特許第6232377号(P6232377)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヴィルツ ラルフ マルクスの特許一覧

特許6232377核酸を精製及び/又は単離するマトリックス及び方法
<>
  • 特許6232377-核酸を精製及び/又は単離するマトリックス及び方法 図000003
  • 特許6232377-核酸を精製及び/又は単離するマトリックス及び方法 図000004
  • 特許6232377-核酸を精製及び/又は単離するマトリックス及び方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232377
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】核酸を精製及び/又は単離するマトリックス及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20171106BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   C12N15/00 A
   C12Q1/68 Z
【請求項の数】18
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-524382(P2014-524382)
(86)(22)【出願日】2012年8月9日
(65)【公表番号】特表2014-525750(P2014-525750A)
(43)【公表日】2014年10月2日
(86)【国際出願番号】EP2012065574
(87)【国際公開番号】WO2013021027
(87)【国際公開日】20130214
【審査請求日】2015年8月7日
(31)【優先権主張番号】1113698.3
(32)【優先日】2011年8月9日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514033460
【氏名又は名称】ヴィルツ ラルフ マルクス
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルツ ラルフ マルクス
【審査官】 西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−505430(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第10103652(DE,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0223070(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0223071(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
C12Q 1/68
CA/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的試料から核酸を精製及び/又は単離用マトリックス材料であって、マトリックスは、酸化ゲルマニウムのみを含む表面を含み、前記マトリックス材料は、前記酸化ゲルマニウムに、非共有結合で結合する、マトリックス材料。
【請求項2】
前記マトリックス材料が、下記:
●反応容器被覆、
●粒子、
●粉末、
●繊維、
●膜
からなる群より選択される少なくとも1つの形状で提供される、請求項1に記載のマトリックス材料。
【請求項3】
前記粒子が、下記:
●球状、
●0.01μm〜100μmの直径
からなる群より選択される少なくとも1つの特徴を有する、請求項1または2に記載のマトリックス材料。
【請求項4】
前記材料が、少なくとも部分的に磁気応答性である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のマトリックス材料。
【請求項5】
前記材料が、少なくとも部分的に無機性材料を含む又はからなる、請求項1〜4のいずれか1項に記載のマトリックス材料。
【請求項6】
前記磁気応答性マトリックス材料が、下記:
●酸化鉄、
●磁性ポリマー、
●金
からなる群より選択される磁性又は常磁性材料を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のマトリックス材料。
【請求項7】
生物学的試料から核酸を精製及び/又は単離する方法であって、請求項1〜6のいずれか1項に記載のマトリックス材料が使用される方法。
【請求項8】
精製及び/又は単離される核酸が、下記:
●DNA、
●RNA
からなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
生物学的試料が、下記:
●新鮮な組織試料、
●凍結組織試料、
●固定組織試料、
●法医学若しくは古生物学的(paleontologic)試料
●糞便、乾燥生物学的材料、ミイラ、剥製化生物から得られる試料、
●食品試料及び/又は
●植物試料
からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項7〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
核酸がカオトロピック剤の存在下で精製及び/又は単離される、請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
精製及び/又は単離が、磁気応答性マトリックス材料に磁場を集中させる工程を含む、請求項7〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれか1項に記載の方法用のパーツのキットであって、カオトロピック剤を含むキット。
【請求項13】
前記キットが結合緩衝液及び、TrisおよびEDTAを含む緩衝液,または、TrisおよびEDTAを含む緩衝液の代わりに水を更に含む、請求項12に記載のキット。
【請求項14】
カオトロピック剤が、下記:
●尿素、
●チオ尿素、
●塩化グアニジニウム、
●グアニジニウム塩酸塩、
●グアニジニウムチオシアネートのようなチオシアネート、
●過塩素酸リチウム又は過塩素酸ナトリウムのような過塩素酸塩、
●トリクロロ酢酸ナトリウムのようなトリクロロ酢酸塩、
●ヨウ化ナトリウムのようなヨウ化物、
●バリウム塩
からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項12〜13のいずれか1項に記載のキット。
【請求項15】
カオトロピック剤が、下記:
●尿素、
●チオ尿素、
●塩化グアニジニウム、
●グアニジニウム塩酸塩、
●グアニジニウムチオシアネートのようなチオシアネート、
●過塩素酸リチウム又は過塩素酸ナトリウムのような過塩素酸塩、
●トリクロロ酢酸ナトリウムのようなトリクロロ酢酸塩、
●ヨウ化ナトリウムのようなヨウ化物、
●バリウム塩
からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項7〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記キットが磁気分離器を更に含む、請求項12〜14のいずれか1項に記載のキット。
【請求項17】
キットが、下記:
●分解酵素、
●界面活性剤、
●アルコール
からなる群より選択される少なくとも1つの作用物質を更に含む、請求項12〜14および16のいずれか1項に記載のキット。
【請求項18】
方法が、下記:
●分解酵素、
●界面活性剤、
●アルコール
からなる群より選択される少なくとも1つの作用物質を更に含む、請求項7〜11のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸を精製及び/又は単離するマトリックス及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
序論
生物学的試料から核酸を精製及び単離することは、分子診断学、疫学、食品分析学、法医学及び生物科学における主要な技術である。最も普及している手法の1つは、核酸をカオトロピック剤の存在下でシリカ表面に結合することを含む。この手法の原理は、例えば、Boomら(1990)の臨床微生物学ジャーナル(J Clin Microbiol.)1990年3月;28(3):495〜503に記載されている。この技術を使用するキットは、例えば、BioMerieux、Qiagen又はPromegaにより市販されている。
【0003】
液体試料に溶解した核酸は、シリカ、すなわち非晶質SiOに、高濃度のカオトロピック塩(「結合緩衝液」)の存在下で結合する能力を有する。後者は、周囲にある水和殻(hydration shell)を分裂(disrupting)することによって生体分子を変性する。このことは、陽荷電イオン(例えば、結合緩衝液によりもたらされるナトリウムイオン)が、陰荷電シリカと陰荷電DNA骨格の間に塩橋を形成することを可能にする。次の工程では、低イオン強度緩衝液(「低塩濃度緩衝液」)が、核酸を溶出するために、核酸を溶解してこれらの結合を分裂することに使用される。
【発明の概要】
【0004】
本発明を詳細に記載する前に、本発明は、記載されるデバイスの特定の構成部分又は記載される方法のプロセス工程に限定されないことが理解されるべきであり、それはそのようなデバイス及び方法が変わりうるからである。本明細書に使用される用語は、特定の実施態様を記載する目的のみであり、限定的であることを意図しないことも理解されるべきである。明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈から明白に示される場合を除いて、単数及び/又は複数対象を含むことに注意しなければならない。数値で範囲設定されたパラメーター範囲が提示される場合、範囲はこれらの限定値を含むと見なされることが、更に理解されるべきである。
【0005】
従属クレームは好ましい実施態様に関連する。数値により範囲設定された値の範囲は、前記範囲設定値を含むと理解されるべきことがなお理解されるべきである。
【0006】
本発明によると、生物学的試料から核酸を精製及び/又は単離するための使用に適したマトリックス材料が提供され、このマトリックスは、ゲルマニウム、スズ及び/若しくは鉛又は少なくとも1つのそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む表面を含む。
【0007】
ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)及び鉛(Pb)は、周期表の炭素族に属し、新IUPAC系によると第14族とも呼ばれる。炭素族の残りの元素、すなわち炭素(C)及びケイ素(Si)と比較すると、3つの前者の元素は、高い密度及び原子質量、その上、これらをケイ素及び炭素と区別する良好な電気伝導度を共通して有する。このようにゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)及び鉛(Pb)は第14族の亜族を形成する。以下の表はこのことを明確に示す。
【0008】
【表1】
【0009】
更に、ゲルマニウム、スズ及び鉛は、ケイ素よりも大きなイオン直径を有する。これらの技術的特性は全て、一方ではケイ素と、他方ではゲルマニウム、スズ及び鉛と核酸骨格との結合反応の有意な差に寄与する。
【0010】
好ましい実施態様において、前記マトリックスはゲルマニウム又はゲルマニウム塩、好ましくは酸化ゲルマニウムを含む。
【0011】
ゲルマニウムは、記号がGeであり、原子番号が32の化学元素である。二酸化ゲルマニウム(GeO)は酸化ゲルマニウム(Geoである一酸化ゲルマニウムと相違して)又は「ゲルマニア(Germania)」とも呼ばれ、無機化合物であり、ゲルマニウムの酸化物である。その化学式はGeOである。他の名称には、ゲルマニウム酸、G−15及びACC10380が含まれる。大気酸素と接触すると、純ゲルマニウム上に不動態化層(passivation layer)として形成される。二酸化ゲルマニウムの形成は、ある程度、二酸化ケイ素の形成に近似している。
【0012】
六方晶GeOは、β石英(配位数4を有するゲルマニウム)と同じ構造を有し、正方晶GeO(アルグ石(mineral argutite))は、スティショバイト(stishovite)(配位数6を有するゲルマニウム)のルチル様構造を有し、非晶質(ガラス状)GeOは、溶融シリカと類似している。二酸化ゲルマニウムは、結晶質及び非晶質の両方の形態で調製することができる。シリカと同様に、顆粒状でガラス質の高度に多孔性の形態であるゲル形態で提供することができ、これは、その名称にもかかわらず、ナノメートル範囲の孔を有する大きな内部表面を有する固体である。
【0013】
ゲルマニウムはケイ素よりも高い電気陰性度(2.02対1.74)を有するので、金属表面への例えばGeOの液体に基づいた付着プロセスは、SiOよりも高い効率を有する。更に、高い電気陰性度に起因して、GeOと核酸の結合反応は、GeOドメインがより高い極性を有するのでより強力である。
【0014】
一般に、マトリックス材料は、全体が酸化ゲルマニウムから構成されうる。しかし、好ましい実施態様において、材料の表面のみが酸化ゲルマニウムを含み、一方、材料のコア領域は他の材料を含む。そのような実施態様を使用して、本発明の文脈において有用でありうる他の技術的特徴を酸化ゲルマニウムの核酸結合能力に追加することができる。更に、このことは、ゲルマニウム又はその誘導体よりも安価な材料をコア領域に使用する可能性を開く。
【0015】
本発明の好ましい実施態様において、前記マトリックス材料は、下記:
●反応容器被覆、
●粒子、
●粉末、
●繊維、
●膜
からなる群より選択される少なくとも1つの形状で提供されることが提供される。
【0016】
マトリックス材料が膜である場合、そのような膜を、例えばスピンカラム、例えばカラムに基づいた核酸精製に使用することができる。マトリックス材料が粒子の形態である場合、後者を粒子に基づいた核酸精製系に使用することができる。マトリックス材料が反応容器被覆の形態である場合、核酸を精製の目的で反応容器の壁に結合することができる。マトリックス材料が繊維の形態である場合、羊毛様材料を生成することができ、これを核酸精製のカラムに使用することができる。マトリックス材料が粉末の形態である場合、ガラスミルクに類似した懸濁液を生成することができ、これは大きな表面積を有し、したがって、他の規則的な形状をしたシリカ材料より単位体積につき多くの核酸を結合することができる。
【0017】
本発明の別の好ましい実施態様において、前記粒子は、下記:
●球状、
●≧0.01μm〜≦100μmの直径
の群から選択される少なくとも1つの特徴を有することが提供される。
【0018】
本明細書で使用されるとき、用語「球状」は、目的が縦形状(繊維など)又は平面形状(膜など)と比較することであるので、必ずしも真球又はほぼ真球である必要はない。そのような種類の粒子は、「ビーズ」又はナノ粒子若しくは微小球とも呼ばれる。
【0019】
好ましくは、前記粒子の平均直径は、≧0.05μm〜≦5μmの範囲であり、さらにより好ましくは≧0.1μm〜≦1μmの範囲である。特に好ましくは、平均直径は≧0.15μm〜≦0.25μmの範囲である。
【0020】
本発明の別の好ましい実施態様において、前記材料は少なくとも部分的に磁気応答性であることが提供される。
【0021】
用語「磁気応答性材料」は、任意の磁性、常磁性又は磁化されうる材料を意味する。用語は、磁場の影響下で移動する(migrate)材料の能力も意味する。
【0022】
そのような実施態様において、磁石を使用して、マトリックス材料、例えばビーズを、核酸に結合した後に収集することができる。この実施態様において、洗浄工程又は溶出工程は、特にホルマリン固定パラフィン包埋(FFPF)試料材料を使用したときに促進される(下記を参照すること)。
【0023】
好ましくは、マトリックス材料は、少なくとも部分的に無機性材料を含む又はからなる。マトリックス材料は、下記:
●酸化鉄、
●磁性ポリマー、
●金
からなる群より選択される磁性又は常磁性材料を含むことが特に好ましい。
【0024】
酸化鉄粒子は、例えば、写真複写機のトナーとして市販されている。これらの粒子は、非常に高い基準で生成され、したがって極めて平均したサイズ分布を有し、化学的であり、高い純度を有する。そのような種類の粒子は、シリカ被覆を有しているが、例えばMobitec,Goettingen,DEにより市販されている。あるいは、前記酸化鉄粒子は親水性Feからなり、例えば、BAYOXIDE E8706、E8707、E8709及び/又はE8710として入手可能である。金が磁気特性を有することができるという幾分驚くべき特徴に関しては、Trudel(2011)の金ナノ構造における予想外の磁性:金をさらに魅力的にする(Unexpected magnetism in gold nanostructures: making gold even more attractive)金会報(Gold Bulletin)第44巻、第1号、3〜13が参照される。
【0025】
磁性ポリマービーズでは、粒子マトリックスは、例えば均質に組み込まれたナノメートルサイズの酸化鉄を有するラテックス、ポリスチレン又はシリカからなる。そのような種類のビーズは、例えば、life technologiesによりDynabeadsとして市販されている。
【0026】
特に好ましい実施態様において、例えば、酸化鉄コア及び二酸化ゲルマニウム被覆を有する磁気応答性ビーズが使用される。本発明の別の態様によると、生物学的試料から核酸を精製及び/又は単離する方法が提供され、この方法では本発明のマトリックス材料が使用される。
【0027】
前記方法の好ましい実施態様において、精製及び/又は単離される核酸は、DNA及び/又はRNAからなる群より選択される。核酸は、ゲノムDNA、mRNA及び/又はマイクロRNAであることが特に好ましい。
【0028】
前記方法の特に好ましい実施態様において、生物学的試料は、下記:
●新鮮な組織試料、
●凍結組織試料、
●固定組織試料、
●法医学(Forensic)若しくは古生物学的(paleontologic)試料
●糞便、乾燥生物学的材料、ミイラ、剥製化(taxidermized)生物から得られる試料、
●食品試料及び/又は
●植物試料
からなる群より選択される少なくとも1つである。
【0029】
固定組織試料では、中性緩衝ホルマリン、非緩衝ホルマリン、グルタルアルデヒド、エタノール、アセトン、メタノール、メタカーン(Methacarn)、カルノア固定液、AFA固定液(ホルムアルデヒド、エタノール及び酢酸)、Pen−Fix(アルコールホルマリン固定液)、Glyo−Fixx(グリオキサールに基づいた固定液)、Hope(ヘペス−グルタミン酸緩衝仲介有機溶媒固定液)、並びに/又は亜鉛−ホルマールFixx(亜鉛を含有するホルムアルデヒド固定液)からなる群より選択される少なくとも1つの固定液を好ましい実施態様に使用することができる。
【0030】
好ましい種類の固定組織試料は、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPF)組織試料である。日常的に、腫瘍診断では、組織試料が患者から生検として取り出され、診断法に付される。この目的のため、試料をホルマリンで固定し、パラフィンに包埋し、次に免疫組織化法により検査する。ホルマリン処理は、酵素、例としては遍在性RNA消化酵素(RNAses)の不活性化をもたらす。このため、組織のmRNAの状態(いわゆる、トランスクリプトーム)は、影響を受けないままである。
【0031】
しかし、特に核酸増幅及び検出の手段によるFFPF試料の分子分析は、固定プロセスがタンパク質と核酸を架橋するので困難な方法である。更に、FFPF組織の核酸を溶解するプロセスは、通常は手作業で行われ、非常に誤りを犯しやすい。別の問題は、FFPF試料では、核酸が多くの場合に非常に短いフラグメントに分裂し、PCRによる分析には依然として十分に長いが、標準的手段で単離されるときは問題を起こすことである。
【0032】
そのような試料を、例えば酸化鉄コア及び二酸化ゲルマニウム被覆を有する磁気応答性ビーズが使用される本発明の好ましい実施態様により、成功裏に処理することができる。磁性であるので、前記ビーズを自動の環境に使用することができ、それによって、FFPE組織から核酸を手作業で溶解することにより引き起こされる誤りが排除される。更に、ビーズは核酸の小型フラグメントに結合することもできる。
【0033】
試料が保存される方法にかかわらず、試料の種類は、組織切片、組織マイクロアレイコア、針吸引液からの試料、塗抹試料、顕微解剖試料及び細胞培養物から得た試料を含むことができる。
【0034】
前記方法の別の好ましい実施態様において、核酸は、カオトロピック剤の存在下で精製及び/又は単離される。
【0035】
用語「カオトロピック剤」は、本明細書で使用されるとき、水溶液に十分な高濃度で存在する場合、そこに存在するタンパク質を解き(unfold)、核酸を緩い二次構造にする特定のイオンの塩を意味する。カオトロピックイオンがこれらの効果を有すると考えられ、それは、これらが液体水に存在する水素結合ネットワークを分裂し、それにより変性タンパク質及び核酸を、正確に折り畳まれた又は構造化された対応物よりも熱力学的に安定化させるためである。
【0036】
前記方法のなお別の好ましい実施態様において、精製及び/又は単離は、本発明の磁気応答性マトリックス材料に磁場を集中させる工程を含む。
【0037】
この実施態様では、核酸の結合の後の洗浄工程が促進され、それは、核酸を有するマトリックス材料が一時的に固定化され、それによりこれらが洗い流されて損失することを回避できるからである。
【0038】
本発明の別の態様によると、本発明の方法における使用に適したパーツキット(kit of parts)が提供され、前記キットは、カオトロピック剤及び場合により本発明のマトリックス材料を含む。
【0039】
好ましくは、前記キットは、結合緩衝液及び低塩濃度緩衝液を更に含む。
【0040】
低塩濃度緩衝液としては、TE緩衝液又は水が好ましく使用される。TE緩衝液は、分子生物学において、特にDNA又はRNAを伴う手順において一般的に使用される緩衝溶液である。「TE」は、一般的なpH緩衝液であるトリス及びMg2+のようなカチオンをキレートする分子であるEDTAの成分から導かれる。10:1のTE緩衝液を作成する典型的な処方は、10mMのトリス(HClによりpH8.0)及び1mMのEDTAである。
【0041】
結合緩衝液は、カオトロピック剤及び緩衝液を含み、その上、場合により(界面活性剤)及び/又はNaCl及び/又はKClを高濃度で加えることができる。後者の場合、緩衝液は高塩濃度緩衝液とも呼ばれる。
【0042】
本発明のキット又は方法は、好ましくは、下記:
●尿素、
●チオ尿素、
●塩化グアニジニウム、
●グアニジニウム塩酸塩、
●グアニジニウムチオシアネートのようなチオシアネート、
●過塩素酸リチウム又は過塩素酸ナトリウムのような過塩素酸塩、
●トリクロロ酢酸ナトリウムのようなトリクロロ酢酸塩、
●ヨウ化ナトリウムのようなヨウ化物、
●バリウム塩
からなる群より選択される少なくとも1つのカオトロピック剤を含む。
【0043】
尿素は、好ましくは6〜8mol/lの濃度で使用される。チオ尿素は、好ましくは2mol/lの濃度で使用される。塩化グアニジニウムは、好ましくは6mol/lの濃度で使用される。過塩素酸リチウムは、好ましくは4.5mol/lの濃度で使用される。
【0044】
好ましくは、前記キット又は方法は、下記:
●分解酵素、
●界面活性剤、
●アルコール
からなる群より選択される少なくとも1つの試薬を更に含む。
【0045】
分解酵素にはプロテアーゼが含まれる。プロテイナーゼKはこれらのうちの1つであり、変性緩衝液において実際に極めて良好に作用し、タンパク質が変性するほど、より良好にプロテイナーゼKが作用する。しかしリゾチームは、変性では作用せず、そのためリゾチーム処理は、通常、変性塩の添加前に行われる。界面活性剤は、タンパク質の可溶化及び溶解を助ける。好ましくは、トリトンX100が界面活性剤として使用される。アルコールは、核酸がマトリックスに結合するのを増強し、結合に影響を与えるため及び洗浄の目的のために使用される。好ましくは、エタノール及び/又はイソプロパノールが使用される。
【0046】
好ましい実施態様において、本発明のキットは磁気分離器を更に含む。この実施態様では、核酸の結合の後の洗浄工程が促進され、それは、核酸を有するマトリックス材料が一時的に固定化され、それによりこれらが洗い流されて損失することを回避できるからである。そのような磁気分離器を、好ましくは、エッペンドルフ管のような多数のマイクロ反応容器に収容することができるマイクロタイタープレートの形態で組み入れることができる。前記分離器は、多数のウエルを(試料それ自体又はエッペンドルフ管の収容のために)有する、例えばプレキシグラス製のタブレット又はブロックから構成されうる。タブレット又はブロックの下部には、1個以上の磁石(永久磁石又は電磁石)が配置され、磁気応答性マトリックス材料、例えば、GeO被覆酸化鉄ビーズを誘引する。
【0047】
あるいは、前記磁気分離器は、1個以上の磁石が配置されている、マイクロタイタープレートのサイズを有する個別のタブレット又はブロックから構成することができ、ブロックを、マイクロタイタープレートと共にサンドイッチ構成で使用することができる。そのような分離器の標準的なサイズは、標準的な98ウエルマイクロタイタープレートにおける使用では12.8cm×8.6cm×2.8cmである。
【0048】
本発明のなお別の態様によると、下記:
●法医学、
●分子診断学、
●食品分析学及び/又は
●植物分析学
からなる群より選択される少なくとも1つの目的のために、本発明のキット、方法又はマトリックスの使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
本発明の目的の追加的な詳細、特徴、特性及び利点は、下位クレームにおいて、並びに例示的な様式で本発明の好ましい実施態様を示す対応する図及び実施例の以下の記載において開示されている。しかし、これらの図は、本発明の範囲を限定するものとして理解されるべきではない。
図1】本発明の方法の概略図を示す。
図2】本発明の文脈において使用することができる磁気分離器を示す。
図3】GeO被覆表面と核酸の結合原理を示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
実施例
1.本発明のマトリックス材料の生成
NaGeOは、以下のスキームに従って溶融したとき、炭酸ナトリウムと二酸化ゲルマニウムの反応により生成される。
NaCO+GeO→NaGeO+CO
【0051】
無水NaGeOは、別個のGeO2-イオンからではなく、角を共有する{GeO}四面体から構成される鎖状ポリマーアニオンを含有する。
【0052】
50gの、トナーとして使用される酸化鉄粒子を、1000mlのNaGeOの0.25%水溶液に入れる。1時間撹拌した後、粒子を濾取し、続いて水及びエタノールで洗浄し、次に乾燥する。あるいは、NaGeOの20%溶液を使用することができる。
【0053】
GeO被覆マトリックス材料を作り出す他の方法には、プラズマ強化化学蒸着及び化学蒸着(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition and Chemical Vapor Deposition)が含まれる。
【0054】
2.本発明の核酸精製キット
本発明の核酸精製キットの非限定例は、少なくとも以下の項目を含む。
結合緩衝液(500μl):5Mのグアニジニウムイソチオシアネート、10mMのトリスHCl、20%のトリトン、pH8.8、場合によりNaCl及び/又はKClが高濃度で添加されうる。
洗浄緩衝液:50容量%のエタノール、20mMのNaCl、10mMのトリス−HCl、pH7.5
低塩濃度緩衝液(50μl):50ulのTE緩衝液(10mMのトリス、1mMのEDTA、pH7.0)
GeO被覆粒子(任意):3mg
【0055】
3.本発明のマトリックス材料を有するESRl核酸の精製及び更なる増幅
RNAを、ホルマリン固定パラフィンパラフィン包埋(「FFPF」)腫瘍組織薄片試料から単離する。FFPF薄片を、振とうしながら、プロテイナーゼKにより55℃で2時間溶解及び処理する。結合緩衝液(高塩濃度+カオトロピック塩)及びGeO被覆磁性粒子を加えた後、核酸は粒子に室温で15分以内に結合する。磁気スタンドにより上澄みを取り出し、ビーズを洗浄緩衝液で数回洗浄する。溶出緩衝液(低塩濃度)を添加し、70℃で10分間インキュベートした後、上澄みを、ビーズに接触することなく磁気スタンドで取り出す。
【0056】
37℃で30分間の通常のDNAse I処理及びDNAse Iの不活性化の後、溶液を、逆転転写−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)に使用する。RT−PCRは、mRNA発現の評価のために、ABI7900(Applied Biosystems)PCR系により標準的動態1工程逆転写酵素TaqMan(商標)ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)分析として実施する。
【0057】
RT−PCRの生データを、標準的な方法に従ってハウスキーピング遺伝子に正規化する。
【0058】
実験は、RT PCRによるESRlの決定が免疫組織化学(IHC)による分析よりも一貫して良好な結果を生じることを示す。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0059】
【非特許文献1】臨床微生物学ジャーナル(J Clin Microbiol.)1990年3月;28(3):495〜503
【非特許文献2】金ナノ構造における予想外の磁性:金をさらに魅力的にする(Unexpected magnetism in gold nanostructures: making gold even more attractive)金会報(Gold Bulletin)第44巻、第1号、3〜13
図1
図2
図3