(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232434
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】バイアル用キャップ
(51)【国際特許分類】
B65D 51/18 20060101AFI20171106BHJP
A61J 1/05 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
B65D51/18
A61J1/05 315D
【請求項の数】15
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-534060(P2015-534060)
(86)(22)【出願日】2014年7月1日
(86)【国際出願番号】JP2014067504
(87)【国際公開番号】WO2015029580
(87)【国際公開日】20150305
【審査請求日】2016年3月2日
(31)【優先権主張番号】特願2013-180913(P2013-180913)
(32)【優先日】2013年9月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000206185
【氏名又は名称】大成化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100107593
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100107445
【弁理士】
【氏名又は名称】小根田 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】110002088
【氏名又は名称】特許業務法人プロイスIPパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】小川 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】宮武 諭
【審査官】
宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−230839(JP,A)
【文献】
米国特許第06042770(US,A)
【文献】
特開2011−093586(JP,A)
【文献】
特開平08−085565(JP,A)
【文献】
国際公開第94/004424(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0160850(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0266249(US,A1)
【文献】
特開平04−267761(JP,A)
【文献】
特開2012−106763(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0000870(US,A1)
【文献】
国際公開第2013/034594(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0089862(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 51/18
A61J 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイアルの口部に外嵌され且つ中央部に上下方向に貫通する貫通孔を有する合成樹脂製キャップ本体と、該キャップ本体上面に取り外し可能に取付けられて前記貫通孔を塞ぐ合成樹脂製保護カバーとを備えるバイアル用キャップにおいて、前記キャップ本体及び保護カバーのいずれか一方を射出成形法により成形した後、他方を成形するための射出成形金型内に前記一方をインサートして、該一方の他方に対する接触面を、他方の一方に対する接触面を形成する賦形面として他方を射出成形法により成形することにより、キャップ本体と保護カバーとの接触面間に接着力を生じさせたことを特徴とするバイアル用キャップ。
【請求項2】
請求項1に記載のバイアル用キャップにおいて、キャップ本体は、その上面から上方に突設され且つ前記貫通孔の周囲に位置する環状凸部を備え、該凸部の外周面若しくは内周面には径方向に窪む凹部が形成され、保護カバーは、前記凹部を埋める係合部を備えていることを特徴とするバイアル用キャップ。
【請求項3】
請求項2に記載のバイアル用キャップにおいて、キャップ本体の上面は保護カバーの下面と面接触しており、該キャップ本体の接触面は前記環状凸部の周囲に位置していることを特徴とするバイアル用キャップ。
【請求項4】
請求項2に記載のバイアル用キャップにおいて、前記環状凸部は、周方向に連続するリッジを備えることを特徴とするバイアル用キャップ。
【請求項5】
請求項2に記載のバイアル用キャップにおいて、前記環状凸部は、周方向に離間して配設された複数の爪部を備え、各爪部は上端側が径方向外方に傾斜され、該爪部の外周面に前記凹部が形成されていることを特徴とするバイアル用キャップ。
【請求項6】
請求項2に記載のバイアル用キャップにおいて、前記凹部は、前記凸部の外周面に形成されており、前記保護カバーは、前記係合部よりも径方向外方に延びるフランジ部を備え、該フランジ部の外周縁の下方には、少なくとも周方向一部に指掛け用スペースが形成されていることを特徴とするバイアル用キャップ。
【請求項7】
請求項2に記載のバイアル用キャップにおいて、前記保護カバーの上面には、前記環状凸部の上方に位置する補強リム部が設けられていることを特徴とするバイアル用キャップ。
【請求項8】
請求項2に記載のバイアル用キャップにおいて、
前記キャップ本体は、バイアルの口部に内嵌された栓体を押さえる天板部と、バイアルの口部外周を覆う筒状部とを備え、
前記貫通孔及び環状凸部は前記天板部に設けられ、
前記筒状部は、バイアルの口部に上下方向に係合するスナップ部が内周面に設けられているとともに、周方向の少なくとも一部に上下方向に延びるスリットが形成されており、
前記保護カバーは、前記スリットを埋める接続片をさらに備え、前記スリットが拡がるような前記筒状部の変形が前記接続片によって阻止されるとともに、前記接続片が前記筒状部から除去されるとスリットが拡がるように筒状部が変形して、バイアル口部からキャップ本体が取り外し可能となることを特徴とするバイアル用キャップ。
【請求項9】
請求項1に記載のバイアル用キャップにおいて、前記保護カバーは、前記貫通孔に内嵌されるボス部を備えていることを特徴とするバイアル用キャップ。
【請求項10】
請求項1に記載のバイアル用キャップにおいて、前記キャップ本体は天板部を有し、該天板部の上面が前記保護カバーに対する前記接触面となり、前記貫通孔は前記天板部の中央部に設けられ、前記天板部の下面には、バイアルの口部に内嵌された栓体の上面に食い込む少なくとも一つの回転防止突起が設けられていることを特徴とするバイアル用キャップ。
【請求項11】
請求項10に記載のバイアル用キャップにおいて、複数の前記回転防止突起が周方向に離間して配設されていることを特徴とするバイアル用キャップ。
【請求項12】
請求項10に記載のバイアル用キャップにおいて、前記回転防止突起は、バイアルの口部の口上面に上下方向に対向する位置に設けられていることを特徴とするバイアル用キャップ。
【請求項13】
請求項10に記載のバイアル用キャップにおいて、前記天板部の下面には、前記貫通孔の周囲に位置する環状リブが設けられ、該環状リブが前記栓体の上面に気密状に接触することを特徴とするバイアル用キャップ。
【請求項14】
請求項13に記載のバイアル用キャップにおいて、前記環状リブは、前記貫通孔の周縁と前記回転防止用突起との間を通過するよう形成されていることを特徴とするバイアル用キャップ。
【請求項15】
請求項13に記載のバイアル用キャップにおいて、前記環状リブは、前記貫通孔の周縁と前記回転防止用突起との間を通過するよう形成され、前記環状リブと前記天板部の周縁部の間の領域で前記天板部の下面には上方に凹む凹部が形成され、これにより前記凹部が形成された領域における前記天板部の板厚が前記天板部の周縁部の板厚よりも薄く形成されて環状リブにおいて前記天板部が局所的に前記栓体上面に気密的に接触することを特徴とするバイアル用キャップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイアル用キャップに関する。
【背景技術】
【0002】
薬液などの医薬品を患者への投与時までバイアル内に密封収容しておくことは医薬業界において一般的に行われている。薬液の保証保存期間を延ばすことが要求される場合には、薬液はバイアル内で凍結乾燥されて、凍結乾燥製剤が密封されたバイアル内に保管され、患者への投与時に希釈液若しくは溶媒を加えることによって液状に戻される。また、薬液を凍結乾燥させることなくバイアル内に保管されることもある。また、予め製造された粉状等の固形薬物をバイアル内に保管される場合もある。以下、薬液、凍結乾燥製剤及び固形薬物等とを総称して薬物という。
【0003】
市販されている一般的なバイアルは、薬物を収容する有底円筒状の本体部(胴部)と、該本体部の上部開口を形成する縮径口部とを有し、この口部の上端外周部には径方向に突出するフランジ部が形成されている。このバイアルの口部には、薬物を密封するためにゴム栓が内嵌され、このゴム栓が薬物投与時まで外されないことを保証するために、薄いアルミニウム製のキャップによりゴム栓をバイアルのフランジ部に巻き締めて固定している。
【0004】
しかし、アルミニウム製キャップの使用は、該キャップを剥がす際に生じる鋭利なエッジにより、医療従事者が着用しているラテックス製手袋を損傷させてしまうという問題を内在している。また、アルミニウム製キャップを裂くと、金属微粒子が生じて薬物に混入してしまう可能性もある。また、近年、環境保全の見地から可燃物と不燃物とを分別廃棄することが求められているが、医療現場においてアルミニウム製キャップのみを分別廃棄することは事実上困難である。
【0005】
かかる問題を解決するため、本願出願人は、従前よりプラスチック製のバイアル用スナップオンキャップの開発を行っており、例えば下記の特許文献1又は2に開示している。
【0006】
これらスナップオンキャップは、バイアルの口部を囲んで取り付けられ且つ中央部に貫通孔を有する合成樹脂製の円筒状キャップ本体と、保管時に上記貫通孔を介してゴム栓が汚染されてしまうことを防止するために貫通孔を塞ぐようにキャップ本体上面に取付けられた合成樹脂製保護カバーとを有する。この保護カバーは、キャップ本体とは別に成形され、キャップ本体に取付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−292126号公報
【特許文献2】特開平8−299412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のスナップオンキャップでは、保護カバーはキャップ本体にそれぞれの成形後に外嵌されている。したがって、保管中に保護カバーをキャップ本体から一旦取り外して、その後再度キャップ本体に容易に取付けることが可能であり、患者への薬物投与時までゴム栓が汚染されていないことを保証することができない。
【0009】
一方、特許文献2に記載のスナップオンキャップでは、保護カバーとキャップ本体とを異材質により個別に成形し、保護カバーをキャップ本体の上面に超音波溶着により溶接固定することで、保護カバーをキャップ本体から取り外すと再度取付けることができないようにしている。しかし、成形品の成形精度のバラツキや、超音波溶着ユニットの動作時間経過による出力変動などの種々の要因により、溶着強度が安定せず、接着力が強すぎて保護カバーがキャップ本体から外せなかったり、逆に接着力が弱すぎて保護カバーが不慮に外れてしまうなどの不具合が生じることがあった。
【0010】
そこで、本発明は、保護カバーを安定した取り外し力でキャップ本体から取り外すことができ、一旦取り外した後は保護カバーをキャップ本体に再度取付けることは困難なバイアル用スナップオンキャップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、次の技術的手段を講じた。
【0012】
すなわち、本発明は、バイアルの口部に外嵌され且つ中央部に上下方向に貫通する貫通孔を有する合成樹脂製キャップ本体と、該キャップ本体上面に取り外し可能に取付けられて前記貫通孔を塞ぐ合成樹脂製保護カバーとを備えるバイアル用キャップにおいて、前記キャップ本体及び保護カバーのいずれか一方を射出成形法により成形した後、他方を成形するための射出成形金型内に前記一方をインサートして、該一方の他方に対する接触面を、他方の一方に対する接触面を形成する賦形面として他方を射出成形法により成形することにより、キャップ本体と保護カバーとの接触面間に接着力を生じさせたことを特徴とするものである。
【0013】
なお、好ましくはキャップ本体を射出成形法により成形した後、保護カバーを成形するための射出成形金型内にキャップ本体をインサートして、該キャップ本体の上面に保護カバーを射出成形法により成形することが好ましい。本発明のキャップは、キャップ本体の冷却後に保護カバーの射出成形を行うインサート成形法により成形してもよく、キャップ本体の離型工程を設けることなく保護カバーの射出成形を行う二色成形法により成形してもよい。また、キャップ本体と保護カバーとは異材質により成形することが好ましく、例えば、キャップ本体の成形材料としてはポリプロピレンや高密度ポリエチレンなどの熱可塑性合成樹脂材料を用いることができ、保護カバーの成形材料としてはポリスチレンや直鎖状低密度ポリエチレンなどの熱可塑性合成樹脂材料を用いることができる。好ましくは、二次的に成形される保護カバーの成形材料は、キャップ本体の成形材料よりも融点が低いものとするのが好ましい。また、保護カバーはキャップ本体よりも可撓性の大きな材質とすることが好ましい。また、キャップ本体と保護カバーとの接触面間に生じる接着力は、キャップ本体に対して保護カバーを指で押し上げることによって容易に剥離し得る程度となるように、各種成形条件や成形材料を調整する。
【0014】
かかる本発明のバイアル用キャップによれば、インサート成形法若しくは二色成形法によってキャップ本体と保護カバーとを一体的に成形するので、保護カバーやキャップ本体を、成形後にキャップ本体に対して保護カバーを取付け固定できる構造や形状とする必要がない。さらに、成形時に生じるキャップ本体と保護カバーとの接触面間の接着力は、保護カバーをキャップ本体から一旦剥離させると消失する。また、この接着力は、射出成形時の各種射出条件を一定に管理することによって容易に安定させることができる。したがって、保護カバーを安定した取り外し力でキャップ本体から取り外すことができるとともに、一旦取り外した後は保護カバーをキャップ本体に初期状態と同様に取付けることはできなくなるため、保護カバーが正常にキャップ本体に取付けられていることをもってバイアルの口部に内嵌された栓体が汚染されていないことを保証できるとともに、内容物の改竄を防止することもできる。
【0015】
上記本発明のバイアル用キャップにおいて、キャップ本体は、その上面から上方に突設され且つ前記貫通孔の周囲に位置する環状凸部を備え、該凸部の外周面若しくは内周面には径方向に窪む凹部が形成され、保護カバーは、前記凹部を埋める係合部を備えていてよい。これによれば、キャップ本体の凹部に保護カバーの係合部が嵌合することにより、物理的に保護カバーの係合部がキャップ本体の凹部に上下方向に係合して、保護カバーとキャップ本体との結合力をより安定させることができる。その一方、所定の力で保護カバーの周縁部を指で押し上げると、保護カバーやキャップ本体の可撓性により係合部と凹部との係合が外れ、保護カバーがキャップ本体からパチンと外れる。したがって、非常に使用感に優れ、医療関係者が日々数十ものバイアルの保護カバーを取り外す必要があっても、指先を痛めることなく迅速に医療行為に従事することができる。なお、上記環状凸部は、周方向に延びるリッジのみにより構成されていてもよく、また、周方向に離間して配設された複数の爪部のみにより構成されていてもよく、上記リッジ及び爪部の組み合わせにより構成されていてもよい。また、上記凹部は、周方向に連続する溝部であってもよく、周方向に離間して配設された複数の穴により構成されていてもよく、上記溝部を形成するとともに該溝部の底部にさらに周方向に離間して複数の穴を形成したものであってもよい。上記穴により凹部を形成した場合、該穴を埋める上記係合部は爪状に形成される。
【0016】
好ましくは、キャップ本体の上面は保護カバーの下面と面接触しており、該キャップ本体の接触面は前記環状凸部の周囲に位置している。これによれば、保護カバーをキャップ本体から取り外した後に再度保護カバーの下面をキャップ本体の上面に接触させても、成形直後のように完全に密着させることはできず、保護カバーとキャップ本体との間に僅かなギャップが生じる。このギャップの存在により、凹部に対する係合部の再係合が一層困難となり、一度取り外された保護カバーが再度キャップ本体に取付けられることを一層確実に防止できる。
【0017】
また、前記環状凸部は、周方向に連続するリッジを備えることができる。該リッジは、全周に亘るものであってもよく、周方向一部が断絶していてもよい。この場合、周方向の広い範囲で係合部が凹部に嵌合するため、上記凹部の深さは非常に浅くしても良好な操作感を得ることができる。
【0018】
また、前記環状凸部は、周方向に離間して配設された複数の爪部を備えていてもよい。各爪部は上端側が径方向外方に傾斜されたものが好ましく、該爪部の外周面に前記凹部が形成される。これによれば、上方に突出する爪部を周方向に離間して複数設けることで、爪部の突出高さ及び凹部の深さを比較的大きくしても保護カバーをキャップ本体から取り外すことができるとともに、高い傾斜爪部によって保護カバーがキャップ本体に再嵌合することを確実に阻止できる。なお、各爪部は、その上端側が径方向内方に傾斜され、該爪部の内周面に前記凹部を形成させてもよい。また、上記リッジと爪部の双方により環状凸部を形成してもよいし、いずれか一方により環状凸部を形成してもよい。
【0019】
より好ましくは、前記凹部は、前記凸部の外周面に形成されており、前記保護カバーは、前記係合部よりも径方向外方に延びるフランジ部を備え、該フランジ部の外周縁の下方には、少なくとも周方向一部に指掛け用スペースが形成されている。これによれば、保護カバーのフランジ部の外周縁の下部に指を掛けて上方に持ち上げると、保護カバーの可撓性により凹部から係合部が外れるように保護カバーが変形して、より良好な操作感で保護カバーの取り外しを行える。
【0020】
また、前記保護カバーの上面には、前記環状凸部の上方に位置する補強リム部を設けることができる。これによれば、環状凸部が嵌合する部位で保護カバーが折れ曲がってしまうことを防止できる。
【0021】
また、前記保護カバーは、前記貫通孔に内嵌されるボス部を備えていてよい。これによれば、貫通孔をより確実に密封することができるとともに、該ボス部の存在により係合部を凹部に再嵌合させることが一層困難となる。なお、ボス部は、下方に至るにしたがって縮径する円錐台形状とすることができ、貫通孔は上方に向け拡がるラッパ状とすることができる。
【0022】
また、前記環状凸部は、前記貫通孔の周縁に沿って設けることができる。
【0023】
また、前記キャップ本体は、バイアルの口部に内嵌された栓体を押さえる天板部と、バイアルの口部外周を覆う筒状部とを備えていてよい。前記貫通孔及び環状凸部は前記天板部に設けることができる。前記筒状部は、バイアルの口部に上下方向に係合するスナップ部が内周面に設けられていてよく、さらに、周方向の少なくとも一部に上下方向に延びるスリットを形成できる。この場合、前記保護カバーは、前記スリットを埋める接続片をさらに備えることが好ましく、前記スリットが拡がるような前記筒状部の変形を前記接続片によって阻止させておく。一方、前記接続片が前記筒状部から除去されるとスリットが拡がるように筒状部が変形して、口部へのスナップ部の係合が外れて、バイアル口部からキャップ本体が取り外し可能となる。これによれば、保護カバーの除去によって、口部にスナップオンされたキャップ本体をバイアルから容易に取り外しでき、バイアル、キャップ本体及びバイアル用栓体の分別廃棄も容易に行えるようになる。
【0024】
また、上記本発明のバイアル用キャップにおいて、前記キャップ本体は天板部を有し、該天板部の上面が前記保護カバーに対する前記接触面となり、前記貫通孔は前記天板部の中央部に設けられ、前記天板部の下面には、バイアルの口部に内嵌された栓体の上面に食い込む少なくとも一つの回転防止突起が設けられているものとすることができる。前記栓体は好ましくはエラストマー製である。これによれば、栓体を嵌め込んだバイアル口部に本発明のキャップを被冠すると、キャップ本体の回転防止突起が栓体に食い込むことで、バイアルに対してキャップが相対回転することを阻止し、相対回転によってキャップと栓体との間の気密性が破壊されてしまうことを防止できる。
【0025】
さらに、複数の前記回転防止突起が周方向に離間して配設されていることが好ましい。これによれば、より確実に上記相対回転を防止できる。
【0026】
また、前記回転防止突起は、バイアルの口部の口上面に上下方向に対向する位置に設けられていることが好ましい。これによれば、口部の口上面と上記突起との間に栓体を挟み込むものであるから、栓体が下方に湾曲するように変形することを防止でき、栓体の大きな変形によってバイアル口部の密封性が破壊されてしまうことを防止できる。
【0027】
さらに、前記天板部の下面に、前記栓体の上面に気密状に接触する環状リブを設けることが好ましい。該環状リブは前記貫通孔の周囲に位置する。これによれば、環状リブと栓体とが気密状に接触することによって、栓体の上面の中央部を外気から遮断して、該中央部が汚染されてしまうことを防止できる。
【0028】
また、好ましくは、前記環状リブは、前記貫通孔の周縁部と前記回転防止用突起との間を通過するよう形成されている。これによれば、上記突起の食い込みによって局所的に変形した部分よりも径方向内側で環状リブを栓体上面に接触させることができる。
【0029】
また、前記環状リブと前記天板部の周縁部の間の領域で前記天板部の下面には上方に凹む凹部が形成され、これにより前記凹部が形成された領域における前記天板部の板厚が前記天板部の周縁部の板厚よりも薄く形成されているものとすることができる。これによれば、天板部の凹部形成領域の薄肉化により、射出成形後の樹脂冷却によって天板部の上面にヒケ(Sink Marks)が生じることを回避できる。さらに、天板部の周縁部は比較的大きな板厚を確保することにより、上記保護カバーの射出成形時に天板部の外周部に位置し且つ保護カバー周縁部の下側に位置する金型を配置でき、この金型の肉厚も比較的大きく確保できて金型の強度を確保でき、成形後の保護カバー周縁部の下側に指掛け用の空洞部を形成できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、保護カバーを安定した取り外し力でキャップ本体から取り外すことができ、一旦取り外した後は保護カバーをキャップ本体に再度取付けることは困難なバイアル用スナップオンキャップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るバイアル用スナップオンキャップをバイアルに装着した状態の縦断面全体斜視図である。
【
図2】同キャップのキャップ本体の縦断面拡大斜視図である。
【
図3】同キャップの保護カバーの縦断面拡大斜視図である。
【
図4】同キャップの保護カバーを取り外した状態の縦断面全体斜視図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係るバイアル用スナップオンキャップの拡大縦断面図である。
【
図6】本発明の第3実施形態に係るバイアル用スナップオンキャップのキャップ本体の縦断面拡大斜視図である。
【
図7】本発明の第4実施形態に係るバイアル用スナップオンキャップのキャップ本体の拡大斜視図である。
【
図9】本発明の第5実施形態に係るバイアル用スナップオンキャップをバイアルに装着した状態の斜視図である。
【
図10】同キャップの保護カバーを取り外した状態を示す斜視図である。
【
図12】本発明の第6実施形態に係るバイアル用スナップオンキャップをバイアルに装着した状態を示す全体断面図である。
【
図14】同キャップの底面側から見た平行投影図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の好適な実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0033】
図1〜
図4は本発明の第1実施形態に係るバイアル用スナップオンキャップ1を示している。このキャップ1は、バイアル2の口部3に対して上方から押し込むことによりパチンと取付けられ、これにより口部3に内嵌されたブチルゴムなどのエラストマー製の栓体4が口部3から取り外されることを防止するとともに、注射針が刺し通される栓体4の中央部上面を被覆して埃などの微細浮遊物が付着することを防止する。
【0034】
キャップ1は、熱可塑性合成樹脂材料からなるキャップ本体5と、熱可塑性合成樹脂材料からなる保護カバー6とから構成されており、これらキャップ本体5と保護カバー6とをインサート成形法若しくは二色成形法により一体成形することにより、保護カバー6がキャップ本体5の上面に取り外し可能に取付けられている。
【0035】
キャップ本体5は、バイアル2の口部3に内嵌された栓体4を上方から押さえる天板部7と、バイアル2の口部3に外嵌されて該口部3の外周を覆う筒状部8とを備えている。図示実施例では筒状部8は天板部7の外周縁から下方に延設されているが、天板部の外周縁が筒状部よりも径方向外方に延設されていてもよい。キャップ本体5の内周面には、口部3への取付け時には縮径変形して口部3のフランジを通過するが取付け後はフランジ下端部に係合して口部3からのキャップ本体5の取り外しを阻止する複数の弾性係合片9からなるスナップ部が一体成形されている。図示実施形態では、3つの弾性係合片9が周方向に等間隔に離間して配設されている。
【0036】
キャップ本体5の天板部7の軸中央部には、上下方向に貫通する貫通孔10が形成されており、該貫通孔10の口径は、バイアル口部3の口径と同等である。貫通孔10の内周面は、上端側が径方向外方に傾斜するテーパー面とされている。また、天板部7の外周縁部には、各弾性係合片9の上方位置に型抜き孔11が形成されている。該型抜き孔11は、弾性係合片9を射出成形するための金型から離型されることにより形成されるものである。天板部7の上面は全体にわたって保護カバー6の下面に接触されている。
【0037】
キャップ本体5の天板部7の上面には、貫通孔10の周囲に位置し且つ上方に突出する環状凸部が一体に設けられている。本実施形態では、環状凸部は、天板部7の上面の内周縁、すなわち貫通孔10の上端縁に沿って全周にわたって延びるリッジ12と、該リッジ12の上端からさらに上方に向けて延設された複数の爪部13とにより構成されている。
【0038】
リッジ12の内周面は、上端側が径方向外方に傾斜するテーパー面となされ、その傾斜角度は、貫通孔10内周面の傾斜角度よりも若干大きい。リッジ12の外周面には、径方向内方に窪む凹部14が形成されている。本実施形態では、該凹部14は周方向に沿って延びる断面円弧状の溝部により構成されており、凹部14の窪み量は1mm未満となされている。
【0039】
複数の爪部13は、周方向に等間隔で離間して配置されている。各爪部13は、リッジ12の上端からさらに上方に突出するとともに、爪部13の上端側は径方向外方に傾斜されている。該爪部13の内周面はリッジ12の内周面と連続し、爪部13の外周面はリッジ12の外周面と連続している。したがって、爪部13の外周面では、上記凹部14は爪部13が存在しない部位よりも大きく径方向内方に窪んでいる。なお、爪部13は、周方向の少なくとも三カ所に設けることが好ましいが、1カ所のみ若しくは2カ所に設けることもできる。また、上記型抜き孔11が設けられた位置には比較的大きなスペースが保護カバー6の下方に形成されるため、型抜き孔11の上方位置を保護カバー6の取り外しのための指掛け部位とすると保護カバー6に指を掛けやすくなるが、該指掛け部位に指を掛けて保護カバー6の取り外しを行う際に容易に爪部13から保護カバー6が外れるようにするために、上記指掛け部位に対応する位置には爪部13を設けず、上記指掛け部位から周方向に離間した位置に爪部13を設けておくこともできる。
【0040】
上記保護カバー6は、キャップ本体5の上面に取り外し可能に取付けられて貫通孔10を塞ぐために用いられる。該保護カバー6は、キャップ本体5の貫通孔10に内嵌される円錐台形状のボス部15と、該ボス部15から径方向外方に延設されたフランジ部16とを備えて、全体として略円板状に構成されている。保護カバー6の下面には、キャップ本体5のリッジ12及び爪部13が嵌合する凹部17がボス部15の周囲に周方向に沿って形成されており、該凹部17の外周を定義する部位が、キャップ本体5の上記溝部14に係合して溝部14を埋める係合部18を構成している。上記フランジ部16は、係合部18よりも径方向外方に延びており、好ましくは図示実施例のようにフランジ部16の内周縁部により上記係合部18を構成することができる。該係合部18は、周方向全周に亘って環状に形成されている。なお、凹部17の存在による保護カバー6の強度低下を補うために、凹部17の上方で保護カバー6の上面にはリング状の補強リム部19が一体成形されている。
【0041】
保護カバー6は、キャップ本体5の天板部7よりも大径とされ、これにより保護カバー6の外周縁部の下方に全周にわたって指掛け用スペースが形成されている。なお、指掛け用スペースは、少なくとも周方向一部に存在すればよい。
【0042】
本実施形態のキャップ1は、キャップ本体15をキャップ本体成形用射出成形金型を用いて射出成形法により成形した後、保護カバー6を成形するための保護カバー成形用射出成形金型内にキャップ本体15をインサートして、キャップ本体15の保護カバー6に対する接触面(すなわち、本実施形態では天板部の上面、貫通孔内周面及び環状凸部表面)を保護カバー6の下面側の賦形面として保護カバー6を射出成形法により成形されている。かかる成形法によって、キャップ本体15と保護カバー6との接触面間には、保護カバー6を指先で押し上げることによって剥離可能な程度の接着力が生じさせられている。
【0043】
なお、キャップ本体5の環状凸部の凹部14は、キャップ本体5の射出成形時にアンダーカットとなるが、窪み量が僅かであるので環状凸部の一時的な弾性変形によって離型可能である。また、比較的窪み量が大きく、離型が困難となる場合には、スライド型などによりアンダーカット処理を行うこともできる。
【0044】
適度な接着力を生じさせるために、キャップ本体15の成形材料と保護カバー6の成形材料は異材質とすることが好ましく、例えば、キャップ本体15用の成形材料としては、ポリプロピレンや高密度ポリエチレンなどを用いることができ、また、保護カバー6用の成形材料としては、直鎖状低密度ポリエチレンやポリスチレンなどを用いることができる。
【0045】
本実施形態のキャップ1によれば、キャップ本体15と保護カバー6とを個別に成形したのでは保護カバー6をキャップ本体15に実質上取付けることができない嵌合構造を採用しつつ、インサート成形法若しくは二色成形法によってキャップ本体15と保護カバー6とを一体成形したので、患者への投与時まで保護カバー6が取り外されていないことを確実に保証することができる。さらに、キャップ本体15と保護カバー6との間の軽い接着力と、リッジ12及び爪部13と係合部18との嵌合力とによって、不慮に保護カバー6が外れてしまうことを防止しつつ、保護カバー6を指で押し上げることによって良好な操作感で保護カバー6を取り外すことができる。
【0046】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、適宜設計変更できる。
【0047】
例えば、
図5に示すように、爪部13の突出高さをより大きくしてもよい。
【0048】
また、
図6に示すように、爪部を設けず、リッジ12のみにより環状凸部を構成してもよい。
【0049】
また、
図7及び
図8に示すように、キャップ本体5の天板部7の径方向中間位置に段差部20を設けて、保護カバー6の外周縁の下方により大きなスペースを形成することもできる。
【0050】
また、
図9及び
図10に示すように、キャップ本体5の筒状部8の周方向の複数箇所に上下方向に延びるスリット21を形成し、一方、保護カバー6に、スリット21を埋める接続片22を一体成形しておくことができる。筒状部8と接続片22との接続端面同士は凹凸嵌合させておくことが好ましく、この接続片22は、保護カバー6の射出成形時に筒状部8を型面として成形されている。筒状部8と接続片22との凹凸嵌合及び接触面間の接着力によって不慮に接続片22が筒状部8から切り離されてしまうことが防止されており、これによりスリット21が拡がるような筒状部8の変形が阻止される。また、保護カバー6を強制的に指で押し上げると、接続片22が筒状部8から切り離され、これによりスリットが拡がるように筒状部8が変形することを許容して、バイアル口部3からキャップ本体5が取り外し可能となる。かかる実施形態によれば、バイアル2とキャップ本体5とを容易に分別廃棄することができる。なお、図示実施形態では接続片22は3つ設けたが、一つのみであってもよく、2つ若しくは4つ以上であってもよい。また、接続片22と直径方向に対向する部位には爪部を設けず、該部位から保護カバーを押し上げやすくしておくこともできる。
【0051】
なお、上記栓体4は好ましくはブチルゴム製であるが、ブチルゴムはその表面に粘着性を有するため、多数の栓体4を自動打栓装置に投入すると、一対の栓体4の天面同士が付着してしまうことがある。かかる栓体4同士の付着を防止するために、栓体4の天面には、
図11に示すように、複数の小さな凸部が形成されている。なお、栓体4は、加硫ゴムや熱硬化性樹脂系エラストマーなどの熱硬化性エラストマー製であってもよく、熱可塑性エラストマー製であってもよい。
【0052】
図12〜
図14は、本発明のさらに別の実施形態を示しており、上記第1実施形態と同様の構成については同符号を付して詳細説明を省略し、異なる構成、作用効果について説明する。なお、
図13は、天板部のみを図示しており、キャップのその他の構成部分は図示省略している。また、
図14は、三次元CADシステムによってレンダリングされた三次元平行投影図である。
【0053】
本実施形態のキャップ1は、リッジ及び爪部を備えておらず、保護カバー6は、キャップ本体5との接触面における接着力のみによってキャップ本体5に取り付けられている。
【0054】
キャップ本体5の天板部7の下面には、バイアル2の口部3に内嵌された栓体4の上面に食い込む複数の回転防止用の突起23が下方に向けて突設されている。この複数の突起23は、周方向にほぼ等間隔に離間して貫通孔10の周囲に環状に配設されている。また、各突起23は、バイアル口部3の口上面に対して上下方向に対向するように位置付けられている。好適な実施形態において、各突起23は、先細りのピン形状である。なお、特開2011−229844号公報には、天板部の下面に「受止用突起部」を設けるという技術思想が開示されているが、この受止用突起部は、栓体のフランジ部が縮径方向へずれ動くことを阻止するものであって、そのために全周に亘るリング状に構成されており、かかる構成によってキャップ本体の回転阻止を行うことはできないものである。
【0055】
また、天板部7の下面には、貫通孔10の周囲に位置する環状リブ24が下方に向けて突設されている。環状リブ24は、貫通孔10の周縁と各突起23との間を通過するよう横設されている。この環状リブ24の突出高さは、突起23の突出高さよりも低い。環状リブ24は、キャップ1をバイアル口部3に被冠した際に、栓体4の上面に気密状に接触する。なお、環状リブ24の断面形状はどのようなものであってもよく、図に示すように逆三角形状であっても、四角形状であっても、その他適宜の形状とすることができる。
【0056】
環状リブ24と天板部7の周縁部の間の領域で、天板部7の下面には、上方に凹む凹部25が形成されており、これにより凹部25が形成された領域における天板部7の板厚が天板部7の周縁部の板厚よりも薄く形成されている。
【0057】
なお、キャップ本体5の筒状部8の内面には、キャップ1の被冠作業工程において筒状部8を口部3に対して芯出しするためのリブ26が設けられている。また、保護カバー6の周縁部の下方には、保護カバー6の周縁部に下方から指を掛けることができるようにするための空間が設けられている。
【0058】
本実施形態によれば、栓体4を嵌め込んだバイアル口部3にキャップ1を被冠すると、キャップ本体5の複数の突起23が周方向に離間する位置で栓体4に食い込んで、バイアル2に対してキャップ1が相対回転することを阻止することができる。また、環状リブ24が貫通孔10の周囲の全周にわたって栓体4の上面に気密状に接触することによって、栓体4の上面の中央部を外気から遮断して汚染から防止することができる。さらに、周縁部と環状リブ24を除き天板部7の下面の全体にわたって凹部25を形成することにより、天板部7の薄肉化を図り、射出成形後の冷却によって天板部7にヒケが生じることを回避できるとともに、環状リブ24のみを局所的に栓体4に接触させることが可能となり、環状リブ24と栓体4との接触部の気密性を向上できる。
【0059】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、適宜設計変更できる。例えば、
図12〜
図14に示す実施形態に係るキャップに、
図1〜
図10に示したキャップが有する構成、例えば、リッジや爪部などを具備させることも可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 バイアル用スナップオンキャップ
2 バイアル
3 バイアル口部
4 バイアル用栓体
5 キャップ本体
6 保護カバー
7 天板部
8 筒状部
9 スナップ部
10 貫通孔
12 環状凸部(リッジ)
13 環状凸部(爪部)
14 凹部
15 ボス部
16 フランジ部
18 係合部
19 補強リム部
21 スリット
22 接続片
23 回転防止用突起
24 環状リブ
25 凹部