(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232438
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】金属成形部材用耐疲労性コーティング
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20171106BHJP
B21D 37/20 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
C23C14/06 P
B21D37/20 Z
【請求項の数】20
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-537690(P2015-537690)
(86)(22)【出願日】2013年6月12日
(65)【公表番号】特表2016-500759(P2016-500759A)
(43)【公表日】2016年1月14日
(86)【国際出願番号】US2013045373
(87)【国際公開番号】WO2014065892
(87)【国際公開日】20140501
【審査請求日】2016年3月25日
(31)【優先権主張番号】61/716,965
(32)【優先日】2012年10月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514052276
【氏名又は名称】アイエイチアイ イオンボンド アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】ヤーノス、 バーナード ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】サヴァ、 ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】フラタリー、 クリストファー エス.
(72)【発明者】
【氏名】ハークマンズ、 アントニウス ペトラス アーノルダス
【審査官】
岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−167488(JP,A)
【文献】
特開2002−307128(JP,A)
【文献】
米国特許第06274257(US,B1)
【文献】
特開2000−239829(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/091346(WO,A2)
【文献】
国際公開第2012/104048(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0163655(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属成形部材用の複合コーティングであって、
前記金属成形部材に配置された第1層と、
前記第1層の上に配置された第2層と
を含み、
前記第1層は、タングステンがドーピングされた窒化クロムを含み、
前記第2層は、硬化炭化物球との摺動により測定された摩擦係数が0.2以下の、炭窒化チタンを有する潤滑性材料を含む複合コーティング。
【請求項2】
前記タングステンは1〜10原子パーセントの範囲で存在する請求項1の複合コーティング。
【請求項3】
前記第1層の厚さは1〜10マイクロメートルの範囲にある請求項1又は2の複合コーティング。
【請求項4】
前記第1層の硬度は2〜5kHvの範囲にある請求項1〜3いずれか一項の複合コーティング。
【請求項5】
前記第2層の厚さは0.5〜5マイクロメートルの範囲にある請求項1〜4いずれか一項の複合コーティング。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の複合コーティングを含む金属成形部材。
【請求項7】
金属成形部材をコーティングする方法であって、
請求項1〜5のいずれか一項の複合コーティングを前記金属成形部材に適用することを含む方法。
【請求項8】
前記複合コーティングの層の少なくとも一方がプラズマ蒸着工程によって適用される請求項7の方法。
【請求項9】
先進高強度鋼の基体を成形する方法であって、
請求項6の金属成形部材を使用することを含む方法。
【請求項10】
前記先進高強度鋼は、引張り強さが少なくとも700MPaである請求項9の方法。
【請求項11】
前記摩擦係数は0.1〜0.15の範囲にある請求項1の複合コーティング。
【請求項12】
前記タングステンは3〜7原子パーセントの範囲で存在する請求項2の複合コーティング。
【請求項13】
前記タングステンは5原子パーセントで存在する請求項12の複合コーティング。
【請求項14】
前記第1層の厚さは4〜6マイクロメートルの範囲にある請求項3の複合コーティング。
【請求項15】
前記第1層の硬度は3〜4kHvの範囲にある請求項4の複合コーティング。
【請求項16】
前記第1層の硬度は3.6〜3.8kHvの範囲にある請求項15の複合コーティング。
【請求項17】
前記第2層の厚さは1.2マイクロメートルである請求項5の複合コーティング。
【請求項18】
前記金属成形部材はダイである請求項6に記載の金属成形部材。
【請求項19】
前記引張り強さは少なくとも900MPaである請求項10の方法。
【請求項20】
前記引張り強さは少なくとも1000MPaである請求項19の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に、金属成形用途に使用される治具及びダイに関する。本開示は詳しくは、耐疲労、耐摩耗及び耐摩擦複合コーティングに関し、かつ、当該コーティングが表面に配置された金属成形部材に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本願は、2012年10月22日に出願された「金属成形部材用耐疲労性コーティング」との名称の、米国仮特許出願第61/716965号の優先権の利益を主張する。その主題はその全体が参照として組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
ダイ等のような金属成形部材は、高サイクル圧力及び高摩擦条件にさらされる。産業は近年、これまで用いられていた鋼合金よりもはるかに大きな引張り強さを示す先進高強度鋼合金(AHSS)を使用する方向に向かっている。典型的なAHSS合金においては、700MPaを超える引張り強さが明らかとなっている。特定例において、引張り強さが900〜1200MPaの範囲にある合金が、自動車等用の構造部材の製造に用いられている。AHSS鋼は、その高強度ゆえに成形するのが非常に難しく、その成形に使用されるダイは、高衝撃かつ高圧力の条件にさらされる。ダイの表面は、高衝撃かつ高圧力の条件に加え、使用時には非常に高い摩擦力を受ける。こうした高圧力、高摩擦の条件は、成形ダイ等に対して極度の摩耗を引き起こすので、その耐用年数が大きく損なわれる。
【0004】
いくつかの例において、先行技術は、様々な処理工程によってダイの表面を硬化しようとした。しかしながら、その結果は、限られた成果をもたらしただけであった。他のアプローチでは、ダイは、窒化チタン、炭窒化チタン、窒化クロム、窒化チタンアルミニウム等を含む様々な高硬度かつ耐摩耗性のコーティングによってコーティングされている。他のアプローチでは、炭化バナジウムのような材料の熱拡散コーティング、及び炭化チタンのような化学蒸着(CVD)コーティングが利用されている。これらの表面向上技術はそれぞれ、強度レベルが400MPa未満の従来型合金を形成するべく使用されるダイの耐用年数を延ばすことに成功することを実証している一方、当該技術すべてが、AHSS合金に関与する成形作業の性能が不十分であることを証明している。
【0005】
いくつかの例において、熱拡散及びCVDコーティングは、AHSS合金の成形に使用されるダイの耐用年数を延ばすことがわかっている。しかしながら、これらの工程は双方とも、一般に使用される治具鋼ダイ材料の、蒸着及び熱処理中の結晶構造の変化から生じるダイの寸法変化をもたらす傾向がある。こうした寸法変化の程度は、成形ダイのユーザによって画定される寸法仕様から外れる場合が非常に多いので、かかる工程は一般に許容不可能となる。さらに、熱拡散コーティングは比較的高い摩擦係数を有するので、高張力AHSS材料の成形において発生する高レベルの摩擦力に適合しない。
【0006】
プラズマ蒸着(PVD)コーティングは、CVDコーティング及び熱拡散コーティングとは異なり、許容不能な寸法変化を成形ダイに引き起こすことはないが、かかるコーティングには、高張力材料成形用途での使用を制限する他の制約を有するものが多い。窒化クロム、窒化チタンアルミニウム等のようなPVDコーティングは、その柱状構造ゆえに、引張り強さが400MPaを超える材料の成形に見出されるような高圧力/衝撃条件を受けると、クラックの影響を受けやすい。従来型PVDコーティングによるコーティングに先立ってダイの表面を外層硬化することによって、ダイの表面硬度が増してコーティングの変形及びクラックが防止されるので、ダイの性能には、ある程度の向上が達成される。しかしながら、このアプローチは、限られた成功をもたらすだけであって、有用となるのは、成形対象鋼合金の引張り強さが800MPa未満である例に限られる。
【0007】
以上の結果、AHSS合金材料の成形に関連して使用されるダイのような金属成形部材の耐用年数を改善するコーティング及び方法が必要とされている。かかるコーティングは、成形工程中に生じる非常に高い圧力及び高い摩擦条件下で耐久性を示す必要があり、かつ、ダイの寸法パラメータに悪影響を及ぼしてはならない。加えて、当該コーティングの適用工程は、簡潔、経済的、実装容易、かつ、再コーティング可能とする必要がある。本開示は、以下に詳細に説明されるように、上記目的を達成する金属成形部材用の複合コーティングを与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,274,257号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2007−0163655(A1)号明細書
【発明の概要】
【0009】
本開示は、金属成形部材用の複合コーティングを与える。コーティングは、金属成形部材上に配置された第1層を含む。第1層は、少なくとも一つのドーパントがドーピングされた窒化クロムを含む。第1層の上には第2層が配置される。第2層は、低合金綱に当接させて測定された摩擦係数が0.2以下の潤滑性材料を含む。ドーパントは、W、V、Ti、Zr、Co、Mo及びTaの一以上からなる群から選択され得る。一例において、ドーパントはWである。ドーパントは、1〜10原子パーセント、例えば3〜7原子パーセントの範囲で存在し得る。特定例では、前記ドーパントは、近似的に5原子パーセントの量で存在する。第1層の厚さは、1〜10マイクロメートルの範囲、例えば4〜6マイクロメートルの範囲にあり得る。第1層の硬度は、2〜5KHv、例えば3〜4KHv、特定例では3.6〜3.8KHvの範囲にある。
【0010】
さらなる例において、第2層は、低合金綱に当接させて測定された摩擦係数が0.1〜0.15の範囲にある。第2層の厚さは、0.5〜5マイクロメートルの範囲、特定例では1.2マイクロメートルであり得る。第2層は、窒化物、炭窒化物、酸化物、酸窒化物、炭素系コーティング、モリブデン系固体潤滑膜コーティング、及びこれらの組み合わせの群から選択された少なくとも一つの材料を含み得る。なおもさらなる例において、第2層はTiCNを含む。
【0011】
本開示はさらに、ここに記載されるいずれかの複合コーティングを含む金属成形部材を与える。金属成形部材はダイを含み得る。
【0012】
本開示はさらに、金属成形部材をコーティングする方法であって、上述のコーティングのいずれか一つの複合コーティングを当該金属成形部材に適用することを含む方法を与える。複合コーティングの層の少なくとも一つは、プラズマ蒸着工程によって適用される。さらなる例において、本開示は、先進高強度鋼の基体を成形する方法を与える。方法は、ここに記載される金属成形部材の使用を含む。先進高強度鋼は、引張り強さが少なくとも700MPa、例えば強さが少なくとも900MPa、特定例では強さが少なくとも1000MPaであり得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
以下の図面を参照することによって以下の詳細な説明が、最もよく理解される。
【0014】
【
図1A】様々なコーティング材料の衝撃及び摺動摩耗の評価を行うべく使用された、休止位置にある(回転された位置を仮想鎖線で示す)一例の試験装置を例示する。
【
図1B】回転された位置にある
図1Aの一例の試験装置を例示する。
【
図2】高圧力衝撃後の、先行技術の非ドーピングCrNコーティング層の顕微鏡写真を例示する。
【
図3】衝撃200Nかつ摺動摩擦400Nの条件下での、
図1の装置におけるサイクル後の先行技術CrN層の上面図を例示する。
【
図4】
図3と同様の試験処置後の、本開示に係るCrWNコーティングの顕微鏡写真を例示する。
【
図5】220結晶方位を示す先行技術のCrN膜のX線回折データを例示する。
【
図6】本開示に係るタングステンドーピング済み材料のX線回折データを例示する。
【
図7】本開示の複合コーティングが上に配置された物品の断面顕微鏡写真を例示する。
【
図8】衝撃負荷400Nかつ摺動負荷400Nの条件下での
図1の装置における1500サイクル試験後の、
図7のコーティングされた物品表面の顕微鏡写真を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示は、ダイ等のような金属成形部材用の複合コーティングに関する。コーティングは、金属加工部材の少なくとも成形表面上に配置され、かつ、ドーピング済み窒化クロムセラミックの第1層を含む。窒化クロムは高硬度材料であるが、基本材料の柱状の性質により、高圧力条件下ではクラックが明らかとなり得る。本開示によれば、例えば1〜10原子パーセントの範囲にある比較的少量のドーパント材料を包含させることにより、当該材料にわたるクラックの形成及び/又は伝播が大幅に制限される。推測によって束縛されることを望むわけではないが、結晶マトリクスにおいてドーパント材料が窒化クロムを置換する結果、クラックの伝播が防止されると考えられる。ドーパントの例は、単独で又は組み合わせて使用されるW、V、Ti、Zr、
Co、Mo及びTaを含むがこれらに限られない。いくつかの例において、Wがドーパントとして用いられる。上述したように、置換ドーピングと整合する1〜10原子パーセントのドーパントレベルを用いることができる。特定例では、ドーパントレベルは、3〜7原子パーセントの範囲にあり、5原子パーセントが1つの特定ドーパントレベルである。
【0016】
一例において、材料の第1層は一般に、厚さが1〜10マイクロメートルの範囲にあり、特定例では近似的に4〜6マイクロメートルである。第1層の硬度は典型的に3000〜4000Hvの範囲にあり、本開示において利用される1つの特定材料は、近似的に5原子パーセントのWがドーピングされたCrNを含み、かつ、3200〜3800Hvの範囲の硬度を証明している。
【0017】
第1層の上には、潤滑材料からなる第2層が配置される。本開示によれば、この第2層は、典型的には鋼に対して0.2未満の低い摩擦係数を有する必要がある。特定例では、第2層は、摩擦係数が0.1〜0.15の範囲である。潤滑性材料の層の厚さは典型的に、ドーピング済み窒化クロムの層の厚さ未満となり、一般には0.5〜5マイクロメートルの範囲の厚さ、特定例では1〜3マイクロメートルの範囲の厚さとなる。潤滑層を成形するべく、一定数の材料を用いることができる。こうした材料は、その摩擦係数が0.2を超えることがなく、好ましくは0.2未満であるとの条件のもと、窒化物、炭窒化物、酸化物、酸窒化物、炭素系コーティング、又はモリブデン系固体潤滑膜コーティング等を含み得る。一例において、本開示において利用される特定の材料はTiCNを含み、他のかかる材料も、当業者にとってすぐにわかるだろう。
【0018】
置換ドーピングがされた窒化クロムと低摩擦係数潤滑層との組み合わせが、AHSS合金材料の使用において生じる高衝撃かつ高摩擦成形条件下で比較的長い耐用年数を与えることができる耐摩耗性コーティングを与えることが決定された。
【0019】
本開示のコーティングは、当該層の少なくとも一つ、好ましくは双方が成形されるプラズマ蒸着(PVD)工程によって調製されるのが有利である。かかる工程は、コスト効率がよく、かつ、金属成形ダイ等の複合表面上に均一かつ精密な層厚さをもたらすべく容易に制御することができる。かかるPVD工程は業界周知である。いくつかの例において、本開示の方法は、ダイ及びコーティングの性能を最大限する前処理及び後処理工程と組み合わせることができる。例えば、ダイ材料自体は、当業界周知の窒化、浸炭及びフェライト浸炭のような技術によって研摩し及び/又は外層硬化することができる。非常に高張力の合金を成形対象とする例では、かかる硬化工程が有利であることがわかっている。同様に、ダイ材料自体が比較的低強度の場合も硬化技術を用いることが有利である。さらに、いくつかの例において、コーティングされたダイ表面を研摩して焼き付き抵抗をさらに増大させることも有利である。
【0020】
本開示において、主にドーピング済み窒化クロムに由来する衝撃抵抗と、主に第2層に由来する低摩擦係数との組み合わせにより、各層個別に達成される疲労抵抗と比べて優れた疲労抵抗が得られる。以下に詳述するが、複数層の組み合わせが相乗的に相互作用を起こすことにより、コーティングされたダイの、高圧力かつ高摩擦条件下での耐用年数が大幅に向上する。
【0022】
本開示の原理が、特定の一連の実験及び例を介して例示される。これらは、近似的に5原子パーセントのタングステンがドーピングされかつ厚さが4〜6ミクロンの範囲の高硬度窒化クロムの第1層と、炭窒化チタンからなる厚さが近似的に1〜2ミクロンの潤滑性の第2層とを含む複合コーティングに関する。このコーティングの全体的な硬度は3600〜3800Hvの範囲にあり、その摩擦係数は0.1〜0.15の範囲にある。
【0023】
ここで
図1A〜1Bを参照すると、様々なコーティング材料の衝撃及び摺動摩耗の評価を実行するべく使用された試験装置が示される。この装置において、試料3は硬化炭化物球2による衝撃を受ける。硬化炭化物球2は空気シリンダ1によって駆動される。試料は、本開示に係る表面コーティングを含む鋼治具であり得る。試料3は、回転可能な揺れ腕5に取り付けられる。揺れ腕5は、ころ軸受7を介して剛性フレーム4に支持される。揺れ腕5は、戻りばねアセンブリ6によって付勢される。戻りばねアセンブリ6は、試料3上のコーティングに送達される力の量を制御する。球による試料の初期衝撃に引き続いて揺れ腕が枢動するので、当該球は、試験片の表面コーティングに沿いに摺動可能となる。揺れ腕5は
図1Aにおいて休止しており、
図1Bにおいて回転されている。硬化球2が、表面がコーティングされた試料3に当接して異なる位置まで摺動する。鎖線は、
図1Aにおける衝撃中に揺れ腕5が回転するときの物体の動きを仮想的に表す。
【0024】
図1A〜1Bに示されるように、典型的な摩耗の傷跡は、頭部から尾部までの外見を表し得る。こうした例では、室温において試験が行われた。一特定例において、衝撃負荷は80Nに保持され、摺動負荷は200Nであった。他例において、衝撃負荷は約200〜400Nの間で適用され、摺動負荷は400Nである。
【0025】
図2は、高圧力衝撃後の、典型的な非ドーピングCrNコーティング層の顕微鏡写真である。わかることだが、衝撃負荷80Nかつ摺動負荷200Nにおける近似的に1500回の一連のサイクルの後に、一定数のクラックが形成され、かつ、CrN層を通って伝播していた。
図3は、衝撃200Nかつ摺動摩擦400Nの条件下での
図1の装置におけるサイクル後のCrN層の上面図である。わかることだが、コーティングにはクラックの開始が示される。
【0026】
図4は、同様の試験処置後の、本開示のCrWNコーティングの顕微鏡写真である。わかることだが、このコーティングにはクラックがなんら証明されていない。置換ドーパントを、この場合は5原子パーセントのタングステンを包含させることにより、合金のクラック抵抗が大幅に向上する。これは、
図5及び6から明らかなように、材料の結晶方位が変化することに起因すると考えられる。
図5は、220結晶方位を示すCrN膜のX線回折データを示す。
図6は、本開示のタングステンドーピング済み材料の、対応するX線回折データを示す。わかることだが、この材料は220、111及び200の方位を証明している。この多方向性の非柱状構造が、本開示のドーピング済み材料のクラック抵抗に関与すると考えられる。
【0027】
一例において、複合構造が、本開示のドーピング済み窒化クロムを炭窒化チタンの潤滑層と組み合わせて利用することによって調製された。これは、全体的な硬度が3600〜3800Hvかつ摩擦係数が0.1〜0.15の複合構造をもたらした。
図7は、例えば鋼製治具のような、本開示の複合コーティングが上に配置された物品の断面顕微鏡写真である。
図8は、衝撃負荷400Nかつ摺動負荷400Nにおける
図1の装置における1500サイクル試験後の、
図7のコーティングされた物品表面の顕微鏡写真である。わかることだが、こうした極端な条件下でも上側潤滑層を通る摩耗は見られなかった。何らかのクラックが衝撃部位において明らかではあるが、これは、コーティングを支持する基礎材料の過負荷及び変形に関連する。基体が外層硬化されている場合、このクラックは見られない。注目すべきなのは、材料の残りの部分にはクラックが見られないことである。
【0028】
上述の一連の実験からわかることだが、本開示により、AHSS合金材料の成形中に生じる非常に高い圧力条件下での衝撃及び摺動摩擦に対する組み合わされた抵抗が、構成層が相乗的に相互作用をすることによって与えられる複合層コーティングが得られる。その結果、本開示のコーティングの使用によって、ダイ及び他の金属成形材料の耐用年数が大幅に延びる。これにより、設備コスト及びダウンタイムが最小限となる。
【0029】
本開示がいくつかの特定の実施形態に関連して記載されてきたが、他の修正例及び変形例も実装できることも理解すべきである。例えば、追加の高硬度及び/又は潤滑層を、本発明の複合コーティングの構造に組み入れることができる。さらに、一連の実験はいくつかの特定組成に関するが、他の材料も同様に、複合コーティングにおいて用いることができることも理解すべきである。上述の図面、説明及び記載は、本願の特定の実施形態を例示するものであって、その実施の際の制限とはならない。すべての均等物を含む以下の特許請求の範囲こそが、本開示の範囲を画定する。