特許第6232440号(P6232440)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232440
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】蒸留可能な燃料標識
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/18 20060101AFI20171106BHJP
   C10L 1/00 20060101ALI20171106BHJP
   G01N 33/22 20060101ALI20171106BHJP
   G01N 27/62 20060101ALN20171106BHJP
【FI】
   C10L1/18
   C10L1/00
   G01N33/22 B
   !G01N27/62 V
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-542687(P2015-542687)
(86)(22)【出願日】2013年11月5日
(65)【公表番号】特表2016-503446(P2016-503446A)
(43)【公表日】2016年2月4日
(86)【国際出願番号】US2013068476
(87)【国際公開番号】WO2014081556
(87)【国際公開日】20140530
【審査請求日】2016年10月21日
(31)【優先権主張番号】61/728,312
(32)【優先日】2012年11月20日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】特許業務法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ・デイヴィッド・グリーン
(72)【発明者】
【氏名】レイモンド・スウェド
(72)【発明者】
【氏名】ロンダ・エル・グラス
(72)【発明者】
【氏名】ジム・シー・ルオング
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/032857(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/154646(WO,A1)
【文献】 特開2007−297431(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0289831(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/00− 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油炭化水素又は生物由来液体燃料を標識する方法であって、
(I)
【化1】
(式中、RはC〜C12アルキル又はC〜C12アルケニルであり、RはC〜C12アルキル又はC〜C12アルケニルであり、mは0〜5の整数であり、nは1〜3の整数である)を有する少なくとも1つの化合物を前記石油炭化水素又は生物由来液体燃料に添加することを含み;式(I)の化合物はそれぞれ0.01ppm〜100ppmのレベルで存在する、方法。
【請求項2】
mは0〜2である、請求項に記載の方法。
【請求項3】
はC〜Cアルキルである、請求項に記載の方法。
【請求項4】
nは1である、請求項に記載の方法。
【請求項5】
mは0又は1であり、RはC〜Cアルキルである、請求項に記載の方法。
【請求項6】
(I)の化合物はそれぞれ0.05ppm〜50ppmのレベルで存在する、請求項に記載の方法。
【請求項7】
nは2又は3であり、Rはメチルであり、Rはメチルであり、mは0又は1である、請求項に記載の方法。
【請求項8】
はメチルであり、mは0である、請求項に記載の方法。
【請求項9】
(I)の化合物はそれぞれ0.05ppm〜50ppmのレベルで存在する、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体炭化水素や、他の燃料、オイルを標識する(mark)方法において有用な新規化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
石油炭化水素、他の燃料及びオイルを種々の化学標識(chemical marker)で標識することは当技術分野で周知となっている。このために、標識を検知するための数多くの技術、例えば吸収分光法や質量分析法だけでなく、種々の化合物が用いられている。例えば、米国特許第7,858,373号は、液体炭化水素や他の燃料及びオイルへの標識付け(marking)において用いられる種々の有機化合物の使用について開示する。標識は、その組合せをデジタル式標識体系として利用することが可能で、その量的比率を標識の対象生成物に関連させてコード化することによる。利用可能なコードをできるだけ多くするために、燃料標識及び潤滑剤標識として有用な化合物が更にあれば望ましいと考えられる。また、標識された燃料の蒸留によって取り出すのが困難な上述のような生成物にも更なる標識化合物の必要性がある。本発明が取り組む課題は、液体炭化水素や他の燃料及びオイルを標識するために有用な更なる標識を見い出すことである。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、石油炭化水素又は生物由来液体燃料を標識する方法を提供し、この方法は、その石油炭化水素又は生物由来液体燃料に、式Ar(R(OR(式中、Arは6〜20の炭素原子を有する芳香族環系であり、RはC〜C12アルキル又はC〜C12アルケニルであり、RはC〜C12アルキル又はC〜C12アルケニルであり、mは0〜5の整数であり、nは1〜3の整数である)を有する少なくとも1つの化合物を添加することを含み;式Ar(R(ORの各化合物は0.01ppm〜100ppmのレベルで存在する。
【発明を実施するための形態】
【0004】
他に指定がなければ、パーセンテージは重量パーセンテージ(wt%)であり、温度は℃である。本明細書に述べられる沸点は大気圧で測定されたものである。濃度は、重量/重量に基づいて計算される百万分率(「ppm」)か重量/体積(mg/L)のどちらかであり、好ましくは重量/体積に基づく。「石油炭化水素」という用語は、大部分が炭化水素である組成物を有する生成物を指し、但し、それは少量の酸素、窒素、イオウ、又はリンを含有する場合があり;石油炭化水素は、原油、及び石油精製プロセスから誘導される生成物を包含し;それとしては、例えば、原油、潤滑油、油圧油、ブレーキ液、ガソリン、ディーゼル燃料、灯油、ジェット燃料、及び暖房用オイルが挙げられる。本発明の標識化合物は、石油炭化水素、又は生物由来液体燃料に添加することができ;後者の例としては、バイオディーゼル燃料、エタノール、ブタノール、エチルtert−ブチルエーテル、又はその混合物が挙げられる。物質は、それが20℃で液体状態にあるものは、液体とみなす。バイオディーゼル燃料は、脂肪酸アルキルエステル、特にメチルエステルの混合物を含有する生物由来燃料である。バイオディーゼル燃料は典型的に、新鮮な植物油か再利用植物油かのエステル交換反応によって生成されるが、動物性脂肪が用いられることもある。エタノール燃料は、エタノールを純粋な形で含有するか、又は「ガソホール」のように、エタノールを石油炭化水素と混合して含有する燃料である。「アルキル」基は、1〜22の炭素原子を直鎖状、分岐状、又は環状に有する置換又は非置換飽和ヒドロカルビル基である。アルキル基上、1つ又は複数のOH若しくはアルコキシ基の置換が許容でき;本明細書中他に指定があれば他の基も許容できる。好ましくは、アルキル基は非置換のものである。好ましくは、アルキル基は直鎖状又は分岐状である。「アルケニル」基は、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有するアルキル基である。好ましくは、アルケニル基は、1つ又は2つ、好ましくは1つの炭素−炭素二重結合を有する。「アリール」基は、芳香族炭化水素化合物から誘導される置換基である。アリール基は、他に指定されていなければ、合計6〜20の環原子を有し、1つ又は複数の環を別々の状態又は縮合した状態で有する。好ましくは、本発明の化合物は、元素をその天然の同位体比で含有する。
【0005】
好ましくは、Rは、直鎖状又は分岐状である。好ましくは、Rは、直鎖状又は分岐状である。好ましくは、Rは、C〜C12アルキル又はC〜C12アルケニル、好ましくはC〜C12アルキル、好ましくはC〜C10アルキルである。好ましくは、Rは、C〜Cアルキル又はC〜Cアルケニル、好ましくはC〜Cアルキル、好ましくはC〜Cアルキル、好ましくはメチル又はエチルである。好ましくは、nは1又は2、好ましくは1である。好ましくは、mは、0〜2、好ましくは0又は1、好ましくは0である。好ましくは、Arはベンゼン環系を表し、式Ar(R(ORの化合物は式(I)で表される。
【0006】
【化1】
【0007】
好ましくは、式(I)において、Rは、C〜C12アルキル又はC〜C12アルケニル、好ましくはC〜C12アルキル、好ましくはC〜C10アルキルであり;好ましくは、Rは、C〜Cアルキル又はC〜Cアルケニル、好ましくはC〜Cアルキル、好ましくはC〜Cアルキル、好ましくはメチル又はエチルである。好ましくは、式(I)において、mは、0〜2、好ましくは0又は1、好ましくは0であり;好ましくは、nは、1又は2、好ましくは1である。一好適実施形態では、式(I)において、nは2又は3であり、Rはメチルであり、Rはメチルであるか不存在(m=0)であり、mは0又は1であり;好ましくは、nは2又は3であり、Rはメチルであり、mは0である。
【0008】
一好適実施形態では、式Ar(R(ORの化合物は式(II)で表される。
【0009】
【化2】
【0010】
(式中、Rは、C〜C12アルキル又はC〜C12アルケニル、好ましくはC〜C12アルキル、好ましくはC〜C10アルキルである。)
【0011】
一好適実施形態では、Arは10〜12の炭素原子を有し、nは1又は2であり、Rはメチルであり、Rはメチル又は不存在(m=0)であり、mは0又は1であり;好ましくは、Arは置換(−ORによってのみ置換)ビフェニル又はナフタレンであり、nは1又は2であり、Rはメチルであり、mは0である。
【0012】
本発明の化合物を標識として用いる際に、好ましくは、標識される液体に添加する各化合物の最小量は、少なくとも0.05ppm、好ましくは少なくとも0.1ppm、好ましくは少なくとも0.2ppm、好ましくは少なくとも0.3ppm、好ましくは少なくとも0.4ppm、好ましくは少なくとも0.5ppm、好ましくは少なくとも1ppmである。好ましくは、各標識の最大量は50ppm、好ましくは20ppm、好ましくは15ppm、好ましくは10ppm、好ましくは8ppmである。好ましくは、標識化合物の最大合計量は100ppm、好ましくは70ppm、好ましくは60ppm、好ましくは50ppm、好ましくは40ppm、好ましくは30ppm、好ましくは20ppm、好ましくは16ppm、好ましくは12ppm、好ましくは10ppmである。好ましくは、標識化合物は、標識された石油炭化水素又は生物由来液体燃料の中に視覚的手段によって検知できない、即ち、その中に標識化合物が含有されていることが肉眼による色の観察によっては判定することができない。好ましくは、標識化合物は、それを添加する石油炭化水素又は生物由来液体燃料の中には、石油炭化水素又は生物由来液体燃料自体の構成物としても、そこに用いられる添加剤としても、通常は存在しない化合物である。
【0013】
好ましくは、標識化合物は、少なくとも3のlogP値を有し、Pは1−オクタノール/水分配係数である。好ましくは、標識化合物は、少なくとも4、好ましくは5のlogP値を有する。実験的に決定されておらず文献で報告されていないlogP値は、Meylan,W.M&Howard,P.H.,J.Pharm.Sci.,vol.84,pp.83−92(1995)に開示される方法を用いて推定することができる。好ましくは、石油炭化水素又は生物由来液体燃料は、石油炭化水素、バイオディーゼル燃料、又はエタノール燃料;好ましくは石油炭化水素又はバイオディーゼル燃料;好ましくは石油炭化水素;好ましくは原油、ガソリン、ディーゼル燃料、灯油、ジェット燃料、又は暖房用オイル;好ましくはガソリン又はディーゼル燃料;好ましくはディーゼル燃料である。
【0014】
好ましくは、標識化合物は、クロマトグラフ法、例えば、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、ペーパークロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動、イオン交換及び分子排除クロマトグラフィーを用いて、標識化合物を石油炭化水素又は生物由来液体燃料の構成物から少なくとも部分的に分離することによって検出する。クロマトグラフ法の後に、(i)質量スペクトル解析及び(ii)FTIRのうち少なくとも1つを続ける。標識化合物の同定は、好ましくは、質量スペクトル解析によって決定する。好ましくは、化合物は、好ましくは2つのGC分離に異なるカラムを使う二次元ガスクロマトグラフィーを用いることによって、標識された液体から少なくとも部分的に分離する。好ましくは、質量スペクトル解析を用いて、どのような分離をも行わないで、石油炭化水素又は生物由来液体燃料中の標識化合物を検出する。あるいは、標識化合物は分析の前に、例えば、石油炭化水素又は生物由来液体燃料のより揮発性のある成分のいくらかを蒸留することによって、濃縮してもよい。
【0015】
1つより多い標識化合物が存在することが好ましい。複数の標識化合物を用いることにより、石油炭化水素又は生物由来液体燃料の起源や他の特性の同定に用いることのできるコード化情報を石油炭化水素又は生物由来液体燃料に組み合わせることが容易となる。コードは、標識化合物の同定結果と相対量、例えば固定整数比を含む。1つ、2つ、3つ、又はそれ以上の標識化合物を用いてコードを形成してもよい。本発明の標識化合物は、他の種類の標識、例えば、米国特許第6,811,575号、米国特許出願公開第2004/0250469号、及び欧州特許出願公開第1,479,749号に開示されるもの等、吸光分析によって検出される標識と組み合わせてもよい。標識化合物は、石油炭化水素又は生物由来液体燃料の中に直接入れるか、あるいは、例えば、潤滑剤には耐摩耗添加剤、ガソリンには洗浄剤といったような他の化合物を含有する添加剤パッケージの中に入れて、添加剤パッケージを石油炭化水素又は生物由来液体燃料に添加する。1つより多い標識を用いることは、蒸留による標識の除去を避けるために有用であり得る。好ましくは、沸点が少なくとも50℃、好ましくは少なくとも75℃、好ましくは少なくとも100℃、好ましくは少なくとも125℃異なる少なくとも2つの標識を用いる。
【0016】
本発明の化合物は、当技術分野で既知の方法、例えば、アリールオキシド塩をハロゲン化アルキルと反応させてアリールアルキルエーテルを形成することによって調整してもよい。
【実施例】
【0017】
分析試験
1次元ガスクロマトグラフィー法を用いた、燃料マトリックスからの燃料標識の分離
ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS):次のGCカラム:DB−5、DB−35、DB−210、及びDB−WAXを用いて、全3つのジメトキシベンゼン異性体、全3つのトリメトキシベンゼン異性体、及びブチルフェニルエーテルのGC保持時間を、50体積%のディーゼル留出物のそれと比較した。いずれのカラムについても、標識がマトリックス中成分と共溶出する、即ち、各標識候補の保持時間は、燃料マトリックスの保持時間内であった。どの場合も不充分な分離を得ることとなった。
【0018】
熱イオン検出(TID):この検出器は窒素含有化合物(例えば、アミン、ニトロ化合物)に対して感度があり、それらを窒素非含有化合物の存在下で検出するために用いる。燃料マトリックス中の標識候補全てを高濃度(%レベル)で検出することができた。しかしながら、1,2,4−トリメトキシベンゼンのみ、ディーゼル留出物マトリックス中10ppmの低レベルでしか検出することができなかった。ニトロシクロヘキサンはこのレベルで検出できなかった。
【0019】
GC−GC−MS又はGC×GC−MSのいずれかによる多次元的ガスクロマトグラフィー及び質量分析を用いた、燃料マトリックスからの燃料標識の分離
ESSOカナダ及びFASTGASのディーゼル燃料中1,2−ジメトキシベンゼン(ベラトロール)、1,3,5−トリメトキシベンゼン、及びブチルフェニルエーテルを同定/分離できるかどうかを、ダウケミカル・カナダの専門分析技術センター(Expertise Analytical Tech Center)のGCセンターで評価した。
【0020】
3つの方法で評価した。
1)従来の2次元ガスクロマトグラフィー(GC−GC/FID)
1次元目GCカラム:30m×0.25mm×0.25μm DB−5ms UI(WCOT)
2次元目GCカラム:10m×0.53mm id CP−Lowox(イオン性吸着剤/PLOT)
2)パルス流量調節(Pulsed Flow Modulated)包括的2次元GC(PFM−GC×GC/FID)
1次元目GCカラム:20m×0.18mm×0.4μm DB−1(WCOT)
2次元目GCカラム:5m×0.25mm×0.15μm HP−Innowax(WCOT)
3)従来の2次元ガスクロマトグラフィーとMS(GC−GC/MSDのSCAN/SIMモード)
1次元目GCカラム:15m×0.25mm×0.1μm DB−1HT(WCOT)
2次元目GCカラム:23m×0.25mm×1μm VF−Wax ms(WCOT)
【0021】
試験した3つの方法全てによってマトリックスから化合物を分離することができるが、構造解明能力だけでなく高度の選択性と感度を提供する方法3によって最良の結果を得た。100ppb又はそれより良い範囲にある検出限界で、3つの候補全てをディーゼル燃料マトリックスから分離することができた。7分析値を含む予備データセットでの統計は、検出の相対標準偏差が4%未満であることを示した。
【0022】
D)蒸留/燃料留出物における検出
ディーゼル燃料の試料を10ppmのブチルフェニルエーテル、10ppmの1,2−ジメトキシベンゼン、及び2.5ppmのACCUTRACE 3,4−10標識で標識した。燃料をASTM D−86の手順に従って蒸留し、但し蒸留は、体積で初期投入量の50%が塔頂留出した後、停止した。塔頂留出温度は、実験の終了までには約280℃に達した。4つの試料を下に示す通り分析して、標識が存在するかしないかをみた。標識の沸騰特性に基づき、試料Cが含有するのは殆どブチルフェニルエーテル及び1,2−ジメトキシベンゼンで、基本的にACCUTRACE 3,4−10標識はないことが予想される。また、試料Dは、ブチルフェニルエーテルも1,2−ジメトキシベンゼンも殆ど含有せず、基本的にACCUTRACE 3,4−10標識の全てを含有することが予想される。
【0023】
試料A − バージンディーゼル燃料
試料B − 10ppmのブチルフェニルエーテル、10ppmの1,2−ジメトキシベンゼン、及び2.5ppmのACCUTRACE 3,4−10標識で標識したバージンディーゼル燃料
ASTM D−86の手順の一変更版(variant)を用いて試料Bのアリコート700mLを蒸留したところ、2つのほぼ同等な留分(体積に基づき)が得られ、これらは次の通りである。
試料C − 塔頂留出物。揮発性物質の第1の50%
試料D − 蒸留残渣。揮発性物質の第2の50%(本実験では塔頂留出とならなかった)
【0024】
試料を、GC−GC/MSDを用い、選択的イオンモニタリング(SIM)法で分析すると、次の結果を得た。
【0025】
【表1】
【0026】
洗浄試験(Laundering Study)
15の洗浄剤(laundering agent)について、キシレン中、他に断りがなければ5%濃度の洗浄剤と2000mg/lの各標識とで、内部標準として2000mg/lのスクアランを一緒にして、試験を行った。4種の分子全てを内部標準とともに合わせて、4時間の洗浄試験にかけた(試料を洗浄剤とともに撹拌した)。試料と試料の間ごとにキシレンをブランクにして、洗浄した標識試料全てをGC/FIDによって分析し、標識濃度のパーセントの変化として結果を記録した。メタノール洗浄試験では、恐らく内部標準の損失のために、濃度上昇が起こっている。
【0027】
【表2】
【0028】
ヘキシルフェニルエーテル、オクチルフェニルエーテル、又はデシルフェニルエーテルの標識に洗浄は行わなかったが、化学原則に基づけば、これらがブチルフェニルエーテルに非常によく似た挙動の仕方をすることが充分にあり得る。
【0029】
ディーゼル燃料沸点範囲における標識蒸留の例証
ヘキシルフェニルエーテル、オクチルフェニルエーテル、及びデシルフェニルエーテル標準の等モル混合物を標準的なウィリアムソンエーテル法によって調製した。ディーゼル燃料を上記混合物でスパイクすると、燃料中各標識は約10ppmであった。10ppmのブチルフェニルエーテルをさらに燃料に添加した。
【0030】
利用できるラボ機器に合わせて変更したASTMD−86プロトコールに従って、次いで、ディーゼル燃料を略均等質量の4つの留分に蒸留した。
【0031】
【表3】
【0032】
次いで、これら4つの燃料試料をGC−GC−FID法を用いて分析した。各標識のピーク領域を100%に正規化し、種々の留分中に現れる標識の相対量を計算した。結果を表にまとめる。
【0033】
【表4】
【0034】
データから分かるとおり、ヘキシルフェニルエーテル及びオクチルフェニルエーテルの両方とも全ての留分中に明らかに存在した。ブチルフェニルエーテルは蒸留釜残(残留物)から完全に除去され、デシルフェニルエーテルは最も軽い留分中には蒸留しなかった。このようにして、ブチル、ヘキシル、及びオクチルのフェニルエーテルのいずれも、ACCUTRACE 3,4−6又は10とともにディーゼル燃料に添加することができ、全ての蒸留留分は本発明の標識系を含有すると同定できた。あるいは、ヘキシル又はオクチルフェニルエーテルをディーゼル燃料に添加することができ(ACCUTRACEの不存在下)、全ての可能な蒸留留分は標識されているとやはり同定することができた。