特許第6232378号(P6232378)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232378
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】示差屈折率検出用フローセル
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/05 20060101AFI20171106BHJP
   G01N 21/41 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   G01N21/05
   G01N21/41 B
【請求項の数】30
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-526190(P2014-526190)
(86)(22)【出願日】2012年8月16日
(65)【公表番号】特表2014-521981(P2014-521981A)
(43)【公表日】2014年8月28日
(86)【国際出願番号】US2012051028
(87)【国際公開番号】WO2013025851
(87)【国際公開日】20130221
【審査請求日】2015年8月7日
(31)【優先権主張番号】61/523,915
(32)【優先日】2011年8月16日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509131764
【氏名又は名称】ウオーターズ・テクノロジーズ・コーポレイシヨン
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジーンノッテ,アンソニー・シー
【審査官】 横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第03612697(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0231911(US,A1)
【文献】 特表2008−547029(JP,A)
【文献】 実開平04−113060(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/83
G01N 30/00−30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差屈折率検出のためのフローセルであって、
縦軸に沿って第1端から第2端まで延在する透明体を備え、前記透明体が、
前記縦軸に沿って前記透明体の前記第1端と前記第2端との間での流体フローを可能にするように構成された、試料プリズムチャンバおよび
参照流体を収容するように構成された参照プリズムチャンバ
を画成し、
前記試料プリズムチャンバおよび参照プリズムチャンバがそれぞれ、前記縦軸に沿って流体フローの方向に延在する複数の溝を備えるグレーチングを備える、フローセル。
【請求項2】
前記グレーチングが、エシェルグレーチングである、請求項1に記載のフローセル。
【請求項3】
透明体が、第1および第2外側光学表面を含み、前記試料プリズムチャンバおよび参照プリズムチャンバが間に置かれ、ならびに
前記グレーチングが、互いに平行に、ならびに前記第1および第2外側光学表面に対して角度を付けて配置されている、請求項1に記載のフローセル。
【請求項4】
前記透明体が、前記試料プリズムチャンバおよび参照プリズムチャンバを分ける透明隔壁を備え、前記隔壁が前記試料プリズムチャンバの境界を画成する第1平滑表面および前記参照プリズムチャンバの境界を画成する、前記第1平滑表面に対向した第2平滑表面を備える、請求項1に記載のフローセル。
【請求項5】
前記透明体が、第1および第2外側光学表面を含み、前記試料プリズムチャンバおよび参照プリズムチャンバが間に置かれ、ならびに
前記透明隔壁の前記平滑表面が前記グレーチングに対して平行に、ならびに前記第1および第2外側光学表面に対して角度を付けて配置されている、請求項4に記載のフローセル。
【請求項6】
前記グレーチングが、前記プリズムチャンバに三角形断面を有するチャンバと同じ光学辺長を与える、請求項1に記載のフローセル。
【請求項7】
前記グレーチングが、前記プリズムチャンバに、前記プリズムチャンバと同じ光学辺長を持つ三角形断面を有するチャンバの大きさの4分の1である断面積を与える、請求項6に記載のフローセル。
【請求項8】
前記透明体の少なくとも一部が、シリカで形成されている、請求項1に記載のフローセル。
【請求項9】
前記透明体の少なくとも一部が、光学グレードの透明ポリマーで形成されている、請求項1に記載のフローセル。
【請求項10】
前記光学グレードの透明ポリマーが、ポリカーボネート、アクリルおよびシクロオレフィンポリマーから成る群から選択される、請求項9に記載のフローセル。
【請求項11】
前記試料チャンバおよび参照チャンバを画成する前記透明体の表面上に保護表面層をさらに備え、前記保護表面層がクロマトグラフィー移動相に対して耐性である、請求項1に記載のフローセル。
【請求項12】
示差屈折率検出のためのフローセルであって、
縦軸に沿って第1端から第2端まで延在する透明体を備え、前記透明体が、
前記縦軸に沿って前記透明体の前記第1端と前記第2端との間での流体フローを可能にするように構成された、第1プリズムチャンバおよび
第2プリズムチャンバを画成し、
前記第1プリズムチャンバが、前記縦軸に沿って流体フローの方向に延在する複数の溝を備えるグレーチングを備える、フローセル。
【請求項13】
前記グレーチングが、エシェルグレーチングである、請求項12に記載のフローセル。
【請求項14】
前記透明体が、第1および第2外側光学表面を含み、前記第1および第2プリズムチャンバが間に置かれ、ならびに
前記グレーチングが、前記第1および第2外側光学表面に対して角度を付けて配置されている、請求項12に記載のフローセル。
【請求項15】
前記グレーチングが、前記第1および第2外側光学表面に対して5度から85度の角度で配置されている、請求項14に記載のフローセル。
【請求項16】
前記グレーチングが、前記第1および第2外側光学表面に対して45度の角度で配置されている、請求項15に記載のフローセル。
【請求項17】
前記透明体が、前記試料プリズムチャンバおよび参照プリズムチャンバを分ける透明隔壁を備え、前記隔壁が前記試料プリズムチャンバの境界を画成する第1平滑表面および前記参照プリズムチャンバの境界を画成する、前記第1平滑表面に対向した第2平滑表面を備える、請求項12に記載のフローセル。
【請求項18】
前記透明体が、第1および第2外側光学表面を含み、前記第1および第2プリズムチャンバが間に置かれ、ならびに
前記透明隔壁の前記平滑表面が、前記グレーチングに対して平行に、ならびに前記第1および第2外側光学表面に対して角度を付けて配置されている、請求項17に記載のフローセル。
【請求項19】
前記透明隔壁が、前記第1および第2外側光学表面に対して5度から85度の角度で配置されている、請求項18に記載のフローセル。
【請求項20】
前記透明隔壁が、前記第1および第2外側光学表面に対して45度の角度で配置されている、請求項19に記載のフローセル。
【請求項21】
前記グレーチングが、前記試料プリズムチャンバに三角形断面を有するチャンバと同じ光学辺長を与える、請求項1に記載のフローセル。
【請求項22】
前記グレーチングが、前記第1プリズムチャンバに、前記第1プリズムチャンバと同じ光学辺長を持つ三角形断面を有するチャンバの大きさの4分の1である断面積を与える、請求項21に記載のフローセル。
【請求項23】
前記透明体が、シリカで形成されている、請求項12に記載のフローセル。
【請求項24】
前記透明体が、光学グレードの透明ポリマーで形成されている、請求項12に記載のフローセル。
【請求項25】
前記光学グレードの透明ポリマーが、ポリカーボネートおよびシクロオレフィンポリマーから成る群から選択される、請求項24に記載のフローセル。
【請求項26】
前記グレーチングが、保護表面層を備える、請求項12に記載のフローセル。
【請求項27】
試料プリズムチャンバおよび参照プリズムチャンバを含有するフローセルを通るように光学ビームを方向付ける段階、
前記試料プリズムチャンバを通じて流体フローを移送する段階、
前記光学ビームの検出された偏向に基づいて前記流体フロー中の検体の存在を検出する段階を含み、
前記試料プリズムチャンバが、前記流体フローの方向に対して平行に延在する複数の溝を備えるグレーチングを含む、方法。
【請求項28】
前記光学ビームの偏向を1つ以上の検出器によって検出する段階を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記移送された流体フローが、分離装置からの溶離液を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
フローセルの透明体の少なくとも一部を形成するために光学グレード透明ポリマーを成形する段階であって、前記透明体が、
前記透明体を通じた流体フローを可能にするように構成され、グレーチングを備える、試料プリズムチャンバおよび
参照流体を収容するように構成された、参照プリズムチャンバ
を画成する段階、ならびに
前記試料チャンバおよび参照チャンバを前記試料チャンバおよび参照チャンバ内に含有される流体に対して耐性とするために、前記透明体の表面上に保護表面層を成膜する段階を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2011年8月12日に出願された米国仮特許出願第61/523,915号の優先権を主張する。米国仮特許出願第61/523,915号の内容全体は、参照により本明細書に組み入れられている。
【0002】
本開示は、示差屈折率検出用のフローセルに関するものである。
【背景技術】
【0003】
示差屈折率(RI)検出の原理は概して周知である。示差屈折検出器は、流体流(移動相中に含有された検出される1つ以上の検体を含有する「試料」経路)の屈折率と、検体を含まない、静止していることが多い流体試料、即ち「参照」の屈折率との差を調べる。この測定を行うために、多様な光学的方法、例えばビーム偏向、フレネル反射または干渉法が用いられてきた。屈折率検出器は、液体クロマトグラフィーでの分析に、特に興味のある検体に好適なUV発色団がない場合に頻繁に用いられる。
【0004】
検体を含む溶液の屈折率は、検体濃度に実質的に線形的に依存している。試料流体と参照流体との屈折率の差は、ほぼ10の濃度範囲にわたることが多い。対応する屈折率差は、10−9から10−2RI単位に及ぶ。例えば水は、スペクトルの可視領域におよそ1.333の屈折率を有する;上限検体濃度は、この値を1.3335まで上昇させることがあり、差は0.0005RI単位に等しい(または1ミリRI=0.001RI単位である場合、0.5ミリRI単位)。検体および移動相に応じて、屈折率の差は正となることも、または負となることもある。頻繁に用いられる光学的方法はいわゆるビーム偏向法であり、これにより光学ビーム(「光線」)は、並列したプリズム形状チャンバを含有するフローセルを通るように方向付けられる:試料流体は、チャンバの長軸に沿って、即ちプリズムまたは三角形プロフィールを含有する平面に対して垂直方向に流れる。1個のチャンバは、被試験試料を含有し、第2のチャンバは参照流体を含有する。各チャンバを通過する光線(光学ビーム)は、各チャンバ内の絶対屈折率によって依存する程度まで屈折し、セルから出るときに、チャンバ内の流体間の屈折率差に関連付けできる全偏向角を有する。この偏向角によって、1つ以上の光ダイオードなどの光検出手段が位置する検出平面にて、光学ビームの位置に変化がもたらされる。このため、光ダイオードが2個の場合、屈折率差がなければ、各検出器は、このバランスの取れた状態に関連付けられた、実質的に等しい信号レベルを通知する。検体によって試料(プリズム)チャンバの屈折率が変化すると、検出器信号の一方が上昇するのに対して、他方の信号が低下するのは、ビームが最初の位置から今や偏向されているためである。これらの2つの信号は、屈折率差の値を与え、この実験に先行する較正段階を通じて、検体濃度の読取値を出力するような方法で処理される。
【0005】
従来のプリズム(正三角形であることが多い。)形状チャンバの制限は、この形態の分散性特徴である。円形流体コンジットとは異なり、三角形形状コンジットにおける流体速度プロフィールは、きわめて非対称性であり、カラムから溶離したクロマトグラフピークの分散またはピーク幅を増大させる傾向がある。これらの制限にもかかわらず、示差RI検出器がクロマトグラフィー技術者の備品の中で重要なツールと見なされるのは、これにより、通例、UV吸光度または蛍光などのより感受性の高い方法によって、検出に好適な発色団を持たない検体の検出が可能となるためである。クロマトグラフィーピーク自体が比較的広い、例えば内径が4.8から7.6mm以上の範囲のクロマトグラフィーカラムから生成され得る場合にこれらの制限は処理可能であるのに対して、分離効率を向上させて、溶媒消費量を減少させるためにカラム直径がより小さくなる傾向は、フローセル自体からの寄与を含めて、ポストカラム分散の最小化により多くの注意を向けねばならないことを意味している。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、一部は、屈折率検出用のフローセルが、流体速度プロフィールの改善に寄与可能であり、従来のフローセルと比べてより小さい総容積を与えることも可能である形態を備えられるという認識から生じている。特に、フローセルのプリズムチャンバは、フローセルの全体の性能を著しく損なわないのと同時に、プリズムチャンバの流体容積の低減に役立つグレーチングを備えることができる。
【0007】
従って、本発明の一態様は、示差屈折率検出用フローセルを特徴とする。フローセルは、縦軸に沿って第1端から第2端まで延在する透明体を含む。透明体は、試料プリズムチャンバおよび参照プリズムチャンバを画成している。試料プリズムチャンバは、縦軸に沿った透明体の第1端と第2端との間での流体フローを可能にするように構成されている。参照プリズムチャンバは、参照流体を収容するように構成されている。試料プリズムチャンバおよび参照プリズムチャンバはそれぞれ、縦軸に沿って流体フローの方向に延在する複数の溝を備えるグレーチングを含んでいる。
【0008】
本発明の別の態様は、示差屈折率用の検出フローセルを特徴とする。フローセルは、縦軸に沿って第1端から第2端まで延在する透明体を含む。透明体は、第1プリズムチャンバおよび第2プリズムチャンバを含む。第1プリズムチャンバは、縦軸に沿った透明体の第1端と第2端との間での流体フローを可能にするように構成されている。第1プリズムチャンバは、縦軸に沿って流体フローの方向に延在する複数の溝を備えるグレーチングを含んでいる。
【0009】
また別の態様において、本発明は、試料プリズムチャンバおよび参照プリズムチャンバを含有するフローセルを通るように光学ビームを方向付けること、試料プリズムチャンバを通るように流体フローを移送すること;および光学ビームの検出された偏向に基づいて流体フロー中の検体の存在を検出することを含む方法を特徴とする。試料プリズムチャンバは、流体フローの方向に対して平行に延在する複数の溝を備えるグレーチングを含む。
【0010】
さらなる態様において、本発明は、フローセルの透明体を形成するために光学グレード透明ポリマーを成形することを含む方法を特徴とする。透明体は、透明体を通じた流体フローを可能にするように構成され、グレーチングを備えた、試料プリズムチャンバおよび参照流体を収容するように構成された参照プリズムチャンバを画成する。該方法は、試料チャンバおよび参照チャンバを、これらのチャンバ内に含有される流体に対して耐性とするために、透明体の表面上に保護表面層を成膜することも含む。幾つかの場合において、含有される流体は、例えば液体クロマトグラフィー移動相であってよい。
【0011】
実施において、以下の利点の1つ以上を提供することができる。
【0012】
幾つかの実施において、流体速度プロフィールを改善するのに役立ち、セルの総容積を小さくすることも可能である、フローセル形状が提供される。
【0013】
幾つかの場合において、検体ピークのブロード化またはピーク分散を最小限に抑えるために有益であるフローセル形状が提供される。
【0014】
幾つかの実施において、より低い総コストで製造収率を改善するのに役立つ、屈折率検出用フローセルの構築方法が提供される。
【0015】
他の態様、特徴および利点は、説明、図面および特許請求の範囲に示されている。
【0016】
同じ参照番号は同じ要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】従来の示差屈折率検出用フローセルの透明体の斜視図である。
図2】透明体を通過する光線を示す、図1の透明体の断面図である。
図3A】示差屈折率検出用エシェルフローセルの透明体の平面図である。
図3B】線3B−3Bに沿って得た図3Aの透明体の断面図である。
図3C】透明体を通過する光線を示す、図3Aの透明体の断面図である。
図4】示差屈折率検出について、従来技術のフローセルの計算されたRI応答と、エシェルフローセルを有するRI応答を比較している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ビーム偏向による示差RI検出のための従来のプリズムチャンバを備えたフローセル10を図1および2に示す。このような従来のフローセルは、NSGプレシジョンセルから市販されている。図1を参照すると、従来のフローセル10は、透明体12の第1端14および第2端16の間に延在する一対のプリズムチャンバを有する、透明体12を含んでいる。プリズムチャンバは、試料流体のフローを収容するための試料プリズムチャンバ18および参照流体を収容するための参照プリズムチャンバ20を含む。チャンバの順序は逆転させてよい;即ち透明体12は、ビーム偏向工程の本質的な特徴を変化させることなく、XまたはZ軸を中心として180°回転させてよい。流体をプリズムチャンバ18、20中へまたはプリズムチャンバ18、20から移送するためのセル端部キャップまたは流体入口および出口ポート(図示せず)は通例、透明体12の端部14、16付近に位置する。流体ポートは、X−YまたはY−Z平面のどちらかに位置してよいが、より通例には、これらは、図1でZ軸に対して平行であるように示されている、従来のフローセル10の縦軸に対して垂直である。プリズムチャンバ18、20の実際のサイズは通常、ピーク容積、光学検出感度および他の重要な変数などの製造上および機能上の要件によって、装置設計者に指示される。
【0019】
図2は、単一の光線40が2個のプリズムチャンバ18、20を通過するのが示されている従来のフローセル10の断面図を示す。バランス状態では、試料プリズムチャンバおよび参照プリズムチャンバ18、20中の流体の屈折率は同じであり、光線40は、従来のフローセル10をこれの傾斜角度の変化なしに通過する。第2の光線42は、試料プリズムチャンバ18内の流体(試料流体)の屈折率が参照プリズムチャンバ20内の流体(参照流体)の屈折率がとは異なる状態に相当し、入射光線の正味偏向をもたらし、この偏向は1個以上の検出器に検知された信号の変化に基づいて測定可能である。
【0020】
光学系を用いて従来のフローセル10を通じて光源から光を収集して方向付けて、次に従来のフローセル10を通過した光を収集して、これを1個以上の光検出器(例えば光ダイオード)まで方向付ける。例えば上流クロマトグラフィーカラムの出口から流れてくる試料流体が試料プリズムチャンバ18に進入して通過する間の光検出器の連続読取値を監視して、上流クロマトグラフィー分離によって生成された検体ピークの時間および振幅の両方を同定する。従来のフローセル10に進入する検体ピークは、カラムによって分離された効率を示す一定の幅を有するとして特徴付けられる。このピークは通例、従来のフローセル10を通過するときに広がり、このブロード化またはピーク分散を最小化することは、フローセル設計の1つの目的である。三角形形状フローコンジットは、他のことが同じならば、円形形状よりも大きい分散をもたらすことが予想できる。コンジットの断面の突然の変化によってフロープロフィールへの妨害が生じることがあり、このような妨害によってフローが低速であるもしくは停滞した領域、またはそうでなければピーク分散が上昇して検出感度が低下する低スイープ(poorly−swept)領域がもたらされることがあるのは、検体がここでより大きい流体容積に分散されて検体の濃度を低下させるためである。
【0021】
図3Aおよび3Bは、本発明によるRI検出のためのフローセル100の実施を示す。フローセル100は、図1の従来のフローセル10と本質的に同じ機能を行う;しかしフローセル100は、流体速度プロフィールの改善に寄与することができ、小さい総容積のセルを提供できる代わりの形態を有するという点で、従来のフローセルとは異なる。
【0022】
フローセル100は、縦軸130に沿って第1端114から第2端116まで延在する透明体110を含む。透明体110は、試料プリズムチャンバ118および参照プリズムチャンバ120を含む一対のプリズムチャンバを画成している。フローセル100は、透明体110の各端部114、116に端部キャップ132も含む。セル端部キャップ132は、プリズムチャンバ118、120中へ、およびプリズムチャンバ118、120から流体を移送するための、プリズムチャンバ118、120と流体連通している流体ポート134をそれぞれ含む。
【0023】
とりわけプリズムチャンバ118、120はそれぞれグレーチング136を含む。グレーチング136は、透明体110の第1および第2の外側光学表面138、139に対して約5度から約85度、例えば45度の角度で配置されている。グレーチングは、平行に離間された溝140のアレイである。溝140は、透明体110の縦軸130に沿って、流体フロー(に対して平行)の方向(試料プリズムチャンバを通って流体が移動する方向)に延在している。溝または段階が流体フローの方向に対して垂直である配列は、渦(即ち局所乱流区域)の形成に寄与することができ、渦の形成は流体種の望ましくない混合が起こる可能性があり、検体ピークブロード化またはピーク分散に寄与し得る。
【0024】
これらのグレーチング136によって、プリズムチャンバ118、120は、図2に描かれている(および点線で図3Bに示す)対応する「三角形」チャンバよりも小さい容積を有することができる。グレーチング136は、図3Aおよび3Bに示すようなエシェルグレーチングであることができる。エシェルグレーチングは通例、低い溝密度(例えば1ミリメートル当たりの溝)を有するタイプのグレーチングである。三角形の鋭角の角を除いて、エシェルグレーチングは三角形全体と同じ光学辺長(図2の「L」)を有し、このため同じ前部面積を有するが、全体の断面積は(ゆえにチャンバのZ長を考慮した場合は体積)より小さい。これは三角形断面の断面を点線で描いている図3Bに示されている。これらの形態の相違の結果として、フローセル100の断面積は従来のセル10の断面積よりも小さく、これにより例えば容積が4分の1であるフローセル100が提供される。溝密度を上昇させることによって、容積をさらに減少させることができる。
【0025】
試料プリズムチャンバおよび参照プリズムチャンバ118、120は、各プリズムチャンバ118、120の少なくとも1つの境界を画成する第1および第2の対向する平滑表面152、154を有する透明隔壁150によって分けられている。透明隔壁150は、透明体110の一体化部分であってよく、グレーチングに対して平行に、透明体110の第1および第2外側光学表面138、139に対して約5度から約85度、例えば45度の角度で配置されている。図3Cは、透明体110の第1外側光学表面138を通過して、次に試料プリズムチャンバ118中に入り、次に透明隔壁150を通過して、参照プリズムチャンバ120中に入り、続いて透明体110の第2の光学表面139から出る単一の光線160を示す。バランス状態では、試料プリズムチャンバおよび参照プリズムチャンバ118、120中の流体の屈折率は同じであり、光線160は、チャンバ118、120をこれの傾斜角度の変化なしに通過する。第2の光線162は、試料プリズムチャンバ118内の試料流体の屈折率が参照プリズムチャンバ120内の参照流体の屈折率がとは異なる状態に相当し、入射光線の正味偏向をもたらす。
【0026】
実際に、図2の従来のフローセル10は、検出器の感光性部にフローセル10から鏡面反射され得る光を最小限に抑えるために、透明体12の縦軸30を中心として小さな角度で回転させてよい。エシェルグレーチングを有する図3Aおよび3Bのフローセル100によってこのことが行われる場合、わずかな回転によって各段階の「トレッド142」によるシャドーイング効果が生成され、検出信号全体に多少の低減がもたらされる。
【0027】
図4は、両方のフローセル形態の計算された応答(ニューメキシコ州サンタフェのOptiCADコーポレーションから入手できるOptiCAD(登録商標)Ray Traceソフトウェアを利用して計算)の比較(即ち従来のフローセル10およびフローセル100を比較)をRI差の関数として描いている。試料プリズムチャンバと参照プリズムチャンバとの間のRIに差がない場合、2つの光線が一体化するフローセルを通過した後に、入力ビームの角偏向の変化はない(従来のフローセルについては図2に、「エシェル」フローセルについては図3Cに描かれている。)。RIを変更すると、ビームは、プリズム角度および既知の光機械設計因子によって制御される程度まで偏向される;「エシェル」偏向(即ちエシェルグレーチングに起因する偏向)は、従来のフローセルにおける応答より小さい、わずか0.8%であり、試験を行ったRI差の範囲にわたって線形である。
【0028】
また図4には、右縦座標を基準とした、2つのフローセル形態の相対信号レベル(検出器(光ダイオード2個)に当たる光線「スポット」の総数に対応する。)が示されている。グラフには0.85の相対信号レベルに水平線が描かれ、エシェルフローセル100が伝達するエネルギーは、従来のフローセル10よりも約15%少ないことを意味している。この差は、シャドーイング効果に起因している。各タイプのフローセルは、エシェルセル100の場合には、トレッド142(図3B)の一部を入射光に暴露する方向に小さな角度(例えば約0.5°から約5°、例えば2.5°)回転させる。エシェルセルの特定の機械パラメータはセル回転角と共に、15%のエネルギー低減の十分な根拠であり、この低減は全体の分析感度にはほとんど影響を及ぼさないはずである。
【0029】
フローセル100の透明体110は、光源から放射される波長範囲にわたって光透過性である材料で作られるべきである。端部キャップ132を含む、フローセル100の光透過性でない部分は、製造しやすくするために、透明体110と同じ材料で作られてよい。例えばフローセル100は、別個のシリカ基材が例えば機械加工、レーザーまたは化学エッチングによって個別に形成され、次に組立てられて所望の形態を得る公知の方法に従って形成することができる。組立てられた基材を高温融着させて基材を接合し、これにより一体構造を形成する。この方法は、中間研磨(例えば多様な層の融着接合の間)および流体ポートの追加(穿孔)などを含むことができる。石英ガラスは、約0.02ミクロンから約3ミクロンの波長にわたって高い透明性である。他の材料は、ボロシリケート、特定の酸化物、フッ化物、カルコゲニドなどが挙げられる。
【0030】
または、フローセル100は、光学グレードの透明ポリマー、例えばポリカーボネートまたはシクロオレフィンポリマー(COP)(例えば日本、東京に本社がある日本ゼオン株式会社が開発した、ZEONEX(登録商標))から形成(例えば成形)することができる。このような方法は、シリカを扱うのに必要なより労働集約的で注意を要する方法と比べて、比較的低い総コストで、より高い製造収率をもたらす。幾つかの場合において、グレーチングには、代表的なLC移動相などに対してチャンバを耐性にするために、サファイヤまたは当分野で公知の他の化学的に不活性な材料などの適切な保護表面層の成膜を行うことができる。原子層成膜法などの技法をこのような目的に用いてよい;このように生成されたコーティングは、性質がコンフォーマルであり、直線的(line−of−sight)成膜技法からの成膜材料の望ましくない蓄積を潜在的に回避する。
【0031】
一部の実施について詳細に上述してきたが、他の変更形態も可能である。例えば、エシェルグレーチングは、段階の数およびこれらの段階から斜辺までの距離と同様に、トレッド:ライザ寸法の比を調整することによって他のプリズム角度まで延伸させることが可能である。幾つかの場合で、参照プリズムにはグレーチングがない。
【0032】
光学ビーム(光線)が参照プリズムチャンバを通過する前に試料プリズムチャンバを通過するように、フローセルの透明体が配置されている例を挙げたが、幾つかの場合では、代わりに、光学ビームが試料プリズムチャンバを通過する前に参照プリズムチャンバを通過するように、フローセルを配置してよい。
【0033】
他の場合では、検出ゾーンの全体的な熱的制御を改善するために、単一のグレーチング構造を成形して、これを従来の機械加工された部品と組み合せることが好都合であり得る。
【0034】
グレーチングは鋭角の角を有して図示されているが、幾つかの実施では、グレーチングの端部に丸みを付けた角を設けることができる。
【0035】
幾つかの実施では、光が透過するフローセル体の外面に反射防止コーティングすることができる。RI測定に用いる光の波長範囲に基づいて、特性を選ぶことができる。従って、他の実施は、以下の特許請求の範囲の範囲内である。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4