特許第6232461号(P6232461)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232461
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/511 20060101AFI20171106BHJP
【FI】
   A61F13/511 110
   A61F13/511 200
   A61F13/511 400
   A61F13/511 300
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-60583(P2016-60583)
(22)【出願日】2016年3月24日
(65)【公開番号】特開2017-169927(P2017-169927A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2017年9月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】栗原 涼子
(72)【発明者】
【氏名】田篭 純太
(72)【発明者】
【氏名】永島 真里子
【審査官】 山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−171649(JP,A)
【文献】 特開昭61−92668(JP,A)
【文献】 特開2008−25083(JP,A)
【文献】 特開2011−30940(JP,A)
【文献】 特開2011−174193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/15−13/84
A61L 15/16−15−64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面シートと裏面シートとの間に吸収体が介在された吸収性物品において、
前記吸収性物品は、尿量20cc以上を吸収する中量用以上の失禁パッドであり、
前記表面シートは、綿繊維100重量%からなるスパンレース不織布に撥水剤が塗布されてなるとともに、肌対向面側に、吸収性物品の長手方向に沿うとともに幅方向に間隔をあけて形成された多数の凸部と、吸収性物品の長手方向に沿うとともに隣り合う前記凸部の間に形成された多数の凹部とが設けられ、前記凸部より前記凹部の方が厚みが薄く形成されるとともに、少なくとも排泄口対応部分に前記凹部に沿って表裏を貫通する多数の開孔が形成され
前記表面シートの前記吸収体側に熱可塑性繊維からなるセカンドシートが接着されるとともに、前記表面シートとセカンドシートとが前記凹部において前記セカンドシートの熱融着により接合され、前記凹部の目付と前記凸部の目付がほぼ同等に形成され、かつ前記凹部の密度が前記凸部の密度より高く形成されていることを特徴とする吸収性物品。
【請求項2】
前記撥水剤として、ステアリン酸グリセリルが用いられている請求項1記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記表面シートは、脱脂綿繊維からなるか、未脱脂綿繊維からなる請求項1、2いずれかに記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主には失禁パッドに使用される吸収性物品に係り、特に表面シートが綿繊維100重量%からなるとともに、肌対向面側に凹凸が形成された吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、失禁パッド、パンティライナー(おりものシート)、生理用ナプキンなどの女性用吸収性物品として、ポリエチレンシートまたはポリエチレンシートラミネート不織布などの不透液性裏面シートと、表面シートとの間に粉砕パルプ等の紙綿からなる吸収体を介在したものが知られている。
【0003】
前記表面シートは肌当接面を形成するものであるため、柔軟であることや、排泄液の吸収後でも乾燥した肌触りが得られること、肌に対して刺激が少ないこと等が要求されている。このような要求を満たす素材として、合成繊維の不織布、樹脂製メッシュシートが吸収性物品の分野、特に失禁パッドの分野で広く採用されている。しかし、合成繊維からなる表面シートは、痒みやかぶれ等の原因となるという問題があった。
【0004】
これを解決するものとして、綿繊維(コットン)を素材とした表面シートが提案されているが、吸収性物品においては、表面シートが高い透液性を有し、素早く液を吸収体に到達させることが望まれるのに対し、通常の脱脂綿繊維を表面シートに含有させた場合、表面シート自体が高い保液性を有し、表面にべたつき感が残り易いという問題があった。
【0005】
また、表面シートが綿繊維からなる吸収性物品は、下着のような柔らかい肌触りを実現できる利点を有するものの、前述の通り保液性が高いため多量の体液が排出された場合、この体液が表面シートに残り、長時間の着用によりムレやかぶれなどの原因となっていた。このため、従来の吸収性物品では、表面シートに綿繊維を使用したものは、おりもの用シートなど体液の吸収量が少なくて済む製品に限られていた。
【0006】
このような表面シートに綿繊維を用いた吸収性物品としては、下記特許文献1、2などを挙げることができる。下記特許文献1では、表面シートをコットン不織布によって構成するとともに、該表面シートの下層であって吸収体との間に、前記コットン不織布よりも低繊維密度でかつ親水性を有する熱融着性繊維シートを介在させ、これらの積層状態で、表面側から多数のエンボスが施されたものが開示されている。
【0007】
また、下記特許文献2では、トップシートとして、40〜100重量%の綿繊維と60〜0重量%の合成繊維とからなるスパンレース不織布に撥水剤が塗布され、肌当接面の吸水度が0mm〜5mmとされてなるものであり、且つ少なくとも排泄口部分に、表裏を貫通する多数の開口を有する吸収性物品が開示されている。かかる吸収性物品によれば、トップシートとして、綿繊維高配合のスパンレース不織布を採用したことによって、肌あたりが良く、痒みやかぶれ等の要因になり難い等の綿繊維の数々の利点がもたらされる。しかも、その際に問題となる表面の液残りは、撥水剤の塗布(外添)により肌当接面の吸水度を十分に低く確保することによって、十分に改善される。ただし、単に吸水度を低くするだけでは、排泄物の液分はトップシートを透過しづらく、横モレ等の要因となるため、特許文献1記載の吸収性物品では、トップシートにおける少なくとも排泄口部分に、表裏を貫通する多数の開口を設けることにより、速やかな液吸収を可能にしている。その結果、特許文献1には、表面の液残りによるべたつきを十分に防止できるようになる、トップシートの撥水性により、吸収した排泄液がトップシートの表面側に戻り難くなる、などの効果が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−148328号公報
【特許文献2】特開2010−269029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、総尿量20cc以上の中量以上の尿を吸収させるような場合では、上記特許文献1、2に記載される吸収性物品では表面シートに保水されるおそれがあり、極力表面シートに保水させない工夫が必要であった。
【0010】
また、吸収性物品は長手方向に長い幅狭な形状で形成されるため、吸収性物品の長手方向への尿の拡散を促進させることによって、横漏れを防止することが求められていた。
【0011】
更に、上記特許文献1、2記載のものでは、表面シートの肌当接面がほぼ平坦に形成されているため、表面シートとして綿繊維を用いた際に、表面シートの保水によるべたつき感を感じやすく、痒みやかぶれ等の要因となるとともに、十分なクッション性が得られにくかった。
【0012】
そこで本発明の主たる課題は、表面シートに綿繊維を用いた吸収性物品において、表面シートの保水を極力低減するとともに、長手方向に液拡散しやすく、クッション性に優れた吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、表面シートと裏面シートとの間に吸収体が介在された吸収性物品において、
前記吸収性物品は、尿量20cc以上を吸収する中量用以上の失禁パッドであり、
前記表面シートは、綿繊維100重量%からなるスパンレース不織布に撥水剤が塗布されてなるとともに、肌対向面側に、吸収性物品の長手方向に沿うとともに幅方向に間隔をあけて形成された多数の凸部と、吸収性物品の長手方向に沿うとともに隣り合う前記凸部の間に形成された多数の凹部とが設けられ、前記凸部より前記凹部の方が厚みが薄く形成されるとともに、少なくとも排泄口対応部分に前記凹部に沿って表裏を貫通する多数の開孔が形成され
前記表面シートの前記吸収体側に熱可塑性繊維からなるセカンドシートが接着されるとともに、前記表面シートとセカンドシートとが前記凹部において前記セカンドシートの熱融着により接合され、前記凹部の目付と前記凸部の目付がほぼ同等に形成され、かつ前記凹部の密度が前記凸部の密度より高く形成されていることを特徴とする吸収性物品が提供される。
【0014】
上記請求項1記載の発明では、くしゃみや咳、重いものを持ったときなど、腹部に力が加わったときに瞬間的に排出される腹圧性失禁による尿や、急激に猛烈な尿意に襲われ、我慢できずに一気に排出される切迫性失禁による尿を吸収し、かつ総尿量20cc以上を吸収する中量用以上の失禁パッドを対象としている。なお、失禁パッドの場合は、2回目の失禁まで継続して使用される場合が多く、1回目の失禁後の状態で長時間装着され、再度の排尿の後に廃棄されることが多い。
【0015】
また、本吸収性物品では、前記表面シートとして、綿繊維100重量%からなるスパンレース不織布に撥水剤が塗布されてなるとともに、肌対向面側に、吸収性物品の長手方向に沿うとともに幅方向に間隔をあけて形成された多数の凸部と、吸収性物品の長手方向に沿うとともに隣り合う前記凸部の間に形成された多数の凹部とが設けられたものを用いている。このため、綿繊維100重量%のスパンレース不織布を採用したことによって、柔らかい肌触りが得られ、長時間装着しても痒みやかぶれ等装着時の肌トラブルを生じ難くできる。その際に問題となる表面シートの保水は、撥水剤を塗布するとともに、肌対向面側に吸収性物品の長手方向に沿う凹凸を形成することによって、排泄液の縦拡散を促進し、単位面積当たりに透過する排泄液の量を減少させることによって解消している。
【0016】
また、前記表面シートは、凸部より凹部の方が厚みが薄く形成されているため、凹部に沿って流れた体液が、この凹部を通過して下層の吸収体側に移行しやすくなるとともに、前記表面シートの少なくとも排泄口対応部分に、前記凹部に沿って表裏を貫通する多数の開孔を形成しているため、この開孔を通じて尿が表面シートを通過しやすくなり、表面シートの保水量が減少するようになる。
【0017】
更に、表面シートの肌対向面側を凹凸状に形成しているため、表面シートの圧縮復元力が高くなり、クッション性に優れるようになるとともに、肌対向面側の凹凸形状が維持しやすくなる。
【0018】
一方で、前記表面シートの前記吸収体側に熱可塑性繊維からなるセカンドシートが接着されるとともに、前記表面シートとセカンドシートとが前記凹部において前記セカンドシートの熱融着により接合され、前記凹部の目付と前記凸部の目付がほぼ同等に形成され、かつ前記凹部の密度が前記凸部の密度より高く形成されている。
【0019】
前記表面シートの吸収体側に熱可塑性繊維からなるセカンドシートを接着するとともに、前記表面シートの表面側からの圧搾により、前記表面シートとセカンドシートとを前記凹部において前記セカンドシートの熱融着により接合している。前記表面シートは綿繊維からなるため、圧搾による凹溝が保形されにくいが、熱可塑性繊維からなるセカンドシートとともに圧搾することによって、溶融した熱可塑性繊維が表面シートに浸透して融着するので、表面シートが圧搾した状態が保持されるようになる。これによって、前記凹部の目付と凸部の目付がほぼ同等に形成され、かつ前記凹部の密度が前記凸部の密度より高く形成されるようになる。このため、表面シートに吸水された体液は、繊維の密度勾配による毛管作用によって、密度が低い凸部から密度が高い凹部に引き寄せられるようになり、凹部から吸収体側への体液移行が促進されるとともに、肌面に接する凸部の保水量が低下するようになる。
【0020】
請求項に係る本発明として、前記撥水剤として、ステアリン酸グリセリルが用いられている請求項1記載の吸収性物品が提供される。
【0021】
上記請求項記載の発明では、前記撥水剤としてステアリン酸グリセリルを用いることにより、表面シートの綿繊維に尿が吸収されず、吸収体側に流れやすくしている。
【0022】
請求項に係る本発明として、前記表面シートは、脱脂綿繊維からなるか、未脱脂綿繊維からなる請求項1、2いずれかに記載の吸収性物品が提供される。
【0023】
上記請求項記載の発明では、前記表面シートとして脱脂綿繊維を用いることもできるし、未脱脂綿繊維を用いることも可能としている。未脱脂綿繊維を用いた場合には、表面シートの保水量が更に低減できるため、表面シートの液残りが生じにくくなる。
【発明の効果】
【0024】
以上詳説のとおり本発明によれば、表面シートに綿繊維を用いた吸収性物品において、表面シートの保水が極力低減できるとともに、長手方向に液拡散しやすくなり、かつクッション性に優れるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係る失禁パッド1の一部破断展開図である。
図2図1のII−II線矢視図である。
図3図1のIII−III線矢視図である。
図4】表面シート3の拡大断面図である。
図5】表面シート3の第1の製造方法に係る製造装置を示す斜視図である。
図6】表面シート3の第2の製造方法に係る製造要領を示す断面図である。
図7】第2の製造方法により製造した表面シート3の拡大断面図である。
図8】表面シート3に開孔を形成した場合の拡大平面図である。
図9】表面シート3表面の撥水剤塗布パターンを示す展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。本発明は、総尿量20cc以上を吸収するのに好適な中量用以上の失禁パッド1であり、くしゃみや咳、重たいものを持ったときなど、腹部に力が加わったときに瞬間的に排出される腹圧性失禁による尿や、急激に猛烈な尿意に襲われ、我慢できずに一気に排出される切迫性失禁による尿を吸収するのに特に適している。
【0027】
<失禁パッドの基本構造の一例>
本発明に係る失禁パッド1は、図1図3に示されるように、ポリエチレンシートなどからなる不透液性裏面シート2と、肌当接面をなし、尿などを速やかに透過させる表面シート3と、これら両シート2、3間に介装された綿状パルプまたは合成パルプなどからなる吸収体4と、吸収体4の略側縁部を起立基端とし、かつ少なくとも着用者の排尿口部Hを含むように前後方向に所定の区間内において肌側に突出して設けられた左右一対の立体ギャザーBS、BSとから主に構成され、かつ吸収体4の周囲においては、その上下端縁部では不透液性裏面シート2と表面シート3との外縁部がホットメルトなどの接着剤やヒートシール等の接着手段によって接合され、またその両側縁部では吸収体4よりも側方に延出している不透液性裏面シート2と、立体ギャザーBSを形成しているサイド不織布7とがホットメルトなどの接着剤やヒートシール等の接着手段によって接合されている。図示例においては、吸収体4は、1層構造となっているが、中高部を形成する多層構造としてもよく、また、同一の大きさ、形状の吸収体を重ねた多層構造としてもよい。
【0028】
前記不透液性裏面シート2は、ポリエチレン等の少なくとも遮水性を有するシート材が用いられるが、近年ではムレ防止の観点から透湿性を有するものが用いられる傾向にある。この遮水・透湿性シート材としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂中に無機充填剤を溶融混練してシートを成形した後、一軸または二軸方向に延伸することにより得られる微多孔性シートが好適に用いられる。不透液性裏面シート2の非使用面側(外面)には1または複数条の粘着剤層(図示せず)が形成され、身体への装着時に失禁パッド1を下着に固定するようになっている。不透液性裏面シート2としては、プラスチックフィルムと不織布とを積層させたポリラミ不織布を用いてもよい。
【0029】
図示例では、表面シート3は吸収体4の幅よりも若干幅が広い程度とされ、吸収体4を覆うだけに止まり、表面シート3の幅方向外側は、表面シート3の両側部表面から延在するサイド不織布7(表面シート3とは別の部材)により覆われている。前記サイド不織布7の幅方向中央側の部分は、立体ギャザーBSを形成している。サイド不織布7としては、尿などが浸透するのを防止する、あるいは肌触り感を高めるなどの目的に応じて、適宜の撥水処理または親水処理を施した不織布素材を用いることができる。かかるサイド不織布7としては、天然繊維、合成繊維または再生繊維などを素材として、適宜の加工法によって形成されたものを使用することができるが、好ましくはゴワ付き感を無くすとともに、ムレを防止するために、坪量を抑えて通気性を持たせた不織布を用いるのがよい。具体的には、坪量を15〜23g/mとして作製された不織布を用いるのが望ましく、かつ体液の透過を確実に防止するためにシリコン系や、パラフィン系等の撥水剤などをコーティングした撥水処理不織布が好適に使用される。
【0030】
前記サイド不織布7は、図2および図3に示されるように、幅方向中間部より外側部分を吸収体4の内側位置から吸収体側縁を若干越えて不透液性裏面シート2の外縁までの範囲に亘ってホットメルトなどの接着剤によって接着している。
【0031】
一方、前記サイド不織布7の内方側部分はほぼ二重に折り返されるとともに、この二重シート内部に、その高さ方向中間部に両端または長手方向の適宜の位置が固定された1本または複数本の、図示例では2本の糸状弾性伸縮部材8、8が両端または長手方向の適宜の位置が固定された状態で配設されている。この二重シート部分は前後端部では、図3に示されるように、折り畳まれた状態で表面シート3側に固定されている。
<表面シート>
前記表面シート3は、吸収体4の肌側を覆う部分である肌当接面を形成するものであり、綿繊維100重量%からなるスパンレース不織布で構成されるのが特徴である。スパンレース不織布は、接着剤を使用しない、柔軟性を有する等の利点を有する。
【0032】
前記表面シート3の不織布は、綿繊維単独で使用され、合成繊維を含まない。前記綿繊維としては、木綿の原綿、精錬・漂白した綿繊維あるいは精錬・漂白後、染色を施した綿繊維、精錬・漂白した脱脂綿繊維、さらには糸もしくは布帛になったものを解繊した反毛等、あらゆる綿繊維を使用できるが、特に綿繊維の表面に付着しているコットンワックスの天然油脂により、繊維の状態でも若干撥水性を備えた未脱脂綿を使用するのが好ましい。
【0033】
前記表面シート3は、図4に示されるように、肌対向面側に、失禁パッド1の長手方向に沿うとともに幅方向に間隔をあけて形成された多数の凸部20、20…と、失禁パッド1の長手方向に沿うとともに隣り合う前記凸部20、20間に形成された多数の凹部21、21…とが設けられている。一方、非肌対向面側(吸収体4側)はほぼ平坦に形成され、吸収体4側に配置された部材に対しほぼ全面が接触して、表面シート3に吸収された体液が吸収体4に移行しやすい構造となっている。
【0034】
前記凸部20の断面形状は、図4に示される例では、半円形のドーム状に形成されているが、四角形や三角形、台形など任意の形状で形成することが可能である。また、凹部21の断面形状も同様に任意であり、図示例のように底面が直線の他、U字状、V字状などとしてもよい。
【0035】
隣接して配置された前記凸部20と凹部21との境界は必ずしも明確である必要はない。例えば、前記凹部21より肌側に突出した部分を前記凸部20としてもよいし、断面形状が凸部20から凹部21にかけて肌側に膨出する曲線と非肌側に膨出する曲線とが組み合わされた連続する曲線状に形成される場合には、これらの曲線の変曲点より肌側の部分を前記凸部20とし、非肌側の部分を前記凹部21としてもよい。
【0036】
前記表面シート3は、前記凸部20より前記凹部21の方が厚みが薄く形成されている。前記凸部20の厚みとは、肌対向面側の前記凸部20の頂部と非肌対向面側の外面との表面シート厚み方向の離隔長さであり、前記凹部21の厚みとは、肌対向面側の前記凹部21の底部と非肌対向面側の外面との表面シート厚み方向の離隔長さである。前記凸部20の厚みは、0.25〜2mm、好ましくは0.3〜0.8mmとするのがよく、前記凹部21の厚みは、0.1〜0.5mm、好ましくは0.15〜0.3mmとするのがよい。前記厚みは、JIS-L1913に準拠して求める。
【0037】
前記表面シート3として、綿繊維100重量%からなるスパンレース不織布に撥水剤が塗布されてなるとともに、肌対向面側に、失禁パッド1の長手方向に沿うとともに幅方向に間隔をあけて形成された多数の凸部20、20…と、失禁パッド1の長手方向に沿うとともに隣り合う前記凸部20、20の間に形成された多数の凹部21、21…とが設けられたものを用いているため、綿繊維100重量%からなるスパンレース不織布を採用したことによって、柔らかい肌触りが得られ、長時間装着しても痒みやかぶれ等装着時の肌トラブルを生じ難くできる。その際に問題となる表面シート3の保水は、表面シート3の肌対向面側に失禁パッド1の長手方向に沿う凹凸を形成することによって、前記凹部21に沿う排泄液の縦拡散を促進し、単位面積当たりに透過する排泄液の量を減少させることによって解消している。具体的には、前記表面シート3は、肌対向面側に失禁パッド1の長手方向に沿う凹凸が形成されているため、排泄液は前記凹部21に沿って失禁パッド1の長手方向に拡散しやすくなっている。排泄液が表面シート3の広範囲に拡散することによって、表面シート3の単位面積当たりの透過する排泄液の量が減少するため、表面シート3の保水量も低減できるようになる。
【0038】
また、表面シート3は、凸部20より凹部21の方が厚みが薄く形成されているため、凹部21に沿って流れた体液が、この凹部21を通過して下層側に移行しやすくなっている。このため、表面シート3の保水量が減少する。
【0039】
更に、表面シート3の肌対向面側を凹凸状に形成しているため、表面シート3の圧縮復元力が高くなり、クッション性に優れるようになるとともに、肌対向面側の凹凸形状が維持しやすくなる。
【0040】
前記表面シート3全体の平均目付としては、20〜40g/m、好ましくは27〜34g/m、より好ましくは29〜32g/mとするのが好ましい。前記目付けは5cm×30cm×10枚の重量を電子天秤で計り平米換算して算出する。
【0041】
このような凹凸状の表面シート3を製造するには、以下の2つの方法のいずれかを用いることができる。第1の方法としては、図5に示されるように、綿繊維からなる表面が平坦なシート状のコットン不織布を、一定方向に移動するとともに空気を通すが前記綿繊維を通過させない程度の大きさの多数の通気孔が設けられたメッシュ状のコンベア上に載置し、移動方向と直交する方向に対して所定の間隔で配置された複数のノズルから空気(熱風)などの流体を連続的に噴出させ、前記コットン不織布の表面に噴きあてる。これによって、図4に示されるように、前記流体を噴きあてた部分では繊維の一部が両側に移動して、相対的に窪む前記凹部21が形成されるとともに、これらの間の流体が噴きあてられない部分では相対的に突出する前記凸部20が形成されるようになる。
【0042】
この方法により製造された表面シート3は、流体の噴きあてによって前記凹部21の繊維が凸部20の両側部20bに移動するため、凹部21の目付が凸部20の平均目付より低く形成され、かつ凹部21の密度が凸部20の平均密度より低く形成される。なお、前記凹部21の目付及び密度とは、前記凹部21の底部に存在する表面シート3の目付及び密度のことである。
【0043】
より詳細には、前記凸部20においては、凸部20の両側部20bの密度が凸部20の頂部を含む中央部20aの密度より高く形成されるようになる。このため、凸部20の中央部20aに吸水された体液は、繊維の密度勾配による毛管作用によって密度が高い凸部20の両側部20bに引き寄せられるようになり、装着時に肌面に直接接する凸部20の中央部20aの保水量が低下して、べたつき感が生じにくくなる。
【0044】
前記凸部20の平均密度としては、0.002〜0.30g/cm、好ましくは0.002〜0.20g/cmとするのがよく、前記凹部21の密度としては、0.001〜0.20g/cm、好ましくは0.001〜0.15g/cmとするのがよい。また、前記凸部20の中央部10aの密度としては、0.001〜0.20g/cm、好ましくは0.001〜0.15g/cmとするのがよく、両側部20bの密度としては、0.005〜0.40g/cm、好ましくは0.01〜0.50g/cmとするのよい。
【0045】
前記凸部20の平均目付としては、20〜75g/m、好ましくは25〜70g/mとするのがよく、前記凹部21の目付としては、5〜40g/m、好ましくは5〜20g/mとするのがよい。また、前記凸部20の中央部10aの目付としては、15〜70g/m、好ましくは15〜50g/mとするのがよく、両側部20bの目付としては、20〜120g/m、好ましくは25〜90g/mとするのがよい。
【0046】
前記凸部20及び凹部21の目付及び密度は、表面シート3に凹凸を形成する際に、コットン不織布に噴きあてる流体の流速や流量を変化させることによって調整することが可能である。
【0047】
また、本製造方法においては、前記メッシュ状のコンベアのうち前記流体を噴きあてる部分に、移動方向に沿って等間隔で前記通気孔を塞ぐ多数の閉塞部を間欠的に設けることによって、表面シート3の凹部21に沿って等間隔に多数の開孔を設けるようにしてもよい。前記閉塞部では、噴きあてられた流体がコンベアを通過できず、コンベアの平面方向に沿う方向の流れに変化するため、コットン不織布の繊維が周囲に押し退けられるようにして移動することにより、前記閉塞部が設けられた表面シート3の凹部21に沿って等間隔に多数の開孔が形成されるようになる。
【0048】
第1の製造方法の変形例として、スパンレース不織布からなる表面シート3の製造過程において、水流交絡時に、凹凸を設けることとしてもよい。すなわち、凹凸のあるネット上にウェブを堆積させて高圧水流を噴射することによって繊維同士を絡み合わせてシートを形成すると同時に、ネットの深さが深い部分で前記凸部20を形成し、浅い部分で前記凹部21を形成する。
【0049】
次いで、凹凸状の表面シート3を製造する第2の方法としては、図6に示されるように、綿繊維からなる表面が平坦なシート状のコットン不織布の一方面側(前記表面シート3の吸収体4に対向する面側(非肌対向面側))に熱可塑性繊維からなるセカンドシート22をホットメルト接着剤などにより接着するとともに、この積層シートを、周面に外側に突出する多数のエンボス凸部23、23…が備えられたエンボスロールと表面が平坦なアンビルロールとの間を通過させることにより、前記コットン不織布の表面側から圧搾溝を施すと同時に、前記コットン不織布とセカンドシート22とを前記セカンドシート22の熱融着により接合することによって、図7に示されるように、表面が凹凸状の表面シート3を製造するものである。
【0050】
この方法により製造された表面シート3は、凹部21の目付と凸部20の目付がほぼ同等に形成され、かつ凹部21の密度が凸部20の密度より高く形成されるようになる。このため、凸部20に吸水された体液は、繊維の密度勾配による毛管作用によって繊維密度が高い凹部21に引き寄せられるようになり、肌面に接する凸部20の保水量が低下して、べたつき感が生じなくなる。
【0051】
このときの表面シート3の目付としては、上述の平均目付20〜40g/m、好ましくは27〜34g/m、より好ましくは29〜32g/mとするのが好ましい。
【0052】
また、前記凸部10の密度としては、0.001〜0.30g/cm、好ましくは0.002〜0.20g/cmとするのがよく、前記凹部21の密度としては、0.01〜3.0g/cm、好ましくは0.1〜1.0g/cmとするのがよい。
【0053】
本製造方法において、前記表面シート3に施す圧搾溝は、失禁パッド1の全長に亘って連続する圧搾溝としてもよいし、失禁パッド1の長手方向に沿って圧搾部と非圧搾部とが交互に設けられた間欠的な圧搾溝としてもよい。
【0054】
本製造方法において、前記表面シート3に接合されるセカンドシート22としては、表面シート3にふんわり感、クッション感を与えるため、目付が10〜200g/m、好ましくは20〜100g/m程度のものを用いるのがよい。前記セカンドシート22の素材としては、熱可塑性を有するものであればよいが、親水性を有するものが特に好ましい。このような熱可塑性及び親水性を備えたセカンドシート22を、本発明の撥水性開孔表面シート3と組み合わせることにより、表面シート3の凹凸が保持されるとともに、表面シート3の液透過性及び逆戻り防止性が向上する。このような素材としては、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等、もしくはその複合繊維、共重合体、ブレンド体といった合成繊維を親水化剤によって表面処理し親水性を付与した繊維を用いることができる。好ましくは、ポリエチレンとポリプロピレンとを混合した繊維を用いるのがよい。不織布を構成する繊維は、長繊維、短繊維、あるいはこれらの混合のいずれも使用できる。繊度は、2.0〜7.0dtex、好ましくは4.0〜6.0dtex程度とするのがよい。セカンドシート22は、エアスルー、エアレイド、スパンボンド等の既知の形態の不織布をいずれも使用できるが、通気性を低下させないエアスルーの使用が好ましい。
【0055】
前記凸部20と凹部21とによる凹凸領域は、表面シート3の全面に形成するのが望ましいが、幅方向中央領域部分に長手方向に沿って形成したり又は排泄部を含む円又は楕円領域というように、部分的に形成するようにしてもよい。
【0056】
前記表面シート3は、図8に示されるように、透液性を高めるため、少なくとも排泄口対応部分Hに前記凹部21に沿って表裏を貫通する多数の開孔10、10…を設けるのが好ましい。具体的には、前記開孔10は、スパンレース製造時の水流交絡工程において、繊維材料をメッシュ状支持体に担持させることで形成することができる。この場合、使用するメッシュの条件を変更することで、個々の開孔サイズ、開孔率を調整することが可能である。もちろん、製造後の不織布にパンチ(打ち抜き)加工を施して開孔を形成しても良い。前記開孔10は、表面シート全体に設けても良いが、少なくとも排泄口対応部分Hに設けるのがよい。好ましくは、排泄口対応部分Hを含み、製品長さ方向に吸収体長さの15%以上、製品幅方向に吸収体幅の50%以上、さらに好ましくは、排泄口対応部分Hを含み、製品長さ方向に吸収体長さの50%以上、製品幅方向に吸収体幅の70%以上の領域に設けるようにする。開孔の形成領域が、製品長さ方向に吸収体長さの15%未満でかつ製品幅方向に吸収体幅の50%未満である場合には、失禁範囲をカバーすることができない事態が発生し、表面シート3に尿が残りべたつき感を感じるようになるとともに、痒みやかぶれ等装着時の肌トラブルが生じ易くなる。
【0057】
前記表面シート3として、少なくとも排泄口対応部分Hに、表裏を貫通する多数の開孔10、10…が形成されたものを用いた場合には、この開孔10を通じて表面シートを速やかに体液が透過するようになり、表面の液残りの問題が改善される。
【0058】
前記開孔10は、図8に示されるように、失禁パッド1の長手方向に長い縦長の形状で形成されている。このため、円形の開孔よりも液体が透過しやすくなるので、この開孔10を通じて尿が表面シート3を通過しやすくなり、表面シート3への保水が低減する。また、尿が開孔10を通過する際、液体が縦長に変形しながら通り抜けるため、尿の拡散方向がパッド長手方向に制御でき、横方向への拡散が抑えられ、横漏れしづらくなる。なお、スパンレースの場合は、開孔形状が一様にはなりずらいが、前記開孔10の形状は、概ね矩形状〜角の取れた長孔形状若しくは楕円形状のような形状となる。
【0059】
前記開孔10の寸法としては、失禁パッド1の長手方向の長さL1が、1.0〜4.0mm、好ましくは1.5〜3.0mmとするのがよく、失禁パッド1の幅方向の長さL2が、0.5〜1.5mm、好ましくは0.5〜1.0mmとするのがよい。開孔10の寸法が0.5mm未満では尿が通過しにくいとともに、繊維の毛羽立ちにより明確な開孔が形成されにくく、開孔10の最大寸法が4.0mmを超えると開孔10からの液の逆戻り、吸収体4構成素材の表面露出の要因となる。また、前記L1とL2との比(L1/L2)は、1.2〜5.0、好ましくは2.0〜3.0とするのがよい。前記開孔10の面積Aは、0.9〜3.0mm、好ましくは0.9〜2.5mmとするのがよい。更に、開孔率は15〜45%、好ましくは17〜30%、より好ましくは18〜25%とするのがよい。前記開孔10の寸法は、全体に亘って一様である必要はなく、上記の範囲内であれば任意の大きさで形成することができる。
【0060】
前記表面シート3は、図8に示されるように、前記綿繊維によって、失禁パッド1の長手方向に沿って延びるとともに幅方向に間隔をあけて形成された多数の縦筋11、11…と、失禁パッド1の幅方向に沿って延びるとともに長手方向に間隔をあけて形成された隣接する前記縦筋11、11間を繋ぐ多数の横筋12、12…とが形成されるとともに、前記縦筋11と横筋12とで囲まれた部分に前記開孔10が形成された構造を有している。
【0061】
前記縦筋11の幅W1は、0.5〜2.5mm、好ましくは0.8〜2.3mmとするのがよく、前記横筋12の幅W2は、0.2〜1.6mm、好ましくは0.3〜1.4mmとするのがよい。また、前記幅W1とW2との比(W1/W2)は、1.2〜2.0、好ましくは1.5〜2.0とするのがよい。前記縦筋11の幅W1を横筋12の幅W2より大きくすることによって、縦筋11に沿った失禁パッド1の長手方向への液拡散が生じやすくなる。
【0062】
前記縦筋11は、横筋12より、繊維量が多く、かつ高密度に形成されている。これによって、前記縦筋11部分のみが肌に接触するようになり、肌への接触面積の低減により、長時間着用しても痒みやかぶれ等装着時の肌トラブルを生じ難くできると同時に、失禁後においてもべたつき感が軽減されるようになる。また、尿が表面シート3を通過する際、繊維の毛細管現象により相対的に高密度の前記縦筋11に沿った失禁パッド1の長手方向への拡散が生じやすくなる。更に、前記開孔10を通過する尿と表面シート3を浸透する尿の拡散方向が失禁パッド1の長手方向で一致するため、前記開孔10を通過する尿に引き込まれるようにして表面シート3の縦筋11を浸透するので、表面シート3の液残りが極力抑制されるようになる。
【0063】
前記繊維量の測定は、JIS P8207の「紙製用パルプのふるい分け試験方法」に従い行うことができる。また、前記密度の測定は、JIS P8118「厚さ及び密度の試験方法」に従い行うことができる。
【0064】
前記表面シート3には少なくとも排泄口対応部分Hに撥水剤が外添塗布される。撥水剤としては、パラフィン系、シリコン系等の既知のもののうち、肌への刺激性の少ないものを適宜選択して使用することができるが、ステアリン酸グリセリル、ステアリン酸アミド、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸マグネシウム等の刺激性の少ない油脂を適宜選択して使用することがより好ましい。中でも、ステアリン酸グリセリルが特に好ましい。失禁パッド1においてステアリン酸グリセリルからなる撥水剤を用いる場合、その塗布量は、繊維100重量部に対して、0.05〜0.30重量部とするのが好ましい(両面塗布の場合は両面の塗布量合計)。より好ましい塗布量は、0.08〜0.25重量部である。撥水剤塗布量は、0.05重量部未満であると撥水効果が不足することがあり、0.30重量部を超えると撥水性が高過ぎ、かえって水分を透過しづらくなる。
【0065】
前記撥水剤は、肌当接面のみに塗布しても、肌当接面と吸収体4側の面との両面に塗布してもよいが、少なくとも後述の吸水量試験から求めた吸水量が、0.03g以下、好適には0.02g以下となるようにするのが好ましい。
【0066】
前記表面シート3の吸水量は、次の手順により求めたものである。(1)10cm角の試料を準備し重量を測定する(A)。(2)10cm角の濾紙を表面が平滑な側を上にして3枚重ね、その上に前記試料をセットする。(3)セットした試料の上に常温の水道水を3ml滴下し、5分間放置する。(4)5分間放置後の試料の重量を測定する(B)。(5)(B)−(A)=吸水量(g)により表面シート3の吸水量(保水量)を求める。
【0067】
特に、表面シート3における吸収体4側の面の吸水度が肌当接面の吸水度より高くなっているとより好ましい。したがって、肌当接面側の吸水度(JIS L1907 バイレック法)は、0mm〜5mm、好適には0mm〜2mmとし、吸収体4側の面の吸水度(JIS L1907 バイレック法)は、0mm〜10mm、特に2mm〜4mm程度であるのが好ましい。このような吸水度の差は、表面シート3の肌当接面のみに撥水剤を塗布することで簡単に得ることができるが、表面シート3の両面に撥水剤を塗布することもでき、その場合は、吸収体4側の面には肌当接面よりも少ない量を塗布することとする。なお、撥水剤を表面シート3の肌当接面のみに塗布した場合であっても、厚み、目付によっては、吸収体4側の面も撥水性を有するものとなる。撥水剤の塗布面を片面にするか、両面にするか、両面にする場合に両面の塗布量の比はどうするかは、表面シート3の厚み、目付、開孔等の条件と併せて、透液性と吸湿性をバランスよく保持できるよう、適宜選択する。
【0068】
前記撥水剤の塗布方法は、転写、噴霧、刷毛塗り、含浸、ディッピング等の既知の方法を適宜使用できる。シートの両面の吸水度に差異を持たせる場合には、転写による塗布方法を好ましく使用できる。
【0069】
前記撥水剤は、製造効率の観点から、全面塗布することが好ましいが、少なくとも排泄口対応部分Hに塗布してあればよく、排泄液を受ける部分のみに塗布してもよい。例えば、図9(A)に示されるように、幅方向両側部を除いて撥水剤塗布部分40を設けてもよい。また、図9(B)に示されるように、幅方向中央かつ前後方向中間の部分にのみ、撥水剤塗布部分40を設けてもよい。
【0070】
<吸収体4>
前記吸収体4は、尿を吸収・保持し得るものであり、フラッフ状のパルプ繊維中に粉粒状の高吸水性ポリマーを分散混入したものが使用される。前記吸収体4は、パルプ繊維及び高吸水性ポリマーのみからなり、合成繊維が含まれていない。
【0071】
前記パルプ繊維としては、木材から得られる化学パルプ、溶解パルプ等のセルロース繊維や、レーヨン、アセテート等の人工セルロース繊維からなるものが挙げられ、広葉樹パルプよりは繊維長の長い針葉樹パルプの方が機能および価格の面で好適に使用される。
【0072】
前記パルプ繊維の目付は、75〜300g/m、好ましくは155〜270g/mとするのがよく、前記高吸水性ポリマーの目付は、85〜185g/m、好ましくは100〜165g/mとするのがよい。
【0073】
前記高吸水性ポリマーとしては、たとえばポリアクリル酸塩架橋物、自己架橋したポリアクリル酸塩、アクリル酸エステル−酢酸ビニル共重合体架橋物のケン化物、イソブチレン・無水マレイン酸共重合体架橋物、ポリスルホン酸塩架橋物や、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミドなどの水膨潤性ポリマーを部分架橋したもの等が挙げられる。これらの内、吸水量、吸水速度に優れるアクリル酸またはアクリル酸塩系のものが好適である。前記吸水性能を有する高吸水性ポリマーは製造プロセスにおいて、架橋密度および架橋密度勾配を調整することにより吸収倍率(吸水力)と吸収速度の調整が可能である。
【0074】
前記パルプ繊維と高吸水性ポリマーとの比は、パルプ繊維:高吸水性ポリマー=70〜30重量%:30〜70重量%、好ましくは62〜45重量%:38〜55重量%、より好ましくは60〜50重量%:40〜50重量%とするのがよい。
【0075】
本失禁パッド1では、パルプ繊維と高吸水性ポリマーとをそれぞれ所定の目付で構成するとともに、パルプ繊維と高吸水性ポリマーとを所定の重量比で構成した吸収体を用いているため、尿が瞬間的に排出された場合でも、排尿直後に吸収速度の速いパルプ繊維が素早く尿を吸収するとともに、その後、このパルプ繊維に吸収された尿が徐々に高吸水性ポリマーに吸収されて保持されることにより、表面への逆戻りが完全に防止できるようになる。
【0076】
これに対して、パルプ繊維が70重量%より多く、高吸水性ポリマーが30重量%より少ないと、パルプ繊維の含有比率が高くなるため、吸収体4の保液性が低く、排尿後に表面シート3に逆戻りが生じやすくなる。一方、パルプ繊維が30重量%より少なく、高吸水性ポリマーが70重量%より多いと、高吸水性ポリマーの含有比率が高くなるため、排尿直後の初期吸収速度が遅く、表面シート3から吸収体4への尿の移行がスムーズに行われず、排尿直後に表面シート3に液残りが生じやすくなる。
【0077】
また、排尿直後から尿が確実に吸収体内に吸収・保持され、表面シートに液残りしなくなるため、表面シートにおける尿の拡散範囲が拡がるのを抑えることができる。
【0078】
前記吸収体4は、形状保持およびポリマー粉末保持等のためにクレープ紙等の包装シート5によって囲繞するのが望ましい。
【0079】
<中間シート>
前記表面シート3が多数の開孔10を有する場合、前記開孔10から吸収体4を構成するパルプ、ポリマー、接着剤等が露出するのを防ぐため、表面シート3と吸収体4との間に中間シート6を配することが好ましい。前記中間シート6は、吸収体4からの逆戻り防止、クッション様効果により着用時の肌触りを柔らかくする効果も有する。但し、前記表面シート3に開孔が設けられない部分には、前記中間シート6は配置してもよいし、配置しなくてもよい。また、上述の第2の方法により製造した表面シート3の場合、吸収体4側の面にセカンドシート22が積層されているため、更に中間シート6を設けなくてもよい。
【0080】
前記中間シート6は、単層構造としてもよいし、筒状に折り畳んで2層構造としてもよい。中間シート6は、肌当接面の全体にわたり設けても、幅方向中央且つ前後方向中間部(特に股間部)のみに設けてもよい。
【0081】
前記中間シート6の素材は、液透過性を有するものであれば良いが、親水性を有するものが特に好適である。このような親水性中間シート6を、本発明の撥水性開孔表面シート3と組み合わせることにより、表面シート3の液透過性及び逆戻り防止性が顕著に向上する。このような親水性素材としては、レーヨンやキュプラ等の再生繊維、綿等の天然繊維を用いることにより素材自体に親水性を有するものを用いるか、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等、もしくはその複合繊維、共重合体、ブレンド体といった合成繊維を親水化剤によって表面処理し親水性を付与した繊維を用いることができる。好ましくは、ポリエチレンとポリプロピレンとを混合した繊維を用いるのがよい。不織布を構成する繊維は、長繊維、短繊維、あるいはこれらの混合のいずれも使用できる。繊度は、2.0〜7.0dtex、好ましくは4.0〜6.0dtex程度とするのがよい。中間シート6は、エアスルー、エアレイド、スパンボンド等の既知の形態の不織布をいずれも使用できるが、通気性を低下させないエアスルーの使用が好ましい。
【0082】
また、失禁パッドの場合は、前述したように、2回目の失禁まで継続して使用するケースが多いので、単なる親水不織布ではなく、不織布に強親水及び/又は耐久親水剤を散布した強親水又は耐久親水不織布の使用がより好ましい。前記強親水剤又は耐久親水剤の目付は、10〜40g/m、好ましくは25g/m程度とするのがよい。中間シート6の目付は、20〜30g/mが好ましい。
【0083】
前記表面シート3には、尿の液残りを防止し、痒みやかぶれ等装着時の肌トラブルを生じ難くするために、好ましくは排泄口対応部分Hを含み、製品長さ方向に吸収体長さの15%以上、製品幅方向に吸収体幅の50%以上の領域に、表裏を貫通する多数の開孔10が形成されるため、前記中間シート6は少なくとも開孔形成領域の全面を覆う大きさで配置するようにする。具体的には、吸収体4の大きさの9%以上の大きさで、開孔形成領域の全面を覆う大きさで配置するのがよい。
【0084】
前記表面シート3との接着は、ヒートエンボスが採用できないためホットメルト接着剤によることが望ましい。ホットメルト接着剤の種類については限定はないが、特にSBS(スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体)系ホットメルト接着剤が望ましい。
【符号の説明】
【0085】
1…失禁パッド、2…不透液性裏面シート、3…表面シート、4…吸収体、5…包装シート、6…中間シート、7…サイド不織布、8…糸状弾性伸縮部材、10…開孔、11…縦筋、12…横筋、20…凸部、21…凹部、22…セカンドシート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9