いだ場合、HA1ピーク中のタンパク質の純度は96%に改善した。
【0084】
対照試料の確定
配列アラインメント
以下の受託番号を持つ配列をGenbankから取得した:(1)HA、インフルエンザAウイルス(A/カリフォルニア/07/2009(H1N1)):ACQ55359.1および(2)HA、インフルエンザAウイルス(A/ソロモン諸島/03/2006(H1N1))、ABU50586.1。タンパク質の配列を、ClustalW(http://www.ebi.ac.uk/clustalw/)のデフォルト設定を用いてアラインメントした。
【0085】
インフルエンザAウイルス(A/カリフォルニア/07/2009(H1N1))HAとインフルエンザAウイルス(A/ソロモン諸島/03/2006(H1N1))HAとの配列アラインメントの相同性によると、これらの2つのウイルス間のHA相同性は約79%に過ぎない。他の大流行間期の株は、A/カリフォルニア/07/2009(H1N1)に対して比較的低い相同性しか示さない。この相同性の低さから、大流行間期の参照抗原を用いた検量は、世界的に流行したH1N1株の場合には不可能であることが示唆された。
【0086】
MALDI/TOFによる分子量
アミノ酸配列(受託番号:HA、インフルエンザAウイルス(A/カリフォルニア/07/2009(H1N1)):ACQ55359.1)に基づくインフルエンザAウイルス(A/カリフォルニア/07/2009(H1N1))HAの理論分子量は、61424(HA0、ジスルフィド結合は還元され、タンパク質加水分解で開裂していないHA1およびHA2からなる)、還元されたHA1は36312、還元されたHA2は25130である。しかし、これにはグリコシル化等の翻訳後修飾、特に糖タンパク質の質量に大きく関わるN−グリコシル化(HA1ドメインには、5つのN−グリコシル化可能部位がみられた)が含まれていない。還元後に単離したHA1の分子量を、MALDI/TOFを用いて測定したところ、試料2についての測定では45268 ±119(n=15)であった。試料3については、45229±101(n=20)というHA1分子量が測定された。本方法の誤差範囲内であり、2つのロット間でHA1の分子量に差はなかった。MALDI/TOFデータをLC−MSペプチドマッピングのデータによりさらに裏付けし、ここでは、糖ペプチドをウイルスタンパク質のトリプシン消化後に分析した。
【0087】
【表4】
【0088】
これらのN−グリコシル化の結果は、MALDI/TOFによる測定分子量と理論分子量との差異とよく一致した。この測定は異なるN−グリコシル化アイソフォームの平均に基づいているため、質量計算にはMALDI/TOFによる分子量を使用した。
【0089】
【表5】
【0090】
HA2は単離できなかった。従って、MALDI/TOFによる分子量の測定はできなかった。しかし、N−グリコシル化はLC−MSペプチドマッピングにより同定することができた(表5)。計算のため、HA2の理論分子量(25130)を使用し、同定したN−グリコシル化の分子量を足して、26900という質量を得た。HA1とHA2のこれらの値によれば、グリコシル化HA1、グリコシル化HA2、6個のジスルフィド結合を含むHAの総分子量は、72156である。
【0091】
アミノ酸分析
試料調製の最適化後に、(1)4−ビニルピリジンを用いたアルキル化工程を含む、または(2)リン酸を用いた酸性化工程を含む試料調製の二つの選択肢について並行してアミノ酸分析を行った。試料2をHPLC分析の校正のための対照試料として用いた。
【0092】
試料2を、後述の通り、アルキル化工程を含めて調整し、アルキル化が精製にどのような影響を及ぼすのか調べた。HA含有量を調べるため、85℃、1時間の破壊工程および4−ビニルピリジンを用いたアルキル化をして、HA1の分画を行った。HA1のHPLCピーク画分を回収し、アミノ酸分析に使用した。ロイシン、バリン、リジン、フェニルアラニンの含有量を調べるため、加水分解物を分析した。MALDI/TOFにより調べた分子量を用いて、HA濃度を計算した。ピーク当たりのHA含有量の平均は、93.7±3.2μg/mL HAに対して4.64μg(n=8)であった。HA1の純度は87%に過ぎなかったため、HAの値は過大に見積もられており、従って、アルキル化がさらなる分析に有用だとは考えられない。
【0093】
【表6】
【0094】
また、試料2を酸性化工程を行って調製する。試料2のHA含有量を調べるため、HA1を含む画分を、85℃、1時間の破壊工程およびリン酸を用いた酸性化工程を含めて調製した。HA1のHPLCピーク画分を回収し、アミノ酸分析に使用した。ロイシン、バリン、リジン、フェニルアラニンの含有量を調べるため、加水分解物を分析した。本明細書に記載するように、MALDI/TOFにより測定した分子量を用いて、HA濃度を計算した。ピーク当たりのHA含有量の平均は、92.7±9.0μg/mL HAに対して4.21μg(n=8)であった。この値を、HAのHPLC測定のさらなる検量に用いた。次いで、アミノ酸分析のために、HA1の分画を行った。
【0095】
【表7】
【0096】
最終的な方法
表8に、新規の試料調製方法を開発するために調べた主なパラメーターをまとめている。どの方法を使用するかは、主にLC−MSMSを用いた選択性に基づいて最終的に決定し、ここで4−ビニルピリジンを用いたアルキル化を含む方法が著しく低い選択性を示した。修飾によりわずかに親水性が増加するため、この観察結果は、ほぼ確実に溶出位置の変化によるものだった。溶出位置が変化したことにより、共溶出するタンパク質が変わったのである。アルキル化を行って、または行わずに調製した試料調製物のHA1の溶出プロフィールを調べた。4−ビニルピリジンを用いたアルキル化を行って調製した試料中のHA含有量は、おそらくより高濃度の汚染タンパク質のために、わずかに多かった。
【0097】
【表8】
【0098】
以下の全ての実験では、上記の最初の実験で記載した最適化した方法に従って試料調製を行った。
【0099】
方法の検証
直線性
分析方法の重要な基準の一つは直線性、すなわち(ある範囲内で)試料中の分析物の濃度(量)に正比例する試験結果を得る能力である。濃度依存的なHPLC応答の直線性を証明するため、試料2を脱イオン水で異なる濃度に希釈し、異なる濃度の試料をRP−HPLCで分析した。対照試料の濃度は、上述の通りアミノ酸分析により求めた。
【0100】
【表9】
【0101】
【表10】
【0102】
データの検量線は、23.175μg/mLから185.4μg/mLの間のタンパク質濃度の範囲で良好な直線性を示した。表11に計算した残差を示す。全ての計算値が理論値の±5%以内にある。
【0103】
【表11】
【0104】
選択性
選択性の重要な必須条件は、HA1のHPLCピークが十分な純度を示すことである。HA1の単離したピークをSDS−PAGEで調べた。SDS−PAGEをクマシー染色して用い、単離したHA1はシングルバンドとして移動する。このHA1バンドを、バンド内のタンパク質を同定するために、インゲル消化およびLC−MS/MS分析によりさらに分析した。このバンドは、HA1だけを含んでいた。HA1ピーク内のタンパク質を分析する、より感度の高い方法は、凍結乾燥後に回収した画分を直接消化することである。
【0105】
同定した全てのペプチドについて、再構成イオンクロマトグラフにおけるピークの高さを測定し、含まれるタンパク質の純度を推定した 。異なるペプチドは異なるイオン化効率を持つため、どのタンパク質が検出可能であるかの推測とおおよその相対定量としてこの方法を用いた。
【0106】
【表12】
【0107】
表12から分かるように、HA1のピークは>96%のHA1を含む。少量の不純物が、核タンパク質および宿主細胞タンパク質(アクチンおよびコフィリン−1)として同定された。
【0108】
精度
試料2中のHA含有量を求める方法の精度を示すため、23.175μg/mLおよび92.7μg/mLの2つの濃度で、2日間(1日6回)、計12回HA含有量の測定を行った同日内の精度は、低濃度で2.96%および1.77%、高濃度試料で0.81%および0.89%であった。相対標準偏差(RSD)は低濃度試料で2.19%、高濃度試料で1.30%であった。
【0109】
【表13】
【0110】
【表14】
【0111】
本開示は、本開示を実行するための具体的な形態を含むことが認められた、また含むことを提案した特定の実施形態という観点から記載された。記載された発明の様々な改変および変形は、本発明の範囲および趣旨から逸脱しない範囲において、当業者に明らかである。本発明は、特定の実施形態に関連付けて記載されているが、請求される本発明は、そのような特定の実施形態に不当に限定されるべきではないことは理解されるべきである。実際に、当業者に明らかな、本発明を実行するための記載された形態の様々な改変は、以下の特許請求の範囲内となる。