(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
テープ状の基材と、前記基材の主面上に形成された中間層と、前記中間層上に形成された酸化物超電導層と、を有する中間体と、前記中間体上に形成された保護層と、を有する酸化物超電導積層体を備え、
前記保護層の平均膜厚Taveが、0.1μm以上、5μm以下であり、
前記保護層の膜厚の標準偏差Tσと前記平均膜厚Taveとの比Tσ/Taveが、0.4以下であり、
前記保護層がAg又はAg合金から形成される、酸化物超電導線材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酸化物超電導線材には、保護層形成後に酸素を酸化物超電導層に供給し超電導特性を高める酸素アニール処理を施す必要がある。この酸素アニール処理は、酸化物超電導線材を酸素雰囲気下で300℃〜500℃に加熱することで行われる。この加熱によって、保護層のAg原子が、酸化物超電導層の表面上で凝集し、孤立分散した複数のAg粒子の集合体となる場合がある。その結果、保護層が局所的に厚くなる部分や薄くなる部分が生じ、保護層にピンホールが発生することがある。
ピンホールが発生すると、水分の浸入を許すなど保護層としての機能を果たすことができない。ピンホールを抑制するためには、保護層を厚く形成する必要があるが、Agは高価な金属であるため、Agの使用量は少なくすることが望ましい。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであって、Agの使用量を抑制しつつピンホールのない保護層を備え、酸化物超電導層を保護する機能を高めた酸化物超電導線材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の第一態様に係る酸化物超電導線材は、テープ状の基材と、前記基材の主面上に形成された中間層と、前記中間層上に形成された酸化物超電導層と、を有する中間体と、前記中間体上に形成された保護層と、を有する酸化物超電導積層体を備え、前記保護層の平均膜厚T
aveが、0.1μm以上、5μm以下であり、前記保護層の膜厚の標準偏差T
σと前記平均膜厚T
aveとの比T
σ/T
aveが、0.4以下である。
上記第一態様において、前記保護層がAg又はAg合金から形成されていてもよい。
保護層の平均膜厚T
aveを0.1μm以上、5μm以下とし、膜厚の標準偏差T
σと前記平均膜厚T
aveの比T
σ/T
aveを、0.4以下とすることにより、保護層を過剰に厚く形成することなくピンホールの形成を抑制できる。したがって保護機能を十分に果たしつつ保護層のコストを抑えることができる。
上記態様に係る酸化物超電導線材は、保護層上に、半田を介して金属テープを密着させ電流特性を安定化することができる。その他に、上記態様に係る酸化物超電導線材を一対用意し、保護層同士を対向させて、半田を介して接続することができる。これらの場合においては、保護層に直接半田が密着する。保護層に半田が密着すると、半田を構成する金属(一例としてSn)が保護層に侵食し保護層のAgが合金化する。Agは合金化することで脆化することがある。保護層に局所的に薄い部分があると、この薄い部分において保護層の全厚が脆化し、保護層自身が剥離しやすくなる。これによって、上記のような金属テープが剥離しやすくなったり、接続部分の強度が低下したりする。
本発明の上記態様によれば、保護層の平均膜厚T
aveを0.1μm以上、5μm以下に設定し、膜厚の標準偏差T
σと平均膜厚T
aveとの比T
σ/T
aveを、0.4以下に設定する。そのため、保護層に局所的に薄い部分がないため、合金化による脆化が生じても、この脆化が保護層の全厚に達することがなく、強度(接続部の強度、又は金属テープの剥離強度)が低下することを抑制できる。
加えて、この酸化物超電導線材は、酸化物超電導積層体の外周にメッキ被覆層を設けて、電流特性を安定化することができる。この場合においては、酸化物超電導線材をメッキ液に浸してメッキ被覆層を形成する。保護層はピンホール形成が抑制されているため、メッキ液が酸化物超電導層に触れて酸化物超電導層が腐食することがない。したがって、超電導特性が低下することを防ぐことができる。
【0009】
また、上記第一態様に係る酸化物超電導線材は、前記保護層に接合され、金属テープから形成される安定化層をさらに有していてもよい。
また、上記第一態様に係る酸化物超電導線材は、前記を有する酸化物超電導積層体の外周に形成され、メッキ被覆層から形成される安定化層をさらに有していてもよい。
安定化層を形成することで、酸化物超電導線材の電流特性を安定化できる。酸化物超電導線材の外周を覆うように、安定化層を形成する場合においては、酸化物超電導層が外部から封止され、水分の浸入による超電導特性の劣化を防ぐことができる。
上記第一態様において、前記保護層は、前記中間体を酸素アニール処理した後に形成されてもよい。
従来、酸素アニール処理は保護層を形成した後に行われていたため、酸素アニール処理に伴う加熱によってAgの凝集が起こり、保護層に局所的に薄くなる部分やピンホールが形成されていた。しかしながら、酸素アニール処理を行った後に保護層を形成することで、Agの凝集や再結晶化が抑制され均一な膜厚の保護層を実現できる。
上記第一態様において、前記保護層の表面の算術平均粗さRaが80nm以下であってもよい。
【0010】
本発明の第二態様に係る酸化物超電導線材の製造方法は、基材と、前記基材上に形成された中間層と、前記中間層上に形成された酸化物超電導層と、を有する中間体を用意し、前記中間体に酸素アニール処理を行い、前記酸素アニール処理を行った後に、前記酸化物超電導層上に保護層を成膜する。
上記第二態様において、前記保護層がAg又はAg合金から形成されていてもよい。
従来、酸素アニール処理は保護層を形成した後に行われていたため、酸素アニール処理に伴う加熱によってAgの凝集が起こり、保護層に局所的に薄くなる部分やピンホールが形成されていた。しかしながら、酸素アニール処理を行った後に保護層を形成することで、Agの凝集や再結晶化が抑制され均一な膜厚の保護層を実現できる。
【0011】
また、上記第二態様において、前記保護層を成膜する際、スパッタ法によって平均膜厚5μm以下の前記保護層を成膜した後で、前記酸化物超電導線材を冷却又は放熱してもよい。
また、上記第二態様において、前記保護層を成膜する際、スパッタ法によって平均膜厚5μm以下の前記保護層を成膜する工程と、前記酸化物超電導線材を冷却又は放熱する工程と、を繰り返し行ってもよい。
スパッタ法による成膜において、スパッタ粒子(Ag粒子)が被成膜体に衝突すると衝突時の運動エネルギーが熱エネルギーに変換され、被成膜体の表面が温度上昇する。被成膜体である酸化物超電導層が温度上昇すると、酸化物超電導層中の酸素が抜け出し超電導特性の劣化が起こる虞がある。一回の成膜工程で成膜される保護層の厚さを5μm以下とすることで、酸化物超電導層から酸素が抜け出すことを抑制し、超電導特性の劣化を防ぐことができる。
上記第二態様において、前記保護層の表面の算術平均粗さRaが80nm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の上記態様によれば、保護層の平均膜厚T
aveを0.1μm以上、5μm以下とし、保護層の膜厚の標準偏差T
σと平均膜厚T
aveの比T
σ/T
aveが、0.4以下となっている。
即ち保護層には、極端に厚い部分、極端に薄い部分が形成されていない。したがって、保護層を薄く形成したとしてもピンホールが形成されにくい。また、局所的に薄い部分が保護層に形成されていないことで、保護層上に半田を接合しても、保護層の全厚が合金化し脆化することを抑制できる。したがって、保護層自身の剥離強度が低下しにくい。
したがって酸化物超電導層の保護機能を十分に果たしつつ保護層のコストを抑えた酸化物超電導線材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る酸化物超電導線材の実施形態について図面に基づいて説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0015】
<第1実施形態>
図1に本発明の第1実施形態に係る酸化物超電導線材1の横断面の模式図を示す。本実施形態の酸化物超電導線材1は、テープ状の基材3に中間層4と酸化物超電導層5とが積層された中間体6と、中間体6の酸化物超電導層5の主面(第1の面)5a上に形成される保護層2とを有する酸化物超電導積層体1Aを備えている。
なお、本明細書中の各図において、線材の幅方向をX方向、長手方向をY方向、厚さ方向をZ方向とする。
【0016】
基材3の材料としては、ハステロイ(米国ヘインズ社,登録商標)に代表されるニッケル合金やステンレス鋼、ニッケル合金に集合組織を導入した配向Ni−W合金が適用される。基材3の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、10〜500μmの範囲に設定することができる。
【0017】
基材3上に形成される中間層4は、一例として、基材側から順に拡散防止層とベッド層と配向層とキャップ層とを含む積層構造を有していてもよい。中間層4は、拡散防止層とベッド層との一方あるいは両方を略して構成されても良い。
拡散防止層は、Si
3N
4、Al
2O
3、GZO(Gd
2Zr
2O
7)等から構成される。拡散防止層は、例えば厚さ10〜400nmに形成される。ベッド層は、界面反応性を低減し、ベッド層上に形成される膜の配向性を得るための層であり、Y
2O
3や、Er
2O
3、CeO
2、Dy
2O
3、Er
2O
3、Eu
2O
3、Ho
2O
3、La
2O
3等から形成される。ベッド層の厚さは例えば10〜100nmである。配向層は、配向層上のキャップ層の結晶配向性を制御するために2軸配向する物質から形成される。配向層の材質としては、Gd
2Zr
2O
7や、MgO、ZrO
2−Y
2O
3(YSZ)、SrTiO
3、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、Zr
2O
3、Ho
2O
3、Nd
2O
3等の金属酸化物を例示することができる。
この配向層はIBAD(Ion-Beam-Assisted Deposition)法で形成することが好ましい。
キャップ層は、上述の配向層の表面に成膜されて結晶粒が面内方向に自己配向し得る材料から形成される。具体的には、キャップ層は、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、ZrO
2、YSZ、Ho
2O
3、Nd
2O
3、LaMnO
3等から形成される。キャップ層の膜厚は50〜5000nmの範囲内に形成できる。
【0018】
酸化物超電導層5の材料は公知の酸化物超電導材料で良く、具体的には、RE−123系と呼ばれるREBa
2Cu
3Oy(REは希土類元素であるSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuのうちの1種又は2種以上を表す)を例示できる。この酸化物超電導層5として、Y123(YBa
2Cu
3O
7−X)又はGd123(GdBa
2Cu
3O
7−X)などを例示できる。酸化物超電導層5の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
【0019】
酸化物超電導層成膜後には、酸化物超電導層5に対して酸素雰囲気下において300〜500℃、5〜20hの熱処理を行う(酸素アニール処理)。酸化物超電導層5は、成膜後には酸素が不足した結晶構造となっている。そのため、上記の酸素アニール処理を行うことによって、酸化物超電導層5に酸素を供給して結晶構造を整えることができる。なお、本実施形態では、中間体6に対して酸素アニール処理を行うことで酸化物超電導層5が酸素アニール処理される。
【0020】
保護層2は、酸化物超電導層5の主面5aに形成され、Ag又はAg合金から形成される層である。保護層2は、主面5aのみならず、中間体6の側面6a、6a及び裏面6bにも形成されていてもよい。特に、スパッタ法により保護層2を形成する場合は、スパッタ粒子(Ag粒子)の一部が中間体6の側面6a及び裏面6bに回り込むため、中間体6の側面6a及び裏面6bにも薄い保護層2が形成される。なお、
図1においては、側面6a、裏面6bに形成される保護層2は省略する。
【0021】
保護層2は、酸化物超電導層5を保護する。また、保護層2は事故時に発生する過電流をバイパスする。加えて、保護層2は酸化物超電導層5と酸化物超電導層5よりも上面に設ける層との間で起こる化学反応を抑制し、一方の層の元素の一部が他方の層に侵入して組成がくずれることによる超電導特性の低下を防ぐなどの機能を有する。
【0022】
保護層2は、常温下でスパッタ法等の成膜法により形成できる。スパッタ法による保護層2の成膜の一例について以下に説明する。
まず、Ag又はAg合金から形成されるターゲットと中間体6とを、内部を真空状態に減圧しArガスを導入した処理容器内に配置する。このとき、酸化物超電導層5をターゲットに向けて配置する。次に前記ターゲットに電圧を印加し放電させることでArガスをイオン化してプラズマを生成する。プラズマ中に生成されたArのイオンが、前記ターゲットをスパッタしてターゲットからAgのスパッタ粒子がはじき出される。そして、当該スパッタ粒子が酸化物超電導層5上に堆積することで、保護層2が成膜される。
【0023】
常温下でスパッタ法により成膜されたAgの保護層2は、アモルファス構造(非晶質)を主体としており均一な膜厚を有している。しかしながら、この保護層2を再結晶温度200℃以上に加熱するとAgの再結晶化による凝集が起こり、保護層2を450℃以上で加熱するとこの凝集がより顕著となる。Agの凝集が起こると、保護層2の膜厚が不均一となり局所的に薄い部分やピンホールが発生する。したがって、保護層2の成膜は、300℃以上の熱を加える酸素アニール処理の後に行うことが好ましい。
【0024】
スパッタ法による成膜において、スパッタ粒子(Ag粒子)が被成膜体(酸化物超電導層5及び基材3)に衝突すると衝突時の運動エネルギーが熱エネルギーに変換され、被成膜体の表面の温度が上昇する。減圧雰囲気で被成膜体である酸化物超電導層5の温度が上昇すると、酸化物超電導層5中の酸素が抜け出し結晶構造がくずれ超電導特性の劣化が起こる虞がある。
被成膜体の温度上昇は、一回に成膜する保護層2の膜厚(成膜レート)と相関関係を有している。酸化物超電導層5の超電導特性の劣化を抑制するためには、一回に成膜する保護層2の平均膜厚を5μm以下とすることが好ましい。平均膜厚が5μmを超える保護層2を形成する場合は、成膜を複数回に分け、各成膜の度に被成膜体を冷却(又は放熱)する。即ち、平均膜厚5μm以下の成膜を行った後に、一旦冷却し、その後、再度平均膜厚5μm以下の成膜を行う。
また、スパッタ法による成膜における被成膜体の温度上昇により、保護層2のAgが再結晶化することがある。一回に平均膜厚5μm以下の成膜を行う場合にはAgの再結晶化を抑制できる。
【0025】
このように形成された保護層2において、保護層2の膜厚Tの平均値である平均膜厚T
aveは、0.1μm以上、5μm以下であり、膜厚Tの標準偏差T
σと平均膜厚T
aveとの比T
σ/T
aveは、0.4以下である。
【0026】
なお、ここでの平均膜厚T
aveとは、酸化物超電導線材1の長手方向(Y方向)及び幅方向(X方向)に亘って、無作為に保護層2の膜厚を測定した時の平均値である。また、例えば段差計等の測定器を用いて、保護層2を幅方向に連続的にスキャンして計測することで、平均膜厚T
aveを求めても良い。
膜厚Tの値が大きくなると、その標準偏差の値T
σも大きくなる。そこで、平均膜厚T
aveに対する標準偏差T
σの比により、膜厚Tが極端に大きい部分、及び膜厚Tが極端に小さい部分が形成されているかどうかを表現できる。
膜厚Tの標準偏差T
σと平均膜厚T
aveとの比T
σ/T
aveが小さいことは、保護層2に、極端に厚い部分、又は極端に薄い部分が形成されておらず、膜厚Tが安定し平滑であることを意味する。
本実施形態において、比T
σ/T
aveを、0.4以下とすることによって、保護層2を過剰に厚く形成することなくピンホールの形成を抑制できる。したがって保護機能を十分に果たしつつコストを抑えることができる。
この保護層2は、Agの凝集がなく、均一な膜厚に形成されているため、表面が平滑であり上面から観察すると金属光沢を有する。
【0027】
保護層2の平均膜厚T
aveは、0.1μm以上5μm以下に設定することが好ましい。
保護層2の上に半田を介して線材同士を接続する場合、又は半田層を介して金属テープなどから形成される安定化層を形成する場合には、保護層2の平均膜厚T
aveは、1μm以上5μm以下に設定することが好ましい。保護層2上に半田を設けると、半田を構成する金属(例えばSn)が保護層2に侵食し1μm程度の合金層を形成することがある。したがって、半田を設ける場合には、保護層2の平均膜厚T
aveを1μm以上に設定することが望ましい。
保護層2を形成した酸化物超電導線材1の外周にメッキ法によるメッキ被覆層を形成する場合には、保護層2の平均膜厚T
aveは、0.1μm以上2.5μm以下に設定することが好ましい。メッキ法による線材の前処理において、保護層2の膜厚が0.1μm程度減少することがある。したがって、メッキ被覆層を形成する場合には、保護層2の平均膜厚T
aveを0.1μm以上に設定することが望ましい。
また、保護層2をできるだけ薄く形成することでコスト低減を図ることができる。したがって、保護層2の上に形成される層に応じて、できるだけ薄く保護層2を形成することが好ましい。
【0028】
酸化物超電導線材1同士の接続は、保護層2同士を対向させて、半田接合することで実現できる。また、入力端子への接続も、保護層2に端子を半田接合することで実現できる。これら場合においては、保護層2に直接半田が密着する。保護層2に半田が密着すると、半田を構成する金属(一例としてSn)が保護層2を侵食し保護層2のAgが合金化する。例えばAgはSnと合金化することで脆化するため、保護層2に局所的に薄い部分があると、薄い部分の全厚が合金化し接続部分の強度が低下する虞がある。保護層2の膜厚Tについて、平均値T
aveが0.1μm以上、5μm以下に設定され、標準偏差T
σと平均値T
aveの比T
σ/T
aveが0.4以下に設定されたことで、保護層2の全厚が脆化し剥離しやすくなることを抑制できる。
【0029】
<第2実施形態>
図2に本発明の第2実施形態に係る酸化物超電導線材11の横断面の模式図を示す。
本実施形態に係る酸化物超電導線材11は、第1実施形態に係る酸化物超電導線材1の周囲にさらに半田層7を介して安定化層8が設けられている。
以下、第2、第3実施形態の説明では、第1実施形態に係る酸化物超電導線材1(
図1参照)と同態様の線材を酸化物超電導積層体1Aと呼ぶ。
【0030】
安定化層8は、金属テープにより酸化物超電導積層体1Aを断面視略C字型に覆うことで形成されている。安定化層8は、酸化物超電導積層体1Aの外周(横断面四方)において半田層7と接合されている。金属テープにより覆われていない部分(即ち、金属テープの側端部同士の間)には、溶融した半田層7が埋め込まれる埋込部7bが形成されている。
【0031】
安定化層8は、半田層7を溶融させながら、金属テープを酸化物超電導積層体1Aの主面側(保護層2側)から横断面略C字型を形成するように包み込んでロールにより折り曲げ加工することで形成できる。なお、両面、又は内側となる一面に予め半田メッキを施した金属テープを用いる事が好ましい。
このように加工することで、溶融した半田(金属テープに予め施された半田メッキ)が、金属テープの側端部同士の隙間に集中し、埋込部7bが形成される。
【0032】
安定化層8を構成する金属テープの材料としては、良導電性を有する材料であればよく、特に限定されない。例えば、金属テープとしては、銅、黄銅(Cu−Zn合金)、Cu−Ni合金等の銅合金、ステンレス等の比較的安価な材質から形成される材料を用いることが好ましい。中でも金属テープは、高い導電性を有し、安価であることから銅製が好ましい。
この酸化物超電導線材11において安定化層8は、事故時に発生する過電流を転流するバイパスとなる。
また、酸化物超電導線材11を超電導限流器に使用する場合において安定化層8は、クエンチが起こり常電導状態に転移した時に発生する過電流を瞬時に抑制するために用いられる。この場合、安定化層8に用いられる材料は、例えば、Ni−Cr等のNi系合金等の高抵抗金属を用いる事が好ましい。
【0033】
安定化層8を構成する金属テープの厚さは特に限定されず、適宜調整可能であるが、9〜60μmに設定することができる。金属テープの厚さが薄すぎると加工工程で破れが生じる虞があり、また厚すぎると、横断面略C字型に成形することが困難となるのみならず、成形時に高い応力を加える必要があるため酸化物超電導層5が劣化する虞がある。
【0034】
半田層7に用いる半田は、特に限定されず従来公知の半田を使用可能である。これらの中でも、融点が300℃以下の半田を用いることで、半田付けの熱によって酸化物超電導層5の特性が劣化することを抑止できる。
【0035】
本実施形態に係る酸化物超電導線材11は、酸化物超電導積層体1Aの横断面四方に安定化層8が形成されているため、内部に水分を浸入させない構造を実現できる。また、酸化物超電導積層体1Aの外周に金属テープを螺旋巻きにするなどして安定化層を形成することもできる。安定化層8は、酸化物超電導積層体1Aの全外周に形成されていてもよい。安定化層8は、少なくとも保護層2上に形成されていればよい。
【0036】
保護層2上に半田層7を形成すると、半田を構成する金属(一例としてSn)が保護層2に侵食し、保護層2のAgが脆化する。脆化は、保護層2において半田層7との界面付近に限られるが、保護層2に局所的に薄い部分がある場合は、保護層2の全厚が脆化し、金属テープが剥離しやすくなる。即ち、安定化層8の剥離強度が低下してしまう。
【0037】
本実施形態の酸化物超電導線材11は、酸素アニール処理を行った後に保護層2を形成しているため、保護層2のAg凝集が抑制されている。よって、保護層2が局所的に薄くなることがない。したがって、Ag合金化が保護層2の全厚に及ぶことはなく、安定化層8の剥離強度低下を抑制できる。
【0038】
<第3実施形態>
図3に第3実施形態に係る酸化物超電導線材12の横断面の模式図を示す。
本実施形態の酸化物超電導線材12は、第1実施形態の酸化物超電導線材1(酸化物超電導積層体1A)の周囲にさらにメッキ法によるメッキ被覆層9(安定化層)が設けられている。
【0039】
メッキ被覆層9は、良導電性の金属材料から形成される。メッキ被覆層9は、酸化物超電導層5が常電導状態に遷移しようとした時に、保護層2とともにバイパスとなり、安定化層として機能する。
また、メッキ被覆層9により、酸化物超電導積層体1Aを外部から完全に遮断することが可能となる。したがって、酸化物超電導層5に水分が浸入することを確実に防ぐことができる。
メッキ被覆層9に使用する金属としては、銅や、ニッケル、金、銀、クロム、錫などを挙げることができ、これ等の金属のうち一種又は二種以上を組み合わせて用いる事ができる。また、酸化物超電導線材12を超電導限流器に使用する場合に、メッキ被覆層9に用いられる材料は、例えば、Ni−Cr等のNi系合金等の高抵抗金属が挙げられる。
【0040】
メッキ被覆層9の厚さは特に限定されず、適宜調整可能であるが、10〜100μmに設定することが好ましい。メッキ被覆層9の厚さを10μm以上に設定することで、酸化物超電導積層体1Aの周囲を確実に覆うことができる。また、メッキ被覆層9の厚さが100μmを超えると酸化物超電導線材12が肥大化し屈曲性が悪化する。メッキ被覆層9は、酸化物超電導積層体1Aの全外周に形成されていてもよい。メッキ被覆層9は、少なくとも保護層2上に形成されていればよい。
【0041】
メッキ被覆層9は、従来公知のメッキ法により形成することができる。即ち、酸化物超電導積層体1Aをメッキ液に浸すことにより行われる(電気メッキの場合は、メッキ液に浸した状態で被メッキ体である酸化物超電導積層体1Aの表面に電気を流す)。
保護層2上にピンホールが形成されていると、ピンホールにより露出した酸化物超電導層5とメッキ液が接触して、酸化物超電導層5が腐食する。これにより、超電導特性の劣化を引き起こす虞がある。
本実施形態に係る酸化物超電導線材12は、保護層2のAg凝集が抑制されておりピンホールが形成されることがない。したがって、メッキ液に浸しても、超電導特性が低下することがない。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
<試料の作製>
まず、ハステロイC−276(米国ヘインズ社商品名)から形成される幅10mm、厚さ0.1mm、長さ1000mmのテープ状の基材の表面を平均粒径3μmのアルミナを使用し研磨した。次に、前記基材の表面をアセトンにより脱脂、洗浄した。
この基材の主面上にスパッタ法によりAl
2O
3(拡散防止層;膜厚100nm)を成膜し、その上に、イオンビームスパッタ法によりY
2O
3(ベッド層;膜厚30nm)を成膜した。
次いで、このベッド層上に、イオンビームアシスト蒸着法(IBAD法)によりMgO(金属酸化物層;膜厚5〜10nm)を形成し、その上にパルスレーザー蒸着法(PLD法)により500nm厚のCeO
2(キャップ層)を成膜した。次いでCeO
2層上にPLD法により2.0μm厚のGdBa
2Cu
3O
7−δ(酸化物超電導層)を形成した。
このように作製した試料Aを以下の実施例及び比較例で共通して使用する。
【0043】
(実施例)
上述した試料Aを500℃で10時間、酸素雰囲気中において酸素アニールし、26時間の炉冷却後に取り出した。
次にこの試料に対し、スパッタ法により酸化物超電導層上に後段に示す表1の平均膜厚を有し、Agから形成される保護層を形成した。
このように、実施例の酸化物超電導線材を作製した。
【0044】
(比較例)
上述した試料Aに対し、スパッタ法により酸化物超電導層上にAgから形成される保護層を形成した。
次にこの試料を500℃で10時間、酸素雰囲気中において酸素アニールし、26時間の炉冷却後に取り出した。
このように、比較例の酸化物超電導線材を作製した。
実施例と比較例との酸化物超電導線材は、その作製手順において、酸素アニールと保護層の成膜との順序が異なる。
【0045】
<評価>
(臨界電流特性)
実施例及び比較例の酸化物超電導線材をそれぞれ3本用意し、これらの臨界電流値(Ic)を測定した。それぞれ3本の酸化物超電導線材のIcの平均値は以下のようになった。
実施例:545A
比較例:539A
【0046】
上の結果から、実施例と比較例との臨界電流値(Ic)は、大きな差はないことがわかる。このことから、上述した製造手順において、実施例のように酸素アニール処理を行った後に保護層の成膜を行っても超電導特性の端的な劣化は見られないことが確認された。
【0047】
(界面抵抗測定)
実施例の酸化物超電導線材は、酸素アニール処理の後に保護層を形成している。したがって、従来製法の比較例と比べて、酸化物超電導層と保護層の界面状態が変わり、界面における抵抗値が上昇していることが懸念される。そこで、実施例及び比較例の酸化物超電導線材において、酸化物超電導層と保護層との界面抵抗を測定した。
実施例及び比較例の酸化物超電導線材をそれぞれ3本用意し測定した界面抵抗の平均値を以下に示す。
実施例:4.2×10
−8Ω・cm
2
比較例:3.9×10
−8Ω・cm
2【0048】
上の結果から、実施例と比較例とにおいて、酸化物超電導層と保護層との界面抵抗に大きな差はないことがわかる。このことから、上述した製造手順において、実施例のように酸素アニール処理を行った後に保護層の成膜を行っても界面抵抗の極端な上昇がないことが確認された。
【0049】
(SEMによる観察)
実施例及び比較例の酸化物超電導線材を切断し、断面の保護層を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。
図4に、実施例の酸化物超電導線材に形成された保護層の断面のSEM写真像を示す。
図5に、比較例の酸化物超電導線材に形成された保護層の断面のSEM写真像を示す。また、表1に実施例及び比較例の保護層の平均膜厚T
ave、標準偏差T
σ、及び算術平均粗さRaの測定結果を示す。平均膜厚T
aveと標準偏差T
σは、段差計を用いて、保護層の上面を1mmに亘り連続的にスキャンすることによって求めた連続的な膜厚のデータを基にして算出した。同様に、算術平均粗さRaは、保護層の上面について、粗さ計を用いて算出した。
【0050】
(剥離強度)
次に、実施例及び比較例の酸化物超電導線材の保護層に、幅10mm、厚さ0.1mm、長さ1000mmの銅テープを半田付けし、この銅テープと酸化物超電導線材との剥離強度を測定した。
測定は、スタッドプル剥離試験により銅テープ(金属テープ)が剥離する強度を測定した。剥離強度の測定は、銅テープの表面に直径2.7mmのスタッドピンの先端部をエポキシ樹脂で接着固定(ピン先端部の接着面積5.72mm
2)し、このスタッドピンを線材の成膜面に対して垂直方向に引っ張り、応力が低下した瞬間の引張荷重を剥離応力(剥離強度)として行った。
スタッドプル剥離試験は、各サンプルについて10カ所の測定を行った。測定値の最大値と最小値、並びに平均値を以下の表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
図4及び
図5を比較することで、実施例(
図4)の保護層の膜厚が均一に形成されていることがわかる。なお、
図4及び
図5において、保護層の上に形成された薄膜部分は、FIB(集束イオンビーム)で断面加工する際に蒸着された炭素である。
また、表1に示す結果から、実施例の保護層は、標準偏差T
σと平均膜厚T
aveの比T
σ/T
aveが0.4以下となっている。これに対し、比較例のT
σ/T
aveは、0.76となっており、データからも厚い部分と薄い部分とが保護層に形成されていると読み取れる。
また、このような実施例の剥離強度は、比較例の剥離強度に対し高くなっている。比較例の酸化物超電導線材は、保護層の膜厚が不均一であり、局所的に薄い部分が形成されているため、その部分において、全厚が半田と合金化して脆化したためと考えられる。これに対し、実施例の酸化物超電導線材の保護層は、膜厚が均一に形成されているため、合金化が全厚に及ばず、強度が維持されていると考えられる。
【0053】
また、本実施例の方法であれば、Agの凝集が起きないため保護層の膜厚分布は均一であり、T
σは小さい。表1の結果から、上述した実施形態において保護層表面の算術平均粗さRaは80nm以下である。そのため、中間体を酸化アニール処理した後に保護層が形成された酸化物超電導線材において、Agから形成される保護層の表面のRaの値が80nm以下であることが好ましい。このようにRaが80nm以下と小さければ、保護層の膜厚を薄く形成した場合であっても酸化物超電導層が露出する恐れがなくなる。
【0054】
以上に、本発明の様々な実施形態を説明したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはない。