(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。
なお、以下の説明では、回転電機の一例として、ハイブリット自動車に用いられる電動機を用いる。また、以下の説明において、「軸方向」は回転電機の回転軸に沿った方向を指す。周方向は回転電機の回転方向に沿った方向を指す。「径方向」は回転電機の回転軸を中心としたときの動径方向(半径方向)を指す。「内周側」は径方向内側(内径側)を指し、「外周側」はその逆方向、すなわち径方向外側(外径側)を指す。
【0014】
図1は本発明による固定子を備える回転電機を示す断面図である。回転電機10は、ハウジング50、固定子20、固定子鉄心21と、固定子コイル60と、回転子11とから構成される。
【0015】
ハウジング50の内周側には、固定子20が固定される。固定子20の内周側には、回転子11が回転可能に支持される。ハウジング50は、炭素鋼など鉄系材料の切削により、または鋳鋼やアルミニウム合金の鋳造により、またはプレス加工により円筒状に成形され、電動機の外被を構成する。ハウジング50は、枠体或いはフレームとも称される。
【0016】
ハウジング50の外周側には、液冷ジャケット130が固定される。液冷ジャケット130の内周壁とハウジング50の外周壁とで、油やATF(オートマチックトランスミッションフルード)などの液状の冷媒RFの冷媒通路153が構成され、この冷媒通路153は液漏れしないように形成される。液冷ジャケット130は、軸受144,145を収納しており、軸受ブラケットとも称される。
【0017】
直接液体冷却の場合、冷媒RFは、冷媒通路153を通り、冷媒出口154,155から固定子20へ向けて流出し、固定子20を冷却する。ハウジング50がなく、固定子20を直接ボルト留めする、もしくはケースに焼き嵌めする構成でもよい。
【0018】
固定子20は、固定子鉄心21と、固定子コイル60とによって構成されている。固定子鉄心21は、珪素鋼板の薄板が積層されて作られる。珪素鋼板は厚さが0.05〜1.0mm程度であり、打ち抜き加工またはエッチング加工により成形される。固定子コイル60は、固定子鉄心21の内周部に多数個設けられたスロット15に巻回される。固定子コイル60からの発熱は、固定子鉄心21を介して、液冷ジャケット130に伝熱され、液冷ジャケット130内を流通する冷媒RFにより、放熱される。
【0019】
回転子11は、回転子鉄心12と、回転軸13とから構成される。回転子鉄心12は、珪素鋼板の薄板が積層されて作られる。回転軸13は、回転子鉄心12の中心に固定されている。回転軸13は、液冷ジャケット130に取り付けられた軸受144,145により回転自在に保持され、固定子20内の所定の位置で、固定子20に対向して回転する。
また、回転子11には、永久磁石18と、エンドリング(図示せず)が設けられる。
【0020】
回転電機の組み立てについて説明する。まず、固定子20をハウジング50の内側に挿入してハウジング50の内周壁に取付けておき、次に、固定子20内に回転子11を挿入する。その後、この固定子20と回転子11とを組み合わせたものを、その回転軸13に軸受144,145が嵌合するように液冷ジャケット130に組み付ける。
【0021】
図2を用いて、固定子20の要部の詳細構成について説明する。固定子20は、固定子鉄心21と、固定子鉄心21のスロット15に巻回された固定子コイル60とから構成される。固定子コイル60は、断面が略矩形形状の導体(本実施例では銅線)を使用しスロット内の占積率を向上させ、回転電機10の効率が向上する。
【0022】
固定子鉄心21には、内径側に開口するスロット15が、周方向に、例えば72個形成される。そして、スロットライナー200が各スロット15に配設され、固定子鉄心21と固定子コイル60との電気的絶縁を確実にする。
【0023】
スロットライナー200は、銅線を包装するように、B字形状やS字形状に成形される。ワニス205を滴下して、固定子鉄心21と固定子コイル60とスロットライナー200とのそれぞれの隙間に浸透させ、これらを固定する。ワニス205はポリエステル樹脂やエポキシ樹脂を用いる。
【0024】
ワニス205は、スロット15内に浸透させる他、必要に応じてコイルエンド61、コイルエンド62に塗布してもよい。ワニス205の塗布方法として、ノズルを用いた滴下含浸法やワニス液面にステータを浸漬する方法を用いてもよい。
【0025】
コイルエンド61、コイルエンド62において、セグメント導体間に絶縁紙203が環状に配置される。この絶縁紙203は、相間絶縁、導体間絶縁を目的とするものである。固定子10は、コイルエンド61、コイルエンド62において絶縁紙203が配設されているため、絶縁皮膜が傷ついたり劣化したりしても、必要な絶縁耐圧を保持できる。絶縁紙203は、例えば耐熱ポリアミド紙の絶縁シートであり、厚さは0.1〜0.5mm程である。なお、使用電圧やエナメル皮膜厚さにより絶縁距離が確保できる場合は、絶縁紙203は配置しなくてもよい。
【0026】
図3を用いて、固定子コイル60の巻線方法について簡単に説明する。エナメル等で絶縁された、断面が略矩形の銅線もしくはアルミ線を、
図3(a)に示すような、反溶接側コイルエンド頂点28Cを折り返し点とする略U字形状のセグメント導体28に成型する。このとき、反溶接側コイルエンド頂点28Cは略U字形状において導体の向きを折り返す形状であればよい。すなわち、
図3のような、径方向から見たときに反溶接側コイルエンド頂点28Cと反溶接側反溶接側コイルエンドの導体斜行部28Fとが略三角形をなすような形状に限らない。例えば、反溶接側コイルエンド頂点28Cの一部において、導体が固定子鉄心21の端面と略平行になるような形状(径方向から見たとき反溶接側コイルエンド頂点28Cと反溶接側コイルエンドの導体斜行部28Fとが略台形をなすような形状)であってもよい。
【0027】
そのセグメント導体28を、軸方向からをステータスロットに差し込む。所定のスロット15離れたところに差し込まれた別のセグメント導体28と導体溶接部28Eにおいて
図3(b)の様に接続する。接続方法は、例えば溶融接合や液相−固相反応接合法や固相接合法などである。
【0028】
このとき、セグメント導体28には、スロット15に挿入される部位である導体直線部28Sと、接続相手のセグメント導体の導体溶接部28Eへ向かって傾斜する部位である導体斜行部28Dとが形成される。スロット内には2、4、6・・・(2の倍数)本のセグメント導体が挿入される。
図3(c)は1スロットに4本のセグメント導体が挿入された例であるが、断面が略矩形の導体のため、スロット内の占積率を向上させることが出来、回転電機の効率が向上する。
【0029】
図4は、
図3(b)の接続作業をセグメント導体が環状となるまで繰り返し、一相分(例としてU相)のコイル60を形成したときの図である。一相分のコイル60は導体溶接部28Eが軸方向一方に集まるように構成され、導体溶接部28Eの集まる溶接側コイルエンド62と、反溶接側コイルエンド頂点28Cの集まる反溶接側コイルエンド61とを形成する。一相分のコイル60には、一端に各相のターミナル(
図4の例ではU相のターミナル42U)、他端に中性線41が形成される。
【0030】
固定子コイル60はスター結線やデルタ結線で接続される。本実施の形態では、2つのスター結線が並列接続された2スター構成の固定子コイル60を採用する。固定子コイル60から、U、V、Wの三相それぞれの入出力用コイル導体42U、42V、42Wと、中性点結線用導体41が引き出される。すなわち、固定子コイル60は、U相、V相、W相の各相の固定子コイル主要部のそれぞれに、入出力用コイル導体42U、42V、42Wおよび中性点結線用導体41を接続して構成される。入出力用コイル導体42U、42V、42Wの先端には、後述する接続端子42が設けられる。この接続端子42は外部の機構とボルトなどで締結され、外部の機構と入出力用コイル導体とを接続する。
【0031】
図5を用いて、溶接側コイルエンド62の詳細を説明する。固定子コイル60の導体溶接部28Eのみを、樹脂部材601で塗装する。樹脂部材601は導体溶接部28Eをほぼ均一に覆うことが望ましく、例えば平均厚さ5〜40μmとなるのが好ましい。樹脂部材601としては、例えば、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリブタジエン樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられるが、絶縁性があれば特にこれらの材料に限定されるものではない。
【0032】
ワニス205はスロットライナー200に滴下され、固定子鉄心21と固定子コイル60とスロットライナー200を固定する。樹脂部材601にワニス205を付着させてもよい。必要な絶縁性が確保できる場合は、樹脂部材601で絶縁性が十分なので覆う必要はない。
【0033】
図6と
図16とを用いて、接続端子42について説明する。
図16は成形前の接続端子42を、
図6は成形後の接続端子42にボルト590を締付けた状態を示している。接続端子42は、
図17に示すような帯状材570から、プレス加工による打抜きやワイヤーカットなどにより切り出される。
図16に示すように、接続端子42は、外部の機構と機械的に接続(例えばボルト590により締結)される締結部420と、入出力用コイル導体42U、42V、42Wと圧着等により接続される圧着部430とを有している。接続端子42は無酸素銅や有酸素銅である母材580からなるが、締結部420及び圧着部430には、溶融材550としてろう材が設けられている。
図16に示すように、溶融材550は、締結部420及び圧着部430の側面方向(締結部420と圧着部430とを結ぶ方向と直交する方向)に延伸するように設けられている。
【0034】
図16に示す成形前の接続端子42の圧着部430を、溶融材550の配置された面が内側になるように折り曲げ、
図6に示すような筒状に成形する。曲げRは、ろう材が剥れないように板厚と同等もしくは半径0.5〜2mmほどに設定するのが好ましいが、直角曲げも可能である。曲げ方向は、帯状材570の圧延方向(すなわち溶融材550の長手方向)に直交する方向とすることで、曲げRを小さくすることができる。
【0035】
締結部420には溶融材550が配置されている。溶融材550(例えばろう材)は母材580よりも強度が高く、ボルト590が締結された際の締結部420の変形を低減する効果がある。溶融材550に代えて、母材より硬い金属を締結部420に設けてもよいが、溶融材550を設けた場合、後述の生産性向上の効果を得られる。また、溶融材550(あるいは締結部420に設ける母材より硬い金属)として、抵抗率が低いものを用いれば、内部抵抗を抑えて回転電機の効率を向上させられる。
【0036】
図7は接続端子42に入出力用コイル導体42U、42V、42Wを取り付ける前の状態を示す。
図7は入出力用コイル導体42U、42V、42Wの先端部のエナメル皮膜を除去した状態を示している。
【0037】
図8は接続端子42に入出力用コイル導体42U、42V、42Wを取り付けた状態を示している。入出力用コイル導体42U、42V、42Wの先端部のエナメル皮膜を除去した部分を、接続端子42の筒状に成形した圧着部430に差し込み、機械的、電気的に接続する。本実施例においては、液相−固相反応接合法のろう接により接続している。
【0038】
なお、入出力用コイル導体42U、42V、42Wの先端部のエナメル皮膜を除去せず、エナメル皮膜を通電発熱させることにより、エナメル皮膜を融解および排出してコイル導体と接触(または溶接)させて電気的に接続することもできる。
【0039】
図9は接続端子42に入出力用コイル導体42U、42V、42Wを取り付ける前の状態を示す。
図7で説明したものと基本的には同じであるが、本図では1本のコイルを挿入する場合を示している。
【0040】
図10は接続端子42に
図9に示した1本の入出力用コイル導体42U、42V、42Wを取り付けた状態の斜視図である。本図では入出力用コイル導体42U、42V、42Wの先端部のエナメル皮膜を除去したものを取り付けた場合を示している。エナメル皮膜を除去せずエナメル皮膜を通電発熱させることにより、エナメル皮膜を融解および排出してコイル導体と接触(または溶接)させて電気的に接続することもできる。
【0041】
図11は接続端子42の斜視図である。入出力用コイル導体42U、42V、42Wを挿入しやすいように、圧着部430の入り口には面取り432を施している。この面取り432は接続端子42を帯状材570からプレス加工で打ち抜くときに成形してもよい。
【0042】
図12は締結部420の溶融材550が幅広く取った例を示している。溶融材550は、ボルト590の接触面をすべてカバーできるような幅で配置されている。このため、より広い範囲で母材の変形を低減することができる。
【0043】
図13は、接続端子42の圧着部430の成形(曲げ工程)を省いた例を示している。この例では、圧着部430が筒状ではなく平面状であり、入出力用コイル導体42U、42V、42Wを1つの面で取り付ける構造となる。
【0044】
図14も、
図13と同様に圧着部430の成形(曲げ工程)を省いた例を示している。本図に示す例では、
図18に示すように、接続端子42を、その締結部420と圧着部430とが、帯状材570の圧延方向(言い換えれば、溶融材550の長手方向)に並ぶように切り出したものである。このため、
図14に示すように、溶融材550が締結部420と圧着部430とを繋ぐように配置されている。入出力用コイル導体42U、42V、42Wは、圧着部430の片面に取り付けられる。
【0045】
図15は、
図14に示した例と同様に、溶融材550が締結部420と圧着部430とを繋ぐように配置された接続端子42を示している。本図に示す例では、圧着部430が筒状に成形されているが、溶融材550が圧着部430の曲げられる部分には設けられていない(溶融材550が圧着部430の平面部のみに設けられている)ため、曲げ成形による溶融材550の歪みや剥れを低減でき、接続端子42の信頼性を向上させることができる。
【0046】
図16は、前述の通り、接続端子42の成形前の形状を示している。
【0047】
図17は、接続端子42の製造工程において、ある接続端子42の圧着部430と他の接続端子42の締結部420とが、帯状材570の長手方向に交互に並んだ状態で、帯状材570から切り出すためのレイアウトを示した図である。帯状材570は、板厚1.5mm程度の銅板である母材580に、幅1〜5mmで板厚0.1mm程度の帯状の溶融材550を、母材580の表面と溶融材550の表面とが同じ面になるように埋め込んだものである。本実施例では、溶融材550が、帯状材570の長手方向に対して平行に2本埋め込まれている。このように溶融材550を配置することで、隣り合う2つの接続端子が上下逆を向くよう配置(すなわち、ある接続端子42の圧着部430と他の接続端子42の締結部420とが、帯状材570の長手方向に交互に並ぶように配置)しても、双方の接続端子42の締結部420と圧着部430とに溶融材550を配置することができる。これにより、帯状材570から効率よく接続端子42を生産することができ、生産性向上の効果を得ることができる。
【0048】
本実施例では、溶融材550はろう材であり、自己フラックス作用があるためフラックスを使用せずにろう付け可能という利点のあるBCuP−5(15Ag−5P−Cu)を用いている。用途に応じて、BCuP−1〜6で使い分けてもよい。また、板厚1.5mm程度の銅板と幅3mm程度で板厚0.1mm程度のりん銅ろう箔5(15Ag−5P−Cu)を圧延で成形したものやシーム溶接したものでもよい。このように、母材580の表面と溶融材550の表面とが同じ面になるように溶融材550を埋め込むことにより、溶融材550の表面と接続端子42の表面とを同じ面とすることができ、圧着部430への入出力用コイル導体42U、42V、42Wの挿入時の引っ掛かりを低減することができる。なお、母材580には無酸素銅や有酸素銅を用いている。
【0049】
図18は、接続端子42の製造工程において、接続端子42の圧着部430と他の接続端子42の締結部420とが、帯状材570の長手方向に交互に並んだ状態で、接続端子42を帯状材570から切り出すためのレイアウトを示した図である。本図に示すレイアウトでは、ある1つの接続端子42においても締結部420と圧着部430とが帯状材570の長手方向(言い換えれば、溶融材550の長手方向)に交互に並び、溶融材550が締結部420と圧着部430とを繋ぐように配置されている。
【0050】
以上においては、永久磁石式の回転電機において説明を行ったが、永久磁石式でなく、インダクション式や、シンクロナスリラクタンス、爪磁極式等にも適用可能である。また、巻線方式においては波巻方式であるが、同様の特徴を持つ巻線方式(例えば集中巻や同心巻)であれば、適用可能である。また、内転型で説明を行っているが、外転型でも同様に適用可能である。
【0051】
図19を用いて、本実施例による回転電機10を搭載する車両の構成について説明する。
図19は、四輪駆動を前提としたハイブリッド自動車のパワートレインである。前輪側の主動力として、エンジンENGと回転電機10を有する。エンジンENGと回転電機10の発生する動力は、変速機TRにより変速され、前輪側駆動輪FWに動力を伝えられる。また、後輪の駆動においては、後輪側に配置された回転電機10と後輪側駆動輪RWを機械的に接続され、動力が伝達される。
【0052】
回転電機10は、エンジンの始動を行い、また、車両の走行状態に応じて、駆動力の発生と、車両減速時のエネルギーを電気エネルギーとして回収する発電力の発生を切り換える。回転電機10の駆動,発電動作は、車両の運転状況に合わせ、トルクおよび回転数が最適になるように電力変換装置INVにより制御される。回転電機10の駆動に必要な電力は、電力変換装置INVを介してバッテリBATから供給される。また、回転電機10が発電動作のときは、電力変換装置INVを介してバッテリBATに電気エネルギーが充電される。
【0053】
ここで、前輪側の動力源である回転電機10は、エンジンENGと変速機TRの間に配置されており、
図1〜
図18にて説明した構成を有するものである。後輪側の駆動力源である回転電機10としては、同様のものを用いることもできるし、他の一般的な構成の回転電機を用いることもできる。なお、四輪駆動式以外のハイブリッド方式においても勿論適用可能である。
【0054】
また、上述の実施例ではセグメント導体により構成された固定子コイルにより説明を行ったが、当然、本発明は連続導体で構成された固定子コイルの入出力用コイル導体に接続される接続端子に対しても適用可能である。また、回転電機の固定子コイル用の接続導体に限らず、導体と外部機構とを機械的に接続する接続導体に対しても適用可能である。
【0055】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。
例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。