【実施例】
【0117】
本発明をさらに以下の実験により説明する。
【0118】
(実施例1)
樹状細胞モデルのプロテオーム分析
候補バイオマーカーの発見に用いたトレーニング化学物質
ヒトMutz-3細胞中のバイオマーカー発見するために一式のトレーニング化学物質を選択した。選択した化学物質は5種の異なる強度の皮膚感作剤、2種の呼吸器感作剤および3種の非感作性/刺激物質を含んだ(表2)。
【0119】
接触感作物質/アレルゲン;
DNCB:1-クロロ-2,4-ジニトロベンゼン(DNCB)はカラー写真処理に用いられる有機化合物である。DNCBは極端なアレルゲンと考えられる。
【0120】
オキサゾロン:4-エトキシメチレン-2-フェニルオキサゾール-5-オンは極端な化学アレルゲンと考えられる。
【0121】
PPD:パラ-フェニレンジアミンは極端な化学アレルゲンである。PPDはパーマネント毛髪染料として、繊維製品、一時的な入れ墨、写真現像剤、印刷インク、黒色ゴム、オイル、グリースおよびガソリンに広く用いられる。PPD酸化はDC活性化の前提条件である。
【0122】
オイゲノール:オイゲノールはフェニルプロパノイドクラスの化合物の1メンバーである。これは特定の精油から、とりわけシナモンおよびバジルから抽出される無色透明〜単黄色の油状の液である。オイゲノールは香料、香味、精油に、および医薬に、局所消毒薬および麻酔薬として用いられる。オイゲノールはプロ-ハプテンと考えられ、アレルギー反応を誘発する前に代謝されなければならない。
【0123】
桂皮酸アルデヒド:3-フェニル-2-プロペナル;シンナマル、シンナムアルデヒドは強いシナモン臭をもつ油状の黄色液である。この化合物はシナモンオイルの主成分である。シンナムアルデヒドの主要な応用先は香料および芳香剤産業である。これはチューイングガム、アイスクリーム、キャンディ、および飲料として用いられる。桂皮酸アルデヒドは穏やかな感作物質と考えられる。
【0124】
呼吸器感作物質/アレルゲン:
TMA:無水トリメリット酸は非常に反応性の化学物質であって、これを用いて工業的にトリメリット酸エステルを合成する。これらのエステルは、とりわけ温度安定性が必要とされる場合に、例えば、電線およびケーブルのコーティングにおけるポリ塩化ビニル用可塑剤として使われる。これは呼吸器感作物質と考えられる。
【0125】
MDI:2,4-ジフェニルメタンジイソシアネートはポリウレタン化合物を還元するのに用いる反応性材料である。BASFのMDIに対する商標はLupranate(登録商標)(北米)およびLupranat(登録商標)(欧州)である。MDIは呼吸器感作物質である。
【0126】
刺激性/非感作性化学物質:
SDS:ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)またはラウリル硫酸ナトリウム(SLS)は多くの洗浄および衛生製品に利用される界面活性剤である。SDSは皮膚および眼刺激を引き起こす。
【0127】
フェノール:石炭酸としても知られる有機化合物である。フェノールの主な用途はプラスチックへの変換または関係する材料に関わる。フェノールは眼および皮膚に腐食性がある。
【0128】
サリチル酸:2-ヒドロキシベンゼンカルボン酸としても知られる。サリチル酸は痛みと疼痛を和らげかつ熱を下げる能力で知られる。サリチル酸は、ざ瘡、乾癬、たこ(皮膚硬結)、まめ(皮膚硬結)、毛孔性角化、およびいぼを治療するための多数の皮膚ケア製品における重要成分である。その皮膚細胞における効果の故に、サリチル酸はフケを治療するのに用いるいくつかのシャンプーに使われている。サリチル酸への曝露は過敏性を生じうる。
【0129】
細胞培養
ヒト骨髄白血病由来の細胞株MUTZ-3(DSMZ, Braunschweig, Germany, Hu et al. 1996)は増殖および生存用の培地へサイトカインと成長因子の添加が必要である。MUTZ-3の祖先細胞を、20%FCSおよび40ng/ml GM-CSFを補充したL-グルタミンおよびヌクレオチドを含有するα-MEMで培養した(Invitrogen、22571-020)。細胞を37℃および5%CO
2で増殖し、培地を毎週3回変えた。その細胞を200,000細胞/mlの濃度で保った。細胞を分割する場合、それらを800rpmにて5分間遠心分離した。上清を除去し、そして細胞を注意深く1mlの培地に再懸濁し、そして計数して適当な濃度を設定した。
【0130】
化学物質への細胞の曝露
表2:バイオマーカーを発見するために用いた参照化学物質の表
【表2】
【0131】
MUTZ-3細胞を細胞培地中で2x10
5細胞/mlの細胞密度にて増殖した。試験化学物質を加え、プレートを24時間37℃にて5% CO
2加湿インキュベーター中でインキュベートした。化学物質をDMSOに溶解するときに、0.1%DMSOの最終濃度を関連ネガティブ対照に用いた。24時間のインキュベーション後に、細胞を収穫し、2回PBSで洗浄した。
【0132】
細胞を収穫し、遠心分離して曝露前に2時間無血清状態にする。化学物質を様々な濃度でMUTZ-3祖先またはiMUTZ3 DCに加える(表2)。曝露の日に、1000Xストック溶液を新しく調製する。水に溶解できない化学物質をDMSOに最大最終ウエル中の濃度0.1%で溶解する。試験化学物質に加えて、培地およびビヒクル対照も調製した。適当な試験または対照培地を加えた後に、細胞を37℃にて5%CO
2を含有する大気で閉じたインキュベーター中で48時間インキュベートした。曝露の後、使用した培地を除去して炎症性マーカーの標的化測定用に貯蔵する一方、細胞をプロテオームのバイオマーカー発見用に調製した。
【0133】
細胞溶解とサンプル調製
細胞を4体積の100mM TEAB(炭酸水素トリエチルアンモニウム)、pH 8.5+0.1、1mM TCEP(トリス[2-カルボキシエチル]ホスフィン
*HCl)、0.1%SDSに溶解した。細胞ペレットを溶解バッファーに懸濁した後、懸濁液を95℃にて10分間、熱ミキサー中で加熱した。細胞溶解液を氷上で2分間、2回超音波処理し、その後、第2サイクルの加熱と超音波処理を行った。サンプルを次いで14,000gにて10分間遠心分離しそして上清をさらなる分析に用いるかまたは-80℃にて貯蔵した。
【0134】
タンパク質濃度の決定
タンパク質濃度をBradford試薬を用いて決定した。その結果を、BSA/IgG(50%/50%)から成る標準の希釈液の測定値から作成した標準曲線を用いて計算した。
【0135】
トリプシン消化と同重体質量タグ標識化
タンデム質量タグ(TMT)(Thermo Scientific)は一式のアミン反応性標識を含み、これらは重および軽同位体で合成されて同じ総質量を示すが衝突誘起解離(CID)による活性化とその後のタンデム質量分析(MS/MS)後に異なる質量のレポーターイオンを与える。
【0136】
1サンプル当たり100μgまでのタンパク質溶液の同等物をプロテオームのプロファイル作成実験に用いた。参照プールは全サンプルのアリコートから作製し、それにはそれぞれのTMTシクスプレックス標識反応を含んだ。サンプルの最終体積はMT標識バッファー(100mM TEAB pH 8.4〜8.6、0.1% SDS)で1サンプル当たり100μlに調節した。サンプルを、水中の20 mM TCEPをそれぞれ5.3μL加えることにより、30分間室温にて還元し、次いでアセトニトリル中の150mM ヨードアセトアミドをそれぞれ5.5μLを加えることにより、1時間室温にてアルキル化した。
【0137】
タンパク質を消化するために、100mM TEABバッファー pH 8.4〜8.6中の10μLの0.4μg/μLトリプシン溶液(配列決定グレードの改変トリプシン、Promega)をそれぞれのバイアルに加えて37℃にて18時間インキュベートした。消化したタンパク質サンプルをTMTシクスプレックス試薬(TMT6-126、TMT6-127、TMT6-128、TMT6-129、TMT6-130およびTMT6-131)を用いて標識した。TMTシクスプレックス試薬をアセトニトリルに溶解して60mMの濃度とし、40.3μLの対応する試薬溶液をサンプルバイアルに加え、サンプルを室温にて1時間インキュベートした。Tyr、SerおよびThr残基を逆臨時標識するために、8μLのヒドロキシアミン水溶液(5%w/v)を加え、15分間室温にてインキュベートした。TMTシクスプレックス標識したサンプルを組み合わせて精製した。
【0138】
サンプル精製
サンプルを3mL水/アセトニトリル95:5+0.1%TFAでそれぞれ希釈し、次いでHLB Oasisカートリッジ(1cc、30mg、Waters)を用いて脱塩した。溶出画分をそれぞれさらに、自己作製カートリッジ(CHROMABOND 空カラム 15ml、Macherey-Nagel、650μL SP Sephalose Fast Flowを充填、Sigma)を用いて強カチオン交換により精製した。ペプチドを充填しかつ4mL水/アセトニトリル75:25+0.1%TFAで洗浄後、ペプチドを2mLH
2O:ACN75:25+400mMの酢酸アンモニウムを用いて溶出した。サンプルを真空濃縮器中で乾燥し、それぞれ50μL水/アセトニトリル95:5+0.1%TFAに溶解し、そして分析まで-20℃にて保存した。
【0139】
液体クロマトグラフィとタンデム質量分析(LC-MS/MS)
TMTシクスプレックス標識サンプルを高性能液クロマトグラフィ-タンデム質量分析(HPLC-MS/MS)により測定した。例えば、5μL(5μg)の各サンプルを、Proxeon EASY-nLC (Thermo Scientific)と結合したエレクトロスプレーイオン化線形イオントラップ四重極Orbitrap質量分析計(Thermo Scientific)に注入して測定した。ReproSil C18(5μm粒子、Dr. Maisch)を充填した自己充填の0.1×20mmトラップカラムにサンプルを供給しかつ10分間、H
2O:蟻酸(99.9%/0.1%)により洗浄した後、分離を90分間、H
2O:蟻酸(99.9%/0.1%;溶媒A)およびアセトニトリル:蟻酸(99.9%/0.1%;溶媒B)の勾配を用いて300nL/minの流速で行った。0.075×150mmカラムをReproSil C18 (3 μm 粒子、Dr.Maisch)を用いて自己充填した。全ての質量スペクトルを、陽イオン化モードにて350〜1800m/zの走査範囲でフラグメンテーションに対するトップ10 HCD法を用いて取得した。
【0140】
ペプチドとタンパク質の同定と定量
ピークリストをOrbitrap生データから、mascot ジェネリックファイル(*.MGfデータファイル)としてProteome Discoverer (バージョン1.1;ThermoFisher, San Jose, USA)を用いて作製した。得られる*.mgfファイルをIPIヒトデータベース(バージョン3.68;2011年2月)に対してMASCOT(バージョン2.2;MatrixScience, London, UK(質量分析データを用いる、配列データベースの検索による確率に基づくタンパク質同定)、Perkins DN, Pappin DJ, Creasy DM, Cottrell JS. Electrophoresis. 1999 Dec;20(18):3551-67)により検索した。ペプチドとタンパク質同定を次のパラメーターを用いて実施した:システインにおけるカルバミドメチル、N-末端部位およびリシンにおけるTMT改変は固定した改変として設定した。トリプシンを用いて酵素制限を行い、3つのミス切断を許容しかつ前駆体質量については許容質量耐性+/-10 ppmおよびフラグメントイオンについては0.05を許容した。対応するMASCOT結果ファイル(*.datデータファイル)をダウンロードし、そしてレポーターイオン強度とタンパク質同定を社内ツールで抽出した。レポーターイオン強度およびタンパク質同一性をリレーショナルMySQLデータベース(version 5.157; Oracle, Redwood Shores, USA)に送ってレポーターイオンのlog2比を計算した。
【0141】
抽出したレポーターイオン強度と相対的定量のデータ前処理
1つのLC/MS/MS試験内の任意のレポーターイオンの一定積分(constant integral)の仮定に基づくサムスケーリング(sum scaling)の方法により、質量タグの6つのレポーターイオン強度を同位体分布およびシステム偏差と関係付けた。加えて、全6つのタグが80 AU(任意のユニット)より小さくかつ2未満のタグのレポーターイオン強度が10 AUより小さい場合、これらのMS/MSスキャンをフィルターにかけて外した。レポーターイオンの相対強度はサンプル中のペプチドの相対量を表す。あるペプチド相対量の全サンプルに対する相対量を比較するために、各サンプル-対-プールした参照サンプル間の比を計算した。比をlog2変換して各ペプチドに対する参照測定値を得た。タンパク質レベルの相対的変化についての情報を得るために、1つのタンパク質同一性に属する各同定したペプチドに対するlog2参照レポーターイオン強度の幾何平均値を求めた。
【0142】
(実施例2)
統計解析と分類モデルの作製
感作物質および刺激物質のグループに属する参照化学物質ならびに適当な対照(ビヒクル)物質のグループに属する参照化学物質を用いて候補タンパク質バイオマーカーを選択した。これらの化学物質を色々な組み合わせと濃度で4つの分析発見研究に適用した。
【0143】
複数の仮設を検定するために、分散分析(ANOVA、p<=0.05)を計算して3クラス間の比較可能性のいずれかに関係するバイオマーカーを研究した。事後分析(Tukey Test)を実施してクラス差を個々に研究した。統計学的記述言語Rまたはデータ解析ソフトウエアMeV(TIGR)バージョン4.3を全ての統計解析に用いた。その後に、130種のタンパク質バイオマーカーのリストを得た(配列番号1〜130)。そのリストを表1にそしてタンパク質配列を表4(
図10)に詳述した
アッセイ用の候補タンパク質バイオマーカーの同定
感作物質と非感作物質の間の区別を可能にする候補タンパク質バイオマーカーを発見するために、表2に掲げた色々なセットの化学物質を含む4通りの発見研究を次の通り実施した。第1の研究(40-002_2)では、Muts-3細胞を2つの呼吸器感作物質(150μM MDI、500μM TMA)、4つの接触感作物質(10μM DNCB、200μM 桂皮酸アルデヒド、150μM PPD、500μM オイゲノール)、2つの刺激物質(500μM サリチル酸、500μM フェノール)および2つの対照(無処理、0.1% DMS0)と共にインキュベートした。第2の研究(40-002_3)では、Muts-3細胞を2つの異なる濃度の2つの接触感作物質 (50および100μMの桂皮酸アルデヒド、4および8μMのDNCB)、1つの刺激物質(300および600μM SDS)および2つの対照(無処理、0.1% DMSO)と共にインキュベートした。第3の研究(40-002_4)では、Muts-3細胞を4つの接触感作物質(120μM 桂皮酸アルデヒド、4μM DNCB、75μM PPD、250μM オキサゾロン)、3つの刺激物質(200μM SDS、500μM サリチル酸、500μM フェノール)および2つの対照(無処理、0.1% DMSO)と共にインキュベートした。
【0144】
第4の研究40-002_8では、Muts-3細胞を2つの接触感作物質(120μM桂皮酸アルデヒド、4μM DNCB)、1つの呼吸器感作物質(150μM TMA)、1つの刺激物質(200μM SDS)および1つの対照(無処理)と共にインキュベートした。
【0145】
統計解析の目的は化学物質の感作化学物質(A= アレルゲン)または非感作化学物質(I= 刺激物質)のグループへの割り当てを可能にする分類モデルを開発することであった。4つのデータセット(p<=0.05)の統計解析後に候補バイオマーカーの最終リストを得た。4つのデータセットはそれぞれトレーニング化学物質のリストから選択される化学物質の色々な組み合わせの試験に関わった。従って、新しい化学物質を評価するまたは化学物質の色々な組み合わせを解析する本発明の方法の使用はバイオマーカー候補のデータベースの増加に寄与するであろう。第1のアプローチにおいては、最適な候補をp値の増加に基づいて上から下に格付けした。表1は、Mutz-3の一式のトレーニング化学物質への曝露後に有意に影響を受けるトップ130の候補バイオマーカーを示す。その結果、感作物質(A=アレルゲン)および非感作物質(I=刺激物質)は、DCまたはDC-様細胞モデルに発現される極く限られたセットの遺伝子産物:ACLY、ACTA2、ACTN4、ACTR1A、ACTR3、AIMP1、ALDOA、ANXA5、ARF3、ARL6IP5、ATP5B、ATP5G3、BAT1、BYSL、CAB39、CALR、CAPG、CAPZA1、CLC、CORO1A、RBM12、CRTAP、EEF1A1,EEF1A2、EEF1B2、EEF2、IF3E、EIF4A3、EIF5A2、ELAVL1、FDXR、FERMT3、FLNA、G6PD、GAPDH、GOT2、HADHA、HBA2、HBE1、HBZ、HIST1H1B、HIST1H1C、HIST1H2BL、HIST2H3A、HIST1H4C、HMGN2、HNRNPK、HSP90AA2、HSP90AA2、HSP90AB1、HSPA8、HSPA9、HSPD1P6、HSPE1、HYOU1、KHSRP、LGALS1、LMNA、LRPPRC、MDH2、MPO、COX3、NARS、NASP、NCF4、NCL、NDUFV1、NME2、NPM1、P4HB、PCNA、PDCD6、PDIA3、PDIA6、PEBP1、PGD、PKLR、PPIAL3、PPIAL4C、PPP2CA、PRDX1、PSMA7、PSMC3、PSMD13、PSME1、RALY、RAN、RCTPI1、RETN、RNASET2、RPL18A、RPL26P33、RPL3L、RPL7P20、RPS15AP12、RPS19、RPS2P17、S100A11、S100A4、S100A8、S100A9、SEC22B、SERPINB1、SET、SFRS2、SFRS7、SH3BGRL3、SLC25A5、SLC3A2、SOD1、STK24、TAF15、TAGLN2、TALDO1、TFRC、TMEM33、TMSL3、TPI1、TRAPPC3、TUBA1C、TUBA4A、TUBB2C、TUFM、TXN、TXNDC5、UQCRC2、VAMP8、VDAC1P1、VDAC2、VIMの存在を測定することにより同定することができる。第2のアプローチにおいては、タンパク質をアレルゲン(A)と刺激物質(I)の間を区別するその能力に基づいて選択した。事後ペアワイズ(Post-hoc pairwise)グループ比較をTukey検定を用いて実施した。C-A:対照対アレルゲンのグループ比較;I-A:刺激物質対アレルゲンのグループ比較;I-C:刺激物質対対照のグループ比較。
【0146】
第1の研究において、アレルゲンと刺激物質の間の比較は17種のタンパク質(Tukey 試験 p<=0.05): ATP5B、MPO、S100A11、ACTA2、HBA2/HBA1、S100A8、NCL、VDAC1、EEF1A2、PPIA、NPM1、TMSL3、TXN、HBE1、TUBA4A、HNRNPK および PPIAL4を同定した。第2の研究において、アレルゲンと刺激物質の間の比較は7種のタンパク質(Tukey試験p<=0.05):TUBA4A、HSP90AA1、PKLR、CLC、HSP90AA2、TALDO1およびVDAC2を同定した。第3の研究において、アレルゲンと刺激物質の間の比較は12種のタンパク質(Tukey試験p<=0.05):HIST1H1C、CLC、HIST2H3D、RCTPI1、HIST1H1B、TMSL3、HIST1H2BL、GAPDH、PCNA、HIST2H4A;SLC25A5およびPRDX1を同定した。
【0147】
最も有望なバイオマーカー候補を、色々なデータセット間の重複を解析することにより選択することもできる。第3のアプローチにおいては候補タンパク質バイオマーカーを、同じタンパク質が異なる組み合わせの化学物質の試験に関わった異なるデータセット(p<=0.05)4つのうちの2つで見出されたかによって選択した。これらのタンパク質は15種の最も有望なタンパク質を含むタンパク質のセットに属する。グループ1は次のタンパク質:4つの実験のうちの少なくとも2つで重複した(p<=0.05)HSPA8、MPO、S100A8、TMSL3、VDAC2、CLC、HIST1H1C、HIST1H2BL、PGD、PKLR、PPIA、S100A9、SLC25A5、TALDO1 および TUBA4Aを含有する。
【0148】
(実施例3)
呼吸器感作物質に対するバイオマーカー
現在、呼吸器感作物質を同定するための確証された細胞株に基づくアッセイは無く、樹状細胞株のIL-8アッセイはTMAに応答しない(Mitjans et al, 2009)。呼吸器感作物質に対する適当なタンパク質バイオマーカーを同定するために、Mutz-3細胞を呼吸器感作物質(TMA)、プロトタイプ接触感作物質(DNCB)、1つの刺激物質(SDS)を含む参照化合物に曝した。TMA-対-対照サンプルを比較する2つのサンプルt-検定(p<=0.05)を実施し、呼吸器感作物質TMAに対する細胞の反応を示すバイオマーカーを同定した。タンパク質をp-値の増加の順に並べた。
【0149】
表1のグループ2中のタンパク質は、ACTR3、EIF3E、G6PD、COX3、NARS、RPL26P33、SFRS2、EIF4A3、SOD1、STK24を含むTMA特異的マーカーパネルを表す。表1はバイオマーカーのuniprot ID、タンパク質名および公式遺伝子名を与える。それぞれのタンパク質配列を表4(
図10)に示す。対照、刺激物質、TMAおよび典型的な皮膚感作物質DNCBの間の候補バイオマーカーの相対的存在量の相違を
図9に示す。
【0150】
表1のグループ3は、化学刺激物質と感作物質の色々な組み合わせの試験に関わる4つの研究の少なくとも1つにおいて所要のp<=0.05の有意な判定基準に合格するさらなる感作物質バイオマーカーを含む。
【0151】
ヒエラルキー・クラスター分析
図1は、感作物質と刺激物質を区別するために提案したバイオマーカーの効用の他の例を示す。第4の研究では、Mutz-3細胞を1つの接触感作物質(DNCB)、1つの呼吸器感作物質(TMA)、1つの刺激物質(SDS)に曝すかまたは無処理のまま放置した。83種のタンパク質を含む問題のリストからのタンパク質のサブセットを用いて無鑑査ヒエラルキクラスターを形成し、アレルゲン、刺激物質および対照グループに属するサンプルの分離が良いことを示した。存在量が増加または減少する2つの主なタンパク質のクラスターを見出した。
【0152】
部分最小二乗判別分析(PLS-DA)
化学物質を分類する好ましい方法は部分最小二乗回帰分析(PLS)を使う方法である。PLS判別分析は問題のリストから最も重要な分類子(classifier)を同定する。モデルを赤で強調した応答変数(y)および予測因子(predictor)(x)としてANOVAでフィルターしたタンパク質を用いて構築した。第1のPLS成分(x軸)を第2のPLS成分(y成分)に対してプロットし、3つの実験グループ「対照」、「刺激物質」および「感作物質」を分類する役割を有するバイオマーカーを分離した。
【0153】
図2は第4の研究で見出した候補バイオマーカーのプロットを載せるPLS-DAを示す。タンパク質バイオマーカー(IPI受託番号)を、最初の2つの主軸に対する重み変数に対応する座標を用いてプロットする。応答変数「is アレルゲン」に近いバイオマーカーは化学物質をポテンシャルアレルゲンとして分類する上で強い役割を有する。応答変数「is 刺激物質」に近いバイオマーカーは化学物質を刺激物質と同定する。
【0154】
図3は第4の研究の全サンプルについてお互いに対してプロットした2つの第1の主成分の対応するPLSスコアプロットを示す。このスコアプロットにおいて、各点は1つのサンプルを表す。ANOVAフィルターされたタンパク質リストサンプルに基づいて対照、感作物質および刺激物質処理されたサンプル間で良い分離が達成された。非常に強い感作物質DNCBで処理したサンプルは対照から最大相対距離を有するが、TMA処理したサンプルは対照サンプルからより小さい距離を示し、TMAがMUTZ-3 細胞にはるかに小さい反応を誘発することを示すと見ることができる。
【0155】
(実施例4)
標的化バイオマーカー測定
感作ポテンシャルを予測するマーカーを見出す代わりのアプローチとして、3種の公知の炎症性マーカーのレベルを測定する市販のイムノアッセイを用いるさらに標的化したアプローチを採用することにより、本発明者らは化学安全性のマーカーの供給源として細胞培養上清の可能性を探求した。ELISAにより測定する3種のタンパク質は、化学感作物質に対して分泌される炎症性タンパク質応答に対する参考文献の総括に基づいて選択した。細胞を実施例1に記載の通り培養し、使用済みの培地を取り出してELISAにより直接分析した。全てのキットは製造業者取扱説明書に従って用いた。
【0156】
ミエロペルオキシダーゼ (MPO)
Huら(1996)によると、MUTZ-3細胞株は単球の特徴を示し、MPOを発現する。MPOはリソソームに貯蔵され、炎症の間、放出されるペルオキシダーゼ酵素であり、ミエロペルオキシダーゼはELISA(Assay-Designs)により測定された(
図4)。驚いたことにその結果は、MPMがMutz-3細胞の接触感作物質DNCBに対する曝露の指標であるが呼吸器感作物質TMAに対するものでないことを示した。実施例1で本発明者らがMutz-3細胞の上清で見出したMPOのレベルの増加との組み合せで起こったMPOの細胞内レベルの減小を同定したことに注意すべきであって、これは接触感作物質による曝露に反応したMPOの活性分泌を示唆する。
【0157】
カルプロテクチン(S100A8/S100A9)
カルプロテクチンはS100A8/S100A9のヘテロ二量体であって、Mutz-3細胞の上清中で市販イムノアッセイ(Immundiagnostik AG, Bensheim, Germany)により測定した(
図5)。カルプロテクチンはストレスに応答して食細胞により活性化されて分泌され、Toll様受容体4(TLR4)と結合する。Toll様受容体は先天的免疫系において重要な役割を果たし、カルプロテクチンによるTLR4の活性化はさらに炎症を増幅する(Ehrchenら 2009)。TLR4とインターロイキン12の二重ノックアウトマウスは、2,4,6-トリニトロ-1-クロロベンゼン(TNCB)、オキサゾロン、およびフルオレセインイソチオシアナート(Martinら、2008)を含む広範囲の色々な感作物質によるDC感作の著しい減少を示す。カルロプロテクチン分泌に関係する一般的な炎症経路に基づいて、全てのクラスの化学アレルゲンに対するマーカーであることが期待されうる。思いがけなく、本発明者らのデータはS100A8/S100A9レベルがDMCB曝露によりモジュレートされるが、呼吸器感作物質TMAに応答しないことは、2つの異なる化学物質によって異なる細胞経路が活性化されることを示す。MPOのように、カルプロテクチンの細胞外レベルの増加は、実施例1で見られた相関のある細胞内レベルの対応する減少と一致した。
【0158】
Cu/Zn-SOD(SOD1)
Zn/Cu-SOD(SOD1)は遊離スーパーオキシド・ラヂカルを分子状酸素と過酸化水素に変換する酵素である。SOD1は身体の全細胞で発現される細胞内酵素である。DC分化の間、SOD1発現は増加して成熟DCにおいて最高レベルに到達する(Rivollier ら、2006)。SOD1発現はLPS、TNF-αおよびIL-1bなどのプロ炎症性メディエーターによりアップレギュレーションされる(Visnerら、1990)。成熟したDC段階における細胞に関連したSOD1レベルの増加を報じたRivollier ら(2006)とは対照的に、本発明者らはSOD1レベルが細胞抽出物中のアレルゲン曝露に応答して減少しかつMutz-3の上清中で増加することを見出した(
図6)。上清中でSOD1を、特異的ELISAアッセイを用いて定量した(IBL, Hamburg, Germany)。
【0159】
(実施例5)
一般的な感作物質に対するバイオマーカーパネル
実施例1〜4の結果は、化学感作物質を刺激物質または対照化学から識別するための130種のタンパク質のパネル(表1、グループ1〜3)を同定した。参照化学物質を用いて130種のバイオマーカーのパネルを決定するために記載した方法を今や、改定した形態で用いて新しくまたは今まで未試験の化学剤を試験し、それらのアレルゲン、感作物質または非感作性物質としてのポテンシャルを決定することができる。本発明によれば、その方法は、新しい化学物質またはポジティブおよびネガティブ対照としての参照化学物質と組み合わせて新しい化学物質に曝したサンプルの試験セットにおける表1から選んだバイオマーカーの濃度を測定する方法を使うことができる。典型的には、新しい試験化学物質を評価する際に、表1からのバイオマーカーの組み合わせを用いて、とりわけグループ1またはグループ2からのバイオマーカーを選択して実施すべきである。グループ1およびグループ2から選択されるバイオマーカーのパネルの使用は、感作物質、刺激物質および対照の間の最も堅牢な組み合わせを確実なものにするであろう。選択したバイオマーカーが新しい化合物について巧く行けば、そのバイオマーカーの組み合わせを保持しうる。あるいは、グループ1または2からのプロセスを繰り返して他のバイオマーカーの組み合わせを試験することができる。また、グループ1または2からのバイオマーカーを拒絶し、グループ3からのバイオマーカーを含むこともできる。この繰り返しプロセスを優れた分類モデルが得られるまで続けうる。表1に記載のバイオマーカーの濃度を測定することにより皮膚刺激を起こす化学物質を同定することも可能である。典型的には、可能性のある刺激物質および感作物質の間を識別する際に、この分析は炎症性および細胞のストレスプロセスと連結したバイオマーカーを用いて実施すべきである。特に、SDSへの曝露後に誘導されるグループ3から選択されるバイオマーカーが有用でありうる。これは、限定されるものでないが、SLC3A2(膜貫通糖タンパク質CD98の一成分)、またはHYOU1(低酸素誘発性の細胞摂動に重要な細胞保護的な役割を有するタンパク質)またはSH3BGRL3/TIP-B1(TNF抑制タンパク質)の濃度の測定に関わりうる。感作または刺激化学物質によりモジュレートされるタンパク質の包括および組み合わせは新しい化学物質の感作または刺激ポテンシャルを正しく予測することを可能にするであろう。
【0160】
(実施例6)
接触感作剤のバイオマーカーパネル
感作ポテンシャルの一般的マーカーのパネル内で、接触感作物質効果に関連する最強識別マーカーを選択することもできる。PLS-DAを用いて、全ての他のクラスから皮膚感作物質の最強分離を提供する15種のタンパク質のサブグループを同定した(表1、グループ1)。従ってちょっとこれらの15種のタンパク質を測定する標的化分析を実施して公知の皮膚感作物質を検出し、未知の試験化学物質または化学物質の組み合わせが皮膚感作ポテンシャルを有するかどうかを実証することができる。
【0161】
(実施例7)
呼吸器感作剤用のバイオマーカーパネル
感作ポテンシャルの一般的マーカーのパネル内で、呼吸器感作物質効果に関連する最強識別マーカーを選択することもできる。PLS-DAを用いて、全ての他のクラスから呼吸器感作物質の最強分離を提供する10種のタンパク質のサブグループを同定した(表1、グループ2)。従ってちょっとこれらの10種のタンパク質を測定する標的化分析を実施して公知の皮膚感作物質を検出し、未知の試験化学物質または化学物質の組み合わせが皮膚感作ポテンシャルを有するかどうかを実証することができる。
【0162】
(実施例8)
未知化学物質のアレルギーおよび刺激物質ポテンシャルを決定する方法
本発明者らは、Mutz-3培養樹状細胞モデルを用いて、試験時点でそのアレルギーまたは刺激物質状態が未知であった一連の化合物を試験した。Mutz-3細胞を実施例1に記載の通り培養し、5種の未知化学物質(A、B、C;E、F)に曝した。1化合物当たり平均して3つのサンプルを処理した。Mutz-3細胞の培養を公知のアレルゲンPPDおよび公知の刺激物質SDSと共にインキュベートするかまたは無処理で放置してそれぞれポジティブおよびネガティブ対照とした。細胞培養後、使った培地を除去し、将来の分析用に貯蔵した。細胞を洗浄し、収穫し、タンパク質を抽出し、そして実施例1に記載の通りTMTを用いて標識した。
【0163】
それぞれの未知化合物の標識した溶解液をアレルゲン、刺激物質および非感作物質対照および参照細胞消化物と混合し、そして本質的には実施例1に記載のLC-MS/MS 分析で処理した。質量分析の後、データを編集し、表1の130種の定義したマーカーに対するTMTレポーターイオンスペクトルを抽出し、そして試験および対照サンプル中の各タンパク質の相対存在量を決定するために用いた。未知の化学物質を特定のカテゴリーに割付ける第1の試験を構築するために、数学的線形回帰モデルを用いることができる。直接モデルはPLS-DAであって、ここでは、公知の感作物質および刺激物質を、タンパク質プレディクター変数のレベルから未知化学物質の特別な化学クラスを予測する内部参照点として使う。かかるモデルを使って、感作、刺激物質および対照化学に対する重要な識別マーカーの従来の知見に基いてブラインド研究における個々のマーカー性能を分析する。未知の化合物から得た結果をアンブラインド化して真の状態を実際の状態と比較した。5つの事例のうちの4事例において、定量的なタンパク質バイオマーカーパネルは未知化合物に対する化学安全性状態の正しい割付けを可能にした。4つの正しく同定した化学物質に対するこの第1のPLS-DA分析の結果を
図3に示した。PLSスコアプロットは、2つの未知の化学物質をポジティブ対照としてPPD、ネガティブ対照としてSDSに対して試験した個々の測定値を表す。表1から選択されるバイオマーカーに基づく参照化学物質への距離の短かさはこれらの化学物質がいくつかの共通の特性を共有することを示す。これらの感作ポテンシャルは予めマウス局所リンパアッセイ(LINA)またはモルモット皮膚反応試験を用いて決定した。LINAに基づくと、エチレンジアミン(化学物質A)は中度の感作物質として特徴付けられる必要がある典型的なプロハプテンであるが、その故に、細胞培養に基づく試験を用いると、しばしば偽ネガティブ結果が得られる典型的なプロハプテンと見られている(Natch 2010)。化学物質Aのカテゴリーは予測することができないであろう。エチルバニリン(化学物質B)は極度に弱くかつ非感作性として分類されるが、モルモット皮膚試験ではポジティブと試験されている。表1からのバイオマーカーのリストを用いると、化学物質B(エチルバニリン)は弱い感作物質として分類された。化学物質C(ホルムアルデヒド)は強い感作物質として、そして化学物質E(イソプロパノール)およびF(サリチル酸メチル)はそれぞれ非感作物質として正しく分類された。
【0164】
表3:試験化学物質と予測の結果
【表3】
【0165】
(実施例9)
特定経路に関連するバイオマーカーのパネル用の選択反応モニタリング(SRM)アッセイ
色々な化学感作物質アッセイに対する複雑かつ可変性の細胞応答にアプローチするためには、色々な細胞の応答経路を表すいくつかのバイオマーカーの同時分析を可能にするアッセイが必要である。SRMに基づくアプローチは、技法の感度と選択性、多重化能力および抗体の限られた利用可能性の故に、魅力的なELISAの代替法である。本技法では、目的のタンパク質に一意的なサインペプチドを測定し、サンプル中のタンパク質の定量的な情報を提供する。化学曝露実験に応答するペプチド存在量の変化は、典型的な同位体TMT-SRの作業手順を用いて決定することができる。本技法において、定量はTMTゼロで標識したサンプルペプチド-対-TMTシクスプレックス重同位体で標識した内部参照サンプルの相対MS強度に基づいて行われる。
【0166】
表5(
図11)は、統計的有意性および経路表現に基づいてアッセイ開発のために選択した発見データから浮かび上がったバイオマーカー候補を示す。
【0167】
方法
SRM決定のための候補ペプチドの選択
現存するMS/MSデータを用いて、最も高頻度で観察される特異的ペプチドを選択して定量した。もし可能であれば、SRM開発のためにタンパク質1種当たり少なくとも3種のペプチドを選択した。11種のバイオマーカー候補に対する代表的ペプチドを表6(
図12)に示した。選択のための判定基準には次が含まれる:トリプシンによる切断ミスのないことおよび可変性の修飾がないこと(in vivoまたは実験において)
サンプル
発見研究に記載の通り、MUTZ3細胞を感作物質(4μM DNCB、150μM TMA)および刺激物質(200μM SDS)に曝すかまたは無処理のままとした。
【0168】
サンプルの調製
プールしたサンプルをトリプシンで消化しかつTMTシクスプレックスで標識して、定量の参照となるペプチドの重標識バージョンを作製した。試験サンプルを消化しかつTMTゼロで標識して、ペプチドの軽標識バージョンを作製した。各15μgのプールおよび試験サンプルをその後に混合し、固相抽出による引き続いての精製および揮発性バッファーを用いる強カチオン交換を実施した。
【0169】
サンプルのSRM分析
混合した重および軽標識サンプルを5%アセトニトリル(=ACN)、0.2%蟻酸(=FA)に再懸濁し、TSQ Vantageトリプル四重極質量分析計(Thermo Fisher)と結合したAccela 1250液体クロマトグラフィ(LC)系に注入し、そしてSRMデータを得た。対応するTMTシクスプレックス標識およびTMTゼロ標識をしたフラグメントイオン質量を計算し、そしてMS計器パラメーターを個々のQ1およびQ3遷移対について最適化した。プールした細胞溶解液サンプルを消化し、TMTシクスプレックスで標識し、そしてTMTゼロ標識した参照ペプチドと組み合わせた。各ペプチドに対する正確な保持時間を用いると、各SRM遷移に与えられた走査時間を最大化するために用いた保持時間ウインドウでSRMサイクル時間は1.5秒であった。洗浄およびカラムを平衡化する時間を含めて、本方法の総試験時間は23分であった。脱クラスター電圧を5ボルトに設定し、ピーク幅(FWHM)を0.5に設定し、そしてクロムフィルターピーク幅を6秒に設定した。SRMアッセイは153種のSRM遷移物を含み、19ペプチドと11タンパク質をカバーした。SRM遷移物を表6(
図12)に掲げた。
【0170】
データ解析
SRMをSkylineバージョン1.2.0.3425 (https://skyline.gs.washington.edu/labkey/project/home/software/Skyline/begin.view)を介して可視化しかつ全てのピーク整合を可視的に実証した。ピーク面積をMicrosoft Excelに出力した。遷移を合計して各ペプチドに対する全遷移の総強度を得た。内因性(軽)ペプチドの量を、内部の重標識した参照サンプルに対する相対的なピーク面積比に基づいて計算した。
【0171】
結果
SRMマルチマーカーアッセイを適用し、特異的タンパク質応答サインに基づいて、化学感作物質で処理したサンプルを対照および刺激物質サンプルから識別した。表6(
図12)に掲げたマーカーのうちの8つに特異的なペプチドを含むマルチマーカーのパネルの性能を試験するために、サンプルを典型的な接触感作物質(DNCB)および呼吸器感作物質(TMA)および刺激物質(SDS)に曝した。各サンプル(1処理当たり8複製)について3つの分析複製を実施した。SRMペプチドデータを分散分析(ANOVA)(P<0.05)により分析した後、Tukeyの事後(post-hoc)検定(対照と比較したアレルゲン、アレルゲン-対-刺激物質、P<0.05)を行った。表7(
図13)はタンパク質前駆体PGD、MPO、HSPA8、TMSL、S100A8、S100A9およびS100A4から選択した20のペプチドの性能を示す。3つのペプチドを除外した全てのペプチドは有意判定(p<0.05)を合格し、アレルゲンと個々のペプチドとしての対照との間を識別する優れた性能を示した。
【0172】
化学感作物質を正しく同定するポテンシャルを最大化するために、8つのマーカーパネルのROC曲線下面積(AUC)に与える効果を計算した。
図14に示したように、8つのマーカーパネルは、0.96のAUCで化学感作剤を同定する優れた特異性と感受性を示した。この8つのマーカーパネルの、異なるクラスの化学物質を差別化する力をさらに示すために、本発明者らはサンプルのPLS-DAスコアプロットを行った(
図15を参照されたい)。試験セットで用いた4つの化合物は、TMT-SRMアッセイにより決定した異なるタンパク質発現に基づいて優れた分離を示した。
【0173】
参考文献
【0174】
PBMC由来のDC
DC細胞モデルの転写プロファイル(THP-1、Mutz-3):