(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、インクジェットプリンタによる鮮明な画像、例えばカラー画像が形成され、紙とは異なる装飾性および色感を発現するアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる被印字媒体を備えた印刷製品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明は、インクジェットプリンタにより画像を簡便に形成することが可能で、紙とは異なる装飾性および色感を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるインクジェットプリンタ用の被印字媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の第1側面によると、
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる板状またはシート状の被印字媒体と、前記被印字媒体にインクジェットプリンタにより印刷された顔料粒子を含む画像とを具備し、
前記被印字媒体は、印刷面に多数の細孔を持つ陽極酸化皮膜を有し、前記細孔は孔径が110〜250nm、深さが前記陽極酸化皮膜の厚さに相当する1〜50μmであり、かつ
前記画像は、前記顔料粒子を前記陽極酸化皮膜の多数の細孔内に充填して形成されることを特徴とする印刷製品が提供される。
【0010】
本発明の第2側面によると、
(i)アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる板状またはシート状の基材を陽極酸化して多数の細孔が開口され、前記細孔は孔径が110〜250nm、深さが前記陽極酸化皮膜の厚さに相当する1〜50μmである陽極酸化皮膜を形成した後、温水で処理し、乾燥して被印字媒体を作製する工程;
(ii)前記被印字媒体の陽極酸化皮膜にインクジェットプリンタを用いて顔料粒子を含む水性インクを印刷し、前記陽極酸化皮膜の多数の細孔に前記顔料粒子を充填して画像を形成する工程;および
(iii)前記被印字媒体に印刷された前記画像を洗浄する工程;
を含むこと特徴とする印刷製品の製造方法が提供される。
【0011】
本発明の第3側面によると、
(i)アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる板状またはシート状の基材を陽極酸化して前記基材表面に多数の細孔が開口され、前記細孔は孔径が110〜250nm、深さが前記陽極酸化皮膜の厚さに相当する1〜50μmである陽極酸化皮膜を形成した後、pHが9.0〜10.0のアルカリ水溶液で処理し、水洗、乾燥して被印字媒体を作製する工程;
(ii)前記被印字媒体の陽極酸化皮膜にインクジェットプリンタを用いて顔料粒子を含む水性インクを印刷し、前記陽極酸化皮膜の多数の細孔に前記顔料粒子を充填して画像を形成する工程;および
(iii)前記被印字媒体に印刷された前記画像を洗浄する工程;
を含むこと特徴とする印刷製品の製造方法が提供される。
【0012】
本発明の第4側面によると、
インクジェットプリンタで印刷するために用いられるアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる板状またはシート状の被印字媒体であって、
印刷面に多数の細孔を持つ陽極酸化皮膜を有し、前記細孔は孔径が110〜250nm、深さが前記陽極酸化皮膜の厚さに相当する1〜50μmであることを特徴とする被印字媒体が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インクジェットプリンタによる鮮明な画像、例えばカラー画像が形成され、紙とは異なる装飾性および色感を発現するアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる被印字媒体を備えた印刷製品およびその製造方法を提供することができる。
【0014】
本発明によれば、インクジェットプリンタにより画像を簡便に形成することが可能で、紙とは異なる装飾性および色感を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるインクジェットプリンタ用の被印字媒体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施形態に係る被印字媒体、印刷製品およびその製造方法ついて、詳細に説明する。
【0017】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る被印字媒体は、インクジェットプリンタで印刷するために用いられるアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる板状またはシート状のもので、印刷面に多数の細孔が開口された陽極酸化皮膜を有し、前記細孔は孔径が110〜250nm、深さが前記陽極酸化皮膜の厚さに相当する1〜50μmである。
【0018】
第1実施形態に係る印刷製品は、前記被印字媒体と、この被印字媒体にインクジェットプリンタにより印刷された顔料粒子を含む画像とを具備する。画像は、顔料粒子を陽極酸化皮膜の多数の細孔内に充填して形成される。
【0019】
本発明者らは、リン酸を含む処理溶液による陽極酸化で表面に陽極酸化皮膜を形成したアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材を黒色等の顔料粒子を含む着色顔料組成物に浸漬することにより、着色前の基材(リン酸陽極酸化皮膜)を基準とする色差が十分に大きく、良好に着色されたアルミニウムまたはアルミニウム合金の製品を発明し、既に出願した。
【0020】
このような特許出願を踏まえて、本発明者らは前記基材の特性、つまり軽量、加工性に着目し、この基材の陽極酸化皮膜に画像を形成することを試みた。すなわち、陽極酸化皮膜を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる板状またはシート状の基材を被印字媒体とし、この被印字媒体にインクジェットプリンタを用いて顔料粒子を含む水性インクの画像(例えばカラー画像)を形成することを試みた。その結果、インクジェットプリンタでカラー画像を形成した後の、洗浄工程(例えば水洗工程)においてカラー画像が消失する場合と、カラー画像が鮮明な状態で維持される場合とが生じることを究明した。このようなカラー画像の形成の有無は、既に出願したアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材の着色の良否に比べてより顕著に現れることが分かった。
【0021】
本発明者らは、前記究明結果に基づいてさらに研究を重ねたところ、インクジェットプリンタによるカラー画像の形成において、水性インク中の顔料粒子が陽極酸化皮膜の表面に単に付着した状態では水洗工程で顔料粒子が流されてカラー画像が消失することが分かった。これに対し、被印字媒体の陽極酸化皮膜に形成された細孔の孔径および深さをそれぞれ110〜250nmおよび1〜50μmに規定し、水性インク中の顔料粒子を陽極酸化皮膜の細孔内に充填することにより、水洗工程で顔料粒子が流されることなく陽極酸化皮膜の細孔内に留まり、鮮明なカラー画像が得られることを見出した。
【0022】
したがって、第1実施形態によれば耐光性、耐熱性に優れた鮮明な画像、例えばカラー画像を有し、紙とは異なる装飾性および色感を発現するアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる被印字媒体を備え、壁掛け、屋外に設置可能な装飾物等に有用な印刷製品を提供することができる。
【0023】
また、第1実施形態によれば既存の紙のようにユーザがインクジェットプリンタを用いて自由に画像、例えばカラー画像を印刷することが可能で、印刷後のカラー画像が紙とは異なる装飾性および色感を発現し得るアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる被印字媒体を提供できる。
【0024】
被印字媒体の素材であるアルミニウムの例は、純度99.99%以上の高純度アルミニウム、純度99%前後の純アルミニウム(例えばJISのA1050,A1100)を含む。
【0025】
被印字媒体の素材であるアルミニウム合金の例は、Al−Mn系(例えばA3003,A3004),Al−Mg系(例えばA5005,A5052,A5056,A5083),Al−Si系(例えばA4043),Al−Cu系(例えばA2017,A2024),Al−Zn系(例えばA7075),Al−Mg−Si系(例えばA6061,A6063)を含む。
【0026】
被印字媒体は、板状またはシート状の形状を有する。被印字媒体の平面形状は、例えば円形、楕円、または三角形、四角形、五角形などの多角形、部分的に切欠した形状、穴が開口した形状など任意である。
【0027】
被印字媒体は、インクジェットプリンタで画像を印刷可能な寸法であれば如何なる大きさであってもよい。
【0028】
被印字媒体に形成される陽極酸化皮膜は、例えばリン酸または硫酸を含む処理溶液で陽極酸化することにより形成され、かつ被印字媒体に形成される陽極酸化皮膜は片面でも両面でもよい。
【0029】
被印字媒体の陽極酸化皮膜に開口される細孔の孔径を110nm未満にすると、充填可能な顔料粒子の粒径が微細化し、細孔内への顔料粒子の充填量が低下し、鮮明なカラー画像を被印字媒体の陽極酸化皮膜に形成することが困難になる。他方、細孔の孔径が250nmを超えると、カラー画像のドットとして作用する孔径が大きくなって画像の鮮明度が低下するおそれがある。また、細孔間の隔壁が薄くなって陽極酸化皮膜自体の強度が低下するおそれがある。より好ましい細孔の孔径は、120〜170nmである。
【0030】
被印字媒体の陽極酸化皮膜に開口される細孔の深さを1μm未満にすると、細孔内に充填される顔料粒子の絶対量が低下し、鮮明な画像を被印字媒体の陽極酸化皮膜に形成することが困難になる。他方、細孔の深さが50μmを超えると、陽極酸化皮膜自体の強度が低下するおそれがある。より好ましい細孔の深さは、2〜20μm、さらに好ましい細孔の深さは2〜15μmである。
【0031】
被印字媒体の陽極酸化皮膜に開口される細孔において、細孔の密度、すなわち陽極酸化皮膜表面の一定の面積(25μm
2)あたりの細孔の数は、1000〜1600個/25μm
2であることが好ましい。なお、細孔の密度は細孔の孔径と密接な関係を有し、孔径が大きくなるに伴って密度(一定の面積あたりの細孔の個数)が減少する。
【0032】
ここで、「面積(25μm
2)あたりの細孔の数」は陽極酸化皮膜の表面をSEMで撮影し、そのSEM写真の0.25μm
2の領域を目視で観察し、細孔の数をカウントした後にその数値を100倍することにより求めた。
【0033】
細孔の数を前記範囲にすることにより、被印字媒体の陽極酸化皮膜自体の強度が維持しながら、陽極酸化皮膜に鮮明な画像を形成することが可能になる。より好ましい細孔の数は1000〜1500個/25μm
2である。
【0034】
画像は、黒を基調とする濃淡で現される黒色画像、カラー画像が挙げられる。
【0035】
画像を印刷するインクジェットプリンタは、市販されている公知のプリンタ、例えばオンデマンド型インクジェットプリンタを用いることができる。
【0036】
画像は、模様、図柄、文字等が挙げられる。具体的な画像は、例えばパソコン上で作成したもの、デジタルカメラで撮影した風景、物品、人物像、絵画等の撮像物が挙げられる。
【0037】
画像は、インクジェットプリンタに用いる水性インク中の顔料粒子を陽極酸化皮膜の多数の細孔内に充填して形成される。カラー画像は、水性インク中のブラック、マゼンタ、シアンおよびイエローの顔料粒子を陽極酸化皮膜の多数の細孔内に充填して形成される。
【0038】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る印刷製品の製造方法は、
(i)アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる板状またはシート状の基材を陽極酸化して多数の細孔が開口され、細孔は孔径が110〜250nm、深さが陽極酸化皮膜の厚さに相当する1〜50μmである陽極酸化皮膜を形成した後、温水で処理し、乾燥して被印字媒体を作製する工程;
(ii)被印字媒体の陽極酸化皮膜にインクジェットプリンタを用いて顔料粒子を含む水性インクを印刷し、陽極酸化皮膜の多数の細孔に顔料粒子を充填して画像を形成する工程;および
(iii)被印字媒体に印刷された画像を洗浄する工程;
を含む。
【0039】
このような第2実施形態によれば、鮮明な画像、例えばカラー画像を有し、紙とは異なる装飾性および色感を発現するアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる被印字媒体を備えた印刷製品を製造することができる。
【0040】
すなわち、本発明者らの実験、研究によると、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材を陽極酸化する際、陽極酸化皮膜に開口される多数の細孔の孔径および深さに着目せず、かつ陽極酸化後に単に常温の水で水洗し、乾燥して被印字媒体を作製し、この被印字媒体にインクジェットプリンタを用いて顔料粒子を含む水性インクを印刷しても、洗浄工程において画像が消失することを究明した。
【0041】
本発明者らは、前記究明結果に基づいてさらに研究を重ねたところ、インクジェットプリンタによる画像の形成において、水性インク中の顔料粒子が陽極酸化皮膜の表面に単に付着した状態では洗浄工程で顔料粒子が流されて画像が消失することが分かった。
【0042】
このようなことから、本発明者らはアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる板状またはシート状の基材表面を陽極酸化する際、陽極酸化皮膜に開口される多数の細孔の孔径および深さをそれぞれ110〜250nmおよび1〜50μmに制御すること、陽極酸化後、水洗処理に替えて温水で処理し、乾燥して被印字媒体を作製し、この被印字媒体にインクジェットプリンタを用いて顔料粒子を含む水性インクを印刷した。その結果、水性インク中の顔料粒子を陽極酸化皮膜の細孔内にその深さ方向に亘って十分な量で充填でき、印刷後の洗浄工程で顔料粒子が流されることなく、陽極酸化皮膜の細孔内に留まり、被印字媒体の陽極酸化皮膜に鮮明な画像が形成された印刷製品を製造できることを見出した。
【0043】
前記(i)工程で用いられるアルミニウムの例は、純度99.99%以上の高純度アルミニウム、純度99%前後の純アルミニウム(例えばA1050,A1100)を含む。
【0044】
前記(i)工程で用いられるアルミニウム合金の例は、Al−Mn系(例えばA3003,A3004),Al−Mg系(例えばA5005,A5052,A5056,A5083),Al−Si系(例えばA4043),Al−Cu系(例えばA2017,A2024),Al−Zn系(例えばA7075),Al−Mg−Si系(例えばA6061,A6063)を含む。
【0045】
前記(i)工程で用いられる基材は、板状またはシート状の形状を有する。基材の平面形状は、例えば円形、楕円、または三角形、四角形、五角形などの多角形、部分的に切欠した形状、穴が開口した形状など任意である。このような基材に陽極酸化皮膜を形成することにより作製した被印字媒体は、インクジェットプリンタで印刷可能な寸法であれば如何なる大きさであってもよい。
【0046】
前記(i)工程での陽極酸化は、基材の片面または両面に対して施すことができる。基材の片面のみに陽極酸化を施す場合には、基材の反対側の面をマスキングする。
【0047】
前記(i)工程での陽極酸化は、リン酸を含む処理溶液または硫酸を含む処理溶液を用いて行うことができる。リン酸を含む処理溶液は、例えば濃度5〜450g/Lのリン酸を含む水溶液であることが好ましい。この処理溶液は、常温(20℃)または0℃でもよいし、20℃を超え40℃以下の温度に加温してもよい。
【0048】
前記(i)工程での陽極酸化は、リン酸を含む処理溶液で行う場合、直流電圧で電流を一定にしたとき、電圧を例えば60〜150Vにすることが好ましい。時間は、前記電圧値によるが1〜100分間にすることが好ましい。
【0049】
前記(i)工程での陽極酸化によって、孔径が110〜250nm、より好ましくは120〜170nm、陽極酸化皮膜の厚さに相当する深さが1〜50μm、より好ましくは2〜20μmの多数の細孔を有する陽極酸化皮膜を基材表面に形成することができる。このような陽極酸化皮膜の細孔の孔径および深さは、陽極酸化皮膜を含む基材の断面電子顕微鏡写真および陽極酸化皮膜の表面電子顕微鏡写真から測定できる。
【0050】
前記(i)工程での陽極酸化によって形成された陽極酸化皮膜の細孔において、細孔の密度、すなわち陽極酸化皮膜表面の一定の面積(25μm
2)あたりの細孔の数は、1000〜1600個であることが好ましい。
【0051】
ここで、「面積(25μm
2)あたりの細孔の数」は陽極酸化皮膜の表面をSEMで撮影し、そのSEM写真の0.25μm
2の領域を目視で観察し、細孔の数をカウントした後にその数値を100倍することにより求めた。
【0052】
細孔の数を前記範囲にすることにより、被印字媒体の陽極酸化皮膜自体の強度が維持しながら、陽極酸化皮膜に鮮明な画像を形成することが可能になる。より好ましい細孔の数は1000〜1500個/25μm
2である。
【0053】
前記(i)工程で用いる温水の温度は、40〜100℃であることが好ましい。温水の温度を40℃未満にすると、水洗、乾燥により得た被印字媒体にインクジェットプリンタを用いて印刷しても鮮明な画像を形成することが困難になる。より好ましい温水の温度は50℃〜100℃、最も好ましい温度は65℃〜100℃である。
【0054】
前記(i)工程での乾燥は、空気乾燥または熱風乾燥を挙げることができる。熱風の温度は、50〜150℃、より好ましくは70〜100℃であることが望ましい。
【0055】
前記(ii)工程の印刷に適用されるインクジェットプリンタは、市販されている公知のプリンタ、例えばオンデマンド型インクジェットプリンタを用いることができる。
【0056】
前記(ii)工程の印刷時に用いられる水性インクは、顔料粒子および粘度調節剤、例えば界面活性剤を含む。なお、カラー印刷時に用いられる水性インクは、ブラック、マゼンタ、シアンおよびイエローの顔料粒子および粘度調節剤、例えば界面活性剤を含む。
【0057】
各水性インク中の顔料粒子および粘度調節剤は、それぞれ9〜21質量%、3〜7質量%含むことが好ましい。
【0058】
各水性インク中の顔料粒子は、被印字媒体の陽極酸化皮膜に開口される多数の細孔内に充填するために、大部分の顔料粒子は細孔の孔径(特に開口径)より小さい径を有することが好ましい。具体的には、顔料粒子はD80以上の粒子径が陽極酸化皮膜の多数の細孔のうち、最も小さい細孔の孔径未満である粒子径分布を有することが好ましい。より好ましい顔料粒子は、D90以上の粒子径が陽極酸化皮膜の多数の細孔のうち、最も小さい細孔の細孔未満である粒子径分布を有する。
【0059】
ここで、「粒子径」とは顔料粒子が真球である場合はその直径を、顔料粒子が扁平形状である場合は最大長さを、意味する。
【0060】
また、「D80」および「D90」とは、次のような方法および計算により得られた値を意味する。すなわち、前記顔料粒子が分散された水性インクを試料とし、この試料にレーザ光を照射し、顔料粒子によって散乱された光を光散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製:動的光散乱式LB−550)に取込み、同測定装置で演算処理して試料中の顔料粒子の粒子径分布を求める。得られた顔料粒子の粒子径分布、例えば顔料粒子200個の粒子径分布、から顔料粒子の粒子径の値が小さい順に並ぶように処理し、小さい方から160個目(100個を基準にすると80個目)の顔料粒子の粒子径を「D80」、小さい方から180個目(100個を基準にすると90個目)の顔料粒子の粒子径を「D90」と規定する。
【0061】
このようなD80以上の粒子径が多数の細孔のうち、最も小さい細孔の孔径未満である粒子径分布を有する顔料粒子は、印刷時に陽極酸化皮膜の多数の細孔の奥(基材との界面側)にそれぞれ円滑に進入し、充填でき、印刷、洗浄後においても鮮明なカラー画像を形成することが可能になる。
【0062】
前記(iii)工程での洗浄後に乾燥することにより目的とする印刷製品を得る。洗浄は、例えば水、アルコールまたは水とアルコールの混液を用いることができる。
【0063】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る印刷製品の製造方法は、
(i)アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる板状またはシート状の基材を陽極酸化して基材表面に多数の細孔が開口され、細孔は孔径が110〜250nm、深さが陽極酸化皮膜の厚さに相当する1〜50μmである陽極酸化皮膜を形成した後、pHが9.0〜10.0のアルカリ水溶液で処理し、水洗、乾燥して被印字媒体を作製する工程;
(ii)被印字媒体の陽極酸化皮膜にインクジェットプリンタを用いて顔料粒子を含む水性インクを印刷し、陽極酸化皮膜の多数の細孔に顔料粒子を充填して画像を形成する工程;および
(iii)被印字媒体に印刷された画像を洗浄する工程;
を含む。
【0064】
このような第3実施形態によれば、鮮明な画像を有し、紙とは異なる装飾性および色感を発現するアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる被印字媒体を備えた印刷製品を製造することができる。
【0065】
すなわち、本発明者らの実験、研究によると、前記第2実施形態で説明したようにアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材を陽極酸化する際、陽極酸化皮膜に開口される多数の細孔の孔径および深さに着目せず、かつ陽極酸化後に単に常温の水で水洗し、乾燥して被印字媒体を作製し、この被印字媒体にインクジェットプリンタを用いて顔料粒子を含む水性インクを印刷しても、洗浄工程において画像が消失することを究明した。
【0066】
このようなことから、本発明者らはアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる板状またはシート状の基材表面を陽極酸化する際、陽極酸化皮膜に開口される多数の細孔の孔径および深さをそれぞれ110〜250nmおよび1〜50μmに制御すること、陽極酸化後、pHが9.0〜10.0のアルカリ水溶液で処理し、水洗、乾燥して被印字媒体を作製し、この被印字媒体にインクジェットプリンタを用いて顔料粒子を含む水性インクを印刷した。その結果、水性インク中の顔料粒子を陽極酸化皮膜の細孔内にその深さ方向に亘って十分な量で充填でき、水洗工程で顔料粒子が流されることなく酸陽極酸化皮膜の細孔内に留まり、被印字媒体の陽極酸化皮膜に鮮明な画像が形成された印刷製品を製造できることを見出した。
【0067】
前記(i)工程で用いるアルミニウムまたはその合金、その基材の形態は、第2実施形態で説明したのと同様なものを挙げることができる。
【0068】
前記(i)工程における陽極酸化条件の詳細、細孔の孔径、深さ、密度は、前述した第2実施形態と同様である。
【0069】
前記(i)工程に用いるアルカリ水溶液は、無機アリカリ剤または有機アルカリ剤を水に溶解したpHが9.0〜10.0のものであれば、いかなるものでもよい。無機アリカリ剤の例は、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムを含む。特に、アルカリ水溶液は水酸化アンモニウム水溶液、炭酸ナトリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)水溶液が好ましい。このアルカリ水溶液は、常温(20℃)未満、常温、または常温を超える加温した水溶液を用いることができる。
【0070】
前記(i)工程で用いるアルカリ水溶液のpHを9.0未満にすると、得られた被印字媒体にインクジェットプリンタで印刷する際、鮮明なカラー画像を形成することが困難になる。他方、アルカリ水溶液のpHが10.0を超えると、被印字媒体表面の陽極酸化皮膜が溶解するおそれがある。より好ましいアルカリ水溶液のpHは、9.5〜10.0である。
【0071】
前記(i)工程でのアルカリ水溶液の処理は、例えば基材をこのアルカリ水溶液に浸漬する方法、基材にアルカリ水溶液をスプレーする方法を採用できる。アルカリ水溶液の処理時間は、1秒間〜30分間、より好ましくは30秒間〜5分間にすることが望ましい。
【0072】
前記(i)工程での水洗は、例えば浸漬法またはスプレー法を採用することができる。水洗水は、常温でも、加温していてもよい。
【0073】
前記(i)工程において、乾燥は陽極酸化皮膜の水分が無くなるまで、例えば常温の空気を吹き付けて行うことが好ましい。
【0074】
前記(ii)工程の印刷に適用されるインクジェットプリンタは、市販されている公知のプリンタ、例えばオンデマンド型インクジェットプリンタを用いることができる。
【0075】
前記(ii)工程の印刷時に用いられる水性インクは、顔料粒子および粘度調節剤、例えば界面活性剤を含む。なお、カラー印刷時に用いられる水性インクは、ブラック、マゼンタ、シアンおよびイエローの顔料粒子および粘度調節剤、例えば界面活性剤を含む。
【0076】
各水性インク中の顔料粒子および粘度調節剤は、それぞれ9〜21質量%、3〜7質量%含むことが好ましい。
【0077】
各水性インク中の顔料粒子は、被印字媒体の陽極酸化皮膜に開口される多数の細孔内に充填するために、大部分の顔料粒子は細孔の孔径(特に開口径)より小さい径を有することが好ましい。具体的には、顔料粒子はD80以上の粒子径が陽極酸化皮膜の多数の細孔のうち、最も小さい細孔の孔径未満である粒子径分布を有することが好ましい。より好ましい顔料粒子は、D90以上の粒子径が陽極酸化皮膜の多数の細孔のうち、最も小さい細孔の細孔未満である粒子径分布を有する。
【0078】
前記(iii)工程での洗浄後に乾燥することにより目的とする印刷製品を得る。洗浄は、例えば水、アルコールまたは水とアルコールの混液を用いることができる。
【0079】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0080】
なお、以下の例において水性インクの顔料粒子の「D50」、「D80」および「D90」は、次のような方法および計算により規定した。すなわち、顔料粒子が分散された水性インクにレーザ光を照射し、顔料粒子によって散乱された光を光散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製:動的光散乱式LB−550)に取込み、同測定装置で演算処理して試料中の顔料粒子の粒子径分布を求める。得られた顔料粒子の粒子径分布、例えば顔料粒子200個の粒子径分布、から顔料粒子の粒子径の値が小さい順に並ぶように処理し、小さい方から100個目(100個を基準にすると50個目)の顔料粒子の粒子径を「D50」、小さい方から160個目(100個を基準にすると80個目)の顔料粒子の粒子径を「D80」、小さい方から180個目(100個を基準にすると90個目)の顔料粒子の粒子径を「D90」、と規定した。
【0081】
(例1〜例16)
直径120mm、厚さ1mmの円盤状のAl基材(純アルミニウム:A−5052)を用意した。このAl基材の表面を脱脂した後、下記条件でリン酸による陽極酸化を施した。
【0082】
<陽極酸化条件>
・処理液:リン酸150g/Lの水溶液(常温)、
・電解時の電流:1A。
【0083】
・電流以外の電解時の条件は、下記表1の通り電圧20V,45V,65V,90Vでそれぞれ10分、25分、35分、50分行った。
【0084】
陽極酸化により多数の細孔が開口された陽極酸化皮膜がAl基材両面に形成された。陽極酸化皮膜の厚さおよび細孔の孔径を陽極酸化皮膜を含む基材の断面電子顕微鏡写真および陽極酸化皮膜の表面電子顕微鏡写真から測定した。その結果を同表1に示す。なお、細孔深さは陽極酸化皮膜の厚さに相当する。なお、下記表1において例1〜例16は陽極酸化の電解時の時間と電圧で表わした16のマトリックス部である。
【表1】
【0085】
次いで、陽極酸化皮膜が形成されたAl基材を78℃の温水に10分間浸漬して水洗した。その後、空気乾燥を行い、16枚の被印字媒体を作製した。
【0086】
次いで、空気乾燥から1分間以内に各被印字媒体の陽極酸化皮膜にインクジェットプリンタ(EPSON社製;PX-1004)を用いて顔料粒子を含む水性インクをカラー印刷した。つづいて、カラー印刷してから1分間後にイオン交換水で水洗し、乾燥することによりカラー画像が形成された印刷製品を製造した。
【0087】
なお、水性インクは下記表2に示す顔料粒子の粒子径分布を有するブラック(EPSON社製;ICBK59)、マゼンタ(EPSON社製;ICM59)、シアン(EPSON社製;ICC59)、イエロー(EPSON社製;ICY59)をそれぞれ用いた。
【表2】
【0088】
得られた例1〜例16の印刷製品の写真を
図1に示す。なお、
図1において陽極酸化の電解時の時間と電圧で表わした16のマトリックス部は、前述した表1の例1〜例16に対応する。
【0089】
また、得られた例1〜例16の印刷製品について、青色(シアン)および赤色(マゼンタ)を基準とする色差(ΔE)から求めた。色差測定は、Minolta製のCM−2600dを使用した。その結果を下記表3に示す。
【表3】
【0090】
図1および前記表3から明らかなように細孔の孔径が110〜250nm、細孔の深さが陽極酸化皮膜の厚さに相当する1〜50μmの陽極酸化皮膜を有するAl基材からなる被印字媒体を用い、この被印字媒体の陽極酸化皮膜にインクジェットプリンタを用いて顔料粒子を含む水性インク(ブラック、マゼンタ、シアン、イエロー)をカラー印刷してカラー画像を形成し、その後水洗して得た本発明の例10〜例12、例14〜例16の印刷製品は、鮮明なカラー画像が形成され、かつ青色、赤色基準の色差(ΔE)も高い値を示した。
【0091】
これに対し、細孔の孔径および細孔の深さが前記範囲を外れる陽極酸化皮膜を有するAl基材からなる被印字媒体を用い、この被印字媒体の陽極酸化皮膜に同様にカラー印刷してカラー画像を形成した例1〜例9,例13は、カラー画像の形成後の水洗でそのカラー画像が流れて消失した。
【0092】
本発明の例10〜例12、例14〜例16の印刷製品の被印字媒体の陽極酸化皮膜について、前述した第1実施形態と同様な方法で陽極酸化皮膜表面の一定の面積(25μm
2)あたりの細孔の数を測定した。その結果、例10は1667個、例11は1400個、例12は1370個、例14は1533個、例15は、1400個、例16は1130個であった。
【0093】
なお、例1〜例9,例13の被印字媒体の陽極酸化皮膜における一定の面積(25μm
2)あたりの細孔の数は、1000〜1600個から外れていた。
【0094】
(例17〜例22)
例10〜例12、例14〜例16と同様な方法で陽極酸化皮膜が形成されたAl基材をpH9.5の水酸化アンモニウム水溶液に1分間浸漬し、常温(20℃)の水で5秒間水洗した後、空気乾燥して6種の被印字媒体を作製した。なお、水酸化アンモニウム水溶液は水50mLに38%濃度のアンモニア水を1滴(約0.05mL)滴下することにより調製した。その後、例1−16と同様な方法で、各被印字媒体にインクジェットプリンタを用いてカラー印刷してカラー画像を形成した後、水洗してカラー画像が形成された印刷製品を製造した。
【0095】
得られた例17〜例22の印刷製品は、例10〜例12、例14〜例16と同様な鮮明なカラー画像が形成され、かつ青色、赤色基準の色差(ΔE)も高い値を示した。