【実施例】
【0017】
分析試験
1次元ガスクロマトグラフィー法を用いた、燃料マトリックスからの燃料標識の分離
ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS):次のGCカラム:DB−5、DB−35、DB−210、及びDB−WAXを用いて、全3つのジメトキシベンゼン異性体、全3つのトリメトキシベンゼン異性体、及びブチルフェニルエーテルのGC保持時間を、50体積%のディーゼル留出物のそれと比較した。いずれのカラムについても、標識がマトリックス中成分と共溶出する、即ち、各標識候補の保持時間は、燃料マトリックスの保持時間内であった。どの場合も不充分な分離を得ることとなった。
【0018】
熱イオン検出(TID):この検出器は窒素含有化合物(例えば、アミン、ニトロ化合物)に対して感度があり、それらを窒素非含有化合物の存在下で検出するために用いる。燃料マトリックス中の標識候補全てを高濃度(%レベル)で検出することができた。しかしながら、1,2,4−トリメトキシベンゼンのみ、ディーゼル留出物マトリックス中10ppmの低レベルでしか検出することができなかった。ニトロシクロヘキサンはこのレベルで検出できなかった。
【0019】
GC−GC−MS又はGC×GC−MSのいずれかによる多次元的ガスクロマトグラフィー及び質量分析を用いた、燃料マトリックスからの燃料標識の分離
ESSOカナダ及びFASTGASのディーゼル燃料中1,2−ジメトキシベンゼン(ベラトロール)、1,3,5−トリメトキシベンゼン、及びブチルフェニルエーテルを同定/分離できるかどうかを、ダウケミカル・カナダの専門分析技術センター(Expertise Analytical Tech Center)のGCセンターで評価した。
【0020】
3つの方法で評価した。
1)従来の2次元ガスクロマトグラフィー(GC−GC/FID)
1次元目GCカラム:30m×0.25mm×0.25μm DB−5ms UI(WCOT)
2次元目GCカラム:10m×0.53mm id CP−Lowox(イオン性吸着剤/PLOT)
2)パルス流量調節(Pulsed Flow Modulated)包括的2次元GC(PFM−GC×GC/FID)
1次元目GCカラム:20m×0.18mm×0.4μm DB−1(WCOT)
2次元目GCカラム:5m×0.25mm×0.15μm HP−Innowax(WCOT)
3)従来の2次元ガスクロマトグラフィーとMS(GC−GC/MSDのSCAN/SIMモード)
1次元目GCカラム:15m×0.25mm×0.1μm DB−1HT(WCOT)
2次元目GCカラム:23m×0.25mm×1μm VF−Wax ms(WCOT)
【0021】
試験した3つの方法全てによってマトリックスから化合物を分離することができるが、構造解明能力だけでなく高度の選択性と感度を提供する方法3によって最良の結果を得た。100ppb又はそれより良い範囲にある検出限界で、3つの候補全てをディーゼル燃料マトリックスから分離することができた。7分析値を含む予備データセットでの統計は、検出の相対標準偏差が4%未満であることを示した。
【0022】
D)蒸留/燃料留出物における検出
ディーゼル燃料の試料を10ppmのブチルフェニルエーテル、10ppmの1,2−ジメトキシベンゼン、及び2.5ppmのACCUTRACE 3,4−10標識で標識した。燃料をASTM D−86の手順に従って蒸留し、但し蒸留は、体積で初期投入量の50%が塔頂留出した後、停止した。塔頂留出温度は、実験の終了までには約280℃に達した。4つの試料を下に示す通り分析して、標識が存在するかしないかをみた。標識の沸騰特性に基づき、試料Cが含有するのは殆どブチルフェニルエーテル及び1,2−ジメトキシベンゼンで、基本的にACCUTRACE 3,4−10標識はないことが予想される。また、試料Dは、ブチルフェニルエーテルも1,2−ジメトキシベンゼンも殆ど含有せず、基本的にACCUTRACE 3,4−10標識の全てを含有することが予想される。
【0023】
試料A − バージンディーゼル燃料
試料B − 10ppmのブチルフェニルエーテル、10ppmの1,2−ジメトキシベンゼン、及び2.5ppmのACCUTRACE 3,4−10標識で標識したバージンディーゼル燃料
ASTM D−86の手順の一変更版(variant)を用いて試料Bのアリコート700mLを蒸留したところ、2つのほぼ同等な留分(体積に基づき)が得られ、これらは次の通りである。
試料C − 塔頂留出物。揮発性物質の第1の50%
試料D − 蒸留残渣。揮発性物質の第2の50%(本実験では塔頂留出とならなかった)
【0024】
試料を、GC−GC/MSDを用い、選択的イオンモニタリング(SIM)法で分析すると、次の結果を得た。
【0025】
【表1】
【0026】
洗浄試験(Laundering Study)
15の洗浄剤(laundering agent)について、キシレン中、他に断りがなければ5%濃度の洗浄剤と2000mg/lの各標識とで、内部標準として2000mg/lのスクアランを一緒にして、試験を行った。4種の分子全てを内部標準とともに合わせて、4時間の洗浄試験にかけた(試料を洗浄剤とともに撹拌した)。試料と試料の間ごとにキシレンをブランクにして、洗浄した標識試料全てをGC/FIDによって分析し、標識濃度のパーセントの変化として結果を記録した。メタノール洗浄試験では、恐らく内部標準の損失のために、濃度上昇が起こっている。
【0027】
【表2】
【0028】
ヘキシルフェニルエーテル、オクチルフェニルエーテル、又はデシルフェニルエーテルの標識に洗浄は行わなかったが、化学原則に基づけば、これらがブチルフェニルエーテルに非常によく似た挙動の仕方をすることが充分にあり得る。
【0029】
ディーゼル燃料沸点範囲における標識蒸留の例証
ヘキシルフェニルエーテル、オクチルフェニルエーテル、及びデシルフェニルエーテル標準の等モル混合物を標準的なウィリアムソンエーテル法によって調製した。ディーゼル燃料を上記混合物でスパイクすると、燃料中各標識は約10ppmであった。10ppmのブチルフェニルエーテルをさらに燃料に添加した。
【0030】
利用できるラボ機器に合わせて変更したASTMD−86プロトコールに従って、次いで、ディーゼル燃料を略均等質量の4つの留分に蒸留した。
【0031】
【表3】
【0032】
次いで、これら4つの燃料試料をGC−GC−FID法を用いて分析した。各標識のピーク領域を100%に正規化し、種々の留分中に現れる標識の相対量を計算した。結果を表にまとめる。
【0033】
【表4】
【0034】
データから分かるとおり、ヘキシルフェニルエーテル及びオクチルフェニルエーテルの両方とも全ての留分中に明らかに存在した。ブチルフェニルエーテルは蒸留釜残(残留物)から完全に除去され、デシルフェニルエーテルは最も軽い留分中には蒸留しなかった。このようにして、ブチル、ヘキシル、及びオクチルのフェニルエーテルのいずれも、ACCUTRACE 3,4−6又は10とともにディーゼル燃料に添加することができ、全ての蒸留留分は本発明の標識系を含有すると同定できた。あるいは、ヘキシル又はオクチルフェニルエーテルをディーゼル燃料に添加することができ(ACCUTRACEの不存在下)、全ての可能な蒸留留分は標識されているとやはり同定することができた。